説明

オーバーコート用ガラスペースト及び厚膜抵抗素子

【課題】鉛を実質的に含まず、低温、特に700℃以下の温度で焼成可能な、気密性及び化学的耐久性、特に耐酸性が優れたオーバーコート用ガラスペーストであって、厚膜抵抗素子のプリコートガラスとして用いたときには、抵抗体の安定性を損なうことなくレーザートリミングを容易に行うことができるオーバーコート用ガラスペーストを提供する。
【解決手段】低融点ガラス粉末と有機ビヒクルとを含むガラスペーストであって、前記低融点ガラスが、実質的にPbを含有せず、酸化物換算のモル%表示で、SiO 20〜50%、Al 0.5〜10%、BaO及びSrOからなる群から選択された少なくとも1種を5〜35%、ZnO 5〜35%、TiO 1〜10%、LiO、NaO及びKOからなる群から選択された少なくとも1種を1〜13%、B 0〜20%、及びWO及びMoOからなる群から選択された少なくとも1種を0〜5%で含有することを特徴とするオーバーコート用ガラスペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗体や電極、厚膜導体回路等を保護するための実質的に鉛(Pb)を含まないオーバーコート用ガラスペーストに関し、またこれを用いて製造された厚膜抵抗素子に関する。
【背景技術】
【0002】
厚膜チップ抵抗器等の厚膜抵抗素子に使用される厚膜抵抗体は、外部から電気的、機械的、化学的に保護するため、通常オーバーコートガラスで被覆される。また、電子部品や、表示素子、多層基板等の厚膜電極や厚膜導体もオーバーコートガラスで保護被覆されることがある。
【0003】
一例として、厚膜チップ抵抗器の製造方法を説明する。
【0004】
例えばアルミナ等の絶縁基板上に、電極ペーストを印刷、焼成することにより一対の電極を形成する。この電極に少なくとも一部オーバーラップする形で所定のパターンで抵抗体ペーストを印刷、焼成し、厚膜抵抗体を形成する。次いで、抵抗値を所定の範囲に調整するために抵抗体のレーザートリミングを行うが、トリミング後の抵抗体の抵抗特性の安定性を高めるために、トリミング前に抵抗体上にガラスペーストを印刷、焼成してオーバーコート層(プリコート層)を形成する。トリミング後、必要に応じて抵抗体を保護するために更にガラス又は樹脂でオーバーコート層(二次コート層)を形成する。次に、基板の端面に電極ペーストを印刷、焼成して二次電極を形成し、必要に応じて更に二次電極部にニッケルめっき、更にその上にはんだめっきを行う。
【0005】
前記プリコート層、及び二次コート層としてのガラス層(以下「オーバーコート層」という)は、一般に低融点ガラス粉末を主成分とし、これを有機ビヒクル中に分散させたガラスペーストで厚膜抵抗体を含む領域を被覆し、焼成することにより形成される。このときの焼成は、抵抗値の変動を最小に抑えかつ厚膜抵抗体の特性を劣化させないよう、通常500〜800℃程度の低温で行われる。
【0006】
このようなオーバーコート用ガラスペーストには、低温で焼成できること;厚膜抵抗体とのマッチングがよいこと、特に抵抗体の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有すること;緻密な保護被覆が形成でき、気密性、耐水性、耐候性が良好であること;焼成後のオーバーコート層のレーザーの吸収がよく、かつレーザートリミングが効率よく容易に行えること;レーザートリミング後の抵抗体の抵抗値ばらつきが小さいこと;レーザートリミングによる抵抗特性の劣化、即ちTCR、ノイズ、負荷特性等の劣化が少なく、安定な抵抗体が得られること;前記めっき処理に使用される酸性の電気メッキ液に侵されないよう、耐酸性が良好であること、等の特性が要求される。
【0007】
従来、上記の要求を満たす抵抗体のオーバーコート用ガラスとしては、主として硼珪酸鉛系ガラス等の酸化鉛を含む低融点ガラスが広く使用されてきた。酸化鉛含有ガラスは軟化点が低く、流動性、抵抗体や電極との濡れ性が良好で基板との接着性、シール性も優れ、また熱膨張係数がセラミック基板特に汎用のアルミナ基板と適合する等、厚膜抵抗素子の形成に適した優れた特性を有するためである。しかし鉛成分は毒性があり、人体への影響及び公害の点から望ましくない。特に近年、環境問題に対処するためエレクトロニクス製品が(廃電気電子機器指令 Waste Electrical and Electronic Equipment)及びRoHS(特定有害物質使用制限 Restriction of the Use of the Certain Hazardous Substances)規制対応を要求される中で、抵抗体材料と同様にオーバーコート用ガラスにおいても、鉛フリーの素材の開発が強く求められている。
【0008】
鉛を含まないオーバーコート用ガラスとしては、酸化ビスマス系ガラスや硼珪酸アルカリ金属系ガラス等が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0009】
しかし、従来、鉛を含まないガラスで、低融性と良好な耐酸性、レーザートリミング性を備え、かつ抵抗体に適合する熱膨張特性を有するものは実用化されていない。
【0010】
特許文献1、2の酸化ビスマス含有ガラスは、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、軟化点が高いため800℃以下の温度では焼成できない。また、一般に酸化ビスマス系ガラスは、BiRu等のビスマスを含む導電性材料をベースとする抵抗体やRuOをベースとする抵抗体とのマッチングはよいが、その他の例えばアルカリ土類金属のルテニウム酸塩等をベースとする抵抗体には適合しない。更に毒性や環境上の問題から将来的にビスマスも規制される可能性があり、鉛と同様、ビスマスも含まないガラスが求められている。
【0011】
特許文献3の硼珪酸アルカリ金属系ガラスもやはり焼成温度が高く、またガラスのヤング率が極めて高いため、レーザートリミング性が充分ではない。
【0012】
また本発明者等の研究によれば、耐酸性向上の目的でシリカ、アルミナや酸化カルシウム成分を多量に含有させた低融点ガラスや、低融化のために硼素成分を多くした鉛フリーの低融点ガラスは、一般にヤング率が高く、延性が小さいのでレーザーカットしにくい。従ってカット断面が通常のU字形ではなく、図2に示されるようなV字形になってトリミングが不完全となり易く、またトリミング溝周辺にマイクロクラックが発生し易い。このためトリミング後に抵抗値の変動を生じやすく、抵抗値のばらつきが大きくなったり、抵抗特性が悪化したりし、抵抗体の信頼性が確保できない。また延性を大きくする目的でアルカリ土類金属元素、特にバリウム(Ba)を多量に含有させると、耐酸性が悪化する。従って低融性、耐酸性とレーザートリミング性を両立させることは、従来極めて困難であった。
【特許文献1】特開2003−257702号公報
【特許文献2】特開2003−267750号公報
【特許文献3】特開2001−322831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、有害物質である鉛を実質的に含まず、低温、特に700℃以下の温度で焼成可能であり、気密性及び化学的耐久性、特に耐酸性が優れたオーバーコート用ガラスペーストを提供することにあり、特に、厚膜抵抗体のプリコートガラスとして用いたときには、抵抗体の安定性を損なうことなくレーザートリミングを容易に行うことができるようなオーバーコート用ガラスペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記本発明の目的に鑑み、本発明者等が鋭意研究した結果、ガラスの各成分を適正な範囲とすることにより前記の低融性、耐酸性とレーザートリミング性という相反する特性を両立させることができ、かつオーバーコートガラスに要求されるすべての特性を満たす優れた鉛フリ−オーバーコート用ガラスペースト、並びにこのペーストを厚膜抵抗体のオーバーコート層に用いるとレーザートリミング性に優れた厚膜抵抗素子が得られることが判明し本発明に至った。即ち、本発明は、以下に記載する構成よりなる。
【0015】
(1)低融点ガラス粉末と有機ビヒクルとを含むガラスペーストであって、前記低融点ガラスが、実質的にPbを含有せず、酸化物換算のモル%表示で、SiO 20〜50%、Al0.5〜10%、BaO及びSrOからなる群から選択された少なくとも1種を5〜35%、ZnO 5〜35%、TiO 1〜10%、LiO、NaO及びKOからなる群から選択された少なくとも1種を1〜13%、B 0〜20%、及びWO及びMoOからなる群から選択された少なくとも1種を0〜5%で含有することを特徴とするオーバーコート用ガラスペースト。
【0016】
(2)Ba/Znがモル比で2.0以下であることを特徴とする前記(1)に記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【0017】
(3)前記低融点ガラスのヤング率が85GPa以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【0018】
(4)更に酸化物フィラーを含むことを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【0019】
(5)前記酸化物フィラーが、WO、CaWO、TiO、SnO、La、MoO、Ta、Nb、ZrO、Al、Nd、CeOからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする前記(4)に記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【0020】
(6)前記酸化物フィラーの含有量が、前記低融点ガラス粉末100重量部に対して0.5〜20重量部であることを特徴とする前記(4)又は(5)に記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【0021】
(7)1対の電極と、これに少なくとも一部重なるように形成された厚膜抵抗体と、厚膜抵抗体を被覆するオーバーコート層とが絶縁基板上に形成されてなる厚膜抵抗素子において、オーバーコート層が前記(1)乃至(6)のいずれかに記載のオーバーコート用ガラスペーストを用いて形成されたものであることを特徴とする厚膜抵抗素子。
【0022】
(8)前記厚膜抵抗体が、鉛成分を含まないガラスマトリックス中に鉛成分を含まないルテニウム系導電相とMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在するものであることを特徴とする上記(7)記載の厚膜抵抗素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガラスペーストは、特定の組成のガラス粉末を使用することが特徴であり、低いガラス転移点(Tg)を有することから、有害な鉛を含有しなくても550〜700℃程度の低温で焼成することができ、しかも気密性、耐酸性が極めて優れたオーバーコート層を形成することができる。耐酸性が優れているため、例えばチップ抵抗器製造工程において酸性メッキ液を用いてメッキ処理した場合にもガラスが溶解したり、メッキ液がしみ込んだりして抵抗体を劣化させることがない。このため、厚膜抵抗体のプリコートガラスや二次コートガラスとして極めて有用であり、また、各種電子部品や表示素子等の電極や導体回路のオーバーコート層としても使用することができる。
【0024】
またヤング率が比較的低く適度な延性を有するため、抵抗体のプリコートガラスとして用いたときにはレーザーカットしやすく、カット断面も良好でトリミング後の抵抗値ばらつきが小さく、かつレーザーカット後においても厚膜抵抗体の特性の劣化が最小限に抑えられるので、抵抗体の安定性も極めて良好である。とりわけヤング率が85GPa以下のガラスを使用すれば、特に優れたレーザートリミング性を示す。
【0025】
更に、本発明のガラスペーストに、前記ガラス粉末に加えて酸化物フィラーを含有させることにより、熱膨張係数等種々の特性を改善することが可能である。特に、特定の酸化物フィラーを使用することにより、低融性、耐酸性を損なうことなく、レーザートリミング性を更に改善することができる。
【0026】
本発明のガラスペーストは、種々の厚膜抵抗体と適合し、信頼性の高い抵抗素子を製造することができるが、特に、特願2005−290216号に記載された、鉛成分を含まないガラスマトリックス中に鉛成分を含まないルテニウム系導電相とMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在する厚膜抵抗体のオーバーコート層、特にプリコート層を形成するのに使用された場合、優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明で使用される低融点ガラスは、SiO、BaO及びSrOの少なくとも1種、ZnO、Al、TiO、及びアルカリ金属酸化物を必須成分として含み、更に必要に応じてB、WO、MoO等の成分を含有させたものである。
【0028】
以下ガラスの組成について説明する。ここで、%は特記しない限りモル%である。
【0029】
SiOは、本発明のガラスのネットワークフォーマーであり、安定で耐酸性のよいガラスを得るには、少なくとも20%含有させることが必要である。しかし50%を超える場合は低温で焼成したときガラスが流動しにくくなるので好ましくない。特に、30〜45%の範囲で配合することが好ましい。
【0030】
BaO、SrO、ZnOは、ガラス修飾酸化物であり、ガラスのヤング率を低下させて、レーザートリミング性を改善する役割を果たす。BaOとSrOは合計で5%より少ないとこの改善効果がなく、また35%を超えるとガラスの耐酸性が悪化する。ZnOは、5%より少ないと前記の効果がなく、また35%を超えると結晶性が強くなり過ぎてレーザートリミングが困難になる。好ましくは、BaOとSrOは合計で8〜30%、ZnOは8〜32%の範囲である。特に、Ba/Znがモル比で2.0以下であるものは、耐酸性が極めて優れているので好ましい。
【0031】
Alは、ガラスの安定性、耐酸化性を向上させる。0.5%より少ないとこの効果がなく、10%を超えるとTgが高くなり、またガラスのヤング率が高くなってレーザートリミング性が低下する。好ましくは、1〜5%の範囲である。
【0032】
TiOも耐酸性を改善するが、1%より少ないとこの効果がなく、10%を超えるとガラスの製造時に失透し易くなる。特に、3〜9%の範囲で配合することが好ましい。
【0033】
アルカリ金属酸化物は、Tgを低下させ、低温焼成を可能にする。アルカリ金属酸化物としてはLiO、NaO、KOの少なくとも1種が使用される。特に LiOとNaOは、効果が大きいので好ましい。アルカリ金属酸化物の合計量が1%より少ないと前記の効果がなく、13%を超えると、耐酸性が低下する。特に、2〜11%の範囲で配合することが好ましい。
【0034】
は必須成分ではないが、SiOと同様ガラスネットワークフォーマーであり、ガラスのTgを低下させ低融化に寄与するが、20%を超えると、耐酸性が低下する。Bの好ましい範囲は3〜15%であり、結晶性が高くなり過ぎないようにするには3%より少なくならないようにすることが望ましい。
【0035】
WO、MoOも必須成分ではないが、含有させることにより、ガラスの耐酸性が向上する。しかし合計量で5%を超えると、ガラスの製造時において失透傾向が強まるので好ましくない。特に、1〜4%の範囲で配合することが好ましい。
【0036】
本発明の低融点ガラスは、前記の構成成分90%以上含有し、この他に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えばCa、Mn、Sn、Cu等を酸化物換算の合計で10%までの範囲で含有することができる。
なお、本発明における低融点ガラスは、有害物質である鉛を実質的に含まない。ここで鉛を実質的に含まないとは、積極的に鉛が添加されていないことを意味するものであり、例えば不可避的な不純物として含有している態様までをも除外するものではない。又、同様に本発明における低融点ガラスは、有害物質であるビスマスを実質的に含まないことが望ましいが、ビスマスは鉛に比べると毒性は弱いとされていることから、毒性が問題とならない程度の量であれば不純物として含まれることを除外しない。
【0037】
上記の低融点ガラスは、ガラス転移点(Tg)がおよそ600℃以下であり、700℃以下の温度で焼成する場合にも、良好な流動性を示す。特に450〜580℃の範囲のTgを有するものが好ましい。
【0038】
レーザートリミング性の点からは、ガラスのヤング率が85GPa以下のものを使用することが望ましい。特に、ヤング率が70〜85GPaの範囲にある場合、耐酸性が優れると共にガラスの延性が比較的大きく、切削性が良い。このため抵抗体のレーザートリミングにおいて、効率的に、かつ断面をU字形にトリミングすることが可能であり、また切削溝周辺のマイクロクラックの発生も抑制されるのでトリミング後の抵抗値変動も小さく、安定性も極めて良好になる。
【0039】
ガラスの熱膨張係数は、安定な抵抗体を得るためには重要であり、焼成後のオーバーコート層の熱膨張係数が抵抗体の熱膨張係数と同程度かそれより小さくなるように選択することが望ましい。このように熱膨張係数を調整することにより、マッチング不良やトリミングに起因するクラック等の欠陥を生じることなく、またトリミング後の安定性も優れた、信頼性の高い抵抗体を製造することができる。ガラスの線膨張係数はガラスの組成によりある程度調整することができる。本発明の組成のガラスの線膨張係数はほぼ50〜75×10−7/℃の範囲であり、比較的小さいので、例えばアルミナ基板上に形成する通常のルテニウム系抵抗体との適合性が極めて良好である。
【0040】
上記の低融点ガラスは、通常の方法で製造される。例えば前記のガラス成分となる酸化物、水酸化物、炭酸塩等の本発明のガラス原料を所定の割合で秤量、混合した後、高温で加熱、溶融し、均質化した後急冷し、粉砕することにより製造することができる。
【0041】
低融点ガラス粉末の粒径は、通常ガラスペーストに使用される範囲であれば特に制限はないが、好ましくは平均粒径が0.5〜5μm程度のものが使用される。
【0042】
本発明のガラスペーストには、ガラス粉末とは別に、熱膨張係数や流動性、強度等、種々の特性の調整を目的として、酸化物フィラーを必要に応じて含有させることができる。酸化物フィラーとしては、通常オーバーコートガラスに使用されるものを通常の量で配合することができるが、本発明においては鉛成分を含有しないものが望ましい。酸化物フィラーの粒径も、通常ガラスペーストに使用される範囲であれば特に制限はないが、平均粒径が0.5〜5μm程度のものが好ましい。
【0043】
また特にWO、CaWO、TiO、SnO、La、MoO、Ta、Nb、ZrO、Al、Nd、CeOから選択される少なくとも1種の酸化物フィラーを使用することにより、ガラスの低融性を損なわずにレーザートリミング性を更に改善することができる。このような酸化物フィラーを使用する場合、ガラス粉末100重量部に対して0.5〜20重量部程度配合するのが好ましい。0.5重量部より少ないと添加効果が小さく、また20重量部を超えると耐酸性が低下する傾向がある。特に酸化物フィラーの種類によってはガラスの耐酸性を大きく低下させるものがあり、このような場合配合量は10重量部以下とするのが望ましい。
【0044】
ガラス粉末は、スクリーン印刷その他の塗布方法に適したレオロジーのガラスペーストとするために、必要により酸化物フィラーと共に有機ビヒクルと混合される。有機ビヒクルとしては、通常ガラスペーストに使用され得るものであれば特に制限はなく、例えばテルピネオール、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブ、ブチルセロソルブやこれらのエステル類、トルエン、キシレン等の溶剤や、これらにエチルセルロースやニトロセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン等の樹脂を溶解した溶液が用いられる。必要により可塑剤、粘度調整剤、界面活性剤、酸化剤、金属有機化合物等を添加してもよい。有機ビヒクルの配合比率も、通常ガラスペーストに使用される範囲でよく、印刷方法に応じて適宜調整される。好ましくは無機固形分50〜80重量%、ビヒクル50〜20重量%程度である。
【0045】
ガラスペーストは、通常の方法により、絶縁基板上に形成された抵抗体や電極、導体回路を被覆するように所定の形状でスクリーン印刷等の方法で塗布され、乾燥後、例えば550〜700℃程度の温度で焼成される。
【0046】
本発明の厚膜抵抗素子は、アルミナ基板、ガラスセラミック基板等の絶縁基板上に1対の電極と、これに少なくとも一部重なるように厚膜抵抗体を形成し、この厚膜抵抗体を被覆するように本発明のオーバーコート用ガラスペーストを印刷、焼成してオーバーコート層を形成したものである。
【0047】
例えば厚膜チップ抵抗器の場合、絶縁基板上に電極と厚膜抵抗体とを形成し、厚膜抵抗体上に本発明のオーバーコート用ガラスペーストを印刷、焼成してプリコート層を形成し、次いでレーザートリミングを行って抵抗値を所定の範囲に調整する。この後、必要により更にガラス又は樹脂で二次コート層を形成し、基板の端面に二次電極を形成し、必要に応じて更に二次電極部にめっき処理を行って、チップ抵抗器を得る。前記二次コート層の形成に本発明のガラスペーストを使用してもよい。
【0048】
本発明の厚膜抵抗素子に使用される電極材料及び厚膜抵抗体材料については特に制限はなく、通常のルテニウム系厚膜抵抗体や、銀系の厚膜抵抗体等に使用されるものでよいが、とりわけ本質的に鉛成分を含まない厚膜抵抗体材料を用いることが望ましい。特に、本発明のガラスペーストは、特願2005−290216に記載された、鉛成分を含まないガラスマトリックス中に鉛成分を含まないルテニウム系導電相とMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在する厚膜抵抗体のプリコート層を形成するのに適している。この場合、特に前記ルテニウム系導電相として鉛成分を含まないルテニウム複合酸化物を含む厚膜抵抗体が好ましい。このような抵抗体と組み合わせた場合、有害物質を含まず、かつトリミング後も広い抵抗値域に亘って安定で、信頼性の高い抵抗体を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[ガラスの製造]
酸化物換算で表1に示す組成となるようにガラス原料を秤量、混合し、白金ルツボを用いて高温で溶融し、グラファイト上に流出させて急冷し、粉砕することにより平均粒径2.0μmの低融点ガラス粉末A〜J、S〜Yを製造した。ガラス粉末S〜Yは本発明の範囲外の組成のものである。ガラス粉末のTg、ヤング率(計算値)、熱膨張係数を測定し、それぞれ表1に併せて示した。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1
表1に記載のガラス粉末A 100重量部と、エチルセルロースの25%テルピネオール溶液からなる有機ビヒクル37重量部とを分散、混練し、ガラスペーストを作製した。
予め1対のAg/Pd系厚膜電極を形成したアルミナ基板上に、CaRuO粉末40重量部と、塩基度約0.45、ヤング率90GPaのSiO−B−BaO−CaO−Al系ガラス粉末60重量部とを混合し、600℃で1時間熱処理した後、粉砕して得られた比表面積18m/gの複合粉末100重量部と酸化ニオブ5重量部とを有機ビヒクル30重量部に分散させた、公称シート抵抗値100kΩ/□の抵抗体ペーストを、1mm×1mmの正方形パターンでスクリーン印刷し、乾燥後、空気中850℃で焼成して膜厚約5μmの厚膜抵抗体を製造した。なおこの抵抗体ペーストは、特願2005−290216に記載されているものであり、焼成によりBaSiAl結晶を析出する。また塩基度は、特願2005−290216記載の方法で算出されたガラスの塩基度(Po値)である。得られた厚膜抵抗体上に上記ガラスペーストを1mm×1mmの正方形パターンで、乾燥膜厚が約15μmとなるようにスクリーン印刷し、乾燥後、空気中で最高温度650℃、トータルの焼成時間30分で焼成してプリコート層を形成し厚膜抵抗素子を得た。
【0052】
次に、形成された厚膜抵抗体に、出力3W、周波数5kHzのレーザーを用い、 トリミング速度30mm/secのトリミング条件で、公称シート抵抗値の1.5倍を目標シート抵抗値として設定してプリコート層の上からプランジカットを行った。カット断面は図1に示されるように良好なU字形であった。
【0053】
レーザートリミング後の抵抗体に対して、トリミング形状と抵抗値のばらつき(CV)(レーザートリミング性)、短時間過負荷特性(STOL)及び抵抗温度係数(TCR)を次のようにして評価又は測定し、結果を表2に示した。数値はいずれも抵抗体試料20個についての平均値である。
トリミング形状:切削孔断面の形状が図1に示されるようなU字形であるものを○、図2に示されるようなV字形となったり充分トリミングが行われなかったものを×と評価した。
CV:シート抵抗値を測定し、その標準偏差をσ、平均値をAとしたとき、CV=(σ/A)×100(%)で表わす。
STOL:1/4W定格電圧の2.5倍の電圧(但し最大400V)を5秒間印加した後の抵抗値の変化率を測定した。
TCR:+25〜+125℃及び−55〜+25℃で測定し、それぞれH−TCR、C−TCRと表示した。
【0054】
また、プリコート層の耐酸性試験を次の要領で行い、結果を表2に併せて示した。
耐酸性:プリコート層を形成した前記厚膜抵抗体をスルホン酸系の酸性スズめっき浴に室温で2時間浸漬した。取り出して水洗した後、スポンジで擦り、プリコート層が全く剥れなかったものを◎、若干剥離するが大部分残っているものを○、かなりの部分が剥離したものを△、全部剥離したものを×として評価した。
【0055】
実施例2
ガラス粉末Aをガラス粉末Bに代える以外は実施例1と同様にして厚膜抵抗素子を得た。
【0056】
実施例3
酸化物フィラーとして平均粒径1.5μmのLa粉末を、ガラス粉末A 100重量部に対して5重量部混合する以外は実施例1と同様にして厚膜抵抗素子を得た。
【0057】
実施例4〜13
ガラス粉末と酸化物フィラーの種類と量を表2に示されたとおりとする以外は実施例1(実施例10、11)又は実施例3(実施例4〜9、12、13)と同様にして厚膜抵抗素子を得た。
【0058】
実施例14〜15
ガラス粉末の種類と量を表2に示されたとおりとし、且つ最高焼成温度を600℃とする以外は実施例1と同様にして厚膜抵抗素子を得た。
【0059】
比較例1〜7
ガラス粉末と酸化物フィラーの種類と量を表2に示されたとおりとする以外は実施例1(比較例1、4〜6)又は実施例3(比較例2、3、7)と同様にして厚膜抵抗素子を得た。
【0060】
上記実施例2〜15、比較例1〜7で得た厚膜抵抗素子のそれぞれについて、実施例1と同様にレーザートリミングを行い、レーザートリミング後の抵抗体について実施例1と同様に評価又は試験を行った。結果を表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
上記の結果から明らかなように、本発明実施例のガラスペーストを用いて得られた厚膜抵抗素子は、比較例の厚膜抵抗素子に比較して、レーザートリミング性に優れ、レーザートリミング後の特性のばらつきが小さく、安定した特性を有する信頼性の高いものであった。また、耐酸性にも優れていることから、酸性の電気メッキ液に侵されることなくめっき処理が行えることも判った。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】レーザートリミング後の抵抗体のトリミング形状(U字形)を示す切削孔断面のSEM写真である。
【図2】レーザートリミング後の抵抗体のトリミング形状(V字形)を示す切削孔断面のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点ガラス粉末と有機ビヒクルとを含むガラスペーストであって、前記低融点ガラスが、実質的にPbを含有せず、下記の成分を酸化物換算のモル%で表して下記の比率で含有することを特徴とするオーバーコート用ガラスペースト。
SiO: 20〜50%
Al: 0.5〜10%
BaO及びSrOからなる群から選択された少なくとも1種: 5〜35%
ZnO: 5〜35%
TiO: 1〜10%
LiO、NaO及び KOからなる群から選択された少なくとも1種: 1〜13%
: 0〜20%
WO及びMoOからなる群から選択された少なくとも1種: 0〜5%
【請求項2】
Ba/Znがモル比で2.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【請求項3】
前記低融点ガラスのヤング率が85GPa以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【請求項4】
更に酸化物フィラーを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【請求項5】
前記酸化物フィラーが、WO、CaWO、TiO、SnO、La、MoO、Ta、Nb、ZrO、Al、Nd、CeOからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【請求項6】
前記酸化物フィラーの含有量が、前記低融点ガラス粉末100重量部に対して0.5〜20重量部であることを特徴とする請求項4又は5に記載のオーバーコート用ガラスペースト。
【請求項7】
1対の電極と、これに少なくとも一部重なるように形成された厚膜抵抗体と、厚膜抵抗体を被覆するオーバーコート層とが絶縁基板上に形成されてなる厚膜抵抗素子において、オーバーコート層が請求項1乃至6のいずれかに記載のオーバーコート用ガラスペーストを用いて形成されたものであることを特徴とする厚膜抵抗素子。
【請求項8】
前記厚膜抵抗体が、鉛成分を含まないガラスマトリックス中に鉛成分を含まないルテニウム系導電相とMSiAl結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在するものであることを特徴とする請求項7記載の厚膜抵抗素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−176785(P2007−176785A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276256(P2006−276256)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】