説明

カプサイシン誘導体並びにその製造及び使用

本発明は新規化合物、即ちカプサイシン誘導体、これらの新規な製造方法、更には特に海洋施設、船舶及び陸上の施設又は資材のための塗料及びコーティング中の微生物忌避剤としての新規化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規化合物、即ちカプサイシン誘導体、これらの新規な製造方法、更には特に海洋施設、船舶及び陸上の施設又は資材のための塗料及びコーティング中の微生物忌避剤としての新規化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は、船体に汚れが無く平滑で且つ海洋生物の生育が無ければ、水域をより高速且つ低燃費で航行する。
【0003】
現在、船舶に付着する藻類や海洋植物、イガイ、シーチューリップ(sea tulips、以下フジツボと称する)等の生育の防止にはトリブチルスズ(TBT)が用いられている。これらが生育した場合には、摩擦が生じ、急激な燃費の上昇を招く。従って、TBTは所謂防汚塗料を製造するために船舶用塗料に添加される。TBTは、これに接触する海洋生物に対する毒性により、船舶の舷側の生物の生育を防止する。
【0004】
残念ながらTBTは環境に種々の悪影響を及ぼす。TBTは船舶の舷側に付着しようとする海洋生物に影響を及ぼすだけでなく、他の海洋生物に対しても毒性を有する。更に、TBTは海中食物連鎖に蓄積されて、種々の生物に好ましからざる発達をもたらすことが知られている。中でも、TBTはカキの殻構造の変形や、カタツムリの性転換、他の海洋種における免疫障害や神経毒・遺伝子的変化を起こすことが知られている。
【0005】
これらの情報を基に、国連の国際海事機関(IMO)は、船舶用塗料におけるTBTの全ての使用を禁止することを決定した。この禁止令は、世界の船舶総トン数の25%以上を運搬する、或いはIMO加盟国の25%を占める全ての国により批准され次第発効する。前述の最低必要条件が満たされなくても、この条約は遅くとも2008年1月1日には発効される予定である。
【0006】
従って、2008年1月以後はこの種の塗料におけるTBTの使用は全面的に禁止となる。更に、この種の塗料は物理的に除去するか、シーリング塗料で被覆して、水中にTBTが接することを防止しなければならない。
【0007】
故に、船舶用塗料中のTBTに代わり得る代替的無毒微生物忌避剤が必要とされている。
【0008】
本発明は、微生物忌避剤としてのTBTに代わり得る一群の新規化合物を提供する。この一群の新規化合物は、トウガラシ(capsicum annum)及び他のペッパー果実(capsicum fructus)から抽出される天然に存在する物質カプサイシンの新規誘導体である。
【0009】
前述のようにカプサイシン((E)−8−メチル−N−バニリル−6−ノネンアミド)はトウガラシから抽出される。この抽出物は船舶用塗料における微生物忌避剤として使用されていることが知られている。他の有用な薬理学的性質は、特に非特許文献1に記載されている。
【0010】
しかしながらカプサイシン抽出物は次の欠点を有するため、「防汚塗料」の成分としては好ましくない。
【0011】
第一に、この抽出物は天然原料に基づくため、十分な量を生産できるかどうかは原料の供給と同様、自然の変動に影響されがちである。無論、この原料は収穫物のサイズ、品質、価格等に依存する。今日、この原料供給は非常に不安定である。
【0012】
第二に、規格化されたカプサイシン抽出物は、少なくとも3種の異性体を含む。これら異性体全ての化学的性質は異なるが、異性体同士を区別することは困難である。従って、目的とする用途に適う純度と組成が十分に均一なカプサイシン抽出物を得ることは困難である。
【0013】
第三に、最近の船舶用塗料は、忌避剤が海水中に直ちに洗い出されることを防ぐために忌避剤をポリマーベースに化学結合させている。ポリマーベースに結合された忌避剤は、海水とポリマーベースとの反応が進むにつれ放出される。忌避剤の親水性が低いほど船舶用塗料が有する寿命は長くなる。天然カプサイシン抽出物は異なる化学的性質の数種の異性体からなり、これら異性体の水溶性は海水のpHにより変化する。このことにより、天然カプサイシン抽出物をベースとする忌避剤製品の溶解性は、制御不可能に変化するので望ましくない。
【0014】
米国特許第5143545号は、クロラムフェニコール等の抗菌活性剤を含む防汚塗料を開示している。ヒトの感染性疾患に対抗するするためのこの種の抗菌剤を広範囲に用いることによる抗菌剤耐性構築のリスクの観点から、防汚塗料においてこの種の活性成分の使用は避けるべきと言える。
【0015】
特許文献1は、カイエンヌペッパー粒子又はオレオレジンカプシウム誘導体粒子を活性剤として含む防汚塗料を開示している。これらカプサイシン又はカイエンヌペッパーをベースとする活性剤は、前述と同様な原料供給についての制限に影響されがちである。このことは、特許文献2に開示される防汚塗料についても同様である。この防汚塗料は、カプサイシン微粉末、オレオレジンカプサイシンの液体溶液又は結晶化カプサイシンを活性成分として含む。特許文献3はとりわけ、カプサイシンとアルキル置換基を有するバニリルアミド誘導体とを活性成分として含む防汚塗料を開示している。このバニリルアミド誘導体は、カプサイシンを抽出することにより製造される。特許文献4に開示される塗料はカプサイシンオレオレジンとサポニン化合物とを含む。
【非特許文献1】Dray,N.S.,Biochemical Pharmacology,44,(1992),611
【特許文献1】米国特許第5226380号
【特許文献2】米国特許第5397385号
【特許文献3】米国特許第5629045号
【特許文献4】米国特許第5698191号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の一目的は、有毒でなく海中食物連鎖に蓄積しないTBT代替品を提供することある。
【0017】
本発明の他の目的は、従来のカプサイシン製品の代替品であって、原料の供給不安定性及び価格品質の変動の問題を回避する代替品を提供することである。
【0018】
本発明の更なる目的は、従来のカプサイシン製品の代替品であって、一定の組成と高い製品純度で製造可能な代替品を提供することである。
【0019】
本発明の更なる目的は、従来のカプサイシン製品の代替品であって、一定の及び/又は低減された親水性を有する代替品を提供することである。
【0020】
更なる目的は、広範なスペクトルの生物学的活性を有する製品を提供することである。
【0021】
更なる目的は、許容される生態学的プロファイルを有する忌避製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
これらの目的は、次の詳細な記載と添付の請求の範囲に明らかにされる特徴により達成される。
【0023】
本発明は新規化合物、即ちフェニルカプサイシンと呼ばれる新規カプサイシンアルキン類似体を提供する。本発明に係る新規化合物は一般式(1):
【0024】
【化1】

【0025】
(式中、Rはアルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルカノイル、アロイル、アミノ、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、ニトロ及びトリフルオロメチルから成る群から選択される置換基を表し、該置換基Rが炭素鎖を含む場合、炭素鎖は直鎖でも分岐鎖でもよく、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルカノイル、アロイル、アミノ、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、ニトロ、トリフルオロメチルで更に置換されていてもよい)で表されることを特徴とする。
【0026】
Rが炭素鎖を含む場合、この炭素鎖は1〜8の炭素原子、より好ましくは2〜6の炭素原子を含む。式(1)で表される他の好ましい化合物は、R中に炭素数1〜4の炭素鎖を有する。
【0027】
式(1)で表される特に好ましい化合物においては、RがC1〜C4のアルキル、最も好ましい化合物においては、Rがイソプロピル又はプロピルである。
【0028】
一般に、式(1)で表される化合物は次の反応スキームA:
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、ZはCl、OH、R1O又はNR12、R1はアルキル、及びRはアルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルカノイル、アロイル、アミノ、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、ニトロ及びトリフルオロメチルから成る群から選択される置換基を表し、該置換基Rが炭素鎖を含む場合、炭素鎖は直鎖でも分岐鎖でもよく、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルカノイル、アロイル、アミノ、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、ニトロ、トリフルオロメチルで更に置換されていてもよい)で示されるように、カルボン酸誘導体(3)又はカルボン酸(即ちZがHO)をバニリルアミン(2)で転化して式(1)で表されるカプサイシン誘導体として製造することができる。
【0031】
カルボン酸誘導体(3)は、反応スキームAに示される反応に適した反応物であれば如何なるものでもよく、最も好ましくはエステル、アミド又は酸クロライドである。本明細書において、「カルボン酸誘導体(3)」とはカルボン酸(4)自身をも意味する。
【0032】
バニリンから得られるバニリルアミン化合物(2)は、Kaga,H.,Miura,M.及びKazuhiko,O.,J.Org.Chem.54(1989)3477の記載に従って製造することができ、収率42%が達成されている。
【0033】
他の反応物である化合物(3)又は(4)は、次の段階により製造することができる。即ち、保護された5−クロロ−1−ペンタノール(7)でアセチレン化合物(8)を保護されたアセチレンアルコール化合物(6)に転化し、化合物(6)の保護基を分解して非保護のアセチレンアルコール化合物(5)を製造し、化合物(5)を酸化してカルボン酸(4)を製造し、必要に応じてこの酸(4)をカルボン酸クロライド(3)に変換する。
【0034】
この反応段階を次の反応スキームBに示す。
【0035】
【化3】

【0036】
(式中、Rはアルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルカノイル、アロイル、アミノ、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、ニトロ及びトリフルオロメチルから成る群から選択される置換基を表し、該置換基Rが炭素鎖を含む場合、炭素鎖は直鎖でも分岐鎖でもよく、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルカノイル、アロイル、アミノ、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、ニトロ、トリフルオロメチルで更に置換されていてもよい)。
【0037】
本発明の一実施形態においては、式(1)で表される新規カプサイシンアルキン類似体を微生物忌避剤として用いることができる。この微生物忌避剤は、単体又は微生物忌避剤混合物中の一成分として塗料或いはコーティングに配合して最終製品とすることができ、この最終製品を塗布した表面において微生物や他の生物の生育を防止する。
【0038】
前述の忌避剤又は混合物は、式(1)で表される活性化合物の濃度として0.1〜50重量%、特に0.2〜10重量%となるように塗料或いはコーティングに添加することができる。最も好ましくは、式(1)で表される化合物をその濃度が0.5〜5重量%、特に0.3〜1重量%となるように塗料或いはコーティングに添加する。
【0039】
本発明の一実施形態は、式(1)で表される化合物の二種以上を組み合わせた微生物忌避剤である。
【0040】
本発明の別の実施形態は、式(1)で表される化合物と他の微生物忌避剤を組み合わせた微生物忌避剤である。
【0041】
本発明の他の実施形態は、溶媒、安定性調節剤(即ちシンナー又は増粘剤)及び/又は保存料等の一種以上の不活性添加物と式(1)で表される化合物との混合物である微生物忌避剤混合物である。
【0042】
本発明の更に他の実施形態は、貝殻、藻類、フジツボ、海洋植物若しくは菌類等の微生物又は他の小生物の生育を防止するために本発明に係る微生物忌避剤又は微生物忌避剤混合物が添加された塗料又はコーティングである。このような塗料は「防汚塗料」と称され、基本的に船舶、特に船体、又は養殖用柵、埠頭用構造物、桟橋等の海洋施設への使用を意図している。本発明に係る微生物忌避剤又は微生物忌避剤混合物は、例えば、防水表面又は他の望まれる性質を有する表面を形成するために塗料の上に塗布可能なコーティングにおいて使用することができる。
【0043】
本発明の更に他の実施形態は、陸上施設又は構造物、特に板材、木製パネル等の木材ベースの施設・構造物のための前記塗料又はコーティングである。
【0044】
生物学的実験
カプサイシンの生物学的活性を明らかにするために、次に記載するように生物学的実験を実施した。この実験により、カプサイシンが前述の生物学的活性と本発明の効果とを有することが示される。他の船底物質又は塗料において、カプサイシン及び/又は他の式(1)で表される化合物は、本実験での使用濃度において他の活性も達成した。
【0045】
実験スキーム
殺生物剤を含まないと表示されている船底塗料商品にカプサイシンを配合する。この塗料の商標は「Fabio EcoTM」であり、International Paint、Akzo−Nobelの製品である。塗料1kg当たりのカプサイシン濃度を、0g、1g及び5gの3濃度とした。まずカプサイシンをシンナー(International No.3)(10mL)に溶解し、次に塗料に混合した。Fabio Ecoとシンナー(10mL)のみの混合物を対照として用いた。塗料混合物は塗布前に一時間静置した。この塗料を複数のプレキシガラスパネル(11×11×0.2cm)に塗布した。
計15枚のパネルに塗布した。
パネル(5枚)は対照塗料(0g/kg カプサイシン)
パネル(5枚)は塗料(1g/kg カプサイシン)
パネル(5枚)は塗料(5g/kg カプサイシン)
【0046】
塗布後のパネルは、製造業者の処方に従って21℃で24時間放置乾燥した。パネルをアルミフレームに載置し、試験用いかだから海面下0.5〜1mの位置に懸架した。この試験用いかだを、海洋生物ラボの外部(水深10m)に浮かべた。パネルは2001年7月4日から2001年8月31日まで放置した。この期間は海洋生物、とりわけフジツボ(Balanus improvisus)が船体上に最も活発に生育する期間である。その後パネルを取り出して直ちに分析した。
【0047】
生育分析
パネルを次のように分析した。パネルは写真撮影した。
フジツボ(Balanus improvisus)による被覆率を評価した。ムラサキイガイ(Mytilus edulis)による被覆率を評価した。パネル上の全生育物を掻き落とし、湿重量を測定した。
【0048】
図面
実験結果を図1〜6に示す。これらから、塗料1kg当り5gのカプサイシン濃度で処理すると、対照処理に比べ有意に生育を低減させることがわかった。
【0049】
図1は棒グラフであり、3種の異なる表面処理によるフジツボ(Balanus improvisus)被覆率を示す。各バーは実験5回の平均と標準偏差を示す。
【0050】
このチャートから、塗料1kg当り5gのカプサイシンで処理した表面は、他の二種の処理に比べ有意に被覆率を低減させることがわかる(偏差の一因子分析、F2,12=40.5;p<0.0001)。生育低減率は、フジツボ被覆率でみると74%である。
【0051】
図2は図1と同様の方法によるムラサキイガイ(Mytilus edulis)被覆率を示す。各バーは実験5回の平均と標準偏差を示す。
【0052】
この棒グラフから、三種の処理間に統計的有意差はないことがわかる(偏差の一因子分析、F2,12=3.0;p>0.05)。
【0053】
図3は棒グラフであり、3種の異なる処理によるパネル上の全生育物の湿重量を示す。バーは実験5回の平均と標準偏差を示す。
【0054】
このグラフから、塗料1kg当り5gのカプサイシンでの処理は、他の二種の処理に比べ生育を統計数理的に低減させることがわかる(偏差の一因子分析、F2,12=12.6;p<0.001)。生育の低減は、全生育物の湿重量の低減率として64%である。
【0055】
図4は対照塗料(0g/kg)で処理した5表面の写真を示す。
【0056】
図5は最低濃度(1g/kg)で処理した5表面の写真を示す。
【0057】
図6は最高濃度(5g/kg)で処理した5表面の写真を示す。光学的比較によれば、図6の表面は対照表面と比較して明らかに大きな生育の低減が見られる。
【0058】
合成方法及びフェニルカプサイシンカプサイシノイド合成の試み
新規化合物の合成について以下詳細に説明する。本明細書末尾の文献リストに掲げた文献の一部を参照する。カプサイシン及び他のカプサイシノイドの合成法が数種知られている5-9。本発明においてはカプサイシンの海洋微生物に対する生物学的活性が特に注目されている。より強力なカプサイシノイドを製造するためにカプサイシン誘導体の合成方法を開発した。この合成方法においては、炭素−炭素二重結合を炭素−炭素三重結合に置き換えた。合成方法全体をスキーム1に示す。
【0059】
【化4】

【0060】
スキーム1 カプサイシンアルキン類似体の逆方向合成分析
カプサイシンアルキン類似体の合成方法はアルキン原料8(R=アリール、アルキル等)に対して一般的である。R基を変更することにより、種々のカプサイシンアルキン類似体を合成することができ、それによって生物学的活性を評価することができる。第一の標的分子1(R=Ph)は、アルキンフェニルアセチレン(8:R=Ph)、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンズアルデヒド(バニリン)(4)及び5−クロロ−1−ペンタノール(11)を原料として生産する。4−アミノメチル−2−メトキシフェノール(バニリルアミン)(2)は、文献記載のようにバニリン(4)から合成した6。5−クロロ−l−ペンタノール(11)は、標準的条件下でまずTHPエーテルとして保護した10、11。対応するTHPエーテル(10)が収率95%で生成した。THF中でリチウムフェニルアセチリドを用いた置換反応(SN2)を試みたが、所望の生成物(7)は得られなかった。これは、リチウムフェニルアセチリドが塩基として反応し、HClの10からの脱離(E2)が観察され、これにより対応するアルケンが唯一の生成物として得られたことによる。ナトリウムフェニルアセチリドにおいても同じ結果となった。この問題は、フィンケルシュタイン反応により10を対応するヨウ素体9に転化することにより解決された11-13。このようにして置換反応がうまく進行して、アルキン7が収率85%で生成した。7におけるTHP保護を酸触媒存在下で除去すると10、アルコール6がほぼ定量的収率(97%)で得られた。ブラウンのクロム酸酸化の改変法14によりカルボン酸5を90%の収率で得た。5は更にチオニルクロライドと反応し、対応する酸クロライド3を収率85%で生成した。この酸クロライド(3)とバニリルアミン(2)とのカップリング反応により、目的分子である7−フェニルヘプタ−6−イン−酸−4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアミド(1)を収率86%で得た。この化合物は本発明者の知る限りこれまでに合成されたことはない。本発明者らは、化合物1の慣用名としてフェニルカプサイシンを提案する。
【0061】
【化5】

【0062】
スキーム2 実験
全般
NMRスペクトル(300MHz 1H−NMRスペクトル及び75MHz 13C−NMRスペクトル)はバリアン300MHzスペクトロメーターを用いて得た。トリメチルシラン(TMS)を内部標準として用いた。1H−NMRスペクトルの化学シフトはTMSに対する相対値(ppm)である。13C−NMRスペクトルは重クロロホルム(δ76.9ppm)に対する相対値(ppm)である。薄層クロマトグラフィーはフルカ社のシリカゲルプレート(蛍光指示薬を有するシリカゲル/DCアルフォリンシリカゲル、商品番号60778)上で行った。スポットはUV光(λ=254nm)、MOP試薬(モリブダトリン酸(14g)/エタノール(125mL))又はCER−MOP試薬(モリブダトリン酸(5g)、硫酸セリウム(IV)(2g)及び98%H2SO4(16mL)/水(180mL))で検出し、熱風銃でシリカゲルプレートを加熱して展開した。薬品類は、フルカ、シグマ・アルドリッチ、アクロス、メルク及びランカスター社の商品を用いた。必要に応じて標準的な乾燥方法を採用した。無水テトラヒドロフランは、アルゴン雰囲気下でナトリウム−ベンゾフェノン−ケチルを用いて得た。
【0063】
2−(5−クロロペンチルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン(10)
5−クロロ−1−ペンタノール(12.26g、0.1mol)を無水ジクロロメタン(400mL)に溶解した。3,4−ジヒドロ−2H−ピラン(12.62g、0.15mol)及びピリジントルエン−4−スルホネート(1.26g、5mmol)を反応液に添加し、窒素雰囲気下室温で一晩磁気的手段で攪拌した。炭酸水素ナトリウム飽和溶液(150mL)を添加し、分相した。水相をジクロロメタンで抽出(4×25mL)した。ジクロロメタン相を合一し、水で洗浄(2×20mL)した後、MgSO4で乾燥させた。ジクロロメタンをロータリーエバポレータで留去し、19.6gの淡黄色の油状物を得た(収率95%)。NMRから、純物質であることが確認された。
【0064】
2−(5−ヨードペンチルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン(9)
2−(5−クロロペンチルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン(10)(20.67g、0.1mol)の無水アセトン(50mL)溶液を、磁気的手段で攪拌されたヨウ化ナトリウム(16.49g、0.11mol)の無水アセトン(150mL)溶液に滴下した。反応液を窒素雰囲気下で一晩還流した。冷却後析出した塩化ナトリウムを濾去し、アセトンをロータリーエバポレータで留去した。残渣は少量の塩化ナトリウムを含んでいたが、これを無水ペンタン(200mL)に溶解した。塩化ナトリウムを濾去し、ペンタンをロータリーエバポレータで留去し、26.2gの黄褐色の油状物を得た(収率88%)。NMRから、純物質であることが確認された。
【0065】
2−(7−フェニルヘプタ−6−イニルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン(7)
BuLi(33.3mL、50mmol、1.5M)を、磁気的手段で攪拌されたフェニルアセチレン(5.11g、50mmol)の無水テトラヒドロフラン(200mL)溶液に窒素雰囲気下0℃で滴下した。BuLi全量を添加した後、反応液を0℃で30分攪拌した。2−(5−ヨードペンチルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン(9)(14.91g、50mmol)の無水テトラヒドロフラン(100mL)溶液を0℃で滴下した。添加終了後反応液を室温に戻し、一晩還流した。反応を薄層クロマトグラフィー(TLC)でモニターした。原料の全量が転化された後、水(300mL)を添加し、水相を石油エーテル(沸点40〜60℃)(6×50mL)で抽出した。有機相を合一し、水で洗浄(4×25mL)した後、MgSO4で乾燥させた。石油エーテルをロータリーエバポレータで留去し、11.6gの生成物を得た(収率85%)。NMRから、純物質であることが確認されたので、更なる精製は必要なかった。
【0066】
7−フェニルヘプタ−6−イン−l−オール(6)
磁気的手段で攪拌された2−(7−フェニルヘプタ−6−イニルオキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン(7)(13.62g、50mmol)の無水メタノール(300mL)溶液にピリジントルエン−4−スルホネート(0.75g、3mmol)を添加した。反応液を55℃で攪拌し、TLCでモニターした。原料の全量が転化した後、メタノールをロータリーエバポレータで留去し、水(200mL)を得られた残渣の加えた。水相を石油エーテル(沸点40〜60℃)/Et2O 1:1(5×50mL)で抽出した。有機相を合一し、水で洗浄(2×20mL)した後、MgS04で乾燥させた。ロータリーエバポレータで留去し、9.1gの黄色の粘稠油状物を得た(収率97%)。TLC及びNMRから、純物質であることが確認された。
【0067】
7−フェニルヘプタ−6−イン酸(5)
7−フェニルヘプタ−6−イン−1−オール(6)(7.53g、40mmol)のアセトン(400mL)溶液を磁気的手段で攪拌し、該溶液にブラウンのクロム酸試薬(133mL、88mmol、0.66M)を0℃で徐々に滴下した。クロム酸の添加後、反応液を0℃で一時間攪拌し、原料全てが転化されたことがTLCで確認されるまで室温で攪拌した。水(300mL)を添加し、水相を石油エーテル(沸点40〜60℃)/Et2O 1:1(6×50mL)で抽出した。有機相を合一し、水で洗浄(2×25mL)した後、MgSO4で乾燥させた。ロータリーエバポレータで留去し、7.3gの淡黄色の粘稠油状物を得た(収率90%)。この油状物を放置すると結晶化した。TLC及びNMRから、純物質であることが確認された。
【0068】
7−フェニルヘプタ−6−イノイルクロライド(3)
7−フェニルヘプタ−6−イン酸(5)(4.05g、20mmol)とチオニルクロライド(7.14g、60mmol)との混合物を磁気的手段で攪拌し、2時間還流した(100℃)。過剰のチオニルクロライドをロータリーエバポレータで除去し、3.7gの褐色油状物を得た(収率85%)。TLC及びNMRから、純物質であることが確認された。
【0069】
バニリルアミン(2)
文献記載に従って、100mmolスケールでバニリルアミンを合成した6
【0070】
7−フェニルヘプタ−6−イン−酸−4−ヒドロキシ−3−メトキシルベンジルアミド(フェニルカプサイシン)(1)
バニリルアミン(2)(3.06g、20mmol)の無水Et20(75mL)懸濁液に、アルゴン下で7−フェニルヘプタ−6−イノイルクロライド(3)(10mmol、2.21g)の無水Et2O(25mL)溶液を滴下した。原料が転化されたことがTLCで確認されるまで反応液を還流した。ジエチルエーテルをロータリーエバポレータで除去し、2.9gの黄色の粘稠油状物を得た(収率86%)。この油状物を放置すると結晶化した。TLC及びNMRから、純物質であることが確認された。
【0071】
引用文献
[1] A. Dray, Biochem. Pharmacol. 1992,44, 611.
[2] M. J. Caterina, M. A. Schumacher, M. Tominaga, T. A.
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【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】3種の異なる表面処理によるパネル上のフジツボ(Balanus improvisus)被覆率を示す棒グラフ。
【図2】3種の異なる表面処理によるパネル上のムラサキイガイ(Mytilus edulis)被覆率を示す棒グラフ。
【図3】3種の異なる処理によるパネル上の全生育物の湿重量を示す棒グラフ。
【図4】対照塗料(0g/kg)で処理した5表面の写真。
【図5】最低濃度(1g/kg)で処理した5表面の写真。
【図6】最高濃度(5g/kg)で処理した5表面の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Rはアルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルカノイル、アロイル、アミノ、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、ニトロ及びトリフルオロメチルの群から選択される置換基を表し、該置換基Rが炭素鎖を含む場合、炭素鎖は直鎖でも分岐鎖でもよく、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルカノイル、アロイル、アミノ、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、オキソ、ニトロ、トリフルオロメチルで更に置換されていてもよい)で表されることを特徴とする化合物。
【請求項2】
RはC1〜C4アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Rはプロピル又はイソプロピルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
一般式(1)で表される化合物を製造する方法であって、カルボン酸(4)又はカルボン酸誘導体(3)をバニリルアミン(2)を用いて転化して式(1)で表されるカプサイシン誘導体を製造することを特徴とする方法。
【請求項5】
アセチレン化合物(8)を保護された5−クロロ−l−ペンタノール(7)を用いて転化して保護されたアセチレンアルコール化合物(6)を製造する段階と、
非保護のアセチレンアルコール化合物(5)を製造するために化合物(6)の保護基を分解する段階と、
アセチレンカルボン酸(4)を製造するために化合物(5)を酸化する段階と、
必要に応じてカルボン酸(4)をカルボン酸誘導体(3)、特に酸クロライド(3)に変換する段階とを更に含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
微生物忌避剤として使用する、式(1)で表される請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
式(1)で表される請求項1に記載の化合物の、微生物忌避剤混合物製造のための使用。
【請求項8】
式(1)で表される請求項1に記載の化合物の、船舶用塗料又はコーティング製造のための使用。
【請求項9】
式(1)で表される請求項1に記載の化合物の、海洋施設用の塗料又はコーティング製造のための使用。
【請求項10】
式(1)で表される請求項1に記載の化合物の、木材用塗料又はコーティング製造のための使用。
【請求項11】
式(1)で表される請求項1に記載の化合物の、陸上施設用の塗料又はコーティング製造のための使用。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−505104(P2007−505104A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526038(P2006−526038)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【国際出願番号】PCT/NO2004/000270
【国際公開番号】WO2005/025314
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(506065183)
【氏名又は名称原語表記】AXIMED AS
【Fターム(参考)】