説明

カメラ用フィルタ装置

【課題】駆動ピンによって同時に相反する方向へ回転させられるフィルタ羽根とバランス羽根とを備えているが、フィルタ羽根に取り付けたフィルタ板に傷が付かないようにしたカメラ用フィルタ装置を提供すること。
【解決手段】フィルタ羽根14は、一方の面に、その開口部14aを覆うようにしてフィルタ板16を取り付けていて、地板11に立設された羽根取付軸11cに回転可能に取り付けられている。逃げ孔15aを有しているバランス羽根15は、フィルタ羽根14の上記の一方の面側に重なるように配置されていて、地板11に立設された羽根取付軸11dに回転可能に取り付けられている。フィルタ羽根14とバランス羽根15は、駆動ピン17bによって同時に相反する方向へ往復回転させられるが、フィルタ板16は、常に逃げ孔15aの領域内に存在するため、バランス羽根15には摺接せず、傷を付けられるようなことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ羽根を回転させて露光開口に進退させるようにしたカメラ用フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、地板に対して回転可能に取り付けられていて駆動ピンの往復作動によって露光開口に進退させられる1枚の羽根のほか、地板に対して回転可能に取り付けられていて上記の駆動ピンの往復作動によって上記の羽根とは相反する方向へ同時に回転させられるバランス羽根(特許文献1ではバランス板)を設けるようにしたカメラ用羽根駆動装置が記載されている。そして、このカメラ用羽根駆動装置は、羽根が、露光開口に進入してストッパに当接したときにも、また、露光開口から退避してストッパに当接したときにも、バランス羽根の存在によってバウンドが抑制され好適に停止させられるので、露光開口の全開状態において、羽根を露光開口に近接して配置することが可能になり、地板の平面面積を小さくして、装置の小型化が可能になるという利点を有している。
【0003】
また、特許文献1には、このような構成をしたカメラ用羽根駆動装置は、シャッタ装置やレンズバリア装置とすることが可能であるが、羽根の形状や構成を変えることによって絞り装置にすることも、フィルタ装置にすることも可能であって、フィルタ装置にする場合は、上記の羽根に円形の開口部(露光開口より小さいのが普通であるが、略同じ大きさにすることもある)を形成し、その開口部を覆うようにフィルタ板を取り付けたものをフィルタ羽根にすればよいことが記載されている。本発明は、そのように、開口部を覆うようにしてフィルタ板を取り付けたフィルタ羽根と、上記のようなバランス羽根とを備えていて、それらを、駆動ピンの往復作動によって相反する方向へ回転させるようにしたカメラ用フィルタ装置に関するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2007−33602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フィルタ装置を特許文献1に記載されているように構成した場合は、フィルタ羽根は、駆動ピンによって往復回転させられるとき、地板などの羽根室を構成している部材に摺接することになるため、何らかの対策を講じておかないと、フィルタ板の表面が傷付けられてしまうことになる。そのため、従来から、このような構成をしているフィルタ羽根を使用する場合は、羽根室を構成している部材を、フィルタ板にだけは接触し得ない形状にするようにしている。しかしながら、羽根室を構成している部材は、フィルタ装置を構成している部材の中でも極めて大きな部材であって、複雑な形状をしているのが普通であることから、部品精度やコストのことを考えると、フィルタ板を傷付けないようにするためとはいえ、さらに複雑な形状にするのは好ましいことではない。そこで、そのような構成にしなくて済むようにするために、例えば特開2005−91656号公報に記載されているように、フィルタ羽根を、重ね合わせた3枚の部品で構成することも知られているが、そのような構成は、光軸に沿った方向の羽根室の寸法を大きくしたくないときには不都合である。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、開口部を覆うようにして一方の面にフィルタ板を取り付けているフィルタ羽根と、そのフィルタ羽根のフィルタ板を取り付けている側に重ねるようにして配置されたバランス羽根とを、地板に対して回転可能に取り付けておき、駆動ピンの往復作動によってそれらの羽根を相反する方向へ回転させ、フィルタ板で覆われているフィルタ羽根の開口部を、露光開口に進退させるようにしたフィルタ装置において、羽根室を構成している部材の形状を複雑にしたり、部品点数を多くしたり、羽根室の光軸に沿った方向の寸法を大きくしたりすることなく、フィルタ板に傷が付かないようにすることを可能にしたカメラ用フィルタ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のカメラ用フィルタ装置は、地板に対して回転可能に取り付けられており往復回転させられることによって露光開口に進退させる開口部と前記地板への取付部の近傍に形成された長孔とを有していて一方の面には該開口部を覆うようにしてフィルタ板を取り付けているフィルタ羽根と、前記フィルタ羽根の前記一方の面側に重なるようにして前記地板に対して回転可能に取り付けられており少なくとも前記フィルタ羽根の前記開口部と作動上重なる領域に形成された逃げ孔と前記地板への取付部の近傍に形成された長孔とを有していて前記フィルタ羽根とは慣性モーメントが略同じになるように形成されているバランス羽根と、前記フィルタ羽根の前記長孔と前記バランス羽根の前記長孔との両方に挿入された駆動ピンを有していて該駆動ピンを往復作動させることによって前記フィルタ羽根と前記バランス羽根を相反する方向へ往復回転させ前記フィルタ板で覆われている前記開口部を前記露光開口に進退させる駆動手段と、を備えているようにする。
【0008】
その場合、前記フィルタ板は、NDフィルタ板であって、前記フィルタ羽根には、少なくとも1箇所で熱溶着されているようにすると、加工が容易であって低コスト化が可能になる。また、前記フィルタ板は、前記フィルタ羽根に対し、前記開口部の径方向の1箇所で取り付けられており、その取付部とは前記開口部を間にしている部位が、前記逃げ孔の周辺近傍領域と常に接触し得るようにすると、取付部が1箇所であっても、フィルタ板が変形せず、平面形状が維持される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、開口部を覆うようにして一方の面にフィルタ板を取り付けているフィルタ羽根と、そのフィルタ羽根のフィルタ板を取り付けている側に重ねるようにして配置されたバランス羽根とを、地板に対して回転可能に取り付けておき、駆動ピンの往復作動によってそれらの羽根を相反する方向へ回転させ、フィルタ板で覆われているフィルタ羽根の開口部を、露光開口に進退させるようにしたフィルタ装置において、バランス羽根を、従来より大きくしても、逃げ孔を形成することによって慣性モーメントがフィルタ羽根と略同じになるようにすると共に、フィルタ板のうち開口部を覆っている領域が他の部材に摺接しなくなるので、従来のように、羽根室を構成している部材の形状を複雑にしたり、部品点数を多くしたり、羽根室の光軸に沿った方向の寸法を大きくしたりすることなく、フィルタ板に傷が付かないようにすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態を、図示した二つの実施例によって説明する。尚、図面は、図1〜図3が実施例1を説明するためのものであり、図4〜図6が実施例2を説明するためのものである。
【実施例1】
【0011】
図1〜図3を用いて本実施例を説明する。尚、図1は、フィルタ羽根が撮影光路用の開口部から退いている状態を示した平面図である。また、図2は、図1における構成部材の重なり状態を示すために、図1を略上下方向に切断し、右方向から見た断面図である。更に、図3は、フィルタ羽根が撮影光路用の開口部へ進入している状態を、図1と同様に見て示した平面図である。
【0012】
そこで先ず、図1及び図2を用いて本実施例の構成を説明する。図1の奥から手前側に向けて、いずれも平面形状の大きな地板1と、口径規制板2と、カバー板3とが順に配置されているが、図1においては、羽根室内の構成を分かり易くするために、カバー板3は、その一部だけを示してある。そして、それらの部材1,2,3には、それぞれ光軸を中心にした円形の開口部1a,2a,3aが形成されているが、本実施例の場合は、口径規制板2に形成されている開口部2aの直径が一番小さいため、露光開口は、この開口部2aが規制するようになっている。尚、カバー板3の開口部3aは、図1においては一部を二点鎖線で示してある。また、口径規制板2を配置して、その開口部2aで露光開口を規制するようにした理由は周知である。そのため、その説明は省略する。
【0013】
地板1は、合成樹脂製であって、平面の外形形状は円形をしているが、両面は複雑な形状をしている。即ち、図1から分かるように、この地板1のカバー板3側の面には、外周部に沿って略200度にわたって形成されている台部1bと、円形の台部1cとが形成されているほか、二つの羽根取付軸1d,1eと、二つのストッパ軸1f,1gと、二つの位置決めピン1h,1iとが立設されている。また、台部1bには二つのねじ穴1j,1kが形成されているほか、位置決めピン1mが立設されている。更に、台部1cにも、ねじ穴1nが形成されている。
【0014】
口径規制板2は、図2から分かるように、極めて薄い板部材であって、図1に示されているように、二つの位置決め孔2b,2cを、上記の位置決めピン1h,1iに嵌合させている。
【0015】
カバー板3は、全体の外形形状を明示していないが、地板1と略同じ形状をしていて、図示していない二つの位置決め孔を、上記の位置決めピン1h,1mに嵌合させ、上記の台部1b,1cに載置したとき、三つの孔が上記のねじ穴1j,1k,1nに重なるようになっており、それらの三つの孔からねじを挿入し、ねじ穴1j,1k,1nに螺合させることによって、地板1に取り付けられている。図1には、それらの三つのねじのうち、一つのねじ4だけが示されている。
【0016】
また、このカバー板3は、突出し部3bを形成しており、地板1に取り付けられたとき、その突出し部3bが口径規制板2を地板1に押し付けることによって変位不能にし、口径規制板2との間に羽根室を構成している。尚、図示していないが、カバー板3には、この突出し部3bと同じ役目をする部位が、少なくとも、もう1箇所形成されている。また、このカバー板3には、羽根取付軸1d,1eの先端と、ストッパ軸1gの先端と、位置決めピン1h,1i,1mの先端を挿入させる夫々の孔が形成されているほか、外周部には、ストッパ軸1fの先端と干渉しないように切欠き部が形成されている。
【0017】
羽根室内には、フィルタ羽根5とバランス羽根6とが配置されている。それらのうち、フィルタ羽根5は、バランス羽根6よりも地板1側に配置されており、口径規制板2の開口部2aよりも直径の小さい開口部5aと、上記の羽根取付軸1dに回転可能に嵌合させている孔5bと、その孔5bの近傍に形成されている長孔5cとを有している。そして、このフィルタ羽根5には、バランス羽根6側の面に、フィルタ板7が取り付けられている。本実施例の場合、フィルタ板7は、PET(ポリエチレンテレフタレート)の板材をプレス機で打ち抜いた後、一方の面の、一点鎖線よりも開口部5a側の領域にNDフィルタ材料を蒸着し、NDフィルタ板としたものであって、その蒸着面をバランス羽根6側に向け、NDフィルタ材料を蒸着していない領域の1箇所で、フィルタ羽根5に熱溶着されている。そして、図1においては、その溶着領域を長孔形状で示してある。
【0018】
尚、本発明のフィルタ板は、このようにして製作されたものに限定されないし、フィルタ羽根への取り付け方も、本実施例の取り付け方に限定されるものではない。例えば、フィルタ板は、PETなどの板材の両面にNDフィルタ材料を蒸着したものでも構わない。また、本実施例のように、PETの一方の面にNDフィルタ材料を蒸着して製作した場合でも、蒸着面を開口部5a側にしてフィルタ羽根5に取り付けても構わない。
【0019】
他方、バランス羽根6は、フィルタ羽根5よりもカバー板3側に配置されており、作動上、前記フィルタ羽根5の開口部5aと重なる領域よりも一回り大きな「へ」字状の逃げ孔6aを形成しているほか、上記の羽根取付軸1eに対して回転可能に嵌合させている孔6bと、その孔6bの近傍に形成されている長孔6cとを有している。そして、上記のフィルタ板7は、フィルタ羽根5に対する溶着部とは開口部6aを間にした反対側の部位が、このバランス羽根6の逃げ孔6aの周辺領域に対して常に接触し得るようになっている。また、本実施例では、作動時におけるこのバランス羽根6の慣性モーメントが、フィルタ板7を取り付けた状態におけるフィルタ羽根5の慣性モーメントと略同じになるようにしてある。
【0020】
尚、本実施例では、逃げ孔6aを「へ」字状に形成しているが、本発明の逃げ孔は、そのような形状に限定されるものではなく、作動上でフィルタ羽根5の開口部5aと重なる領域よりも大きくて、且つバランス羽根6の慣性モーメントが、フィルタ板7を取り付けた状態におけるフィルタ羽根5の慣性モーメントと略同じであるならば、どのような形状をしていても構わない。また、フィルタ板7が撓むことによって、フィルタ羽根5に対する溶着部とは開口部6aを間にして反対側になる部位が、フィルタ羽根5から離れてしまうような心配がなければ、その部位を、バランス羽根6の逃げ孔6aの周辺領域に対して常に接触し得るようにする必要もない。しかしながら、フィルタ板7を出来るだけ薄くしたいことを考えると、本実施例のようにするのが好ましい。
【0021】
図1において、地板1の背面側には、例えば特開2006−284800号公報にも記載されている電流制御式の電磁アクチュエータが取り付けられている。この電磁アクチュエータは、余りにもよく知られているため、詳細な図示を省略してあるが、地板1に立設されている回転子取付軸1pに、径方向に2極に着磁された永久磁石製の回転子8が回転可能に取り付けられており、その回転子8と一体の合成樹脂製の腕部8aの先端に設けられた駆動ピン8bが、地板1と口径規制板2とに形成された図示していない長孔を貫通し、羽根室内で、フィルタ羽根5の上記長孔5cと、バランス羽根6の上記長孔6cとの両方に嵌合している。そして、回転子8は、図示していないU字形のヨークに嵌装されている固定子コイルに対して、電流を正方向へ供給すると、初期位置から所定の角度だけ正方向へ回転し、電流を逆方向へ供給すると、逆方向へ回転して初期位置へ復帰するようになっている。
【0022】
尚、本実施例の電磁アクチュエータは、このような構成をしているが、電流制御式の電磁アクチュエータとしては、このほかにも、特許文献1に記載されているものも含め、種々のタイプのものが知られている。そのため、本発明の駆動ピンは、それらのいずれのタイプのものに備えられた駆動ピンでも構わないし、電流制御式の電磁アクチュエータではなく、ステップモータの回転子と一体の駆動ピンであっても構わない。更に、本発明の駆動ピンは、各種の電磁アクチュエータに備えられたものではなく、電磁アクチュエータを駆動源として、所定の角度範囲で往復回転させられる部材に設けられたものでも構わない。
【0023】
次に、図1及び図3を用いて、本実施例の作動を説明するが、図3では、カバー板3の図示を省略してある。図1は、撮影待機状態を示したものであり、フィルタ羽根5とバランス羽根6とは、露光開口を規制している口径規制板2の開口部2aから退いた状態になっている。このとき、電磁アクチュエータの図示していない固定子コイルには通電されていない。しかし、このとき、回転子8は永久磁石製であることから、周知のように、図示していないヨークとの間に作用する吸引力によって、時計方向へ回転する力が付与されており、フィルタ羽根5をストッパ軸1fに押し付けるようにして、この状態が維持されている。
【0024】
撮影に際してレリーズボタンが押されると、先ず、測光装置の測定結果によって、被写体光を減じて撮影するか減じないで撮影するかが決定される。そして、測光装置が、被写体光を減じないで撮影すると決定した場合は、電磁アクチュエータの上記の固定子コイルには電流が供給されず、本実施例のフィルタ装置は、図1の状態のままで、撮影が行なわれる。
【0025】
また、測光装置が、被写体光を減じて撮影すると決定した場合には、電磁アクチュエータの上記の固定子コイルに対して正方向の電流が供給される。そのため、回転子8は、図1の状態から反時計方向へ回転させられ、駆動ピン8bによって、フィルタ羽根5を反時計方向へ回転させ、バランス羽根6を時計方向へ回転させて、フィルタ羽根5の開口部5aを口径規制板2の開口部2aに進入させていく。そして、この作動中において、フィルタ板7のうち、フィルタ羽根5の開口部5aを覆っている領域は、常にバランス羽根6の逃げ孔6aの形成領域に対向しているので、バランス羽根6とは勿論のこと、カバー板3にも摺接するようなことがない。そのため、開口部5aを覆っているフィルタ板7の領域に、傷が付くようなおそれは全くない。
【0026】
このようにして、フィルタ羽根5とバランス羽根6が、同時に相反する方向へ回転させられてゆき、フィルタ羽根5の開口部5aの中心が、口径規制板2の開口部2aの中心に達すると、フィルタ羽根5がストッパ軸1gに当接する。そのため、フィルタ羽根5は、バウンドして時計方向へ回転しようとするが、バランス羽根6は依然として慣性で時計方向へ回転しようとしているので、フィルタ羽根5の時計方向の回転が抑制され、フィルタ羽根5とバランス羽根6の回転が直ちに停止させられる。図3は、その停止状態を示したものであるが、この停止状態が早期に得られるので、直ちに撮影を開始することが可能になって、撮影チャンスを逸することがなくなる。
【0027】
撮影が終了すると、電磁アクチュエータの固定子コイルに対して、今度は逆方向の電流が供給される。そのため、回転子8は、図3の状態から時計方向へ回転させられ、駆動ピン8bによって、フィルタ羽根5を時計方向へ回転させ、バランス羽根6を反時計方向へ回転させて、フィルタ羽根5の開口部5aを口径規制板2の開口部2aから退かせていく。そして、当然のことながら、この作動中においても、フィルタ板7のうち、フィルタ羽根5の開口部5aを覆っている領域は、バランス羽根6やカバー板3に摺接するようなことがない。
【0028】
このようにして、フィルタ羽根5とバランス羽根6が、同時に相反する方向へ回転させられてゆき、フィルタ羽根5が、口径規制板2の開口部2aから完全に退くと、その直後にフィルタ羽根5がストッパ軸1fに当接する。そのため、このときにも、フィルタ羽根5は、バウンドして反時計方向へ回転しようとするが、バランス羽根6は依然として慣性で反時計方向へ回転しようとしているので、フィルタ羽根5の反時計方向の回転が抑制され、フィルタ羽根5とバランス羽根6の回転が直ちに停止させられる。その後、固定子コイルへの通電を断った状態が、図1に示された次の撮影の待機状態である。このように、本実施例は、バウンドが抑制され、撮影待機状態が早期に得られるので、直ちに次の撮影を開始することが可能になる。また、バウンドが好適に抑制される結果、フィルタ羽根5とバランス羽根6を、口径規制板2の開口部2aに接近させて配置することができ、地板1の大きさ、即ちフィルタ装置の平面形状を小さくすることが可能になっている。
【実施例2】
【0029】
次に、図4〜図6を用いて実施例2を説明する。尚、図4は、フィルタ羽根が撮影光路用の開口部から退いている状態を示した平面図である。また、図5は、図4における構成部材の重なり状態を示すために、図4を略上下方向に切断し、右方向から見た断面図である。更に、図6は、フィルタ羽根が撮影光路用の開口部へ進入している状態を、図4と同様に見て示した平面図である。
【0030】
本実施例の構成は、上記の実施例1における口径規制板2を設けないようにしたことと、実施例1のように、フィルタ羽根にフィルタ板を1箇所で取り付けるのではなく、2箇所で取り付けるようにしたものである。また、それに伴い、その他の構成部材の形状が若干異なっているが、基本的には、実施例1の場合と同じである。また、本実施例の作動は、実施例1の場合と略同じである。そのため、本実施例の説明は簡単に行うことにする。
【0031】
上記したように、本実施例は、口径規制板を備えていない。そのため、地板11に形成されている開口部11aの直径が、カバー板12に形成されている開口部12aの直径よりも小さくて、露光開口を規制するようになっている。尚、図4においては、カバー板12は、実施例1のカバー板3の場合と同様に、その一部だけを示しており、開口部12aの一部を二点鎖線で示してある。
【0032】
地板11は、カバー板12側の面に、外周部の約250度にわたって一つの台部11bを有しているほか、二つの羽根取付軸11c,11dと、二つのストッパ軸11e,11fと、一つの位置決めピン11gとが立設されている。また、台部11bには三つのねじ穴11h,11i,11jが形成されているほか、位置決めピン11kが立設されている。
【0033】
地板11と略同じ外形形状をしているカバー板12は、図示していない二つの位置決め孔を、上記の位置決めピン11g,11kに嵌合させ、台部11bに載置したとき、三つの孔が上記のねじ穴11h,11i,11jに重なるようになっており、それらの三つの孔からねじを挿入し、ねじ穴11h,11i,11jに螺合させることによって、地板11に取り付けられているが、図4には、それらの三つのねじのうち、一つのねじ13だけが示されている。また、図示していないが、このカバー板12には、羽根取付軸11c,11dの先端と、ストッパ軸11fの先端と、位置決めピン11g,11kの先端を挿入させる夫々の孔が形成されているほか、外周部には、ストッパ軸11eの先端と干渉しないように切欠き部が形成されている。
【0034】
羽根室内には、フィルタ羽根14とバランス羽根15が配置されている。それらのうち、バランス羽根15よりも地板11側に配置されているフィルタ羽根14は、地板11の開口部11aと略同じ直径の開口部14aと、羽根取付軸11cに回転可能に嵌合させている孔14bと、その孔14bの近傍に形成されている長孔14cとを有している。そして、このフィルタ羽根14には、バランス羽根15側の面に、フィルタ板16が取り付けられている。このフィルタ板16は、PETの板材をプレス機で打ち抜いた後、バランス羽根15側の面の、2本の一点鎖線の間の領域にNDフィルタ材料を蒸着し、NDフィルタ板としたものであって、その2本の一点鎖線の外側の2箇所でフィルタ羽根14に熱溶着されている。図4においては、その溶着領域を円形で示してある。
【0035】
他方、バランス羽根15は、作動上、前記フィルタ羽根14の開口部14aと重なる領域よりも一回り大きな逃げ孔15aを形成しているほか、羽根取付軸11dに対して回転可能に嵌合させている孔15bと、その孔15bの近傍に形成されている長孔15cとを有している。そして、本実施例の場合も、作動時におけるこのバランス羽根15の慣性モーメントは、フィルタ板16を取り付けた状態におけるフィルタ羽根14の慣性モーメントと略同じになるようにしてある。
【0036】
地板11の背面側には、電流制御式の電磁アクチュエータが取り付けられているが、この電磁アクチュエータの構成は、上記の実施例1で説明した電磁アクチュエータと全く同じである。そのため、図1の場合と同様に、図4においては、地板11の回転子取付軸11mに回転可能に取り付けられている永久磁石製の回転子17と、その回転子17と一体化されている合成樹脂製の腕部17aと、その腕部17aの先端に設けられた駆動ピン17bだけが示されている。そして、駆動ピン17bは、地板11に形成された図示していない長孔を貫通し、羽根室内で、フィルタ羽根14の長孔14cと、バランス羽根15の長孔15cの両方に嵌合している。
【0037】
次に、図4及び図6を用いて本実施例の作動を簡単に説明する。図4は、撮影待機状態を示したものであり、フィルタ羽根14は、露光開口を規制している地板11の開口部11aから退いた状態になっている。このとき、電磁アクチュエータの図示していない固定子コイルには通電されていないが、永久磁石製の回転子17と図示していないヨークとの間に作用する吸引力によって、フィルタ羽根14は、ストッパ軸11eに押し付けられている。
【0038】
撮影に際してレリーズボタンが押されると、先ず、測光装置の測定結果によって、被写体光を減じて撮影するか減じないで撮影するかが決定され、被写体光を減じて撮影すると決定した場合には、電磁アクチュエータの固定子コイルに対して正方向の電流が供給される。そのため、回転子17は、図1の状態から反時計方向へ回転させられ、駆動ピン17bによって、フィルタ羽根14とバランス羽根15を相反する方向へ回転させて、フィルタ羽根14の開口部14a地板11の開口部11aに進入させていく。この作動中において、フィルタ板16は、常にバランス羽根15の逃げ孔15aの形成領域に対向しているので、バランス羽根15と摺接しないし、カバー板12とも摺接しない。そのため、フィルタ板16が傷付けられるようなことはない。
【0039】
このように作動してゆき、フィルタ羽根14の開口部14aの中心が、地板11の開口部11aの中心に達すると、フィルタ羽根14がストッパ軸11fに当接する。そのため、フィルタ羽根14は、バウンドして時計方向へ回転しようとするが、バランス羽根15は依然として慣性で時計方向へ回転しようとしているので、フィルタ羽根14のバウンドが抑制され、フィルタ羽根14とバランス羽根15の回転が停止する。図6は、その停止状態を示したものである。
【0040】
撮影が終了すると、電磁アクチュエータの固定子コイルに対して、今度は逆方向の電流が供給されるので、回転子17は、図6の状態から時計方向へ回転させられ、フィルタ羽根14の開口部14aを駆動ピン17bによって、フィルタ羽根14とバランス羽根15を相反する方向へ回転させ、地板11の開口部11aから退かせていく。そして、この作動中においても、フィルタ板16は、バランス羽根15やカバー板12に摺接しない。
【0041】
このようにして、フィルタ羽根14が、地板11の開口部11aから退くと、その直後にフィルタ羽根14がストッパ軸11eに当接するが、このときにも、フィルタ羽根14がバウンドしようとするのを、バランス羽根15の回転力で抑止され、フィルタ羽根14とバランス羽根15との回転が停止する。その後、固定子コイルへの通電を断つと、図4に示された次の撮影の待機状態に復帰したことになる。
【0042】
尚、上記の各実施例においては、羽根室内において、フィルタ羽根を地板側に配置し、バランス羽根をカバー板側に配置しているが、フィルタ板が両者の間に配置されるようにしさえすれば、それらの羽根の配置関係は逆であっても差し支えない。また、実施例1においては、口径規制板とカバー板の間に羽根室を構成し、実施例2においては、地板とカバー板との間に羽根室を構成しているが、本発明の羽根室は、そのような構成だけに限定されるものではない。例えば、本発明のフィルタ装置を、シャッタ装置と共に一つのユニットとして構成する場合には、周知のように、地板とカバー板の間を中間板(仕切り板ともいう)で仕切って、二つの羽根室を構成することがあるが、そのような場合においては、本発明の羽根室は、地板と中間板の間に構成された羽根室であることもあるし、中間板とカバー板との間に構成された羽根室であることもある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】フィルタ羽根が撮影光路用の開口部から退いている状態を示した実施例1の平面図である。
【図2】図1における構成部材の重なり状態を示した断面図である。
【図3】フィルタ羽根が撮影光路用の開口部へ進入している状態を示した実施例1の平面図である。
【図4】フィルタ羽根が撮影光路用の開口部から退いている状態を示した実施例2の平面図である。
【図5】図4における構成部材の重なり状態を示した断面図である。
【図6】フィルタ羽根が撮影光路用の開口部へ進入している状態を示した実施例2の平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1,11 地板
1a,2a,3a,5a,11a,12a,14a 開口部
1b,1c,11b 台部
1d,1e,11c,11d 羽根取付軸
1f,1g,11e,11f ストッパ軸
1h,1i,1m,11g,11k 位置決めピン
1j,1k,1n,11h,11i,11j ねじ穴
1p,11m 回転子取付軸
2 口径規制板
2b,2c 位置決め孔
3,12 カバー板
3b 突出し部
4,13 ねじ
5,14 フィルタ羽根
5b,6b,14b,15b 孔
5c,6c,14c,15c 長孔
6,15 バランス羽根
6a,15a 逃げ孔
7,16 フィルタ板
8,17 回転子
8a,17a 腕部
8b,17b 駆動ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地板に対して回転可能に取り付けられており往復回転させられることによって露光開口に進退させる開口部と前記地板への取付部の近傍に形成された長孔とを有していて一方の面には該開口部を覆うようにしてフィルタ板を取り付けているフィルタ羽根と、前記フィルタ羽根の前記一方の面側に重なるようにして前記地板に対して回転可能に取り付けられており少なくとも前記フィルタ羽根の前記開口部と作動上重なる領域に形成された逃げ孔と前記地板への取付部の近傍に形成された長孔とを有していて前記フィルタ羽根とは慣性モーメントが略同じになるように形成されているバランス羽根と、前記フィルタ羽根の前記長孔と前記バランス羽根の前記長孔との両方に挿入された駆動ピンを有していて該駆動ピンを往復作動させることによって前記フィルタ羽根と前記バランス羽根を相反する方向へ往復回転させ前記フィルタ板で覆われている前記開口部を前記露光開口に進退させる駆動手段と、を備えていることを特徴とするカメラ用フィルタ装置。
【請求項2】
前記フィルタ板は、NDフィルタ板であって、前記フィルタ羽根には、少なくとも1箇所で熱溶着されていることを特徴とする請求項1に記載のカメラ用フィルタ装置。
【請求項3】
前記フィルタ板は、前記フィルタ羽根に対し、前記開口部の径方向の1箇所で取り付けられており、その取付部とは前記開口部を間にしている部位が、前記逃げ孔の周辺近傍領域と常に接触し得るようにされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のカメラ用フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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