説明

オートパイロット制御装置

【課題】オートパイロット制御に必要なパラメータ値の設定操作をシンプル、かつ簡単なものとする。
【解決手段】 制御パラメータ(N個)を用いるオートパイロット制御装置において、(1)N個の制御パラメータ毎に1個づつ、合計N個設けられた、パラメータ値を最小値から最大値までの範囲で調整する、調整ツマミと、(2)複数種類の制御モード(M個)毎に、それぞれ、上記N個の制御パラメータの各スケーリングを記憶した合計M個のスケーリング記憶部と、(3)上記M個の制御モードを選択的に切り換える切換操作部と、(4)切換操作部で選択された制御モードに対応するスケーリング記憶部の各スケーリングに基づいて、各調整ツマミからの出力信号から、上記N個の制御パラメータ値を決定するN個の決定部と、設ける。これにより、個々のパラメータ値毎に、個別にツマミを操作する必要がなくなり、ワンタッチで各パラメータ値を一度に変更できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば小型の船舶について、その航行状態を自動で制御するオートパイロット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船舶を目的の位置まで自動案内するため、または小型船舶を漁労や作業の目的に応じて自動操舵するためのオートパイロット制御は、例えば特許文献1に開示されているように、従来から知られている。
具体的には、オートパイロット制御では、制御装置(コントロールユニット)に入力された設定方位と、GPSあるいは磁気コンパスを利用して検出された現在の船首方位に基づいて、両者のズレを解消すべく舵の動きをフィードバック制御し、船舶を設定針路へと案内する。
【0003】
上記オートパイロット制御を行うにあたり、事前に決定しておくべき代表的なパラメータとして、次の3つがあり、船速や積載荷重などの航行条件、または漁労や作業などの航行目的に合わせて、その都度変更される。
<<蛇角比>>
設定方位に対する船首方位ズレと、実施に舵を切る角度との比率であり、ゲイン(1倍、2倍、3倍)で表される。
<<天候>>
設定方位に対して船首方位ズレが何度のときに進路の修正を始めるかを表し、1度、2度、3度と大きくなるに従い、修正を開始する際の船首方位ズレが大きくなる。比例制御における不感帯に相当する。
<<中立トリム>>
船舶を直進させるために必要な蛇角(角度)を表す。
【0004】
以上の3つのパラメータが決まると、オートパイロット制御装置は、「天候」パラメータ以上のズレが生じた時に、そのズレを解消すべく自動的に舵を切り始める。その時のゲインは「蛇角比」パラメータで特定される。またその時、基準となる直進するための蛇角は、「中立トリム」パラメータで特定されている。
【0005】
図2は、これをブロック図で示したものである。
設定方位と船首方位に基づく出力信号Δは、不感帯に相当する上記「天候」パラメータでフィルタリングされ、出力信号Δ1となる。次に、「舵角比」パラメータで特定されるゲインを乗じて、舵角目標値を表す出力信号Δ2が得られる。
出力信号Δ2は、舵角度の現在値と「中立トリム」パラメータに基づく修正を加えた上で、駆動部37に送られ、これに基づいて舵が駆動される。
このようにして、オートパイロット制御により、船舶は所定の針路に自動案内される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−26878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オートパイロット制御を開始する前段階として、上記3つのパラメータの具体的な値を設定する必要があるが、従来、これを行うためのコントロールユニットとして、次の2種類のものが知られていた。しかし、いずれも操作が煩雑であるという問題があった。
【0008】
(1)調整ツマミを用いたコントロールユニット
図3(A)に示すように、コントロールユニット11は中央に船首方位などを表示する表示ディスプレイ12が配設され、この表示ディスプレイ12の周りに種々のボタンやツマミが設置されている。
本発明に関係するのは、「天候」パラメータを調整する天候調整ツマミ13、「舵角比」パラメータを調整する蛇角比調整ツマミ14、および「中立トリム」パラメータを調整する中立トリム調整ツマミ15である。
【0009】
≪天候≫
「天候」パラメータを調整するには、天候調整ツマミ13を回動する。天候調整ツマミ13は、最小値(左回転端)の目盛りが1°であり、最大値(右回転端)の目盛りは10°に設定されている。例えば、波の影響が小さく船舶の揺れも小さいときは、目盛りを1°に近づけ、波が大きく船舶の揺れも大きくなる場合には、目盛りを10°に近づける。
【0010】
≪蛇角比≫
「蛇角比」パラメータを調整するには、蛇角比調整ツマミ14を回動する。この蛇角比調整ツマミ14は、最小値(左回転端)の目盛りが0.5倍であり、最大値(右回転端)の目盛りが3倍に設定されている。舵の動きは、蛇角比を用いて次式(1)により求められる。

舵の蛇角角度=((設定方位−船首方位)−天候)×蛇角比・・・(1)

従って、「蛇角比」0.5倍、「天候」2°に設定した状態で、設定方位に対し船首が4°ズレたとすると、上式で、設定方位−船首方位=4°であるから、蛇角角度は1°となる[(4°−2°)×0.5倍=1°]。
舵角比が2.0倍の場合は、(4°−2°)×2倍=4°となる。
【0011】
≪中立トリム≫
「中立トリム」パラメータを調整するには、中立トリム調整ツマミ15を回動する。この中立トリム調整ツマミ15は、最小値(左回転端)の目盛りが−5°、最大値(右回転端)の目盛りが+5°に設定され、舵34の中立トリムを±5°の範囲内で調整することができる。
【0012】
以上のように、3つの調整ツマミ13、14、15を操作して、船舶の型式、舵の効き、船速などに応じて「天候」、「蛇角比」および「中立トリム」の各パラメータ値を設定できる。
【0013】
(2)調整画面を用いたコントロールユニット
図3(B)に示すように、コントロールユニット11は中央上側に、船首方位などを表示する液晶表示部21が配設され、この液晶表示部21の下側に種々のボタンが設置されている。
具体的に説明すると、上段の中央には、長押しすることで液晶表示部21の表示を調整画面に切り換える警報切断ボタン22が配設されている。この警報切断ボタン22の左側には下矢印の変更ボタン23が、右側には上矢印の選択ボタン24が配設されている。
図4は、液晶表示部21に表示される調整画面を示している。ボタン23、24を操作して、調整画面中の*印を上下に移動させることで、下に説明する通り、「蛇角比」、「天候」、「中立トリム」の3つのパラメータ値を設定する(図4A〜C)。
【0014】
≪蛇角比≫
各パラメータの具体的数値を決定するには、まず、警報切断ボタン22を長押しして、液晶表示部21を図4(A)に示す調整画面に切り換える。この調整画面では、上から順に「ダカクヒ」、「テンコウ」、「チュウリツ」が表示されている。図4(A)に示すように、*印が「ダカクヒ」の文字列に合わされているとき、「蛇角比」パラメータの数値を調整可能である。数値の変更は、PORTボタン25、STBDボタン26で行う。PORTボタン25を押すと数値が下がり、STBDボタン26を押すと数値が上がる。数値が決定したら、警報切断ボタン22を長押しして、当該数値を記憶させる。
「蛇角比」パラメータは、例えば、0.5倍〜3.0倍の間で調整可能とすることができる。
【0015】
≪天候≫
「天候」パラメータを調節するには、図4(A)の状態から変更ボタン23を押して*印を一段下げ、「テンコウ」の文字列に合わせる(図4B)。具体的な数値の変更および記憶は、上記と同様に、PORTボタン25、STBDボタン26、警報切断ボタン22で行う。
「天候」パラメータは、例えば、1.0度〜10.0度の間で調整可能とすることができる。
【0016】
≪中立トリム≫
「中立トリム」パラメータを調整するには、図4(B)の状態から変更ボタン23を押して、*印を一段下げて、「チュウリツ」の文字列に合わせる(図4C)。具体的な数値の変更および記憶は、上記と同様、PORTボタン25、STBDボタン26、警報切断ボタン22で行う。
「中立トリム」は、例えば、−5.0°〜+5.0°の間で調整可能とすることができる。
【0017】
なお、「下矢印の変更ボタン23」および「上矢印の選択ボタン24」により、*印を上下に移動できるので、3つのパラメータは、任意の順序で設定することができる。
【0018】
上に説明した2つのタイプのコントロールユニットは、いずれも操作が煩雑である。すなわち、調整ツマミを用いたコントロールユニットでは、3つのパラメータのそれぞれについて、個別にツマミを操作してパラメータ値を設定する必要がある。
調整画面を用いたコントロールユニットでも、3つのパラメータのそれぞれのために調整画面を切り換える操作をし、さらにその上で具体的な数値の調整を行わなければならない。
【0019】
これらを操作するのは、多くの場合、船上で厚手のゴム手袋を着けたまま作業を行う漁師等であり、多くのツマミやボタンを操作するのは、厄介で面倒な作業となる。したがって、厚手のゴム手袋を着けたままであっても、簡単かつスムーズにパラメータ設定が可能となるような、より簡便な操作スタイルが望まれている。
これら従来の事情に鑑み、本発明の目的は、オートパイロット制御を行うにあたって必要となるパラメータ値の設定操作をシンプル、かつ簡単なものとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のオートパイロット制御装置は、「任意に設定した船舶の設定方位」と「方位測定手段により測定された当該船舶の現在の進行方位」とに基づいて両者のズレを所定範囲内に収めるようフィードバックにより駆動部を介して操舵角度を制御するに当たり、複数種類の制御パラメータ(N個)を用いるオートパイロット制御装置である。
当該オートパイロット制御装置は、
(1)上記N個の制御パラメータ毎に1個づつ、合計N個設けられた、パラメータ値を最小値から最大値までの範囲で調整する、調整ツマミと、
(2)複数種類の制御モード(M個)毎に、それぞれ、上記N個の制御パラメータの各スケーリングを記憶した合計M個のスケーリング記憶部と、
(3)上記M個の制御モードを選択的に切り換える切換操作部と、
(4)切換操作部で選択された制御モードに対応するスケーリング記憶部の各スケーリングに基づいて、各調整ツマミからの出力信号から、上記N個の制御パラメータ値を決定するN個の決定部と、を備える。
【0021】
スケーリング記憶部に記憶される「スケーリング」とは、具体的には、個々のパラメータ値がとり得る範囲を意味しており、最小値(Min)と最大値(Max)をもって特定される。その間においては、例えば、リニアにパラメータ値が変動する。
【0022】
また、本発明により、次のオートパイロット制御が提供される。
すなわち、「任意に設定した船舶の設定方位」と「方位測定手段により測定された当該船舶の現在の進行方位」とに基づいて両者のズレを所定範囲内に収めるようフィードバックにより駆動部を介して操舵角度を制御するに当たり、複数種類の制御パラメータ(N個)を用いるオートパイロット制御装置であって、
(イ)複数種類の制御モード(M個)毎に、それぞれ、上記N個の制御パラメータの各値を記憶した合計M個のパラメータ記憶部と、
(ロ)上記M個の制御モードを選択的に切り換える切換操作部と、を備える。
【発明の効果】
【0023】
上記構成を備えたオートパイロット制御装置によれば、単に切換操作部を操作するだけで、N個のパラメータ値がセット単位(グループ単位)で切り換わる。したがって、個々のパラメータ値毎に、個別にツマミを操作したり、調整画面を呼び出して別々に各パラメータ値を設定していく必要がなくなる。
すなわち、ワンタッチの動作で複数種類(N個)のパラメータについて、各値を一度に変更することができる。
【0024】
本発明において、制御パラメータの種類(具体的なNの値)は特に限定されず、任意の数の制御パラメータに対して、本発明を適用可能である。代表的には、冒頭の「背景技術」で説明した「天候」、「蛇角比」、「中立トリム」の3個である。
【0025】
制御モードの種類(具体的なMの値)も特に限定されないが、例えば、目的地に向かって通常速度で運行する際の「巡航モード」と、目的地に到着後に所定作業を行う際の「低速モード」の2個とすることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る小型船舶の基本構成を説明する図。
【図2】オートパイロット制御の概要を説明するブロック図。
【図3】従来例に係るオートパイロット制御用のコントロールユニットを説明する図。
【図4】従来例に係るオートパイロット制御用のコントロールユニットを説明する図。
【図5】本発明の第1実施形態に係るオートパイロット制御用のコントロールユニットを説明する図。
【図6】本発明の第1実施形態に係るオートパイロット制御用のコントロールユニットを説明する図。
【図7】図5、6の第1実施形態における処理を説明するブロック図。
【図8】本発明の第2実施形態に係るオートパイロット制御用のコントロールユニットを説明する図。
【図9】本発明の第2実施形態に係るオートパイロット制御用のコントロールユニットを説明する図。
【図10】図8、9の第2実施形態における処理を説明するブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る小型船舶31の基本構成を示す斜視図である。この船舶31は、船舶本体32に設けたステアリング35を操縦することで、電磁弁およびシリンダ等からなる駆動部37を介して舵34の角度を変更し、船舶の進行方向を決めることができる。舵34の下方側には、推進スクリュー33が配置されている。
【0028】
また、オートパイロット制御により自動運行する場合には、コントロールユニット11に予め希望する任意の方位を入力する。一方、コントロールユニット11には、方位測定手段であるコンパス36が接続されており、このコンパス36で現在の船首方位を検出する(コンパス36としては、ジャイロコンパスまたは磁気コンパスを用いる)。
コントロールユニット11は、設定した方位と、コンパス36で検出した現在の進行方位とに基づいて、両者のズレを解消するよう(あるいは、一定範囲内に収めるよう)フィードバック制御を行い、駆動部37を介して舵34を操作することで、船舶31を自動運転で所望の方向に運行させる。
【0029】
上のような基本構成自体は、従来から知られている。本発明は、後述するように、オートパイロット制御における制御パラメータの設定方式に特徴を有する。
オートパイロット制御を行うに当たって、その精度やレスポンスを調整するための代表的な3つのパラメータがあり、それらの具体的な値を、オートパイロット制御を開始する前段階で決定しておく必要がある。なお、代表的な3つのパラメータとは、「天候」、「蛇角比」、「中立トリム」であり、具体的な内容は、明細書冒頭の「背景技術」において説明したものである。
【0030】
以下、具体的な設定方法を説明する。
≪第1実施形態≫
図5(A)において、コントロールユニット(制御装置)11の外観は、切換操作部17を備える以外は、図3(A)に示した従来のコントロールユニット11と同じである。したがって、対応する部分については同一符号を付して説明を省略する。
切換操作部17は、後述する「巡航モード」または「低速モード」を選択する巡航ボタン17aと低速ボタン17bで構成される。巡航ボタン17aを押すと「巡航モード」が選択され、表示ディスプレイ12の上部中央に「ジュンコウ」と表示される(図5B)。低速ボタン17bを押すと「低速モード」が選択され、表示ディスプレイ12の上部中央に「テイソク」と表示される(図5C)。
【0031】
「巡航モード」は、例えば、船が港から漁場に向かうため通常速度で運行するモードであり、「低速モード」は、例えば、船が漁場に到着した後、低速で作業を行うモードである。
【0032】
次に、図6を参照して、「巡航モード」と「低速モード」の切換えについて、さらに詳しく説明する。図6では、図5(A)中の3つのツマミ13、14、15だけを抜き出して、模式的に示している。
【0033】
「巡航モード」では、中立トリム調整ツマミ15、舵角比調整ツマミ14、天候調整ツマミ13は、それぞれ、以下のようなスケールの調整範囲を有する。

中立トリム調整ツマミ15:−5°〜+5° (ツマミが中央にあると、0°)
舵角比調整ツマミ14 :1倍〜3倍 (ツマミが中央にあると、2倍)
天候調整ツマミ13 :1°〜5° (ツマミが中央にあると、3°)
【0034】
「低速モード」では、中立トリム調整ツマミ15、舵角比調整ツマミ14、天候調整ツマミ13は、それぞれ、以下のようなスケールの調整範囲を有する。

中立トリム調整ツマミ15:−3°〜+5° (ツマミが中央にあると、1°)
舵角比調整ツマミ14 :2倍〜4倍 (ツマミが中央にあると、3倍)
天候調整ツマミ13 :5°〜9° (ツマミが中央にあると、7°)
【0035】
例えば、すべてのツマミ13〜15が中央位置にセットされている場合、各モードでの各パラメータ値は、下のようになる。

「巡航モード」:→ 「中立トリム0°」「舵角比2倍」「天候3°」
「低速モード」:→ 「中立トリム1°」「舵角比3倍」「天候7°」
【0036】
このように、各モードにおいては、3つのパラメータ値をセットとして有しており、「巡航モード」と「低速モード」を切り換えることで、3つのパラメータ値の全てがグループ単位で切り換わる。
以上は、各ツマミが中央位置にセットされている場合であるが、各ツマミは、予め所望の回転位置にセットしておくことが可能であり、それに応じて、3つセットとしての各パラメータの値も変更される。
なお、説明に用いた具体的な数値は、単なる例示に過ぎず、適宜変更することが可能である。
【0037】
このような構成を採用した結果、3つのパラメータについて、各パラメータ毎にツマミを調整することなく、切換操作部17(巡航ボタン17a、低速ボタン17b)を選択的にプッシュするだけの簡単な方法で、3つ全てのパラメータ値を変更することができる。
なお、切換操作部17としては、巡航ボタン17aおよび低速ボタン17bに代えて、例えば、巡航位置と低速位置に切換え可能なレバー部材を採用してもよい。その他、2つの状態を簡単に選択できる操作部材であれば、任意のものを使用可能である。
【0038】
以上の説明から分かるように、「巡航モード」と「低速モード」を切り換えても、ツマミ自体の物理的な位置は変化しない(単にスケールが変更されるだけである)。したがって、各ツマミの周辺領域には、両モードに対応させて、異なる色によるスケール表示をしたり、カッコ書きを利用する等して、操作者の便宜を図ることが好ましい。
【0039】
なお、図6に示した各調整ツマミは、回転操作式のものであるが、直線的にスライド操作するスライダー等、他のタイプの調整ツマミであってもよい。
【0040】
次に、コントロールユニット11内で、上の処理がどのように行われているのかを説明する。図7は、この処理の一例を説明するブロック図である。
【0041】
各ツマミ13〜14の物理的な位置(当該ツマミのポインタが、Min(最小値)〜Max(最大値)のどこに合わされているのか)を示す信号は、当該各ツマミから、AD変換されてデジタル出力される。
一方、「巡航モード」および「低速モード」における各パラメータのスケーリング(すなわち、Min値とMax値)は、モード単位(グループ単位)でメモリ(スケーリング記憶部)に記憶されている。いずれのスケーリングを選択するかは、既に説明した通り、ワンタッチ切換ボタン17を操作して切り換える。
図示した例では、MinとMaxの間では、パラメータ値はリニアに変化するが、他の構成を採用してもよい。また、図7において、「巡航モード」と「低速モード」における各パラメータのスケーリングが別々のメモリ(スケーリング記憶部)に記憶されるように図示しているが、これは概念的なもので、個別のメモリであっても、1つのメモリの別領域であっても、いずれでもよい。
【0042】
各ツマミ13〜14からのデジタル信号は、各決定部において、選択されたスケーリングに基づく具体的なパラメータ値としてデジタル出力される。これらのパラメータ値が図2のブロック中の各パラメータ値として採用され、オートパイロット制御が実行される。
【0043】
≪第2実施形態≫
図8(A)において、コントロールユニット(制御装置)11の外観は、変更ボタン23および選択ボタン24に代えて、巡航ボタン27aおよび低速ボタン27b(切換操作部27)を備える以外は、図3(B)に示した従来のコントロールユニット11と実質的に同一であり、対応する部分については同一符号を付して説明を省略する。
巡航ボタン27aおよび低速ボタン27bは、後述する通り、これを操作して「巡航モード」と「低速モード」を切り換えることができる。
【0044】
巡航ボタン27aを押すと「巡航モード」となり、表示ディスプレイ12の上部中央に「ジュンコウ」と表示される(図8B)。また、低速ボタン27bを押すと「低速モード」となり、表示ディスプレイ12の上部中央に「テイソク」と表示される(図8C)。
【0045】
第2実施形態では、「巡航モード」および「低速モード」のそれぞれにおいて、3つのパラメータ値を予め決定して、その値を記憶しておく。単なる例示であるが、例えば、次の通り設定しておく。

「巡航モード」:→ 「中立トリム0°」「舵角比2倍」「天候3°」
「低速モード」:→ 「中立トリム1°」「舵角比3倍」「天候7°」
【0046】
このように、各モードにおいて、3つのパラメータ値をセットとして記憶しており、「巡航モード」と「低速モード」を切り換えることで、3つのパラメータ値の全てがグループ単位で切り換わる。
【0047】
このような構成を採用した結果、3つのパラメータについて、各パラメータ毎に調整画面を切り換えて具体的な数値の調整を行うことなく、巡航ボタン27aまたは低速ボタン27bを選択的にプッシュするだけの簡単な方法で、3つ全てのパラメータ値を変更することができる。
なお、切換操作部27としては、巡航ボタン27aおよび低速ボタン27bに代えて、例えば、巡航位置と低速位置に切換え可能なレバー部材を採用してもよい。その他、2つの状態を簡単に選択できる操作部材であれば、任意のものを使用可能である。
【0048】
次に、コントロールユニット11内で、上の処理がどのように行われているのかを説明する。図10は、この処理の一例を説明するブロック図である。
【0049】
「巡航モード」および「低速モード」における各パラメータの値は、モード単位(グループ単位)でメモリ(パラメータ記憶部)に記憶されている。いずれのモードを選択するかは、既に説明した通り、巡航ボタン27aおよび低速ボタン27bを操作して切り換える。
なお、図10において、「巡航モード」と「低速モード」における各パラメータ値が別々のメモリ(パラメータ記憶部)に記憶されるように図示しているが、これは概念的なもので、個別のメモリであっても、1つのメモリの別領域であっても、いずれでもよい。
【0050】
メモリ(パラメータ記憶部)から読み出された各パラメータ値が、図2のブロック中の各パラメータ値として採用され、オートパイロット制御が実行される。
【0051】
なお、各モードにおける具体的な数値は、適宜変更することが可能である。これについて、簡単に説明する。
図8(A)において、警報切断ボタン22を長押しすると、液晶表示部21の表示が図9に示す調整画面に切り換わる。図9(A)は、「巡航モード」で警報切断ボタン22を長押しした場合を、図9(B)は、「低速モード」で警報切断ボタン22を長押しした場合を、それぞれ示している。
いずれの調整画面においても、上から順に「ダカクヒ」、「テンコウ」、「チュウリツ」が表示されている。この状態では、巡航ボタン27aおよび低速ボタン27bを操作して、*印を上下させることができる。調整を必要とするパラメータに*印を合わせて、図3(B)の従来例の場合と同様に、PORTボタン25、STBDボタン26で数値を変更し、最後に警報切断ボタン22を長押しして、当該数値を確定(記憶)させる。
このようにして、「低速モード」および「低速モード」における各パラメータ値を
決定し、記憶してしまえば、後は、上述した通り、巡航ボタン27aおよび低速ボタン27bでモードを切り換えることができる。
【0052】
≪他の実施形態≫
以上に説明した各実施形態では、制御パラメータの数(N)が3、制御モードの数(M)が2の場合であった。しかし、制御パラメータの数が1〜2または4以上の場合にも、本発明を同様に適用できる。制御モードの数についても同様で、3以上の制御モードに対して本発明を適用可能で、その場合には、モードの数に応じて切換操作部17、27の構成を変更すれば足りる。
【0053】
また、図示した例では、切換操作部17、27が制御装置(コントロールユニット)11自体に配置されていたが、有線または無線で制御装置11に電気的に接続した機器に切換操作部17、27を配置すれば、遠隔操作が可能となる。
【符号の説明】
【0054】
11 コントロールユニット(制御装置)
13 天候調整ツマミ
14 蛇角比調整ツマミ
15 中立トリム調整ツマミ
17 切換操作部(巡航ボタン17a、低速ボタン17b)
23 変更ボタン
24 選択ボタン
25 PORTボタン
26 STBDボタン
27 切換操作部(巡航ボタン27a、低速ボタン27b)
32 船舶本体
33 推進スクリュー
34 舵
35 ステアリング
36 コンパス(方位測定手段)
37 駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意に設定した船舶の設定方位と、方位測定手段により測定された当該船舶の現在の進行方位と、に基づいて両者のズレを所定範囲内に収めるようフィードバックにより駆動部を介して操舵角度を制御するに当たり、複数種類の制御パラメータ(N個)を用いるオートパイロット制御装置であって、
(1)上記N個の制御パラメータ毎に1個づつ、合計N個設けられた、パラメータ値を最小値から最大値までの範囲で調整する、調整ツマミ(13、14、15)と、
(2)複数種類の制御モード(M個)毎に、それぞれ、上記N個の制御パラメータの各スケーリングを記憶した合計M個のスケーリング記憶部と、
(3)上記M個の制御モードを選択的に切り換える切換操作部(17)と、
(4)切換操作部で選択された制御モードに対応するスケーリング記憶部の各スケーリングに基づいて、各調整ツマミからの出力信号から、上記N個の制御パラメータ値を決定するN個の決定部と、を備えた、オートパイロット制御装置。
【請求項2】
任意に設定した船舶の設定方位と、方位測定手段により測定された当該船舶の現在の進行方位と、に基づいて両者のズレを所定範囲内に収めるようフィードバックにより駆動部を介して操舵角度を制御するに当たり、複数種類の制御パラメータ(N個)を用いるオートパイロット制御装置であって、
(イ)複数種類の制御モード(M個)毎に、それぞれ、上記N個の制御パラメータの各値を記憶した合計M個のパラメータ記憶部と、
(ロ)上記M個の制御モードを選択的に切り換える切換操作部(27)と、を備えた、オートパイロット制御装置。
【請求項3】
上記N個の制御パラメータは、「天候」、「蛇角比」、「中立トリム」の3個である、請求項1または2記載のオートパイロット制御装置。
【請求項4】
上記M個の制御モードは、第1制御モードおよび第2制御モードの2個である、請求項1〜3のいずれかに記載のオートパイロット制御装置。
【請求項5】
上記切換操作部(17、27)が有線または無線によって電気的に接続されていて、制御モードの切換えを遠隔操作できる、請求項1〜4のいずれかに記載のオートパイロット制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−122799(P2012−122799A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272516(P2010−272516)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(591125566)ユニカス工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】