説明

オイルレベル検知装置

【課題】オイル貯留手段に貯留されるオイルレベルが低下したことを安価な構成で確実に検知することができるオイルレベル検知装置を提供すること。
【解決手段】オイルレベル検知装置30は、信号処理回路32が、エンジン1のクランク室16内の圧力検知値の高周波成分に基づいてクランク室16内のオイルミスト量を検知し、ECU33が、クランク室16内の圧力変動の高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、オイルレベルが低下したことを検知するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルレベル検知装置に関し、特に、内燃機関のオイル貯留手段に貯留されるオイルレベルを検知するオイルレベル検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルパンに貯留されたオイルをオイルポンプから吐出して潤滑部位に供給する内燃機関のオイル供給装置が知られている。
通常、潤滑部位は、油圧式可変動弁機構や動弁系の油圧式ラッシュアジャスタ等、内燃機関に搭載される油圧作動機構や、クランクシャフトやカムシャフトの回転摺動部位といった内燃機関の潤滑部位等々を含んで構成されている。
【0003】
オイルポンプから吐出されるオイルは、これらの複数の潤滑部位に対して、例えば、油圧式可変動弁機構、油圧式ラッシュアジャスタ、内燃機関の潤滑部位といった順にオイル供給経路を通じて供給される。
【0004】
従来、車両に搭載される内燃機関において、内燃機関の潤滑および冷却に使用するオイルを内燃機関の潤滑部位に送給するオイル供給装置として、内燃機関の回転数に比例したオイル吐出圧に設定されるオイルポンプが用いられている。
【0005】
ところで、オイルパンに貯留されるオイルは、オイルポンプによって潤滑部位に供給され、潤滑部位の潤滑および冷却を行った後にオイルパンに回収される。
このとき、オイルパンに貯留されるオイル量が少ないと、オイルパンに回収されるオイルの回収効率が悪化し、オイルパン内に貯留されるオイルレベル(油面高さ)が適正量に対して低下、すなわち、不足する。
【0006】
このようにオイルレベルが低下すると、オイルパンからオイルポンプに向けてオイルを吸い上げるためのストレーナは、空気を吸い込む状態(以下、この状態をエア吸いと呼ぶ)となる可能性がある。
【0007】
オイルポンプがエア吸い状態になると、オイルポンプから吐出されるオイル吐出圧が低下してしまうため、オイルポンプから潤滑部位に充分な量のオイルを供給することができず、潤滑部位の潤滑性が悪化してしまうおそれがある。
このため、オイルパンに貯留されるオイルレベルが低下したことを運転者に警告して運転者にオイルの補充を促す必要がある。
【0008】
従来のオイルレベル検知装置としては、オイルパンに貯留されるオイルレベルを検知するオイルレベルセンサを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このオイルレベルセンサは、オイルパン内に設けられる浮子およびリンク機構等からなり、オイルレベルが低下するのに伴って浮子がオイルと共に変移することを検知することにより、オイルレベルの低下を検知するようになっている。
【0009】
また、従来のオイルレベル検知装置としては、オイルパン内のオイルレベルを点検するオイルレベルゲージを備えたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
オイルレベルゲージは、内燃機関に形成された貫通孔に挿入された状態で内燃機関に取付けられており、内燃機関に取付けられた際にその先端がオイルパン内に充填されたオイルに浸かるようになっている。
【0010】
このオイルレベル検知装置は、内燃機関に取付けたオイルレベルゲージを取外すとともにオイルレベルゲージの先端に付着したオイルを目視することによって、オイルパン内のオイルレベルや状態を確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−286063号公報
【特許文献2】特開2009−180166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような従来のオイルレベルセンサは、浮子やリンク機構等を備えており、非常に高価であるため、オイルレベルセンサによってオイルパン内のオイルレベルを検知するように構成した場合には、オイルレベル検知装置の製造コストが増大してしまう。
【0013】
また、従来のオイルレベルゲージは、運転手にオイル点検作業を依存することになるため、オイル点検を頻繁に行わない運転手にあっては、オイルレベルが低下したことを気づかないおそれがある。
【0014】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、オイル貯留手段に貯留されるオイルレベルが低下したことを安価な構成で確実に検知することができるオイルレベル検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るオイルレベル検知装置は、上記目的を達成するため、(1)内燃機関のオイル貯留手段に貯留されるオイルレベルを検知するオイルレベル検知装置であって、前記内燃機関のクランクシャフトが収納されたクランク室内の圧力検知値の高周波成分に基づいて前記クランク室内のオイルミスト量を検知し、前記高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、前記オイルレベルが低下したことを検知するオイルレベル検知手段を備えたものから構成されている。
【0016】
このオイルレベル検知装置は、内燃機関のクランク室内の圧力検知値の高周波成分に基づいてクランク室内のオイルミスト量を検知する。
【0017】
クランク室内の圧力変動は、内燃機関のクランクシャフトの回転(ピストンの往復運動)に起因するクランク室内の圧力変動の低周波数成分と主にオイルミストの飛散による高周波成分とを含んだ周波数成分となっている。
【0018】
そして、クランク室内のオイルミスト量が多い程、クランク室内の圧力変動の高周波成分の振幅が大きくなるため、クランク室内の高周波成分に基づいてクランク室内のオイルミスト量を検知することができる。
【0019】
また、クランク室内のオイルミストは、例えば、クランクシャフトに設けられたカウンタウェイトの回転による気流によってオイルパンから掻き上げられたり、内燃機関の潤滑部位を潤滑後に、エンジンブロックによって滴下されたオイルがクランクシャフトに衝突して飛散することにより発生する。
【0020】
このため、オイル貯留手段に貯留されるオイル量が多いと、クランク室内のオイルミスト量が多くなり、クランク室内の圧力変動の高周波成分の振幅が大きくなる。また、オイル貯留手段に貯留されるオイル量が少ないと、クランク室内のオイルミスト量が少なくなり、クランク室内の圧力変動の高周波成分の振幅が小さくなる。
【0021】
したがって、クランク室内の圧力変動の高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、オイルレベルが低下したことを検知することにより、高価なオイルレベルセンサを不要にできるとともに、オイル点検作業を運転手に依存するのを不要にでき、オイルレベル検知装置は、安価な構成でオイルレベルが低下したことを確実に検知することができる。
【0022】
上記(1)のオイルレベル検知装置において、(2)前記クランク室内の圧力を検知する圧力センサを備え、前記オイルレベル検知手段が、前記圧力センサから取得した圧力検知値の高周波成分に基づいて前記クランク室内のオイルミスト量を検知するものから構成されている。
【0023】
このオイルレベル検知装置は、オイルレベル検知手段が圧力センサから取得した圧力検知値の高周波成分に基づいてクランク室内のオイルミスト量を検知するので、クランク室内の圧力の実測値からクランク室内の圧力変動を確実に検知することができる。
【0024】
上記(1)または(2)のオイルレベル検知装置において、(3)前記オイルレベル検知手段から入力した駆動信号に基づいてオイルレベルが低下したことを警告する警告手段を備え、前記オイルレベル検知手段は、前記高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、前記警告手段に前記駆動信号を出力するものから構成されている。
【0025】
このオイルレベル検知装置は、オイルレベル検知手段が、高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、警告手段による警告を行うので、オイルレベルが低下したことを運転者に警告することができる。このため、運転者に対してオイル貯留手段にオイルを補充する作業を促すことができ、オイル貯留手段内のオイルレベルを適正なものにして、内燃機関の潤滑部位の潤滑性が悪化してしまうのを防止できる。
【0026】
上記(1)〜(3)に記載のオイルレベル検知装置において、(4)前記オイルレベル検知手段は、前記クランク室内の圧力検知値の周波数成分から前記内燃機関の最高回転数に相当する周波数以上の高周波成分を抽出し、前記抽出された高周波成分からオイルミスト量を検知するものから構成されている。
【0027】
このオイルレベル検知装置は、オイルレベル検知手段が、クランク室内の圧力検知値の周波数成分から内燃機関の最高回転数に相当する周波数以上の高周波成分を抽出し、抽出された高周波成分からオイルミスト量を検知するので、クランク室の圧力変動の周波数成分から内燃機関のクランクシャフトの回転に起因するクランク室の圧力変動の低周波成分を取り除いて高周波成分のみを検知することができる。
【0028】
このため、オイルレベル検知手段は、クランク室内のオイルミスト量を正確に検知することができ、このオイルミスト量に基づいてオイル貯留手段内のオイルレベルが低下したことを高精度に検知することができる。
【0029】
上記(1)〜(4)のオイルレベル検知装置において、(5)内燃機関の回転数を検知する回転数検知手段を有し、前記オイルレベル検知手段は、前記内燃機関の回転数に応じて前記閾値を変更して設定し、前記回転数検知手段の検知情報に基づき、前記高周波成分の圧力値が前記内燃機関の回転数に応じて設定された閾値以下であることを条件として、前記オイルレベルが低下したことを検知するオイルレベル検知手段を備えたものから構成されている。
【0030】
クランク室内に飛散するオイルミスト量は、内燃機関の回転数が大きくなるにつれて増大するようになっており、内燃機関の回転数と比例関係となる。このため、クランク室内の圧力値の高周波成分は、内燃機関の回転数が大きくなるにつれて大きくなる。
このため、高周波成分の圧力値の閾値を内燃機関の回転数にかかわらずに一定にすると、オイルレベルを正確に判定することができない。
【0031】
そこで、オイルレベル検知手段が、内燃機関の回転数に応じて閾値を変更して設定することにより、内燃機関の回転数に応じて変動するクランク室内の高周波成分に応じた最適な閾値を設定し、回転数検知手段によって検知された内燃機関の回転数に基づき、高周波成分の圧力値が内燃機関の回転数に応じて設定された閾値以下であることを条件として、オイルレベルが低下したことを検知する。
【0032】
このようにすれば、オイル貯留手段のオイルレベルが低下したことを高精度に検知することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、オイル貯留手段に貯留されるオイルレベルが低下したことを安価な構成で確実に検知することができるオイルレベル検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、オイルレベル検知装置を備えた内燃機関の概略構成図である。
【図2】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、エンジン回転数とクランク室内のオイル飛沫量との関係を示す図である。
【図3】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、クランク室内の高周波成分の圧力値とオイル飛沫量との関係を示す図である。
【図4】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、図1の部分拡大図である。
【図5】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、クランク室内のオイルミスト量が多い場合のクランク室の圧力の波形を示す図である。
【図6】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、クランク室内のオイルミスト量が少ない場合のクランク室の圧力の波形を示す図である。
【図7】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、信号処理回路のHPFによる信号処理後のクランク室の圧力の波形を示す図である。
【図8】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、信号処理回路の半波整流回路による信号処理後のクランク室の圧力の波形を示す図である。
【図9】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、信号処理回路のLPFによる信号処理後のクランク室の圧力の波形を示す図である。
【図10】本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図であり、オイルレベル検知処理プログラムのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係るオイルレベル検知装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図10は、本発明に係るオイルレベル検知装置の一実施の形態を示す図である。
【0036】
まず、構成を説明する。
図1において、内燃機関としてのエンジン1は、エンジン本体10と、オイルレベル検知装置30とを備えている。
【0037】
エンジン本体10は、シリンダブロック11と、シリンダブロック11に設けられた図示しないシリンダヘッドと、シリンダブロック11の下部に設けられたオイルパン12とを含んで構成されている。
シリンダブロック11にはピストン13が昇降自在に設けられており、ピストン13は、 コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。
【0038】
クランクシャフト15は、シリンダブロック11の下部に形成されたクランク室16に収納されており、クランク室16内に設けられたベアリングキャップ16aを介してシリンダブロック11に回転自在に設けられている。
なお、本実施の形態のクランク室16は、シリンダブロック11によって形成されている。また、シリンダブロックの下部にクランクケースを固定し、クランクケースの内部によってクランク室を形成してもよい。
【0039】
クランクシャフト15は、コネクティングロッド14を介してピストン13が取付けられるクランクピン17と、クランク室16内のベアリングキャップ16aに回転自在に支持されるクランクジャーナル18と、クランクシャフト15の全体の重量バランスを取るためのカウンタウェイト19とを備えている。このカウンタウェイト19は、エンジン1の気筒数に応じた数だけ設けられている。
【0040】
このエンジン1は、エンジン1の運転時に燃焼室内で燃料が燃焼する際の燃焼エネルギーによりピストン13が上下に往復運動を行うと、この往復運動がコネクティングロッド14を介してクランクシャフト15の回転運動に変換されて出力される。
【0041】
オイルパン12は、オイル貯留手段を構成しており、オイルパン12にはエンジンオイル(以下、単にオイルという)が貯留されている。なお、図1において、オイルの液面H1の高さがオイルレベルに相当する。
オイルパン12内には図示しないオイルストレーナが設けられており、このオイルストレーナは、下端部が常にオイルパン12内のオイルに浸漬されるように配置されている。
【0042】
また、オイルストレーナの上端は、図示しないオイルポンプに接続されており、エンジン1の運転時には、オイルポンプが作動してオイルパン12内に貯留されたオイルを吸い込んで汲み上げるようになっている。
【0043】
そして、エンジン本体10内の各部の潤滑、冷却等に使用されたオイルは、エンジン本体10内を落下したり、流れ落ちることにより、オイルパン12に回収される。また、クランクシャフト15とオイルパン12の間にはバッフルプレート20が設けられており、このバッフルプレート20は、クランクシャフト15と干渉しない位置に配置されている。
【0044】
また、シリンダブロック11の内部には圧力検知手段としての圧力センサ21が設けられており、圧力センサ21は、1つのカウンタウェイト19に対向した位置に設置されている。
【0045】
この圧力センサ21は、圧力導入パイプ22と、圧力検知部23とによって構成されている。圧力導入パイプ22の基端部22aは、圧力検知部23に連結されており、クランク室16の圧力が圧力導入パイプ22を介して圧力検知部23に伝えられるようになっている。圧力検知部23は、クランク室16の圧力が高くなる程、出力信号が大きくなるように構成されている。
【0046】
なお、オイルパン12の形状は、均一な形状とはなっておらず、場所によって段差等を有し、オイルパン12の底面よりも高い位置でオイルパン12内に貯留されるオイルの部位が存在することになる。
【0047】
このため、オイルパン12内のオイルの高さは、オイルパン12の場所によって異なっている。したがって、圧力センサ21は、オイルパン12内のオイルの高さが最も高い場所の上方に位置するカウンタウェイト19に対向して設置することが好ましい。
【0048】
何故なら、オイルレベルが低下すると、オイルパン12の底面よりも高い段差上に貯留されるオイルが段差上からオイルパンの底面上に位置するオイルに流れ込んで、カウンタウェイトの回転気流によってオイルが掻き上げられず、圧力センサ21がオイルミストの圧力を高精度に検知できないおそれがあるからである。
【0049】
また、クランクシャフト15には回転数検知手段としての回転数センサ24が設けられており、この回転数センサ24は、所定角度単位のクランクシャフト15の回転からエンジン回転数を検知して電気信号に変換して出力するようになっている。
【0050】
オイルレベル検知装置30は、オイルレベル検知手段31を備えており、このオイルレベル検知手段31は、信号処理回路32および電子制御ユニット(Electronic Control Unit:以下、ECUという)33を含んで構成されている。
【0051】
信号処理回路32は、HPF(High Pass Filter)34と、半波整流回路35と、LPF(Low Pass Filter)36とを含んで構成されている。
【0052】
HPF34は、圧力センサ21から入力されたクランク室16内の圧力検知値の周波数成分から低周波成分を除去するようになっている。
【0053】
この低周波成分は、エンジン1の最高回転数に相当する周波数成分であり、HPF34は、この低周波数成分以上の高周波成分を抽出するようになっている。
【0054】
半波整流回路35は、HPF34から入力される信号の負の成分を除去する処理を行うようになっている。すなわち、半波整流回路35は、HPF34から入力される信号の正の成分のみを抽出する。また、LPF36は、半波整流回路35から入力される信号を平滑化する処理を行うようになっている。
【0055】
このように信号処理回路32は、圧力センサ21によって検知されたクランク室16内の圧力検知値の高周波成分に基づいてクランク室16内のオイルミスト量を検知する処理を実行する。
【0056】
ECU33は、例えば、マイクロコンピュータを主体に構成された電子回路からなり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。
ROMには、オイルレベル検知プログラム、オイルレベル検知プログラムを実行する際に参照されるオイルレベル判定マップ等が記憶されている。
【0057】
オイルレベル判定マップは、エンジン回転数とエンジン回転数に応じたオイルレベルを判定するための閾値とが関連付けられて記憶されている。
RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。
【0058】
ECU33は、信号処理回路32から入力された信号、回転数センサ24からの入力される信号に基づいてオイルレベル判定マップを参照し、信号処理回路32から入力された高周波成分の圧力値がエンジン回転数に応じて定められた閾値以下であることを条件として、オイルレベルが低下したことを検知する処理を実行する。
【0059】
また、ECU33には、メータパネルに設けられた警告手段としてのウォーニングランプ37が電気的に接続されている。ウォーニングランプ37は、ECU33から駆動信号が入力したときに、点灯あるいは点滅することにより、運転者やメンテナンスを行う際の作業者等にオイルパン12内のオイルレベルが低下したことを警告する。
【0060】
また、警告手段は、ウォーニングランプ37に限定されるものではなく、警報音あるいは音声を発生させるブザーやスピーカ等から構成してもよい。
【0061】
次に、信号処理回路32によってクランク室16内のオイルミストを計測する方法について説明する。
クランク室16内に存在するオイルミストの量は、エンジンの運転状態等によって変化する。図2に示すように、オイルパン12内のオイルレベルが適正レベルよりもAmm多い状態では、Aで示すように、オイル飛沫量が多くなる。
【0062】
また、オイルパン12内のオイルレベルが適正レベルよりもBmm少ない状態では、Bで示すように、オイル飛沫量が少なくなる。このようにオイル飛沫量は、エンジン回転数が増大するにつれて多くなる特性を有する。
【0063】
また、図3に示すように、エンジン回転数が同一のときに、クランク室16内のオイル飛沫量を増大させた場合に、クランク室16内の圧力の高周波成分は、オイル飛沫量が多い程、高くなる。
したがって、図2、図3から明らかなように、クランク室16内の高周波成分の圧力変動の幅が小さい程、クランク室16内のオイル飛沫量が少ないことになり、オイル飛沫量が少ないと言うことは、オイルパン12のオイルレベルが低下しているものと言える。
【0064】
なお、図4に示すように、圧力センサ21の圧力導入パイプ22の先端部22aの近傍をオイルミストが通過する場合、オイルミストO1が圧力導入パイプ22の先端部22aに近づくとき、圧力センサ21により検知されるクランク室16内の圧力が高くなる。
【0065】
逆に、オイルミストO2が圧力導入パイプ22の先端部22aから遠ざかるとき、圧力センサ21により検知されるクランク室16内の圧力が低くなる。
【0066】
ところが、オイルミストが飛ぶ方向はランダムであるため、全体的に見れば、クランク室16内の圧力変動は、クランク室16内のオイルミスト量が多いとき、図5に示す挙動を示し、クランク室16内のオイルミスト量が少ないとき、図6に示す挙動を示す。
【0067】
図7は、圧力センサ21の検知信号に対して、HPF34による信号処理を行った後の波形を示している。HPF34によって、クランク室16の圧力変動の速い成分が抽出される。
【0068】
HPF34による信号処理では、クランク室16の圧力変動が速い程、すなわち、圧力変動の周波数が高い程、振れ幅の大きな信号が得られる。このため、クランク室16内のオイルミスト量が多い程、振れ幅の大きな信号が得られる。
【0069】
HPF34により抽出する周波数の値は、エンジン本体10の最高回転数よりも十分に高い値であれば任意に設定可能であり、例えば、1kHzに設定されている。
【0070】
エンジン本体10の最高回転数を、例えば、6000rpmとすると、6000rpmは100Hzに相当するので、1kHzは、エンジン本体10の回転数よりも十分に高い値となる。このため、エンジン本体10のクランクシャフト15の回転(ピストン13の往復運動)に起因するクランク室16内の圧力変動は、 HPF34によって除去されることになる。そして、この場合、HPF34によって抽出される高周波成分は、主としてクランク室16内のオイルミスト量の変動による圧力変動の成分となる。
【0071】
次に、半波整流回路35によって、図8に示すように、HPF34から出力された信号の負の周波数成分がカットされ、正の周波数成分が抽出される。図8では、図7に示すHPF34による信号処理後の信号に対し、半波整流回路35による信号処理を行った後のクランク室16の圧力の波形を示している。
【0072】
半波整流回路35によって、負の周波数成分がカットされたパルス状の信号が得られる。ここでは、図7の基準圧力値P1(例えば平均圧力)よりも大きな信号の成分が正の成分とされ、基準圧力値P1よりも小さな信号の周波数成分が負の周波数成分とされている。半波整流回路35による信号処理では、クランク室16内のオイルミスト量が多い程、大きな値(波高)のパルスが得られる。
【0073】
次に、LPF36によって、図9に示すように、半波整流回路35から出力されたパルス状の信号が平均化され、平滑な信号が得られる。図9では、半波整流回路35による信号処理後の図5に示す信号に対しLPF36による信号処理を行った後のクランク室16の圧力の波形を実線で示す。
【0074】
また、半波整流回路35による信号処理後の図6に示す信号に対しLPF36による信号処理を行った後のクランク室16の圧力の波形を実線で示す。LPF36による信号処理では、入力されるパルスが大きい程、大きな値の信号が得られる。このため、クランク室16内のオイルミスト量が多い程、大きな値の信号が得られ、クランク室16内のオイルミスト量が少ない程、例えば、図6に示すような小さな値の信号が得られることになる。
【0075】
次に、図10に示すフローチャートに基づいてオイルレベル検知処理を説明する。なお、図10に示すフローチャートは、ECU33によって実行されるオイルレベル検知プログラムである。
【0076】
まず、ECU33は、回転数センサ24からの検知情報に基づいてクランクシャフト15の回転数、すなわち、エンジン回転数を読み込む(ステップS1)。
【0077】
次いで、ECU33は、ROMに格納されたオイルレベル判定マップを参照し、回転数センサ24によって検知された回転数に応じた閾値Pを取得する(ステップS2)。
【0078】
なお、この閾値Pは、エンジン回転数に応じた高周波成分(オイルミスト量)に対して割り当てられているが、例えば、1500rpm〜1600rpmの範囲では、AkPa、1600rpm〜1700rpmの範囲では、BkPaというようにエンジン回転数に幅を有して割り当てられている。
【0079】
また、この閾値Pは、オイルレベルが適正な場合の高周波成分の圧力値よりも低く設定されている。このため、オイルレベルが適正なレベルよりも若干低下した状態で警告を行うのを防止することができる。
【0080】
次いで、ECU33は、信号処理回路32によって検知された高周波成分の圧力値Piを取得し(ステップS3)、この取得された圧力値Piが閾値P以下であるか否かを判別する(ステップS4)。
【0081】
ECU33は、図9に示すように、圧力値Piが閾値Pを超えているものと判断した場合には、例えば、オイルパン12内のオイルレベルが補充を行うレベルまで低下していないものと判断してステップS1に戻る。
【0082】
また、ECU33は、図9に示すように、圧力値Piが閾値P以下であるものと判断した場合には、例えば、オイルパン12内のオイルレベルがオイルの補充を行うレベルまで低下しているものと判定して、駆動信号をウォーニングランプ37に出力し(ステップS5)、今回の処理を終了する。
【0083】
ウォーニングランプ37は、ECU33から駆動信号を入力すると、点灯または点滅によって運転者やメンテナンスを行う際の作業者等にオイルパン12内のオイルレベルが低下したことを警告する。
【0084】
このため、運転者は、オイルパン12内のオイルが不足したものと判断して、オイルパン12にオイルを補充する作業を行う。
【0085】
このように本実施の形態のオイルレベル検知装置30は、信号処理回路32が、エンジン1のクランク室16内の圧力検知値の高周波成分に基づいてクランク室16内のオイルミスト量を検知し、ECU33が、クランク室16内の圧力変動の高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、オイルレベルが低下したことを検知するように構成している。
【0086】
このため、オイルレベル検知装置30は、高価なオイルレベルセンサを不要にできるとともに、オイル点検作業を運転手に依存するのを不要にでき、オイルレベル検知装置30は、安価な構成でオイルレベルが低下したことを確実に検知することができる。
【0087】
また、本実施の形態のオイルレベル検知装置30は、クランク室16内の圧力を検知する圧力センサ21を備え、信号処理回路32が、圧力センサ21から取得した圧力検知値の高周波成分に基づいてクランク室16内のオイルミスト量を検知するので、クランク室16内の実測値からクランク室16内の圧力変動を確実に検知することができる。
【0088】
また、本実施の形態のオイルレベル検知装置30は、高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、ウォーニングランプ37による警告を行うようにしたので、オイルレベルが低下したことを運転者に警告することができる。このため、運転者に対してオイルパン12にオイルを補充する作業を促すことができ、オイルパン12のオイルレベルを適正なものにして、エンジン1の潤滑部位の潤滑性が悪化してしまうのを防止できる。
【0089】
また、本実施の形態のオイルレベル検知装置30は、信号処理回路32が、クランク室16内の圧力検知値の周波数成分からエンジン1の最高回転数に相当する周波数以上の高周波成分を抽出し、この抽出された高周波成分からオイルミスト量を検知するので、クランク室16の圧力変動の周波数成分からエンジン1のクランクシャフト15の回転に起因するクランク室16の圧力変動の低周波成分を取り除いて高周波成分のみを取得することができる。
【0090】
このため、信号処理回路32は、オイルミスト量を正確に検知することができ、ECU33は、オイルミスト量に基づいてオイルパン12内のオイルレベルが低下したことを高精度に検知することができる。
また、本実施の形態のオイルレベル検知装置30は、ECU33が、エンジン1の回転数に応じて閾値を変更して設定している。
【0091】
すなわち、クランク室16内に飛散するオイルミスト量は、図2に示すように、エンジン1の回転数が大きくなるにつれて増大するようになっており、エンジン1の回転数と比例関係となる。このため、クランク室16内の高周波成分は、エンジン1の回転数が大きくなるにつれて大きくなる。
【0092】
このため、高周波成分の圧力値の閾値をエンジン1の回転数にかかわらずに一定にすると、オイルレベルを正確に判定することができない。
【0093】
したがって、本実施の形態のECU33は、エンジン回転数に応じて閾値を変更して設定することにより、エンジン回転数に応じて変動するクランク室16内の高周波成分に応じた最適な閾値を設定し、回転数センサ24によって検知されたエンジン回転数に基づき、高周波成分の圧力値がエンジン回転数に応じて設定された閾値以下であることを条件として、オイルレベルが低下したことを検知するようにしている。
【0094】
このようにすれば、オイルパン12内のオイルレベルが低下したことを高精度に検知することができる。
なお、本実施の形態では、1つのカウンタウェイト19に対向する位置に圧力センサ21を設けているが、2つ以上のカウンタウェイト19のそれぞれに対向する位置に圧力センサを設けてもよい。
【0095】
また、本実施の形態では、オイルレベル検知装置を車両用内燃機関に適用した例について説明したが、オイルレベル検知装置は、動力源として内燃機関を用いるものであれば適用可能であり、例えば、所謂ハイブリッド車や自動二輪車等に搭載される内燃機関はもとより、船舶や建設設備等のように車両以外のものに搭載される内燃機関にも適用可能である。
【0096】
以上のように、本発明に係るオイルレベル検知装置は、オイル貯留手段に貯留されるオイルレベルが低下したことを安価な構成で確実に検知することができるという効果を有し、内燃機関のオイル貯留手段に貯留されるオイルレベルを検知するオイルレベル検知装置等として有用である。
【符号の説明】
【0097】
1 エンジン(内燃機関)
12 オイルパン(オイル貯留手段)
15 クランクシャフト
21 圧力センサ(圧力検知手段)
24 回転数センサ(回転数検知手段)
30 オイルレベル検知装置
31 オイルレベル検知手段
37 ウォーニングランプ(警告手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のオイル貯留手段に貯留されるオイルレベルを検知するオイルレベル検知装置であって、
前記内燃機関のクランクシャフトが収納されたクランク室内の圧力検知値の高周波成分に基づいて前記クランク室内のオイルミスト量を検知し、前記高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、前記オイルレベルが低下したことを検知するオイルレベル検知手段を備えたことを特徴とする内燃機関のオイルレベル検知装置。
【請求項2】
前記クランク室内の圧力を検知する圧力センサを備え、前記オイルレベル検知手段が、前記圧力センサから取得した圧力検知値の高周波成分に基づいて前記クランク室内のオイルミスト量を検知することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のオイルレベル検知装置。
【請求項3】
前記オイルレベル検知手段から入力した駆動信号に基づいてオイルレベルが低下したことを警告する警告手段を備え、
前記オイルレベル検知手段は、前記高周波成分の圧力値が予め定められた閾値以下であることを条件として、前記警告手段に前記駆動信号を出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関のオイルレベル検知装置。
【請求項4】
前記オイルレベル検知手段は、前記クランク室内の圧力検知値の周波数成分から前記内燃機関の最高回転数に相当する周波数以上の高周波成分を抽出し、前記抽出された高周波成分からオイルミスト量を検知することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の内燃機関のオイルレベル検知装置。
【請求項5】
内燃機関の回転数を検知する回転数検知手段を有し、
前記オイルレベル検知手段は、前記内燃機関の回転数に応じて前記閾値を変更して設定し、前記回転数検知手段の検知情報に基づき、前記高周波成分の圧力値が前記内燃機関の回転数に応じて設定された閾値以下であることを条件として、前記オイルレベルが低下したことを検知するオイルレベル検知手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1に記載のオイルレベル検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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