説明

カプサイシン含有外用剤

【課 題】 糖尿病性知覚神経機能異常からくる例えば四肢の左右対称性の痛みやぴりぴりする異常感覚、知覚鈍麻などの症状を呈する患者が、四肢に傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍が生じている場合、患者自身が該傷や潰瘍を生じていることを認識できる外用剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 カプサイシンを0.01〜0.3質量%含有することを特徴とする、患者の四肢に発生している傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍を患者が自覚症状として認識できる糖尿病性知覚神経機能異常を処置するための外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプサイシンを有効成分として含有し、四肢に発生している傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍を患者が自覚症状として認識できる糖尿病性知覚神経機能異常を処置するための外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カプサイシンは、トウガラシ(Capsicum annuum L.)の辛味成分であり、化学名は(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミド(C1827NO)である。しかし、アメリカ薬局方に収載のカプサイシンの項目では、「カプサイシンはカプサイシノイド類(capsaicinoids)を90〜110%含有する。カプサイシン(C1827NO)の含有量は55%以上で、かつカプサイシン(C1827NO)とジヒドロカプサイシノイド(C1829NO)の合計含量が75%以上で、他のカプサイシノイドが15%以下である。」と規定されている(非特許文献1参照)。また、通常カプサイシンと称され、市場において流通されているものも、アメリカ薬局方に収載のカプサイシンと同様、(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミド、ジヒドロカプサイシンおよびその他のカプサイシノイドの混合物である。しかし、混合物を使用する問題点の一つは各成分の生物活性が異なる点である。カプサイシノイドとして含まれるノルジヒドロカプサイシンやホモカプサイシンは生物活性の一つの指標となる辛味強度において半分しかない。また、産地によってカプサイシンの量、辛さが異なることが知られている(非特許文献2参照)。
なお、本明細書においては、単にカプサイシンというときは上記混合物をいい、カプサイシン(C1827NO)を意味するときは化学名の(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドと記載する。
【0003】
カプサイシンを含む局所用外用剤は、例えば帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経痛、そう痒症、乾癬、群発性頭痛、乳房切断術後痛症候群、鼻症、口膜炎、皮膚アレルギー、排尿反射亢進、血尿症候群の腰痛、頸部痛、断端痛、反射性交感神経性萎縮症、皮膚ガンによる痛み、関節炎などの治療や処置において鎮痛などを目的として使用できることが報告されている(非特許文献3参照)。
上記糖尿病はその病状が進行すると、合併症として糖尿病性神経障害が発症し、知覚神経機能異常、例えば、四肢(特に四肢の末端)における左右対称性のひどい痛みやぴりぴりする異常感覚などの症状がみられる。このような糖尿病性神経障害に伴う自覚症状(自発痛やしびれ感)の改善に、例えばメキシチール(塩酸メキシレチン製剤:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社)が用いられている。しかし、メキシチールの投与により疼痛が緩解され、末梢血管障害性の下肢の潰瘍や壊疽の進行が看過されるおそれがある。また、このような患者の高血糖状態が続くと末梢の知覚神経がさらに侵され、最終的には全く痛みを感じなくなる。痛みを感じなくなるまで糖尿病の病状が進むと、例えば靴に石ころが入っていても解らず靴を脱いで靴の中が血だらけになっていることもある。このような患者の四肢、特に足の末端部分(特に足の爪部分など)は、患者にとってしばしば観察しにくいので傷や潰瘍が生じても、痛みが無いため傷や潰瘍が患者に認識されることなく看過されるおそれがある。傷や潰瘍が看過されると、その傷や潰瘍部から細菌が感染してさらにひどくなって血管障害とも重なり、ついには壊疽を起こし足を切断しなければならないほど重篤な事態に進展することがしばしば見られる。特に糖尿病患者の血液は高血糖であるから、細菌が繁殖するのに好都合である。そのため、傷や潰瘍の悪化の進行が速い。従来、患者の四肢に傷や潰瘍が生じている場合に、患者が自身の持つ傷や潰瘍を無自覚のまま看過することなく、認識できる有用な手段がないのが現状である。
【非特許文献1】アメリカ薬局方(U.S.Pharmacopeia National Formulary 2004),Capsaicin,Webcom Limited,Toronto,Ontario,Canada,2003
【非特許文献2】野崎倫生、印藤元一、調味料・香辛料の辞典、1991年、朝倉書店、431頁
【非特許文献3】マーチン・ハートカッペ(Martin Hautkappe)ら,ザ・ジャーナル・オブ・ペイン(The Clinical journal of pain)、1998年、第14巻、p.97−106
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
安定した生物活性を得ることができるカプサイシンを含有し、かつ糖尿病性知覚神経機能異常からくる例えば四肢の左右対称性の痛みやぴりぴりする異常感覚、あるいは知覚鈍麻などの症状を呈する患者が、四肢に傷や潰瘍が生じている場合、患者自身が該傷や潰瘍を生じていることを認識できる外用剤を提供することを目的とする。より詳細には、四肢に傷や潰瘍が生じていても糖尿病性知覚神経機能異常に伴う四肢の知覚鈍麻などにより見落とされる四肢の傷や潰瘍を早期に発見でき、患者が重篤な壊疽に陥るなどの事態に至る前に医師が適切な処置をするのを可能とするために、患者が前記傷や潰瘍などを自覚できる有効な外用剤を提供することを目的とする。
なお、本発明において、糖尿病性知覚神経機能異常とは、糖尿病により末梢の知覚神経が障害を受け手足(四肢)のしびれや痛み、あるいは感覚が鈍くなるなどの症状を呈する糖尿病性神経障害の1症状をいう。また、本発明における知覚鈍麻には、前記糖尿病性知覚神経機能異常のために感覚が鈍くなることを含む。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを、約0.01〜0.3質量%含有することを特徴とする外用剤を糖尿病性知覚神経機能異常に伴って起こる、例えば四肢(特に四肢末端)の左右対称性の痛みやぴりぴりする感覚異常、知覚鈍麻などの症状を呈する患者の四肢に局所投与するに際し、患者の四肢に傷や潰瘍が存在すると、(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドが傷や潰瘍に接触することにより患者に強い痛みによる刺激を与えるから、患者が自身の傷や潰瘍を痛みとして自覚、認識できることを見出した。本発明者らは、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) カプサイシンを0.01〜0.3質量%含有することを特徴とする、患者の四肢に発生している傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍を患者が自覚症状として認識できる糖尿病性知覚神経機能異常を処置するための外用剤、
(2) (6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを、0.01〜0.3質量%含有することを特徴とする、患者の四肢に発生している傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍を患者が自覚症状として認識できる糖尿病性知覚神経機能異常を処置するための外用剤、
(3) 糖尿病性知覚神経機能異常が四肢の痛み、異常感覚または知覚鈍麻である前記(1)又は(2)に記載の外用剤、
(4) 液剤、クリーム、軟膏剤、ゲル剤またはパップ剤である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の外用剤、
(5) (6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを、0.01〜0.3質量%含有する外用剤を糖尿病性知覚神経機能異常を処置するために患者の四肢に適用することにより、患者が四肢の傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍を早期に発見する方法、および
(6) 糖尿病性知覚神経機能異常が四肢の痛み、異常感覚または知覚鈍麻である前記(5)に記載の方法、
に関する。
また、本発明は、(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを、0.01〜0.3質量%含有する外用剤を、塩酸メキシレチン製剤との併用使用により、末梢血管障害性の下肢潰瘍や壊疽の進行が看過されるのを防止する方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
また、本発明の外用剤は糖尿病性神経機能異常に伴う四肢の痛み、異常感覚、知覚鈍麻などの症状における痛みや痒みなどを改善する。その際に患者の四肢に傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍(以下、単に傷や潰瘍ということもある。)が発生している場合には、患者の知覚が鈍麻していても、本発明の外用剤と傷や潰瘍が接触すると傷や潰瘍部に相当強い痛みが発生するから、その痛みによって、患者は傷や潰瘍の発生を容易に認識することができて、傷や潰瘍の治療を直ちに行うことができる。すなわち、糖尿病性知覚神経機能異常の患者、例えば四肢の左右対称性の痛みやぴりぴりする異常感覚、知覚鈍麻などの症状を有する患者であって、かつ四肢に傷や潰瘍を有する患者が本発明の外用剤を適用すると刺激痛がある。前記刺激痛は、糖尿病性知覚神経機能異常の患者であっても、傷や潰瘍の存在を自覚できるので、患者が傷や潰瘍を看過することなく早期に発見できる。
また、糖尿病性知覚神経機能異常を起こしている患者において、足潰瘍が出現していない場合であっても、何らかの異常な圧負荷、損傷、火傷(例えば熱傷、低温火傷など)、感染などの外的要因が加わって潰瘍を発症するので、特に、通常患者が気づきにくい四肢末端、特に足の裏(例えば胼胝)や爪部分(深爪)などの潰瘍につながる創傷などの早期発見や自己診断がフットケアにおいて重要である。本発明の外用剤は、創傷部位に適用すると強い刺激痛を誘発し、前記した創傷などを早期発見できるのでフットケアに有用である。
さらに、糖尿病性神経障害に伴う自発痛やしびれ感の改善薬(例えば塩酸メキシレチン製剤など)を服用すると、該改善薬の投与により疼痛が緩解され、末梢血管障害性の下肢の潰瘍や壊疽の進行が看過されるおそれがあるが本発明の外用剤を併用すると、損傷や潰瘍などが看過される危険性を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の外用剤は、カプサイシン、好ましくは(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを、0.01〜0.3質量%含有することを特徴とする。
【0009】
本発明に使用できるカプサイシン、好ましくは(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドはトウガラシの辛味成分であり、既に公知の物質である〔Caterina,M.J.,Schumacher,M.A.,Tominaga,M.,Rosen,.A.,L,−evine,J.J.andJulius,D.,Nature 389,816−824(1997)〕。カプサイシン又は(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドは該物質を含有するトウガラシの植物体及び/または果実から精製・分離することによって得ることができる。トウガラシからの精製・分離は当業者にとって良く知られた溶媒抽出やシリカゲルクロマトグラフィーなどの各種のクロマトグラフィー、調製用高速液体クロマトグラフィーなどの手段を単独、または適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0010】
(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミド(カプサイシン)を得るもう一つの方法は全合成である。公知の合成法に基づいて合成することもできる。(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドの合成法については、例えば、(a)E.Spath,S.F.Darling,Ber. 63,737(1930);(b)L.Crombie,S.H.Dandegaonker,K.B.Simpson,J.Chem.Soc.1955,1025;(c)大沢啓助、上田條二、高橋三雄、東北薬科大学研究年報、23、117(1976);(d)P.M.Gannett,D.L.Nagel,P.J.Reilly,T.Lawson,J.Sharpe,B.Toth,J.Org.Chem.1988;(e)H.Kaga,M.Miura,K.Orito,J.Org.Chem.1989,54,3477;(f)特願昭58−163699号公報などに記載の方法が挙げられる。中でも(e)の合成法が(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドの大量生産に優れているという点で好ましい。より具体的には、まず6−ブロモヘキサン酸とトリフェニルホスフィンの混合物を加熱処理し、(6−カルボキシヘキシル)トリフェニルホスホニウムとする。これをイソブチルアルデヒドと反応させて8−メチル−6−ノネン酸とし、次いで亜硝酸塩で処理して異性化する。これにバニリルアミンを反応させることによって(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを得ることができる。
【0011】
本発明において、「(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上を含み」というときは、(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドの他にカプサイシノイドなどを微量含有していてもよい。
本発明の外用剤は、カプサイシン、好ましく(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを外用剤全体に対して約0.01〜0.3質量%、好ましくは約0.05〜0.1質量%、より好ましくは約0.075〜0.1質量%程度含有する。
【0012】
本発明の外用剤は、外用剤として公知の剤型であればいずれの剤型であってもよいが、例えば液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤またはパップ剤が特に好ましい。
本発明の外用剤は、上記の剤型に応じ、前記カプサイシンと例えば各種の基剤成分や任意成分を、製剤学的に慣用されている製剤技術を駆使して混合、均一化することにより製造することができる。
【0013】
本発明の外用剤の製造において用いられる基剤成分としては、例えば脂肪類、ロウ類、油性成分、高級脂肪酸、高級アルコール、多価アルコール、ゲル化剤、界面活性剤、セルロース誘導体または無機塩類などが挙げられる。
【0014】
脂肪類としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ハードファットなどの合成油、オリーブ油、ダイズ油、ナタネ油、ラッカセイ油、ベニバナ油、ヌカ油、ゴマ油、ツバキ油、トウモロコシ油、メンジツ油、ヤシ油などの植物油、豚脂、牛脂などの動物油またはこれらの硬化油などを挙げることができる。ロウ類としては、例えばラノリン、ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウなどの天然ロウや、モンタンロウなどの鉱物ロウ、合成ロウなどを挙げることができる。また、油性成分としては、例えばワセリン(白色ワセリン、黄色ワセリン)、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ポリエチレン末またはゲル化炭化水素などを挙げることができる。高級脂肪酸としては、例えばステアリン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、オレイン酸などを使用することができる。また、高級アルコールとしては、例えばセタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロールなどを挙げることができる。さらに、多価アルコールとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンまたは1,3−ブチレングリコールなどを挙げることができる。ゲル化剤としては、例えばカラギーナン、デンプン、デキストリン、デキストリンポリマー(カデキソマー)、トラガント、アラビアゴム、ローカストビーンガム、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、プルラン、アルギン酸塩、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはカルボキシビニルポリマー(例、カーボポール941;Noveon,Inc.製など)等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤〔ポリオキシエチレンヒマシ油:ポリオキシエチレン(10)ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油例えばポリオシキエチレン(60)硬化ヒマシ油など、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル:モノステアリン酸ポリエチレングリコール(45)など、ポリオキシエチレンアルキルエーテル:ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルなど、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル:ポロキサマー235など、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル:ポリオキシエチレン(7.5)ノニルフェニルエーテルなど、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル:テトラオレイン酸ポリオキシエチレン(60)ソルビットなど〕、両性界面活性剤(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン)、陽イオン性界面活性剤(アルキルアンモニウム塩:塩化セチルトリメチルアンモニウムなど)等を挙げることができる。セルロース誘導体としては、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げることができる。無機塩類としては、例えば硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、ポリリン酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸鉄、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、チオ硫酸ナトリウム、セスキ炭酸ナリウム、硫化ナトリウム、ホウ砂、酸化カルシウム、炭酸マグネシウムまたは塩化カリウムなどを挙げることができる。
【0015】
また、本発明の外用剤には医薬品、医薬部外品または化粧品などに使用できる任意の成分、例えば低級アルコール(例、エタノール、イソプロパノールなど)、清涼剤(例、メントール、カンフル、ボルネオール、ハッカ油、樟脳、ローズマリー油など)、鎮痒剤(例、クロタミトン、ジフェンヒドラミンまたはその塩など)、保湿剤(例、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、グリセリン、キシリトール、ソルビット、トレハロースなど)、エモリエント剤(例、合成セラミド、植物セラミド、動物セラミドまたはバイオセラミドなどのセラミド類、コレステロール、コレステロールエステル、ステロール、ステロールエステルなど)、着色料、香料、pH調整剤(例、塩酸、水酸化ナトリウムなど)、保存剤(塩化ベンザルコニウム、パラベン類など)または安定化剤(例、エデト酸ナトリウムなど)等を必要に応じて使用してもよい。
【0016】
本発明の外用剤は、公知の方法、例えば第14改正の日本薬局方製剤総則などに記載の方法などに準じて製造することができる。
なお、カプサシン又は(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドは冷水には殆ど溶けないが油やアルコールには良く溶けるため、本発明の外用剤の製造には、カプサシン又は(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドが良く溶ける成分を基剤として含有させ製造させることが好ましい。
【0017】
本発明の外用剤が液剤の場合は、基剤成分として、例えば水(例、精製水、蒸留水など)、エタノールなどの低級アルコール、グリセリンなどの多価アルコール、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油などの界面活性剤などを基剤として用い、これら基剤に(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシン、および任意の成分を溶解させることにより製造することができる。
【0018】
また本発明の外用剤がゲル剤の場合は、基剤成分として、例えば水(例、精製水、蒸留水など)、セタノール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール、カルボキシビニルポリマー(例、カーボポール941;Noveon, Inc.製など)などのゲル化剤、トリエタノールアミンなどのpH調整剤、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油などの界面活性剤などを用い、これら基剤と共に(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシン、および任意の成分を例えば加熱溶解し、撹拌しながら冷却することによりゲル剤を製造することができる。
【0019】
本発明の外用剤がクリーム剤の場合は、基剤成分として、例えば流動パラフィンや白色ワセリンなどの油性成分、セタノール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油などの界面活性剤、トリエタノールアミンなどのpH調整剤、カルボキシビニルポリマーなどの高分子、高級脂肪酸、多価アルコールまたは水(精製水)などを用い、これら基剤と(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシン、および任意の成分を例えば加熱しながら乳化後、さらに撹拌しながら冷却することによりクリーム剤を製造することができる。
【0020】
また、本発明の外用剤が軟膏剤の場合は、基剤成分として、ミツロウなどのロウ類、ワセリン(白色ワセリン、黄色ワセリン)、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ポリエチレン末などの油性成分、セタノール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油などの界面活性剤などを用い、これら基剤と(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシン、および任意の成分を例えば練合するなどして製造することができる。
【0021】
また、本発明の外用剤がパップ剤の場合は、(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを例えばグリセリンなどの多価アルコール、メチルセルロース、メチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子および水(例、精製水、蒸留水など)などと混和し、メントールなどの精油成分を加え均質にした後、例えば支持体の織布または不織布層側に塗布または含浸させ、更にポリプロピレンフィルムなどのライナーを添着した後、裁断することにより製造できる。
【0022】
本発明の外用剤は、液剤、ゲル剤、クリーム剤または軟膏剤の場合は、外用剤自体をそのまま患部に塗布できる。またパップ剤の場合は、貼付剤として患部に適用できる。
【0023】
本発明に係る外用剤は、傷や潰瘍部に適用すると、(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドの刺激に基づく激しい刺激痛が発生する。該刺激痛は、糖尿病性知覚神経機能異常をきたしている患者であっても感じることができるので、上記外用剤を糖尿病性神経症の患者の四肢に塗布または貼付することにより、糖尿病性知覚神経機能異常患者の四肢の傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍などを早期に発見する方法として利用できる。四肢の傷としては、切り傷、掻傷、火傷(熱傷、低温火傷など)、靴擦れ、深爪又は胼胝もしくは鶏眼の削り取ることによる傷などによる皮膚創傷などが挙げられる。
【0024】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンは、「カプサイシン(98%C1827NO)」と略記した。
【実施例1】
【0025】
カプサイシン(98%C1827NO)含有クリーム
流動パラフィン 17g
白色ワセリン 5g
セタノール 4g
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 18g
トリエタノールアミン 0.075g
カーボポール941 0.05g
カプサイシン(98%C1827NO) 0.1g
エデト酸ナトリウム 0.1g
パラオキシ安息香酸メチル 適量
パラオキシ安息香酸ブチル 適量
精製水 全量100g
製造方法:加熱しながら油相成分である流動パラフィン、白色ワセリン、セタノール、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル及びカプサイシンを加えて溶解する。別に加熱しながら水相成分として精製水にカーボポール941を分散させたあと、トリエタノールアミン、エデト酸ナトリウムを加える。攪拌しながら水相に油相を加え乳化後、攪拌しながら冷却する。
【実施例2】
【0026】
カプサイシン(98%C1827NO)含有軟膏
流動パラフィン 20g
白色ワセリン 52g
セタノール 9.9g
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 18g
カプサイシン(98%C1827NO 0.1g
製造方法:加熱しながら流動パラフィン、白色ワセリン、セタノール、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油及びカプサイシンを加え錬合し製する。
【実施例3】
【0027】
カプサイシン(98%C1827NO)含有ゲル
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 18g
カーボポール941 0.5g
エタノール 22g
トリエタノールアミン 1.5g
カプサイシン(98%C1827NO) 0.1g
精製水 57.9g
製造方法:加熱しながら、精製水にポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油、カーボポール941を加え溶解させた後、エタノールにカプサイシンを加えて溶解した液を加え、攪拌後トリエタノールアミンを加えて、攪拌しながら冷却する。
【実施例4】
【0028】
カプサイシン(98%C1827NO)含有液剤
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 18g
エタノール 22g
カプサイシン(98%C1827NO) 0.1g
精製水 59.9g
合計 100g
製造方法:エタノールにカプサイシンを加え溶解後、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油及び精製水を加え溶解する。
【実施例5】
【0029】
カプサイシン(98%C1827NO)含有パップ剤
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 18g
グリセリン 10g
カルボキシメチルセルロースナトリウム 50g
カプサイシン(98%C1827NO) 0.1g
精製水 21.9g
合計 100g
製造方法:加熱しながら、精製水、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをよく錬合し、これにグリセリンにカプサイシンを加え溶解した液を加え、十分錬合しながら冷却する。
【0030】
〔試験例1〕
試験クレーム:カプサイシン(98%C1827NO)の含有量を0.01質量%、0.025質量%および0.075質量%になるように調整した以外は実施例1とまったく同様に、0.01質量%カプサイシン(98%C1827NO)含有クリーム(以下、クリームAという。)、0.025質量%カプサイシン(98%C1827NO)含有クリーム(以下、クリームBという。)および0.075質量%カプサイシン(98%C1827NO)含有クリーム(以下、クリームCという。)を作製した。
試験方法:糖尿病性神経障害に伴う自覚症状(疼痛、しびれ感)を有する患者56例を対象とし、プラセボを対照に用いて、これらのクリームA、BまたはCの適量を両足の足底を含む足関節より先の自覚症状を有する部位に8週間単純塗布し、並行群間比較法による無作為化二重盲検を実施した。自覚症状(疼痛、しびれ感)の程度を7段階で評価したスコアの推移において、投与8週後のスコアが投与前のスコアに比べて2スコア以上改善した症例の割合および副作用発現率を算出して、その結果を表1に示した。尚、7段階のスコア内容は次の通りである。
スコア0:疼痛、しびれ感がない、スコア1:疼痛、しびれ感がスコア2と0の中間程度、スコア2:疼痛、しびれ感が弱い、スコア3:疼痛、しびれ感がスコア4と2の中間程度、スコア4:疼痛、しびれ感が強い、スコア5:疼痛、しびれ感がスコア6と4の中間程度、スコア6:疼痛、しびれ感がきわめて強い、を意味する。
【0031】
【表1】

【0032】
その結果、自覚症状(疼痛、しびれ感)の程度を7段階で評価したスコアの推移において、投与8週後のスコアが投与前のスコアに比べて2スコア以上改善した症例の割合を各群について比較すると、クリームA投与群およびクリームB投与群はプラセボ投与群と同程度であったが、クリームC投与群において増加する傾向が見られた。また、副作用発現率を各群について比較すると、クリームC投与群でやや増加する傾向が見られた。主な副作用は熱感および刺激痛であったが、重篤な副作用は発現しなかった。副作用による中止例はプラセボ群に1例、クリームC投与群に2例あった。
なお、副作用によるクリームC中止例の患者の1例には軽度の靴擦れによる皮膚創傷が、もう1例には白鮮菌症による皮膚創傷が認められる。これら皮膚創傷は放置すると組織破壊が進行して潰瘍となる危険性がある。
【0033】
〔試験例2〕
塩酸メキシレチン製剤との併用試験
塩酸メキシレチン製剤(メキシチール)を服用している患者でかつ以下の皮膚創傷;
(1)足裏の胼胝を自分で削ったり、靴擦れ、深爪などによる皮膚創傷、
(2)白鮮菌症による皮膚創傷、または
(3)皮膚潰瘍、
を有する患者の創傷部位に試験例1のクリームCを塗布すると、刺激痛および熱感がある。
【0034】
参考例
(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドの製造
6−ブロモヘキサン酸(0.13mol)とトリフェニルホスフィン(0.13mol)の混合物を145℃で4時間加熱した。冷後ガラス状の混合物をクロロホルムと混和し、エーテルで希釈した。沈殿物をクロロホルムで再結晶し、白色の粉末(収率88%、融点202−203℃)を得た。得られた(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミド(50mmol)をジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)中でイソブチルアルデヒド(59mmol)と混合し、該混合物を、DMFに懸濁したtert−ブトキシカリウム(102.5mmol)に、0℃、窒素雰囲気下、15分間で添加した。得られた懸濁液を室温で15分間、激しく撹拌後、懸濁液を氷水に注いだ。沈殿したトリフェニルホスフィンオキシドを吸引ろ過により除去した。ろ液は、ベンゼンで2回洗浄し、2M塩酸で酸性にした。生成物をエーテルで4回抽出し、飽和食塩水で4回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、エーテルを留去し8−メチル−6−ノネン酸(シス体)(収率74%、沸点109−110℃)を得た。得られた8−メチル−6−ノネン酸(シス体)に2M亜硝酸ナトリウムおよび6M硝酸を、70−75℃、窒素雰囲気下で添加した。混合物を30分間激しく混合した。冷後反応物をエーテルで希釈し、水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧蒸留して8−メチル−6−ノネン酸(トランス体)(収率77%、沸点117−120℃)を得た。
別途、バニリン(0.1mol)とギ酸アンモニウム(0.32mol)を180℃で、3時間加熱した。冷後アンモニア臭が消えるまでエバポレートした。残渣に濃塩酸を加え、塩酸臭が消えるまでエバポレートにより1時間還流した。エタノールを添加し、バニリンアミンの塩酸塩を得た。該塩酸塩を95%エタノールで再結晶し、バニリンアミン塩酸塩(収率47.5%、融点216−218℃)を得た。
8−メチル−6−ノネン酸(トランス体)(1.96mmol)と塩化チオニル(5.88mmol)を室温で8時間撹拌し、次いで100℃で30分間加熱した。余分の塩化チオニルを減圧下で留去した。得られた酸クロライドをエーテルに溶解し、窒素雰囲気下、エーテルに懸濁したバニリルアミン(3.92mmol)に撹拌しながら加えた。混合物を室温で2時間放置し、次いで2時間穏やかに還流した。冷後、沈殿物を吸引ろ過により除去し、ろ液をエバポレートした。残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。得られた油状物は、ヘキサン−エーテル(2:1)で処理し、結晶固形物(収率79%、融点60−63℃)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の外用剤は、皮膚に対して安全であり、糖尿病性知覚神経機能異常から来る、例えば四肢の左右対称性の痛みやぴりぴりする異常感覚、知覚鈍麻の患者に適用することにより、痛みや異常感覚を緩和すると共に患者の身体に傷や潰瘍が生じている場合、患者に自身の傷や潰瘍を自身の痛みとして自覚、認識させることができる外用剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプサイシンを0.01〜0.3質量%含有することを特徴とする、患者の四肢に発生している傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍を患者が自覚症状として認識できる糖尿病性知覚神経機能異常を処置するための外用剤。
【請求項2】
(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを、0.01〜0.3質量%含有することを特徴とする、患者の四肢に発生している傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍を患者が自覚症状として認識できる糖尿病性知覚神経機能異常を処置するための外用剤。
【請求項3】
糖尿病性知覚神経機能異常が四肢の痛み、異常感覚または知覚鈍麻である請求項1又は2に記載の外用剤。
【請求項4】
液剤、クリーム、軟膏剤、ゲル剤またはパップ剤である請求項1〜3のいずれかに記載の外用剤。
【請求項5】
(6E)−N−[(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)メチル]−8−メチル−6−ノネンアミドを98質量%以上含有するカプサイシンを0.01〜0.3質量%含有する外用剤を、糖尿病性知覚神経機能異常を処置するために患者の四肢に適用することにより、患者が四肢の傷、胼胝、白癬菌症、壊疽又は潰瘍を早期に発見する方法。
【請求項6】
糖尿病性知覚神経機能異常が四肢の痛み、異常感覚または知覚鈍麻である請求項5に記載の方法。


【公開番号】特開2006−160644(P2006−160644A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352537(P2004−352537)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(393028036)丸石製薬株式会社 (20)
【Fターム(参考)】