説明

エンジン潤滑油

【課題】本発明は、煤の処理性を改良し、遠心システム中で用いられる媒液を分離除去する能力のある潤滑方法を提供することを目的とする。
【解決手段】シーリング媒液を含む遠心システムを有するトランクピストンもしくはクロスヘッドディーゼルエンジンが潤滑油で潤滑され、クロスヘッドエンジン用の該潤滑油はシステム潤滑油であり、該潤滑油は1種又は2種以上の連結した芳香族化合物と1種又は2種以上の窒素含有無灰分散剤との混合物を、質量比1:3〜9:1の範囲で有効成分として0.04〜5質量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディーゼルエンジンの潤滑に関し、より詳細にはトランクピストンエンジンオイル('TPEO')を用いるトランクピストンディーゼルエンジンの潤滑及びクロスヘッド(2ストロークもしくは低速とも言われる)ディーゼルエンジンのシステム潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
トランクピストンディーゼルエンジンは船舶(in marine)や、発電、鉄道牽引(rail traction)用途に用いられ、典型的には回転速度が300〜1,000rpmである。トランクピストンディーゼルエンジンにおいては、クランクケースとシリンダーの潤滑に単一の潤滑油組成物が用いられる。エンジンの全ての主要な駆動部品、即ち、メイン及びビッグエンドベアリング(the main and big end bearings)、カムシャフト及びバルブギアなどはポンプ循環系統で潤滑されている。シリンダーライナーは部分的にはスプラッシュ潤滑で、また部分的には循環系統のオイルによって潤滑され、後者はピストンスカート内の孔を通過し、コネクティングロッドと耳軸(gudgeon pin)を経由してシリンダー壁に供給される。一方、クロスヘッドディーゼルエンジンは二種類の異なる潤滑油で潤滑される;即ち、エンジンシリンダーは船舶用ディーゼルシリンダー潤滑油('MDCL')で潤滑され、エンジンクランクケースはシステムオイルと呼ばれる別な潤滑油で潤滑される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
トランクピストンディーゼルエンジンは遠心システム(centrifuge system)を用いて潤滑油組成物から例えば煤や水などの汚染物質を除去する。同様な遠心システムは幾つかのクロスヘッド式船舶ディーゼルエンジンのシステムオイルの処理に用いられている。遠心システムは潤滑油組成物より重いシーリング媒液の使用に依存する。通常、シーリング媒液は水である。潤滑油組成物が遠心システムを通過する際、水と接触することになる。よって、潤滑油組成物は水を分離除去する能力があって(capable of shedding water)、しかも水の存在下でも安定でなければならない。もし、潤滑油組成物が水を分離除去出来なければ、水は潤滑油組成物中に蓄積して乳化物を形成し、それが遠心システムに蓄積して遠心システムの正常な作動を阻害する。
US-A1-2006/0189492は、潤滑油組成物中において煤の分散剤として作用するある種の連結芳香族化合物を記載している。しかしながら、該特許ではトランクピストンもしくはクロスヘッドディーゼルエンジンの潤滑におけるそれらの使用、もしくは水を分離除去する能力の必要性については記載していない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は煤の処理性(soot handling)を改良し、遠心システム中で用いられる媒液を分離除去する能力のある潤滑方法を提供する。本発明は上記した様な連結芳香族化合物(linked aromatic compounds)を窒素含有無灰分散剤(nitrogen-containing ashless dispersant)と、定義する比率で組み合わせて用いる。
【0005】
第一の実施態様として、本発明は、シーリング媒液を含む遠心システムを有するトランクピストンディーゼルエンジンもしくはクロスヘッドディーゼルエンジンの潤滑方法を含み、該潤滑方法はエンジン操作と、下記(A)、(B)成分を含む潤滑油組成物によるトランクピストンエンジンの潤滑もしくはクロスヘッドエンジンのシステム潤滑を含む。
(A)主要な量での潤滑粘度を有するオイル;
(B)有効成分として、下記の(B1)成分と(B2)成分の組合せが潤滑油組成物中の0.04〜5質量%:
(B1)次式で表わされる少なくとも一つの連結芳香族化合物
【化1】

上式において、Arは夫々独立に、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アシロキシ、アシロキシアルキル、アリーロキシ、アリーロキシアルキル、ハロゲン、もしくはそれらの組合せから成る群から選択される置換基を0〜3個有する芳香族基を示し;
Lは夫々独立に、炭素−炭素単結合もしくは連結グループ(linking group)を含む連結基(linking moiety)であり;
Y'は夫々独立に、式Z(O(CR2)n)yX−で表わされる基であり、
Xは(CR'2)z、O、Sからなる群から選択され;RとR'は夫々独立に、H,C1〜C6アルキル及びアリールから選択され;zは1〜10であり、nは、Xが(CR'2)z であるとき0〜10であり、XがOもしくはSであるとき2〜10であり;yは1〜30であり;ZはH、アシル基、アルキル基、もしくはアリール基であり;aは、少なくとも一つのAr基が少なくとも一つの、ZがHでないY'を有するという条件付きで、夫々独立に0〜3であり;
mは1〜100であり;
(B2)少なくとも1種の窒素含有分散剤であり、(B1):(B2)の質量比が1:3〜9:1、例えば3:1〜6:1の範囲の様に、好ましくは1:1〜6:1の範囲内である。
【0006】
第二の実施態様として、本発明は遠心による水の分離除去試験で測定される潤滑油組成物の水の分離除去性の強化法であって、本発明の第一の実施態様で定義される潤滑油組成物を採用して、(B)が(B2)のみ含有する場合の対応する潤滑油組成物と比較することにより、シーリング媒液を含む遠心システムを有するトランクピストンエンジンの潤滑もしくはクロスヘッドディーゼルエンジンのシステム潤滑における、潤滑油組成物による水の分離除去性強化法を含む。
【0007】
第三の実施態様として、本発明は、トランクピストンもしくはクロスヘッドディーゼルエンジン潤滑油組成物を含み、該組成物はASTM D2896で規定される全塩基価(total base number)が15mgKOH/g以上、例えば20mgKOH/g以上であり、下記(A)、(B)成分を含む:
(A)潤滑粘度を有するオイルを40質量%以上;及び
(B)有効成分として、下記の(B1)成分と(B2)成分の組合せが潤滑油組成物中の0.04〜5質量%:
(B1)次式で表わされる少なくとも一つの連結芳香族化合物
【化2】

上式において、Arは夫々独立に、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アシロキシ、アシロキシアルキル、アリーロキシ、アリーロキシアルキル、ハロゲン、もしくはそれらの組合せから成る群から選択される置換基を0〜3個有する芳香族基を示し;
Lは夫々独立に、炭素−炭素単結合もしくは連結グループを含む連結基であり;
Y'は夫々独立に、式Z(O(CR2)n)yX−で表わされる基であり、
Xは(CR'2)z、O、Sからなる群から選択され;RとR'は夫々独立に、H,C1〜C6アルキル及びアリールから選択され;zは1〜10であり、nは、Xが(CR'2)z であるとき0〜10であり、XがOもしくはSであるとき2〜10であり;yは1〜30であり;ZはH、アシル基、アルキル基、もしくはアリール基であり;aは、少なくとも一つのAr基が少なくとも一つの、ZがHでないY'を有するという条件付きで、夫々独立に0〜3であり;
mは1〜100であり;
(B2)少なくとも1種の窒素含有分散剤であり、(B1):(B2)の質量比が1:3〜9:1、例えば3:1〜6:1の様に、好ましくは1:1〜6:1の範囲内である。
【0008】
本明細書において、下記の用語と表現を使用する際は、下記の意味で用いる。
「有効成分」もしくは「(a.i.)」は希釈剤もしくは溶媒でない添加物質を意味する;
「含む」(comprising)もしくはその同族語は、記載された特徴、段階、整数、もしくは成分の存在を特定し、一もしくはそれ以上の他の特徴、段階、整数、成分もしくはそれらのグループの存在もしくは添加を除外しない;
「成る」(consists of)もしくは「本質的に成る」(consists essentially of)もしくはそれらの同族語は「含む」(comprising)もしくはその同族語に含まれ、「本質的に成る」(consists essentially of)は、それが適用される組成物の特徴に実質的に影響しない物質を包含することを許容する;
「主要な量」(major amount)は組成物中の50質量%を超える量を意味する;
「少量」(minor amount)は組成物中の50質量%未満を意味する;
「TBN」はASTM D2896で規定される全塩基価(total base number)を意味する。
さらに、本明細書における定義は、
「リン含有率」はASTM D5185に基づいて測定される;
「硫酸化灰分含有率」(sulphated ash content)はASTM D874に基づいて測定される;
「硫黄含有率」はASTM D2622に基づいて測定される;
「KV100」は、ASTM D445に基づいて測定される100℃における動粘度を意味する。
【0009】
又、用いられる種々の成分は、本質的であると同様に最適且つ通例のものであるが、配合や保管もしくは使用される条件によっては化学反応する可能性があること、本発明は入手可能な製品か、或いはこの様ないずれかの化学反応の結果として得られる製品をも供給することが理解されなければならない。
さらに又、ここで示された上限量や下限量、範囲及び比率は独立に組み合わせることができることも理解する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
発明の夫々及び全ての実施態様に関係する、適切な場合、本発明の特徴をより詳細に下記に述べる。
[(B1)連結している芳香族化合物]
US2006/0189492A1は下記の(I)に示す化合物から調製されるこれらの化合物を記載している。
【化3】

上式において、Arは夫々独立に、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ハロゲン、もしくはそれらの組合せから成る群から選択される置換基を0〜3個有する芳香族基を示し;Lは夫々独立に、炭素−炭素単結合もしくは連結グループを含む連結基であり;Yは夫々独立に、式H(O(CR2)n)yX−で表わされる基であり、Xは(CR'2)z、O、Sからなる群から選択され;RとR'は夫々独立に、H,C1〜C6アルキル及びアリールから選択され;zは1〜10であり、nは、Xが(CR'2)z であるとき0〜10であり、XがOもしくはSであるとき2〜10であり;yは1〜30であり;aは、少なくとも一つのAr基が少なくとも一つのY基を有するという条件付きで、夫々独立に0〜3であり;mは1〜100である。
【0011】
式(I)に示す芳香族基Arは、単環炭素環式基(mononuclear carbocyclic moiety)(フェニル)もしくは多環炭素環式基(polynuclear carbocyclic moiety)であり得る。多環炭素環式基は2個もしくはそれ以上の縮合環を含んでもよく、夫々の環は4〜10個の炭素原子を有するか(例えば、ナフタレン)、或いはビフェニルの様に、単環炭素環式基同士の連結でもよく、或いは連結された縮合環(例えば、ビナフチル)を含んでもよい。適当な多環炭素環式芳香族基としては、ナフタレン、アンスラセン、フェナンスレン、シクロペンテノフェナンスレン、ベンズアンスラセン、ジベンズアンスラセン、クリセン、ピレン、ベンズピレン、クロネン、及びそれらのダイマー、トリマー及びより高次のポリマーを含む。又、Arは単環もしくは多環複素環式芳香族基を表わすこともできる。複素環式基Arは、夫々1個以上のN,O及びSから選択される複素原子を含む、4〜10個の原子を含む1もしくはそれ以上の環を含む。適当な単環複素環式芳香族基としては、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリジミジン、ピュリンを含む。適当な多環状複素炭化水素基Arとしては、例えば、キノリン、イソキノリン、カルバゾール、ジピリジル、シノリン(cinnoline)、フタラジン(phthalazine)、キナゾリン(quinazoline)、キノキサリン(quinoxaline)及びフェナントロリンを含む。夫々の芳香族基(Ar)は、全ての基Arが同一もしくは異なるか独立に選択される。多環炭素環式芳香族基が好ましい。式(I)の最も好ましい化合物は、Arがナフタレンである。芳香族基Arは夫々独立に、置換されていないか、或いはアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、ハロゲン、それらの組合せから選択される1〜3個の置換基を有する。好ましくは、夫々のArは置換されていない(Y基及び末端基を除いて)。
【0012】
夫々の連結基(L)は同一か異なり、隣接した基Arもしくは連結基の炭素原子間は炭素−炭素単結合であり得る。適当な連結基としては、アルキレン結合、エーテル結合、ジアシル結合、エーテルアシル結合、アミノ結合、アミド結合、カルバミド結合、ウレタン結合、イオウ結合を含む。好ましい連結基は、-CH3CHC(CH3)2-もしくは C(CH3)2-の様なアルキレン結合;-COCO-もしくは-CO(CH2)4CO-の様なジアシル結合;-S1-もしくは-Sx-の様なイオウ結合である。より好ましい連結基は、アルキレン結合であり、最も好ましくは-CH2-である。
好ましくは、式(I)のArは、ナフタレンを意味し、より好ましくは、Arは2-(2-ナフチロキシ)-エタノールから誘導される。好ましくは、夫々のArは2-(2-ナフチロキシ)-エタノールから誘導され、mは2〜25である。好ましくは、式(I)のYはH(O(CR2)2)yO-で表わされる基であり、yは1〜6である。最も好ましくは、Arはナフタレン、YはHOCH2CH2O-であり、Lは-CH2-である。
【0013】
式(I)の化合物の合成方法は、当業者にとって明らかであろう。ナフトールの様な水酸基化芳香族化合物は、アルキレンカーボナート(例えばエチレンカーボナート)と反応して、式AR−(Y)aで表わされる化合物を提供できる。好ましくは、水酸基化芳香族化合物とアルキレンカーボナートは、水酸化ナトリウム水溶液の様な塩基触媒存在下、25〜300℃の温度範囲、好ましくは50〜200℃において、反応する。当該反応中に、水は共沸蒸留もしくは他の通常の手段で除去され得る。もし、中間生成物の分離を望むなら、反応完了時に(CO2発生の停止により検知される)反応生成物を回収冷却し、固化させる。あるいは、ナフトールの様な水酸基化芳香族化合物は、1もしくはそれ以上のオキシアルキレン基を組み込むのと類似の条件下で、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドもしくはスチレンオキシドなどの様なエポキシドと反応できる。
【0014】
式(I)の化合物を生成させるには、生成した中間生成物Ar- (Y)aは更に、ポリハロゲン化(好ましくはジハロゲン化)炭化水素(例えば、1,4-ジクロロブタン、2,2-ジクロロプロパン等)もしくはジ-又はポリ-オレフィン(例えば、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン等)と反応して、アルキレン連結グループを有する式(I)の化合物を生成することができる。Ar- (Y)a基とケトンもしくはアルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、アセトン、ベンゾフェノン、アセトフェノン等)との反応はアルキレン連結化合物を供給する。アシル連結化合物は、Ar- (Y)a基とジ酸もしくは無水物(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、無水コハク酸等)と反応して生成し得る。スルフィド、ポリスルフィド、スルフィニル、スルフォニル連結は、Ar- (Y)a基と適当な二官能スルフリル化剤(例えば、一塩化イオウ、二塩化イオウ、塩化チオニル(SOCl2)、塩化スルフリル(SO2Cl2)等)との反応により供給してもよい。アルキレンエーテル連結を有する式(I)の化合物を供給するためには、Ar- (Y)a基はジビニルエーテルと反応し得る。Lが直接の炭素−炭素結合である式(I)の化合物は、例えば、P. Kovacic, et al., J. Polymer Science: Polymer Chem. Ed., 21, 457 (1983)が記載した様に、塩化アルミニウムと塩化第一銅との混合物を用いて酸化カップリング重合を経由して生成してもよい。あるいは、かような化合物は、例えば“Catalytic Benzene Coupling on Caesium/Nanoporous Carbon Catalysts”, M.G. Stevens, K.M. Sellers, S. Subramoney and H.C. Foley, Chemical Communications, 2679-2680 (1988)に記載される様に、Ar- (Y)a基とアルカリ金属との反応によって生成してもよい。
【0015】
好ましくは、アルキレン連結グループ、より好ましくはメチレン連結グループを有する式(I)の化合物を生成させるには、Ar- (Y)a反応混合物中に残存する塩基を酸、好ましくは、過剰の酸(例えば、スルホン酸)を用いて中和して、アルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドと、好ましくは残存する酸の共存下で反応して、アルキレン、好ましくはメチレン架橋した(I)の化合物を供給することができる。式(I)の化合物の重合度は2〜101(m値が1〜100に相当する)、好ましくは2〜50、最も好ましくは2〜25である。
【0016】
式(II)の化合物は、式(I)の化合物と、アシル化剤、アルキル化剤及びアリール化剤のうちの少なくとも1種との反応で生成可能であり、下式で表わされる。
【化4】

上式において、Y'は夫々独立に、式Z(O(CR2)n)yX−で表わされる基であり;Zはアシル基、アルキル基、もしくはアリール基もしくはHであり;Ar、L、X、R、z、n、yは、少なくとも一つのAr基が少なくとも一つの置換基Y'( ZがHでない)を有するという条件付きで、式(I)における定義と同一であり;mは1〜100である。
適当なアシル化剤は、ヒドロカルビルカルボン酸、ヒドロカルビルカルボン酸のハロゲン化物、ヒドロカルビルスルホン酸及びヒドロカルビルスルホン酸のハロゲン化物、ヒドロカルビルリン酸及びヒドロカルビルリン酸のハロゲン化物、ヒドロカルビルイソシアナート及びヒドロカルビルコハク酸アシル化剤を含む。好ましいアシル化剤は、ドデシルイソシアナート及びヘキサドデシルイソシアナートの様な、C8以上の高級ヒドロカルビルイソシアナート及びC8以上のヒドロカルビルアシル化剤であり、より好ましくは、ポリブテニルもしくはポリイソブテニル無水コハク酸(PIBSA)の様なポリブテニルコハク酸アシル化剤である。好ましくは、ヒドロカルビルコハク酸アシル化剤は、数平均分子量(

)が100〜5,000であり、好ましくは200〜3,000であり、より好ましくは450〜2,500である。好ましいヒドロカルビルイソシアナートアシル化剤は、数平均分子量(

)が100〜5,000であり、好ましくは200〜3,000であり、より好ましくは200〜2,000である。
【0017】
アシル化剤は、例えば塩素で補助された、熱的方法及びラジカルグラフト法の様な、当業者に公知の従来方法で調製できる。アシル化剤は単官能性もしくは多官能性(polyfunctional)である。好ましくは、アシル化剤の官能基数(functionality)は1.3未満である。アシル化剤は分散剤工業において用いられ、アシル化剤の生成方法に関するより詳細な記述は、以下に示される適当な分散剤に関する記載にある。
適当なアルキル化剤は、C8〜C30アルカンアルコール類、好ましくはC8〜C18アルカンアルコール類を含む。適当なアリール化剤は、C8〜C30、好ましくはC8〜C18のアルカン置換アリールのモノ-もしくはポリ-ヒドロキシドを含む。
【0018】
式(I)化合物とアシル化剤、アルキル化剤及び/もしくはアリール化剤のモル量は、全ての又は一部のみの、例えば25%以上、50%以上もしくは75%以上のYグループがY'グループに転換される様に、調整することができる。式(I)化合物がヒドロキシ及び/もしくはアルキルヒドロキシ置換基を有し、これらの化合物がアシル化グループと反応する場合、これらのヒドロキシ及び/もしくはアルキルヒドロキシ置換基の全て又は一部はアシロキシもしくはアシロキシアルキル基に変換されることが可能である。式(I)化合物がヒドロキシ及び/もしくはアルキルヒドロキシ置換基を有し、これらの化合物がアリール化グループと反応する場合、これらのヒドロキシ及び/もしくはアルキルヒドロキシ置換基の全てもしくは一部はアリーロキシもしくはアリーロキシアルキル基に変換されることが可能である。よって、アシロキシ基、アシロキシアルキル基、アリーロキシ基及び/もしくはアリーロキシアルキル基で置換された式(II)化合物は本発明の範囲内であると考えられる。Zがアシル化グループである式(II)化合物の塩であって、その塩が塩基との中和で生成したものである(例えば、添加剤パッケージか組成化潤滑油中の金属洗剤との相互作用により、生成するかも知れない)形態も本発明の範囲内であると考えられる。
【0019】
式(II)化合物は、式(I)の前駆体とアシル化剤とを、好ましくは液体酸触媒存在下、例えばドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸又はポリリン酸又はAmberlyst-15, Amberlyst-36、ゼオライト、鉱物酸クレーまたはポリリン酸タングステンの様な固体酸触媒存在下で、温度約0〜300℃、好ましくは50〜250℃で反応することにより、式(I)前駆体から誘導できる。上記条件下で、好ましいポリブテニルコハク酸アシル化剤類は式(I)化合物とジエステル、酸エステル又はラクトンエステルを形成できる。
式(II)化合物は、式(I)の前駆体とアルキル化剤又はアリール化剤とを反応させ、好ましくはトリフェニルホスフィン及びジエチルアゾジカルボキシラート(DEAD)、液体酸触媒存在下、例えばドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸又はポリリン酸又はAmberlyst-15, Amberlyst-36、ゼオライト、鉱物酸クレーまたはポリリン酸タングステンの様な固体酸触媒の存在下で、温度0〜300℃、好ましくは50〜250℃で反応することにより、式(I)前駆体から誘導できる。
【0020】
[(B2)無灰分散剤(ashless dispersant)]
本発明組成物において有用な無灰分散剤類は、粒子と会合して粒子を分散可能な官能基を有する油溶性の高分子長鎖骨格を含む。典型的には、この様な分散剤は、高分子骨格にしばしば橋かけグループ(bridging group)を介して、アミン、アルコール、アミド又はエステル極性基が結合された構造を含む。例えば、無灰分散剤は、長鎖炭化水素置換モノ−及びポリ−カルボン酸類の油溶性塩類、エステル類、アミノエステル類、アミド類、イミド類及びオキサゾリン又はそれらの無水物;長鎖炭化水素のチオカルボン酸誘導体;分子鎖に直接結合したポリアミン基を有する長鎖脂肪族炭化水素;長鎖置換フェノールとホルムアルデヒド及びポリアルキレンポリアミンとを縮合して形成されるマンニッヒ縮合生成物から選択してもよい。
好ましくは、無灰分散剤は数平均分子量(

)が4,000以上、例えば、4,000〜20,000である「高分子量」の分散剤である。詳細な分子量範囲は分散剤の形成に用いられるポリマーのタイプ、存在する官能基の数及び採用される極性官能基のタイプに依存する。例えば、ポリイソブチレンから誘導された分散剤には、高分子量分散剤は数平均分子量1,680〜5,600のポリマー骨格をもった形で生成されたものがある。典型的に商業的に調達可能なポリイソブチレンをベースとする分散剤類は、数平均分子量が900〜2,300であり、無水マレイン酸(分子量=98)で官能化され、分子量100〜350のポリアミンで誘導されたポリイソブチレンポリマーを含有する。当業界で公知の方法で、分散剤中に複合ポリマー鎖(multiple polymer chains)を組み込むことにより、より低分子量のポリマーも高分子量分散剤を調製するために用いてもよい。
【0021】
ポリマーの分子量、特に数平均分子量(

)は、種々の公知の方法で決定できる。一つの便利な方法はゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)であり、その方法は分子量分布に関する情報も提供する。(W. W. Yau, J. J. Kirkland and D. D. Bly, ”Modern Size Exclusion Liquid Chromatography”, John Wiley and Sons, New York, 1979を見よ。)アミン含有分散剤(例えば、PIBSA-ポリアミン又はPIBSA-PAM)の分子量を決定する場合、アミンの存在が分散剤をカラムに吸着させ、不正確な分子量測定となるであろう。GPC測定操作に習熟した人間にとっては、この問題は混合溶媒系を用いることにより小さくできることを理解する、例えば純粋なテトラヒドロフラン(THF)でなく、THFに少量のピリジンを混合する方法を取るのである。その問題は、アミンを無水酢酸でキャップしてキャップグループの数を基準に分子量を補正することにより、解決してもよい。特に、低分子量ポリマーの分子量を決定するもう一つの有益な方法は、蒸気圧浸透法である。(例えば、ASTM D3592を見よ)
ポリマーの重合度Dpは:
【数1】

であり、2種類のモノマーから成るコポリマーのDpは次式で与えられる。
【数2】

好ましくは、本発明に用いられるポリマー骨格の重合度は30以上、典型的には30〜165、より好ましくは35〜100である。
【0022】
本発明において採用される好適な炭化水素又はポリマーとしては、ホモポリマー、インターポリマー、又は低分子量炭化水素である。一つの有用なポリマー種としては、エチレン及び/もしくは式H2C=CHR1を有する少なくとも一つのC3〜C28脂肪族オレフィンのポリマーを含み、R1はC1〜C26の炭素数である直鎖又は分岐のアルキル基(alkyl radical)であり、該ポリマーは炭素-炭素不飽和結合を含み、好適には高度の末端エテニリデン性不飽和結合を含むものである。本発明に用いられるポリマーの一つの好ましい種類としては、エチレンと少なくとも1種の上記式で表わされるα−オレフィンとのインターポリマーを含み、R1はC1〜C18アルキルであり、より好適にはC1〜C8アルキルであり、更に好適には炭素数C1〜C2 である。よって、有用なα−オレフィンモノマー類及びコモノマー類としては、例えば、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン-1、デセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、及びこれらの混合物(例えば、プロピレンとブテン-1の混合物、及び類似物)である。これらのポリマー中で模範的なのは、プロピレンのホモポリマー、ブテン-1のホモポリマー、プロピレン−ブテンコポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−ブテン-1コポリマー、及び類似物であり、該ポリマーは少なくとも幾つかの末端及び/又は内部不飽和を有する。好適なポリマーとしては、エチレンとプロピレンのコポリマー及びエチレンとブテン-1のコポリマーである。本発明のインターポリマー類は少量の、例えば0.5〜5モル%のC4〜C18非共役ジオレフィンコモノマーを含んでもよい。しかしながら、本発明のポリマー類としては、α−オレフィンのホモポリマー類、α−オレフィンコモノマーのインターポリマー及びエチレンとα−オレフィンコモノマーとのインターポリマーだけを含むことが推奨される。本発明で採用されるポリマー中のエチレンのモル含有率は好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%である。プロピレン及び/又はブテン-1がエチレンのコモノマーとして用いられる場合は、エチレン含有率がより多くもしくは少なく存在するかも知れないが、好ましくはこれらのコポリマー中のエチレンのモル含有率は45〜65%である。
【0023】
これらのポリマーは、α−オレフィンモノマー、もしくはα−オレフィンモノマー類の混合物、もしくはエチレンと少なくとも1種のC3〜C28α−オレフィンモノマーを含む混合物を、1種以上のメタロセン(例えば、シクロペンタジエニル−遷移金属化合物)とアルミノキサン(alumoxane)化合物を含む触媒系の存在下で、重合して得てもよい。このプロセスを用いると、ポリマー鎖の95%以上が末端エテニリデン型不飽和を有するポリマーを得ることができる。末端エテニリデン型不飽和を呈するポリマー鎖のパーセンテージはFTIR分光分析、滴定法もしくはC13NMRにより決定される。後者のタイプのインターポリマーは、POLY−C(R1)=CH2で特徴づけられ、該式において、R1はC1〜C26アルキル、好ましくはC1〜C18アルキル、より好ましくはC1〜C8アルキル、最も好ましくはC1〜C2アルキル(例えば、メチル又はエチル)であり、POLYはポリマー鎖を示す。R1アルキル基の鎖長は重合に選択されるコモノマー種に拠って変わってくる。少量のポリマー鎖は末端エテニル、即ちビニル、不飽和、即ちPOLY−CH2=CH2を含むことができ、ポリマーの一部は内部モノ不飽和、例えば、R1が上記の通りの定義である、POLY−CH=CH(R1)を含むことができる。これらの末端不飽和インターポリマーは、既知のメタロセン化学により調製可能であり、米国特許No.5,498,809; No.5,663,130;No.5,705,577;No.5,814,715;No.6,022,929 及びNo.6,030,930に記載されているように調製してもよい。
他の有用なポリマー種としては、イソブテン、スチレン、及び類似のモノマーのカチオン重合法により調製されるポリマーを含む。この種の通常のポリマーとしては、ブテン含有率が35〜75質量%、及びイソブテン含有率が30〜60質量%を有するC4精製留分(refinery stream)を、三塩化アルミニウムもしくは三フッ化ホウ素の様なルイス酸触媒存在下で重合して得られるポリイソブテンを含む。ポリ-n-ブテンの製造に用いられる好ましいモノマー源はRaffinate IIの様な石油精製留分(petroleum feed streams)である。これらの原料(feedstock)は、例えば米国特許No.4,952,739において技術開示されている。ポリイソブチレンは、ブテン留分から(例えば、AlCl3もしくはBF3触媒を用いて)カチオン重合により容易に入手可能なので、本発明の最も好適なポリマー骨格である。この様なポリイソブチレンは、通常、分子鎖に沿って位置するポリマー鎖当たり一つのエチレン性二重結合の量として、残存不飽和を含有する。
上記した様に、用いられるポリイソブチレンポリマーは、通常、900〜2,300の炭化水素鎖をベースとする。ポリイソブチレンの製造方法は公知である。ポリイソブチレンはハロゲン化(例えば、塩素化)、熱”エン”反応、もしくは下記に示すような触媒(例えば、過酸化物)を用いたフリーラジカルグラフト反応によって官能基化(functionalized)される。
【0024】
重合性炭化水素類と不飽和カルボン酸類、無水物又はエステル類との反応及びこれらの化合物から誘導体を調製するプロセスは米国特許No.3,087,936;No.3,172,892;No.3,215,707;No.3,231,587;No.3,272,746;No.3,275,554;No.3,381,022;No.3,442,808;No.3,565,804;No.3,912,764;No.4,110,349;No.4,234,435; 及びドイツ特許GB-A-1,440,219に開示されている。ポリマー又は炭化水素は、ハロゲン利用官能基化(例えば、塩素化)プロセスもしくは熱”エン”反応を利用して、ポリマー又は炭化水素を官能基又は薬剤、即ち、酸、無水物、エステル基等をポリマーまたは炭化水素鎖に付加させる条件で反応させ、主として炭素−炭素不飽和(エチレン性又はオレフィン性不飽和とも呼ばれる)反応サイトにおいてカルボン酸生成基(好ましくは酸又は無水物)により官能基化される。
触媒(例えば、過酸化物)を利用したフリーラジカルグラフト反応プロセスを用いる際、官能基化はポリマー鎖に沿ってランダムに行われる。選択的官能基化は、温度60〜250℃、好ましくは110〜160℃、例えば120〜140℃において、0.5〜10時間、好ましくは1〜7時間で、ポリマー又は炭化水素の質量を基準に1〜8質量%、好ましくは3〜7質量%の量で、塩素又は臭素をポリマー中を通過させることにより、不飽和α-オレフィンポリマーをハロゲン化、例えば塩素化又は臭素化することにより、達成され得る。それから、ハロゲン化されたポリマー又は炭化水素(以降、「骨格」と呼称)は、例えば、モノ不飽和カルボン酸反応物質を100〜250℃、通常180〜235℃で、0.5〜10時間、例えば、3〜8時間の条件で、官能基を骨格に付加できる充分な量のモノ不飽和反応物質と反応させることが可能であり、その結果、得られた生成物はハロゲン化骨格のモル当たり、望ましいモル数のモノ不飽和カルボン酸反応物質を含むことになる。あるいは、該熱物質に塩素を添加する際に、骨格とモノ不飽和カルボン酸反応物質とを混合して加熱することができる。
【0025】
炭化水素又はポリマー骨格は、例えば、カルボン酸生成基(好ましくは、酸又は無水物基)により、ポリマーまたは炭化水素鎖上の炭素−炭素不飽和部分で選択的に、或いは上記の3つのプロセスもしくはそれらの組合せ(任意の順序で)を利用して鎖に沿ってランダムに官能基化され得る。
骨格の官能基化に用いられる好適なモノ不飽和反応物質は、モノ−及びジ−カルボン酸物質、即ち、酸、無水物、又は酸エステル物を含み、更に(i)モノ不飽和C4〜C10ジカルボン酸であって、(a)カルボキシル基はビシニル(即ち、隣接した炭素原子に位置する)であり、(b)該隣接炭素原子の少なくとも一方、好ましくは両方が該モノ不飽和の一部である;(ii)(i)のモノ−又はジ−エステルから誘導される無水物又はC1〜C5アルコールの様な(i)の誘導体類;(iii) 炭素−炭素二重結合がカルボキシ基と共役している、即ち、−C=C−CO−構造のモノ不飽和C3〜C10モノカルボン酸;(iV)(iii)のモノ−又はジ−エステルから誘導されたC1〜C5アルコールの様な(iii)の誘導体を含む。モノ不飽和カルボキシル物(i)〜(iV)の混合物も使用してもよい。骨格との反応の際、モノ不飽和カルボキシル反応物質のモノ不飽和部分は飽和する。この様に、例えば、無水マレイン酸は骨格置換された無水コハク酸になるし、アクリル酸は骨格置換されたプロピオン酸になる。この様なモノ不飽和カルボキシル反応物質の好例としては、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロロマレイン酸、無水クロロマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、及び前記の低級アルキル(例えば、C1〜C4アルキル)の酸エステル、例えば、マレイン酸メチル、フマル酸エチル、及びフマル酸メチルである。モノ不飽和カルボキシル反応物質、好ましくは無水マレイン酸は典型的に、ポリマー又は炭化水素の質量を基準に0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の範囲の量で用いられる。
【0026】
塩素化は通常出発オレフィンポリマーとモノ不飽和官能基化反応物質との反応性を上昇させるが、本発明での用途に用いることを目論んでいるポリマーと炭化水素には必要でなく、特に、高い末端基結合含有率及び反応性を有する好適なポリマーと炭化水素には不必要である。よって、好ましくは、骨格とモノ不飽和官能基化反応物質、例えば、カルボキシル反応物質は高温で接触させ、最初の熱「エン」反応を起こさせる。「エン」反応は公知である。
炭化水素又はポリマー骨格は種々の方法により、該ポリマー鎖に沿って官能基をランダムに付加して、官能基化される。例えば、該ポリマーは、溶液中であろうと固体状態であろうと、上記した様に、フリーラジカル開始剤の存在下で、モノ不飽和カルボキシル反応物質によりグラフト化してもよい。溶液中で実施した場合、グラフト化は100〜260℃、好適には120〜240℃の範囲の高温で起こる。好ましくは、フリーラジカル開始グラフト化は、イニシャルの合計オイル溶液を基準にして、例えば1〜50質量%、好適には5〜30質量%のポリマーを含む鉱物潤滑油溶液中で実施される。
【0027】
用いてもよいフリーラジカル開始剤は、過酸化物、ハイドロパーオキシド及びアゾ化合物であり、好ましくは、沸点100℃超で、グラフト温度範囲内で熱分解して、フリーラジカル類を供給する物が好ましい。これらのフリーラジカル開始剤の代表には、アゾブチロニトリル、ビス-tert-ブチルパーオキシド及びジキュメンパーオキシドである。開始剤は、用いる場合、典型的には反応混合溶液の質量を基準に0.005〜1質量%の範囲の量で用いられる。典型的には、前述のモノ不飽和カルボキシル反応物質とフリーラジカル開始剤は、質量比1.0:1〜30:1、好適には3:1〜6:1で用いられる。好適には、グラフト化は、窒素ブランケット下の様な不活性雰囲気中で実施される。生成したグラフトポリマーは、ポリマー鎖に沿ってランダムに付加されたカルボン酸基(又はエステル又は無水物)を有することにより特性化されるが、当然ながら、グラフト化されないポリマー鎖部分も残ることは理解される。上述したフリーラジカルグラフト化反応は本発明の他のポリマーと炭化水素にも適用可能である。
官能基化された油溶性高分子炭化水素骨格は、アミン、アミノアルコール、アルコール、金属化合物、又はこれらの混合物の様な、求核反応試薬によって更に誘導され、相当する誘導体を生成してもよい。官能基化されたポリマーを誘導体化するに有用なアミン化合物は少なくとも1種のアミンを含み、さらに1以上の追加のアミンまたは他の反応性基又は極性基を含むことができる。これらのアミンはヒドロカルビルアミン類であってもよいし、支配的にヒドロカルビル基が、例えば、水酸基、アルコキシ基、アミド基、ニトリル基、イミダゾリン基、及び同様なる他の官能基を含むヒドロカルビルアミン類であってもよい。特に、有用なアミン化合物はモノ-及びポリアミン類を含み、例えば、分子当たりの合計炭素数が2〜60、例えば2〜40(例えば、3〜20)であって、分子当たりの窒素原子数が3〜12である様な1〜12、好適には3〜9である、ポリアルケン及びポリオキシアルキレン-ポリアミン類を含む。アルキレンジハライドとアンモニアとの反応で得られる様なアミン化合物の混合物は有利に用いられるであろう。好適なアミン類としては、例えば、1,2-ジアミノエタン;1,3-ジアミノプロパン;1,4-ジアミノブタン;1,6-ジアミノヘキサン;ジエチレントリアミンの様なポリエチレンアミン類;トリエチレンテトラミン;テトラエチレンペンタミン;および1,2-プロピレンジアミンの様なポリプロピレンアミン類;及びジ-(1,2-プロピレン)トリアミンを含む脂肪族飽和アミン類である。
他の有用なアミン化合物としては下記を含む;1,4-ジ(アミノメチル)シクロヘキサンの様な脂環式ジアミン類やイミダゾリン類の様な複素環式窒素化合物。他の有用な群のアミン類は、米国特許No.4,857,217;No.4,956,107;No.4,963,275;及びNo.5,229,022において開示されている通り、ポリアミド−及びその関連のアミド−アミン類である。又、米国特許No.4,102,798;No.4,113,639;No.4,116,876;及び英国特許No.989,409に記載されている様な、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TAM)も有用である。デンドリマー類、星型アミン類、及び櫛構造アミン類も使用してもよい。同様に、米国特許No.5,053,152に記載されている様に、縮合アミン類も使用してもよい。官能基化ポリマーは、例えば、米国特許No.4,234,435 及びNo.5,229,022、欧州特許EP-A-208,560に記載されている通常の方法を用いて、アミン化合物と反応する。
【0028】
官能基化された油溶性重合炭化水素骨格は又、一価アルコール及び多価アルコールの様なヒドロキシ化合物類や、又はフェノールとナフトールの様な芳香族化合物で誘導体化されてもよい。好適な多価アルコールは、アルキレン鎖が2〜8個の炭素原子を含有するアルキレングリコールを含む。他の有用な多価アルコールとしては、グリセロール、グリセロールモノオレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールのモノメチルエーテル、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びそれらの混合物を含む。エステル分散剤は、例えば、アリルアルコール、シンナミルアルコール、プロパルギルアルコール、1-シクロヘキセン-3-オール及びオレイルアルコールの様な不飽和アルコールからも誘導されてもよい。無灰分散剤を生成可能な他の群のアルコールとしては、オキシアルキレン及びオキシアリレンを含むエーテル−アルコール類を含む。この様なエーテル−アルコール類としては、アルキレン鎖(alkylene radicals)が1〜8個の炭素原子を含むオキシ−アルキレン鎖(oxy-alkylene radicals)を150個以下有するエーテル−アルコール類によって例示される。エステル分散剤としては、コハク酸のジエステル又は酸エステル類、即ち、部分的にエステル化されたコハク酸類、同様に部分的にエステル化された多価アルコール類又はフェノール類、即ち、フリーのアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基を有するエステルが、挙げられる。エステル分散剤は、例えば、米国特許No.3,381,022に記載されている様な幾つかの公知の方法の一つにより、調製可能である。
【0029】
好ましい分散剤群には、ポリアミン誘導ポリα−オレフィン分散剤、特に、エチレン/ブテンα−オレフィン及びポリイソブチレンベースの分散剤を含む。特に好適な分散剤は、コハク酸無水物グループで置換され、ポリエチレンアミン類と反応して得られたポリイソブチレンから誘導される無灰分散剤である。該ポリエチレンアミン類は、例えば、ポリエチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン;又はポリオキシアルキレンポリアミン、例えばポリオキシプロピレンジアミン、トリメチロールアミノメタン;例えばペンタエリスリトールの様なヒドロキシ化合物;及びそれらの混合物である。一つの特に好適な分散剤の組合せとしては、次の(A)〜(D)の組合せである。即ち、(A)コハク酸無水物グループで置換されたポリイソブチレンであって、(B)例えば、ペンタエリスリトールの様なヒドロキシ化合物と反応したポリイソブチレン;(C)ポリオキシアルキレンポリアミン、例えば、ポリオキシプロピレンジアミン、もしくは(D)ポリアルキレンジアミン、例えば、ポリエチレンジアミン及びテトラエチレンペンタミン、(A)1モル当たり、(B),(C)及び/又は(D)を0.3〜2モル用いた物。もう一つの好適な分散剤の組合せは、(A)ポリイソブテニルコハク酸無水物、(B)例えば、テトラエチレンペンタミンである、ポリアルキレンポリアミン、及び(C)多価アルコール又はポリヒドロキシ置換脂肪族一級アミン、例えば、米国特許No.3,632,511に記載されている様な、ペンタエリスリトール又はトリスメチロールアミノメタンの組合せである。
他の群の無灰分散剤にはマンニッヒ塩基縮合生成物を含む。例えば、米国特許No.3,442,808に開示されている様に、一般的にこれらの生成物は、約1モルのアルキル置換モノ−もしくはポリ−ヒドロキシベンゼンと、1〜2.5モルのカルボニル化合物(類)(例えば、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒド)及び0.5〜2モルのポリアルキレンポリアミン、との縮合によって生成される。この様なマンニッヒ塩基縮合生成物には、ベンゼン環への置換基としてメタロセン触媒重合の重合生成物を含んでもよいし、又は、米国特許No.3,442,808に記載されているのと同様な方法で、コハク酸無水物に置換された該ポリマーを含む化合物と反応してもよい。メタロセン触媒系を用いて合成された官能基化及び/又は誘導化されたオレフィンポリマーの例は上記文献に記載されている。
【0030】
該分散剤は、米国特許No.3,087,936 及びNo.3,254,025にて一般に教示される様に、ホウ素化などの様な種々の通常の後処理方法でさらに処理することが可能である。分散剤のホウ素化は、アシル窒素含有分散剤を、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸類、ホウ酸エステル類のようなホウ素化合物により、アシル化窒素組成物の1モルに対するホウ素原子のモル比として0.1〜20倍供給可能な量で、処理することにより、容易に達成される。有用な分散剤はホウ素として0.05〜2.0質量%、例えば0.05〜0.7質量%含む。製品中には脱水ホウ酸ポリマー類(主として、(HBO2)3)として出現するホウ素はアミン塩として分散剤のイミド類及びジイミド類に、例えばジイミドのメタボラート塩(metaborate salt)として、結合すると考えられる。ホウ素化は次の様に実施される、即ち、ホウ素化合物、好適にはホウ酸0.5〜4、例えば1〜3質量%(アシル窒素化合物の質量を基準にして)を通常スラリーとしてアシル窒素化合物に添加した後、135〜190℃、例えば、140〜170℃において、1〜5時間攪拌加熱し、次いで脱窒素を行う。あるいは、水を除去しながら、ホウ酸をジカルボン酸物質とアミンとの熱反応混合物に対して添加して、実施することも可能である。当業界で既知の他の後反応プロセスも適用可能である。
【0031】
更に、該分散剤は所謂「キャップ化剤」を用いる反応により後処理してもよい。通常、窒素含有分散剤はキャップ化することにより、この種の分散剤がエンジンシールに用いられるフルオロエラストマーに対して有する悪影響を低下させる。多数のキャップ化剤及びキャップ方法が知られている。公知の「キャップ化剤」の内、塩基性分散剤アミノ基を非塩基性基(例えば、アミド基又はイミド基)に転換する物が最適である。窒素含有分散剤とアセト酢酸アルキル(例えば、アセト酢酸エチル(EAA))との反応は、例えば、米国特許No.4,839,071;No.4,839,072 及びNo.4,579,675に記載されている。窒素含有分散剤とギ酸との反応は、例えば、米国特許No.3,185,704に記載されている。窒素含有分散剤と他の適当なキャップ化剤との反応生成物については下記の米国特許に記載されている。即ち、No.4,663,064 (グリコール酸);No.4,612,132;No.5,334,321;No.5,356,552;No.5,716,912;No.5,849,676;No.5,861,363 (アルキル及びアルキレン−カーボナート類、例えば、エチレンカーボナート);No.5,328,622 (モノエポキシド);No.5,026,495;No.5,085,788;No.5,259,906;No.5,407,591 (ポリ(例えばビス)-エポキシド類) 及び No.4,686,054 (無水マレイン酸又は無水コハク酸)である。以上のリストは完全なものではなく、他の窒素含有分散剤キャップ化方法も当業者に公知である。
【0032】
[潤滑粘度を有する油(A)]
本発明の文脈において有用な潤滑粘度の油としては、天然潤滑油、合成潤滑油及びそれらの混合物から選択される。潤滑油は、軽質留分であるミネラルオイルから、ガソリンエンジンオイル、ミネラル潤滑油及び重質ディーゼル油の様な重質潤滑油までの粘度範囲に亘る。一般に、オイルの粘度は、100℃で測定した値として、2〜40センチストークス、特に4〜20センチストークスの範囲である。
天然オイルとしては、動物油及び植物油(例えば、カスターオイル、ラードオイル);液体石油オイル、及びパラフィン系、ナフテン系及びパラフィン−ナフテン混合タイプの水添精製(hydrorefined)もしくは溶媒処理もしくは酸処理された鉱物油を含む。石炭及びシェール(shale)から誘導される潤滑粘度のオイルもベースオイルとして有用に働く。
合成潤滑油としては、炭化水素油及びハロゲン置換炭化水素油を含み、具体的には下記の様なオイルを含む。即ち、重合及び共重合したオレフィン(例えば、ポリブテン類、ポリプロピレン、プロピレン−イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン類(例えば、ドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン類);ポリフェニル類(例えば、ビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェノール類);及びアルキル化ジフェニルエーテル類及びアルキル化ジフェニルスイフィド類及びそれらの誘導体、類似物質、同族体である。又、通常、気−液もしくは”GTL”ベースオイルと呼ばれ、フィッシャー−トロプシュ合成炭化水素から気−液プロセスで誘導される、合成オイルも有用である。
【0033】
末端水酸基がエステル化、エーテル化等で修飾されるアルキレンオキシドポリマー及びその共重合ポリマー及び誘導体は、もう一つの公知の合成潤滑油群を構成する。その例としては、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合に拠り調製されるポリオキシアルキレンポリマー類、ポリオキシアルキレンポリマー類のアルキル及びアリールエーテル(例えば、分子量1,000を有するメチル−ポリイソプロピレングリコール又は分子量1,000〜1,500を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル);それらのモノ−及びポリ−カルボン酸エステル、例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、C3〜C8混合脂肪酸のエステル類、C13オキソ酸ジエステルである。
他の適当な合成潤滑油群としては、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノレン酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステル類を含む。この様なエステルの特定の例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノレン酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、及びセバシン酸1モルとテトラエチレングリコール2モル及び2-エチルヘキサン酸2モルとの反応で生成する錯体エステルを含む。
合成油として有用なエステルとしては、C5〜C12モノカルボン酸類と、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールの様なポリオール及びポリオールエステルとから合成される物質を含む。
【0034】
ポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-もしくはポリアリーロキシ−シリコーンオイルとシリケートオイルの様なシリコン-ベースオイルも、もう一つの有用な合成潤滑油群を構成する;これらのオイルとしては、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチル-フェニル)シリケート、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類及びポリ(メチルフェニル)シロキサン類を含む。他の合成潤滑油としては、リン含有酸(例えば、リン酸トリクレシル、リン酸トリオクチル、デシルホスホン酸のジエチルエステル)及び重合テトラヒドロフランの液体エステル類を含む。
潤滑粘度のオイルは、I群、II群又はIII群のベースストック又は前述したベースストック(base stocks)のベースオイル混合物を含んでもよい。好適には、潤滑粘度のオイルはII群及びIII群のベースストック、又はそれらの混合物、又はI群のベースストックとII群又はIII群の1以上との混合物である。好適には、主要な量の潤滑粘度のオイルはII群、III群、IV群、又はV群のベースストック、又はそれらの混合物である。ベースストック又はベースストック混合物は、好ましくは、65%以上、より好ましくは75%以上、例えば85%以上の飽和含有率を有する。最も好適には、ベースストック又はベースストック混合物は90%超の飽和含有率を有する。好ましくは、前記油又は前記油混合物は、1質量%未満、好適には0.6質量%未満、最も好適には0.4質量%未満のイオウ含有率を有する。
【0035】
好ましくは、Noack揮発性試験(ASTM D5880)によって測定される前記油又は前記油混合物の揮発性は30%以下、好適には25%以下、より好適には20%以下、最も好適には16%以下である。好ましくは、前記油又は前記油混合物の粘度指数(VI)は85以上、好適には100以上、最も好適には約105〜140である。
本発明におけるベースストックとベースオイルに関する定義は、全米石油協会(API)刊行 “Engine Oil Licensing and Certification System”, Industry Services Department, Fourteenth Edition, December 1996, Addendum 1, December 1998に記載されているのと同一である。該発行物はベースストックを下記の様に分類している。
a)I群のベースストックは、90%未満の飽和化合物(saturates)及び/又は0.3%超のイオウを含み、表1で特定される試験方法によると、80以上、120未満の粘度指数を有する。
b)II群のベースストックは、90%以上の飽和化合物及び0.03%以下のイオウを含有し、表1で特定される試験方法によると、80以上120未満の粘度指数を有する。
c)III群のベースストックは、90%以上の飽和化合物及び0.03%以下のイオウを含有し、表1で特定される試験方法によると、120以上の粘度指数を有する。
d)IV群のベースストックはポリα−オレフィン類(PAO)である。
e)V群のベースストックは、I群〜IV群に含まれない他の全てのベースストックを含む。
【0036】
表I−ベースストックの分析方法

【0037】
[(B)添加剤組成物]
前述した様に、(B1):(B2)質量比は1:3〜9:1の範囲内である。好ましくは、1:1〜6:1の範囲内であり、より好ましくは3:1〜6:1の範囲内である。夫々の質量は有効成分基準である。
(B1):(B2)の質量比は、有効成分として、(B1)の質量%対(B2)中の窒素の質量%である。例えば、その比率は、80:1〜500:1の様な30:1〜750:1、例えば250:1〜500:1であってもよく、好適には40:1〜80:1である。
又、前述した様に、添加剤組成物(B)は潤滑油組成物の0.04〜5質量%を構成する。好適には、0.2〜2.5質量%、より好適には0.4〜2質量%を構成する。
又、潤滑油組成物中の(B2)濃度は、窒素の質量%として表現すると、0.02未満の様な0.03未満、例えば、0.002〜0.01の範囲内、例えば0.004〜0.005乃至〜0.01質量%であってもよい。
【0038】
[添加助剤](Co-additives)
トランクピストンもしくはクロスヘッドディーゼルエンジンに有用な潤滑油組成物は少なくとも1種のアルカリ過剰金属洗浄剤(overbased metal detergent)を含み、必要なTBNを与える。かような洗浄剤は当業界で良く知られて確立されたものであり、その例としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属添加剤を含む。例えば、フェノール、スルホン酸、カルボン酸、サリチル酸及びナフテン酸から選択された界面活性剤のアルカリ過剰な、油溶性又は油分散性のカルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩又はバリウム塩であり、アルカリ過剰状態は、例えば、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、水酸化物又はシュウ酸塩である油不溶性金属塩によって供給され、それらは界面活性剤の油溶性塩により安定化される。界面活性剤油溶性塩の金属は油不溶性塩の金属と同一か又は異なってもよい。油溶性塩又は油不溶性塩いずれの金属の場合でも、好ましくは、カルシウムである。
洗浄剤のTBNは、低くて50未満、中程度で50〜150、高い場合は150超であってもよい。TBNは中程度か高い場合が好適であり、即ち50超である。より好適には、TBNは60以上、更に好適には100以上、一層好適には150以上500迄であり、例えば350迄である。
アルカリ過剰洗浄剤中の界面活性剤系用の界面活性剤は、例えば芳香環の置換基として、少なくとも一つのヒドロカルビル基を含むのが好適である。ここで用いられる用語「ヒドロカルビル」は、関与する基が主として水素と炭素から構成され、該分子の残余部分に炭素原子を介して結合されるが、実質的に当該基の炭化水素特性を大して減じることがない比率で他の原子もしくは基の存在を排除しないものである。都合が良いことには、本発明に合致した用途に向く界面活性剤中のヒドロカルビル基としては、脂肪族基、好適にはアルキル基又はアルキレン基であり、特にアルキル基が好適であり、それらは直鎖又は分岐であってもよい。界面活性剤中の合計炭素数は要求される油溶性を付与するために少なくとも充分なものでなければならない。
用いることが可能な他の添加助剤としては、例えば下記のものを含む:
ジヒドロカルビルジチオリン酸の金属(例えばZn)塩の様な老化防止剤(anti-wear additives) (例えば、潤滑油組成物中0.10〜3.0質量%の量);例えば、芳香族アミン類又はヒンダードフェノール類の形の酸化防止剤、又は酸化インヒビター(例えば、潤滑油組成物中3.0質量%以下の量で);
必要ならば、流動点抑制剤(pour point depressants)、抑泡剤(anti-foamants)、防錆剤(metal rust inhibitors)、流動点抑制剤及び/又は解乳化剤(demulsifiers)を添加してもよい。
【0039】
ここで用いられる「油溶性」又は「油分散性」なる用語は、該化合物や該添加剤が全ての比率で油中に溶解性、可溶性、混和性であることを、必ずしも示さない。しかし、これらは、それらがその油が用いられる環境において、意図された効果を発揮するに十分な量で油中に溶解又は安定に分散可能であることを意味する。のみならず、もし必要なら、他の添加剤を更に組み込むことで、特殊な添加剤を高度なレベルで組み込むことも許容できる。
本発明の潤滑油組成物は、混合前後で化学的に同じでも異なってもよい、定義された個々の(例えば、分離した)成分を含む。
必須ではないが、該添加剤類が同時に潤滑粘度のオイルに添加されて潤滑油組成物を形成させることを可能にする、1又はそれ以上の添加剤パッケージ(additive packages)又は添加剤含有濃縮物を調製することも好ましい。潤滑油への添加剤パッケージの可溶化は、必須ではないが、溶剤及び加温状態で攪拌することにより促進される。典型的には、添加剤パッケージが既定量のベース潤滑油と混合する際に、添加剤パッケージが所望の濃度を有し、及び/又は最終組成において意図された機能を遂行できる様に、適量含有すべく配合される。
即ち、添加剤類は少量のベースオイルか他の溶解可能な溶剤及び他の必要な添加剤と一緒に予備混合し、添加剤パッケージを基準にして、例えば、2.5〜90質量%、好適には5〜75質量%、最も好適には8〜60質量%の添加剤を適当な比率で、残余はベースオイルとして、有効成分を含む添加剤パッケージを形成することが可能である。
【実施例】
【0040】
本発明は、次に下記の例で記載されるが、これにより本発明の特許請求の範囲が限定されるものではない。
[合成]
合成実施例1
式(II)化合物の合成:
ステップ1:2-(2-ナフチロキシ)エタノールの合成
メカニカル攪拌機、コンデンサー/Dean-Starkトラップ付き、及び窒素導入口が設置された2L容の樹脂製反応容器に、2-ナフトール(600g、4.16モル)、エチレンカーボナート(372g、4.22モル)、及びキシレン(200g)を充填し、その混合物を窒素雰囲気下で90℃に加熱した。水酸化ナトリウム水溶液(50質量%、3.0g)を添加し、水を165℃での共沸蒸留で除去した。反応混合物は165℃で2時間保持した。反応が進むにつれてCO2が発生し、CO2の発生が止むと反応がほぼ完了したと見做した。生成物を回収後、室温までに冷却する間に固化した。反応の完結はFT−IRとHPLCにより確認した。2-(2-ナフチロキシ)エタノール生成物の構造は1H及びC13−NMRにより確認した。
【0041】
ステップ2:2-(2-ナフチロキシ)エタノールのオリゴマー化
メカニカル攪拌機、コンデンサー/Dean-Starkトラップ付き、及び窒素導入口が設置された2L容の樹脂製反応容器に、ステップ1で得られた2-(2-ナフチロキシ)エタノール、トルエン(200g)、SA117(60.0g)を充填し、その混合物を窒素雰囲気下で70℃に加熱した。70〜80℃で、パラホルムアルデヒドを15分間で添加した後、90℃に加熱して、該反応混合物をその温度で30分〜1時間保持した。温度を徐々に2〜3時間の間に110〜120℃まで上昇させ、水(75〜83mL)を共沸蒸留で除去した。ポリマーを回収して、室温に冷却する間に固化した。

を、2-(2-ナフトイロキシ)エタノールの溶出容積を内部標準とし、ポリスチレン標準品を用いて修正するGPCで決定した。溶離剤(eluent)としてはTHFを用いた(1,000ダルトンの

)。1H及びC13−NMRにより構造を確認した。FDMS及びMALDI−TOFの結果は、生成物が2〜24単位(m=1〜23)の2-(2-ナフチロキシ)エタノールを含む、式(I)のメチレン結合した2-(2-ナフチロキシ)エタノールのオリゴマーの混合物を含むことを示す。
【0042】
ステップ3:メチレン結合した2-(2-ナフチロキシ)エタノールオリゴマーとアシル化剤(PIBSA)との反応
メカニカル攪拌機、コンデンサー/Dean-Starkトラップ付き、窒素導入口、及び付加的漏斗が設置された5L容の樹脂製反応容器に、ステップ2で得たポリ[2-(2-ナフチロキシ)エタノール-コ-ホルムアルデヒド]、トルエン(200g)を充填し、該混合物を窒素雰囲気下で120℃に加熱した。ポリイソブテニルコハク酸無水物(PIBSA、

=450、2,500g)を段階的に(30分毎に、〜250gずつ)添加し、温度を120℃に2時間保持した後、窒素パージしながら140℃に加熱して全ての溶媒を除去して恒量になるまで、更に2時間保持した。ベースオイル(AMEXOM100N、1,100g)を添加して、室温状態で生成物を回収した。GPC及びFT−IR法により、所望の化学構造になっているかどうかを確認した。
上記の合成方法での反応スキームを下記に示す:
【化5】

【0043】
[試験及び結果]
下記の実施例においては、遠心による水分離試験を用いており、該試験は調製されたオイルと水との試験混合物からオイルが水を分離する性能を評価するものである。該試験ではWatson Marlow社蠕動式ポンプを具備したAlfa Laval MAB103B 2.0遠心装置を用いる。遠心装置は水800mLでシールする。試験中、遠心装置中に形成される沈積物(deposits)の量について測定を行う。予備計量した水と試験用オイルとを互いに混合して、2L/分の速度で遠心装置を通過させる。この試験は1.5時間かけて行い、その間、混合物を遠心装置に10回通過させる。遠心装置の重量を試験前後について測定する。性能が低いトランクピストンディーゼルエンジン潤滑油は遠心システムにおいて多量の沈積物を生じることになる。
一連の潤滑油組成物について試験した結果を下表に示す。比較例A、B及びCは比較のために記載する。実施例1は本発明の例である。表に示す略号の意味は下記の通り。
PIBSA/PAM:ポリイソブテニルコハク酸無水物/ポリアミン分散剤。
PmNE: 前記合成実施例1の最終生成物。
夫々の組成は、II群のベースオイル及びI群のブライトストック、老化防止剤としてジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛、225TBNサリチル酸カルシウムと350TBNサリチル酸カルシウムとを質量比1.419:1の比率の形で含む洗浄剤系を含む。更に、各組成はPIBSA/PAM及びPmNEのいずれか又は両方を下表に示す量(質量%)で含む;他の点では、各組成は同等である。

*:有効成分0.6質量%に相当する。
**:有効成分0.1質量%に相当する。
比較例Cは分散剤合計の比率が低く、よって、沈積物の質量が低いことにより示される様に、良好な水分離性を呈する。しかしながら、比較例Cは分散剤合計の比率が低いので、煤の処理性が貧弱である。
比較例A及びBは、夫々単独の分散剤としてPIBSA/PAM及びPmNEを含有し、比較例Aでは比較例Cの場合より高い比率で分散剤を含有しながらも、水分離性が劣る。
本発明の実施例1は、PIBSA/PAM及びPmNEを両方含み、同一の合計分散剤処理速度条件においては、比較例A及びBより遥かに良好な水分離性能を示す。又、実施例1の合計分散剤処理速度が高いので、比較例Cより遥かに良好な煤処理性(soot handling properties)を呈する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーリング媒液を含む遠心システムを有するトランクピストン−もしくはクロスヘッド−ディーゼルエンジンの潤滑方法であって、エンジン操作と、下記(A)、(B)成分を含む、もしくは(A)、(B)を混和して得られる潤滑油組成物によるトランクピストンエンジンの潤滑もしくはクロスヘッドエンジンのシステム潤滑を含む潤滑方法。
(A)主要な量での潤滑粘度を有するオイル;
(B)有効成分として、下記の(B1)成分と(B2)成分の組合せが潤滑油組成物中の0.04〜5質量%:
(B1)次式で表わされる少なくとも一つの連結芳香族化合物
【化1】

上式において、
Arは夫々独立に、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アシロキシ、アシロキシアルキル、アリーロキシ、アリーロキシアルキル、ハロゲン、もしくはそれらの組合せから成る群から選択される置換基を0〜3個有する芳香族基を示し;
Lは夫々独立に、炭素−炭素単結合もしくは連結グループ(linking group)を含む連結基(linking moiety)であり;
Y'は夫々独立に、式Z(O(CR2)n)yX−で表わされる基であり、Xは(CR'2)z、O、Sから選択され;RとR'は夫々独立に、H、C1〜C6アルキル及びアリールであり;zは1〜10であり;nは、Xが(CR'2)z であるとき0〜10であり、XがOもしくはSであるとき2〜10であり;yは1〜30であり;ZはH、アシル基、アルキル基、もしくはアリール基であり;aは、少なくとも一つのAr基が少なくとも一つの、ZがHでないY'を有するという条件付きで、夫々独立に0〜3であり;
mは1〜100であり、
(B2)少なくとも1種の窒素含有分散剤であり、(B1):(B2)の質量比が1:3〜9:1である。
【請求項2】
(B1):(B2)の該質量比が1:1〜6:1の範囲内である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(B1):(B2)の該質量比が3:1〜6:1の範囲内である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
Y'が式Z(O(CR2)2)yO−で表わされ、Zがアシル基で、且つyが1〜6である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
Arがナフタレンであり、Y'が式ZOCH2CH2O−であり、Zがアシル基であり、LがCH2である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
Arが2-(2-ナフチロキシ)エタノールから誘導され、mが2〜25である請求項5記載の方法。
【請求項7】
Zが、

が約100〜約5,000であるポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸アシル化剤から誘導されたものである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
Zがヒドロカルビルイソシアナートから誘導されたものである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
窒素含有分散剤が、900〜2,500の

を有するポリブテンから誘導されたポリブテニルポリアルキレンアミンコハク酸イミドである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
潤滑油組成物が1又はそれ以上のアルカリ過剰サリチル酸カルシウム洗浄剤添加物を含み、ASTM D2896で決定される全塩基価が15mg KOH/g以上である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
シーリング媒液が水である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
請求項1で定義される潤滑油組成物を用いることによって、トランクピストンエンジン又はクロスヘッドディーゼルエンジンのシステム潤滑における潤滑油の、遠心水分離テストによって測定される水分離性を、(B)が(B2)のみである相当する潤滑油組成物と比較して強化するための方法。
【請求項13】
シーリング媒液が水である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ASTM D2896で決定される全塩基価が15mgKOH/g以上であるトランクピストンもしくはクロスヘッドディーゼルエンジン潤滑油組成物であって、下記(A)、(B)成分を含む潤滑油組成物:
(A)潤滑粘度を有するオイルを40質量%以上;及び
(B)有効成分として、下記の(B1)成分と(B2)成分の組合せが潤滑油組成物中の0.04〜5質量%:
(B1)次式で表わされる少なくとも一つの連結芳香族化合物
【化2】

上式において、
Arは夫々独立に、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アシロキシ、アシロキシアルキル、アリーロキシ、アリーロキシアルキル、ハロゲン、もしくはそれらの組合せから成る群から選択される置換基を0〜3個有する芳香族基を示し;
Lは夫々独立に、炭素−炭素単結合もしくは連結グループを含む連結基であり;
Y'は夫々独立に、式Z(O(CR2)n)yX−で表わされる基であり、Xは(CR'2)z、O、Sから選択され;RとR'は夫々独立に、H,C1〜C6アルキル及びアリールであり;zは1〜10であり;nは、Xが(CR'2)z であるとき0〜10であり、XがOもしくはSであるとき2〜10であり;yは1〜30であり;ZはH、アシル基、アルキル基、もしくはアリール基であり;aは、少なくとも一つのAr基が少なくとも一つの、ZがHでないY'を有するという条件付きで、夫々独立に0〜3であり;
mは1〜100であり;
(B2)少なくとも1種の窒素含有分散剤であり、(B1):(B2)の質量比が1:3〜9:1の範囲内である。
【請求項15】
(B1):(B2)の質量比が1:1〜6:1の範囲内である、請求項14記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
(B1):(B2)の質量比が3:1〜6:1の範囲内である、請求項15記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
Y'がZ(O(CR2)2)yO−であり、Zがアシル基であり、yが1〜6である請求項14記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
Arがナフタレンであり、Y'がZOCH2CH2O−であり、Zがアシル基であり、LがCH2である請求項17記載の潤滑油組成物。
【請求項19】
Arが2-(2-ナフチロキシ)エタノールから誘導され、mが2〜25である請求項18記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
Zが約100〜5,000の

を有するポリアルキル又はポリアルケニルコハク酸アシル化剤から誘導される、請求項19記載の潤滑油組成物。
【請求項21】
Zがヒドロカルビルイソシアナートから誘導される、請求項19記載の潤滑油組成物。
【請求項22】
窒素含有分散剤が、900〜2,500の

を有するポリブテンから誘導されたポリブテニルポリアルキレンアミンコハク酸イミドである、請求項14記載の潤滑油組成物。
【請求項23】
更に、1種もしくはそれ以上のアルカリ過剰サリチル酸カルシウム洗浄剤添加物を含む、請求項14記載の潤滑油組成物。
【請求項24】
ASTM D2896で決定される全塩基価が20mgKOH/g以上である、請求項14記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2009−185293(P2009−185293A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−49874(P2009−49874)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】