説明

カプセル皮膜

【課題】医薬品、食品、化粧品等の幅広い分野において用いられるカプセル基剤として、独特の獣臭が低減され、遮光性に優れたゼラチンカプセル皮膜及びこれを用いたカプセルの提供。
【解決手段】カプセル基剤として、安価で毒性がなく、優れた機械的強度、崩壊性等を示すゼラチンの欠点である、牛、豚、魚等の動物に由来するゼラチン独特の獣臭を、杜仲葉の溶剤抽出物との併用により低減させ、さらにカプセル皮膜に遮光性を付与し、カプセル内容物のマスキング及び透過光による内容物の光変化(変色・分解等)を抑制するカプセル皮膜及びこれを用いたカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル皮膜及びそれを用いたカプセル、並びにカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプセルは、医薬品、食品、化粧品等の幅広い分野において用いられている。最も汎用されているカプセル基剤はゼラチンであり、ゼラチンカプセルは安価で毒性がなく、優れた機械的強度、崩壊性等を示す。しかし一方で、ゼラチンは、牛、豚、魚等の動物を原料とするため、ゼラチン独特の獣臭がすると云う問題が指摘されていた。
【0003】
また、カプセルには、遮光性を付与し、カプセル内容物の光変化(変色・分解等)を抑制する観点及び内容物をマスキングする観点等から、通常、着色剤が配合されている。カプセルを着色することは、識別性を与え摂取時の誤飲を低減する観点からも重要である。カプセルに用いられる着色剤としては、酸化チタン等の顔料、タール色素等の合成色素、カロチノイド系色素、フラボノイド系色素、カラメル色素等の天然色素がある。とりわけ、耐熱性、耐光性等に優れる酸化チタンやカラメル色素が汎用されている。
しかし、現在の日本の国内法令によれば、顔料や合成色素だけでなく、天然色素を使用した場合も製品への添加物の表示が義務づけられている。昨今の消費者の健康志向に伴って、添加物表示のいらない製品への要望が高まっており、着色剤を添加しなくても優れた遮光性を有するカプセル皮膜が求められているのが実状である。
【0004】
一方、杜仲は、トチュウ科トチュウ属の一科一属一種に分類される落葉性木本類で、樹高が20mに達する喬木である。杜仲の樹皮や葉は、医薬品、食品素材として広く利用されている。杜仲には種々の効能が知られており、例えば、杜仲葉は、高血圧抑制(非特許文献1)、高脂血症抑制(特許文献1)、血清VLDL減少、脳血管障害発生率低下(非特許文献2)、1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)改善(非特許文献3)等の作用を有することが報告されている。また、杜仲にメルカプタン等に対する消臭作用があることが報告されている(特許文献2)。
しかしながら、杜仲加工物をカプセル皮膜に配合することは何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3435415号公報
【特許文献2】特開2005−289952号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Health Sciences 2005;vol.21,No.2:198−210
【非特許文献2】日本栄養・食糧学会要旨集52;1998:260
【非特許文献3】Diabetes Research and Clinical Practice 2005;67:22−28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の如き従来の問題と実状に鑑みてなされたものであり、ゼラチン独特の獣臭が低減され、遮光性に優れたカプセル皮膜及びこれを用いたカプセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、当該課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、ゼラチンを含有するカプセル皮膜に杜仲加工物を共存させれば、ゼラチン独特の獣臭が低減され、さらにカプセル皮膜に遮光性を付与することができ、カプセル内容物のマスキング及び透過光による内容物の光変化(変色・分解等)の抑制に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ゼラチン及び杜仲加工物を含有することを特徴とするカプセル皮膜により上記課題を解決したものである。
また、本発明は、上記カプセル皮膜を用いて得られるカプセルにより上記課題を解決したものである。
また、本発明は、内容物をゼラチン及び杜仲加工物を含有するカプセル皮膜で成形したカプセルに充填するか、又は該カプセル皮膜で被包成形することを特徴とするカプセルの製造方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゼラチン独特の獣臭、すなわちゼラチン臭が低減され、遮光性に優れたカプセル皮膜及びこれを用いたカプセルを提供できる。本発明により得られるカプセルは、添加物表示が不要なため、添加物を含まない製品を望む消費者の要望に沿うものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられるゼラチンは、例えば、牛、豚、鶏、魚等の皮、骨、腱等を原料とし、酸又はアルカリで処理して得られる粗コラーゲンを加熱抽出して製造されたものが用いられる。また、ゼラチンの加水分解物や酸素分解物、アシル化ゼラチン等のゼラチン誘導体等を用いることもできる。
ゼラチンのゼリー強度は、100〜300gが好ましく、特に120〜270gが好ましい。ゼリー強度は、JIS K−6503(2001)に準拠して測定できる。
【0012】
カプセル皮膜におけるゼラチンの含有量は、カプセルの機械的強度や成形時の皮膜の均一性等を考慮して適宜検討すればよいが、乾燥質量で、50〜85質量%が好ましく、特に65〜80質量%が好ましい。
【0013】
本発明に用いられる杜仲加工物は、杜仲(Eucommia ulmoides oliver)の粉砕物(粗粉末、細粉末のいずれも含む)、杜仲を溶剤で抽出して得られる抽出物、その希釈液、濃縮液、乾燥末、顆粒又はペースト等が包含される。杜仲加工物は、市販品を使用してもよく、また、杜仲抽出物は、杜仲を後掲の抽出工程により取得してもよい。
【0014】
杜仲の使用部位は特に限定されず、適宜選択することが可能であるが、例えば、葉、樹皮、果実、種子、葉柄、木部、根、根茎等が例示される。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、ゼラチン臭を低減する点及び遮光性を付与する点から、葉を用いるのが好ましい。
抽出する際には、これらをそのまま使用しても、粉砕、切断、乾燥等の前処理を行ってもよい。
【0015】
抽出方法は、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超臨界抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出等のいずれでもよい。
抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他菜種油、オリーブ油、大豆油などのオイルなどが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用でき、溶剤を変えて繰り返し行うことも可能である。なかでも、水、アルコール類を用いるのが好ましい。水としては、例えば、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水が例示される。
【0016】
抽出は、例えば杜仲葉1質量部に対して1〜50質量部の溶剤を用い、室温(25℃)〜100℃で5分〜数時間、好ましくは30〜60分浸漬又は加熱還流するのが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる杜仲抽出物は、食品上・医薬品上許容し得る規格に適合し本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよく、さらに得られた粗精製物を公知の分離精製方法を適宜組み合わせてこれらの純度を高めてもよい。精製手段としては、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等が挙げられる。
【0018】
杜仲抽出物には、ゲニポシド酸が含まれていることが好ましく、本発明において杜仲抽出物中のゲニポシド酸濃度は、6〜100mg/g、特に20〜80mg/gであるのが好ましい。なお、ゲニポシド酸濃度は、例えば後記実施例に記載の高速液体クロマトグラフ法にて測定できる。
【0019】
カプセル皮膜における杜仲加工物の含有量は、ゼラチン臭を低減する点及び遮光性を付与する点から、乾燥質量でゼラチン100質量部に対して1質量部以上が好ましく、更に5〜40質量部、特に8〜20質量部が好ましい。杜仲加工物の含有量が40質量部より多いと粘性が高くなり、皮膜中に泡が残存し易くなる。
【0020】
本発明のカプセル皮膜には、必要に応じて、カプセル皮膜に用いられる各種添加剤、例えば、ゼラチン以外の水溶性高分子、可塑剤、防腐剤、水分活性低下剤、pH調整剤等を配合することができる。
可塑剤としては、例えば、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。カプセル皮膜における可塑剤の含有量は、柔軟性の点から、ゼラチン100質量部に対して20〜50質量部が好ましく、特に30〜40質量部が好ましい。
【0021】
カプセル皮膜は、常法に従って製造することができる。例えば、ゼラチン、杜仲加工物、さらに必要に応じて各種添加剤を水に攪拌・分散させて、55〜98℃で攪拌・溶解させた後、真空脱泡すればよい。この時、杜仲加工物は、予め水に溶解後、濾過してから用いるのが好ましい。濾過手段としては、吸引濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過、自然濾過のいずれでも良い。また、フィルターのかわりにふるいを使用し、前記濾過手段に準ずる篩過手段を採用することもできる。
【0022】
カプセル皮膜を所定形状に成形、乾燥することでカプセルが得られる。カプセルとしては、ソフトカプセル、ハードカプセルが挙げられ、なかでも、皮膜厚さの調整可能範囲が広いことなどから、ソフトカプセルが好ましい。
【0023】
カプセルの形状は、特に限定されず、例えば、オーバール(フットボール)型、オブロング(長楕円)型、ラウンド(球状)型等が挙げられる。
【0024】
カプセル皮膜の成形と内容物の充填のタイミングは、カプセルの種類によって異なるが、例えば、内容物を成形したカプセルに充填するか、又はカプセル皮膜で被包成形すればよい。
例えばソフトカプセルにするには、従来用いられているソフトカプセルの製法、例えばロータリー式全自動ソフトカプセル充填機等を用いた打ち抜き法、平板法、滴下法等を用いることができる。
【0025】
本発明のカプセルは、医薬品、医薬部外品、食品、化粧品等種々の用途に利用することができ、カプセル内容物の組成は用途に応じて適宜決定される。内容物の形態は溶液状、懸濁液状、ペースト状、粉末状、顆粒状等いずれであってもよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0027】
<原料>
原料は下記のものを使用した。
ゼラチン:(株)ニッピ製、豚皮由来酸処理ゼラチン
グリセリン:阪本薬品工業(株)製、食品添加物グレード
杜仲葉エキス:小林製薬(株)製、粉末原料、ゲニポシド酸濃度60mg/g以上
カラメル色素:仙波糖化工業(株)製、食品添加物グレード「BD−2」
【0028】
<ゲニポシド酸濃度の測定>
試料を濾過後、適宜希釈し、高速液体クロマトグラフを用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム(YMC−Pack ODS−A、φ6mm×15cm:(株)ワイエムシイ製)を装着し、カラム温度 室温、流量1.0ml/minで測定した。移動相は水、メタノール及びリン酸の混液とし、UV検出器波長は245nmの条件で行った。
【0029】
実施例1
(1)調製方法
杜仲葉エキスを水に溶解後、75μmふるいで自然篩過して溶液残渣を除去した。表1に示した量のゼラチン、グリセリン、杜仲葉エキス(乾燥質量換算)、カラメル色素をそれぞれ水に攪拌・分散させた後、60〜70℃で攪拌しながら溶解させ、真空脱泡して試料1−13を得た。各試料を、薄層クロマトグラフ用アプリケータを用いて、約1mmの厚さになるように均一に押し広げて、24時間乾燥した後フィルム状のソフトカプセル皮膜を得た。
【0030】
(2)遮光性の測定
上記(1)で得られたソフトカプセル皮膜の遮光性を、「波長555nmにおけるフィルム厚さ1mmの場合の空気に対する吸光度」を指標として測定した。
各フィルムの厚さ(D)〔mm〕を測定後、「日本分光社製 分光光度計 V-530」を用いて空気をブランクとして吸光度(A)を測定した。吸光度は光路長に比例することから(第8版食品添加物公定書解説書(廣川書店)、B-83頁<16.紫外可視吸光度測定法>)、吸光度の値(A)を光路長(=フィルム厚さ(D))で割ってフィルム厚さの誤差を補正した。
その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
上記表1から明らかなように、杜仲葉エキスを配合することで遮光性を付与できることが判る。杜仲葉エキスの配合量を増やすに従って遮光性が向上し、特に、杜仲葉エキスの配合量をゼラチン100質量部に対し、5質量部以上とすることで、可視光の透過度は概ね1割程度となり、優れた遮光性が得られる。一方、杜仲葉エキスの配合量が多くなると粘性が高くなり、皮膜中に泡が残存し易くなる傾向が見られたため、杜仲葉エキスの配合量としては40質量部以下、特に5〜40質量部が好ましかった。
【0033】
実施例2
(1)調製方法
実施例1と同様にして、表2に示した量のゼラチン、グリセリン、杜仲葉エキス(乾燥質量換算)、カラメル色素をそれぞれ水に攪拌・分散させた後、70℃で攪拌しながら溶解させ、真空脱泡してカプセル皮膜を得た。これらのカプセル皮膜を用いて、ロータリー式全自動ソフトカプセル充填機を使用し、植物油含有ソフトカプセル(試験例1−13)を製造した。
【0034】
(2)ゼラチン臭の評価
専門パネル6名により、各ソフトカプセルの「ゼラチン臭」を下記評価基準に従って評価し、平均を求めた。結果を表2に示す。なお、「ゼラチン臭」とは、「ゼラチン独特の獣臭」をいう。
〔ゼラチン臭の評価基準〕
3:ゼラチン臭を強く感じる
2:ゼラチン臭を感じる
1:ゼラチン臭をやや感じる
0:ゼラチン臭を感じない
【0035】
【表2】

【0036】
表2より明らかなように、杜仲葉エキスを配合することでゼラチン臭が低減されることが判る。杜仲葉エキスの配合量を増やすに従って低減効果が発揮され、特に、杜仲葉エキスをゼラチン100質量部に対して1質量部以上、特に5質量部以上とすることで、十分な低減効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン及び杜仲加工物を含有することを特徴とするカプセル皮膜。
【請求項2】
前記杜仲加工物を、ゼラチン100質量部に対して5〜40質量部含有する請求項1記載のカプセル皮膜。
【請求項3】
前記杜仲加工物が杜仲の溶剤抽出物である請求項1又は2記載のカプセル皮膜。
【請求項4】
前記杜仲の溶剤抽出物が杜仲葉の溶剤抽出物である請求項1〜3のいずれか1項記載のカプセル皮膜。
【請求項5】
カプセルがソフトカプセルである請求項1〜4のいずれか1項記載のカプセル皮膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のカプセル皮膜を用いて得られるカプセル。
【請求項7】
内容物をゼラチン及び杜仲加工物を含有するカプセル皮膜で成形したカプセルに充填するか、又は該カプセル皮膜で被包成形することを特徴とするカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2011−37731(P2011−37731A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184264(P2009−184264)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【出願人】(391010976)富士カプセル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】