説明

オリゴ糖組成物および感染症の治療における該組成物の使用

オリゴ糖およびタンパク質のようなバックボーンに連結するオリゴ糖、そのようなオリゴ糖を作る方法、およびそれらを使って、様々な疾患を治療および/または予防する方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
人乳の消費は、感染症による発病および死亡に対して、幼児を保護するための薬に知られている最も高い費用対効果の戦略の一つである。人乳は、天然で、且つ、有効な、“栄養補助食品”すなわち、免疫学的利益を伝える、模範となる食品であると考えることができる。感染症に対する保護は、オリゴ糖およびオリゴ糖に関係のある複合糖質を含む、人乳中で発見された様々な相補的メカニズムを通じて起こる。授乳による顕著に向上した免疫学的防御は、下痢性疾患、気道疾患、菌血症、髄膜炎、および壊死性腸炎に対して、説明されてきている。授乳による保護は、下痢性疾患に対して特に有効である。
【0002】
乳オリゴ糖構造は、ホストリガンドに結合する病原菌を阻害しうるレセプター類似体として、作用していると考えられている(1−3)。人乳中の特定のα1,2結合したフコシル化オリゴ糖は、カンピロバクター(2,4)、カリシウイルス(3−5)および安定毒素(ST)を伴う大腸菌(1,6,7)を原因とする下痢に対しての保護に関連するようである。
【0003】
オリゴ糖およびオリゴ糖に関する複合糖質は、人乳オリゴ糖で見られる先天的防御システムの主要な成分である。オリゴ糖は、3〜32個の様々なサイズの糖であって、ラクトースおよび脂質に続く3番目に一般的な人乳の固形成分を構成するが、それらの役割は、栄養的というよりも、むしろ免疫学的なものである。オリゴ糖は、様々な異なった免疫学的論理機能を有するようである。人乳中のフコシル化オリゴ糖、シアル化オリゴ糖、および、フコシル化ならびにシアル化されていないオリゴ糖を含む、様々なタイプのオリゴ糖は、前生物的な特質、すなわち、腸中の有益な細菌の成長の選択的な刺激を有する。重要なことには、特別な病原菌に対する保護は、フコシル化およびシアル化された人乳オリゴ糖の両者に対して記載されている(5,6,24,27,28)。フコシル化オリゴ糖およびシアル化オリゴ糖の両者は、腸病原菌に対する細胞レセプターについての構造的相同性を有しうり、関連の細胞レセプターへの結合を遮断することにより病原菌の結合を阻害しうる(24,29,30)。特定の病原菌は、腸病原菌性の大腸菌(EPEC)、ロタウイルス、ヘモフィルスインフルエンザおよびその他病原菌を含む、シアル酸およびフコース含有のレセプターに結合すると考えられている(30−33)。結合していないオリゴ糖に加えて、不安定毒素およびコレラ毒素、大腸菌の熱安定性毒素(ETEC)、カンピロバクター、志賀毒素、肺炎連鎖球菌、ならびに、ロタウイルス(16,17,24,34)に対する、人乳中の複合糖質物質による保護は、インビトロ研究および/または動物モデルによって説明されている。46kDaの糖タンパク質であるラクタドヘリンは、人乳中で様々な濃度で見つかっており、症候性ロタウイルス感染症に対する顕著な保護は、母乳中のラクタドヘリンの増加濃度に関連する(34)。
【0004】
オリゴ糖構造物のフコース末端は、分泌遺伝子(FUT2)によって、若しくはフコシルトランスフェラーゼI遺伝子(FUTI)によって生産されるフコシル転移酵素によって触媒されるα1,2結合、または、ルイス遺伝子(FUT3)ファミリーによって生産されるフコシル転移酵素によって触媒される、α1,3若しくはα1,4結合によって結合されてもよい。分泌およびルイス遺伝子の多形性は、ルイス血液型タイプ、人乳中のフコシル化オリゴ糖パターンおよびヒトの上皮細胞表面上のヒスト血液型抗原の発現を決定するものとして知られている(21,22,35)。分泌の際に、α1,2結合のフコシル化オリゴ糖を合成しない非分泌者(すなわち、分泌遺伝子に対して、劣性ホモ)もいる。インド−ヨーロッパおよびアメリカ人の集団において、分泌できない者の患者数は、約20%であり、一方、先住民の先祖のメキシコ人のようなその他の集団での、分泌できない者の患者数は、一般よりかなり少ない(36−38)。場合によっては、発現の不均一性は、個体および集団において、感染症の異なった危険性に関連があると示されている(5,6,28,37,39−44)。さらに、人乳中の保護オリゴ糖の濃度のバリエーションによって、特定の感染症に対しての保護のレベルが異なった母乳で育った幼児となりうる(21,22,36,39,45)。
【0005】
人乳の最も一般的なオリゴ糖は、4つの、α1,2結合のフコシル化オリゴ糖(ラクト−N−フコペンタオースI[LNF−I]、2−フコシルラクトース[2’−FL]、ラクト−N−ジフコヘキサオースI[LDFH−I]およびラクトジフコテトラオース[LDFT]);2位に結合したフコースを持たない3つのフクシルオリゴ糖(ラクト−N−フコペンタオースII[LNF−II]、3−フコシルラクトース[3−FL]、およびラクト−N−フコペンタオースIII[LNF−III]);ならびにこれらの2つの前駆体(ラクト−N−テトラオース[LNT]およびラクト−N−ネオテトラオース[LNneoT])を含む。これらの9つのオリゴ糖は、ルイスヒストの血液型抗原の同族体であって、それぞれ、H−1、H−2、Le、Le、Le、Le、タイプ1前駆体、およびタイプ2前駆体である。最も一般的に存在する、人乳中の特定のα1,2位に結合したフコシル化オリゴ糖は、2’−FL(H−2エピトープ)である。多くの異なった哺乳類種からのミルクの組成を比較すると、2’−FLはまた、進化生物学においての重要性を示唆している、最も保護されたオリゴ糖構造物である(46)。しかしながら、2’−FLは、牛乳を含む、いくつかの種のミルクにおいて欠如している。
【発明の開示】
【0006】
要約
本発明は、フコース基がガラクトース基にα1,2結合、α1,3結合、またはα1,4結合してなる分子および製薬上許容できる担体、を含む薬剤組成物を特徴とする。フコースは、LNF−I基、2’FL基、LDFH−I基またはLDFT基中に含まれうる。いくつかの状況において、分子は、グリカン、糖脂質、糖タンパク質、グリコサミノグリカンまたはムチンである。したがって、フコース基は、直接的にまたは間接的にタンパク質に結合しうる。タンパク質またはその他のバックボーン分子は、LNF−I基、2’FL基、LDFH−I基およびLDFT基から選択される少なくとも2種(3種または4種)の異なった群を含みうる。タンパク質またはその他のバックボーン分子は、2以上の異なった基の複数コピーを有しうる。本組成物は、哺乳類のミルクは含まない(例えば、それは、人乳を含まない)。
【0007】
本組成物は、プロバイオティック剤すなわち、有益な微生物、例えば、健康を促進するまたは病気を予防する細菌による腸のコロニー形成を引き起こすまたは促進する消化剤として使用してもよい。
【0008】
他の実施形態においては、本発明は、発明の特長におけるもう一つの実施形態において、精製されたタンパク質を含む薬剤組成物は、下記から選択される、少なくとも2つ(3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10またはそれ以上)の異なる基を含むように修飾された精製タンパク質を特徴とする:
2’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースI;
ラクト−N−フコペンタオースII;
3’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースII;
ラクト−N−ジフコヘキサオースI;
ラクトジフコテトラオース;
ラクトN−テトラオース;
ラクトN−ネオテトラオース;
3’−シアリルラクトース;
3’−シアリルラクトサミン;
6’−シアリルラクトース;
6’−シアリルラクトサミン;
シアリルラクト−N−ネオテトラオースc;
モノシアリルラクト−N−ヘキサオース;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;
モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースI;
モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースII
ジシアリルラクト−N−ネオヘキサオース
ジシアリルラクト−N−テトラオース;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースII;
シアリルラクト−N−テトラオースa;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;
シアリルラクト−N−テトラオースb;
3’−シアリル−3−フコシルラクトース;
ジシアロモノフコシルラクト−N−ネオヘキサオース;
モノフコシルモノシアリルラクト−N−オクタオース(シアリルLea);
シアリルラクト−N−フコヘキサオースII;
ジシアリルラクト−N−フコペンタオースII;および
モノフコシルジシアリルラクト−N−テトラオース。
【0009】
タンパク質は、異なった基のそれぞれの、複数コピー(2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、15、20、25またはそれ以上)を含むように修飾されうる。タンパク質自身は、例えば、人乳タンパク質(例えば、κ−カゼイン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、胆汁塩−刺激リパーゼ、リゾチーム、血清アルブミン、葉酸結合タンパク質、ハプトコリン、リポタンパク質リパーゼ、グリコサミノグリカン、ムチン、ラクトペルオキシダーゼ、または、アミラーゼ)または、その他のタンパク質、例えば、BSAでありうる。その組成物は、使用をされる際、牛乳または人乳のような哺乳類のミルクと混合されうるが、該組成物は、ほとんど哺乳類のミルクではない合成組成物である。その組成物は、少なくとも一つのビタミン;少なくとも一つのミネラル;少なくとも一つの食用脂;および他の栄養成分を含みうる。
【0010】
本発明はまた、
2’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースI;
ラクト−N−フコペンタオースII;
3’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースII;
ラクト−N−ジフコヘキサオースI;
ラクトジフコテトラオース;および2’−FLNac、
から選択される少なくとも2つの異なった基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含む薬剤組成物を含み、この際、該タンパク質は、他のオリゴ糖を含むようには修飾されない。
【0011】
もう一つの実施形態において、本発明は、LNF−I基、及び2’FL基、LDFH−I基及びLDFT基から選択される少なくとも2種の異なった基を含む、グリカン、糖脂質、糖タンパク質、グリコサミノグリカンまたは、ムチンを含む、合成栄養組成物を含む。該分子は、LNF−I基、2’FL基、LDFH−I基およびLDFT基から選択される3種の異なった基、並びに、同じ基の複数コピー(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上)を含みうる。
【0012】
本発明は、ラクト−N−フコペンタオースI基、ラクト−N−フコペンタオースII基、2−フコシルラクトース基、3−フコシルラクトース基、ラクト−N−フコペンタオースII基、ラクト−N−ジフコヘキサオースI基、およびラクトジフコテトラオース基から選択される少なくとも2つ(3、4、5、6、若しくは7またはそれ以上)の基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含む合成栄養組成物を含む。
【0013】
本発明は、
ラクト−N−フコペンタオースI;
ラクト−N−フコペンタオースII;
3’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースII;
ラクト−N−ジフコヘキサオースI;
ラクトジフコテトラオース;
ラクトN−テトラオース;
ラクトN−ネオテトラオース;
3’−シアリルラクトース;
3’−シアリルラクトサミン;
6’−シアリルラクトース;
6’−シアリルラクトサミン;
シアリルラクト−N−ネオテトラオースc;
モノシアリルラクト−N−ヘキサオース;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;
モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースI;
モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースII
ジシアリルラクト−N−ネオヘキサオース
ジシアリルラクト−N−テトラオース;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースII;
シアリルラクト−N−テトラオースa;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;
シアリルラクト−N−テトラオースb;
3’−シアリル−3−フコシルラクトース;
ジシアロモノフコシルラクト−N−ネオヘキサオース;
モノフコシルモノシアリルラクト−N−オクタオース(シアリル Lea);
シアリルラクト−N−フコヘキサオースII;
ジシアリルラクト−N−フコペンタオースII;および
モノフコシルジシアリルラクト−N−テトラオース
から選択される、少なくとも(3、4、5、6、または7種)の基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含む合成栄養組成物を含む。
【0014】
他の実施形態において、本発明は、フコース基が、ガラクトース基にα1,2結合してなる分子を含む組成物(但し、哺乳類のミルクでない)を(幼児、子供または大人に)投与することを有する感染症、(例えば、V.コレラまたはC.ジェジュニによる感染症のような、呼吸器官または腸の感染症)を治療するまたは当該感染症の危険性を減少させる方法を特徴とする。したがって、本明細書中に記載されているいずれの薬剤組成物をも、この方法において投与することができる。
【0015】
本発明はまた、患者における腸疾患の危険性を減少させる方法を特徴とし、該方法は:(a)患者の地理的な位置において、腸疾患を引き起こしうる2つ最も一般的な薬剤を特定すること;(b)2つの最も一般的な薬剤の第一のグリカンの上皮細胞への結合を阻害する第一のグリカン;および最も一般的な薬剤の第二のグリカンへの上皮細胞への結合を阻害する第二のグリカン、を含む分子を含む組成物;但し、組成物は、母乳ではない、を患者に投与することを含む。
【0016】
本発明はまた、患者における腸疾患の危険性を減少させる方法を特徴とし、該方法は:(a)患者の地理的な位置において、腸疾患を引き起こしうる2つの最も一般的な薬剤を特定すること;(b)i)2つの最も有力な薬剤の第一の分子の上皮細胞への結合を阻害する第一のグリカンを含む第一の分子;およびii)最も一般的な薬剤の第二の分子の上皮細胞への結合を阻害するグリカンを含む第二の分子を含む組成物;但し、組成物は、母乳ではない、を患者に投与することを含む。
【0017】
本発明はまた、GDP−マンノース4,6脱水素酵素をエンコードするヌクレオチド配列およびGDP−L−フコース合成酵素をエンコードするヌクレオチド配列を含む組み換えベクターを有する酵母細胞を含む。該酵母細胞は、さらに、GDP−フコース/GMPアンチポーター融合タンパク質(例えば、ゴルジ膜局在配列(例えば、酵母Vrg4p)を含む、融合タンパク質)をエンコードする核酸分子を有してもよい。
【0018】
第1の部分は、GDP−フコース/GMPアンチポーターの活性ドメインを含み、第2の部分は、ゴルジ体局在配列を含む少なくとも第1の部分および第2の部分を含む融合タンパク質をエンコードする単離された核酸分子は本発明に包含される。ゴルジ体局在配列は、酵母ゴルジ体局在配列でありうる。本発明はまた、該単離された核酸分子および、必要により、フコシル転移酵素またはガラクトシル転移酵素をエンコードする核酸分子を有する酵母を含み、例えば、フコシル転移酵素は、
ヒトフコシル転移酵素1(ガラクトシド2−α−L−フコシル転移酵素、Bombay表現型が含まれる)(FUT1);
ヒトフコシル転移酵素2(分泌状態が含まれる)(FUT2);
ヒトフコシル転移酵素3(ガラクトシド3(4)−L−フコシル転移酵素、ルイス血液型が含まれる)(FUT3);
ヒトフコシル転移酵素4(α(1,3)フコシル転移酵素、脊髄に特異的)(FUT4);
ヒトフコシル転移酵素5(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT5);
ヒトフコシル転移酵素6(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT6);
ヒトフコシル転移酵素7(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT7);
ヒトフコシル転移酵素8(α(1,6)フコシル転移酵素)(FUT8);
ヒトフコシル転移酵素9(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT9);およびヒトタンパク質o−フコシル転移酵素(POFUT1):から選択される。
【0019】
一実施形態において、本発明は、ヒトのGDP−フコース輸送体、または、その機能的な断片に融合する、(酵母ゴルジ体局在配列、例えば、VRG4のゴルジ体局在配列、を含む融合タンパク質をエンコードする核酸分子(例えば、組み換えまたは単離された核酸分子、を特徴とする。他の実施形態において、本発明は、ヒトのGDP−フコース輸送体、もしくは、その機能的な断片に融合する、酵母ゴルジ体局在配列、例えば、VRG4のゴルジ体局在配列を含む、からなる、または、本質的に、からなるタンパク質をことを特徴とする。タンパク質は、精製されてもよく、精製されたタンパク質はさらに、異種アミノ酸配列、例えば、アミノ−末端またはカルボキシル−末端配列を含んでもよい。前記タンパク質の精製された断片、例えば、少なくとも約75、85、104,106,113,150,200,250,300,350,400,または450個のアミノ酸の断片もまた特徴とする。そのタンパク質またはその断片は、修飾されることができ、例えば、(例えば、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリスチル化、プレニル化、パルミトイル化、アミド化、グリセロホスファチジルイノシトールの付加)または、上記いずれかの組合せによって、プロセッシングを受けても、切断されても、修飾されてもよい。
【0020】
他の態様において、本発明は、ベクター例えば、前記核酸を含むベクターを特徴とする。該ベクターは、1以上の調節エレメント、例えば、酵母において、翻訳に要求される異種プロモーターまたはエレメントをさらに、含んでもよい。該調節エレメントは、融合タンパク質を発現するために、融合タンパク質に機能するように連結することができる。さらにもう一つの態様において、本発明は、前記核酸分子またはベクターを含んだ単離した組み換え細胞、例えば、酵母細胞、を特徴とする。核酸配列は、必要により、ゲノムに組み込まれてもよい。
【0021】
本明細書中で使用される“精製されたタンパク質”は、天然由来の他のタンパク質、脂質および核酸から単離されたタンパク質をいう。該タンパク質は、精製して調製された乾燥重量の少なくとも10、20、50、70、80または95%から構成されてもよい。
【0022】
本明細書中で使用される“単離された核酸”は核酸であって、その構造は、天然由来の核酸のいずれにも、または、3つ以上の別々の遺伝子にまたがる、天然に存在するゲノム核酸のいずれの構造とも一致しない。したがって、その言葉は、例えば、(a)天然に存在するゲノムDNA分子の一部であるが、天然に存在する有機体のゲノム中の分子のその部分に隣接する両核酸配列には隣接しないDNA;(b)結果としての分子は、天然由来のベクターまたはゲノムDNAとは一致しないような形で、原核生物または真核生物のベクターまたはゲノムDNAに組み込まれる核酸;(c)cDNA、ゲノムの断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生産される断片、または制限断片のような別の分子;および(d)ハイブリッド遺伝子すなわち融合タンパク質をエンコードする遺伝子の一部である組み換えヌクレオチド配列を、包含する。
【0023】
cDNAまたはゲノムDNAライブラリーのようなDNAライブラリー中での、異なる(i)DNA分子、(ii)トランスフェクト細胞、または(iii)細胞クローンの混合物中に存在する核酸は、この定義からは、特別に排除される。本発明による単離された核酸分子は、化学的に改変された、および/または修飾されたバックボーンを有する核酸のいずれかと同様に、合成的に生産された分子をさらに含んでもよい。
【0024】
“核酸分子”との語は元来物理的な核酸分子を意味し、“核酸配列”との語は、核酸分子中のヌクレオチドの配列を意味するが、この2つの言葉は、同じ意味で使われうる。
【0025】
所定のポリペプチドと関連して本明細書中で使用される“実質的に精製された”との語は、該ポリペプチドは、他の生体高分子を実質的に含まないことを意味する。この実質的に精製されたポリペプチドは、乾燥重量で少なくとも75%(例えば、少なくとも80、85、95、または99%)精製されているということである。純度は、適切な標準方法のいずれかの方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、またはHPLC分析によって、測ることができる。
【0026】
“異種プロモーター”は、核酸配列に機能するように結合した際、天然ではその結合していないプロモーターをいう。
図面の説明
本発明の1以上の実施例の細部は、添付図面および下記説明において説明する。本発明の他の特徴、目的および利点は、説明、図面および特許請求の範囲によって明らかである。
【0027】
図1は、人乳オリゴ糖構造物に適用するルイス合成経路を概略的に示す。
【0028】
図2は、特定のオリゴ糖の化学的な合成方法を概略的に示す。
【0029】
図3は、インビボで特定のオリゴ糖を合成する部分的なアプローチを概略的に示す。
【0030】
図4は、乳オリゴ糖の合成スキームを示す。
【0031】
図5は、酵母中でオリゴ糖を生産するに有用なベクターの構築を概略的に示す。
【0032】
図6A、6B、および6Cは、乳オリゴ糖の割合(%)としての、(図6A)2’−FL、(図6B)LDFH−I、および(図6C)トータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖の低い、中間の、または高い相対量を含む母乳をもらった子供の研究におけるC.ジェジュニ下痢、カリシウイルス下痢およびすべての原因の中度〜重度の下痢の発症率を示すグラフの一連である。棒状は、それぞれの群における原因−特定の下痢の発症率を示し;縦線は、標準誤差を示す。低い、中間、および高い群は、それぞれ、研究集団の三分位数(n=31)のオリゴ糖値を表す。2’−FLに関すると、群による乳オリゴ糖値の割合(%):低い(<0.29)、中間(0.29−0.36)、および高い(>0.37)。低い群と比較すると、中間および高い群でのカンピロバクター発症率は、両方著しく低かった(P<0.01)。LDFH−Iに関すると、群による乳オリゴ糖値の割合:低い(<0.07)、中間(0.07−0.11)、および高い(>0.12)。低い群と比較すると、高い群でのカリシウイルス発症率は、著しく低かった(P=0.02)。トータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖に関し、それぞれの群での乳オリゴ糖値の割合:低い(<0.72)、中間(0.72−0.77)および高い(>0.77)。低い群と比較すると、中間および高い群における中度〜重度の下痢の発症率は、両方著しく低かった(P<0.01)。
【0033】
図7は、H−2リガンドおよびH−2模倣薬ならびに人乳オリゴ糖によるFUT1−CHO細胞へのカンピロバクター結合の阻害を示す研究結果を表す図である。
【0034】
図8は、細胞凝集は、FUT1(1、2Fuc)、FUT3(1,3/1,4Fuc)、およびFUT4(1,3Fuc)遺伝子を運ぶトランスフェクトCHO細胞上で侵襲性カンピロバクター株によって誘発することを示す研究結果を表す図である。
【0035】
図9Aおよび9Bは、細菌の10および10CFUによるチャレンジ中にミルクフコシル化オリゴ糖2mgを与えられたBALB/cマウスにおけるカンピロバクターコロニー形成の阻害を示す研究結果を示す図のペアである(左)。2’−フコシルラクトース(2’−FL)およびミルクフコシル化オリゴ糖によるカンピロバクターのヒトの腸コロニー形成の阻害の生体外で評価(OS)。
【0036】
図10Aおよび10Bは、最初泌乳乳腺に対するH抗原の発現を命令するWAPプロモーターを伴うFUT1遺伝子を有する形質転換マウスにおけるカンピロバクターコロニー形成の研究結果を示す図およびチャートである。形質転換マウスから与えられた子マウスは、カンピロバクターのチャレンジから5〜9日後にコロニー形成がなくなった。非形質転換マウスから与えられた対照の子マウスは、カンピロバクター形成を除去することができない。CFU=コロニー形成ユニット。
詳細な説明
特定のオリゴ糖およびオリゴ糖の特定の組合せは、様々な感染体、例えば、腸関連疾患、呼吸器官感染症、膣感染症、尿路感染症、目の感染症または口腔の感染症に関連する感染体による感染症の治療および/または予防に用いられうる。したがって、オリゴ糖の特定の組合せは、コレラ、カンピロバクター下痢、カリシウイルス下痢、カンジダ・アルビカンス感染症、HIV感染症、ならびにその他疾患の治療および予防において効果があることが期待されている。オリゴ糖は、一価のもしくは多価の形態、または、その組合せで投与されうる。一価の形態において、遊離オリゴ糖は、単体またはその組合せで投与されうる。多価の形態において、2以上のオリゴ糖は、同じであっても異なってもよいが、ムチン、胆汁塩刺激リパーゼ、またはウシ血清アルブミンのようなバックボーンに付加する。オリゴ糖は、ここで記載されている方法によってインビボで合成されてもいい。加えて、オリゴ糖の多価の形態は、部分的または全体的のいずれかのインビボで、本明細書中で記載されているように調製することができる。どのオリゴ糖またはオリゴ糖の組合せが、所定の個体に対して保護作用があると最も考えられるかを決定する診断法もまた、本明細書中にて記載されている。
【0037】
オリゴ糖
オリゴ糖は、下記に記載のすべての単体または組合せで使用してよく:フコシル化オリゴ糖(すなわち、ラクト−N−フコペンタオースI;ラクト−N−フコペンタオースII;2−フコシルラクトース;3−フコシルラクトース;ラクト−N−フコペンタオースII;ラクト−N−ジフコヘキサオースI;およびラクトジフコテトラオース);フコシル化されてない、シアル化オリゴ糖でない(すなわち、ラクト−N−テトラオースおよびラクト−N−ネオテトラオース);シアリルオリゴ糖(すなわち、3’−シアリル−3−フコシルラクトース;ジシアロモノフコシルラクト−N−ネオヘキサオース;モノフコシルモノシアリルラクト−N−オクタオース(シアリルLe);シアリルラクト−N−フコヘキサオースII;ジシアリルラクト−N−フコペンタオースII;モノフコシルジシアリルラクト−N−テトラオース);およびシアリルフコシル化オリゴ糖(すなわち、3’−シアリルラクトース;3’−シアリルラクトサミン;6’−シアリルラクトース;6’−シアリルラクトサミン;シアリルラクト−N−ネオテトラオースc;モノシアリルラクト−N−ヘキサオース;ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースI;モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースII;ジシアリルラクト−N−ネオヘキサオース;ジシアリルラクト−N−テトラオース;ジシアリルラクト−N−ヘキサオースII;シアリルラクト−N−テトラオースa;ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;およびシアリルラクト−N−テトラオースb)を含む。グルコース(還元性の末端の、Glcが、N−アセチルグルコサミンによって置換される(例えば、2’−フコシル−N−アセチルグルコサミン(2’−FLNac)は、2’−FLの変異体であるなど)変異体もまた有用である。これらのオリゴ糖またはこれらの非還元末端部分は、様々な組合せにおいてタンパク質、ムチン、脂質、または炭水化物に結合しうり、一価または多価の複合糖質分子を産出する。多価の複合糖質の場合、2個以上のオリゴ糖は、直接的にまたはリンカーを通じてのいずれかによってバックボーンに結合する。2個以上のオリゴ糖は、同じでも異なってもよく、例えば、1以上の2’−FLおよび1以上の2’−FLNAcは、ヒトの血清アルブミンに結合しうる。
【0038】
上記オリゴ糖は、人乳中で一般に発見される。図1は、概略的に人乳オリゴ糖構造物に適用されるルイス合成経路を示す。コアタイプ1構造のラクト−N−テトラオース(LNT)は、ラクトース(−R)の終止末端上のGalβ1,3GlcNAcである。ミルク中の最も豊富なタイプ2構造に対するコアは、ラクトース末端(fまたはLNF−III)上で、(2’−FL、3−FL、およびLDFTに対して)ラクトース、(LNneoTに対して)ラクト−N−ネオ−テトラオース、およびGalβ1,4GlcNAcを含む。ルイス構造的部分は、Gal−GlcNAc中のバックボーン末端を基礎とする;しかしながら、人乳中の最も一般的なタイプ2構造は、ラクトース(Gal−Glc)を含み、したがって、−Rが、−OHであり、−Rが、−Hである、タイプ2ルイス構造のグルコース類似体(ga)として定義される。LNF−IIIのような真のルイス構造は、N−アセチルのR1およびラクトースまたはラクトサミンのR2を有する。フコシル転移酵素遺伝子に対する略語は:Se(分泌遺伝子、FUT2)、Le(ルイス遺伝子、FUT3)、およびFUT4,5,6,7,9(3−フコシル転移酵素のルイス遺伝子ファミリー)である。H−1およびH−2抗原から合成される、血液型AおよびB構造は報告されているが、乳オリゴ糖の主成分ではない。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
タンパク質に連結しているオリゴ糖
下記に、さらに詳細に説明している通り、上記乳オリゴ糖は、タンパク質に共有結合して、(セリンまたはトレオニンに)O−連結したまたは(アスパラギンに)N−連結したオリゴ糖を生産しうる。ミルクオリゴ糖が直接的にタンパク質に連結する場合、オリゴ糖の還元性の末端位のGlcが、下記に示すように、GlcNAcによって置換され、オリゴ糖のN−アセチルグルコサミンバージョンが生産されうる。
【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
【表7】

【0047】
【表8】

【0048】
内部のGal残基の複数コピー(2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、45、若しくは50、またはそれ以上)を有するLNT、LNneoT、LNT−N、およびLNneoT−Nの変異体もまた有用である。
【0049】
感染体
本明細書中に記載の組成物および方法は、オリゴ糖を認識する様々な感染体による感染症の治療および/または予防に使用することができる。本組成物は、カンピロバクター、V.コレラ、EPEC、ETEC、EHEC、赤痢菌、リステリア、カンジダ・アルビカンス、HIV、ノロウイルス、ロタウイルス、ヘリコバクターピロリ、ならびに、呼吸器官路、消化管、膣路、尿路、および目の他の感染体による感染症の治療および/または予防に使用しうる。
カンピロバクター
カンピロバクター株は、世界中で最も一般的なヒトのおよび動物の病原菌である(47−54)。下痢は、カンピロバクターに関連する最も一般的な臨床症例であるにもかかわらず、ブロードな臨床スペクトルが、菌血症、局地的感染症、およびギラン・バレー症候群、重度の免疫的合併症を含む感染症において、観察される(47,48)。米国において、カンピロバクターの見積もられた発症率は、1年で200万件の症候性感染症であっておよそ、米国人口の1%にあたる(49)。イギリス、米国およびスウェーデンにおける人口に基づく研究は、二峰性分布を示し、5歳未満の子供の病気のピーク、青年期および15歳〜29歳の大人の第2ピークがある(50−54)。最も高い単離率(100,000中15症例)は、1歳である(51)。発展途上国の流行地において、下痢の子供中の単離率は、8%〜45%で、症候性の子供の分散率と同様である(55,56)。カンピロバクター感染症の年間発症率は、子供−年ごとに、2.1症状と高くなりうる。毎年の食品媒介感染症は、何百万の個体に影響を及ぼすことに対し、新興の懸念事項である。カンピロバクターは、カリシウイルスに次いで、食品媒介感染症の第二の最も一般的な原因である(49,50)。単離されたカンピロバクターの多数の抗耐性菌における驚くべき増加は、おそらく動物薬中のおよび動物性食品サプリメントとしてのキノロンの使用による(57)。
【0050】
流行地で暮らす子供は、幼少期に極度的に有機体に接することによるカンピロバクター感染に対する効果的な自然免疫を発現する(55,56)。人乳中の免疫グロブリンは、呼吸器官および胃腸管の感染症の他の原因と同様に、カンピロバクターに対する重要な保護を与える一方で、人乳中の非免疫グロブリン成分はまた、主要な役割を担うようである(61−63)。人乳中の非免疫グロブリン保護因子のうち、オリゴ糖および複合糖質は最も重要であるようである(30,35,45)。感染症に決定的である、カンピロバクターのホスト細胞表面への接触の初期段階は、上皮細胞表面複合糖質の結合を含むようである(2,28,64)。これらのリガンドへの構造的相同性を伴う人乳オリゴ糖は、病原菌に結合することによって阻害しうる(2)。したがって、母性遺伝子異質性によるミルク中のこれらのオリゴ糖の可変的な発現は、母乳で育つ幼児の感染症の危険性に影響する(42,65,66)。カンピロバクター感染症の発病機序についての理解の最近の進歩は、完全なゲノムの配列決定に追従している(67)。カンピロバクターの回腸および盲腸の上皮細胞への付着および侵襲の能力はよく知られている(68−73)。運動性および走化性は、腸の下部における細菌の局在化で主な役割を担う(74−78)。カンピロバクターの走化性行動の研究は、フコースの存在に陽性応答を示すが、他の糖、さらにはアスパラギン酸塩、システイン、グルタミン酸塩およびセリンのようなアミノ酸に対しては、否である(76)。L−フコースは、胆汁およびムチンの両方の重要な構成物質である。これらは、胆嚢および下部腸管に対する有機体の親和性に対して重要な要因でありうる。環境および走化性の刺激物質は、特に、C.ジェジュニflaAシグマ28プロモーターを上方制御する(77)。デオキシコール酸塩を含む、高いpH、オスモル濃度、および胆汁塩はまた、flaプロモーターを上方制御し、一方で、高い粘性は、flaプロモーターの下方制御させる。胆汁およびムチンは、腸で一緒に混合され、ムチン層のC.ジェジュニコロニー形成は、インビボにおける発病機序に対して必須条件であることを考慮すると、全体的な応答は、flaA合成およびムチン層への走化性の増加であろう。これらのデータは、胃腸管中のカンピロバクター感染症の発病機序におけるフコースの重要性を説明する(79)。
【0051】
初期の研究は、L−フコースによる腸の上皮細胞へのカンピロバクター付着性の阻害を説明した(80)。フコシル化された人乳オリゴ糖は、インビトロにおける細胞接着およびインビボにおける腸粘膜のコロニー形成を阻害する(28)。これらの人乳炭水化物残基の特性は、α1,2−フコシル化オリゴ糖が、主な活性成分であること、および、これらのオリゴ糖、特に、H−2エピトープを含むこれらは、そのホストレセプターへのカンピロバクター付着性を阻害しうる、ことを示した。α1,2−フコシル部分への結合の特異性は、発現産物がH抗原合成の最終段階を触媒する発現産物のヒトのα1,2−フコシル転移酵素に対するヒトの遺伝子をチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクトすることで確認した(81)。親の非トランスフェクトCHO細胞(H抗原を発現しない)は、侵襲性カンピロバクターに感染しないのに対し、トランスフェクト細胞は、カンピロバクターによって付着性および侵襲の影響を受けやすい。胃腸管の異なった場所における血液型抗原H−2の発現差異は、カンピロバクターの下痢の病理学および感染症の局在化の本質的特徴を説明しうる。マウスのホエー酸タンパク質プロモーターに隣接したFUT1遺伝子をトランスフェクトしたマウスは、ミルク授乳中、特異的にFUT1を発現する(82)。これらのトランスフェクトしたマウスは、ミルク中で多量のH−2抗原を生産する一方で、野生型のマウスはそれを生産しない。これらトランスフェクトした親に哺乳された子は、カンピロバクターによって腸のコロニー形成に対して保護された。これらのデータは、H抗原は、腸管へのカンピロバクターの結合に、必須な腸のリガンドであるという概念を支持する。ミルク中で、H−2エピトープを含む可溶性リガンドは、カンピロバクター感染症から幼児を保護するレセプター類似体として作用でき、これらは、人乳の生来の免疫系の重要な成分になりうる(63)。
【0052】
コレラ
コレラへの感染し易さは、ABH(O)組織−血液型抗原に関連があるようである(83,84)。ヒトのボランティアによる実験的コレラに対する免疫研究は、血液型Oが重要なコレラを発症するボランティアで有意に頻発する(検便体積>5.0L)ことを示した。バングラディッシュで行われた大々的疫学的研究は、O血液型を有すると思われるコレラ患者は、地域社会のコントロールの2倍にもなったことが示された(44)。この研究はまた、最も重症なタイプの下痢を有する個体は、血液型O(68%対31%;P<0.01)である傾向が最も高かったことが示された。血液型Oの人のコレラの重症度が増加したこととして考えられる解釈の一つは、腸の粘膜へのビブリオ属の向上した付着性がこのような個体において起こりうるということである。O血液型の個体は、重篤なコレラをより発症しやすいため、この血液型の人においてのコレラワクチンの免疫原性および保護効果はまた説明されてきている。弱力化したコレラワクチンを伴うランダムな、二重盲検法、プラセボ対照試験は、非−O血液型のワクチン接種者より有意に高い幾何平均タイターでO血液型の人でより強い免疫反応を示した(85);これらの情報は、コレラ菌が、血液型Oの人の腸粘膜により強力に付着して、高いビブリオ菌を殺す反応を誘導するという概念を支持している。しかしながら、遺伝的に関連のある保護に対する生物学的基礎および分子的機序は、まだ解明されていない。先の研究は、ヒトのO赤血球を伴うV.コレラによって生産された球凝集は、L−フコースによって阻害されうることを説明している(86)。ヒトの腸の上皮は、ABH(O)およびルイスヒスト血液型抗原の糖脂質および糖タンパク質が豊富である(87)。H(O)抗原は、フコースα1,2DGalβ1のバックボーンからなる。したがって、H抗原は、V.コレラに対するレセプターとしての作用することが考えられる。我々が、先にカンピロバクターで示したとおり、V.コレラはまた、インビトロで、ABH−ルイスネオ糖タンパク質に結合し、また、FUT1−トランスフェクトCHO細胞の表面に発現するα1,2フコースデターミナントに、選択的に付着する。腸の毒素を生じる大腸菌のコレラ毒素および不安定毒素(LT)のBサブユニットは、GM1ガングリオシドに対し高い親和力をもって結合するだけでなく、LTBは、N−アセチルラクトサミン−末端複合糖質と相互作用するという最近の証拠がある(87、88)。
【0053】
他の病原菌
ルイスおよび分泌組織血液型遺伝子型の関連性は、多くの異なった病原菌と関連しているようである。例えば、イケハラ等は、ルイスおよび分泌組織血液型遺伝子型は、ヘリコバクターピロリ感染症の異なる危険性に関連があると報告している(42)。Huangら、分泌者血液型個体は、カリシウイルスの様々な株の感染し易さを増大することを報告している(3)。インフルエンザウイルス結合は、ホストルイス血液型抗原に関して多様性を示している(89)。さらに、Razaら、子供の分泌者は、インフルエンザウイルスAおよびB、ライノウイルス、呼吸器官合胞体ウイルス、ならびにエコー・ウイルスによる呼吸器官感染症の入院の危険性を増加することを報告している(90)。
【0054】
STと結合した大腸菌、および様々なカリシウイルスの株への耐性は、a1,2結合したフコシル化オリゴ糖構造による阻害に関連する。人乳フコシルオリゴ糖は、STのインビボでの下痢の誘発能を阻害する。カリシウイルス研究は、ノーウォーク・ウイルス−様の粒子は、分泌者由来であって非分泌者由来ではない腸−十二指腸の連結部の組織切片に結合し、該結合は、分泌者からのミルクによって遮断されることを示している(91)。ノーウォーク・ウイルスがチャレンジされたボランティアは、仮に彼らが分泌者である場合に限って症候性に感染した。さらに、Leエピトープおよび他の2位結合のフコシル化オリゴ糖構造物は、カリシウイルスの主な株による結合を阻害するようである。
【0055】
オリゴ糖およびフコシル化グリカンの合成
組み換え酵母および細菌を用いたオリゴ糖および様々なフコシル化グリカンの合成方法を以下に記載する。
【0056】
従来、オリゴ糖は、ミルク、例えば、人乳から単離される、または化学的に合成される。人乳から単離したオリゴ糖は、一般的に、非常に高価で感染体に汚染されていることがある。化学的にオリゴ糖を合成する洗練された方法は、利用可能である。オリゴ糖の化学的合成は、所望の構造を形成する配列中に加えられるそれぞれの糖のヒドロキシル基の段階的誘導体化を含む。それぞれの連結に関与するヒドロキシル基は、連結に関らないヒドロキシル基とは異なる保護基で保護される。したがって、複合体構造物の合成は、多くの遮断剤の使用を含む。過去20年に亘って、適当な遮断剤が開発されて、従来では実現できなかった複合グリカン構造の完全なる化学合成が可能になった。
【0057】
特に最近、特定の生合成遺伝子のクローニングにより、オリゴ糖の化学酵素的合成を必要とする成分の利用が可能となった。このアプローチにおいて、必須の前駆体または所望の生産物を作るためのこれらに、前駆体を使用するための酵素の形成における重要な段階を触媒する酵素をエンコードする遺伝子は、適切なプラスミドに挿入され、大腸菌のような明確な細菌にトランスフェクトされる。酵素は単離・精製され、固相に付着され、次いで、カラムに充填される。それぞれの反応に対する前駆体をカラムに通すと、生産物は、溶出液から単離される。この技術の例は、GDP−マンノースからGDP−フコースへの変換、次いで、ラクトース上でGDP−フコースからフコースへの転移し、2’−FLを形成することを含む(92)。このアプローチは、容易に、反応のスケールアップを許容し、2’−FLおよび2’−FLNAcの両方のグラム−およびキログラム量を生産する。
【0058】
組み換え酵母中のオリゴ糖の生産
適切な酵母は、カンジダ属(例えば、カンジダ・アルビカンス)、Debaryomyces、Hansenula、Kluyveromyces、ピチアおよびサッカロミセス(例えば、サッカロミセスセレヴィシエおよびピチアpastoris)に属するものを含む。しかしながら、他の有機体、例えば大腸菌およびバキュロウイルス系は、オリゴ糖のインビボでの生産に対して使用されうる。
【0059】
下記に記載したベクターおよび人工酵母の生産の際には、様々なプロモーター、発現制御エレメントおよび終止配列が採用されうる。酵母発現系に対して一般的に使用される、および、酵母中における遺伝子の発現を許容する、いずれかのプロモーターが使用されうる。そのようなプロモーターの例は、PGK、GAP、TPI、GALl、GALlO、ADH2、PH05およびCUP1を含む。有用なターミネーターは、ADH1、TDH1、TFFおよびTRP5を含む。
【0060】
酵母に取り込まれた核酸配列は、酵母ゲノムに組み込まれうる、または、ベクター、例えば自己複製を許容する酵母2μの配列を含むベクター上で、運ばれうる。酵母中で発現する多くの自律性ベクターが知られており、YEp5l、pYES2、YEp351、YEp352などがある。場合によっては、ベクターは、HIS3、TRP1、LEU2、URA3、ADE2、SUC2、またはLYS2のような選択的なマーカーを含む。
【0061】
酵母中でタンパク質を発現する、適切なベクター系および発現系は、当業者に周知である。このようなベクター系および発現系は、発行された米国出願20010012630;米国特許第6、312、923号;6、306、625号;6、300、065号;6、258、566号;6、172、039号;6、165、738号;6、159、705号;6、114、147号;6、100、042号;6、083、723号;6、027、910号;5、876、951号;5、739、029号;5、602、034号;5、482、835号;5、302、697号;およびRE37、343に記載されている。
【0062】
2’−FLおよび2’−FLNAcのインビトロでの生産
2’−FLおよび2’−FLNAcは、1)GDP−マンノースからGDP−フコースを生産する遺伝子操作された酵母(例えば、サッカロマイセス・セレヴィシエ)を提供する、2)GDP−フコースを含む酵母からフラクションを得る、3)該フラクションを適切なフコシル転移酵素および基質に接触し、例えば、2’−FLまたは2’−FLNAcを生産する、ことによって生産しうる。
【0063】
GDP−フコースを生産する酵母は、1)GDP−マンノース4、6脱水素酵素(例えば、H.ピロリGDP−マンノース4、6脱水素酵素;Genbank(登録商標)登録No.AAD05625.1GI:4154547;配列番号:6または大腸菌GMD)、GDP−マンノースからGDP−4−ケト−6−D−マンノースへ転換する酵素、をエンコードする核酸分子および、2)GDP−4−ケト−6−デオキシ−α−D−マンノース3、5−エピメラーゼ−4−レダクターゼ(例えば、H.ピロリGDP−L−フコース合成酵素;GenBank(登録商標)登録No:AAL33678.1GI:17017466;配列番号:7または大腸菌GMER(FX))、エピマー化および還元を通じてGDP−4−ケト−6−D−マンノースからGDP−L−フコースに転換する酵素をエンコードする核酸分子を、酵母に形質転換することによって作ることができる。GDP−マンノースを生産するための人工酵母のアプローチの一つは、先に記載されている(93)。GDP−フコースは、部分的にまたは完全にGDP−フコースの合成を許容する条件下において培養した遺伝子操作された酵母から精製しうる。完全に、または、部分的に、精製されたGDP−フコースは、先に記載されているようにラクトースを必須的に伴う、精製されたH.ピロリα1,2−フコシル転移酵素(FucT2;GenBank登録No.AAC99764GI:4093139;配列番号:8)を使って、2’−FLに転換しうる(92)。
【0064】
一実施形態において、GDP−フコースは、大腸菌GDP−D−マンノース−4、6脱水素酵素(gmd−遺伝子によってエンコードされる)および大腸菌GDP−4−ケト−6−デオキシ−D−マンノースエピメラーゼ/レダクターゼ(wcaG−遺伝子によってエンコードされる)を発現する酵母中で生産されうる。大腸菌遺伝子は、pESC−leu/gmd/wcaGベクターと称されるベクターを使って酵母に形質転換されうる。該ベクターを作るために、大腸菌gmd−遺伝子およびwcaG−遺伝子、すなわちGMER(FX)は、それぞれのGAL1およびGAL10プロモーターの下で、pESC−leu−ベクターに挿入される。gmd遺伝子は、c−myc−エピトープのフレームに挿入され、wcaG遺伝子は、FLAG−エピトープのフレームに挿入された。ベクターをトランスフェクトしたS.セレヴィシエは、いずれの外部のGDP−マンノースも添加せずとも、GDP−フコースのおよそ0.2mg/Lを生産しうる(93)。上記で説明した通り、2’−FLおよび2’−FLNAcの合成は、大腸菌中で発現するフコシル転移酵素、例えば、ヒトの(FUT1およびFUT2)またはH.ピロリ(FucT2)を使って行われうる。これらのフコシル転移酵素遺伝子は、pGEX4T−1のような適切なベクターで、大腸菌に挿入され、過剰に発現される。融合タンパク質は、GSTrap−カラム(Pharmacia/Amersham Biosciences)のアンフィニティクロマトグラフィーによって精製される。精製されたタンパク質は、固相還元的アミド化を通じて、セファロースと共有結合させてもよい。適切なバッファ(例えば、PBS)中でGDP−フコースおよびラクトースは、カラムを通って2’−FLを生産する。GDP−フコースおよびN−アセチルラクトサミンは、カラムを通って2’−FLNAcを生産する。過剰なGDP−フコースおよびヌクレオチドフォスフェイトは、イオン交換によって除去される。フコシル化オリゴ糖は、それらをUlex europaeusアンフィニティカラムに通して、出発物質から分離される。これらの生産物の収率および純度は、結果物のオリゴ糖のHPLC分析によって評価する。
【0065】
転移酵素を発現する、細胞壁を使ったインビボでの2’−FLおよび2’−FLNAcの生産
オリゴ糖合成の改良法を下記に記載する。この方法は、1)GDP−マンノースからGDP−フコースへ転換する;2)インビボで2’−FLまたは他の有益なフコシル化された生産物を生産するようなフコシル転移酵素を含むために、遺伝子操作した酵母の使用を必要とする。
【0066】
酵母中で、GDP−マンノースからGDP−フコースの転換のために、細胞は、人工的に作られ、適切なGDP−マンノース4、6脱水素酵素遺伝子を発現するように操作される。例えば、H.ピロリGDP−マンノース4、6脱水素酵素(Genbank登録No.AAD05625.1GI:4154547;配列番号:6)。該酵素は、GDP−マンノースからGDP−4−keto−6−D−マンノースへ転換する。該酵母はまた、エピマー化および還元を通じて、GDP−4−ケト−6−D−マンノースからGDP−L−フコースへ転換する、適切なGDP−4−ケト−6−デオキシ−α−D−マンノース3、5−エピメラーゼ−4−レダクターゼ(例えば、H.ピロリGDP−L−フコース合成酵素;GenBank(登録商標)登録No:AAL33678.1GI:17017466;配列番号:7)、を発現するように操作する。
【0067】
該方法において、フコシル転移酵素は、効率良くフコシル化グリカンを生産するために、酵母細胞壁の細胞外で発現する。これは、酵母細胞壁タンパク質、PIR、のすべてまたは機能部分が、H.ピロリFucT2またはヒトのα−1,3、フコシル転移酵素(FucT;FUT6遺伝子によってエンコードされる)のようなフコシル転移酵素のアミノ末端に融合する、融合タンパク質を作ることによって達成される。このようなタンパク質をエンコードする核酸分子の産出は、Abeら(FEMS Yeast Research4:417、2004)およびAbeら、米国の公開された出願20030059872に記載されている。
【0068】
有用なPIRは、S.cerevisiase PIR1(配列番号:1;GenBank(登録商標 登録No.Q03178GI:417492)を含む。341アミノ酸(aa)タンパク質において、aa1−18は、シグナル配列であり、aa19−63は、プロペプチドであり、61−341は、成熟タンパク質であり、ここでaa83−101、102−125、126−144、145−163、164−182、183−201および202−220は反復領域内である。S.cerevisiase PIR2 (配列番号:2;GenBank(登録商標)登録No.BAA02886.1GI:218459);およびPIR3(配列番号:3;GenBank(登録商標)登録No.S37788GI:481107)。
【0069】
融合されうるフコシル転移酵素は、ヒトのガラクトシド2−α−L−フコシル転移酵素2(フコシル転移酵素2;FUT2;GenBank(登録商標)登録No.Q10981;GI:1730125;配列番号:4)を含む。該343aaタンパク質は、aa15からaa28までわたる膜貫通領域を有する。膜貫通領域のアミノ末端側の膜貫通領域および配列は、PIR−FUT2融合タンパク質において要求されないので、PIR−FUT2融合タンパク質は、配列番号:4のaa29−343を含みうるが、配列番号:4のaa1−28を含む必要はない。他の有用なフコシル転移酵素は、ヒトのα−(1,3)−フコシル転移酵素(ガラクトシド3−L−フコシル転移酵素;フコシル転移酵素6;FUT6;GenBank(登録商標)登録No.P51993GI:1730136;配列番号:5)を含む。該359aaタンパク質は、aa15からaa34までわたる膜貫通領域を有する。膜貫通領域のアミノ末端側の膜貫通領域および配列のアミノ−末端は、PIR−FUT6融合タンパク質において要求されないので、PIR−FUT6融合タンパク質は、配列番号:5のaa35−359を含みうるが、配列番号:5のaa1−34を含む必要はない。α−(1,3)−フコシル転移酵素(GenBank(登録商標)登録No.AAB93985.1GI:2240202;配列番号:6)としてのヘリコバクターピロリのような他の種からのフコシル転移酵素、は使用されうる。
【0070】
フコシル転移酵素、ガラクトシル転移酵素、グルコシル転移酵素、マンノシル転移酵素、ガラクトサミン転移酵素、シアリル転移酵素およびN−アセチルグルコサミン転移酵素を含む、多くのグリコシル転移酵素、は公知で、上記記載の方法を使用しうる。グリコシル転移酵素の配列および活性は、例えば、米国特許第6、291、219号;6、270、987号;6、238、894号;6、204、431号;6、143、868号;6、087、143号;6、054、309号;6、027、928号;6、025、174号;6、025、173号;5、955、282号;5、945、322号;5、922、540号;5、892、070号;5、876、714号;5、874、261号;5、871、983号;5、861、293号;5、859、334号;5、858、752号;5、856、159号;5、545、553号;およびRE37、206に記載されている。追加の転移酵素は、下記に記載する。
【0071】
GDP−フコース/フコースアンチポーターを使った酵母中のグリカンの生産
酵母中のフコシル化グリカンの製造方法を下記に記載する。この一般的アプローチは、酵母で他のグリカンを生産するために使用してもよい。上記の通り、一般食品原料である酵母は、2種の酵素に対する遺伝子を添加して、GDP−フコースを生産する、GDP−マンノースの豊富な自然源であり、それは、フコシル化オリゴ糖およびフコシル化グリカンの合成に対する直接的前駆体である。フコシル転移酵素遺伝子の挿入に伴い、フコシル化グリカンは合成されうる。
【0072】
本発明の方法は、一つのカセット中に、すべての必要な遺伝子のすべてを配置することによって、および、GDP−フコース/GMPに対するアンチポーターを提供することによってGDP−フコースおよびフコシル化されたグリカンの生産を改善する(160)。該アンチポーターは、その合成の場所の場所である細胞質から、フコシル化の場所であるゴルジの内腔(細胞質中において、GDP−フコースの合成を誘導する)へ、GDP−フコースをシャトルする一方で、ゴルジの内腔(フコシル化を誘導する)から細胞質へGMPをシャトルする、そこではより多くのGDP−フコースへのリサイクルが行われる(161)。
【0073】
酵母中の2’−フコシルラクトース(2’−FL)の生産
サッカロマイセス・セレヴィシエおよびPichia pastorisの両方は、フコシル化グリカンを生産するために使用できる。まず、シングルカセットは、in situで、GDP−L−フコースを生産するために必要な、2種の酵素(例えば、H.ピロリからの:GDP−マンノース4、6脱水素酵素、およびGDP−L−フコース合成酵素、162)を取り込むために使われる。適切なカセットは、下記のように生産されうる。まず、プラスミドは、pPIC9K中のより小さなEcoRI/XbaI断片と、pAO815からの、より小さなEcoRI/XbaI断片を置換することにより構築する。統合的プラスミドpPIC9Kは、複数コピー遺伝子形質転換体をスクリーニングするために、HIS4(ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子)および3’AOX1(アルコールオキシダーゼ遺伝子)間の細菌のカナマイシン−耐性遺伝子を含む。GDP−D−マンノース4,6−脱水素酵素(GMD)およびGDP−L−フコース合成酵素(GFS)に対するコード配列は、5’−EcoRI部分を組み込むプライマーを使うPCRによって、プラスミドDNApET15b−GMDおよびpET15b−GFSから増幅させ、プラスミドpPIC9K/GMDおよびpPIC9K/GFSそれぞれを生産するために、pPIC9KのEcoRI部分へサブクローニングする。GFS発現カセットは、Bgl II/BamH Iを伴うpPIC9K/GFSから除去し、pPIC9K/GMDのBam HI 部分にサブクローニングしてGMDおよびGFSに対する発現カセットを含む同時発現ベクターを生産する(163)。一のプラスミド上に組み込まれた遺伝子は、制限エンドヌクレアーゼSal Iを用いて消化される同時発現プラスミドのエレクトロポレーションによってP.pastoris染色体に組み込まれる;形質転換体は、カナマイシン培地上で単離される。それぞれの遺伝子は、それ自身のメタノール−誘導性のアルコールオキシダーゼ1プロモーターおよび転写ターミネーターをP.pastoris株GS115 his4の染色体DNA上に有する。該タンパク質は、メタノール誘導下で、細胞内に共発現する。該発酵工程は、3つのユニークな期;初期細胞成長のためのグリセロールバッチ期;AOX1抑制および高い細胞密度のためのグリセロール供給−バッチ期;ならびにこれらの酵素の発現のための誘導期(163)から構成される。糖ヌクレオチドの生産は、キャピラリー電気泳動によってモニタリングされる(164,165)。
【0074】
GDP−フコースの生産用の組み換えS.セレヴィシエは、交配を通じて構築される。最初の個体発現ベクターは、プラスミドpGLDを使って作られ、それは、グリセルアルデヒド−3−フォスフェイトデヒドロゲナーゼ(GLDp)プロモーターおよびフォスフォグリセロールキナーゼ(PGKt)ターミネーターを含む。GMDおよびGFS遺伝子の断片は、プラスミド54に挿入される。これらのプラスミドは、エレクトロポレーションによってS.セレヴィシエATCC60729(Mata;his、trp1、leu2、ura3)およびATCC60729(Mata;his、trp1、leu2、ura3)に挿入される。酵母細胞中の2種の交配型、a−タイプおよびa−タイプは、2倍体を作ってもよく、それは、a−タイプおよびa−タイプ由来の遺伝子を有する。GMDおよびGFS遺伝子を含む2倍体が形成され、酵素を生産する。
【0075】
発酵工程は、2つの期からなり、1)初期細胞成長およびこれらの酵素の発現のためのバッチ期2)高い細胞密度およびこれらの酵素の高い発現のための供給−バッチ期。供給−バッチ期において、フィード培地(80%蔗糖液200ml)が50%空気飽和のDO−statを使って与えられる。これらの条件下で成長した酵母構築物は、酵素発現、プラスミドの安定性および全収率に対して評価される。糖ヌクレオチドの生産は、キャピラリー電気泳動によってモニタリングされる(164,165)。
【0076】
酵母中のGDP−マンノースの高い生産能は、形質転換体の多量のGDP−フコースの生産能を提供する。GDP−マンノース生産は、酵母中の高マンノース構造の生産を阻害することによりGDP−フコースへと更にチャンネルしうる(166,167)。これは、例えば、Och1p(α1,6マンノシル転移酵素)欠失変異体を使うことによって、または、α1,2マノシダーゼ、GlcNac転移酵素、およびUDP−GlcNac輸送体(Hamiltonら 2003 Science 301:1244)をコーディングする異種遺伝子を含ませることによって達成しうる。
【0077】
GDP−マンノースからGDP−フコースへの転換は、GDP−フコースの穏やかな構築によって阻害されうる(168、169)。哺乳動物においては、これは、アンチポーター、フコシル化、遊離GDPの放出、さらにこれによって細胞質に戻す、GDP−フコースを細胞質から滑面小胞体/ゴルジ体の内腔へシャトルするゴルジ膜貫通輸送体によって解消される(161)。したがって、細胞質中では、GDP−フコースは、それが消費されるのと同じ速さで生産しうる。この素晴らしい制御機構は、哺乳動物中で、特に、ヒトの乳房の上皮細胞で広範なフコシル化を許容し、それは、小胞体/ゴルジ膜に亘るGDP−フコースの動きに関与するアンチポーター遺伝子を挿入することによって取り込まれうる(160)。該アンチポーターが有用であるために、それは、ゴルジ膜に挿入されなければならない。サッカロマイセス・セレヴィシエのゴルジにおけるグリコシル化のための主な糖ヌクレオチドであるGDP−マンノースは、アンチポーターVRG4遺伝子産物(GenBank(登録商標)登録No.P40107GI:729611;配列番号:9)によって内腔へ輸送される。N−末端サイトゾルテイルが欠如したVrg4変異タンパク質は、ゴルジ膜へは局在化しない一方で、非−ゴルジ膜タンパク質へのVrg4pのN−末端の融合は、ゴルジへのこれらの輸送を促進する;従ってN−末端は、特に、ゴルジへのタンパク質発現を誘導する(170)。Vrg4p酵母アンチポーター(アミノ酸1−53または21−53または31−53)のN−末端からヒトのGDP−フコース輸送体(GenBank登録No.AAK50397.1GI:13940506;配列番号:10;AAK51705.1GI:14009667;配列番号:11)へ融合することによって、それは、酵母ゴルジ膜中へ配向しうる(171)。
【0078】
適切なフコース輸送体はいずれも、フコースを滑面小胞体の平滑な内腔およびゴルジ体にシャトルするフコース輸送体を作るためにゴルジ体局在配列へ融合されうる。以下のGDP−フコース輸送体を用いることができる。
1:Genbank(登録商標)登録No.Q968A5;gi|20138279|
2:Genbank(登録商標)登録No.XP_508388;gi|55635789|
3:Genbank(登録商標)登録No.Q9VHT4;gi|20138437|
4:Genbank(登録商標)登録No.NP_997597;gi|46877098|
5:Genbank(登録商標)登録No.NP_665831;gi|22003876|
6:Genbank(登録商標)登録No.EAL38393;gi|54659831|
7:Genbank(登録商標)登録No.EAL38067;gi|54659493|
8:Genbank(登録商標)登録No.NP_060859;gi|37059731|
9:Genbank(登録商標)登録No.AAS46733;gi|44151600|
10:Genbank(登録商標)登録No.XP_421127;gi|50748147|
11:Genbank(登録商標)登録No.NP_732412;gi|24648166|
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16:Genbank(登録商標)登録No.NP_523502;gi|17648113|
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21:Genbank(登録商標)登録No.BAC32554;gi|26337737|
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36:Genbank(登録商標)登録No.AAL62491;gi|18252816|
37:Genbank(登録商標)登録No.AAK51705;gi|14009667|
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40:Genbank(登録商標)登録No.AAK49910;gi|13936720|
41:Genbank(登録商標)登録No.AAK49909;gi|13936718|
42:Genbank(登録商標)登録No.AAK49908;gi|13936716|
以下などの、多くの適切なゴルジ体局在配列の源がある。
【0079】
S.セルビシエGDP−Galポーター(GenBank登録No.AAT92855.1GI:51013123)からのゴルジ体局在配列が使用できる。
【0080】
2’−FL、3−フコシルラクトース(3−FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、ラクト−N−フコペンタオースI、ラクト−N−フコペンタオースII、またはラクト−N−ヘキサオースを生産する酵母
多くの有用なオリゴ糖は、還元性の末端位にラクトースを、および、非還元性の末端位に、ラクトースを含む。タイプ1構造のオリゴ糖は、N−アセチルグルコサミンにa1,4結合したフコシルを有しうり、一方、タイプ2構造のオリゴ糖は、N−アセチルグルコサミンまたはグルコースにα1,3結合したフコシルを有しうる。いずれかのタイプは、ガラクトースにα1,2結合したフコシルを含んでもよい。α1,2結合によるオリゴ糖へフコースの添加は、FUT2により生産されたフコシル転移酵素によって触媒される。α1,3またはα1,4結合によるフコースの添加は、該ファミリーのFUT3または他の遺伝子によって生産されたフコシル転移酵素によって触媒される。これらの酵素によって定義される経路による乳オリゴ糖の合成は、図4に示される。したがって、2つの酵素遺伝子GMDおよびGFSに加えて、人乳オリゴ糖の合成のための生体触媒としての酵母の開発には、ゴルジで発現するGDP−フコースアンチポーターに加え、FUT2、FUT3または両方の共同生産が要求される。FUT2およびFUT3のプラスミド構築ならびに酵母の形質転換(P.pastorisおよびS.セレヴィシエ中)は、上記に記載したとおり行われる。例えば、FUT2(またはFUT3、または両方)遺伝子のP.pastorisへの挿入は、図5に示した通り、構築されたベクターの形質転換によって達成されうる。組み換え酵母は、ラクトースを与えると、それらは、2’−FL、3−フコシルラクトース(3−FL)、またはラクトジフコテトラオース(LDFT)を生産しうる。酵母は、ラクト−N−テトラオースを与えると、それらは、タイプ1ルイスエピトープ、ラクト−N−フコペンタオースI、ラクト−N−フコペンタオースII、またはラクト−N−ヘキサオースを生産しうる。
【0081】
フコシル転移酵素およびガラクトシル転移酵素
様々な所望のオリゴ糖は、細胞中で適切な転移酵素を発現することによって生産しうる。適切なフコシル転移酵素としては、下記がある。
Genbank(登録商標)登録No.NM_000148ヒトフコシル転移酵素1(ガラクトシド2−α−L−フコシル転移酵素、Bombay表現型が含まれる)(FUT1)
Genbank(登録商標)登録No.NM_000511
ヒトフコシル転移酵素2(分泌状態が含まれる)(FUT2)
Genbank(登録商標)登録No.NM_000149
ヒトフコシル転移酵素3(ガラクトシド3(4)−L−フコシル転移酵素、ルイス血液型が含まれる)(FUT3)
Genbank(登録商標)登録No.NM_002033ヒトフコシル転移酵素4(α(1,3)フコシル転移酵素、脊髄の−特定の)(FUT4)
Genbank(登録商標)登録No.NM_002034
ヒトフコシル転移酵素5(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT5)
Genbank(登録商標)登録No.XM_012800
ヒトフコシル転移酵素6(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT6)
Genbank(登録商標)登録No.XM_056659
ヒトフコシル転移酵素7(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT7)
Genbank(登録商標)登録No.NM_004480
ヒトフコシル転移酵素8(α(1、6)フコシル転移酵素)(FUT8)
Genbank(登録商標)登録No.NM_006581
ヒトフコシル転移酵素9(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT9)
Genbank(登録商標)登録No.AF375884
ヒトタンパク質o−フコシル転移酵素(POFUT1)
適切なGalβ1,3転移酵素ガラクトシル転移酵素は:
β1,3GalTコア(Genbank登録No.(登録商標)AF155582);
β1,3GalT1(Genbank登録No.(登録商標)AF117222);
β1,3GalT2(Genbank登録No.(登録商標)AF288390);
β1,3GalT3(Genbank登録No.(登録商標)AF132731);
β1,3GalT4(Genbank登録No.(登録商標)AB026730);
β1,3GalT5(Genbank登録No.(登録商標)AF145784);
β1,3GalT6(Genbank登録No.(登録商標)AY050570)
を含む。
【0082】
適切なGalβ1、4転移酵素ガラクトシル転移酵素は:
β1、4GalT1(Genbank登録No.(登録商標)D29805);
β1、4GalT2(Genbank登録No.(登録商標)AB024434);
β1、4GalT3(Genbank登録No.(登録商標)AB024435);
β1、4GaltT4(Genbank登録No.(登録商標)AF022367Lc2 synthase);
β1、4GalT5(Genbank登録No.(登録商標)AB004550);
β1、4GalT6(Genbank登録No.(登録商標)AB024742);
およびβ1、4GalT7(Genbank登録No.(登録商標)AB028600)
を含む。
【0083】
適切な血液型BのGalα1,3転移酵素ガラクトシル転移酵素は、血液型BのGalα1,3T(Genbank登録No.(登録商標)AF134414)である。
【0084】
一般的に、ヒトのFUT1およびFUT2は、α1,2結合を加えることに対し有用であり;ヒトのFUT3は、α1,4結合を加えることに対し有用であり;ヒトのFUT5、FUT6、FUT7、およびFUT9は、α1,3結合を加えることに対し有用であり;ならびに、FUT8は、α1,6結合を加えることに対し有用である。
【0085】
ラクト−N−テトラオース(LNT)およびラクト−N−ネオ−テトラオース(LNneoT)を生産する酵母
人乳オリゴ糖は、一般的なミルクフコシル化オリゴ糖の前駆体である2つのテトラオース、LNT(Galβ1,3GlcNAcβ1,3Galβ1,4Glc)およびLNneoT(Galβ1,4GlcNAcβ1,3Galβ1,4Glc)を含む。ラクト−N−テトラオースを合成するために、β1,3GlcNAc転移酵素は、UDP−GlcNAc由来のGlcNAcをラクトースに転移し、ラクト−N−トリオースIIを合成し;次いで、ガラクトースは、GlcNAcβ1,3Gal転移酵素によって、ラクト−N−トリオースIIに転移する。仮に、その合成のための遺伝子が、野生型酵母に挿入されたら、LNTが生産されうり;FUT2構築物に挿入されたら、LNF−Iが結果物となり;FUT3構築物に挿入されたら、LNF−IIが得られ;FUT2/FUT3構築物に挿入されたら、ラクト−N−ジフコヘキサオース(LDFH−I)が生産物となりうる。同様に、LNneoTは、Galβ1,4GlcNAc転移酵素およびGlcNAcβ1,4Gal転移酵素を形質転換されている酵母中で合成されるであろう。これらの酵母は、ラクトースを与えると、LNneoTを生産しうる。仮に、これらの遺伝子がFUT3構築物に挿入されたら、LNF−IIIが生産されうる。これらの形質転換体は、プラスミドを染色体に組み込むことにより生じる。ジェネテシン耐性のレベルは、耐性はプラスミド上のカナマイシンマーカーによって与えられているので、組み込まれたプラスミドの相対的なコピー数を示す。一般的に、高いコピー数の組み込み体は、異種タンパク質生産の高いレベルを得るために好ましい。
【0086】
化学的合成
別の方法として、化学的合成方法は、様々な方法および本明細書中に示した組成物において有用なオリゴペプチドを調製するために用いられうる。
【0087】
グリコシルドナーおよびアクセプター、保護基戦略ならびにL−フコシル(シス)および−D−ガラクトピラノシル(トランス)結合の形成のカップリング条件の選択は、現代の合成炭水化物化学の確立された方法によるであろう(103−105)。一つのアプローチとしては、図2に示され、および、下記に記載される。
【0088】
α−L−フコシル残基に対するグリコシルドナー
必須要件は、O−2における“非参加型”基を伴うドナーである(106)。この目的のために、ハロゲン化物イオン触媒条件下、多くのL−フコシル誘導体合成において成功的に採用されてきている方法において、2,3,4−トリ−O−ベンジル−α−L−フコピラノシルブロマイドが採用される(107−111)。
【0089】
持続性保護基としてのベンジルエーテル基の使用(112、113)は、カップリングの後に、目標化合物においてのドナーおよびアクセプター残基の脱保護が触媒水素添加分解によって同時に達成できるという利点を有する。1−チオ、フッ化物、トリクロロアセチミダート、または4−ペンテニルグリコシドのような代替ドナー(114)も使われうる。
【0090】
2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノースアクセプター(GlcNAcアクセプター)
始めに、該化合物は、ベンジル、4、6−ベンジリデンまたはベンジルグリコシドのアリルエーテル誘導体(図2参照)であるが、この群は、元来ベンジルエーテルが合成の最後においても保持するように操作された。触媒水素添加分解の最終段階は、アクセプターおよびフコシルドナーの両方から誘導された残基の脱保護である。リチウムアルミニウムハイドライド/アルミニウムクロライドを伴うベンジル2−アセトアミド−4、6−O−ベンジリデン−2−デオキシ−D−グルコピラノシド誘導体の還元的開環の位置選択性は、O−3における置換基の立体的嵩高さに依存する(115)。
【0091】
b−D−Gaラクトピラノシルドナー.第一要件は、O−2における“参加基”に対してである(105)。O−1における一時的な保護基は、グリコシド化反応で、離脱基としてのハロゲン原子の取り込みを許容する。臭素は、よりよい反応性からみて好ましく(105)、取り込みは、実施できる最も穏やかな条件下で行われるべきである。したがって、O−1置換基は、ジクロロメタン中で臭化水素と反応するp−ニトロベンゾイルであろう(116)。O−2において、“参加”基は、1、2−トランス−グリコシド形成に対して必要である。O−ベンゾイル基は、塩基性条件にそれほど不安定ではなく、移動する傾向が小さく、カップリング反応中、所望しないオルトエステル形成を受ける傾向が少なく、選択的な取り込みがより容易であるという理由から、O−ベンゾイルは、O−アセチルより好ましい(112)。結合が2’−FLおよび2’−FLNAcに対し所望されるO−2位において、一時的な保護基は必要であって、他の結合または基に影響を及ぼすことなく、最初のグリコシド化の後に除去されうり;ベンゾイル基は両方の機能を果たしうる。残りの2つの位置は、持続性基(ベンジル)が占め、合成の最後においてのみ除去される。
【0092】
特別に保護された“内部の”ガラクトシルドナーおよび保護されたグルコサミンアクセプターのカップリング反応は、酸スカベンジャー(コリジンまたはテトラメチル尿素)、およびモレキュラーシーブの存在下で、すなわちトランスグリコシドカップリングの標準的な条件下でプロモーターとして銀トリフレートを採用しうる(117−119)。フェルリッヒ条件(120)(シアン水銀/臭化第二水銀プロモーター)またはケーニヒス−クノル条件(121)(不溶性の触媒としての炭酸銀)は、この段階で置換しうる。いずれの方法を用いても、最初のグリコシド化反応の生産物のクロマトグラフの精製の後、それは、次のフコシル化段階の間にいずれの分子間アセチル転移の危険性をさけるためのペルベンジル化することに有用となりうる。
【0093】
出発化合物、クロマトグラフィー、脱保護、および構造確認
すべての出発物質は、図2に記載された手順によって、L−フコース、D−ガラクトース、および2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコース、からアクセスできる。これらの調製およびカップリング反応後は、中間体の精製をモニタリングするためにTLCを行う。カップリング反応の生産物は、シリカゲルカラムおよび分取層クロマトグラフィーによって精製されうる。例えば、2−ブロモエチルグリコシドまたは8−メトキシカルボニルオクチルグリコシドは、必要であればタンパク質複合体形成に置換しうるが、簡単にするために、GlcNAcアクセプターは、ベンジルグリコシドとして示される。2’−フコシル−N−アセチルラクトサミンの合成(110)は、記載されており、中間体の調製および生産物の特徴づけのための実験的データおよび分光分析データを提供している。最終生産物の純度は、TLCおよびHPLCによって決定され、Bio−gelP−2カラムおよび/またはカチオンおよびアニオン交換樹脂の連結カラムを通すことによる最終精製を、必要によっては行う。重要中間体および最終生産物の構造は、ペルメチル化分析および質量分析によって確認する。
【0094】
オリゴヌクレオチドの分析
本明細書中に記載のいずれかの方法によって生産されたオリゴ糖は、標準的な方法を使って、分析し、組成および構造を評価できる。例えば、GC分析は、糖率を分析するために用いてもよい。簡単に言うと、サンプルをメタノール水溶液(50%)キャピラリチューブ(1mm i.d.x35mm)に入れる。溶媒は、真空下で遠心分離中に除去する。サンプルをP存在下減圧デシケーター中で乾燥させる。乾燥メタノールHCl(0.75mol/L;25mL)およびメチルアセテート(5mL)をチューブのトップを封じ直す前に加える。該チューブを、80℃で2時間インキュベートし、周辺温度になるまで冷却してすぐにチューブのトップに切れ目をつけてから割って開ける。該チューブを遠心しながら真空下に放置し、遠心分離でメタノールHClを除去する。内部標準(メチルヘプタデカン酸塩、5mlメタノールで2nmol)を加え、溶媒を真空遠心分離で除去する。乾燥ピリジン(5mL)中の作りたて50%無水酢酸を加え、チューブを封じ直し、アセチル化を周辺温度で14時間行う(反応は2時間で完了)。チューブのトップに切れ目をつけてから割って開けてすぐ内容物のアリコート(1mL)を30−mDB−1カラムを充填したガスクロマトグラフに注入する。ピークは、フレームイオン化によって検出する。GCに注入をした後、温度を15分間150に℃保ち、毎分4℃づつ上昇させ最高温度300℃にする。ピークエリアは、HP インテグレーターで計算する。この方法は、精製した化合物の糖率およびサンプル中の糖の絶対量を決定するための適切な結果を与える。この方法は、約1μg(1nmol)オリゴ糖で一貫してよい結果を生み出す。
【0095】
生産物は、質量分析により分析することができ、精製を評価し、構造を確認できる。サンプル中の成分数およびこれらの分子量は、マトリクス支援レーザ脱離イオン化質量分析によって決定する。ペルアセチル化されたサンプルのMS/MSは、混合サンプルの個々の成分の組成の情報を得るために用いる。高速原子衝撃質量スペクトルにおけるフラグメンテーションパターンは、精製されたサンプルの構造に対しいくつかの知見を与える。誘導体のMS/MSは、相当な不純物の存在下での主成分を含むサンプルであっても、完全な構造情報を得るために用いられうる。精製された化合物の結合は、部分O−メチル化ヘキシトールおよびhexosaminitolアセテート(PMAAs)のGC/MS分析によって、見積もられる(123)。
【0096】
多価の糖タンパク質
多くの場合、2以上の異なったオリゴ糖が、同じバックボーン、例えば、タンパク質のバックボーンに共有結合している多価の形態の2以上の異なったオリゴ糖混合物を投与することが望ましい。加えて、多価の形態、すなわち、同じオリゴ糖の複数コピーが、単一のバックボーンに付着している形態の単一のオリゴ糖を投与することが望ましい。適切なバックボーンのいずれも使用でき、例えば、グリカン、糖脂質、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ムチンまたはポリペプチドがある。適切なバックボーンポリペプチドは、多種グリコシル化部位(multiple Asn、Serおよび/またはThr残基)および低いアレルギーの潜在性を有する。いくつかの場合、ヒトに与えることが許容されると考えられるポリペプチドを用いることが望ましい。有用なバックボーンは、κ−カゼイン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、胆汁塩−刺激リパーゼ、リゾチーム、血清アルブミン、葉酸結合タンパク質、ハプトコリン、リポタンパク質リパーゼ、グリコサミノグリカン、ムチン、ラクトペルオキシダーゼ、アミラーゼ、ウシミルクタンパク質および他の一般食品のタンパク質のような人乳タンパク質を含む。
【0097】
オリゴ糖は、標準方法を使って、タンパク質に付着しうる。例えば、オリゴ糖は、p−アミノフェニルグリコシドに転換し、次いで、標準手順で、ジアゾ化およびBSAまたは他のポリペプチドと複合化する(124、125)。p−アミノフェニルグリコシドは、ペルアセチルp−ニトロフェニルグリコシドを通じ、調製できる(126−128)。p−アミノフェニルグリコシドは、Adams触媒の存在下で、注意深く、O−デアセチル化(アルカリ加水分解を避けるため)および還元される。比較的不安定なジアゾニウム塩の別の方法として、一般的に安定な結晶性イソチオシアネートが調製され、上述の通り、BSAまたは他のポリペプチド(例えば、ミルクタンパク質)に結合されうる(124)。または、遊離の還元末端を伴うオリゴ糖は、シアノボロハイドライドナトリウムによる還元的アミノ化によって共有結合に転換するリジン残基、または、シッフ塩基を形成するアミノ末端で見られるように、タンパク質上で遊離アミノ基と結合しうる。オリゴ糖のポリペプチドへの付着は、直接的にスペーサーなしで、または様々な鎖長のスペーサーを通じてされうる。スペーサーの異なった化学の多様性が利用可能である。天然の糖タンパク質のコアなN結合グリカンのコアは、酵母中で発現するタンパク質上のスペーサーとして働きうる。
【0098】
天然のグリコシル化部位に付着するコアなN結合グリカンを伴う所定のタンパク質を生産するように操作された酵母(Hamiltonら Science 301:1244、2003参照)は、ポリフコシル化ネオ複合糖質の生産のための開始点としてネオ糖タンパク質を作り出すために用いられうる。以下のグリカンのタイプは、スペーサーとして(Rは、バックボーン、例えば、タンパク質を示す)および所望のグリカンの還元末端として用いられうるそれらの代表である。
【0099】
【表9】

【0100】
【表10】

【0101】
フコシル化された形態を作るために、ネオ糖タンパク質は、上述の化学的、化学酵素的または、分子生物的アプローチのいずれかによってラクトースのかわりに基質として使用される。これらのタンパク質が、GMD、GFS、および細胞壁発現FUT−2を発現するように操作された酵母中で発現すると、H−2エピトープの多価の形態を生産しうる。これらの多価のH−2分子の生産への代替的アプローチは、コアおよびグリカン構造に必要な、所定の人乳タンパク質およびフコシル転移酵素に対するプラスミド−運搬遺伝子にGMD、GFS、および細胞壁発現FUT−2を発現するように操作された酵母にトランスフェクトしてもよい。このような構築物は、Ulexレクチンアフィニティクロマトグラフィーによって単離しうる多価のH−2ネオ糖タンパク質を生産しうる。フコシル化された形態を作るために、ネオ糖タンパク質は、上述の化学的、化学酵素的、または分子生物的アプローチのいずれかによってラクトースの代わりの基質として使われる。これらのタンパク質は、GMD、GFS、および細胞壁発現FUT−1またはFUT−2を発現するように操作された酵母に接触させると、H−2エピトープの多価の形態を生産しうる;細胞壁上でFUT3−7若しくはFUT−9、または、FUT−1若しくは2およびFUT3−9の組合せを発現するものは、他のフコシル化されたエピトープを生産するであろう。これらの多価のH−2分子の生産への代替的アプローチは、コアおよびグリカン構造に必要な所定の人乳タンパク質およびフコシル転移酵素に対するプラスミド−運搬遺伝子をGMD、GFS、および細胞壁発現フコシル酵素を発現するように操作された酵母にトランスフェクトしてもよい。このような構築物は、Ulexレクチンアフィニティクロマトグラフィーによって単離しうる多価のH−2ネオ糖タンパク質を生産しうる。第三のアプローチは、タンパク質、グリカンコア、糖ヌクレオチドを輸送するアンチポーター、必要とする糖ヌクレオチド合成のための酵素ならびに、それぞれの、フコシル化されたおよび/またはシアリル化構造、またはフコシル化されてない、シアリル化オリフォサッカライドでないものを生産するのに必要なフコシル転移酵素および/またはシアリル転移酵素を生産するために必要なグリコシル転移酵素のための遺伝子を酵母にトランスフェクトしてもよい。
【0102】
組成物
バックボーンに結合する、または、しないオリゴ糖は、オリゴ糖(バックボーンと、遊離した、または、に結合した)および製薬上許容できる担体、例えば、様々な湿潤剤または賦形剤と同様に、リン酸緩衝生理食塩溶液、水エタノール混合物、油/水または水/油エマルジョンのような、水およびエマルジョン、を含む薬剤組成物として、投与できる。オリゴ糖薬剤は、患者に投与されたとき拒絶反応、アレルギー反応、さもなければ望ましくない反応を生み出さない物質と組み合わされてもよい。担体または媒介は、溶媒、分散剤、コーティング剤、吸収促進剤、放出制御剤、および1以上の不活性な賦形剤(それは、でんぷん、ポリオール、造粒剤、微結晶性セルロース、希釈剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤およびこれらの物を含む)、等を含んでもよい。仮に所望するなら、開示された組成物の錠剤の投与形態は、標準的な水性または非水性技術によってコーティングされてもよい。
【0103】
オリゴ糖薬剤は、例えば、予め決められた量の活性成分を含む錠剤、ペレット、ゲル、ペースト、シロップ、ボーラス、舐剤、スラリー、カプセル、パウダー、顆粒として、水性液体若しくは非−水性液体中の、溶液または懸濁液として;水中油型水溶液エマルジョン若しくは油中型水溶液エマルジョンとして、または、その他の形態で、経口で、投与されてもよい。経口投与組成物は、結合剤、潤滑剤、賦形希釈剤、滑剤、表面活性または分散剤、香料添加剤、および保湿剤を含んでもよい。錠剤のような経口投与製剤は、必要により、コーティングされても、または分割錠であってもよく、および、活性成分の持続放出、遅延放出または制御放出を提供するように配合されてもよい。本発明の薬剤は、肛門坐剤、エアロゾルチューブ、鼻腔−胃チューブ、胃腸管若しくは胃の直接注入によって、または非経口で、投与されうる。
【0104】
オリゴ糖薬剤を含む薬剤組成物は、抗ウイルス薬、抗生物質、プロバイオティック、鎮痛剤、および鎮痛剤のような治療薬を含んでよい。
【0105】
適切な投与量は、当業者によって決定され、例えば、患者の免疫状態、体重および年齢のような要因に依存する。いくつかの場合、投与量は、ヒトの母乳中に存在する類似オリゴ糖と類似の濃度である。
【0106】
オリゴ糖薬剤は、他の組成物へ加えることもできる。例えば、特殊調製粉乳、栄養組成、水分補給用飲料、高齢者または、免疫障害欠陥を持つ個体のための、日常的メンテナンスまたは、サプリメントに加えることができる。
【0107】
オリゴ糖薬剤は、食用脂、炭水化物およびタンパク質のような主要栄養素を含む組成物に含ませることができる。食用脂は、例えば、ココナッツオイル、大豆油ならびにモノグリセリド及びジグリセリドを含む。炭水化物は、例えば、グルコース、食用ラクトースおよび加水分解コーンスターチを含む。タンパク価は、例えば、タンパク源は、例えば、大豆タンパク質、乳清、およびスキムミルクでありうる。
【0108】
オリゴ糖薬剤を含む、栄養組成物などの組成物はまた、ビタミンおよびミネラル(例えば、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、クロライド、マグネシウム、マンガン、鉄、炭素、亜鉛、セレン、エレメント、およびビタミンA、E、D、C、およびビタミンB複合体)を含みうる。
【0109】
オリゴ糖のスクリーニングおよび分析
オリゴ糖は、薬剤自身を使って感染体への結合能を試験することができる。例えば、炎症性下痢の子供由来のプロトタイプの侵襲性C.ジェジュニ株166−IPおよび287−IP;健康な子供由来のC.ジェジュニ株50−SP;および2つのV.コレラ株であるEl TorおよびClassicは、カンピロバクターおよびV.コレラ上のオリゴ糖の影響を研究するために使われうる。
【0110】
組織血液型抗原へのカンピロバクターおよびV.コレラの結合能を評価するために、細菌結合へのウエスタンブロット法は、DIG−標識細菌を用いて行われる(23,24)。血液型抗原のネオ糖タンパク質は、レーンごとに6.3×10−10Mのオリゴ糖の条件でのSDS−PAGE用レーンに適用する。膜は、TBSで洗浄し、OD600が0.2のDIG−標識細菌の懸濁液に浸し、穏やかに攪拌しながら室温で4時間インキュベートする。膜は、その後洗浄し、アルカリホスファターゼ−複合抗−DIG抗体で1時間インキュベートし、洗浄し、および、生理食塩水(pH9.5)基質(Boehringer Mannheim)中で、X−フォスフェイト(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルフォスフェイト)およびトリス−バッファ含有ニトロブルーテトラゾリウムに染色した。
【0111】
α1,2−フコシル転移酵素−トランスフェクトCHO細胞(CHO−FUT1)、α1,3/4−フコシル転移酵素−トランスフェクトCHO細胞(CHO−FUT3)、およびα1,3−フコシル転移酵素−トランスフェクトCHO細胞(CHO−FUT4)、ならびに、α1,2FUT遺伝子(CHO−WT)が欠失したベクターpCDMをトランスフェクトした親CHO細胞は、細菌の結合および細菌/ホスト細胞凝集を、試験をするために使用してよい。ベクターを伴う親CHO細胞は、対照として用いる。
【0112】
α1,2−フコシル転移酵素(FUT1)に対するヒトの遺伝子をトランスフェクトしたCHO細胞への細菌の結合は、細菌−細胞結合評価によって評価できる。簡単に言うと、ヒトのH−タイプ抗原(α1,2−フコシル残基)の合成に必要なFUT1フコシル転移酵素を発現するトランスフェクトCHO細胞は、密集するまで成育させる(28)。対照は、野生型CHO細胞、プラスミドベクターのみを有する親CHO細胞、およびマウスUDPGal:Galα1、4GlcNAcα1,3−転移酵素を発現するクローンである。単層を集め、8−チャンバースライドの各ウェルに播種し、18時間培養し、洗浄し、9x10細菌/mLの懸濁液で培養する。ウェルをリンスし、1時間10%ホルマリンで固定し、Warthin−Starry法によって染色し、蛍光性プラスミドを有する変異株を、油浸下で、光学顕微鏡、または共焦点顕微鏡で調べる。
【0113】
丸いカバー・スリップ上で成長させる同一の調製物は、2%グルタルアルデヒドに固定し、一連の段階的に使用する溶媒で脱水し、表面の金処理をした後、電子顕微鏡検査をスキャンすることで調べた。
【0114】
α1,2−フコシルリガンドおよびその同族体のようなリガンドは、CHO−FUT1細胞へのカンピロバクターおよびV.コレラ株の結合を阻害する能力について試験する。抗−H−2モノクローナル抗体(抗−H−2MAbs)ならびにレクチン Ulex europaeus(UEA I)およびLotus tetragonolobus(Lotus)を含むH−2リガンドに結合する分子に対し、阻害は、1x10細菌/mLを含む100μLの細菌の懸濁液を加える前に、α1,2−フコシルリガンドのそれぞれと1時間8ウェルチャンバースライドで培養したCHO−FUT1細胞の単層上で測定する。人乳の中性オリゴ糖(Neutral−OS)、分泌および非−分泌者の親のミルク、ネオ糖タンパク質BSA−H−2(IsoSep AB、Tullingen、Sweden)、ならびに、2’−フコシルラクトース、を含む細胞表面レセプターの同族体を使用する阻害に対しては、100μL細菌の懸濁液を、細胞単層に加える前に、同族体のそれぞれと培養する。両評価において、37℃での3時間の培養後、ウェルをリンスし、1%TritonX100で溶解し、ウェルごとの細菌のCFU(コロニー形成ユニット)を決定する。データは、α1,2−フコシルリガンドまたは同族体が加えられていない陽性対照に対する細胞への、細菌結合との、阻害の割合(%)として判断される。
【0115】
インビボでのカンピロバクターおよびV.コレラコロニー形成上のオリゴヌクレオチドおよびネオ糖タンパク質の効果は、BALB/cマウス(体重10−20g)で決定しうる。3週齢のBALB/cマウスに、BID(1日2回)またはTID(1日3回)のいずれかを、経口で与え、ネオ糖タンパク質の投与量を2mg/100μLから始め、200mg/μLまで増やす。動物は、最後の投与の後、トレランス、体重、下痢の存在、および異常行動を判断すべく2週間フォローする。
【0116】
2つの異なった評価は、mus musculus Balb/cの近交系を使ってインビボでのカンピロバクターおよびコレラのコロニー形成の阻害をテストするために用いうる。(1)予防研究。コロニー形成を予防的に阻害するネオ糖タンパク質の能力を研究するために設計された実験において、3週齢の雌のマウスは、ランダムに、2つの実験群ならびに陽性対照および陰性対照群に分配する。2つの実験群は、動物ごとに10CFUをチャレンジする。4つの抗原投与群のうち、2つは、チャレンジの2日前、当日、2時間後、1日2、3回ネオ糖タンパク質またはトリサッカライドのいずれかの処置を受ける。陰性対照群は、動物は始めに病原菌がないことを確認して使う。陽性対照群は、ただ生理食塩水を投与する。それぞれの実験群は、お互い、および生理食塩水対照群と比較する。
【0117】
オリゴ糖およびネオ糖タンパク質は、すでに感染した動物のコロニー形成の除去の試験のために使用しうる。また、3週齢のBalb/cマウスは、始めに10CFUカンピロバクターに感染させ、動物が持続性コロニー形成を示した7日後、該動物は、トレランスおよび安全性研究で確立されている2投与量で1日、2回または3回のネオ糖タンパク質またはトリサッカライドで処置されるであろう。
【0118】
カンピロバクター、カリシウイルス、および母乳で育つ幼児におけるすべての原因の下痢に起因する下痢を減少する2位結合フコシル化オリゴ糖
人乳中の2位結合しないフコシル化オリゴ糖に対する、2位結合したフコシル化オリゴ糖の高い率は、母乳で育つ幼児におけるカンピロバクター下痢およびカリシウイルス下痢の発生を減少させたことを説明する研究を以下に示す。316の母子ペアのコホートを登録し、メキシコシティの従来から近隣であるSan Pedro Martirで分娩後2年間モニタリングした。登録は、一般的な出産時体重の幼児を出産することを制限した。この研究は、メキシコおよびシンシナティの施設内倫理委員会で承認された。書面によるインフォームド・コンセントは、参加する親から得た。幼児の病気および授乳歴は、毎週の往診をする訓練を受けた外勤によって集められた。ミルクサンプルは、最初の月は毎週とその後毎月母親から収集した。サンプルは、経験をつんだ研究看護婦によって、Egnell電気搾乳器を使って朝に収集され、一方の胸の全内容物を得た。研究の家庭用から実験用へは、サンプルをアイス上で運び、−70℃で保存した。幼児の糞便サンプルは、週ごとに収集され、下痢が起こるたび毎に追加サンプルを得た。下痢サンプルは、先行刊行物に記載の通り、カンピロバクタージェジュニ、下痢性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌、アエロモナス菌、およびロタウイルスについて定期的に試験した(129、136−138)。糞便サンプルのカリシウイルス試験は、酵素免疫分析(EIA)および逆転写−PCRによって後に実施され;いずれかの試験でカリシウイルス陽性であるとの判断により陽性の結果であった(139−141)。研究を通じて、は、24時間周期以内に3回以上の水様便、または、研究医師によって決定された子供の通常の1日の排便回数を越える2回以上の便による水性の緩んだ腸の動きを下痢症状と定義した。RuuskaおよびVesikariの重篤度評価システムを使って、下痢症状は、仮にスコアが10以上なら中度〜重度と分類された(136、142)。疾病重症度の分類は、研究医師が記録したそれぞれの下痢症状の標準史に基づき、乳オリゴ糖分析の独立性に左右されない。仮に、病原菌が、下痢症状の間または7日以内に採集された糞便サンプル中で見つかったら、下痢は、カンピロバクターまたはカリシウイルスに起因するとした。2以上の病原菌に関連のある下痢症状は、病原菌に特異的な分析から排除された。当初のコホート研究が完成すると、母親は、採血に参加することを依頼され、母性血液型を決定した。
【0119】
仮に、彼らが少なくとも2週間は、コホート中でフォローされ、母乳で育てられたならば;母親は血液型確認のための血液採取について同意したならば、;および、ミルク分娩後1−5週間の間に採集した2mL以上を含む少なくとも一つのヴァイアル瓶のミルクを貯蔵して有したなら;母子ペアは、本研究中に含まれる。除外の理由は、少なくとも2週間40人は、授乳せず、研究として維持されない;91人の母親は血液採取に同意しなかった;92人は、貯蔵のミルクサンプルの体積が不十分であったというものであった。トータルで93の母子ペアは、すべての3つの基準を満たし研究に含まれた。仮に、一つのサンプルより上が母親ごとに利用可能なら、分娩後30日に最も近い少なくとも2mLの体積のものを採集した。
【0120】
ミルクサンプルは、ボストンに移送され、前述の通り分析した(143)。乳オリゴ糖は、単離され、ペルベンジル化され、アセトニトリル/水グラジエント逆相HPLC(C−8)で溶解し、229nmで検知された。該クロマトグラフィーシステムは、人乳サンプル8つの主要なピークを検出し、それは最も一般的な人乳オリゴ糖:4つの、2位結合フコシル化オリゴ糖(ラクト−N−フコペンタオースI[LNF−I]、2’−FL、ラクト−N−ジフコヘキサオース[LDFH−I]およびラクトジフコテトラオース[LDFT]);2位結合でない(LNF−IIおよび3−フコシルラクトース[3−FL])2つのフコシル化オリゴ糖;ならびに、これら2つの前駆体(ラクト−N−テトラオース[LNT]およびラクト−N−ネオテトラオース[LNneoT])に相当する。これらの8つのオリゴ糖は、それぞれルイスヒスト血液型抗原の同族体で、それぞれ:H−1、H−2、Le、Le、Le、Le、ならびにタイプ1および2前駆体である。人乳サンプルのオリゴ糖検知は、貯蔵または凍結融解によって不利に影響しなかった。
【0121】
統計分析
授乳中の下痢発症率に絞った一次解析は、授乳の100のチャイルド−マンス(child month)ごとの授乳中に起きる下痢のケースの総数として定義した。授乳のチャイルド−マンスは、出生から授乳の最後まで(または、研究からの最後、いずれか早く起こる方)の授乳に費やした全月の合計として計算した。二次解析は、授乳後のチャイルド−マンスの間のすなわち、授乳の最後から研究からの最後までの下痢発症率測定を実施した。下痢の病気の期間は、発症率を計算するのに使用させる分母には含ませなかった。研究結果は、C.ジェジュニ、カリシウイルス、下痢のすべての原因、および中度〜重度の下痢のすべての原因に関連する下痢の割合として定義した。主要な独立変数は、ミルク中の濃度(mmol/L)および乳オリゴ糖の割合(%)(特定またはトータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖の量を、8つの測定オリゴ糖の合計で割った)に関して特徴付けられた、特定のおよびトータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖であった。乳オリゴ糖測定の割合(%)は、授乳の生理機能、サンプリング、採集、貯蔵、および試験に起因した濃度の変動を修正するために用いた。
【0122】
修正は、オリゴ糖測定値中で分析された。乳オリゴ糖測定値および下痢発症率の関連性は、ポワソン連結関数による一般化された線形モデルを使って測定された。このモデルは、フォローアップ時間の可変長を説明するために、一人ごとの1以上の結果の発症率の分析のため、最適として選択された。表1に示される因子による潜在的な相互作用または交絡は、乳オリゴ糖測定値および幼児下痢率に関して分析された。単変量および/または多変数モデルにおける幼児下痢率に関連する有意な(P<0.05)危険性因子は、(24時間以内に摂食の総数によって割られる授乳の数としての、授乳中の週毎のフォローアップデータから計算される)母乳、幼児の出産順位、母性年齢、および母性ABO血液型である、幼児養育率であった。これらの因子は、重回帰モデルに含められたが、それらは、乳オリゴ糖値には関連せず、オリゴ糖測定値および下痢発症率の間の関連性を混同させなかった。したがって、最終の回帰モデルは、下痢発症に関する乳オリゴ糖の割合(%)として表される特定のまたはトータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖のみを含んだ。連続型変数としての乳オリゴ糖分析に加えて、データの投与反応パターンは、群によって計算した幼児下痢率を伴う、乳オリゴ糖値の低、中、および高の三分位数(群あたりn=31)に分類することによって、母子ペアをさらに調べた。
【0123】
研究集団
この研究における93の母子ペアは、出生および2歳の間の857の授乳した幼児−月および765の授乳後の幼児−月に対してモニタリングした。これらの93の母子ペアを、本研究には含まれないが、少なくとも2週間幼児に授乳したコホート中の183人の母親と比較した;本研究に含まれる母親は、含まれない母親よりも長い期間授乳し(期間中央値9vs5月、P<0.01)、中等若しくはそれ以上の教育をより高い確率で修了(P<0.01)したことを除けば、彼らは、授乳中の幼児下痢の発症率ならびにすべての社会人口学的、衛生、および幼児因子(表1)に関し、同程度であった。これらの因子の分析は、それらは乳オリゴ糖レベルと関係があり、交絡とは関係ないということを知得した。したがって、これらの違いは、この研究の内部妥当性に影響を与えないようであった。93の研究ペアの中で、摂食が人乳であった平均の割合(%)は、授乳期間中の49%であり;摂食を授乳のみとした者は皆無であった。それら自身の母乳に加えて、本研究の幼児には、異なった量の乳児用ミルク、ジュース、茶、水、固形食および粥が与えられた。2/3の母親は、O血液型で;ほぼ3/4はルイス陽性分泌者(Le a−b+)および1/4はルイス陰性分泌(Le a−b−)であった。2の母親の血清学的分類は、Le a+b−であり、偏性非分泌を示すものとして認識される。しかしながら、これらの2つの母親由来のミルクは、2位結合のフコシル化オリゴ糖を含んでいたので、非分泌者と一貫性がなく、ミルクおよび血液型表現型の間の相違は、血液型を未決定として分類することによって解決した(表1)。
【0124】
【表11】

【0125】
授乳中の下痢結果における月の年齢:期間中央値(範囲)
すべての下痢(234症例):6.9(0.1、23.4)
中度〜重度の下痢(77症例):6.7(0.1、20.3)
カンピロバクター(31症例):9.2(1.6、15.6)
カリシウイルス(16症例):9.1(1.2、14.4)**
ミルク分析
単一のミルクサンプルは、それぞれの母親ごとに分析し;すべての分析サンプルは、標準的な方法において、分娩後1−5週間(中央値、3週間)採集され、サンプルのばらつきを避けた。この授乳コースに対するこのサンプルの代表性は、11人のメキシコ人の分泌する母親から時系列データを使って分析した。分娩後3週間目に採集されたミルクサンプルで測定した2位結合のフコシル化オリゴ糖は、3、6、9、および12月の授乳のそれぞれの母親から採集したミルクでの同じ測定の平均と高い関連性があった(144)。
【0126】
乳オリゴ糖濃度は、1.0〜36.1mmol/Lの範囲であった。トータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖濃度は、0.8〜20.8mmol/L(50〜92%の乳オリゴ糖)の範囲であった(表2)。最も一般的に普通に存在する特定の2位結合のフコシル化オリゴ糖は、2’−FL(乳オリゴ糖の34%)およびLNF−I(乳オリゴ糖の25%)であった。24人のLe a−b−母親のミルクは、67人のLe a−b+の母親(それぞれ、トータルの80vs71%)と比較して、著しく高い(P<0.05)、トータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖の割合であった。ミルク濃度または乳オリゴ糖の割合として分析した2位結合のフコシル化オリゴ糖は、母性社会人口学的要因またはABO血液型とは関連性がなかった。ミルク濃度として表される特定のオリゴ糖間の相互関係は、r=−0.1〜+0.8の範囲で、乳オリゴ糖の割合として表される特定のオリゴ糖間の相互関係は、−0.5〜+0.6の範囲であった。
【0127】
【表12】

【0128】
* 乳オリゴ糖の割合(%)は、本研究で測定された乳オリゴ糖のトータルの量で割ったそれぞれの特定のオリゴ糖量である。
+ トータルの乳オリゴ糖は、8つのオリゴ糖:4つの2位結合のフコシル化オリゴ糖、2つの非−2位結合のフコシル化オリゴ糖(3−FLおよびLNFII)およびそれら二つの前駆体を含む。
【0129】
下痢との関連性
授乳中、全234の下痢症状を特定し(期間中央値、子供ごとに2の下痢症状;範囲、子供ごとに、0−12の症状)、そのうちの77(33%)の下痢症状は、中度〜重度であった。下痢発症率は、授乳中の100子供−月当たり、28.8症例であって、中度〜重度の下痢発症率は、授乳中の100子供−月当たり9.5症例であった。すべての下痢症状中、40は、C.ジェジュニ、25は、カリシウイルス、10は、腸病原菌の大腸菌、9は、ロタウイルス、5は、赤痢菌、4は、安定な毒素に関連の大腸菌に、関連があった。検出された共感染の下痢症状を除いて、31の下痢症状は、22人の子供においてC.ジェジュニと関連し、16の下痢症状は、13人の子供においてカリシウイルスに関連があった。授乳中のC.ジェジュニ下痢率は、逆に、乳オリゴ糖の割合としての2’−FLに関連があり(P=0.007)(表3)、乳オリゴ糖の割合としてのLDFH−I(P=0.047に)直接的に関連があるが、LDFH−Iとの関連性は、回帰モデルにおいて2’−FLの制御後は、継続しなかった。しかしながら、乳オリゴ糖の割合としての2’−FLは、逆に、単変量か多変数モデルかいずれかにおいて、C.ジェジュニ下痢率との著しい関連性(P<0.05)を保持した。全面的に分析すると、乳オリゴ糖の割合としての低い2’−FLの群は、中間および高い2’FL群のそれぞれより、授乳中において著しく高い(P<0.01)カンピロバクター下痢率を有した(図6A)。授乳中のカリシウイルスの下痢に対しては、様々な乳オリゴ糖が、保護的な関連性の傾向があるが(表3)、LDFH−Iのみは顕著であった(P=0.012)。乳オリゴ糖の割合としてのLDFH−Iと、カリシウイルス下痢との逆の関連は、明白な用量依存的関連性を示した(図6B)。
【0130】
【表13】

【0131】
*それぞれのモデルは、唯一の独立変数、乳オリゴ糖としての特異的な2位結合のフコシル化オリゴ糖、および独立変数としての病原菌−特定の下痢を含んだ。陰性のβ係数は保護を示す。重大な保護の関連性は、太字である。22の対象は、カンピロバクター下痢の31症例を有し、13の対象は、カリシウイルス下痢の16症例を有した。
【0132】
有意な逆相関性(β=−3.9±1.2(SE[β]、P=0.001)は、乳オリゴ糖の割合としてのトータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖および授乳中すべての中度〜重度の下痢率の間でポアソン回帰によって見出されたが、すべての下痢には関連性はなかった。連続型変数またはカテゴリ型変数として分析された、ミルク中のトータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖は、中度〜重度の下痢と逆の用量依存的相関性を有した(図6C)。ミルクの2位結合のフコシル化オリゴ糖および下痢発症の逆相関性は、授乳期間中続いており、授乳中で、年齢において階層化することによって分析した(0−5、6−12、13−18、および19−24月)。授乳期間が1ヶ月未満の6つの研究の子供を除外しても、乳オリゴ糖および下痢発症の間で観察された相関性は変わらなかった。
【0133】
授乳後期間において、トータルの89人の子供は、研究は継続され、188の下痢症状、60の中度〜重度の下痢症状、および36のカンピロバクター下痢症状(カリシウイルス試験は、授乳期間後行われなかった)を経験した。乳オリゴ糖および授乳後の下痢発症の間の関連性は観察されなかった。
【0134】
母乳で育つメキシコ人の幼児についての本研究では、我々は、人乳中の特定の2位結合のフコシル化オリゴ糖の低いレベルは、病原菌−特定の幼児下痢、C.ジェジュニおよびカリシウイルス増加率に著しく関連し、共感染以外では、我々の研究集団において、すべての下痢症状の20%の割合を占めたことを見出した。乳オリゴ糖の割合としての低い2’−FLレベルは、母乳で育つ幼児中において高いC.ジェジュニ下痢率に関連した。同様に、乳オリゴ糖の割合としての低いLDFH−Iレベルは、より高いカリシウイルス下痢率に用量依存的関連性を有した。我々はまた、乳オリゴ糖の割合としての低いトータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖は、すべての原因の中度〜重度の高い下痢率に用量依存的関連性があることを見出した。分娩後最初の月に測定された乳オリゴ糖および母乳で育つ幼児の下痢の関連性は、授乳を通じて持続するが、最後の授乳の後は持続しない。この観察は、我々の提案した保護メカニズム:病原菌結合を阻害する幼児胃腸管中の乳オリゴ糖の存在と首尾一貫するものであった。我々の研究集団において、すべての母乳は、多少の2位結合のフコシル化オリゴ糖を包含したが、広範囲で発現しており、特定およびトータルの2位結合のオリゴ糖を連続スケールで測定した。母乳で育つ幼児中の乳オリゴ糖および下痢の間の関連性は、乳オリゴ糖の割合に対してのみ見られ、それは、標準的なミルクサンプル採集および実験室方式にも関らず、オリゴ糖の回復におけるばらつきを補正するための分母の重要性を示す。
【0135】
本研究で測定された人乳オリゴ糖は、ルイスエピトープ、すなわち、母性ルイスヒスト血液型を制御する同じ遺伝子の生産物である。血液型は、ホスト細胞表面でのオリゴ糖−含有複合糖質の発現を決定する遺伝子的多型性の結果である。組織血液型および細菌およびウイルスの疾患への異なる感染し易さの関連性を先に報告した。Glassら、O血液型個体は、コレラの感染し易さを増大させることを示した(145)。P血液型は、溶血性尿毒症症候群への感染し易さと関連している(146)。Ikeharaらは、ルイスおよび分泌組織血液型遺伝子型ならびにヘリコバクターピロリへの感染症危険性の関連性を見出した(147)。Hutsonその他は、O血液型個体は、ノーウォーク・ウイルスへの感染し易さを増加させることを報告した(148)。インフルエンザウイルス結合性は、ホスト血液型抗原に関して多様であることを示している(149)。さらに、Razaらは、分泌する子供は、インフルエンザウイルスAおよびB、ライノウイルス、呼吸器官、合胞体ウイルス、ならびにエコー・ウイルスを原因とする呼吸器官感染症に対する入院危険性を増加させることを報告した(150)。
【0136】
本研究は、母子一組を調べたという点でユニークである。母乳中での2位結合のフコシル化オリゴ糖の相対量における表現型の多様性は、母乳で育つ幼児へ提供されうる保護を決定する。母親中の体内で乳オリゴ糖を生産するのと同じ遺伝子型が、その幼児における危険性を増加させる細胞表面レセプターを生産することが予期されるので、幼児の感染し易さに対する制御の欠如は、乳オリゴ糖および疾患に対する保護の間の真の関連性が、観察されたもの以上に強くなるよう、我々の結果を偏らせた可能性がある。さらに、我々は、本研究には含まれない特定の主な風土病の病原菌、例えば、STと結合した大腸菌(130、134、135)はまた、2位結合のフコシル化オリゴ糖によって阻害される一方で、他の病原菌、例えば、ロタウイルスは、分泌およびルイス遺伝子以外の遺伝子の生産物がエンコードしている人乳複合糖質によって阻害される(129)ことを見出した。したがって、我々が、記載した関連性は、人乳の先天性免疫反応に対する保護の役割をほんの少しだけ垣間見ることができる。
【0137】
本研究に関する明らかになりつつある中身によって、発病の共通機構は、いくつかの細菌およびウイルスの病原菌17−20、33−35、37の間で存在しうることが示唆される。我々は、C.ジェジュニ、細菌、およびカリシウイルスの両方は、2位結合のフコシル化オリゴ糖17−19に結合することを見出した。フコシル化オリゴ糖乳汁フラクションは、インビトロでのおよび実験用マウスにおけるコロニー形成で、C.ジェジュニのヒトの上皮細胞への付着性を阻害し、2’−FLは、C.ジェジュニが生体外でヒトの腸の粘膜に結合することを阻害する(131)。さらに、我々はまた、ヒトのフコシル転移酵素遺伝子をトランスフェクトしたチャイニーズハムスター卵巣細胞は、C.ジェジュニと結合し、その結合は2’−FLを含むルイスエピトープによって阻害されることを見出した。我々のカリシウイルスに関する研究は、ノーウォーク・ウイルス−様粒子は、分泌者からの胃−十二指腸接合部の組織切片に結合するが、非分泌者からのものとは結合せず(132)、結合は、分泌者からのミルクによって遮断される(133)。ノーウォーク・ウイルスをチャレンジしたボランティアは、仮に彼らが分泌者である場合のみ症状として感染する。LDFH−Iオリゴ糖(Leオリゴ糖同族体)は、カリシウイルス下痢に対しての保護と関連する我々の発見に一致して、我々の研究データは、Leエピトープおよび他の2位結合のフコシル化オリゴ糖構造物は、一般的なカリシウイルス株によって結合を阻害することを示唆する。
【0138】
本研究の潜在的な制限は、考慮すべきである。それぞれの母親から標準的な方法で、集められた単一のミルクサンプルは、授乳中における幼児下痢に関して分析された。しかしながら、我々のデータは、最初の月の2位結合のフコシル化された乳オリゴ糖の発現は、授乳期全体に亘る発現に関し高い相互関係があることを示す。本研究において、我々は、オリゴ糖は、軽度の下痢ではなく、中度〜重度の下痢に対しての保護に関連性があることを見出した。授乳を通じたサンプルサイズおよび多様なサンプル分析が拡大されることに伴い、未来の研究は、乳オリゴ糖が軽度な下痢に対して保護するかを決定することがより可能になるであろう。本研究で母親を含んだことは、極低温貯蔵装置中の十分なミルク体積および採血におけるさらなる参加を要求した。結果として、我々の研究における母親は、通常のコホート中における他の母親より著しく長い授乳および高い教育水準を有したが、これらの要因は、研究下において乳オリゴ糖とは関連しなかった。
【0139】
人乳中のオリゴ糖の異種発現は、幼児に特定の抗原に対する様々な程度の保護を提供するということを本発見は示唆し、幼児におけるオリゴ糖エピトープの異種発現が異なる病原体への個々の感染のしやすさの基礎となるという概念と一致する。人乳中で発見された多くのオリゴ糖はユニークであるため、本研究は、授乳の重要性を支持する。要約すれば、本研究から観察される関連性は、人乳オリゴ糖が、下痢に対する臨床的に関連する保護を与えるという初めての臨床証拠を提供し、強力な抗細菌および抗ウイルスの活性を伴う経口剤の基盤を形成するオリゴ糖の潜在性を示唆する。
【0140】
2位結合したフコシル化オリゴ糖は、カンピロバクターおよびコレラ細胞への付着性を抑制する。
【0141】
HEp2細胞中のカンピロバクターの特異的な結合は、H(O)血液型エピトープ(Fucα1,2Gal 1,4GlcNAc)を含むフコシル化された炭水化物部分によって阻害される。ニトロ−セルロース膜中で固定されたネオ糖タンパク質としての組織血液型抗原へのカンピロバクターの結合の研究は、モノクローナル抗体の特異的な阻害によって確認するとH−2抗原に対して高い親和力を示した。付着性メカニズムに関する研究において、一般的にチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞とは結合しないC.ジェジュニは、該細胞にH−2抗原の過剰な発現を引き起こすヒトのα1,2−フコシル転移酵素遺伝子をトランスフェクトした際に、強固に結合した。同様に、V.コレラは、トランスフェクトされた細胞には付着するが、親細胞には付着しない。この結合は、H−2リガンド(Ulex europaeus レクチン、ロータス テトラゴノロブス(tetragonolobus)レクチン、およびH−2モノクローナル抗体)、H−2模倣剤、および人乳オリゴ糖によって特異的に阻害された(図7)。侵襲性カンピロバクター287−IPは、FUT1に結合するが、FUT3またはFUT4−トランスフェクトCHO細胞には結合しない(図8)。実験モデルにおいて、人乳オリゴ糖は、マウスのインビボおよびヒトの腸の粘膜の生体外でカンピロバクターコロニー形成を阻害した(図9Aおよび9B)。
【0142】
カンピロバクター感染症に対する受動的な保護におけるミルクα1,2複合糖質の役割は、授乳中の乳腺、およびそのミルクにおける、最初の組織血液型抗原の発現を誘起するホエープロモーターを伴うヒトのα1,2−フコシル転移酵素遺伝子(FUT2)を有する一腹のB6−SJL遺伝子組み換えの雌のマウス中で評価した。対照として非形質転換の親のマウスが用いられた。乳離れしていないマウスに、C.ジェジュニの10、10および10CFUをチャレンジし、母マウスに戻された。腸コロニー形成は、15日間モニタリングされた。最大90%の非形質転換の一腹の子は、フォローアップ中コロニーを保持した。形質転換のマウスのコロニー形成は、一時的であり、コロニー形成時間は、直接的に接種材料に関連した(図10Aおよび10B)。これらの実験は、強く、カンピロバクター感染症に対する保護におけるミルクのα1,2結合したフコシル化された複合糖質の役割を強く支持し、カンピロバクターに対する主な腸のリガンドは、H−2組織血液型抗原であることを示唆する。ミルクフコシル化オリゴ糖および特定のフコシル1,2結合した分子は、この結合を阻害する。H(O)を発現するpWAP FUT1遺伝子組み換え母イヌ由来の乳離れ前の子イヌ中のコレラ感染症の予備実験、乳腺中のH(O)抗原を発現するpWAP FUT1が形質転換された母の乳離れ前の子中のコレラ感染症の実験は、カンピロバクターと同様に、非形質転換の対照と比較する際、10CFUの接種材料でコロニー形成において有意な減少および1010CFUの接種材料で死亡における有意な減少を示した。我々のデータは、カンピロバクター感染症に対する保護における1,2−フコシル複合糖質の役割を強く支持し、カンピロバクターに対する主な腸のリガンドは、H−2組織血液型抗原であることを示唆する。
【0143】
参考文献
【0144】
【表14】

【0145】
【表15】

【0146】
【表16】

【0147】
【表17】

【0148】
【表18】

【0149】
【表19】

【0150】
【表20】

【0151】
【表21】

【0152】
【表22】

【0153】
【表23】

【0154】
【表24】

【0155】
【表25】

【0156】
【表26】

【0157】
【表27】

【0158】
【表28】

【0159】
【表29】

【0160】
本発明の多くの実施形態は、詳細に説明されている。しかし、本発明の思想と精神を逸脱することなく、本発明を変更できるというように理解されるであろう。したがって、他の実施形態も下記の請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1A】図1は、人乳オリゴ糖構造物に適用するルイス合成経路を概略的に示す。
【図1B】図1は、人乳オリゴ糖構造物に適用するルイス合成経路を概略的に示す。
【図2】図2は、特定のオリゴ糖の化学的な合成方法を概略的に示す。
【図3】図3は、インビボで特定のオリゴ糖を合成する部分的なアプローチを概略的に示す。
【図4】図4は、乳オリゴ糖の合成スキームを示す。
【図5】図5は、酵母中でオリゴ糖を生産するに有用なベクターの構築を概略的に示す。
【図6A】図6Aは、乳オリゴ糖の割合(%)としての、2’−FLの低い、中間の、または高い相対量を含む母乳をもらった子供の研究におけるC.ジェジュニ下痢、カリシウイルス下痢およびすべての原因の中度〜重度の下痢の発症率を示すグラフの一連である。棒状は、それぞれの群における原因−特定の下痢の発症率を示し;縦線は、標準誤差を示す。低い、中間、および高い群は、それぞれ、研究集団の三分位数(n=31)のオリゴ糖値を表す。2’−FLに関すると、群による乳オリゴ糖値の割合(%):低い(<0.29)、中間(0.29−0.36)、および高い(>0.37)。低い群と比較すると、中間および高い群でのカンピロバクター発症率は、両方著しく低かった(P<0.01)。
【図6B】図6Bは、乳オリゴ糖の割合(%)としての、LDFH−Iの低い、中間の、または高い相対量を含む母乳をもらった子供の研究におけるC.ジェジュニ下痢、カリシウイルス下痢およびすべての原因の中度〜重度の下痢の発症率を示すグラフの一連である。棒状は、それぞれの群における原因−特定の下痢の発症率を示し;縦線は、標準誤差を示す。低い、中間、および高い群は、それぞれ、研究集団の三分位数(n=31)のオリゴ糖値を表す。LDFH−Iに関すると、群による乳オリゴ糖値の割合:低い(<0.07)、中間(0.07−0.11)、および高い(>0.12)。低い群と比較すると、高い群でのカリシウイルス発症率は、著しく低かった(P=0.02)。
【図6C】図6Cは、乳オリゴ糖の割合(%)としての、トータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖の低い、中間の、または高い相対量を含む母乳をもらった子供の研究におけるC.ジェジュニ下痢、カリシウイルス下痢およびすべての原因の中度〜重度の下痢の発症率を示すグラフの一連である。棒状は、それぞれの群における原因−特定の下痢の発症率を示し;縦線は、標準誤差を示す。低い、中間、および高い群は、それぞれ、研究集団の三分位数(n=31)のオリゴ糖値を表す。トータルの2位結合のフコシル化オリゴ糖に関し、それぞれの群での乳オリゴ糖値の割合:低い(<0.72)、中間(0.72−0.77)および高い(>0.77)。低い群と比較すると、中間および高い群における中度〜重度の下痢の発症率は、両方著しく低かった(P<0.01)。
【図7】図7は、H−2リガンドおよびH−2模倣薬ならびに人乳オリゴ糖によるFUT1−CHO細胞へのカンピロバクター結合の阻害を示す研究結果を表す図である。
【図8】図8は、細胞凝集は、FUT1(1、2Fuc)、FUT3(1,3/1,4Fuc)、およびFUT4(1,3Fuc)遺伝子を運ぶトランスフェクトCHO細胞上で侵襲性カンピロバクター株によって誘発することを示す研究結果を表す図である。
【図9A】図9Aは、細菌の10および10CFUによるチャレンジ中にミルクフコシル化オリゴ糖2mgを与えられたBALB/cマウスにおけるカンピロバクターコロニー形成の阻害を示す研究結果を示す図のペアである(左)。2’−フコシルラクトース(2’−FL)およびミルクフコシル化オリゴ糖によるカンピロバクターのヒトの腸コロニー形成の阻害の生体外で評価(OS)。
【図9B】図9Bは、細菌の10および10CFUによるチャレンジ中にミルクフコシル化オリゴ糖2mgを与えられたBALB/cマウスにおけるカンピロバクターコロニー形成の阻害を示す研究結果を示す図のペアである(左)。2’−フコシルラクトース(2’−FL)およびミルクフコシル化オリゴ糖によるカンピロバクターのヒトの腸コロニー形成の阻害の生体外で評価(OS)。
【図10A】図10Aは、最初泌乳乳腺に対するH抗原の発現を命令するWAPプロモーターを伴うFUT1遺伝子を有する形質転換マウスにおけるカンピロバクターコロニー形成の研究結果を示す図およびチャートである。形質転換マウスから与えられた子マウスは、カンピロバクターのチャレンジから5〜9日後にコロニー形成がなくなった。非形質転換マウスから与えられた対照の子マウスは、カンピロバクター形成を除去することができない。CFU=コロニー形成ユニット。
【図10B】10Bは、最初泌乳乳腺に対するH抗原の発現を命令するWAPプロモーターを伴うFUT1遺伝子を有する形質転換マウスにおけるカンピロバクターコロニー形成の研究結果を示す図およびチャートである。形質転換マウスから与えられた子マウスは、カンピロバクターのチャレンジから5〜9日後にコロニー形成がなくなった。非形質転換マウスから与えられた対照の子マウスは、カンピロバクター形成を除去することができない。CFU=コロニー形成ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコース基がガラクトース基にα1,2結合、α1,3結合、またはα1,4結合して分子および製薬上許容できる担体を含む、薬剤組成物。
【請求項2】
フコースは、LNF−I基、2’FL基、LNF−I基、LNF−II基、3’FL基、LNF−III基、LDFH−I基、LDFT基または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、中に含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該分子は、グリカン、糖脂質、糖タンパク質、グリコサミノグリカンまたはムチンである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
該分子は、LNF−I基、2’FL基、LNF−I基、LNF−II基、3’FL基、LNF−III基、LDFH−I基、LDFT基または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される少なくとも2つの異なる基を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
該分子は、LNF−I基、2’FL基、LNF−I基、LNF−II基、3’FL基、LNF−III基、LDFH−I基、LDFT基または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される少なくとも3つの異なる基を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
該分子は、LNF−I基、2’FL基、LNF−I基、LNF−II基、3’FL基、LNF−III基、LDFH−I基、LDFT基または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される少なくとも5つの基を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
該基は、SerもしくはThrにO−連結して、またはAsnにN−連結してタンパク質に共有結合する、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
該組成物は、哺乳類のミルクを含まない、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
該組成物は、人乳を含まない、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
2’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースI;
ラクト−N−フコペンタオースII;
3’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースII;
ラクト−N−ジフコヘキサオースI;
ラクトジフコテトラオース;
ラクトN−テトラオース;
ラクトN−ネオテトラオース;
3’−シアリルラクトース;
3’−シアリルラクトサミン;
6’−シアリルラクトース;
6’−シアリルラクトサミン;
シアリルラクト−N−ネオテトラオースc;
モノシアリルラクト−N−ヘキサオース;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;
モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースI;
モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースII
ジシアリルラクト−N−ネオヘキサオース
ジシアリルラクト−N−テトラオース;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースII;
シアリルラクト−N−テトラオースa;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;
シアリルラクト−N−テトラオースb;
3’−シアリル−3−フコシルラクトース;
ジシアロモノフコシルラクト−N−ネオヘキサオース;
モノフコシルモノシアリルラクト−N−オクタオース(シアリルLea);
シアリルラクト−N−フコヘキサオースII;
ジシアリルラクト−N−フコペンタオースII;
モノフコシルジシアリルラクト−N−テトラオース、または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、
から選択される、少なくとも2つの異なる基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含む、薬剤組成物。
【請求項11】
2−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースI;
ラクト−N−フコペンタオースII;
3−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースII;
ラクト−N−ジフコヘキサオースI;
ラクトジフコテトラオース、または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、
から選択される、少なくとも2つの異なる基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含む、薬剤組成物。
【請求項12】
該タンパク質は、少なくとも2つの異なる基のそれぞれの複数コピーを含むように修飾される、請求項10または11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
該タンパク質は、人乳タンパク質である、請求項10〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
人乳タンパク質は、κ−カゼイン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、胆汁塩−刺激リパーゼ、リゾチーム、血清アルブミン、葉酸結合タンパク質、ハプトコリン、リポタンパク質リパーゼ、グリコサミノグリカン、ムチン、ラクトペルオキシダーゼおよびアミラーゼから選択される、請求項10〜13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
合成組成物である請求項1〜14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
哺乳類のミルクではない、請求項1〜15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
少なくとも一つのビタミンをさらに含む、請求項1〜16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも一つのミネラルをさらに含む、請求項1〜17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
少なくとも一つの食用脂をさらに含む、請求項1〜18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
2’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースI;
ラクト−N−フコペンタオースII;
3’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースII;
ラクト−N−ジフコヘキサオースI;
ラクトジフコテトラオース;
および2’−FLNac、または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体
から選択される少なくとも2つの異なった基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含み、この際、該タンパク質は、他のオリゴ糖を含むようには修飾されない、薬剤組成物。
【請求項21】
LNF−I基、2’FL基、LDFH−I基およびLDFT基または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される少なくとも2つの異なる基を含む、グリカン、糖脂質、糖タンパク質、グリコサミノグリカンまたはムチンを含む、合成栄養組成物。
【請求項22】
該分子は、LNF−I基、2’FL基、LDFH−I基およびLDFT基または、還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される少なくとも3つの異なる基を含む、請求項21に記載の合成栄養組成物。
【請求項23】
該分子は、少なくとも2つの異なる基のそれぞれの複数コピーを含む、請求項21または22のいずれかに記載の合成栄養組成物。
【請求項24】
該分子は、少なくとも2つの異なる基のそれぞれの、少なくとも2個のコピーを含む、請求項21〜23のいずれかに記載の合成栄養組成物。
【請求項25】
該分子は、少なくとも2つの異なる基のそれぞれの、少なくとも5個のコピーを含む、請求項21〜24のいずれかに記載の合成栄養組成物。
【請求項26】
該分子は、少なくとも2つの異なる基のそれぞれの、少なくとも10個のコピーを含む、請求項21〜25のいずれかに記載の合成栄養組成物。
【請求項27】
該分子は、少なくとも2つの異なる基のそれぞれの、少なくとも20個のコピーを含む、請求項21〜26のいずれかに記載の合成栄養組成物。
【請求項28】
ラクト−N−フコペンタオースI基、ラクト−N−フコペンタオースII基、2−フコシルラクトース基、3−フコシルラクトース基、ラクト−N−フコペンタオースII基、ラクト−N−ジフコヘキサオースI基、およびラクトジフコテトラオース基または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含む、合成栄養組成物。
【請求項29】
ラクト−N−フコペンタオースI基、ラクト−N−フコペンタオースII基、2−フコシルラクトース基、3−フコシルラクトース基、ラクト−N−フコペンタオースII基、ラクト−N−ジフコヘキサオースI基、およびラクトジフコテトラオース基または還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される少なくとも2つの基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含む、合成栄養組成物。
【請求項30】
ラクト−N−フコペンタオースI;
ラクト−N−フコペンタオースII;
3’−フコシルラクトース;
ラクト−N−フコペンタオースII;
ラクト−N−ジフコヘキサオースI;
ラクトジフコテトラオース;
ラクトN−テトラオース;
ラクトN−ネオテトラオース;
3’−シアリルラクトース;
3’−シアリルラクトサミン;
6’−シアリルラクトース;
6’−シアリルラクトサミン;
シアリルラクト−N−ネオテトラオースc;
モノシアリルラクト−N−ヘキサオース;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;
モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースI;
モノシアリルラクト−N−ネオヘキサオースII
ジシアリルラクト−N−ネオヘキサオース
ジシアリルラクト−N−テトラオース;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースII;
シアリルラクト−N−テトラオースa;
ジシアリルラクト−N−ヘキサオースI;
シアリルラクト−N−テトラオースb;
3’−シアリル−3−フコシルラクトース;
ジシアロモノフコシルラクト−N−ネオヘキサオース;
モノフコシルモノシアリルラクト−N−オクタオース(シアリル Lea);
シアリルラクト−N−フコヘキサオースII;
ジシアリルラクト−N−フコペンタオースII;および
モノフコシルジシアリルラクト−N−テトラオースまたは、還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される少なくとも2つの基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含み、この際、少なくとも該基は、同一または異なるものである合成栄養組成物。
【請求項31】
該タンパク質は、少なくとも2つの異なる基を含むように修飾される、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
食用脂、ビタミン、植物性タンパク質または動物性タンパク質をさらに含む、請求項21〜29のいずれかに記載の栄養組成物。
【請求項33】
請求項1〜32のいずれかに記載の組成物、ただし、前記組成物は、哺乳類のミルクではない、を投与することを含む、感染症を治療するまたは感染症の危険性を減少させる方法。
【請求項34】
該組成物は、2’FLまたは2’FLNacを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
該分子は、2’FLおよび/または2’FLNAcが直接的または間接的に共有結合しているタンパク質を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
該感染症は、V.コレラまたはC.ジェジュニによって引き起こされる、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
該感染症は、腸感染症である、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
該方法は:
(a)患者の地理的な位置において、腸疾患を引き起こしうる2つの最も一般的な薬剤を特定すること;
(b)2つの最も一般的な薬剤の第一のグリカンの上皮細胞への結合を阻害する第一のグリカン;および最も一般的な薬剤の第二のグリカンへの上皮細胞への結合を阻害する第二のグリカン、を含む分子を含む組成物;但し、組成物は、母乳ではない、を患者に投与することを含む、患者における腸疾患の危険性を減少させる方法。
【請求項39】
該方法は:
(a)患者の地理的な位置において、腸疾患を引き起こしうる2つの最も一般的な薬剤を特定すること;
(b)i)2つの最も有力な薬剤の第一の分子の上皮細胞への結合を阻害する第一のグリカンを含む第一の分子;
およびii)最も一般的な薬剤の第二の分子の上皮細胞への結合を阻害することを含む第二の分子グリカンを含む組成物;但し、組成物は、母乳ではない、を患者に投与することを含む、患者における腸疾患の危険性を減少させる方法。
【請求項40】
GDP−マンノース4,6脱水素酵素をエンコードするヌクレオチド配列およびGDP−L−フコース合成酵素をエンコードするヌクレオチド配列を含む組み換えベクターを有する酵母細胞。
【請求項41】
GDP−マンノース4,6脱水素酵素は、H.ピロリGDP−マンノース4,6脱水素酵素である、請求項40に記載の酵母細胞。
【請求項42】
GDP−L−フコース合成酵素は、H.ピロリGDP−L−フコース合成酵素である請求項40または41に記載の酵母細胞。
【請求項43】
該酵母細胞は、GDP−フコース/GMPアンチポーター融合タンパク質をエンコードする核酸分子を有する、請求項40〜42のいずれかに記載の酵母細胞。
【請求項44】
該融合タンパク質は、ゴルジ膜局在配列を含む、請求項43に記載の酵母細胞。
【請求項45】
ゴルジ膜局在配列は、Vrg4p由来である請求項43に記載の酵母細胞。
【請求項46】
少なくとも第1の部分および第2の部分を含むものであって、第1の部分は、GDP−フコース/GMPアンチポーターの活性ドメインを含み、第2の部分は、ゴルジ体局在配列を含む、融合タンパク質をエンコードする単離された核酸分子。
【請求項47】
該ゴルジ体局在配列は、酵母ゴルジ体局在配列である、請求項46に記載の単離された核酸分子。
【請求項48】
請求項46に記載の単離された核酸分子を有する酵母。
【請求項49】
フコシル転移酵素またはガラクトシル転移酵素をエンコードする核酸分子をさらに有する、請求項48に記載の酵母。
【請求項50】
該フコシル転移酵素は、
ヒトフコシル転移酵素1(ガラクトシド2−α−L−フコシル転移酵素、Bombay表現型が含まれる)(FUT1);
ヒトフコシル転移酵素2(分泌状態が含まれる)(FUT2);
ヒトフコシル転移酵素3(ガラクトシド3(4)−L−フコシル転移酵素、ルイス血液型が含まれる)(FUT3);
ヒトフコシル転移酵素4(α(1,3)フコシル転移酵素、脊髄に特異的)(FUT4);
ヒトフコシル転移酵素5(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT5);
ヒトフコシル転移酵素6(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT6);
ヒトフコシル転移酵素7(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT7);
ヒトフコシル転移酵素8(α(1,6)フコシル転移酵素)(FUT8);
ヒトフコシル転移酵素9(α(1,3)フコシル転移酵素)(FUT9);およびヒトタンパク質o−フコシル転移酵素(POFUT1):から選択される、請求項49に記載の酵母。
【請求項51】
LNT、LNneoTまたは還元性の末端位のGlcがGlcNAcによって置換されたその変異体、から選択される少なくとも2つの異なる基を含むように修飾される精製されたタンパク質を含む薬剤組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【公表番号】特表2007−525487(P2007−525487A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542875(P2006−542875)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/040882
【国際公開番号】WO2005/055944
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【出願人】(505231659)ユニバーシティ オブ マサチューセッツ (23)
【出願人】(506189087)インスティテュート ナショナル ダ シエンシャス メディカス ワイ ニュウトリション (1)
【Fターム(参考)】