説明

オフセット印刷装置及び該装置を用いた太陽電池の電極形成方法

【課題】微細で厚みのある電極を効率よく形成し得るオフセット印刷装置を提供する。
【解決手段】印刷ユニット11,21,31は、被印刷物50上に第1印刷パターンを印刷する第1グラビアロール12と第1ブランケットロール12を有する第1印刷ユニット11と、第1印刷ユニット11により印刷された被印刷物50上の第1印刷パターン上に、第2印刷パターンを重ね合わせて印刷する第2グラビアロール22と第2ブランケットロール23を有する第2印刷ユニット21と、第2印刷ユニット21により重ね合わせて印刷された第1印刷パターン上の第2印刷パターン上に、第3印刷パターンを更に重ね合わせて印刷する第3グラビアロール32と第3ブランケットロール33を有する第3印刷ユニット31とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷装置及び該装置を用いたオフセット印刷法による太陽電池の電極形成方法に関する。更に詳しくは、複数の印刷ユニットを備え、所望の厚さの電極を効率よく形成し得るオフセット印刷装置及びこれを用いた太陽電池の電極形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池としてp型半導体基板を有するものが知られている。この太陽電池にはpn接合が作成され、このpn接合に向かう適切な波長の放射線は、この太陽電池内に正孔−電子対を発生させる外部エネルギーの供給源として働くようになっている。そして、pn接合に存在する電位差のため、正孔と電子とはこの接合部を反対方向に横断し、それによって、電力を外部回路に送出することが可能な電流の流れを引き起こすようになっている。そして、このような構成を有するほとんどの太陽電池は、メタライズされているシリコンウェーハ、すなわち導電性である金属接点が設けられているシリコンウェーハの形をとる。
【0003】
ここで、現在、地球上で使用されているほとんどの発電用の太陽電池は、シリコン太陽電池である。この太陽電池ではp型半導体基板が用いられ、そのp型半導体基板の上面にn型半導体層を形成してpn接合とし、そのn型半導体層の上に反射防止用のコーティングとして窒化ケイ素層を更に形成している。そして、その窒化ケイ素層を貫通してn型半導体層と導通する電極をその窒化ケイ素層の上に形成している。
【0004】
太陽電池セルの受光面に形成される上記電極は、一定ピッチで平行、かつ線状に形成されたグリッド電極と、このグリッド電極と直交して形成された2本のバス電極から構成され、これら電極の形成には、従来からスクリーン印刷法が用いられている。スクリーン印刷法では、電極形成用の導電性インクを、所定パターンに対応する網目状の開口部を有するスクリーンマスクに充填させ、これをプラスチック等からなるスキージで押圧し、スクリーンマスクの空隙部から被印刷物上に導電性インクを押し出して、所望の電極パターンを形成する。
【0005】
しかし、スクリーン印刷法に用いられるスクリーンマスクは、金属、合成樹脂等の線材を織ったものであるため、糸の太さには限界があり、微細な電極パターンを印刷する際に電極のエッジが乱れたり、にじみを生じるといった不具合が生じる。
【0006】
また、太陽電池セルの受光面側は太陽光の反射を抑え、入射光をより多く取り込むために、その表面が凹凸状のテクスチャ構造に形成される。このため、スクリーン印刷法で、スキージによる押圧を高くすると、テクスチャ構造の凸部に導電性インクが転写されず、一方、押圧を高くすると、テクスチャ構造の凹部に導電性インクが埋まらず、所望の線状パターンを形成しにくいといった不具合が生じる。
【0007】
太陽電池セルの電極、特にグリッド電極は、太陽電池セルの受光面がテクスチャ構造に形成されているため、また、セル内部に太陽光をより多く取り込み、かつ生じた電流をロスなく取り出すという理由から、より微細で、かつ厚みのあるものに形成する必要がある。
【0008】
このようなスクリーン印刷法による不具合を解消し、かつ微細で厚みのある電極を形成し得る太陽電池の電極形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法では、スクリーン印刷法の代わりにオフセット印刷法を採用し、電極を形成するための導電性ペーストを基板に印刷する印刷工程と、基板に印刷された導電性ペーストを加熱する加熱工程とを1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返して、重ね印刷することを特徴としている。
【0009】
ところで、従来のオフセット印刷装置は、図5に示すように、インキ41を充填する所定パターンの凹部102aが形成されたグラビアロール102と、このグラビアロールから印刷パターンを受理し、印刷パターンを被印刷物に転写するブランケットロール103とを有する印刷ユニット101を備えている。そして、グラビアロール102が回転しながら、所定パターンの凹部102aにインキ41が充填され、かつ余分なインキ41はブレード104によって除去されることにより、所望の印刷パターンが得られる。この印刷パターンは、グラビアロール102と逆方向に回転するブランケットロール103に転写される。更にブランケットロール103に転写された印刷パターンは、テーブル107上に載置された被印刷物50を回転するブランケットロール103下方を移動させるか、或いは固定された被印刷物50の上方を印刷ユニット101が移動することにより被印刷物50に印刷され、所定の印刷パターンが被印刷物50上に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−44974号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のオフセット印刷装置は、図5に示すように、グラビアロール102とブランケットロール103がそれぞれ1つずつ設けられた単一の印刷ユニット101を備えるのが一般的である。そのため、上記特許文献1に示されるように、電極の膜厚を増やすために重ね印刷を行う場合には、1回の印刷工程を終えた後、固定された印刷ユニット101にパターンの形成された被印刷物50を再度通す印刷作業を繰り返すか、或いは固定され、かつパターンの形成された被印刷物50上方において印刷ユニット101を反復動作させる必要がある。このような工程が増える結果、製造の遅延を招き、生産性が悪化するという不具合が生じる。
【0012】
本発明の目的は、微細で厚みのある電極を効率よく形成し得るオフセット印刷装置を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、オフセット印刷法により、微細で、かつ厚みのある電極を効率よく形成し得る太陽電池の電極形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点は、供給されたインキを充填する所定パターンの凹部が形成されたグラビアロールと、グラビアロールからインキパターンを受理し、インキパターンを被印刷物に転写するブランケットロールとを有する印刷ユニットを備え、被印刷物に所定の印刷パターンを形成するオフセット印刷装置において、印刷ユニットは、被印刷物上に第1印刷パターンを印刷する第1グラビアロールと第1ブランケットロールを有する第1印刷ユニットと、第1印刷ユニットにより印刷された被印刷物上の第1印刷パターン上に、第2印刷パターンを重ね合わせて印刷する第2グラビアロールと第2ブランケットロールを有する第2印刷ユニットと、第2印刷ユニットにより重ね合わせて印刷された第1印刷パターン上の第2印刷パターン上に、第3印刷パターンを更に重ね合わせて印刷する第3グラビアロールと第3ブランケットロールを有する第3印刷ユニットとを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の観点は、半導体基板の上面に、電極形成用の導電性インキと第1の観点に基づくオフセット印刷装置を用いて電極パターンを印刷する太陽電池セルの電極形成方法であって、オフセット印刷装置が備える第1印刷ユニットの第1グラビアロールから第1ブランケットロールに第1電極パターンを転写する工程と、半導体基板の上面に、第1ブランケットロールに転写された第1電極パターンを印刷する工程と、オフセット印刷装置が備える第2印刷ユニットの第2グラビアロールから第2ブランケットロールに第2電極パターンを転写する工程と、半導体基板の上面に印刷された第1電極パターン上に、第2ブランケットロールに転写された第2電極パターンを重ね合わせて印刷する工程と、オフセット印刷装置が備える第3印刷ユニットの第3グラビアロールから第3ブランケットロールに第3電極パターンを転写する工程と、第1電極パターン上に重ね合わせて印刷された第2電極パターン上に、第3ブランケットロールに転写された第3電極パターンを更に重ね合わせて印刷する工程とを含む太陽電池セルの電極形成方法である。
【0016】
本発明の第3の観点は、第2の観点の電極形成方法により電極が形成された太陽電池セルである。
【0017】
本発明の第4の観点は、第3の観点の太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の観点のオフセット印刷装置では、印刷ユニットが、被印刷物上に第1印刷パターンを印刷する第1グラビアロールと第1ブランケットロールを有する第1印刷ユニットと、第1印刷ユニットにより印刷された被印刷物上の第1印刷パターン上に、第2印刷パターンを重ね合わせて印刷する第2グラビアロールと第2ブランケットロールを有する第2印刷ユニットと、第2印刷ユニットにより重ね合わせて印刷された第1印刷パターン上の第2印刷パターン上に、第3印刷パターンを更に重ね合わせて印刷する第3グラビアロールと第3ブランケットロールを有する第3印刷ユニットとを備える。これにより、微細で、かつ厚みのある電極を形成する際に、被印刷物を印刷装置に通し直すといった印刷作業、或いは印刷ユニットの反復動作を省くことができ、生産性を向上させることができる。
【0019】
本発明の第2の観点の電極形成方法では、オフセット印刷装置が備える第1印刷ユニットの第1グラビアロールから第1ブランケットロールに第1電極パターンを転写し、半導体基板の上面に、第1ブランケットロールに転写された第1電極パターンを印刷する。また、オフセット印刷装置が備える第2印刷ユニットの第2グラビアロールから第2ブランケットロールに第2電極パターンを転写し、半導体基板の上面に印刷された第1電極パターン上に、第2ブランケットロールに転写された第2電極パターンを重ね合わせて印刷する。更にオフセット印刷装置が備える第3印刷ユニットの第3グラビアロールから第3ブランケットロールに第3電極パターンを転写し、第1電極パターン上に重ね合わせて印刷された第2電極パターン上に、第3ブランケットロールに転写された第3電極パターンを更に重ね合わせて印刷する。これらの工程は、第1の観点に基づくオフセット印刷装置を用いるため、一台の印刷装置で連続して行うことができる。これにより、半導体基板を印刷装置に通し直すといった印刷作業、或いは印刷ユニットの反復動作が省略され、微細で、かつ厚みのある電極を効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明実施形態のオフセット印刷装置の主要部を示す概略図である。
【図2】太陽電池セルの構造を示す断面図である。
【図3】その太陽電池セルの焼成前の状態を示す図1に対応する断面図である。
【図4】太陽電池セルの上面図である。
【図5】従来のオフセット印刷装置の主要部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
本発明は、図5に示される、供給されたインキ41を充填する所定パターンの凹部102aが形成されたグラビアロール102と、グラビアロール102から印刷パターンを受理し、印刷パターンを被印刷物50に転写するブランケットロール103とを有する印刷ユニット101を備え、被印刷物50に所定の印刷パターンを形成するオフセット印刷装置の改良である。
【0023】
その特徴ある構成は、図1に示すように、印刷ユニットが、被印刷物50上に第1印刷パターンを印刷する第1グラビアロール12と第1ブランケットロール13を有する第111印刷ユニットと、第1印刷ユニット11により印刷された被印刷物50上の第1印刷パターン上に、第2印刷パターンを重ね合わせて印刷する第2グラビアロール22と第2ブランケットロール23を有する第2印刷ユニット21と、第2印刷ユニット21により重ね合わせて印刷された第1印刷パターン上の第2印刷パターン上に、第3印刷パターンを更に重ね合わせて印刷する第3グラビアロール32と第3ブランケットロール33を有する第3印刷ユニット31とを備えることにある。
【0024】
即ち、本発明のオフセット印刷装置10は、第1印刷ユニット11、第2印刷ユニット21及び第3印刷ユニット31の3つの印刷ユニットを備え、一台のこのオフセット印刷装置10で、3層のインキ(41a、41b、41c)を被印刷物50上の同一位置に重ねて印刷することにより、3層の印刷パターンを被印刷物50上に重ね合わせて形成することができるように構成される。第1印刷ユニット11、第2印刷ユニット21、第3印刷ユニット31は、所定の間隔をあけて、かつ上下左右の方向へ微調整が可能な状態に固定される。具体的には第2印刷ユニット21は第1印刷ユニット11に比べて被印刷物50に対して僅かに高く位置し、第3印刷ユニット31は第2印刷ユニット21に比べて被印刷物50に対して僅かに高く位置するように固定される。これは重ね印刷した部分の厚さを大きくするためである。また、印刷装置10には、被印刷物50を第1印刷ユニット11から、第2印刷ユニット21、第3印刷ユニット31の方向へ順次搬送させる可動式の搬送ステージ16と、この搬送ステージ16上に被印刷物50を固定した状態で載置するためのテーブル17を備えている。更に、図示しないが、印刷ユニット11、21、31には、クリーニングローラや、印刷した後の印刷パターンを乾燥するための乾燥装置等を備えている。
【0025】
印刷ユニット11、21、31が有する第1グラビアロール12、第2グラビアロール22及び第3グラビアロール32は、いずれも円柱状又は円筒状の形状を有し、図1において、軸心を中心として時計回りに回転するように設定される。グラビアロール12、22、32の各軸は互いに平行に設けられ、これらグラビアロール12、22、32の柱面には、所定の細長い溝状のパターンの第1凹部12a、第2凹部22a、第3凹部32aがそれぞれ複数本互いに平行に形成され、これらの3つパターンは、重ね印刷を実現するためにすべて共通のパターンに形成される。具体的には複数の凹部12aはグラビアロール12の柱面に等間隔(等ピッチ)に形成される。複数の凹部22a、32aは、それぞれの大きさ、間隔(ピッチ)に関して凹部12aと同一に形成される。
【0026】
また、グラビアロールの12、22、32下方にはインク槽(図示しない)及びこのインク槽からグラビアロール12、22、32の凹部12a、22a、32aへインクを供給、充填するためのフィッシャーロール(図示しない)がそれぞれ設置される。また、供給された余分なインキを拭き取るための第1ブレード14、第2ブレード24、第3ブレード34がそれぞれ設置される。グラビアロール12、22、32の径は、50〜1000mmの範囲内のいずれも同一寸法である。
【0027】
第1ブランケットロール13、第2ブランケットロール23及び第3ブランケットロール33は、アルミ等によって形成された軸心と、シリコーンゴム等の弾性部材によって形成された外周部によって構成される。また、ブランケットロール13、23、33は、いずれも円柱状又は円筒状の形状を有し、図1において、軸心を中心として反時計回り、即ちグラビアロール12、22、32とは、逆方向に回転するように設定される。ブランケットロール13、23、33の柱面は、グラビアロールの12、22、32の柱面とそれぞれ接触するように配置され、グラビアロール12、22、32の凹部12a、22a、32aに充填されたインキ41は、ブランケットロール13、23、33の柱面に所定のパターンで転写される。3つのブランケットロール13、23、33の径は、50〜1000mmの範囲内のいずれも同一寸法であって、かつグラビアロール12、22、32と同一寸法であることが好ましい。
【0028】
上記ブランケットロール13、23、33から、被印刷物50への印刷パターンの転写、印刷は、テーブル17に載置された被印刷物50が搬送ステージ16によって、第1印刷ユニット11、第2印刷ユニット21、第3印刷ユニット31の下方をこの順に通過することにより行われる。また、第1ブランケットロール13に転写された第1印刷パターンを被印刷物50上に印刷し、第2ブランケットロール23に転写された第2印刷パターンをこの第1印刷パターン上に重ね合わせて印刷し、更に第3ブランケットロールに転写された第3印刷パターンを、第2印刷パターン上に重ね合わせて印刷するために、グラビアロール12、22、32、ブランケットロール13、23、33の各回転速度、搬送ステージ16の搬送速度は同期して所定の速度に設定される。
【0029】
続いて、上記本発明のオフセット印刷装置10を用いた太陽電池セルの電極形成方法について、太陽電池セルの製造工程の一例とともに説明する。
【0030】
太陽電池セルの製造工程では、先ず図3に示すように、基板としてp型半導体基板64を準備する。この基板としてSi基板を用いる場合、単結晶基板、多結晶基板のいずれであってもよい。この場合、最初に所望の厚さにスライスされた基板64のスライスダメージを除去するため、10〜20μm程度表面をフッ酸(フッ化水素酸)と硝酸との混酸または水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液でエッチングすることが好ましい。単結晶基板を用いる場合、上面の反射を抑えるためにその上面にテクスチャ構造を形成するのが好ましい。このテクスチャ構造は、濃度1〜5%の水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液にイソプロピルアルコールを3〜10%加え、80℃前後で30〜60分エッチングすることにより形成することができる。また、テクスチャエッチングを行う前にp型半導体基板64の下面に数百nmの酸化膜を成膜することによって受光面のみをテクスチャ構造とすることができる。
【0031】
このp型半導体基板64の下面には、従来から公知の方法によりp+層66を形成する。Alペーストを用いて形成する場合には、図3に示すように、先ずAlペースト67をp型半導体基板64の下面に印刷し、その後焼成する。Alペースト67は、焼成によって、乾燥状態から図2に示すアルミニウム裏面電極68に変換する。焼成中、裏面のAlペースト67とp型半導体基板64の裏面との境界は合金状態を成し、焼成後にその境界にAl−Si合金層69を形成する。そして、そのAl−Si合金層69のp型半導体基板64側にp+層66が形成される。
【0032】
なお、このp+層66の形成方法としては、Alペーストを必ずしも用いなくても良く、他の方法であっても良い。例えば、700〜1000℃で数十分間Br3を気相拡散する方法により、p型半導体基板64の下面にp+層66を形成しても良い。この方法によりp+層16を形成する場合、受光面側に拡散されないように予め受光面側に酸化膜等を形成しておく必要がある。また、ホウ素化合物を含む薬液をp型半導体基板14にスピンコートしてから700〜1000℃でアニールする方法やイオン注入によりp+層16を拡散して形成する方法であっても良い。
【0033】
一方、p型半導体基板64の上面にはn型半導体層62が形成される。このn型半導体層62は、リン(P)等の熱拡散によって形成することができ、この場合オキシ塩化リン(PCCl3)がリン拡散源として一般に使用される。例えば、この半導体層62をp型半導体基板64の全面に形成した後、その上面をレジスト等で保護し、n型半導体層62が上面にのみ残るよう、エッチングによってほとんどの面から除去する。次いで有機溶媒等を使用して、レジストを除去することにより、p型半導体基板64の上面にn型半導体層62を形成することができる。なお、このn型半導体層62は、平方センチメートル当たりが数十オーム程度の面積抵抗率と、約0.3〜0.5μmの厚さとを有することが好ましい。
【0034】
次に、このn型半導体層62の上に反射防止用のコーティングとしての窒化ケイ素層61を形成する。この窒化ケイ素層61は、プラズマ化学気相成長法(CVD)等のプロセスにより、約700〜900Åの厚さになるまでn型半導体層62上に形成する。
【0035】
次に、上述した図1に示す本発明実施形態のオフセット印刷装置10を用いて、図2に示すテクスチャ構造、n型半導体層62、窒化ケイ素層61が形成されたp型半導体基板64の上面に電極13を形成する。
【0036】
電極13は、図4に示すように、一定ピッチで平行、かつ線状に形成されたグリッド電極63aと、このグリッド電極63aと直交して形成される2本のバス電極63bから構成される。なお、バス電極63bについては、従来からのスクリーン印刷法により形成する。
【0037】
先ず、電極形成用の導電性インキを用意する。導電性インキとしては、銀粉末と、ガラス粉末と、樹脂及び溶剤からなるビヒクルと、銀粉末及びガラス粉末を分散し安定化させる分散剤等を含有するものが挙げられる。ビヒクルは、印刷に適した流体力学的性質を有する「ペースト」と呼ばれる粘性組成物を形成するためのものであり、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂又はウレタン系樹脂及びその化合物等を高沸点有機溶剤に溶解させた樹脂及び溶剤からなる有機物である。その他、樹脂としては、エチルヒドロキシエチルセルロース、ウッドロジン、エチルセルロースとフェノール樹脂の混合物、低級アルコールのポリメタクリレート、エチレングリコールモノアセテートのモノブチルエーテルを含めたポリマーも例示することができる。また、高沸点溶剤としては、アルコール系、グリコール系、エーテル系、グリコールエーテル系及びエステル系溶剤等を例示することができる。
【0038】
分散剤は、組成物中の銀粉末及びガラス粉末を分散し安定化させるものであり、アミン系分散剤、カルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、スルホン酸系分散剤及びアクリル酸系分散剤等が挙げられる。また、その他、増粘剤又はその他の一般的な添加剤を含ませてもよい。オフセット印刷法で印刷パターンを形成するグリッド電極63a用の導電性インキの粘度は、1〜100Pa・sにするのが好ましい。下限値未満では、粘度が低すぎる為にグラビア版からブランケットへのペースト転写が不充分となり電極膜厚が薄くなりやすく、上限値を越えると粘度が高すぎる為にグラビア版の凹部にインキを埋め込むことが困難となりやすい。
【0039】
次いで、図1に示すオフセット印刷装置10のグラビアロールの12、22、32下方に設置されたインク槽(図示しない)に上記電極形成用の導電性インキを貯え、テーブル17上に被印刷物50としてp型半導体基板64を設置する。グラビアロール12、22、32、ブランケットロール13、23、33の各回転速度、搬送ステージ16の搬送速度は、電極パターンを高精度に重ねあわせて印刷できるように、同期して所定の速度に設定して印刷を開始する。
【0040】
グラビアロール12、22、32、ブランケットロール13、23、33の回転と、搬送ステージ16によるp型半導体基板64の搬送により、先ず第1印刷ユニット11の第1グラビアロール12から第1ブランケットロール13に線状の第1電極パターンが転写され、p型半導体基板64の上面に、第1ブランケットロール13に転写された線状の第1電極パターンが印刷される。次に、第2印刷ユニット21の第2グラビアロール22から第2ブランケットロール23に線状の第2電極パターンが転写され、p型半導体基板64の上面に印刷された線状の第1電極パターン上に、第2ブランケットロール23に転写された線状の第2電極パターンが重ね合わせて印刷される。そして、第3印刷ユニット31の第3グラビアロール32から第3ブランケットロール33に線状の第3電極パターンが転写され、線状の第1電極パターン上に重ね合わせて印刷された線状の第2電極パターン上に、第3ブランケットロール33に転写された線状の第3電極パターンが更に重ね合わせて印刷される。このようにして、3層からなるグリッド電極63aの線状の電極パターンが連続してp型半導体基板64の上面に印刷される。続いて、p型半導体基板64の上面にスクリーン印刷法により、2本のバス電極63bの電極パターンを印刷する。
【0041】
その後、約700〜975℃の温度範囲の赤外炉内で、1〜30分間、好ましくは数分から数十分間焼成を行う。この焼成により所望の電極パターンに印刷された導電性インキ41中の銀を窒化ケイ素層51に浸透させ、図2に示すように、焼成することにより得られた電極13を窒化ケイ素層51を貫通してその窒化ケイ素層51の下のn型半導体層62と導通させる。このように、焼成することにより得られた電極13は、その適切な電気的性能とn型半導体層12との密着性を確保することができる。
【0042】
このようにして、p型半導体基板64には、そのp型半導体基板64の上面に形成されたn型半導体層62と、そのn型半導体層62の上に形成された窒化ケイ素層61と、その窒化ケイ素層61を貫通してn型半導体層62と導通する電極63が形成される。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0044】
<実施例1>
電極形成用の導電性インキを下記のように作製した。
【0045】
先ず、α-テルピネオール及びブチルカルビトールアセテートを2:1で混合した溶剤を10質量部、ウレタン−アクリレート樹脂を10質量部を混合してビヒクルを調製し、更に分散剤としてカルボン酸系分散剤を5質量部を添加混合した。
【0046】
次に、Ag粉末83質量部と、ガラス粉末2質量部とを、上記分散剤が添加されたビヒクル15質量部に混合した。その後、これを三本ロールで混練し、Ag粉末及びガラス粉末を分散させ、銀粉末とガラス粉末とビヒクルと分散剤とを含む導電性インキを得た。オフセット印刷法により形成するグリッド電極用の導電性インキについては、3本ロールミルにて混練することによって、粘度を5Pa・s(ズリ速度:10s-1)に調整した。なお、Ag粉末及びガラス粉末の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布装置(堀場製作所社製 型名:LA−950)により測定されたレーザー回析散乱法により得られた値である。また、ペースト粘度は、レオメータ(ティーエーインスツルメント社製 型名:AR1000)にて、コーンとして40mmφのアルミ製プレートタイプを使用した。測定条件は、ギャップを200μm、測定温度を25℃にて、ズリ速度を0〜20s-1まで変化させた時の粘度の測定を行い、ズリ速度10s-1の時の粘度を代表値とした。
【0047】
次に、上記導電性インキを用いて太陽電池セル基板を下記のように作製した。
【0048】
155mm角、0.2mm厚のp型多結晶Si基板を、イソプロピルアルコールを含む水酸化ナトリウム水溶液にて、表面をエッチングし、2〜3μmの凹凸を有するテクスチャを形成した。次に、基板の一方に、リン化合物(PCCl3)を塗布した後、800℃にて数分間、加熱することにより、厚さが約0.4μmのn型Si層を形成した。続いて、プラズマCVDにより厚さ0.07μmの窒化ケイ素膜を形成した。
【0049】
その後、表面に窒化ケイ素膜を形成した基板上面に、上記調製したグリッド電極用の導電性インキと図1に示す本発明のオフセット印刷装置10を用いて、第1電極パターン、第2電極パターン及び第3電極パターンの3層からなる線状の電極パターンを印刷した。オフセット印刷装置10が備えるグラビアロール12、22、32には、凹部12a、22a、32aのパターンが、線幅が50μmであり、長さが153mmのラインが、ピッチ2.42mmで62本平行に並んだものを使用した。更にグリッド電極の電極パターンと直交するバス電極の電極パターンをスクリーン印刷法により2本印刷した。
【0050】
その後、ベルト式乾燥炉にて150℃で、10分間、乾燥した。また、基板の裏面には、153mm角ベタパターンを有する、乳剤厚30μmのスクリーン版を用いて、Alペーストをスクリーン印刷し、約153mm角、厚さ約20μmの印刷パターンを形成した。同様に、これをベルト式乾燥炉にて150℃で、10分間、乾燥した。更に、赤外線ランプ加熱炉を用いて、大気中で、室温から800℃まで、15秒で昇温した後、15秒で室温まで冷却し、基板を得た。
【0051】
このようにして、上面にはグリッド電極とこのグリッド電極と直交する2本のバス電極、裏面にはAl電極が形成された太陽電池セル基板50枚を得た。
【0052】
<比較例1>
スクリーン印刷版(メッシュ目開き幅50μm、長さ153mm、ピッチ2.42mm)を用いたスクリーン印刷法による重ね印刷を3回行うことによりグリッド電極の電極パターンを印刷したこと以外は、実施例1と同様に、太陽電池セル基板50枚を得た。
【0053】
<比較試験及び評価1>
実施例1及び比較例1でそれぞれ得られた太陽電池セル基板50枚のグリッド電極について、基板1枚につき、任意に選択した12点のグリッド電極の線幅及び厚さを、レーザー顕微鏡(型名:VK−9710 キーエンス社製)を用いて測定し、これらの平均値を求めた。また、電極の断線の有無については、実態顕微鏡を用いて目視により確認し、基板1枚当たり(62本のグリッド電極)に確認された断線本数の平均値を求めた。これらの結果を次の表1に示す。
【0054】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1と比較例1を比較すると、実施例1では、比較例1とほぼ同等の微細な線幅のグリッド電極が形成され、しかも比較例1のものよりも大幅に厚みのあるグリッド電極が形成されたことが確認された。また、実施例1では、断線の本数も比較例1に比べ、大幅に少ないことが確認された。
【符号の説明】
【0055】
10 オフセット印刷装置
11 第1印刷ユニット
12 第1グラビアロール
13 第1ブランケットロール
21 第2印刷ユニット
22 第2グラビアロール
23 第2ブランケットロール
31 第3印刷ユニット
32 第3グラビアロール
33 第3ブランケットロール
41 インキ(導電性インキ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給されたインキを充填する所定パターンの凹部が形成されたグラビアロールと、前記グラビアロールから印刷パターンを受理し、前記印刷パターンを被印刷物に転写するブランケットロールとを有する印刷ユニットを備え、前記被印刷物に所定の印刷パターンを形成するオフセット印刷装置において、
前記印刷ユニットは、前記被印刷物上に第1印刷パターンを印刷する第1グラビアロールと第1ブランケットロールを有する第1印刷ユニットと、
前記第1印刷ユニットにより印刷された被印刷物上の前記第1印刷パターン上に、第2印刷パターンを重ね合わせて印刷する第2グラビアロールと第2ブランケットロールを有する第2印刷ユニットと、
前記第2印刷ユニットにより重ね合わせて印刷された第1印刷パターン上の前記第2印刷パターン上に、第3印刷パターンを更に重ね合わせて印刷する第3グラビアロールと第3ブランケットロールを有する第3印刷ユニットと
を備えることを特徴とするオフセット印刷装置。
【請求項2】
半導体基板の上面に、電極形成用の導電性インキと請求項1記載のオフセット印刷装置を用いて電極パターンを印刷する太陽電池セルの電極形成方法であって、
前記オフセット印刷装置が備える第1印刷ユニットの第1グラビアロールから第1ブランケットロールに第1電極パターンを転写する工程と、
前記半導体基板の上面に、前記第1ブランケットロールに転写された第1電極パターンを印刷する工程と、
前記オフセット印刷装置が備える第2印刷ユニットの第2グラビアロールから第2ブランケットロールに第2電極パターンを転写する工程と、
前記半導体基板の上面に印刷された第1電極パターン上に、前記第2ブランケットロールに転写された第2電極パターンを重ね合わせて印刷する工程と、
前記オフセット印刷装置が備える第3印刷ユニットの第3グラビアロールから第3ブランケットロールに第3電極パターンを転写する工程と、
前記第1電極パターン上に重ね合わせて印刷された第2電極パターン上に、前記第3ブランケットロールに転写された第3電極パターンを更に重ね合わせて印刷する工程と
を含む太陽電池セルの電極形成方法。
【請求項3】
請求項2記載の電極形成方法により電極が形成された太陽電池セル。
【請求項4】
請求項3記載の太陽電池セルを備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−178006(P2011−178006A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43680(P2010−43680)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】