説明

オイルシール

【課題】シールリップにリップ端およびネジ部が設けられているオイルシールにおいて、シールリップの緊迫力を低減させてもリップ端に隙間漏れが発生することがなく、しかもネジ部本来の目的であるポンピング能力が低下することもないオイルシールを提供する。
【解決手段】シールリップを有し、前記シールリップに、全周に亙って軸の周面に摺動自在に密接するリップ端と、軸回転時にポンピング作用をなすネジ部とが設けられているオイルシールにおいて、前記シールリップの低緊迫力化に伴って前記ネジ部が潰れにくいことにより前記リップ端の前記軸に対する接触面が円周上で途切れることがないように、前記ネジ部に梨地処理部を設けて前記ネジ部の剛性を低下させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置の一種であるオイルシールに関する。本発明のオイルシールは例えば、自動車関連の分野で用いられ、あるいは汎用機械の分野等で用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から図5に示すように、シールリップ52を有し、このシールリップ52に、全周に亙って軸21の周面に摺動自在に密接するリップ端53と、軸回転時にポンピング作用をなすネジ部54とを設けてなるオイルシール51が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで昨今、オイルシール51には摺動トルクの低減が求められており、オイルシール51の低トルク化の手法としては、シールリップ52の緊迫力を低減させるのが有効である。
【0004】
しかしながら、上記のようにシールリップ52にポンピング作用をなすネジ部54が設けられている場合にシールリップ52の緊迫力を低減させると、ネジ部54が潰れにくくなり、よってリップ端53の軸21に対する接触面が円周上で途切れて隙間漏れが発生する懸念がある。接触面の途切れを解消するにはネジ部54のネジ山高さを低くすれば良いが、ネジ山高さを低くすると、ネジ部54本来の目的であるポンピング能力の低下に繋がってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−275143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、シールリップにリップ端およびネジ部が設けられているオイルシールにおいて、シールリップの緊迫力を低減させてもリップ端に隙間漏れが発生することがなく、しかもネジ部本来の目的であるポンピング能力が低下することもないオイルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるオイルシールは、シールリップを有し、前記シールリップに、全周に亙って軸の周面に摺動自在に密接するリップ端と、軸回転時にポンピング作用をなすネジ部とが設けられているオイルシールにおいて、前記シールリップの低緊迫力化に伴って前記ネジ部が潰れにくいことにより前記リップ端の前記軸に対する接触面が円周上で途切れることがないように、前記ネジ部に梨地処理部を設けて前記ネジ部の剛性を低下させたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2によるオイルシールは、上記したように請求項1記載のオイルシールにおいて、前記ネジ部は三角断面であって、前記三角断面のネジ部における両斜面にそれぞれ前記梨地処理部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3によるオイルシールは、上記した請求項1または2記載のオイルシールにおいて、前記ネジ部における前記リップ端に近い端部に前記梨地処理部が設けられるとともに前記ネジ部におけるその他の部位には前記梨地処理部は設けられていないことを特徴とする。
【0010】
上記構成を備える本発明のオイルシールにおいては、ネジ部に梨地処理部が設けられてネジ部の剛性が低下せしめられているために、シールリップの低緊迫力化のもと比較的小さな緊迫力が作用した場合にもネジ部が潰れることになり、よってリップ端の軸に対する接触面が円周上で途切れるのを防止することが可能となる。ネジ部に梨地処理部が設けられると、ネジ部の表面に微細な凹部が多数形成されてネジ部の体積が減少するため、ネジ部の剛性が低下してネジ部が潰れ易くなる。
【0011】
一方、リップ端は、全周に亙って軸の周面に摺動自在に密接することにより完全なシール作用を奏するものであるところ、軸に対する接触面が円周上一部で途切れると、そこが隙間となって密封流体が漏れる虞を生じる。リップ端とネジ部が交差する場合またはリップ端のすぐ近くにネジ部の端部が位置する場合には、ネジ部が軸に接触する部位においてシールリップの緊迫力により潰れることによってリップ端の軸への接触が維持されるが、緊迫力が小さくなってネジ部が潰れなくなると、リップ端が軸から浮き上がるようして軸から離れてしまう。これに対し本発明では上記したようにネジ部に梨地処理部が設けられてネジ部の剛性が低下せしめられているために、緊迫力が小さくてもネジ部が十分に潰れ、よってリップ端が軸から浮き上がることがなく軸への接触が維持される。
【0012】
ネジ部は多くの場合、三角断面とされるが、この場合、三角断面の両斜面にそれぞれ梨地処理部を設けると、ネジ部の体積減少率が大きくなり、よってネジ部が潰れ易くなる。
【0013】
また、ネジ部は多くの場合、所定の長さを有するリブ状に形成されるが、この場合、リップ端に近い端部に梨地処理部を設ければこの部分が潰れ易くなるために、リップ端の軸への接触を維持すると云う本発明の目的を達成することが可能となる。したがって本発明では、ネジ部の全長に亙って梨地処理部を設けても良いが、少なくともネジ部におけるリップ端に近い端部に梨地処理部を設ければ良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0015】
すなわち、本発明のオイルシールにおいては上記したように、ネジ部に梨地処理部が設けられてネジ部の剛性が低下せしめられているために、シールリップの低緊迫力化のもとで比較的小さな緊迫力が作用した場合にもネジ部が潰れ、よってリップ端の軸に対する接触面が円周上で途切れるのを防止することが可能となる。したがってシールリップの低緊迫力化を原因として、ネジ部付きのオイルシールに隙間漏れが発生するのを抑制することができる。尚、ネジ部に梨地処理部が設けられてもネジ部のネジ山高さは殆んど変わることがないため、ネジ部本来の目的であるポンピング能力が低下することはない。
【0016】
また、ネジ部三角断面の両斜面にそれぞれ梨地処理部を設ける場合には、ネジ部の体積減少率が大きくなってネジ部が一層潰れ易くなり、ネジ部におけるリップ端に近い端部のみに梨地処理部を設ける場合には、梨地処理を施すための設備や時間を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例に係るオイルシールの要部断面図
【図2】比較例に係るリップ端およびネジ部の軸への接触状態を示す説明図
【図3】本発明の実施例に係るオイルシールにおけるネジ部の拡大断面図
【図4】本発明の実施例に係るオイルシールにおけるリップ端およびネジ部の軸への接触状態を示す説明図
【図5】従来例に係るオイルシールの断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)本発明は、低トルクシールのネジ形態(形状)に関する。
(2)従来、オイルシールの低トルク化の手法として、リップの低緊迫力化があるが、その背反として低緊迫力化により、リップに設けたネジが潰れなくなることで軸とリップの接触面が途切れて、隙間漏れが発生する懸念がある。接触面の途切れを解消するためには、ネジ山高さを低くすれば良いが、ネジ山高さを低くすることは、ネジの本来の目的であるポンプ能力の低下に繋がる。
(3)そこで本発明では、ネジ最先端部が梨地(粗さ:5μmRz〜30μmRz程度)となるように金型に梨地処理を施して成形する。
(4)上記構成によれば、ポンプ能力(ネジ山高さ)を維持しつつ、ネジ最先端部に梨地を構成して凹凸の状態にすることで、ネジ部体積が減少してネジ部剛性が低下し、ネジが潰れ易くなることにより、軸とリップの接触面の途切れがなくなって隙間漏れを防ぐことが可能となる。
【実施例】
【0019】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施例に係るオイルシール1を示している。当該実施例に係るオイルシール1は、ハウジング(図示せず)の軸孔内周に装着(嵌合)されて軸21などの回転部材の周面に摺動自在に密接するものである。
【0021】
金属環2にゴム状弾性体3が被着(加硫接着)されて、このゴム状弾性体3によって、軸21の周面に摺動自在に密接するシールリップ(単にリップとも称する)4が成形されている。
【0022】
シールリップ4は、リップ先端部4aおよびリップ腰部4bを有し、リップ先端部4aの内周面に、全周に亙って軸21の周面に摺動自在に密接するリップ端4cが設けられるとともに、その外周面に環状の溝部(スプリングホルダー部)4dが設けられ、この溝部4dにシールリップ4に緊迫力Wを付与するためのガータースプリング(緊迫リング)5が嵌着されている。
【0023】
リップ端4cは、軸方向一方(図では左方)の大気側斜面4eと軸方向他方(図では右方)の密封流体側斜面4fとを有し、前者の大気側斜面4eに、軸回転時にポンピングシール作用をなすためのネジ部(ネジシール)6が設けられている。ネジ部6は、軸回転時にポンピングシール作用によって密封流体を矢印Pの方向へ押し戻すものであって、所定の長さを有するスパイラル状のリブとして成形され、このリブがシールリップ4の円周上に複数成形され、それぞれその長手方向の一端部はリップ端4cに達しリップ端4cと交差している。
【0024】
したがって、このリップ端4cおよびネジ部6は、図1の軸21上に示しかつ図2(A)に示すような接触状態をもって軸21の周面に接触するのが本来の姿であるところ(図では、符号4Aがリップ端4cの軸21への接触面を示し、符号6Aがネジ部6の軸21への接触面を示している)、シールリップ4の低緊迫力化に伴って緊迫力Wが小さく設定されると、その接触状態は図2(B)に示すようになり、すなわちネジ部6は十分に潰れずに軸21への接触を続け、リップ端4cの軸21への接触面4Aが円周上で途切れ(符号4gがこの途切れた部位を示しており、ネジ部6の円周方向両側でそれぞれ途切れている)、この途切れた部位4gで隙間を生じ、密封流体が漏れる虞がある。
【0025】
そこで、当該実施例に係るオイルシール1では、以下の対策がなされている。
【0026】
すなわち、シールリップ4の低緊迫力化に伴ってネジ部6が潰れにくいことによりリップ端4cの軸21への接触面4Aが円周上一部で途切れることがないように、図3に実線で示すようにネジ部6に梨地処理部7が設けられてネジ部6の剛性が低下せしめられている。すなわちネジ部6の断面形状は、梨地処理部7が設けられなければ図3に点線で示すように断面三角形(三角断面)であるところ、この断面三角形のネジ部6における両斜面6a,6bにそれぞれ梨地処理部7が設けられてネジ部6の断面形状が図3に実線で示すようになっており、具代的には、斜面6a,6bはそれぞれ表面が侵食されたような状態で、微細な凹部8が多数形成され、その表面粗さは例えば5μmRz〜30μmRz程度とされている。
【0027】
また、このような梨地処理部7は、所定の長さを有するネジ部6において、リップ端4cに近い長手方向の一端部のみに設けられており、その他の部位には梨地処理部7は設けられておらず、その他の部位は断面三角形のままとされている。
【0028】
尚、図3に示すように梨地処理部7が設けられたネジ部6の高さ寸法は、梨地処理部7が設けられていない状態のネジ部6の高さ寸法と殆んど同じで、変わることがない。
【0029】
梨地処理部7は、対応する梨地形状を金型キャビティの内面に予め形成し、ゴム成形時にネジ部6の表面に転写する転写法によって成形されるが、その成形方法は特に限定されるものではない。
【0030】
ネジ部6の先端に梨地処理部7が設けられたシールリップ4の軸21への接触状態は、ネジ部6の先端が十分に潰れてリップ端4cが軸21に接触するために図4に示すようになり、すなわちリップ端4cは、緊迫力Wが小さいため接触幅は狭いが、全周に亙って軸21の周面に密接し、これにより隙間漏れが発生するのを防止することができる。したがって本発明所期の目的どおり、シールリップ4にリップ端4cおよびネジ部6が設けられているオイルシール1おいて、シールリップ4の緊迫力Wを低減させてもリップ端4cに隙間漏れが発生することがなく、しかもネジ部6本来の目的であるポンピング能力が低下することもないオイルシール1を提供することができる。梨地処理部7はゴムの表面を粗面化したものであって、本発明はこの梨地処理部7をシールリップ4本体の表面(大気側斜面4eや密封流体側斜面4fなど)ではなくネジ部6の表面のみに設けた点に特徴を有している。
【符号の説明】
【0031】
1 オイルシール
2 金属環
3 ゴム状弾性体
4 シールリップ
4a リップ先端部
4b リップ腰部
4c リップ端
4d 溝部
4e 大気側斜面
4f 密封流体側斜面
4g 接触途切れ部
4A,6A 接触面
5 ガータースプリング
6 ネジ部
6a,6b 斜面
7 梨地処理部
8 凹部
21 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールリップを有し、前記シールリップに、全周に亙って軸の周面に摺動自在に密接するリップ端と、軸回転時にポンピング作用をなすネジ部とが設けられているオイルシールにおいて、
前記シールリップの低緊迫力化に伴って前記ネジ部が潰れにくいことにより前記リップ端の前記軸に対する接触面が円周上で途切れることがないように、前記ネジ部に梨地処理部を設けて前記ネジ部の剛性を低下させたことを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
請求項1記載のオイルシールにおいて、
前記ネジ部は三角断面であって、前記三角断面のネジ部における両斜面にそれぞれ前記梨地処理部が設けられていることを特徴とするオイルシール。
【請求項3】
請求項1または2記載のオイルシールにおいて、
前記ネジ部における前記リップ端に近い端部に前記梨地処理部が設けられるとともに前記ネジ部におけるその他の部位には前記梨地処理部は設けられていないことを特徴とするオイルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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