説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】 被塗物に外観不良を生じ難い、高つきまわり性のカチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 (a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂および(b)ブロックイソシアネート硬化剤からなるバインダー樹脂;および(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂;を含有するバインダー樹脂エマルションを含む、カチオン電着塗料組成物であって、この乳化樹脂(c)が、エポキシ当量1000〜1800であり、および乳化樹脂(c)100g当り35〜70meqの4級アンモニウム基を有する、カチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物に外観不良を生じ難い、高つきまわり性のカチオン電着塗料組成物および電着塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行なわれる。
【0003】
カチオン電着塗装の過程における塗膜の析出は電気化学的な反応によるものであり、電圧の印加により、被塗物表面に塗膜が析出する。析出した塗膜は絶縁性を有するので、塗装過程において、塗膜の析出が進行して析出膜が増加するのに従い、塗膜の電気抵抗は大きくなる。その結果、塗膜が析出した部位での塗料の析出は低下し、代わって、未析出部位への塗膜の析出が始まる。このようにして、順次被塗物に塗料固形分が析出して塗装を完成させる。本明細書中、被塗物の未着部位に塗膜が順次形成される性質をつきまわり性という。
【0004】
電着塗装において、つきまわりを確保するために単に塗膜の電気抵抗値を上げたりすると、電着塗装時の印加電圧が高くなり、それに伴って、電着時に発生した水素ガスが原因と見られる「ガスピンホール」(ガスピンと略称することもある。)が発生し塗膜外観の悪化が生じる恐れが高くなるため、好ましくない。
【0005】
加えて、近年では、鋼鈑の表面に亜鉛がめっきされた亜鉛めっき鋼鈑に電着塗装を施すことも多くなってきた。亜鉛鋼鈑は通常の鋼鈑と比べて防錆性に優れており、被塗物として用いると、より高い防錆性を実現できるという利点がある。その一方で、亜鉛めっき鋼鈑を被塗物として用いると、得られた電着塗膜にガスピンやクレーターが発生し易く、外観不良が生じやすいという問題がある。その理由は、亜鉛鋼鈑はカチオン電着塗装時の被塗物側で発生する水素ガスの放電電圧が鉄鋼鈑よりも低いため、水素ガス中で火花放電が生じ易くなるためと考えられている。このため、低い印加電圧での電着塗装が可能である電着塗料組成物を得ることができれば、亜鉛鋼鈑の電着塗装にも適しており有用である。
【0006】
さらに、意匠性が求められる用途などにおいては、より厚い電着塗膜が必要とされる場合もある。しかしながら、より厚い電着塗膜を得ようとして印加電圧を高める場合は、ガスピンの発生する頻度もより高くなる恐れがある。
【0007】
特開2002−356647号公報(特許文献1)には、本出願人らの提案による無鉛性カチオン電着塗料組成物が記載されている。この提案によって高つきまわり性の電着塗料組成物を得ることができるが、高つきまわり性などに対するさらなる要求により、バインダー樹脂の構成成分についてさらに検討する余地もでてきた。
【0008】
【特許文献1】特開2002−356647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、被塗物に外観不良を生じ難い、高つきまわり性のカチオン電着塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂および(b)ブロックイソシアネート硬化剤からなるバインダー樹脂;および
(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂;
を含有するバインダー樹脂エマルションを含む、カチオン電着塗料組成物であって、
この乳化樹脂(c)が、エポキシ当量1000〜1800であり、および乳化樹脂(c)100g当り35〜70meqの4級アンモニウム基を有する、
カチオン電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0011】
上記バインダー樹脂エマルションにおける、(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂との固形分重量比が、98:2〜70:30であるのが好ましい。
【0012】
さらに、カチオン電着塗料組成物の電気伝導率が1200〜1600μS/cmであるのが好ましい。
【0013】
さらに、上記カチオン電着塗料組成物から得られる、厚さ15μmの電着塗膜の膜抵抗が900〜1600kΩ・cm2であるのが好ましい。
【0014】
本発明は、上記カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電着塗装する工程を包含する、ガスピンの発生が抑制された電着塗膜の形成方法も提供する。
【0015】
本発明はまた、上記カチオン電着塗料組成物中に亜鉛めっき鋼板を浸漬して電着塗装する工程を包含する、乾燥膜厚10μmを超える電着塗膜の形成方法も提供する。
【0016】
本発明はさらに、電着塗装工程に用いられるカチオン電着塗料組成物が、エポキシ当量1000〜1800であり、および乳化樹脂100g当り35〜70meqの4級アンモニウム基を有する乳化樹脂(c)によって乳化されたバインダー樹脂エマルションを含むことを特徴とする、高つきまわり性電着塗装時におけるガスピンの発生を抑制する方法も提供する。
【0017】
本明細書中に記載されるアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂とは、ビスフェノール型エポキシ樹脂にアミンを反応させて、そのエポキシ基が開環されると同時にアミノ基が導入された樹脂をいう。
【0018】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂とは、ノボラック型エポキシ樹脂にアミンを反応させてそのエポキシ基が開環されると同時にアミノ基が導入された樹脂をいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、被塗物に外観不良を生じ難く、かつ高つきまわり性である。本発明のカチオン電着塗料組成物は、電着塗装に被塗物として用いると一般にガスピン欠陥が生じやすい亜鉛めっき鋼板に電着塗装する場合であっても、外観不良が生じ難い。さらに本発明の電着塗料組成物は、ガスピン欠陥を抑制する性能(以下、ガスピン性能と略することもある。)に優れ、かつ電着塗装時に発生する水素ガスによる火花放電が生じ難くなるため、電着塗膜の厚膜化が可能であるという利点も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解したバインダー樹脂エマルション、中和酸、有機溶媒を含有する。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに顔料を含んでもよい。バインダー樹脂エマルションに含有されるバインダー樹脂は、(a)アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂および(b)ブロックイソシアネート硬化剤からなる樹脂成分である。
【0021】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、
(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂および(b)ブロックイソシアネート硬化剤からなるバインダー樹脂;および
(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂;
を含有するバインダー樹脂エマルションを含む。
【0022】
(a)アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂
本発明で用いる(a)アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、アミンで変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂である。(a)アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部を、アミンで開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0023】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807(同、エポキシ当量170)などがある。
【0024】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0025】
【化1】

【0026】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を(a)アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0027】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0028】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0029】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0030】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0031】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%を1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0032】
ビスフェノール型エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンとしては、1級アミン、2級アミンが含まれる。ビスフェノール型エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が得られる。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が得られる。さらに、1級アミノ基および2級アミノ基を有する樹脂を用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を調製することができる。ここで、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。
【0033】
1級アミン、2級アミンおよびケチミンの具体例としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどがある。さらに、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの、ブロックされた1級アミンを有する2級アミン、がある。これらのアミン類等は2種以上を併用して用いてもよい。
【0034】
上記の通り、1級アミンおよび/または2級アミンを用いて、(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を調製することができる。樹脂(a)が有するアミノ基には、1級アミノ基、2級アミノ基および3級アミノ基が含まれ、樹脂(a)はこれらの1種以上のアミノ基を有する。
【0035】
(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂
本発明で使用することができる(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂は、バインダー樹脂をエマルションとする際に、バインダー樹脂のエマルション化(乳化)を助力する樹脂である。ここでいうバインダー樹脂とは、(a)アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂および(b)ブロックイソシアネート硬化剤である。
【0036】
上記の、4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂と3級アミンとを反応させることによって得られる樹脂である。
【0037】
上記エポキシ樹脂としては、一般的にはポリエポキシドが用いられる。このエポキシドは、1分子中に平均2個以上の1,2−エポキシ基を有する。このようなポリエポキシドの有用な例としては、上記のビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。さらにエポキシ樹脂として、上記のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を用いることもできる。
【0038】
特に水酸基を含有するエポキシ樹脂にあっては、ハーフブロックイソシアネートを、その水酸基に反応させて、ブロックイソシアネート基を導入したウレタン変性エポキシ樹脂であってもよい。
【0039】
上述のエポキシ樹脂と反応させるために用いられるハーフブロックイソシアネートは、有機ポリイソシアネートを部分的にブロックすることにより調製される。有機ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、必要に応じてスズ系触媒の存在の下で、攪拌下、ブロック剤を滴下しながら40〜50℃に冷却することにより行うことが好ましい。
【0040】
上記のポリイソシアネートは、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されない。具体的な例としては、下記ブロックイソシアネート硬化剤の調製で使用することができるポリイソシアネートを用いることができる。
【0041】
上記のハーフブロックイソシアネートを調製するための適当なブロック化剤としては、4〜20個の炭素原子を有する低級脂肪族アルキルモノアルコールが挙げられる。具体的には、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール等が挙げられる。
【0042】
上記のエポキシ樹脂とハーフブロックイソシアネートとの反応は、好ましくは140℃で約1時間保つことにより行われる。
【0043】
上記3級アミンとしては、炭素数1〜6のものが好ましく、水酸基を有していてもよい。3級アミンの具体例としては、上記で用いることができる3級アミンと同様に、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジフェネチルメチルアミン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン等を用いることができる。
【0044】
さらに上記3級アミンと混合して用いられる中和酸としては、特に制限はなく、具体的には、塩酸、硝酸、燐酸、蟻酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸などである。このようにして得られる3級アミンの中和酸塩とエポキシ樹脂との反応は常法により行うことができる。例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの溶剤に上記エポキシ樹脂を溶解させ、得られた溶液を60〜100℃まで加熱し、ここへ3級アミンの中和酸塩を滴下して、酸価が1となるまで反応混合物を60〜100℃に保持して行われる。
【0045】
本発明における乳化樹脂(c)のエポキシ当量は、1000〜1800である。このエポキシ当量は1200〜1700であるのがより好ましい。乳化樹脂のエポキシ当量が1800を超える場合は、乳化樹脂の乳化性能が劣ることとなる恐れがある。一方、エポキシ当量が1000より小さい場合は、得られる電着塗料組成物の電気伝導率が高くなり、ガスピン性が劣ることとなる恐れがある。
【0046】
また乳化樹脂(c)は、数平均分子量が1500〜2700であるのが好ましい。
【0047】
本発明における乳化樹脂(c)はさらに、乳化樹脂(c)100g当り35〜70meq(ミリグラム当量数)の4級アンモニウム基を有する。より好ましくは、乳化樹脂(c)100g当り35〜55meqの4級アンモニウム基を有する。4級アンモニウム基の量が70meqを超える場合は、乳化樹脂の乳化性能が悪化し、および得られる電着塗料組成物の電気伝導率が高くなり、ガスピン性が劣ることとなる恐れがある。4級アンモニウム基の量が35meqより少ない場合は、乳化樹脂の乳化性能が劣ることとなる恐れがある。
【0048】
本発明において、乳化樹脂(c)の分子量および4級アンモニウム基のmeqを上記範囲とすることによって、つきまわり性およびガスピン性により優れた電着塗料組成物を得ることができる。
【0049】
(b)ブロックイソシアネート硬化剤
本発明の(b)ブロックイソシアネート硬化剤で使用するポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれであってもよい。
【0050】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0051】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0052】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0053】
ブロック剤としては、通常使用されるε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等を用いることができる。
【0054】
(d)アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂
本発明において、必要に応じて用いることができる(d)アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、典型的にはノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ環をアミンで開環して製造される。ノボラック型エポキシ樹脂としては、式
【0055】
【化2】

【0056】
[式中R、R'およびR''はそれぞれ独立して水素又は、炭素数1〜5の直鎖または分枝鎖アルキレン基である。また繰り返し単位nは、0〜25である。]
で表わされるものを使用できる。
【0057】
ノボラック型エポキシ樹脂の典型例は、フェノールノボラック樹脂またはクレゾールノボラック樹脂である。前者の市販品としては、YDPN−638(東都化成社製)、後者の市販品としては、YDCN−701(同)、YDCN−704(同)などがある。
【0058】
ノボラック型エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンには、1級アミン、2級アミンが含まれる。かかるアミンの中でも2級アミンが特に好ましい。エポキシ樹脂と2級アミンを反応させると3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。
【0059】
アミンの具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。エポキシ樹脂とアミンとの反応については、例えば、特開平5−306327号公報、及び特開平2000−128959号公報に記載されており公知である。
【0060】
また、ノボラック型エポキシ樹脂に複数存在するエポキシ環には、酢酸などのカルボン酸類、アリルアルコールなどのアルコール類、ノニルフェノールのようなフェノール類を一部付加させてもよい。
【0061】
(d)アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、電着塗料組成物中に含まれるバインダー樹脂の固形分重量部100重量部に対して下限0.1重量部上限5.0重量部の範囲の量で用いるのが好ましい。上記下限は0.5重量部であるのがより好ましく、1.0重量部であるのがさらに好ましい。また上記上限は4.5重量部であるのがより好ましく、4.0重量部であるのがさらに好ましい。この場合、被塗物として亜鉛鋼鈑を用いる場合でも塗膜にピンホールやクレーターの生じる可能性をより低減させることができ、得られる電着塗料組成物の亜鉛鋼鈑適性をさらに向上させることができる。また、短時間で電着をおこなった際でも、つきまわり性を確保できる。
【0062】
アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、中和酸により中和され用いることができる。中和酸の量は特に限定されない。水性媒体中で安定に分散できる最低量以上が必要であるが、付加させるアミンの種類および中和酸の種類により異なる。このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂は、カチオン電着塗料組成物の電気伝導率を、つきまわり性に優れかつ亜鉛鋼鈑適性を損なわない最適範囲に調整する役割をもっている。
【0063】
顔料
本発明の電着塗料組成物には通常用いられる顔料を含有させてもよい。使用し得る顔料の例としては、通常使用される顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0064】
上記顔料が電着塗料組成物中に含まれる場合の含有量は、電着塗料組成物の塗料固形分に対して30重量%以下の範囲で含まれるのが好ましい。顔料は、電着塗料組成物の塗料固形分に対して1〜25重量%の範囲で含まれるのがより好ましい。顔料濃度が30重量%を超える場合は、塗装時の顔料降り積もりの影響を受けて、得られる塗膜の水平外観が低下する恐れがある。
【0065】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0066】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。
【0067】
一般に、顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0068】
本発明の電着塗料組成物は、上記成分の他に、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩を触媒として含んでもよい。これらは、硬化剤のブロック剤解離のための触媒として作用し得る。触媒の濃度は、電着塗料組成物中のバインダー樹脂100固形分重量部に対して0.1〜6重量部であるのが好ましい。
【0069】
電着塗料組成物の調製
本発明の電着塗料組成物は、バインダー樹脂エマルション、及び必要に応じた顔料分散ペーストおよび触媒を水性媒体中に分散することによって調製することができる。
【0070】
本発明のバインダー樹脂エマルションは、
(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂および(b)ブロックイソシアネート硬化剤からなるバインダー樹脂;および
(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂;
を含有する。
【0071】
バインダー樹脂エマルションの調製は、任意の方法により調製することができる。好ましい調製方法として、(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂;(b)ブロックイソシアネート硬化剤;(c)乳化樹脂の一部;および中和酸;を含む水性媒体を混合して、バインダー樹脂を乳化させて(第1希釈)、次いでこうして得られた混合物に水性媒体および残りの乳化樹脂(c)をさらに加えて乳化させる(第2希釈)方法が挙げられる。このような調製方法を用いることにより、(c)乳化樹脂がシェル部を構成するコア・シェル型のバインダー樹脂エマルションを得ることができる。このような構造を有するエマルションは、中和酸の使用量が少ない場合であっても安定性に優れるという利点を有する。
【0072】
バインダー樹脂エマルションは、4級アンモニウム基を有するバインダー樹脂エマルションである。これらのエマルションは、4級アンモニウム基によって乳化能力が向上している。そしてそのため、通常より少ない量の中和酸しか用いない場合であっても、分散安定なバインダー樹脂エマルションを得ることができる。これにより電着塗料組成物の電気伝導率を低く設定することができ、つきまわり性およびガスピン性を向上させることができる。さらに、低い印加電圧での電着塗装が可能となり、より膜厚の厚い電着塗膜を得ることが可能となる。
【0073】
本発明の電着塗料組成物には中和酸が含まれる。中和酸は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるものである。この中和酸はバインダー樹脂エマルションの調製に用いられる水性媒体に含める。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0074】
塗料組成物に含有させる中和酸の量が多くなると、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の中和率が高くなり、バインダー樹脂エマルションの水性媒体に対する親和性が高くなる。このため、分散安定性が増加する。これは、電着塗装時に被塗物に対してバインダー樹脂が析出し難い特性を意味し、塗料固形分の析出性は低下する。
【0075】
逆に、塗料組成物に含有させる中和酸の量が少ないと、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の中和率が低くなり、バインダー樹脂エマルションの水性媒体に対する親和性が低くなり、分散安定性が減少する。このことは、塗装時に被塗物に対してバインダー樹脂が析出し易い特性を意味し、塗料固形分の析出性は増大する。
【0076】
従って、電着塗料のつきまわり性を改良するためには、塗料組成物に含有させる中和酸の量を減らして、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の中和率を低レベルに抑えることが好ましい。
【0077】
バインダー樹脂エマルションの調製に用いられる中和酸の量は、バインダー樹脂エマルションの固形分重量100gに対して10〜22mg当量であるのがより好ましい。ここでバインダー樹脂エマルションの固形分重量は、(a)アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート硬化剤および(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂の固形分重量に相当する。中和酸の量が10mg当量未満であると水への親和性が十分でなく水への分散ができないか、著しく安定性に欠ける状態となる恐れがあり、22mg当量を超えると析出に要する電気量が増加し、塗料固形分の析出性が低下し、つきまわり性が劣る恐れがある。
【0078】
なお、本明細書中において「中和酸の量」とは、乳化の際、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を中和するのに用いた酸の量であって、塗料組成物に含まれているバインダー樹脂エマルションの固形分重量100gに対するmg当量数で表わし、MEQ(A)と表示する。
【0079】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、バインダー樹脂エマルション中に(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂が含まれる。この4級アンモニウムの存在により、バインダー樹脂の乳化能力が向上している。そしてそのため、通常より少ない量の中和酸しか用いない場合であっても、安定なバインダー樹脂エマルションを得ることができる。バインダー樹脂エマルションに含まれる4級アンモニウム基は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に含まれるアミノ基を中和する中和酸との置換を生じ難い。そのため樹脂中のアミノ基の低中和状態を確保することができ、中和酸の使用量が少ない場合であってもバインダー樹脂エマルションの安定化を図ることができる。
【0080】
ところで、4級アンモニウム基をバインダー樹脂エマルションに含めたカチオン電着塗料組成物の製造は、これまではほとんど行われていない。このような電着塗料組成物の製造がほとんど行われていない理由として、エポキシ樹脂を3級アミンで変性することにより得られる、4級アンモニウム基含有カチオン性エポキシ樹脂をバインダー樹脂として用いると、樹脂の水溶性が高すぎるために電着塗装時の析出性が劣ることとなり、実際の使用に適さないことが挙げられる。本発明においては、バインダー樹脂の水溶性の向上および析出性の悪化を伴うことのない量の範囲で、4級アンモニウム基をバインダー樹脂エマルションに含めている。このようにして、4級アンモニウム基をバインダー樹脂エマルションに含めたカチオン電着塗料組成物を調製することにより、つきまわり性およびガスピン性の両方を向上させることが可能となった。
【0081】
バインダー樹脂の水溶性の向上および析出性の悪化を伴うことのない量の範囲で、4級アンモニウム基をバインダー樹脂エマルションに含める手法として、バインダー樹脂エマルションについて具体的には、(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂との固形分重量比が、98:2〜70:30である場合が挙げられる。上記固形分重量比は97:3〜85:15であるのがより好ましい。
【0082】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂中の1級、2級、3級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と、ブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0083】
有機溶媒は、アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶剤として必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0084】
塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。このような有機溶媒を、カチオン電着塗料組成物の調製に用いられる水性媒体に含めてもよい。
【0085】
塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0086】
本発明のカチオン電着塗料組成物の電気伝導率は1200〜1600μS/cmであるのが好ましい。1200μS/cm未満であると十分なつきまわり性の向上が得られない恐れがある。また、1600μS/cmを超えると、ガスピンが発生し塗膜表面の外観が悪化する恐れがある。電気伝導率は、市販の電気伝導率計を使用してJIS K 0130(電気伝導率測定方法通則)に準拠して測定することができる。
【0087】
上記範囲の電気伝導率を有するカチオン電着塗料組成物は、上記のバインダー樹脂エマルションを用いることによってバインダー樹脂エマルション中に4級アンモニウム基を含ませることによって、また(d)アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂をバインダー樹脂エマルションの調製時に用いることによって得ることができる。
【0088】
本発明の電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0089】
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となる。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0090】
カチオン電着塗料組成物の電着過程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。本発明中の「電着塗膜」とは、上記の、被膜を析出させる工程後であって、焼付け硬化前の、電着塗装後の未硬化の塗膜をいう。
【0091】
電着塗膜の膜厚は、一般に5〜25μmの範囲で形成することができる。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分となる恐れがある。また、電着塗膜の膜抵抗は膜厚15μmにおいて900〜1600kΩ・cm2であることが好ましい。塗膜の膜抵抗が900kΩ・cm2未満であると十分な電気抵抗が得られていない状態であり、つきまわり性に劣る恐れがあり、また1600kΩ・cm2を超えると塗膜外観が劣る恐れがある。塗膜の膜抵抗は、より好ましくは1000〜1500kΩ・cm2である。
【0092】
塗膜の膜抵抗値は、最終塗装電圧(V)における、塗膜の残余電流値(A)より、下記の式にて求められる。
膜抵抗値(FR)=V/A × 塗装面積(cm2
【0093】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化し、硬化電着塗膜が得られる。
【実施例】
【0094】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0095】
製造例1 ブロックイソシアネート硬化剤(b)の製造
ジフェニルメタンジイソシアネート1250部およびメチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という。)266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチルスズジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0096】
製造例2 アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)95部及びジブシル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル57部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物にビスフェノールA−プロピレンオキサイド5モル付加体42部を添加した。反応は、主に、60℃〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0097】
続いて、ビスフェノールA61部、オクチル酸33部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量1190となった。得られた反応物をその後、冷却し、次にジエタノールアミン11部とアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後MIBKで不揮発分80%まで希釈し、3級アミノ基を有するエポキシ樹脂(アミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、樹脂固形分80%)を得た。
【0098】
製造例3 アミン変性ノボラック型エポキシ樹脂(d)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を装備したフラスコにMIBK204部を仕込み100℃まで昇温させた。そこにクレゾールノボラック樹脂YD−CN703(東都化成製、エポキシ当量204)204部を少しずつ加え溶解し、エポキシ樹脂の50%溶液を得た。続いて、攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備した先のフラスコとは別のフラスコに、N−メチルエタノールアミン75.1部およびMIBK32.2部を仕込み120℃まで昇温した。先に得られたエポキシ樹脂の50%溶液408部を3時間かけて滴下した。その後、120℃で2時間保持した。のち、80℃まで冷却した。さらに、88%ギ酸24.8部をイオン交換水15.9部で希釈した水溶液を加えて30分間80℃で混合した。引き続いて、脱イオン水489.4部を加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が34%のアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂水溶液を得た。このアミン変性ノボラック型エポキシ樹脂についてGPCによる分子量測定を行なった結果、数平均分子量は1800であった。
【0099】
製造例4 4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c)の製造
適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン89部、50%乳酸187.2部を加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0100】
エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)95.8部とビスフェノールA44.8部及びオクチル酸4.2部、MIBK30.5部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、100℃まで昇温した。その後、2エチル−4メチルイミダゾール0.01部を添加して、130℃で反応させたところエポキシ当量1650となった。
【0101】
反応混合物にエチレングリコールモノブチルエーテル31部を加え、混合物を85℃〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤16.2部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85℃〜95℃に保持した後、脱イオン水277部加えて、4Nアンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を得た(固形分30%)。得られた樹脂(c)の数平均分子量は2470であり、樹脂(c)100g当たりの4級アンモニウム基の量は、39.1meqであった。
【0102】
製造例5 4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c)の製造
エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)96.7部とビスフェノールA40.5部及びオクチル酸5.7部、MIBK28.1部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、100℃まで昇温した。その後、2エチル−4メチルイミダゾール0.01部を添加して、130℃で反応させたところエポキシ当量1200となった。
【0103】
反応混合物にエチレングリコールモノブチルエーテル32.7部を加え、混合物を85℃〜95℃に冷却し、均一化した後、製造例4で調製した4級化剤21.9部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85℃〜95℃に保持した後、脱イオン水274部加えて、4Nアンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を得た(固形分30%)。得られた樹脂(c)の数平均分子量は、1800であり、樹脂(c)100g当たりの4級アンモニウム基の量は、52.9meqであった。
【0104】
製造例6 4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c)の製造
エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)98.2部とビスフェノールA33.1部及びオクチル酸8.4部、MIBK24部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、100℃まで昇温した。その後、2エチル−4メチルイミダゾール0.01部を添加して、130℃で反応させたところエポキシ当量800となった。
【0105】
反応混合物にエチレングリコールモノブチルエーテル35.4部を加え、混合物を85℃〜95℃に冷却し、均一化した後、製造例4で調製した4級化剤32.1部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85℃〜95℃に保持した後、脱イオン水268部加えて、4Nアンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を得た(固形分30%)。得られた樹脂(c)の数平均分子量は、1200であり、樹脂(c)100g当たりの4級アンモニウム基の量は、77.5meqであった。
【0106】
製造例7 4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c)の製造
エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)95.4部とビスフェノールA46.8部及びオクチル酸3.5部、MIBK31.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、100℃まで昇温した。その後、2エチル−4メチルイミダゾール0.01部を添加して、130℃で反応させたところエポキシ当量2000となった。
【0107】
反応混合物にエチレングリコールモノブチルエーテル30.4部を加え、混合物を85℃〜95℃に冷却し、均一化した後、製造例4で調製した4級化剤13.4部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85℃〜95℃に保持した後、脱イオン水278部加えて、4Nアンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を得た(固形分30%)。得られた樹脂(c)の数平均分子量は、3000であり、樹脂(c)100g当たりの4級アンモニウム基の量は、32.4meqであった。
【0108】
製造例8 4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂(c)の製造
エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)96.4部とビスフェノールA45.0部及びオクチル酸4.2部、MIBK30.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、100℃まで昇温した。その後、2エチル−4メチルイミダゾール0.01部を添加して、130℃で反応させたところエポキシ当量1650となった。
【0109】
反応混合物にエチレングリコールモノブチルエーテル31.3部を加え、混合物を85℃〜95℃に冷却し、均一化した後、製造例4で調製した4級化剤13.4部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85℃〜95℃に保持した後、脱イオン水278部加えて、4Nアンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を得た(固形分30%)。得られた樹脂(c)の数平均分子量は、2470であり、樹脂(c)100g当たりの4級アンモニウム基の量は、32.4meqであった。
【0110】
製造例9 顔料分散樹脂の製造
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、エポキシ当量が190のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828油化シェルエポキシ社製)740部とビスフェノールA211部を、MIBK48部およびベンジルジメチルアミン1.5部の存在下、170℃で2時間反応させ、エポキシ当量700を有する生成物を得た。これへ、チオジエタノール244部、ジメチロールプロピオン酸268部を添加してさらに、イオン交換水50部加え、60℃で5時間反応させた。得られた樹脂は、エチレングリコールモノブチルエーテルで固形分が30%になるように希釈した。
【0111】
製造例10 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに、上で得られた顔料分散樹脂200.0部、カーボンブラック4.0部、カオリン36.0部、酸化チタン150.0部、リンモリブテン酸アルミニウム10.0部およびイオン交換水33.3部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料ペーストを得た。(固形分60%)
【0112】
実施例1
製造例2で得られた(a)アミノ基を有するアミノ変性ビスフェノール型エポキシ樹脂573部と、製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)245部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルジョンの固形分量100g当たり酸のミリ当量数が18になるように、蟻酸3.07部および酢酸3.38部を加えて攪拌し、さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂98部を加え、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。さらに製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂229部を加えて攪拌した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルジョンを得た。
【0113】
得られたバインダー樹脂エマルジョンに、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹の固形分重量100重量部に対して1.5%重量部となる量で、製造例3で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(d)の水溶液を加えた。得られた混合物1100重量部に対して、製造例10で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は、1370μS/cmであった。なお、本明細書中の電気伝導率は、東亜電波工業製、CM−30Sを用いて、JIS K0130(電気伝導率測定方法通則)に準拠して、液温25℃で測定した。
【0114】
実施例2
製造例2で得られた(a)アミノ基を有するアミノ変性ビスフェノール型エポキシ樹脂573部と、製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)245部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルジョンの固形分量100g当たり酸のミリ当量数が18になるように、蟻酸3.07部および酢酸3.38部を加えて攪拌し、さらに製造例5の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂98部を加え、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。さらに製造例5の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂229部を加えて攪拌した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルジョンを得た。
【0115】
得られたバインダー樹脂エマルジョンに、アミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂の固形分がバインダー樹の固形分重量100重量部に対して1.5%重量部となる量で、製造例3で得られたアミノ変性ノボラック型エポキシ樹脂(d)の水溶液を加えた。得られた混合物1100重量部に対して、製造例10で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は、1550μS/cmであった。
【0116】
比較例1
製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を用いる代わりに、製造例6
の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を用いたこと以外は、実施例1同様にして、カチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1660μS・cmであった。
【0117】
比較例2
製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を用いる代わりに、製造例7
の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を用いたこと以外は、実施例1同様にして、カチオン電着塗料組成物の調製を試みたところ、エマルジョン化せず、電着塗料組成物が得られなかった。
【0118】
比較例3
製造例4の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を用いる代わりに、製造例8
の4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂を用いたこと以外は、実施例1同様にして、カチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は1265μS・cmであった。
【0119】
比較例4
製造例2で得られた(a)アミノ基を有するアミノ変性ビスフェノール型エポキシ樹脂630部と、製造例1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)270部とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。その後、エマルジョンの固形分量100g当たり酸のミリ当量数が30になるように、蟻酸4.32部および酢酸6.62部を加えて攪拌し、次いでイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。得られた混合物を、減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のバインダー樹脂エマルジョンを得た。
【0120】
得られたバインダー樹脂エマルジョン1100重量部に対して、製造例10で得られた顔料分散ペースト129部を加え、さらにジブチル錫オキサイドが樹脂固形分に対し1重量%分とイオン交換水を加えて、固形分が20%のカチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料組成物の電気伝導率は、1720μS/cmであった。
【0121】
実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、以下の方法により評価を行なった。
【0122】
電着塗膜の膜抵抗
各実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物を含む電着浴に、リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SD、サーフダインSD−2500(日本ペイント社製)を用いて処理)(寸法:70mm×150mm、厚さ0.7mm)を電着塗料に10cm浸漬した。この鋼板に電圧を印加し、30秒間かけて200Vの電圧に昇圧し、150秒間電着した。浴温28℃における塗膜厚15μmの塗装電圧および電着終了時の残余電流を測定して、塗膜抵抗値(kΩ・cm2)を算出した。結果を表1および表2に示す。
【0123】
つきまわり性
つきまわり性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1にしめすように、4枚のリン酸亜鉛処理鋼鈑(JIS G3141 SPCC−SD、サーフダインSD−5000(日本ペイント社製)を用いて処理)11〜14を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、鋼鈑14以外の鋼鈑11〜13には下部に8mmφの貫通穴15が設けられている。
【0124】
カチオン電着塗料4リットルを塩ビ製容器に移して第1の電着浴とした。図2に示すように、上記ボックス10を、被塗装物として電着塗料21を入れた電着塗料容器20内に浸漬した。この場合、各貫通穴15からのみ塗料21がボックス10内に侵入する。
【0125】
マグネチックスターラー(非表示)で塗料21を攪拌した。そして、各鋼鈑11〜14を電気的に接続し、最も近い鋼鈑11との距離が150mmとなるように対極22を配置した。各鋼鈑11〜14を陰極、対極22を陽極として電圧を印加して、鋼鈑にカチオン電着塗装を行なった。塗装は、印加開始から5秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達する電圧まで昇圧し、その後通常電着では175秒間、短時間電着では115秒間その電圧を維持することにより行った。
【0126】
塗装後の各鋼鈑は、水洗した後、170℃で25分間焼き付けし、空冷後、対極22から最も近い鋼鈑11のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極22から最も遠い鋼鈑14のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)によりつきまわり性を評価した。一般に、この値が50%を超えた場合は良好であり、この値が50%以下の場合を不良と判断できる。結果を表1および表2に示す。
【0127】
ガスピン性
各実施例または比較例により得られたカチオン電着塗料組成物を含む電着浴に、化成処理を行った合金化溶融亜鉛めっき鋼鈑(70mm×150mm、厚さ0.7mm)を浸漬した。この鋼板に電圧を印加し、5秒間かけて200Vの電圧に昇圧し、175秒間電着塗装した。その後、水洗し、160℃で10分間焼き付けて、硬化電着塗膜を得た。次いで、電着塗装時の電圧を10V上げてゆき同様の操作を繰り返した。得られた硬化電着塗膜の塗面状態を目視観察し、塗膜異常が認められない硬化電着塗膜の最大印加電圧をVとした。
【0128】
上記つきまわり性の試験において、電着塗装時、印加開始から5秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達した時点の電圧をVとし、下記数式
△V=V−V
より、△Vを算出した。この△Vの値が大きいほどガスピン性が良好であり、また種々の塗装条件に対応できる電着塗料組成物であるということができる。結果を表1および表2に示す。
【0129】
バインダー樹脂エマルションの平均粒径
実施例および比較例の電着塗料組成物のバインダー樹脂エマルションの平均粒径を、日立ハイテクノロジーズ社製、U−1800を用いて測定した。結果を表1および表2に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
実施例の結果により、本願発明のカチオン電着塗料組成物はつきまわり性およびガスピン性に優れるものであることが確認された。特に、本発明のカチオン電着塗料組成物は、各実施例からも分かるとおり、電着塗料組成物調製時に用いられる中和酸の量が、従来の電着塗料組成物と比較して少なくなっている。本発明の電着塗料組成物は、中和酸の量が少なくても安定性に優れるという利点を有し、かつガスピン性およびつきまわり性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明により、被塗物に外観不良を生じ難くかつ高つきまわり性である、カチオン電着塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】つきまわり性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【図2】つきまわり性の評価方法を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0135】
10:ボックス、
11〜14:リン酸亜鉛処理鋼板、
15:貫通穴、
20:電着塗装容器、
21:電着塗料、
22:対極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂および(b)ブロックイソシアネート硬化剤からなるバインダー樹脂;および
(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂;
を含有するバインダー樹脂エマルションを含む、カチオン電着塗料組成物であって、
該乳化樹脂(c)が、エポキシ当量1000〜1800であり、および乳化樹脂(c)100g当り35〜70meqの4級アンモニウム基を有する、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂エマルションにおける、(a)アミノ基を有するアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂と(c)4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂からなる乳化樹脂との固形分重量比が、98:2〜70:30である、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
カチオン電着塗料組成物の電気伝導率が1200〜1600μS/cmである、請求項1または2記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物から得られる、厚さ15μmの電着塗膜の膜抵抗が900〜1600kΩ・cm2である、カチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電着塗装する工程を包含する、ガスピンの発生が抑制された電着塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1〜4いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物中に亜鉛めっき鋼板を浸漬して電着塗装する工程を包含する、乾燥膜厚10μmを超える電着塗膜の形成方法。
【請求項7】
電着塗装工程に用いられるカチオン電着塗料組成物が、エポキシ当量1000〜1800であり、および乳化樹脂100g当り35〜70meqの4級アンモニウム基を有する乳化樹脂(c)によって乳化されたバインダー樹脂エマルションを含むことを特徴とする、高つきまわり性電着塗装時におけるガスピンの発生を抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−348076(P2006−348076A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172385(P2005−172385)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】