説明

カテーテル

【課題】
本発明は、放射線透視下において視認性が高く、しかもシャフトに強固に取り付けられたマーカを有するカテーテルを提供することを目的とする。
【解決手段】
バルーンカテーテル10は、インナーシャフト50の外周に取り付けられた放射線不透過性の筒状のマーカ本体部72、及びマーカ本体部72の内周面に形成され、バルーンカテーテル10のインナーシャフト50の樹脂内に埋没した突起部73を備えるマーカ70を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線不透過性のマーカを有するカテーテル及びカテーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管、消化管、尿管等の管状器官や体内組織に挿入して治療や検査を行うために各種のカテーテルが用いられている。このようなカテーテルには放射線透視下において、カテーテルの先端位置等を医師等の手技者が確認するために放射線不透過性の金属等を用いたマーカが取り付けられている。
マーカを取り付ける方法としては、カテーテルのシャフトを構成する樹脂内にマーカを埋没させて固着する方法や(例えば、下記特許文献1参照)、カテーテルのシャフトにマーカを挿通させた後、マーカをスエージング(swaging)(かしめとも呼ばれる)することによってシャフトの外周面に固定する方法等がある(例えば、下記特許文献2、3参照)。
【0003】
上記したマーカをスエージングすることによってカテーテルのシャフトに取り付ける方法は、上記特許文献3に示されるように、バルーンカテーテルにしばしば適用される。即ち、バルーンカテーテルのバルーン内を貫通するインナーシャフトの外周面にマーカを取り付ける場合に用いられる。この場合、マーカをインナーシャフト上に位置決めした後に、マーカをスエージングすることで容易にマーカをインナーシャフトの外周面に固定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−520266号公報
【特許文献2】特開2004−298361号公報
【特許文献3】米国特許第6,520,934号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、マーカをスエージングする方法は、上述したように、容易にマーカを取り付けられるため有用であるが、以下のような問題がある。即ち、スエージングによる圧縮成形時にマーカの外径が十分に縮小されない場合には、インナーシャフトの外径との間に段差が生じる。この段差は、バルーンをインナーシャフトの外周に折り畳んだ場合に、バルーンの外径を不必要に大きくする原因となる。
【0006】
このような問題を防止するために、マーカがスエージング時に圧縮成形され易い様に、上記特許文献3に示されるように、マーカにスリットを設けることが行われる。しかし、このような場合には、スリットの部分に放射性不透過部材が欠損することになるため、放射線透視下におけるマーカの視認性が劣化するという問題がある。
【0007】
更に、スエージングは、マーカを外側から圧縮し、カテーテルのシャフトの外周面に押し付けて固定するものであるため、マーカの内側表面とシャフトの外側表面とが十分に接触し、摩擦係合するようにマーカが圧縮成形されない場合には、マーカの位置ずれが生じやすいという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、放射線透視下において視認性が高く、しかも位置ずれを起こすことが無いようにシャフトに強固に取り付けられたマーカを有するカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明では、上記の課題は以下の手段により解決がなされる。
【0010】
<1>樹脂からなる管状のシャフトと、前記シャフトの外周に取り付けられた放射線不透過性の筒状のマーカ本体部、及び前記マーカ本体部の内周面に形成され、前記シャフトの前記樹脂内に埋没した突起部からなるマーカとを備えることを特徴とするカテーテル。
【0011】
<2>前記マーカの前記突起部は、前記マーカ本体部の長手方向に直線状に形成されていることを特徴とする態様1に記載のカテーテル。
【0012】
<3>前記マーカの前記突起部は、前記マーカ本体部の長手方向に螺旋状に形成されていることを特徴とする態様1に記載のカテーテル。
【0013】
<4>前記マーカ本体部には、少なくとも1つのスリットが形成されていることを特徴とする態様1から3の何れか1態様に記載のカテーテル。
【0014】
<5>前記シャフトは先端部にバルーンを有し、前記マーカは前記バルーン内に位置することを特徴とする態様1から4の何れか1態様に記載のカテーテル。
【0015】
<6>放射線不透過性の筒状のマーカ本体部と、前記マーカ本体部の長手方向に延びるように前記マーカ本体部の外周面に形成された溝部とを有するマーカを、樹脂からなる管状のシャフトの外周に位置決めする工程と、前記シャフト上の前記マーカ本体部を圧縮し、前記溝部の底部を前記マーカ本体部の内側に突出させ、前記シャフトの前記樹脂内に埋没する突起部を形成する工程とを備えることを特徴とするカテーテルの製造方法。
【0016】
<7>前記マーカの前記溝部は、前記マーカ本体部の前記外周面において、前記マーカ本体部の長手方向に直線状に形成されることにより、前記突起部は、前記マーカ本体部の前記内周面において、前記マーカ本体部の長手方向に直線状に形成されることを特徴とする態様6に記載のカテーテルの製造方法。
【0017】
<8>前記マーカの前記溝部は、前記マーカ本体部の前記外周面において、前記マーカ本体部の長手方向に螺旋状に形成されることにより、前記突起部は、前記マーカ本体部の前記内周面において、前記マーカ本体部の長手方向に螺旋状に形成されることを特徴とする態様6に記載のカテーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
<1>本発明のカテーテルは、マーカ本体部の内周面に形成され、シャフトの樹脂内に埋没した突起部を有する。このため、シャフト内部に突起部が楔のように入り込んだ状態でマーカがシャフトに固定されるため、固定された後にマーカが位置ずれを起こすことが可及的に防止できる。
また、突起部の分だけマーカの肉厚が内側方向に増加するため、突起部が形成された部分の放射線透視下での視認性が向上する。従って、マーカ全体としての視認性も向上する。
【0019】
<2>本発明の態様2では、マーカの突起部は、マーカ本体部の長手方向に直線状に延びる形状であるため、マーカ本体部の外周面に直線状の溝部を形成してスエージング等の圧縮加工等を施すことによって、容易に形成することが可能である。
【0020】
<3>本発明の態様3では、マーカの突起部がマーカ本体部の長手方向に螺旋状に形成されている。このため、シャフトの外周面の全周囲に亘って、突起部が楔のように入り込んだ状態でマーカが固定されるため、マーカがシャフトに対して位置ずれを起こすことが一層防止できる。
また、マーカ本体部の全周方向に突起部が形成されることにより、肉厚が厚い部分が全周方向に存在するため、放射線透視下での視認性が一層向上する。
【0021】
<4>本発明の態様4では、マーカ本体部に少なくとも1つのスリットが形成されている。このためマーカが柔軟な構造となり、屈曲した血管等にカテーテルが通過する際に、カテーテルのシャフトが柔軟に屈曲し、カテーテルの操作性が向上する。
【0022】
<5>本発明の態様5では、バルーン内に位置するマーカは、突起部の分だけマーカの肉厚が内側方向に増加するため、突起部が形成された部分の放射線透視下での視認性が向上する。
また、マーカを樹脂等で被覆する等の余分な作業を行わなくとも、突起部により強固にマーカをシャフトに固定できるため、マーカの表面とシャフトの表面との間に段差が生じることが可及的に防止できる。このため、シャフトに固定された際のマーカの外径を小さくすることができるため、バルーンをシャフトの周囲に折り畳んだ際のバルーンの外径が小さくなる。従って、カテーテルの体内への挿入や、カテーテルを体内で進行させることが容易となる。
【0023】
<6>本発明の態様6のカテーテルの製造方法では、マーカを圧縮してマーカの外径が縮小する際に、肉厚が薄くなっている溝部に沿って外径が縮小されることになる。このため、圧縮加工後のマーカの外径を容易に調整することができる。
このように溝部に沿って適切に外径が縮小できるため、シャフトに固定された際のマーカの外径を小さくすることができる。従って、マーカの表面とシャフトの表面との間に段差が生じることが防止されるため、カテーテルが屈曲する血管等の内部を進行する際にも、マーカが血管壁等に引っ掛かる等の不具合が防止できる。
【0024】
また、溝部はマーカ本体部が圧縮加工された際に、マーカ本体部の内側に突起部を形成するため、突起部の部分ではマーカの肉厚が増加する。よって、突起部が形成された部分の放射線透視下での視認性が向上することにより、マーカ全体としての視認性も向上する。
更に、圧縮加工後のマーカは、シャフトの樹脂内に突起部が楔のように入り込んだ状態で固定されるため、固定された後にマーカが位置ずれを起こすことが可及的に防止できる。
【0025】
<7>本発明の態様7では、マーカ本体部の外周面の溝部が長手方向に直線状であるため、容易に溝部を形成することができる。このため、容易に突起部を形成することができる。
また、溝部がマーカ本体部の長手方向に直線状であるため、マーカ本体部が圧縮加工された際に、溝部の底部を構成する薄肉部が内側に突出し易い方向に力が作用するため、確実に突起部を形成することができる。
【0026】
<8>本発明の態様8では、マーカ本体部の外周面の溝部が螺旋状であるため、マーカ本体部の外周面の内周面に螺旋状の突起部を形成することができる。このため、シャフトの外周面の全周囲に亘って、突起部が楔のように入り込んだ状態でマーカが固定されるため、マーカがシャフトに対して位置ずれを起こすことが一層防止できる。
また、マーカ本体部の全周方向に突起部が形成されることにより、肉厚が厚い部分が全周方向に存在するため、放射線透視下での視認性が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本実施の形態のバルーンカテーテルの全体図である。
【図2】図2は、本実施の形態のバルーンカテーテルの先端部分の拡大図である。
【図3】図3は、本実施の形態のマーカをスエージングする前の状態を示した図である。
【図4】図4は、本実施の形態のマーカをスエージングした後の状態を示した図である。
【図5】図5は、本実施の形態のマーカの一部を拡大した図である。
【図6】図6は、第2の実施の形態のマーカをスエージングする前の状態を示した図である。
【図7】図7は、第2の実施の形態のマーカをスエージングした後の状態を示した図である。
【図8】図8は、第3の実施の形態のマーカをスエージングする前の状態を示した図である。
【図9】図9は、第3の実施の形態のマーカをスエージングした後の状態を示した図である。
【図10】図10は、第4の実施の形態のマーカをスエージングする前の状態を示した図である。
【図11】図11は、第4の実施の形態のマーカをスエージングした後の状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態のバルーンカテーテルを図1〜図5を参照しつつ説明する。
図1及び図2において、図示左側が体内に挿入される先端側(遠位側)、右側が医師等の手技者によって操作される後端側(手元側、基端側)である。
バルーンカテーテル10は、例えば、心臓の血管の閉塞部や狭窄部等の治療に用いられるものであり、全長が約1500mm程度のものである。
バルーンカテーテル10は、主にバルーン20、マーカ70、アウターシャフト30、インナーシャフト50、コネクタ60からなる。
【0029】
アウターシャフト30は、先端側アウターシャフト31と、後端側アウターシャフト40からなる。
【0030】
先端側アウターシャフト31は、樹脂製のチューブからなる可撓性の円筒状の部材である。本実施の形態の場合、先端側アウターシャフト31の外径は、約0.84mmであり、内径は、約0.78mmである。
先端側アウターシャフト31を構成する樹脂には、例えば、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエステルエラストマー等が用いられる。
先端側アウターシャフト31の内周面と、先端側アウターシャフト31の内部に挿通されたインナーシャフト50の外周面の間の間隙は、バルーン20を拡張するための造影剤や生理食塩水等の液体を流通させるための先端側拡張ルーメン36となっている。
【0031】
後端側アウターシャフト40は、図示しない後端側拡張ルーメンを内部に有する所謂ハイポチューブと呼ばれる金属製の管状部材である。後端側アウターシャフト40の先端部は、先端側アウターシャフト31の後端部に挿入されて固着されている。この構成により、後端側拡張ルーメンが先端側アウターシャフト31の先端側拡張ルーメン36と連通するようになっている。
【0032】
後端側アウターシャフト40の後端には、コネクタ60が取り付けられている。コネクタ60に取り付けられた図示しないインデフレータからバルーン20を拡張するための液体が供給されると、液体は、後端側拡張ルーメンと先端側拡張ルーメン36を通ってバルーン20を拡張するようになっている。
本実施の形態の場合、後端側アウターシャフト40の外径は約0.62mmであり、内径は約0.48mmである。
後端側アウターシャフト40の材料は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ステンレス鋼が用いられている。これ以外の材料として、Ni−Ti合金のような超弾性合金が用いられる。
【0033】
インナーシャフト50は、先端側アウターシャフト31内に同軸状に配置されている。インナーシャフト50は、先端側アウターシャフト31と同様の樹脂で形成された円筒状の部材であり、内部にガイドワイヤを挿通させるためのガイドワイヤルーメン51を有している。
本実施の形態の場合、インナーシャフト50の外径は、約0.53mmであり、内径は、約0.40mmである。
インナーシャフト50の後端は、先端側アウターシャフト31の側面に接続されることによって、後端側ガイドワイヤポート54を形成している。
【0034】
インナーシャフト50の先端は、先端側アウターシャフト31の先端から延出した延出部52を有し、この延出部52は先端にチップ59を有している。
チップ59は、先端に向かって外径が漸進的に減少するテーパ状の外形を有する部材であり、柔軟な樹脂で形成されている。チップ59は、ガイドワイヤルーメン51の先端部分を構成する筒状の部材であり、先端に先端側ガイドワイヤポート53を有する。
【0035】
バルーン20は、樹脂製の部材であり、軸線方向中央にバルーン20が拡張するための拡張部21と、先端側に先端取付部22、後端側に後端取付部23を有している。
先端取付部22は、インナーシャフト50の延出部52の先端部分に固着されている。本実施の形態の場合、先端取付部22は、チップ59の外周面に固着されている。
後端取付部23は、先端側アウターシャフト31の先端の外周面に固着されている。
【0036】
インナーシャフト50の延出部52におけるバルーン20の拡張部21の内部に位置する部分には、所定距離離間した一対の放射線不透過性のマーカ70a、70bが取り付けられている。
マーカ70a、70bは、基本的に同じ構成であるため、以下は、マーカ70として一方のみについて説明する。
【0037】
図3及び図4は、本実施の形態のマーカ70がインナーシャフト50の延出部52の所定の部位に位置決めされた状態を示したものである。図3は、マーカ70に圧縮加工としてのスエージング(かしめとも呼ばれる)を施す前の状態を示している。図4は、マーカ70にスエージングを施してインナーシャフト50の外周に固着した状態を示している。
図3及び図4の(A)は、インナーシャフト50上に配置されたマーカ70のインナーシャフト50の軸線方向に直交する方向の断面図である。また、図3及び図4の(B)は、インナーシャフト50上に配置されたマーカ70を側方から見た場合の一部断面図である。
尚、図3及び図4における後述する溝部71等の各構成は、理解を容易にするためにやや誇張して図示されている。
【0038】
マーカ70は、放射線不透過性の金属からなる円筒状の部材である。放射線不透過性の金属の一例としては、白金、金、タングステン、これらの合金、白金とイリジウムの合金等が用いられる。
マーカ70の寸法は特に限定されるものでは無いが、本実施の形態の場合、マーカ70の外径は、約0.61mm、内径は、約0.54mm、軸方向の長さは、約1.0mmである。
【0039】
スエージングによって、インナーシャフト50に固定される前のマーカ70は、円筒状の部材であるマーカ本体部72と、このマーカ本体部72上に形成された溝部71とからなる。図3(A)、(B)に示すように、溝部71は、マーカ本体部72の外周面における円周方向に90°毎に計4つ形成されている。各溝部71は、マーカ本体部72の軸線方向に直線状に延びている。溝部71の数と幅は、後述する突起部73の数と高さを決定することになる。
溝部71は図5(a)に拡大して示すように、断面が円弧状の凹部である。尚、この凹部の断面形状は、V字状等の他の形状でも良い。
【0040】
溝部71はマーカ本体部72の外周面から内周面にまで達しておらず、溝部71の底部に薄肉部71aを残している(図5(a)参照)。マーカ本体部72の肉厚をT1とし、溝部71の深さをdとした場合、この薄肉部71aの肉厚T2(=T1−d)は、マーカ本体部72の肉厚T1の50%以下とすることが好ましい。薄肉部71aの肉厚T2が厚過ぎると後述するスエージング等による圧縮加工時に突起部73の形成が困難となるためである。
【0041】
また、溝部71の幅W0は、マーカ70がスエージングされて溝部71が図5(b)に示すように閉じた状態となった際のマーカ70の外周の長さが、インナーシャフト50の外周の長さと略一致するように設定されている。
即ち、図3(A)に示すマーカ本体部72の外周において、4つの溝部71の幅W0を除いた隣接する溝部71の間の距離L1、L2、L3、L4の合計は、インナーシャフト50の外周の全長と略一致するように設定されている。
【0042】
図4及び図5(b)に示すように、マーカ70がスエージングされてインナーシャフト50に固着される際には、マーカ本体部72は、肉厚が薄くなっている溝部71に沿って外径が縮小されることになる。即ち、溝部71の薄肉部71aは折り曲げられ、マーカ本体部72の内側に突出するようにマーカ本体部72は圧縮成形される。結果的に、溝部71は閉じ、幅W0は幅W1に減少する。幅W1が約0.0mmになるように溝部71は圧縮される。
尚、スエージングされる際には、インナーシャフト50のガイドワイヤルーメン51には、二点鎖線で示すように芯金80が挿入されている。
【0043】
この圧縮成形によりマーカ本体部72は、インナーシャフト50の樹脂内に押し込まれる。この結果、マーカ本体部72の外径は、インナーシャフト50の外径と略一致する。同時に、スエージングによって、折り曲げられた溝部71の薄肉部71aがインナーシャフト50の半径方向内側に突出し、突起部73を形成する。突起部73はマーカ70の半径方向に高さhを有する。従って、スエージング後のマーカ本体部72は、突起部73の位置では、高さhだけマーカ本体部72の他の部分より肉厚が厚いことになる。
尚、マーカ70が外側から圧縮されてインナーシャフト50の樹脂に押し込まれる際、ガイドワイヤルーメン51内の芯金80により、マーカ本体部72とインナーシャフト50は内側への移動が制限されるため、押しつぶされて肉厚が若干減少する。また、芯金80によってガイドワイヤルーメン51の内径は維持されるが、ガイドワイヤルーメン51と芯金80との間には間隙が存在するため、ガイドワイヤルーメン51の内径は若干減少する。
【0044】
スエージングを行う加工機は、例えば、ワークであるインナーシャフト50の周囲に配置された複数の金型を半径方向に移動させると共に回転させながら連続的にインナーシャフト50を圧縮する公知のものを用いることができる。また、スエージング以外の圧縮加工を用いることも可能である。
【0045】
以上のように、マーカ70は、スエージングによって圧縮成形される際に、肉厚が薄くなっている溝部71に沿って外径が縮小されることになる。このため、スエージング後のマーカ70の外径を容易に調整することが可能となる。特に、溝部71がマーカ本体部72の長手方向に直線状であるため、マーカ70がスエージングにより圧縮された際に、溝部71の薄肉部71aがマーカ本体部72の内側に向かって折れ曲がり易い方向に力が作用するため、確実に突起部73を形成することができる。
【0046】
このように溝部71に沿って適切に外径が縮小できるため、インナーシャフト50に固定された際のマーカ70の外径を小さく維持することができる。このため、バルーン20をインナーシャフト50の延出部52の周囲に折り畳んだ際のバルーン20の外径を小さくすることができる。
【0047】
また、突起部73を形成された部分では、突起部73の分だけマーカ70の肉厚が増加する。よって、突起部73が形成された部分の放射線透視下での視認性が向上するため、マーカ70全体としての視認性も向上する。
【0048】
更に、圧縮成形後のマーカ70は、インナーシャフト50の樹脂内に突起部73が楔のように入り込んだ状態で固定されるため、固定された後にマーカ70が位置ずれを起こすことが可及的に防止できる。
【0049】
以上の構成に基づいて、本実施の形態のバルーンカテーテル10を心臓の冠状動脈にある狭窄部を拡張する手技に用いる場合について説明する。
【0050】
治療の目的である狭窄部がある心臓の冠状動脈には、予め図示しないガイドワイヤが挿入されており、このガイドワイヤに沿ってバルーンカテーテル10が体内に挿入される。
【0051】
ガイドワイヤは、バルーンカテーテル10のチップ59の先端側ガイドワイヤポート53から挿入され、インナーシャフト50内のガイドワイヤルーメン51を通過して、後端側ガイドワイヤポート54から延出される。
【0052】
このように挿入される際のバルーンカテーテル10は、バルーン20がインナーシャフト50の延出部52の周囲に折り畳んだ状態とされている。この状態においてマーカ70(70a、70b)の外径は、インナーシャフト50の延出部52の外径と略一致するように、小さく圧縮成形されて固着されているため、インナーシャフト50の延出部52の周囲に折り畳まれたバルーン20は、外径を可及的小さくすることができる。
【0053】
バルーンカテーテル10をガイドワイヤに沿って体内に挿入し、進入させていく際、バルーン20は、上記したように外径が小さく折り畳まれているため、医師等の手技者は、比較的容易にバルーンカテーテル10を進入させることができる。
そして、手技者は、放射線透視下においてマーカ70を参照しながら、バルーンカテーテル10を狭窄部に接近させる。
この際、マーカ70は、突起部73が形成された部分において、突起部73の高さh分だけマーカ本体部72より肉厚が厚くなっているため、この部分の視認性が高い。このため、マーカ70全体の視認性も良好となる。
【0054】
手技者が屈曲する血管等にバルーンカテーテル10を進入させていく際には、マーカ70に対して負荷が作用するが、マーカ70は、内周面に形成された突起部73がインナーシャフト50に楔のように入り込んだ状態で固定されているため、手技中にマーカ70が位置ずれを起こすことが可及的に防止される。
【0055】
手技者がマーカ70を用いてバルーン20を目的部位である狭窄部に位置決めが完了すると、コネクタ60に接続された図示しないインデフレータからバルーン20に対して造影剤や生理食塩水等の拡張用の液体が供給される。
この時、拡張用の液体は、後端側アウターシャフト40の後端側拡張ルーメンから先端側アウターシャフト31の先端側拡張ルーメン36に流入する。そして、拡張用の液体は、先端側アウターシャフト31の先端からバルーン20へ流出し、バルーン20を拡張させる。
【0056】
バルーン20によって狭窄部を拡張する手技が終了すると、手技者は、インデフレータによって、拡張用の液体をバルーン20から排出する。即ち、拡張用の液体は、バルーン20内から先端側アウターシャフト31の先端側拡張ルーメン36と後端側アウターシャフト40の後端側拡張ルーメンを通して排出される。
この後、手技者はバルーンカテーテル10を体外に引き出し、1回の手技を完了する。
【0057】
以上述べた実施の形態では、突起部73を形成するための溝部71をマーカ本体部72の外周に均等間隔に4つ形成している。しかし、溝部71や突起部73の数は4つに限られるものでは無く、1つ以上あれば良い。
但し、マーカ70の径方向に対称に複数個の溝部が形成されている方が、スエージングによってマーカを圧縮し、突起部を形成する上では都合が良い。
また、以上述べた実施の形態では、溝部71の幅W0が、閉じて略無くなるまで圧縮しているが、場合によっては圧縮後の幅W1に溝部が残るように幅W0をやや大きく設定しても良い。
【0058】
以上述べた実施の形態において、マーカ70の溝部71及び突起部73は、マーカ本体部72の外周面に軸線方向に直線状に延びているが、溝部71及び突起部73の形状はこのような直線状に限られるものでは無い。即ち、突起部がマーカの内部に突出する各種の形状を取り得る。
例えば、図6及び図7に示される第2の実施の形態のように螺旋状の溝部171を設け、これによって螺旋状の突起部173を形成する構成としても良い。
即ち、図6に示すマーカ170は、溝部171がマーカ本体部172の外周面に螺旋状に形成されている。この場合、図7に示すようにスエージング後に形成される突起部173も螺旋状となる。このため、インナーシャフト50の全周囲に亘って、突起部173が楔のようにインナーシャフト50の内部に入り込んだ状態で固定されるため、マーカ170が位置ずれを起こすことが一層防止される。
また、マーカ本体部172の内周面の全周方向に突起部173が形成されるため、放射線透視下での視認性が一層向上する。
【0059】
また、図8から図11に示される、第3の実施の形態及び第4の実施の形態のように、マーカにスリットを追加した構成としても良い。
即ち、図8に示される第3の実施の形態のマーカ270は、上述した第1の実施例のマーカ70の溝部71と同様の軸方向の直線状の溝部271をマーカ本体部272の外周に有すると共に、マーカ本体部272の周方向に複数のスリット275が形成されている。スリット275は、マーカ本体部272の外表面から内表面まで貫通しており、スリット275の幅も溝部271の幅より広くなっている。
このマーカ270がスエージングされた際には、溝部271の薄肉部は第1の実施の形態の様に、内側へ折れ曲がり、突起部を形成する。一方、スリット275は、スエージングにより幅は若干減少するものの、閉じることは無い。このため、マーカ270が柔軟な構造となり、屈曲した血管等を通過することが容易となる。
【0060】
図10に示される第4の実施の形態のマーカ370は、上述した第2の実施例のマーカ170の溝部171と同様の螺旋状の溝部371をマーカ本体部372の外周に有すると共に、螺旋状の溝部371の間に複数のスリット375を形成したものである。スリット375も、マーカ本体部372の外表面から内表面まで貫通しており、スリット375の幅も溝部371の幅より広くなっている。
このマーカ370がスエージングされた場合には、上記した第2の実施の形態のマーカ270と同様に、螺旋状の突起部が形成される。また、スリット375は、閉じることは無く、マーカ370が柔軟な構造となることに寄与する。
【0061】
以上述べた実施の形態は、スエージング等の圧縮成形を容易とすると共に、突起部の形成を容易とするためにマーカの外周に溝部を設けた構成とした。しかし、マーカの位置ずれを防止する効果のみを求めるならば、マーカの外周に溝部を設けず、マーカの内周に直接突起部を設けても良い。
【0062】
以上述べた実施の形態は、マーカをバルーンカテーテル10に適用したものであるが、本実施の形態のマーカは、バルーンカテーテルだけでなく、マイクロカテーテル等の他のカテーテルにも適用できる。
また、カテーテルが適用される器官も、本実施の形態のバルーンカテーテル10が使用される心臓の血管に限られず、下肢の血管や肝臓等、各種の手技に用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
10 バルーンカテーテル
20 バルーン
30 アウターシャフト
31 先端側アウターシャフト
40 後端側アウターシャフト
50 インナーシャフト
52 延出部
70 マーカ
71 溝部
72 マーカ本体部
73 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる管状のシャフトと、
前記シャフトの外周に取り付けられた放射線不透過性の筒状のマーカ本体部、及び前記マーカ本体部の内周面に形成され、前記シャフトの前記樹脂内に埋没した突起部からなるマーカと
を備えることを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記マーカの前記突起部は、前記マーカ本体部の長手方向に直線状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記マーカの前記突起部は、前記マーカ本体部の長手方向に螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記マーカ本体部には、少なくとも1つのスリットが形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記シャフトは先端部にバルーンを有し、前記マーカは前記バルーン内に位置することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のカテーテル。
【請求項6】
放射線不透過性の筒状のマーカ本体部と、前記マーカ本体部の長手方向に延びるように前記マーカ本体部の外周面に形成された溝部とを有するマーカを、樹脂からなる管状のシャフトの外周に位置決めする工程と、
前記シャフト上の前記マーカ本体部を圧縮し、前記溝部の底部を前記マーカ本体部の内側に突出させ、前記シャフトの前記樹脂内に埋没する突起部を形成する工程と
を備えることを特徴とするカテーテルの製造方法。
【請求項7】
前記マーカの前記溝部は、前記マーカ本体部の前記外周面において、前記マーカ本体部の長手方向に直線状に形成されることにより、前記突起部は、前記マーカ本体部の前記内周面において、前記マーカ本体部の長手方向に直線状に形成されることを特徴とする請求項6に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項8】
前記マーカの前記溝部は、前記マーカ本体部の前記外周面において、前記マーカ本体部の長手方向に螺旋状に形成されることにより、前記突起部は、前記マーカ本体部の前記内周面において、前記マーカ本体部の長手方向に螺旋状に形成されることを特徴とする請求項6に記載のカテーテルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−61143(P2012−61143A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207956(P2010−207956)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】