説明

オキシメチレンポリマー及びその調製方法

【課題】単峰性の分子量分布を示し、より高い耐衝撃性を示す、オキシメチレンポリマーの改善された調製方法及びその方法から得られるオキシメチレンポリマーに関する。
【解決手段】ホルムアルデヒドのアセタール又は多価アルコール、及び多塩基カルボン酸のアルキルエステル中に溶解させたヘテロポリ酸又はその酸性塩を含むカチオン重合用の開始剤の存在下で、−CH−O−単位を形成するモノマーを重合させることを含む、オキシメチレンポリマーの調製方法並びにその方法から得られるオキシメチレンポリマーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシメチレンポリマーの調製方法並びにその方法から得ることができるオキシメチレンポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
オキシメチレンポリマーは、ホルムアルデヒドのカチオン開始重合又はアニオン開始重合によって得ることができる。
【0003】
安定なオキシメチレンポリマーは、ホルムアルデヒド単位を形成するモノマー(好ましくはトリオキサン)を少量のコモノマーと共にカチオン共重合に供し、それにより少量のオキシアルキレン単位を鎖中に実質的にランダムに組み込むことによって、調製することができる。分子量の調節は移動剤、一般にはジアルキルホルマール類によって実現される。不安定な端部がアルカリ媒体中で最初のオキシアルキレン単位にまで分解されることにより(加水分解)、安定な末端ヒドロキシアルキル基(コモノマー由来)及び末端アルキル基(移動剤由来)を有するコポリマーがこうして得られる。このように、例えば、欧州特許出願公開第EP 0 504 405 A1号公報(特許文献1)は、オキシメチレン単位に加えて他のオキシアルキレン単位、具体的にはオキシエチレン単位を少ない割合で含有し、末端ホルミル基の含量が少ないオキシメチレンポリマーを開示している。オキシメチレン単位の割合に基づく、他のオキシアルキレン単位の割合は、0.07〜0.5mol%である。オキシアルキレン単位が前記含量より少ないと、不十分な熱安定性と温水安定性とを有するポリマーが生成する。ポリマーは、触媒としての選択量のパーフルオロアルカンスルホン酸(誘導体)の存在下で調製され、水分及びギ酸の含量が少ないモノマーを使用する。重合混合物の失活は、選択された結晶性の塩基性吸着剤、例えばアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物を加えることにより行われる。したがって、比較的オキシアルキレン単位の含量が多いコポリマーを調製することもまた可能である。
【0004】
塊状重合、不活性溶媒の存在下での重合、又は懸濁重合のいずれが行われるかに関わらず、前記重合条件下で、生成するポリマーは重合の初期段階において沈殿する。このことは、その後、必ず二峰性の分子量分布をもたらす。すなわち、分子量分布の曲線における極大が典型的には比較的低分子量(例えば2000〜5000ダルトン)に存在し、分子量分布の曲線におけるさらなる極大が典型的には比較的高分子量(例えば50000〜200000ダルトン)に存在する。低分子量画分の質量分率は5〜15%である。低分子量画分はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定することができる。これらの相当量の低分子量画分は、ポリマーの機械的特性に大きな影響を及ぼす。
【0005】
その一方で、単峰性の分子量分布を有し、向上した衝撃強度及び曲げ弾性率によって特徴づけられるオキシメチレンポリマーもまた、トリオキサンのカチオン重合により得られることが知られている(特許文献2:欧州特許出願公開第EP 0 716 105 A2号公報)。ここでの改良点は、単峰性のモル質量分布、0.3〜0.9モル%のコモノマー含量、及び1〜5cm/10分のメルトボリュームレート(MVR)を達成することにより、実現されている。
【0006】
これらのポリマーの調製は、高温での均一相における重合によって行われる。結果として、かなりの程度で二次反応が起こり、調製におけるポリマーの収率が制限されている。
最後に、ヘテロポリ酸は、−CH−O−単位を形成するモノマーの重合のための触媒として知られている。
【0007】
ドイツ国特許出願公開第DE 196 33 708 A1号公報(特許文献3)は、ジ−n−ブチルエーテル中に溶解させたヘテロポリ酸の存在下におけるトリオキサンのコモノマーとの重合を開示している。さらに、酢酸ブチル中に溶解させたヘテロポリ酸の存在下における1,3,5−トリオキサンの重合が知られている(非特許文献1:Macromol.Chem.190,p.929〜938(1989年))。
【0008】
しかしながら、先行技術で公知の開始剤系(ヘテロポリ酸及び溶媒)は、加水分解安定性が不十分であるという欠点がある。さらに、先行技術に記載されるヘテロポリ酸を溶解させるのに必要な溶媒は、製造プラントにおいて問題を引き起こす。
【0009】
ヘテロポリ酸を溶解させるための、先行技術で公知の溶媒は、トリオキサンの重合の条件下で不活性ではなく、分子量の減少を引き起こすだけでなく、得られるオキシメチレンポリマーの不安定な末端基をももたらす。その上、先行技術で開示されるヘテロポリ酸を溶解させるのに用いられる溶媒は、トリオキサンとの共沸混合物を形成するため、製造ラインから容易に分離することができない。加えて、先行技術で開示される溶媒は、要求される安全上の側面並びに環境上の側面を満たしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第EP 0 504 405 A1号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第EP 0 716 105 A2号公報
【特許文献3】ドイツ国特許出願公開第DE 196 33 708 A1号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Macromol.Chem.190,p.929〜938(1989年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、単峰性分子量分布を示し、より高い耐衝撃性を示す、オキシメチレンポリマーの改善された調製方法及びその方法から得ることができるオキシメチレンポリマーを提供することである。さらに、本発明の目的は、スケールアップしたより付加価値の高いプロセスにおいて、溶媒の性質に起因する問題を引き起こさないオキシメチレンポリマーの調製方法、すなわち、プロセス条件下で不活性であり、さらなる装置を用いずに製造ラインから容易に分離することができる溶媒を用いたオキシメチレンポリマーの調製方法並びにその方法から得ることができるオキシメチレンポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、多塩基カルボン酸のアルキルエステル中に溶解させたヘテロポリ酸又はその酸性塩を含む開始剤系によって、上記の問題を解決できることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のポリマーのGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による分子量分布を示す図である。
【図2】実施例2(灰色の影の曲線)及び比較例1(白色の影の曲線)のポリマーのGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による分子量分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
したがって、本発明の第1の実施形態は、下記の工程、すなわち、
(i)ホルムアルデヒドのアセタール又は多価アルコール、及び
(ii)カチオン重合用の開始剤
の存在下で、−CH−O−単位を形成するモノマーを重合させる工程を含む、オキシメチレンポリマーの調製のための方法であり、ここで前記開始剤は多塩基カルボン酸のアルキルエステル中に溶解させたヘテロポリ酸又はその酸性塩である。
【0016】
カチオン重合のための開始剤は、ヘテロポリ酸又はその酸性塩である。ヘテロポリ酸は、脱水によって異なる種類のオキソ酸を縮合させることにより生成されるポリ酸の総称であり、単核又は多核錯イオンを含み、ヘテロ元素が中心に存在し、酸素原子を介してオキソ酸残基が縮合している。そのようなヘテロポリ酸は、式(1):
[MM’O (1)
により表され、式中、
MはP、Si、Ge、Sn、As、Sb、U、Mn、Re、Cu、Ni、Ti、Co、Fe、Cr、Th、及びCeから成る群より選択される元素を表し、
M’はW、Mo、V、及びNbから成る群より選択される元素を表し、
mは1〜10であり、
nは6〜40であり、
zは10〜100であり、
xは1又はそれを超える整数であり、かつ
yは0〜50である。
【0017】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、ヘテロポリ酸は、次式:
[MM’
によって表される化合物であり、式中、
MはP及びSiから成る群より選択される元素を表し、
M’はW、Mo、及びVから成る群より選択される配位元素を表し、
mは1〜10であり、
nは6〜40であり、
zは10〜100であり、
xは最小でも1の整数であり、かつ
yは0〜50である。
【0018】
カチオン重合用の開始剤として特に効果的なヘテロポリ酸において、上記の式中の中心元素(M)は、P及びSiから選択される1種又は複数種の元素から構成され、配位元素(M’)はW、Mo、及びVから選択される少なくとも1つの元素(特に好ましくはW又はMo)から構成される。
【0019】
さらに、ヘテロポリ酸の酸性塩で、種々の金属のうち任意の金属が式(1)中のH(水素原子)の一部と置き換わった形態をそれぞれが有するものもまた、本発明の方法における開始剤として使用することができる。
【0020】
ヘテロポリ酸の具体例は、ホスホモリブデン酸、ホスホタングステン酸、ホスホモリブドタングステン酸、ホスホモリブドバナジン酸、ホスホモリブドタングストバナジン酸、ホスホタングストバナジン酸、シリコタングステン酸、シリコモリブデン酸、シリコモリブドタングステン酸、シリコモリブドタングストバナジン酸、及びそれらの酸性塩から成る群より選択される。
【0021】
12−モリブドリン酸(ホスホ十二モリブデン酸三水素;HPMo1240)及び12−タングストリン酸(ホスホ十二タングステン酸三水素;HPW1240)並びにそれらの混合物から選択されるヘテロポリ酸によって、優れた結果が得られている。
【0022】
−CHO−単位を形成するモノマー成分の重合において開始剤として用いられるヘテロポリ酸又はその酸性塩の量は、モノマー成分の総量を基準として、0.1〜1000ppm、好ましくは0.2〜40ppm、より好ましくは0.3〜5ppmである。
【0023】
本発明による方法において用いられるカチオン重合用の開始剤は、多塩基カルボン酸のアルキルエステルに溶解させる。驚くべきことに、多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、ヘテロポリ酸又はその塩を室温(25℃)で溶解させるのに効果的であることが見出された。その一方で、多塩基カルボン酸のアルキルエステルに基づく溶媒は、反応を均一に行うという意味で反応を支援するだけでなく、さらには単峰性分子量分布を有するオキシメチレンポリマーが得られるように支援し、その上、多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、製造プラントで行われる、スケールアップしたより付加価値の高いプロセスにおける重合プロセスに悪影響を与えない。
【0024】
さらに、多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、共沸混合物が生成されないので、製造ラインから容易に分離することができる。加えて、ヘテロポリ酸又はその酸性塩を溶解させるのに用いられる多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、安全上の側面及び環境上の側面を満たし、さらに、オキシメチレンポリマーの製造の条件下で不活性である。
【0025】
好ましくは、多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、式(2):
(ROOC)−(CH−(COOR’) (2)
の脂肪族ジカルボン酸のアルキルエステルであり、式中、
nは2〜12、好ましくは3〜6の整数であり、かつ
R及びR’は互いに独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、及びtert−ブチルから成る群より選択される。
【0026】
上記の式(2)のジメチルエステル又はジエチルエステルが特に好ましく、とりわけアジピン酸ジメチル(DMA;dimethyl adipate)が好ましい。
【0027】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、式(3):
(ROOC)−CH−(CH−CH−(COOR’) (3)
の化合物であり、式中、
mは0〜10、好ましくは2〜4の整数であり、かつ
R及びR’は互いに独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基であり、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、及びtert−ブチルから成る群より選択される。
【0028】
式(3)によるヘテロポリ酸を溶解させるのに用いることができる特に好ましい成分は、ブタンテトラカルボン酸テトラエチルエステル又はブタンテトラカルボン酸テトラメチルエステルである。
【0029】
本発明による方法のさらに好ましい実施形態によれば、多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、式(4):
(ROOC)−C−(COOR’) (4)
の芳香族ジカルボン酸エステルであり、式中、
R及びR’は互いに独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、及びtert−ブチルから成る群より選択される。
【0030】
式(4)による好ましい芳香族ジカルボン酸エステルは、ジメチルイソフタラート、ジエチルイソフタラート、又はジメチルテレフタラート、又はジエチルテレフタラートである。
【0031】
多塩基カルボン酸のアルキルエステルの具体例は、ジメチルグルタル酸、ジメチルアジピン酸、ジメチルピメリン酸、ジメチルスベリン酸、ジエチルグルタル酸、ジエチルアジピン酸、ジエチルピメリン酸、ジエチルスベリン酸、ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸、ジメチルテレフタル酸、ジエチルフタル酸、ジエチルイソフタル酸、ジエチルテレフタル酸、ブタンテトラカルボン酸テトラメチルエステル、及びブタンテトラカルボン酸テトラエチルエステル、並びにそれらの混合物から成る群より選択される。
【0032】
ヘテロポリ酸を溶解させるのに用いられる多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、室温(25℃)で固体であってもよい。これは、多塩基カルボン酸のアルキルエステルが液体であり、ヘテロポリ酸を均一に溶解させることができるより高い温度において、ヘテロポリ酸又はその酸性塩が反応混合物に導入されることが好ましいためである。本発明による方法の好ましい実施形態によれば、多塩基カルボン酸のアルキルエステルの融点は100℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは25℃未満である。その一方で、多塩基カルボン酸のアルキルエステルが反応条件下で蒸発しないことが望ましい。そのため、1barにおける多塩基カルボン酸のアルキルエステルの沸点は、好ましくは100℃より高く、好ましくは150℃より高く、より好ましくは170℃より高い。
【0033】
窒素原子を有する多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、重合プロセスに悪影響を及ぼすことがわかっている。そのため、好ましい実施形態によれば、多塩基カルボン酸のアルキルエステルは窒素原子を含有しない。
【0034】
ヘテロポリ酸を溶解させるのに用いられる多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、環境に害を及ぼすべきでなく、市販されており安価であることが好ましい。
【0035】
上記の多塩基カルボン酸のアルキルエステルの混合物もまた、例えば溶媒系の融点を下げるために使用することができる。
【0036】
ヘテロポリ酸は、溶液全体の重量を基準とした重量で、5重量パーセント未満の量で、好ましくは0.01〜5重量パーセントの範囲の量で、多塩基カルボン酸のアルキルエステル中に溶解させることが好ましい。
【0037】
5重量パーセントを超えるヘテロポリ酸の濃度は、開始剤がモノマーと完全に混ざり得る前の注入の時点でポリマー沈殿物の形成を引き起こす可能性のある、不均一な開始反応をもたらす傾向があることがわかっている。ポリマー沈殿物は、開始剤をカプセルに包まれたように被覆する恐れがあり、その結果、それ以上の重合が起こらない可能性がある。
【0038】
オキシメチレンポリマー(オキシメチレンホモポリマー又はオキシメチレンコポリマーであってもよい)の調製方法は、−CH−O−単位を形成するモノマーを重合する工程を含む。−CH−O−を形成するモノマーは、好ましくはホルムアルデヒド、テトロキサン、又はより好ましくはトリオキサンである。
【0039】
オキシメチレンコポリマーは、ホルムアルデヒドから、又はその環状オリゴマーから、特にトリオキサンから、及びコモノマー(適切であれば置換されていてもよい、環状エーテル、アルデヒド、環状アセタール、及び/又は直鎖のオリゴ若しくはポリアセタールなど)から得られる。本発明による方法で用いることができるコモノマーの具体例は、エチレンオキシド、プロピレン1,2−オキシド、ブチレン1,2−オキシド、ブチレン1,3−オキシド、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキセパン、及び1,3,6−トリオキソカンである。
【0040】
本発明によるオキシメチレンポリマーの調製方法は、トリオキサン、又はトリオキサン及びジオキソランの混合物などの、ポリオキシメチレンを形成するモノマーの重合によって行われるのが好ましい。重合は沈殿重合として、又は特にメルトにて(溶融物中で)行うことができる。
【0041】
−CH−O−を形成するモノマー及び任意にジオキソランなどのコモノマーの重合は、連鎖移動剤(調整剤)として用いられるホルムアルデヒドのアセタールの存在下で行われる。好ましくは、ホルムアルデヒドのアセタールは、式(5):
−(O−CH−O−R (5)
の化合物であり、式中、
及びRは互いに独立に、アルキル基、好ましくはメチル、を表し、かつ
qは1〜100の整数である。
【0042】
及びRは好ましくは、互いに独立に、直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキル基であり、このアルキル基はより好ましくは直鎖である。
【0043】
特に好ましくは、R及びRは互いに独立に、メチル、エチル、プロピル、又はブチルであり、とりわけメチルであるのが特に好ましい。
【0044】
qは好ましくは1〜9の範囲の整数であり、より好ましくはqは1である。
【0045】
最も好ましくはホルムアルデヒドのアセタールはメチラールである。
【0046】
本発明の方法において、ホルムアルデヒドのアセタールの通常用いられる量は、モノマー混合物を基準として、50000ppmまで、好ましくは100〜5000ppm、特に好ましくは300〜1500ppmである。
【0047】
あるいは、オキシメチレンポリマーの調製方法は、多価アルコールの存在下で実施することができる。特に、高ヒドロキシル含有ポリオキシメチレンポリマーを所望する場合、この方法は多価アルコールの存在下で行われるのが好ましい。用語「高ヒドロキシル含有」ポリオキシメチレンポリマーとは、分子中の全末端基に対するヒドロキシル末端基の割当量が50%を超える、好ましくは80%を超えるポリオキシメチレンを指すことを意図している。分子中のヒドロキシル基の量は、例えば、参照により本明細書に明示的に組み込まれる、Applied Polymer Science,38,p.87(1989年)に記載の技術によって測定される。
【0048】
本発明の方法で用いることができる多価アルコールの例は、多価アルコールの部分エステル、多価アルコール又はその部分エステルと、アルキレンオキシドとの付加化合物、ヒドロキシル化グリシジルエーテル及びグリシジルエステル、及びヒドロキシル化環状アセタールから成る群より選択されるのが好ましい。
【0049】
より好ましくは、多価アルコールは、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ソルビタンモノエステル、及びジグリセリンモノエステル、並びにそれらのアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、又はブチレンオキシド)との付加化合物から選択される。
【0050】
多価アルコールエチレングリコールの存在下で実施される本発明の方法が、特に好ましい。
【0051】
本発明の方法は、65℃を超える温度で、好ましくはガス密閉性の重合反応器中で、開始剤(多塩基カルボン酸のアルキルエステル中に溶解させたヘテロポリ酸又はその酸性塩)を、モノマー(好ましくはトリオキサン及びジオキソラン)と、分子量調整剤(ホルムアルデヒドのアセタール、好ましくはメチラール)と、任意にコモノマーとの混合物へ、加えることにより行われるのが好ましい。反応混合物は、沈殿するポリマーの結晶化熱の結果として昇温する。適切な場合、特定の温度プロファイル(重合時間の関数としての重合温度:T=f(t))を構築できるように、さらに熱を加えることができる。重合の最後に反応混合物が再び均一となるように温度プロファイルを構築することができる。
【0052】
あるいは、反応は周囲圧力(1bar)にて行うことができる。
【0053】
素材であるポリマー(粗ポリマー)が徐々に作られ、存在する不安定な末端ヘミアセタール基はいずれも加水分解により除去され、合成及び製造を遂行することができる。これらのプロセス工程は当業者に公知である。本発明のさらなる実施形態は、本発明による方法によって得ることができるオキシメチレンポリマーである。
【0054】
本発明による方法によって得ることができるオキシメチレンポリマーは、好ましくは単峰性の分子量分布を有する。本発明の意義の範囲内で、単峰性分布を有するオキシメチレンポリマーは、分子量分布において本質的にただ1つのピークを有するポリマーを意味するものとして理解され、数平均分子量Mnは10000ダルトンを超え、より好ましくは25000ダルトンを超え、最も好ましくは30000〜300000ダルトン、特に好ましくは50000〜200000ダルトンを示す。
【0055】
驚くべきことに、本発明による方法によって得ることができるオキシメチレンポリマーは、数平均分子量Mnが8000ダルトン未満である低分子量のオキシメチレンポリマーの割合が低いことが見出されている。本発明の好ましい実施形態によれば、オキシメチレンポリマーは、数平均分子量Mnが8000ダルトン未満であるオキシメチレンポリマーの範囲(割合)が3重量%未満であり、この重量は、ポリマー全体の重量を基準としている。
【0056】
好ましい実施形態において、オキシメチレンポリマーは、オキシメチレンコポリマーであり、このコポリマーは、
−O−(CH)
(式中、xは2〜8の整数であり、好ましくはxは2である)の構造のオキシメチレン単位を基準として、0.05〜0.5mol%、好ましくは0.1〜3.0mol%を構成する。
【0057】
メルトボリュームレート(MVR)として特性決定される、本発明によるオキシメチレンポリマーの分子量は、特定の範囲内に調整することができる。EN ISO 1133に従い、190℃にて2.16kgの荷重のもとで測定される典型的なMVR値は、0.1〜100cm/10分、好ましくは0.8〜50cm/10分、特に好ましくは2〜10cm/10分である。
【0058】
好ましい実施形態によれば、ポリオキシメチレンは、高ヒドロキシル含有ポリオキシエチレンである。好ましくはポリオキシメチレンは、末端基の少なくとも50%がヒドロキシル基であるポリオキシメチレンである。末端ヒドロキシル基及び/又はヒドロキシル側基(これもまた共に「末端ヒドロキシル基」と呼ばれる)の含量は、全末端基を基準として、典型的には少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%である。本明細書の記述において、用語「全末端基」とは、すべての末端基、及び存在する場合はすべての末端側基を意味するものとして理解されるべきである。
【0059】
本発明のさらなる実施形態は、
(a)本発明による方法によって得ることができるポリオキシメチレン、及び
(b)熱可塑性エラストマー
を含有する成形材料である。
【0060】
成分(b)は、好ましくは活性水素原子を有する熱可塑性エラストマーである。
【0061】
この成分(b)は、選択される処理条件下で、成分(a)のヒドロキシル基及び任意に成分(c)として使用されるカップリング試薬と共有結合を形成することができる熱可塑性エラストマーを意味するものとして理解されるべきである。
【0062】
熱可塑性エラストマーの例は、ポリエステルエラストマー(TPE−E)、熱可塑性ポリアミドエラストマー(TPE−A)、及び特に熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPE−U)である。これらの熱可塑性エラストマーは、カップリング試薬(c)と反応することができる活性水素原子を有する。そのような基の例は、ウレタン基、アミド基、アミノ基、又はヒドロキシル基であり、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの末端ポリエステルジオールのフレキシブルな部分は、例えば、イソシアナート基と反応することができる水素原子を有している。
【0063】
特に好ましく使用される成分(b)は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPE−E)、熱可塑性ポリアミドエラストマー(TPE−A)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU−U)、又は複数のこれら熱可塑性エラストマーの組み合わせである。
【0064】
カップリング試薬(c)の存在は必須ではないが、それによって成形品のノッチ付衝撃強度をさらに高めることができるため好ましい。
【0065】
成分(a)及び(b)の間に架橋基を形成するために、第一に成分(a)のヒドロキシル基と、第二に成分(b)の活性水素原子と共有結合を形成することができる、非常に広範囲の、多官能性(好ましくは三官能性又はとりわけ二官能性)のカップリング試薬(c)を使用することが可能である。
【0066】
成分(c)は好ましくはジイソシアナート、好ましくは脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族ジイソシアナートである。
【0067】
成分(c)は、適切であればポリマーと共に混合物として、オリゴマー、好ましくは三量体、又はとりわけ二量体の形態でもまた、使用することができる。
【0068】
ジイソシアナートの例は、芳香族ジイソシアナート(トルエンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、ジフェニルメタン2,4’−ジイソシアナート、又は4,4’ −ジイソシアナートジフェニルメタンなど)、又は(環状)脂肪族ジイソシアナート(ヘキサメチレンジイソシアナート又はイソホロンジイソシアナートなど)である。
【0069】
本発明によるオキシメチレンポリマーから製造される成形品は、先行技術において既知のポリオキシメチレンポリマーと比較して、高い衝撃強度を有する。本発明のオキシメチレンポリマーは、成形プロセス(例えばブロー成形又は射出成形)において使用することができる。
【0070】
下記の実施例は本発明を制限することなく説明するものである。
【0071】
実施例1(本発明による実施例)
12−タングストリン酸(HPW1240)[CAS 12501−23−4]をアジピン酸ジメチル(DMA)中に溶解させることにより、カチオン重合用の開始剤を調製した。DMA中のヘテロポリ酸の濃度は0.2重量パーセントであった。
【0072】
アジピン酸ジメチル中のヘテロポリ酸(HPW1240)の0.2重量パーセント溶液の30μLを、100ppmのメチラールを含有するトリオキサン100gに、70℃で加えた。これは0.6ppmの開始剤の量に相当する。導入時間は10〜20秒で、重合は約1分で完了した。重合により得られた素材をビーカーから取り出し、つぶして小片とし、秤量した(粗ポリマーの収率)。
【0073】
この粗ポリマーの収率は92%であり、加水分解による損失は36%であった。
【0074】
加水分解されたポリマーの全体を通した収率は59%であった(トリオキサンを基準とする)。
【0075】
190℃でのMVRは4.6mL/10分であった。
【0076】
GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)分析では、低分子量画分の明確なピークは示されなかった。GPCの記録を図1に示す(Mw(重量平均分子量)=180,000;Mn(数平均分子量)=31,000;D(分子量分布)=5.80)。
【0077】
実施例2(本発明による実施例)および比較例1
高強度POMを製造するための工場での試験を行った。Honda二軸押出機を使用した。下記の表1に、比較のポリマー1(比較例1)及び本発明の実施例2において用いられた操作条件をまとめている。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の実施例2で挙げられている条件では、図2に示すGPC曲線(灰色の影の曲線)により示されるように、許容可能な低分子量画分を有するポリマーが製造された。
【0080】
一方、比較例1による方法によって得られたポリオキシメチレンポリマーの分子分布は二峰性分布を示し(図2、白色の影の曲線)、この得られたポリマーは実施例2によって得られたポリマーと比較して、はるかに低い耐衝撃性を示した(表2を参照)。
【0081】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシメチレンポリマーの調製方法であって、
(i)ホルムアルデヒドのアセタール又は多価アルコール、及び
(ii)カチオン重合用の開始剤
の存在下で−CH−O−単位を形成するモノマーを重合させることを含み、
前記開始剤は、多塩基カルボン酸のアルキルエステル中に溶解させたヘテロポリ酸又はその酸性塩である、前記方法。
【請求項2】
前記ヘテロポリ酸は、一般式(1):
[MM’O (1)
により表される化合物であり、式中、
MはP、Si、Ge、Sn、As、Sb、U、Mn、Re、Cu、Ni、Ti、Co、Fe、Cr、Th、及びCeから成る群より選択される元素を表し、
M’はW、Mo、V、及びNbから成る群より選択される元素を表し、
mは1〜10であり、
nは6〜40であり、
zは10〜100であり、
xは1又はそれを超える整数であり、かつ
yは0〜50である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヘテロポリ酸は、次式:
[MM’
により表される化合物であり、式中、
MはP及びSiから成る群より選択される元素を表し、
M’はW、Mo、及びVから成る群より選択される配位元素を表し、
mは1〜10であり
nは6〜40であり、
zは10〜100であり、
xは最小でも1の整数であり、かつ
yは0〜50である、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヘテロポリ酸は、ホスホモリブデン酸、ホスホタングステン酸、ホスホモリブドタングステン酸、ホスホモリブドバナジン酸、ホスホモリブドタングストバナジン酸、ホスホタングストバナジン酸、シリコタングステン酸、シリコモリブデン酸、シリコモリブドタングステン酸、シリコモリブドタングストバナジン酸、及びそれらの酸性塩から成る群より選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヘテロポリ酸は、12−モリブドリン酸(HPMo1240)及び12−タングストリン酸(HPW1240)並びにそれらの混合物から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、式(2):
(ROOC)−(CH−(COOR’) (2)
の脂肪族ジカルボン酸のアルキルエステルであり、式中、
nは2〜12、好ましくは3〜6の整数であり、かつ
R及びR’は互いに独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、及びtert−ブチルから成る群より選択される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、式(3):
(ROOC)−CH−(CH−CH−(COOR’) (3)
の化合物であり、式中、
mは0〜10、好ましくは2〜4の整数であり、かつ
R及びR’は互いに独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基であり、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、及びtert−ブチルから成る群より選択される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、式(4):
(ROOC)−C−(COOR’) (4)
の化合物であり、式中、
R及びR’は互いに独立に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、及びtert−ブチルから成る群より選択される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、ジメチルグルタル酸、ジメチルアジピン酸、ジメチルピメリン酸、ジメチルスベリン酸、ジエチルグルタル酸、ジエチルアジピン酸、ジエチルピメリン酸、ジエチルスベリン酸、ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸、ジメチルテレフタル酸、ジエチルフタル酸、ジエチルイソフタル酸、ジエチルテレフタル酸、ブタンテトラカルボン酸テトラメチルエステル、及びブタンテトラカルボン酸テトラエチルエステル、並びにそれらの混合物から成る群より選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記多塩基カルボン酸のアルキルエステルの融点は、100℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは25℃未満である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
1barにおける前記多塩基カルボン酸のアルキルエステルの沸点は、100℃より高く、好ましくは150℃より高く、より好ましくは170℃より高い、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記多塩基カルボン酸のアルキルエステルは、窒素原子を含有しない、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ヘテロポリ酸を、溶液全体を基準とした重量で、5重量パーセント未満の量で、好ましくは0.01〜5重量パーセントの範囲の量で、前記多塩基カルボン酸のアルキルエステル中に溶解させる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
−CH−O−単位を形成するモノマーとして、ホルムアルデヒド、又は好ましくはトリオキサンを使用する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ホルムアルデヒドのアセタールとして、式(5):
−(O−CH−O−R (5)
の化合物を使用し、式中、
及びRは互いに独立に、アルキル基、好ましくはメチル、を表し、かつ
qは1〜100の整数である、
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ホルムアルデヒドのアセタールとして、q=1である式(5)の化合物、好ましくはメチラール、を使用する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、オキシメチレンポリマー。
【請求項18】
ポリマー全体の重量を基準とした重量で、数平均分子量Mnが8000ダルトン未満であるオキシメチレンポリマーの範囲が、3重量%未満である、請求項17に記載のオキシメチレンポリマー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−68855(P2011−68855A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132634(P2010−132634)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(502194469)ティコナ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】