説明

カテキン含有組成物の苦味低減方法

【課題】 CDを用いる、カテキン含有組成物の安全性の高い苦味低減方法および苦味の低減されたカテキン含有組成物の提供。
【解決手段】 カテキン含有組成物にβCDとγCDを組み合わせて使用すること、またはカテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよび/またはγCDの包接体を混錬して形成させることで、カテキン含有組成物の苦味を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリン(以下、CDとする。)を用いるカテキン含有組成物の苦味低減方法に関する。さらに、この方法により得られた苦味の低減されたカテキン含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カテキン類はコレステロール上昇抑制作用やαアミラーゼ活性阻害作用などの効果を有することが知られ、このようなカテキン類を高濃度に含む飲食物等が開発されてきた。しかし、カテキン類を高濃度に含む飲食物は苦味が強く感じられ、継続して摂取することが困難であるため、カテキン類を高濃度に含む飲食物の苦味を低減する方法として、CDを配合する方法が開発されている。
【0003】
CDとは、グルコースが環状に結合したもので、αCD、βCD、γCDの3種類が知られている。これらのCDは、環状構造の内部に有機物質を取り込んで包接体を形成する性質があり、食品や医薬品をはじめとした様々な分野で利用されている。近年、これらのCDについて、世界食品添加物合同専門家会議(JECFA)で安全性評価がなされ、βCDについて低い毒性が確認されたことから、表1に示すように、JECFAおよびEUではその使用量が制限されている(例えば、非特許文献1参照。)。すなわち、JECFAでは、βCDの1日の許容摂取量が5mg/kgであり、これは成人(体重60kg)1日あたり300mgとなる。また、EUでは食品1kgに対し、1g(0.1w/w%)まで使用可能とされている。
【0004】
【表1】

【0005】
しかし、表1に示すように、日本においては未だにβCDについて使用制限が定められておらず、世界的な使用制限値を大幅に越える量が使用されているのが現状である。実際、カテキン類を高濃度に含む飲食物の製造にあたり、2.5〜5.2gのβCDを全容量1300mlの飲料に添加することで(βCD終濃度(計算値):0.19〜4.0w/w%)、苦味を低減する方法(例えば、特許文献1参照。)が開示されているが、この数値は前記JECFAやEUの使用可能値をはるかに越えており、世界的な使用制限値に適合していない。
【0006】
また、CDの含有量を0.1〜20.0重量部とし、苦味を低減する方法(例えば、特許文献2参照。)やCDの添加量の終濃度を0.15〜1.0重量%とし、苦味を低減する方法(例えば特許文献3参照。)が開示されており、これらはいずれのCDでも利用できるとしているが、実施例ではβCDのみしか使用しておらず、その添加量も1.0w/w%以上であることから、使用量も非常に多く、また世界的な使用制限値に適合させた場合の、その有効性は示されていない。従って、世界的な使用制限値に適合する、安全な量のβCDを用いて、カテキンを含む飲食物等の苦味を低減する、安全性の高い方法の開発が望まれている。
【非特許文献1】食品と開発、Vol.38、No.9、pp.70、2003年
【特許文献1】特開2002−238518号公報
【特許文献2】特開平10-4919号公報
【特許文献3】特開2004−254511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は少量のCDを用いる、カテキン含有組成物の安全性の高い苦味低減方法の提供を課題とする。さらに、苦味の低減されたカテキン含有組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、カテキン含有組成物にβCDとγCDを組み合わせて使用することで、世界的な使用制限値に適合するβCDの使用量で、十分にカテキン含有組成物の苦味を低減できることを見出した。また、カテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよびγCDの包接体を混錬して形成させることで、カテキン含有組成物の苦味を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、これらの方法では、βCDを使用せず、γCDのみで十分にカテキン含有組成物の苦味を低減できることも見出し、世界的な使用制限値に適合する、安全性の高いCDを用いるカテキン含有組成物の苦味低減方法およびこの方法によって得られる苦味の低減されたカテキン含有組成物を提供することが可能となった。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)〜(10)である。
(1) カテキン含有組成物にシクロデキストリンを加えてカテキン含有組成物の苦味を低
減するにあたり、シクロデキストリンとしてβシクロデキストリン(βCD)とγシク
ロデキストリン(γCD)とを併用することを特徴とする、カテキン含有組成物の苦味
低減方法。
(2) カテキン含有組成物の苦味低減方法であって、
(a) カテキン含有組成物とβCDおよびγCDに水を加える工程
(b) 前記(a)で得られた水溶液中で、カテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよびγCD
の包接体を形成する工程、
を含む前記(1)に記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
(3) βCDの使用量が0.1w/w%以下、γCDの使用量が0.4〜0.6w/w%である前記(2)に記載の
カテキン含有組成物の苦味低減方法。
(4) カテキン含有組成物の苦味低減方法であって、カテキン含有組成物とβCDおよび
γCDとを混練し、カテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよびγCDの包接体を形成
する工程を含む前記(1)に記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
(5) カテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよびγCDの包接体を乾燥し、粉末化する工
程を含む前記(4)に記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
(6) カテキン含有組成物の苦味低減方法であって、カテキン含有組成物の苦味成分と
βCDおよびγCDの包接体を水溶液とする工程をさらに含む前記(4)または(5) のいず
れかに記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
(7) βCDの使用量が0.1w/w%以下、γCDの使用量が0.1〜0.5w/w%である前記(4)〜(6)のい
ずれかに記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
(8) カテキン含有組成物の苦味成分とγCDの包接体を形成することを特徴とするカテキ
ン含有組成物の苦味低減方法。
(9) カテキン含有組成物がカテキンまたは緑茶抽出物である前記(1)〜(8)のいずれかに
記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
(10) 前記(1)〜(9)のいずれかの方法により得られた苦味の低減されたカテキン含有組成
物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のCDを用いるカテキン含有組成物の苦味低減方法は、世界的なCDの使用制限値に適合する、安全性の高い方法であり、世界規模で実施することができる。さらに、これによって得られる苦味の低減されたカテキン含有組成物は食品や医薬品等の製造において安全な材料として幅広く利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の「カテキン」とは、カテキン類のことをいい、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレートなどの非エピ体カテキン類及びエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類が含まれる。
【0012】
本発明の「カテキン含有組成物」とは、前記のカテキン自体またはこれらカテキンを含み、食品や医薬品等の材料として摂取することのできる物質のことをいい、天然物でも合成物でもいずれのものも用いることができる。天然物のカテキン含有組成物としては、茶葉から製茶された緑茶類や、鳥龍茶等の半発酵茶、紅茶等の発酵茶の茶葉などが挙げられ、これらから水や熱水によって抽出したものも含まれる。また、これらの茶抽出物の濃縮物も含まれる。茶抽出物の濃縮物としては、市販の「テアビゴ」ロシュ・ビタミン・ジャパン社製、「登録商標、GREEN TEA EXTRACT」シンセテック社製等が挙げられる。そのほか、他の原料起源のカテキンを含む組成物や、カラム精製品及び化学合成品として調製されたカテキンを含む組成物も含まれる。これらのカテキン含有組成物は、固体、水溶液、スラリー状等、種々の形状のものを使用することができる。
【0013】
本発明の「苦味低減方法」とは、これらのカテキン含有組成物の苦味成分を、世界的なCDの使用制限値に適合する量のCDを用いて包接することで、苦味を低減する方法のことをいう。具体的には、カテキン含有組成物とCDが完全に溶解するだけの十分な量の水に溶かして包接体を形成することで苦味を低減する方法や、カテキン含有組成物とCDを懸濁または乳化した後に、スラリーまたはペーストにして包接体を形成することで苦味を低減する方法またはカテキン含有組成物とCDを粉末等の状態のまま混錬等によって混ぜ合わせて包接体を形成することで苦味を低減する方法などが挙げられる。これらの包接体は、さらに乾燥させて用いることもできる。水溶液を形成する場合には、カテキン含有組成物とCDに水を加えても、水にカテキン含有組成物とCDに水を加えても、いずれでもよい。また、乾燥方法としては、自然乾燥や、加熱による水の溜去、定温真空乾燥、凍結乾燥、フリーズドライなどさまざまな方法が利用でき、またこれらの乾燥方法に限られるものではない。カテキン含有組成物の苦味を低減することができれば、いずれの方法を用いることもできる。
【0014】
本発明のシクロデキストリンとしては、βCD、γCD及び、分岐βCD、分枝γCD、βCD誘導体、γCD誘導体等、またはこれらを組み合わせて用いることができる。特に世界的なCDの使用制限値に適合する、終濃度が0.1w/w%以下のβCDを用い、水溶液中でカテキン含有組成物の苦味成分の包接体を形成する場合には、終濃度が0.4w/w%以上、より好ましくは0.6w/w%のγCDと組み合わせて用いることが望ましい。この場合、組み合わせるγCDの量は、カテキン含有組成物の苦味成分を十分に包接することができる量であれば、0.6w/w%以上であっても構わない。またこの方法を用いる場合では、βCDを用いず、1.6w/w%以上、より好ましくは2.0 w/w%のγCDでカテキン含有組成物の苦味成分を包接することもできる。
さらに、カテキン含有組成物とCDを粉末等の状態のまま混錬等によって混ぜ合わせて包接体を形成する場合には、0.1w/w%以下のβCDと0.1〜0.5w/w%のγCDでカテキン含有組成物の苦味成分を十分に包接することができる。この場合、0.1w/w%のβCDと0.4w/w%のγCDを組み合わせることがより好ましい。またこの方法を用いる場合では、βCDを用いず、0.5w/w%のγCDで十分にカテキン含有組成物の苦味成分を包接することもできる。
【0015】
本発明の「苦味の低減されたカテキン含有組成物」とは、カテキン含有組成物とCDが包接体を形成することで、カテキン含有組成物の苦味が低減された物質のことをいい、目的に応じて固体、水溶液、スラリー状等種々の形状で利用することができる。本発明の「苦味の低減されたカテキン含有組成物」は、世界的なCDの使用制限値に適合して得られた、安全性の高い物質であるため、食品や医薬品等の製造において安全な材料として幅広く利用され得る。この苦味の低減されたカテキン含有組成物の水溶液などは、果汁などの他の飲料成分と組み合わせることで、幅広い範囲の茶含有容器詰飲料を提供することが可能であり、例えばソフトドリンクである炭酸飲料、果実エキス入り飲料、野菜エキス入りジュースや、ニアウオーター、スポーツ飲料、ダイエット飲料等に適宜添加することもできる。また、粉末、顆粒、カプセル、チュアブル、錠剤等の形態で用いることができ、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の製剤に通常用いられている添加物を加えて、サプリメントなどの製剤とすることができる。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって制限されない。
【実施例1】
【0016】
カテキン水溶液の苦味低減方法
表2に従い、カテキン(テアビゴ:ロシュ・ビタミン・ジャパン社製)77mgとβCD (CAVAMAX W7 Pharma:シクロケム社製)、γCD (CAVAMAX W8 Food:シクロケム社製)をそれぞれ計り取り、水を加えて50gとした。これを攪拌して、9種類のカテキン水溶液(A〜I)を調製した。
【0017】
カテキン水溶液の苦味の評価
前記にて調製したカテキン水溶液(A〜I)の苦味を、5人のパネラーによって官能評価した。結果を表2に苦味として示した。
【0018】
【表2】

【0019】
結果
βCDのみを加えた場合、0.4w/w%加えた場合に少し苦い(△)状態になり、0.6w/w%加えれば苦味が消失(○)した。また、γCDのみを加えた場合は、1.6w/w%加えた場合に少し苦い(△)状態になり、2.0w/w%加えれば苦味が消失(○)した。
しかし、0.6w/w%のβCDの使用量は、表1に記載のJECFA及びEUの規定値を大幅に上回っているため好ましくない。EUの規定値である0.1w/w%のβCDにγCDを組み合わせて使用した場合、βCDが0.1w/w%でも、γCDを0.4w/w%加えることで少し苦い(△)状態になり、0.6w/w%加えることで苦味が消失(○)することが確認された。よって、このβCDおよびγCDを組み合わせる苦味低減方法が、苦味の低減及び安全性の面で有効な方法であることが示された。
【実施例2】
【0020】
緑茶抽出物の苦味低減方法
<方法1>
表3に従い、緑茶抽出物(登録商標、GREEN TEA EXTRACT:シンセテック社製:総カテキン60%・エピガロカテキンガレート(EGCG) 40%)90mgとβCD、γCDをそれぞれ計り取り、水を加えて50gとした。これを攪拌して、4種類の緑茶抽出物水溶液(A、B、CD)を調製した。
<方法2>
表3に従い、前記方法1で使用した緑茶抽出物90mgとβCD、γCDをそれぞれ計り取り、少量の水を加えて乳鉢中で混練した後乾燥し、包接体粉末を得た。これに水を加えて50gとし、攪拌して、3種類の緑茶抽出物水溶液(B’、C’、D’)を調製した。
【0021】
緑茶抽出物水溶液の苦味の評価
前記にて調製したカテキン水溶液(A、B、B’、C、C’、D、D’)の苦味を、5人のパネラーによって官能評価した。評価は、非常に苦い場合を10、全く苦くない場合を1として10段階で行い、結果を平均して表3に苦味として示した。
【0022】
【表3】

【0023】
結果
βCDとγCDを同量添加した場合でも、BとB’、CとC’のように、あらかじめ包接体を形成させ、水溶液とした場合の方が、苦味の低減が著しいことが示された。特に、βCD 0.1w/w%とγCD 0.4w/w%を加え、あらかじめ包接体を形成させた場合では、全く苦くない(苦味:1)という結果が得られ、βCD 0.1w/w%とγCD 0.1w/w%を加えた場合でも、ほとんど苦くない(苦味:2)という結果が得られた。また、γCDのみを用いた場合でも、DとD’のように、あらかじめ包接体を形成したものを水溶液にした場合では、γCD 0.5w/w%のみの添加でほとんど苦くない(苦味:2)という結果が得られた。よって、あらかじめβCDおよびγCDと、苦味成分の包接体を形成させることにより、著しく苦味が低減し、βCDおよびγCDの組み合わせ以上に、苦味の低減及び安全性の面で有効な方法であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のCDを用いるカテキン含有組成物の苦味低減方法は、安全性の高い方法であり、世界規模で実施することができる。さらに、これによって得られる苦味の低減されたカテキン含有組成物は食品や医薬品等の製造において安全な材料として幅広く利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテキン含有組成物にシクロデキストリンを加えてカテキン含有組成物の苦味を低減するにあたり、シクロデキストリンとしてβシクロデキストリン(βCD)とγシクロデキストリン(γCD)とを併用することを特徴とする、カテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項2】
カテキン含有組成物の苦味低減方法であって、
(a) カテキン含有組成物とβCDおよびγCDに水を加える工程
(b) 前記(a)で得られた水溶液中で、カテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよびγCDの包接体を形成する工程、
を含む請求項1に記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項3】
βCDの使用量が0.1w/w%以下、γCDの使用量が0.4〜0.6w/w%である請求項2に記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項4】
カテキン含有組成物の苦味低減方法であって、カテキン含有組成物とβCDおよびγCDとを混練し、カテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよびγCDの包接体を形成する工程を含む請求項1に記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項5】
カテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよびγCDの包接体を乾燥し、粉末化する工程を含む請求項4に記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項6】
カテキン含有組成物の苦味低減方法であって、カテキン含有組成物の苦味成分とβCDおよびγCDの包接体を水溶液とする工程をさらに含む請求項4または5のいずれかに記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項7】
βCDの使用量が0.1w/w%以下、γCDの使用量が0.1〜0.5w/w%である請求項4〜6のいずれかに記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項8】
カテキン含有組成物の苦味成分とγCDの包接体を形成することを特徴とするカテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項9】
カテキン含有組成物がカテキンまたは緑茶抽出物である請求項1〜8のいずれかに記載のカテキン含有組成物の苦味低減方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかの方法により得られた苦味の低減されたカテキン含有組成物。













【公開番号】特開2006−115772(P2006−115772A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307991(P2004−307991)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(503065302)株式会社シクロケム (22)
【Fターム(参考)】