説明

オプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置及び断層像の撮影方法

【課題】一つの光検出器でフーリエ変換により断層像を構築するOCT装置を提供すること。
【解決手段】OCT装置を構成する干渉計の後段に、前記第1の結合光パルス(干渉光パルス)に対して第2の結合光パルス(干渉光パルス)を所定の遅延時間遅らせた後、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスを合流して、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスを交互に出射する光パルス時分割多重化ユニットを設けること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置及び断層像の撮影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー(Optical Coherence Tomography; OCT)は、光の干渉現象を利用した断層撮影技術であり、網膜の断層撮影等に応用されている。
【0003】
OCTには種々の方式があるが、測定対象の後方散乱光に基づく干渉光の強度をフーリエ変換して断層像を構築する方法が、高速性・高分解能等の点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−201087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この方法には高速動作する光検出器が2つ必要であり、フーリエ変換により断層像を構築するOCT装置(以下、単にOCT装置と呼ぶ)の複雑化の一因になっている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、一つの光検出だけで断層像の撮影を可能とするOCT装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の観点によれば、波数の異なる複数の光パルスを、順次生成する光パルス生成ユニットと、夫々の前記光パルスを参照光パルスと測定光パルスに分岐し、前記測定光パルスを測定対象に照射して後方散乱光パルスを発生させ、前記後方散乱光パルスと前記参照光パルスを結合して第1の結合光パルスと第2の結合光パルスを生成する干渉計ユニットと、前記第1の結合光パルスに対して前記第2の結合光パルスを所定の遅延時間遅らせた後、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスを合流して、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスを交互に出射する光パルス時分割多重化ユニットと、前記光パルス時分割多重化ユニットが交互に出射する前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスの強度を順次測定する光パルス強度測定ユニットと、前記光パルス強度測定ユニットが測定した、前記第1の結合光パルスの強度と前記第2の結合光パルスの強度の差をフーリエ変換して、前記測定対象の断層像を導出する断層像導出ユニットとを有するオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一つの光検出器だけで断層像の撮影を可能とするフーリエ変換OCT装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】2検出器型OCT装置の構成を説明する概略図である。
【図2】可変波長光源が生成するレーザ光の波数(=2π/波長)の時間変化を説明する図である。
【図3】第1の結合光及び第2の結合光の強度と波数の関係を説明する図である。
【図4】実施の形態のOCT装置の構成を説明する図である。
【図5】光パルス生成ユニットが生成する光パルスの強度の時間変化を説明する図である。
【図6】光パルス生成ユニットが生成する光パルスの波数の時間変化を説明する図である。
【図7】光パルス時分割多重化ユニットが出射する光パルスの強度の時間変化を説明する図である。
【図8】光パルス時分割多重化ユニットが生成する光パルスの波数の時間変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。尚、図面が異なっても対応する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0011】
まず、測定対象の後方散乱光に基づく干渉光の強度を2つの光検出器で測定し、この干渉光強度をフーリエ変換して断層像を構築するOCT装置(以下、2検出器型OCTと呼ぶ)を説明する。図1は、2検出器型OCT装置2の構成を説明する概略図である。尚、説明を簡単にするため、1次元断層像を撮影する場合について説明する。
【0012】
このOCT装置2は、図1に示すように、可変波長光源4と、可変波長光源4が生成する光が入射する干渉計ユニット6を有している。また、OCT装置2は、干渉計ユニット6が生成する干渉光の強度を測定する干渉光強度測定ユニット8と、干渉光強度測定ユニット8が測定した干渉光強度をフーリエ変換して、測定対象の断層像を構築する断層像導出ユニット10を有している。
【0013】
図2は、可変波長光源4が生成するレーザ光の波数(=2π/波長)の時間変化を説明する図である。図2の横軸は、時間である。図2の縦軸は、波数である。図2に示すように、可変波長光源4の生成するレーザ光の波数は、所定の波数間隔Δkで増加(又は減少)する。
【0014】
干渉計ユニット6は、図1に示すように、可変波長光源4が生成したレーザ光12を測定光14と参照光16に分岐する光分岐器18(例えば、方向性結合器)を有している。また、干渉計ユニット6は、測定光16を測定対象20に照射し且つ測定光16が測定対象20により後方散乱されて発生した後方散乱光22を補足する光照射/補足ユニット25を有している。また、干渉計ユニット6は、参照光14と後方散乱光22を結合して第1の結合光24と第2の結合光26を出射する光結合器28(例えば、分岐比が1:1の方向性結合器)を有している。
【0015】
光結合器28が出射する第1の結合光24及び第2の結合光26は、後方散乱光22と参照光14が結合した干渉光である。これら第1の結合光24と第2の結合光26の強度の時間変化は、後述するように、位相がπずれている。
【0016】
光パルス強度測定ユニット8は、第1の結合光24の強度に対応する信号(例えば、光電流)を出力する第1の光検知器32(例えば、pinフォトレジストダイオード)と、第2の結合光26の強度に対応する信号(例えば、光電流)を出力する第2の光検知器34(例えば、pinフォトレジストダイオード)とを有している。また、光パルス強度測定ユニット8は、第1の光検知器32の出力と第2の光検知器34の出力の差を増幅する差動増幅器36を有している。また、光パルス強度測定ユニット8は、差動増幅器36の出力をアナログデジタル変換するAD変換器38を有している。以上により、光パルス強度測定ユニット8は、第1の結合光24と第2の結合光26の強度の差を測定する。
【0017】
断層像導出ユニット10(例えば、OCT装置2を動作させるプログラムがロードされたパーソナルコンピュータ)は、光パルス強度測定ユニット8が測定した、第1の結合光24と第2の結合光26の強度の差を波数に関してフーリエ変換して、その絶対値(または、その2乗)を算出する。この絶対値は位置座標の関数であり、測定対象の後方散乱光の強度の深さ方向分布すなわち1次元断層像を表している。
【0018】
以上のように、2光検出器型OCT装置は、位相がπずれた2つ干渉光の強度差を2つの光検出32,34で測定し、この強度差をフーリエ変換して断層像を構築する。このように位相がπずれた2つ干渉光の強度差をフーリエ変換することで、断層像のS/N比(signal to noise ratio)を改善することができる。
【0019】
尚、上記各光学部材は、図1に実線で示した光ファイバーにより接続されている。また、測定光16が伝搬する光ファイバーと後方散乱光22が伝搬する光ファイバーは、光照射/補足ユニット25の光サーキュレータ30により、測定対象20に至る光路に接続されている。
【0020】
以下、位相がπずれた干渉光の強度差をフーリエ変換することで断層像のS/N比が改善される理由を説明する。尚、説明を簡単にするため、測定対象20は光反射面(または、後方散乱面)を一つだけ有するとする。
【0021】
図3は、第1の結合光24及び第2の結合光26の強度と波数の関係を説明する図である。縦軸は、第1の結合光24及び第2の結合光26の強度(パワー)である。横軸は、第1の結合光24及び第2の結合光26の波数である。上述したように、可変波長光源4の生成するレーザ光の波数は、所定の波数間隔Δkずつ増加(又は、減少)する。この波数間隔Δkは、波数の走査範囲に比べ十分に狭い。従って、夫々の結合光の強度は、図3に示すように、略連続的に変化する。
【0022】
図3に示すように、第1の結合光24の光強度40及び第2の結合光26の強度42は、波数に対して余弦関数として変化する振動成分と直流成分を有している。ここで、第1の結合光24の振動成分44と第2の結合光26の振動成分46は、位相がπずれている。一方、第1の結合光の直流成分と第2の結合光の直流成分は等しい。従って、第1の結合光24の強度40から第2の結合光26の強度42を差し引くと、直流成分は取り除かれ、振動成分は2倍になる。これにより、直流成分に伴う雑音は取り除かれ、一方、振動成分すなわち信号強度は2倍になるので、断層像のS/N比(signal to noise ratio)が向上する。
【0023】
尚、干渉光の振動成分44,46の強度の平方根は、後方散乱光の強度に比例している。また、干渉光の振動成分44,46の周期は、測定対象20の表面からの深さ(正確には、測定光16と後方散乱光22の光路長の和と参照光14の光路長の差)に反比例している。従って、この振動成分44,46を波数に関してフーリエ変換しその絶対値を導出することで、測定対象20の深さ方向の後方散乱強度の分布を得ることができる(特許文献1)。
【0024】
(1)装置構成
図4は、本実施の形態のOCT装置48の構成を説明する図である。
【0025】
本実施の形態のOCT装置48は、図4に示すように、光パルス生成ユニット50と、干渉計ユニット52と、光パルス時分割多重化ユニット54と、光パルス強度測定ユニット56と、断層像導出ユニット58を有している。尚、図4の各光学部材(光パルス生成ユニット50と光パルス強度測定ユニット56を含む)は、実線で示す光ファイバーにより接続されている。
【0026】
(i)光パルス生成ユニット
光パルス生成ユニット50は、例えば、SSG-DBRレーザ(Super Structure Grating-Distributed Bragg Reflector Laser;超周期構造回折格子波長可変レーザ)とその駆動ユニットを有する装置である。光パルス生成ユニット50は、断層像導出ユニット58の命令60に応答してこのSSG-DBRレーザを駆動し、光パルスを生成する。
【0027】
図5は、光パルス生成ユニット50が生成する光パルスの強度の時間変化を説明する図である。横軸は時間である。縦軸は光強度(パワー)である。図6は、光パルス生成ユニット50が生成する光パルスの波数の時間変化を説明する図である。横軸は時間である。縦軸は波数である。
【0028】
図5及び6に示すように、光パルス生成ユニット50は、所定の時間Tpが経過するごとに、波数が所定の波数間隔Δkずつ増加(又は減少)する光パルス62を生成する。すなわち、光パルス生成ユニット50は、所定の波数間隔Δkを有する複数の光パルスを、所定の時間Tp(以下、光パルスの時間間隔と呼ぶ)を隔てて順次生成する。ここで、光パルス62の時間間隔Tpは、例えば、光パルスの時間幅PW(半値全幅;以下、光パルス時間幅と呼ぶ)の2倍である。
【0029】
所定の波数範囲を走査し終えると、光パルス生成ユニット50は、断層像導出ユニット58の命令60にしたがって波数走査を再開する。1回の波数走査は、後述するように、測定光パルスの照射位置が少しずつ移動するたびに繰り返される。
【0030】
ここで、光パルス62の強度は、波数に依らず一定であることが好ましい。また、光パルス62の時間間隔Tpは、光パルス時間幅PWの2倍が最も好ましい。これは、この場合に、光パルス時分割多重化ユニット54による多重化後の光パルス列が最も密になるからである。但し、光パルス62の時間間隔Tpは、光パルス時間幅PWの2倍以上であってもよい。この場合、光パルス62の時間間隔Tpは、光パルス時間幅PWの3倍以内が好ましい。これは、多重化後の光パルスが疎になり過ぎないようにするためである。
【0031】
また、波数の走査範囲は、波長換算で、例えば1570nmから1610nmである。Δkは、波長換算で、例えば0.01nmである。光パルスの時間間隔Tpは、例えば、1.0μsである。光パルス時間幅PWは、例えば、0.5μsである。
【0032】
本実施の形態では、光パルス62の波数間隔Δkは一定である。しかし、波数間隔Δkが、多少変動しても断層像を構築することはできる。或いは、波数が所々抜けていても、断層像を構築することはできる。このような光パルスを順次生成する光パルス生成ユニットによっても、OCT装置48を構成することができる。但し、波数の変動や抜けが大きいと、断層像は不明瞭になる。
【0033】
(ii)干渉計ユニット
干渉計ユニット52は、図4に示すように、光パルス62を測定光パルス64と参照光パルス66に分岐する光分岐器68(optical splitter)を有している。また、干渉計ユニット52は、測定光パルス64を測定対象20(例えば、網膜、前眼部、内蔵の内壁等)に照射し且つ測定光パルスが測定対象20により後方散乱されて発生した後方散乱光パルス70を補足する光パルス照射/補足ユニット72を有している。また、干渉計ユニット52は、参照光パルス66が伝搬する光路の光学長を調整する光遅延ユニット88を有している。更に、干渉計ユニット52は、遅延ユニット88により光学長を調整された参照光パルス66aと後方散乱光パルス70を結合して第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97を生成する第1の光結合器69を有している。
【0034】
―光分岐器―
光分岐器68は、例えば方向性結合器である。光分岐器68の分岐比は、例えば90%(測定光パルス側)及び10%(参照光パルス側)である。
【0035】
―光照射/補足ユニット―
光照射/補足ユニット72は、図4に示すように、光分岐器68により分岐され光入射口81aに入射した測定光パルス64を、光入出射口81bから出射する第1の光サーキュレータ80を有している。
【0036】
また、光照射/補足ユニット72は、第1のサーキュレータ80の光入出射口81bから出射した測定光パルスを平行光線に変換するコリメータレンズ82を有している。また、光照射/補足ユニット72は、この平行光線を偏向するガルバノミラー84と、偏向した平行光線を集光して測定対象20に照射するフォーカシングレンズ86を有している。
【0037】
ガルバノミラー84は、断層像導出ユニット58の命令に応答して、集光された平行光線(測定光パルス)の照射位置を測定対象20上の直線に沿って移動させる。このガルバノミラー84は、光パルス生成ユニット50が所定の波数範囲を走査している間は、照射位置を移動させない。そして、波数走査が1回終わるごとに、照射位置を上記直線の沿って一方向に僅かに移動させる。すなわち、ガルバノミラー84は、測定光パルスの照射位置を走査する。
【0038】
測定対象20に照射された測定光パルスは、その一部が後方散乱されて、後方散乱光パルスになる。この後方散乱光パルスは、フォーカシングレンズ86に入射し、その後測定光パルスが進んで来た光路を逆行して、第1の光サーキュレータ80の光入出射口81bに入射し、第1の光サーキュレータ80の光出射口81cから出射する。
【0039】
以上の構成により、光照射/補足ユニット72は、測定光パルス64を測定対象20(例えば、網膜、前眼部、内蔵の内壁等)に照射し且つ測定光パルスが測定対象20により後方散乱されて発生した後方散乱光パルス70を補足する。そして、光照射/補足ユニット72は、この動作を測定対象20の表面上の直線に沿って繰り返す。
【0040】
―光遅延ユニット―
光遅延ユニット88は、図4に示すように、光分岐器68により分岐され光入射口91aに入射した参照光パルス66を、光入出射口91bから出射させる第2の光サーキュレータ90を有している。また、光遅延ユニット88は、第2のサーキュレータ90の光入出射口91bから出射した参照光パルス66を平行光線に変換するコリメータレンズ82aを有している。また、光遅延ユニット88は、この平行光線(参照光パルス)を集光して参照ミラー92に照射するフォーカシングレンズ86aを有している。ここで、参照ミラー92は、平行光線(参照光パルス)の進行方向の前後に移動可能な可能ミラーである。
【0041】
参照ミラー92に照射された参照光パルスは、参照ミラー92により反射され、進行方向を反転させ、フォーカシングレンズ86aに再入射する。その後、参照光パルスは、進行して来た光路を逆行して、第2の光サーキュレータ90の光入出射口91bに入射し、第2の光サーキュレータ90の光出射口91cから出射する。
【0042】
従って、上記平行光の進行方向に沿って参照ミラー92を移動させることで、参照光パルス66の光路(以下、参照光路と呼ぶ)の光学長を、所望の長さに調整することができる。本実施の形態では、参照光路の光学長が、測定光パルス64の光路と後方散乱光パルス70の光路を合わせた光路(以下、測定光路)の光学長に略等しくなるように、参照ミラー92の位置を調整する。尚、参照光路を構成する光ファイバーの長さを予め調整しておくことで、光遅延ユニット88を省略することができる(図1参照)。
【0043】
―光結合器―
第1の光結合器69は、例えば方向性結合器である。この方向性結合器の分岐比は、50:50である。従って、第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97の強度差は、図1を参照して説明した2光検出器型OCT装置2と同様、参照光路と測定光路の光学長の差と波数の積の余弦関数に比例する(特許文献1)。
【0044】
以上の構成により、干渉計ユニット52は、夫々の光パルス62を参照光パルス66と測定光パルス64に分岐し、測定光パルスを測定対象20に照射して後方散乱光パルス70を発生させる。更に、干渉計ユニット52は、後方散乱光70と参照光パルス66aを結合して第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97を生成する。
【0045】
尚、本実施の形態では、光分岐器68及び第1の光結合器69として、方向性結合器を用いている。しかし、光分岐器68及び第1の光結合器69としては、例えば、多モード干渉導波路(Multi Mode Interference)などの他の光分岐結合器を用いてもよい。
【0046】
(iii)光パルス時分割多重化ユニット
光パルス時分割多重化ユニット54は、図4に示すように、第1の結合光パルス95を伝播させる第1の光路94と、第2の結合光パルスを97伝播させる第2の光路96を有している。また、光パルス時分割多重化ユニット54は、第1の光路94を伝播した第1の結合光パルス95と、第2の光路96を伝播した第2の結合光パルス97を合流する第2の光結合器98を有している。
【0047】
ここで、第2の光路96の光学長は、第1の光路94の光学長より長くなっている。従って、第2の光路96は、第1の結合光95に対して第2の結合光97を、第2の光路96と第1の光路94の光学長の差ΔLに相当する遅延時間遅らせる。本実施の形態では、この遅延時間(第2の結合光パルス97の遅延時間)が、光パルス62の光パルス時間幅PW(=第1の結合光パルス95の光パルス時間幅=第2の結合光パルス97の光パルス時間幅)に等しくなっている。
【0048】
図7は、光パルス時分割多重化ユニット54が出射する光パルスの強度の時間変化を説明する図である。横軸は時間である。縦軸は、光強度(パワー)である。
【0049】
上述したように、光パルス62の時間間隔Tpは、光パルス62の光パルス時間幅PWの2倍になっている。また、第2の結合光パルス97の遅延時間Δtは、上述したように、光パルス62の光パルス時間幅PWに等しくなっている。従って、光パルス時分割多重化ユニット54は、図7に示すように、第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97を交互に出射する。
【0050】
図8は、光パルス時分割多重化ユニット54が生成する光パルスの波数の時間変化を説明する図である。横軸は時間である。縦軸は波数である。図8の実線100は、第1の結合光パルス95の波数である。図8の波線102は、第2の結合光パルス97の波数である。図8に示すように、光パルス時分割多重化ユニット54は、同じ波数を有する第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97をこの順番で出射した後、次の波数を有する第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97を再びこの順番で出射する。
【0051】
以上のように、光パルス時分割多重化ユニット54は、第1の結合光パルス95に対して第2の結合光パルス97を所定の遅延時間Δt遅らせた後、第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97を合流して、第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97を交互に出射する。
【0052】
以上の例では、光パルスの時間間隔Tpが光パルス時間幅PWの2倍であり、第2の結合光パルス97の遅延時間Δtが光パルス62の光パルス時間PWに等しくなっている。しかし、遅延時間Δtは、光パルス62の光パルス時間幅PW以上で且つ光パルス時間幅PWとの和が光パルス62の時間間隔Tp以下であってもよい。このような場合にも、第2の光結合器98により合流した、第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97は、互いに重ならずに、第2の結合器98を交互に出射する。
【0053】
(iv)光パルス強度測定ユニット
光パルス強度測定ユニット56は、図4に示すように、一つの光検出器104(例えば、pinフォトダイオード)と、この光検出器104の出力をアナログデジタル変換(以下、AD変換と呼ぶ)して記録する高速アナログデジタル変換ユニット106(以下、高速AD変換ユニットと呼ぶ)を有している。
【0054】
ここで、高速AD変換ユニット106は、光検出器104の出力をAD変換するアナログデジタル変換機(Analog Digital Convertor; 以下、AD変換機と呼ぶ)108と、AD変換機108が変換したデジタル信号を記録するメモリユニット110(例えば、Random Access Memory)を有している。
【0055】
以上の構成により、光パルス強度測定ユニット56は、光パルス時分割多重化ユニット54が交互に出射する第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97の強度を順次測定し記録する。
【0056】
(v)断層像導出ユニット
断層像導出ユニット58は、コンピュータ59であって、図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)112と、主記憶装置(例えば、Random Access Memory)114と、OCT装置48を動作させるプログラム(以下、測定プログラムと呼ぶ)が記録された補助記憶装置116(磁気ディスク等)を有する。
【0057】
断層像導出ユニット58を動作させるためには、まず、補助記憶装置116から主記憶装置114に測定プログラムをロードする。これによりコンピュータ59は、CPU112が、主記憶装置114中の測定プログラムの指令に応答することにより(すなわち、主記憶装置110内の測定プログラムを実行することで)、他の装置(光パルス生成ユニット50等)を制御し且つ測定データに基づいて断層像を導出する演算制御装置になる。
【0058】
コンピュータ59は、光パルスユニット50及びガルバノミラー84を制御して、光パルス62の波数走査を繰り返しながら、測定対象20の表面の直線に沿って測定光パルス64の照射位置を走査する。ここで、コンピュータ59は、波数走査を行っている間は、測定光パルス64の照射位置を移動させない。そして、コンピュータ59は、波数走査が一回終了する毎に、照射位置を上記直線に沿って一方向に少し移動させ、波数走査を再開する。
【0059】
この間、光パルス強度測定ユニット56は、第1の結合光パルス95及び第2の結合光パルス97の強度を光検出器104で順次測定し、夫々の強度をその波数と対応させて記録する。
【0060】
測定光パルス64の位置走査が終了すると、コンピュータ59は、第1の結合光パルス95及び第2の結合光パルス97の強度を波数に関してフーリエ変換し、その絶対値(又は、その2乗)を算出する。これにより、測定対象20の後方散乱光強度の深さ方向(正確には、測定光パルスの進行方向)の分布が得られる。コンピュータ59は、この後方散乱光強度の分布を測定光パルス64の照射位置と対応させることで、測定対象20の2次元断層像を構築する。
【0061】
以上のように、断層像導出ユニット58は、光パルス強度測定ユニット56が測定した、第1の結合光パルス95の強度と第2の結合光パルス97の強度の差をフーリエ変換して、測定対象20の断層像を導出する。
【0062】
以上の説明から明らかなように、本OCT装置48では、図7に示すように、第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97が合流して1つの光パルス列になるので、第1の結合光パルス95の強度と第2の結合光パルス97の強度とを、一つの光検出器104で検出することができる。従って、本OCT装置48によれば、光検出器及びその駆動装置を夫々一つずつ減らすことができる。更に、差動増幅器が不要になる。従って、OCT装置の構成が簡素になる。
【0063】
(2)使用法
次に、本OCT装置48の使用法を説明する。
【0064】
まず、光パルス生成ユニット50、光パルス強度測定ユニット56、及び断層像導出ユニット58を起動する。次に、光パルス照射/補足ユニット72の光パルス照射位置に、測定対象20を配置する。次に、光遅延ユニット88の参照ミラー92の位置を調整して、参照光路と測定光路の光路長を略一致させる。その後、コンピュータ59を、測定プログラムにしたがって動作させて、断層像を撮影する。
【0065】
(3)断層像の撮影方法
次に、本実施の形態による断層像の撮影方法を説明する。
【0066】
まず、測定対象20を所定の位置に配置する。次に、参照光路と測定光路の光路長を略一致させる。
【0067】
次に、所定の波数間隔Δkを有する複数の光パルス62を順次生成する(図5及び6参照)。
【0068】
次に、夫々の光パルス62を参照光パルス66と測定光パルス64に分岐し、測定光パルス64を測定対象20に照射して後方散乱光パルスを発生させる。次に、この後方散乱光パルス70と参照光パルス66を結合して第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97を生成する。
【0069】
次に、第1の結合光パルス95に対して第2の結合光パルス97を所定の遅延時間Δt遅らせた後、第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス97を合流して、第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス95を交互に配列する(図7参照)。
【0070】
次に、交互に配列された第1の結合光パルス95と第2の結合光パルス95を一つの光検出器で受光して、夫々の強度を順次測定する。
【0071】
次に、測定した第1の結合光パルス95の強度と第2の結合光パルス97の強度の差をフーリエ変換して、測定対象20の断層像を導出する。
【0072】
以上の例では、測定光パルスの照射位置を直線に沿って移動させることにより、2次元断層像を撮影しいている。しかし、測定光パルスの照射位置を固定して、1次元断層像を撮影してもよい。また、測定光パルスの照射位置を2次元的に走査して、3次元断層像を撮影してもよい。
【0073】
また、以上の例では、可変波長光源を、光パルス生成ユニットとして用いている。しかし、光パルス生成ユニットとして用いることのできる装置は、可変波長光源に限られない。例えば、SLD(Super Luminescent Diode)等の広帯域光源を変調して広帯域光パルスを発生し、この広帯域光パルスを分光して複数の光パルスを生成する。次に、この複数の光パルスを夫々の波数に応じて所定の時間遅延させた後に合流して、波数が少しずつ異なる複数の光パルスを順次生成してもよい。
【0074】
また、以上の例では、干渉計ユニット52は、マッハツエンダ型干渉計である。しかし、干渉計ユニット52を、他の干渉計たとえばマイケルソン型干渉計で構成してもよい。
【符号の説明】
【0075】
48・・・OCT装置
50・・・光パルス生成ユニット
52・・・干渉計ユニット
54・・・光パルス時分割多重化ユニット
56・・・光パルス強度測定ユニット
58・・・断層像導出ユニット
62・・・光パルス
64・・・測定光パルス
66・・・参照光パルス
68・・・光分岐器
69・・・第1の光結合器
70・・・後方散乱光パルス
72・・・光パルス照射/補足ユニット
88・・・光遅延ユニット
94・・・第1の光路
95・・・第1の結合光パルス
96・・・第2の光路
97・・・第2の結合光パルス
98・・・第2の光結合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波数の異なる複数の光パルスを、順次生成する光パルス生成ユニットと、
夫々の前記光パルスを参照光パルスと測定光パルスに分岐し、前記測定光パルスを測定対象に照射して後方散乱光パルスを発生させ、前記後方散乱光パルスと前記参照光パルスを結合して第1の結合光パルスと第2の結合光パルスを生成する干渉計ユニットと、
前記第1の結合光パルスに対して前記第2の結合光パルスを所定の遅延時間遅らせた後、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスを合流して、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスを交互に出射する光パルス時分割多重化ユニットと、
前記光パルス時分割多重化ユニットが交互に出射する前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスの強度を順次測定する光パルス強度測定ユニットと、
前記光パルス強度測定ユニットが測定した、前記第1の結合光パルスの強度と前記第2の結合光パルスの強度の差をフーリエ変換して、前記測定対象の断層像を導出する断層像導出ユニットとを有する
オプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置。
【請求項2】
請求項1のオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置において、
前記遅延時間が、前記光パルスのパルス時間幅以上であり、
前記光パルス時間幅と前記遅延時間の和が、前記光パルスの時間間隔以内であることを、
特徴とするオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置。
【請求項3】
請求項1又は2のオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置において、
前記光パルス時分割多重化ユニットは、
前記第1の結合光パルスを伝播させる第1の光路と、
前記第1の光路より長い光路長を有し、前記第2の結合光パルスを伝播させる第2の光路と、
前記第1の光路を伝播した前記第1の結合光パルスと、前記第2の光路を伝播した前記第2の結合光パルスを合流する光結合器とを有することを、
特徴とするオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置において、
前記干渉計ユニットは、
前記光パルスを前記測定光パルスと前記参照光パルスに分岐する光分岐器と、前記測定光パルスを測定対象に照射し且つ前記測定光パルスが前記測定対象により後方散乱されて発生した後方散乱光パルスを補足する光パルス照射/補足ユニットと、前記参照光パルスと前記後方散乱光パルスを結合して第1の結合光パルスと第2の結合光パルスを生成する光結合器とを有することを、
特徴とするオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー装置。
【請求項5】
異なる波数の複数の光パルスを、順次生成する光パルス生成ステップと、
夫々の前記光パルスを参照光パルスと測定光パルスに分岐し、前記測定光パルスを測定対象に照射して後方散乱光パルスを発生させ、前記後方散乱光パルスと前記参照光パルスを結合して第1の結合光パルスと第2の結合光パルスを生成する干渉ステップと、
前記第1の結合光パルスに対して前記第2の結合光パルスを所定の遅延時間遅らせた後、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスを合流して、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスを交互に配列する光パルス時分割多重化ステップと、
交互に配列された、前記第1の結合光パルスと前記第2の結合光パルスの強度を、光検出器で順次測定する光パルス強度測定ステップと、
前記光パルス強度測定ステップで測定した、前記第1の結合光パルスの強度と前記第2の結合光パルスの強度の差をフーリエ変換して、前記測定対象の断層像を導出する断層像導出ステップとを有する
断層像の撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196693(P2011−196693A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60496(P2010−60496)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】