説明

エーテル類の製造方法

【課題】低純度で安価な共役ジエン化合物からでも高い転化率および高い選択率が得られ、さらに精製工程が簡便・簡潔であり、臭気の無いエーテル類の工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】ROH(式中、Rは置換基を有していても良いアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)で示されるヒドロキシル化合物の存在下における共役ジエン化合物のテロメリ化反応において、まず、パラジウム化合物、RNC(式中、Rは置換基を有していてもよい第三級アルキル基を表す。)で示される第三級イソシアニド化合物および塩基性物質の存在下に前記反応を行い、次にトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを添加して、引き続き反応を行なうことを特徴とするエーテル類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエン化合物のテロメリ化反応によるエーテル類の製造方法に関する。本発明により製造されるエーテル類は、各種ポリマーの原料、香料などの中間体として有用である。
【背景技術】
【0002】
共役ジエン化合物のテロメリ化反応とは、共役ジエン化合物がアルコールなどの求核性反応剤を取り込むことによりオリゴメリ化する反応である。例えば、2分子の1,3−ブタジエンが、例えば酢酸などの1分子の活性水素を含有する化合物と反応して1−アセトキシ−2,7−オクタジエンを生じる反応などが挙げられる。かかるテロメリ化反応では、パラジウム化合物、特に、ホスフィン化合物が配位したパラジウム化合物がテロメリ化反応用の触媒として優れた活性を示すことが知られている(非特許文献1および非特許文献2参照)。
一方、第一級イソシアニド化合物とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムからなる触媒によるテロメリ化反応(特許文献1参照)および第三級イソシアニド化合物とパラジウム化合物からなる触媒によるテロメリ化反応(特許文献2参照)が報告されている。さらに、本出願人により、第三級イソシアニド化合物とパラジウム化合物からなる触媒によりテロメリ化反応を開始し、追ってトリアルキルホスフィンを添加することにより前記テロメリ化反応を追い込む方法が報告されている(特許文献3参照)。
【0003】
【非特許文献1】辻二郎著「パラジウム リエージェンツ アンド キャタリスツ(Palladium Reagents and Catalysts)」、ジョン ワイリー アンド サンズ(John Wiley & Sons)出版、p.423−441(1995年)
【非特許文献2】アンゲバンテ ケミー インターナショナル エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)、第41巻、p.1290−1309(2002年)
【特許文献1】特公昭48−43327号公報(実施例9)
【特許文献2】特開2005−95850号公報
【特許文献3】国際公開第2005/121059号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1および非特許文献2に記載された方法は、ホスフィン化合物が配位したパラジウム触媒の熱安定性が悪く、反応終了後に生成物と触媒とを蒸発分離させる際、該触媒が分解してパラジウムブラックが析出するため、パラジウム触媒の再使用が困難であり、製造費が高くなるという問題がある。
【0005】
特許文献1に記載された方法は、イソシアニド化合物と、既にホスフィン化合物が配位しているパラジウム化合物を使用している。この場合、イソシアニド化合物のパラジウム原子への配位が抑制され、反応の進行が著しく遅くなるだけでなく、目的生成物の選択率が低下し、収率も17%程度と低くなるため、工業的な方法ではない。
【0006】
また、本発明者等は、特許文献2に記載された方法において、工業的により安価に入手できる、低純度(1,3−ブタジエン含量約40質量%)の「粗ブタジエン(イソブチレンなどのブテン類、メチルアセチレン、1−ブチンなどのアセチレン類、1,2−ブタジエンなどの不純物を含有した1,3−ブタジエン)」を原料として使用したところ、反応速度が低下してしまうことを確認した。すなわち、工業的に安価に生産性良くエーテル類を製造する方法としては、なお改良の余地がある。
【0007】
一方、特許文献3に記載された方法は、本発明におけるトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの代わりにトリアルキルホスフィンを使用している方法であるが、工業的に入手容易なホスフィンはアルキル基1つ当たりの炭素数が8までであり、それ以上の炭素数を有するトリアルキルホスフィンは入手困難である。そこで、本発明者等は、工業的に入手容易なアルキル基1つ当たりの炭素数が8までのトリアルキルホスフィンを使用して特許文献3に記載の方法を実施した。しかし、そのようなトリアルキルホスフィンは、目的生成物である一般式(IV)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは上記定義の通りである。)
で示されるエーテル類(以下、エーテル類(IV)と略称することがある。)と沸点が近いか、またはエーテル類(IV)よりも沸点が低く、以下のような問題が生じた。つまり、エーテル類(IV)を蒸留により分離する際、両者の沸点が近い場合には、トリアルキルホスフィンとエーテル類(IV)との分離が困難となり、エーテル類(IV)にトリアルキルホスフィン独特の臭気が混入し、例えば香料中間体としての用途に際しては不利になるという問題が生じ得る。一方、トリアルキルホスフィンの沸点の方が低い場合には、トリアルキルホスフィンを先に留去してからエーテル類(IV)を蒸留せざるをえず、精製工程が煩雑になり、工業的に不利であるという問題が生じる。これらの事情より、特許文献3に記載の方法は、なお改良の余地がある。
【0010】
しかして、本発明の目的は、低純度で安価な共役ジエン化合物からでも高い転化率および高い選択率が得られ、さらに精製工程が簡便・簡潔であり、臭気の無いエーテル類(IV)の工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記目的は、
(1)一般式(I)
[化2] ROH (I)
(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
で示されるヒドロキシル化合物[以下、ヒドロキシル化合物(I)と称する。]の存在下における一般式
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
で示される共役ジエン化合物のテロメリ化反応において、まず、パラジウム化合物、一般式(II)
[化4] RNC (II)
(式中、Rは置換基を有していてもよい第三級アルキル基を表す。)
で示される第三級イソシアニド化合物[以下、イソシアニド化合物(II)と称する。]および塩基性物質の存在下に前記反応を行い、次に下記式(III)
【0014】
【化5】

【0015】
で示されるトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを添加して、引き続き反応を行うことを特徴とするエーテル類(IV)の製造方法、
(2)共役ジエン化合物の転化率が35%以上になってからトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを添加する、(1)に記載のエーテル類の製造方法、および
(3)トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの添加と同時に水を添加する、(1)または(2)に記載のエーテル類の製造方法、を提供することにより達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、まず、ヒドロキシル化合物(I)、パラジウム化合物、イソシアニド化合物(II)および塩基性物質の存在下に前記した共役ジエン化合物のテロメリ化反応を開始し、続いてトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを添加することにより実施する。
【0017】
本発明で使用する共役ジエン化合物としては、Rが水素原子またはメチル基であることより、1,3−ブタジエンまたはイソプレンである。1,3−ブタジエンとしては、粗ブタジエン(イソブチレンなどのブテン類、メチルアセチレン、1−ブチンなどのアセチレン類、1,2−ブタジエンなどの不純物を含有した1,3−ブタジエン)を使用してもよい。該粗ブタジエンがナフサの熱分解によりC4留分として得られることは周知である。こうして得られる粗ブタジエンは、1,3−ブタジエンを単離する工程が省略されるため安価に入手でき、かかる粗ブタジエンを原料に用いることは、製造費用の観点から、工業的に非常に有利である。本発明は、かかる粗ブタジエンのように低純度の共役ジエン化合物を原料に用いた場合にも、転化率および選択率を高く維持することができる。
【0018】
一般式(I)中、Rが表すアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。これらは置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;フェニル基、トリル基、キシリル基などのアリール基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などのアルコキシル基;2−メトキシエチルオキシ基、2−エトキシエチルオキシ基;ヒドロキシル基などが挙げられる。Rが表すアリール基としては、炭素数6〜14のアリール基が好ましく、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセニル基などが挙げられる。これらは置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などのアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などのアルコキシル基;ヒドロキシル基などが挙げられる。
ヒドロキシル化合物(I)の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、イソペンチルアルコール、シクロペンタノール、ヘキサノール、2−ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、フェノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
ヒドロキシル化合物(I)の使用量は、共役ジエン化合物に対して0.1〜10倍モルの範囲であるのが好ましく、0.5〜5倍モルの範囲であるのがより好ましい。
【0019】
本発明で得られるエーテル類(IV)の具体例としては、例えば1−メトキシ−2,7−オクタジエン、1−エトキシ−2,7−オクタジエン、1−プロポキシ−2,7−オクタジエン、1−ブトキシ−2,7−オクタジエン、1−イソペンチロキシ−2,7−オクタジエン、1−シクロヘキシルオキシ−2,7−オクタジエン、1−フェノキシ−2,7−オクタジエン、1−ベンジルオキシ−2,7−オクタジエン、1−メトキシ−2,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−エトキシ−2,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−プロポキシ−2,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−ブトキシ−2,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−イソペンチロキシ−2,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−シクロヘキシルオキシ−2,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−フェノキシ−2,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−ベンジルオキシ−2,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−メトキシ−2,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−エトキシ−2,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−プロポキシ−2,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−ブトキシ−2,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−イソペンチロキシ−2,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−シクロヘキシルオキシ−2,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−フェノキシ−2,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−ベンジルオキシ−2,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−メトキシ−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−エトキシ−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−プロポキシ−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−ブトキシ−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−イソペンチロキシ−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−シクロヘキシルオキシ−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−フェノキシ−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−ベンジルオキシ−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−メトキシ−3,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−エトキシ−3,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−プロポキシ−3,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−ブトキシ−3,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−イソペンチロキシ−3,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−シクロヘキシルオキシ−3,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−フェノキシ−3,6−ジメチル−2,7−オクタジエン、1−ベンジルオキシ−3,6−ジメチル−2,7−オクタジエンなどが挙げられる。
【0020】
本発明で使用するパラジウム化合物としては、リン原子を有する化合物が含有されていなければ特に制限はなく、例えばギ酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、炭酸パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム酸ナトリウム、塩化パラジウム酸カリウム、パラジウムアセチルアセトナート、ビス(ベンゾニトリル)パラジウムジクロリド、ビス(t−ブチルイソシアニド)パラジウムジクロリド、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム、ビス(1,5−シクロオクタジエン)パラジウムなどが挙げられる。これらの中でも、入手の容易性および経済性を考慮すると、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナートを使用するのが好ましい。かかるパラジウム化合物の使用量は、パラジウム原子換算で、共役ジエン化合物1モルに対して0.1ppm〜300ppmの範囲であるのが好ましく、1ppm〜50ppmの範囲であるのがより好ましい。
【0021】
前記一般式(II)中、Rが表す置換基を有していてもよい第三級アルキル基としては、例えばt−ブチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、トリフェニルメチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−アダマンチル基などが挙げられる。
本発明で使用するイソシアニド化合物(II)の具体例としては、例えばt−ブチルイソシアニド、t−オクチルイソシアニド、トリフェニルメチルイソシアニド、1−メチルシクロヘキシルイソシアニド、1−アダマンチルイソシアニドなどが挙げられる。これらの中でも、入手の容易性、経済性を考慮すると、t−ブチルイソシアニド、t−オクチルイソシアニドを使用するのが好ましい。本発明では、第三級イソシアニド化合物を使用し、第一級イソシアニド化合物または第二級イソシアニド化合物は使用しない。これは、イソシアニド化合物のα位の炭素上に水素原子が存在すると、本発明で使用する塩基性物質によってかかる水素原子が引き抜かれてイソシアニド化合物が分解し、反応が進行しなくなるためである。
イソシアニド化合物(II)の使用量は、パラジウム化合物中のパラジウム原子1モルに対して1〜50モルの範囲であるのが好ましく、1〜20モルの範囲であるのがより好ましい。
【0022】
本発明で使用する塩基性物質としては、一般式(V)
[化6] M(OR (V)
(式中、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表し、Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表し、nはMがアルカリ金属を表す場合は1を表し、Mがアルカリ土類金属を表す場合は2を表す。)
で示される化合物、一般式(VI)
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)で示される化合物、一般式(VII)
【0025】
【化8】

【0026】
(式中、R10、R11、R12、R13およびR14はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)で示される化合物、一般式NR151617(R15、R16およびR17は、それぞれ独立してアルキル基を表す。)で示されるトリアルキルアミンが挙げられる。
【0027】
前記一般式(V)、(VI)および(VII)中、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13およびR14が表すアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基などのアリール基などが挙げられる。
【0028】
前記一般式(V)で示される化合物の具体例としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムs−ブトキシド、ナトリウムフェノキシド、ナトリウムベンジルオキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムs−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド、カリウムフェノキシド、カリウムベンジルオキシド、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムイソプロポキシド、マグネシウムs−ブトキシド、マグネシウムt−ブトキシド、マグネシウムフェノキシド、マグネシウムベンジルオキシド、カルシウムメトキシド、カルシウムエトキシド、カルシウムイソプロポキシド、カルシウムs−ブトキシド、カルシウムt−ブトキシド、カルシウムフェノキシド、カルシウムベンジルオキシドなどが挙げられる。
【0029】
前記一般式(VI)で示される化合物の具体例としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラ−n−プロピルアンモニウムヒドロキシド、テトライソプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムメトキシド、テトラメチルアンモニウムエトキシド、テトラメチルアンモニウムn−プロポキシド、テトラメチルアンモニウムフェノキシド、テトラエチルアンモニウムメトキシド、テトラエチルアンモニウムエトキシド、テトラエチルアンモニウムプロポキシド、テトラエチルアンモニウムフェノキシド、テトラ−n−プロピルアンモニウムメトキシド、テトラ−n−プロピルアンモニウムエトキシド、テトライソプロピルアンモニウムメトキシド、テトライソプロピルアンモニウムエトキシド、テトラ−n−ブチルアンモニウムメトキシド、テトラ−n−ブチルアンモニウムエトキシド、テトラ−n−ブチルアンモニウムフェノキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムメトキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムエトキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムフェノキシドなどが挙げられる。
【0030】
前記一般式(VII)で示される化合物の具体例としては、例えばテトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラ−n−プロピルホスホニウムヒドロキシド、テトライソプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラ−n−ブチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラフェニルホスホニウムヒドロキシド、テトラメチルホスホニウムメトキシド、テトラエチルホスホニウムメトキシド、テトラ−n−プロピルホスホニウムメトキシド、テトライソプロピルホスホニウムメトキシド、テトラ−n−ブチルホスホニウムメトキシド、テトラ−n−ブチルホスホニウムエトキシド、テトラ−n−ブチルホスホニウムフェノキシド、ベンジルトリメチルホスホニウムエトキシド、テトラフェニルホスホニウムメトキシド、テトラフェニルホスホニウムエトキシド、テトラフェニルホスホニウムフェノキシドなどが挙げられる。
【0031】
また、一般式中、R15、R16およびR17がそれぞれ独立して表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、ノニル基などが挙げられる。一般式NR151617(R15、R16およびR17は、前記定義の通りである。)で示されるトリアルキルアミンの具体例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリn−ペンチルアミン、トリn−ヘキシルアミン、トリn−オクチルアミン、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジエチルイソプロピルアミン、N,N−ジメチルn−ヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0032】
かかる塩基性物質の使用量は、パラジウム化合物中のパラジウム原子1モルに対して0.1〜10000モルの範囲であるのが好ましく、1〜3000モルの範囲であるのがより好ましい。
【0033】
本発明は、溶媒の存在下または不存在下に実施できる。かかる溶媒としては、例えばブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル;ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリジノンなどのアミドなどが挙げられる。溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒の存在下に実施する場合、溶媒の使用量に特に制限はないが、通常、共役ジエン化合物に対して0.01〜10倍質量の範囲である。
【0034】
反応温度は0〜150℃の範囲であるのが好ましく、20〜110℃の範囲であるのがより好ましい。0℃未満の場合には反応速度が極めて遅くなる傾向となり、また150℃を超える場合には副生物が増加する傾向にある。
反応圧力は、0.1〜3MPaの範囲であるのが好ましい。
また、反応は窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下に実施するのが好ましい。
【0035】
本発明では、テロメリ化反応の途中、具体的には共役ジエン化合物の転化率が35%、より好ましくは50%、さらに好ましくは65%を越えた時点で、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを添加する。これにより、残留している共役ジエン化合物の濃度の低下に伴なう反応速度の低下を抑制、または反応速度を向上させ、反応系内の共役ジエン化合物の転化率を高めることができる。なお、共役ジエン化合物の転化率は、反応混合液の一部を抜き取り、後述のガスクロマトグラフィー分析をすることにより測定できる。
また、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの添加後は、添加前より反応温度を1〜30℃上昇させることにより、反応がより円滑に進行することがある。
【0036】
本発明のようにトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを使用した場合、エーテル類(IV)にトリアルキルホスフィンのような臭気が混入する心配も無く、また、反応終了後の精製工程においては、生成物であるエーテル類(IV)を留出させるだけでよく、工業的に有利である。
さらに、本発明の方法は、低純度の共役ジエン化合物を使用する場合、例えば「粗ブタジエン」を使用するときにも共役ジエン化合物の転化率を高められる点で非常に優れている。かかる効果は、最初からトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを添加した場合には得られないものである。
【0037】
トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの使用量としては、パラジウム化合物中のパラジウム原子1モルに対して0.01〜20モルの範囲であるのが好ましく、0.05〜10モルの範囲であるのがより好ましく、0.1〜5モルの範囲であるのがさらに好ましい。パラジウム化合物中のパラジウム原子1モルに対して0.01モル未満では反応速度の改善に至らず、一方、パラジウム化合物中のパラジウム原子1モルに対して20モルを超えても、それに見合う効果は薄く、経済的に負担が大きくなるので好ましくない。
【0038】
共役ジエン化合物のテロメリ化反応においては、一般的には、安価であり入手も容易であることからトリフェニルホスフィンを使用するが、上記の通り、本発明では、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを使用する。これは、驚くべきことに、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを使用した場合には、フェニル基に置換基を有さないトリフェニルホスフィンを使用した場合よりも転化率を高めることができ、工業的に有利であり、長期間の製造に相応しいことが判明したためである。
本発明において、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの添加方法に特に制限は無く、そのまま添加してもよいし、例えば、反応に使用するヒドロキシル化合物(I)、前述の溶媒および後述の水と混合してから添加してもよい。
【0039】
また、本発明では、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの添加と同時に、水を添加することが好ましい。トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンと同時に水を添加することにより、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンとイソシアニド化合物(II)が反応系内に共存することに起因する選択率の低下を抑制することができる。
水を添加する場合、その添加量は、パラジウム化合物中のパラジウム原子1モルに対して10モル〜50万モルの範囲であるのが好ましく、100モル〜30万モルの範囲であるのがより好ましく、反応速度の観点からは、1000モル〜15万モルの範囲であるのがさらに好ましい。パラジウム化合物中のパラジウム原子1モルに対して10モル未満では水を添加する効果に乏しく、一方、50万モルを超えると、水を添加する効果が頭打ちになり、また、反応液が水とブタジエンの二相に分離する傾向にあり、好ましくない。
【0040】
反応時間は、ヒドロキシル化合物(I)、共役ジエン化合物、イソシアニド化合物(II)、パラジウム化合物、塩基性物質の種類や使用量、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの使用量、反応温度および反応圧力などにより異なり、特に制限はないが、通常、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの添加前は0.5〜10時間の範囲であり、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの添加後は、0.5〜10時間の範囲である。
【0041】
本発明の実施方法に特に制限は無く、例えばバッチ式または連続式のいずれでも実施できる。連続式の場合には、ピストンフロー型反応器または完全混合槽型反応器のいずれでも行うことができ、またこれらを組み合わせて行うこともできる。
具体的な反応方法を以下に例示する。
例えばバッチ式では、不活性ガス雰囲気下、ヒドロキシル化合物(I)、塩基性物質、パラジウム化合物、イソシアニド化合物(II)および必要に応じて溶媒を混合し、得られた混合液に共役ジエン化合物を添加し、所定温度、所定圧力で、所定時間反応させる。共役ジエン化合物の転化率が目標値を超えたら、反応系にトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンおよび必要に応じて水(いずれも、ヒドロキシル化合物(I)および/または溶媒に溶解しておいてもよい。)を添加し、さらに所定時間反応させることにより実施できる。
また、例えば連続式では、不活性ガス雰囲気下、ヒドロキシル化合物(I)、塩基性物質、パラジウム化合物、イソシアニド化合物(II)および必要に応じて溶媒を混合し、さらに所定量の共役ジエン化合物を添加する。得られた混合液を連続的または断続的に第1槽に移送し、所定時間反応させた後、共役ジエン化合物の転化率が目標値を超えるようにしながら、第1槽から連続的または断続的に反応液を抜き出し、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンおよび必要に応じて水(いずれも、ヒドロキシル化合物(I)および/または溶媒に溶解しておいてもよい。)を添加してから、第2槽に連続的または断続的に移送し、さらに所定時間反応させることにより実施できる。
【0042】
反応終了後、得られた反応混合液からのエーテル類(IV)の分離精製は、通常の有機化合物の分離精製方法を用いることができる。本発明の場合、例えば、反応終了後の反応混合液をそのまま(または、適宜触媒成分を分離してから)蒸留することによって分離・精製することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、各実施例および比較例におけるガスクロマトグラフィー分析は以下の手順で実施した。
【0044】
[ガスクロマトグラフィー分析]
装置:GC−14B(島津製作所製)
使用カラム:DB−WAX(10m)(アジレントテクノロジーズ社製)
分析条件:injection temp.220℃、detection temp.250℃、昇温条件;40℃で8分保持→15℃/分で昇温→240℃で30分保持
また、実施例および比較例で使用した「粗ブタジエン」の成分分布を以下に示す。
[粗ブタジエン中の成分]
1,3−ブタジエン:41.1質量%、1,2−ブタジエン:0.3質量%、
ブテン類:43.0質量%、ブタン類:10.3質量%、
アセチレン類:0.04質量%、その他:5.26質量%
【0045】
<実施例1>
窒素雰囲気下、内容積100mlの電磁誘導撹拌機つきオートクレーブに、メタノール29.0ml(22.9g、717mmol)、パラジウムアセチルアセトナート1.2mg(3.9μmol)、t−ブチルイソシアニド2.2μl(1.6mg、20μmol)、ナトリウムメトキシド21mg(0.39mmol)、内部標準物質としてドデカン1.0ml(0.80g)を導入し、次いで、液状の粗ブタジエン30ml(18.9g、ブタジエンとして7.77g、144mmol)を圧入して仕込んだ。この混合液を撹拌しながら加熱し、90℃に到達した後、同温度で1時間撹拌した。ガスクロマトグラフィー分析により、この時点で1,3−ブタジエンの転化率が65%であることを確認した。
その後、さらにトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン2.8mg(7.9μmol)およびメタノール3.0ml(2.37g、75.9mmol)の混合溶液ならびに水2.1g(117mmol)を同時に圧入し、90℃のまま2時間撹拌した。得られた反応混合液の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフィー分析したところ、1,3−ブタジエンの転化率は92.6%であり、1−メトキシ−2,7−オクタジエンの選択率が89.4%、3−メトキシ−1,7−オクタジエンの選択率が7.7%、ビニルシクロヘキサンとオクタトリエンの選択率が合計2.9%、1−メトキシ−2,7−オクタジエンの収率が82.8%であった。
得られた反応混合液を減圧下に蒸留(92℃/5.3kPa)することにより、1−メトキシ−2,7−オクタジエン7.4g(純度99.4%、収率73.1%)を得た。
【0046】
<比較例1>
トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン2.8mg(7.9μmol)の代わりにトリブチルホスフィン1.6mg(7.9μmol)を使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行なった。
得られた反応混合液を減圧下に蒸留(92℃/5.3kPa)したところ、1−メトキシ−2,7−オクタジエン5.1g(純度99.1%、収率50.1%)を得ることができたが、トリブチルホスフィンとの分離が困難であったため、トリブチルホスフィンの臭気が残らない程度に純度を高めたことにより、収率のロスが大きくなった。
【0047】
<比較例2>
窒素雰囲気下、内容積100mLのオートクレーブにメタノール29.0ml(22.9g、717mmol)、ナトリウムメトキシド21mg(0.39mmol)、t−ブチルイソシアニド2.2μl(1.6mg、20μmol)、パラジウムアセチルアセトナート1.2mg(3.9μmol)、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン2.8mg(7.9μmol)を混合し、粗ブタジエン30mL(18.9g、ブタジエンとして7.77g、144mmol)を圧送して仕込んだ。撹拌しながら加熱し、90℃に到達した後、同温度で3時間攪拌した。反応混合液の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフィー分析をしたところ、1,3−ブタジエンの転化率は90.2%であり、1−メトキシ−2,7−オクタジエンの選択率は62.1%、3−メトキシ−1,7−オクタジエンの選択率は29.8%であり、ビニルシクロヘキセンと1,3,7−オクタトリエンの選択率は合計8.1%以下であり、1−メトキシ−2,7−オクタジエンの収率は56.0%であった。
【0048】
<参考例1>
トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン2.8mg(7.9μmol)の代わりにトリフェニルホスフィン2.1mg(7.9μmol)を使用したこと以外は実施例1と同様に反応および分析を行った。
ガスクロマトグラフィー分析の結果、1,3−ブタジエンの転化率は89%であり、1−メトキシ−2,7−オクタジエンの選択率は88.3%、3−メトキシ−1,7−オクタジエンの選択率は8.4%であり、ビニルシクロヘキセンと1,3,7−オクタトリエンの選択率は合計3.3%、1−メトキシ−2,7−オクタジエンの収率は78.6%であった。
得られた反応混合液を減圧下に蒸留(92℃/5.3kPa)することにより、1−メトキシ−2,7−オクタジエン6.1g(純度99.3%、収率60.5%)を得た。
【0049】
実施例1および比較例1より、トリブチルホスフィンを用いた場合、該トリブチルホスフィンの臭気が1−メトキシ−2,7−オクタジエン中に残存しないようにするため、蒸留分離でのロスが大きくなり、目的化合物の蒸留回収率が低下したが、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを使用した場合には高い蒸留回収率を得ることができた。また、実施例1および比較例2より、イソシアニド化合物(II)とトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを最初から併せて添加した場合には目的化合物の選択率が低くなり、本発明の方法に従った場合には、目的化合物の選択率を非常に高められることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
[化1] ROH (I)
(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
で示されるヒドロキシル化合物の存在下における一般式
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
で示される共役ジエン化合物のテロメリ化反応において、
まず、パラジウム化合物、一般式(II)
[化3] RNC (II)
(式中、Rは置換基を有していてもよい第三級アルキル基を表す。)
で示される第三級イソシアニド化合物および塩基性物質の存在下に前記反応を行い、次に下記式(III)
【化4】

で示されるトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを添加して、引き続き反応を行うことを特徴とする、一般式(IV)
【化5】

(式中、Rは上記定義の通りである。)
で示されるエーテル類の製造方法。
【請求項2】
共役ジエン化合物の転化率が35%以上になってからトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンを添加する、請求項1に記載のエーテル類の製造方法。
【請求項3】
トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの添加と同時に水を添加する、請求項1または2に記載のエーテル類の製造方法。

【公開番号】特開2008−179596(P2008−179596A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87535(P2007−87535)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】