説明

エンドプラスミンフラグメントおよびその誘導体の、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌のためのバイオマーカーとしての使用、検出のための方法および試験システム

本発明は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための方法であって、以下の工程:a)個体から採取されている単離されたサンプル物質を準備する工程と、b)この単離されたサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、c)このエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、を包含する方法に関する。本発明はさらに、結腸直腸腺腫と結腸直腸癌との間の識別のための方法、そして結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の進展および/または経過、ならびに/あるいは結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の処置をモニタリングするための方法に関する。さらに、本発明は、これらの方法での使用のための試験システムおよびアレイに関する。さらに、本発明は、個体中の結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出のためのバイオマーカーとしてのエンドプラスミンフラグメントの使用に関する。さらに、本発明は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の処置における化合物の有効性を決定するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸癌は、世界中で三番目に高い頻度で診断される癌(9.4%)である。2003年には、世界中でほぼ945000の結腸直腸癌の新規な症例が診断され、そしてほぼ492000人がこの疾患で死亡した。結腸直腸癌の罹患率は増大しているが、結腸直腸癌の死亡率は減少している。結腸直腸癌の罹患率は年齢とともに増え、ほぼ40歳で始まり、女性よりも男性で高い(男性での40.6に対して女性での30.6、1年あたり100000例)(World cancer report,2003,Ed.BW.Stewart and P.Kleihues.IARC Press,Lyon)。
【0003】
ほとんどの患者では、結腸直腸癌の進展は、前癌性の腺腫から転移の性向を有する浸潤性の悪性腫瘍への多段階の進行に従う。
【0004】
結腸鏡検査のような従来の不快な結腸直腸スクリーニング試験しか、早期段階の結腸直腸癌およびその前駆体の検出を達成できないことが示されている。しかし、10mmの直径より小さい平坦な腫瘍性病変およびポリープ状病変については高い偽陰性率が観察されている(Kudo S.(1997) Gastrointest.Endosc.Clin.N.Am.7:87〜98)。従って、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の早期の検出ならびに種々の腫瘍段階の間での特異的な識別を可能にする試験システムを有することが所望されている。これによってまた、治療の特異的適応が可能になる。
【0005】
血液サンプル中の腫瘍マーカー検出に基づく現在公知のスクリーニング試験は、必要な感度および特異性を欠く。例えば、血液サンプル中のCEA(癌胎児抗原)レベルが、結腸癌を検出するために用いられている。しかし、CEAレベルは結腸癌で特異的に上昇しているのではなく、他の悪性疾患(例えば、胃、膵臓、乳房および肺の癌)を有する患者および種々の非悪性の状態(例えば、アルコール性肝臓病、炎症性腸疾患、重度タバコ喫煙、慢性気管支炎および膵炎)にある患者でも上昇していることが示されている。(Posner MR,Mayer RJ:The use of serologic tumor markers in gastro intestinal malignancies.Hematol Oncol Clin North Am 8:533,1994)。さらに、CEAレベルは、結腸腺腫では上昇していない。加えて、CEAレベルは、結腸直腸癌からの結腸直腸腺腫の識別や種々の腫瘍段階の識別には適切ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、結腸腺腫および/または結腸癌の早期検出を可能にする手段、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別を可能にする手段を提供することである。
【0007】
結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出において用いられ得る、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別に用いられ得るバイオマーカーを提供することがさらなる目的である。
【0008】
本発明の別の目的は、費用効果的であって、かつ広範に用いられ得る、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のための試験システムを提供することである。
【0009】
さらに、この試験システムは、取り扱いが容易でなければならない。
【0010】
本発明のさらなる目的は、腫瘍の特定の段階に依存して腺腫および/または癌の処置のために特異的である化合物の有効性を検出するためのスクリーニングシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の根底にある目的は、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の、個体における結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出のための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のためのバイオマーカーとしての使用によって解決される。検出は、インビボでそしてインビトロで行われてもよい。好ましい実施形態に従って、検出はインビトロで行われる。
【0012】
この目的はさらに、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための方法によって解決され、この方法は、以下の工程:
a)個体から採取されている単離されたサンプル物質を準備する工程と、
b)この単離されたサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)このエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する。
【0013】
この目的はさらに、結腸直腸腺腫および結腸直腸癌を識別するための、ならびに/あるいはさらなる腫瘍状態を識別するための方法によって解決され、この方法は以下の工程:
a)個体から採取されている単離されたサンプル物質を準備する工程と、
b)この単離されたサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)このエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する。
【0014】
この目的はまた、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の進展および/または経過および/または処置をモニタリングするための方法によって解決され、この方法は、以下の工程:
a)個体から採取されている単離されたサンプル物質を準備する工程と、
b)この単離されたサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)このエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する。
【0015】
好ましい実施形態では、外科的または治療的な手段の有効性は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌が完全に除去されたか否かについて決定するために制御される。別の実施形態では、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の患者の、1つ以上の化学物質、抗体、タンパク質、ペプチド、低分子薬物、アンチセンスRNA、放射線、例えば、X線またはそれらの組み合わせでの処置による治療は、その処置の有効性を制御するために管理される。
【0016】
本発明の根底にある目的は、個体のサンプル中の、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のための試験システムを提供することによって解決され、この試験システムは以下の:
a)エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープに結合する抗体またはレセプターと、
b)この抗体またはレセプターを支持する固体支持体と、
c)この抗体またはレセプターに対するエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープの結合を検出するための試薬と、
を含む。
【0017】
本発明の目的はさらに、個体中の、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のための検出分子を含むアレイを提供することによって解決され、このアレイは、検出分子として:
a)エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体をコードするmRNAに結合してそれを検出するための固体支持体に固定された核酸プローブ、または
b)エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープに結合してそれを検出するための固体支持体に固定された抗体、または
c)エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープに結合してそれを検出するための固体支持体に固定されたレセプターを含み、
検出分子の好ましい種々の量が、定量の正確性を増大するために固体支持体に固定される。
【0018】
核酸プローブは、例えば、一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNA、アプタマーおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される。アプタマーとは、特異的な配列依存性の形状を帯び、高い特異性および親和性でタンパク質標的に結合する一本鎖オリゴヌクレオチドである。アプタマーは、SELEXプロセスを用いて確認される(Tuerk C.and Gold L.(1990)Science 249:505−510;Ellington AD.and Szostak JW(1990)Nature 346,818〜822)。
【0019】
この目的はさらに、ある化合物が、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の処置に有効であるか否かを決定するための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のための方法によって解決され、この方法は以下の工程:
a)ある化合物を用いて、結腸直腸腺腫または結腸直腸癌の患者を処置する工程と、
b)この患者のサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)このエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する。
【0020】
好ましい実施形態は、従属項で特定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明によれば、「サンプル物質」という用語はまた「サンプル」とも表わされる。
【0022】
本発明によれば、「バイオマーカー」という用語は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の罹患の指標であるタンパク質またはタンパク質フラグメントまたは核酸を指すことを意味する。それは、「バイオマーカー」が、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出する手段として用いられることを意味する。
【0023】
「個体」またはその複数という用語は、哺乳動物を指すことを意味する。好ましくは、この哺乳動物は、患者のようなヒトである。
【0024】
「健常な個体」またはその複数という用語は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌に罹っていない個体(単数または複数)を指すことを意味する。すなわち、「健常な個体(単数または複数)」という用語は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の病理的状態に関してのみ用いられ、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌以外の疾患に罹患している個体を除外しない。
【0025】
本発明による「種々の腫瘍段階の識別」という用語は、結腸直腸腺腫対結腸直腸癌の識別、および/または種々の腫瘍段階、例えば、TNM I、II、IIIおよびIVの識別を意味する。
【0026】
「その誘導体」という用語は、例えば、短縮された遺伝子、この遺伝子のフラグメント、変異された遺伝子、または改変された遺伝子もしくはそのそれぞれの遺伝子産物を含む、DNA、mRNAまたはタンパク質のレベルでの任意の改変を記述するものとする。「その誘導体」という用語は、核酸配列、例えば、DNA、RNA、mRNA、またはタンパク質配列またはペプチド配列を含む。その誘導体は、遺伝子の欠失、置換または挿入の結果である改変であってもよい。この遺伝子改変は、自然界で起こる遺伝子の可変性の結果であってもよい。「自然界で起こる遺伝子の可変性」という用語は、遺伝子操作の結果ではない改変を意味する。この誘導体は、身体および/または分解産物内の遺伝子または遺伝子産物の処理の結果であってもよい。タンパク質レベルでの改変は、身体内の酵素的または化学的な改変に起因し得る。例えば、この改変は、グリコシル化またはリン酸化またはファルネシル化であってもよい。
【0027】
本発明において用いられる「エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体」という用語は、変異されたエンドプラスミンフラグメントまたは改変されたエンドプラスミンフラグメントまたは改変されたエンドプラスミンのフラグメントも含む。「エンドプラスミンフラグメント」の改変は、酵素的または化学的な改変に起因し得る。
【0028】
「腫瘍」および「癌」という用語は、交換可能に用いられ、同じ意味を有する。
【0029】
1つの実施形態では、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体は、エンドプラスミンのN末端フラグメントまたはC末端フラグメントを含むタンパク質である。N末端フラグメントまたはC末端フラグメントという用語は、これらの配列がそれぞれエンドプラスミンの完全なN末端フラグメントまたはC末端を含むというのではなく、そのフラグメントが、エンドプラスミンのN末端またはC末端の領域から生成されるというように解釈されるべきである。
【0030】
フラグメントはまた、エンドプラスミンのタンパク質配列の中央部分から生成されてもよい。
【0031】
エンドプラスミン(配列番号1)のフラグメントの配列長さは、エンドプラスミンに特異的であるために十分長くなければならない。少なくとも7つ連続するアミノ酸、好ましくは少なくとも8つ連続する、エンドプラスミンの配列(配列番号1)のアミノ酸を含む、エンドプラスミンのフラグメントは、エンドプラスミンに極めて特異的である。本発明の好ましい実施形態に従えば、フラグメントは、エンドプラスミン(配列番号1)の少なくとも9つ連続するアミノ酸を含む。
【0032】
grp94とも命名される完全長のエンドプラスミン(配列番号1)の特異的な切断によって、約10〜14kDaおよび80kDaの2つのフラグメントがもたらされる。このエンドプラスミンの切断は、カルパインによって誘導されると推測される(図4)。
【0033】
本発明の1つの実施形態では、エンドプラスミンフラグメントは、約80kDaの分子量を有するC末端フラグメントまたは約10〜14kDaの分子量を有するN末端フラグメントを含む。本発明の別の実施形態によれば、約10〜14kDaまたは約80kDaの分子量を有するフラグメントは、カルパインによる切断によって誘導される。
【0034】
本発明のある実施形態では、エンドプラスミンフラグメントは、配列番号1の配列の一部を含む。本発明の好ましい実施形態では、このエンドプラスミンフラグメントは、N末端フラグメントを含む。好ましくは、このフラグメントは、配列番号2のペプチド配列および/または配列番号3のペプチド配列を含む。本発明の別の実施形態によれば、このフラグメントは、配列番号4のペプチド配列を含む。
【0035】
本発明の別の実施形態では、エンドプラスミンフラグメントは、10〜14kDa、より好ましくは10.3kDaの分子量を有する。
【0036】
本発明のさらなる実施形態では、エンドプラスミンフラグメントは、配列番号2、配列番号3、または配列番号4(図1)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列であるかまたはそれを含み、そして結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を特異的に検出し得るペプチドまたはタンパク質である。
【0037】
本発明の別の実施形態によれば、エンドプラスミンフラグメントは、配列番号1と、フラグメントの配列に基づいて、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0038】
グルコース関連タンパク質(grps)は、ストレス誘導の後に合成される高度に保存されたタンパク質の群である。grpsは、それらのそれぞれの標的タンパク質を輸送、折りたたみおよび処理することを助ける分子シャペロンとして作用する。免疫組織化学的染色によって、grp94は主に細胞質中で検出される。grp94はまた、エンドプラスミンとも呼ばれる。grp94(エンドプラスミン)は、小胞体内において2つの異なる形態で存在することを示唆する管腔タンパク質および内在性タンパク質の二つの特性を示す。
【0039】
「エピトープ」という用語は、抗体、抗体フラグメント、タンパク質またはペプチド構造またはレセプターの特異的な結合を可能にするタンパク質またはペプチドまたは任意のタンパク質の性質を持つ構造の任意の構造要素を指すことを意味する。
【0040】
本発明の方法は、ヒトの身体から既に単離されている体液または組織サンプルのようなサンプル物質を用いて行われる。好ましくはこのサンプル物質は組織サンプルである。サンプル物質は、後で分画されても、および/または精製されてもよい。例えば、試験されるべきサンプル物質をフリーザー中に貯蔵して、そして本発明の方法を、それぞれのサンプル物質を解凍した後に適切な時点で行うことが可能である。
【0041】
エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体が、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出のための、バイオマーカーとして、好ましくは早期のバイオマーカーとして用いられ得るということが本発明者らによって驚くべきことに発見されている。
【0042】
本発明者らは、組織サンプルまたは体液のようなサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のタンパク質レベルは、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌をともなう個体で上昇するということを驚くべきことにいまや見出した。さらに、本発明者らは、組織サンプルまたは体液中の、エンドプラスミンフラグメントのタンパク質レベルまたはその誘導体は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌をともなう人から健常な人を識別するために、ならびに結腸直腸癌から結腸直腸腺腫を識別するために用いられ得るということを驚くべきことに見出した。さらに、エンドプラスミンフラグメントのレベルは、種々の腫瘍段階、例えば、TNM I、II、IIIおよび/またはIVの間を識別するために用いられ得る。エンドプラスミンフラグメントは、結腸直腸腺腫および結腸直腸癌、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階を識別するために用いられ得る特異的なバイオマーカーである。この種々の腫瘍段階は、例えば、TNM I、II、IIIおよび/またはIVであってよい。エンドプラスミンフラグメントは、組織病理学によって得られる診断を確認するために用いられ得る選択的かつ特異的なマーカーである。
【0043】
しかし、本発明者らはまた、組織または生物学的な液体、例えば、血清または血漿のようなサンプル物質中の完全なエンドプラスミンのレベルの上昇が、結腸直腸腺腫に特異的であるということを見出している。従って、完全なエンドプラスミンのレベルの上昇は、結腸直腸腺腫の指標でもある。その観点から、上記または下記の全ての説明は、それぞれ完全なエンドプラスミンにあてはまる。
【0044】
しかし、本発明者らはまた驚くべきことに、組織または体液のようなサンプル物質中のエンドプラスミンのフラグメントのレベルの上昇が、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌のかなりより特異的かつ敏感なバイオマーカーであるということを見出している。
【0045】
本発明によれば、サンプル物質は、組織、細胞または体液であってよい。サンプル物質は、体液、例えば、血液、血漿、血清、骨髄、糞便、滑液、リンパ液、脳脊髄液、痰、尿、母乳、精液、浸出液およびその混合物であってもよい。本発明のある実施形態では、体液は、クロマトグラフィーによって分画される。
【0046】
好ましくは、体液は、本発明の方法を行う前に単離されている。本発明の方法は好ましくは、実験室の技術者によってインビトロで行われる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によれば、エンドプラスミンフラグメントのレベルは、血漿、血清または尿で測定される。血清は、医学的に検査される個体から血液を採取することによって、および凝固した血液から上清を分離することによって容易に得ることができる。
【0048】
エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルは、結腸直腸腺腫の形成の進行にともなってより高くなる。結腸直腸腺腫は、良性の新生物であって、悪性になり得る。良性の結腸直腸腺腫から結腸直腸癌に進展する場合、体液、好ましくは血清中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルはさらに増大する。
【0049】
結腸直腸癌への結腸直腸腺腫の形質転換の後、罹患した個体の病理学的な状態は、転移の形成によってさらに増悪され得る。エンドプラスミンフラグメントのレベルがより高いことは、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌および/または転移の発生と相関する。
【0050】
本発明は、早期に、および/またはまだなお良性段階で、および/または早期の腫瘍段階で、新生物性の疾患を検出できる早期段階のバイオマーカーを提供する。早期の検出によって、医師は、結腸直腸腺腫を時機を得て除去し、その個体が生存する機会を劇的に増大させることが可能になる。
【0051】
さらに、本発明は、長期間にわたって、例えば数年にわたって血清のような体液中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルをモニターすることを可能にする。
【0052】
長期間のモニタリングによって、結腸直腸腺腫と結腸直腸癌との間の識別が可能になる。エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルは、規則的に、体液中で、例えば、1年に1回または2回チエックされ得る。エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルの増大が検出される場合、これは、結腸直腸腺腫の指標であり得る。次いで、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルのさらなる増大は、悪性の結腸直腸癌への形質転換の指標であり得る。
【0053】
さらに、疾患および/または処置の経過がモニターされてもよい。例えば、結腸直腸腺腫の除去後、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルがさらに増大する場合、これは、病理学的な状態の増悪の指標であり得る。
【0054】
そのことは、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルが、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出および/またはモニタリングのための有用な臨床的パラメーターであるということを意味する。体液中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルは、結腸直腸腺腫の発生後に増大する。従って、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルは、早期の診断、およびその後の疾患の早期の処置を可能にする重要な臨床的パラメーターである。さらに、エンドプラスミンフラグメントのレベルは、外科手術および/または他の治療の有効性をチエックするために用いられ得る。
【0055】
結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出のための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の間を識別するための本発明の方法は、個体から採取されている単離されたサンプル物質を準備する工程と、次いで、この単離されたサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、最終的に、このエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程とを包含する。1つの実施形態では、1つ以上のさらなるバイオマーカーをさらに、個体から採取されている単離されたサンプル中において検出し、そのバイオマーカーのレベルを決定して、1つ以上の参照値と比較する。
【0056】
参照値は、健常な個体、あるいは結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌に罹患している個体の複数の単離されたサンプルで決定されたエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の平均レベルとして算出され得る。この参照値は、正常とみなされる範囲をカバーする健常な人から、あるいは結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌に罹患している患者から上昇しているとみなされる範囲から確立され得る。通常、参照値は、ある範囲として与えられる。従って、本発明において用いられる参照値および参照値の範囲という用語は、同じ意味を有すると規定される。
【0057】
次いで、ある参照値の範囲内の特定の値は、健常な状態、あるいは結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の病理的な状態の指標であってもよい。この参照値の範囲は、任意の他の医学的パラメーター範囲、例えば、血糖などで行われるように、健常な個体の、ならびに結腸腺腫および/または結腸癌に罹患している個体の、血清サンプルのような、組織サンプルまたは体液サンプルの統計学的に関連する数を取り上げることによって確立され得る。健常な状態の参照値はまた、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸腫瘍の患者の健常な組織から得てもよい。
【0058】
好ましくは、陰性コントロールおよび陽性コントロール1と命名される2つの参照値が算出される。陰性コントロールの参照値は、健常な個体、あるいは結腸直腸腺腫および/または結腸直腸腫瘍の患者の健常な組織から算出され、そして陽性コントロールは、結腸直腸腺腫または結腸直腸癌に罹患している個体から算出される。より好ましくは、陰性コントロールおよび陽性コントロール1および陽性コントロール2と命名される3つの参照値が算出される。陽性コントロール1は、結腸直腸癌に罹患している個体から算出されてもよく、そして陽性コントロール2は、結腸直腸腺腫から算出されてもよい。
【0059】
本発明の別の実施形態では、参照値は、ある期間にわたって個体から採取された複数の単離されたサンプルで決定されたエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の平均レベルとして算出された個々の参照値であってもよい。
【0060】
エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを長期間、例えば、数ヶ月または数年にわたってモニタリングする場合、個々の平均レベルを確立することが可能である。エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルは、例えば、血糖を測定する場合の同じ血清サンプルから測定されてもよく、そしてエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルの任意の個々の増大を特異的に検出することを可能にする個々の検量線を確立するために用いてもよい。
【0061】
さらなるバイオマーカーについての参照値はまた、エンドプラスミンについて記載されたのと同じ方法で算出され得る。エンドプラスミンフラグメントまたはさらなるバイオマーカーの平均レベルは、平均または中央のレベルであってよい。
【0062】
別の見地では、本発明はさらに、個体の単離されたサンプル物質中の結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための試験システムを提供する。この試験システムは、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープまたは適切な構造的要素に特異的に結合する抗体またはレセプターの特異性のいずれかに基づく。レセプターは、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体に特異的に結合し得る任意の構造であってよい。レセプターは、例えば、FabまたはF(ab’)フラグメントのような抗体フラグメント、あるいはエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体に特異的に結合し得る任意の他のタンパク質またはペプチド構造であってよい。レセプターはまた、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体に特異的に結合するアプタマーであってもよい。
【0063】
抗体、抗体フラグメントまたはレセプターは、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体と結合して、そしてその検出を可能にするために、例えば、プラスチック表面またはビーズのような固体支持体に結合される。例えば、従来からのマイクロタイタープレートは、プラスチック表面として用いられ得る。エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の結合の検出は、例えば、検出可能な基で標識された二次抗体を用いることによって、達成され得る。検出可能な基は、例えば、放射性同位元素または、例えば、色または蛍光のシグナルを生じる適切な基質を加えることによって検出できる、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼのような酵素であってもよい。
【0064】
この試験システムは、免疫アッセイ、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)または放射免疫アッセイ(RIA)または発光免疫アッセイ(LIA)であってよい。しかし、抗体または抗体のフラグメントの特異性を用いる任意の他の免疫学的試験システム、例えば、ウエスタンブロッティングまたは免疫沈降が用いられてもよい。
【0065】
本発明はまた、個体中の、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための検出分子を含むアレイを提供し、ここでこの検出分子は、エンドプラスミンフラグメント、その変異体、改変体もしくはその誘導体をコードするmRNAに結合してそれを検出するための固体支持体上に固定された核酸プローブ、またはエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープに結合してそれを検出するための固体支持体上に固定された抗体、またはエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープに結合してそれを検出するための固体支持体上に固定されたレセプターであってよい。好ましくは、アレイはさらに、結腸直腸腺腫および結腸直腸癌を検出するためのバイオマーカーに対するさらなる検出分子を含む。好ましくは、核酸プローブは、配列番号2および/または配列番号3、あるいは配列番号4に相当する核酸配列からなる群より選択される核酸配列を含む。
【0066】
あるいは、本発明はまた、上記で規定された検出分子によって検出され得る固体支持体上に固定された患者サンプルを含む逆のアレイを含む。
【0067】
好ましくは、アレイは、同定可能な位置で固体表面に固定された検出分子を含む。
【0068】
本発明において用いられる「アレイ」という用語は、分類または配置をいい、規則的な配列の必要はない。アレイは、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは5つ、最も好ましくは10の異なる検出分子のセットを含む。好ましくは、本発明のアレイは、少なくとも50セットの検出分子、さらに好ましくは少なくとも100セットの検出分子を含む。本発明の別の実施形態によれば、本発明のアレイは、少なくとも500セットの検出分子を含む。検出分子は、例えば、既に上記されているような核酸プローブ、または抗体、またはレセプターであってよい。
【0069】
核酸プローブは、任意の天然に存在するかまたは合成のオリゴヌクレオチド、アプアマー、ならびにcDNA、cRNAなどであってよい。
【0070】
記載されたアレイは、本発明による試験システムで用いられ得る。本発明において用いられる「アレイ」という用語は、マクロアレイおよびマイクロアレイの両方に関する。
【0071】
本発明の別の実施形態によれば、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルは、質量分析によって決定される。
【0072】
質量分析によって、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体を、その分子量を介して特異的に検出すること、そしてエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の量を極めて容易に定量することが可能になる。
【0073】
当該分野で公知の質量分析の分野における任意の適切なイオン化方法は、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体分子、フラグメント、変異体、改変体またはその誘導体をイオン化するために使用され得る。このイオン化方法は、電子衝撃(EI)、化学的イオン化(CI)、電界イオン化(FDI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、レーザー脱離イオン化(LDI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)および表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)を含む。
【0074】
当該分野で公知の質量分析の分野における任意の適切な検出方法は、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の分子量を決定するために使用され得る。この検出方法は、四重極質量分析(QMS)、フーリエ変換質量分析(FT−MS)および飛行時間質量分析(TOF−MS)を含む。
【0075】
好ましくは、この質量分析は、表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析(SELDI−TOF−MS)である。SELDI−TOF−MSを行う前に、単離されたサンプル中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体を、活性な表面を有するチップまたは固体支持体上に固定するのが好ましい。活性な表面は、好ましくは、例えば、ウサギポリクローナル抗体のような、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体に対して固定された抗体を含む。抗体にエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体を結合させた後、SELDI−TOF質量分析装置での飛行時間分析を行い、これが、エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルの決定のための強度シグナルを送出する。
【0076】
さらに、質量分析によって、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出に関して関連性を有し得る他のタンパク質を同時に検出することが可能になる。
【0077】
本発明のある実施形態では、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出の感度および/または特異性は、1つ以上のさらなるバイオマーカーのさらなる検出によって増強される。
【0078】
好ましくは、本発明に従う方法、アレイ、試験システムおよび使用の感度および特異性は、エンドプラスミンフラグメントおよびその誘導体、ならびにα−デフェンシン1、2もしくは3またはその誘導体の検出の組み合わせによって増大される。
【0079】
本発明において用いられる「α−デフェンシン1、2、3またはその誘導体」という用語はまた、短縮されたα−デフェンシン1、2もしくは3、α−デフェンシン1、2もしくは3のフラグメント、変異されたα−デフェンシン1、2もしくは3、または改変されたα−デフェンシン1、2もしくは3を含む。「α−デフェンシン1、2または3」の改変は、酵素的または化学的な改変に起因してよい。α−デフェンシン1、2および3はまた、それぞれヒト好中球ペプチド(HNP)1、2および3とも命名される。3つのペプチドは、3445±10、3374±10および3489±10という質量電荷比(m/z)を有する。
【0080】
HNP1〜3のペプチドは、免疫系の基礎的な成分であり、広範な病原体を殺傷/不活性化する能力を有するデフェンシンファミリーのペプチドの一部である。デフェンシンはまた、先天性および適応性の免疫系の両方の調節因子として機能することが公知である。
【0081】
これまでの研究は、腫瘍におけるHNP1〜3の発現は、好酸球および好中球を冒す腫瘍に主に由来することを示す。しかし、それはまた、癌細胞(例えば膀胱癌細胞)によって生成されてもよい。
(Albrethsen J,Bogebo R,Gammeltoft S,Olsen J,Winther B,Raskov H.Upregulated expression of human neutrophil peptides 1,2 and 3(HNP 1−3)in colon cancer serum and tumours:a biomarker study.BMC Cancer.2005,5:8.)。
【0082】
本発明のさらなる実施形態では、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出の、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別の感度および/または特異性は、α−デフェンシン1、2または3、トランスサイレチン、p53、C3a、CEA(癌胎児抗原)、CA19−9、CA15−3、CA−125、Kras、β−カテニン、Her−2/neu、C反応性タンパク質血漿およびその誘導体、ならびにE−カドヘリン、MSH2、MSH3、MLH1、PMS1、PMS2、MSH6の遺伝子における変異、ならびにMHL1またはMSH2のマイクロサテライト不安定性ならびにSNPs(一塩基多型)ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上のさらなるバイオマーカーと組み合わせてエンドプラスミンフラグメントを検出することによって増強され得る。
【0083】
結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌のための他のバイオマーカーは、4,838±25Da、好ましくは4,838±10Daの分子量を有するタンパク質またはポリペプチドを含んでもよい。好ましい実施形態では、エンドプラスミンフラグメント、および4,838±25Da、好ましくは4,838±10Daの分子量を有するタンパク質またはポリペプチドは両方とも、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するために用いられる。
【0084】
1つの実施形態では、C3aまたは誘導体および/またはトランスサイレチンまたはその誘導体と組み合わせた、エンドプラスミンのフラグメントまたはその誘導体は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階を識別するためのバイオマーカーとして用いられる。
【0085】
本発明において用いられる「トランスサイレチンまたはその誘導体」という用語はまた、短縮されたトランスサイレチン、トランスサイレチンのフラグメント、変異されたトランスサイレチン、または改変されたトランスサイレチンを含む。「トランスサイレチン」の改変は、酵素的または化学的な改変に起因してよい。さらに、「トランスサイレチン」という用語はまた、トランスサイレチンの単量体型または多量体型を指すために用いられる。例えば、「トランスサイレチン」という用語は、特に、ホモ四量体タンパク質トランスサイレチンの通常一部である単量体タンパク質鎖を包含する。
【0086】
トランスサイレチンはまた、プレアルブミンとも命名される。トランスサイレチンは、主に肝臓で合成される約54,000Daの分子量を有する四量体タンパク質である。トランスサイレチンは通常、各々約14,000Daの分子量を有する4つのタンパク質鎖を含むホモ四量体である。質量分析を用いて、本発明者らは、とりわけ、13,776Da、13,884Daまたは14,103Daの分子量を有するトランスサイレチンのタンパク質鎖のいくつかの変異体を検出している。本発明者らは、特に、13,776Daおよび13,884Daの分子量を有するトランスサイレチンの分子変異体のレベルが、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の発生の場合に、血清のような体液中で減少することを見出している。
【0087】
本発明において用いられる「C3aまたはその誘導体」という用語はまた、短縮されたC3a、C3aのフラグメント、変異されたC3a、改変されたC3aまたは前駆体C3(図2、配列番号5)またはC3のフラグメントを含む。1つの実施形態では、この誘導体は、配列番号6(図3A、配列番号6)の配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有するタンパク質配列を有するかまたは含む。
【0088】
「C3a」の改変は、酵素的または化学的な改変に起因してよい。とりわけ、C3aまたはその誘導体という用語は特に、好ましくは8,950±25Daの範囲;より好ましくは8,950±20Daの範囲の分子量を有する短縮されたC3aタンパク質を含む。好ましい実施形態では、この短縮されたC3aタンパク質は、8,939Daの分子量を有する。好ましくは、このC3aタンパク質は、C末端アルギニンを有さず、そして場合によって、8,950±20Daの範囲の分子量を有する。1つの実施形態では、C3a誘導体は、C3a−desArg(図3B、配列番号7)である。1つの実施形態では、C3a誘導体は、マスト細胞キマーゼによるC3aの切断によって得られる。別の実施形態では、C3aは、C3転換酵素によるC3の切断によって得られる。本発明はまた、上述の実施形態の組み合わせを含む。
【0089】
C3aはアナフィラトキシンのグループに属する。C3a、C4aおよびC5aは、補体系のセリンプロテアーゼのタンパク質分解産物である。C3a(配列番号6)は、補体が活性化される間の血液補体系の第三成分(C3)(配列番号5)由来である。C3aは、局所有効性を有するホルモンである。C3a中のアミノ酸残基の約40%がらせん構造に含まれる。血清アナフィラトキシンは、種々の細胞性免疫応答に関与し、強力な炎症促進性因子である。C3aは、血管壁、平滑筋の収縮および血管透過性の増大に対して強力に作用する。C3a中のC末端アルギニンは、その生物学的活性のために基本的に重要なものである。アナフィラトキシンは、カルボキシ末端のアルギニンの2番目内を除去するカルボキシペプチダーゼN(アナフィラトキシン不活性化因子)によって調節される。この機構は、完全なアナフィラトキシンを活性の少ないC3a−desArg型(配列番号7)に変換する。
【0090】
これによって、感度および/または特異性の増大をともなう結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出、ならびに/あるいは種々の腫瘍状態の識別が可能になる。さらに、本発明の方法は、患者によって十分に受け入れられる。なぜなら、これらの方法は、結腸鏡検査ほど不快ではないためである。本発明によれば、個体から単離されたサンプル物質であって、組織標本または生物学的液体であってもよいサンプル物質、例えば、血漿または血清が、本発明の方法でスクリーニングされる。サンプル物質は、例えば、血液の採取または生検によって得ることができる。
【0091】
感度および特異性は、以下のとおり規定される:
【0092】
感度は、全ての患者の数(100%)に対する真の陽性と検出された患者の数(%)である。この患者は、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を有する個体であってよい。
【0093】
特異性は、全ての健常な個体の数(100%)に対する真の陰性と検出された個体の数(%)である。
【0094】
感度および特異性は、以下の式によって代替的に規定され得る:
【0095】
【数1】

【0096】
TP、FP、TN、FNから選択される各々の分析グループの結果は、健常な個体、結腸直腸腺腫患者および/または結腸直腸癌患者からなる群より選択される複数の単離されたサンプルについて算出される。TP、FP、TN、FNは、それぞれ、真の陽性、偽陽性、真の陰性、偽の陰性の状態と相関する個体の数に関する。
【0097】
本発明の方法は、総合的な感度および/または特異性を増大するために、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出のための他の診断方法と組み合わせて行ってもよい。エンドプラスミンフラグメントの検出によって、結腸直腸腺腫の極めて早期の検出が可能になり、従って、極めて早期のバイオマーカーとして用いられ得る。さらに、エンドプラスミンフラグメントの検出によって、種々の腫瘍段階の識別が可能になる。
【0098】
好ましくは、本発明の方法は、早期の検出および/またはモニタリングの方法として行われる。本発明の方法の結果が、体液のサンプル中の結腸直腸腺腫および/または結腸直腸腺腫の発生を示す場合、結腸鏡検査のようなさらなる検査を行ってもよい。組織サンプルを用いた組織化学によって得られる結果が、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸腺腫の発生を示す場合、エンドプラスミンフラグメントのレベルが、種々の腫瘍段階を識別するために、必要に応じてさらなるバイオマーカーと組み合わせて分析されるべきである。
【0099】
本発明はさらに、ある化合物が結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の処置において有効であるか否かを決定するための方法を提供する。さらに、本発明は、特定の腫瘍段階を処置するために有用である特異的な化合物を選択するための方法を提供する。
【0100】
好ましくは、ある化合物が結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の処置において、ならびに/あるいは特定の腫瘍段階の処置のために有効であるか否かを決定するための方法は、以下の工程:
a)ある化合物を用いて、結腸直腸腺腫または結腸直腸癌の患者を処置する工程と、
b)この患者のサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)このエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する。
【0101】
本出願において用いられる「患者」という用語は、ヒトおよび動物のような非ヒトを包含する。動物は好ましくは、げっ歯類、例えば、マウス、ラット、ハムスターおよび他の動物、例えば、モルモット、ウサギ、野ウサギ、イヌおよびブタからなる群より選択される。
【0102】
これらの動物は、研究目的のために、結腸直腸腺腫および結腸直腸癌のような特定の疾患状態を特異的に誘導するために用いられ得る。この疾患状態の誘導は、例えば、結腸直腸癌または結腸直腸腺腫の疾患状態を誘導することが公知である放射性物質または化学物質を用いる、動物の処置によって例えば、達成され得る。この疾患状態はまた、ウイルスのトランスフェクションシステムを用いて誘導され得る。1つ以上の特定の遺伝子機能が変更されている遺伝子操作動物、またはノックアウト動物、例えば、特定の遺伝子機能が欠失されているノックアウトマウスを用いることも可能である。
【0103】
結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の処置のための化合物は、1つ以上の化学物質、抗体、タンパク質、ペプチド、低分子薬物またはアンチセンスmRNAであってよい。あるいは、1つ以上の化合物の代わりに、放射線照射を単独で、または1つ以上の化合物と組み合わせて用いてもよい。
【0104】
この患者のサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルは、上記の検出技術によって決定され得る。
【0105】
以下の図および実施例は、例示目的でのみ示す。本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるべきではない。
【実施例】
【0106】
他に言及しない限り、全ての方法は、分析システムの製造業者のプロトコールに従って行った。
【0107】
実施例1:
サンプル調製
組織サンプル 腺腫および結腸直腸癌の患者(TNMステージIII)由来の腫瘍組織、および各々の患者由来の適合した正常な結腸組織を分析した。患者:倫理的ガイドラインおよび患者の秘密は厳格に保証されており、かつ全ての患者は本研究に参加する書面の承諾を与えた。全ての患者に外科手術の時点で絶食時間および投薬のような共通の術前の準備を行った。
【0108】
組織抽出物の調製 新鮮な凍結腫瘍および正常な組織由来のクリオスタット切片(5μm)を、ヘマトキシリン/エオジンで染色して、腫瘍/間質の組織病理および量を管理した。腫瘍含量または腺腫含量が50%を超える組織塊および正常な組織を切片(8×20μm)に切断して、500μlのダルベッコリン酸緩衝生理食塩水緩衝液(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、6.5mMのNaHPO・12HO、1.5mMのKHPO、pH7.4)に直ちに移した。この切片を4℃で10分間13,200rpmで遠心分離した。そのペレットを150μlの溶解緩衝液(20mMのTris、50mMのNaCl、0.5%のTween、pH7.2、0.1%のcomplete(登録商標)(Roche,Mannheim,Germany)を用いて、氷上で10分間抽出操作した。十分なボルテックスの後に、その溶解液を13,200rpmで10分間遠心分離した。その上清のタンパク質濃度を、BCAアッセイ(BCA Assay,Pierce,Rockford,IL,USA)によって測定して、各々のサンプルについて、溶解緩衝液を用いて5μg/50μlの濃度に調節した。
【0109】
実施例2
Ciphergen ProteinChip(登録商標)アレイの調製。タンパク質溶解液を、強陰イオン交換体アレイ(SAX;Ciphergen Biosystems,Femont,CA,USA)で分析した。SAXタンパク質アレイ(強陰イオン交換体)をバイオプロセッサー(Ciphergen Biosystems,Inc)中で処理した。チップを2×5分間、結合緩衝液(0.1MのTris/HCl、pH7.5)で平衡化し、引き続き各々のスポット上で50μlのタンパク質溶解液とともにインキュベートした。45分後、未結合物質を除去して、チップを緩衝液で3回、そして水で2回洗浄した。乾燥後、シナピン酸(1.0μl)の2回の適用を加えて、そのチップをCiphergen Protein ChipReader(model PBSII)で分析した。データのバラツキを最小限にするために、測定は、チップ上にランダムに分布させた全ての患者群由来のサンプルを用いて2日内に行った。正規化のための標準コントロールとして、癌患者由来の1つの組織抽出物を全ての測定について平行して用いた。
【0110】
SELDI−TOF−MS分析。タンパク質の質量スペクトルは、180のレーザー強度で平均が195のレーザーショットを用いることによって生成させた。検出器は、6の感度で作動させた。データ取得のために、検出サイズ範囲は2,000〜40,000Daの間とした。レーザーは、10,000Daにフォーカスした。データは、ProteinChip Data Analysis Program(version 3.1,Ciphergen Biosystems)およびBiomarker Wizard Program(version 3.1,Ciphergen Biosystems)を用いて解析した。ピーク強度は、全イオン電流に対して正規化した。
【0111】
実施例3
データの統計的な評価
3つの患者群についてのカットオフ値を、決定木解析に基づくC&RT(CART)アルゴリズムによって算出する(Breiman,L.,Friedman,J.H.,Olshen,R.A.,& Stone,C.J.(1984).Classification and regression trees.Monterey,CA:Wadsworth & Brooks/Cole Advanced Books & Software)。このカットオフ値は、種々の分析群の間の極限値を選択しかつ特定するために算出されている。評価は、STATSOFT INCのSTATISTICA Software Vs 7.1を用いて行い、決定木解析は、Data−Miner Modul subprogram Standard Classification Trees(CAndRT)(StatSoft,Inc.(2005).STATISTICA(データ解析ソフトウェアシステム),version 7.1.www.statsoft.com.)を用いて行う。
【0112】
統計学的データは、平均値および標準偏差に基づいて評価する。さらに、図6、8および9は、平均±0.95の信頼区間を示し、これは、この区間内において95%の確率で観察患者群の真の平均値を見出すことを示している。統計学的な評価は、T検定によって行う(表1)。この検定では、p値が0.05未満で有意であるとみなした。ボックスプロットのウィスカーは、標準偏差を示す。
【0113】
実施例4
1例の腺腫および1例の結腸直腸癌の患者(TNMステージII)由来の腫瘍組織、ならびに正常な結腸組織のタンパク質サンプルを、調製して、実施例1および2に従って分析している。図5は、正常な結腸、線腫および腫瘍組織由来の溶解液のSELDI−TOFによるタンパク質プロファイルを示す。p10.3の強度は、組織中で、健常な患者から癌の患者へ有意に増大する。
【0114】
図6は、正常な組織、線腫および結腸癌の組織におけるp10.3(エンドプラスミンフラグメント)の平均強度を示す。30の結腸癌および29の腺腫組織サンプル、ならびに対応する正常な結腸組織を、実施例1〜3に従って分析した。正常および結腸腫瘍の組織における、ならびに正常および腺腫の組織におけるp10.3の平均強度の相違は統計学的に有意であった。腫瘍サンプルの識別のために、97%の特異性および93%の感度を達成した。腺腫サンプルの特異性は86%の感度で90%であった。
【0115】
図8は、同じ患者集団において確認されたα−デフェンシンファミリーのメンバーのうちの1つ(ピーク3,489)の平均強度を示す。線腫および結腸癌の群における平均強度は、正常な結腸組織レベルに比較して有意に上昇していた。腺腫サンプルの識別は、52%の感度および90%の特異性で達成した。腫瘍サンプルの識別のためのそれぞれの値は、90%および89.6%であった。
【0116】
図9は、腺腫群のサンプルにおけるピーク4838の特異的に上昇したレベルを示す。腺腫サンプルは、76%の感度および100%の特異性で腫瘍および正常な患者のサンプルから識別され得る。
【0117】
表1は、患者群における検出されたピーク強度を、ピーク10,324、4,838およびデフェンシンファミリーのメンバーのピーク3,375、3,445および3,489についてまとめたものである。
【0118】
【表1】

【0119】
表1の全てのデータはSELDI−TOF−MSによって得た。
【0120】
実施例5
種々の組織でのp10.3の発現
結腸特異的なバイオマーカーとしてのp10.3を確認するために、種々の腫瘍組織、すなわち、乳房、胃、食道、肺および前立腺について、実施例1および2に従って、細胞抽出物を調製して、質量分析によって分析した。図7および表2に示されるとおり、p10.3の最高強度は、結腸直腸癌で見出され得る(病期IおよびIII)。しかし、エンドプラスミンフラグメントは、食道、肺および前立腺の癌ならびに正常な組織ではそれより低レベルで発現している。
【0121】
【表2】

【0122】
エンドプラスミンフラグメント、特に10,300Daのみかけの分子量を有するタンパク質フラグメント(p10.3)は、結腸癌に極めて特異的であるということが図7からわかる。乳房、肺、胃、食道または前立腺の腫瘍とは対照的に、健常な患者と罹患している患者との間のp10.3のレベルには有意な相違がある。さらに、p10.3のレベルは、癌の段階とともに増大する(病期I対病期III)。
【0123】
実施例6
30の結腸癌および29の腺腫の組織サンプル、ならびに対応する正常な結腸組織を単離して、4,838Daの分子量を有するタンパク質(p4.8)または3,489Daの分子量を有するタンパク質(p3.4)のいずれかである第二のマーカーを、エンドプラスミンフラグメントのピークと組み合わせて用いたこと以外は、実施例1〜3に記載のとおりの分析をした。第二のマーカータンパク質、例えば、4,838Da(p4.8)または3,489Da(p3.4)と組み合わせて、腺腫および/または癌の組織からの正常な組織の分離を同時に達成した。p10.3を第一のマーカーとして、そしてp4.8を第二のマーカーとして用いて、29の正常な組織サンプルのうち26(特異性90%)、29の腺腫サンプルのうち23(感度79%)、ならびに30の癌サンプルのうち27(感度90%)が、正確に分離された(図10A)。ピーク3489との組み合わせで、腺腫サンプルについて90%の特異性および82%の感度、そして腫瘍サンプルについて70%が達成された(図10B)。
【0124】
結果
図6に示されるとおり、エンドプラスミンフラグメントの量は、3つの群(N=正常 A=腺腫 T=癌)の間で有意に異なる。エンドプラスミンフラグメントのレベルは、健常個体から結腸直腸腺腫患者を超え結腸直腸癌患者へと増大する。
【0125】
エンドプラスミンフラグメントは、必要に応じて、4,838Da(p4.8)または3,489Da(p3.4)の分子量を有するタンパク質のような他のバイオマーカーと組み合わせて、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出のための優れたバイオマーカーであるということがこれらのデータによって示される。
【0126】
既に公知のバイオマーカーであるCEAおよびCA19−9とは対照的に、健常個体と腺腫患者との間を識別することが可能である。さらに、腺腫患者と結腸直腸癌患者とを識別することが可能である。エンドプラスミンフラグメント試験の感度および特異性は高く、そして腺腫の早期の特異的な検出、および種々の腫瘍段階の間の識別が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1Aではエンドプラスミンのタンパク質配列(配列番号1)を示す。図1BではN末端エンドプラスミンフラグメントの各々の部分である3つのペプチド配列(配列番号2、3および4)を示す。
【図2】C3のタンパク質配列(配列番号5)を示す。
【図3】図3AではC3aのタンパク質配列(配列番号6)を示す。図3BではC3a−desArgのタンパク質配列(配列番号7)を示す。
【図4】約80kDaおよび約14kDaのフラグメントを生じる、カルパインによるエンドプラスミンの推定切断部位を示す。
【図5】正常な結腸、腺腫および腫瘍組織からの溶解液のSELDI−TOF−MSによるタンパク質プロファイルを示す。p10.3(エンドプラスミンのN末端部分、10,300Da)の強度は、組織中で、健常患者から腺腫患者へ、癌患者へと有意に増大する。
【図6】SELDI−TOF−MSによるエンドプラスミンフラグメントp10.3の解析を示す。結腸癌由来の30サンプルおよび腺腫組織由来の29サンプル、ならびに対応する正常な健常な結腸組織を分析した。エンドプラスミンフラグメントp10.3の平均濃度は、健常群(N)に比較して、腺腫群(A)および/または癌群(T)において有意に高い。
【図7】SELDI TOF MSによる種々の癌のタイプでのp10.3の検出を示す。p10.3の発現レベルは、種々の結腸癌の段階に比較して、胃、食道、肺、前立腺および乳房の癌の分析されたサンプルで有意に低かった。溶解液を、SAX Protein Chip(登録商標)Arrayで分析した。正常組織と腫瘍組織との間のp10.3の発現レベルの相違は、統計学的に有意である。N=正常組織、T=癌組織。
【図8】正常な結腸、腺腫および癌組織由来の溶解液のSELDI−TOF−MSによるタンパク質プロファイルを示す。p3489(α−デフェンシンファミリーのメンバー、p3.4)のピーク強度は、組織中で、結腸直腸腺腫患者から癌患者へと有意に増大する。N=正常組織、A=腺腫組織、T=癌組織。
【図9】正常な結腸、腺腫および癌組織由来の溶解液のSELDI TOF MSによるタンパク質プロファイルを示す。p4838(p4.8)のピーク強度は、健常な対照組織および結腸直腸癌組織に比較して、結腸直腸腺腫患者の組織で有意に増大する。N=正常組織、A=腺腫組織、T=癌組織。
【図10】腺腫組織および癌組織のための、感度および特異性の両方について、異種の患者集団で改善された2つのマーカー(p10.3およびp4.8またはp10.3およびp3.4)の組み合わせを示す。A)検出がp10.3およびp4.8の組み合わせに基づいた場合、癌組織について90%の感度(腺腫について79%)そして、90%の特異性が達成された。B)p10.3およびαデフェンシンファミリーのメンバーであるp3.4の組み合わせを用いた場合、一致した数は、90%の特異性で癌サンプルについて70%(腺腫について82%)であった。N=正常結腸粘膜、T=癌組織、A=腺腫組織。文字の前の数字は、別々の個体の数を示す。他の数字は、カットオフ値を指す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための方法であって、以下の工程:
a)個体から採取されている単離されたサンプル物質を準備する工程と、
b)前記単離されたサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)前記エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する方法。
【請求項2】
結腸直腸腺腫と結腸直腸癌との間またはさらなる腫瘍状態を識別するための方法であって、以下の工程:
a)個体から採取されている単離されたサンプル物質を準備する工程と、
b)前記単離されたサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)前記エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する方法。
【請求項3】
結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の進展および/または経過および/または処置をモニタリングするため、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の間の識別のための方法であって、以下の工程:
a)個体から採取されている単離されたサンプル物質を準備する工程と、
b)前記単離されたサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)前記エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、結腸直腸腺腫または結腸直腸癌の患者から採取された前記サンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルが、健常な個体のサンプル物質と比較して増大される、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、第一のサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルの第一の増大が、結腸直腸腺腫の指標であり、かつ前記第一のサンプル物質よりも後の時点で前記個体から単離された第二のサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルの第二の増大が、結腸直腸癌の指標であり、ただしこれは、前記第二の増大が前記第一の増大よりも強いという条件下である、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法であって、工程(b)において、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための1つ以上のさらなるバイオマーカーが、前記単離されたサンプル物質中で決定され、かつ工程(c)において、前記バイオマーカーの決定されたレベルが、1つ以上のそれぞれの参照値と比較される、方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法であって、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための前記のさらなるバイオマーカーが、4,838±25Daの分子量を有するタンパク質、α−デフェンシン1、2または3、トランスサイレチン、p53、C3a、CEA(癌胎児抗原)、CA19−9、CA15−3、CA−125、Kras、β−カテニン、Her−2/neu、C−反応性タンパク質血漿およびその誘導体、ならびにE−カドヘリン、MSH2、MSH3、MLH1、PMS1、PMS2、MSH6の遺伝子における変異、ならびにMHL1またはMSH2のマイクロサテライト不安定性ならびにSNPsならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される群から選択される、方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、エンドプラスミンフラグメントおよび/またはその誘導体の参照値、ならびに必要に応じたさらなるバイオマーカーおよび/またはその誘導体の参照値が、エンドプラスミンフラグメントおよび/またはその誘導体、ならびに必要に応じたさらなるバイオマーカーおよび/またはその誘導体の、個体のそれぞれの群の複数の単離されたサンプル中における平均レベルとして算出され、前記個体群が、健常な個体、結腸直腸腺腫患者および/または結腸直腸癌患者である、方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、前記参照値が、経時的に前記個体から採取された複数の単離されたサンプル物質中で決定された、エンドプラスミンフラグメントおよび必要に応じたさらなるバイオマーカーおよび/またはその誘導体の平均レベルとして算出された個体の参照値である、方法。
【請求項10】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法であって、前記単離されたサンプル物質が体液または組織であって、前記体液が必要に応じて、血液、血漿、血清、骨髄、糞便、滑液、リンパ液、脳脊髄液、痰、尿、母乳、精液、浸出液およびその混合物からなる群より選択される、方法。
【請求項11】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法であって、前記サンプル物質中の、エンドプラスミンフラグメントおよび/またはその誘導体、ならびに必要に応じたさらなるバイオマーカーのレベルが、DNA、mRNAおよび/またはタンパク質のレベルで決定される、方法。
【請求項12】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法であって、前記サンプル物質中の、エンドプラスミンフラグメントおよび/またはその誘導体、ならびに必要に応じたさらなるバイオマーカーのレベルが、核酸ハイブリダイゼーション技術、免疫学的方法もしくはプロテオミクス技術、および/または質量分析によって決定される、方法。
【請求項13】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法であって、前記方法が、感度および/または特異性を増大するために、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の他の診断方法と組み合わせて行われる、方法。
【請求項14】
エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の、個体中の、または個体から単離されたサンプル中の、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出のための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のためのバイオマーカーとしての使用。
【請求項15】
請求項14に記載の使用であって、個体の単離されたサンプル中の、結腸直腸および/または結腸直腸癌腺腫の早期検出のための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のための、使用。
【請求項16】
請求項14または15のいずれか1項に記載の使用であって、感度および/または特異性を増大するために、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌のための1つ以上のさらなるバイオマーカーと組み合わせた、使用。
【請求項17】
請求項16に記載の使用であって、前記の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、4,838±25Daの分子量を有するタンパク質、α−デフェンシン1、2または3、トランスサイレチン、p53、C3a、CEA(癌胎児抗原)、CA19−9、CA15−3、CA−125、Kras、β−カテニン、Her−2/neu、C−反応性タンパク質血漿およびその誘導体、ならびにE−カドヘリン、MSH2、MSH3、MLH1、PMS1、PMS2、MSH6の遺伝子における変異、ならびにMHL1またはMSH2のマイクロサテライト不安定性ならびにSNPsならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、使用。
【請求項18】
個体の単離されたサンプル物質中の、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するため、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のための試験システムであって:
a)エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープに結合する抗体またはレセプターと、
b)前記抗体またはレセプターを支持する固体支持体と、
c)前記抗体またはレセプターに対するエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープの結合を検出するための試薬と、
を含む、試験システム。
【請求項19】
請求項18に記載の試験システムであって、前記試験システムが、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌のための、1つ以上のさらなるバイオマーカーの検出のための1つ以上の抗体またはレセプターを含む、試験システム。
【請求項20】
請求項18または19に記載の試験システムであって、前記の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、4,838±25Daのみかけの分子量を有するタンパク質、α−デフェンシン1、2または3、トランスサイレチン、p53、C3a、CEA(癌胎児抗原)、CA19−9、CA15−3、CA−125、Kras、β−カテニン、Her−2/neu、C−反応性タンパク質血漿およびその誘導体、ならびにE−カドヘリン、MSH2、MSH3、MLH1、PMS1、PMS2、MSH6の遺伝子における変異、ならびにMHL1またはMSH2のマイクロサテライト不安定性ならびにSNPsならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、試験システム。
【請求項21】
個体中の、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌を検出するための、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のための検出分子を含むアレイであって、検出分子として:
a)エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体をコードするmRNAに結合してそれを検出するための固体支持体に固定された核酸プローブ、または
b)エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープに結合してそれを検出するための固体支持体に固定された抗体、または
c)エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のエピトープに結合してそれを検出するための固体支持体に固定されたレセプターを含み、
検出分子の好ましい種々の量が、定量の正確性を増大するために固体支持体に固定される、アレイ。
【請求項22】
請求項21に記載のアレイであって、前記試験システムが、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌のための、1つ以上のさらなるバイオマーカーの検出のための1つ以上の抗体またはレセプターを含む、アレイ。
【請求項23】
請求項22に記載のアレイであって、前記の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、4,838±25Daのみかけの分子量を有するタンパク質、α−デフェンシン1、2または3、トランスサイレチン、p53、C3a、CEA(癌胎児抗原)、CA19−9、CA15−3、CA−125、Kras、β−カテニン、Her−2/neu、C−反応性タンパク質血漿およびその誘導体、ならびにE−カドヘリン、MSH2、MSH3、MLH1、PMS1、PMS2、MSH6の遺伝子における変異、ならびにMHL1またはMSH2のマイクロサテライト不安定性ならびにSNPsならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、アレイ。
【請求項24】
ある化合物が、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌および/または特定の腫瘍段階の処置において有効であるか否かを決定するための方法であって、以下の工程:
a)ある化合物を用いて、結腸直腸腺腫または結腸直腸癌の患者を処置する工程と、
b)前記患者のサンプル物質中のエンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体のレベルを決定する工程と、
c)前記エンドプラスミンフラグメントまたはその誘導体の決定されたレベルと1つ以上の参照値とを比較する工程と、
を包含する、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、工程(b)において、結腸直腸腺腫および/または結腸直腸癌の検出、ならびに/あるいは種々の腫瘍段階の識別のための1つ以上のさらなるバイオマーカーが、前記単離されたサンプル物質中で決定され、かつ工程(c)において、前記該バイオマーカーの決定されたレベルが、1つ以上のそれぞれの参照値と比較される、方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、前記の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、4,838±25Daの分子量を有するタンパク質、α−デフェンシン1、2または3、トランスサイレチン、p53、C3a、CEA(癌胎児抗原)、CA19−9、CA15−3、CA−125、Kras、β−カテニン、Her−2/neu、C−反応性タンパク質血漿およびその誘導体、ならびにE−カドヘリン、MSH2、MSH3、MLH1、PMS1、PMS2、MSH6の遺伝子における変異、ならびにMHL1またはMSH2のマイクロサテライト不安定性ならびにSNPsならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される群から選択される、方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−505080(P2009−505080A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526379(P2008−526379)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【国際出願番号】PCT/EP2005/009005
【国際公開番号】WO2007/019875
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(505233479)インディヴュームド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】Indivumed GmbH
【Fターム(参考)】