説明

カチオン可染性共重合ポリブチレンテレフタレート

【課題】カチオン染色にて濃染性が得られ、力学的強度等が維持できる高重合度ポリブチレンテレフタレートを提供する。
【解決手段】主たる繰返し単位がブチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルで、該ポリエステルを構成する酸成分としてスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)が


[R:水素又は炭素数1〜10個のアルキル基、X:4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩]数式(1)及び(2)を同時に満足するように共重合され、固有粘度が0.55〜1.50dL/gの範囲にある共重合ポリブチレンテレフタレート。2.0≦a+b≦15.0・・・(1)0.2≦b/(a+b)≦0.7・・・(2)[a:共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準としたスルホイソフタル酸金属塩の量(モル%)、b:共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とした化合物(B)の量(モル%)]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン染料に可染性である共重合ポリブチレンテレフタレート及びそれよりなる繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載する場合がある)に代表されるポリエステル繊維は、その化学的特性から分散染料、アイゾック染料でしか染色できないため、鮮明且つ深みのある色相が得られにくいという欠点があった。かかる欠点を解消する方法として、ポリエステルにスルホイソフタル酸の金属塩を2〜3モル%共重合する方法が提案されている。(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0003】
一般に、ポリエステルをカチオン染料にて染色加工する場合、染着性は染料の染着座席であるスルホン酸基含有量に依存するため、濃染性の高いポリエステルを得るためには、スルホン酸基含有量を増やす必要がある。従って、スルホイソフタル酸の金属塩を多量にポリエステルに対して共重合されることが必要となるが、この場合、スルホネート基による増粘効果から、ポリエステルの重合度を高くすることができず、溶融紡糸にて得られるポリエステル繊維の強度が著しく低下し、さらに紡糸操業性が著しく悪化するという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染性モノマーを共重合する技術が開示されている(例えば、特許文献3、4参照。)。イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染性モノマーとしては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウムなどが例示されている。しかし、これらのカチオン可染性モノマー共重合ポリエステルは熱安定性が悪く、さらに常圧カチオン可染化させるため、共重合量を増加させようとしても、重合反応途中で熱分解が進行し、高分子量化させることが困難であった。
【0005】
さらに、PETに対して親水性のスルホン酸基含有成分を多量に共重合されると、共重合PETの耐加水分解性が大幅に低下し、染色工程などで加水分解されて、ポリエステル繊維の強度が著しく低下するといった問題があった。また、一般的にポリエステル繊維製品は、布帛の風合いをソフトにするなどの目的でアルカリ減量処理を施す場合があるが、スルホン酸基共重合PETはアルカリ減量速度が非常に速く、特に、実質的にスルホン酸基が共重合されていないPETやその他の繊維と混繊・混紡した場合などは、アルカリ減量速度差が非常に大きくなり、アルカリ減量率をコントロールする事が困難であるなどの問題があった。
【0006】
一方、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと記載する場合がある)は、PET繊維と比較して伸張回復特性、柔軟性、染色性、湿熱安定性などに優れており、ストッキングや水着などのストレッチ素材やインナーウェア、スポーツウェアなどに適したポリエステルとしての用途展開が期待されている。PBTに対してもPETと同様にカチオン可染性を付与させるために、スルホン酸基含有成分を共重合する方法は公知である。PBTの場合、PETに対して耐加水分解性が高く、PETに比べてスルホン酸基含有成分の共重合量を高くすることができるが、スルホイソフタル酸の金属塩のみではPETと同様に増粘効果からPBTの重合度を上げることができず、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウムのみで共重合量を高くすると、熱分解により高分子量化が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭34−010497号公報
【特許文献2】特開昭62−089725号公報
【特許文献3】特開平1−162822号公報
【特許文献4】特開2006−176628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するものであり、カチオン染色にて濃染性を得られ力学的強度等が維持できるほどの高重合度の濃染カチオン可染性ポリブチレンテレフタレートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に鑑み本発明者らは鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、主たる繰返し単位がブチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルであり、該共重合ポリエステルを構成する酸成分中にスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を
【化1】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
下記数式(1)及び(2)を同時に満足するように共重合されており、固有粘度が0.55〜1.50dL/gの範囲にある共重合ポリエステルとすることで達成される。
2.0≦a+b≦15.0 ・・・(1)
0.2≦b/(a+b)≦0.7 ・・・(2)
[上記数式中、aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カチオン染料を用いた染色操作にて濃染性を得られ、成形しても充分な機械物性を有するカチオン可染性ポリブチレンテレフタレートを提供することができる。またそのカチオン可染性ポリブチレンテレフタレートから得られる繊維は充分な引張強度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に使用されるポリポリブチレンテレフタレートとは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、テトラメチレングリコール成分とを重縮合せしめて得られるテトラメチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、共重合成分としてスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を
【化2】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
下記数式(1)及び(2)を同時に満足するように共重合された共重合ポリエステルであり、
2.0≦a+b≦15.0 ・・・(1)
0.2≦b/(a+b)≦0.7 ・・・(2)
[上記数式中、aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
得られるポリエステルの固有粘度が0.55〜1.5dL/gの範囲にあることを特徴とする共重合ポリエステルである。
【0012】
(共重合ポリエステルについて)
本発明における共重合ポリエステルとはテトラメチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、主たる繰返し単位とは共重合ポリエステルを構成する全繰返し単位あたり60モル%以上、好ましくは70モル%以上がテトラメチレンテレフタレート単位であることを指している。他の40モル%以下のうち、2.0〜15.0モル%以上は前述の共重合成分(A)及び(B)からなることが必要である。それらの他の成分としては、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸を挙げる事ができ、グリコール成分としてエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ビス(トリメチレングリコール)、ビス(テトラメチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジメタノールを挙げる事ができ、これらの1種以上のジカルボン酸と1種以上のグリコール成分を反応させて得られる成分を繰り返し単位として共重合されていても良い。
【0013】
(化合物(A)について)
本発明で使用されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)としては、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)が例示される。必要に応じてこれら化合物のマグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類塩を併用しても良い。また、これらのエステル形成性誘導体も好ましく例示される。ここでエステル形成性誘導体としてはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステル、ジフェニルエステル、又は5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩のジハロゲン化物を挙げる事ができるが、これらの中でもジメチルエステルが好ましい。これらの化合物群の中では、熱安定性、コストなどの面から、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩が好ましく例示され、特に、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩及びそのジメチルエステルである5−スルホイソフタル酸ジメチルのナトリウム塩が特に好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分なカチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。
【0014】
(化合物(B)について)
また、上記式(I)で表される化合物(B)としては、5−スルホイソフタル酸又はその低級アルキルエステルの4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩である。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としては、リン原子又は窒素原子にアルキル基、ベンジル基又はフェニル基が結合した4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また、4つある置換基は同一であっても異なっていても良い。上記化学式(I)で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラメチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラプロピルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラプロピルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルアンモニウム塩、あるいはこれらイソフタル酸誘導体のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロプルエステル、ジブチルエステル、ジへキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステルが好ましく例示される。これらのイソフタル酸誘導体の中でも、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリメチルアンモニウム塩がより好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分なカチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。
【0015】
(数式(1)について)
本発明において、ポリエステルに共重合させる上記のスルホイソフタル酸の金属塩(A)と上記の化合物(B)の合計は共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として、(A)成分と(B)成分の和a+bが2.0〜15.0モル%の範囲である必要がある。2.0モル%より少ないと、カチオン性染料を用いたカチオン染色では十分な染着を得ることができない。一方、15.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。このa+bの値は好ましくは3.5〜12.0モル%であり、より好ましくは3.8〜10.5モル%である。
【0016】
(数式(2)について)
また、スルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)の成分比は上記のモル%の値にて、b/(a+b)が0.2〜0.7の範囲にある必要がある。0.2未満、つまり成分Aの割合が多い状態では、スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果により、得られる共重合ポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、0.7を超える、つまり化合物(B)の割合が多い状態では、反応が遅くなり、さらに化合物(B)の比率が多くなると熱分解が進むため重合度を上げることが困難となる。さらに、化合物(B)の比率多くなると熱分解反応が進むため重合度を上げることが困難となる。さらに、化合物(B)の比率が多くなると共重合ポリエステルの熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため、好ましくない。このb/(a+b)の値は好ましくは0.30〜0.65であり、より好ましくは0.35〜0.60である。
【0017】
スルホイソフタル酸の金属塩(A)をポリエステルに共重合することによりカチオン可染性は付与する事ができるが、スルホン酸金属塩基間のイオン結合に由来すると思われる共重合ポリエステルの溶融粘度の増粘効果のため共重合ポリエステルを高重合度化することが困難であった。そのため十分に高い重合度、高い固有粘度を有する共重合ポリエステルが得られず、その高い固有粘度でない共重合ポリエステルから得られるポリエステル繊維は、繊維強度が著しく低下する問題があった。一方その問題を解消するためにスルホイソフタル酸のテトラアルキルアンモニウム塩又はスルホイソフタル酸のテトラアルキルホスホニウム塩、即ち化合物(B)をポリエステルに共重合することが開示されているが、当該化合物は重合反応中に熱分解を起こしやすいため、共重合量を上げようとすると熱分解反応が進みやすい問題があり、繊維強度を高い値にすることが依然として困難であった。本発明の共重合ポリエステルにおいては、これらのスルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)を併用し、双方の化合物の共重合量、共重合比率、共重合ポリエステルの固有粘度を特定の範囲に設定することによって、充分なカチオン染料による染色性と高い繊維強度を両立させる事を見出し本発明に至ったものである。
【0018】
(固有粘度について)
本発明の共重合ポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は0.55〜1.50dL/gの範囲であることが好ましい。固有粘度が0.55dL/g未満である場合、得られるポリエステル繊維の強度が不足し、一方、1.00dL/gを超えるする場合、溶融粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になるため好ましくなく、また、溶融重合法に引続いて固相重合法を行うと共重合ポリエステルの重縮合工程での生産コストが大幅に増大するため好ましくない。カチオン可染性ポリエステルの固有粘度としては、0.60〜0.90dL/gの範囲が更に好ましい。共重合ポリエステルの固有粘度を0.55〜1.00dL/gの範囲するためには、溶融重合を行う際の最終の重合温度、重合時間を調整したり、溶融重合法のみでは困難な場合には固相重合を行って適宜調整することができる。本発明においては、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)を上記数式(1)及び(2)を満たすようにポリエチレンテレフタレートに対して共重合を行うことで上述のような手法により固有粘度を0.55〜1.00dL/gにすることが可能となる。
【0019】
(共重合ポリエステルの製造方法)
本発明における共重合ポリエステルの製造は特に限定されず、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)を請求項1に記載の条件を満たすように使用することに留意する他は、通常知られているポリエステルの製造方法が用いられる。すなわち、テレフタル酸とテトラメチレングリコールを直接エステル化反応させる、あるいはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸のエステル形成性誘導体とテトラメチレングリコールとをエステル交換反応させて低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることにより製造される。スルホイソフタル酸を含有する芳香族ジカルボン酸及び/又はそのエステル誘導体(スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B))を共重合する方法についても通常知られている製造方法を用いる事ができる。これらの化合物の反応工程への添加時期は、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重縮合反応の開始までの任意の時期に添加することができる。
【0020】
(その他添加剤について)
また、本発明における共重合ポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消し剤などを含んでいても良い。特に酸化防止剤、艶消し剤などは特に好ましく添加される。
【0021】
(溶融紡糸法によるポリエステル繊維の製造について)
本発明における共重合ポリエステルの製糸方法は、特に制限は無く、従来公知の方法が採用される。すなわち、乾燥した共重合ポリエステルを200℃〜250℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の引取り速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られるポリエステル繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻取りを行うこともできる。さらに、上述の方法で得られた未延伸糸若しくは部分延伸糸を、延伸工程にて1.2倍〜6.0倍程度の範囲で延伸することが好ましい。この延伸は未延伸ポリエステル繊維を一旦巻き取ってから行ってもよく、一旦巻き取ることなく連続的に行ってもよい。また、紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無く、円形、三角形・四角形等の多角形、3以上の多葉形、C型断面、H型断面、X型断面、又はこれらの断面形状に更に中空を有する断面のいずれであってもよい。
【0022】
また、本発明の共重合ポリエステルをその一部に配置したポリエステル系複合繊維を製造することもできる。その複合繊維の詳細な構成としては、芯鞘構造の複合繊維、サイドバイサイド構造の複合繊維、海島型の複合繊維を得ることができる。これらの中で海島型のポリエステル系複合繊維が好ましく、さらにこの海島型複合繊維の場合において、島が1つの場合を芯鞘構造の複合繊維を考えることができ、より好ましい態様であると言える。
【0023】
本発明のこのようなポリエステル系複合繊維は、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち本発明の共重合ポリエステル成分と他のポリエステル成分とを、従来公知の芯鞘型複合紡糸用の紡糸口金を用い、溶融紡糸温度220〜280℃、好ましくは230〜280℃で複合重量比が前記割合となるように溶融紡出する。該吐出糸条に冷却風を吹付けて固化させた後に引取速度1000〜8000m/分、好ましくは2000〜6500m/分の速度で引き取り、一旦巻取ってから、または一旦巻取ることなく連続して、必要に応じて延伸・熱処理することにより得ることができる。なお、引取る際のローラーの数は特に限定されず、単独でも2以上の複数であってもよいが、通常は一対のローラー群を介して引き取られる。この際、第一のローラーと第二のローラーの回転速度(周速)は、紡糸安定性を損なわずかつ本発明の目的を阻害しない範囲内で異ならしめてもよいが、通常は同一速度とすることが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の分析項目などは、下記記載の方法により測定した。
【0025】
(ア)共重合ポリエステル中のチタン原子、リン原子、硫黄原子濃度:
共重合ポリエステルサンプルを走査型電子顕微鏡(日立計測器サービス株式会社製S570型)にセットし、これに連結したエネルギー分散型X線マイクロアナライザー(XMA、株式会社堀場製作所製EMAX−7000)を用いて共重合ポリエステル中のチタン原子、リン原子濃度及び硫黄原子濃度を求めた。
【0026】
(イ)固有粘度:[ηC]
共重合ポリエステル試料を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0027】
(ウ)ポリエステル繊維の引張強度・伸度:
JIS L1013記載の方法に準拠して測定を行った。
【0028】
(エ)カチオン可染性:
AIZEN Color CATHILON BLUE CD−FRLH)3.0g/L、CD−FBLH3.0g/L(いずれも保土ヶ谷化学)、硫酸ナトリウム3g/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて98℃で1時間、浴比1:50で染色し、次式により染着率を求めた。
染着率=(OD0−OD1)/OD0×100
OD0:染色前の染液の576nmの吸光度
OD1:染色後の染液の576nmの吸光度
本発明では、染着率98%以上のものを可染性良好と判断した。
【0029】
(オ)布帛カラー(Col−L):
染色後の丸編み状布帛をカラーマシン社製CM−7500型カラーマシンで測定した。Col−Lは20以下を可とし、布帛が染料に充分染色されていると判断した。
【0030】
(カ)スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)の共重合量並びにポリエステル種類:
ポリマーサンプルをトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1(体積比)の混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定して、そのスペクトルパターンから常法に従って、各プロトン量により定量した。特にイソフタル酸骨格由来の水素原子に着目した。また上記のエネルギー分散型X線マイクロアナライザーを用いた測定による硫黄元素含有量、リン元素含有量の結果も参考にして総合的に算出した。また共重合ポリエステルの化学構造もNMRスペクトルパターンから算出した。
【0031】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル3.0重量部、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム5.2重量部とテトラメチレングリコール100重量部の混合物に、酢酸ナトリウム三水和物0.12重量部、テトラ−n−ブチルチタネート0.06重量部を添加し、140℃から170℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながらエステル交換反応を行った。所定量のメタノールを留出した時点でエステル交換反応を終了させた。
その後重合容器に移し、245℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重合槽の攪拌機電力が所定電力に到達、若しくは所定時間を経過した段階で反応を終了させ、常法に従いチップ化して共重合ポリエステルを得た。得られたポリエステルの反応条件、品質結果を表1に示した。
このようにして得られたポリエステルチップを140℃、5時間乾燥後、紡糸温度275℃巻取り速度500m/minで330dtex/36フィラメントの原糸を作り、4.0倍に延伸して83dtex/36フィラメントの延伸糸を得た。また得られた延伸糸を用いて通常の手法にて丸編みの編み物を作成し、染色処理を行い染着率、Col−Lの測定を行った。その結果を表1に示した。
【0032】
[実施例2〜3、比較例1〜5]
実施例1において、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル及び5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウムの添加量を表1となるように変更した事以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0033】
[比較例6]
実施例1において、テトラメチレングリコールにかえてエチレングリコールを使用し、エステル交換反応の最終温度を240℃、重縮合反応の最終温度を285℃となるようにし、紡糸温度を285℃で実施したこと以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0034】
[実施例4]
実施例1において得られた共重合ポリエステルを使用し、当該共重合ポリエステルを鞘部に配置し、別途準備した固有粘度=0.63dL/gのポリエチレンテレフタレートを芯部に配置し、常法に従って330dtex/36フィラメントの原糸を作った。次にこの原糸を4.0倍に延伸して83dtex/36フィラメントの芯鞘構造の複合繊維(延伸糸)を得た。結果を表1に示した。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
上記のとおり本発明によれば、カチオン染料を用いた染色操作にて濃染性を得られ、成形しても充分な機械物性を有するカチオン可染性ポリブチレンテレフタレートを提供することができる。またそのカチオン可染性ポリブチレンテレフタレートから得られる繊維は充分な引張強度を有する。充分なカチオン可染性を有するポリエステルでながら引張強度が通常のポリエステル並みの強度を持つポリエステル繊維が得られることは産業上の異議は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰返し単位がブチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルであり、該共重合ポリエステルを構成する酸成分中にスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を
【化1】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
下記数式(1)及び(2)を同時に満足するように共重合されており、固有粘度が0.55〜1.50dL/gの範囲にある共重合ポリエステル。
2.0≦a+b≦15.0 ・・・(1)
0.2≦b/(a+b)≦0.7 ・・・(2)
[上記数式中、aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【請求項2】
スルホイソフタル酸の金属塩が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸又は5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルである請求項1記載の共重合ポリエステル。
【請求項3】
上記化合物(B)が、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩又は5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩ジメチルエステルである請求項1〜2のいずれか1項記載の共重合ポリエステル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の共重合ポリエステルを溶融紡糸して得られる共重合ポリエステル繊維。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の共重合ポリエステルが島部に配置されている海島型ポリエステル複合繊維。

【公開番号】特開2010−280861(P2010−280861A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137094(P2009−137094)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】