説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】 塗料の安定性、および得られる塗膜外観を維持しつつ、ガスピン性を向上させることができるカチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 (a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート硬化剤、および(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂、を含有するバインダー樹脂エマルションを含む、カチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導率およびバインダー樹脂エマルションの平均粒径が調整されたカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行なわれる。
【0003】
カチオン電着塗装の過程における塗膜の析出は電気化学的な反応によるものであり、電圧の印加により、被塗物表面に塗膜が析出する。析出した塗膜は絶縁性を有するので、塗装過程において、塗膜の析出が進行して析出膜が増加するのに従い、塗膜の電気抵抗は大きくなる。その結果、塗膜が析出した部位での塗料の析出は低下し、代わって、未析出部位への塗膜の析出が始まる。このようにして、順次被塗物に塗料固形分が析出して塗装を完成させる。本明細書中、被塗物の未着部位に塗膜が順次形成される性質をつきまわり性という。
【0004】
電着塗装において、つきまわりを確保するために単に塗膜の電気抵抗値を上げたりすると、電着塗装時の印加電圧が高くなり、それに伴って、電着時に発生した水素ガスが原因と見られる「ガスピンホール」(ガスピンと略称することもある。)が発生し塗膜外観の悪化が生じる恐れが高くなるため、好ましくない。
【0005】
また、被塗物の表面に析出する電着塗膜の表面状態は、電着塗料組成物の電気伝導率の影響を受けることが知られている。電着塗装時において電着塗料組成物に電圧を印加すると、電圧印加直後に大きな電流が流れた後に急減し、その後は漸減して定常電流となる。水素ガス起因の放電は、この電圧印加直後に流れる電流量が多いほど起こり易いことが確認されている。従って、塗装時の電着塗料組成物の電導度を下げて流れる電流量を抑えれば、ガスピンホールの発生を抑制すること、すなわちガスピン性を向上させること、ができる。一方で電気伝導率が低すぎると電極部から遠い所に電流が流れにくくなり、つきまわり性が悪くなる。このため電着塗料組成物の電気伝導率を所定範囲に調整する必要がある。電着塗料組成物の電気伝導率を高めることは、電解質を添加すればよく、比較的容易である。そのため、電着塗料組成物の電気伝導率を低くする手段があれば、塗料設計などにおいて非常に有用である。
【0006】
電着塗料組成物の液伝導度を低く調整する手段として、中和酸の量を減らすことが挙げられる。しかし中和酸の量を減らすことによりエマルションの粒径は増大する。これは塗料設計に不利益をもたらす。
【0007】
電着塗料組成物中に分散した樹脂成分などの粒径の大きさは、電着塗料組成物の性状安定性に大きく関与し、非常に重要な要素である。また、特開2001−252613号公報(特許文献1)には、電着塗料組成物中に含まれる顔料などの固形分の粒径の大きさが、得られる塗膜の平滑性などの仕上がり外観及び耐チッピング性などに影響を与えることが記載されている。そのため、電着塗料組成物中に分散した樹脂成分などの固形分の平均粒径を制御する手法があれば、塗料設計などにおいて非常に有用である。
【0008】
【特許文献1】特開2001−252613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題および課題を解決するものであり、その目的とするところは、塗料の安定性、および得られる塗膜外観を維持しつつ、ガスピン性を向上させることができるカチオン電着塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、
(b)ブロックイソシアネート硬化剤、および
(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂、
を含有するバインダー樹脂エマルションを含む、カチオン電着塗料組成物を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0011】
上記バインダー樹脂エマルションは、バインダー樹脂エマルションの固形分重量100gに対して5〜25mg当量の量の中和酸を含むのが好ましい。
【0012】
また、上記バインダー樹脂エマルションにおけるオニウム基の当量数と中和酸により中和されたアミノ基の当量数との比率が1.0:1.0〜1.0:4.0であるカチオン電着塗料組成物であるのが好ましい。
【0013】
また、上記バインダー樹脂エマルションの平均粒径が30〜120nmであるのが好ましい。さらにカチオン電着塗料組成物の電気伝導率が1000〜1500μS/cmであるのが好ましい。
【0014】
さらに本発明は、電着塗料組成物用バインダー樹脂エマルションの製造方法も提供する。この製造方法として、下記工程:
(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、
(b)ブロックイソシアネート硬化剤、および
(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂の部分量、および
(d)中和酸、
を含む水性媒体を混合する第1混合工程、および
得られた混合物に残りの(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂をさらに加えて混合する第2混合工程、
を包含する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のカチオン電着塗料組成物は電気伝導率が低いものであり、そして得られる塗膜外観を維持しつつ、かつガスピンホールの発生が抑制されたものである。また、本発明によりバインダー樹脂エマルションの平均粒径を調整することができ、そして平均粒径の小さいバインダー樹脂エマルションを有する電着塗料組成物を調製することができる。また本発明により、電着塗料組成物は電気伝導率を低くする手段、およびバインダー樹脂エマルションの平均粒径を調整する手段が提供されるため、塗料設計のさらなる可能性が提供されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解したバインダー樹脂エマルション、中和酸、有機溶媒を含有する。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに顔料を含んでもよい。バインダー樹脂エマルションは、(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート硬化剤、および(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂、を含有する。
【0017】
(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂
本発明で用いる(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂は、アミンで変性されたエポキシ樹脂である。本明細書において「アミン変性エポキシ樹脂」とは、アミンを反応させて、そのエポキシ基が開環されると同時にアミノ基が導入された樹脂をいう。このアミン変性エポキシ樹脂は、特開昭54−4978号、同昭56−34186号などに記載されている公知の樹脂でよい。
【0018】
アミン変性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部を、アミンで開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0019】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0020】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0021】
【化1】

【0022】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を、アミン変性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0023】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0024】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0025】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0026】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0027】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%を1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0028】
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンとしては、1級アミン、2級アミンが含まれる。エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。また、エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。さらに、1級アミノ基および2級アミノ基を有する樹脂を用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。ここで、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。
【0029】
1級アミン、2級アミンおよびケチミンの具体例としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどがある。さらに、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの、ブロックされた1級アミンを有する2級アミン、がある。これらのアミン類等は2種以上を併用して用いてもよい。
【0030】
上記の通り、1級アミンおよび/または2級アミンを用いて、(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。樹脂(a)が有するアミノ基には、1級アミノ基、2級アミノ基および3級アミノ基が含まれ、樹脂(a)はこれらの1種以上のアミノ基を有する。
【0031】
(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂
本発明で使用することができる(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂は、バインダー樹脂をエマルションとする際に、バインダー樹脂のエマルション化(乳化)を助力する樹脂である。(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂として、例えば、4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂、および3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂、が含まれる。
【0032】
4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂と3級アミンとを反応させることによって得られる樹脂である。
【0033】
上記エポキシ樹脂としては、一般的にはポリエポキシドが用いられる。このエポキシドは、1分子中に平均2個以上の1,2−エポキシ基を有する。これらのポリエポキシドは180〜1000のエポキシ当量、特に375〜800のエポキシ当量を有することが好ましい。エポキシ当量が180を下回ると、電着時に造膜できず塗膜を得ることができない。1000を上回ると、1分子当りのオニウム基量が不足し十分な水溶性が得られない。
【0034】
このようなポリエポキシドの有用な例としては、上記のエポキシ樹脂が挙げられる。さらにエポキシ樹脂として、上記のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を用いることもできる。
【0035】
特に水酸基を含有するエポキシ樹脂にあっては、ハーフブロックイソシアネートを、その水酸基に反応させて、ブロックイソシアネート基を導入したウレタン変性エポキシ樹脂であってもよい。
【0036】
上述のエポキシ樹脂と反応させるために用いられるハーフブロックイソシアネートは、有機ポリイソシアネートを部分的にブロックすることにより調製される。有機ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、必要に応じてスズ系触媒の存在の下で、攪拌下、ブロック剤を滴下しながら40〜50℃に冷却することにより行うことが好ましい。
【0037】
上記のポリイソシアネートは、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されない。具体的な例としては、下記ブロックイソシアネート硬化剤の調製で使用することができるポリイソシアネートを用いることができる。
【0038】
上記のハーフブロックイソシアネートを調製するための適当なブロック化剤としては、4〜20個の炭素原子を有する低級脂肪族アルキルモノアルコールが挙げられる。具体的には、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール等が挙げられる。
【0039】
上記のエポキシ樹脂とハーフブロックイソシアネートとの反応は、好ましくは140℃で約1時間保つことにより行われる。
【0040】
上記3級アミンとしては、炭素数1〜6のものが好ましく、水酸基を有していてもよい。3級アミンの具体例としては、上記で用いることができる3級アミンと同様に、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジフェネチルメチルアミン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン等を用いることができる。
【0041】
さらに上記3級アミンと混合して用いられる中和酸としては、特に制限はなく、具体的には、塩酸、硝酸、燐酸、蟻酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸などである。このようにして得られる3級アミンの中和酸塩とエポキシ樹脂との反応は常法により行うことができる。例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの溶剤に上記エポキシ樹脂を溶解させ、得られた溶液を60〜100℃まで加熱し、ここへ3級アミンの中和酸塩を滴下して、酸価が1となるまで反応混合物を60〜100℃に保持して行われる。
【0042】
3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂は、3級アミンの代わりにスルフィドを用いることの他は上記と同様に反応させることによって得ることができる。用いることができるスルフィドとしては、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、又は環状スルフィドがある。具体的には、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール及びチオジブタノールなどを挙げることができる。
【0043】
(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂として、4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を用いるのがより好ましい。これらの樹脂は分散性に優れるからである。
【0044】
(b)ブロックイソシアネート硬化剤
本発明の(b)ブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれであってもよい。
【0045】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0046】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0047】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0048】
ブロック剤としては、通常使用されるε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等を用いることができる。
【0049】
顔料
本発明の電着塗料組成物には通常用いられる顔料を含有させてもよい。使用し得る顔料の例としては、通常使用される顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0050】
上記顔料が電着塗料組成物中に含まれる場合の含有量は、電着塗料組成物の塗料固形分に対して30重量%以下の範囲で含まれるのが好ましい。顔料は、電着塗料組成物の塗料固形分に対して1〜25重量%の範囲で含まれるのがより好ましい。顔料濃度が30重量%を超える場合は、塗装時の顔料の降り積もりの影響を受けて、得られる塗膜の水平外観が劣ることとなるおそれがある。
【0051】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0052】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や、上記(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0053】
一般に、顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0054】
本発明の電着塗料組成物は、上記成分の他に、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩を触媒として含んでもよい。これらは、硬化剤のブロック剤解離のための触媒として作用し得る。触媒の濃度は、電着塗料組成物中のバインダー樹脂100固形分重量部に対して0.1〜6重量部であるのが好ましい。
【0055】
電着塗料組成物の調製
本発明の電着塗料組成物は、バインダー樹脂エマルション、及び必要に応じた顔料分散ペーストおよび触媒を水性媒体中に分散することによって調製することができる。バインダー樹脂エマルションは、(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート硬化剤、および(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂を含有する。
【0056】
バインダー樹脂エマルションの調製は、任意の方法により調製することができる。好ましい調製方法として、
(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、
(b)ブロックイソシアネート硬化剤、および
(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂の部分量、および
(d)中和酸、
を含む水性媒体を混合する第1混合工程、および
得られた混合物に残りの(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂をさらに加えて混合する第2混合工程、
を包含する調製方法が挙げられる。
【0057】
このような調製方法を用いることにより、(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂がシェル部を構成するコア・シェル型のバインダー樹脂エマルションを得ることができる。このような構造を有するエマルションは、中和酸の使用量が少ない場合であっても安定性に優れるものである。
【0058】
(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂について、第1混合工程で用いられる重量と、第2混合工程で用いられる重量との比率は、第1混合工程/第2混合工程で表して0/100〜50/50の比率で用いるのが好ましく、5/95〜30/70の比率で用いるのがより好ましい。このような比率で用いることによって、バインダー樹脂エマルションの平均粒径を所望の範囲に調節することができる。
【0059】
上記の第1混合工程で用いられる中和酸を水性媒体に含めることによって、アミン変性エポキシ樹脂が中和され、バインダー樹脂エマルションの分散性が向上する。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0060】
バインダー樹脂エマルションの調製に用いられる中和酸の量は、バインダー樹脂エマルションの固形分重量100gに対して5〜25mg当量であるのが好ましく、8〜18mg当量であるのがより好ましい。ここでバインダー樹脂エマルションの固形分重量は、(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート硬化剤および(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂の固形分重量に相当する。中和酸の量が8mg当量未満であると水への親和性が十分でなく水への分散ができないか、著しく安定性に欠ける状態となる恐れがある。中和酸の量が25mg当量を超える場合は、塗料の液伝導度を目的とする範囲に設計することが困難となり、ガスピン性が劣ることとなる恐れがある。
【0061】
なお、本明細書中において「中和酸の量」とは、乳化の際、アミン変性エポキシ樹脂を中和するのに用いた酸の量であって、塗料組成物に含まれているバインダー樹脂エマルションの固形分重量100gに対するmg当量数で表わし、MEQ(A)と表示する。
【0062】
こうしてオニウム基を有するバインダー樹脂エマルションを調製することができる。オニウム基を有するバインダー樹脂エマルションは、オニウム基によって乳化能力が向上している。そしてそのため、通常より少ない量の中和酸しか用いない場合であっても、安定なバインダー樹脂エマルションを得ることができる。これにより電着塗料組成物の電気伝導率を低く設定することができる。
【0063】
こうして得られるバインダー樹脂エマルションにおいて、オニウム基の当量数と中和酸により中和されたアミノ基の当量数との比率は、1.0:1.0〜1.0:4.0であるのが好ましく、1.0:2.0〜1.0:3.5であるのがより好ましい。この当量数の比率は1.0:2.5〜1.0:3.0であるのがさらに好ましい。オニウム基の当量数が上記範囲を超える量で含まれる場合は、バインダー樹脂の水溶性が高くなりすぎて、樹脂の析出性が低下する恐れがある。またオニウム基の当量数が上記範囲より少ない量で含まれる場合は、本発明による効果が十分に得られない恐れがある。バインダー樹脂エマルションにおいて当量数の比率を上記範囲とするには、(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂に含まれる中和酸により中和されたアミノ基の当量数と、(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂に含まれるオニウム基との当量数が上記範囲となる量で、各成分を混合すればよい。
【0064】
これらのバインダー樹脂エマルションは、バインダー樹脂エマルションに含まれるオニウム基の存在により、バインダー樹脂の乳化能力が向上している。そしてそのため、通常より少ない量の中和酸しか用いない場合であっても、安定なバインダー樹脂エマルションを得ることができる。さらに、バインダー樹脂エマルションに含まれるオニウム基は、アミン変性エポキシ樹脂に含まれるアミノ基を中和する中和酸との置換を生じ難い。そのため樹脂中のアミノ基の低中和状態を確保することができ、中和酸の使用量が少ない場合であってもバインダー樹脂エマルションの安定化を図ることができる。
【0065】
ところで、第4アンモニウム基をバインダー樹脂エマルションに含めたカチオン電着塗料組成物の製造は、これまでは行われていない。このような電着塗料組成物の製造が行われていない理由として、エポキシ樹脂を3級アミンで変性することにより得られる、第4アンモニウム基含有カチオン性エポキシ樹脂をバインダー樹脂として用いると、樹脂の水溶性が高すぎるために電着塗装時の析出性が劣ることとなり、実際の使用に適さないことが挙げられる。本発明においては、バインダー樹脂の水溶性の向上および析出性の悪化を伴うことのない量の範囲で、4級アンモニウム基をバインダー樹脂エマルションに含めている。このようにして、第4アンモニウム基をバインダー樹脂エマルションに含めたカチオン電着塗料組成物を調製することにより、これらの不具合を伴わない電着塗料組成物が得られることとなった。
【0066】
バインダー樹脂の水溶性の向上および析出性の悪化を伴うことのない量の範囲で、4級アンモニウム基をバインダー樹脂エマルションに含める手法として、具体的には、(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂と(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂との固形分重量比が、98:2〜70:30である場合が挙げられる。
【0067】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にアミン変性エポキシ樹脂中の1級、2級、3級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にアミン変性エポキシ樹脂と、ブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0068】
有機溶媒は、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0069】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。このような有機溶媒を、カチオン電着塗料組成物の調製に用いられる水性媒体に含めてもよい。
【0070】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0071】
本発明のカチオン電着塗料組成物の電気伝導率は1000〜1500μS/cmであるのが好ましい。1000μS/cm未満であると十分なつきまわり性の向上が得られない恐れがある。また、1500μS/cmを超えるとガスピン性が低下する恐れがある。電気伝導率は、市販の電気伝導率計を使用してJIS K 0130(電気伝導率測定方法通則)に準拠して測定することができる。
【0072】
電着塗料組成物中に含まれるバインダー樹脂エマルションの平均粒径が30〜120nmであるのが好ましい。上記上限は100nmであるのがより好ましい。そして、電着塗料組成物中に、上記範囲の平均粒径を有するバインダー樹脂エマルションを含めることによって、塗料安定性を確保することができる。
【0073】
「平均粒径」とは、一般に粒子の粒度(粒径が粗いか細かいか)を表わすために用いられるものであり、重量50%に相当するメジアン径や算術平均径、表面積平均径、体積面積平均径などが使用される。本明細書に示す平均粒径は、レーザー法によって測定された値で示している。レーザー法とは、粒子を溶媒に分散させ、その分散溶媒にレーザー光線を当て、得られた散乱光を捕捉、演算することにより、平均粒径、粒度分布等を測定する方法である。
【0074】
本発明によるバインダー樹脂エマルションの調製方法を用いることによって、低電気伝導率を維持しつつ、かつバインダー樹脂エマルションの平均粒径を調整することができる。従来、低電気伝導率を低くすることを目的として、バインダー樹脂エマルションの調製時に用いられる中和酸の量を減らすと、エマルションの平均粒径が大きくなってしまい粒子径制御が困難となるという問題があった。本発明によってこの問題を解決することができる。すなわち、上記のバインダー樹脂エマルションの調製方法を用いることによって、中和酸の量を減らし、低電気伝導率を維持しつつ、かつバインダー樹脂エマルションの平均粒径を調整することが可能となった。
【0075】
上記より、本発明のカチオン電着塗料組成物においては、電着塗料組成物の電気伝導率が1000〜1500μS/cmであって、かつバインダー樹脂エマルションの平均粒径が30〜120nmであるカチオン電着塗料組成物であるのがより好ましい。
【0076】
本発明の電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0077】
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0078】
カチオン電着塗料組成物の電着過程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。本発明中の「電着塗膜」とは、上記の、被膜を析出させる工程後であって、焼付け硬化前の、電着塗装後の未硬化の塗膜をいう。電着塗膜の膜厚は、一般に5〜25μmの範囲で形成することができる。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分となる恐れがある。
【0079】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化し、硬化電着塗膜が得られる。
【実施例】
【0080】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0081】
製造例1 ブロックイソシアネート硬化剤(b)の製造
ジフェニルメタンジイソシアネート1250部およびメチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という。)266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチルスズジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0082】
製造例2 アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂(a)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0083】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂550部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量330になるまで130℃で反応させた。
【0084】
続いて、ビスフェノールA100部及びオクチル酸36部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1030となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン79部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、3級アミノ基を有するエポキシ樹脂(アミン変性エポキシ樹脂、樹脂固形分80%)を得た。
【0085】
製造例3 スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−1)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)87部、MIBK85部およびジブチルスズジラウレート0.1部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール32部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0086】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂550部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量330になるまで130℃で反応させた。
【0087】
続いて、ビスフェノールA100部及びオクチル酸36部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1030となった。その後MIBK107部を加え反応混合物を冷却し、SHP−100(1−(2―ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、三洋化成製)52部、イオン交換水21部、88%乳酸39部を加え、80℃で反応させた。反応は酸価が5を下回るまで継続し、3級スルホニウム塩基を有するエポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0088】
その後、イオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のスルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂を得た。またこの樹脂の固形分重量100g当たりの塩基のミリ当量は20であった。
【0089】
製造例4 4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)の製造
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管、温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここへジブチルスズジラウリート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0090】
次いで適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0091】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させて、次いで、120℃に冷却した後、先に調整した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0092】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)を得た(樹脂固形分50%)。
【0093】
製造例5 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例4で得たオニウム基を有する変性エポキシ樹脂を顔料分散樹脂として使用した。製造例4の樹脂を120部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水221.7部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料ペーストを得た。(固形分48%)
【0094】
実施例1 カチオン電着塗料組成物
製造例2で得られた(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂875部と、製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤375部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルションの固形分重量100g当たり酸のミリ当量数が8になるように、蟻酸2.14部および酢酸2.79部を加えて攪拌し、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)98部を加え、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈し、攪拌した。次いで、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)228部を加えて攪拌した。次いで、イオン交換水をゆっくりと加えて、希釈撹拌した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。このバインダー樹脂エマルションの平均粒径は120nmであった。なお、本明細書中のバインダー樹脂エマルションの平均粒径は、日立ハイテクノロジーズ社製、U−1800を用いて測定した。
【0095】
得られたバインダー樹脂エマルション1100部に対して、製造例5で得られた顔料分散ペースト210部を加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1000μS/cmであった。また、バインダー樹脂エマルションにおけるオニウム基の当量数と中和酸により中和されたアミノ基の当量数との比率は1.0:1.0であった。なお、本明細書中の電気伝導率は、東亜電波工業社製、CM−30Sを用いて、JIS K 0130(電気伝導率測定方法通則)に準拠して、液温25.0℃で測定した。
【0096】
実施例2 カチオン電着塗料組成物
製造例2で得られた(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂875部と、製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤375部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルションの固形分重量100g当たり酸のミリ当量数が12になるように、蟻酸3.04部および酢酸3.96部を加えて攪拌し、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)60部を加え、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈し、攪拌した。次いで、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)140部を加えて攪拌した。次いで、イオン交換水をゆっくりと加えて、希釈撹拌した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。このバインダー樹脂エマルションの平均粒径は110nmであった。
【0097】
得られたバインダー樹脂エマルション1110部に対して、製造例5で得られた顔料分散ペースト210部を加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1140μS/cmであった。また、バインダー樹脂エマルションにおけるオニウム基の当量数と中和酸により中和されたアミノ基の当量数との比率は1.0:2.3であった。
【0098】
実施例3 カチオン電着塗料組成物
製造例2で得られた(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂875部と、製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤375部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルションの固形分重量100g当たり酸のミリ当量数が12になるように、蟻酸3.80部および酢酸4.95部を加えて攪拌し、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)60部を加え、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈し、攪拌した。次いで、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)140部を加えて攪拌した。次いで、イオン交換水をゆっくりと加えて、希釈撹拌した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。このバインダー樹脂エマルションの平均粒径は95nmであった。
【0099】
得られたバインダー樹脂エマルション1110部に対して、製造例5で得られた顔料分散ペースト210部を加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1290μS/cmであった。また、バインダー樹脂エマルションにおけるオニウム基の当量数と中和酸により中和されたアミノ基の当量数との比率は1.0:2.9であった。
【0100】
実施例4 カチオン電着塗料組成物
製造例2で得られた(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂875部と、製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤375部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルションの固形分重量100g当たり酸のミリ当量数が15になるように、蟻酸3.76部および酢酸4.90部を加えて攪拌し、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)55部を加え、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈し、攪拌した。次いで、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−2)125部を加えて攪拌した。次いで、イオン交換水をゆっくりと加えて、希釈撹拌した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。このバインダー樹脂エマルションの平均粒径は60nmであった。
【0101】
得られたバインダー樹脂エマルション1110部に対して、製造例5で得られた顔料分散ペースト210部を加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1350μS/cmであった。また、バインダー樹脂エマルションにおけるオニウム基の当量数と中和酸により中和されたアミノ基の当量数との比率は1.0:3.2であった。
【0102】
実施例5 カチオン電着塗料組成物
製造例2で得られた(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂875部と、製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤375部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルションの固形分重量100g当たり酸のミリ当量数が13になるように、蟻酸3.59部および酢酸4.68部を加えて攪拌し、さらに製造例3のオニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−1)167部を加え、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈し、攪拌した。次いで、さらに製造例3のオニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c−1)389部を加えて攪拌した。次いで、イオン交換水をゆっくりと加えて、希釈撹拌した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。このバインダー樹脂エマルションの平均粒径は110nmであった。
【0103】
得られたバインダー樹脂エマルション1110部に対して、製造例5で得られた顔料分散ペースト210部を加え、さらにジブチルスズオキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1210μS/cmであった。また、バインダー樹脂エマルションにおけるオニウム基の当量数と中和酸により中和されたアミノ基の当量数との比率は1.0:3.9であった。
【0104】
比較例1
製造例2で得られたアミン変性エポキシ樹脂875部と製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤375部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルションの固形分重量100g当たり酸のミリ当量数が15になるよう蟻酸を加えて攪拌し、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。このバインダー樹脂エマルションの平均粒径は277nmであった。
【0105】
得られたバインダー樹脂エマルション1110部に、製造例7で得られた顔料分散ペースト210部を混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1510μS/cmであった。
【0106】
比較例2
製造例2で得られたアミン変性エポキシ樹脂875部と製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤375部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルションの固形分重量100g当たり酸のミリ当量数が18になるよう蟻酸を加えて攪拌し、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。このバインダー樹脂エマルションの平均粒径は189nmであった。
【0107】
得られたバインダー樹脂エマルション1110部に、製造例7で得られた顔料分散ペースト210部を混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1590μS/cmであった。
【0108】
比較例3
製造例2で得られたアミン変性エポキシ樹脂875部と製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤375部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルションの固形分重量100g当たり酸のミリ当量数が20になるよう蟻酸を加えて攪拌し、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルションを得た。このバインダー樹脂エマルションの平均粒径は148nmであった。
【0109】
得られたバインダー樹脂エマルション1110部に、製造例7で得られた顔料分散ペースト210部を混合した。さらにジブチルスズオキサイドを樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1620μS/cmであった。
【0110】
こうして得られた実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物の物性などについて、下記表1および表2にまとめた。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
実施例の結果により、本願発明のカチオン電着塗料組成物は、電気伝導率が低く、かつバインダー樹脂エマルションの平均粒径も小さいものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明により、電気伝導率およびバインダー樹脂エマルションの平均粒径が調整されたカチオン電着塗料組成物を提供することができる。本発明により、種々の鋼板に対応した電着塗料組成物の塗料設計において有用な手段が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、
(b)ブロックイソシアネート硬化剤、および
(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂、
を含有するバインダー樹脂エマルションを含む、カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂エマルションが、バインダー樹脂エマルションの固形分重量100gに対して5〜25mg当量の量の中和酸を含む、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記バインダー樹脂エマルションにおけるオニウム基の当量数と中和酸により中和されたアミノ基の当量数との比率が1.0:1.0〜1.0:4.0である、請求項1または2記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂エマルションの平均粒径が30〜120nmである、請求項1〜3いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
カチオン電着塗料組成物の電気伝導率が1000〜1500μS/cmである、請求項1〜4いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
(a)アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂、
(b)ブロックイソシアネート硬化剤、および
(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂の部分量、および
(d)中和酸、
を含む水性媒体を混合する第1混合工程、および
得られた混合物に残りの(c)オニウム基を有する変性エポキシ樹脂をさらに加えて混合する第2混合工程、
を包含する、電着塗料組成物用バインダー樹脂エマルションの製造方法。

【公開番号】特開2006−2002(P2006−2002A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178279(P2004−178279)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】