説明

エンジン支持構造

【課題】車両前後方向の衝突入力に対する車体骨格フレームでのエネルギー吸収効率を向上できるエンジン支持構造を提供する。
【解決手段】 車両前後方向に延在するフロント骨格サイドメンバ2を有する車体骨格フレーム1と、その車体骨格フレーム1の下方に配置されてエンジン7を支持するサブフレーム3と、上記フロント骨格サイドメンバ2とサブフレーム3とを連結する連結部材5と、を備えるエンジン支持構造である。上記フロント骨格サイドメンバ2と連結部材5の上部とはインシュレータ6を介して連結することで、車幅方向を軸とする回転方向の拘束力について、フロント骨格サイドメンバ2と連結部材5との連結部での拘束力を、サブフレームと連結部材5との連結部での拘束力よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを支持する支持構造に係り、特に車両前後方向からの衝突時に車体骨格フレームでエネルギー吸収を行うエンジン支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジン支持構造としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載の構造では、図4(a)のように、車両前後方向に延びる車体前部骨格フレーム50の下方に、当該車体前部骨格フレーム50と上下に所定の距離をあけると共に車両前後方向に延在するサブフレーム51が配置され、上記車体前部骨格フレーム50の前側とサブフレーム51の前側とが上下に延びる連結部材52で連結されている。また、上記サブフレーム51に対してエンジンが搭載される。
そして、衝突などによって車両前方から後方に向けて所定以上の荷重が入力されると、上記車体前部骨格メンバ50が潰れ変形することで上記入力荷重に対するエネルギー吸収の効率を高める工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−368286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、衝突時に、パンパー53を介して車体骨格フレーム50に衝突入力が作用する。乗員保護の観点から車室の変形を小さくするためには、車室よりも車両前後方向前側あるいは後側にある車体骨格フレーム50の変形で、衝突入力のエネルギーを効率良く吸収させたい。車体骨格フレーム50が、衝突入力エネルギーをもっとも効率よく吸収できる変形モードは、軸方向への圧縮変形するモードである。
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、図4に示す模式図のように、サブフレーム51と車体骨格フレーム50とを連結する連結部材52は、車体骨格フレーム50に剛的に固定され、且つ車両上下方向に所定の長さを有する。このため衝突時に車体骨格フレーム50に車両前後方向のカが入力されると、図4のA−A断面にて、衝突入力を受ける車体骨格フレーム50と連結部材52の一体構造の剛性の中心位置Gが、衝突入力点より車両上下方向下側のG点にあるため、G点を中心とするモーメントAが加わることとなり、また、長手方向途中部でもモーメントBが作用するために、図4(b)に示す模式図のように、車体骨格フレーム50が面外方向に変形するおそれがある。面外方向に変形する場合には、車体骨格フレーム50の圧縮方向(車両前後方向)に潰れる量が小さくなり、エネルギー吸収量が小さくなる。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、車両前後方向の衝突入力に対する車体骨格フレームでのエネルギー吸収効率を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、車両前後方向に延在する延在部を有する車体骨格フレームと、その車体骨格フレームの下方に配置されてエンジンを支持するサブフレームと、上記延在部とサブフレームとを連結する連結部材と、を備えるエンジン支持構造であって、
車幅方向を軸とする回転方向の拘束力について、延在部と連結部材との連結部での拘束力が、サブフレームと連結部材との連結部での拘束力よりも小さいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車体骨格フレームとサブフレームとの間に上下に距離がある配置でも、車体前後方向からの衝突時における車体骨格フレームの変形モードが、車両前後方向の圧縮変形が支配的となる結果、衝突エネルギーを効率良く吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るエンジン支持構造を示す模式的な側面図であって、(a)は変形前の状態を(b)は変形後の状態をそれぞれ示す。
【図2】本発明に基づく実施形態に係る連結部材を介したとフロント骨格サイドメンバとのサブメンバとの連結構造を示す断面図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る別のエンジ支持構造を示す図である。
【図4】従来のエンジン支持構造を説明する模式的な側面図であって、(a)は変形前の状態を(b)は変形後の状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、車両前後方向前側にエンジンを搭載するフロントエンジンの車両構成を例に説明する。図1は、本実施形態のエンジン支持構造を示す模式的側面図である。
車体骨格フレーム1は、車両前後方向に延在する左右一対のフロント骨格サイドメンバ2(延在部)と、車幅方向に延びて左右のフロント骨格サイドメンバ2間を連結する複数のクロス骨格メンバ(不図示)とから構成される。上記各フロント骨格サイドメンバ2は、ダッシュパネルに至る部分で下方に屈曲して傾斜部2aを構成し、その傾斜部2aよりも車両前後方向後方が車体フロアの下側且つ両側に配置されるエクステンションサイドメンバ2bとなっている。符号11はバンパーを示す。
【0010】
上記車体骨格フレーム1の下方には、上下に所定距離を空けてサブフレーム3が対向配置されている。サブフレーム3は、上記フロント骨格サイドメンバ2と上下に対向して車幅方向に延びる左右のフレーム本体部4と、その左右のフレーム本体部4間を連結するクロスサブメンバ(不図示)とから構成されている。そして、上記サブフレーム3は、上記フレーム本体部4の前端部及び後端部が上記フロント骨格サイドメンバ2に弾性支持されている。
【0011】
次に、その弾性支持構造について説明する。
上記フロント骨格サイドメンバ2の前端部とフレーム本体部4の前端部とは、上下に延びる連結部材5を介して連結される。連結部材5の下部は、上記フレーム本体部4の前端部に対して一体的に結合されている。
また、連結部材5の上部は、上記フロント骨格サイドメンバ2の前端部にインシュレータ6を介して連結されている。上記インシュレータ6は、図2に示すように、軸を上下に向け且つ同軸に配置された内筒6aと外筒6bとの間に弾性体6cが介装されて構成される。そして、外筒6bが上記連結部材5の上部に圧入等によって固定され、且つ内筒6aが、当該内筒6a内を貫通する取付けボルト12を介して上記フロント骨格サイドメンバ2に固定されている。ここで、内筒6aよりも外筒6bの長さを短くして外筒6bの上端面と上記フロント骨格サイドメンバ2の下面との間に所定の隙間を設けてある。
また、フレーム本体部4の下端部は、上記と同様なインシュレータ8を介して、フロント骨格サイドメンバ2における傾斜部2aの下部位置に弾性支持される。
そして、上記サブフレーム3に対してマウント部材13を介してエンジン7が搭載されている。
【0012】
次に、本実施形態の作用・効果等について説明する。
上記エンジン支持構造では、連結部材5はサブフレーム3に一体的に結合されることで、両者5,3は高い剛性を持って、つまり少なくとも車幅方向を軸とした回転方向の拘束力が大きい状態で連結されている。一方、連結部材5はフロント骨格サイドメンバ2に対して弾性体6cを介して連結されることで、互いに揺動可能につまり連結部の剛性が低い状態で連結されて、少なくとも車幅方向を軸とした回転方向の拘束力がゼロに近い小さな状態で連結されている。このため、フロント骨格サイドメンバ2に車両前後方向の入力が作用した場合における当該フロント骨格サイドメンバ2と連結部材5との連結位置(図3中A-A位置)での車両上下方向における剛性の中心位置Gは、フロント骨格サイドメンバ2の断面中心とほぼ一致し、また、フロント骨格サイドメンバ2の長手方向中途部(図3中B-B位置)においても、フロント骨格サイドメンバ2の車両上下方向における剛性の中心位置G′が当該フロント骨格サイドメンバ2の断面中心とほぼ一致する。
【0013】
したがって、衝突によりフロント骨格サイドメンバ2に車両前後方向の力が入力されると、上記衝突入力による剛性中心位置G及びG′を中心とするモーメントは発生しないか小さいために、フロント骨格サイドメンバ2とサブフレーム3との間に距離があり且つ連結部材5で連結されていても、衝突時にサブフレーム3の反力によりフロント骨格サイドメンバ2に入力される曲げモーメントを小さくすることができる。その結果、衝突時の車両前後方向の入力に対し圧縮方向の変形が支配的となり、図1(b)に示すように、フロント骨格サイドメンバ2は、面外方向に変形することなく、圧縮方向にのみ潰れることとなり、エネルギー吸収量が大きくなる。
【0014】
また、上記のようにフロント骨格サイドメンバ2が車両前後方向に圧縮するに応じて、連結部材5は、その上部が車両前後方向に傾くが、連結部材5に固定された外筒6bの上端面とフロント骨格サイドメンバ2の下面との間に所定の隙間を設けているので、外筒6bの上端がフロント骨格サイドメンバ2に当接するまでは、フロント骨格サイドメンバ2と連結部材5との連結部における上記拘束力が大きくなることを防止できる。なお、外筒6bの上端がフロント骨格サイドメンバ2に当接して上記回転方向の拘束力が大きくなっても、連結部材5とサブフレーム3との連結部での拘束力より遙かに小さいので、フロント骨格サイドメンバ2に入力される上下方向の曲げモーメントの入力は小さく、よって圧縮方向の変形が支配的のままとなる傾向にある。
【0015】
また、エンジン7をマウントしているサブフレーム3は、前端部及び後端部が共にフロント骨格サイドメンバ2に対してインシュレータ6、8を介して弾性支持されているので、エンジン7の振動によるサブフレーム3の振動をフロント骨格サイドメンバ2に伝達しにくくなっている。すなわち、エンジン7の振動が伝達されて加振されるサブフレーム3の振動が、フロント骨格サイドメンバ2に伝達することを防ぐことで、騒音・振動性能も向上させることができる。
【0016】
ここで、上記実施形態では、弾性体6cを介在させることで両者2,5を揺動可能に連結して、連結部材5とフロント骨格サイドメンバ2との連結部の車幅方向を軸とした回転方向の拘束力を低くしているが、これに限定されない。例えば軸を車幅方向に向けたピン継手や自在継手で連結することで、少なくとも幅方向を軸とした回転方向の拘束力をゼロ若しくは低く設定しても良い。
【0017】
また、上記実施形態では、連結部材5とサブフレーム3とを一体的に連結しているが、図3のように、連結部材5とサブフレーム3とを弾性体10を介して連結しても良い。この場合、連結部材5とサブフレーム3とを連結する弾性体10の剛性を、上記フロント骨格サイドメンバ2と連結部材5との間に介在する弾性体6cの剛性よりも大きく設定する。このようにすると、上記効果を維持しつつ、サブフレーム3の振動をさらにフロント骨格サイドメンバ2に伝わりにくくすることができる。
また、上記実施形態では、フロントエンジンの車両構成に本願発明を適用する場合を例示したが、リアエンジンの車両構成であっても適用でき、車両後方から衝突した場合に、上記と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0018】
1 車体骨格フレーム
2 フロント骨格サイドメンバ(延在部)
3 サブフレーム
4 フレーム本体部
5 連結部
6 インシュレータ
6a 内筒
6b 外筒
6c 弾性体
7 エンジン
10 弾性体
12 取付けボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延在する延在部を有する車体骨格フレームと、その車体骨格フレームの下方に配置されてエンジンを支持するサブフレームと、上記延在部とサブフレームとを連結する連結部材と、を備えるエンジン支持構造であって、
車幅方向を軸とする回転方向の拘束力について、延在部と連結部材との連結部での拘束力が、サブフレームと連結部材との連結部での拘束力よりも小さいことを特徴とするエンジン支持構造。
【請求項2】
上記延在部と連結部材とを、互いに揺動可能な状態で連結することで上記拘束力を小さくすることを特徴とする請求項1に記載したエンジン支持構造。
【請求項3】
上記延在部と連結部材とを、弾性体を介して連結することで揺動可能な状態とすることを特徴とする請求項2に記載したエンジン支持構造。
【請求項4】
上記連結部材を上下方向に延在する部材から構成して、
上記延在部と連結部材とは、軸を上下に向けた外筒と内筒との間に弾性体が介装してなるインシュレータを介して連結され、上記内筒及び外筒の一方を延在部に固定すると共に、上記内筒及び外筒の他方を連結部材の上部に固定することを特徴とする請求項3に記載したエンジン支持構造。
【請求項5】
内筒を貫通するボルトによって当該内筒が延在部に固定され、外筒が連結部材の上部に固定されることを特徴とする請求項4に記載したエンジン支持構造。
【請求項6】
連結部材上端及び外筒上端と、延在部との間に上下方向の隙間を設けることを特徴とする請求項5に記載したエンジン支持構造。
【請求項7】
上記サブフレームと連結部材とは、上記延在部と連結部材との連結部より剛性が大きな弾性体を介して、連結されていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載したエンジン支持構造。
【請求項8】
上記上記延在部と連結部材は、車幅方向に軸を向けたピン継手若しくは自由継手を介して連結することで、互いに揺動可能な状態で連結されていることを特徴とする請求項2又は7に記載したエンジン支持構造。
【請求項9】
上記サブフレームと連結部材とは一体に固定されていることを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載したエンジン支持構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−71837(P2012−71837A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10238(P2012−10238)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【分割の表示】特願2005−112187(P2005−112187)の分割
【原出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】