説明

カバー付き運動案内装置

【課題】移動体本体とカバーとの間に生ずるすきまを無くすことができ、液体が移動体本体の端面と蓋部材との接合面に僅かに生ずるすきまを伝わって内部に浸入するのを防止できるカバー付き運動案内装置を提供する。
【解決手段】カバー付き運動案内装置の移動体本体2の相対移動方向の端面2gから相対移動方向に張り出すように移動体本体2と一体にカバー8a,8bを成形する。カバー8a,8bは、蓋部材3の上面に対向する天井部8−1及び蓋部材3の一対の側面に対向する一対の側壁部8−2,8−3を有して、蓋部材3の上面の全体及び左右一対の側面の全体を覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道部材と移動体との間に転がり運動可能に複数の転動体を介在させた運動案内装置に関し、特にクーラント等の液体や微細な粉塵が飛散する環境下で使用するのに好適なカバー付き運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運動案内装置は、テーブル等の案内対象の直線運動又は曲線運動を案内する機械要素である。この種の運動案内装置として、軌道レールと、軌道レールに沿って移動可能に組み付けられる移動ブロックと、を備えるリニアガイドが知られている。軌道レールに対する移動ブロックの相対的な移動を円滑にするために、軌道レールと移動ブロックとの間には転がり運動可能に多数の転動体(ボールやローラ)が介在される。移動ブロックは、移動ブロック本体と、移動ブロック本体の移動方向の両端部に設けられる一対のエンドプレートと、を有する。軌道レールには、長手方向に伸びる転動体転走溝が形成される。移動ブロック本体には、軌道レールの転動体転走溝に対向する負荷転動体転走溝、及び負荷転動体転走溝と平行な転動体戻し路が形成される。エンドプレートには、負荷転動体転走溝の一端と転動体戻し路の一端とを接続する円弧状の方向転換路が形成される。軌道レールの転動体転走溝と移動ブロック本体の負荷転動体転走溝との間の負荷転動体転走路、転動体戻し路、及び一対の方向転換路によってサーキット状の転動体循環路が構成される。この転動体循環路に多数の転動体が配列・収容される。
【0003】
リニアガイドは、さまざまな産業機械や工作機械で用いられ、その使用環境もさまざまである。たとえば、切粉や塵埃等の多い環境下で使用されることもあるし、塵埃や切粉のみならず、クーラント等の液体にさらされることもある。クーラント等の液体は、リニアガイドの僅かなすきまにも入りやすい。そのクーラントに塵埃や切粉が混ざると、塵埃や切粉がクーラントとともにリニアガイド内に浸入し、リニアガイドの故障を招くことになる。したがって、リニアガイドをクーラント等の液体から保護する必要がある。
【0004】
しかし、移動ブロック本体の端面やこれに接触するエンドプレート、あるいはエンドプレートに接触する他の部品を完全な平面に形成することは不可能であり、これらの間には液体が浸入可能な僅かなすきまが空く。クーラント等の液体が移動ブロックの内部に浸入すると、クーラント等の液体によって移動ブロックの内部の潤滑剤の物性が変化し、潤滑剤が流し出されることがあり、こうなると良好な潤滑状態が得られなくなるおそれがある。移動ブロックへの液体の浸入は、移動ブロックに液体が直接かかることに起因したり、可搬物を伝わって移動ブロックに液体が伝わってくることに起因したりする。
【0005】
移動ブロックの内部にクーラント等の液体が浸入するのを防止するために、出願人は、エンドプレートを金属製のカバーで覆ったカバー付き運動案内装置を提案した(特許文献1参照)。エンドプレートと移動ブロック本体の接合面に液体が浸入するのを防止するために、カバーに移動ブロック本体の移動方向の端面に密着するゴム製のシール部を取り付けた。このカバー付き運動案内装置によれば、カバーがその内部にクーラント等の液体が浸入するのを防止するので、エンドプレートと移動ブロックとの接合面に生ずるすきまを伝わって液体が移動ブロックの内部に浸入するのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−7324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記カバー付き運動案内装置にあっては、カバーのシール部と移動ブロック本体の端面との間のすきまを完全になくすために、シール部の形状を工夫する必要があるという課題がある。また、密着性を高めるために、シール部を変形させつつカバーを移動ブロック本体に取り付けるので、組み立て工数が増えるという課題もある。
【0008】
そこで本発明は、カバーにシール部を設けなくてもカバーと移動ブロック本体の移動方向の端面との間に生ずるすきまを無くすことができ、液体が移動ブロック本体の端面と蓋部材との接合面に僅かに生ずるすきまを伝わって内部に浸入するのを防止できるカバー付き運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様は、長手方向に伸びる転動体転走部を有する軌道部材と、前記軌道部材を水平面内に配置した状態において、前記軌道部材の上面に対向する中央部、及び前記軌道部材の左右一対の側面に対向する左右一対の袖部を有すると共に、前記軌道部材の前記転動体転走部に対向する負荷転動体転走部、及び前記負荷転動体転走部に略平行な転動体戻し路を有する移動体本体と、前記移動体本体の相対移動方向の端面に取り付けられ、前記軌道部材の上面に対向する中央部、及び前記軌道部材の左右一対の側面に対向する左右一対の袖部を有すると共に、前記移動体本体の前記負荷転動体転走部と前記転動体戻し路を接続する方向転換路の外周案内部を有する蓋部材と、前記軌道部材の前記転動体転走部と前記移動体本体の負荷転動体転走部との間の負荷転動体転走路、前記転動体戻し路及び前記方向転換路を含む転動体循環路に配列される複数の転動体と、前記移動体本体の前記端面から前記相対移動方向に張り出すように前記移動体本体と一体に成形され、前記蓋部材の上面に対向する天井部及び前記蓋部材の左右一対の側面に対向する左右一対の側壁部を有して、前記蓋部材の前記上面の全体及び前記蓋部材の前記左右一対の側面の全体を覆うカバーと、を備えるカバー付き運動案内装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移動体本体の端面から相対移動方向に庇のように張り出すカバーによって蓋部材の上面の全体及び一対の側面の全体を覆うので、蓋部材と移動体本体の端面との間の接合面が外部に露出することがない。このため、クーラント等の液体が移動体本体の端面と蓋部材との接合面に僅かに生ずるすきまを伝わって内部に浸入するのを防止できる。また、移動本体の端面にカバーが一体に成形されるので、部品点数や組み立て工数を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一実施形態の運動案内装置であるリニアガイドの斜視図
【図2】リニアガイドの分解斜視図
【図3】軌道レール及び移動ブロック本体の斜視図
【図4】カバーの斜視図
【図5】カバーの詳細図(図中(a)は正面図を示し、図中(b)は側面図を示し、図中(c)は底面図を示す)
【図6】カバーの側壁にエンドシールを嵌め込む状態を示す工程図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の運動案内装置の実施形態を説明する。図1及び図2は本発明の第一実施形態の運動案内装置であるリニアガイドの斜視図を示す。図1は付属装置4〜7を移動ブロック本体2に組み込んだ状態のリニアガイドの斜視図を示し、図2は付属装置4〜7を移動ブロック本体から分離させた状態のリニアガイドの分解斜視図を示す。
【0013】
軌道部材としての軌道レール1には、移動体本体としての移動ブロック本体2が軌道レール1の長手方向に直線運動可能に組み付けられる。移動ブロック本体2の移動方向の端面には、蓋部材としてのエンドプレート3及び複数の付属装置4〜7が取り付けられる。エンドプレート3及び付属装置4〜7は、移動ブロック本体2の端面2g(図3参照)から庇のように張り出すカバー8a,8bによって覆われる。この図1ではカバー8a,8bを二点鎖線で示し、カバー8a,8bの内部のエンドプレート3及び付属装置4〜7を実線で示す。実際にはエンドプレート3及び付属装置4〜7はカバー8a,8bに隠れている。移動ブロック本体2に組み込まれたエンドプレート3及び付属装置4〜7は、移動ブロック本体2と共に移動ブロック9を構成し、軌道レール1に対して一体となって直線運動する。
【0014】
軌道レール1、移動ブロック本体2、エンドプレート3、付属装置4〜7について順番に説明する。図3は軌道レール1及び移動ブロック本体2の斜視図を示す。移動ブロック本体2には、カバー8a,8bを含む樹脂成形体18が一体に成形されているが、移動ブロック本体2を分かり易く説明するために、この図3には樹脂成形体18を消した状態の移動ブロック本体2示す。
【0015】
軌道レール1は略断面四角形状の長尺体であり、軌道レール1を水平面に配置した状態において、上面1−1、左右一対の側面1−2,1−3、及び底面1−4を有する。軌道レール1の左右一対の側面1−2,1−3の上端部には、長手方向に延びる突条1bが設けられる。突条1bの上下には転動体転走部としてのボール転走溝1aが1条ずつ形成される。軌道レール1の全体としては4条のボール転走溝1aが形成される。ボール転走溝1aの断面形状は、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状、又は二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝形状である。軌道レール1には長手方向に所定の間隔をおいて、軌道レール1を上下方向に貫通する挿通孔13が複数開けられる。これらの挿通孔13にボルトを挿入して、軌道レール1をベッド、コラム等の固定部に固定する。軌道レール1は炭素鋼、ステンレス鋼等の金属からなる。
【0016】
移動ブロック本体2は、軌道レール1を水平面に配置した状態において、軌道レール1の上面1−1に対向する中央部2−1と、軌道レール1の左右一対の側面1−2,1−3に対応する一対の袖部2−2,2−3を有して略鞍形状に形成される。移動ブロック本体2は炭素鋼、ステンレス鋼等の金属からなる。
【0017】
移動ブロック本体2の上面には、移動ブロック本体2をテーブル等の案内対象に取り付けるための一対の取付け面14a,14bが移動ブロック本体2の相対移動方向と直交する方向に離間して形成される。一対の取付け面14a,14bは研削加工されていて、これらの間の非取付け面14cに比べて一段高さが高くなっている。各取付け面14a,14bは平面視で四角形状に形成され、各取付け面にはボルト等の締結部材が螺合するねじ穴15が加工される。
【0018】
鞍形状の移動ブロック本体2の内側には、中央部2−1と袖部2−2,2−3の境を挟んで両側に一つずつ、負荷転動体転走部としての負荷ボール転走溝2aが形成される。この図には上側の負荷ボール転走溝2aのみが示されている。負荷ボール転走溝2aは軌道レール1のボール転走溝1aに対向しており、合計四条形成される。負荷ボール転走溝2aもボール転走溝1aと同様に、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状、又は二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝形状に形成される。これらの軌道レール1のボール転走溝1aと移動ブロック本体2の負荷ボール転走溝2aとの間に、ボール11が負荷を受けながら転がり運動する負荷転動体転走路としての負荷ボール転走路が形成される。移動ブロック本体2には、負荷ボール転走溝2aから所定間隔を開けて、負荷ボール転走路と平行な転動体戻し路としてのボール戻し路2bが設けられる。ボール11は荷重から解放された状態でこのトンネル状のボール戻し路2b内を戻る。ボール戻し路2bは移動ブロック本体2を相対移動方向に貫通する貫通孔2eに形成される。貫通孔2eの内部には樹脂成形体18の一部として樹脂製の戻し路構成部17が一体に成形されてもよいし、パイプ状に形成された戻し路構成部17を貫通孔2e内に挿入するようにしてもよい。
【0019】
軌道レール1のボール転走溝1aと移動ブロック本体2の負荷ボール転走溝2aとの間には、転がり運動可能に多数のボール11が配列・収納される。多数のボール11は、負荷ボール転走路2a、負荷ボール転走路2aと平行に伸びるボール戻し路2b、負荷ボール転走路2aの端部とボール戻し路2bの端部とを接続する一対のU字状の方向転換路2f(図3には方向転換路2f内に位置するボール11を示す。方向転換路2fは後述する樹脂成形体18の内周案内部と、エンドプレート3の外周案内部との間に形成される。)によって構成されるサーキット状のボール循環路に配列・収納される。ボール11同士の接触を防止するために、多数のボール11間には多数のスペーサ16aが介在される。多数のスペーサ16aは帯状のバンド16bで一連に連結される。多数のスペーサ16a及びバンド16bによってリテーナ16が構成される。
【0020】
図2に示すように、移動ブロック本体2には、カバー8a,8bを含む樹脂成形体18が一体に成形されている。金型のキャビティに移動ブロック本体2を挿入し、キャビティに溶融した樹脂を流すインサート成形によって、樹脂成形体18が移動ブロック本体2に一体に成形される。移動ブロック本体2の移動方向の両端面2g(図3参照)のそれぞれには、蓋部材としてのエンドプレート3がボルト等の締結部材21を介して取り付けられる。
【0021】
エンドプレート3は、移動ブロック本体2の正面形状と略同一の形状に形成される。エンドプレート3は、軌道レール1を水平面に配置した状態において、軌道レール1の上面1−1に対向する中央部3−1と、軌道レール1の左右の側面1−2,1−3に対向する一対の袖部3−2,3−3を有して略門形形状に形成される。エンドプレート3の中央部3−1には、相対移動方向に貫通する通し孔3aが形成される。通し孔3aにボルト等の締結部材21を通し、締結部材21を移動ブロック本体2に螺合させることによって、エンドプレート3を移動ブロック本体2に取り付ける。エンドプレート3の背面側、すなわち移動ブロック本体2に対向する側には、方向転換路の外周案内部(図示せず)が形成される。外周案内部はU字状に凹んでいる。
【0022】
エンドプレート3の移動方向の端面には、複数の付属装置4〜7が重ね合わされる。付属装置4〜7の正面形状はエンドプレート3と略同一の門形状に形成される。すなわち付属装置4〜7は軌道レール1の上面1−1に対向する中央部、及び軌道レール1の左右一対の側面1−2,1−3に対向する一対の袖部を有する。
【0023】
付属装置4〜7は、例えば潤滑装置4、エンドシール5、積層形接触スクレーパ6、金属スクレーパ7である。潤滑装置4は、軌道レール1のボール転走溝1aに潤滑油やグリース等の潤滑剤を供給する装置である。エンドシール5は、軌道レール1の表面に接触して軌道レール1の表面に付着した異物等が移動ブロック本体2内に浸入するのを防ぐ異物侵入防止装置である。積層形接触スクレーパ6は、微細な異物の移動ブロック本体2内への侵入を防止する異物侵入防止装置である。積層形接触スクレーパ6は、ケーシング内部にフェルト状の板材を複数枚相対移動方向に積層して構成される。金属スクレーパ7は、軌道レール1の表面に接触せずに、軌道レール1に貼り付いたスパッタ等の異物を排除する異物侵入防止装置である。
【0024】
潤滑装置4、エンドシール5、積層形接触スクレーパ6の上面及び側面には、外側に向かって階段状に突出する凸条4a〜6aが形成される。この凸条4a〜6aの幅はカバー8a,8bのスリット22の幅と等しい。付属装置4〜7の凸条4a〜6aをカバー8a,8bのスリット22に嵌め込むことによって、付属装置4〜7をカバー8a,8bに取り付ける。なお、金属スクレーパ7のように相対移動方向の厚さがスリット22の幅と同程度に薄い場合には、凸条を設ける必要はない。
【0025】
付属装置4〜7の中央部には、相対移動方向に貫通する通し孔4b〜7bが形成される。付属装置4〜7の通し孔4b〜7b及びエンドプレート3の通し孔3bに図示しないボルト等の締結部材を通し、締結部材を移動ブロック本体2のねじ穴に螺合することで、付属装置4〜7をエンドプレート3の端面に取り付ける。付属装置4〜7をカバー8a,8bのスリット22に嵌める必要があるので、付属装置4〜7を取り付けるとき、移動ブロック本体2は軌道レール1から取り外されている。
【0026】
締結部材で付属装置4〜7をエンドプレート3に取り付けるとき、付属装置4〜7間にすきま吸収用の弾性プレートを挟み込んでもよい。また、軌道レール1に接触するタイプの付属装置4〜6、例えば潤滑装置4、エンドシール5、積層形接触スクレーパ6のみの場合は、締結部材によって付属装置4〜6をエンドプレート3に締結しない構造も採用し得る。このような付属装置4〜6は軌道レール1によって上下方向に拘束されており、かつカバー8a,8bのスリット22によって相対移動方向に拘束されているからである。
【0027】
上述のように、エンドプレート3及び付属装置4〜7は、移動ブロック本体2に一体に成形されるカバー8a,8bによって覆われる。カバー8a,8bは、エンドプレート3の中央部3−1の上面に対向する天井部8−1、及びエンドプレート3の一対の袖部3−2の側面に対向する一対の側壁部8−2,8−3を有して、エンドプレート3の上面の全体及び一対の側面の全体を覆う。カバー8a,8bを含む樹脂成形体18の底部には、細長い矩形状の一対の底部カバー24−1,24−2が溶着、接着等の接合手段によって取り付けられる。一対の底部カバー24−1,24−2は、移動ブロック本体2の一対の袖部2−2,2−3の底面、エンドプレート3の一対の袖部3−2,3−3の底面、及び付属装置4〜7の一対の側壁の底面を覆う。
【0028】
図4は、移動ブロック本体2が無いと仮定した状態の樹脂成形体18の斜視図を示す。実際には樹脂成形体は移動ブロック本体2に一体に成形されるが、分かり易く樹脂成形体を示すためにこの図4には移動ブロック本体2を消した状態を示す。さらに図5(a)は樹脂成形体18の正面図を示し、図5(b)は側面図を示し、図5(c)は底面図を示す。
【0029】
図4に示すように、樹脂成形体18は、移動ブロック本体2の移動方向の端面に一体に成形される一対の板状の中間プレート31a,31bと、各中間プレート31a,31bと一体に成形され、方向転換路の内周側を形成する内周案内部32(図5(a)参照)と、移動ブロック本体2の負荷ボール転走溝2aに沿って直線状に伸びて一対の中間プレート31a,31bを連結するボール保持部33と、一対の中間プレート31a,31bから相対移動方向に張り出す一対のカバー8a,8bと、一対のカバー8a,8bの天井部を連結する連結部34と、を備える。
【0030】
図5(a)に示すように、中間プレート31aは、移動ブロック本体2の端面と同一の門形状に形成される。中間プレートに31aは、方向転換路の内周側を構成する内周案内部32が一体に成形される。内周案内部32は中間プレート31aからU字状に突出している。エンドプレート3の外周案内部及び中間プレート31aの内周案内部32によってU字状の方向転換路が形成される。この実施形態では、内周案内部32は中間プレート31aの一対の袖部のそれぞれに二個ずつ合計四個形成される。中間プレート31aには内周案内部32に連続してボール戻し路を構成する貫通孔36が形成される。この貫通孔36には帯状のリテーナを案内する案内溝36aが形成される。中間プレート31aの中央部には、エンドプレート3を取り付けるための締結部材21(図2参照)が通される通し孔37が形成される。中間プレート31aの一対の袖部には、エンドプレート3を位置決めするための位置決め部38が形成される。
【0031】
図4に示すように、ボール保持部33は、移動ブロック本体2の負荷ボール転走溝2aに沿って直線状に伸びて一対の中間プレート31a,31bを連結する。図5(a)に示すように、ボール保持部33は、上下二条の負荷ボール転走溝2aの上側に配置される第一の保持部33−1と、上下二条の負荷ボール転走溝2aの間に形成される第二のボール保持部33−2と、下側の負荷ボール転走溝2aの下側に形成される第三のボール保持部33−3と、を備える。このボール保持部33は、軌道レール1から移動ブロック9を取り外したとき、移動ブロック9からボール11が脱落するのを防止する。この実施形態では、多数のボール11がリテーナ16に一連に保持されているので、ボール保持部33の案内溝33aによってリテーナ16を保持することでボール11が脱落するのを防止している。リテーナ16がない場合は、ボール保持部33が直接ボール11を保持するようにしてもよい。第一及び第二のボール保持部33−1,33−2は互いに協働して、上側の負荷ボール転走溝2aからボール11が脱落するのを防止する。第二及び第三のボール保持部33−2,33−3は互いに協働して、下側の負荷ボール転走溝2aからボール11が脱落するのを防止する。
【0032】
図4に示すように、カバー8a,8bは中間プレート31a,31bに一体に成形され、中間プレート31a,31bから移動ブロック9の移動方向に庇のように張り出す。カバー8a,8bは天井部8−1及び一対の側壁部8−2,8−3を有する。カバー8a,8bには底や移動方向の端部の壁は形成されていない。カバー8a,8bの天井部8−1及び一対の側壁部8−2,8−3のそれぞれは四角形の板状に形成される。一対の側壁部8−2,8−3は互いに平行であり、天井部8−1に直交する。一対の側壁部8−2,8−3の相対移動方向の長さは、エンドプレート3及び付属装置4〜7の相対移動方向の長さを合算した長さよりも僅かに長い。一対の側壁部8−2,8−3の対向面には、移動方向と直交する方向に伸びるスリット22が形成される。スリット22は天井部8−1にも連続して形成される。図6に示すように、カバー8aのスリット22には、エンドシール5等の付属装置が底面側から嵌め込まれる。
【0033】
図4に示すように、一対のカバー8a,8bは細長い長方形状の連結部34によって連結形される。連結部34は移動ブロック本体2の上面の一対の取付け面14a,14b間の一段低くなった非取付け面14cに一体に成形されており(図3参照)、その高さは一対の取付け面14a,14bよりも低い。連結部34の上面はカバー8a,8bの天井部8−1の上面と面一になる。
【0034】
図4に示すように、樹脂成形体18の底部には一対の底部カバー24−1,24−2が結合される。一対の底部カバー24−1,24−2は、移動ブロック本体2の一対の袖部2−2,2−3の底面、及びエンドプレート3の一対の袖部3−2,3−3の底面、及び付属装置4〜7の一対の側壁の底面を覆う。底部カバー24−1,24−2の相対移動方向の長さは、移動ブロック本体2、エンドプレート3及び付属装置4〜7の相対移動方向の長さよりも僅かに長い。
【0035】
なお、一対の底部カバー24−1,24−2と移動ブロック本体2との間には、図示しない一対のサイドシールが介在する。軌道レール1と移動ブロック本体2の側壁部2−2,2−3、軌道レール1とエンドプレート3の側壁部3−2,3−3、及び軌道レール1と付属装置の側壁部との間にはすきまが空く。一対のサイドシールはこのすきまを塞ぐために設けられる。サイドシールの全長は、底部カバー24−1,24−2の全長に等しい。移動ブロック本体2にはサイドシールを取り付けるためのねじ穴が形成される。エンドプレート3、付属装置4〜7には、サイドシールを嵌め込むための切欠きが形成される。移動ブロック本体2、エンドプレート3、付属装置4〜7にサイドシールを取り付けた後、樹脂成形体の底に底部カバー24−1,24−2が結合される。なお、サイドシールを設ける替わりに、底部カバー24−1,24−2の軌道レール1側の一辺にゴム又は樹脂のシールを接着等により結合してもよい。
【0036】
本実施形態によれば、天井部8−1及び左右一対の側壁部8−2,8−3を有するカバー8a,8bがエンドプレート3及び付属装置4〜7の上面の全体、左右一対の側面の全体を覆うので、エンドプレート3と移動ブロック本体2の端面との接合面、付属装置4〜7同士の接合面が外部に露出することがない。このため、これらの接合面の僅かなすきまを伝わって移動ブロック9の内部にクーラント等の液体が浸入するのを防止できる。リニアガイドは水平面で使用されることが最も多く、このような場合、カバー8a,8bの下からのクーラントの浸入は想定されないから、カバー8a,8bの天井部8−1及び左右一対の側壁部8−2,8−3のみで十分にクーラントの浸入を防止できる。
【0037】
カバー8a,8bの一対の側壁部8−2,8−3の対向面にスリット22を形成し、スリット22に付属装置4〜7を嵌め込むようにすることで、付属装置4〜7の位置決めが容易になり、また付属装置4〜7を移動ブロック本体2に組み込むのが容易になる。
【0038】
一対のカバー8a,8bの天井部8−1を移動ブロック本体2の上面の連結部34で連結するので、一対のカバー8a,8の強度が向上する。カバー8a,8bは移動ブロック本体2の端面2gから片持ち状に張り出す。カバー8a,8bを移動ブロック本体2の端面2gに結合させただけだと、その強度が十分ではない。一対のカバー8a,8bの天井部8−1同士を連結することで、特に上方からの荷重に対するカバー8a,8bの強度が向上する。
【0039】
カバー8a,8bに方向転換路の内周案内部32やボール保持部33を一体に成形することで、部品点数や組立工数が低減する。ボール保持部33で一対のカバー8,8bを連結することで、カバー8a,8bの強度がさらに向上する。
【0040】
移動ブロック本体2やエンドプレート3の底面を底部カバー24−1,24−2で覆うことで、軌道レール1を垂直面にとりつけた場合でも移動ブロック本体2の内部にクーラント等の液体が浸入するのを防止できる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限られることなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々に変更可能である。
【0042】
例えば、カバーの材質と中間プレートの材質とが異なっていてもよい。この場合、カバーは二色成形、すなわち最初に移動ブロック本体に中間プレートを一体に成形した後、中間プレートにカバーを一体に成形する。
【0043】
カバーを金属等の硬質の材料から製造し、インサート成形時にカバーと移動ブロック本体とを樹脂で一体構造とすることも可能である。
【0044】
付属装置の組み合わせは任意であり、付属装置としてエンドシールのみを組み込んでもよいし、何も組み込まなくてもよい。エンドシールのみを組み込む場合、カバーの相対移動方向の長さを短くし、エンドプレート及びエンドシールの相対移動方向の長さと一致させる。カバーには長さを調整できるように切込みを入れてもよい。
【0045】
カバーに形成されるスリットは、相対移動方向に付属装置の個数に合わせて複数設けられなくてもよく、最も端に位置する付属装置(例えば金属スクレーパ)に合わせて一組のみ設けられてもよい。付属装置を締結部材でエンドプレートに締結する場合には、カバーにスリットを形成しなくてもよい。
【0046】
カバーと移動ブロック本体との接着強度を高くするために、移動ブロック本体に溝を加工し、インサート成形のときに移動ブロック本体の溝にカバーを形成するための樹脂が流れ込むようにしてもよい。
【0047】
本実施例では転動体にボールを用いる例を説明したが、転動体はボールに限定されるものではなく、ローラであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…軌道レール(軌道部材),1−1…軌道レールの上面,1−2,1−3…軌道レールの一対の側面,1a…ボール転走溝(転動体転走部),2…移動ブロック本体(移動体本体),2−1…移動ブロック本体の中央部,2−2,2−3…移動ブロック本体の袖部,2g…端面,2a…負荷ボール転走溝(負荷転動体転走部),2b…ボール戻し路(転動体戻し路),3…エンドプレート(蓋部材),3−1…エンドプレートの中央部,3−2,3−3…エンドプレートの袖部,4…潤滑装置(付属装置),5…エンドシール(付属装置),6…積層形接触スクレーパ(付属装置),7…金属スクレーパ(付属装置),8a,8b…カバー,8−1…天井部,8−2,8−3…側壁部,9…移動ブロック(移動体),11…ボール(転動体),14a,14b…取付け面,14c…非取付け面,18…樹脂成形体,22…スリット,24−1,24−2…底部カバー,31a,31b…中間プレート,33…ボール保持部(転動体保持部),34…連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に伸びる転動体転走部を有する軌道部材と、
前記軌道部材を水平面内に配置した状態において、前記軌道部材の上面に対向する中央部、及び前記軌道部材の左右一対の側面に対向する左右一対の袖部を有すると共に、前記軌道部材の前記転動体転走部に対向する負荷転動体転走部、及び前記負荷転動体転走部に略平行な転動体戻し路を有する移動体本体と、
前記移動体本体の相対移動方向の端面に取り付けられ、前記軌道部材の上面に対向する中央部、及び前記軌道部材の左右一対の側面に対向する左右一対の袖部を有すると共に、前記移動体本体の前記負荷転動体転走部と前記転動体戻し路を接続する方向転換路の外周案内部を有する蓋部材と、
前記軌道部材の前記転動体転走部と前記移動体本体の負荷転動体転走部との間の負荷転動体転走路、前記転動体戻し路及び前記方向転換路を含む転動体循環路に配列される複数の転動体と、
前記移動体本体の前記端面から前記相対移動方向に張り出すように前記移動体本体と一体に成形され、前記蓋部材の上面に対向する天井部及び前記蓋部材の左右一対の側面に対向する左右一対の側壁部を有して、前記蓋部材の前記上面の全体及び前記蓋部材の前記左右一対の側面の全体を覆うカバーと、を備えるカバー付き運動案内装置。
【請求項2】
前記運動案内装置は、潤滑装置又は異物侵入防止装置を含む付属装置の少なくとも一つを備えることを特徴とする請求項1に記載のカバー付き運動案内装置。
【請求項3】
前記カバーの前記一対の側壁部の互いに対向する内壁面には、前記相対移動方向と直交する方向に伸びるスリットが形成され、
前記付属装置は前記スリットに前記カバーの底面側から嵌め込まれることを特徴とする請求項2に記載のカバー付き運動案内装置。
【請求項4】
前記移動体本体の上面には、高さが一段高い複数の取付け面が前記相対移動方向と直交する方向に離間して形成され、
前記カバーは、前記移動体本体の前記相対移動方向の両端面のそれぞれに設けられ、
一対のカバーの天井部は、前記移動体本体の前記上面の取付け面間に設けられる連結部に一体に成形されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のカバー付き運動案内装置。
【請求項5】
前記一対のカバーは、前記方向転換路の内周側を形成する内周案内部、及び前記移動体本体の前記負荷転動体転走部に沿って伸びる転動体保持部に一体に成形されることを特徴とする請求項4に記載のカバー付き運動案内装置。
【請求項6】
前記カバー付き運動案内装置は、前記移動体本体の前記左右一対の袖部の底面及び前記蓋部材の前記左右一対の袖部の底面を覆うと共に、前記カバーに結合される一対の底部カバーを備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のカバー付き運動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−180855(P2012−180855A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42520(P2011−42520)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】