説明

エンジン自動始動停止制御装置及びその制御方法

【課題】 空調装置の空調性能が十分に満たされるようにエンジンの自動停止制御を行うことができるエンジン自動始動停止制御装置を提供する。
【解決手段】 エンジンを停止させた場合のエンジン水温の時間経過による推移を予測し、予測したエンジン水温の推移に基づいてエンジンの停止条件を設定する手段と、設定された停止条件が成立した場合にエンジンの停止を指示する段と、エンジンの停止中に、空調装置40が作動状態にある場合には、空調装置40から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいてエンジンを自動始動させる始動条件を設定する手段と、設定された始動条件が成立した場合にエンジンの始動を指示する手段として機能するエコランECU10を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの駆動と停止とを行いながら車両を走行させるエンジン自動始動停止制御装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の普及に伴い、排気ガスの排出量も増加傾向にある。排気ガスの排出量の増加が今後も続くと、地球温暖化、大気汚染など地球にとって深刻な問題となる。そこで、排気ガス量の低減等を目的として、所定のエンジン停止条件成立時にエンジン停止を指令し、その後の所定のエンジン始動条件成立時にエンジンの再始動を指令するエコラン制御が車両に搭載されるようになってきた。
【0003】
図1を参照しながらエコラン制御について説明する。エコラン制御を行うエコランECU100は、車両が停止し、エコラン制御可能な状態になると、図1に示すようにエンジンEUC200に対してエコラン要求(エンジン停止要求)を出力する。エンジンECU200は、エコラン要求を受け付けると燃料カットを実施し、エンジンを停止させる。
【0004】
また、エンジンの始動時には、エコランECU100がドライバの始動操作(シフト操作、ブレーキ操作、クラッチ操作など)を検出し、エンジンの始動要求をエンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、エコランECU100からの始動要求を受け付けると、燃料カットを解除してエコランECU100にスタータ駆動許可信号を出力する。エコランECU100は、スタータモータを駆動してエンジンを始動させる。
【0005】
このようなエコラン制御を実施することで、排気ガス量や燃料消費量を削減することができる。
しかしながら、エンジン停止条件が成立し、エンジンのアイドリングをストップをした場合、エンジンが停止するためエンジン水温が低下してしまう。エンジン水温が低下すると、エンジン水温を利用してユーザに温風を出力しているヒータの制御に影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
図2を参照しながらエコラン制御がヒータの温度制御に影響を及ぼすケースについて説明する。
図2には、エコランモードに移行する直前に、車両に搭載されたヒータをオン、オフさせるブロアスイッチ(以下、ブロアSWと略記する)がオンされた場合のエコランECU100の制御手順を示す。
なお、エコランECU100によるエコランの制御状態には4つの状態がある。第1の状態は、エンジンの始動が完了し、エンジンが回転している「エンジン回転状態」である。第2の状態は、アイドリングストップ条件が成立し、エンジンECU200に対して燃料カットを要求している「アイドリングストップ準備状態」である。第3の状態は、アイドリングストップ制御によって、エンジンが停止している状態である「アイドリングストップ状態」である。第4の状態は、スタータモータを駆動してエンジンを始動させている状態である「エンジン始動状態」である。
【0007】
アイドリングストップ条件が設立し、第2の状態である「アイドリングストップ準備状態」に移行する直前にブロアSWがオンされたものとする(図2(H)のタイミングa参照)。ブロアSWがオンされると、ブロアモータが駆動を開始し、ブロアファンによる送風空気が車室内に送風される。
ブロアSWがオンされると、エコランECU100はまずエンジン水温を判定する。このときのエンジン水温が例えば70℃の高温であったとする(図2(B)参照)。エコランECU100は、エンジン水温が高く、ヒータのためにエンジンをオンさせておく必要がないと判定し、エコランを許可する。エコランモードへの移行が許可されると、上述した第2の状態である「アイドリングストップ準備状態」に移行する(図2(A)エコランモードのタイミングb参照)。ここでは、エコランECU100は、エンジンECU200に対して燃料カットを要求する。
【0008】
エンジンECU200が燃料カットを行い、第3の状態である「アイドリングストップ状態」に移行すると(図2(A)エコランモードのタイミングc参照)、エコランECU100は、センサによって測定されたブロアファンの吹き出し口温度を取得して、メモリに記録する。ブロアファンの吹き出し口には、吹き出し口温度を測定するセンサが設けられている。
また、エコランECU100は、外気温センサによって測定された外気温を取得してメモリに記録する。
【0009】
エコランECU100には、図3に示すマップが用意されている。このマップは、車両周辺の外気温から、エンジンをオンさせる必要があるブロアファンの吹き出し温度を決定するマップである。図3に示すマップでは、外気温がマイナス20℃のときには吹き出し口温度は60℃、外気温度が5℃のときには吹き出し口温度は40℃に設定されている。
エコランECU100は、外気温センサによって測定された外気温を取得し、取得した外気温のときにエンジンをオンさせる必要があるブロアファンの吹き出し温度をマップを参照して決定する(図3に示すマップから求めたエンジンON吹き出し温度)。この温度を以下では、第1しきい値温度と呼ぶ。図2に示す例では、図2(F)に示す外気温度が5℃であるので、マップを参照して第1しきい値温度は40℃に設定される(図2(D)参照)。
【0010】
また、エコランECU100は、第3の状態である「アイドリングストップ状態」へ移行した時に吹き出し口温度センサからブロアファンの吹き出し口温度を取得する。そして、エコランECU100は、取得した吹き出し口温度から所定温度(例えば、本実施例では、8℃に設定)を減算した値を第2しきい値温度とする。人間工学的に、ヒータの温度が8℃前後低下すると人が寒いと感じる。そのため、第3の状態に移行したときのブロアファンの吹き出し口温度から所定温度を減算して第2しきい値温度を設定する。なお、この8℃という温度は、任意に変更可能である。また、図2に示す例では、アイドリングストップ状態に移行した際の吹き出し口温度が30℃(図2(C)吹き出し口温度のタイミングc参照)であるので、30℃から8℃を減算した22℃が第2しきい値温度として設定される(図2(E)参照)。
【0011】
次に、エコランECU100は、第1しきい値温度と第2しきい値温度とを比較して、温度の低いほうをエンジンをオンさせるしきい値温度(以下、エンジンONしきい値と呼ぶ)に設定する。ここで、温度の低い方をエンジンを始動させるしきい値に設定しているのは、アイドリングストップ状態はできる限り長く継続させたいが、外気温度に基づく人が寒いと感じる可能性がある温度と、温度低下量に基づく人が寒いと感じる可能性がある温度との両方の温度を実温度が下回った場合は、乗員が寒いと感じている可能性が高いと判定できるからである。図2に示す例では、第1しきい値温度は40℃であり、第2しきい値温度は22℃であるので、ここでは第2しきい値温度(22℃)をエンジンONしきい値に設定する。
【0012】
この後、エコランECU100は、ブロアファンの吹き出し口温度を監視する。第3の状態である「アイドリングストップ状態」では、エンジンが停止するためにエンジン水温も低下し、ヒータの吹き出し温度が低下してくる(図2に示すタイミングd〜e区間)。そして、エコランECU100は、吹き出し口温度がエンジンONしきい値である22℃を下回ると、エンジンをオンさせて「エンジン始動状態」の第4の状態に移行させる(図2(A)エコランモードのタイミングe参照)。
【0013】
特許文献1は、空調装置のブロアファンがON状態であるときに、外気温度と、空調装置の空気吹出し温度と、空気吸込み温度とに基づいて、冷暖房及び除湿の必要性を判断し、判断した冷暖房及び除湿の必要性からアイドルストップの許可あるいは禁止を設定する技術を開示している。
【0014】
特許文献2は、車両の停止時でかつ空調装置の作動中において、エンジン冷却水の温度が所定温度以上であるときにエンジンを所定期間だけ自動停止する技術を開示している。
【0015】
【特許文献1】特開2001−341515号公報
【特許文献2】特開2005−247107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、第3の状態であるアイドリングストップ状態に移行する直前にブロアSWがONされた場合、空調装置の吹き出し口温度が目的温度に到達する前にアイドリングストップ状態へ移行してしまう可能性がある。
アイドリングストップ状態に移行する直前であるのでエンジンはまだ回転しており、アイドリングストップ状態に移行しても吹き出し口温度は上昇する(例えば、図2(C)のc〜d区間参照)。
例えば、図2に示す例では、吹き出し口温度が最も上昇した45℃から8℃下がった37℃のときにエコランを中止し、エンジンを始動させることが好ましい。しかし、吹き出し口温度が目的温度に収束する前の30℃を吹き出し口温度として設定すると、30℃から8℃を減算した22℃がエンジンを始動させる温度に設定される。すなわち、空調装置の吹き出し口温度が45℃から22℃まで低下しないとエンジンが始動されないということになり、乗員は寒さを我慢するか、手動でエンジンをオンさせなければならない。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、空調装置の空調性能が十分に満たされるようにエンジンの自動停止制御を行うことができるエンジン自動始動停止制御装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
かかる目的を達成するために本発明のエンジン自動始動停止制御装置は、所定の停止条件が成立するとエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うと共に、前記エンジン自動停止制御によるエンジン停止中に所定の始動条件が成立すると、前記エンジンを始動させるエンジン自動始動制御を行うエンジン自動始動停止制御装置であって、前記エンジンを停止させた場合のエンジン水温の時間経過による推移を予測し、該予測したエンジン水温の推移に基づいて前記エンジンの停止条件を設定する停止条件設定手段と、前記停止条件設定手段で設定された前記停止条件が成立した場合に前記エンジンの停止を指示するエンジン停止制御手段と、前記エンジン停止制御手段による前記エンジンの停止中に、空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいて前記エンジンを自動始動させる始動条件を設定する始動条件設定手段と、前記始動条件設定手段で設定された始動条件が成立した場合に前記エンジンの始動を指示するエンジン始動制御手段と、を備えている。
エンジンの停止に伴って低下するエンジン水温は、エンジン自動停止制御中に空調装置が空調性能を維持できるか否かを判定するパラメータとなるので、エンジン水温をパラメータを使用して乗員が寒いと感じる可能性があるか否かを判定し、可能性があると判定した場合には、エンジンの自動停止制御を禁止にすることができる。
また、エンジン自動停止中は、空調装置から吹き出される空気の温度に基づいてエンジンの始動条件が設定されるので、乗員が寒いと感じる前にエンジンを始動させることができる。
【0019】
上記エンジン自動始動停止制御装置において、前記停止条件設定手段は、空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置の作動から所定時間経過後のエンジン水温を、測定手段で測定した外気温度とエンジン水温の測定値との少なくとも一方に基づいて予測し、予測したエンジン水温を、前記測定手段で測定した外気温度と、前記空調装置から吹き出される空気の風量と、前記空調装置が作動してからの経過時間との少なくとも1つに基づいて補正することでエンジン水温の時間経過による推移を予測するとよい。
従って、エンジン水温の時間経過による推移を精度よく予測することができる。
【0020】
上記エンジン自動始動停止制御装置において、前記始動条件設定手段は、前記所定時間を経過するまでの間に前記エンジン停止制御手段によって前記エンジンが停止させられると、前記所定時間が経過するまでは、前記停止条件設定手段の算出したエンジン水温の推移の予測値に基づいて前記エンジンの始動条件を設定する。
従って、空調装置から吹き出される空気の温度が不安定な状態にある間は、エンジン水温の推移の予測値に基づいてエンジンの始動条件を設定することができる。このため、乗員が寒いと感じる前にエンジンを始動させることができる。
【0021】
上記エンジン自動始動停止制御装置において、前記エンジン停止制御手段は、測定手段で測定されたエンジン水温の測定値が、前記停止条件設定手段で算出したエンジン水温の予測値よりも高い場合に、前記エンジンの停止を指示する。
従って、エンジン水温が十分に高く、空調装置の空調性能を十分に満たせると判断した場合に、エンジンの停止を指示することができる。
【0022】
上記エンジン自動始動停止制御装置において、前記エンジン始動制御手段は、前記停止条件設定手段で算出したエンジン水温の予測値が予め設定された最低エンジン水温以下になった場合、又は測定手段で測定したエンジン水温の測定値が前記エンジン水温の予測値以下となった場合に前記エンジンの始動を指示する。
従って、エンジン水温が低下し、空調装置が空調性能を満たせないと判断したときに、エンジンの始動を指示することができる。
【0023】
上記エンジン自動始動停止制御装置において、前記始動条件設定手段は、前記空調装置が作動状態にある場合には、外気温度と車室内の温度との少なくとも一方に基づいて算出した第1のしきい値と、前記空調装置から吹き出される空気の温度に基づいて算出した第2のしきい値のうち、温度の低いしきい値を前記エンジンを自動始動させるしきい値温度として設定し、前記エンジン始動制御手段は、前記空調装置から吹き出される空気の温度が設定されたしきい値温度以下となると、前記エンジンの始動を指示する。
従って、最適なしきい値を使用してエンジン停止状態からエンジン始動状態に復帰させることができる。
【0024】
上記エンジン自動始動停止制御装置において、前記エンジン停止条件設定手段は、前記空調装置が作動状態にあると、前記空調装置が作動状態に設定されてから前記空調装置から吹き出される空気の温度を測定する測定手段の測定値が上昇し切るまでにかかる時間を、外気温度と、エンジン水温との少なくとも一方に基づいて予測し、予測した時間を前記所定時間としてエンジン水温の時間経過による推移を予測する。
従って、空調装置から吹き出される空気の温度が不安定な状態にある時間を精度よく予測することができる。
【0025】
本発明のエンジン自動始動停止制御装置は、所定の停止条件が成立するとエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うと共に、前記エンジン自動停止制御によるエンジン停止中に所定の始動条件が成立すると、前記エンジンを始動させるエンジン自動始動制御を行うエンジン自動始動停止制御装置であって、前記エンジンを停止させるときに、空調装置が動作状態にある場合には、該空調装置の動作開始から所定時間が経過するまでは前記エンジンの停止を禁止する禁止条件設定手段と、前記所定時間の経過後に前記エンジンの停止を指示するエンジン停止制御手段と、前記エンジン停止制御手段による前記エンジンの停止中に、空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいて、前記エンジンを自動始動させる始動条件を設定する始動条件設定手段と、前記始動条件設定手段で設定された始動条件が成立した場合に前記エンジンの始動を指示するエンジン始動制御手段とを備えている。
空調装置が作動状態に設定されてから所定時間の間は、空調装置から吹き出される空気の温度が暖機性能を満たす温度とはならないので、エンジンの自動停止を禁止にすることで、エンジン自動停止中の空調装置の空調性能の低下を抑制することができる。
【0026】
本発明のエンジン自動始動停止制御方法は、所定の停止条件が成立するとエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うと共に、前記エンジン自動停止制御によるエンジン停止中に所定の始動条件が成立すると、前記エンジンを始動させるエンジン自動始動制御を行うエンジン自動始動停止制御方法であって、前記エンジンを停止させた場合に前記エンジンの停止から所定時間経過後のエンジン水温を予測し、該予測した所定時間経過後のエンジン水温に基づいてエンジンの停止条件を設定するステップと、設定された停止条件が成立した場合に前記エンジンの停止を指示するステップと、前記エンジンの停止中に、空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいて、前記エンジンを自動始動させる始動条件を設定するステップと、設定された始動条件が成立した場合に前記エンジンの始動を指示するステップと、を有している。
【0027】
本発明のエンジン自動始動停止制御方法は、所定の停止条件が成立するとエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うと共に、前記エンジン自動停止制御によるエンジン停止中に所定の始動条件が成立すると、前記エンジンを始動させるエンジン自動始動制御を行うエンジン自動始動停止制御方法であって、前記エンジンを停止させるときに空調装置が動作状態にある場合には、該空調装置の動作開始から所定時間が経過するまでは前記エンジンの停止を禁止するステップと、前記所定時間の経過後に前記エンジンの停止を指示するステップと、前記エンジンの停止中に、空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいて、前記エンジンを自動始動させる始動条件を設定するステップと、設定された始動条件が成立した場合に前記エンジンの始動を指示するステップと、を有している。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、空調装置の空調性能が十分に満たされるようにエンジンの自動停止制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
添付図面を参照しながら本発明の最良の実施例を説明する。
【実施例1】
【0030】
まず、図4を参照しながら本実施例の構成を説明する。なお、本明細書におけるエコの定義として、エコノミーとエコロジーの両方、又はいずれか一方の意味を持つものとする。エコノミーとは、燃料の消費を抑えて燃料を節約(省燃費)することを意味する。また、エコロジーとは、化石燃料の消費を抑えたり、又は化石燃料の燃焼などによって生じる有害物質や二酸化炭素の発生、排出を抑えることを意味する。
【0031】
図4に示す車両制御システムは、エコランECU10、エンジンECU21、メータECU22、ボディECU23、ブレーキECU24、電動パワーステアリングECU25、エアコンECU26等の複数のECUが通信バスに接続されている。
これら複数のECUは、CAN(Controller Area Network)等の通信プロトコルに従って通信を行う。
【0032】
エンジンECU21は、エンジンへの燃料噴射量を電子的に制御するEFI(Electronic Fuel Injection)に接続してエンジン出力を制御し、車両の走行スピードを調整している。
また、エンジンECU21は、エンジンの回転数がアイドル回転であった場合には、エコランECU10にエンジン停止許可信号を出力する。
また、エンジンECU21は、エコランECU10からの燃料カット要求に応じて、エンジンへの燃料供給をカットする。さらに、エコランECU10から燃料カット解除要求が出力されると、この要求に応じてエンジンに燃料を供給する。
【0033】
メータECU22は、各種センサ(不図示)からの検出信号を受け取り、各種演算等を実行することで、車速表示、エンジン回転数表示、シフト位置表示、燃料残量表示、水温表示等の表示を行うための出力を発生させる。
【0034】
ボディECU23は、ドアロック機構やパワーウィンドウ機構等の車両に搭載された機構を制御する。
【0035】
ブレーキECU24は、ディスクブレーキやドラムブレーキ等のブレーキを作動させて、車両の減速や停止などを電子的に制御する。
【0036】
電動パワーステアリングECU25は、回転角センサから送られる操作レバーの回転角の量に応じて操舵装置の駆動モータを駆動制御する。
【0037】
エアコンECU26は、ドライバの要求や車両の走行状態等に基づいてコンプレッサを駆動して空調制御を実施する。
【0038】
エコランECU10は、エンジンECU21や図示しない他の各種センサ等から自動停止条件及び自動始動条件を判断するための情報を受け取り、エンジンの運転時に自動停止条件が成立するとエンジンを自動停止させ、エンジンの停止時に自動始動条件が満たされるとスタータモータを起動させてエンジンを始動させるエコラン制御(この制御の詳細については後述する)を実行する。
また、エコランECU10は、各種センサからの信号を入力する入力端子を備え、この入力端子からブレーキが作動状態であることを示すブレーキ信号、変速機のシフトポジションを示すシフト信号、車速を示す車速信号、アクセルの開度を示すアクセル開度信号、エンジンの回転数を示すエンジン回転数信号、バッテリの電圧を示す電圧信号、エンジンの冷却水の温度を示すエンジン水温信号等を入力する。また、エコランECU10には、後述するエンジン水温センサ34で測定されたエンジン水温を示す信号、吹き出し口温度センサ43によって測定された吹き出し口温度を示す信号、ブロアSWのオン、オフを示すブロアSW信号が入力される。
【0039】
また、エコランECU10は、図4に示すトランジスタ12をオンすることで、スタータモータ17を駆動させる。
イグニッションキーで操作されるスタータスイッチ(以下、キーSWと略記する)14、ニュートラルスイッチ(以下、ニュートラルSWと略記する)15、スタータリレー16が接続された配線13には、トランジスタ12を介してバッテリからの電源ライン11が接続されている。エコランECU10のマイコン70によってトランジスタ12がオンされると、スタータリレー16のコイルが通電し、スタータリレー16がオンする。スタータリレー16がオンするとスタータモータ17にバッテリからの電力が供給され、スタータモータ17の作動によりエンジンが始動する。
【0040】
図5には、エコランECU10のマイコン70のハードウェア構成を示す。
マイコン70は、CPU71、ROM72、RAM73、NVRAM(Non Volatile RAM)74、入出力部75等を有している。CPU71は、ROM72に格納したプログラムを読み込んで、このプログラムに従った演算を行う。すなわち、ROM72に格納されたプログラムをCPU71が読み込むことで、後述するエコラン制御を実施する。また、RAM73には、演算結果のデータが書き込まれ、NVRAM74は、RAM73に書き込まれていたデータで、電源オフ時に保存の必要なデータが書き込まれる。
【0041】
図6には、エンジン30を冷却する冷却水の循環経路と、車室内を暖機する空調装置40の構成とを示す。冷却水の循環経路は、冷却水を冷却する冷却経路35と、冷却水の一部を車内暖房用として利用するためのヒータ経路50とから構成される。
冷却経路35には、冷却水を圧送するウォータポンプ31、シリンダブロック及びシリンダヘッド内のウォータジャケット32、熱交換器であるラジエータ33等が設けられている。また、冷却経路35には、エンジンから流出する冷却水の温度を検出するエンジン水温センサ34が設けられている。エンジン水温センサ34で測定されたエンジン水温は、エコランECU10に出力される。
【0042】
ヒータ経路50は、エンジン30を通過した冷却水をヒータコア42に流入させる第1流路51と、ヒータコア42から流出する冷却水を冷却水経路へと戻す第2流路52とを有している。ヒータコア42において、第1流路51を介して流入した高温の冷却水と、空調装置40のブロアファン41からの空気との間で熱交換が行われ、この熱交換によって加熱された空気が車室内の暖房に利用される。また、空調装置40の温風を車室内に導くダクトの吹き出し口付近には、温風の温度を測定する吹き出し口温度センサ43が設けられており、エコランECU10は、この吹き出し口温度センサ43によって測定された吹き出し口温度を取得する。
【0043】
なお、吹き出し口温度センサ43の取付け位置は、図6に示す例では送風空気を車室内へ送る各吹き出し口に分岐する前の集合部分に設けている。これ以外に、各吹き出し口への経路に分岐した後の部分にそれぞれ吹き出し口温度センサ43を設ける構成であってもよい。又、各吹き出し口への経路に分岐した後の部分の少なくとも1つに設けてもよい。
【0044】
本実施例のエコランECU10は、アイドリングストップ状態に移行する直前に空調装置40のブロアSWがオンされた場合、まず、空調装置40の吹き出し口温度が未確定の状態にある時間T[sec]を、外気温度と、エンジン水温と、ブロアファン41のブロアレベルとの少なくとも1つに基づいて予測する。吹き出し口温度が未確定の状態とは、空調装置40からの送風空気の温度が上昇や下降を繰り返し、送風空気の温度が上昇し切らない状態をいう。予測した予測時間T[sec]の間は、エコランECU10は、エコラン制御によりアイドリングストップ状態に移行させるか否かの判定に空調装置40の吹き出し口温度を使用しない。また、すでにアイドリングストップ状態にある場合には、エコランECU10は、アイドリングストップ状態から復帰させるか否かの判定に空調装置40の吹き出し口温度を使用しない。
【0045】
エコランECU10は、空調装置40の吹き出し口温度が確定するT[sec]を予測すると、エンジンを停止させた場合にこの予測時間T[sec]の間のエンジン水温の推移を予測し、予測したエンジン水温の推移に基づいてエンジンの停止条件を設定する。具体的には、予測時間T[sec]の間に低下するエンジン水温(又はヒータコア温度)X[℃]を外気温度とブロアファン41のブロアレベルを元に予測する。そして、エンジン水温の低下温度の予測値X[℃]をもとにアイドリングストップ状態へ移行させるか否かを判定する。また、すでにアイドリングストップ状態にある場合には、アイドリングストップ状態からエンジン始動状態へ復帰させるか否かの判定を予測時間T[sec]の間に低下するエンジン水温(又はヒータコア温度)に基づいて判定する。
【0046】
また、エコランECU10は、予測時間T[sec]の経過後は空調装置40の吹き出し口温度が確定したものと判定し、空調装置40の吹き出し口温度を用いてアイドリングストップ状態へ移行させるか否かと、アイドリングストップ状態からエンジン始動状態へ復帰させるか否かとを決定する。
また、空調装置40の吹き出し口温度の他に、車室内又は車外の温度との少なくとも一方に基づいてアイドリングストップ状態へ移行させるか否かと、アイドリングストップ状態からエンジン始動状態へ復帰させるか否かとを判定してもよい。
【0047】
図7を参照しながら空調装置40の吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]の予測方法について具体的に説明する。
空調装置40がオンしてから吹き出し口温度が確定するまでの時間は、外気温度、エンジン水温、ブロアファン41からの送風空気量(以下、ブロアレベルと呼ぶ)によって変化する。
例えば、外気温度が低いほど、吹き出し口温度が目標温度に到達するまでに時間がかかる(図7(A)参照)。このため、外気温度が低いほど予測時間T[sec]を長くし、外気温度が高いほど予測時間T[sec]を短くする。
また、ブロアSWオン直後のエンジン水温が高いほど、ブロアSWオン直後の空調装置40の吹き出し口温度と、空調装置40の目標温度とに差ができる(図7(B)参照)。このため、ブロアSWオン直後のエンジン水温が高いほど予測時間T[sec]を長くし、エンジン水温が低いほど予測T[sec]を短くする。
また、ブロアファン41のブロアレベルが小さい場合、ブロアファン41からの送風空気量が少ないため、吹き出し口温度センサ43に当たる風量も少ない。逆に、ブロアレベルが大きく送風空気量が多ければ、吹き出し口温度センサ43に当たる風量も多くなる。このため、ブロアレベルが小さいほど予測時間T[sec]を長くし、ブロアレベルが大きいほど予測時間T[sec]を短くする。
【0048】
エコンラECU10のRAM73等のメモリには、図7(A)又は(B)に示すマップが記録されている。エコランECU10は、外気温度又はエンジン水温をセンサにより測定すると、測定した外気温度又はエンジン水温に基づいて図7(A)又は(B)に示すマップを参照し、予測時間T[sec]を算出する。又、エコランECU10は、図7(C)に示すテーブルを参照して、求めた予測時間T[sec]をブロアファン41のブロアレベルにより補正する。例えば、ブロアファン41のブロアレベルがレベル1、レベル2、レベル3(レベル3が最もブロアレベル強)の3段階であった場合には、図7(C)に示すように補正係数として[1.5]、[1.0]、[0.5]を用意しておく。図7(A)又は(B)に示すマップから求めた予測時間T[sec]にブロアレベルから求めた補正値を掛け算して、予測時間T[sec]を確定させる。
例えば、外気温度が10℃で、ブロアファン41のブロアレベルがレベル3であった場合、エコランECU10は、まず、図7(A)に示すマップを参照してT=10[sec]を求める。次に、エコランECU10は、求めたT=10[sec]にブロアレベルから求めた補正値[0.5]を掛け算して、5[sec]を予測時間T[sec]とする。
【0049】
なお、空調装置40の吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]は、固定値であってもよい。外気温度とブロアレベルとエンジン水温とから想定される最悪値に設定しておくことで、車両がどのような状況に置かれていてもブロアファン41の吹き出し口温度が上昇する時間を計時することができる。また、予測時間T[sec]の算出には、外気温度と、エンジン水温と、ブロアファン41のブロアレベルとの全てを使用してもよいし、少なくとも1つから算出してもよい。
【0050】
次に、図8を参照しながらエンジン水温低下の予測値X[℃]の算出方法を説明する。
エコランECU10のRAM73等のメモリには、図8(A)、(B)に示すマップが用意されている。図8(A)に示すマップは、外気温度とエンジン水温の低下温度の予測値X[℃]との関係を示す。外気温度が低いほど、エンジン水温の温度低下が大きくなる。
また、図8(B)に示すマップは、ブロアSWオン後の経過時間と、エンジン水温低下の予測値X[℃]を補正する補正値が記録されている。経過時間、すなわち、空調装置40の吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]が長い程、エンジン水温の温度低下も大きくなる。
エコランECU10は、まず、図8(A)に示すマップを参照して外気温度から予測値X[℃]を求める。次に、エコランECU10は、空調装置40の吹き出し口温度が確定する時間の予測時間T[sec]に基づて図8(B)に示すマップを参照し、予測値X[℃]を補正する補正値を求める。求めた補正値を用いてエンジン水温低下の予測値X[℃]を補正する。
【0051】
予測値X[℃]を求めると、エコランECU10は予測値X[℃]に、空調装置40が空調性能を維持するためにエンジン30をオンさせておく必要があるエンジン水温の下限温度[℃]を加算する。下限温度とは、エンジン水温がこの下限温度以下となると、アイドリングストップ状態を中止してエンジン30をオンさせなければならないエンジン水温の温度である。例えば、空調装置40の空調性能を維持するためにエンジン30をオンさせなければならないエンジン水温の下限温度を65[℃]とすると、(65+X)[℃]が予測値Xとエンジン水温の下限温度との加算値となる。なお、エンジン水温の低下温度の予測値X[℃]は、絶対値で求められる。また、以下ではこの加算値を推定エンジンONしきい値と呼ぶ。
【0052】
次に、エコランECU10は、エンジン水温センサ34で測定した現在のエンジン水温を、推定エンジンONしきい値(65+X)[℃]と比較する。エコランECU10は、測定した現在のエンジン水温が推定エンジンONしきい値(65+X)[℃]以上であれば、アイドリングストップ状態への移行を許可する(図9(A)参照)。
【0053】
次に、エコランECU10は、吹き出し口温度確定検出タイマを用いて予測時間T[sec]をカウントしながら、推定エンジンONしきい値[℃]を図8(C)に示すテーブルを参照して補正していく。図8(C)に示すマップには、単位時間当たりのエンジン水温の低下温度がブロアレベルごとに記録されている。エコランECU10は、ブロアファン41のブロアレベルから図8(C)に示すマップを参照してエンジン水温の単位時間当たりの低下温度を取得する。エンジン水温の単位時間当たりの低下温度を取得すると、エコランECU10は、単位時間が経過するごとに推定エンジンONしきい値[℃]から低下温度を減算していく。これを空調装置40の吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]間継続して行う。
【0054】
図9(A)に示すように吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]を経過する前に、推定エンジンONしきい値[℃]の補正値がエンジン水温の下限温度(例えば、65[℃])よりも小さくなると、エコランECU10はエンジン30の始動が必要と判断し、エンジンECU21にエンジン始動要求を出力する。すなわち、エンジン水温の低下温度の予測値X[℃]の補正値がマイナスになると、エコランECU10は、エンジンECU21にエンジン始動要求を出力する。
また、図9(B)に示すように吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]の間に、推定エンジンONしきい値(予測値X+65)[℃]の補正値がエンジン水温センサ34で測定した実際のエンジン水温よりも高くなった場合にも、エコランECU10はエンジン30の始動が必要と判断し、アイドリングストップ状態からエンジン始動状態へ移行させる。
【0055】
なお、吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]を経過した後は、エコランECU10は、第1しきい値温度と第2しきい値温度とを比較して、温度の低いほうをエンジンをオンさせるしきい値温度(以下、エンジンONしきい値と呼ぶ)に設定する。
第1しきい値温度は、外気温センサによって測定された外気温又は温度センサによって測定された車室内の温度のときに、エンジンをオンさせる必要がある空調装置40の吹き出し温度を、図3に示すマップを参照して求めたものである。また、第2しきい値温度は、アイドリングストップ状態へ移行した時に吹き出し口温度センサ34からブロアファンの吹き出し口温度を取得し、この吹き出し口温度から所定温度(例えば、本実施例では、8℃に設定)を減算した温度である。なお、第1しきい値温度と第2しきい値温度のうち、温度の低い方をエンジンをエンジンONしきい値に設定している。これは、アイドリングストップ状態はできる限り長く継続させたいが、外気温度に基づく人が寒いと感じる可能性がある温度と、温度低下量に基づく人が寒いと感じる可能性がある温度との両方の温度を実温度が下回った場合は、乗員が寒いと感じている可能性が高いと判定できるからである。
【0056】
この後、エコランECU100は、ブロアファンの吹き出し口温度を監視する。そして、エコランECU10は、吹き出し口温度がエンジンONしきい値を下回ると、エンジンをオンさせてエンジン始動状態に移行させる。
【0057】
図10を参照しながらエコランECU10の処理について詳細に説明する。
アイドリングストップ条件が設立し、第2の状態であるアイドリングストップ準備状態に移行する直前にブロアSWがオンされたものとする(図10(K)におけるa点参照)。ブロアSWがオンされると、ブロアモータ(不図示)が駆動を開始し、ブロアファン41からの送風空気が車室内に送風される。
エコランECU10は、空調装置40の吹き出し口温度が確定する時間の予測時間T[sec]と、この予測時間T[sec]の間に低下するエンジン水温の予測値X[℃]とを予測する。予測時間T[sec]は、外気温度又はエンジン水温と、空調装置40のブロアレベルに基づいて予測する。また、低下するエンジン水温の予測値[℃]は、例えば、外気温度と、ブロアSWをオンしてからの経過時間と、ブロアレベルとから予測する。
【0058】
次に、エコランECU10は吹き出し口温度確定検出タイマを用いて、空調装置40の吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]をカウントする(図10(F)に示す吹き出し口温度確定検出タイマのカウント値参照)。
【0059】
エコランECU10は、吹き出し口温度確定検出タイマのカウントが開始されると、予測時間T[sec]の間に低下するエンジン水温の予測値X[℃]を空調装置40のブロアレベルに基づいて補正する。エコランECU10は、図8(C)に示すテーブルを参照して推定エンジンONしきい値(予測値X+65)[℃]を空調装置40のブロアレベルに応じて補正していく。図10(C)に示す推定エンジンONしきい値のb−d区間の点線が推定エンジンONしきい値の補正値を示す。
【0060】
また、エコランECU10は、センサで測定したエンジン水温と、推定エンジンONしきい値(予測値X+65)[℃]とを比較する。センサで測定したエンジン水温の測定値が推定エンジンONしきい値(予測値X+65)[℃]がよりも十分に高い温度であれば、エコランECU10はアイドリングストップ状態への移行を許可する。アイドリングストップ状態への移行を許可すると(図10(A)に示すc点参照)、エコランECU10は、外気温センサ18によって測定された外気温度を取得し、RAM73等のメモリに記録する。測定した外気温度によって第1しきい値温度が算出される(図10(G)第1しきい値のc点参照)。なお、第1しきい値温度には、外気温度以外に車室内の温度を用いることもできる。
【0061】
また、図9(A)に示すように吹き出し口温度が確定する予測時間T[sec]を経過する前に、推定エンジンONしきい値[℃]の補正値がエンジン水温の下限温度(65[℃])よりも小さくなった場合には、エコランECU10はエンジン30の始動が必要と判断し、エンジンECU21にエンジン始動要求を出力する。
【0062】
また、予測値X[℃]の補正値が65℃よりも小さくなる前に、吹き出し口温度確定検出タイマが予測時間T[sec]をカウントすると、エコランECU10は吹き出し口温度が確定したと判定し、吹き出し口温度確定フラグをオンにする(図10(E)吹き出し口温度確定フラグのd点参照)。
吹き出し口温度確定フラグをオンにすると、エコランECU10は、第1しきい値温度と第2しきい値温度とからエンジンONしきい値を求め、吹き出し口温度がエンジンONしきい値以下となると、エンジン30をオンさせる要求をエンジンECU21に出力する。
【0063】
図10に示す例では、外気温度が5℃であるので、図3に示すマップから第1しきい値温度が40℃に決まり、T[sec]経過時の吹き出し口温度が46℃であるので、第2しきい値温度は46℃から8℃を減算した38℃に設定される。
エコランECU10は、第1しきい値温度と第2しきい値温度とを比較して、温度の低い第2しきい値温度をエンジンONしきい値に設定する。
その後、エコランECU10は、吹き出し口温度センサ43で測定される吹き出し口温度を入力し、この吹き出し口温度の測定値とエンジンONしきい値とを比較する。吹き出し口温度の測定値がエンジンONしきい値以下となると、エコランECU10は、エンジンECU21に空調制御のためのエンジン始動要求を出力する(図10(J)のe点参照)。エンジン始動要求を受けたエンジンECU21は、エンジン30をオンさせる。
この後、エコランECU10は、ブロアSWがオフされると(図10(K)のg点参照)、吹き出し口温度確定検出タイマをリセットし(図10(F)のg点参照)、吹き出し口温度確定フラグをOFFする(図10(E)のg点参照)。
【0064】
なお、図10に示す例では、空調装置40の吹き出し口温度に基づいて、エンジンを始動させるか否かを判定していた。これ以外に、車室内又は車外の温度との少なくとも一方に基づいてアイドリングストップ状態からエンジン始動状態へ復帰させるか否かを判定してよい。
【0065】
このように本実施例は、エコラン制御を行った場合に、空調装置40の空調性能が維持できるか否かを所定時間T[sec]の間に低下するエンジン水温に基づいて判定している。従って、エコラン制御を行った場合に乗員が寒いと感じる可能性があるか否かを精度よく判定して、寒いと感じる可能性があると判定した場合には、エコラン制御を禁止にすることができる。
また、空調装置40の吹き出し口温度が確定する時間を予測し、予測した時間が経過した後は、吹き出し口温度を用いてアイドリングストップ状態に移行させるか、又はアイドリングストップ状態からエンジン始動状態に移行させるかを判定している。従って、空調装置40の送風空気の温度が確定するのを待って、エコラン制御のパラメータとして吹き出し口温度を使用することができる。
【実施例2】
【0066】
添付図面を参照しながら本発明の第2実施例について説明する。
なお、本実施例の構成は上述した第1実施例の構成と同一であるので、構成の説明は省略する。
【0067】
本実施例のエコランECU10は、アイドリングストップ状態に移行する直前にブロアSWがオンされた場合、所定時間は空調装置40の吹き出し口温度が上昇や下降を繰り返す未確定の状態であると判断して、アイドリングストップ状態への移行は行わないように制御する。また、所定時間を経過すると、エコランECU10はエンジン水温が所定値以上の高い状態にあるか否かを判定し、高い状態にあればアイドリングストップ状態への移行を許可する。
【0068】
図11を参照しながら、アイドリングストップ状態に移行する直前に、ブロアSWがオンされた場合のエコランECU10の制御手順を詳細に説明する。
【0069】
アイドリングストップ条件が設立し、第2の状態である「アイドリングストップ準備状態」に移行する直前にブロアSWがオンされたものとする(図11(J)におけるa点参照)。ブロアSWがオンされると、ブロアモータ(不図示)が駆動を開始し、ブロアファン41による送風空気が車室内に送風される。但し、ブロアSWオン後、所定時間は吹き出し口温度センサ43の測定する吹き出し口温度が設定された目的温度に向けて上昇や下降を繰り返す未確定状態となる(図11(C)吹き出し口温度のa〜cの区間)。
【0070】
エコランECU10は、ブロアSWがオンされると、吹き出し口温度確定検出タイマによるカウントアップを開始する。このタイマのカウント値が所定時間T[sec]をカウントすることで、エコランECU10は、空調装置40の吹き出し口温度が確定したものと判断する。なお、吹き出し口温度確定検出タイマがカウントする予測時間T[sec]の設定方法は、実施例1で説明した通りである。
エコランECU10は、吹き出し口温度確定検出用タイマがT[sec]をカウントするまでは、アイドリングストップ状態に移行しないように制御する。空調装置40の吹き出し口温度が上昇したり降下したりを繰り返す脈動をしている間は、アイドリングストップ状態への移行を禁止する。
【0071】
次に、エコランECU10は、吹き出し口温度確定検出用タイマのカウント値がT[sec]になると、空調装置40の吹き出し口温度が確定したものと判断して、吹き出し口温度確定検出フラグをオンにする(図11(D)のc点参照)。吹き出し口温度確定検出フラグをオンにすると、エコランECU10はアイドリングストップ状態への移行が可能であるか否かを判定する。まず、エコランECU10は、エンジン水温センサ34によって測定されたエンジン水温を取得してRAM73等のメモリに記録する。このとき取得したエンジン水温が例えば70℃の高温であったとする(図11(B)にエンジン水温の変化を示す)。
エコランECU10は、エンジン水温が所定温度(本実施例では65℃)以上あるので、空調装置40のためにエンジン21をオンさせておく必要がないと判定し、アイドリングストップ状態への移行が可能と判定する。アイドリングストップ状態への移行が可能と判定すると、エコランECU10はエンジンECU21に対して燃料カットを要求して、第2の状態へ移行する(図11(A)のc点参照)。
【0072】
エンジンECU21が燃料カットを行い、アイドリングストップ状態に移行すると(図11(A)に示すd点参照)、エコランECU10は、外気温センサ18によって測定された外気温度を取得して、RAM73等のメモリに記録する。外気温を取得すると、エコランECU10は図3に示すマップを参照して、取得した外気温のときにエンジン30を始動させる必要があるブロアファン41の吹き出し口温度、すなわち、第1しきい値温度を求める。図11に示す例では、外気温センサ18で測定した外気温度が5℃であるので(図11(H)参照)、エコランECU10はマップを参照して第1しきい値温度を40℃に設定する(図11(F)のd点参照)。
【0073】
また、エコランECU10は、吹き出し口温度センサ43で測定される温風の吹き出し口温度を取得し、RAM73等のメモリに記録する。吹き出し口温度を取得すると、エコランECU10は取得した吹き出し口温度から所定温度(本実施例では、8℃に設定されている)を減算した値を第2しきい値に設定する(図11(G)のd点参照)。
本実施例では、アイドリングストップ状態に移行した時の吹き出し口温度が50℃であるとする。このため、エコランECU10は、50℃から8℃を減算した42℃を第2しきい値温度に設定する。
【0074】
次に、エコランECU100は、第1しきい値温度と第2しきい値温度とを比較して、温度の低いほうをエンジン30をオンさせるしきい値温度、すなわちエンジンONしきい値温度に設定する。
図11に示す例では、第1しきい値温度は40℃であり、第2しきい値温度は42℃であるので、第1しきい値温度である40℃がエンジンONしきい値に設定される。
【0075】
この後、エコランECU10は、吹き出し口温度センサ43で測定される吹き出し口温度を監視し、吹き出し口温度がエンジンONしきい値に設定された第1しきい値温度まで低下したか否かを判定する。
そして、エコランECU10は、吹き出し口温度がエンジンONしきい値である40℃まで低下したと判定すると、エンジンECU21に空調制御のためのエンジン始動要求を出力する(図11(I)のe点参照)。エンジン始動要求を受けたエンジンECU21は、エンジン30を始動させる。
【0076】
このように本実施例は、ブロアSWがオンしてから所定時間の間は、空調装置40の送風空気の温度がユーザの所望する温度とはならないので、この間はエコラン制御によるエンジン30の停止を禁止にすることで、乗員に寒さを感じさせない。
【0077】
上述した実施例は本発明の好適な実施の一例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】エコランECUとエンジンECUとの通信例を示す図である。
【図2】アイドリングストップ状態に移行する直前に、ブロアSWがオンされた場合のエコランECUの従来の制御手順を示す図である。
【図3】外気温度からエンジンをオンさせる吹き出し口温度を決定するマップの一例を示す図である。
【図4】システム構成を示す図である。
【図5】マイコンのハードウェア構成を示す図である。
【図6】エンジンを冷却する冷却水の循環経路と、車室内を暖機する空調装置の構成とを示す図である。
【図7】(A)は外気温度から吹き出し口温度が確定する時間T[sec]を予測するマップを示す図であり、(B)はエンジン水温からT[sec]を予測するマップを示す図であり、(C)はT[sec]をブロアレベルに応じて補正するマップを示す図である。
【図8】(A)は外気温度から予測値を求めるマップを示す図であり、(B)はブロアSWオン後の経過時間から予測値を補正するマップを示す図であり、(C)はブロアレベルから予測値を補正するマップを示す図である。
【図9】(A)は予測値Xをもとにエンジン始動状態に復帰させるか否か判定する方法を示す図であり、(B)は予測値Xとエンジン水温の実測値とをもとにエンジン始動状態に復帰させるか否か判定する方法を示す図である。
【図10】アイドリングストップ状態に移行する直前に、ブロアSWがオンされた場合のエコランECUの第1の制御手順を示す図である。
【図11】アイドリングストップ状態に移行する直前に、ブロアSWがオンされた場合のエコランECUの第2の制御手順を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
10 エコランECU
12 トランジスタ
14 キーSW
15 ニュートラルSW
16 スタータリレー
17 スタータモータ
18 外気温センサ
21 エンジンECU
33 ラジエータ
34 エンジン水温センサ
40 空調装置
41 ブロアファン
42 ヒータコア
43 吹き出し口温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の停止条件が成立するとエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うと共に、前記エンジン自動停止制御によるエンジン停止中に所定の始動条件が成立すると、前記エンジンを始動させるエンジン自動始動制御を行うエンジン自動始動停止制御装置であって、
前記エンジンを停止させた場合のエンジン水温の時間経過による推移を予測し、該予測したエンジン水温の推移に基づいて前記エンジンの停止条件を設定する停止条件設定手段と、
前記停止条件設定手段で設定された前記停止条件が成立した場合に前記エンジンの停止を指示するエンジン停止制御手段と、
前記エンジン停止制御手段による前記エンジンの停止中に空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいて前記エンジンを自動始動させる始動条件を設定する始動条件設定手段と、
前記始動条件設定手段で設定された始動条件が成立した場合に前記エンジンの始動を指示するエンジン始動制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジン自動始動停止制御装置。
【請求項2】
前記停止条件設定手段は、前記空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置の作動から所定時間経過後のエンジン水温を、測定手段で測定した外気温度と、前記空調装置が作動状態になってからの経過時間と、前記空調装置から吹き出される空気の風量との少なくとも1つに基づいて予測し、予測したエンジン水温を、前記空調装置から吹き出される空気の風量に基づいて補正することでエンジン水温の時間経過による推移を予測することを特徴とする請求項1記載のエンジン自動始動停止制御装置。
【請求項3】
前記始動条件設定手段は、前記所定時間を経過するまでの間に前記エンジン停止制御手段によって前記エンジンが停止させられると、前記所定時間が経過するまでは、前記停止条件設定手段の算出したエンジン水温の推移の予測値に基づいて前記エンジンの始動条件を設定することを特徴とする請求項2記載のエンジン自動始動停止制御装置。
【請求項4】
前記エンジン停止制御手段は、測定手段で測定されたエンジン水温の測定値が、前記停止条件設定手段で算出したエンジン水温の予測値よりも高い場合に、前記エンジンの停止を指示することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のエンジン自動始動停止制御装置。
【請求項5】
前記エンジン始動制御手段は、前記停止条件設定手段で算出されるエンジン水温の予測値が予め設定された最低エンジン水温以下になった場合、又は測定手段で測定したエンジン水温の測定値が前記エンジン水温の予測値以下となった場合に前記エンジンの始動を指示することを特徴とする請求項2又は3記載のエンジン自動始動停止制御装置。
【請求項6】
前記始動条件設定手段は、前記空調装置が作動状態にある場合には、外気温度と車室内の温度との少なくとも一方に基づいて算出した第1のしきい値と、前記空調装置から吹き出される空気の温度に基づいて算出した第2のしきい値のうち、温度の低いしきい値を前記エンジンを自動始動させるしきい値温度として設定し、
前記エンジン始動制御手段は、前記空調装置から吹き出される空気の温度が設定されたしきい値温度以下となると、前記エンジンの始動を指示することを特徴とする請求項1記載のエンジン自動始動停止制御装置。
【請求項7】
前記エンジン停止条件設定手段は、前記空調装置が作動状態にあると、前記空調装置が作動状態に設定されてから前記空調装置から吹き出される空気の温度を測定する測定手段の測定値が上昇し切るまでにかかる時間を、外気温度と、エンジン水温との少なくとも一方に基づいて予測し、予測した時間を前記所定時間として該所定時間内でのエンジン水温の推移を予測することを特徴とする請求項1記載のエンジン自動始動停止制御装置。
【請求項8】
所定の停止条件が成立するとエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うと共に、前記エンジン自動停止制御によるエンジン停止中に所定の始動条件が成立すると、前記エンジンを始動させるエンジン自動始動制御を行うエンジン自動始動停止制御装置であって、
前記エンジンを停止させるときに、空調装置が動作状態にある場合には、該空調装置の動作開始から所定時間が経過するまでは前記エンジンの停止を禁止する禁止条件設定手段と、
前記所定時間の経過後に前記エンジンの停止を指示するエンジン停止制御手段と、
前記エンジン停止制御手段による前記エンジンの停止中に、空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいて、前記エンジンを自動始動させる始動条件を設定する始動条件設定手段と、
前記始動条件設定手段で設定された始動条件が成立した場合に前記エンジンの始動を指示するエンジン始動制御手段とを備えていることを特徴とするエンジン自動始動停止制御装置。
【請求項9】
所定の停止条件が成立するとエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うと共に、前記エンジン自動停止制御によるエンジン停止中に所定の始動条件が成立すると、前記エンジンを始動させるエンジン自動始動制御を行うエンジン自動始動停止制御方法であって、
前記エンジンを停止させた場合に前記エンジンの停止から所定時間経過後のエンジン水温を予測し、該予測した所定時間経過後のエンジン水温に基づいてエンジンの停止条件を設定するステップと、
設定された停止条件が成立した場合に前記エンジンの停止を指示するステップと、
前記エンジンの停止中に、空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいて、前記エンジンを自動始動させる始動条件を設定するステップと、
設定された始動条件が成立した場合に前記エンジンの始動を指示するステップと、
を有することを特徴とするエンジン自動始動停止制御方法。
【請求項10】
所定の停止条件が成立するとエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うと共に、前記エンジン自動停止制御によるエンジン停止中に所定の始動条件が成立すると、前記エンジンを始動させるエンジン自動始動制御を行うエンジン自動始動停止制御方法であって、
前記エンジンを停止させるときに空調装置が動作状態にある場合には、該空調装置の動作開始から所定時間が経過するまでは前記エンジンの停止を禁止するステップと、
前記所定時間の経過後に前記エンジンの停止を指示するステップと、
前記エンジンの停止中に、空調装置が作動状態にある場合には、前記空調装置から吹き出される空気の温度である吹き出し温度に基づいて、前記エンジンを自動始動させる始動条件を設定するステップと、
設定された始動条件が成立した場合に前記エンジンの始動を指示するステップと、を有することを特徴とするエンジン自動始動停止制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−101250(P2010−101250A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273672(P2008−273672)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】