説明

オルガノシリコーンゴム組成物及びオルガノシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体

【課題】シリコーンゴム組成物とフロロシリコーンゴム組成物との接着性に優れたオルガノシリコーン組成物、並びに該オルガノシリコーンゴム組成物の硬化物からなるオルガノシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体(積層構造物)を提供する。
【解決手段】(A)下記平均組成式(1)、RaSiO(4-a)/2(1)、(式中、Rは互いに同一又は異種の非置換又はシアノ置換の1価炭化水素基であり、aは1.90〜2.05の正数である。)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、(B)シリカ系充填剤:2〜100質量部、(C)フルオロアルキル基及びハイドロジェン基を有するシロキサン単位をそれぞれ1分子中に少なくとも1個有する特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.01〜30質量部、(D)有機過酸化物加硫剤:触媒量、を含有してなることを特徴とするオルガノシリコーンゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素原子に結合する1価炭化水素基として、フッ素置換炭化水素基(フロロカーボン)を分子中に含有しない非フッ素系のオルガノポリシロキサンをベースポリマーとするシリコーンゴム組成物(即ち、フロロカーボンを含有しないベースポリマーからなる非フッ素系のシリコーンゴム組成物)に関するものであり、特にフロロシリコーンゴムとの接着に優れるジメチルシリコーンゴム等のシリコーンゴムを与えるシリコーンゴム組成物、及び該シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体に関する。
【0002】
なお、フロロシリコーンゴム組成物及びその硬化物(フロロシリコーンゴム)と区別するために、フッ素置換炭化水素基(フロロカーボン)を含有しない非フッ素系のオルガノポリシロキサンをベースポリマーとして使用するシリコーンゴム組成物及びその硬化物(シリコーンゴム)を、以下、「オルガノシリコーンゴム組成物」又は「オルガノシリコーンゴム」と記載する。
【背景技術】
【0003】
フロロシリコーンゴム(即ち、主鎖を構成する2官能性ジオルガノシロキサン単位が3,3,3−トリフルオロプロピルメチルシロキサン単位の繰返しからなるフロロシリコーンをベースポリマーとするゴム状硬化物)は、耐熱性、耐寒性、耐油性、耐燃料油性、圧縮復元性等に優れており、自動車、航空機等の輸送機部品や石油海運機器部品として広く使用されている。自動車用、特にターボホース用材として使用される場合に、ジメチルシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムの2層構造で成形される事例がある。ホース内層側は、特に耐油性が要求されるためフロロシリコーンゴムが選択され、一方ホース外層側はジメチルシリコーンゴムの持つ高反撥性、耐しごき性がフロロシリコーンゴムよりも優れており、ホース材全体としてジメチルシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムの2層構造となる。しかしながら、両ポリマーの相溶性の違いにより、フロロシリコーンゴム組成物とジメチルシリコーンゴム組成物を積層して加硫しても界面での接着具合は非常に悪く、剥離しやすいことが予見される。
【0004】
この場合、特開2006−328303号公報(特許文献1)では、下記式(8)
【化1】

(式中、R4は炭素数2〜8の非置換又は置換の1価脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数1〜8の非置換の1価脂肪族飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基又は水酸基を示し、xは0〜2の整数、m,nは互いに独立な正数である。)
で示されるようなシロキサンをジメチルシリコーンゴム組成物あるいはフロロシリコーンゴム組成物に添加することで接着性を持たせることが推奨されている。しかし、この方法では上記シロキサンを比較的大量に添加することが必要であるため、最終的にゴム自身が目的とする物理的強度や伸びを得られないことがある。
【0005】
特開2008−156564号公報(特許文献2)では、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有したジメチルシリコーンゴム組成物とフッ素ゴム組成物の共加硫を提案しているが、これはジメチルシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの接着ではない。またこの公報中で推奨されているメチル基を主にもっているオルガノハイドロジェンポリシロキサンをジメチルシリコーンゴム組成物に添加しても、フロロシリコーンゴムとの接着で十分な効果は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−328303号公報
【特許文献2】特開2008−156564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ジメチルシリコーンゴム組成物等のシリコーンゴム組成物とフロロシリコーンゴム組成物を積層して加硫した場合に、フロロシリコーンゴム界面との接着に優れたシリコーンゴムを与えるオルガノシリコーンゴム組成物、並びに該オルガノシリコーンゴム組成物の硬化物からなるジメチルシリコーンゴム等のオルガノシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体(積層構造物)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、分子内にトリフロロプロピル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン0.1〜30質量部をジメチルシリコーンゴム組成物等のオルガノシリコーンゴム組成物に添加することで、該オルガノシリコーンゴム組成物をフロロシリコーンゴム組成物と共加硫する場合に界面での接着に優れることを見出した。この場合、フロロシリコーンゴム組成物を硬化させてなる成形物が、自動車用、特にターボホース用材として使用される場合に、ジメチルシリコーンゴム等のオルガノシリコーンゴム層とフロロシリコーンゴム層との2層構造で成形されることがあり、そのオルガノシリコーンゴム層/フロロシリコーンゴム層の界面において非常に剥離しにくく、フロロシリコーンゴムとの接着に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は下記オルガノシリコーンゴム組成物、及び該オルガノシリコーンゴム組成物の硬化物からなるオルガノシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体、更にその製造方法を提供する。
<1> (A)下記平均組成式(1)
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは互いに同一又は異種の非置換又はシアノ置換の1価炭化水素基であり、aは1.90〜2.05の正数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)シリカ系充填剤:2〜100質量部、
(C)下記式(2)及び(3)
【化2】

で示されるシロキサン単位をそれぞれ1分子中に少なくとも1個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.01〜30質量部、
(D)有機過酸化物加硫剤:触媒量
を含有してなることを特徴とするオルガノシリコーンゴム組成物。
<2> 平均組成式(1)のRが炭素数1〜10の、アルキル基、アルケニル基又はアリール基である<1>記載のオルガノシリコーンゴム組成物。
<3> (C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、下記式(4)、(5)又は(6)
【化3】

で表されるシロキサン単位を1分子中に少なくとも1個有することを特徴とする<1>又は<2>記載のオルガノシリコーンゴム組成物。
<4> (C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、下記式(7)
【化4】

で表されるシロキサン単位を1分子中に少なくとも1個有することを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載のオルガノシリコーンゴム組成物。
<5> <1>〜<4>のいずれかに記載のオルガノシリコーンゴム組成物の硬化物であるシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体。
<6> フロロシリコーンゴムが、2官能性ジオルガノシロキサン単位としてトリフルオロプロピルメチルシロキサン単位とビニルメチルシロキサン単位の繰り返しからなるアルケニル基含有メチルトリフルオロプロピルポリシロキサンとシリカ系充填剤と上記ポリシロキサンの硬化剤とを含有してなるフロロシリコーンゴム組成物の硬化物である<5>記載のシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体。
<7> <1>〜<4>のいずれかに記載のオルガノシリコーンゴム組成物と、<6>記載のフロロシリコーンゴム組成物とを積層し、スチーム加硫もしくは常圧熱気加硫又はプレス加硫により上記両組成物をそれぞれ硬化することを特徴とするシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオルガノシリコーンゴム組成物の硬化物は、プレス加硫、更にスチーム加硫、常圧熱気加硫のような成形時の圧力が低い場合においても、フロロシリコーン界面との接着に優れるため、自動車用、特にフロロシリコーンゴムと2層構造で成形されるターボホース用材として使用することができる。また、フロロシリコーンゴム組成物との相溶性が、通常のオルガノシリコーンゴム組成物よりも優れているため、フロロシリコーンゴム組成物とのブレンドにも、層間剥離を発生することなく使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(1)
aSiO(4-a)/2 (1)
で表される、ケイ素原子に結合する1価炭化水素基Rとして、フッ素置換炭化水素基(フロロカーボン)を分子中に含有しない非フッ素系のオルガノポリシロキサンである。ここで、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をシアノ基で置換した、シアノエチル基等から選択される同一又は異種の好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜8の非置換又はシアノ置換の1価炭化水素基である。この場合、Rは脂肪族不飽和基(アルケニル基)を少なくとも2個有していることが好ましく、R中の脂肪族不飽和基(アルケニル基)の含有量は0.001〜20モル%、特に0.025〜5モル%であることが好ましい。また、全R基の80モル%以上(80〜99.999モル%)、特に95モル%以上(95〜99.975モル%)、とりわけアルケニル基以外の全てのR基がアルキル基、特にメチル基であることが望ましい。また、aは1.90〜2.05、好ましくは1.95〜2.02の正数である。
【0012】
また、このオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が10,000mPa・s以上のものが好ましい。より好ましくは100,000〜100,000,000mPa・sであり、特に好ましいのは、該粘度の下限が1,000,000mPa・s以上、とりわけ10,000,000mPa・s以上であり、室温(25℃)において自己流動性のない、いわゆる生ゴム状である。なお、本発明における粘度は、例えば、回転粘度計(BL型、BH型、BS型コーンプレート型等)により測定することができる。
【0013】
(A)成分の重合度(即ち、主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位の数又は分子中のケイ素原子の数)は、重量平均重合度として、500以上であることが好ましく、より好ましくは1,000以上である。重合度の上限は、特に制限されないが、重量平均重合度として、例えば100,000以下、好ましくは10,000以下程度であればよい。なお、重量平均重合度は、例えば、トルエンを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算値から計算して求めることができる。
【0014】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰返しからなり、分子鎖両末端がシラノール基(即ち、ヒドロキシジオルガノシロキシ基中の水酸基)、又はトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが一般的である。
【0015】
(A)成分の具体例としては、
分子鎖両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、
分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、
分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、
分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、
分子鎖両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、
分子鎖両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、
分子鎖両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体
等が挙げられる。
【0016】
(B)成分のシリカ系充填剤は、機械的強度の優れたシリコーンゴムコンパウンドを得るために必須とされるもの(補強性充填剤)であるが、この目的のためにはBET比表面積が50m2/g以上、好ましくは100〜400m2/gである。このシリカ系充填剤としては煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ又は乾式シリカ)、焼成シリカ、沈殿シリカ(湿式シリカ)が例示される。また、これらの表面をオルガノポリシロキサン、オルガノポリシラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等で疎水化処理してもよい。これらのシリカは単独でも2種以上併用してもよい。なお、このシリカ系充填剤の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対し2質量部未満では少なすぎて十分な補強効果が得られず、100質量部より多くすると加工性が悪くなり、また、得られるシリコーンゴムの物理特性が低下するので、2〜100質量部、好ましくは5〜60質量部である。
【0017】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、本発明のオルガノシリコーンゴム組成物を硬化して得られるオルガノシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの界面(即ち、主鎖を構成する2官能性ジオルガノシロキサン単位が3,3,3−トリフルオロプロピルメチルシロキサン単位の繰返しからなるフロロシリコーンをベースポリマーとするゴム状硬化物)の接着性を発現させるために最も重要な成分であり、下記式(2)及び(3)で示されるユニット(2官能性シロキサン単位)をそれぞれ1分子中に少なくとも1個、好ましくはそれぞれ2個以上(例えば、2〜100個)、より好ましくは3〜50個程度含有するものである。
【0018】
【化5】

【0019】
上記式(2)で示されるシロキサン単位(メチルトリフロロプロピルシロキサン単位)はフロロシリコーンとの親和性を高め、式(3)で示されるシロキサン単位(メチルハイドロジェンシロキサン単位)はジメチルシリコーンとの親和性を高めるのに作用する。従って(C)成分をオルガノシリコーンゴム組成物中に添加することにより、該シリコーンゴムの界面に優先的に下記式(2)
【化6】

で示される部分が存在するため、オルガノシリコーンゴム界面においてフロロシリコーンゴムとの親和性が大きくなる。特にプレス加硫等、ある一定圧を成形時にかけられる成形方法では、界面が共加硫することで強密着となり、界面での剥離は起こりにくくなる。しかしながら、ホース材を成形するには、スチーム加硫、常圧熱気加硫の方が適しているため、本物質はこのような成形時の圧力が低い場合にも、界面での剥離を起こりにくくさせ、より効果的である。分子の大きさは25℃における粘度が2,000mPa・s以下となるものが好ましい。これより大きくなると、コンパウンドに添加した場合の分散性が悪くなったり、表面に優先的に一方の官能基を有した部分が存在しなくなることで、界面の接着性に効果を発現しにくくなる。
【0020】
式(2)で示されるトリフロロプロピル基含有シロキサン単位の分子中のモル%(即ち、分子中の全シロキサン単位に対する比率、以下同様)は好ましくは1〜90モル%、より好ましくは5〜80モル%である。1モル%未満では接着性に効果が出にくくなるおそれがあり、また90モル%を超えても接着性が出にくくなるおそれがある。また式(3)で示されるハイドロジェンシロキサン単位の分子中のモル%は好ましくは1〜90モル%、より好ましくは5〜80モル%である。これも1モル%未満では接着性に効果が出にくくなるおそれがあり、また90モル%を超えても接着性が出にくくなるおそれがある。更に、接着性を向上させる手段として、下記式(4)、(5)又は(6)の1官能性シロキサン単位(ビニルジメチルシロキシ単位、ジビニルメチルシロキシ単位又はトリビニルシロキシ単位)、あるいは下記式(7)の2官能性シロキサン単位(ビニルメチルシロキサン単位)を分子中に導入し、所定量のビニル基を含有させることも、接着性を向上させる上で有効である。なお、下記式(7)のシロキサン単位の含有量は0〜20モル%、特に0〜10モル%であることが好ましい。
【0021】
【化7】

【0022】
このビニル基は、オルガノシリコーンゴムあるいはフロロシリコーンゴムの架橋の中に取り込まれることでより接着性を高める。
【0023】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、代表的には、分子鎖両末端が、トリメチルシロキシ基、ビニルジメチルシロキシ基、ジビニルメチルシロキシ基、トリビニルシロキシ基等のトリオルガノシロキシ基で封鎖され、2官能性シロキサン単位の繰返しから構成される主鎖部分が、メチルトリフロロプロピルシロキサン単位とメチルハイドロジェンシロキサン単位との組合せ、あるいは、メチルトリフロロプロピルシロキサン単位とメチルハイドロジェンシロキサン単位とビニルメチルシロキサン単位との組合せからなる、直鎖状のシロキサン共重合体が挙げられる。また、これらのシロキサン共重合体は、1分子中のケイ素原子数(又は重合度)が4〜200個、好ましくは8〜100個、より好ましくは15〜100個、更に好ましくは20〜50個程度のものであれば好適に使用できる。
【0024】
なお、(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンはフロロシリコーンゴム組成物側にも添加することで、更にオルガノシリコーンゴム/フロロシリコーンゴムの接着力を高めることが可能になる。
【0025】
(D)成分の有機過酸化物加硫剤は、上記フロロシリコーンゴム組成物成分に添加して常法により加硫硬化させることで硬化物を与える。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーベンゾエート、オルトメチルベンゾイルパーオキサイド、パラメチルベンゾイルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)へキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)へキシン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合せて用いてもよい。上記有機過酸化物の配合量は、上記フロロシリコーンゴム組成物100質量部に対して、0.1〜5質量部とすることが好ましい。
【0026】
本発明のオルガノシリコーンゴム組成物には、必要に応じて粉砕石英、珪藻土等の非補強性シリカ、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、炭酸カルシウム等の充填剤、着色剤、耐熱向上剤、難燃性向上剤、受酸剤、熱伝導向上剤等の添加剤や離型剤、アルコキシシラン、ジフェニルシランジオール、カーボンファンクショナルシラン、両末端シラノール封鎖低分子シロキサン等の分散剤などを添加してもよい。
【0027】
更に、本発明では、ビニル基等のアルケニル基、アクリロキシ基(3−アクリロキシプロピル基等)、メタクリロキシ基(3−メタクリロキシプロピル基等)、3−アミノプロピル基、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピル基、エポキシ基(3−グリシドキシプロピル基、2−(2,3−エポキシシクロヘキシル)エチル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等)などの、従来から接着性向上に有効とされる官能基を持った公知のアルコキシシラン及び/又はその加水分解物を添加してもよい。
【0028】
本発明のオルガノシリコーンゴム成形物を得るためのオルガノシリコーンゴム組成物は、上記した成分を2本ロール、バンバリーミキサー、ドューミキサー(ニーダー)等のゴム混練り機を用いて均一に混合することにより得ることができる。
【0029】
オルガノシリコーンゴム組成物の成形方法に特に制限はなく、圧縮成形、移送成形、射出成形、押出成形、カレンダー成形等の一般のゴム成形法に準じて所望の形状に成形でき、O−リング、ダイヤフラム、パッキン、ガスケット等のゴム成形品とすることができる。この場合、本発明の目的とする成形方法には、押出成形やカレンダー成形による、スチーム加硫、常圧熱気加硫のような加硫方法が適している。また、必要に応じ、180〜250℃で1〜10時間程度二次加硫してもよい。
【0030】
この場合、本発明のオルガノシリコーンゴム組成物は、フロロシリコーンゴム組成物を積層して加硫した場合に、フロロシリコーンゴムと良好な接着を与えるオルガノシリコーンゴムを形成することができ、従って、オルガノシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層構造物の形成に好適に用いられる。
【0031】
ここで、フロロシリコーンゴム組成物としては、2官能性ジオルガノシロキサン単位としてトリフルオロプロピルメチルシロキサン単位とビニルメチルシロキサン単位の繰り返しからなるアルケニル基含有メチルトリフルオロプロピルポリシロキサンとシリカ系充填剤と上記ポリシロキサンの硬化剤とを含有してなるフロロシリコーンゴム組成物を用いることができ、例えば、主鎖を構成する2官能性ジオルガノシロキサン単位として少量のビニルメチルシロキサン単位を含有するトリフルオロプロピルメチルシロキサン単位の繰返しからなり、分子鎖両末端がシラノール基又はトリオルガノシロキシ基で封鎖されたアルケニル基含有メチルトリフルオロプロピルポリシロキサンを主剤(ベースポリマー)とし、シリカ系無機質充填剤(補強性充填剤)、有機過酸化物(硬化触媒)を含有する有機過酸化物硬化型フロロシリコーンゴム組成物、上記と同様のアルケニル基含有メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン(ベースポリマー)、シリカ系無機質充填剤(補強性充填剤)、メチルハイドロジェンポリシロキサン等のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(架橋剤)、白金族金属触媒(ヒドロシリル化触媒)を含有する付加反応硬化型フロロシリコーンゴム組成物等を挙げることができ、本発明のオルガノシリコーンゴム組成物と積層して加硫する場合、特に有機過酸化物硬化型フロロシリコーンゴム組成物が有効である。
【0032】
また、オルガノシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層構造物(積層体)を得る方法としては、例えば、未硬化の(生ゴム状)オルガノシリコーンゴム組成物、未硬化の(生ゴム状)フロロシリコーンゴム組成物をそれぞれカレンダーロールにてシート状に分出しし、次いでマンドレルに積層して巻きつけ、スチーム加硫あるいは常圧熱気加硫(HAV)する方法が挙げられる。また、別法として、成形用の型内に上記組成物を積層して仕込み(充填し)、これを圧縮成形することもできる。加硫条件は、スチーム加硫の場合、100〜200℃で10分〜2時間、常圧熱気加硫(HAV)の場合、150〜500℃で10秒〜1時間、圧縮成形の場合、100〜200℃で1分〜1時間程度とすることができる。
【0033】
なお、オルガノシリコーンゴム層、フロロシリコーンゴム層の厚さは、いずれも特に制限されるものではなく、積層構造物の用途に応じて適宜、任意の厚さを採用し得るものであるが、通常、それぞれの層を0.1〜10cmの範囲の厚さとすることが一般的である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0035】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
まず、ベースコンパウンドを下記方法で作製した。
ベースコンパウンドA
(CH32SiO2/2単位99.85モル%、(CH3)(CH2=CH)SiO2/2単位0.15モル%からなり、分子鎖末端が(CH2=CH)(CH32SiO1/2単位で封鎖された重合度が約7,000のメチルビニルポリシロキサン生ゴムを使用した。このメチルビニルポリシロキサン生ゴムを100質量部、乾式シリカA(日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル200)40質量部、及び分散剤として分子鎖末端に水酸基を含有するジメチルポリシロキサン(重合度10)10質量部を加えて均一に混練りし、150℃で2時間熱処理した後、2本ロールで釈解、可塑化し、ベースコンパウンドAを得た。
【0036】
ベースコンパウンドB
(CH32SiO2/2単位99.80モル%、(CH3)(CH2=CH)SiO2/2単位0.20モル%からなり、分子鎖末端が(CH2=CH)(CH32SiO1/2単位で封鎖された重合度が約7,000のメチルビニルポリシロキサン生ゴムを使用した。このメチルビニルポリシロキサン生ゴムを100質量部、乾式シリカA(日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル200)45質量部、及び分散剤として分子鎖末端に水酸基を含有するジメチルポリシロキサン(重合度10)12質量部を加えて均一に混練りし、150℃で2時間熱処理した後、2本ロールで釈解、可塑化し、ベースコンパウンドBを得た。
【0037】
次に、上記ベースコンパウンドA,Bに、下記に示す各種オルガノ(ハイドロジェン)ポリシロキサンを表1、表2に示す量において2本ロールで配合した。
【0038】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン1
【化8】

【0039】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン2
【化9】

【0040】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン3
【化10】

【0041】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン4
【化11】

【0042】
オルガノポリシロキサン5
【化12】

【0043】
これらの配合物について、初期物性及び接着性の試験を下記方法で行った。
初期物性
上記コンパウンド100質量部に2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)へキサン80質量%含有ペースト0.5質量部を2本ロールで配合してオルガノシリコーンゴム組成物を調製した。物性測定用として165℃で10分間の加圧成形を行った後、200℃で4時間ポストキュアーし、2mm厚のシートを作製した。測定方法はJIS K6249に準じた。
【0044】
接着性試験
下記方法で上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンを配合した配合物に加硫剤を配合し、これを2本ロールにて1.0〜1.2mm厚、25mm×175mmの短冊状に分出ししたオルガノシリコーンゴム組成物の上に、0.2mm厚、25mm×90mmのテフロン(登録商標、ポリテトラフルオロエチレン樹脂)製シートを一方の端部を揃えて置き、更に1.0〜1.2mm厚、25mm×175mmの短冊状に分出しした下記フロロシリコーンゴム組成物をおいた。これを表1、表2に示した成形条件においてプレス加硫を行い、オルガノシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの2層構造の積層体(試験片)を得た。得られた試験片は、シートを介した部分がオルガノシリコーンゴム層とフロロシリコーンゴム層に分かれているので、オルガノシリコーンゴム部とフロロシリコーンゴム部を固定し、両方向に50mm/minの定速で引っ張った時の強度を接着力とした。
【0045】
加硫剤の配合は、オルガノシリコーンコンパウンド100質量部に対し、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)へキサン80質量%含有ペーストを0.5質量部の割合で用い、これを2本ロールで配合した。
【0046】
(フロロシリコーンゴム組成物)
ベースコンパウンドC
主鎖の2官能性ジオルガノシロキサン単位がメチルトリフロロプロピルシロキサン単位:99.88モル%、メチルビニルシロキサン単位:0.12モル%からなり分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、ビニル基含有シロキサン単位の含有量が約0.15モル%の、平均重合度が約5,000である生ゴム状のビニル基含有メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン100質量部に、分散剤として分子鎖末端に水酸基を含有するメチルトリフルオロプロピルポリシロキサン(重合度5)5質量部、充填剤として乾式シリカ(日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル200)30質量部を添加し、150℃で2時間熱処理して、ベースコンパウンドCを得た。
加硫剤の配合は、このコンパウンドC100質量部に対し2,5−ジメチル−2,5−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)へキサン80質量%含有ペースト0.8質量部を2本ロールで配合し、フロロシリコーンゴム組成物を得た。
【0047】
なお、実施例5、比較例5ではこのコンパウンドCに対して、オルガノハイドロジェンシロキサン3をそれぞれ1.0質量部、上記加硫剤と共に添加した(表3)。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
表1、表2、表3中、剥離の様子:○は一部凝集破壊、◎は全部凝集破壊(○及び◎のいずれも接着性良好)、×は界面剥離(接着性不良)を示す。
【0052】
表1、表2、表3の結果より、本発明のオルガノシリコーンゴム組成物は、フロロシリコーンゴム組成物と共加硫する際に、同一成形条件において本発明の(C)成分を全く含まないオルガノシリコーンゴム組成物と比較した場合の2倍以上の接着力となり、フロロシリコーンゴムとの界面における接着性が良好なオルガノシリコーンゴムを与えるオルガノシリコーンゴム組成物を提供できることが確認された。
【0053】
本発明のオルガノシリコーンゴム組成物の硬化物は、スチーム加硫、常圧熱気加硫のような成形時の圧力が低い場合でも、ジメチルシリコーン界面との接着に優れるため、ジメチルシリコーンゴムと2層構造で成形されるターボホース用材として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは互いに同一又は異種の非置換又はシアノ置換の1価炭化水素基であり、aは1.90〜2.05の正数である。)
で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)シリカ系充填剤:2〜100質量部、
(C)下記式(2)及び(3)
【化1】

で示されるシロキサン単位をそれぞれ1分子中に少なくとも1個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.01〜30質量部、
(D)有機過酸化物加硫剤:触媒量
を含有してなることを特徴とするオルガノシリコーンゴム組成物。
【請求項2】
平均組成式(1)のRが炭素数1〜10の、アルキル基、アルケニル基又はアリール基である請求項1記載のオルガノシリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、下記式(4)、(5)又は(6)
【化2】

で表されるシロキサン単位を1分子中に少なくとも1個有することを特徴とする請求項1又は2記載のオルガノシリコーンゴム組成物。
【請求項4】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、下記式(7)
【化3】

で表されるシロキサン単位を1分子中に少なくとも1個有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のオルガノシリコーンゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のオルガノシリコーンゴム組成物の硬化物であるシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体。
【請求項6】
フロロシリコーンゴムが、2官能性ジオルガノシロキサン単位としてトリフルオロプロピルメチルシロキサン単位とビニルメチルシロキサン単位の繰り返しからなるアルケニル基含有メチルトリフルオロプロピルポリシロキサンとシリカ系充填剤と上記ポリシロキサンの硬化剤とを含有してなるフロロシリコーンゴム組成物の硬化物である請求項5記載のシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載のオルガノシリコーンゴム組成物と、請求項6記載のフロロシリコーンゴム組成物とを積層し、スチーム加硫もしくは常圧熱気加硫又はプレス加硫により上記両組成物をそれぞれ硬化することを特徴とするシリコーンゴムとフロロシリコーンゴムとの積層体の製造方法。

【公開番号】特開2013−103963(P2013−103963A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247527(P2011−247527)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】