説明

カゼイネートを含む歯科用充填剤、方法、および組成物

本出願は、カゼイネートを含む処理された表面を含む、歯科用充填剤、ならびに歯科用充填剤の製造方法および使用方法を提供する。そのような歯科用充填剤を含む歯科用組成物は、口腔環境にイオンを送達するのにも有用である。カゼイネートと、硬化性樹脂または水中分散可能な、ポリマー膜形成材とを含む歯科用組成物、ならびに歯科用組成物の使用方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
歯牙組織の脱灰があると、齲歯、齲蝕された象牙質、セメント質および/またはエナメル質、たとえば歯科用修復材を用いた典型的には治療を必要とする状態になる、ということはよく知られている。そのような状態は、通常は、歯科用修復材を用いて充分に治療することが可能であるが、修復された歯牙組織は多くの場合、その修復をした箇所の周囲でさらなる齲蝕を受けやすい。
【0002】
イオン(たとえば、カルシウム、および好ましくはカルシウムとリン)を口腔環境の中に放出させると、歯牙組織の自然な再石灰化能力が向上されることは知られている。再石灰化の向上は、従来からの歯科用修復材法に対する有用な補助手段または代替え手段となると考えられる。しかしながら、カルシウムおよびリンを口腔環境の中に放出する公知の組成物(たとえば、カルシウムホスフェート含有組成物)は、たとえば除放性能なども含めて、望ましい性質に欠けることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、イオン(たとえば、リンおよび他のイオン)を口腔環境の中に放出することが可能な新規な組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一つの態様においては、本発明は、処理された表面を含む歯科用充填剤、ならびにそのような処理された表面を含む歯科用充填剤の製造方法および使用方法を提供する。その処理された表面にはカゼイネートを含むが、それは、カルシウム、ホスフェート、フルオリド、またはそれらの組合せの塩を含んでいるのが好ましい。そのような歯科用充填剤を含む歯科用組成物、およびそのような歯科用組成物の使用方法もまた提供される。
【0005】
また別な態様においては、本発明は、硬化性樹脂および/または水中分散可能な、ポリマー膜形成材、およびカゼイネートを含む歯科用組成物を提供するが、ここで、そのカゼイネートは、硬化性樹脂および/または水中分散可能な、ポリマー膜形成材の中に、少なくとも部分的には、溶解、懸濁、または分散される。カゼイネートが、カルシウム、ホスフェート、フルオリド、またはそれらの組合せの塩を含んでいるのが好ましい。そのような歯科用組成物の使用方法もまた提供される。
【0006】
本明細書において開示されるような歯科用充填剤および組成物は、好ましいことには、歯牙組織の再石灰化を促進させ、それによって、たとえば潜在的な利点を与えることが可能であり、そのようなこととしては、たとえば、エナメル質および/または象牙質の病変部を再石灰化させる;知覚過敏(sensitivity)の原因となる、露出された象牙質および/またはセメント質の細管を埋める;摩耗および/または腐蝕されたエナメル質表面を修復する;界面における微少漏洩領域を再シールする;酸の攻撃に接触されるか近傍の歯牙構造の抵抗性を増大させる、などの性能が挙げられる。
【0007】
定義
本明細書で使用するとき、「接着剤」または「歯科用接着剤」という用語は、「歯科材料」(たとえば、「修復材」、歯科矯正装置(たとえば、ブラケット)、または「歯科矯正用接着剤」)を歯牙組織に接着させるための、歯牙組織(たとえば、歯牙)の上に前処理として使用する組成物を指す。「歯科矯正用接着剤」という用語は、歯科矯正装置を歯牙組織(たとえば、歯牙)の表面に接着させるのに使用される、高度に(一般に40重量%以上)充填された組成物を指す(「歯科用接着剤」というよりは、「修復材料」に近い)。一般に、歯牙組織の表面は、たとえば、エッチング、プライマー処理、および/または接着剤を塗布することによって前処理して、「歯科矯正用接着剤」の歯牙組織の表面への接着性を向上させる。
【0008】
本明細書で使用するとき、「非水性」組成物(たとえば、接着剤)という用語は、成分としてはその中に水を添加していない組成物を指す。しかしながら、組成物の他の成分中に偶発的な水分が存在している可能性もあるが、水の総量が、その非水性組成物の安定性(たとえば、貯蔵寿命)に悪影響を与えることはない。非水性組成物は、その非水性組成物の全重量を基準にして、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の水しか含まない。
【0009】
本明細書で使用するとき、「自己エッチング性」組成物という用語は、歯牙組織表面をエッチング剤を用いて予め処理しなくても、その歯牙組織表面に接合する組成物をさす。自己エッチング性組成物は、独立したエッチング剤またはプライマーを使用しない場合には、自己プライマーとして機能することも可能であるのが好ましい。
【0010】
本明細書で使用するとき、「自己接着性」組成物という用語は、プライマーまたはボンディング剤を用いて歯牙組織表面を予め処理しなくても、その歯牙組織表面に接合することが可能な組成物を指す。自己接着性組成物は、独立したエッチング剤を使用しなくても、自己エッチング性組成物でもあるのが好ましい。
【0011】
本明細書で使用するとき、組成物を「固化(hardening)」または「硬化(curing)」させるという用語は、同義的に使用され、重合反応および/または架橋反応、たとえば、硬化または架橋をすることが可能な一種または複数の化合物を含む光重合反応および化学重合技術(たとえば、エチレン性不飽和化合物を重合させるのに有効なラジカルを形成させるイオン反応または化学反応)などを指す。
【0012】
本明細書で使用するとき、「歯牙組織表面」という用語は、歯牙組織(たとえば、エナメル質、象牙質、およびセメント質)および骨を指す。
【0013】
本明細書で使用するとき、「歯科材料」という用語は、歯牙組織表面に接合させることが可能な材料を指し、それにはたとえば、歯科用修復材、歯科矯正装置、および/または歯科矯正用接着剤などが含まれる。
【0014】
本明細書で使用するとき、「(メタ)アクリル」というのは、「アクリル」および/または「メタクリル」の略称である。たとえば、「(メタ)アクリルオキシ」基は、アクリルオキシ基(すなわち、CH2=CHC(O)O−)および/またはメタクリルオキシ基(すなわち、CH2=C(CH3)C(O)O−)の両方を指す、略称である。
【0015】
本明細書で使用するとき、「非晶質」物質は、検出できるようなX線粉末回折パターンをもたらさないものである。「少なくとも部分的に結晶質の」物質は、検出できるようなX線粉末回折パターンをもたらすものである。
【0016】
本明細書で使用するとき、周期律表の「族」とは、無機化学IUPAC命名法(1990年、推奨)に定義される、第1〜18族を指し、それらを含む。
【0017】
本明細書で使用するとき、単数形(「a」および「an」)は、特に断らない限り、「少なくとも一つ」または「一つまたは複数」を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、カゼイネートを含む歯科用充填剤および/または組成物を提供する。いくつかの実施態様においては、カゼイネートを含む処理された表面を含む歯科用充填剤が提供される。いくつかの実施態様においては、そのような歯科用充填剤を含む歯科用組成物が提供される。いくつかの実施態様においては、カゼイネートならびに硬化性樹脂および/または水中分散可能な、ポリマー膜形成材を含む歯科用組成物が提供される。そのような歯科用充填剤および/または組成物の製造方法および使用方法もまた提供される。
【0019】
カゼイネート
カゼインは、ミルクおよびチーズの中に存在する、近縁のリンタンパク質の混合物である。本明細書で使用するとき、「カゼイン」とは、電気泳動法によって区別することが可能であって、pH7における易動性の低下する順に、一般にα−、β−、γ−、κ−カゼインと呼ばれている、主たるカゼイン成分の一つまたは複数を含むことを意味している。ウシβ−カゼインのアミノ酸シーケンスは完全に解読されていて、209残基を含み、おおよその分子量が23,600である。たとえば、リバデアウデュマス(Ribadeaudumas)ら、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Eur.J.Biochem.)、25:505(1972)、およびマケンジー(McKenzie)、アドバンシズ・イン・プロテイン・ケミストリー(Advan.Protein Chem.)、22:75〜135(1967)を参照されたい。
【0020】
カゼインは両性化合物であって、酸、塩基のいずれとも塩を形成する。化学種(たとえば、カルシウムホスフェート)のカチオンとアニオンの両方がカゼインと塩を形成すると、その生成物は典型的には錯体(たとえば、カゼインのカルシウムホスフェート錯体)と呼ばれる。本明細書で使用するとき、「カゼイネート」という用語は、カゼインの塩および/または錯体を指すのに用いられる。
【0021】
典型的なカゼイネートとしては、たとえば、1価の金属(たとえば、ナトリウムおよびカリウム)の塩、2価の金属(たとえば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ニッケル、銅、および亜鉛)の塩、3価の金属(たとえば、アルミニウム)の塩、アンモニウム塩、ホスフェート塩(たとえば、ホスフェートおよびフルオロホスフェート)、ならびにそれらの組合せなどを挙げることができる。典型的なカゼイネート錯体としては、たとえば、カルシウムホスフェート錯体(オーストラリア国ホーンズビー(Hornsby,Australia)のエヌ・エス・アイ・デンタル・プロプリエタリー・リミテッド(NSI Dental Pty.Ltd.)から、商品名ホスカル(PHOSCAL)として入手可能)、カルシウムフルオロホスフェート錯体、カルシウムフルオリド錯体、およびそれらの組合せなどが挙げられる。
【0022】
カゼイネートは、典型的には、乾燥粉末として入手可能である。カゼイネートは水性流体に可溶性であっても、不溶性であってもよい。
【0023】
歯科用充填剤の表面処理
歯科用充填剤は、たとえば米国特許第5,332,429号明細書(ミトラ(Mitra)ら)の中に記載されているのと同様の方法により表面処理されるのが好ましい。簡単に言えば、本明細書に記載の歯科用充填剤は、その充填剤を、本明細書に記載されるようなカゼイネートをその中に溶解、分散または懸濁させた液体と組み合わせることにより、表面処理することができる。場合によっては、その液体または追加の液体に、追加の表面処理剤(たとえば、フルオリドイオン前駆体、シラン、チタネートなど)が含まれていてもよい。場合によっては、その液体には水が含まれ、そして、水性液体を使用する場合には、それが酸性であっても塩基性であってもよい。処理した後では、その液体の少なくとも一部は、各種都合のよい方法(たとえば、噴霧乾燥、オーブン乾燥、ギャップ乾燥、凍結乾燥、およびそれらの組合せ)を用いて、その表面処理された歯科用充填剤から除去することができる。ギャップ乾燥の記述に関しては、たとえば米国特許第5,980,697号明細書(コルブ(Kolb)ら)を参照されたい。一つの実施態様においては、処理された充填剤を、典型的には乾燥温度約30℃〜約100℃で、たとえば一夜かけて、オーブン乾燥させることができる。その表面処理された充填剤は、所望により、さらに加熱することも可能である。次いで、その処理され、乾燥された歯科用充填剤を篩にかけるか、または軽く粉砕してアグロメレートを破壊することもできる。そのようにして得られた表面処理された歯科用充填剤は、歯科用ペーストの中に組み込むことができる。
【0024】
表面処理するのに好適な歯科用充填剤は、歯科的用途に使用される組成物の中に組み込むのに適した、広い範囲の各種の材料の一種または複数から選択することができ、たとえばそのような充填剤は、現在歯科用修復材組成物などに使用されているようなものである。歯科用充填剤には、多孔質粒子および/または粒子の多孔質アグロメレートが含まれているのが好ましい。好適な歯科用充填剤としては、ナノ粒子および/またはナノ粒子のアグロメレートが挙げられる。好適なタイプの充填剤としては、金属酸化物、金属フルオリド、金属オキシフルオリド、およびそれらの組合せが挙げられるが、ここでその金属は重金属であっても、非重金属であってもよい。
【0025】
好ましい実施態様においては、その歯科用充填剤は、第2〜5族元素、第12〜15族元素、ランタニド元素、およびそれらの組合せからなる群より選択される元素のオキシド、フルオリド、またはオキシフルオリドである。より好ましくは、その元素は、以下のものからなる群より選択される:Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Ta、Zn、B、Al、Si、Sn、P、およびそれらの組合せ。歯科用充填剤が、ガラス、非晶質物質、または結晶質物質であってもよい。場合によっては、歯科用充填剤にフルオリドイオン源を含んでいてもよい。そのような歯科用充填剤には、たとえば、フルオロアルミノシリケートガラスを含む。
【0026】
充填剤は微細に粉砕されているのが好ましい。充填剤の粒径分布は、単峰形であってもあるいは多峰形(たとえば、二峰形)であってもよい。充填剤の最大粒径(粒子の最大寸法、典型的には直径)は、好ましくは20マイクロメートル未満、より好ましくは10マイクロメートル未満、最も好ましくは5マイクロメートル未満である。充填剤の平均粒径は、好ましくは2マイクロメートル未満、より好ましくは0.1マイクロメートル未満、最も好ましくは0.075マイクロメートル未満である。
【0027】
充填剤は無機物質であってもよい。それは、樹脂系に溶解しない架橋有機物質であってもよく、また場合によっては、無機充填剤を用いて充填されていてもよい。充填剤は、いかなる場合においても毒性が無く、口の中で使用するのに適したものでなければならない。その充填剤は放射線不透過性であっても、あるいは放射線透過性であってもよい。充填剤は、典型的には、実質的に水に溶解しない。
【0028】
好適な無機充填剤の例としては、天然由来または合成の物質で:石英;窒化物(たとえば、窒化ケイ素);たとえば、Zr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、ZnおよびAlから誘導されるガラス;長石;ボロシリケートガラス;カオリン;タルク;チタニア;低モース硬度の充填剤でたとえば米国特許第4,695,251号明細書(ランドクレフ(Randklev))に記載されているようなもの;およびサブミクロンサイズのシリカ粒子(たとえば、熱分解法シリカ、たとえばオハイオ州アクロン(Akron,OH)のデグッサ・コーポレーション(Degussa Corp.)からの商品名アエロジル(AEROSIL)、たとえば「OX50」、「130」、「150」および「200」シリカ、ならびに、イリノイ州タスコーラ(Tuscola,IL))のキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.)からのキャブ・オ・シル(CAB−O−SIL)M5シリカなど)が挙げられるが、これらに限定される訳ではない。好適な有機充填剤粒子の例としては、充填または非充填の微粉砕ポリカーボネート、ポリエポキシドなどが挙げられる。
【0029】
酸非反応性の充填剤粒子としては、石英、サブミクロンシリカ、および米国特許第4,503,169号明細書(ランドクレフ(Randklev))に記載されているような、非ガラス質のミクロ粒子が適している。これらの酸非反応性の充填剤の混合物もまた考慮に入るし、さらには有機および無機材料から製造した組合せ充填剤もまた考えられる。ある種の実施態様においては、シラン処理したジルコニア−シリカ(Zr−Si)充填剤が特に好ましい。
【0030】
充填剤が酸反応性充填剤であってもよい。好適な酸反応性充填剤としては、金属酸化物、ガラス、および金属塩を挙げることができる。典型的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛が挙げられる。典型的なガラスとしては、ホウ酸ガラス、リン酸ガラスおよびフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスが特に好ましい。FASガラスには典型的には、溶出可能なカチオンを充分に含んでいて、それにより、そのガラスを硬化性の組成物の成分と混合したときに、硬化された歯科用組成物が形成されるようにする。さらにこのガラスには典型的には、溶出可能なフルオリドイオンを充分に含んでいて、それにより、その硬化させた組成物が抗齲蝕性を有するようにする。そのガラスは、フルオリド、アルミナ、およびその他のガラス形成成分を含む溶融物から、FASガラス製造業界では公知の技術を用いて、製造することができる。FASガラスは典型的には、充分に細かく粉砕して、それにより、他のセメント成分とうまく混合することができ、得られた混合物を口腔内で使用したときに性能を充分に発揮できるようにする。
【0031】
一般的には、FASガラスの平均粒径(典型的には、直径)は、たとえば沈降法測定器を用いて測定して、12マイクロメートル以下、典型的には10マイクロメートル以下、より典型的には5マイクロメートル以下である。好適なFASガラスは、当業者には周知であり、広い範囲の供給業者から入手することができるが、ガラスアイオノマーセメントとして現在入手可能なものが多く、たとえば、商品名ビトレマー(VITREMER)、ビトレボンド(VITREBOND)、リライ・X・ルーティング・セメント(RELY X LUTING CEMENT)、リライ・X・ルーティング・プラス・セメント(RELY X LUTING PLUS CEMENT)、フォタック−フィル・クイック(PHOTAC−FIL QUICK)、ケタック−モラー(KETAC−MOLAR、およびケタック−フィル・プラス(KETAC−FIL PLUS)(ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN)の3M・ESPE・デンタル・プロダクツ(3M ESPE Dental Products))、フジ・II・LC(FUJI II LC)およびフジIX(FUJI IX)(日本国東京の、G−C・デンタル・インダストリアル・コーポレーション(G−C Dental Industrial Corp.))、およびケムフィル・スペリオル(CHEMFIL Superior)(ペンシルバニア州ヨーク(York,PA)のデンツプライ・インターナショナル(Dentsply International))などが商品として入手できる。所望により、充填剤の混合物を使用することもできる。
【0032】
その他の好適な充填剤は、たとえば以下の特許に開示されている:米国特許第6,306,926号明細書(ブレッチャー(Bretscher)ら)、6,387,981号明細書(チャン(Zhang)ら)、6,572,693号明細書(ウー(Wu)ら)、および6,730,156号明細書(ウィンディッシュ(Windisch)ら)、ならびに国際公開第01/30307号パンフレット(チャン(Zhang)ら)および国際公開第03/063804号パンフレット(ウー(Wu)ら)。それらの引用文献に記載されている充填剤成分には、ナノサイズのシリカ粒子、ナノサイズの金属酸化物粒子、およびそれらの組合せが含まれている。ナノ充填剤はまた、米国特許出願第10/847,781号明細書;米国特許出願第10/847,782号明細書;および米国特許出願第10/847,803号明細書にも記載されているが、この3件はすべて2004年5月17日に出願されたものである。
【0033】
その表面処理された歯科用充填剤には、歯科用充填剤の全乾燥重量を基準にして(すなわち、処理に用いた液状物を除外して)、好ましくは少なくとも0.01%、より好ましくは少なくとも0.05%、最も好ましくは少なくとも0.1重量%のカゼイネートが含まれる。その表面処理された歯科用充填剤には、歯科用充填剤の全乾燥重量を基準にして(すなわち、処理に用いた液状物を除外して)、好ましくは最大で50%、より好ましくは最大で30%、最も好ましくは最大で20重量%のカゼイネートが含まれる。
【0034】
表面処理された歯科用充填剤(たとえば、歯科用接着剤組成物)を含む本発明のいくつかの実施態様では、その組成物には、組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%の表面処理された歯科用充填剤が含まれる。そのような実施態様では、本発明の組成物には、組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で40重量%、より好ましくは最大で20重量%、最も好ましくは最大で15重量%の表面処理された歯科用充填剤を含む。
【0035】
(たとえば、その組成物が歯科用修復材または歯科矯正用接着剤であるような)その他の実施態様においては、本発明の組成物には、組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも45重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%の表面処理された歯科用充填剤を含む。そのような実施態様では、本発明の組成物には、組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で90重量%、より好ましくは最大で80重量%、さらにより好ましくは最大で70重量%、最も好ましくは最大で50重量%の表面処理された歯科用充填剤を含む。
【0036】
場合によっては、その歯科用充填剤の処理された表面には、シラン(たとえば、米国特許第5,332,429号明細書(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているようなもの)、抗菌薬(たとえば、クロルヘキシジン;第四級アンモニウム塩;金属含有化合物たとえば、Ag、SnまたはZn含有化合物;およびそれらの組合せ)、および/またはフルオリドイオン源(たとえば、フルオリド塩、フルオリド含有ガラス、フルオリド含有化合物、およびそれらの組合せ)などがさらに含まれていてもよい。
【0037】
カゼイネートを含む歯科用組成物
いくつかの実施態様においては、本発明は、カゼイネートならびに硬化性樹脂および/または水中分散可能な、ポリマー膜形成材を含む歯科用組成物を提供する。そのような歯科用組成物は、直接的(たとえば、カゼイネートを硬化性樹脂または水中分散可能な、ポリマー膜形成材と組み合わせることによる)または間接的(たとえば、硬化性樹脂または水中分散可能な、ポリマー膜形成材の中で、カゼイネートをインサイチュで発生させることによる)、のいずれによっても調製することができる。カゼイネートを発生させる好適なインサイチュ法としては、たとえば、中和反応法、錯体化反応法、および/またはイオン交換法などが挙げられる。
【0038】
硬化性樹脂中にカゼイネートを含む歯科用組成物としては、たとえば、歯科用接着剤、歯科用修復材、および歯科矯正用接着剤などが挙げられる。水中分散可能な、ポリマー膜形成材の中にカゼイネートを含む歯科用組成物としては、たとえば、コーティング、ワニス、シーラント、プライマー、および脱感作薬などが挙げられる。本明細書において先にも記述していくつかの実施態様においては、カゼイネートは表面処理された充填剤の中に存在する。別な実施態様においては、カゼイネートは表面処理された充填剤の中には存在しない。
【0039】
歯科用組成物が硬化性樹脂の中にカゼイネートを含み、表面処理された充填剤の中にはカゼイネートが存在しない実施態様においては、その歯科用組成物には、歯科用組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.01%、より好ましくは少なくとも0.1%、最も好ましくは少なくとも1重量%のカゼイネートを含む。そのような実施態様においては、その歯科用組成物には、歯科用組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で70%、より好ましくは最大で50%、最も好ましくは最大で25重量%のカゼイネートを含む。
【0040】
歯科用組成物が水中分散可能な、ポリマー膜形成材の中にカゼイネートを含み、表面処理された充填剤の中にはカゼイネートが存在しない実施態様においては、その歯科用組成物には、歯科用組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.01%、より好ましくは少なくとも0.1%、最も好ましくは少なくとも1重量%のカゼイネートを含む。そのような実施態様においては、その歯科用組成物には、歯科用組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で70%、より好ましくは最大で50%、最も好ましくは最大で25重量%のカゼイネートを含む。
【0041】
本発明の歯科用組成物には、以下に記載するような任意成分の添加剤がさらに含まれていてもよい。
【0042】
本明細書に記述するように、歯科用組成物は、歯科用プライマー、歯科用接着剤、窩洞裏装材、窩洞清浄化剤、セメント、コーティング、ワニス、歯科矯正用接着剤、修復材、シーラント、脱感作薬、およびそれらの組合せとして有用とすることができる。
【0043】
硬化性樹脂を含む歯科用組成物
本発明の歯科用組成物は、硬表面、好ましくは、象牙質、エナメル質、および骨のような硬組織を処理するのに有用である。そのような歯科用組成物は、水性であっても、非水性であってもよい。いくつかの実施態様においては、歯科材料に適用する前に、組成物を固化させることができる(たとえば、従来からの光重合および/または化学重合技術によって重合させる)。別な実施態様においては、歯科材料に適用した後に、組成物を固化させることができる(たとえば、従来からの光重合および/または化学重合技術によって重合させる)。
【0044】
本発明の方法において歯科材料および歯科用接着剤組成物として使用可能な、好適な光重合性組成物としては、(カチオン活性なエポキシ基を含む)エポキシ樹脂、(カチオン活性なビニルエーテル基を含む)ビニルエーテル樹脂、(フリーラジカル活性な不飽和基、たとえば、アクリレートおよびメタクリレートを含む)エチレン性不飽和化合物、およびそれらの組合せ、などが挙げられる。単一の化合物の中にカチオン活性な官能基とフリーラジカル活性な官能基との両方を含む重合性物質もまた適している。その例としては、エポキシ官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0045】
酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物
本明細書で使用するとき、「酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物」という用語は、エチレン性不飽和ならびに、酸および/または酸前駆体官能基を有するモノマー、オリゴマー、およびポリマーを意味する。酸前駆体官能基には、たとえば、酸無水物、酸ハライド、およびピロホスフェートなどが含まれる。
【0046】
酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物としては、たとえばα,β−不飽和酸性化合物、たとえば、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(たとえば、HEMA)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ−またはトリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリレート化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリレート化ポリホウ酸などを、硬化性樹脂系における成分として使用することができる。不飽和炭素酸のモノマー、オリゴマー、およびポリマー、たとえば(メタ)アクリル酸、芳香族(メタ)アクリレート化酸(たとえば、メタクリレート化トリメリット酸)、およびそれらの無水物もまた、使用することができる。ある種の好適な本発明の組成物としては、少なくとも1個のP−OH残基を有する、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0047】
これらの化合物の内のある種のものは、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との間の反応生成物として得られる。酸官能基とエチレン性不飽和成分の両方を有するこのタイプの化合物については、さらに、米国特許第4,872,936号明細書(エンゲルブレヘト(Engelbrecht))および米国特許第5,130,347号明細書(ミトラ(Mitra))にも記載がある。エチレン性不飽和と酸残基の両方を含む、広い範囲のそのような化合物を使用することができる。所望により、そのような化合物の混合物を使用することもできる。
【0048】
酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物の例をさらに挙げれば、たとえば、たとえば、米国仮特許出願第60/437,106号明細書(出願日2002年12月30日)に開示されているような重合性ビスホスホン酸;AA:ITA:IEM(ペンダントメタクリレートを有するアクリル酸:イタコン酸のコポリマーで、たとえば、米国特許第5,130,347号明細書(ミトラ(Mitra))の実施例11に記載されているようにして、AA:ITAコポリマーを充分な量の2−イソシアナトエチルメタクリレートと反応させて、そのコポリマーの酸基の一部をペンダントメタクリレートに転化させて製造したもの);および、米国特許第4,259,075号明細書(ヤマウチ(Yamauchi)ら)、米国特許第4,499,251号明細書(オムラ(Omura)ら)、米国特許第4,537,940号明細書(オムラ(Omura)ら)、米国特許第4,539,382号明細書(オムラ(Omura)ら)、米国特許第5,530,038号明細書(ヤマモト(Yamamoto)ら)、米国特許第6,458,868号明細書(オカダ(Okada)ら)、および欧州特許出願公開第712,622号明細書(株式会社トクヤマ(Tokuyama Corp.)および欧州特許出願公開第1,051,961号明細書(株式会社クラレ(Kuraray Co.,Ltd.)に記載されているものがある。
【0049】
本発明の組成物には、エチレン性不飽和化合物と、たとえば、米国仮特許出願第60/600,658号(出願日:2004年8月11日)に記載されているような酸官能基との組合せをさらに含んでいてもよい。
【0050】
本発明の組成物には、充填物無添加の組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも3重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%の、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物を含む。本発明の組成物には、充填物無添加の組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で80重量%、より好ましくは最大で70重量%、最も好ましくは最大で60重量%の、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物を含む。
【0051】
酸官能基を有しないエチレン性不飽和化合物
本発明の組成物にはさらに、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物に加えて、一種または複数の重合性成分も含み、それによって固化可能な組成物を形成させてもよい。それらの重合性成分は、モノマー、オリゴマー、またはポリマーのいずれであってもよい。
【0052】
ある種の実施態様においては、その組成物が光重合性である、すなわち、その組成物に光重合性成分と光重合開始剤(すなわち、光重合開始剤系)を含み、化学線照射を行うことによって、組成物の重合(または硬化)を開始させる。そのような光重合性組成物は、フリーラジカル的に重合できるものでもよい。
【0053】
ある種の実施態様においては、その組成物が化学重合性である、すなわち、その組成物に化学重合性成分と化学重合開始剤(すなわち、重合開始剤系)を含み、化学線照射の照射に依存することなく、その組成物を重合、架橋、硬化させることができる。そのような化学重合性組成物は、「自己硬化性」組成物と呼ばれることがあり、それには、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント、レドックス硬化系、およびそれらの組合せが含まれる。
【0054】
本発明の組成物には、充填物無添加の組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも15重量%の、酸官能基を有しないエチレン性不飽和化合物を含む。本発明の組成物には、充填物無添加の組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で95重量%、より好ましくは最大で90重量%、最も好ましくは最大で80重量%の、酸官能基を有しないエチレン性不飽和化合物を含む。
【0055】
光重合性組成物
好適な光重合性組成物には、エチレン性不飽和化合物(フリーラジカル活性を有する不飽和基を含む)を含む光重合性成分(たとえば、化合物)が含まれていてもよい。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0056】
光重合性組成物としては、フリーラジカル的に活性な官能基を有する化合物が挙げられ、それには、1個または複数のエチレン性不飽和基を有する、モノマー、オリゴマー、およびポリマーが含まれる。好適な化合物には少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を含み、付加重合することができる。そのようなフリーラジカル重合性化合物としては以下のようなものが挙げられる:モノ−、ジ−またはポリ−(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレートおよびメタクリレート)たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリルオキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、およびトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレート;(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミドおよびメタクリルアミド)たとえば、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド、およびジアセトン(メタ)アクリルアミド;ウレタン(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(好ましくは、分子量200〜500)のビス−(メタ)アクリレート、米国特許第4,652,274号明細書(ベッチャー(Boettcher)ら)に記載されているようなアクリレート化モノマーの共重合性混合物、米国特許第4,642,126号明細書(ゼーダー(Zador)ら)に記載されているようなアクリレート化オリゴマー、および米国特許第4,648,843号明細書(ミトラ(Mitra))に記載されているようなポリ(エチレン性不飽和)カルバモイルイソシアヌレート;ならびにビニル化合物たとえば、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペート、およびジビニルフタレート。その他の好適なフリーラジカル重合性化合物としては、たとえば国際公開第00/38619号パンフレット(グッゲンベルガー(Guggenberger)ら)、国際公開第01/92271号パンフレット(バインマン(Weinmann)ら)、国際公開第01/07444号パンフレット(グッゲンベルガー(Guggenberger)ら)、国際公開第00/42092号パンフレット(グッゲンベルガー(Guggenberger)ら)などに開示されている、シロキサン官能性(メタ)アクリレート、ならびに、たとえば米国特許第5,076,844号明細書(フォック(Fock)ら)、米国特許第4,356,296号明細書(グリフィス(Griffith)ら)、欧州特許第0373 384号明細書(ワーゲンクネヒト(Wagenknecht)ら)、欧州特許第0201 031号明細書(ライナース(Reiners)ら)、および欧州特許第0201 778号明細書(ライナース(Reiners)ら)などに開示されている、フルオロポリマー官能性(メタ)アクリレートなどが挙げられる。所望により、フリーラジカル重合が可能な2種以上の化合物を使用することもできる。
【0057】
重合性成分には、単一の分子の中に、ヒドロキシル基とフリーラジカル的に活性な官能基とを含んでいてもよい。そのような物質の例としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、たとえば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−またはジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−またはジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、およびトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、またはペンタ−(メタ)アクリレート;および2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)などが挙げられる。好適なエチレン性不飽和化合物はさらに、広い範囲の商業的入手源、たとえばセントルイス(St.Louis)のシグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)からも入手することができる。所望により、エチレン性不飽和化合物の混合物を使用することもできる。
【0058】
ある種の実施態様においては、光重合性成分としては、PEGDMA(ポリエチレングリコールジメタクリレート、分子量約400)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、米国特許第6,030,606号明細書(ホルメス(Holmes))に記載されているようなビスEMA6、およびNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)などを挙げることができる。所望により、重合性成分を各種組み合わせて使用することができる。
【0059】
フリーラジカル的に光重合性組成物を重合させるための、好適な光重合開始剤(すなわち、一種または複数の化合物を含む光重合開始剤系)としては、2成分系および3成分系が挙げられる。典型的な3成分系光重合開始剤には、米国特許第5,545,676号明細書(パラゾット(Palazzotto)ら)に記載されているような、ヨードニウム塩、光増感剤、および電子供与性化合物が含まれる。好適なヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウム塩、たとえば、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、およびトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。好適な光増感剤は、400nm〜520nm(好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内で光を吸収する、モノケトンおよびジケトンである。より好ましい化合物は、400nm〜520nm(さらにより好ましくは、450〜500nm)の範囲で光を吸収する、アルファジケトンである。好適な化合物は、ショウノウキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン、およびその他の1−アリール−2−アルキル−1,2−エタンジオン、および環状アルファジケトンである。最も好ましいのは、ショウノウキノンである。好適な電子供与性化合物としては、置換アミン、たとえば、ジメチルアミノ安息香酸エチルが挙げられる。カチオン重合性樹脂を光重合させるのに有用なその他の好適な第三級光重合開始剤系が、たとえば、米国特許出願公開第2003/0166737号明細書(デデ(Dede)ら)に記載されている。
【0060】
フリーラジカル的光重合性組成物を重合させるための、その他好適な光重合開始剤としては、典型的には380nm〜1200nmに官能波長を有するホスフィンオキシドのタイプが挙げられる。380nm〜450nmに官能性波長領域を有する、好適なホスフィンオキシドフリーラジカル重合開始剤は、アシルおよびビスアシルホスフィンオキシドであって、それらは、たとえば米国特許第4,298,738号明細書(レヒトケン(Lechtken)ら)、米国特許第4,324,744号明細書(レヒトケン(Lechtken)ら)、米国特許第4,385,109号明細書(レヒトケン(Lechtken)ら)、米国特許第4,710,523号明細書(レヒトケン(Lechtken)ら)、および米国特許第4,737,593号明細書(エルリッヒ(Ellrich)ら)、米国特許第6,251,963号明細書(コーラー(Kohler)ら);ならびに欧州特許出願公開第0 173 567A2号明細書(イン(Ying))などに記載されている。
【0061】
380nm〜450nmよりも高い波長範囲の照射を受けて、フリーラジカル重合開始をさせることが可能なホスフィンオキシド光重合開始剤で、市販されているものとしては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(IRGACURE)819、ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown,NY)のチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI403、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で25:75の混合物(イルガキュア(IRGACURE)1700、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で1:1の混合物(ダロキュア(DAROCUR)4265、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、および、2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィン酸エチル(ルシリン(LUCIRIN)LR8893X、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte,NC)のBASF・コーポレーション(BASF Corp.))などが挙げられる。
【0062】
典型的には、ホスフィンオキシド重合開始剤は光重合性組成物中に、触媒量として有効な量、たとえば、組成物の全重量を基準にして0.1重量パーセント〜5.0重量パーセントの量で存在させる。
【0063】
アシルホスフィンオキシドと組み合わせて、第三級アミン還元剤を使用することも可能である。本発明において有用な第三級アミンの例としては、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、およびメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルなどが挙げられる。アミン還元剤を存在させる場合には、その量は、光重合性組成物の中に、組成物の全重量を基準にして0.1重量パーセント〜5.0重量パーセントの量である。その他の重合開始剤の有用な使用量は、当業者には周知である。
【0064】
化学重合性組成物
化学重合性組成物としては、重合性成分(たとえば、エチレン性不飽和重合性成分)および、酸化剤と還元剤とを含むレドックス反応剤を含む、レドックス硬化系を挙げることができる。本発明において有用な、好適な重合性成分、レドックス剤、任意成分の酸官能性成分および任意成分の充填剤は、米国特許出願公開第2003/0166740号明細書(ミトラ(Mitra)ら)および米国特許出願公開第2003/0195273号明細書(ミトラ(Mitra)ら)に記載されている。
【0065】
これらの還元剤および酸化剤は、互いに反応するか、そうでなければ相互に作用して、樹脂系(たとえば、エチレン性不飽和成分)の重合を開始させることが可能なフリーラジカルを発生するものでなければならない。このタイプの硬化反応は、暗反応であって、すなわち、光の存在には依存せず、光が無い状態でも進行する。この還元剤および酸化剤は、充分な貯蔵安定性を有していて、望ましくない着色が無く、典型的な歯科条件下で貯蔵・使用が可能であるのが好ましい。それらは、樹脂系との間に充分な混和性を有し(かつ、好ましくは水溶性であって)、重合性組成物の他の成分の中に容易に溶解するような(そして、それから分離しない)ものであるべきである。
【0066】
有用な還元剤の例を挙げれば、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、および米国特許第5,501,727号明細書(ワン(Wang)ら)に記載がある金属錯体化アスコルビン酸化合物;アミン、特に第三級アミン、たとえば4−tert−ブチルジメチルアニリン;芳香族スルフィン酸塩、たとえばp−トルエンスルフィン酸塩およびベンゼンスルフィン酸塩;チオ尿素、たとえば1−エチル−2−チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1−ジブチルチオ尿素、および1,3−ジブチルチオ尿素;ならびにそれらの混合物などがある。その他の二次的な還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存)、亜ジチオン酸または亜硫酸アニオンの塩、およびそれらの混合物などが挙げられる。還元剤がアミンであるのが好ましい。
【0067】
好適な酸化剤もまた当業者には馴染みのあるもので、過硫酸およびそれらの塩、たとえば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、およびアルキルアンモニウム塩などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。さらなる酸化剤を挙げれば、ペルオキシドたとえばベンゾイルペルオキシド、ヒドロペルオキシドたとえばクミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシドおよびアミルヒドロペルオキシド、さらには遷移金属の塩、たとえば塩化コバルト(III)および塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)、過ホウ酸およびそれらの塩、過マンガン酸およびそれらの塩、過リン酸およびそれらの塩、ならびにそれらの混合物などがある。
【0068】
2種以上の酸化剤または2種以上の還元剤を使用するのが望ましい。少量の遷移金属化合物を添加して、レドックス硬化速度を加速させてやることも可能である。いくつかの実施態様においては、米国特許出願公開第2003/0195273(ミトラ(Mitra)ら)に記載があるように、重合性組成物の安定性を向上させる目的で、第二級イオン性塩を含むのが好ましい。
【0069】
還元剤および酸化剤は、充分なフリーラジカル反応速度を与えるような量で存在させる。このことは、任意成分の充填剤を除いて、重合性組成物の成分を全部組み合わせて、硬化物が得られるかどうかを観察することによって、評価することができる。
【0070】
還元剤は、重合性組成物の成分の全重量(水を含む)を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%の量で存在させる。還元剤は、重合性組成物の成分の全重量(水を含む)を基準にして、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在させる。
【0071】
酸化剤は、重合性組成物の成分の全重量(水を含む)を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.10重量%の量で存在させる。酸化剤は、重合性組成物の成分の全重量(水を含む)を基準にして、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在させる。
【0072】
それらの還元剤または酸化剤は、米国特許第5,154,762号明細書(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、マイクロカプセル化しておいてもよい。こうすると、一般的には重合性組成物の貯蔵安定性が向上し、必要に応じて、還元剤と酸化剤を一緒に包装することも可能となる。たとえば、カプセル化材料に適切なものを選択することによって、酸化剤と還元剤を、酸官能性成分と任意成分の充填剤と組み合わせることが可能となり、貯蔵するのに安定な状態で保存することができる。同様にして、水溶性のカプセル化材料を適切に選択することによって、還元剤と酸化剤をFASガラスおよび水と組み合わせることが可能となり、貯蔵安定性のある状態で保存することができる。
【0073】
米国特許第5,154,762号明細書(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、レドックス硬化系を、他の硬化系たとえば光重合性組成物と組み合わせることも可能である。
【0074】
いくつかの実施態様においては、硬化性樹脂を含む本発明の歯科用組成物を硬化させて、歯冠、充填物、ミルブランク、歯科矯正器具、および義歯からなる群より選択される歯科用物品を製作することができる。
【0075】
水中分散可能なポリマー膜形成材
いくつかの実施態様においては、本明細書に記載される水中分散可能なポリマー膜形成材には、本明細書において以下に示すような、極性基または極性化が可能な基を含む繰り返し単位が含まれる。ある種の実施態様においては、水中分散可能なポリマー膜形成材にはさらに、本明細書において以下に示すような、フルオリド放出基を含む繰り返し単位、疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位、グラフトポリシロキサン鎖を含む繰り返し単位、疎水性フッ素含有基を含む繰り返し単位、変性基を含む繰り返し単位、またはそれらの組合せを含む。いくつかの実施態様においては、場合によっては、そのポリマーに、反応性基(たとえば、エチレン性不飽和基、エポキシ基、または縮合反応に与ることが可能なシラン残基)が含まれる。水中分散可能なポリマー膜形成材の例は、たとえば下記の特許に開示されている:米国特許第5,468,477号明細書(クマール(Kumar)ら)、米国特許第5,525,648号明細書(アアセン(Aasen)ら)、米国特許第5,607,663号明細書(ロッジ(Rozzi)ら)、米国特許第5,662,887号明細書(ロッジ(Rozzi)ら)、米国特許第5,725,882号明細書(クマール(Kumar)ら)、米国特許第5,866,630号明細書(ミトラ(Mitra)ら)、米国特許第5,876,208号明細書(ミトラ(Mitra)ら)、米国特許第5,888,491号明細書(ミトラ(Mitra)ら)、および米国特許第6,312,668号明細書(ミトラ(Mitra)ら)。
【0076】
極性基または極性化が可能な基を含む繰り返し単位は、ビニル性モノマーたとえば、アクリレート、メタクリレート、クロトネート、イタコネートなどから誘導される。それらの極性基は、酸、塩基、塩のいずれであってもよい。それらの基はさらに、イオン性であっても、中性であってもよい。
【0077】
極性基または極性化が可能な基の例としては、中性な基たとえば、ヒドロキシ、チオ、置換および非置換のアミド、環状エーテル(たとえば、オキサン、オキセタン、フラン、およびピラン)、塩基性基(たとえば、ホスフィンおよび第一級、第二級、第三級アミンを含めたアミン)、酸性基(たとえば、C、S、P、Bのオキシ酸、およびチオオキシ酸)、イオン性基(たとえば第四級アンモニウム、カルボキシレート塩、スルホン酸塩など)、ならびに、それらの基の前駆体および保護された形などが挙げられる。さらには、極性基または極性化が可能な基がマクロモノマーであってもよい。そのような基のさらなる具体例を以下に示す。
【0078】
極性基または極性化が可能な基は、次の一般式によって表される分子を含む単官能または多官能カルボキシル基から誘導することができる:
CH2=CR2G−(COOH)d
ここで、R2はH、メチル、エチル、シアノ、カルボキシまたはカルボキシメチルであり、dは1〜5であり、そしてGは単結合であるかまたは、原子価がd+1であり、場合によっては置換または非置換ヘテロ原子(たとえばO、S、NおよびP)で置換されるか、それらにより中断されていてもよい、1〜12個の炭素原子を含むヒドロカルビルラジカル結合基である。場合によっては、この単位が塩の形で与えられていてもよい。このタイプの好適なモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、およびN−アクリロイルグリシンである。
【0079】
極性基または極性化が可能な基は、たとえば、次の一般式によって表される分子を含む単官能または多官能ヒドロキシ基から誘導することができる:
CH2=CR2−CO−L−R3−(OH)d
ここで、R2はH、メチル、エチル、シアノ、カルボキシまたはカルボキシアルキル、LはO,NHであり、dは1〜5であり、R3は、1〜12個の炭素原子を含む、原子価d+1のヒドロカルビルラジカルである。このタイプの好適なモノマーは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシメチル)エタンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、およびヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミドである。
【0080】
極性基または極性化が可能な基は、それらに代えて、次の一般式の分子を含む単官能または多官能アミノ基から誘導することができる:
CH2=CR2−CO−L−R3−(NR45d
ここで、R2、L、R3、およびdは上で定義されたものであり、R4およびR5はHもしくは1〜12個の炭素原子のアルキル基であるか、またはそれらが合体して、炭素環または複素環基を形成している。このタイプの好適なモノマーは、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、および4−メチル−1−アクリロイル−ピペラジンである。
【0081】
極性基または極性化が可能な基はさらに、アルコキシ置換された(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド、たとえばメトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートまたはポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートから誘導してもよい。
【0082】
極性基または極性化が可能な基単位は、下記の一般式の置換または非置換アンモニウムモノマーから誘導してもよい:
【化1】

ここで、R2、R3、R4、R5、Lおよびdは上で定義されたものであり、R6はHまたは1〜12個の炭素原子のアルキルであり、Q-は有機または無機アニオンである。そのようなモノマーの好適な例としては、2−N,N,N−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート、2−N,N,N−トリエチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート、3−N,N,N−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリレート、N(2−N’,N’,N’−トリメチルアンモニウム)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム)プロピル(メタ)アクリルアミド、またはそれらの組合せであるが、ここでその対イオンとしてはフルオリド、クロリド、ブロミド、アセテート、プロピオネート、ラウレート、パルミテート、ステアレート、またはそれらの組合せが挙げられる。さらに、そのモノマーが、有機または無機対イオンのN,N−ジメチルジアリルアンモニウム塩であってもよい。
【0083】
アンモニウム基含有ポリマーは、極性基であるかまたは極性化が可能な基として、上述のアミノ基含有モノマーのいずれかを用い、有機または無機酸を用いてそうして得られたポリマーを酸性化して、ペンダントされたアミノ基を実質的にプロトン化するようなpHとすることにより、調製することもできる。全面的に置換されたアンモニウム基含有ポリマーは、アルキル化基を用いて上述のアミノポリマーをアルキル化することにより得ることができるが、その方法はメンシュトキン(Menschutkin)反応として当業者には一般的に知られている。
【0084】
極性基または極性化が可能な基は、スルホン酸基含有モノマー、たとえばビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸などから誘導することも可能である。別な方法として、極性基であるかまたは極性化が可能な基を、亜リン酸またはホウ酸基含有モノマーから誘導してもよい。それらのモノマーは、モノマーとしてはプロトン化された酸の形で使用し、有機または無機塩基を用いて得られた対応ポリマーを中和して、塩の形のポリマーを得てもよい。
【0085】
極性基であるかまたは極性化が可能な基の好適な繰り返し単位としては、アクリル酸、イタコン酸、N−イソプロピルアクリルアミド、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0086】
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、フルオリド放出基を含む繰り返し単位をさらに含む。好適なフルオリド放出基は、テトラフルオロボレートアニオンであって、たとえば米国特許第4,871,786号明細書(アアセン(Aasen)ら)に開示されている。フッ化物放出基の好適な繰り返し単位には、トリメチルアンモニウムメチルメタクリレートが含まれる。
【0087】
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位をさらに含む。疎水性炭化水素基の一例は、160より高い重量平均分子量を有する、エチレン性不飽和予備形成(preformed)炭化水素残基から誘導される。その炭化水素残基が少なくとも160の分子量を有しているのが好ましい。その炭化水素残基は、好ましくは最大で100,000、より好ましくは最大で20,000の分子量を有している。その炭化水素残基は、本質的に芳香族であっても非芳香族であってもよく、場合によっては部分的または全面的に飽和された環を含んでいてもよい。好適な疎水性炭化水素残基は、ドデシルおよびオクタデシルアクリレートおよびメタクリレートである。その他の好適な疎水性炭化水素残基としては、重合性炭化水素、たとえばエチレン、スチレン、アルファ−メチルスチレン、ビニルトルエン、およびメチルメタクリレートから調製した、所望の分子量を有するマクロモノマーが挙げられる。
【0088】
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、疎水性フッ素含有基を含む繰り返し単位をさらに含む。疎水性フッ素含有基の繰り返し単位の例としては、以下のものが挙げられる:1,1−ジヒドロペルフルオロアルカノールおよび同族体のアクリル酸もしくはメタクリル酸エステル:CF3(CF2xCH2OHおよびCF3(CF2x(CH2yOH(ここで、xは0〜20であり、yは少なくとも1から最高10までである);ω−ヒドロフルオロアルカノール(HCF2(CF2x(CH2yOH)(ここでxは0〜20であり、yは少なくとも1から最高10までである);フルオロアルキルスルホンアミドアルコール;環状フルオロアルキルアルコール;およびCF3(CF2CF2O)q(CF2O)x(CH2yOH(ここで、qは2〜20でxよりも大きく、xは0〜20であり、そしてyは少なくとも1から最高10までである)。
【0089】
疎水性フッ素含有基の好ましい繰り返し単位としては、2−(メチル(ノナフルオロブチル)スルホニル)アミノ)エチルアクリレート、2−(メチル(ノナフルオロブチル)スルホニル)アミノ)エチルメタクリレート、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0090】
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、グラフトポリシロキサン鎖を含む繰り返し単位をさらに含む。そのグラフトポリシロキサン鎖は、エチレン性不飽和予備形成オルガノシロキサン鎖から誘導される。その単位の分子量は通常、500より大である。グラフトポリシロキサン鎖の好適な繰り返し単位には、シリコーンマクロマーが含まれる。
【0091】
本発明のグラフトポリシロキサン鎖を得るために使用されるモノマーは、単一の官能基(ビニル、エチレン性不飽和、アクリロイル、またはメタクリロイル基)を有する末端官能性ポリマーであり、時にマクロモノマーまたは「マクロマー」と呼ばれることもある。そのようなモノマーは公知であって、たとえば米国特許第3,786,116号明細書(ミルコビッチ(Milkovich)ら)および米国特許第3,842,059号明細書(ミルコビッチ(Milkovich)ら)に開示されている方法によって、調製することができる。ポリジメチルシロキサンマクロモノマーの調製と、それに続くビニルモノマーとの共重合については、Y.ヤマシタ(Y.Yamashita)らによるいくつかの報文に記載されている[ポリマー・ジャーナル(Polymer J.)、14、913(1982);エイ・シー・エス・ポリマー・プレプリンツ(ACS Polymer Preprints)、25(1)、245(1984);マクロモレキュラー・ヘミー(Makromol.Chem.)、185、9(1984)]。
【0092】
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、変性基を含む繰り返し単位をさらに含む。変性基はたとえば、アクリレートまたはメタクリレートまたはその他のビニル重合性出発モノマーから誘導され、場合によっては、ガラス転移温度、キャリヤ媒体中への溶解性、親水性−疎水性バランスなどのような性質を変性させるための官能基を含む。
【0093】
変性基の例としては、1〜12個の炭素の直鎖状、分岐状または環状アルコールの、低級または中級のメタクリル酸エステルが挙げられる。変性基のその他の例を挙げれば、スチレン、ビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロイルモノマーなどがある。
【0094】
好適な膜形成材は、アクリレート系のコポリマーおよびウレタンポリマー、たとえばアバルア(AVALURE)シリーズの化合物(たとえば、AC−315およびUR−450)、ならびにカルボマー系のポリマー、たとえばカルボポール(CARBOPOL)シリーズのポリマー(たとえば、940NF)であるが、それらはすべて、オハイオ州クリーブランド(Cleveland,OH)のノベオン・インコーポレーテッド(Noveon Inc.)から入手可能である。
【0095】
任意成分の添加剤
場合によっては、本発明の組成物には溶媒を含んでいてもよく、その溶媒としてはたとえば、アルコール(たとえば、プロパノール、エタノール)、ケトン(たとえば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(たとえば、酢酸エチル)、その他の非水溶媒(たとえば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリジノン))、および水などが挙げられる。
【0096】
所望により、本発明の組成物には、指示薬、染料、顔料、禁止剤、加硫促進剤、粘度変性剤、濡れ剤、酒石酸、キレート剤、緩衝液、安定剤、およびその他当業者には自明の同様の成分などの、添加剤を含んでいてもよい。それらに加えて、場合によっては医薬品または治療用薬剤をその歯科用組成物に加えることもできる。そのような例としては、歯科用組成物において頻用されるタイプの、フルオリド源、白化剤、齲蝕予防薬(たとえば、キシリトール)、カルシウム源、リン源、再石灰化薬(たとえば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、口臭防止薬(breath freshener)、麻酔薬、凝結薬、酸中和剤、化学療法薬、免疫応答変性薬、チキソ剤、ポリオール、抗炎症薬、抗菌薬、抗真菌薬、口内乾燥症治療薬、脱感作薬などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。上記の添加剤はどのように組み合わせて使用してもよい。そのような添加剤のどれを選択して、どれだけの量で使用するかは、当業者ならば選択することが可能で、余分な実験をしなくても、目的の結果を達成することができる。
【0097】
使用方法
本発明の組成物を使用する方法の例は、実施例に示す。本発明のいくつかの実施態様においては、歯牙構造を処置するために、本発明の歯科用組成物を歯牙構造に接触させることができる。いくつかの実施態様においては、本発明による歯科用組成物を口腔環境の中に置くことによって、再石灰化、知覚過敏の抑制、および/または歯牙構造の保護の効果を得ることができる。好ましい実施態様においては、本発明による歯科用組成物を口腔環境の中に置くことによって、口腔環境へイオン(たとえば、カルシウム、リン、および/またはフッ素含有イオン)を送達する。
【0098】
本発明の目的と利点を以下の実施例によりさらに説明するが、これらの実施例で用いる具体的な物質やその量、さらにはその他の条件および詳細が本発明を限定する、と考えるのは不当である。特に断らない限り、すべての部とパーセントは重量基準であり、水はすべて脱イオン水であり、分子量はすべて重量平均分子量である。
【実施例】
【0099】
試験方法
視覚的乳白度(visual opacity)(マクベス値(MacBeth Value))試験方法
円板形状(厚み1mm×直径15mm)のペーストサンプルを、円板の両面から6mmの距離で、ビジルックス(VISILUX)2硬化用光源(スリー・エム・カンパニー(3M Company)、ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN))からの照明に60秒間露光させることにより、硬化させた。硬化させたサンプルについて、円板の厚みを通過する光の透過率を測定することによって、直接光透過率を測定したが、それには、マクベス(MacBeth)(マクベス(MacBeth)、ニューヨーク州ニューバーグ(Newburgh,NY))から入手可能の、可視光フィルター付きのマクベス(MacBeth)透過デンシトメーターモデルTD−903を使用した。マクベス値(MacBeth Value)が低いほど、視覚的乳白度が低く、物質の半透明度性が高いことを示す。報告する値は、3個の測定の平均値である。
【0100】
圧縮強さ(CS)試験方法
試験サンプルの圧縮強さは、ANSI/ASA規格No.27(1993)に従って測定した。サンプルを4mm(内径)ガラスチューブの中に充填し;シリコーンゴムのプラグを用いてそのチューブに栓をし;次いでそのチューブを軸方向に、約0.28MPaで5分間圧縮した。次いでそのサンプルの両側の面に配したビジルックス(VISILUX)モデル2500ブルー・ライト・ガン(スリー・エム・カンパニー(3M Co.)、ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN))に90秒間露光させて光硬化させ、次いでデンタカラー(Dentacolor)XSユニット(独国、クルツアー・インコーポレーテッド(Kulzer Inc.)の中で、180秒間照射させた。ダイヤモンドソーを用いて硬化させたサンプルを切断して、圧縮強さを測定するための、長さ8mmの円筒状プラグを作成した。そのプラグを、試験の前24時間、37℃の蒸留水中に保存しておいた。測定は、インストロン(Instron)試験機(インストロン(Instron)4505、インストロン・コーポレーション(Instron Corp.)、マサチューセッツ州カントン(Canton,MA))で、10キロニュートン(kN)ロードセルを用い、クロスヘッド速度1mm/分で実施した。硬化させたサンプルの5本の円筒を調製して測定し、その5個の測定の平均値として、結果をMPaの単位で報告した。
【0101】
直径引張強さ(DTS)試験方法
試験サンプルの直径引張強さは、ANSI/ASA規格No.27(1993)に従って測定した。サンプルはCS試験方法における記載と同様にして調製したが、ただし、DTS測定のためには、硬化させたサンプルを次いで厚み2.2mmの円板に切断した。上述と同様にしてその円板を水中に保存しておき、インストロン(Instron)試験機(インストロン(Instron)4505、インストロン・コーポレーション(Instron Corp.))で、10(kN)ロードセルを用い、クロスヘッド速度1mm/分で測定した。硬化させたサンプルの5枚の円板を調製して測定し、その5個の測定の平均値として、結果をMPaの単位で報告した。
【0102】
作業時間(WT)試験方法
混合したセメントを固化させるための作業時間は、以下の手順に従って測定した。器具およびペーストは、使用前に定温定湿度(22℃、50%RH)の室内に保存しておき、測定手順も同じ室内で実施した。スパチュラを用いパッドの上で、AおよびBベースを定められた量で25秒間混合し、得られた混合組成物サンプルを、8cm×10cmのプラスチックブロックの半円筒形のトラフ断面(長さ8cm、幅1cm、深さ3mm)に移し替えた。1:00分の時点では、30秒ごとにボールペン(直径1mm)の溝付け具を用いて、トラフを横切る方向で垂直な溝を作り;2:00分の時点では、15秒ごとに溝を作り;そして作業時間の終点に近づいたら、10秒ごとに溝を作った。作業時間の終点は、セメントサンプルの塊状物が溝付け具と共に移動するようになった時点とした。作業時間は、2〜3回の測定の平均値として報告した。
【0103】
スペクトル的乳白度(Spectral Opacity)(SO)試験方法
ASTM−D2805−95に修正を加えて、厚み約1.0mmの歯科材料のスペクトル的乳白度を測定した。円板状の、厚み1mm×直径20mmのサンプルを、円板の両側から6mmの距離で、スリー・エム・ビジルックス(3M Visilux)−2歯科用硬化光源からの照明に60秒間露光させることにより、硬化させた。それらの円板のY−三刺激値を、3/8インチ開口部を有するウルトラスキャン・XE・カラリメーター(Ultrascan XE Colorimeter)(ハンター・アソシエーツ・ラボズ(Hunter Associates Labs)、バージニア州レストン(Reston,VA))により、白色および黒色背景で別々に測定した。すべての測定において、D65光源をフィルターなしで使用した。視角10度を用いた。白色および黒色基材に対するY−三刺激値はそれぞれ、85.28および5.35であった。スペクトル的乳白度は、黒色基材における物質の反射率の、白色基材における同一の物質の反射率に対する比として計算される。反射率は、Y−三刺激値に等しいと定義される。したがって、スペクトル的乳白度=RB/RWであり、ここでRB=黒色基材上での円板の反射率、RW=白色基材上での同一の円板の反射率、である。スペクトル的乳白度は無単位数である。スペクトル的乳白度が低いほど、視覚的乳白度が低く、物質の半透明度性が高いことを示す。
【0104】
象牙質に対する接着性(AD)およびエナメル質に対する接着性(AE)の試験方法
象牙質に対する接着性およびエナメル質に対する接着性は、米国特許第6,613,812号明細書(ビュイ(Bui)ら)に記載の手順に従って測定したが、ただし、光硬化の露光時間を20秒とし、またスリー・エム・Z100・レストラティブ(3M Z100 Restorative)に代えて、スリー・エム・イー・エス・ピー・イー・フィルテック(3M ESPE Filtek)Z250コンポジットを使用した。
【0105】
プライマー組成物については、ADおよびAEは上述のようにして測定したが、ただし、プライマー組成物は、湿らせたウシ歯牙表面の上に塗布して20秒間置き、5〜10秒間穏やかに空気乾燥させ、次いで10秒間光硬化させ;また、フィルテック(Filtek)Z250コンポジットに代えて、ビトレマー・コア・レストラティブ(Vitremer Core Restorative)を使用した。
【0106】
X線回折(XRD)試験方法
試験サンプルを炭化ホウ素乳鉢中でムーリングし、エタノールスラリーとして、ゼロバックグラウンドサンプルホルダー(石英挿入アルミニウムホルダー)に塗布した。反射の幾何学的データは、フィリップス(Philips)垂直回折計、銅Kα線源、散乱放射線比例検出器レジストリーを用いた検査スキャンの形で集積した。存在している結晶相についての微結晶粒径(D)は、ピアソン(Pearson)VIIピーク形状モデルを使用し、最大値の半分のところでの全幅として機器による広がりを補正した後に観察されるピーク幅から計算したが、これはα1/α2分離に相当する。
【0107】
カルシウムおよびリンイオン放出(CIR)試験方法
円板状の、厚み1mm×直径20mmのサンプルを、円板の両側から6mmの距離で、スリー・エム・XL・3000(3M XL3000)歯科用硬化光源からの照明に60秒間露光させることにより、硬化させた。円板を37℃のHEPES−緩衝溶液中に保存し、その溶液を定期的に交換し、そのイオン含量をパーキン・エルマー・3300DV・オプティマ・ICP(Perkin−Elmer 3300DV Optima ICP)ユニットでの誘導結合プラズマ分光光度法(ICP)によるか、またはカルシウム選択電極により、測定した。その緩衝溶液の組成は、1000gの脱イオン水、3.38gのNaCl、および15.61gのHEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)であった。イオン放出速度(マイクログラム(イオン)/g(円板)/日)は、溶液の全イオン含量(濃度×溶液容積)を、初期円板重量と、緩衝溶液を最後に交換してからの経過時間(日)とで割り算することにより計算した。
【0108】
エナメル質の再石灰化の試験方法
この方法は、「サーフェス・モジュレーション・オブ・デンタル・ハード・ティッシューズ(Surface Modulation of Dental Hard Tissues)」(D.タントビロン(D.Tantbirojn)、博士論文、ミネソタ大学(University of Minnesota)、1998)の記載に従って実施したが、以下の変更を加えた。その脱灰溶液は、NaFからの0.1ppmのF-、CaCl2からの1.5mMのCa2+、KH2PO4からの0.9mMのPO43-、50mMの酢酸を含み、1MのKOHを用いてpHを5.0に調節したが、その鉱物質含量は、マイクロラジオグラフの定量的画像解析により測定した。
【0109】
象牙質の再石灰化の試験方法
この方法は、「サーフェス・モジュレーション・オブ・デンタル・ハード・ティッシューズ(Surface Modulation of Dental Hard Tissues)」(D.タントビロン(D.Tantbirojn)、博士論文、ミネソタ大学(University of Minnesota)、1998)の記載に従って実施したが、以下の変更を加えた。エナメル質に代えて象牙質を使用し、その脱灰溶液は、NaFからの0.1ppmのF-、CaCl2からの1.5mMのCa2+、KH2PO4からの0.9mMのPO43-、50mMの酢酸を含み、1MのKOHを用いてpHを5.0に調節したが、その鉱物質含量は、マイクロラジオグラフの定量的画像解析により測定した。
【0110】
象牙質における脱灰抵抗性の試験方法
この方法は、「サーフェス・モジュレーション・オブ・デンタル・ハード・ティッシューズ(Surface Modulation of Dental Hard Tissues)」(D.タントビロン(D.Tantbirojn)、博士論文、ミネソタ大学(University of Minnesota)、1998)の記載に従って実施したが、以下の変更を加えた。エナメル質に代えて象牙質を使用し、その脱灰溶液は、NaFからの0.1ppmのF-、CaCl2からの1.5mMのCa2+、KH2PO4からの0.9mMのPO43-、50mMの酢酸を含み、1MのKOHを用いてpHを5.0に調節したが、そのサンプルに近接する酸腐蝕の程度を、マイクロラジオグラフから定量的に分類した。
【0111】
【表1】




【0112】
出発物質の調製
6−メタクリロイルオキシヘキシルホスフェート(MHP)
6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートの合成:1,6−ヘキサンジオール(1000.00g、8.46mol、シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))を、機械的撹拌器とそのフラスコに乾燥空気を吹き込むための細いチューブとを取り付けた1リットルの三口フラスコの中に入れた。固形のジオールを加熱して90℃とすると、その温度ではすべての固形物が溶融した。撹拌を続けながら、p−トルエンスルホン酸結晶(18.95g、0.11mol)に続けて、BHT(2.42g、0.011mol)およびメタクリル酸(728.49.02g、8.46mol)を添加した。撹拌を続けながら90℃で5時間加熱したが、その間、反応時間が30分経過する毎に5〜10分ずつ、水道水のアスピレーターで減圧にした。加熱を止めて、反応混合物を冷却して室温とした。得られた粘稠な液体を、10%の炭酸ナトリウム水溶液を用いて2回(2×240mL)洗浄し、次いで水を用いて(2×240mL)洗浄し、最後に飽和NaCl水溶液100mLを用いて洗浄した。得られた油状物を、無水のNa2SO4を用いて乾燥させてから、真空濾過により単離すると1067g(67.70%)の6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートが黄色油状物として得られた。この目的の反応生成物には、15〜18%の1,6−ビス(メタクリロイルオキシヘキサン)が同伴していた。化学的な同定はNMR分析により行った。
【0113】
6−メタクリロイルオキシヘキシルホスフェート(MHP)の合成:機械的撹拌器を取り付けた1リットルのフラスコの中で、N2雰囲気下で、P410(178.66g、0.63mol)と塩化メチレン(500mL)を混合することにより、スラリーを形成させた。フラスコを氷浴(0〜5℃)中で15分間冷却させた。撹拌を続けながら、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート(962.82g(3.78molのモノ−メタクリレートと、上述のような副生物としてのそのジメタクリレートを含む)をフラスコの中に、2時間かけて徐々に添加した。添加が完了してから、その混合物を氷浴の中で1時間、次いで室温で2時間撹拌した。BHT(500mg)を加えてから、温度を上げて45分間還流(40〜41℃)させた。加熱を止めて、その混合物を放冷して室温とした。溶媒を真空下で除去すると、1085g(95.5%)の6−メタクリロイルオキシヘキシルホスフェート(MHP)が黄色の油状物として得られた。化学的な同定はNMR分析により行った。
【0114】
樹脂A、B、C、D、およびE
表1に示した成分を組み合わせることによって、樹脂A、B、C、D、およびEを調製した。
【0115】
【表2】

【0116】
実施例1Aおよび1B
カゼイネート物質を用いて処理したジルコニア−シリカナノクラスター充填剤
実施例1A:充填剤B(ナノクラスタージルコニア−シリカ)(149.3g)を10重量%のナトリウムカゼイネート溶液(213.4g)の中で撹拌して、滑らかなクリーム状のスラリーを形成させた。このスラリーに、脱イオン水中10重量%Na2HPO4溶液(35.4g);追加の脱イオン水(57g);脱イオン水中3.9重量%NaOH溶液(57g)(pHを約6.5から約9.0に調節);および脱イオン水中46.4重量%CaCl2・2H2O溶液(35.4g)の順に添加すると、ゲル化や沈殿を起こすことなく均一な分散体が得られた。この分散体をギャップドライヤー上で乾燥させると、幅約2〜10mmの薄いフレーク状物が得られたが、それは極端にもろく、容易に粉砕して微粉末とすることができた(実施例1と名付ける)。最終的な粉末の組成を計算すると、20%のカルシウム−ホスフェート−カゼイネートと80%の充填剤Bであった。粉末X線回折(XRD)からは、その粉末はほとんど非晶質であって、NaCl(微結晶粒径:>1500Å、相対ピークサイズ100)と単斜晶系のジルコニア(微結晶粒径:30Å、相対ピークサイズ36)とのピークを有していた。比較のために、入手したままのナトリウムカゼイネートのXRDパターンを見ると、ブロードな非晶質ピークの形に顕著な違いがある。ナトリウムカゼイネートでは、d=4.3778Åにメインのブロードなピーク、そしてd=9.4020Åにおまけのブロードなピークが認められるが、これはおそらく無秩序結晶構造を示しているのであろう。それとは対称的に、実施例1Aはd=3.8415Åにメインのブロードなピークを有し(ナトリウムカゼイネートに比較すると大きくシフトしている)、それより高いd間隔にはピークが存在しないが、このパターンは、非晶質物質であることを示すものである。
【0117】
実施例1B:充填剤B(45.1g)を脱イオン水(59.4g)およびホスカル(PHOSCAL)(5.2g)と混合して、低粘度で、滑らかな均質なスラリーを形成させた。その日の内に、そのスラリーがギャップ乾燥させると、薄くもろいフレーク状物が得られたが、それは圧壊により容易に粉末となった。最終的な粉末(実施例1Bと名付ける)には、10%のホスカル(PHOSCAL)と90%の充填剤Bとが含まれていた。
【0118】
実施例2A〜2C
カゼイネート物質を用いて処理したシリカナノクラスター充填剤
実施例2A:ナルコ(Nalco)2329コロイダルシリカゾル(89.6g)を10重量%ナトリウムカゼイネート(213.4g)の中で撹拌すると、低粘度で濁りのあるゾルが形成された。このゾルに、脱イオン水中10重量%Na2HPO4溶液(28.0g);脱イオン水中3.9重量%NaOH溶液(9.7g)(pHを約7.4から約9.5に調節);および脱イオン水中46.4重量%CaCl2・2H2O溶液(7.2g)をこの順で添加した。短時間のうちに、いくぶんかの白色のゼラチン状の球状物(globs)が生成した。このゾルを冷蔵庫に一夜入れておき、翌日ギャップドライヤーで乾燥させると、薄いフレーク状物が得られたが、それは、極端にもろく、圧壊により容易に微粉末となった(実施例2Aと名付ける)。その白色の沈殿物は、ギャップドライヤーではすこし難があった。
【0119】
実施例2B:ナルコ(Nalco)2329コロイダルシリカゾル(154g)を10重量%ナトリウムカゼイネート(213.4g)の中で撹拌すると、低粘度で濁りのあるゾルが形成された。そのゾルに、脱イオン水中10重量%Na2HPO4溶液(9.8g);脱イオン水中3.9重量%NaOH溶液(7.0g)(pHを約7.4から約9.5に調節);および脱イオン水中46.4重量%CaCl2・2H2O溶液(2.5g)をこの順で添加すると、沈殿、分離あるはゲル化することなく、均質なゾルが得られた。このゾルを冷蔵庫に一夜入れておき、翌日ギャップドライヤーで乾燥させると、大きな薄いフレーク状物が得られたが、それは、極端にもろく、圧壊により容易に微粉末となった(実施例2Bと名付ける)。XRDからは、この粉末はほとんど非晶質であって、NaCl(微結晶粒径:1305Å)のピークがあるだけであることが判った。d≒4.0Åに単一のメインのブロードなピークがあるだけで、それより高いd−間隔にはピークは存在しなかったが、このXRDパターンは、実施例1Aの場合のXRDパターンに類似していた。実施例2Bの走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)画像からは、球状のコロイダルシリカ粒子がカゼイネートによって共に結合されてクラスターを形成していることが判った。
【0120】
実施例2C:ホスカル(PHOSCAL)(6.0g)をナルコ(Nalco)2326コロイダルシリカ(92.2g)の中に溶解させて、低粘度で均質は、やや濁ったゾルを形成させた。そのゾルを、その日の内にギャップ乾燥させると、粗くもろい粒子が得られたが、その正味の組成は、30%のホスカル(PHOSCAL)と70%のシリカであった。その粒子はもろく、圧壊により容易に微粉末となった(実施例2Cと名付ける)。ホスカル(PHOSCAL)の粉末XRDは、ナトリウムカゼイネートの場合(実施例1A参照)のXRDパターンと同様に、(約d≒4.3Åおよびd≒9.6Åに)ブロードなピーク構造を示すと共に、NaClからのd=2.8Å、およびカルシウムホスフェート相であると思われるd=3.4Åのナノ結晶性ピークをさらに示した。実施例2Cは、それらとは対称的に、d≒3.9Åのブロードなピークと、d≒9.8Åに極めて小さなピーク(ホスカル(PHOSCAL)のパターンにおけるよりもかなり小さい)とを有していた。d=2.8Åにおけるブロードなピーク(NaCl)は、実施例2Cのパターンの方がホスカル(PHOSCAL)のパターンよりは、はるかに小さく、約d=3.4Åにはピークは認められなかった。
【0121】
実施例3
オーブン乾燥させたカゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))
脱イオン水中の12%ホスカル(PHOSCAL)溶液を、ガラストレイの中で、100℃で3時間かけて乾燥させた。また別な実験においては、ホスカル(PHOSCAL)溶液を上述のようにして乾燥させてから、さらに140℃で15時間加熱した。入手したまま、乾燥、および乾燥/加熱したホスカル(PHOSCAL)粉末物質のXRDパターンは、同じブロードなピーク構造(約d≒4.3Åとd≒9.6Åにピーク)を有していた。さらに、乾燥させた物質のXRDパターンには、d=3.4Å(θ≒28度)にナノ結晶性ピークが存在しないが、このピークは、より高い温度でより長時間加熱した乾燥/加熱物質におけるXRDパターン中には存在する。したがって、従来からのオーブン乾燥法では、d≒9.6Åにブロードなピークを有さない、本発明の物質(たとえば実施例1Aおよび2C)に見られるユニークな構造を、付与することは無かった。これらの実験から、本発明のプロセスはカゼイネート物質に対してユニークな構造を付与することが可能であることが実証される。
【0122】
ホスカル(PHOSCAL)−一般的な溶解性
ホスカル(PHOSCAL)は水中に最高16重量%までは容易に溶解して、曇りのある安定な溶液を形成したが、16%のところでは、高粘度の液状物が形成され、20%のところでは、ソフトゲルが形成された。
【0123】
ホスカル(PHOSCAL)は、エタノール中またはある種のメタクリレート樹脂(たとえば、HEMA、フィルテック・Z250(FILTEK Z250)樹脂、およびホスホリル化成分を含むある種の樹脂)の中には、分散はするものの、溶解はしなかった。
【0124】
ホスカル(PHOSCAL)をエタノール中に、0.1%、1.0%、2.0%、および8.0%で混合したが、実質的に溶解性はまったく観察されなかった。周囲条件下で7ヶ月エージングさせた後では、ホスカル(PHOSCAL)は、撹拌によりエタノール中に容易に分散された。メタクリレート樹脂(フィルテック・Z250(FILTEK Z250)樹脂)中0.1%〜4.0%、およびHEMA中2.0%のホスカル(PHOSCAL)でも同様の結果が観察された。
【0125】
ホスカル(PHOSCAL)を、80/20のエタノール/脱イオン水(DIW)溶液の中に6.2%でブレンドすると、白色ゼラチン状の塊状物が生成した。しかしながら、DIW(0.8g)中ホスカル(PHOSCAL)8%溶液を、エタノール(1.0g)とブレンドすると、曇った安定な溶液が形成された。このように、同じケースであっても、添加順序が溶解性の結果に影響を及ぼした。
【0126】
実施例4A〜4F
カゼイネート物質を用いて処理したガラス充填剤
エタノールを用いて、ビトレボンド・パウダー(Vitrebond Powder)(ガラス充填剤)をスラリー化させ、それに続けてカゼイネート物質を添加し、得られた混合物を完全にブレンドすると、クリーム状で、均質なスラリーが生成した。そのスラリーを、ギャップ乾燥させるか、またはパイレックス(登録商標)(PYREX(登録商標))トレイに入れて対流式オーブン中80℃で4時間かけるかのいずれかで乾燥させた。調製された組成物および乾燥させた物質の観察結果を表2に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
実施例5A〜5Bおよび比較例(CE)1〜3
カゼイネート物質(ホスカル(PHOSCAL))を用いて処理したシリカナノ粒子の安定性
VBP、コロイダルシリカ(ナルコ(Nalco)1042)、およびホスカル(PHOSCAL)を含む組成物(実施例5A−5B)の安定性を、コロイダルシリカまたはホスカル(PHOSCAL)のいずれかを含まない類似の組成物(比較例1〜3)と比較した。ホスカル(PHOSCAL)を存在させる場合には、最初にそれを水に溶解させてから、最終的な組成物の中にブレンドした。すべての組成物を、ガラスバイアル中、周囲条件下でエージングさせた。それらの組成(数値は重量%)および7ヶ月のエージング後の観察を表3に示す。コロイダルシリカナノ粒子とホスカル(PHOSCAL)との両方を含んでいる組成物だけが、7ヶ月後でも安定であることが判った。
【0129】
別な実験において、ナトリウムモノフルオロホスフェート(Na2FPO3)は、ナルコ(Nalco)1042をゲル化させる原因となることが判った。したがって、カゼイネート物質のホスカル(PHOSCAL)を存在させることによって、ナトリウムモノフルオロホスフェートの存在下でもナルコ(Nalco)1042を安定化させたようである。
【0130】
また別な実験においては、ホスカル(PHOSCAL)のレベルを変化(0.1、1、2、および4%)させて、50%VBP、40%EtOH、10%ナルコ(Nalco)1042の溶液に混合すると、曇りのある溶液が生成した。それらの溶液はすべて、周囲条件下で7ヶ月おいても、均質で曇りがある安定な状態を維持した。
【0131】
【表4】

【0132】
実施例6〜13および比較例4〜5
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含有するRMGI組成物
カゼイネート物質ホスカル(PHOSCAL)(粉末2の中に含まれる)をビトレボンド・パウダー(Vitrebond Powder)(粉末1または粉末2の成分)と混合してから、各種の液状樹脂と混合して、実施例6〜13と名付けた均質なRMGIペーストを得た。それらのペーストについて、本明細書に記載の試験方法に従って、圧縮強さ(CS)、直径引張強さ(DTS)、作業時間、スペクトル的乳白度、および象牙質に対する接着性(AD)の評価を行い、それらの結果を、市販のビトレボンド・ライト・キュア・グラス・アイオノマー・ライナー/ベース(VITREBOND(VB) Light Cure Glass Ionomer Liner/Base)製品(比較例(CE)4および5)からの結果と比較した。(それらの物質のAD試験では、以下の工程を追加した:歯科用接着剤(スリー・エム・イー・エス・ピー・イー・シングルボンド・プラス(3M ESPE Singlebond Plus)歯科用接着剤)を硬化させた物質の上にブラシ塗布し、次いで10秒間光硬化させてから、コンポジットを適用する工程)。それらのペースト組成を表4Aに示し、評価結果を表4Bに示す。
【0133】
【表5】

【0134】
【表6】

【0135】
実施例14〜16
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含む酸性樹脂組成物
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含む酸性樹脂組成物(実施例14〜16)を、表5に示す成分を組み合わせることにより調製した。得られたペースト組成物について、本明細書に記載の試験方法に従って、圧縮強さ(CS)、直径引張強さ(DTS)、スペクトル的乳白度、ならびに象牙質およびエナメル質に対する剪断接着性を評価したが、それらの結果を表5に示す。
【0136】
【表7】

【0137】
実施例17〜19
カゼイネート物質を含む酸性樹脂組成物
カゼイネート物質を含む酸性樹脂組成物を、以下にリストアップする成分を組み合わせることにより調製した。得られたペースト組成物について、カルシウムおよびリンイオン放出性の評価を行った。
実施例17:実施例1A(55%)、ビトレマー・レジン(Vitremer Resin)(45%)
実施例18:実施例1A(55%)、樹脂C(45%)
実施例19:実施例2B(55%)、ビトレマー・レジン(Vitremer Resin)(45%)
【0138】
実施例20〜22
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含む樹脂組成物
ホスカル(PHOSCAL)は、樹脂B中に少なくとも16重量%までは可溶性で、安定であった。得られる樹脂の曇りと粘度は、濃度と共に上昇した。4%未満では、粘度の上昇は最小限であるが、8%では樹脂がかなり粘稠となり、16%では樹脂がゼラチン状となった。樹脂B中のホスカル(PHOSCAL)の量が1%、4%および8%であるものを、それぞれ実施例20〜22と名付けた。ホスカル(PHOSCAL)は、ビトレマー・レジン(Vitremer Resin)における場合と同様の挙動を示した。得られた樹脂はすべて、周囲条件下では少なくとも7ヶ月は安定なままであったので、それらはRMGI物質、接着剤、プライマー、およびコーティングなど、各種の用途に好適であろう。
【0139】
実施例23〜25および比較例6〜7
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含有するRMGI組成物
ホスカル(PHOSCAL)を含む液状樹脂(樹脂B)組成物(実施例20〜22)をビトレボンド・パウダー(Vitrebond Powder)と、粉体/液体(P/L)比1.2/1でスパチュラ混合すると、均質なRMGIペーストが得られたので、それらをそれぞれ実施例23〜25と名付けた。それらのペーストについて、本明細書に記載の試験方法に従って、圧縮強さ(CS)、直径引張強さ(DTS)、作業時間、スペクトル的乳白度、および象牙質に対する接着性(AD)の評価を行い、それらの結果を、市販のビトレボンド・ライト・キュア・グラス・アイオノマー・ライナー/ベース(VITREBOND Light Cure Glass Ionomer Liner/Base)製品(比較例(CE)6および7)からの結果と比較した。(これらの物質のAD試験では、次の工程を追加した:歯科用接着剤(スリー・エム・イー・エス・ピー・イー・シングルボンド・プラス(3M ESPE Singlebond Plus)歯科用接着剤)を硬化させた物質の上にブラシ塗布し、次いで10秒間光硬化させてから、コンポジットを適用する工程)。それらのデータを表6に示したが、これから、ホスカル(PHOSCAL)(1%)含有RMGI組成物の物理的性質は一般に、市販されているビトレボンド(VITREBOND)製品のそれと同等であるが、それに対してホスカル(PHOSCAL)(4%および8%)含有RMGI組成物は顕著に低い強度値を示す、ということがわかる。
【0140】
【表8】

【0141】
実施例26〜29および比較例8
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含む水性樹脂組成物
(プライマー組成物)
表7に、ホスカル(PHOSCAL)を含む水性重合性樹脂組成物(実施例26〜29)の組成(成分の重量%)を示す。それらの組成物を、本明細書に記載の試験方法により、ビトレマー・コア・ビルドアップ/レストラティブ(VITREMER Core Build−Up/Restorative)のためのプライマーとして評価し、それらの結果(象牙質およびエナメル質に対する接着性)を、市販のビトレマー・プライマー(Vitremer Primer)製品(比較例8)からのものと比較した。(それらの物質のAEおよびAD試験の場合には、プライマーを歯牙表面上に20秒間ブラシ塗布し、10秒間穏やかに空気乾燥させ、次いで10秒間かけて光硬化させた)。それらのデータを表8に示したが、これから、ホスカル(PHOSCAL)を含む組成物は、ビトレマー・プライマー(Vitremer Primer)とほぼ同等の接着力値を有していたことが判る。
【0142】
【表9】

【0143】
【表10】

【0144】
実施例30〜32および比較例9
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含む接着剤組成物
実施例21(樹脂B+4%ホスカル(PHOSCAL))および実施例28〜29を、アドパー・プロンプト・エル−ポップ・セルフ・エッチ・アドヘーシブ(ADPER PROMPT L−POP Self−Etch Adhesive)製品(スリー・エム・カンパニー(3M Company))における液状B成分として使用し、本明細書に記載の試験方法により、得られた組成物のエナメル質への接着性(AE)を評価して、その結果を、市販されているアドパー・アドヘーシブ(ADPER Adhesive)製品(比較例(CE)9)と比較した。(それらの物質のAE試験の場合には、液状成分AとBとを充分に混合し、その接着剤を歯牙表面上に20秒間ブラシ塗布し、10秒間穏やかに空気乾燥させ、次いで10秒間かけて光硬化させた)。データを表9に示す。
【0145】
【表11】

【0146】
実施例33〜37
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含む歯牙コーティング組成物
ホスカル(PHOSCAL)を、1%、2%、4%、および8重量%の割合で、50%VBP、40%エタノール、10%DIWの溶液の中に混合した。周囲条件下で7ヶ月経過後には、1%、2%、および4%のサンプルでは、沈降および分離が認められたが、それに対して8%組成物(実施例33と名付ける)は、均質、ゼラチン状で安定な状態のままであった。
【0147】
ホスカル(PHOSCAL)を、各種の膜形成性ポリマーを含む溶液の中に、各種の濃度で混合した。各種の組成物およびそれらの外観を表10に示す。それらの組成物はすべて、ガラススライド上で乾燥させると、硬い、半透明から曇り状態のコーティングを形成した。
【0148】
【表12】

【0149】
実施例38〜44
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含むメタクリレート樹脂組成物
ホスカル(PHOSCAL)を含むメタクリレートの光硬化可能な樹脂組成物(実施例38〜44)を、表11に示した成分を組み合わせることにより調製した。それらのペースト組成物について、本明細書に記載の試験方法に従って、圧縮強さ、直径引張強さ、スペクトル的乳白度、ならびに象牙質に対する接着性(AD)およびエナメル質に対する接着性(AE)を評価したが、それらの結果を表11に示す。(それらの物質のADおよびAE試験では、それらの物質の薄い膜を塗布し、30秒間経過してから、30秒の光硬化をさせた)。
【0150】
【表13】

【0151】
実施例45および比較例10
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含む自己接着性組成物
ホスカル(PHOSCAL)(5重量%;0.03625g)を、マキシキャップ(MAXICAP)カプセル(スリー・エム・カンパニー(3M Company))中のリライエックス・ユニセム・セメント(RelyX Unicem Cement)の粉末成分に混合し、次いでそれをロトミックス(ROTOMIX)ミキサーの中で10秒間混合すると、ペーストが得られたので、それを実施例45と名付けた。実施例45について、本明細書に記載の試験方法に従って圧縮強さと直径引張強さを測定し、その結果を、市販されているリライエックス・ユニセム・マキシキャップ・セルフアドヘーシブ・ユニバーサル・レジン・セメント(RelyX Unicem MAXICAP Self−Adhesive Universal Resin Cement)製品(比較例(CE)10)の場合と比較した。それらのデータを表12に示したが、これから、ホスカル(PHOSCAL)含有セメント組成物の物理的性質は、市販されているリライエックス・ユニセム・セメント(RelyX Unicem Cement)と基本的には同等であったことが判る。
【0152】
【表14】

【0153】
実施例46および比較例11
カゼイネート(ホスカル(PHOSCAL))を含むペースト−ペーストRMGI系
ホスカル(PHOSCAL)を、ペーストA/ペーストBのRMGI系のペーストB成分に添加して、ホスカル(PHOSCAL)を添加していない対応するRMGI系と比較した。ペーストAの組成と、2種のペーストB成分の組成を、表13Aおよび13Bに示す。
【0154】
【表15】

【0155】
【表16】

【0156】
ペーストAをペーストB1と組み合わせ(比較例11)、またペーストAをペーストB2(実施例46;ホスカル(PHOSCAL)使用)と組み合わせた。それら2種のブレンドしたペーストについて、本明細書に記載の試験方法に従って、視覚的乳白度(マクベス値(MacBeth Value))ならびに象牙質およびエナメル質に対する接着性(プライマー不使用)の評価を行ったが、その結果を表13Cに示す。
【0157】
【表17】

【0158】
カルシウムおよびリンイオン放出性の評価
実施例6、9〜12、17〜19、23〜25、および40について、本明細書に記載の試験方法により、経時的なカルシウムおよびリン放出性を評価した。結果は、ICP法(誘導結合プラズマ分光光度法によるカルシウムおよびリンイオン)およびカルシウム選択電極(Ca−E)法(カルシウムイオンのみ)について報告し、表14に示す。
【0159】
【表18】

【0160】
象牙質の再石灰化の評価
実施例4(5%ホスカル(PHOSCAL)を用いて処理したビトレボンド・パウダー(Vitrebond Powder))と、実施例24とについて、本明細書に記載の試験方法により、象牙質の再石灰化の評価を実施したが、3週間後には、露出した病変部の領域において、塗布物質の近傍および下に再石灰化が認められた。
【0161】
エナメル質の再石灰化の評価
実施例41について、本明細書に記載の試験方法により、エナメル質の再石灰化の評価を実施した。人工唾液の溶液の中に3週間浸漬させておいた後に、サンプルをスライスして、光学顕微鏡で観察した。いくつかの画像において、病変部の内部のその物質の下に、新しく形成された鉱物質が白く輝く領域として観察された。人工唾液に暴露されている領域においては、新規な鉱物質の形成は認められなかった。
【0162】
象牙質における脱灰抵抗性の評価
実施例4A(1%ホスカル(PHOSCAL)を用いて処理したビトレボンド・パウダー(Vitrebond Powder))、実施例10(ホスカル(PHOSCAL)含有RMGI組成物)ならびに比較例1および5(それぞれ、ビトレボンド・ライト・キュア・グラス・アイオノマー・ライナー/ベース(VITREBOND Light Cure Glass Ionomer Liner/Base)、およびフィルテック・Z250・ユニバーサル・レストラティブ・システム(FILTEK Z250 Universal Restorative System))について、本明細書に記載の試験方法により、象牙質における脱灰抵抗性の評価を実施した。得られたマイクロラジオグラフおよび関連のデータ(表15)から、ビトレボンド(VITREBOND)製品がフィルテック・Z250(FILTEK Z250)よりも酸アタックに対する抵抗性が向上していること、および、実施例4Aと10がこの抵抗性を劇的に向上させていることが判った。
【0163】
【表19】

【0164】
本発明の範囲と趣旨から逸脱することなく、本発明についての各種の修正や変更か可能なことは、当業者には明らかであろう。説明に用いた実施態様および本明細書で言及した実施例によって不当に限定されることは、本発明が意図するものではなく、また、そのような実施例および実施態様はあくまで例を示すために提供されたものであって、本発明の範囲は、本明細書で冒頭に記載の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである、ということは理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理された表面を含む歯科用充填剤であって、前記処理された表面がカゼイネートを含む、歯科用充填剤。
【請求項2】
前記カゼイネートが、カルシウム、ホスフェート、フルオリド、またはそれらの組合せの塩を含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項3】
前記処理された表面が非晶質である、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項4】
前記処理された表面が少なくとも部分的に結晶質である、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項5】
前記歯科用充填剤が多孔質である、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項6】
前記多孔質歯科用充填剤が、多孔質粒子、粒子の多孔質アグロメレート、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項5に記載の歯科用充填剤。
【請求項7】
前記歯科用充填剤が、ナノ粒子、ナノ粒子のアグロメレート、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項8】
前記歯科用充填剤が、金属酸化物、金属フルオリド、金属オキシフルオリド、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項9】
前記金属が、重金属、非重金属、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項8に記載の歯科用充填剤。
【請求項10】
前記歯科用充填剤が、第2〜5族元素、第12〜15族元素、ランタニド元素、およびそれらの組合せからなる群より選択される元素のオキシド、フルオリド、またはオキシフルオリドである、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項11】
前記元素がCa、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Ta、Zn、B、Al、Si、Sn、P、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項10に記載の歯科用充填剤。
【請求項12】
前記歯科用充填剤が、ガラス、非晶質物質、または結晶質物質を含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項13】
前記歯科用充填剤が、フルオリドイオン源を含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項14】
前記歯科用充填剤が、フルオロアルミノシリケートガラスを含む、請求項13に記載の歯科用充填剤。
【請求項15】
前記処理された表面がシランをさらに含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項16】
前記処理された表面がフルオリドイオン源をさらに含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項17】
前記処理された表面が抗菌薬をさらに含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項18】
前記処理された表面が、Sr、Mg、Zn、Sn、Ag、またはそれらの組合せをさらに含む、請求項1に記載の歯科用充填剤。
【請求項19】
処理された表面を含む歯科用充填剤を製造する方法であって、前記方法が、歯科用充填剤の表面をカゼイネートを用いて処理することを含む、方法。
【請求項20】
前記カゼイネートが、カルシウム、ホスフェート、フルオリド、またはそれらの組合せの塩を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
処理が、コーティング、浸潤、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
処理が:
前記カゼイネートを液体の中に溶解、分散、または懸濁させる工程;
前記液体を歯科用充填剤と組み合わせる工程;および
前記液体の少なくとも一部を除去して、前記処理された表面を得る工程;
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記液体が非水性である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記液体が水を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記歯科用充填剤が多孔質である、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記多孔質歯科用充填剤が、多孔質粒子、粒子の多孔質アグロメレート、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記歯科用充填剤が、ナノ粒子、ナノ粒子のアグロメレート、またはそれらの組合せを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記歯科用充填剤が、金属酸化物、金属フルオリド、金属オキシフルオリド、またはそれらの組合せを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記金属が、重金属、非重金属、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記歯科用充填剤が、第2〜5族元素、第12〜15族元素、ランタニド元素、およびそれらの組合せからなる群より選択される元素のオキシド、フルオリド、またはオキシフルオリドである、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
前記元素がCa、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Ta、Zn、B、Al、Si、Sn、P、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記歯科用充填剤が、ガラス、非晶質物質、または結晶質物質を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
前記歯科用充填剤が、フルオリドイオン源を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項34】
前記歯科用充填剤が、フルオロアルミノシリケートガラスを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記処理された表面がシランをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項36】
前記処理された表面がフルオリドイオン源をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項37】
前記処理された表面が抗菌薬をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項38】
前記処理された表面が、Sr、Mg、Zn、Sn、Ag、またはそれらの組合せをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項39】
請求項1に記載の歯科用充填剤を含む、歯科用組成物。
【請求項40】
前記カゼイネートが、カルシウム、ホスフェート、フルオリド、またはそれらの組合せの塩を含む、請求項39に記載の歯科用組成物。
【請求項41】
追加の充填剤をさらに含む、請求項39に記載の歯科用組成物。
【請求項42】
水をさらに含む、請求項39に記載の歯科用組成物。
【請求項43】
水中分散可能な、ポリマー膜形成材をさらに含む、請求項39に記載の歯科用組成物。
【請求項44】
硬化性樹脂をさらに含む、請求項39に記載の歯科用組成物。
【請求項45】
前記硬化性樹脂が酸官能基を含む、請求項44に記載の歯科用組成物。
【請求項46】
前記酸官能基が、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、またはそれらの組合せを含む、請求項45に記載の歯科用組成物。
【請求項47】
重合開始剤系をさらに含む、請求項44に記載の歯科用組成物。
【請求項48】
前記硬化性樹脂がエチレン性不飽和化合物を含む、請求項44に記載の歯科用組成物。
【請求項49】
前記エチレン性不飽和化合物が、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物、酸官能基を有さないエチレン性不飽和化合物、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項48に記載の歯科用組成物。
【請求項50】
前記組成物が、歯科用プライマー、歯科用接着剤、窩洞裏装材、窩洞清浄化剤、セメント、コーティング、ワニス、歯科矯正用接着剤、修復材、シーラント、脱感作薬、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項39に記載の歯科用組成物。
【請求項51】
歯牙構造を処置する方法であって、前記歯牙構造を、請求項39に記載の歯科用組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項52】
口腔環境の中に、請求項40に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造を再石灰化させる方法。
【請求項53】
口腔環境の中に、請求項40に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造の知覚過敏を抑制する方法。
【請求項54】
口腔環境の中に、請求項40に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造を保護する方法。
【請求項55】
口腔環境にイオンを送達する方法であって:
口腔環境の中に、請求項40に記載の歯科用組成物を配することを含み、ここで前記イオンがカルシウム、リン、フッ素、およびそれらの組合せからなる群より選択される元素を含む、方法。
【請求項56】
歯科用物品を調製する方法であって:
請求項1に記載の歯科用充填剤と硬化性樹脂とを組み合わせて、歯科用組成物を形成する工程;および
前記組成物を硬化させて、歯冠、充填物、ミルブランク、歯科矯正器具、および義歯からなる群より選択される歯科用物品を製作する工程、を含む方法。
【請求項57】
歯科用組成物であって:
硬化性樹脂;および
カゼイネート;
を含み、ここで、前記カゼイネートが、前記硬化性樹脂の中に少なくとも部分的に溶解、懸濁、または分散されている、歯科用組成物。
【請求項58】
前記カゼイネートが、カルシウム、ホスフェート、フルオリド、またはそれらの組合せの塩を含む、請求項57に記載の歯科用組成物。
【請求項59】
前記硬化性樹脂が酸官能基を含む、請求項57に記載の歯科用組成物。
【請求項60】
前記酸官能基が、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、またはそれらの組合せを含む、請求項59に記載の歯科用組成物。
【請求項61】
重合開始剤系をさらに含む、請求項57に記載の歯科用組成物。
【請求項62】
追加の充填剤をさらに含む、請求項57に記載の歯科用組成物。
【請求項63】
前記硬化性樹脂がエチレン性不飽和化合物を含む、請求項57に記載の歯科用組成物。
【請求項64】
前記エチレン性不飽和化合物が、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物、酸官能基を有さないエチレン性不飽和化合物、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項63に記載の歯科用組成物。
【請求項65】
前記組成物が、歯科用プライマー、歯科用接着剤、窩洞裏装材、窩洞清浄化剤、セメント、コーティング、ワニス、歯科矯正用接着剤、修復材、シーラント、脱感作薬、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項57に記載の歯科用組成物。
【請求項66】
歯牙構造を処置する方法であって、前記歯牙構造を、請求項57に記載の歯科用組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項67】
口腔環境の中に、請求項58に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造を再石灰化させる方法。
【請求項68】
口腔環境の中に、請求項58に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造の知覚過敏を抑制する方法。
【請求項69】
口腔環境の中に、請求項58に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造を保護する方法。
【請求項70】
口腔環境にイオンを送達する方法であって:
口腔環境の中に、請求項58に記載の歯科用組成物を配することを含み、ここで前記イオンがカルシウム、リン、フッ素、およびそれらの組合せからなる群より選択される元素を含む、方法。
【請求項71】
歯科用物品を調製する方法であって:
カゼイネートと硬化性樹脂とを組み合わせて、歯科用組成物を形成させる工程;および
前記組成物を硬化させて、歯冠、充填物、ミルブランク、歯科矯正器具、および義歯からなる群より選択される歯科用物品を製作する工程、を含む方法。
【請求項72】
前記カゼイネートが、カルシウム、ホスフェート、フルオリド、またはそれらの組合せの塩を含む、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
歯科用組成物であって:
水中分散可能な、ポリマー膜形成材;および
カゼイネートを含み、
ここで、前記カゼイネートが、前記膜形成材の中に少なくとも部分的に溶解、懸濁、または分散されている、歯科用組成物。
【請求項74】
前記カゼイネートが、カルシウム、ホスフェート、フルオリド、またはそれらの組合せの塩を含む、請求項73に記載の歯科用組成物。
【請求項75】
歯牙構造を処置する方法であって、前記歯牙構造を、請求項73に記載の歯科用組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項76】
口腔環境の中に、請求項74に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造を再石灰化させる方法。
【請求項77】
口腔環境の中に、請求項74に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造の知覚過敏を抑制する方法。
【請求項78】
口腔環境の中に、請求項74に記載の歯科用組成物を配することを含む、歯牙構造を保護する方法。
【請求項79】
口腔環境にイオンを送達する方法であって:
口腔環境の中に、請求項74に記載の歯科用組成物を配することを含み、ここで前記イオンがカルシウム、リン、フッ素、およびそれらの組合せからなる群より選択される元素を含む、方法。
【請求項80】
歯科用組成物であって:
請求項1に記載の歯科用充填剤;
硬化性樹脂;および
水中分散可能な、ポリマー膜形成材;
を含む歯科用組成物。
【請求項81】
前記硬化性樹脂と前記水中分散可能な、ポリマー膜形成材とが同一である、請求項80に記載の歯科用組成物。
【請求項82】
前記硬化性樹脂と前記水中分散可能な、ポリマー膜形成材とが異なっている、請求項80に記載の歯科用組成物。
【請求項83】
歯科用組成物であって:
硬化性樹脂;
水中分散可能な、ポリマー膜形成材;および
カゼイネートを含み、
ここで、前記カゼイネートが、前記硬化性樹脂および前記水中分散可能な、ポリマー膜形成材の一つまたは複数の中に少なくとも部分的に、溶解、懸濁、または分散されている、歯科用組成物。
【請求項84】
前記硬化性樹脂と前記水中分散可能な、ポリマー膜形成材とが同一である、請求項83に記載の歯科用組成物。
【請求項85】
前記硬化性樹脂と前記水中分散可能な、ポリマー膜形成材とが異なっている、請求項83に記載の歯科用組成物。

【公表番号】特表2008−520567(P2008−520567A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541271(P2007−541271)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/040340
【国際公開番号】WO2006/055328
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】