説明

オゾン酸化促進剤、オゾン酸化促進剤組成物およびオゾン処理方法

【課題】低濃度でのオゾン酸化処理において、オゾン酸化促進剤の使用量を低減させながら、オゾンの酸化効果、特にオゾンによる殺菌効果を著しく促進できるオゾン酸化促進剤、オゾン酸化促進剤組成物およびオゾン処理方法を提供する。
【解決手段】下記(a)成分と(b)成分と水とを混合してなることを特徴とするオゾン酸化促進剤。(a)25℃における0.5質量%水溶液の100ミリ秒(msec)時の動的表面張力が70mN/m以下で、かつ30秒(sec)時の動的表面張力が55〜67mN/mの範囲である化合物。(b)水溶性の酸性成分。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン酸化を促進し、殺菌、消臭、漂白、分解、合成等において優れた効果を発揮させるオゾン酸化促進剤およびオゾン酸化促進剤組成物、ならびにオゾン処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンは、25℃における標準酸化還元電位が2.07Vと極めて高く、フッ素についで酸化力が強い。そのため、従来、この酸化力を利用して、半導体洗浄や食品洗浄(殺菌)、水の浄化など様々な分野でオゾン処理が行われている。
また、オゾンは、分解して酸素となり、環境にやさしい側面を有しているため、近年、その利用は拡大する傾向にある。
【0003】
このようなオゾン処理において、その効果を上げる方法としては、まず、オゾン使用量を増やす方法が一般的である。しかし、オゾン使用量の増加は、直接的に処理コストの上昇をもたらす。さらには、有効利用されなかった未吸収オゾン、すなわち、オゾンを水中に供給して処理を行う場合に、水に吸収されずに大気中に放出されるオゾンを増加させることになる。未吸収オゾンの増加は、処理に要するコストを増加させるだけでなく、作業安全性に対する懸念を増大させる。
日本および諸外国の多くでは、作業安全性を考慮して、オゾン濃度に関する作業環境基準として、0.1ppm(=0.2mg/m)の値を採用しているため、オゾン使用量の増加には限界がある。
【0004】
このような問題に対し、たとえば特許文献1には、オゾンの使用量を低減しつつ、高い処理効果が得られる方法として、オゾンで殺菌処理した後に過酸化水素で処理する殺菌方法が記載されている。
また、特許文献2には、オゾンとアルコールを併用する殺菌、消臭方法が記載されている。
また、特許文献3、4には、食品や包装材料を、オゾン水と、有機酸溶液および/またはアルコール溶液とに、交互または同時に浸漬処理する殺菌方法が記載されている。
【0005】
また、オゾン処理の効率を高める方法として、オゾンに比較的少量の有機物を併用する方法も提案されている。
例えば、特許文献5には、オゾン水および界面活性剤を含有する殺菌洗浄剤組成物が記されており、かかる殺菌洗浄剤組成物中に処理対象物を浸漬することにより殺菌効果が促進されることが記載されている。
また、特許文献6では、水に有機酸を添加するとともにオゾンを溶解してオゾン含有処理水として、食品を殺菌する方法が記載されている。
また、特許文献7には、オゾン水と界面活性剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル)とを併用し、さらにpHを3〜7に調整して食品を殺菌処理する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献7では、特定の界面化学的特性を有する化合物を使用することで、オゾンによる酸化効果を促進する方法が記載されている。
また、特許文献8では、特定化合物を少量添加することで、オゾン濃度を低減できる方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−226579号公報
【特許文献2】特開平11−244360号公報
【特許文献3】特開平3−164155号公報
【特許文献4】特開平5−178334号公報
【特許文献5】特開平6−313194号公報
【特許文献6】特許第2694149号
【特許文献7】特開2000−109887号公報
【特許文献8】特願2005−292408
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法においては、オゾンの使用量を低減することによる殺菌力の低下を、オゾン以外の殺菌剤が補うものであり、オゾン以外の殺菌剤だけでも殺菌効果が現れるような十分量を併用する必要がある。
また、特許文献3および4に記載の方法においても、有機酸濃度を2〜20%、アルコール濃度を40〜90%の範囲で使用すると記載されているように、殺菌作用のある化合物を、殺菌効果のある高濃度で使用するものである。これは有機酸とアルコールの使用量増加のみならず、例えば食品の殺菌では食品自体の品質にも影響を及ぼし、好ましくない。
また、特許文献5に記載の方法は、主に油成分に対する洗浄効果を界面活性剤で補うとともに、オゾンの残存効果を狙ったものである。
また、特許文献6に記載の方法は、オゾン含有処理水のpHを、有機酸を少量添加することで酸性とし、オゾンの殺菌効果を高めるものであるが、有機酸によるpHの調整だけでは、オゾンの使用量を十分に低減することはできない。
また、特許文献7に記載の方法は、オゾンを高濃度(溶液濃度で0.1〜5重量%)で使用する殺菌処理に関するものであり、オゾンの使用量の低減には至っていない。
また、特許文献8に記載の方法は、例えば殺菌効果について、特定化合物0.5%程度の少量の添加で、オゾン濃度を0.7g/mに低減しても、オゾン濃度が5g/mの場合と同等の殺菌効果が得られることが示されているが、オゾン使用量をさらに低減し、同時にオゾン酸化促進剤の使用量も低減しながら、更なる高い処理効果が求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、低濃度でのオゾン酸化処理においてオゾン酸化促進剤の使用量を低減させながら、特にオゾンによる殺菌効果を著しく促進できるオゾン酸化促進剤、オゾン酸化促進剤組成物およびオゾン処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、特定の性質を有する化合物とともに、酸性成分を併用することによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の第一の態様は、(a)成分として25℃における0.5質量%水溶液の100ミリ秒(msec)時の動的表面張力が70mN/m以下で、かつ30秒(sec)時の動的表面張力が55〜67mN/mの範囲である化合物と、(b)成分として酸性成分と、さらに水とを混合してなることを特徴とするオゾン酸化促進剤である。
また、(a)成分の化合物は、分子量が100以上であることを特徴とすることができる。
また、(a)成分の化合物は、分子量が250以下であることを特徴とすることができる。
【0010】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様のオゾン酸化促進剤を含有するオゾン酸化促進剤組成物である。
【0011】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様のオゾン酸化促進剤組成物の存在下において、処理対象物を含有する被処理水中にオゾンを供給する工程を有することを特徴とするオゾン処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のオゾン酸化促進剤、オゾン酸化促進剤組成物およびオゾン処理方法によれば、低濃度でのオゾン曝気処理において、オゾン酸化促進剤の使用量を低減させながら、オゾンの酸化効果、特にオゾンによる殺菌効果を著しく促進できる。そのため、本発明によれば、オゾン処理におけるオゾン使用量及びオゾン酸化促進剤使用量の低減および高効率化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
≪オゾン酸化促進剤≫
本発明のオゾン酸化促進剤は、(a)成分として特定の性質を有する化合物とともに、(b)成分である水溶性の酸性成分と、水との混合からなる。
<(a)成分>
本発明の(a)成分は、25℃における0.5質量%水溶液の100ミリ秒(msec)時の動的表面張力が70mN/m以下で、かつ30秒(sec)時の動的表面張力が55〜67mN/mである化合物からなる。
【0014】
ここで、「動的表面張力」とは、新たに界面が形成される時、あるいは界面が不安定な流動・撹拌状態での表面張力を意味する。
具体的に、水中にストローから気体を送り込む際の、気泡の形成過程を例に挙げて説明する。水中に斜めに差し込んだストローを介して気体を供給していくと、まず、ストローの先端から半球状の界面(水と気体との界面)が形成される。このとき、界面には、界面を元に戻そうとする力(表面張力)と、気体による浮力とが働いている。界面内の気体の量が多くなるにつれて浮力も大きくなる。表面張力よりも浮力の方が大きくなると、半球状の界面がストロー先端から離れて気泡(bubble)が形成され、気泡は水面へ上昇する。このような気泡の形成が繰り返されると、水面に気泡が集まり、そして泡沫(form)が形成される。
気泡の界面は不安定な状態であるが、気泡となった後(気体の供給が止まった後)、その界面は経時的に安定化していく。そして、表面張力は、この安定化に伴って次第に低下していき、ある一定の値(平衡値)となる。
このように、気泡の界面が形成されてから表面張力が平衡値に達するまで(界面が安定な状態になるまで)の表面張力を動的表面張力といい、動的表面張力は測定時間毎に変化する値である。
【0015】
かかる気泡の形成において、表面張力よりも浮力の方が大きくなる時点の気体の供給量が少ないほど、気泡の大きさは小さくなり浮力も小さくなる。つまり、この時点での表面張力も小さくなる。その後の動的表面張力は、この時点の表面張力の値から次第に小さくなっていくが、その変化の仕方は液体の成分によって異なる。
また、平衡値は小さいほど、気泡や泡沫の安定性が高く、壊れにくい傾向があり、逆に平衡値が大きいほど、気泡や泡沫の安定性が低く、壊れやすい傾向がある。
したがって、(a)成分は、オゾン曝気により被処理水中に生じる気泡について、このような特性をコントロールするために被処理水中に配合する成分であって、これにより下記に示すような優れた効果が得られる。
【0016】
(a)成分は、100msec動的表面張力が70mN/m以下であり、68mN/m以下が好ましく、65mN/m以下がより好ましい。下限値としては、特に制限はないが、55mN/m以上が好ましく、60mN/m以上がより好ましい。
ここで、100msec動的表面張力とは、気体の供給を開始した時点を0とし、その時点から100msec後の動的表面張力である。すなわち、上記ストローから気体を送り込む例において、ストロー内への気体の供給を開始してから100msec後の動的表面張力を示す。100msec動的表面張力が70mN/m以下であると、気体の供給量が少ない時点で、表面張力よりも浮力の方が大きくなり、半球状の界面がストロー先端から気泡が分離する。すなわち、微細な気泡が形成される。
そして、気泡の微細化により、オゾンと処理対象物と接触効率が向上し、結果、オゾン処理効率が向上する。
【0017】
さらに(a)成分は、30sec動的表面張力が55〜67mN/mの範囲であり、58〜67mN/mの範囲が好ましく、60〜67mN/mの範囲がより好ましい。
ここで、30sec動的表面張力とは、気体の供給を開始した時点を0とし、その時点から30sec後の動的表面張力である。一般に、動的表面張力が平衡値に達するのには数十時間を要するものもあり、その測定には時間を要するが、本発明において採用した30sec動的表面張力は、平衡値とは必ずしも同一ではないが、曝気処理を行う場合の処理時間を考慮すると、30sec動的表面張力でも充分、気泡や泡沫の安定性を評価する指標として有用である。
30sec動的表面張力が55〜67mN/mの範囲であることにより、形成された気泡が適度な安定性を有するものとなる。しかし、30sec動的表面張力が55mN/m未満であると、気泡の安定性が高くなりすぎ、曝気処理を行った際に水面が泡立ち、オーバーフローなどが生じてしまい、処理自体が困難となる。一方、30sec動的表面張力が67mN/mを越えるとオゾン処理効率が悪くなる。これは、気泡の安定性が低く、気泡が処理対象物に接触する前に壊れてしまうことによると推測される。
【0018】
100msec動的表面張力および30sec動的表面張力は、たとえば、当該化合物を水に溶解して0.5質量%水溶液(25℃)を調製し、市販の動的表面張力計、たとえば英弘精機株式会社製シータt60(商品名)等を用いて測定することができる。
【0019】
(a)成分の分子量は、100以上であることが好ましく、120以上がさらに好ましい。分子量が100以上の化合物であると、30sec動的表面張力が67mN/m以下の値である傾向が高く、本発明に好適である。また、揮発しにくいため、揮発による様々な問題を生じにくい。
また、250以下であることが好ましく、200以下がさらに好ましい。分子量が250以下の化合物であると、気泡の界面における分子の拡散が速いため、100msec動的表面張力が70mN/m以下の値である傾向が高い。また、30sec動的表面張力が55mN/m以上である傾向が高く、泡立ちが生じにくい。そのため、本発明に好適である。
ただし、分子量が250以下であっても、疎水性が高い分子は、会合して見かけ上の分子量が大きくなる傾向がある。そのため、本発明のオゾン酸化促進剤は、疎水性の低い化合物であることが好ましい。疎水性の低い化合物としては、カルボキシル基、水酸基(−OH)等の極性基を有する化合物(カルボン酸、アルコール等)、構造中に酸素原子を含む化合物(エステル、エーテル等)が挙げられる。
【0020】
(a)成分は、上記動的表面張力の条件を満たすものであり、水に対する溶解性が必要であることから、例えば、分子中にアルコール、ケトン、エーテル、有機酸およびその塩(以下、これらをまとめて有機酸(塩)という)、エステル、カルボキシル基等の親水性の官能基を有するものが挙げられる。具体例として、たとえば、下記(1)〜(5)等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
(1)アルコールとしては、ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ジアセトンアルコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール等。
(2)ケトンとしては、アセチルアセトン等。
(3)エーテルとしては、グリコール類(エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等)のエーテル化合物が好ましく、たとえばジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールのモノまたはジアルキルエーテル;プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールのモノまたはジアルキルエーテル;ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のジプロピレングリコールのモノまたはジアルキルエーテル等。
(4)有機酸(塩)としては、カルボン酸、およびそのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。具体的には、2−エチルへキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、これらの塩、等。
ただし本発明の(a)成分は、(b)成分とは異なる化合物であり、(a)成分を0.5%程度の濃度で水に溶解してもpHは酸性とはならない化合物である。従って、酢酸などの有機酸は(a)成分には含まれない。また、(b)成分との混合によってpHが酸性になっても水溶性を有する必要があり、例えば炭素鎖長12以上の脂肪酸ナトリウムではpHが酸性側になると不溶化し、好ましくない。
(5)エステルとしては、カルボン酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ホウ酸エステル等。
エステルは、カルボン酸などの有機酸や硫酸などの無機のオキソ酸が、アルコールと脱水縮合してできた化合物であるが、単にエステルと呼ぶ時は一般にカルボン酸エステルを指すことが多い。
カルボン酸エステルは、その特性基(R−CO−O−R‘)がエステル結合と呼ばれ、分子内に少なくとも1つこのような構造を有する化合物である。
【0021】
本発明の(a)成分においては、特に、下記一般式(I)で表されるエステル化合物が好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
[式中、xは0〜4を示し、R,R,Rは、それぞれ独立に、−H、−OH、下記一般式(1)で表される基および下記一般式(2)で表される基からなる群から選択される基であって、R,R,Rのうちの少なくとも1つは下記一般式(2)で表される基である。]
【0024】
【化2】

【0025】
[式中、R,Rは炭素数1〜4のアルキル基である。]
【0026】
式(I)中、xは0〜4であり、好ましくは1である。
,R,Rは、それぞれ独立に、−H、−OH、上記一般式(1)で表される基(以下、基(A)という。)、および上記一般式(2)で表される基からなる群から選択される基であって、R,R,Rのうちの少なくとも1つは基(A)である。
,R,Rのうち、基(A)以外の基については、特に−OHであることが好ましい。
【0027】
式(1)および式(2)において、R,Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。R,Rとしてはメチル基またはエチル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0028】
一般式(I)で表される化合物として、特に、下記(1)〜(3)に示すものが好ましい。
(1)xが1であり、かつR,R,Rのうちの1個は、式(1)におけるRがメチル基である基(A)であって、他の2個は−OHであるグリセリンモノアセタート(モノアセチン)。
(2)xが1であり、かつR,R,Rのうちの2個は、式(1)におけるRがメチル基である基(A)であって、他の1個は−OHであるグリセリンジアセタート(ジアセチン)。
(3)xが1であり、かつR,R,Rはすべて、式(1)におけるRがメチル基である基(A)からなるグリセリントリアセタート(トリアセチン)。
【0029】
モノアセチンおよびジアセチンには構造異性体が存在し、モノアセチンの構造異性体としては、グリセリン−1−アセタート、グリセリン−2−アセタート、グリセリン−3−アセタートが挙げられる。ジアセチンの構造異性体としては、グリセリン−1,3−ジアセタート、グリセリン−1,2−ジアセタートが挙げられる。
上記化合物に加えて、一般式(I)で表される化合物として、モノブチリン、酢酸プロピル、ジアセトキシプロパン(プロパンジオールジアセタート)、ジアセトキシブタン(ブタンジオールジアセタート)等が例示される。
【0030】
一般式(I)で表される化合物以外のエステルとしては、たとえば、下記(1)〜(4)等が挙げられる。
(1)ジエチレングリコール等のポリエチレングリコールおよびそのモノまたはジアルキルエーテル、ジプロピレングリコール等のポリプロピレングリコールおよびそのモノまたはジアルキルエーテルにおける水酸基をアセチル化したもの、たとえばジエチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート等。
(2)リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、またはアジピン酸のメチル、エチル、プロピル、またはブチルエステル、例えば、コハク酸ジメチル等。
(3)アルキレンカーボネート、例えば、ブチレンカーボネート、ヘキシレンカーボネート、ブチルカーボネート、ジブチルカーボネート等、または、アルキルラクトン、例えば、ペンタノ-4-ラクトン、γ−デカラクトン、ε−デカラクトン、γ−ノナラクトン等。
(4)酢酸1−エトキシ−2−プロパノール等。
【0031】
本発明の(a)成分として、これらの化合物から1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
特に、100msec動的表面張力が比較的低く、かつ30sec動的表面張力が比較的高く、さらに分子量が100以上あって揮発性が低いという特性をあわせ持つような化合物として、トリアセチンがより好ましい。
【0032】
上述したように、(a)成分は、100msec動的表面張力が70mN/m以下であることにより微細なオゾンの気泡が形成され、気泡の微細化により、オゾンの溶解効率や、オゾンと処理対象物と接触効率が向上する。また、30sec動的表面張力が55〜67mN/mの範囲であることにより、形成された気泡が、処理対象物に接触するまでの間、安定に存在し、かつ比較的短時間で壊れる適度な安定性を有するものとなる。
これらの相乗効果により、オゾンと処理対象物と接触効率が向上してオゾン酸化が促進されるとともに、水面の泡立ちが抑制されると推測される。
また、分子量が100以上であると揮発しにくいため、揮発による問題を回避でき、分子量が250以下であると気泡の界面における分子の拡散が速いため、泡立ちが生じにくい。
このように、動的表面張力および分子量が上記条件を満たすことにより、当該オゾン酸化促進剤を含有する水溶液中にオゾンを送り込む(曝気する)際に、適度な安定性を有する微細なオゾンの気泡が形成されるため、オゾン酸化を促進することができ、オゾン処理におけるオゾン使用量の低減および高効率化が達成できる。
【0033】
<(b)成分>
本発明の(b)成分は、純水(pH7.0)に0.5%程度溶解したときのpHが7.0未満となるような水溶性の化合物であって、pHが6以下の弱酸性でも水溶性を示し、かつ(a)成分に相当する界面科学的特性を持たないような親水性の化合物である。例えば、有機酸、無機酸、酸性基を有する水溶性のキレート剤などが挙げられる。具体例として、たとえば、下記(1)〜(3)等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
(1)有機酸としては、酢酸、乳酸、クエン酸、アジピン酸、リンゴ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、酒石酸、グルタル酸、蓚酸、及びこれらを水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤で一部を中和した塩、等。
(2)無機酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等。
(3)酸性基(酸解離性の官能基)であるカルボキシル基やリン酸、ホスホン酸基等を有する水溶性のキレート剤。
このような化合物として、クエン酸、蓚酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトロソ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’N’’’−六酢酸などの多価カルボン酸化合物、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、フィチン酸などのリン酸化合物、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸などのホスホン酸化合物、等が挙げられる。
【0034】
本発明の(b)成分として、これらの化合物から1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。またpHが低下しすぎて不具合が生じることのないよう、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤で一部を中和して用いることもできる。
好ましくは、酢酸、クエン酸、コハク酸、アジピン酸、リン酸、またはこれらの混合物である。
【0035】
(b)成分は、(a)成分のような界面科学的性質を持たないため、気泡の状態に対する影響は少ないが、両成分を混合するオゾンの酸化効果、特に殺菌効果が相乗的に向上し、オゾン使用量の低減のみならず、促進剤使用量の低減および高効率化が達成できる。
【0036】
なお、本発明のオゾン酸化促進剤は、(a)成分と(b)成分と水とを混合してなることを特徴とし、この混合時のpHは特に限定されないが、通常はpH6以下であることが好ましい。ここで示すpHとは、25℃において水素電極等を用いて測定されるpH値であるが、本発明の利用温度はこの温度に限定されず、本発明の水溶液をいかなる温度で使用するとしても、pHは25℃において示す値と定義する。
水との混合によって得られる、オゾン酸化処理に供する水溶液においては、pH6以下が好ましく、より好ましくはpH2.0〜6.0の範囲であり、さらに好ましくはpH3.0〜5.5の範囲であり、特に好ましくはpH3.5〜5.0の範囲である。pHが6を超えると(b)成分を用いる効果が低下し、pHが2未満の強酸性では、例えば食品の殺菌洗浄では、洗浄対象である食品自体の品質の劣化を招き、好ましくない。
【0037】
≪オゾン酸化促進剤組成物≫
本発明のオゾン酸化促進剤組成物は、上述した本発明のオゾン酸化促進剤を含有するものである。
本発明のオゾン酸化促進剤組成物中、(a)成分の割合は、オゾン酸化促進剤組成物の総質量固形分(水分以外の成分の総量)に対し、0.1〜99質量%の範囲であることが好ましく、10〜99質量%の範囲であることがより好ましい。0.1質量%以上であると、酸化促進効果がより良好に発現する。
本発明のオゾン酸化促進剤組成物中、(b)成分の割合は、オゾン酸化促進剤組成物の総質量固形分に対し、0.01〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜30質量%の範囲であることがより好ましい。混合時のpHが6以下となる最低限の(b)成分は必要であるが、pHの緩衝材としての性質をもたせるため、pH6以下の所定のpHになる最低限の配合量よりも多量の(b)成分を配合し、一部をアルカリ剤で中和することもできる。
【0038】
本発明のオゾン酸化促進剤組成物は、(a)成分と(b)成分と水とを混合してpHを6以下とした水溶液をそのままオゾン酸化処理に用いることができるが、濃縮組成物として1体の容器に(a)成分と(b)成分とを混合して、使用時に水で希釈して使用することもでき、2体の容器にそれぞれ(a)成分と(b)成分の濃縮物を配合して、2体を1組のオゾン酸化促進剤組成物とし、使用時に水に混合希釈して用いる形態とすることもできる。このように本発明のオゾン酸化組成物は、水と混合希釈したことにより、(a)成分と(b)成分とが相乗的にオゾン酸化を促進するものであり、組成物の保存形態には限定されない。
2体を1組のオゾン酸化促進剤組成物とした場合であっても、それらの総量(2体の内容物を合わせた組成物)をオゾン酸化促進剤組成物として、上述の総質量固形分に対する割合になるよう、(a)成分と(b)成分の配合量とすることが好ましい。
【0039】
本発明のオゾン酸化促進剤組成物は、その他の成分として、オゾン酸化反応を阻害しない範囲で、使用性や製品の安定化、機能付与のために、各種界面活性剤、香料、酵素、蛍光剤、増粘剤、分散剤、無機塩、アルコール類、糖類などを含有してもよい。
界面活性剤としては、特に制限はなく、従来公知の界面活性剤のなかから、目的に応じて適宜選択でき、たとえば、下記(1)〜(4)等が挙げられる。
(1)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸、アルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、アシルアミドアルキル硫酸、アルキル燐酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、パラフィンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、α−スルホカルボン酸及びそれらのエステル等の水溶性塩、石鹸等のアニオン界面活性剤。
(2)ポリオキシアルキルエーテル、ポリオキシアルキルフェニルエーテル等のエトキシ化ノニオン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グルコシドエステル、シュガーエステル、メチルグルコシドエステル、エチルグルコシドエステル、アルキルポリグルコキシド等の糖系活性剤、アルキルアミンオキサイド、アルキルジエタノールアミド、脂肪酸N−アルキルグルカミド等のアミド系活性剤、アルキルアミンオキサイド等のノニオン界面活性剤。
(3)アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホキシベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルアラニネート等のアミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体、アルキルアミンオキシド等の両性界面活性剤。
(4)アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤。
界面活性剤は1種類のみからなるものでもよいし、複数種を含有することもできる。
【0040】
ところで、高濃度の界面活性剤を含む被処理水中にオゾンを曝気すると、水面が泡立ち、オーバーフローなどプロセス上好ましくない現象が生じるおそれがある。したがって、オゾン酸化促進剤組成物中の界面活性剤の含有量としては、被処理水中の界面活性剤の濃度を考慮することが好ましい。本発明においては、オゾン酸化促進剤組成物の総固形分に対し、界面活性剤の含有量は、0〜10質量%の範囲であることが好ましく、0〜5質量%の範囲であることがより好ましい。10質量%以下であると、オゾン酸化促進剤組成物の使用に際して、被処理水中の界面活性剤の濃度が、泡沫が問題にならない程度となるためである。
【0041】
≪オゾン酸化処理方法≫
本発明のオゾン処理方法は、オゾン酸化により処理対象物を処理するオゾン処理方法であって、前記オゾン酸化促進剤組成物の存在下において、処理対象物を含有する被処理水中にオゾンを供給する(曝気する)工程を有することを特徴とする。
処理対象物としては、特に制限はなく、一般的にオゾン処理が行われているものであってよい。具体的には、殺菌、消臭、漂白、洗浄、分解、合成等においてオゾン処理されているもの、たとえば細菌、色素、油脂、アミン、タンパク質、腐植、汚泥、界面活性剤、農薬等の有機物や、それらが付着した物品(半導体、食品等)などが挙げられる。
【0042】
被処理水中のオゾン酸化促進剤組成物の濃度は、オゾン酸化促進剤の濃度が0.001〜5質量%の範囲内となる量が好ましく、0.01〜1質量%となる量がより好ましい。オゾン酸化促進剤の濃度が0.001質量%以上であると、本発明の効果が高く、5質量%以下であると、オゾンと被処理水中のオゾン酸化促進剤とが反応することによるオゾンの消費が抑えられ、結果、オゾン処理の効率が向上する。
オゾンはその強い酸化力から、溶存金属、塩素あるいは有機物等と反応するため、被処理水は、これらの不純物の含有量が少ない(純度が高い)水、たとえば抵抗率が0.00001MΩ以上、より好ましくは0.001MΩ以上、さらに好ましくは1MΩ以上の超純水が、反応に有利であり好ましい。
【0043】
曝気は、たとえばオゾン酸化促進剤組成物および処理対象物を含有する被処理水を容器に収容し、該被処理水中に、少なくともオゾンを含むガス(曝気ガス)を供給することにより行うことができる。また、被処理水中に曝気ガスを供給しつつ、オゾン酸化促進剤組成物を被処理水中に添加してもよい。
また、本工程においては、曝気を行う際、被処理水を撹拌するために撹拌装置などを併用することも可能である。
被処理水を収容し、曝気を行う容器(処理容器)としては、オゾンの酸化力が強いため、被処理水に接する面の材質が、ガラス、テフロン(登録商標)、チタン、オゾン処理(高濃度オゾンによる強固な酸化皮膜形成)をしたアルミやステンレスのものが好ましい。オゾンに対する耐性が低いニトリルゴム、シリコンあるいはウレタンなどの材質のものを使用する場合、処理容器の劣化に充分に注意する必要がある。
【0044】
曝気ガスは、発生させたオゾンをそのまま用いてもよく、希釈ガスで希釈して供給してもよい。
オゾンの発生方式に制限はないが、電子線、放射線、紫外線など高エネルギーの光を酸素に照射する方法や、化学的方法、電解法、放電法などがある。工業的には、発生コストや発生量から無声放電法が多く用いられている。
オゾンの発生には、市販のオゾン発生器が利用でき、たとえば低濃度オゾン発生器として株式会社ベテル製BO−90(商品名)等が市販されており、高濃度オゾン発生器としてナビ・エンジニアリング株式会社HO−100(商品名)等が市販されている。
オゾンは自己分解性を持つことから調製後すぐに使用することが望ましい。
【0045】
オゾンの希釈に用いる希釈ガスとしては、オゾンに対して不活性あるいは反応性に乏しいガスが好ましく、たとえばヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、酸素、空気、窒素などが挙げられる。
曝気ガス中のオゾン濃度は、特に制限はないが、作業安全性を考慮すると、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。下限値としては、特に制限はないが、オゾン処理効率などを考慮すると、0.000001質量%以上が好ましく、0.0001質量%以上がより好ましい。本発明は、特に、オゾン濃度が低い場合、たとえばオゾン濃度が0.0001〜0.5質量%の範囲において、効果的にオゾンの酸化を促進でき、有用である。
【0046】
曝気ガスを被処理水中に曝気する方法は、特に制限はなく、散気板、散気筒、ディフューザーなど従来使用されている方法が使用できる。
曝気を行う際の処理温度(すなわち被処理水の温度)は、特に限定されないが、80℃以下で行われるのが好ましい。80℃以下であると、オゾンが分解しにくく、被処理水へのオゾンの溶解度も高い。処理温度は、0〜60℃の範囲がより好ましく、0〜30℃の範囲がさらに好ましい。
曝気を行う際の処理時間(曝気を行う時間)は、特に限定されず、処理目的、処理対象物の分解しやすさ、被処理水中の処理対象物の濃度、温度、処理容積等を考慮して設定すればよい。
【0047】
本工程では、曝気処理と併せて、漂白や難分解性の物質の分解などを速やかに進めるために、促進酸化処理(AOP)を行ってもよい。
AOPは、オゾンを積極的に分解させることにより、酸化力の高いヒドロキシルラジカルを発生させ、これによって酸化反応をより進めるものである。オゾンを積極的に分解する手段としては、紫外線照射・H・無機触媒添加などが一般に用いられている。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、実施例は本発明の性質を限定するものではない。
【0049】
<動的表面張力>
(a)成分として用いる化合物を選定するにあたり、表1に示す化合物について、25℃における0.5質量%水溶液の100msec動的表面張力および30sec動的表面張力について下記の方法で試験を行った。結果は、表1に示す。
動的表面張力の測定方法は、表1に示す化合物をそれぞれ水に溶解して0.5質量%水溶液(25℃)を調製し、各水溶液の100msec動的表面張力および30sec動的表面張力を、英弘精機株式会社製シータt60を使用して測定した。水はADVANTEC製GSR−210を用いて精製した抵抗率18MΩ以上の超純水を使用した。
表1の結果から、成分例1〜8は(a)成分として使用できる化合物であり、比較成分1〜7は動的表面張力の値により(a)成分に該当しない化合物である。
成分例1〜8の中では特に、100msec動的表面張力が比較的低く、かつ30sec動的表面張力が比較的高く、さらに分子量が100以上あって揮発性が低いという特性をあわせ持つような化合物として、トリアセチンがより好ましいといえる。
【0050】
【表1】

【0051】
1):Decaglyn1−L (日光ケミカルズ株式会社製)
2):POE(15)ラウリルエーテル[ポリオキシエチレン(平均付加モル数15)のラウリルエーテル](合成品:特開平1−164437号公報、特開2000−61304号公報等に記載された方法によって得られた、特開2001−164298号公報にて定義されたナロー率が55%以上であるもの。)
【0052】
続いて、(a)成分として、これらの成分例1〜8および比較成分1〜6を用いて、以下に示す方法で「発泡状態」および「殺菌力」の試験を行い、「殺菌効果」について評価を行った。
【0053】
<一般細菌溶液の調製>
オゾン処理を行う一般細菌溶液を作製するため、市販の無漂白もやし20gをフィルタ付ホモジナイズバックに入れ、リン酸緩衝生理食塩水90mLを加えた。ホモジナイザ((株)エルメックス製SH−IIM)にて60秒間破砕し、得られた破砕液を、株式会社アテクト製ホモジェナイズバッグに添付のフィルタでろ過した。ろ過された破砕液を一般細菌溶液として使用した。
【0054】
<曝気処理による殺菌>
オゾン酸化促進剤として、(a)成分、(b)成分、およびその他の成分を所定濃度となるように、ADVANTEC製GSR−210を用いて精製した18MΩ以上の超純水(25℃)を用いて、必要に応じて水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整しながら、全量792mLの試料溶液を調製した。この試料溶液に上記一般細菌溶液8mLを加え、合計800mLの試験溶液とした。
曝気処理に用いるオゾンとして、まず、オゾンガス発生器(株式会社ベテル製BO−90(流量2.1L/min、オゾン濃度0.7g/m))を用いてオゾンを発生させ、小型ポンプを使用して流量と空気との混合比を調整して、所定のオゾンガス濃度(volppm)と流量(L/min)となるように調整した。
試験溶液を処理容器(パイレックス(登録商標)ガラス製1000mLビーカー)に入れ、発生させたオゾンガスを流量1L/minで散気管に通して試験溶液に曝気し、テフロン(登録商標)スターラーにて200rpmの回転速度で攪拌しつつ、25℃にて10分間の曝気処理を行った。散気管は、木下理化工業株式会社製の木下式ガラスフィルター503G No.1を用いた。
【0055】
<発泡状態>
上記の曝気処理過程において水面上部の発泡状態を観察し、以下の基準により3段階で評価した。
◎:水面上部の発泡が無い、または僅かしか観察されない。
○:水面上部の発泡が多少観察されるが、曝気を続けてもオーバーフローはしない。
×:発泡が多く、オーバーフローする。
なお、×評価、すなわち曝気処理中にオーバーフローした場合には、すみやかに実験を中止し、その後の菌数の測定は実施していない。
【0056】
<菌数の測定>
上記試料溶液を曝気後すばやく採取し、あらかじめ滅菌した試験管に入れ、ペプトン食塩緩衝液を用いて10倍ずつ段階希釈した。各希釈液をマイクロピペットにて100μL採取し、シャーレ中の標準寒天培地に滴下した。ディスポコーンラージ棒にて培地上に塗抹後、インキュベータにて37℃で24時間培養したのち、培地シャーレ上のコロニー数を、1シャーレ当り300以下の範囲のものについて計数することで残存生菌数(菌数)を調べた。各希釈段階ともシャーレ2枚ずつに培養し、求めた菌数を平均化した。
なお、超純水792mlに一般細菌溶液8mlを加えただけの溶液に、曝気処理を行わず、上記と同様に菌数を測定して、これを初期菌数とした。
標準寒天培地およびペプトン食塩緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水は株式会社アテクト製のものを用いた。
【0057】
<殺菌力>
殺菌力は以下の式により求めた。
殺菌力=log(初期菌数)−log(残存生菌数)
初期菌数:曝気処理前の菌数(個/ml)
残存生菌数:曝気処理後の残存生菌数(個/ml)
すなわち、この値が大きいほどオゾン処理後の菌数が減少しているため、殺菌力が強く、殺菌効果が高いといえる。
なお、残存生菌数の測定限界は10個/ml程度であり、これより少ない、例えば残存生菌数が検出されなかった場合には、残存生菌数を10個/mlとして、殺菌力の値を「〜以上」として表記した。
【0058】
<殺菌効果>
この殺菌力の値から、殺菌効果を以下の基準により4段階で評価した。
◎:殺菌力の値が3.0以上。
○:殺菌力の値が2.5以上3.0未満。
△:殺菌力の値が2.0以上2.5未満。
×:殺菌力の値が2.0未満。
【0059】
上記の方法により、オゾン酸化促進剤として表2〜5に示す(a)成分および(b)成分を配合し、オゾンガス濃度と初期菌数の条件をそれぞれ変化させて試験を実施し、評価した。結果をそれぞれ表2〜5に示す。
表中、成分の数値はいずれも、実験液中の濃度(ppm)を示す。表中、(a)成分の*印は比較成分であることを示し、また一部成分は表1で示した略称を用いた。
【0060】
《試験例1》
オゾンガス濃度:300volppm(0.64g/m)、初期菌数1.6×10個/ml(対数値:4.2)の条件で実施した結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例1〜8では全て、(a)成分としてトリアセチンを用いている。実施例1、2および3では、(b)成分としてそれぞれ酢酸、リン酸およびクエン酸を用いたが、殺菌力は2.5以上で、高い殺菌効果を示す。
実施例4および5では、トリアセチンの量が実施例1〜3と同量であるが、(b)成分として酢酸、リン酸、クエン酸の3種を用い、pHの値もより低いため、殺菌力は3.2以上で、殺菌効果が非常に高い。
実施例6および7では、(b)成分として酢酸およびリン酸を用い、pHは5.0であるが、実施例7では(a)成分として、トリアセチンの他にジアセチンを同量加えたため、実施例7のほうが高い殺菌力を示し、殺菌効果も非常に高い。
実施例8および9では、(a)成分も(b)成分も実施例6と同じであるが、pHがそれぞれ5.5および6.0である。よって殺菌力もそれぞれ2.5および2.2と低くなっていくが、殺菌効果としては十分な水準にある。
【0063】
なお、比較例1では、(b)成分を含まずに(a)成分のトリアセチンを単独で用いても、殺菌力は2.2であり、十分な殺菌効果が得られるが、これはトリアセチンの量が500ppmと多いためである。これに対し、比較例2では比較例1でトリアセチンの量を200ppmに減らしたものであるが、これでは十分な殺菌効果が得られない。このことからも本発明のように(b)成分を含むことで、オゾン酸化促進剤の量を低減しながら、高い殺菌効果が得られることが示された。
比較例3では、(a)成分を含まずに(b)成分として酢酸を単独で用いたが、殺菌力は1.0であり、殺菌効果は低い。
比較例4および5では、(a)成分の代わりにエタノールを加え、比較例4ではさらに(b)成分として酢酸を加えたが、いずれも殺菌力およびオゾン処理が低い。
以上の結果から、(a)成分および(b)成分によって殺菌効果が高まり、(a)成分を併用することや、pHを低くすることで、さらに殺菌効果が高まることがわかった。
【0064】
《試験例2》
試験例1と同じオゾンガス濃度で、初期菌数を2.2×10個/ml(対数値:4.3)の条件で実施した結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
実施例10〜17では、それぞれ異なる(a)成分を1種ずつ200ppm加え、(b)成分はいずれも酢酸およびクエン酸であり、pHはいずれも4.0に調整した。
実施例10、11、13、14はいずれも発泡状態が良く、殺菌力が3.1以上で、殺菌効果が非常に高い。実施例17は、多少の発泡があるものの、殺菌力は3.3以上であり、殺菌効果は非常に高い。
【0067】
比較例6では、(a)成分の代わりにグリセリンを、比較例7ではDecaglynをそれぞれ200ppm加えたが、比較例6では殺菌力および殺菌効果が低く、比較例7ではオーバーフローが生じたため菌数を測定できなかった。
以上の結果から、初期菌数が増加した場合であっても、高い殺菌効果が得られることが示された。この条件において、(a)成分としては、トリアセチン、ジアセチン、1,2−PGDA、モノブチリン、1,4−BDDA、酢酸n−プロピルが好ましく、より好ましくはトリアセチン、ジアセチン、1,2−PGDA、モノブチリン、1,4−BDDAである。
【0068】
《試験例3》
オゾンガス濃度をさらに低濃度の50volppm(0.11g/m)とし、初期菌数を試験例1と同じ条件で実施した結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
(a)成分として、実施例18〜23ではトリアセチンを、実施例24ではジアセチンを、実施例25ではトリアセチンおよびジアセチンをそれぞれ加えた。(b)成分として、実施例18では酢酸を、実施例19ではリン酸を、実施例20〜25では酢酸、リン酸、クエン酸の3種をそれぞれ加えた。実施例20〜23では、(a)成分および(b)成分が同じであるが、pHはそれぞれ3.2、4.0、5.0、6.0と異なる。
実施例19〜21、24、25は、殺菌力も高く、殺菌効果が非常に高い。実施例18もやや高い。
実施例20〜23では、pHの値が高くなるにつれ、殺菌力が低下していくが、十分な殺菌効果は得られる。
実施例22および25では、pHの値が同じ5.0であるが、(a)成分としてトリアセチンおよびジアセチンを用いた実施例25のほうが、殺菌力および殺菌効果が非常に高い。
【0071】
比較例8では(a)成分の代わりにDecaglynを加え、比較例9では(a)成分を加えず(b)成分の酢酸の量の10倍にし、比較例10では(a)成分の代わりにエタノールを、(b)成分として酢酸を加えた。
比較例8では、オーバーフローのために菌数を測定できず、比較例9および10では、殺菌力および殺菌効果が低かった。
以上の結果から、オゾンガス濃度が低濃度であっても、高い殺菌効果が得られることが示された。この場合、(a)成分の量を試験例1よりも増加する必要があるが、(b)成分として酢酸、リン酸、クエン酸の3種を加えることで、十分な殺菌効果が得られる。さらに、(a)成分として、トリアセチンの他にジアセチンを加えることや、pHの値を低くすることで、より高い殺菌効果が得られる。
【0072】
《試験例4》
試験例3と同じオゾンガス濃度で、初期菌数を1.4×10個/ml(対数値:4.1)の条件で実施した結果を表5に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
実施例26〜33では、それぞれ異なる(a)成分を1種ずつ1000ppm加え、(b)成分はいずれも酢酸、リン酸、クエン酸の3種であり、pHはいずれも4.0に調整した。
実施例26では、殺菌力および殺菌効果が非常に高く、実施例27と29ではいずれもやや高く、実施例28および30〜33でも十分な殺菌効果が得られた。
【0075】
比較例11では、(a)成分の代わりにグリセリンを、比較例12ではC12EO15を、比較例13ではPPGを、比較例14ではTEGをそれぞれ1000ppm加えた。
比較例12では、オーバーフローのために菌数を測定できず、比較例11、13、14では、いずれも殺菌力および殺菌効果が低かった。
以上の結果から、オゾンガス濃度が低濃度であって、初期菌数を減少させた場合でも、十分な殺菌効果が得られることが示された。この条件において、(a)成分としては、トリアセチン、1,2−PGDAが好ましく、より好ましくはトリアセチンである。
【0076】
試験例1〜4の結果を総合すると、オゾンガス濃度および初期菌数の条件がいずれの場合であっても、(a)成分および(b)成分を加えることで、オゾン酸化促進剤の使用量を低減させながら、特にオゾンによる殺菌効果を著しく促進できることが示された。
(a)成分としては、トリアセチンが好ましく、(b)成分としては、酢酸、リン酸、クエン酸の3種を加えることが好ましい。
また、pHは6.0以下であって、取り扱いの安全性の面から2.0〜6.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは3.0〜5.5の範囲である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分と(b)成分と水とを混合してなることを特徴とするオゾン酸化促進剤。
(a)25℃における0.5質量%水溶液の100ミリ秒(msec)時の動的表面張力が70mN/m以下で、かつ30秒(sec)時の動的表面張力が55〜67mN/mの範囲である化合物。
(b)水溶性の酸性成分。
【請求項2】
(a)成分の化合物は、分子量が100以上であることを特徴とする請求項1記載のオゾン酸化促進剤。
【請求項3】
(a)成分の化合物は、分子量が250以下であることを特徴とする請求項1または2記載のオゾン酸化促進剤。
【請求項4】
請求項1〜3記載のオゾン酸化促進剤を含有することを特徴とするオゾン酸化促進剤組成物。
【請求項5】
オゾン酸化により処理対象物を処理するオゾン処理方法であって、請求項4記載のオゾン酸化促進剤組成物の存在下において、処理対象物を含有する酸性の被処理水中にオゾンを供給する工程を有することを特徴とするオゾン処理方法。



【公開番号】特開2008−201992(P2008−201992A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42387(P2007−42387)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】