説明

オフセットインキ印刷方法

【課題】従来の黄、紅、藍、墨プロセス4色印刷で表現していたRGBの色再現領域よりもより広い色領域を再現することを可能とする印刷方法。
【解決手段】黄インキ、紅インキ、及び藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、ならびに墨インキを使用するオフセット印刷において、黄インキとして、濃度値1.10〜1.20の墨インキ上に濃度0.85〜0.95の範囲で刷り重ねた場合のL*値が31以上の不透明性を有する黄インキであることを特徴とするオフセット用印刷インキ。
ジスアゾイエロー系金属化合物を5〜15%含有するオフセット印刷用黄インキ。アゾ系金属化合物もしくはローダミン系染料の金属レーキ化合物を10〜30%含有するオフセット印刷用紅インキ。フタロシアニン系染料のバリウム金属レーキ化合物を5〜35%含有するオフセット用藍インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄、紅、藍、墨のプロセス4色からなるオフセットインキ印刷方法であって、4色で高彩度の色再現性に優れたインキシステムを用いた印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
90年代より始まったIT革命は、印刷現場を取り巻く環境を著しくデジタル化の方向へと導いてきており、このデジタル化によって、従来の印刷方式のワークフロー(撮影・ポジ・スキャン・データ・デザイン・EPS・面付け・フィルム・刷版・印刷)が多段階式過程であったのに対し、デジタルカメラによる撮影・DTP・CTP・印刷とその過程を飛躍的に短縮することに成功した。それによって、入稿データの「RGB」化が標準化しつつあり、取り扱われるデータがより色再現領域の広いものへとシフトしつつあるのが現状である。
【0003】
しかし、現在主流となっている黄、紅、藍、墨のプロセス4色(CMYK)からなる平版オフセット印刷では、減色混合による色相となるため、必然的に色再現領域がRGBのそれよりも狭いものとなり、デジタルデータと印刷物との間の色再現性の差異が問題となっていった。
【0004】
特に浸透乾燥型インキを用いる更紙用印刷(新聞印刷)においては、用紙の白色度、平滑性の問題があり、コート紙用印刷よりも、更に色再現領域が狭くなり、デジタルデータからの見本印刷物との色再現性の差異が非常に問題となってしまう。
【0005】
また、浸透乾燥型インキを用いる新聞印刷においては、近年、モアカラー化の要望が強まり、新聞紙面のカラーページが増加する傾向にあるため、これに対応すべく印刷品質の向上や、カラー広告の高品質化による紙面の差別化が強く望まれている。
【0006】
また、白色度の劣る新聞用紙等の更紙に印刷する場合、下地の影響を受けず、黄インキ本来の発色性を出し、広い色再現域を得るためには、黄インキが不透明であることが望ましい。
【0007】
これを解決する手段として、特許文献1では高彩度の印刷システムとして5〜7色のインキセットを使用する印刷方法が確立され、それぞれの特定した色相を持つインキセットを用いる印刷方法として、プロセス4色に橙、緑を加えた6色(ヘキサクロム印刷)やプロセス4色に橙、緑、紫を加えた7色(ハイファイ印刷)等が確立されている。また、ヘキサクロムインキに代表されるように、色再現領域を広げる手段として一部の色に蛍光顔料を含有させる等の手法もとられるが、印刷適性の劣化(転移不良、光沢低下等)や耐光性不足による印刷物の褪色等のデメリットもある。更に、使用するインキの色数が6色、7色となり、印刷機の胴数が6胴以上の高価な多色印刷機を必要とする事に加え、それと同数の多色分解した版数が必須条件となり、新たに始めるには巨額な設備投資と、色調管理の複雑化などで本システムを用いるには限られた範囲に止まっている。
【0008】
新聞印刷においては、特にプロセス4色用の印刷機がほとんどであり、5色機以上の多色機が汎用品として市場に導入されていないこともあり、多色印刷機を用いた5胴以上の多色印刷方法による紙面の高彩度化は更に困難であり、そのため高演色用インキの存在や、印刷用紙を含めた高彩度を得るために印刷方法の確立が重要になってくる。
【0009】
従来、新聞印刷において、インキ盛り量を通常より多くし、紙面濃度を上げることによって高彩度化を図ることが試みられてきた、しかし、インキ盛り量を多くすることによって、紙面の彩度は向上するものの、セット性が遅延し、オフセット汚れ、ガイド汚れの誘発を招く。また、顔料濃度を高濃度化し、インキの盛り量を変化させずに紙面濃度を上げることも試みられてきたが、乳化適性等の印刷適性の劣化を招き、現在もこれらの方法による浸透乾燥型オフセットインキ印刷方法は一般的に普及していない。
【0010】
また、近年、色再現領域を拡大する方法として、ローダミン系染料の金属レーキ化合物を紅顔料として使用することで、紅や青(藍×紅の重ね)や赤(紅×黄の重ね)の色再現領域が広がるという報告がある。本発明は、藍顔料を従来の銅フタロシアニン顔料からバリウムレーキのフタロシアニン顔料を使用することで、藍や青の色再現領域を拡大し、これまでの手法では達成しえなかった緑(藍×黄の重ね)領域の拡大をも成し遂げる。同時に、紅インキとしてローダミン系染料の金属レーキ化合物を併用することで、更なる色再現域の拡大を可能とする。
【特許文献1】特開2001−260516号公報
【特許文献2】特開2007−231221号公報
【特許文献3】特開2007−231222号公報
【特許文献4】特開2007−231239号公報
【特許文献5】特開2007−231315号公報
【特許文献6】特開2007−231316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来の技術における問題点を解決する為になされたものであり、その課題とするところは、従来多く普及している4色印刷機を用いて、RGBの色再現領域を限りなく表現することができる、黄、紅、藍、墨のプロセス4色からなる浸透乾燥型オフセットインキとその印刷方法を提供するものである。
【0012】
すなわち、本発明は、(a)黄インキ並びに(b)紅インキ、及び(c)藍インキのうち1つ又は2つ、ならびに墨インキを使用するオフセット印刷において、黄、紅が下記顔料であるオフセット印刷用インキに関するものである。
【0013】
(a)黄インキは、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜500nmの波長領域が10〜50%、530nm〜700nmの波長領域での反射率が90〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする黄色相化合物を5〜15%含有するオフセット印刷用黄インキである。
【0014】
(b)紅インキは、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜500nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、500nm〜560nmの波長領域での反射率が1〜20%、630nm〜700nmの反射率が90%〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする紅色相化合物を15〜20%含有するオフセット印刷用紅インキである。
【0015】
(c)藍インキは、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜530nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、600nm〜700nmの波長領域での反射率が1〜30%の反射スペクトルを有することを特徴とする紅色相化合物を5〜35%含有するオフセット印刷用藍インキである。
【0016】
また、本発明は、上記の(a)黄インキ、(b)紅インキ、(c)藍インキの3色が下記顔料成分の組み合わせからなる浸透乾燥型オフセット印刷用インキに関するものである。
【0017】
(a)黄インキが、ジスアゾイエロー系金属化合物として、C.I.ピグメントイエロー12、又はC.I.ピグメントイエロー13を5〜15%含有する浸透乾燥型オフセット印刷用黄インキである。
【0018】
(b)紅インキが、アゾ系金属化合物としてブリリアント カーミン6B、又はレーキレッドC、又はレーキレッドD、もしくはローダミン系染料の金属レーキ化合物としてC.I.ピグメント81、又はC.I.ピグメント169、又はC.I.ピグメントバイオレット1を15〜20%含有する浸透乾燥型オフセット印刷用紅インキである。
【0019】
(c)藍インキが、フタロシアニン系染料の金属レーキ化合物であるC.I.ピグメントブルー17:1、又はC.I.アシッドブルーを5〜35%含有する浸透乾燥型オフセット印刷用藍インキである。
【0020】
すなわち、本発明は、上記の(a)黄インキ、(b)紅インキ、及び(c)藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、ならびに墨インキを使用する浸透乾燥型オフセット印刷において、ISO規格の新聞ジャパンカラー標準用紙に印刷した黄、紅、藍の各濃度値を、黄が0.85〜0.95、紅が0.88〜1.00、藍が0.84〜1.00の範囲内で各色インキを単独又は重ね合わせにより印刷した時、L***表色系による色度(JIS Z 8729)が、
黄インキで、L*:75〜85、a*:−10〜0、b*:60〜70
紅インキで、L*:52〜62、a*:46〜60、b*:−15〜−5
藍インキで、L*:50〜62、a*:−35〜−25、b*:−35〜−25
の範囲内にあり、上記インキの2色の刷り重ねの色度)が、
紅インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:50〜60、a*:37〜50、b*:27〜37
藍インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:52〜58、a*:−45〜−36、b*:22〜30
藍インキ×紅インキの刷り重ねで、L*:35〜45、a*:15〜25、b*:−40〜−30
の範囲内になることを特徴とする高彩度の色再現に優れた浸透乾燥型オフセットインキ印刷方法であって、上記の黄、紅、藍のうち2色と墨インキとの組み合わせ、更には、上記の3色と墨インキとの組み合わせで印刷することにより、L***表色系の色空間を広げることが可能なオフセット印刷用インキ印刷方法に関するものである。
【0021】
また、本発明は、上記のオフセット印刷用インキを印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明が提供するオフセットインキ印刷方法を用いることにより、従来の黄、紅、藍、墨プロセス4色印刷で表現していたRGBの色再現領域よりもより広い色領域を再現することが可能になる。また、本発明では、印刷物の色再現領域を向上させる手段として蛍光顔料を使用していないため、印刷適性、印刷物の経時での褪色等を劣化させることなく、高彩度の印刷物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0024】
一般的に、色再現領域を広げるためには、各色の理想的な分光反射率曲線に近づける必要がある。すなわち、人が色を認識する波長領域は400nm〜700nmの光(この波長を可視光線という)において、黄インキでは、500nm〜700nmの波長領域での反射率が100%、400nm〜500nmの波長領域での反射率が0%であり、紅インキでは、400nm〜500nm、600nm〜700nmの波長領域での反射率が100%、500nm〜600nmの波長領域での反射率が0%であり、藍インキでは、400nm〜600nmの波長領域での反射率が100%、600nm〜700nmの波長領域での反射率が0%であることが理想であると言われている(理想のプロセスインキの分光反射率曲線を図1に示す)。
しかし、現状使用されているプロセス4色からなる、黄、紅、藍、墨のオフセット印刷用インキの反射スペクトルは理想の反射スペクトルとはかけ離れている。完全反射しなければならない部分での不必要吸収があるためにインキの濁り成分が存在し、色再現性を狭めている。
本発明のプロセス4色からなる、黄、紅、藍、墨のオフセット印刷用インキの(a)黄インキ、(b)紅、
(c)藍の3色が以下の分光反射率曲線を有することで、理想のプロセスインキの分光反射曲線に近づけ
ている。特に、オフセット印刷用黄インキが顕著である。
【0025】
(a)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜500nmの波長領域が10〜50%、530nm〜700nmの波長領域での反射率が90〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする黄色相化合物を5〜15%含有する黄インキである。
【0026】
(b)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜500nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、500nm〜560nmの波長領域での反射率が1〜20%、630nm〜700nmの反射率が90%〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする紅色相化合物を15〜20%含有する紅インキである。
【0027】
(c)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜530nmの波長領域の反射率が50〜100%、600nm〜700nmの反射率が1〜30%の反射スペクトルを有することを特徴とする藍色相化合物を5〜15%含有する藍インキである。
【0028】
本発明に用いられる黄顔料としては、ジスアゾイエロー系金属化合物、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13等であって、ISO規格の新聞ジャパンカラー標準用紙に印刷した時の墨インキの濃度値が1.10〜1.20の範囲内で印刷した墨インキ上に、濃度0.85〜0.91の範囲で刷り重ねした場合のL*値が31以上の不透明性を有していれば、白色度の劣る更紙においては下紙を隠蔽することが可能となり、下紙の影響を受けずに黄インキ本来の発色性が出るため、良好な色再現領域を得ることができる。L*値が31未満であると下紙の影響を受け黄インキ本来の発色性が得られない。添加量としては、5〜15重量%が好ましい。更には補色としてC.I.ピグメントイエロー83を上記黄顔料の0.5〜10%、好ましくは2〜5%加えて使用することも可能である。
【0029】
本発明に用いられる紅顔料として、アゾ系金属化合物のブリリアント カーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、レッド2B、リソールレッド、ボルドー10D、ブリリアント スカーレットG、ブリリアント カーミン3Bなどのバリウム、カルシウム、マンガン、ストロンチウムレーキ金属化合物、例えばC.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド50:1、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド49:1、C.I.ピグメントレッド63:1、C.I.ピグメントレッド64:1、C.I.ピグメントレッド60:1が挙げられ、もしくはローダミン系染料のローダミンB、ローダミン3G、ローダミン6Gなどのモリブデン、タングステン金属レーキ化合物、例えばC.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド169、C.I.ピグメントバイオレット1が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら紅顔料は単独で使用してもよく、また2種類以上の組み合わせて使用することも可能である。これらの紅顔料は、全インキに対し10〜30%、より好ましくは10〜20%含有させるのがよい。
【0030】
本発明に用いられる藍顔料としては、フタロシアニン系染料のバリウム金属レーキ化合物であるC.I.ピグメントブルー17:3、又は、C.I.アシッドブルー7が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの藍顔料は2種類以上を組み合わせて使用することも可能であり、全インキに対し5〜35%より好ましくは10〜25%含有させるのが良い。
【0031】
本発明に用いられる墨顔料としては、カーボンブラック、例えばC.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0032】
本発明は、顔料と、合成樹脂、植物油、石油系溶剤とを必要に応じてステアリン酸アルミニウム、アルミキレート等のゲル化剤と共に加熱溶解したビヒクル成分と、耐摩擦剤等の補助剤とからなる黄、紅、藍、墨の4色からなるオフセットインキである。
【0033】
さらに、本発明は、ISO規格の新聞用ジャパンカラー標準用紙、例えば日本製紙(株)製新聞用紙(JCNペーパー準拠、秤量43g/m、L*:82、a*:−0.4、b*:4.6)に印刷し、黄、紅、藍の各色をGretag Macbeth Spectro Eye(45/0、D50、2度視野:Status T)濃度計にて測定した際の濃度値が、黄が0.85〜0.95、紅が0.88〜1.00、藍が0.84〜1.00の範囲内であるときに単色及び各単色の刷り重ねのL***表色系による色度(JIS Z 8729)が、
黄インキで、L*:75〜85、a*:−10〜0、b*:60〜70
紅インキで、L*:52〜62、a*:46〜60、b*:−15〜−5
藍インキで、L*:50〜62、a*:−35〜−25、b*:−35〜−25
の範囲内にあり、上記インキ2色の重ね刷りの色度が、
紅インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:50〜60、a*:37〜50、b*:27〜37
藍インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:52〜58、a*:−36〜−45、b*:22〜30
藍インキ×紅インキの刷り重ねで、L*:35〜45、a*:15〜25、b*:−40〜−30
の範囲内になることを特徴とする事が望ましい。
【0034】
色再現領域の表現方法としては、XYZ表色系(CIE1931表色系)、X1010Z10表色系(CIE1964表色系)、L***表色系(CIE1976)、ハンターLab表色系、マンセル表色系、L***表色系(CIE1976)等挙げられるが、L***表色系が一般的である。
【0035】
***表色系では、色相に関係なく比較できる明るさの度合いとして「明度」をL*で表現し、L*が大きくなるほど色が明るく、小さくなるほど暗くなることを示している。また、各色によって異なる「色相」をa*、b*の値で示し、a*は赤(+)から緑(−)方向、そしてb*は黄(+)から青(−)方向を示し、各方向とも絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、0に近づくに従ってくすんだ色になることを示している。これによって一つの色を、L*、a*、b*を用いて数値化することが可能となる。また「明度」「色相」とは別に、鮮やかさの度合いを数値化する方法として「彩度(C)」があり、以下の計算式にて求めることができる。
【0036】
【数1】

【0037】
Cに関しても同様に、絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、値が小さくなるにつれてくすんだ色になることを示している。
【0038】
一つの印刷物(印刷物以外のカラースペースも含む)で表現できるすべての色再現領域を演色領域(ガモット)と呼ぶが、ガモットを表す最も簡便な方法として、a*を横軸、b*を縦軸とした2次元空間に、単色ベタ部(黄、紅、藍)、及び、単色ベタ刷り重ね部(黄×紅、紅×藍、藍×黄)計6色のa*対b*の値を、プロットした六角形の面積で表現することが可能である。ガモットの面積が広い程、色再現領域が広いことを示している。
【0039】
本発明では、a*、b*の2次元だけではなく、明度「L*」も考慮した演色領域として、L***表色系における色空間(カラースペース)を、横軸a*を−80〜+80、横軸b*を−80〜+80の範囲で10ステップずつの区切りで表現し、高さL*を0〜100の10ステップずつの区切りでスライスして表現した最大6875色数を示す色再現領域を模式的に表現し、その再現色数が多い程インキ再現できる演色領域が広いことを数値で表現した。
【0040】
ジャパンカラーとは、ISO/TC130の国内委員会が策定した印刷に関する標準色のことで、新聞ジャパンカラー(Japan Color for Newspapers)では、ISO12642 SCIDチャート(928色)、ISO12647によるパターン(80色)に加え、新聞印刷における重要な印刷色(肌色、グレー、鮮やか色)の再現が調べられるように設計した「JCN2002チャート」を用い即食値(L***値)をデータで示している。印刷条件は、新聞印刷に関する国際規格ISO2864−2、ISO12647−3の標準条件をもとに、日本国内で普通に使われている新聞インキ、印刷用紙(JCNでは標準用紙の色特性が決められている)を使用することで定義されている。一般的なJCN準拠のインキを、JCN標準用紙に印刷した場合の黄、紅、藍、単色ベタ部のL***値、及びそれより計算したC値は、黄インキで、L*:77、a*:−4、b*:58、C:58、紅インキで、L*:53、a*:44、b*:0、C:44、藍インキで、L*:58、a*:−23、b*−26、C:35程度になるといわれている。この時のベタ濃度は、黄インキで0.86、紅インキで0.89、藍インキで0.85となる。
【0041】
本発明に用いられる合成樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂変性アルキッド樹脂、ロジンエステル等が考えられる。好ましくは、ロジン変性フェノール樹脂を使用する。ロジン変性フェノール樹脂は、特に限定されないが、重量平均分子量1万〜30万のものを使用するのが好ましい。分子量1万以下ではインキの粘弾性が低下し、40万以上ではインキとしての流動性が不十分となる。
【0042】
本発明に用いられる植物油としては、たとえばパーム核油、ヤシ油、綿実油、落花生油、パーム油、コーン油、オリーブ油、亜麻仁油、コーン油、大豆油、サフラワー油、桐油等の植物油由来のものが例示できるとともに、それらの熱重合油および酸素吹き込み重合油なども使用できる。また、本発明ではこれら植物油を単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0043】
また、本発明に用いられる石油系溶剤は、芳香族炭化水素の含有率が1%以下でアニリン点が75〜95℃好ましくは80〜95℃及び、沸点が260℃〜350℃好ましくは280〜350℃の範囲にある石油系溶剤である。アニリン点が75%未満の場合には、樹脂を溶解させる能力が高すぎる為、インキのセット性が遅くなり好ましくなく、また95℃を超える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、光沢、着肉等が悪くなり好ましくない。沸点が260℃未満の場合には、印刷機上でのインキ溶剤の蒸発が多くなり、インキの流動性の劣化により、インキがローラー、ブランケット、版等への転移性が悪くなり好ましくない。また、350℃を超える場合には、紙に浸透した溶剤の蒸発が遅くなるため裏抜け性の劣化を招く。
【0044】
更に、本発明のオフセット印刷用インキには、必要に応じてゲル化剤、顔料分散剤、体質顔料、金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤、多価アルコールなどの添加剤を適宜使用することができる。
【実施例】
【0045】
次に具体例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら記載実施例に限定されるものではない。なお、以下の記述の部は重量部、%は重量%を表す。
【0046】
(オフセット用ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスAの製造)
コンデンサー、温度計、及び攪拌機を装着した四つ口フラスコにロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業(株)製:重量平均分子量15万、酸価20、軟化点160℃)39.0部、大豆油30部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)30部を仕込み、180℃に昇温して、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1.0部(川研ファインケミカル(株)製ALCH)を仕込み、180℃で30分間攪拌してオフセット用ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスA(以下ゲルワニスAと称す)を得た。
【0047】
[インキ実施例](黄インキ)
表1のような配合にてC.I.ピグメントイエロー12(東洋インキ製造(株)製LIONOL YELLOW 1245P)をニーダー中で温度75℃の条件下、ゲルワニスAを徐々に添加して混練して一次脱水を行った。次にニーダー温度100℃〜120℃、減圧度76mmHgの条件下で1時間バキュームし、ベースインキ中の水分を0.5%以下になるように二次脱水を行った。脱水後、残りのゲルワニスA、AFソルベント5号、大豆油を添加して混練して希釈し、ニーダーより未分散ベースインキを取り出した。取り出したベースインキをロール温度60℃の3本ロールを用いて、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で7.5ミクロン以下になるまで練肉し、黄のベースインキ1を得た。次いで、ベースインキ1に対して、表2の配合でゲルワニスA、大豆油、コンパウンド、AFソルベント5号を添加し黄インキ1を得た。
【0048】
[インキ実施例](紅インキ)
黄インキと同様に、表1の配合にてC.I.ピグメントレッド81(不二化成(株)製ファナルローズRNN−P)を用い、紅のベースインキ2を得た。次いで、ベースインキ2に対して、表2の配合でゲルワニスA、大豆油、コンパウンド、AFソルベント5号を添加し紅インキ2を得た。
【0049】
[インキ実施例(藍インキ)
表2の配合にて、C.I.ピグメントブルー17:1(大日精化(株)製SEIKALIGHT BLUE A612)をゲルワニスAと混合し、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で7.5ミクロン以下になるまで練肉後、更に大豆油、コンパウンド、AFソルベント5号を添加し藍インキ3を得た。
【0050】
比較例として用いるインキは一般的な新聞印刷用インキを使用した。
【0051】
黄インキの透明性評価については、下記の試験法で評価した。
【0052】
濃度値1.10〜1.20の範囲内で印刷した墨インキ上に、濃度0.80〜1.10の範囲で黄インキを刷り重ねし、L*値を測定した。結果を図2に示す。実施例の黄インキは、測定濃度範囲で常にL*値が31以上で、下地の墨インキを隠蔽し、黄インキの本来の発色性が出て演色性を広げている(L*値は値が小さいほど黒く、大きくなるほど白くなることを示している)。一方、比較例はL*値が低く、下刷りの墨インキの影響が出てしまい、演色性が狭くなってしまう。
【0053】
(印刷評価試験)
上記実施例及び比較例のインキについて、下記印刷条件の下、黄、紅、藍の各ベタ濃度値を、黄:0.85〜0.95、紅:0.88〜1.00、藍:0.84〜1.00の範囲内で印刷し、印刷物の評価を実施した。尚、墨インキは、一般的なオフセット用新聞印刷インキを使用し、濃度値1.12〜1.20の範囲内で印刷した。
【0054】
(印刷条件)
印刷機 :LITHOPIA BT2−800 NEO(三菱重工(株))
:刷り順:墨→藍→紅→黄
用紙 :新聞用更紙:超軽量紙(秤量43g/m2)(日本製紙(株)製) (測色値:L*:82、a*:−0.4、b*:4.6)
湿し水 :NEWSKING ALKY(東洋インキ製造(株))0.5%水道水溶液
印刷速度:10万部/時
【0055】
(印刷物測定条件)
濃度 :Gretag Macbeth Spectro Eye(45/0、D50、2度視野:Status T)にて 印刷物の単色(黄、紅、藍、墨)ベタ部の濃度値を測定。
測色 :Gretag Macbeth Spectro Eye(45/0、D50、2度視野:Status T)にて 印刷物の単色ベタ部(黄、紅、藍)、及び、単色ベタ刷り重ね部(黄×紅、 紅×藍、藍×黄)のL*、a*、b*値を測定。
【0056】
C値はa*及びb*から下記の計算式にて求めた。
【0057】
【数2】

【0058】
結果を図3に示す。比較例と比べて実施例のC値が大きく、印刷物の彩度が高い。また、a*を横軸、b*縦軸とした2次元空間に、各a*、b*値をプロットし、2次元のガモットで比較した結果、実施例の色再現領域が広いことがわかる。
【0059】
また、得られた分光反射率曲線を図4に示す。比較例の従来インキに比べ、実施例のインキの方が理想の分光反射率曲線に近くなっており、完全反射しなければならない部分の不必要吸収が少なくなっている。そのため、インキの濁り成分が減少し、色再現領域が広がっていることがわかる。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】「黄・紅・藍各色の理想の分光反射スペクトルに関する図である。」
【図2】「黄インキの透明性の評価に関する図である。」
【図3】「本発明による印刷物の測定結果に関する図である。」
【図4】「本発明による印刷物の黄・紅・藍各色の分光反射曲線の測定結果に関する図 である。」

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)黄インキ並びに(b)紅インキ、及び(c)藍インキのうち1つ又は2つ、ならびに墨インキを使用するオフセット印刷において、黄、紅が下記顔料であるオフセット印刷用インキ。
(a)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜500nmの波長領域が10〜50%、530nm〜700nmの波長領域での反射率が90〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする黄色相化合物を5〜15%含有するオフセット印刷用黄インキ。
(b)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜500nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、500nm〜560nmの波長領域での反射率が1〜20%、630nm〜700nmの反射率が90%〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする紅色相化合物を15〜20%含有するオフセット印刷用紅インキ。
(c)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜530nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、600nm〜700nmの波長領域での反射率が1〜30%の反射スペクトルを有することを特徴とする紅色相化合物を5〜35%含有するオフセット印刷用藍インキ。
【請求項2】
請求項1記載の(a)黄インキ、(b)紅インキ、(c)藍インキの3色が下記顔料成分の組み合わせからなる浸透乾燥型オフセット印刷用インキ。
(a)ジスアゾイエロー系金属化合物として、C.I.ピグメントイエロー12、又はC.I.ピグメントイエロー13を5〜15%含有する浸透乾燥型オフセット印刷用黄インキ。
(b)アゾ系金属化合物としてブリリアント カーミン6B、又はレーキレッドC、又はレーキレッドD、もしくはローダミン系染料の金属レーキ化合物としてC.I.ピグメント81、又はC.I.ピグメント169、又はC.I.ピグメントバイオレット1を15〜20%含有する浸透乾燥型オフセット印刷用紅インキ。
(c)フタロシアニン系染料の金属レーキ化合物であるC.I.ピグメントブルー17:1、又はC.I.アシッドブルーを5〜35%含有する浸透乾燥型オフセット印刷用藍インキ。
【請求項3】
請求項1または2記載の(a)黄インキ、(b)紅インキ、及び(c)藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、ならびに墨インキを使用する浸透乾燥型オフセット印刷において、ISO規格の新聞ジャパンカラー標準用紙に印刷した黄、紅、藍の各濃度値を、黄が0.85〜0.95、紅が0.88〜1.00、藍が0.84〜1.00の範囲内で各色インキを単独又は重ね合わせにより印刷した時、L***表色系による色度(JIS Z 8729)が、
黄インキで、L*:75〜85、a*:−10〜0、b*:60〜70
紅インキで、L*:52〜62、a*:46〜60、b*:−15〜−5
藍インキで、L*:50〜62、a*:−35〜−25、b*:−35〜−25
の範囲内にあり、上記インキの2色の刷り重ねの色度)が、
紅インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:50〜60、a*:37〜50、b*:27〜37
藍インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:52〜58、a*:−45〜−36、b*:22〜30
藍インキ×紅インキの刷り重ねで、L*:35〜45、a*:15〜25、b*:−40〜−30
の範囲内になることを特徴とする高彩度の色再現に優れた浸透乾燥型オフセットインキ印刷方法であって、請求項1または2記載の黄、紅、藍のうち2色と墨インキとの組み合わせ、更には、請求項1または2記載の3色と墨インキとの組み合わせで印刷することにより、L***表色系の色空間を広げることが可能なオフセット印刷用インキ印刷方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のオフセット印刷用インキを印刷してなる印刷物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−59286(P2010−59286A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225103(P2008−225103)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】