説明

カメラ用絞り装置

【課題】複数枚の絞り羽根の構成を工夫するだけで、小さい絞り開口が好適に得られるようにした、編み込み式のカメラ用絞り装置を提供する。
【解決手段】絞り駆動リング4が、地板1に回転可能に取り付けられている。絞り羽根6を絞り羽根5よりも地板1側に配置して1対とし、6対の絞り羽根5,6が、地板1に回転可能に取り付けられ、先端側を、いわゆる編み込み式にして相互に組み付けられている。絞り羽根5の方は通常の厚さをしていて連結ピン5bを有している。絞り羽根6の方は、絞り羽根5よりも薄く、カム溝6bを有している。そして、絞り羽根5の連結ピン5bは、絞り羽根6のカム溝6bと、絞り駆動リング4のカム溝4aの両方に挿入されている。この構成によって、大きい絞り開口は、6枚の絞り羽根5によって形成され、小さい絞り開口は6枚の絞り羽根6によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の絞り羽根が、協働して絞り開口を形成し、絞り駆動リングによって同時に同じ方向へ往復回転させられることによって、絞り開口の大きさを変化させるようにしたカメラ用絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の絞り羽根が絞り駆動リングによって同時に同じ方向へ回転させられることによって、協働して形成している絞り開口の大きさを変化させるようにしたタイプのカメラ用絞り装置(通常、多段絞り装置などと言われている)が知られているが、この種の絞り装置の場合には、複数枚の絞り羽根は、地板とカバー板との間に構成された羽根室内で、地板に対して回転可能に取り付けられていて、それらに設けられた連結ピンを、絞り駆動リングに形成された複数のカム溝に個別に嵌合させているのが普通である。他方、絞り駆動リングの方は、地板の羽根室側の面に光軸を中心にして環状に形成された凹部内に配置されていて、往復回転させられると、カム溝が上記の連結ピンを押すことによって、絞り羽根を往復回転させるように構成されている。
【0003】
また、絞り羽根と絞り駆動リングとの重なり配置関係は、絞り羽根が、絞り駆動リングと地板との間に配置されることもあるが、最近では、組立作業のし易さなどの理由から、絞り駆動リングとカバー板との間に配置されることが多い。更に、このような構成をした絞り装置は、単独でユニット化されることもあるが、コンパクトカメラに用いられる場合には、シャッタ装置と共にユニット化されるのが普通であり、その場合には、地板とカバー板の間を中間板で仕切り、中間板とカバー板の間をシャッタ羽根の羽根室にしている。そして、最近の絞り装置は、絞り駆動リングをステッピングモータで往復回転させるのが普通になっているが、手動で回転させるようにしたものもないわけではない。
【0004】
ところで、この種の絞り装置における絞り羽根は、全体的に細長い形状をしていて、一方の端部(以下、基端という)の近傍で地板に取り付けられており、露光開口を全開にしている位置(最大絞り開口制御位置)から絞り開口を小さくしていくときには、他端(以下、先端という)から露光開口に進入させ、光軸中心に近づけていくように構成されている。そのため、絞り羽根を単に順番に重ねて組み付けると、各絞り羽根は、それらの先端側から露光開口に進入していくとき、絞り駆動リングとの重なり量や、隣接する絞り羽根との重なり量が少なくなっていくため、姿勢が不安定になって、先端が光軸と平行な方向へふらつき易くなる。その結果、隣接する絞り羽根同士の先端面が接触しづらくなり、小さい絞り開口ほど適正に形成することができなくなる。そして、そのような現象は、露光開口の大きい絞り装置ほど顕著になる。
【0005】
そこで、通常、編み込み式といわれている、絞り羽根の組み付け方が知られている。この組み付け方は、全ての絞り羽根が、いずれも、他の2枚の絞り羽根の間に配置されているようにして組み付けるようにしたものである。この組み付け方を採用すると、絞り開口が小さくなるにしたがい、各絞り羽根の先端同士が絡み合って支え合う力が大きくなっていくため、絞り羽根を単に順番に重ねて組み付けた場合のように、ふらつきを生じることがなくなる。下記の特許文献1には、そのような編み込み式を採用したカメラ用絞り装置が記載されている。
【0006】
ところが、この編み込み式を採用した場合には、上記のようなふらつきを防止することはできるが、絞り開口を余り小さくすることができず、所定の大きさよりも小さくしようとすると、各絞り羽根が大きく撓まされ、それらの先端が光軸と平行な方向の一方へ盛り上がっていくようになり、やがて相互間に大きな軋みが生じ、それ以上は絞り開口を小さくすることができなくなったり、絞り開口を大きくするために逆方向へ回転させることが円滑に行えなくなってしまう。そこで、そのような編み込み式の絞り装置であっても、少しでも小さい絞り開口を安定して変化させることができるようにするために、従来から種々の工夫がなされているが、その一例が、下記の特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−195389号公報
【特許文献2】特開2008−134283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、最近のユーザーは、多機能なカメラや高機能なカメラを好むようになってきており、例えば、かなり暗い被写体でもフラッシュ装置を用いることなく綺麗に撮影できるようにしたカメラや、コンパクトカメラであっても動画撮影の可能なカメラなどを好むようになってきた。そのため、絞り装置の場合にも、従来のように低コスト化一辺倒ではなく、機能的に優れたものが要求されるようになってきており、編み込み式の絞り装置の場合には、より小さい絞り開口を安定的に制御できるようにしたものが強く要求されるようになってきた。
【0009】
そこで、そのような観点から特許文献2に記載されている絞り装置を見てみると、この絞り装置の場合には、従来の絞り装置よりも、小さい絞り開口を安定して得ることができるため、上記のような要求には充分に応え得る構成になっている。しかしながら、この絞り装置の場合には、地板と絞り駆動リングの各々に、光軸と垂直な面に対して傾斜していて複数の斜面を形成し、両者の斜面同士を摺接させることによって、絞り駆動リングを光軸に沿った方向へも移動させるようにした構成になっている。そのため、従来の絞り装置に比較して部品点数は増えないが、地板と絞り駆動リングを特殊な形状に加工しなければならず、また、絞り駆動リングに、これまでにない運動をさせることになるので、製作上からは必ずしも好ましいものとはいえない。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、複数枚の絞り羽根の構成を工夫するだけで、従来よりも小さい絞り開口が好適に得られるようにした、編み込み式のカメラ用絞り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のカメラ用絞り装置は、光軸を中心にした円形の開口部と該開口部の周囲に形成された凹部とを有している地板と、光軸を中心にして略等角度間隔に形成された複数の細長いカム溝を有していて駆動手段によって前記凹部内で光軸を中心にして往復回転させられる絞り駆動リングと、光軸を中心にして略等角度間隔に配置されていて長さ方向の一端近傍を前記地板に対して回転可能に取り付けられており長さ方向の略中央部には細長いカム溝を有している複数枚の第1絞り羽根と、光軸を中心にして略等角度間隔に配置されていて前記第1絞り羽根に個々に重合されて対をなすようにされておりその長さ方向の一端近傍を前記地板に対して回転可能に取り付けられ略中央部に設けた連結ピンを対をなしている前記第1絞り羽根のカム溝と前記絞り駆動リングのカム溝の両方に挿入しているようにした前記第1絞り羽根よりも厚い複数枚の第2絞り羽根と、を備えていて、前記一対の絞り羽根は、いずれも、隣接する他の二つの一対の絞り羽根の間に配置されており、前記絞り駆動リングが絞り開口を最大から最小にする方向へ回転させられると、その途中までは複数枚の前記第2絞り羽根の協働によって絞り開口が形成され、その後は最小絞り開口まで、複数枚の前記第1絞り羽根の協働によって絞り開口が形成されるようにする。
【0012】
その場合、前記第1絞り羽根は、対をなす前記第2絞り羽根よりも前記絞り駆動リング側に重ねて配置されているようにするのが好ましい。また、前記第1絞り羽根は、該第1絞り羽根に形成された孔を、前記地板に立設された軸に嵌合させることによって、前記地板に対して回転可能に取り付けられており、前記第2絞り羽根は、対をなす前記第1絞り羽根が前記地板に対して回転可能に取り付けられている近傍位置で、該第2絞り羽根に立設した軸を、前記地板に形成された孔に嵌合させることによって、前記地板に対して回転可能に取り付けられているようにするのが実用的である。更に、前記第2絞り羽根は、絞り開口形成縁に沿う領域が、絞り開口形成縁に向って薄くなっていくように形成されているようにすると、小さい絞り開口がより好適に形成し易くなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、従来の編み込み式の絞り装置に、従来の絞り羽根よりも薄い複数枚の絞り羽根を追加的に備えるようにして、それらの薄い絞り羽根を、従来の絞り羽根と対をなして作動させ且つ相対的にも作動するようにすることによって、所定の絞り開口よりも大きい絞り開口は、従来と同様な厚さの複数枚の絞り羽根の協働によって形成し、所定の絞り開口よりも小さい絞り開口は、従来の絞り羽根よりも薄い複数枚の絞り羽根の協働によって形成し得るようにしたものであるから、薄い方の絞り羽根の安定した作動を確保できるうえに、その薄い方の複数枚の絞り羽根によって、従来よりも小さい絞り開口を好適に形成することができるという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例の分解斜視図である。
【図2】最大の絞り開口の制御状態を示した実施例の平面図である。
【図3】図2の状態から途中まで絞り込んだ状態を示した平面図である。
【図4】図3の状態よりもさらに絞り込んだ状態を示した平面図である。
【図5】最小の絞り開口の制御状態を示した実施例の平面図である。
【図6】図5の状態を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を、図示した実施例によって説明する。本発明のカメラ用絞り装置は、単体の絞り装置として構成することも、シャッタ装置と共にユニット化した絞り装置として構成することも可能であるが、実施例は、単体の絞り装置として構成したものである。尚、各図においては、カメラへの取付け構成の図示が省略されている。また、図1〜図5においては、図6に示されているカバー板2の図示と、地板1に対するカバー板2の取付け構成の図示が省略されている。
【実施例】
【0016】
先ず、本実施例の構成を説明する。本実施例のカメラ用絞り装置は、地板1と、図6にだけ示されているカバー板2との間に羽根室を構成している。地板1は、合成樹脂製であって、その中央部には、光軸を中心にした円形の開口部1aが形成されている。また、カバー板2は、合成樹脂製又は金属製であって、地板1と略同じ外形形状をしており、その中央部には、光軸を中心にした円形の開口部2aが形成されている。そして、被写体光路用の開口部である露光開口(即ち、最大絞り口径)は、通常、開口部1a,2aのうちの直径の小さい方によって規制されることになるが、図6においては、便宜上、両者の直径は同じになるようにして示されている。
【0017】
地板1の羽根室側の面には、凹部1bが、光軸を中心にして環状に形成されている。そして、凹部1bの略円形をした側壁には、光軸を中心にした5箇所の角度位置に、凹状の円弧面を有するガイド部1cが、凹部1bの縁から底面までの深さにわたって形成されており、また、光軸を中心にした3箇所の角度位置に、凸状の円弧面を有する抜け止め部1dが、凹部1bの縁から所定の深さまでの厚さに形成されている。更に、凹部1bの底面には、光軸を中心にした略等角度間隔の6箇所に、円弧状をした逃げ孔1eも形成されている。尚、本実施例の場合には、それらの逃げ孔1eは地板1を貫通していないが、貫通するように形成しても構わない。
【0018】
また、地板1の羽根室側の面には、光軸を中心にした略等角度間隔の6箇所に、羽根取付け孔1fが、凹部1bを囲むようにして形成されており、それらの羽根取付け孔1fの近傍位置には、各々羽根取付け軸1gが、光軸を中心にして略等角度間隔に立設されている。更に、地板1の羽根室側の面には、その半分弱が凹部1bにかかるようにして、凹部1bよりも深い円形の凹部1hが形成されており、その底面に立設された軸1iには、2段歯車3が回転可能に取り付けられている。尚、図示していないが、凹部1hは、実際には、その側壁の一部に窓を有していて、地板1の反対側の面に通じており、地板1の反対側の面に取り付けられたステッピングモータによって回転させられる歯車が、2段歯車3の大きい方の歯車部に噛合するようになっている。
【0019】
上記の凹部1b内には、絞り駆動リング4が、その外周面を、上記の五つのガイド部1cに摺接し得るようにして配置されている。また、この絞り駆動リング4は、光軸を中心にして略等角度間隔に形成された六つの細長いカム溝4aを有しており、外周面には、所定の角度範囲にわたって形成された部分歯車部4bと、3箇所に形成された切欠き部4cを有している。尚、本実施例においては、この絞り駆動リング4の内径は、開口部1aの直径と同じになっているが、本発明は、必ずしもそのようにする必要はない。内径を開口部1aの直径より大きくしてもよいし、内径を開口部1aの直径より小さくして露光開口(最大絞り開口)を規制するようにしても構わない。
【0020】
そして、この絞り駆動リング4は、その三つの切欠き部4cを、上記の三つの抜け止め部1dの位置に合わせるようにして凹部1b内に落とし込まれており、その部分歯車部4bを、上記の2段歯車3の小さい方の歯車部に噛合させている。そのため、この絞り駆動リング4は、ステッピングモータの往復回転によって、2段歯車3を介して、所定の回転角度範囲で往復回転させられるようになっているが、その所定の回転角度範囲では、三つの切欠き部4cの位置が、上記の三つの抜け止め部1dの位置とは重ならないように組まれている。
【0021】
このようにして、絞り駆動リング4が組み付けられた後に、本実施例の場合には、合計12枚の絞り羽根が組み付けられている。即ち、本実施例の絞り装置は、通常の厚さをしていて同じ形状をした6枚の絞り羽根5と、その絞り羽根5よりもかなり薄くて同じ形状をした6枚の絞り羽根6を備えている。そして、絞り羽根5は、長さ方向の一端である基端近傍に羽根軸5aを立設しており、長さ方向の略中央部には連結ピン5bを設けている。また、絞り羽根6は、長さ方向の一端である基端近傍に取付け孔6aを形成しており、長さ方向の略中央部にはカム溝6bを形成している。
【0022】
更に、本実施例の場合には、後述の作動説明から分かるように、絞り羽根5は、開口部1a側のかなりの縁が絞り開口形成縁になり、絞り羽根6は、先端近傍における開口部1a側の一部の縁が絞り開口形成縁になる。また、絞り羽根5の方は、その絞り開口形成縁に沿った領域が、図6に示されているように、カバー板2側の面を傾斜面とすることによって、絞り開口形成縁に向って徐々に薄くなるように形成されている。しかし、地板1側の面を傾斜面にしても構わない。そして、このような形状をした絞り羽根5,6は、1枚づつで対をなすように重ねられ、合計6対の絞り羽根が、次のようにして、地板1に組み付けられている。
【0023】
先ず、1対ごとの絞り羽根5,6は、絞り羽根6が絞り駆動リング4側に配置され、絞り羽根5がカバー板2側に配置されていて、絞り羽根6の方は、その取付け孔6aを地板1の羽根取付け軸1gに対して回転可能に嵌合させているが、絞り羽根5の方は、その羽根軸5aを地板1の羽根取付け孔1fに対して回転可能に嵌合させていると共に、その連結ピン5bを絞り羽根6のカム溝6bと絞り駆動リング4のカム溝4aに対して順に挿入している。そして、このような6対の絞り羽根は、いかなる1対の絞り羽根も、他の二つの1対の絞り羽根の間に重ねられているようにして、地板1に組み付けられている。
【0024】
尚、本実施例の絞り羽根6の厚さは、上記したように、かなり薄いので、非常に撓み易い。即ち、絞り羽根6は、6枚の絞り羽根6だけで絞り開口を変化させるように構成すると、編み込み式に組み付けられている場合であっても、小さい絞り開口を制御するときには、長さ方向の略中央の部位が撓んでしまい、適正な絞り開口を制御できくなるほどの厚さである。そのため、本実施例では、全ての絞り羽根を組み付けた後、その状態で運搬するときや、さらに他の部材を取り付けるときなどに、絞り羽根6が損傷しないようにするために、各々の1対の絞り羽根5,6は、薄い方の絞り羽根6を絞り駆動リング4側にして組み付けている。しかし、本発明は、そのような組付け方に限定されず、薄い方の絞り羽根6がカバー板2側となるように組み付けても構わない。
【0025】
また、本実施例の場合、各々の1対の絞り羽根5,6は、反時計回り方向に隣接している1対の絞り羽根5,6の方が、必ずカバー板2側にあるようにして組み付けられている。しかし、時計回り方向に隣接している1対の絞り羽根5,6の方が、必ずカバー板2側にあるようにして組み付けるようにしても構わない。また、本実施例の絞り羽根5は、その羽根軸5aを地板1の羽根取付け孔1fに嵌合させているが、絞り羽根6のように、羽根軸5aの代りに孔を形成し、その孔を地板に立設した羽根取付け軸に嵌合させるようにしても差し支えない。また、絞り羽根6の方も、絞り羽根5のように、取付け孔6aの代りに羽根軸を立設し、その羽根軸を地板に形成した羽根取付け孔に嵌合させるようにしても構わない。更に、本実施例の絞り装置の場合には、6対の絞り羽根5,6を備えているが、5対であっても7対であってもよいことは言うまでもない。
【0026】
次に、本実施例の作動を、図2〜図6を用いて説明するが、図3〜図5においては、6対のうち、各図の左方位置に取り付けられている1対の絞り羽根5,6に対してだけ、部材と部位の符号を付けてある。そこで先ず、図2は、6対の絞り羽根5,6が開口部1aを全開にしている状態、即ち最大絞り開口の制御状態を示したものである。このとき、絞り羽根5の連結ピン5bは、絞り羽根6に形成されているカム溝6bの中では、開口部1aに近い方の端の近傍にあり、絞り駆動リング4のカム溝4aの中では、開口部1aから遠い方の端の近傍にある。
【0027】
被写体光が、所定の明るさよりも暗い場合には、このままで撮影が行われる。しかし、被写体光が、所定の明るさよりも明るい場合には、ステッピングモータが回転し、2段歯車3を反時計方向へ回転させる。それによって、絞り駆動リング4は、時計方向へ回転させられるので、そのカム溝4aの縁が連結ピン5bを押すことによって6枚の絞り羽根5を反時計方向へ回転させると同時に、その連結ピン5bがカム溝6bの縁を押すことになるので、6枚の絞り羽根6も同時に反時計方向へ回転させることになる。そのため、12枚の絞り羽根5,6は、いずれも反時計方向へ回転させられ、それらの先端側から開口部1a内に進入していく。
【0028】
ところで、本実施例の場合には、1対の絞り羽根5,6は、異なる位置で回転させられるので、それらの回転位置から連結ピン5bまでの距離は異なっている。また、連結ピン5bが挿入されている絞り羽根6のカム溝6bは、独特の形状に形成されている。そのため、上記のようにして絞り羽根5,6が同時に反時計方向へ回転させられるときには、それらの回転速度(回転角度)は異なるし、その回転速度も相対的に変化するようになっている。そこで、本実施例の場合には、絞り羽根5,6が、図2の状態から、共に反時計方向へ回転を開始させられると、絞り羽根5が絞り羽根6よりも先に開口部1aに侵入してゆき、6枚の絞り羽根5の協働によって絞り開口を形成し、大きさを小さくしていくことになる。
【0029】
その後、本実施例の絞り装置がスチルカメラに採用されている場合には、所定の絞り開口が得られたところでステッピングモータの回転が停止し、撮影が行われることになるし、ムービーカメラに採用されている場合には、被写体光の変化に対応して、ステッピングモータが正転したり逆転したりして、常に適正な露光条件での撮影が行われるように絞り開口を変化させることになる。図3は、そのようにして、絞り開口の大きさが、制御範囲の中間の大きさよりも絞り開口寄りの大きさになっているときの状態を示したものであるが、本実施例の場合には、この状態のときにも、絞り開口は、6枚の絞り羽根5の協働で形成されている。つまり、本実施例の場合には、図2の状態から図3の状態になるまでは、絞り開口が、すべて6枚の絞り羽根5の協働によって形成されるようになっている。
【0030】
そして、図3に示された状態から、絞り駆動リング4が、さらに時計方向へ回転させられたときには、絞り駆動リング4のカム溝4aと絞り羽根6のカム溝6bとの作用により、絞り羽根5の反時計方向への回転速度は急に遅くなり、絞り羽根6の反時計方向への回転は急に速くなる。そのため、それ以後は、絞り羽根5の先端近傍部よりも絞り羽根6の先端近傍部の方が光軸に向けて先行することになり、6枚の絞り羽根6の協働によって絞り開口が形成されるようになる。図4は、そのようにして、薄い6枚の絞り羽根6の協働によって絞り開口が形成されるようになった初期段階の状態を示したものである。
【0031】
このような図4の状態から、さらに絞り駆動リング4が時計方向へ回転させられると、1対をなしている絞り羽根5,6の先端部における光軸側の縁の相互間隔が益々大きくなっていくと共に、それらの縁が徐々に地板1側に盛り上がっていくようになる。そして、それ以上盛り上がると、厚い方の6枚の絞り羽根5に軋みが生じ、絞り駆動リング4が反時計方向へ逆転させられたとき、絞り羽根5が円滑に作動しなくなってしまうようになる限界状態が、図5及び図6に示された状態である。即ち、図5及び図6の状態が、本実施例における最小絞り開口の制御状態である。
【0032】
尚、本実施例の場合には、上記したように、各々の1対の絞り羽根5,6は、図2において、反時計回り方向に隣接している1対の絞り羽根5,6の方が、必ずカバー板2側にあるようにして組み付けられている。そのため、絞り羽根6は、上記のように、対をなしている絞り羽根5の撓みに応じて地板1側に盛り上がっていくが、図2において、時計回り方向に隣接している1対の絞り羽根5,6の方が、必ずカバー板2側にあるようにして組み付けられている場合には、そのカバー板2側にある1対の絞り羽根5,6の絞り羽根6が、その直前に組み付けられている1対の絞り羽根5,6のうちの絞り羽根5の撓みに応じてカバー板2側に盛り上がっていくことになる。
【0033】
このようにして絞り開口を小さくしていくとき、本実施例の場合には、6枚の絞り羽根5の作動に軋みが生じるのを少しでも遅くするために、上記したように絞り羽根5の絞り開口形成縁に沿った領域に傾斜面を形成して、出来るだけ撓み易くはしているが、それでも、図5及び図6に示された状態が限界である。そのため、もしも、本実施例において薄い方の6枚の絞り羽根6を備えていないと仮定した場合には、図4と図5を比較してみれば分かるように、本実施例の場合における図4の絞り開口の大きさすら制御できないことになる。しかし、本実施例の場合には、絞り羽根5の撓みに応じて撓まされた絞り羽根6の絞り開口形成縁が、絞り羽根5の絞り開口形成縁よりも光軸に近いところで絞り開口を形成するので、図5に示されているような極めて小さい絞り開口を好適に形成することができるようになっている。
【0034】
このようにして、絞り開口が制御され、撮影が終了すると、ステッピングモータが2段歯車3を時計方向へ回転させるので、絞り駆動リング4は反時計方向へ回転させられ、全ての絞り羽根5,6を同時に時計方向へ回転させる。そして、それらの回転は、絞り羽根5,6が開口部1aを全開にしたところで停止し、図2の状態で次の撮影に備えることになる。尚、本実施例の作動は、図2が撮影開始前の状態であることを前提にして説明したが、カメラの設計仕様によっては、どのような状態を撮影開始前の状態にしてもよいことは言うまでもない。また、ムービーカメラの場合には、撮影が終了した段階では絞り駆動リング4を回転させず、次の撮影時には、その状態から、いずれかの方向へ回転させるようにしてもよい。
【0035】
また、本実施例の場合には、1対の絞り羽根5,6を、地板1の異なる位置で回転可能に取り付けているが、例えば、絞り羽根6の取付け孔6aを、絞り羽根5の羽根軸5aに嵌合させるようにすることも可能である。その場合には、少なくとも、絞り羽根6を、本実施例とは異なる形状にしなければならないことは言うまでもない。更に、既に述べたように、本発明は、絞り装置とシャッタ装置とを一つのユニットとしたものにも適用することが可能である。その場合の一例としては、本実施例の地板1とカバー板2との間を中間板で仕切ることによって二つの羽根室を構成し、地板1と中間板との間を本実施例のように構成し、中間板とカバー板2との間の羽根室にはシャッタ羽根を配置して、そのシャッタ羽根に開閉作動を行わせるアクチュエータを、上記のステッピングモータを取り付けた地板1の面に取り付けるようにするのが一般的である。
【符号の説明】
【0036】
1 地板
1a,2a 開口部
1b,1h 凹部
1c ガイド部
1d 抜け止め部
1e 逃げ孔
1f 羽根取付け孔
1g 羽根取付け軸
1i 軸
2 カバー板
3 2段歯車
4 絞り駆動リング
4a,6b カム溝
4b 部分歯車部
4c 切欠き部
5,6 絞り羽根
5a 羽根軸
5b 連結ピン
6a 取付け孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸を中心にした円形の開口部と該開口部の周囲に形成された凹部とを有している地板と、光軸を中心にして略等角度間隔に形成された複数の細長いカム溝を有していて駆動手段によって前記凹部内で光軸を中心にして往復回転させられる絞り駆動リングと、光軸を中心にして略等角度間隔に配置されていて長さ方向の一端近傍を前記地板に対して回転可能に取り付けられており長さ方向の略中央部には細長いカム溝を有している複数枚の第1絞り羽根と、光軸を中心にして略等角度間隔に配置されていて前記第1絞り羽根に個々に重合されて対をなすようにされておりその長さ方向の一端近傍を前記地板に対して回転可能に取り付けられ略中央部に設けた連結ピンを対をなしている前記第1絞り羽根のカム溝と前記絞り駆動リングのカム溝の両方に挿入しているようにした前記第1絞り羽根よりも厚い複数枚の第2絞り羽根と、を備えていて、前記一対の絞り羽根は、いずれも、隣接する他の二つの一対の絞り羽根の間に配置されており、前記絞り駆動リングが絞り開口を最大から最小にする方向へ回転させられると、その途中までは複数枚の前記第2絞り羽根の協働によって絞り開口が形成され、その後は最小絞り開口まで、複数枚の前記第1絞り羽根の協働によって絞り開口が形成されるようにしたことを特徴とするカメラ用絞り装置。
【請求項2】
前記第1絞り羽根は、対をなす前記第2絞り羽根よりも前記絞り駆動リング側に重ねて配置されていることを特徴とする請求項1に記載のカメラ用絞り装置。
【請求項3】
前記第1絞り羽根は、該第1絞り羽根に形成された孔を、前記地板に立設された軸に嵌合させることによって、前記地板に対して回転可能に取り付けられており、前記第2絞り羽根は、対をなす前記第1絞り羽根が前記地板に対して回転可能に取り付けられている近傍位置で、該第2絞り羽根に立設した軸を、前記地板に形成された孔に嵌合させることによって、前記地板に対して回転可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のカメラ用絞り装置。
【請求項4】
前記第2絞り羽根は、絞り開口形成縁に沿う領域が、絞り開口形成縁に向って薄くなっていくように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のカメラ用絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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