説明

エンジン排気温度を推定するための方法及び排気温度推定値を用いてシリンダ圧力センサを点検診断するための方法

本発明は、内燃エンジンのシリンダの排出口における排気温度を推定するための方法であって、上記シリンダが、上記シリンダ内で摺動するように搭載されたピストンの並進運動を回転運動に変換するクランク軸から成り、上記ピストンが上記シリンダの燃焼室を閉止する、内燃エンジンのシリンダの排出口における排気温度を推定するための方法に関する。本発明は、上記排気温度が、排気弁の開口時点におけるシリンダ内部の温度に基づいて推定され、上記シリンダ内部の温度自体は、上記クランク軸の回転角と、シリンダ圧力と、上記シリンダ内へ噴射された空気の体積と、リサイクルされたガスの流量とから推定されることを特徴とする。本発明はまた、本発明の推定方法を実行することによって得られる排気温度の推定値に基づきシリンダ圧力センサを点検診断するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、内燃エンジンのシリンダの排出口における排気温度を推定するための方法に関するものであり、前記方法では、上記排出口が、上記シリンダ内部に存在するガスを流出させるために開口可能な排気弁により閉止され、上記シリンダが、上記シリンダ内で摺動可能に搭載されたピストンの並進運動を回転運動に変換するクランク軸を備え、上記ピストンが上記シリンダの燃焼室を閉止する。本発明はまた、シリンダ圧力センサを点検診断するための方法に関する。
【0002】
本発明の特に有利な用途は、直接又は間接燃料噴射式で一連のシリンダを備える(ガソリン又はディーゼルの)回転型内燃エンジンの分野に見出される。
【0003】
自動車エンジンに対する欧州の汚染防止規制は、ますます厳格になりつつある。したがって、自動車の製造業者がエンジンの汚染性排気ガスを、エンジンの燃料消費及び性能を犠牲にすることなしに削減することが重要である。その結果として、排気ガスの排出制御システムがより大きくなり、ますます複雑化し、そしてますます高価になりつつある。
【0004】
或る既知の排出制御システム及びエンジン性能最適化プログラムについて、最も重要なパラメータの1つは、エンジンの排気口での温度であり、これはまた「タービン前温度」とも称される。排気口での温度は例えば、微粒子フィルタ又はNOxトラップを管理するためのプログラムを適用するために用いることが可能である。排気口での温度はまた、排気温度を制限するようにターボチャージャの動作を調整することにより、エンジンのターボチャージャを破損から保護するのに用いられる。排気口での温度はまた、エンジンの燃焼室内へ噴射された燃料の流量に取り組むことによって、所定のエンジン性能レベルを維持するために、又はエンジンごとの性能変化を補正するために用いられる。
【0005】
現在のところ、排気口での温度は、エンジンと排気管との間、又はターボチャージャが存在する場合にエンジンとターボチャージャとの間に設置される温度センサによって測定される。このセンサの存在が、排出制御システムのコストを増大させる。
【0006】
別の重要なパラメータは、エンジンのシリンダ内部のシリンダ圧力、特に燃焼したガスを排気管の方向に流出させる排気弁の開口時点におけるシリンダ圧力である。シリンダ圧力は、エンジンの熱力学サイクル中の燃焼段階を最もよく特徴づけるパラメータの1つである。燃焼段階を制御することで、発生源、すなわちシリンダの排出口において汚染を制限すること、したがって排出制御システムの老化を制限することが可能である。
【0007】
最近になって初めて、このシリンダ圧力を測定するためのセンサが量産されるようになった。しかし、これらのセンサの信頼性は現在のところ保証されておらず、そしてこれらのセンサは新しすぎて有用な実験フィードバックが得られない。もしセンサが破損すると、燃料噴射を正しく管理することができなくなり、これがエンジン破損のリスクをもたらす。また、エンジンの排出口での汚染ももはや制御されず、これが汚染防止システムの早期老化につながる。
【0008】
本発明の主たる目的は、エンジンの全寿命期間中、内燃エンジンの排気ガスから汚染物質を除去するコストを削減することである。
【0009】
これを行うために、本発明は先ず、排気温度を推定するための方法を提供する。したがって、排気温度を知るためのセンサはもはや必要がない。他のセンサもまた削除でき、特に多岐管圧力センサを除去できる。これにより、排出制御システムのコストが削減される。
【0010】
本発明による排気温度を推定するための方法は、更に上記前文によると、次のステップを含むことを特徴とする。すなわち、この方法は
・排気弁の開口時点に先立つ時点においてクランク軸の回転角及び燃焼室内部のシリンダ圧力を測定し、そして上記回転角に基づき上記燃焼室の容積を定めるステップS1と、
・上記排気弁の上記開口時点における上記燃焼室内の空気の質量及びリサイクルされたガスの割合を定め、そしてこのことからガスの関連総質量を推定するステップS2と、
・上記排気弁の上記開口時点における、上記シリンダ圧力と上記燃焼室の容積とガスの上記関連総質量とに基づき、シリンダの内部のシリンダ温度を定めるステップS3と、
・上記シリンダ温度に基づき上記排気温度を定めるステップS4とを含むことを特徴とする。
【0011】
排気温度はこうしてシリンダ内部の温度から推定され、このシリンダ内部の温度自体は、排気弁の開口時点に近接した時点におけるシリンダ圧力と上記クランク軸の回転角と、上記シリンダ内へ噴射された空気の質量と、リサイクルされたガスの割合とから推定される。
【0012】
好ましくは、排気温度は、Texh = A.TBBDC + Bの形式の一次方程式に基づきシリンダ内部温度から計算される。驚くことには、極めて単純ではあるがこの一次方程式モデルが排気温度とシリンダ内部温度との間の関係をよく表わしていることが、実験により示されている。
【0013】
本発明はまた、排気温度の推定値と排気温度の測定値とを用いるシリンダ圧力センサを点検診断するための方法を提供する。したがって、エンジンの燃焼段階が調整可能であり、エンジンの排出口での汚染が制御可能となり、こうして汚染防止システムの寿命が延長され、そしてエンジンの損害が防止される。
【0014】
シリンダ圧力センサを点検診断するための上記方法は、必須的に次のステップを含むことを特徴とする。すなわち、
・前記シリンダの排気弁の開口に先立つ時点においてシリンダ圧力を測定するステップと、
・先の請求項のいずれか1項に記載の方法を用いて、上記測定されたシリンダ圧力から排気温度を推定するステップと、
・シリンダの上記排出口における排気温度を測定するステップと、
・上記推定された排気温度と上記測定された排気温度とを比較し、そしてこのことから上記シリンダ圧力センサが通常の動作状態か又は不具合状態かを推定するステップとを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に基づく排出回路と出力段階の実施例について以下に述べる説明を読むことにより、本発明がよりよく理解され、他の利点及び特徴が明らかとなる。以下に述べるこの説明は、添付図面を参照して読んでいただきたい。
【実施例】
【0016】
図1に、本発明による方法を適用するために用いることのできるシステムを示す。
【0017】
このシステムは、内燃エンジンのシリンダ1を備える。シリンダ内部でクランク軸2が、摺動して、シリンダ1の内部に形成された燃焼室4の下部を閉止することが可能なように搭載された、ピストン3の並進運動を回転運動に変換する。シリンダ1はまた、燃焼室4内へガスが入るのを可能にする取入区域5と、燃焼したガス(又は排気ガス)を流出させるために開口可能な弁7により閉止される排出口6とを備える。
【0018】
システムはまた、シリンダ内部のガスの圧力を測定するためのシリンダ圧力センサ9と、クランク軸の回転角を測定するための角度センサ10とを備える。
【0019】
システムがシリンダ圧力センサを点検診断するための方法を適用するために用いられる場合には、システムはまたシリンダの排出口における排気ガスの温度を測定するための温度センサ11を備える。このセンサは、システムが排気ガスの温度を推定するためにのみ用いられる場合には、不要である。
【0020】
最後にシステムは、センサ9、10、そして必要に応じてセンサ11からの信号を受信して、適用される本方法により、受信した信号からシリンダの排出口における排気ガスの温度を、あるいはシリンダ圧力センサが通常の動作状態か又は不具合状態かを推定するための管理システム12を備える。
【0021】
図1のシステムは、排気温度を推定するための本発明による方法であって次のステップを含む方法を適用することを可能にする。すなわち、
・排気弁の開口時点tBBDCに先立つ時点においてクランク軸の回転角ΘBBDC及び燃焼室内部のシリンダ圧力PBBDCを測定し、そして上記回転角ΘBBDCに基づき上記燃焼室の容積VBBDCを定めるステップS1と、
・上記排気弁の上記開口時点tBBDCにおける上記燃焼室内の空気の質量Mair及びリサイクルされたガスの割合TEGRを定め、そしてこのことからガスの関連総質量Mtotを推定するステップS2と、
・上記排気弁の上記開口時点における、上記シリンダ圧力PBBDCと上記燃焼室の容積VBBDCとガスの上記関連総質量Mtotとに基づき、シリンダ内部のシリンダ温度TBBDCを定めるステップS3と、
・上記シリンダ温度TBBDCに基づき上記排気温度Texhを定めるステップS4とを含む、排気温度を推定するための本発明による方法を適用することを可能にする。
【0022】
こうして、排気温度を推定するための方法により、シリンダ圧力に基づいて排気ガスの温度を容易に推定することが可能となる。
【0023】
先ず第一に、シリンダ内部の圧力PBBDC及びクランク軸の回転角ΘBBDCが、排気弁の開口時点の直前にセンサ9、10によって測定される。
【0024】
排気弁の開口時点において、クランク軸の回転角ΘBBDCにより、ピストンの高さ、それから燃焼室の容積VBBDCを定めることが可能となる。このことは、各角度値に対して連関する容積を示す表から、又は数学モデルから行うことができる。
【0025】
次に、排気弁の開口直前にシリンダに入る空気の質量Mair及びリサイクルされたガスの割合TEGRが推定される。これは、クランク軸の回転角とエンジンのパラメータに基づき、表又は数学モデルから行うことが可能である。取入区域に位置する適切なセンサから空気の質量Mair及びリサイクルされたガスの割合TEGRを測定することもまた可能である。
【0026】
空気の質量及びリサイクルされたガスの割合により、排気弁の開口時点におけるシリンダ内部のガスの総質量:Mtot = Mair/(1−TEGR)を定めることが可能となる(排気弁の開口時点にシリンダ内へ噴射された燃料の質量はここでは無視する)。
【0027】
このことから次に、ガスが理想的な状態である、すなわち、
BBDC = PBBDC × VBBDC / (r × Mtot)
が成り立つと仮定して、シリンダ内部の温度が推定される。
ここでrは、理想的なガス定数と、シリンダ内部のガスの相対分子質量とに特に依存する定数である。
【0028】
次の一次方程式、Texh = A.TBBDC + Bによって、排気弁の開口時点におけるシリンダ内部の温度から排気温度を推定するのが可能なことが実験により示されている。A及びBは、シリンダの物理的特性に特に関連付けられる2つの定数である。A及びBは、例えば、この方法の初期段階で実験的に定めることが可能である。
【0029】
図1に示すシステムにはまた、シリンダ圧力センサ9を点検診断するための本発明による方法を適用することも可能である。
【0030】
これを行うには、単に図1のシステムに温度センサを加えてシリンダの排出口6に取り付ければよい。
【0031】
本発明による点検診断するための方法は、
・前記シリンダの排気弁の開口に先立つ時点においてシリンダ圧力を測定するステップと、
・先の請求項のいずれか1項に記載の方法を用いて、上記測定されたシリンダ圧力から排気温度を推定するステップと、
・シリンダの上記排出口における排気温度を測定するステップと、
・上記推定された排気温度と上記測定された排気温度とを比較し、そしてこのことから、推定された温度と測定された温度との間の差が予め設定された値よりも少ないか又は多いかによって上記シリンダ圧力センサが通常の動作状態か又は不具合状態かを推定するステップとを含む。
【0032】
当然ながら、圧力センサの点検診断の信頼性は、温度センサの信頼性に高く依存する。しかしながら、圧力センサは不都合な環境(シリンダ内の高温及び高圧環境)において動作するため、圧力センサに不具合がある確率は温度センサに不具合がある確率よりもはるかに高い。その上、排気ガス温度センサは、他で知られ使用されている他の手段によって点検診断することが可能である。それは、シリンダ圧力センサの場合には該当しない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による方法を適用するために用いることのできるシステムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンのシリンダ(1)の排出口(6)における排気温度を推定するための方法であって、該排出口が、該シリンダ内部に存在するガスを流出させるために開口可能な排気弁(7)により閉止され、該シリンダが、該シリンダ内で摺動可能なように搭載されたピストン(3)の並進運動を回転運動に変換するクランク軸(2)を備え、該ピストンが該シリンダの燃焼室(4)を閉止し、
該方法が、
・該排気弁の開口時点(tBBDC)に先立つ時点において該クランク軸の回転角(ΘBBDC)及び該燃焼室内部のシリンダ圧力(PBBDC)を測定し、そして該回転角(ΘBBDC)に基づき該燃焼室の容積(VBBDC)を定める、ステップS1と、
・該排気弁の該開口時点(tBBDC)における該燃焼室内の空気の質量(Mair)及びリサイクルされたガスの割合(TEGR)を定め、そしてこのことからガスの関連総質量(Mtot)を推定する、ステップS2と、
・該排気弁の該開口時点(tBBDC)における、該シリンダ圧力(PBBDC)と該燃焼室の該容積(VBBDC)と該ガスの該関連総質量(Mtot)とに基づき、該シリンダ内部のシリンダ温度(TBBDC)を定める、ステップS3と、
・該シリンダ温度(TBBDC)に基づき該排気温度(Texh)を定める、ステップS4とを含むことを特徴とする、内燃エンジンのシリンダ(1)の排出口(6)における排気温度を推定するための方法。
【請求項2】
該ステップS4の間、該シリンダ温度に基づき該排気温度を定めるために、一次方程式(Texh = A.TBBDC + B)が用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ステップS3の間、該空気の該質量及び/又はリサイクルされたガスの割合が、表から又は数学モデルから該クランク軸の回転角に基づき推定され、又は測定される、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
該ステップS2の間、該ガスの該関連総質量が次式
Mtot = Mair/(1−TEGR)
から得られる、請求項1から3までのうちの1つに記載の方法。
【請求項5】
内燃エンジンのシリンダ内部に位置するシリンダ圧力センサを点検診断するための方法であって、該シリンダが、該シリンダ内部に存在するガスを流出させるために開口可能な排気弁により閉止される排出口を備え、
該点検診断するための方法が、
・該シリンダの排気弁の開口に先立つ時点においてシリンダ圧力を測定するステップと、
・請求項1〜4のうちの1項に記載の方法を用いて、該測定されたシリンダ圧力から排気温度を推定するステップと、
・該シリンダの該排出口における排気温度を測定するステップと、
・該推定された排気温度と該測定された排気温度とを比較し、そしてこのことから該シリンダ圧力センサが通常の動作状態か又は不具合状態かを推定するステップとを含むことを特徴とする、内燃エンジンのシリンダ内部に位置するシリンダ圧力センサを点検診断するための方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−511799(P2009−511799A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534051(P2008−534051)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050954
【国際公開番号】WO2007/042693
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】