説明

カラーフィルタの製造方法

【課題】インキジェット方式により各画素が印刷されるカラーフィルタにおいて、撥インキ剤を含む隔壁の品質を向上させることにより、各画素に混色や白抜け不良、ムラが無く、平坦で均一な着色層を有するカラーフィルタを、安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】隔壁を構成する撥インキ剤を含む感光性樹脂組成物を基板上に塗布した後、その乾燥工程において、二段階以上の減圧乾燥工程によって乾燥させる。この減圧乾燥において、一段階目の到達圧が5000〜50000Paの範囲であり、二段階目の到達圧が、500Pa以下となるようにする。さらに、感光性樹脂組成物に含まれる溶剤に沸点が100℃以上130℃以下の溶剤を10〜70%含み、180℃以下の温度で隔壁を熱硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放射型表示装置、蛍光表示装置、プラズマディスプレイ(PDP)及び液晶表示装置などに用いるカラーフィルタ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶表示装置等に用いられるカラーフィルタは、カラー液晶表示装置等に不可欠な部材で、液晶表示装置の画質を向上させたり、各画素にそれぞれの原色の色彩を与えたりする役割を有している。このカラーフィルタの製造方法は、従来種々の検討が重ねられており、代表的な方法として、フォトリソグラフィー方式、インキジェット方式などが知られている。フォトリソグラフィー方式では、基板全体に各色の感光性樹脂層の塗布膜を形成し、後に塗布膜の不要な部分を取り除き、残ったパターンを各色画素とする。この方法では塗布膜の多くが不要となるため、カラーフィルタの製造時に大量の顔料等の材料が無駄になる。また、色画素毎に露光、現像工程を行うため、工程数が多くなる。このようなことから、フォトリソグラフィー方式によるカラーフィルタの製造は、コスト、環境面、共に問題を有していた。この点で近年はインキジェット方式が注目されている。インキジェット方式によるカラーフィルタの製造は、R、G、Bの3色の着色樹脂組成物をインキとして用い、各色を同時に印刷することができる。このため、材料の無駄も少なく、また、画素の形成工程が短縮されるため、環境負荷の低減と大幅なコストダウンが期待できる。
【0003】
インキジェット方式を用いたカラーフィルタ基板の製造方法として、特許文献1〜4に記載されている方法が提案されている。特許文献1には、ガラス基板上の所望する着色層領域外へのインキの広がりを防止するため、予め各画素間を区切る黒色の隔壁部にフッ酸系撥水・撥油剤を含有させてパターン形成することによって、着色領域内のみにインキを定着させることが記載されている。また、特許文献2、特許文献3には、含フッ素化合物及び/または含ケイ素化合物を含有する黒色樹脂層を、着色層形成工程におけるインキにじみ、混色を防止するための仕切り壁とすることが記載されている。特許文献4には、各画素の隔壁部分および画素のいずれかの表面が撥水・撥油性を有するように形成した後に、その撥水・撥油性をなくす基板処理の工程を含ませる製造方法が記載されている。これらの方法は、工程数が少ない点で、環境負荷と製造コストを低減できる非常に好ましい方法と言える。
【0004】
しかし、上記従来の方法において、フッ素化合物などの撥インキ性を付与した材料(以下、撥インキ剤とする)を用いた場合、塗膜中に分散した撥インキ剤が徐々に塗膜表面に偏析する性質を有しているため、塗工してから溶剤が揮発して塗膜が完固するまでの時間により、撥インキ剤の偏析状態が変化するという問題が生じた。そのため、溶剤の乾燥状態により撥インキ剤が過剰となった隔壁では、インキジェットにより着色層を印刷した際、撥インキ剤のブリードアウトによる着色層の白抜け、画素の形状が平坦にならない等の問題が生じた。一方、撥インキ剤の添加量を減じても、撥インキ剤の発現が不十分な隔壁において、着色層を印刷した際、混色が発生してしまった。そのため、隔壁に含有させる撥インキ剤の種類と添加量により、隔壁表面の撥インキ性と隔壁で囲まれた開口部の基板表面の親インキ性(濡れ性)のバランスをコントロールする必要があったが、乾燥するまでの時間等に影響されやすく、調整が困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−347637号公報
【特許文献2】特開平7−35915号公報
【特許文献3】特開平7−35917号公報
【特許文献4】特開平7−248413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するために為されたもので、その課題とするところは、 インキジェット方式により各画素が印刷されるカラーフィルタにおいて、隔壁の品質を向上させることにより、各画素に混色や白抜け不良、ムラが無く、平坦で均一な着色層を有するカラーフィルタを、安定して製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために為された請求項1に係る発明は、少なくとも
(a)撥インキ処理を施した感光性樹脂組成物の塗工液を基板上に塗工する工程
(b)前記感光性樹脂組成物を減圧乾燥する工程
(c)前記感光性樹脂組成物を加熱乾燥する工程
(d)パターン露光、現像して前記感光性樹脂組成物からなる隔壁を形成する工程
(e)前記隔壁をUV照射により硬化させる工程
(f)前記隔壁で区切られた画素内に、インキジェット方式によりインキを吐出して着色層を形成する工程
を含むカラーフィルタの製造方法であって、前記感光性樹脂組成物の塗工液中に沸点100〜130℃の溶剤を含み、かつ前記(b)工程において予備乾燥、本乾燥の2段階で減圧乾燥を行うことを特徴とするカラーフィルタの製造方法である。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記隔壁をUV照射により硬化させる工程の後、さらに180℃以下の加熱温度で隔壁を熱硬化させることを特徴とするカラーフィルタ製造方法である。
【0009】
請求項3に係る発明は、感光性組成物の塗工液中に、沸点100〜130℃の溶剤が溶剤比で10〜70%含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のカラーフィルタ製造方法である。
【0010】
請求項4に係る発明は、感光性樹脂組成物の撥インキ性処理が、質量平均分子量が10,000〜100,000の含フッ素化合物の感光性樹脂組成物への添加であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカラーフィルタ製造方法である。
【0011】
請求項5に係る発明は、さらに予備乾燥における到達圧が5000〜50000Paであり、本乾燥における到達圧が500Pa以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のカラーフィルタ製造方法である。
【0012】
請求項6に係る発明は、隔壁の少なくとも一部が、遮光性を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のカラーフィルタ製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によって、撥インキ性の偏析状態が変化する予備乾燥と、より低圧まで減圧する本乾燥との2段階以上の乾燥工程を経ることで、隔壁に含まれる撥インキ剤を隔壁内表面付近に拡散させることができた。これにより撥インキ性が向上し、隔壁表面の撥インキ性不足による混色等のないカラーフィルタが製造できた。さらに沸点が100〜130℃の溶剤を含んでいることで、乾燥するまでの時間に対して安定して撥インキ剤を隔壁表面近くに偏析でき、このため安定した品質のカラーフィルタを製造することが可能となった。
【0014】
請求項2に係る発明によって、隔壁を熱硬化させる温度が180度以下であることにより撥インキ剤の飛散やブリードアウトすることなく、色むらのないカラーフィルタが製造できた。
【0015】
請求項3に係る発明によって、沸点が100〜130℃の溶剤を溶剤比で10〜70%、感光性組成物の塗工液に含むことにより、乾燥するまでの時間に対して安定して撥インキ剤を隔壁表面近くに偏析でき、このため白抜けや混色のないカラーフィルタが安定して製造できた。
【0016】
請求項4に係る発明によって、撥インキ剤に質量平均分子量が10,000〜100,000の含フッ素化合物を用いることにより、隔壁表面の撥インキ性と開口部基材表面の親インキ性を両立することができ、平坦な着色層を有する高精細なカラーフィルタが安定して製造できた。
【0017】
請求項5に係る発明によって、予備乾燥段階では撥インキ性の偏析状態が適度に変化し、本乾燥段階では撥インキ剤が隔壁表面近くに偏析することで、隔壁表面の撥インキ性が向上し、予備乾燥における到達圧が5000〜50000Paであり、本乾燥における到達圧が500Pa以下であることにより隔壁のムラが抑えられた。
【0018】
請求項6に係る発明によって、コントラストと透過する光量が両立したカラーフィルタを安定して製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(カラーフィルタの構成)
図1に示すように、インキジェット方式によって着色層を形成して製造するカラーフィルタは、赤(R)、緑(G)、青(B)の着色インキの混色を防止するため、透明基板1上に隔壁部2を設ける。さらにカラーフィルタのコントラスト向上のため、隔壁部2の一部又は全部に遮光性を付与することが望ましい。一般的に遮光性を付与する手段として、隔壁部の一部分又は全部分に黒色の材料を用い、黒色部分を設ける。ついで透明基板上に赤(R)、緑(G)、青(B)の着色層3を形成し、これを液晶用とする場合は、さらに透明導電層、配向膜層を順次積層せしめたものであり、例えば薄膜トランジスタのような電極を形成した対向基板と対置させ液晶層を介して、液晶表示装置を構成する。以下では、透明基板、この隔壁と赤、緑、青の着色画素層を合わせてカラーフィルタとする。必要に応じて前記カラーフィルタ上に保護層4を設けることができる。
【0020】
(カラーフィルタの製造方法)
以下、本発明によるカラーフィルタの製造方法を説明する。
【0021】
まず透明基板1上に隔壁を形成するための感光性樹脂組成物5を塗工する(工程a)。
カラーフィルタの透明基板としては、ガラス基板、石英基板、プラスチック基板等、公知の透明基板材料を使用できる。特にガラス基板は、透明性、強度、耐熱性、耐候性において優れているために好ましい。
【0022】
本発明の感光性樹脂組成物はネガ型の感光性樹脂組成物であり、200〜500nmの波長域に感光性を有するものを用いる。主成分はバインダー樹脂、ラジカル重合性を有する化合物、光重合開始剤、溶剤、撥インキ剤、および必要に応じて遮光性部材からなる。
【0023】
まず、バインダー樹脂としては、アルカル可溶性の熱硬化性樹脂が好ましく、具体的には、クレゾール−ノボラック樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は単独で用いても、2種類以上混合してもよい。また低温での硬化性を促進するため、これらの樹脂に加えてメラミン誘導体と光酸発生剤を含有させることもできる。メラミン誘導体としては、メチロール基あるいはメトキシメチル基を有している化合物であればよいが、特に溶剤に対する溶解性が大きいものが好ましい。
【0024】
ラジカル重合性を有する化合物は、例えば、ビニル基あるいはアリル基を有するモノマー、オリゴマー、末端あるいは側鎖にビニル基あるいはアリル基を有するポリマーを用いることができる。具体的には、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、イタコン酸エステル、スチレン類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、N−ビニル複素環類、アリルエーテル類、アリルエステル類、及びこれらの誘導体を挙げることができる。好適な化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレートなど比較的低分子量の多官能アクリレート等を挙げることが出来るがこの限りではない。これらのラジカル重合性を有する化合物は単独で用いても、2種類以上混合してもよい。
【0025】
光重合開始剤は、露光によりラジカルを発生し、ラジカル重合性を有する化合物を通して、バインダー樹脂を架橋させるものである。光重合開始剤の例として具体的には、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物、1−ヒドロキシシクロヘキシルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等のアセトフェノン誘導体、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等のチオキサントン誘導体、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、クロロアントラキノン等のアントラキノン誘導体、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル誘導体、フェニルビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フォスフィンオキシド等のアシルフォスフィン誘導体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ビス(4’−メチルフェニル)イミダゾリル二量体等のロフィン量体、N−フェニルグリシン等のN−アリールグリシン類、4,4’−ジアジドカルコン等の有機アジド類、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルペルオキシカルボキシ)ベンゾフェノン、キノンジアジド基含有化合物等を挙げることが出来る。これらの光重合開始剤は単独で用いても、2種類以上混合してもよい。
【0026】
感光性樹脂組成物塗工液の溶剤として具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、アセトン、シクロヘキサノン、エチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−エチルエトキシアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、2−メトキシエチルエーテル、2−エトキシエチルエーテル、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2’エトキシエトキシ)エチルアセテート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、エチル−n−プロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソプロピルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン等を用いることができる。溶剤の沸点は、基板上に塗布した際に均質であり、ピンホール、塗りむらの無い塗布膜ができる点から100℃以上であることが望ましい。また後述するように、短時間で乾燥することで、撥インキ剤を塗膜表面に安定して偏析できる点から沸点130℃以下の溶剤を含有していることが望ましい。さらに、該溶剤の溶剤比は、効果の現れる10%から溶解性の悪くなる70%の範囲であることがより望ましい。
【0027】
撥インキ剤は、隔壁に着色インキに対する撥インキ性を付与するものである。撥インキ剤は、隔壁形成に用いる感光性樹脂組成物に、予め添加して用いることができる。撥インキ剤として、含フッ素化合物もしくは含ケイ素化合物を用いることができ、これらを混合して用いることもできる。前記含フッ素化合物の例として、質量平均分子量が10,000〜100,000の含フッ素共重合体は、本発明において隔壁表面の撥インキ性と開口部基材表面の親インキ性を両立する上で特に好ましい。また、後述するように隔壁を多層構造にする場合には、少なくとも最上部の層を形成する感光性樹脂組成物に撥インキ剤を添加して撥インキ性を付与すればよい。
【0028】
黒色遮光部材は、隔壁に遮光性を付与し、カラーフィルタのコントラストを向上させるものである。黒色遮光部材としては、黒色顔料、黒色染料、カーボンブラック、アニリンブラック、黒鉛、鉄黒、酸化チタン、無機顔料、及び有機顔料を用いることができる。これらの黒色遮光部材は単独で用いても、2種類以上混合してもよい。
【0029】
この他、隔壁形成に用いる感光性樹脂組成物には、必要に応じて相溶性のある添加剤、例えばレベリング剤、連鎖移動剤、安定剤、増感色素、界面活性剤、カップリング剤等を加えることができる。
【0030】
上記のような構成からなる感光性樹脂組成物の塗工液を、スリットダイコーター、スピンコーター等、公知の塗工装置を用いて均一に塗工する(工程a)。
【0031】
次に、2段以上の減圧乾燥及びホットプレートによる加熱乾燥(プリベーク)を行う乾燥工程bによって、塗工後に不要な溶剤成分を除去する(工程b)。乾燥前の感光性樹脂組成物においては、塗膜中に分散した撥インキ剤が徐々に塗膜表面に偏析する性質を有しており、塗工から溶剤が揮発して塗膜が完固するまでの時間により、撥インキ剤の偏析状態が変化する。そのため均一な性能の隔壁を得る上で、本工程における塗工から減圧乾燥及びプリベークまでの時間間隔は均一に保つことが望ましい。
【0032】
本発明の乾燥工程においては、撥インキ剤の発現性を向上できる点、塗工後の乾燥条件に対する撥インキ剤の発現性が安定する点から、図3に示すように、2段階の減圧乾燥方式にて行う。これは、まず1段目の乾燥(予備乾燥、工程b1)によって、ゆっくりと乾燥を行うことにより撥インキ剤が偏析によって適度に隔壁の表面部分に分散し、さらに一旦大気圧に戻してから2段目の乾燥(本乾燥、工程b2)を行うことにより完全に感光性樹脂組成物を乾燥させ、撥インキ剤は隔壁表面近くに偏析される。このような乾燥工程を行うことにより、撥インキ性に優れた隔壁が形成でき、着色層の白抜け、混色などのない良好なカラーフィルタが製造できる。さらに予備乾燥の到達圧を着色層のムラの発生を抑制できる5000〜50000Paとし、本乾燥の到達圧を塗膜が乾固する500Pa以下とすることがより望ましい。これは予備乾燥の到達圧が5000Pa以下だと隔壁表面のムラが発生し、50000Pa以上だと上述したような撥インキ剤の偏析制御の効果を生じず、また本乾燥の到達圧が500Pa以上だと乾燥が不十分な状態になり、隔壁パターンの形成時に形成不良を生じるためである。
【0033】
上記乾燥方法において、前述のように沸点が100℃から130℃の低沸点の溶剤を、感光性樹脂組成物の溶剤として含むことにより、素早く乾燥できる。これは、特に本発明の2段階の減圧工程において、予備工程ではその他の溶剤よりも先に揮発することにより、隔壁表面付近への偏析を促進する。一方本乾燥の前にこのような準備乾燥を行うことにより、低沸点の溶剤を含んでいても、急速な減圧により隔壁にムラや形成不良を生じることを防ぐことができる。このため、減圧乾燥工程及びその前後の時間や、プリベーク工程及びその前後の時間の変化に対しても安定した隔壁の形成が可能となる。
【0034】
次に、フォトリソグラフィー方式により隔壁パターンを形成する。この工程におけるパターン露光工程、現像工程には公知の現像・露光方法を用いればよい。
【0035】
隔壁パターンの現像工程dにおける現像液としては、非露光部を溶解させることのできる溶液、例えば、水酸化ナトリウムあるいは炭酸ナトリウム等のアルカリ性水溶液等を用いることができる。
【0036】
次に、露光・現像工程により形成された隔壁層にUVを照射し、硬化させる(工程e)。特に本発明においては、2段階の減圧乾燥により隔壁表面に均一に偏析した撥インキ剤が、着色層を焼成する工程において、ブリードアウトや飛散してしまうことを防ぐために特に重要である。
【0037】
上記のUV照射の工程においては、基板1の上面から200〜500nmのUVを照射することにより硬化させることが好ましい。また、照射する光源として、感光性樹脂が200〜500nmの波長域に感光性を有することから、この波長域に少なくとも1つ以上の分光ピークを有することが特に好ましい。また、撥インキ剤の分解を促進する波長を含むものは、分解された撥インキ剤が開口部の基板表面を汚染するため適さない。高圧水銀ランプあるいはメタルハライドランプが特に好ましい。照射する露光量に関しては、着色層を形成する際に生じる隔壁表面の荒れの大きさが縮小し、数も減少させることができることから、365nmで100mJ/cm以上であることが望ましい。
【0038】
隔壁層が遮光性を有する遮光層である場合、前記高圧水銀ランプあるいはメタルハライドランプによるUV照射では、隔壁の表面は硬化するものの、遮光されるために内部までは硬化しない場合がある。この場合には、上記の隔壁形成の工程後に、加熱処理を施して熱硬化させる工程fを設けることが好ましい。加熱方法としてはコンベクションオーブン、ホットプレート、ハロゲンヒーター、IRオーブンによる加熱等が利用でき、特に限定されるものではない。しかし180℃を超える温度で加熱すると、前工程において隔壁の表面を高圧水銀ランプあるいはメタルハライドランプによりUV硬化させても、開口部基板表面に撥インキ剤がブリードアウトし、インキジェットにより着色層を形成した際に白抜けや平坦性の悪化を招くため、熱硬化させるための加熱温度は180℃以下に抑えることが望ましい。
【0039】
以上のような工程で形成される隔壁は、1.0μm以上の高さで形成することが好ましい。さらに1.5μm〜5μmの高さで形成することがより好ましい。隔壁の高さが1.0μm以下であると着色インキの混色を生じる。一方、隔壁の高さが5μm以上になると、精細な隔壁の形成が困難であるとともに、着色層との段差が大きくなるため好ましくない。
【0040】
また隔壁は、1層、又は2層以上の多層構造であっても構わない。一般的に、一回の工程で形成できる隔壁の高さには制限があるため、層厚の大きい隔壁を形成する場合、同じパターンの隔壁を積層し、多層構造とすることができる。隔壁を多層構造とした場合、そのうちの少なくとも1層に遮光性を付与し、遮光層とすることが好ましい。多層構造とした場合の少なくとも最上層は、撥インキ剤を含有した感光性樹脂組成物を用いて、前記の通り形成することが好ましい。最上層が撥インキ性であれば、着色層の混色や色むらの防止といった本発明の効果を得ることが出来る。
【0041】
次に隔壁を形成した基板上に、公知のインキジェット方式により、3色の着色インキを印刷して着色層3を形成し(工程g)、焼成することにより、カラーフィルタとなる。
【0042】
ここで焼成条件は、200℃〜250℃で10分〜60分間加熱することが好ましい。この焼成において、着色インキとともに隔壁が完全に硬化して、カラーフィルタとして十分な耐性が得られる。またこの焼成の際、隔壁上の撥インキ剤は熱分解されるため、次工程において、保護層4等を形成する場合には、既に撥インキ性は低下している。このために保護層等は隔壁状にも形成することができる。さらに隔壁上の撥インキ剤を完全に除くためには、溶剤や洗剤による洗浄、低圧水銀ランプによるUV照射或いはエキシマUV照射、研磨等の工程を設けることが可能である。
【0043】
以上の工程により本発明のカラーフィルタが製造できる。
【実施例1】
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0045】
各実施例においては下記の材料を用いた。
[透明基板]
無アルカリガラス“#1737”(コーニング社製)
[感光性樹脂組成物]
シクロヘキサノン(沸点155.7℃)・・・60重量部
メチルイソブチルケトン(MIBK、沸点116.2℃)・・・20重量部
クレゾール−ノボラック樹脂“EP4050G”(旭有機材工業社製)・・・20重量部
カーボン顔料“MA−8”(三菱マテリアル社製)・・・23重量部
分散剤“ソルスパース#5000”(ゼネカ社製)・・・1.4重量部
ラジカル重合性を有する化合物“トリメチロールプロパントリアクリレート”(大阪有機化学工業社製)・・・5重量部
光重合開始剤“イルガキュア369”(チバスペシャリティケミカルズ社製)・・・2重量部
含フッ素化合物“モディパーF−600”(日本油脂社製、質量平均分子量35000)・・・0.5重量部
【0046】
上記の感光性樹脂組成物を透明基板上に塗布し、膜厚2μmの感光性樹脂組成物の膜を形成した。この基板を減圧機内に設置し、1段階の減圧乾燥(本乾燥)のみ、2段階の減圧乾燥(予備乾燥、本乾燥)をそれぞれについて表1のような到達圧で減圧して乾燥させた後、ホットプレートでプリベークした。
【0047】
その後格子状のパターンであるフォトマスクを用いて、i線露光量25mJ/cm2のUV照射を行い、現像処理を行った。続いて、i線露光量1700mJ/cm2のUVを照射し、160℃、20分間オーブンで加熱処理を行った。
【0048】
こうして作製した隔壁表面上の撥インキ性を評価するために、カルビトールアセテート(CBAc)を用いて接触角を測定した。減圧乾燥の条件と、隔壁の品質の関係を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1の結果より、1段階の減圧乾燥の場合の隔壁表面の平均接触角が35°なのにたいして、2段階で減圧乾燥では平均接触角は38°となり、2段階で減圧乾燥を行うことにより、隔壁表面の撥インキ性が向上していることが確認できた。さらに、予備乾燥における到達圧が5000以下の1300Paで乾燥した場合には隔壁表面にムラが確認されたが、5000以上である6000Paで乾燥した場合には良好な隔壁が形成できていた。
【0051】
この隔壁を有する基板上に、インキジェット装置を用いて着色インキを印刷したところ、いずれの基板についても着色層に白抜けや混色は生じていなかった。
【実施例2】
【0052】
感光性樹脂組成物の塗布後から減圧乾燥工程までの時間(減圧乾燥前時間)およびプリベークの後から露光までの時間(プリベーク後時間)を変更し、カラーフィルタ製造の品質の安定性を調べた。さらに、比較として感光性樹脂物材料中の溶剤MIBKを、エチル−n−プロピルケトン(沸点123℃)、及びシクロヘキサン(沸点155.7℃)に変更し、安定性を調べた。
【0053】
上記以外の条件は実施例1と同様でカラーフィルタを製造したところ、下記表2のように、実施例1の条件ではいずれも白抜け、混色等のない、安定した品質のカラーフィルタが製造できたが、沸点が100〜130℃の溶剤を含まない場合のカラーフィルタは時間間隔の条件によっては白抜けが生じていた。
【0054】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の隔壁を備えたカラーフィルタの断面形状の説明図である。
【図2】本発明のカラーフィルタ製造方法の説明図である。
【図3】感光性樹脂組成物塗布後の溶剤の乾燥工程の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1…透明基板
2…隔壁
3…着色層
4…保護層
5…感光性樹脂組成物
6…揮発する溶媒
7…UV露光光
8…フォトマスク
9…焼成器
10…インキジェット装置
11…減圧乾燥機
12…ホットプレート
a…基板に感光性樹脂組成物を塗布する工程
b…感光性樹脂組成物を乾燥させる工程
c…マスクパターンで露光する工程
d…現像工程
e…UV照射処理により硬化させる工程
f…180℃以下の温度で熱硬化させる工程
g…インキジェット方式によりインキを吐出して着色層を形成する工程
h…完成したカラーフィルタ
b1…予備乾燥工程
b2…本乾燥工程
b3…プリベーク工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも
(a)撥インキ処理を施した感光性樹脂組成物の塗工液を基板上に塗工する工程
(b)前記感光性樹脂組成物を減圧乾燥する工程
(c)前記感光性樹脂組成物を加熱乾燥する工程
(d)パターン露光、現像して前記感光性樹脂組成物からなる隔壁を形成する工程
(e)前記隔壁をUV照射により硬化させる工程
(f)前記隔壁で区切られた画素内に、インキジェット方式によりインキを吐出して着色層を形成する工程
を含むカラーフィルタの製造方法であって、前記感光性樹脂組成物の塗工液中に沸点100〜130℃の溶剤を含み、かつ前記(b)工程において予備乾燥、本乾燥の2段階で減圧乾燥を行うことを特徴とするカラーフィルタの製造方法。
【請求項2】
少なくとも
(g)撥インキ処理を施した感光性樹脂組成物の塗工液を基板上に塗工する工程
(h)前記感光性樹脂組成物を減圧乾燥する工程
(i)前記感光性樹脂組成物を加熱乾燥する工程
(j)パターン露光、現像して前記感光性樹脂組成物からなる隔壁を形成する工程
(k)前記隔壁をUV照射により硬化させる工程
(l)前記隔壁を熱硬化させる工程
(m)前記隔壁で区切られた画素内に、インキジェット方式によりインキを吐出して着色層を形成する工程
を含むカラーフィルタの製造方法であって、前記感光性樹脂組成物の塗工液中に沸点100〜130℃の溶剤を含み、かつ前記(h)工程において予備乾燥、本乾燥の2段階で減圧乾燥を行い、さらに前記(l)工程において前記隔壁を熱硬化させる温度が180℃以下であることを特徴とするカラーフィルタの製造方法。
【請求項3】
前記感光性組成物の塗工液中に、沸点100〜130℃の溶剤が溶剤比で10〜70%含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のカラーフィルタ製造方法。
【請求項4】
前記感光性樹脂組成物の撥インキ性処理が、質量平均分子量が10,000〜100,000の含フッ素化合物の前記感光性樹脂組成物への添加であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカラーフィルタ製造方法。
【請求項5】
前記予備乾燥における到達圧が5000〜50000Paであり、前記本乾燥における到達圧が500Pa以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のカラーフィルタ製造方法。
【請求項6】
前記隔壁の少なくとも一部が遮光性を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のカラーフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−116536(P2008−116536A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297530(P2006−297530)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】