説明

カテーテル用ガイドワイヤ

【課題】カテーテル用ガイドワイヤ、特に治療用または検査用カテーテルを血管、気管及び消化管等の体腔の所要部位まで導入する際に使用される、湿潤性を有するカテーテル用ガイドワイヤを提供する。
【解決手段】弾性率が小さい金属から形成された中心線材2と、該中心線材を被覆する、弾性率が大きい金属から形成された被覆材とからなる金属芯を具備し、該金属芯の先端部が先細状に形成され、該金属芯の表面に、湿潤時に湿潤性を有する架橋構造の親水性高分子が化学的に結合された被覆層4が設けられてなることを特徴とするカテーテル用ガイドワイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカテーテル用ガイドワイヤ、特に治療用または検査用カテーテルを血管、気管及び消化管等の体腔の所要部位まで導入する際に使用される、湿潤性を有するカテーテル用ガイドワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、血管、気管及び消化管等の体腔の所定部位まで治療用又は検査用のカテーテルを導入する際には、カテーテルの導入に先立ってカテーテル用ガイドワイヤを所定部位まで導入している。カテーテル用ガイドワイヤには、通常金属製の芯に、必要に応じて合成樹脂の保護コーティンが施されている。
【0003】
カテーテル用ガイドワイヤは、通常次の特性を具備している。(1) ガイドワイヤの導入によって体腔を損傷せしめる事がないよう、その先端部は十分に柔軟であること (2)蛇行し、分岐する体腔に沿って導入するために、その先端部は形状順応性に優れていること (3)先端部の弾性率が十分に小さいこと
一方ガイドワイヤ導入の際には、その基端部を操作して先端部の進行方向を制御するため基端部は回転等の運動伝達性に優れていることが重要である。そのため基端部の材料の弾性率は比較的大きい必要がある。またガイドワイヤ導入時に体腔内壁や粘膜などへの損傷を最小限にする必要がある。
【0004】
本出願人らは、上記3つの特性及びガイドワイヤの操作性に優れたカテーテル用ガイドワイヤを特開2003-24445(特許文献1)に提案した。かかるガイドワイヤは、中心線材と該中心線材に被覆された被覆材からなる金属芯を具備し、該中心線材は弾性率が比較的小さい金属から形成され、該被覆材は弾性率が比較的大きい金属から形成され、該金属芯の先端部は先細形状で中空線材のみから構成され、金属芯が合成樹脂製保護コーティングされたカテーテル用ガイドワイヤであり、製造コストの大幅な増大を伴うことなく製造することができるにもかかわらず、先端部の弾性率を十分に小さくせしめるとともに、基端部の弾性率を所要範囲にせしめることができる。
【0005】
特許文献1に提案されたカテーテル用ガイドワイヤーは、ガイドワイヤの上記特性を具備した優れたガイドワイヤであるが、体腔内へガイドワイヤを導入する時に、潤滑性を向上させるためにポリウレタン、柔軟性ポリオレフィン系ポリマーなどの合成樹脂製保護膜を金属芯の表面に被覆しているが、ポリウレタン等のポリマーを金属表面に直接コーティングした場合、ポリマーが剥離、脱落する恐れがあり、また潤滑性も不十分なため実用上問題があった。これらポリマーの上記問題を解決するために、分子内に少なくとも1個の金属に化学吸着する官能基と少なくとも1個の反応性官能基を有する接着性有機化合物を被覆して、ガイドワイヤの金属表面にポリマーを被覆する方法が特開2007-267757(特許文献2)に開示されているが、この方法においてもポリマー表面を手で軽くこすると簡単にポリマーが剥離、脱落するため実用に供することができない。
【特許文献1】特開2003-24445
【特許文献2】特開2007-267757
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、体腔内の所定部位に確実に到達させることができる、柔軟性に優れ、かつ耐久性及び潤滑性に優れたカテーテル用ガイドワイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来のガイドワイヤの問題点を徹底的に検討した結果、特定の親水性樹脂を金属芯の表面に被覆することにより、柔軟性に優れ、かつ耐久性及び潤滑性に優れたカテーテル用ガイドワイヤが提供できることを見出し、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、弾性率が小さい金属から形成された中心線材と、該中心線材を被覆する、弾性率が大きい金属から形成された被覆材とからなる金属芯を具備する、先端部が先細状に形成された金属芯の表面に、湿潤時に湿潤性を有する架橋構造の親水性高分子が化学的に結合された被覆層が設けられてなることを特徴とするカテーテル用ガイドワイヤである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカテーテル用ガイドワイヤは、中心線材と該中心線材に被覆された被覆材とを有する金属芯を具備し、該中心線材は弾性率が小さい金属から形成され、該被覆材は弾性率が大きい金属から形成され、該金属芯の少なくとも基端部以外に被覆材を含んでいるため、製造コストの大幅な増大を伴うことなく製造することができるとともに、先端部の弾性率を小さくすることができ、また基端部の弾性率を所定範囲に設定することができる。
また、従来のガイドワイヤーのようにポリウレタン樹脂あるいはポリアミド樹脂などの押出しチューブ(数十μ〜数百μの膜厚)に金属を挿入して中間コート層を形成すること無く、金属芯の表面に、直接コーティング法により、湿潤時に湿潤性を有する架橋構造の親水性高分子を化学的に結合された被覆層を設けることで、コーティング層の薄膜化が可能となり、潤滑性と潤滑耐久性に優れ、体腔内への挿入が容易なカテーテル用ガイドワイヤーの提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明のカテーテル用ガイドワイヤの一実施例について図面にて説明する。図1に示すように、本発明のカテーテル用ガイドワイヤは中心線材6と該中心線材に被覆された被覆材8からなる金属芯2と親水性高分子からなる被覆層4とから構成されている。中心線材6は金属芯2の基端2aから先端2bまで連続して延在せしめられている。中心線材6の断面は円形である。中心線材6は小さい弾性率を有する金属から形成されることが重要である。中心線材6を形成するための金属としては、Ni-Ti系合金、Cu-Zn-Al系合金、Cu-Al-Mn系合金、Fe-Mn系合金のような超弾性を有する合金を採用することができる。一方中心線材6に被覆される被覆材8は比較的大きい弾性率を有する金属から形成される。被覆材8を形成する金属としては、通常ステンレス鋼または銅系金属が採用される。中心線材6に被覆された被覆材8の断面は円環状である。
【0010】
金属芯2は基端部10及び先端部12とともに、基端部10と先端部12との間に存在する中間部14を含んでいる。図2に先端部の拡大図を示すように、金属芯2の先端部12においては被覆材8が存在せず、先端部12は中心線材6のみから形成されていることが重要である。金属芯2の先端部12では中心線材6は漸次先細形状にとなっている。中間部14の最先端では被覆材8の肉厚は実質ゼロであり、中間部14の最後端では被覆材8の肉厚T1は通常0.05〜0.4mmである。金属芯2の基端部10では被覆材8の肉厚T2は均一であり、中間部14の最後端での肉厚T1と実質同一である。4は親水性高分子からなる被覆層である。
【0011】
金属芯2の先端部12の長さは10〜400mm、通常100〜300mmである。基端部10の長さは、500mm以上、通常700〜800mmである。中間部14の長さは50〜700mm、通常100〜600mmである。中心線材6と被覆材8とから構成された金属芯2の弾性率は、先端部12は両支持点間隔が14mmでの3点曲げ試験における撓み0.8mmのときの果汁が0.6kgf以下、通常0.4kgf以下である。図2のガイドワイヤでは先端部12において中心線材6は漸次先細り形状のため、弾性率は先端2bに向かって漸次低減している。基端部10は両支持点感覚が14mmでの3点曲げ試験における撓み0.8mmの時の荷重が0.7kgf以上、通常0.8からル和の基端である。基端10の弾性率は一定である。中間部14では被覆材8が漸次先細形状のため、弾性率は先端部12に向かって漸次低減している。
【0012】
金属芯2は、次のように製造することができる。外径D2を有する中心線材6を準備し、中心線材6に管状の被覆材8を挿通する。挿通時における被覆材8の内径は中心線材6の外径よりも十分大きくても良い。次いで被覆材8をその長さ方向に延伸させて外径及び内径を漸次低減させて、被覆材8の内周面を中心線材6の外周面に密接させ、中心線材6に被覆材8を強固に接合させる。このようにして形成された金属芯2は図3に二点鎖線で示すように、その基端2aから先端2bまでの全長にわたって、中心線材8の肉厚は実質的に一定である。その後、金属芯2の先端部12及び中間部14を切削加工により二点鎖線で示す部位を削り取る。
また、中心線材に被覆材を密着させた状態の金属芯の先端側を更に延伸させて細径化すると、先端側に極細径の金属芯ができて先端が柔らかいガイドワイヤを製造することができる。金属芯の直径を先端側から後端に向けて段階的に小さくすると最適な柔軟性を有するカテーテル用ガイドワイヤを提供することができる。
【0013】
図2で示すガイドワイヤでも柔軟性が不十分でガイドワイヤを所定部位まで導入することが困難な場合があるが、その場合には、上述のような金属芯の先端側を細経化して柔軟性を改善させる方法の他に、ガイドワイヤの金属芯の先端部にコイルスプリング体15を挿通することにより先端部の柔軟性を改善することもできる。図4に示すように、金属芯2の先端部12にはコイルスプリング体15が差し込まれている。該コイルスプリング体15は、一種類の金属からなるコイルであっても、複数種類の金属からなるコイルが連結一体化されたコイルであっても良い。通常二種類の金属からなるコイルが連結一体化されて使用される。図4に示すように、後端側に配置された第二のコイル17と、第二のコイル17の先端側に配置された第一のコイル16が接合一体化されている。コイルスプリング体15は金属芯2の先端部12の全長を覆っており、通常金属芯2の先端部12の長さ10〜400mmと同じ長さか若干長い長さである。またコイルスプリング体15の外径は、通常中心線材6の外径より若干大きい径である。図4ではコイルスプリング体15はその先端から後端まで外形は同一である。後端側に配置された第二のコイル17の後端は被覆材6に接合されている。一方第一コイルの先端は中心線材の先端に接合されている。
【0014】
コイルスプリング体15の材料としては、金、白金等の貴金属またはこれらを含む合金(例えば金―イリジウム合金)等が挙げられる。特に貴金属のようなX線不透過材料で構成した場合には、ガイドワイヤにX線造影性が得られ、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ血管内に挿入することができ、好ましい。かかる貴金属は通常第一のコイル16に使用される。また第二のコイ17は、第一のコイル16と異なる材料で構成しても良い。たとえば、第一のコイル16をX線不透過材料のコイル、第二のコイル17を、X線を比較的透過する材料(例えば、ステンレス鋼等)のコイルで各々構成しても良い。
【0015】
ガイドワイヤの先端部に、このようなコイルスプリング体15を挿通することにより、ガイドワイヤの先端部12は、コイルに覆われて接触面積が少ないので、摺動抵抗を低減することができ、よって、ガイドワイヤの操作性が向上する。
コイルスプリング体15を構成する第一のコイル16と第二のコイル17とは、溶接により接合、固定されているのが好ましい。これにより簡単な方法で第一コイルと第二のコイルとの接合部に高い接合強度が得られる。
【0016】
一方図5に示すガイドワイヤの、コイルスプリング体18の外径が先端方向に向かって漸減している。このような外径漸減部を有することにより、先端部に設けられた白金ワイヤからなるコイルスプリング体18の剛性を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果コイルスプリング体18は、先端部に良好な柔軟性を得て、血管への追従性、安全性が向上するとともに、折れ曲がり等も防止することができる。
【0017】
図4に示すように、ガイドワイヤの金属芯2及びコイルスプリング体15の表面には、湿潤時に湿潤性を有する架橋構造の親水性高分子が化学的に結合された被覆層4が設けられている。この被覆層4は金属芯2及びコイルスプリング体15の表面を硫黄含有化合物で処理した後、その表面に親水性化合物と架橋剤を反応させて親水性高分子を金属芯の表面に直接固定化している。本発明において、金属芯2の表面に親水性化合物を化学的に固定するために用いられる硫黄含有化合物としては、金属と硫黄原子の結合を形成しうる官能基を有し、かつ、該親水性化合物と反応しうる官能基を少なくとも1つ以上有する化合物が好ましく用いられる。硫黄化合物は、一般式(X)n−R−(Y)mで表される化合物であって、式中、Xは金属と反応性を有する硫黄原子を含有する官能基であり、Yは親水性化合物と反応性を有する官能基である。nおよびmはそれぞれ1〜10までの整数であり、Rは有機残基である。Xとしては、チオール基、スルフィド基、ポリスルフィド基、スルホキシド基、チオケトン基、チオアルデヒド基、チオアセタール基、チオカルボキシル基、チオリン酸基、チオ炭酸基、チイラン基およびチオラン基などの群から選ばれる硫黄含有官能基を少なくとも1つ以上含むものである。また、Yとしては、チオール基、水酸基、アミノ基、イソシアネート基、アルコキシシラン基、シラノール基、カルボキシル基、アクリル基、エポキシ基、酸無水物基などの群から選ばれる官能基を少なくとも1つ以上含むものであるが、X、Yともにこれらに限定されるものではなく、本発明における金属と硫黄化合物間の化学的な結合の形成、硫黄化合物と親水性化合物間の化学的な結合の形成が達成できる官能基を有する化合物であれば用いることができる。
【0018】
具体的な化合物としては、まず、各種トリアジンチオール誘導体、各種ピリミジンチオール誘導体が挙げられる。例えば、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール・モノナトリウム塩、2,4−ジメルカプト1,3−ピリミジン基含有誘導体、などが挙げられる。これらの化合物は「チオール型」でも「チオン型」であっても良い。チオール基を有する化合物は保存安定性に問題があるが、これらの化合物は「チオール型」と「チオン型」の互変異性体があるため保存安定性に優れる。他に、テトラメルカプトビフェニル、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネートなどの4個のチオールを有する化合物やシステイン、チオグリセロール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、などのチオール基およびそれ以外の他の官能基を有する化合物、さらに、4−アミノフエニルジスルフィド、α−リポ酸、シスチン、などのジスルフィド基およびそれ以外の他の官能基を有する化合物などが挙げられる。
【0019】
また、ステンレス鋼、ニッケル/チタン合金などの金属の表面を硫黄含有化合物で処理する前に、塩酸、硫酸、リン酸、有機酸などの還元性の酸で処理することによって本発明の効果をさらに向上させることができる。特に、塩酸、硫酸、リン酸などの酸が好ましく用いられる。還元性の酸で金属表面を処理することにより、潤滑耐久性がさらに向上するが、その理由として、金属表面の酸化物が除去されることによって、金属と硫黄含有化合物との反応性が向上したのではないかと考えられる。
【0020】
また、本発明で用いられる親水性化合物は分子内に該硫黄含有化合物と反応しうる官能基を少なくとも1つ以上有することを特徴とする。該硫黄含有化合物に反応しうる親水性高分子としては酸無水物基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基などの官能基を有する化合物が採用しうる。
なお、硫黄化合物を金属表面に反応することで金属表面に導入された官能基をさらに他の化合物を反応させることで異なる種類の官能基に変換した後、親水性化合物を反応させても良い。
【0021】
本発明における親水性化合物としては、各種無水マレイン酸共重合体、特に、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体あるいはその変性物、ヒアルロン酸、および水酸基、カルボキシル基、グリシジル基などの官能基を有するアクリル系モノマーを共重合した各種アクリル系ポリマー、ポリエチレングリコールおよびその誘導体、などが好適に使用されうるが、なんらこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明において最も好ましい親水性化合物としては、前記の方法で金属表面に導入された官能基と化学的に結合しうる官能基を分子内に有し、さらに、架橋剤を添加することで、水性化合物の官能基と反応して架橋構造を生成することができる各種無水マレイン酸共重合体、特に、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体あるいはその変性物が挙げられる。特に、これらの酸無水物環を有する親水性高分子については該硫黄化合物を介して金属表面に対して化学的に固定化するとともに、架橋剤を用いて適量の架橋を導入することが可能なことから、非常に優れた潤滑耐久性を有する各種医療用具の製造が可能となる。また、人体に対する安全性も十分に確認されていることから、特に好ましく用いられる。
【0023】
また、本発明の架橋剤としては、ジオール、ポリオール、ポリエチレングリコール、ジチオール、チオグリセロール、アミノアルコール、ジアミン、ポリアミン、など酸無水物環と反応性を有し、2つ以上の官能基を有する化合物が好ましく用いられる。
親水性化合物に対する架橋剤の配合割合は重量比で、親水性化合物100部に対して架橋剤0.03〜3.0部の範囲である。特に好ましい範囲は0.05〜1部である。この範囲を外れると、潤滑性および潤滑耐久性が劣る。
これらの親水性化合物と架橋剤を上記の配合組成で混合した溶液を作成し、この溶液に浸漬する方法、溶液を塗布する方法、溶液を噴霧する方法など、従来から一般に採用されている方法を用いることができる。
【0024】
上記のコーティング溶液に用いられる溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、あるいはそれらの混合溶剤、など汎用的な有機溶剤が使用しうる。これらの溶剤に0.5〜10重量%、好ましくは1〜8重量%の濃度に溶解してコーティング溶液を調製する。
上記のコーティング溶液に浸漬した後、乾燥し、引き続き、60〜130℃の温度で10〜300分の加熱処理を行う。この処理によって、親水性化合物に架橋構造が導入され、潤滑耐久性が顕著に向上する。
【0025】
さらに、アルカリ溶液に浸漬し、親水性化合物のカルボキシル基をアルカリ塩にすることで、潤滑性、および潤滑耐久性の優れた医療用具の製造が可能となる。このアルカリ処理に用いられるアルカリとしては、上記カルボキシル基をアルカリ塩へ変換する目的を達成できるアルカリであれば使用可能であるが、潤滑耐久性の点から、特に、アルカリ金属アルコキサイドのアルコール溶液で処理するのが最も良い結果を与える。
アルカリ処理後、エタノール、水などで十分洗浄を行い、アルカリを完全に除去することが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に本発明に係る具体的な実施例および比較例について、より詳しく説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
(親水性化合物の合成)
メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体<IPS社製GANTREZ−AN169>10 gを500 mlのメチルエチルケトン(MEK)に溶解し,コーティング溶液<1>とした。
(コーティング溶液の調整)
コーティング溶液<1>に架橋剤としてPEG200をGANTR-AN-169に対して0.075重量%となるように添加し,コーティング溶液<2>とした。
【0027】
<実施例1>
図1に示す直径0.4 mmのカテーテル用ガイドワイヤ用の金属芯2(中心線材がNI-Ti系合金、被覆剤がステンレス)をアセトン中において超音波洗浄し、乾燥した。さらに、70℃の10%塩酸水溶液に5分間浸漬した後、水で十分に洗浄した。引き続き、窒素気流下、トリアジンチオールモノナトリウム塩の0.2%水溶液で10分間処理した後、アセトンで十分に洗浄を行い、室温で数時間放置して乾燥した。このようにして得られた金属芯2の表面をXPSで分析した結果、硫黄、窒素の存在が認められ、トリアジンチオールが金属芯の表面に反応固定されていることを確認した。
【0028】
この金属芯2を上記に調製したコーティング溶液<2>に浸漬することによって金属芯2の表面にコーティング溶液<2>を塗布し,風乾後,80℃で2時間乾燥を行なった。さらに,125℃2時間の熱処理によって,AN-169E分子中の酸無水物基と金属基材表面に導入されたチオール基および架橋剤との反応を行ない,潤滑剤を金属芯の表面に化学的に固定化して被覆層4を形成した。その後,1/1 N NaOH水溶液中に浸漬し,室温で60分間処理した。さらに,水洗を十分に行い,70℃30分乾燥した。上記方法にて得られたガイドワイヤ用の金属芯2は水の中において優れた潤滑性を示した。また,この金属芯2からなるガイドワイヤを水の中において手で扱くことにより,潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが350回まで潤滑性を維持し,被覆層4が潤滑耐久性に優れることが確認された。
【0029】
<比較例1>
実施例で使用したカテーテル用ガイドワイヤ用の金属芯2と同じ金属芯を使用した。金属芯2をアセトン中において超音波洗浄後、この金属芯をそのまま上記に調製したコーティング溶液<1>に浸漬することによって金属芯表面にコーティング溶液<1>を塗布し,風乾後,80℃で2時間間乾燥を行なった。さらに,125℃2時間の熱処理を行い,その後,1/10 N NaOH水溶液中に浸漬し,室温で60分間処理した。さらに,水洗を十分に行い,70℃30分乾燥した。この金属芯2を水の中において手で扱くことにより,潤滑性が消失するまでの手扱きの回数を測定したが30回で潤滑性を消失し,被覆層4の潤滑耐久性が著しく劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のカテーテル用ガイドワイヤは、先端部が柔軟でガイドワイヤを体腔内の所定部位に確実に到達させることができる。また金属芯及びコイルスプリング体の表面に、湿潤時に湿潤性を有する架橋構造の親水性高分子が化学的に結合された被覆層が設けられているためガイドワイヤの体腔内での摺動がスムースとなりへの挿入が容易である
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のカテーテル用ガイドワイヤの長手方向の断面図である。
【図2】図1に示すガイドワイヤの先端断面図である。
【図3】図1に示すガイドワイヤの製造方法を示す先端断面図である。
【図4】コイルスプリング体を有する本発明のガイドワイヤの先端断面図である。
【図5】コイルスプリング体の他の例を示すガイドワイヤの先端断面図である。
【符号の説明】
【0032】
2:金属芯
4:被覆層
6:中心線材
8:被覆材
10:基端部
12:先端部
14:中間部
15:コイルスプリング体
16:第一のコイル
17:第二のコイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性率が小さい金属から形成された中心線材と、該中心線材を被覆する、弾性率が大きい金属から形成された被覆材とからなる金属芯を具備する、先端部が先細状に形成された金属芯の表面に、湿潤時に湿潤性を有する架橋構造の親水性高分子が化学的に結合された被覆層が設けられてなることを特徴とするカテーテル用ガイドワイヤ。
【請求項2】
該先細状の金属芯の先端部に金属製のコイルスプリング体が挿通されて、その後端が先端部の被覆材に固着され、その先端が先細状に形成された金属芯の先端部に固着されたことを特徴とする請求項1記載のカテーテル用ガイドワイヤ。
【請求項3】
該コイルスプリング体が、第一コイルと、該第一コイルに接合され、かつ該第一コイルより弾性率の大きい材料で構成された第二コイルからなり、該第一コイルが金属芯の先端部側に設けられたことを特徴とする請求項1ないし2記載のカテーテル用ガイドワイヤ。
【請求項4】
該中心線材が超弾性を有する合金から形成され、該被覆材がステンレス鋼又は銅系合金から形成されてなる請求項1ないし3記載のカテーテル用ガイドワイヤ。
【請求項5】
該親水性高分子が、分子内に硫黄化合物と反応し得る官能基を有することを特徴とする請求項1ないし4記載のカテーテル用ガイドワイヤ。
【請求項6】
該親水性高分子が架橋構造を有する無水マレイン酸共重合体、あるいはその変性物であることを特徴とする請求項1ないし5記載のカテーテル用ガイドワイヤ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−46179(P2010−46179A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211404(P2008−211404)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(502162859)株式会社 ティーアールエス (7)
【出願人】(307028884)有限会社SEAM化学研究所 (4)
【出願人】(504184721)株式会社日本ステントテクノロジー (28)
【Fターム(参考)】