説明

オーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム

【課題】従来のフローティング方式、硬質材料方式、いずれのタイプのインシュレータも、「オーディオ機器自身が有する振動加振源により、オーディオ機器本体が振動する」ことに起因する音響特性上の不具合(ブーミー現象の発生、ステレオ音像の定位感の低下など)を解消すると共に、アクティブ制御の制振効果、除振効果により音響特性の大幅な向上を図る。
【解決手段】オーディオ機器を支持する荷重支持部10と基礎の間に設けられたアクチュエータ24と、前記オーディオ機器の変位及び又は振動状態を検出するセンサ31から構成され、前記オーディオ機器自身が有する振動加振源によって発生する前記オーディオ機器自身の振動を抑制するように、前記センサからの情報に基づいて前記振動をアクティブ制振制御する制御装置から構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーディオ機器であるスピ−カー等に用いられるインシュレータ、及びこのインシュレータを用いたオーディオ・システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオの分野においては、原音に限りなく近い音の追及が、オーディオ機器である、アンプ、スピーカー、CDプレイヤー、ケーブルなどの各コンポーネンツにおいてなされてきた。アナログからデジタル主体の時代に移行し、様々な革新的技術が投入されたにもかかわらず、録音から再生に至る過程の技術にはまだ限界があって、人間の聴覚が知覚する程には、原音を忠実に再現できないのが現状である。オーディオ機器が原音(たとえばオーケストラの生演奏の音)に追従できない要因の一つに、振動がオーディオ機器に与える影響がある。周知のように、オーディオ機器は自ら振動を発生するとともに、外部から様々な振動の影響を受けている。アンプの場合は電源トランスの交流基本信号とその高調波成分による「うなり」が発生する。CDプレイヤーの場合はディスクを回すモーターが振動源となる。スピーカーの場合、コーンを駆動するボイスコイルの反力がスピーカー・エンクロージャー(箱)本体を振動させる。この振動がスピーカーを設置した床面に伝達され、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。原音に複雑に重畳された外乱振動は、再びスピーカー本体を振動させる。この時発生する混変調歪(サブハーモニクス)がオーディオ機器の音質を劣化させるという仮説が提唱されているが、オーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動が、再生音の品位を低下させる重要な要因であるという点は、間違いのない事実であると思われる。
【0003】
オーディオ機器の音質を改善するものとして、インシュレータがある。アナログ時代、ハウリングを抑止するために、インシュレータは主にアナログプレイヤーと床面との間に設置され、振動の伝達を遮断する手段として必須のものであった。アナログからCDプレイヤーに移行して、インシュレータはハウリング防止対策ではなく、オーディオ機器の音質を改善し、リスナーの好みの音に調整するチューニング手段として用いられるようになった。インシュレータの適用により、音質が変ることは良く知られているが、その効果をもたらすメカニズムについては、理論的に十分解明されているとは言えず、経験的、試行錯誤的に開発されたものが多い。過去、インシュレータとして用いられているものに、次の二つのタイプがある。
【0004】
(1)フローティング方式インシュレータ
このタイプのインシュレータは、振動の遮断(シャットアウト)を目的としたもので、剛性の小さい緩衝体が用いられる。緩衝体として、ゴム材を用いたもの、スプリングコイルを用いるもの、空気を封じ込めたエアーフローティング・ボード、磁力の反発力を利用したものなどがある。
(2)硬質材料によるインシュレータ
インシュレータのもうひとつのタイプは硬質材を用いるものである。近年、前述した緩衝体に代わり、オーディオ機器が発生する振動を効果的に吸収し、外部へ逃すことを目的とした硬質材、たとえば、木材、樹脂、金属、水晶、セラミック等を用いたもの、及びこれらの素材を多層構造にした複合タイプが考案され商品化されている。この複合タイプについては、特開平10-246284号(特許文献4)に開示されている。硬質インシュレータの場合は、良質な音響素材のキャラクターを利用した再生音のチューニング手段として用いられる。たとえば、
(1)金属系材料
真鍮:キラリとした明るいブリリアントな響き
銅:重厚感があってパワフル
銀:芯のとおりが良く、音の立ち上がり・立ち下がりが素早い
金:ふくよかさで艶やか
(2)木材系材料
アフリカ黒檀:固いが刺激的ではない音(楽器に使用される)
縞黒檀:アフリカ黒檀より柔らかい
桜:柔らかく芳純
【0005】
一方、円錐形状のスパイクは、「円柱→円錐→円錐の頂点→床面」の方向には振動が伝達され易く、その逆方向には伝達されにくい効果を利用したもので、スピーカーの設置に多用されている。たとえば、複数個のスパイクを直列に配置した構造が特許第3848987号(特許文献1)に開示されている。
【0006】
図53に示すダブルスパイク構造の振動防止支持装置は、スパイク受け650 と、第1のスパイク651と、第2のスパイク652と、スパイク受け650 に入れられた液体653とで構成される。第1のスパイク651は円柱部分がスパイク受け650 の円筒の内壁と接するようにスパイク受け650の下端に挿入される。第2のスパイク652は、同様に第1のスパイク651の上面の中心に設けた窪みに円錐部分の頂点を置いている。スパイク受け650と、第1のスパイク651間の狭い隙間654に満たされた液体(シリコンオイル)653は、両部材650、651間の振動を絶縁する効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3848987号
【特許文献2】特開2006-200734号公報
【特許文献3】特許第3625872号
【特許文献4】特開平10-246284号公報
【特許文献5】特開2006-283966号公報
【特許文献6】特開2007-155038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下、オーディオ用インシュレータとして、上述した2つの従来方式が抱える課題を整理すると、次のようである。
(1)フローティング方式インシュレータの課題
上述したゴム製インシュレータの場合は、ゴムの粘弾性による過剰な制振作用により、音に生気を与える高周波数成分まで減衰してしまうため、音の輪郭が曖昧となり、音質に混濁感が生じるという欠点があった。
スプリング方式の場合、ばね剛性と搭載物の質量できまる固有振動、及び、複数の高調波振動が広い周波数領域に渡って発生するため、この振動が音に与える影響をどう回避するかが大きな課題となる。
【0009】
エアーフローティング・ボード、及び、磁力の反発力を利用したインシュレータの場合、オーディオ機器は床面に対して完全非接触で浮上できる。この完全非接触浮上により、音の透明感、立体感、分解能の向上などの効果が注目されている。反面、オーディオ機器から床面に伝達される振動は、インシュレ−タで完全遮断されるために、リスナーの好み、音楽のジャンルなどに合わせた音質のチューニングが硬質材料インシュレータと比べて難しく、音が没個性的になるという欠点があった。また、完全非接触浮上式の場合、適用対象のスピーカーによって、低域の力感・定位感が低下する、低音が引き締まらず空間に浮遊した不自然な感じ(ブーミー)になるという欠点が指摘されている。この現象の理論的究明がなされた報告例はまだ見出していないが、本発明者の研究では、後述するように、インシュレータのばね剛性と搭載物(スピーカー)で決まる固有振動数が小さくなり過ぎるがゆえに発生する、スピーカー本体部の振動に起因すると思われる。
【0010】
(2)硬質材料インシュレータの課題
硬質材料インシュレータの場合は、良質な音響素材の選択により、オーディオ機器が発生した高周波振動を効果的に吸収し、外部へ逃すことができる。しかし、低周波数(たとえば、数十Hz以下)の振動を減衰させることはできない。円錐形状のスパイクの場合、及びこのスパイクを直列に多段に組み合わせた場合も同様である。特許文献1(図53)には、スパイクの円筒面とこの円筒を収納するスパイク受けの間の狭い隙間654に、粘性流体であるシリコンオイル653を封入する方法が開示されている。しかし、この粘性流体による振動減衰作用は周波数に比例するため、低い周波数では振動減衰効果を得るのは困難である。
【0011】
スピーカーが設置される民間住宅の床面は、通常20〜100Hzを固有値とする分布振動モードを持っている。前述したように、スピーカーの振動が床面に伝達されると、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。この低周波の床面振動とスピーカー本体の振動の相互干渉がもたらす音質の劣化は、硬質材料インシュレータでは基本的に回避できない。
【0012】
さらに補足すれば、上記(1)(2)のいずれのタイプのインシュレータも、「オーディオ機器自身が有する振動加振源により、オーディオ機器本体を振動させる」という不具合は回避できない。
【0013】
さて、オーディオ分野から工業用分野に眼を転じて、次の防振装置、除振装置に注目する。
(i)吸振体による防振装置
(ii)アクティブ除振装置
【0014】
上記(i)の分野で従来から使用されている吸振体の一例が特開2006-200734号(特許文献2)に開示されている。この吸振体は、図54 に示すように、荷重担持用の圧縮コイルばね601と、前記圧縮コイルばねの下部に取り付けられる下部ケース602と、前記圧縮コイルばねの上部に取り付けられ、前記圧縮コイルばねの上面および側面を覆う上部ケース603と、前記圧縮コイルばねに接触する粘弾性片を有するサージング防止部材604とで構成されている。振動発生源(たとえば、コンプレッサが内蔵された業務用エアコン室外機)は、上部ケース603上に載置される。前記上部ケース603は耐候性を有する熱可塑性エラストマで形成されており、その下端部が前記下部ケースに係止して前記圧縮コイルばねの上面から側面までが蛇腹状に形成された外囲部605によって密閉されている。そのため、吸振体の内部に収納した圧縮コイルばね601やサージング防止部材604が風雨や紫外線に晒されることはなく、これらの部材が風雨や紫外線によって劣化するのを防止することができる。下部ケース602 は、圧縮コイルばね601 の下端に取り付けられると共に、この吸振体を設置する基礎枠(図示せず) の上部に嵌め合わされる。この下部ケース602 は、耐候性と耐衝撃性とを有する塩ビ系やポリプロピレン系などの樹脂から構成される。
【0015】
工業用分野で用いられる吸振体による防振装置の場合、数Hzから500Hz程度の範囲の機械振動伝達を遮断するだけで実用上十分である場合が多い。吸振体を構成する材料は、前述したように、耐候性と耐衝撃性を有する塩ビ系やポリプロピレン系などの樹脂、熱可塑性エラストマなどが用いられる。工業用分野の防振装置では、高周波振動を音のチューニングに利用するという概念はなく、そのため、音響振動の構造面・材料面での伝搬特性については、なんら配慮されていない。
【0016】
以下、上記(ii)のアクティブ除振装置について説明する。半導体製造プロセス、液晶製造プロセス、精密機械加工などの様々な分野で、微細な振動を遮断・抑制するための振動制御の利用が広がっている。これらのプロセスで用いられる走査型電子顕微鏡、半導体露光装置(ステッパ)などの微細加工・検査装置には、厳しい振動許容条件が要求されるために、装置が搭載された除振台を除振・制振制御するアクティブ除振装置が用いられている。従来から使用されているアクティブ除振装置のモデル図を図55に示す。このアクティブ除振装置は、特許文献5、特許文献6にも記載されている公知のものである。アクティブ除振装置において除去すべき外乱は、設置床の振動に起因する地動外乱と、除振台の上に入力される直動外乱に大別される。床面700には、定盤701を支持するための複数組の空気圧アクチュエータ702a、702bが配置されている。この定盤701の上に精密装置(図示せず)が搭載される。空気圧アクチュエータ702aは、垂直方向の荷重を支持するための、内部に高圧空気が充填された空気室703と、この空気室703の上部にダイヤフラム704を介して内挿されたピストン705から構成される。706、707a、707bは、定盤701の垂直・水平方向の加速度と、床面700に対する定盤701の相対変位をそれぞれ検出するための加速度センサ及び変位センサである。708は、床面700の加速度(基礎の振動状態)を検出する加速度センサである。これら各センサからの出力信号がそれぞれコントローラ709に入力される。空気室703には、配管710を介して、コントローラ709により制御されるサーボ弁711が接続されている。ノズル−フラッパ型の電空変換器であるサーボ弁711により、空気室703へ供給・排気される圧縮空気の流量を調整することで、空気室703の内圧が制御される。
【0017】
しかし、上述したアクティブ除振装置を、オーディオ用インシュレータに適用するという試みは過去に前例を見ない。その理由として、
(1)アクティブ除振装置の場合、前述した吸振体と同様に、数Hzから500Hz程度の範囲の機械振動伝達を制御するだけで実用上十分である場合が多く、数千〜1万Hz以上の音響振動を扱うオーディオ機器とは、取り扱う周波数領域が異なるという認識が前提にある。
(2)除振台に加わる様々な方向からの外乱を考慮する必要がある。そのため、 制御軸数(たとえば6軸制御)と同数のアクチュエータ、センサ、及び制御装置を必要とするため、構成が複雑となりコストが高い。
(3)制御システムの調整作業が複雑で、一般家庭で使用される民生商品のユーザには手に負えない。
などにより、民生商品であるオーディオ機器とは、元来、融合することの無い別分野の技術であるという認識があったと思われる。
【0018】
さて、工業用分野から再びオーディオ分野に眼を転じると、本発明者らは、
オーディオ用インシュレータとして上述した2つの従来方式が抱える課題を解決するインシュレータ(図5参照)を既に提案し出願中である。すなわち、下記(1)(2)の両インシュレータの長所を「同時に併せ持つ」ことができることを特徴とするものである。
(1)フローティング方式インシュレータの長所
可聴域における低周波振動のほぼ完全な遮断作用が得られるため、オーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動の影響を回避でき、音の奥域感、分解能、透明感の向上などの効果が得られる。
(2)硬質材料によるインシュレータの長所
高周波域での響きの親和性を考慮した音響素材を採用することにより、素材が持つキャラクターを利用した再生音のチューニングが図れる。
【0019】
上記(1)(2)の長所を併せ持つための構造として、図5に示すように、
(1)オーディオ機器搭載部→インシュレータ設置面に至る振動伝播経路ΦZにおいて、柔らかいばね剛性と「音響管」として役割を兼ねた弾性部材(線径の太いスプリングコイル)を介在させる。
(2)上記振動伝播経路ΦZから分岐した振動伝播経路ΦRを有し、かつこの振動伝播経路ΦRは概略筒型形状部材で構成する。
【0020】
上記既提案のインシュレータを、たとえばスピーカーに適用した試聴実験の結果、スピーカー本体部の質量とインシュレータのばね剛性で決まる固有値(第1次共振周波数)によって、音響効果(奥域感、分解能、透明感、低音域の力感など)に少なからず優位差が生じることが分かった。詳細は後述するが、
(1)固有値f0を小さくしていくと、奥域感、分解能、透明感がベストとなる固有値f0= f0Aが存在する。
(2)しかし、固有値f0を上記f0Aまで小さくし過ぎると低音域が不自然(ブーミー)になる。すなわち、ブーミー現象が回避できる固有値の下限値f0= f0Bとしたとき、f0B> f0Aである。
(3)逆に固有値f0を大きくし過ぎると、奥域感、分解能、透明感の各評価項目で本インシュレータが持つ長所が低下していく。
【0021】
ここでブーミーとは、オーディオ用語で表現すれば、ぼやけた、輪郭のハッキリしない、だぶついた、もやついた低音のことを指す。経験的には、次のような場合にオーディオ再生音がブーミーになることが知られている。たとえば、スピーカーを設置する床面の剛性が低い場合、再生音はブーミーになる。あるいは、低音の吸音効果が悪く残響時間が長いオーディオルームにおいて、低音域の特定周波数で部屋が不快に響く現象はブーミーであると言われる。カーオーディオ特有のブーミー音は、スピーカーを設置する車体の壁面の剛性が弱いため、共振点近傍でスピーカーのボイスコイルの反力により壁面が逆位相で動くことで、特定の周波数帯域で音がキャンセルされた状態になるのがその理由である。
【0022】
インシュレータの固有値f0が低すぎると低域の力感が低下して、音が不自然(ブーミー)になる理由について、標準的なスピ−カーを対象にして得た本研究の知見は次のようである。スピーカー本体部自身は、ダイナミック型スピーカーの場合、ボイスコイルの反力による振動発生源(加振源)を持っている。たとえば、静電容量型スピーカーも同様に固定側に反力が働く。スピーカー本体部の支持剛性が下がると、スピーカー本体部の最低共振周波数が低下して、ダンピング特性を低下させ、剛体モードによる振動を起しやすくなる。すなわち、奥域感、分解能、透明感などを最適にするインシュレータの支持剛性の値(固有値f0= f0Aに相当)は低いところに存在する場合が多いが、ブーミー現象を回避できる支持剛性の値(固有値f0= f0Bに相当)はより高いところにあり両者は合致できない。
【0023】
以上、既提案インシュレータをスピーカーに適用した場合について説明してきたが、従来式インシュレータも含めて、インシュレータの課題を総括すれば次のようである。フローティング方式、硬質材料方式、いずれのタイプのインシュレータも、(1)オーディオ機器と床面間の振動伝播を遮断する、(2)オーディオ機器から床面間へ伝播する振動を利用して、良質な音響素材の採用により、再生音をチューニングする。上記(1)(2)のいずれかを目的として、既提案の場合は上記(1)(2)を併せ持つことを目的として、構成されたものである。しかし、いずれのインシュレータも「オーディオ機器自身が有する振動加振源により、オーディオ機器本体が振動する」ことに起因する不具合(たとえば、ブーミー現象)は回避できない。また、この不具合が音響特性に与える影響についての研究、及び、この不具合を回避させるための効果的な方策の提案は現段階では見当たらない。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、オーディオ用インシュレータに関する本発明者の研究により、見出された上述した課題に鑑みてなされたものである。フローティング方式、硬質材料方式、いずれのタイプのインシュレータも回避できなかった課題、すなわち、「オーディオ機器自身が有する振動加振源により、オーディオ機器本体が振動する」ことに起因する音響特性上の不具合を解決する方策として、工業用除振器などで用いられているアクティブ制振制御技術に着目したものである。
【0025】
さらに、オーディオ機器とは、元来、融合することの無かった工業分野の技術であるアクティブ制御の概念を導入するために、各軸の振動が音響特性に与える影響を、「有害」「無害」「有益」の観点から考慮して、アクティブ・インシュレータの制御軸数の削減、配置方法、パッシブ・インシュレータと併用する方法などに工夫を施した。その結果、音響特性の飛躍的な向上を図ると共に、制御系、駆動系の大幅な簡素化を図ることができた。
【0026】
具体的に、請求項1の発明は、オーディオ機器を基礎に対して支持する荷重支持部と、この荷重支持部と前記基礎の間に設けられたアクチュエータと、前記オーディオ機器の変位及び又は振動状態を検出するセンサから構成され、前記オーディオ機器自身が有する振動加振源によって発生する前記オーディオ機器自身の振動を抑制するように、前記センサからの情報に基づいて前記オーディオ機器の変位及び又は振動状態をアクティブ制御する制御装置から構成したものである。
【0027】
すなわち、本発明においては、振動発生源を有するオーディオ機器自身の振動がもたらす様々な不具合をアクティブ制振制御により解消すると共に、アクティブ制御の制振効果、除振効果により音響特性の大幅な向上を図ることができる。
【0028】
具体的に、請求項2の発明は、請求項1におけるインシュレータの構成要素を組み合わせて、ユニット化した複数個のインシュレータを構成し、任意のオーディオ機器の外形寸法、及び、重心位置に合わせて、前記各々のインシュレータを配置する位置を選択して前記オーディオ機器を支持したものである。
【0029】
すなわち、本発明においては、アクティブ制振制御ができるインシュレータをユニット化することにより、多種多様な寸法形状を有するオーディオ機器への適用が容易となる。ユニット化する場合、前記制御装置は複数のインシュレータを一箇所で統一して制御できる単独の装置にしてもよく、あるいは、個々のインシュレータ内部に個別に収納する形態でも良い。
【0030】
具体的に、請求項3の発明は、前記アクチュエータと並列に配置され、前記オーディオ機器の静的荷重を支持するパッシブ・インシュレータから構成したものである。
【0031】
すなわち、本発明においては、前記オーディオ機器の静的荷重は前記パッシブ・インシュレータで支持して、前記オーディオ機器が発生する動的荷重だけを前記アクチュエータで制御する。そのため、アクチュエータの大幅な小型化が図れる。オーディオ機器の振動状態をたとえば加速度センサで検出し、加速度フィードバックを施せば、系の固有値はパッシブ・インシュレータだけのときよりもさらに小さくできるため、除振性能の一層の向上が図れる。
【0032】
具体的に、請求項4の発明は、前記オーディオ機器にスピーカーを適用したものである。
【0033】
すなわち、本発明においては、パッシブ・インシュレータのばね剛性(固有値f0)を低くしたときに顕著になる、スピーカー本体部の剛体モードによる振動に着目し、この振動をアクティブ制振制御で抑制することにより
(1)系のさらなる低固有値化による奥域感、分解能、透明感などの向上
(2)スピーカー本体部の剛体振動がもたらす音響特性上の不具合(ブーミー現象、あるいはステレオ音像の定位感の低下)の解消
従来のパッシブタイプのインシュレータでは限界があった上記(1)(2)の相矛盾する課題を同時に解決することができる。
【0034】
具体的に、請求項5の発明は、リスナー側から見た前記スピーカー本体部の水平面方向をX軸、前記スピーカー本体部の奥行き方向をY軸、前記スピーカー本体部の高さ方向をZ軸、前記各軸の回転方向をそれぞれXθ軸、Yθ軸、Zθ軸と定義したとき、前記Xθ軸、及び又は、Y軸方向の振動が低減されるようにアクティブ制御したものである。
【0035】
すなわち、本発明においては、振動解析から得られた知見から、ボイスコイルの反力で励起されるスピーカー本体部の有害な振動モードは、前記スピーカー本体部の前記Xθ軸、及び又は、Y軸方向の振動が主であることに注目したものである。この知見から、制御量・操作量をXθ軸、Y軸、Z軸のみに限定すれば、スピーカー本体部のフロント側とリアー側だけにアクチュエータとセンサを配置すればよく、制御系、駆動系の大幅な簡素化が図れる。
【0036】
具体的に、請求項6の発明は、前記アクチュエータはローレンツ力アクチュエータで構成したものである。
【0037】
すなわち、本発明においては、永久磁石、電磁コイルなどから構成されるローレンツ力アクチュエータを用いることにより、アクチュエータの固定部(床面)に対する稼動部(オーディオ機器本体部)の平衡状態における位置を任意に設定できる。アクチュエータの制御剛性を小さくできるため、系の固有値に与える影響を小さくできる。また、空気圧源などを利用できない民生用オーディオ機器への適用が容易である。
【0038】
具体的に、請求項7の発明は、前記アクチュエータの固定部と、この固定部に対して軸方向に相対的に移動可能に配置された前記アクチュエータの可動部と、前記可動部と前記固定部の軸芯を保つように、前記アクチュエータに並列配置された少なくとも2セットのアクチュエータ用ばねから構成したものである。
【0039】
すなわち、本発明においては、アクチュエータの固定部に対して可動部を少なくとも2セットのばねで支持することにより、(1)ローレンツ力アクチュエータの固定部と可動部の同芯を保てる。(2)アクチュエータの固定部と可動部の相対的な回転を防止できる。上記(1)(2)により、1軸アクチュエータを独立したユニットとして扱うことができる。ユニット化することで、アクチュエータを任意の位置に配置できるため、設置寸法が様々なオーディオ機器への適用が容易になる。
【0040】
具体的に、請求項8の発明は、前記アクチュエータ用ばねはスプリングコイルで構成して、かつ前記スプリングコイルの内部に前記オーディオ機器本体部の変位及び又は振動状態を検出するセンサを収納したものである。
【0041】
すなわち、本発明においては、アクティブ・インシュレータの構成を小型・簡素化できると共に、前記オーディオ機器本体部の振動状態を検出するセンサを、高い検出精度が得られる最適な位置に配置できる。
【0042】
具体的に、請求項9の発明は、前記パッシブ・インシュレータの固定部と、前記パッシブ・インシュレータに設けられた荷重支持部と、前記固定部と前記荷重支持部の間に設けられた弾性支持部材から構成したものである。
【0043】
すなわち、本発明においては、前記パッシブ・インシュレータにフローティング方式を用いたものである。パッシブ・インシュレータのばね剛性と搭載物の質量できまる固有値を予め低い値に設定しておけば、アクティブ制御を施したときに一層低周波数域まで振動遮断効果が得られるため、オーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動の影響をより効果的に回避できる。
【0044】
具体的に、請求項10の発明は、前記弾性支持部材を機械ばねで構成し、かつこの機械ばねの高次の共振現象を抑制する振動発生防止手段から構成したものである。
【0045】
すなわち、本発明においては、機械ばねに例えばスプリングコイルを用いたとき、広い周波数領域に渡って発生するサージング共振現象を、振動吸収性と内部減衰性に優れた粘弾性ゴム(振動発生防止手段)を用いることで回避することができる。
【0046】
具体的に、請求項11の発明は、前記弾性支持部材をスプリングコイルで構成し、前記アクチュエータは前記固定部と前記荷重支持部の間で、かつ前記スプリングコイルの内部に収納したものである。
【0047】
すなわち、本発明においては、オーディオ機器に発生する動的荷重だけを制御するアクチュエータは十分に小さくできることを利用して、アクティブ・インシュレータとパッシブ・インシュレータを一体化したものである。この構造により、装置全体の簡素化が図れる。
【0048】
具体的に、請求項12の発明は、前記スピーカー本体部の変位及び又は振動状態を検出するセンサを前記スピーカー本体部に設けたものである。
【0049】
すなわち、本発明においては、センサをたとえば振動変位の最も大きいスピーカー本体部上面の前後に配置することにより、たとえば、ブーミー現象をもたらす主要因であるスピーカー本体部の剛体振動を精度よく検出できる。
【0050】
具体的に、請求項13の発明は、前記スピーカー本体部のフロント側、又は、リアー側のいずれかに配置されたアクチュエータと、前記フロント側、及び、リアー側に配置されたセンサと、複数の前記センサ出力を制御信号として1軸の前記アクチュエータを駆動し、前記スピーカー本体部の変位及び又は振動を抑制するようにアクティブ制御したものである。
【0051】
すなわち、本発明においては、振動解析から得られた知見から、1軸のアクチュエータと2 個のセンサだけで音響特性上の不具合(たとえば、ブーミー現象、あるいは、ステレオ音像の定位感の低下)をもたらすスピーカー本体部の剛体振動を十分に抑制できることを見出したものである。
【0052】
具体的に、請求項14の発明は、前記弾性支持部材は空気圧ばねで構成したものである。
すなわち、本発明においては、機械ばねの代わりに空気ばねをパッシブ・インシュレータとして用いることで、低い周波数まで振動遮断効果が得られる。
【0053】
具体的に、請求項15の発明は、前記空気圧ばねは、オーディオ機器を集中荷重として受ける構造としたものである。
すなわち、本発明においては、空気圧ばねを小径で長いシリンダ形状とすることにより、オーディオ機器を搭載したとき一層の低固有値が図れる。
【0054】
具体的に、請求項16の発明は、前記アクチュエータに電磁歪型を用いたものである。
すなわち、本発明においては、前記アクチュエータに応答性の優れたピエゾ式、超磁歪式などの電磁歪型を用いてアクティブ・インシュレータを構成することにより、全可聴域をカバーする広い周波数範囲で振動制御ができる。
【0055】
具体的に、請求項17の発明は、前記電磁歪型アクチュエータと直列もしくは並列に硬質材料インシュレータを配置したものである。
すなわち、本発明においては、良質な硬質音響素材の高周波域でのキャラクターをアクティブ制御により、一層効果的に活かすことができる。
【0056】
具体的に、請求項18の発明は、前記電磁歪型アクチュエータで構成されるアクティブ・インシュレータの振動伝達特性は、低周波数領域では振動遮断領域を有し、高周波数領域では振動伝達チューニング領域を有するように構成したものである。
すなわち、本発明においては、Z軸方向の有害な低周波数振動はアクティブ制御により遮断し、有益な高周波振動は、たとえば、ゲインと周波数帯域を可変できるバンドパスフィルタにより、リスナーの好みの音響特性が選択できるように活用したものである。
【0057】
具体的に、請求項19の発明は、前記パッシブ・インシュレータは、前記荷重支持部から前記弾性部材内部に至る振動伝播経路ΦZから分岐した振動伝播経路ΦRを有し、かつこの振動伝播経路ΦRは概略筒型形状部材で構成したものである。
【0058】
すなわち、本発明のたとえば実施形態1に適用する前記パッシブ・インシュレータは、前記荷重支持部から前記弾性部材内部に至る振動伝播経路をΦZとしたとき、前記筒型スリーブはこのΦZから分岐した振動伝播経路ΦRを有するように構成する。多様な固有振動モードを有する前記筒型スリーブは、前記振動伝播経路ΦZに対して並列配置された質量とバネで決まる振動系ΦRとして振動伝播経路ΦZに影響を与える。その結果、本インシュレータはフローティング方式と硬質材料方式の長所を同時に併せ持つと共に、前記筒型スリーブの「風鈴効果」による顕著な音響特性の改善が図れる。すなわち、本発明においては、アクティブ・インシュレータは低周波振動を抑制して、たとえば低音域のブーミー現象を解消すると共に除振性能を向上させ、パッシブ・インシュレータは静荷重支持と高周波音のチューニングの役割を担うことができる。
【0059】
具体的に、請求項20の発明は、前記筒型スリーブと前記弾性部材を介して対向して配置された部材の間は、狭い半径方向の間隙を設けた状態で嵌め込まれるように設置したものである。
【0060】
すなわち、本発明においては、前記「風鈴効果」を得るために設けた長い筒状のスリーブを利用して、インシュレータに搭載されるオーディオ機器(たとえば、スピーカー)に地震などによる衝撃的な水平方向外乱荷重が加わった場合でも、オーディオ機器の傾斜を最小限に抑えて、転倒を防止する構造を示すものである。すなわち、長い形状の筒型スリーブは「風鈴効果」と搭載物の「転倒防止効果」の両方の役割を併せもつものである。すなわち、本発明においては、パッシブ・インシュレータは静荷重支持と高周波音のチューニングの役割に加えて、オーディオ機器本体部の安定支持を保つ役割を担う。
【0061】
具体的に、請求項21の発明は、Lを前記筒型スリーブの有効長さ、δを前記半径方向の間隙としたとき、δ/L≦0.03となるように前記δ、前記Lを設定したものである。
すなわち、本発明においては、本インシュレータに搭載されたスピーカー(あるいは、その他のオーディオ機器)に水平方向の衝撃荷重が加わった場合、上式が成り立つように、前記筒型スリーブの有効長さL、前記筒型スリーブと固定部の半径方向の間隙δを設定することで、スピーカーの転倒防止が図れる。
【0062】
具体的に、請求項22の発明は、前記筒型スリーブとコイル固定部の半径方向の間隙δ≦1.5mm に設定したものである。
【0063】
すなわち、本発明においては、本インシュレータに搭載されたスピーカー、あるいはその他のオーディオ機器に水平方向の衝撃荷重が加わった場合、上式が成り立つように前記筒型スリーブとコイル固定部の半径方向の間隙δを設定すれば、スピーカー、あるいはオーディオ機器の仕様に無関係に転倒防止が図れる
【0064】
具体的に、請求項23の発明は、スピーカー本体部が有する振動加振源によって発生する前記スピーカー本体部の剛体振動を抑制するために、前記スピーカー本体部にパッシブ動吸振器、又は、アクティブ動吸振器を設けたものである。
【0065】
すなわち、本発明においては、パッシブ動吸振器の場合は抑制する目標振動数f0に合せて、パッシブ動吸振器の質量m、ばねKの値を設定しておく。アクティブ動吸振器を用いれば、スピーカー本体部とその設置条件で決まる固有振動数が未知の場合でも、剛体振動を抑制することができる。
【0066】
具体的に、請求項24の発明は、前記オーディオ機器の概略重心位置近傍に配置された1自由度の前記アクチュエータから構成したものである。
【0067】
すなわち、本発明においては、パッシブ・インシュレータのばね剛性を予め高く設定してブーミー現象の発生を回避した状態で、アクティブ制御を施すことで、除振性能が大幅に向上できることに重点を置いたものである。除振性能が向上することで、前述したように、奥域感、分解能、透明感などの音響特性が向上させることができる。また、ばね剛性が高いインシュレータ程、オーディオ機器をより安定に支持できる。
【0068】
具体的に、請求項25の発明は、スピーカー本体部の振動状態を検出するセンサと、リスナー側に設置されたセンサと、前記2つのセンサ情報をもとに、前記スピーカー本体部と前記リスナー側の相対的な振動が抑制されるように前記アクチュエータをアクティブ制御したものである。
【0069】
すなわち、本発明においては、リスナーとスピーカー本体部間の相対的な振動を極小化する制御が可能である。この場合、リスナーとスピーカーの間に介在する構造物はどのように振動しても音響特性に影響を与えないことになり、究極のオーディオ・システムが実現できる。
【0070】
具体的に、請求項26の発明は、スピーカー本体部を基礎に対して支持する荷重支持部と、この荷重支持部と前記基礎の間に設けられたアクチュエータと、前記スピーカー本体部の変位及び又は振動状態を検出するセンサから構成され、前記スピーカー本体部自身が有する振動加振源によって発生する前記スピーカー本体部自身の振動を抑制するように、前記センサからの情報に基づいて前記オーディオ機器の変位及び又は振動状態をアクティブ制御する制御装置から構成され、かつスピーカー本体部自身の振動がもたらす音響特性上の不具合を解消するように、前記制御装置の制御方法の選択と、ゲインなどの制御量を設定するオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システムの設計方法を示すものである。
【0071】
すなわち、本発明においては、アクティブ制御の制振効果によりスピーカー本体部の剛体振動に起因する、ブーミー現象を回避できると共に、ステレオ音像の定位感を飛躍的に向上させることができる。またアクティブ制御の除振効果により、奥域感、分解能、透明感などの評価項目で優れた音響特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0072】
本発明のインシュレータの適用により、従来のフローティング方式、硬質材料方式、いずれのタイプのインシュレータも回避できなかった課題、すなわち、「オーディオ機器自身が有する振動加振源により、オーディオ機器本体が振動する」ことに起因する音響特性上の不具合を解決することができる。たとえば、本発明をスピーカーに適用することにより、奥域感、分解能、透明感、低域の力感(ダンピング特性)など、すべての項目で音響特性の大幅な向上が図れる。その効果は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態1に係るオーディオ・システムの矢視図
【図2】本発明の実施形態1を示すオーディオ用インシュレータのアクティブタイプで、図2aは上面図、図2bは正面断面図
【図3】前記アクティブタイプ・インシュレータの組み立て図
【図4】前記アクティブタイプ・インシュレータの2個分をスピーカー底面の前後に配置した場合の正面断面図
【図5】実施形態1に適用した既提案パッシブ・インシュレータで、図5aは上面断面図(図5bのA-A断面図)、図5bは正面断面図
【図6】既提案パッシブ・インシュレータで2組のスピーカーを支持した場合の試聴実験におけるオーディオ・システムのモデル図
【図7】パッシブ・インシュレータでスピーカー本体部を支持した場合の、周波数に対する振動遮断効果の解析結果のグラフ
【図8】パッシブ・インシュレータ4個を含むスピーカー本体部の数値解析モデル
【図9】固有値解析で、周波数f0=1.24Hzで励起される振動モードを示す図
【図10】固有値解析で、周波数f0=1.67Hzで励起される振動モードを示す図
【図11】固有値解析で、周波数f0=3.90Hzで励起される振動モードを示す図
【図12】固有値解析で、周波数f0=4.74Hzで励起される振動モードを示す図
【図13】固有値解析で、周波数f0=5.09Hzで励起される振動モードを示す図
【図14】固有値解析で、周波数f0=5.41Hzで励起される振動モードを示す図
【図15】周波数応答解析結果を示すグラフ
【図16】スピーカー本体部に加わるインパルス荷重を示すグラフ
【図17】スピーカー本体部にインパルス荷重が加わった場合の過渡応答解析結果のグラフ
【図18】アクティブ制振制御解析のための、スピーカー本体部の力の釣り合い条件を示すモデル図
【図19】基礎式導出結果から得られたアクティブ制御のブロック図
【図20】外力FYを与えたときの2軸間の相対変位Z−Zの周波数応答特性を示す解析結果のグラフ
【図21】f=20Hz、振幅1.0Nの外力FYを与えたときの2軸間相対変位Z−Zの過渡応答特性を示す解析結果のグラフ
【図22】本発明の実施形態2に係るアクティブとパッシブの一体型インシュレータで、図22aは上面図、図22bは正面断面図
【図23】実施形態2に係るオーディオ・システムの矢視図
【図24】本発明の実施形態3に係る一体型ハイブリッド・インシュレータの正面断面図
【図25】実施形態3の前記一体型ハイブリッド・インシュレータ組み立て図
【図26】実施形態3に係る一体型ハイブリッド・インシュレータを適用した場合のオーディオ・システムの矢視図
【図27】本発明の実施形態4に係るアクティブ・インシュレータの正面断面図
【図28】2軸間の相対加速度信号を用いて制御を施し、アクティブ・インシュレータをスピーカー本体部の底面に設置した正面断面図
【図29】アクティブ・インシュレータ外力FYに対する2軸間の相対変位Z−Zの周波数応答特性を示す解析結果のグラフ
【図30】アクティブ・インシュレータに、f=20Hz、振幅0.1Nの外力FYを与えたときの2軸間相対変位Z−Zの過渡応答特性の解析結果のグラフ
【図31】本発明の実施形態4に係るオーディオ・システムの矢視図
【図32】本発明の実施形態5に係るアクティブ・インシュレータの正面断面図
【図33】本発明の実施形態6に係るアクティブ・インシュレータの正面断面図
【図34】実施形態6のアクティブ・インシュレータ2個分をスピーカー底面の前後に配置した場合の正面断面図
【図35】本発明の実施形態に適用した既提案パッシブ・インシュレータの上部スリーブ固有値解析の振動モードを示す図
【図36】本発明の実施形態7に係る空気圧式ハイブリッド・インシュレータを示し、図36aは側面断面図(図36bのA-A断面図)、図36bは図36aのB-B矢視図
【図37】図36bのC-C断面図でアクチュエータcの詳細を示す図
【図38】本発明の実施形態8に係るハイブリッド・インシュレータを示し、図38aは側面断面図(図38bのA-A断面図)、図38bは図38aのB-B矢視図
【図39】本発明の実施形態9を示し、空気圧シリンダに風鈴効果をもたらす筒型形状の部材を設けた場合の正面断面図
【図40】本発明の実施形態10に係るオーディオ・システムの矢視図で、アクティブ・インシュレータをリモコンで遠隔操作する場合を示す図
【図41】実施形態10において、各インシュレータの配置を示す図
【図42】実施形態10において、基礎式から得られる制御ブロック図
【図43】パッシブ・インシュレータのばね剛性KZ=14.1N/mmにおける、周波数に対する除振特性の解析結果のグラフ
【図44】パッシブ・インシュレータのばね剛性KZ=219N/mmにおける、周波数に対する除振特性の解析結果のグラフ
【図45】本発明の実施形態11に係る電磁歪式ハイブリッド・インシュレータの正面断面図
【図46】実施形態11に係る電磁歪式インシュレータの周波数に対する振動 遮断効果を示す図
【図47】実施形態11に係るオーディオ・システムの矢視図
【図48】本発明の実施形態12に係る電磁歪式ハイブリッド・インシュレータを示す正面断面図
【図49】本発明の実施形態13に係る電磁歪式ハイブリッド・インシュレータを示す正面断面図
【図50】トールボーイ型スピーカーに本発明を適用した場合の矢視図
【図51】アクティブ・インシュレータの制御軸を示す図
【図52】動吸振器であるTMD(Tuned massdamper)をスピーカー本体部の背面に設置した場合のモデル図
【図53】インシュレータの従来例で2段スパイク構造を示す図
【図54】工業用分野の防振装置に用いられる従来吸振体の正面断面図
【図55】工業用分野で用いられる従来アクティブ除振装置のモデル図
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0074】
以下、本発明を次のステップで説明する。
[1]本発明をスピーカーに適用した場合の実施例
[2]本発明を適用したオーディオ・システムの試聴実験
[3]スピーカー本体部の振動解析
[4]アクティブ制振制御の解析
まず上記[1]について、[第1実施形態]を基に説明する。
【0075】
[第1実施形態]
[1]本発明をスピーカーに適用した場合の実施例
以下、本発明をスピーカーに適用した場合の実施例について説明する。本実施例は、スピーカーのボイスコイルの反力を加振源として、スピーカー本体部が振動することに起因する音響特性上の不具合、主にブーミー現象を解決する方策として、工業用除振器などで用いられているアクティブ制振制御技術に注目したものである。さらに、このアクティブ制振制御の概念を民生商品であるスピーカーに導入する際に、音響特性に与える3種類の振動、すなわち、「有害」「有益」「無害」の振動があることに注目した。この点を考慮して制御すべき振動を特定し、アクチュータの自由度、配置方法などを選択し、かつパッシブ・インシュレータを併用するなどの方策により、インシュレータの大幅な簡素化を図ったものである。
【0076】
図1は、本発明の実施形態1に係るオーディオ・システムの矢視図である。1、2は左右に配置された2チャンネルのステレオ用スピーカーであり、各々のスピーカー本体部はボード3、4の上に搭載された2個のアクティブ・インシュレータと4個のパッシブ・インシュレータによって支持されている。
(1)パッシブ・インシュレータはスピーカー本体部の静的荷重を支持する。
(2)アクティブ・インシュレータは、スピーカーのボイスコイルの反力(動的変動荷重)によるスピーカー本体部の剛体振動を電子制御により抑制する。
【0077】
ここで、本発明のスピーカー用インシュレータにおけるパッシブタイプとは、スプリングコイル、粘弾性ゴム、空気圧ばね、永久磁石、音響素材などのような機械要素だけで構成されるものを示す。アクティブタイプとは上記機械要素にセンサ、ボイスコイルモータ、コントローラなどの電子制御要素が加わったものと定義する。上記2つのタイプを組み合わせた全体を、本発明ではハイブリッド・インシュレータと呼ぶことにする。
【0078】
各インシュレータの配置方法をわかり易くするために、右側スピーカー2を浮上した状態で図示している。5a〜5d、及び、6a〜6dは左右のスピーカー1、2の底面4隅に配置されたパッシブ・インシュレータ(5dは図示せず)である。7a、7b、及び、8a、8bは左右の各スピーカー1、2の中央部に配置されたアクティブ・インシュレータ、9は前記アクティブ・インシュレータを制御するコントローラである。以下、アクティブ及びパッシブ・インシュレータの具体的な構成について説明する。
【0079】
(1)アクティブ・インシュレータの構成
図2はアクティブタイプのインシュレータ(8bの場合)の具体的構成を示し、図2aは上面図、図2bは正面断面図である。基本的構成は、スプリングコイル(アクチュエータ用ばね)が左右対称に配置され、その中央部にボイスコイルモータが配置される。10は上部ベース台(荷重支持部)、11は下部ベース台(固定部)である。以下、装置の左側に設けられたスプリングコイル、及びサージング防止部材に注目して説明する。12は下部ベース台11の左側に固定された円柱部、13は円柱部を下部ベース台11に固定するボルト、14は円柱部12の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。サージング防止部材14は、円筒状の筒部14aと、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片14bで構成した。上部ベース台10と下部ベース台11に挟み込まれるように、スプリングコイル15(弾性部材)が設けられている。粘弾性片14bは、スプリングコイル15の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。サージング防止部材14の高さは、スプリングコイル15がスピーカーなどの搭載物によって圧縮された時の最小寸法よりも小さく形成されている。スプリングコイル15の下端外周部は下部ベース台11に形成された位置決め部16に、スプリングコイル15の上端外周部は上部ベース台10底面に形成された位置決め部17に嵌まり込むようになっている。また、装置の右側に設けられたスプリングコイル、及びサージング防止部材なども左右対称に構成した。すなわち、円柱部18、円柱部を固定するボルト19、サージング防止部材20、このサージング防止部材20を構成する筒部20a、粘弾性片20b、スプリングコイル21、このスプリングコイル21の下端と上端を固定する位置決め部22,23から構成される。24はローレンツ力アクチュエータの一種であるボイスコイルモータであり、固定側25と可動側26から構成される。27は固定側に設けられた永久磁石、28は固定側25を下部ベース台11に締結するボルト、29は可動側26を上部ベース台10に締結するボルト、30は可動側26に設けられた電磁コイル部である。31は加速度センサであり、スペーサ32を介して、ボルト33により上部ベース台10に締結される。
【0080】
図3は、前記アクティブ・インシュレータの組み立て図を示すもので、2つのスプリングコイル15,21の下端を下部ベース台11の位置決め部16、22に装着した後、このスプリングコイル15,21の上端を上部ベース台10の位置決め部17,23に装着する。上部ベース台10には既に前記ボイスコイルモータの可動側26、加速度センサ31が取り付けられている。本実施例では、ローレンツ力アクチュエータ(ボイスコイルモータ24)を用いることにより、アクチュエータの固定部(床面)に対する稼動部(オーディオ機器本体部)の平衡状態における位置を任意に設定できる。アクチュエータの制御剛性を小さくできるため、系の固有値に与える影響を小さくできる。また、空気圧源などを利用できない民生用オーディオ機器への適用が容易である。また、本実施例では、2つのスプリングコイル15,21を左右対称に配置して、かつその端部を位置決めすることで、前記ボイスコイルモータの固定側25と可動側26に設けられた電磁コイル部30の軸芯を同一に保つことができる。また、上部ベース台10に外乱荷重が加わった場合でも、電磁コイル部30にはその軸芯が固定側26に対してセンタリングする復元力が働く。ちなみに、スプリングコイル一個だけでは、電磁コイル部の固定側に対するセンタリング作用は得られない。図4は、アクティブ・インシュレータ8a、8bの2個分をスピーカー2底面の前後に配置した場合の正面断面図である。(パッシブ・インシュレータは省略)
【0081】
本実施例におけるアクティブ・インシュレータの制御方法は、[4]節で詳細は後述するが、アクティブ・インシュレータ8a、8bのそれぞれに設けられた加速度センサ(8bの場合は31)からの出力を加速度フィードバック信号として、各アクチュエータにスピーカー本体部の剛体振動を抑制するように駆動させたものである。この剛体振動を抑制するために、変位センサを用いて比例制御を施してもよいが、比例制御の場合は系の固有値が増大する。加速度制御の場合、制御対象のみかけの質量が増大することにより、系の固有値を低下させて、低い周波数まで制振効果と除振効果の両方を得ることができる。ここで、本実施例における「制振効果」とは、スピーカーのボイスコイルの反力によるスピーカー本体部の剛体振動を抑制する効果を示し、「除振効果」とは、スピーカー本体部と床面間の振動遮断効果を示す。またアクティブ制御とは、制御対象(オーディオ機器、床面等)の変位、速度、加速度、ジャーク(加速度の微分)などのセンサ情報を基に、電子回路を経由して、フィードバック、フィードフォワード等によりアクティブ・インシュレータを制御する方法と定義しておく。
【0082】
(2)パッシブ・インシュレータの構成
図5は本発明に適用したパッシブ・インシュレータの具体的構成(たとえば、6bの場合)を示し、図5aは上面断面図(図5bのA-A断面図)、図5bは正面断面図である。このパッシブ・インシュレータは、本発明者らが既に提案し、出願中のものである。34は上部スリーブ(荷重支持部)、35は下部スリーブ(固定部)、36は下部スリーブ35の中央部に突設して形成された筒部、37は筒部36の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。本実施例では、上部スリーブ34と下部スリーブ35は音響素材として良好な特性を有する真鍮(銅、亜鉛、錫の合金)を用いた。サージング防止部材37は、円筒状の筒部37aと、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片37bで構成される。上部スリーブ34と下部スリーブ35の内部にスプリングコイル38(弾性部材)が設けられている。粘弾性片37bは、スプリングコイル38の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。サージング防止部材37の高さは、スプリングコイル38がスピーカーなどの搭載物によって圧縮された時の最小寸法よりも小さく形成されている。スプリングコイル38の下端外周部は前記下部スリーブ35底面に形成された位置決め部39に、スプリングコイル38の上端外周部は前記上部支持部底面に形成された位置決め部40に嵌まり込むようになっている。そのため、本インシュレータはスプリングコイル38を装着した状態で、両部材34,35の軸芯が一致した状態を保つことができる。
【0083】
さて、本実施例に適用したアクティブタイプ、パッシブタイプのインシュレータは、いずれもスプリングコイルを用いている。スプリングを用いて除振器を構成する場合、サージング共振現象が大きな問題となる。このサージングは、コイル素線に沿って伝搬される衝撃波が, ばねの有効部を往復するときのサージ速度から決定される共振現象であり、基本振動数に対する複数の高調波振動が広い周波数領域に渡って発生する。本実施例で使用するサージング防止部材14,20,37は、粘弾性ゴムで構成した。衝撃に対して振動吸収性と内部減衰性に優れ、外力を受けてもほとんど反発せず、振動エネルギーを吸収する性質を持つ公知の制振材料である。実施例では、アクティブ・インシュレータのばね剛性は、パッシブ・インシュレータのそれと比べて十分に小さく設定した。すなわち、アクティブ・インシュレータのスプリングコイル(図2の15、21)の線径は、パッシブ・インシュレータのスプリングコイル38の線径と比べて十分に小さい。そのため、支持系の静的ばね剛性は、ほとんどパッシブ・インシュレータで決定される。本実施例では、4個のパッシブ・インシュレータによりスピーカー本体部の質量を支持して平衡状態を保つと共に、アクティブ・インシュレータにより動的変動荷重(スピーカー自身が発生)によるスピーカー本体部の剛体振動を制振制御する。また詳細は[5-4]節で後述するが、本実施例に適用したパッシブ・インシュレータは、(1)フローティング方式、(2)硬質材料方式の両方(1)(2)の特徴を併せ持つ既提案のインシュレータであり、可聴域における低周波振動の完全遮断効果と、良質な音響素材を利用した高周波域におけるサウンド・チューニングが図れる。
【0084】
[2]本発明を適用したオーディオ・システムの試聴実験
[2-1]パッシブ・インシュレータの場合
本実施例のハイブリッド・インシュレータの効果を評価する試聴実験を、既提案のパッシブ・インシュレータだけ用いた場合と対比して行った。最初に、パッシブ・インシュレータだけ用いた場合の試聴実験結果について説明する。図6に底面4隅に配置したパッシブ・インシュレータ50a〜50d、及び51a〜51dで、2組のスピーカー52、53を支持した場合の試聴実験のオーディオシステムのモデル図を示す。このパッシブ・インシュレータの構成は、図5で既に説明したものである。表1はその試聴実験の結果であり、試聴実験に参加した5人のリスナーの合意を得て整理したものである。表1に示すように、スピーカーの質量とインシュレータのばね剛性で決まる固有値f0によって、音響効果(奥域感、分解能、透明感など)が微妙に異なる。スプリングコイル以外のインシュレータ部品はすべて共通であり、剛性の異なるスプリングコイルだけを取り換えて、固有値f0を設定した。図7に周波数に対する振動減衰効果(スピーカー本体部と床面間の除振特性)の解析結果を参考に示す。結果を要約すれば、
(1)固有値f0(第1次共振周波数)が低い程、奥域感(音響空間の広がりと奥行き)、透明感(S/N比:各楽器音が混濁しない低歪感)は向上していく。
(2)しかし、固有値f0が低過ぎると、低域が不自然(ブーミー)になる。すなわち、低域が引き締まり、切れ味の良い低音になる固有値の下限値( f0>3.07Hz)が存在する。
(3)逆に固有値f0が高過ぎると、奥域感、分解能、透明感の各評価項目で本インシュレータが持つ長所が相対的に低下していく。
【0085】
固有値f0の大きさが上記(1)〜(3)の状態に変化する度合いは、スピーカーの種類によって異なる。たとえば、昨今のトレンドであるトールボーイ型と呼ばれる設置面積が小さく背の高いスピーカーの場合は、比較的高い固有値(周波数)f0で低域がブーミーになり易い。また、ヴィンテージ型(往年の名機と呼ばれるスピーカーに多い)と呼ばれる設置面積の大きな大型スピーカーの場合は、低い固有値までブーミーになりにくい。しかし、いずれの場合も固有値f0の絶対値が異なるだけで、固有値f0に対する上記(1)〜(3)の傾向は基本的には変ないことが分かった。すなわち、奥域感・透明感などがベストな状態を保つためには、インシュレータの固有値の最適値f0= f0Aはかなり低いところに存在する。しかし切れ味が良く、引き締まった定位感のある低音を保つためには固有値f0Bはやや高めに、すなわち、f0B> f0Aとして設定する必要がある。したがって、パッシブ・インシュレータでスピーカーを支持した場合、すべての評価項目で音響特性をベストにする固有値(ばね剛性)の設定には限界がある。
【0086】
[2-2]ハイブリッド・インシュレータの場合
表2に、本発明によるハイブリッド・インシュレータの試聴実験の評価結果を示す。実験方法は、図1の説明で前述したように、各々のスピーカーはボード3、4の上に搭載された2個のアクティブ・インシュレータ(7a、7b、及び、8a、8b)と4個のパッシブ・インシュレータ(5a〜5d、及び、6a〜6d)によって支持した。このパッシブ・インシュレータに適用したスプリングコイルのばね剛性は、パッシブ・インシュレータだけのシステムではブーミーとなったKz=14.1N/mm(1.44Kgf/mm)(表1)を用いた。表2に示すように、低音域のブーミー現象は解消され、音響効果はすべての項目でベストの評価が得られた。補足すれば、表1における、各評価項目の詳細は次のようである。
【0087】
(1)奥域感(空間性)
スピーカーの背景に壮大なオーケストラの空間が、スピーカーから離脱して奥深く展開される。
(2)分解能(フォーカス感)
各楽器が視覚で見えるようにその存在感が分かり、音像(sound stage)の焦点が明確に定まる。
(3)透明感(S/N比)
複層する楽器音が混濁せず分離する。高域が繊細で歪み感が小さい。
(4)低域の力感(ダンピング特性)
低域が引き締まり、オーケストラの弦の低域音、ジャズのベース音が明確に定位して聴こえる。
【0088】
【表1】

【0089】
[3]パッシブ・インシュレータで支持されたスピーカー本体部の振動解析
以下、ブーミー現象をもたらした試聴実験と同一条件で、パッシブ・インシュレータに搭載されたスピーカー本体部の振動解析を行った。その狙いは
(1)ブーミー現象とスピーカー本体部の剛体モードによる振動の相関を理論的に把握する。
(2)このブーミー現象を解消する方策として、工業用アクティブ除振台で用いられているアクティブ制振制御技術の適用可能性を見出す。
【0090】
上記(2)を実現させる可能性の根拠は、スピーカー本体部をアクティブ制御の対象としたときに、スピーカー固有の次の点に注目したものである。
(1)スピーカー本体部の剛体振動をもたらす駆動源は、スピーカーのボイスコイルの反力であり、低音域程この反力は大きい。すなわち、振動制御を低周波域に限定すれば、アクチュエータ、センサ、コントローラなどの選択が容易となる。
(2)低音域を再生するウーハーは通常スピーカー本体部の中心線上に配置されており、反力がスピーカー本体部に加わる方向はY軸方向が主となる。
【0091】
様々な方向からの振動外乱を考慮せねばならない工業用除振台と比べて、標準的な形態のスピーカーを制御対象にした場合、外乱荷重の方向は定まっている。
【0092】
すなわち、通常6軸制御を必要とする工業用アクティブ除振台と比べて、制御軸数を減らして構成を大幅に簡素化できるならば、民生商品であるオーディオ用スピーカーにも、このアクティブ制振制御の適用が実用レベルで可能となるのではないか、という着眼に基づくものである。
【0093】
[3-1]除振特性解析
除振特性解析は、インシュレータのばね剛性を変えたときに、スピーカー本体部と床面間のインシュレータの振動遮断効果を評価するものである。パッシブ・インシュレータ(図5)を4隅に配置してスピーカー本体部を搭載した場合の、周波数に対する振動遮断効果の解析結果(ばね剛性は3種類)を図7に示す。縦方向ばね剛性KZ=14.1N/mmの場合、人の可聴域
f >20Hzとすれば、f=20Hzで-25dB(図7のa点)の振動遮断効果が得られる。KZ=50.6N/mmの場合、f=20Hzで-12dBの振動遮断効果が得られる。しかしKZ=219N/mmの場合、f=30Hz近傍まで振動遮断効果は得られない。可聴域以上(f >20Hz)の周波数でも、ばね剛性が異なる場合の振動遮断効果の差は変らない。この解析結果と試聴実験の結果を対比すれば、奥域感・分解能・透明感などが良好な状態を保つためには、振動遮断効果が大きい程、すなわち、インシュレータのばね剛性は低い程好ましいいことが分かる。
【0094】
[3-2]固有値解析及び周波数・過渡応答解析
パッシブ・インシュレータでスピ−カーを支持した場合について、上記試聴実験と同一条件で固有値解析と周波数応答解析をおこなった。図8にパッシブ・インシュレータ4個50a〜50dを含むスピーカー本体部の数値解析モデルを示す。同図に6つの座標軸X軸、Y軸、Z軸、Xθ軸、Yθ軸、Zθ軸を定義する。スピーカー本体部の外形寸法は幅LX=549mm、奥行きLY=375mm、高さLZ=921mm、質量m=63.4Kgである。数値解析を行うために、パッシブ・インシュレータのスプリングコイル(図5の38)に相当するばね剛性を、縦寸法50mm、横寸法50mm、高さ25mm、縦弾性係数E=0.122N/mm(1.24×10-2kgf/mm)の角柱の弾性構造体に置き換えた。この場合の、インシュレータ1個分の縦方向ばね剛性KZ=14.1N/mm、水平方向ばね剛性はKX= KY=6.92N/mmである。インシュレータの縦方向ばね剛性KZと、スピーカー本体部質量mで決まる縦方向固有振動数はf0=4.75Hzである。
【0095】
[3-3]固有値解析
図9〜図14に固有値解析の結果を示す。
(1)図9は最も低い周波数f0=1.24Hzで励起される振動モードを示すもので、図9-2のYZ座標表示からわかるように、スピーカー本体部の上面がY軸方向に大きく変位する振り子運動であるが、スピーカー本体部全体がY軸方向に並行移動する成分(ΔY)も含んでいる。すなわち、Xθ軸とY軸方向の合成された振動である。この振動モードでは、フロント側インシュレータ50bとリアー側インシュレータ50cがZ方向に交互に伸縮する。
(2)図10は周波数f0=1.67Hzで励起される振動モードを示すもので、スピーカー本体部の上面がX方向に大きく変位する振り子運動(Yθ軸の振動)である。この振動モードでは、左右のインシュレータがZ方向に交互に伸縮する。
(3)図11は周波数f0=3.90Hzで励起される振動モードを示すもので、Z軸を中心にスピーカー本体部が揺動運動するZθ軸の振動である。
(4)図12は周波数f0=4.75Hzで励起される振動モードを示すもので、スピーカー本体部のZ軸方向縦振動である。固有振動数f0は4個のインシュレータの縦方向ばね剛性(1個分はKZ)とスピーカー本体部の質量mで決まるものである。
(5)図13は周波数f0=5.09Hzで励起される振動モードを示すもので、スピーカー本体部の底面がY方向に大きく変位する振り子運動である。すなわち、上記(1)同様にXθ軸とY軸方向の合成された振動であるが、振り子運動の回転軸はZ軸の高い位置にある。
(6)図14は周波数f0=5.41Hzで励起される振動モードを示すもので、スピーカー本体部の底面がX方向に大きく変位する振り子運動であり、Yθ軸とX軸方向の合成された振動である。
【0096】
[3-4]周波数応答解析
固有値解析で得られた上記6つの振動モードの中で、実際にスピーカーが使用されるとき、どの振動モードが支配的なのかを求めるために、周波数応答解析を行った。その解析結果を図15に示す。図8の解析モデル図に示すように、4個のパッシブ・インシュレータで支持されたスピーカー本体部にはボイスコイルの反力に相当する振幅FY=1.0Nの外力が、1〜50Hzの周波数帯域で、高さ2/3 LZの位置、スピーカー本体部の幅中央部でY軸方向に励振されると仮定した。同図において、スピーカー本体部上面中央部A点(図8参照)のグラフ、及びスピーカー本体部下面中央部B点(図8参照)のグラフは、周波数に対するY方向の変位を示すものである。また、スピーカー本体部上面端部C点のグラフは、周波数に対するX方向の変位を示す。この結果から
(1)スピーカー本体部下面B点のY方向変位に対して、スピーカー本体部上面
A点のY方向変位は10倍程大きい。
(2)スピーカー本体部上面端部C点のX方向変位は、上記A点、B点のY方向変位と比べて1000分の1以下である。
【0097】
上記結果から、ボイスコイルモータの反力で励起されるスピーカー本体部の振動モードは、図9で示したように、スピーカー本体部の上面がY方向に大きく変位する振り子運動(Xθ軸の振動)が支配的である。スピーカー本体部全体がY軸方向に並行移動する振動は、Xθ軸の振動と合成して現れるが、Xθ軸の振動と比べて十分に小さい。また、C点のX方向変位は僅少なことから、図10〜図11、図13〜図14で示したような振動モードは、本実施例の条件下では無視できると考えてよい。
【0098】
[3-5]過渡応答解析
過渡応答解析の結果を図17に示す。図8の解析モデル図に示すように、スピーカー本体部には、ボイスコイルモータの反力に相当する図16に示すインパルス荷重(最大FY=9.8Nの衝撃音)が、高さ2/3 LZの位置で中央部に加振されると仮定した。縦方向固有振動数f0=4.74Hz(インシュレータのKZ=14.1N/mm)の場合、最大振幅は0.23mm、振動の整定時間Tsは3秒以上となる。f0=8.99Hz(KZ=50.6N/mm)の場合は、最大振幅は0.11mm、Tsは1.5秒程度である。f0=18.7Hz(KZ=219N/mm)の場合は、最大振幅は0.03mm、Tsは0.6秒程度で整定する。
【0099】
前述した試聴実験において、パッシブ・インシュレータの縦方向ばね剛性KZが小さ過ぎると低域が不自然(ブーミー)になる要因のひとつは、ダンピング特性(振動減衰特性)を比較した上記過渡応答解析の結果から説明できる。
【0100】
[3-6]パッシブ・インシュレータの解析結果の総括
上記[3-1]〜[3-5]の解析結果を基に、スピーカー本体部の各6軸(X軸、Y軸、Z軸、Xθ軸、Yθ軸、Zθ軸)の振動について、どの軸を制御軸としてアクティブ制御の対象にすべきかについて考察する。よく知られているように、ステレオ音像の定位感は、リスナーの左右の耳に入る二つの音波の波形の振幅の違いと時間あるいは位相差が重要な役割を担うと考えられる。この点とブーミー現象の両面から、「有害(Harmful)」「無害(Harmless)」「有益(Useful)」の3つの観点により、各軸の振動を評価する。
(1)スピーカー本体部の上面が大きく変位する振り子運動(図9の振動モードでXθ軸の回転振動)は、ステレオの二つの音波の波形の位相差(音源とリスナー間の距離の差)に影響を与えるという点で、明らかに「有害(Harmful)な振動」である。したがって、この振動をアクティブ制振制御により抑制する。
(2)スピーカー本体部のY軸方向の振動は、上記同一の理由で元来有害な振動である。しかし、実施例の条件では、Xθ軸の回転振動と比べて、無視できる程小さい。したがって、実施例の条件に限定すれば、「無害(Harmless)な振動」と見なしてよい。
(3)X軸、Yθ軸、Zθ軸方向の振動は、標準的なスピーカーを対象にした場合、加振源位置のスピーカー本体部に対する対称性を考慮すれば、励起される振動のレベルは十分に小さい。またステレオの二つの音波の位相差に与える影響も小さく、「無害な振動」と見なしてよい。
(4)Z軸方向の振動は、有害と有益の両方を持つ振動である。オーディオ機器が発生した低周波振動が床面に伝達されると、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モード(20〜100Hz)を励起させる。この低周波の床面振動とオーディオ機器の振動の相互干渉がもたらす音質の劣化は、硬質材料インシュレータでは基本的に回避できない。そのため、Z軸方向の低周波振動は元来「有害な振動」である。しかし、高周波振動に関しては、良質な音響素材のキャラクターを利用した再生音のチューニング手段として、おおいに活用すべき「有益(Useful)な振動」である。
【0101】
以上総括すれば、民生商品であるスピーカーを対象としてアクティブ・インシュレータの制御を施すためには、「有害な振動」だけに注目すればよい。たとえば、フローティング方式のインシュレータを用いて、インシュレータの剛性が低下した場合に顕著になる音響特性上の不具合(ブーミー現象)を、支持剛性が低い状態を維持したままで解消するためのアクティブ・インシュレータの制御は、Xθ軸、Y軸、Z軸、の3軸制御、あるいは、Y軸の振動が無視できるならば、Xθ軸とZ軸の2軸制御に簡素化できる可能性がある。この可能性を見極めるために、以下、アクティブ制振制御の効果を評価する特性解析を行う。
【0102】
[4]アクティブ制振制御の解析
以下、ハイブリッド・インシュレータである本発明の実施形態1(図1)を対象にして、アクティブ制振制御の効果を評価する特性解析を行った。再度、スピーカー本体部の支持条件を要約すれば、
(1)スピーカー本体部底面4隅には、スプリングコイルによるパッシブ・インシュレータを配置してスピーカー本体部の静的荷重を支持する。
(2)スピーカー本体部底面中央部のフロント側とリアー側に、各一個、1軸制御のアクティブ・インシュレータを配置することで、Xθ軸、Z軸の2軸制御ができる。
【0103】
モデル図18を参照して、スピーカー本体部の鉛直方向における力の釣り合い、及び重心に関するモーメントから次の方程式が導かれる。
【0104】
【数1】

【0105】
上式において、Iはスピーカー本体部の重心位置(YG=a1 ,ZG=b1)における慣性モーメント、mはスピーカー本体部の質量、f1及びf2はフロント側、及びリアー側に配置されたアクティブ・インシュレータのアクチュエータ発生力、FYは位置(Y=0 ,Z=b1)におけるスピーカーボイスコイルの反力に相当する外力である。ここで、
【0106】
【数2】

【0107】
として、式(1)、式(2)を整理すると
【0108】
【数3】

【0109】
さらに、式(3)+式(4)、及び、式(4)-式(3)×a2/a1から次式が得られる。
【0110】
【数4】

【0111】
図19に式(5)(6)から得られる制御ブロック図を示す。各軸に設けられた加速度センサからの出力をフィードバック信号として、各アクチュエータの発生力f1及びf2は次式で与えられるものとする。
【0112】
【数5】

【0113】
GR1及び、GR2は、2軸間の相対加速度信号を入力とするアクチュエータ駆動回路の伝達関数である。また、GA1及び、GA2は、それぞれ各軸の加速度信号を入力とするアクチュエータ駆動回路の伝達関数である。但し、アクチュエータの応答性の遅れは解析では考慮していない。この加速度フィードバック制御により、スピーカー本体部に外力FYが加わったとき、各アクチュエータはフロント側とリアー側の相対変位Z−Z(スピーカー本体部の傾斜角θに相当)、及び絶対変位Z,Zを抑制するように駆動される。加速度フィードバックにより、共振点におけるピークが低い周波数に移行する。この共振ピークを低減するために、本実施例では、加速度フィードバック信号に比例・積分回路を経由させることにより、アクチュエータを駆動した。上記各伝達関数(GR1、GR1、GA1、GA2)における比例ゲインKP=103、積分ゲインKI=6×103である。(図42の制御回路GA参照)
【0114】
図20は、外力FYを与えたときの2軸間の相対変位Z−Zの周波数応答特性(制振特性)を示すものである。パッシブ・インシュレータのばね剛性KZ=14.1N/mm、スピーカー本体部質量m=63.4Kg、スピーカー本体部の重心位置YG=a1=614mm、ZG=b1=183mmと仮定した。同図において、
(i)グラフ1・・・アクティブ制御を施さない場合を示し、パッシブ・インシュレータ(図1の5a〜5d、6a〜6d)だけでスピーカー本体部を支持した場合に相当する。
(ii)グラフ2・・・フロント側とリアー側の各軸に絶対加速度フィードバックを施した場合を示す。この場合は、GR1=GR2=0である。
(iii)グラフ3・・・フロント側とリアー側のアクチュエータに2軸間の相対加速度フィードバック、すなわちスピーカー本体部の傾斜角θが抑制されるようにアクティブ制御を施した場合を示す。この場合は、GA1=GA2=0である。
(iv)グラフ4・・・2軸間の相対加速度フィードバックに加えて各軸の絶対加速度フィードバックを施した場合(2+3)である。
【0115】
アクティブ制御を施さない場合のグラフ1と比べて、アクティブ制御を施した場合のグラフ2、3、4の振動抑制効果(制振効果)は顕著であるが、グラフ2、3、4に大きな差は見られない。上記結果から、フロント側とリアー側にアクチュエータを各一個配置して、スピーカー本体部の振り子運動を抑制するためには、
(1)各軸に絶対加速度フィードバックを施す(上記2)。
(2)2軸間に相対加速度フィードバックを施す(上記3)。
上記(1)(2)のいずれかを選択すればよい。図21は、f=20Hz、振幅1.0Nの正弦波の外力FYを与えたときの2軸間相対変位Z−Zの過渡応答特性を求めたものである。2軸間相対加速度フィードバックを施すことにより、スピーカー本体部の振り子運動が大幅に抑制されることがわかる。
【0116】
以上の解析結果に示すように、本発明の実施例では、パッシブ・インシュレータを低い剛性に設定して、アクティブ・インシュレータに制御を施すことにより、音響特性上の不具合(ブーミー現象)を解消することができた。アクティブ・インシュレータの制御軸数は、Xθ軸、Y軸、Z軸、の3軸、あるいは、Y軸の振動が無視できるならば、Xθ軸とZ軸の2軸に簡素化できる。
【0117】
本インシュレータを適用したオーディオ・シシテムにより、試聴実験の結果で前述したように、奥域感、分解能、透明感、低域の力感(ダンピング特性)などの点で、ベストな音響特性を得ることができた。ブーミー現象の解消と共に、ステレオ音像の定位感(分解能:音像のフォーカス感)も飛躍的に向上するのは、リスナーの左右の耳に入る二つの音波の微妙な位相差がステレオ音像の定位感に重要な影響を与えるからで、この音像の定位感を損ねていたスピーカー本体部のY軸方向の振動がアクティブ制御により解消されたからだと思われる。また、加速度フィードバックを施すことにより、系の固有値が低下して除振効果(スピーカー本体部と床面間の振動遮断効果)も大幅に改善される。パッシブ・インシュレータのばね剛性を比較した試聴実験の結果(表1)から分かるように、固有値が低い程、奥域感、分解能、透明感などが向上する。本実施例で、すべての評価項目でベストな音響特性を得ることができた理由は、スピーカー本体部の剛体振動が抑制されただけではなく、アクティブ制御による除振性能の向上が多いに貢献している。したがって、本発明を適用すれば、パッシブ・インシュレータのばね剛性が十分に高い場合でも、アクティブ制御により系の固有値を低下させることで除振効果を高めて、音響特性の向上を図ることができる。パッシブ・インシュレータのばね剛性が高い程、オーディオ機器を安定支持できるため、実用上は利便性が高く、耐震対策に対しても安全面に対する裕度を増すことができる。特に昨今のトレンドであるトールボーイ型スピーカーなどに本発明を適用するとき有利となる。
【0118】
本実施例では、アクティブ・インシュレータを駆動するアクチュエータに、ローレンツ力アクチュエータであるボイスコイルモータを用いた。ボイスコイルモータの場合、周波数応答特性はせいぜい100〜200Hz程度が限界であり、制御による振動減衰効果も上記周波数が上限値である。したがって、この上限値より高い、電子制御が無効な高周波数の振動伝達特性は、実施例に適用した既提案パッシブ・インシュレータだけで決まる特性になる。この点を利用すれば、Z軸方向の高周波振動に関しては、良質な音響素材(たとえば、図5の上スリーブ34と下部スリーブ35)のキャラクターを利用した再生音のチューニングが図れる。要約すれば、Z軸方向の有害(Harmful)な低周波振動は既提案パッシブ・インシュレータとアクティブ制御により低減し、有益(Useful)な高周波振動は、既提案パッシブ・インシュレータが本来持つ特性を利用する。
【0119】
[5]本発明のその他の実施例
[5-1]一体型ハイブリッド・インシュレータ
図22は本発明の実施形態2に係るアクティブとパッシブの一体型インシュレータを示し、図22aは上面図、図22bは正面断面図である。図23は、本発明の実施形態2に係るオーディオ・システムの矢視図である。本実施例では、スピーカーの静的荷重を支持するパッシブ・インシュレータと変動荷重による振動を制振制御するアクティブ・インシュレータを一体化することにより、インシュレータの総数を減らし、システムの簡素化を図ったものである。上記2つのタイプのインシュレータを一体化したものを、本実施例ではアクティブとパッシブの一体型ハイブリッド・インシュレータ(略称:一体型ハイブリッド・インシュレータ)と呼ぶことにする。図23において、101、102は左右に配置された2チャンネルのステレオ用スピーカーであり、各々のスピーカーはボード103、104の上に搭載された3個の一体型ハイブリッド・インシュレータよって支持されている。各インシュレータの配置方法をわかり易くするために、右側スピーカー102を浮上した状態で図示している。105a〜105c、及び、106a〜106cは左右のスピーカー101、102の底面3隅に配置された一体型ハイブリッド・インシュレータ、107は前記一体型ハイブリッド・インシュレータを制御するコントローラである。以下、一体型ハイブリッド・インシュレータの具体的な構成について説明する。図22に示す一体型ハイブリッド・インシュレータ(8bの場合)の具体的構成は、スプリングコイルの線径の太さ以外は、実施形態1で説明したアクティブ・インシュレータとほぼ同様である。110は上部ベース台(荷重支持部)、111は下部ベース台(固定部)である。静的荷重を支持するスプリングコイルが左右対称に配置され、その中央部にボイスコイルモータが配置される。以下、装置の左側に設けられたスプリングコイル、及びサージング防止部材に注目して説明する。112は下部ベース台111の左側に固定された円柱部、113は円柱部を下部ベース台111に固定するボルト、114は円柱部112の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。サージング防止部材114は、円筒状の筒部114aと、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片114bで構成した。上部ベース台110と下部ベース台111の挟み込まれるように、スプリングコイル115(弾性部材)が設けられている。粘弾性片114bは、スプリングコイル115の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。サージング防止部材114の高さは、スプリングコイル115がスピーカーなどの搭載物によって圧縮された時の最小寸法よりも小さく形成されている。スプリングコイル115の下端外周部は下部ベース台111に形成された位置決め部116に、スプリングコイル115の上端外周部は上部ベース台110底面に形成された位置決め部117に嵌まり込むようになっている。また、装置の右側に設けられたスプリングコイル、及びサージング防止部材なども左右対称に構成した。すなわち、円柱部118、円柱部を固定するボルト119、サージング防止部材120、このサージング防止部材120を構成する筒部120a、粘弾性片120b、スプリングコイル121、このスプリングコイル121の下端と上端を固定する位置決め部122,123から構成される。124はボイスコイルモータであり、固定側125と可動側126から構成される。127は固定側に設けられた永久磁石、128は固定側125を下部ベース台111に締結するボルト、129は可動側26を上部ベース台110に締結するボルト、130は可動側126に設けられた電磁コイル部である。131は加速度センサであり、スペーサ132を介して、ボルト133により上部ベース台110に締結される。本実施例では、2つのスプリングコイル115,121を左右対称に配置して、かつその端部を位置決めすることで、前記ボイスコイルモータの固定側125と可動側126に設けられた電磁コイル部130の軸芯を同一に保つことができる。また、上部ベース台110に外乱荷重が加わった場合でも、電磁コイル部130にはその軸芯が固定側125に対してセンタリングする復元力が働く。ちなみに、スプリングコイル一個だけでは、電磁コイル部の固定側に対するセンタリング作用は得られない。本実施例では、パッシブ・インシュレータとアクティブ・インシュレータを個別に設けた実施形態1の場合と比べて、スプリングコイルのばね剛性が大きいため、電磁コイル部130の軸芯が固定側125に対してセンタリングする復元力をより大きくできる。
【0120】
図24は、本発明の実施形態3に係る一体型ハイブリッド・インシュレータの正面断面図である。本実施例では、スピーカーの静的荷重を支持するパッシブ・インシュレータと、変動荷重による振動を制振制御するアクティブ・インシュレータを一体化するために、アクチュエータをスプリングコイルの内部に収納することにより、インシュレータ構造の一層の簡素化を図ったものである。201は上部スリーブ(荷重支持部)、202は下部スリーブ(固定部)、203は前記下部スリーブの底面から突設して形成された筒部、204は前記筒部の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。本実施例では、上部スリーブ201と下部スリーブ202は音響素材として良好な特性を有する真鍮を用いた。サージング防止部材204は、実施形態1のパッシブ・インシュレータ(図5)同様に、円筒状の筒部と、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片で構成した。上部スリーブ201と下部スリーブ202の内部にスプリングコイル205(弾性部材)が設けられている。サージング防止部材204の粘弾性片は、スプリングコイル205の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。サージング防止部材204の高さは、スプリングコイル205がスピーカーなどの搭載物によって圧縮された時の最小寸法よりも小さく形成されている。スプリングコイル205の下端外周部は前記下部スリーブ202底面に形成された位置決め部206に、スプリングコイル205の上端外周部は前記上部スリーブ底面に形成された位置決め部207に嵌まり込むようになっている。そのため、本インシュレータはスプリングコイル205を装着した状態で、両部材201,202の軸芯が一致した状態を保つことができる。208はボイスコイルモータであり、固定側209と可動側210から構成される。211は固定側に設けられた永久磁石、212は固定側209を下部スリーブ202に締結するボルト、213はボイスコイルモータの可動側210を上部スリーブ201に締結するボルト、214は可動側210に設けられた電磁コイル部である。上記構成からなる実施例のインシュレータは、支持系の静的ばね剛性は、ほとんどスプリングコイル205のばね剛性の選択により決定される。このスプリングコイルによりスピーカー本体部の質量を支持して平衡状態を保つと共に、ボイスコイルモータ208により動的変動荷重(オーディオ機器自身が発生)によるオーディオ機器の振動を制振制御する。
【0121】
図25は、前記一体型ハイブリッド・インシュレータの組み立て図を示すもので、下部スリーブ202にボイスコイルモータ208の固定側209とサージング防止部材204を装着し、上部スリーブ201にはボイスコイルモータ208の可動側210を装着する。両部材201、202の間に挟みこむように、スプリングコイル205の下端を下部ベース台202の位置決め部206に、このスプリングコイル205の上端を上部ベース台201の位置決め部207に装着する。本実施例では、スプリングコイル205の両端部を位置決めすることで、前記ボイスコイルモータの固定側209に設けられた永久磁石211と可動側210に設けられた電磁コイル部214の軸芯を同一に保つことができる。また、上部スリーブ201に外乱荷重が加わった場合でも、電磁コイル部214にはその軸芯が固定側209に対してセンタリングする復元力が得られる。
【0122】
図26は、本実施形態に係る一体型ハイブリッド・インシュレータを適用した場合のオーディオ・システムの矢視図である。215、216は左右に配置された2チャンネルのステレオ用スピーカーであり、各々のスピーカーはボード217,218の上に搭載された3個の一体型ハイブリッド・インシュレータ219a〜219c(219cは省略)と220a〜220cによって支持されている。221aと221b、及び222aと222bは、左右のスピーカー上面部のフロント側とリアー側に配置された加速度センサ、223は前記一体型ハイブリッド・インシュレータを制御するコントローラである。本実施例においては、加速度センサを振動変位の最も大きいスピーカー本体部上面の前後に各1個づつ配置することにより、ブーミー現象とステレオ音像の定位感を損ねる主要因である剛体振動を精度よく検出できる。加速度センサは、スピーカー本体部に内蔵する構成でもよい。スピーカー本体部に配置する前記加速度センサをコードレスにすれば、前記加速度センサの設置の自由度をおおいに増すことができる。たとえば、後述するトールボーイ型スピーカーの頂点部にも、美観を損ねることなく加速度センサを設置できる。加速度センサを床面に設置した場合は、床面の振動を検出できる。床面の振動情報は20〜100Hz程度の低い振動数であり、コードレスによる信号伝達は技術的に容易で、オーディオ再生のノイズ源になる等のリスクは無い。後述するように、フィードフォーワード制御を行えば、床面の剛性が弱い場合でも、床面の振動がスピーカーの振動に与える影響を僅少化できる。加速度センサをリスナー近傍の床面に設置して、かつ、スピーカー本体部側にも加速度センサを設ければ、リスナーとスピーカー本体部間の相対的な振動を極小化する制御も可能である。この場合、リスナーとスピーカーの間に介在する構造物はどのように振動しても音響特性に影響を与えないことになり、究極のオーディオ・システムが実現できる。
【0123】
[5-2]アクティブ・インシュレータをさらに簡素化する方法
図27は、本発明の実施形態4に係るアクティブ・インシュレータの正面断面図である。本実施例では、スピーカー1台当たりのアクチュエータ数を2個から1個に削減して、制御軸数を減らすことにより、アクティブ・インシュレータのさらなる簡素化を図ったものである。500は上部ケース、501は下部ベース台(固定部)である。502はボイスコイルモータであり、固定側503と可動側504から構成される。505は可動側504に設けられた永久磁石、506は固定側503を下部ベース台501に締結するボルト、507は可動側504を上部ケース500に締結するボルト、508は固定側503に設けられた電磁コイル部である。509は加速度センサであり、ボルト510により上部ケース500に締結される。上部ケース500と下部ベース台501に挟み込まれるように、スプリングコイル511が設けられている。スプリングコイル511の下端外周部は下部ベース台501に形成された位置決め部512に、スプリングコイル511の上端外周部は上部ケース500底面に形成された位置決め部513に嵌まり込むようになっている。このスプリングコイル511により、ボイスコイルモータ502の固定側503と可動側504の同芯が維持される。514は加速度センサ509からの信号を基に、ボイスコイルモータ502を制御・駆動するための制御装置であり、インシュレ−タ内部に組み込まれる。ステレオの2チャンネルの場合、あるいはマルチチャンネルの場合、共有化した制御装置(電源も含む)をひとつのチャネル用のインシュレ−タ内部にだけに組み込めばよい。515は上部ケース500のスピーカー・フロント側に設けられた操作パネル(想像線で示す)である。下部ベース台501は上部ケース500に対して、狭い隙間516を保った状態で収納される構成になっているため、ボイスコイルモータ502の中心を軸芯とする部材500と501の相対的な回転を防止できる。517は床面側に設置された加速度センサ(2点鎖線で示す)であり、ボルト518により下部ベース台501に締結される。この加速度センサ517は、[補足説明]で後述するが、床面の振動を検出するために用いられる。本実施例では、アクティブ・インシュレータのスプリングコイル511に、サージング防止部材(たとえば、実施形態1で適用した粘弾性ゴム)は施してしない。その理由として、スプリングコイル511はボイスコイルモータ502の固定側503と可動側504の同芯を維持するだけの目的で装着されるため、コイルの線径とばね剛性は十分に小さくてよく、実測の結果、サージング共振現象は無視しても支障はなかったからである。但し、両部材503、504間の同芯を保つセンタリング効果をより強力にするために、スプリングコイル511のばね剛性を大きくする場合、あるいは、スプリングコイル511を静荷重を支持するパッシブ・インシュレータとて用いる場合は、スプリングコイル511の内周側、あるいは外周側にサージング防止部材を装着する構造にすればよい。
【0124】
さて、本発明のアクティブ・インシュレータをさらに簡素化するために、[4]節で行ったアクティブ制振制御の解析方法を用いて、次の方策について性能を評価した。フロント側とリアー側に配置した加速度センサ信号の差、すなわち、2軸間の相対加速度信号を用いて、フロント側だけに設けられたアクチュエータ1軸だけを制御する。この場合、1個のアクチュエータと2個のセンサを用いる。
【0125】
図28は、上記アクティブ・インシュレータをスピーカー本体部の底面に設置した場合の正面断面図である。550はフロント側に配置されたアクティブ・インシュレータ(図27と同一構成)、551はアクティブ・インシュレータ550に内蔵されたフロント側加速度センサである。552は、リアー側加速度センサであり、治具553に装着されてスピーカー554のリアー側側面に取り付けられる。555と556はスピーカー554の静荷重を支持するためのパッシブ・インシュレータ(2点鎖線で示す)、557は床面である。
【0126】
図29は、上記アクティブ・インシュレータ外力FYに対する2軸間の相対変位Z−Zの周波数応答特性(制振特性)(グラフ2)を示すものである。同図中に、アクティブ制御無しの場合(グラフ1)を対比して示す。共振点でのピークを低減させるために、加速度フィードバック信号に比例・積分回路を経由させることにより、アクチュエータを駆動した。比例・積分回路の比例ゲインKP=103、積分ゲインKI=6×103である。パッシブ・インシュレータのばね剛性、スピーカー質量なども実施形態1の場合と同一条件である。
【0127】
図30は、上記アクティブ・インシュレータに、f=10Hz、振幅0.1Nの正弦波の外力FYを与えたときの2軸間相対変位Z−Zの過渡応答特性(グラフ2)を求めたものである。アクティブ制御を施さない場合(グラフ1)と比較すれば、スピーカー本体部の振り子運動が大きく抑制される。前述した2セットのアクティブ・インシュレータを用いた場合の解析結果(実施形態1の図20、図21)と比較すると、制振性能は若干低下するが、実用的には本実施例の方法で十分な制振性能が得られることがわかる。
【0128】
図31は、本発明の実施形態4に係るオーディオ・システムの矢視図である。561、562は左右に配置された2チャンネルのステレオ用スピーカーであり、各々のスピーカー本体部はボード563、564の上に搭載された1個のアクティブ・インシュレータと4個のパッシブ・インシュレータによって支持されている。565a〜565d、及び、566a〜566dは左右のスピーカー561、562の底面4隅に配置されたパッシブ・インシュレータである。567、及び、568は左右の各スピーカー561、562の中央部に配置されたアクティブ・インシュレータ、569は前記アクティブ・インシュレータを制御するコントローラである(リアー側加速度センサは図示せず)。
【0129】
図32は、本発明の実施形態5に係るアクティブ・インシュレータの正面断面図である。前述した実施例は、オーディオ機器の振動検出に加速度センサを用いて、かつこの加速度センサの信号を用いてアクティブ制振制御を行う場合を示した。この加速度センサの代わりに変位センサを用いて、あるいは、変位センサと加速度センサを併用してアクティブ制振制御を行うことができる。
【0130】
800は上部ケース、801は下部ベース台(固定部)である。802はボイスコイルモータであり、固定側803と可動側804から構成される。805は可動側804に設けられた永久磁石、806は固定側803に設けられた電磁コイル部である。807はボイスコイルモータ802の固定側803と可動側804の同芯を保つためのスプリングコイル、808はアクティブ・インシュレータに内蔵された制御装置である。809は磁歪式リニア変位センサであり、810はヘッド部、811は磁歪ロッド、812は位置検出マグネット、813は位置検出マグネット812を収納して、上部ケース800に固定される筒部である。図中には、変位センサ809だけを記載しているが、実施形態4同様に、加速度センサ(図示せず)を上部ケース800、あるいは下部ベース台801に固定するように配置しても良い。
【0131】
[5-3]2自由度アクチュエータによるアクティブ・インシュレータ
図33は、本発明の実施形態6に係るアクティブ・インシュレータの具体的構成を示す正面断面図である。実施形態1で示したアクティブ・インシュレータはZ軸方向のみに移動するアクチュエータ2セットでオーディオ機器を支持したため、Xθ軸とZ軸の2軸制御であった。本実施例は、駆動軸が傾斜したアクチュエータを有するアクティブ・インシュレータを2セット組み合わせたものである。そのため、本実施例をスピーカーに適用した場合、スピーカー本体部の前述したXθ軸の振り子運動だけではなく、Y軸方向振動も抑制できる。本実施例の構造は、適用するインシュレータの水平方向ばね剛性KYを大きくとれない場合、たとえば、空気圧浮上方式などに適用する場合に有効である。
【0132】
基本的構成は、スプリングコイル(アクチュエータ用ばね)が左右対称に配置され、その中央部に傾斜したボイスコイルモータが配置される。301は上部ベース台(荷重支持部)、302は下部ベース台(固定部)である。303は下部ベース台302の左側に固定された円柱部、304は円柱部を下部ベース台302に固定するボルト、305は円柱部303の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。サージング防止部材305は、円筒状の筒部と、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片で構成した。上部ベース台301と下部ベース台302に挟み込まれるように、スプリングコイル306(弾性部材)が設けられている。サージング防止部材305の高さは、スプリングコイル306がスピーカーなどの搭載物によって圧縮された時の最小寸法よりも小さく形成されている。スプリングコイル306の下端外周部は下部ベース台302に形成された位置決め部307に、スプリングコイル306の上端外周部は上部ベース台301底面に形成された位置決め部308に嵌まり込むようになっている。また、装置の右側に設けられたスプリングコイル、及びサージング防止部材なども左右対称に構成した。すなわち、円柱部309、円柱部を固定するボルト310、サージング防止部材311、スプリングコイル312、このスプリングコイル312の下端と上端を固定する位置決め部313,314から構成される。315は下部ベース台302に対して傾斜して設けられたボイスコイルモータであり、固定側316と可動側317から構成される。
【0133】
318は可動側に設けられた永久磁石、319は上部ベース台301にボルト320で固定された上部三角柱部材、321は下部ベース台302にボルト322で固定された下部三角柱部材、323は固定側316に設けられた電磁コイル部である。324はボイスコイルモータの固定側316と可動側317の同芯を保つためのスプリングコイルである。325はボイスコイルモータの可動側317と上部三角柱部材319の間に設けられた軸受である。この軸受を両部材317、319の間に介在させることにより、両部材317、319は相対的に傾斜面方向に自在に摺動できる。326は上部三角柱部材319に装着された加速度センサである。
【0134】
図34は、本実施例のアクティブ・インシュレータ2個分をスピーカー底面の前後に配置した場合の正面断面図である。327a、327bはアクティブ・インシュレータ、328はスピーカー、329は床面である。スピーカー底面の前後に配置した2個のアクティブ・インシュレータと、複数のパッシブ・インシュレータ(図示せず)で構成されるオーディオ・システムにより、スピーカー自身発生する変動荷重による変位:Xθ軸、Y軸、Z軸のアクティブ制振制御ができる。
【0135】
[5-4]実施例に適用したパッシブ・インシュレータの特徴
さて、上述した本発明の実施形態に適用した既提案(特許出願中)のパッシブ・インシュレータについて、図5を用いてもう少し詳しく説明する。パッシブ・インシュレータは、長い筒形形状の上部スリーブ34が下部スリーブ(固定部)を、スプリングコイル38を介在して、収納する構造になっている。この構造により、次の役割を担うことができる。
(1)オーディオ機器の静荷重を支持する
(2)フローティング方式と硬質材料方式の2つのインシュレータの長所を「同時に併せ持つ」ことができる。
(3)オーディオ機器(スピーカー)に衝撃的外乱荷重が加わったとき、転倒防止が図れる。
【0136】
上記(1)については、既に説明済みなので省略する。上記(2)の理由について、もう少し詳しく述べる。上部スリーブ34の上面から床面(図示せず)に至る振動の経路を振動伝播経路ΦZとする。太い線径を有するスプリングコイル38は、オーディオ機器が発生する振動を床面に伝播する「音響管」(Sound tube)としての役割を担う。さらに、この振動伝播経路ΦZから分岐した振動伝播経路ΦRを筒型形状部材で構成すると、「風鈴効果」(Wind bell effect)ともいうべき以下述べる顕著な音響特性の改善が図れる。本実施例において、上部スリーブ34内部はスプリングコイル38を収納する空洞を有し、一方の端部を密閉構造、もう一方の端部41を大気解放端とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。本実施例では、「硬質材料インシュレータの効果」を活かす新たな手段として、風鈴の持つさわやかな音色に注目した。ちなみに、風鈴は日本独特の文化ではなく、その歴史は古く世界中に存在する。風鈴が奏でる透明感のある深い音色と余韻のある音は遠くまでよく響き、風が吹くたび、細く凛と鳴り響く。すなわち、前記振動伝播経路ΦZに風鈴の振動系ΦRを組み合わせることにより、良質な音響素材がもたらす効果が一層増強される。振動系ΦRは上部スリーブ34の端部41を振動伝播経路ΦRの解放端として、前記振動伝播経路ΦZに対して並列配置された分布定数系の質量とバネで決まる振動系として振動伝播経路ΦZに影響を与える。風鈴が糸で吊り下げられて妙なる音色を奏でることができるように、上部スリーブ34の上端部は剛性の小さなスプリングコイル38で柔らかく支持されている。
【0137】
以下、本インシュレータをスピーカーに搭載した試聴実験の結果であるが、上部スリーブ34の固有振動数とその高調波成分が、オーディオの再生音に不自然な響きをもたらす不具合はなかった。多くの楽器を奏でる際に発生する高次倍音や非協和音成分(擦動音・擦過音)は、楽器本来の音を損ねるのではなく、逆に音に深みと味わいを与える。本実施例では、上部スリーブ34の材料に音響素材として良好な特性を有する真鍮を用いたが、この場合、透明感がありながらも深みのある音色と余韻が再生音に加味されると共に、音の定位感、密度感、スケール感が大幅に向上する効果が得られた。ちなみに、この音響効果の確認は、筒型形状の上部スリーブ34の代わりに、円筒部(風鈴)を有しない円盤形状の支持板を装着して、両者の試聴実験結果を比較したものである。
【0138】
図35に上部スリーブ34を対象に固有値解析を行った結果を示す。解析条件はスリーブ外径φ74mm、スリーブ内径φ60mm、スリーブの半径方向厚み6mm、スリーブ高さ52mmとして、材料は真鍮である。可聴領域内(f<15000Hz)で数多くの固有振動モードが存在するが、その中で図35(a)〜図35(d)の4ケースだけを抽出した。固有値解析のため余韻時間の長さまでは評価できないが、これらの複数の固有振動モードが相乗されて、再生音に深みのある音色の変化を与え、また高周波数の固有振動モードが定位感の向上に寄与しているものと思われる。ちなみに、ステレオ再生における音場感・定位感は高音域の特性に依存する。従来、多層構造インシュレータ(たとえば、特許文献4)として商品化されているものは、音響インピーダンスの異なる各種材料を縦方向(縦振動の主伝達経路Φzの方向)に重ね合わせたもので、本実施例のように振動伝播経路ΦZから分岐して並列配置された振動系ΦRを有するものではない。本実施例では、前記上部スリーブの材料に真鍮を用いたが、たとえば、錫の含有量の多い銅合金である「さはり材」を用いれば、さらに雅味豊かで澄んだ高音特性を有するインシュレータとなる。すなわち、前記上部スリーブの材料に、高周波域での響きの親和性を考慮した良質な音響素材(たとえば、固有音響インピーダンスが107Ns/m3以上)を用いることにより、効果的に音響特性の改善が図れる。但し、リスナーの音の好みに合わせるならば、前記上部スリーブに適用する材料に制約は無く、硬質材料インシュレータの場合と同様に、音響素材のキャラクターの違いを活かした再生音のチューニングが図れる。
【0139】
上記(3)の理由は次のようである。実施例では、前述した「風鈴効果」を得るために設けた長い筒状のスリーブを利用して、インシュレータに搭載されたオーディオ機器に地震などによる衝撃的な水平方向外乱荷重が加わった場合、オーディオ機器の傾斜を最小限に抑えて、転倒を防止することができた。
【0140】
パッシブ・インシュレータは、長い筒形形状の上部スリーブ34が下部スリーブ35(固定部)を、スプリングコイル38を介在して、半径方向の狭い間隙δを保って収納する構造になっている。たとえば、スピーカーに水平方向外乱荷重が加わったとき、パッシブ・インシュレータの上部スリーブ34は荷重Fにより図5中の想像線で示すように傾斜する。このとき、上部スリーブ34と下部スリ−ブ35の半径方向の狭い間隙δが、上部スリーブ34のある値以上の傾斜を抑止する。一方、前述した「風鈴効果」を得るためには、前記上部スリーブは十分な長さが必要である。したがって、この構造により、(1)外乱荷重が加わった場合にスピーカーの傾斜量を小さくして、転倒を防止する、(2)十分な風鈴効果を得る、上記(1)(2)を同時に満足できる。
【0141】
本インシュレータの上に高さの異なる数種類のスピーカーを搭載して、スピーカーに大きな水平方向外乱荷重を与えて、安定性・安全性を評価した。ここで上部スリーブの長さをL、スピーカーの高さLZ、スピーカー上端中央部の変位Y0、とすれば、幾何学的関係からY0/LZ=δ/Lである。たとえば、スピーカーの高さLZ=1000mm、スピーカー上端部の許容できる変位Y0=30mmとすれば、Y0/LZ=0.03である。この場合、δ/L≦0.03に設定すれば実用上の不具合は無く、スピーカー本体はすみやかに正常な姿勢に復帰した。このとき、L=60mmの場合はδ≦1.8mmである。また、δ/L≦0.02に設定すれば全く支障のない結果が得られた。また、多数のオーディオファイルを対象にした評価実験の結果、本インシュレータを適用するスピーカーの仕様(高さ、設置面積、質量など)に変更がある場合でも、間隙δ≦1.0mmに設定しておけば、スピーカーを取り換えても実用上はほとんど支障がなかった。
【0142】
本実施例とは逆に、下部スリーブ35が上部スリーブ34を被嵌するような構成でもよい。あるいは、上部スリーブ34の上面を床面側に、下部スリーブ35の下面がスピーカー(オーディオ機器)側に接するような配置方法でもよい。
【0143】
[5-5]空気圧を静的荷重支持手段に用いたハイブリッド・インシュレータ
図36は、本発明の実施形態7に係るハイブリッド・インシュレータを示し、図36aは側面断面図(図36bのA-A断面図)、図36bは図36aのB-B矢視図である。本実施例は、パッシブ・インシュレータの役割であるオーディオ機器の静的荷重支持手段に空気圧を用いたものである。401はリアー側空気室A、402はリアー側空気室B、403はフロント側空気室、404は上部ベース台(荷重支持部)、405は下部ベース台(固定部)である。406はリアー側空気室A401とフロント側空気室403を繋ぐ配管、407はリアー側空気室B402とフロント側空気室403を繋ぐ配管、408はフロント側空気室403と継ぎ手409を繋ぐ配管である。410、411、412はアクティブ・アクチュエータa、b、cである。413、414、415は加速度センサa、b、cである。図37は図36bのC-C断面図であり、アクティブ・アクチュエータcの詳細を示している。アクティブ・アクチュエータcはボイスコイルモータ412から構成され、416はボイスコイルモータ412の固定側、417は可動側、418は固定側に設けられた永久磁石、419は固定側416を下部ベース台405に締結するボルト、420は可動側417を上部ベース台404に締結するボルト、421は可動側417に設けられた電磁コイル部である。オーディオ機器を空気圧で支持するパッシブ・インシュレータ(エアーフローティング・ボード)は既に実用化されているが、従来エアーフローティング・ボードをスピーカーに適用した場合、スピーカーの種類などの条件次第ではスピーカー本体部の剛体振動により、低音域のブーミー現象が発生した。その理由として、従来エアーフローティング・ボードの場合、搭載物の質量を分布した圧力で支持するため、回転方向(Xθ方向)のばね剛性Kが小さく、ブーミー現象が発生し易いからである。本実施例のハイブリッド・インシュレータを適用すれば、スピーカー本体部の剛体振動を抑制できる。
【0144】
図38は、本発明の実施形態8を示し、図38aは側面断面図(図38bのA-A断面図で配管は省略)、図38bは図38aのB-B矢視図である。本実施例は、パッシブ・インシュレータに、小径の空気圧シリンダを用いたものである。351はリアー側空気圧シリンダa、352はリアー側空気圧シリンダb、353はフロント側空気圧シリンダa、354はフロント側空気圧シリンダbである。355は上部ベース台(荷重支持部)、356は下部ベース台(固定部)である。357は各空気圧シリンダと空気圧供給源を繋ぐ配管、358は空気圧供給口である。さて、搭載物の質量を分布した圧力で支持する従来エアーフローティング・ボードの場合は、系の固有値を小さくできなかった。その理由として、工業用の卓上除振台と比べて、オーディオ機器の質量は小さく、重量級スピーカーの場合でも100〜120kg程度、アナログプレイヤーの場合でも20kg程度しかないからである。そこで、搭載物の質量を分布した圧力で支持するのではなく、小径シリンダ(空気ばね)で集中荷重として支持すれば、搭載物の質量mが小さくても十分に低い固有値が得られることに注目した。ここで、mを搭載物の質量、Hを空気圧シリンダの高さ、Paをシリンダ(密閉容器内部)圧力、P0を大気圧、κを空気の断熱指数、gを重力加速度とすれば、固有値f0は次式で表される。
【0145】
【数6】

Asを受圧面積とすれば、mg=As(Pa-P0)である。空気圧シリンダの高さH=50mm、搭載物質量m=60Kgを4個の空気圧シリンダで支持した場合の計算結果を表Aに示す。
【0146】
【表2】

【0147】
表Aの結果からわかるように、シリンダ外径Dを小さくする程、固有値を小さくできる。但し、シリンダ内圧力が増大するため、長期使用時における高圧空気のリーク対策の関係から、実用上はPa <500KPaに設定するのが好ましかった。
【0148】
本実施形態8で示した、(1)オーディオ機器を集中荷重として受ける場合、実施形態7で示した、(2)分布荷重として受ける場合、上記(1)(2)の区別を次のように定義する。オーディオ機器を支持する受圧部の最も大きい部分の有効直径をD、受圧部の空気補充時の高さをHとしたとき、D/H<3.0の場合はオーディオ機器を集中荷重として受ける構造であると定義する。
【0149】
エアーフローティング・ボードの場合、シリンダ、あるいは配管などから空気のリークがあり、定期的に手動ポンプで空気を補充する必要があった。空気封入時のシリンダ高さを常時センサで計測して、シリンダ高さHがある値以下に降下したときに、エアーポンプにより自動的に空気を補充する構成にすれば、エアーフローティング・ボード方式の使い勝手はおおいに改善される。シリンダ高さHの代わりに、シリンダ内圧力を検出してもよい。
【0150】
図39は、本発明の実施形態9を示し、エアーフローティング・ボードに前述した「風鈴効果」をもたらす筒型形状の部材を設けた場合を示す。380は空気圧シリンダ、381は上部ベース台(荷重支持部)、382は下部ベース台(固定部)、383は上部スリーブである。従来のエアーフローティング方式のインシュレータの場合、オーディオ機器の設置個所(381に相当)から床面(382に相当)に伝達される高周波振動385は、インシュレ−タで完全遮断されるために、リスナーの好み、音楽のジャンルなどに合わせた音質のチューニングが硬質材料インシュレータと比べて難しく、音が没個性的になるという欠点があった。本実施例では、上部スリーブ383の外面筒部384は、その下端部を大気解放端とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。オーディオ機器(図示せず)が発生した振動385は、上部スリーブ383の振動系ΦRが有する多くの高周波振動モード(図35参照)を励起させる。その結果、風鈴に用いる良質な音響素材と形状の選択により、従来のエアーフローティング方式では得られなかった音に深みと余韻を与えることができる。風鈴効果をもたらす上部スリーブ383に相当する部材は、どの個所に設けても良い。たとえば、各空気圧シリンダから独立して設置してもよく、上部ベース台381の中央部に外径の大きなスリーブ(円筒形状でなくてもよい)を一個だけ設ける構造でもよい。
【0151】
空気圧シリンダ先端と荷重を受ける上部ベース台の接触面積Asが、Z方向の変形量によって連続的に増大する構造にして、搭載物の質量が小さいときはバネ剛性が小さく、載物の質量が大きいときはバネ剛性を大きくする。すなわち、接触面積をzの関数As(z)にする。たとえば、空気圧シリンダを変形可能な概略円錐形状にすれば、搭載部の質量に依存せず、固有値を一定にできる。
【0152】
さて、前述した図38bにおいて、359、360は実施例で説明した、リアー側及びフロント側のアクティブ・インシュレータ(鎖線で示す)である。このアクティブ・インシュレータが無くても、パッシブタイプの低固有値インシュレータとして本実施例は十分に実用可能である。しかし、アクティブ制御の機能を加えてハイブリッド・インシュレータとすることで、除振性能の向上により、さらなる低固有値化を図ると共に、オーディオ機器の剛体振動を抑制する制振性能が得られる。本実施例のエアーフローティング・ボードの場合、スプリングコイルと比べて、横方向ばね剛性KYが小さいが、実施形態6で説明した2自由度アクチュエータから構成されるアクティブ・インシュレータを用いれば、Xθ軸だけではなく、Y軸方向の振動も抑制できるため、オーディオ機器の剛体振動発生防止により効果的である。
【0153】
[5-6]高剛性インシュレータを用いてアクティブ制御を活用する方法
図40は、本発明の実施形態10に係るオーディオ・システムを示す矢視図である。前述した実施例(たとえば実施形態1)では、パッシブ・インシュレータのばね剛性を小さく設定しときに顕著になるブーミー現象を回避するために、アクティブ・インシュレータを導入する方法を示した。本実施例は、パッシブ・インシュレータのばね剛性を予め高く設定してブーミー現象の発生を回避した状態で、アクティブ制御を施すことで、除振性能が大幅に向上できることに重点を置いたものである。除振性能が向上することで、前述したように、奥域感、分解能、透明感などの音響特性が向上する。また、ばね剛性が高いインシュレータ程、たとえば、背と重心位置が高いスピーカー本体部をより安定に支持できる。図40において、761、762は左右に配置された2チャンネルのステレオ用スピーカー本体部であり、各々のスピーカー本体部はボード763、764の上に搭載された1個のアクティブ・インシュレータと4個のパッシブ・インシュレータによって支持されている。765a〜765d、及び、766a〜766dは左右のスピーカー本体部761、762の底面4隅に配置されたパッシブ・インシュレータである。767、及び、768は左右の各スピーカー本体部761、762の底面の概略重心位置に配置されたアクティブ・インシュレータ、769は前記アクティブ・インシュレータを遠隔操作するリモコンである。前記アクティブ・インシュレータは、たとえば、実施形態4(図27)の構造を適用すればよい。図41に各インシュレータの配置例を示す。除振特性は、前述したようにオーディオ機器本体部と床面間の振動減衰効果を示すものである。床面の変位をZ0、オーディオ機器(スピーカー)本体部の変位をZ、アクチュエータの駆動力をfとして、スピーカー本体部にZ軸方向以外の剛体振動は発生しないと仮定すれば、鉛直方向の力の釣り合いのみを考慮して
【0154】
【数7】

【0155】
図42は式(10)を基に得られる制御ブロック図である。実施形態1,4同様に、アクティブ制御に加速度フィードバックを施して、かつ共振ピークを低減するために、加速度フィードバック信号に比例・積分回路を経由させてアクチュエータを駆動するものとする。鎖線で示す制御回路GA(図19の制御ブロック図におけるGA1、GA2に相当)において、Kcをリモコンで操作する共通ゲインとして、比例ゲインKP×Kc=103、積分ゲインKI×Kc=6×103、スピーカー本体部質量m=63.4Kgであり、実施形態1、4と同一条件である。図43にパッシブ・インシュレータのばね剛性KZ=14.1N/mm、図44にばね剛性KZ=219N/mmにおける、周波数に対する除振特性の解析結果を示す。同図中の鎖線のグラフは、積分ゲインKI×Kc=0とした場合である。パッシブ・インシュレータのばね剛性が実施形態1と同様に、KZ=14.1N/mmの場合、アクティブ制御を施すことで、固有値(共振周波数)f0=4.75→0.6Hzに低下する。ばね剛性KZ=219N/mmの場合は、固有値f0=18.7→2.3Hzに低下する。パッシブ・インシュレータのばね剛性KZ=219N/mmにアクティブ制御を施した場合の除振性能は、たとえばf=10Hzで-25dB、ばね剛性KZ=14.1N/mmにアクティブ制御を施さない場合の除振性能は、f=10Hzで-10dBである。したがって、ばね剛性が硬いばねをパッシブ・インシュレータに用いた場合でも、アクティブ制御を施すことで除振性能は十分に向上でき、奥域感、分解能、透明感などの音響特性を向上させることができる。微振動の範囲のみアクティブ制御が有効にしておけば、スピーカー本体部に大きな振動を発生させる強い外乱荷重が加わったときは、元来の硬いばねが有効に作用して、スピーカー本体部を安定に支持できる。たとえば、加速度信号のレベルがある値以上を超えたときは、アクティブ制御を無効にするように設定すればよい。本実施例でオーディオ機器の底面に設置するアクティブ・インシュレータは、オーディオ機器の重心位置(あるいは、前後振動の節の位置)の直下でなくてもよく、この位置から若干フロント側あるいはリアー側に近い位置769(図41右図のΔY)に配置してもよい。この場合、アクティブ・インシュレータはオーディオ機器の鉛直方向荷重を支持すると共に、モーメント荷重も受けるため、スピーカーの場合、ブーミー現象に繋がる前後振動を少なからず抑制することができる。
【0156】
さて、図40では、リモコンを使用して遠隔操作により、アクティブ・インシュレータの制御条件を調節する場合を示しているが、この点についてもう少し詳しく説明する。オーディオ・システムにおけるプリアンプのトーン・コントロール(音質調整)、ラウドネス・コントロール(小音量時に低音と高音を増強する効果)などの音響特性を、リモコンを使用して操作する例は従来からあった。この場合、リスナーは必ずしもステレオ装置の最適エリアにいる必要はなかった。ここで、最適エリアとは、ステレオの二つのスピーカーを底辺とする三角形の頂点近傍を示す。アクティブ・インシュレータを用いて、その除振効果、制振効果をリモコンにより遠隔操作する方法は過去に前例を見ない。しかし、ステレオ音像の奥域感、定位感、分解能などは、リスナーの左右の耳に入る二つの音波(マルチチャンネルの場合は複数の音波)の微妙な位相差・時間差が重要な影響を与えるため、リスナーは最適エリアで調節するのが必須条件である。リモコンによる調節が有効な操作量としては、たとえば、制御ブロック図42における加速度フィードバックの共通ゲインKc、あるいは、実施形態4(図28)において、2軸間相対加速度信号のフィードバックゲイン(制御ブロック図19の制御回路GR1のゲイン)の大きさを調節することで、除振性能、あるいは、スピーカー本体部の振り子運動を抑制する制振性能を調節できる。
【0157】
[5-7]電磁歪アクチュエータを用いたオーディオ用・インシュレータ
以上の実施例は、弾性体であるスプリングコイル、あるいは空気圧をパッシブ・インシュレータとして、またローレンツ力アクチュエータをアクティブ・インシュレータとして両インシュレータを組み合わせたものであった。この構造の代わりに、ピエゾアクチュエータ、あるいは超磁歪アクチュエータなどの電磁歪アクチュエータを用いても、オーディオ用・インシュレータを構成することができる。
【0158】
図45は、本発明の実施形態11に係るハイブリッド・インシュレータを示す正面断面図である。本実施例では、アクティブ・インシュレータにピエゾアクチュエータを用いて、このアクティブ・インシュレータに直列にパッシブ・インシュレータとしての硬質材料インシュレータを配置する構成になっている。450は積層型ピエゾアクチュエータ、451はピエゾアクチュエータ端部のつば、452は上部スリーブ、453は多層構造による硬質材料インシュレータであり、音響素材453a〜453hから構成される。454はつば451と上部スリーブ452を締結するボルトである。455は下部ベースであり、この下部ベースと上部スリーブ452の間に音響素材453a〜453hが挟持される。456はピエゾアクチュエータ450の先端の荷重支持部である。457は加速度センサ、458は加速度センサと上部スリーブ452を繋ぐ連結部材、459はボルトである。本実施例のハイブリッド・インシュレータでは、アクティブとパッシブの両インシュレータは直列に繋がっているため、同一の搭載物荷重が加わる。電磁歪アクチュエータをアクティブ・インシュレータに適用した場合、支持荷重とストロークにも依存するが、通常数キロから数十キロヘルツの応答性を有するため、十分に可聴域の周波数範囲での振動制御ができる。多層構造による硬質材料インシュレータに用いる材料としては、マグネシウム、天然水晶、チタン、石英、ローズウッド材、ケヤキ材、ハイカーボン鋳鉄などが適用できる。あるいは、多層構造ではなく同一の素材で硬質材料インシュレータを構成してもよい。
【0159】
本実施例におけるアクティブとパッシブの両インシュレータの役割は、次ぎのようである。図46において、本インシュレータの周波数に対する振動伝達特性は「振動遮断領域」と「振動伝達チューニング領域」に分けることができる。
(1)アクティブ・インシュレータ
「振動遮断領域」であるf=1〜200Hzでは、オーディオ機器と床面間の振動伝達を制御により抑制する。Z軸方向のこの周波数領域の振動は、前述したように、元来、「有害(Harmful)な振動」である。また、f>200Hzの「振動伝達チューニング領域」における振動は、おおいに活用すべき「有益(Useful)な振動」である。この領域において、バンドパスフィルタのゲインを図中a〜cのごとく選択でき、周波数帯域(図示せず)も自在に選択できるようにする。
(2)パッシブ・インシュレータ
良質な音響素材の組み合わせにより、図中のグラフに示すように、高周波領域において多数の高調波成分を有する。
【0160】
上記(1)(2)を組み合わせた効果を要約すれば、複数の音響伝達特性が重畳された硬質材料インシュレータを用いて、アクティブ制御により音響特性がリスナー好みのキャラクターになるように、振動伝達特性が調節できる。前述したリモコンによる遠隔操作を利用して、上記「振動遮断領域」と「振動伝達チューニング領域」を調節してもよい。硬質材料インシュレータを用いる代わりに、等価な周波数特性を持つフィルターに置き換えてもよい。この場合、インシュレータの構造はハイブリッド式でなくてもよい。
【0161】
図47は、本発明の実施形態11に係るオーディオ・システムの矢視図である。461、462は左右に配置された2チャンネルのステレオ用スピーカーであり、各々のスピーカー本体部はボード463、464の上に搭載された3個のハイブリッド・インシュレータによって支持されている。465a〜465c、及び、466a〜466cは左右のスピーカー461、462の底面3隅に配置されたハイブリッド・インシュレータ、467はコントローラである。
【0162】
図48は、本発明の実施形態12に係るハイブリッド・インシュレータを示す正面断面図である。本実施例では、アクティブ・インシュレータにピエゾアクチュエータを用いて、このアクティブ・インシュレータに並列にパッシブ・インシュレータとしての硬質材料インシュレータを配置する構成になっている。470は積層型ピエゾアクチュエータ、471はピエゾアクチュエータ端部のつば、472は下部ベース、473はつば471と下部ベース471を締結するボルトである。474は多層構造による硬質材料インシュレータであり、音響素材474a〜474gから構成される。475は上部ベースであり、この上部ベースと下部ベース472の間に音響素材474a〜474hが挟持される。476はピエゾアクチュエータ450の先端の荷重支持部であり、この荷重支持部と上部ベース475は同一の高さに設定されている。したがって、本実施例のハイブリッド・インシュレータに搭載されるオーディオ機器は、アクティブとパッシブの両インシュレータにより、並列で荷重を分担支持される構成になっている。
【0163】
図49は、本発明の実施形態13に係るハイブリッド・インシュレータを示す正面断面図である。本実施例では、実施形態6のインシュレータに前述した「風鈴効果」を施すことにより、音響特性のさらなる向上を図ったものである。
【0164】
490は積層型ピエゾアクチュエータ、491はピエゾアクチュエータ端部のつば、492は2重スリーブ、493はつば491と2重スリーブ492を締結するボルトである。2重スリーブ492は内面筒部492aと外面筒部492bより構成される。494は多層構造による硬質材料インシュレータであり、音響素材494a〜494h(図示せず)から構成される。495は下部ベースであり、この下部ベースと2重スリーブ492の間に音響素材493が挟持される。496はピエゾアクチュエータ490の先端の荷重支持部である。2重スリーブ492の内面筒部492aはピエゾアクチュエータ490端部のつばと連結し、外面筒部492bは硬質材料インシュレータ494を収納する構造になっている。また、2重スリーブ492の外面筒部492bは、その下端部を大気解放端とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。本実施例では、オーディオ機器(図示せず)→荷重支持部496→ピエゾアクチュエータ490→つば491→内面筒部492a→多層構造による硬質材料インシュレータ494→床面497に至る振動の経路を主振動伝播経路ΦZとしたとき、この振動伝播経路ΦZから分岐した振動伝播経路ΦRを筒型形状部材である外面筒部492bにより構成している。すなわち、前記振動伝播経路ΦZ(硬質材料インシュレータ494)に振動系ΦRを組み合わせることにより、硬質材料インシュレータ494が元来有する効果に、図35で示した多くの固有振動モードを持つ「風鈴効果」が加味される。その結果、音に一層の深みと余韻が与えられるために、アクティブ制御によるサウンド・チューニングの選択肢を広げることができる。風鈴効果を与える筒型形状の外周部包絡線は真円でなくても良く、非軸対称の多角形でもよい。また円筒形状ではなく、円錐中空形状でもよい。円錐中空形状にした場合、縦方向外力に対して、筒型部材には水平方向分力が発生するため、固有振動モードを励起し易くなる。また筒型でなく円周上で切り欠いた部分があってもよく、たとえば、2つの角柱のブロックが並列に配置された構造でもよい。要は振動伝播経路ΦZから並列分岐した振動伝播経路ΦRを有すればよい。振動伝播経路ΦRとして適用できるこれらの形状をすべて含めて、本発明では概略筒型形状と呼ぶことにする。風鈴効果をもたらす上述した形状は、本発明の他の実施例にも適用できる。
【0165】
[補足説明]
本発明をスピーカーに適用した実施例(たとえば、実施形態1)では、インシュレータの支持剛性が低い場合に顕著になるブーミー現象を回避するために、アクティブ制振制御を施した。前述したように、インシュレータの有無にかかわらず、スピーカー本体部を設置する床面の剛性が低い場合、再生音はブーミーになることが、経験的に知られている。そのために、床部を改築して補強する工事を施すのが一般的な対策であった。本発明を適用すれば、床部の補強工事を施すことなく、本発明インシュレータをスピーカー本体部の底面に装着するだけで、ブーミー現象を回避することができる。このとき、本発明の実施形態4(図27)で前述したように、床面側に配置した加速度センサ517(2点鎖線で示す)を用いて床面の振動を検出し、スピ−カー本体部の振動を相殺するように、フィード・フォワード制御を施せば、より効果的である。
【0166】
また昨今のトレンドであるトールボーイ型スピーカーの場合、スピーカー本体部の背が高く、重心位置が高いために、スピーカー本体部の最低共振周波数が低く、再生音はブーミーになり易いことが知られている。この場合も本発明を適用すれば、ブーミー現象を回避するだけではなく、ステレオ音像の定位感を向上させる方策として有効である。
【0167】
本発明の実施形態1〜6では、静的荷重を支持するパッシブ・インシュレータにフローティング方式のスプリングコイルを用いる場合を示した。フローティング方式ではなく、硬質材料インシュレータを用いても良い。図50はトールボーイ型スピーカーに本発明を適用した場合を示し、850はスピーカー本体部、851a〜851dは硬質材料から構成されるパッシブ・インシュレータ(851cは図示せず)、852a〜852bはY軸方向(図8の座標軸の定義参照)に2個配置されたアクティブ・インシュレータ(852bは図示せず)である。硬質材料インシュレータとしては、木材、樹脂、金属、水晶、セラミック等を用いたもの、及びこれらの素材を多層構造にした複合タイプでもよい。あるいは、適度な弾性を持たせるために、これらの硬質材料に弾性体である薄いゴム膜などを組み合わせてもよい。
【0168】
また、本発明の実施形態1〜6では、パッシブ・インシュレータで静的荷重を支持して、アクティブ・インシュレータで動的荷重を支持する場合を示した。
【0169】
この理由は、アクティブ・インシュレータに用いるアクチュエータの負担を軽減するためである。しかし、インシュレータに搭載されるオーディオ機器が軽量の場合は、パッシブ・インシュレータを用いないで、アクティブ・インシュレータだけでオーディオ機器を支持してもよい。この場合、アクチュエータはバイアス電流を流した状態でオーディオ機器の静的荷重を支持して平衡状態を保ち、動的変動荷重を制御すればよい。また、オーディオ機器の重心位置が図形中心にない場合は、オーディオ機器が水平状態を保つように、各位置に配置されたアクティブ・インシュレータのバイアス電流を個別に調節すればよい。鉛直方向を検出する変位センサを複数個所に配置して、この変位センサの情報を基に、自動的にオーディオ機器が水平状態を保つように制御してもよい。この方法は、アクティブ・インシュレータとパッシブ・インシュレータを併用する場合も適用できる。
【0170】
以上の実施例では、標準的なスピーカーを対象にして、スピーカー自身が発生する変動荷重によるXθ軸、Y軸、Z軸方向をアクティブ制振制御する場合について説明した。しかし、より完全に振動を抑制する場合、あるいは多様なスピーカーの形態(たとえば全方位型スピーカーなど)に合せる場合、スピーカー以外を適用対象にする場合などに合せて、制御軸数を増やすのは容易である。
【0171】
図51において、950a〜950dはアクティブ・インシュレータ、951a〜951dはパッシブ・インシュレータ、952はインシュレータが搭載される基礎面である。前記アクティブ・インシュレータに、すべて2自由度アクチュエータで構成される実施形態6のアクティブ・インシュレータを適用すれば、6軸(X軸、Y軸、Z軸、Xθ軸、Yθ軸、Zθ軸)の振動制御ができる。したがって、制御対象が必要とする制御軸数に合せて、各アクティブ・インシュレータの自由度を選択すればよい。
【0172】
アクティブ・インシュレータでスピーカーを支持する代わりに、動吸振器を用いても、スピーカー本体部の剛体モードによる振動を抑制し、ブーミー現象を回避することができる。図52はパッシブ動吸振器であるTMD(Tuned mass damper)をスピーカー本体部の背面に設置した場合のモデル図である。900はスピーカー本体部、901はスピーカー本体部のフロント側、902はスピーカー本体部のリアー側、903a、903bはインシュレータ、904は、質量m、ばねK、ダンパーCで構成されるTMDである。TMDの場合は、特定の周波数でのみ振動エネルギーを吸収できるため、抑制する目標振動数f0に合せて、TMDの質量m、ばねKの値を設定しておく必要がある。重りの代わりに液体を用いたTLD(Tuned liquid damper)を用いてもよい。あるいは、板ばね、高減衰ゴム、錘で構成されるTMDでもよい。センサ信号によって制御対象の揺れを打ち消す力を瞬時に算定し、駆動装置(アクチュエータ)で重りを動かして振動を制御するアクティブ動吸振器(AMD:Active mass damper)を用いれば、スピーカー本体部とその設置条件で決まる固有振動数が未知の場合でも、振動を抑制することができる。この場合、オーディオ機器の底面にもアクティブ・インシュレータを設置して、このアクティブ・インシュレータと上記AMDを組み合わせた制御も可能である。たとえば、上記AMD(あるいは、条件次第ではTMD)で制御対象の揺れを打ち消す力の大半を与えることで、アクティブ・インシュレータに搭載されるアクチュエータの一層の小型化が図れる。AMDの制御に必要な振動センサからの情報は、アクティブ・インシュレータのセンサを利用してもよい。あるいは、その逆でもよい。
【0173】
以上の実施例では、本発明のインシュレータ(アクティブ、パッシブ、ハイブリッド)すべて単独のユニット、たとえば、実施形態1のパッシブ・インシュレータの場合は一対のスリーブ(上部スリ−ブ34と下部スリーブ35)の間にスプリングコイル38が装着される場合を示した。この上部スリーブの代わりに、共通の一個の平板部材(たとえば、オーディオボード)に複数の穴をくり抜き、それぞれの穴に機械ばね(スプリングコイル)、及びサージング防止部材と前記下部スリーブが挿入される構成でもよい。アクティブ・インシュレータの上部ベース台10も同様な構成に置き換えてもよい。この平板部材の上にオーディオ機器が搭載される。
【0174】
また、パッシブ・インシュレータの下部スリーブ35、アクティブ・インシュレータの下部ベース台11も、複数の穴がくり抜かれた共通の一個の平板部材に装着される構成でもよい。前記上下の平板部材を弁当箱のような形状にして、狭い半径方向隙間(寸法XB)を保つように構成すれば、オーディオ機器の水平方向外力に対して転倒防止と設置安定性の向上が図れる。
【0175】
実施例のパッシブ・インシュレータに適用した弾性部材は、外径が軸方向で均一なスプリングコイルを用いた。スプリングコイルの高さを、外径に対して低くするために断面長方形のコイルを用いると、横剛性を高めることができる。
【0176】
また、パッシブ・インシュレータに適用できる弾性部材はこれに限定されるものではない。たとえば、円錐コイルばね、皿バネ、あるいはこの皿ばねを多段に積み重ねた構造、竹の子ばね、輪ばね、渦巻きばね、薄板ばね、重ね板ばね、U字型ばねなど、オーディオ用インシュレータとして要求される形状、寸法などを考慮して選択すればよい。本発明
では、これらの部材を総称して機械ばねと呼ぶ。オーディオ機器の静的荷重を支持するのに、パッシブ・インシュレータに機械ばねを用いた実施例を示したが、オーディオ機器の重心位置が図形中心にない場合は、支持する位置によって、前記機械ばねのばね剛性を変えても良い。あるいは、機械ばねを挟んで上下の部材で構成されるパッシシブ・インシュレータ(図5の場合、上部スリーブ34、下部スリーブ35)において、上下のいずれかの部材の高さを調節できる構造でもよい。たとえば、下部スリーブ35の筒部37にくり抜かれた中空部分を利用して、この中空部分の内部にめねじを形成し、スパイクの上端部分におねじを形成し、両者を装着して、スパイク側を回転させることにより、インシュレータの高さを調節してもよい。この構成にすれば、インシュレータにオーディオ機器が搭載された状態で、各箇所に配置されたインシュレータの高さを微調節できる。
【0177】
実施例では、スプリングコイルのサージング現象を防止するために、円筒形状の筒部から半径方向に延びて突設された複数の粘弾性片を用いた。粘弾性片の突設枚数は実施例(図5)では、45°間隔で8枚となっているが、枚数は限定されず、8枚以下でも良いし、8枚以上であってもよい。各粘弾性片は円周上で等分に分割された角度でなくてもよく、不等分割でもよい。また軸方向に、たとえばスパイラル状にねじれた形状でもよい。あるいは、羽根状の粘弾性片を用いるのではなく、円柱状の粘弾性部材をスプリングコイルに圧入する構造でもよい。また、薄板形状の粘弾性部材をスプリングコイル内面に密着させる構造でもよい。あるいは、スプリングコイルの素材に粘弾性材料を被覆させたものを用いてもよい。なお、粘弾性部材は、前述のような部材に限られるものでなく、弾力性は小さいが元の形状に復帰する復元力を有する低反発ゴムのような素材でもよい。あるいは、従来からサージング防止対策として用いられている液体の中にスプリングを浸した構成でもよい。
【0178】
サージング防止対策を施したスプリングコイルは、従来から基本振動数に対する複数の高周波振動を抑制する無共振の「サージングレス金属ばね」と呼ばれる。したがって、このスプリングコイルを集中定数モデルとしてマクロでとらえれば、高周波振動を遮断する要素である。しかし本発明においては、スプリングコイルは分布定数モデルとして、ミクロの現象でとらえる必要がある。音響素材である上部支持部(たとえば、図5の34)とスプリングコイル(同図5の38)の境界面近傍において、オーディオ機器が発生した高周波の音響振動は前記境界面で完全遮断されず、上部支持部から前記境界面を経てスプリングコイル内部へ伝搬していく。
【0179】
本発明における高次の共振現象を抑制する振動発生防止手段には、質量と集中ばね定数だけで決まる単振動(1次の固有振動数)だけしか発生しない構造も含むものとする。
【0180】
実施例では、本発明のインシュレータをスピーカーに適用する場合を示したが、オーディオ機器であるCDプレイヤー、アナログプレイヤー、プリアンプ、パワーアンプ、あるいは様々な楽器(たとえば、アコースティック楽器)、ピアノなどのいずれにでも適用でき、また同様な効果が得られる。たとえば、従来からピアノと床面間の音響特性上のチューニングのために、インシュレータが適用されている。そのためのインシュレータには、本発明で提起した同様な課題があり、本発明の適用が可能である。したがって、本発明における「オーディオ」の用語の定義は、ステレオなどの再生装置に加えて、ピアノ等の様々な楽器も含むものとする。
【0181】
また、実施例では、インシュレータ(アクティブ、パッシブ、ハイブリッド)はすべて床面に垂直配置する場合を示したが、インシュレータの姿勢を水平にして、例えば壁面にオーディオ機器を水平配置する場合でも適用できる。
【符号の説明】
【0182】
1・・・オーディオ機器
9・・・制御装置
10・・・荷重支持部
24・・・アクチュエータ
31・・・センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ機器を基礎に対して支持する荷重支持部と、この荷重支持部と前記基礎の間に設けられたアクチュエータと、前記オーディオ機器の変位及び又は振動状態を検出するセンサから構成され、前記オーディオ機器自身が有する振動加振源によって発生する前記オーディオ機器自身の振動を抑制するように、前記センサからの情報に基づいて前記オーディオ機器の変位及び又は振動状態をアクティブ制御する制御装置から構成されることを特徴とするオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項2】
請求項1におけるインシュレータの構成要素を組み合わせて、ユニット化した複数個のインシュレータを構成し、任意のオーディオ機器の外形寸法、及び、重心位置に合わせて、前記各々のインシュレータを配置する位置を選択して前記オーディオ機器を支持したことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項3】
前記アクチュエータと並列に配置され、前記オーディオ機器の静的荷重を支持するパッシブ・インシュレータから構成されることを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項4】
前記オーディオ機器はスピーカーであることを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項5】
リスナー側から見た前記スピーカー本体部の水平面方向をX軸、前記スピーカー本体部の奥行き方向をY軸、前記スピーカー本体部の高さ方向をZ軸、前記各軸の回転方向をそれぞれXθ軸、Yθ軸、Zθ軸と定義したとき、前記Xθ軸、及び又は、Y軸方向の振動が低減されるようにアクティブ制御したことを特徴とする請求項4記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項6】
前記アクチュエータはローレンツ力アクチュエータであることを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項7】
前記アクチュエータの固定部と、この固定部に対して軸方向に相対的に移動可能に配置された前記アクチュエータの可動部と、前記可動部と前記固定部の軸芯を保つように、前記アクチュエータに並列配置された少なくとも2セットのアクチュエータ用ばねから構成されることを特徴とする請求項5記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項8】
前記アクチュエータ用ばねはスプリングコイルで構成し、かつ前記スプリングコイルの内部に前記オーディオ機器本体部の変位及び又は振動状態を検出するセンサが収納されていることを特徴とする請求項7記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項9】
前記パッシブ・インシュレータの固定部と、前記パッシブ・インシュレータに設けられた荷重支持部と、前記固定部と前記荷重支持部の間に設けられた弾性支持部材から構成されることを特徴とする請求項3記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項10】
前記弾性支持部材を機械ばねで構成し、かつこの機械ばねの高次の共振現象を抑制する振動発生防止手段から構成されることを特徴とする請求項9記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項11】
前記弾性支持部材をスプリングコイルで構成し、前記アクチュエータを前記固定部と前記荷重支持部の間で、かつ前記スプリングコイルの内部に収納したことを特徴とする請求項9記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項12】
前記スピーカー本体部の変位及び又は振動状態を検出するセンサを、前記スピーカー本体部に設けたことを特徴とする請求項4記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項13】
前記スピーカー本体部のフロント側、又は、リアー側のいずれかに配置されたアクチュエータと、前記フロント側、及び、リアー側に配置されたセンサと、
複数の前記センサ出力を制御信号として1個の前記アクチュエータを駆動し、前記スピーカー本体部の変位及び又は振動を抑制するようにアクティブ制御したことを特徴とする請求項4記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項14】
前記弾性支持部材は空気圧ばねであることを特徴とする請求項3記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項15】
前記空気圧ばねは、オーディオ機器を集中荷重として受ける構造であることを特徴とする請求項14記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項16】
前記アクチュエータは電磁歪型であることを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項17】
前記電磁歪型アクチュエータと直列もしくは並列に硬質材料インシュレータを配置したことを特徴とする請求項16記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項18】
前記電磁歪型アクチュエータで構成されるアクティブ・インシュレータの振動伝達特性は、低周波数領域では振動遮断領域を有し、高周波数領域では振動伝達チューニング領域を有することを特徴とする請求項16記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項19】
前記パッシブ・インシュレータは、前記荷重支持部から前記弾性部材内部に至る振動伝播経路ΦZから分岐した振動伝播経路ΦRを有し、かつこの振動伝播経路ΦRは概略筒型形状部材で構成されることを特徴とする請求項3記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項20】
前記筒型スリーブと前記弾性部材を介して対向して配置された部材の間は、狭い半径方向の間隙を設けた状態で嵌め込まれるように設置されることを特徴とする請求項19記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項21】
Lを前記筒型スリーブの有効長さ、δを前記半径方向の間隙としたとき、δ/L≦0.03となるように前記X、前記Lを設定したことを特徴とする請求項20記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項22】
δ≦1.5mmに設定したことを特徴とする請求項21記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項23】
スピーカー本体部が有する振動加振源によって発生する前記スピーカー本体部の剛体振動を抑制するために、前記スピーカー本体部にパッシブ動吸振器、又は、アクティブ動吸振器を設けたことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム及びオーディオ・システム。
【請求項24】
前記オーディオ機器の概略重心位置近傍に配置された1自由度の前記アクチュエータから構成されることを特徴とする請求項3記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項25】
スピーカー本体部の振動状態を検出するセンサと、リスナー側に設置されたセンサと、前記2つのセンサ情報をもとに、前記スピーカー本体部と前記リスナー側の相対的な振動が抑制されるように前記アクチュエータをアクティブ制御したことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システム。
【請求項26】
スピーカー本体部を基礎に対して支持する荷重支持部と、この荷重支持部と前記基礎の間に設けられたアクチュエータと、前記スピーカー本体部の変位及び又は振動状態を検出するセンサから構成され、前記スピーカー本体部自身が有する振動加振源によって発生する前記スピーカー本体部自身の振動を抑制するように、前記センサからの情報に基づいて前記オーディオ機器の変位及び又は振動状態をアクティブ制御する制御装置から構成され、かつ前記スピーカー本体部自身の振動がもたらす音響特性上の不具合を解消するように、前記制御装置の制御方法の選択と、ゲインなどの制御量を設定するオーディオ用インシュレータ及びオーディオ・システムの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【公開番号】特開2012−129575(P2012−129575A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276420(P2010−276420)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000224994)特許機器株式会社 (59)
【Fターム(参考)】