説明

カルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法

【課題】 短時間で、かつ高い吸収率でカルシウムを吸収させる、カルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】 所定量のカルシウム強化剤を80℃以上に加熱した水に溶解し、カルシウム含有調整液を生成する調整液生成工程と、加工する小魚と調整液生成工程にて生成したカルシウム含有調整液とを、ニーダー内に投入し、ニーダーの内部を加熱して該小魚を所定温度にする加熱工程と、ニーダーの内部を所定の減圧度で減圧する減圧工程と、減圧工程にて減圧されたニーダーの内部を常圧に戻す大気解放工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法に関し、特に、短時間でかつ高い吸収率でカルシウムの吸収させることができるカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品に対する健康指向が向上しており、日本人の食生活は著しく改善され、主要栄養素の必要量は充足されるようになってきている。しかしながら、厚生労働省の国民栄養調査によれば、カルシウムだけが必要量に比して不足していることが指摘されている。このカルシウムの摂取量の不足は、骨粗鬆症のほか、動脈硬化、高血圧、糖尿病等の成人病にも深く関わっているとされており、高齢化がますます進行する中、カルシウム摂取不足による問題は顕著になっている。
【0003】
このような現状において、カルシウム摂取不足を解消するために、例えばカルシウム補強剤の開発やカルシウム強化食品の開発等、種々様々な研究開発が試みられている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0004】
例えば、特許文献1には、水に難溶性又は不溶性のカルシウム塩を、その状態を保持したまま食品に安定的に添加し得ることを目的として、食品にカルシウム換算で1重量%以下の水に難溶性又は水に不溶性のカルシウム塩、結晶セルロース0.1〜1重量%、ゲル化能を有する多糖類0.01〜1重量%を含有させるカルシウム強化食品について開示されている。また、特許文献2に記載の技術は、カルシウムを長期間安定的に溶液中で懸濁維持可能なカルシウム補強剤に関するものであり、800nm以下のヒドロキシアパタイト超微粒子を蛋白質(カゼイン、アルブミン等)またはペプチド(カゼインホスホペプチド等)を用いて表面処理するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−000278号公報
【特許文献2】特開2006−246900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カルシウム摂取量の不足を解消することを目的として、カルシウムを強化した食品を製造するにあたり、その食品・食材本来の風味等を損なうことなく、簡単な製造作業で、かつ高い吸収率でカルシウムを吸収できることが望ましい。
【0007】
また、本来カルシウムを豊富に含有する食品に対してカルシウムを添加するようにすることで、カルシウム強化剤による食品本来の風味の損出や品質劣化を抑制することができるため、高カルシウム含有食材に対して、高い吸収率で、かつ簡単な製造作業で、カルシウムを強化した食材を加工製造できることが望ましい。
【0008】
カルシウムを豊富に含む食材としては、しらす等の小魚を挙げることできる。例えば、しらすは、カルシウムや鉄分、ビタミン等が豊富に含まれており、具体的に200〜300mg/100gのカルシウムを含む。そして、このしらす等の小魚は、手軽に食することができる食材であり、厚生労働省白書による大人一人一日のカルシウム必要量が600mgとされていることから、例えばしらす等の小魚のカルシウム含有量を2倍に増強させることにより、摂取不足を効率的に補足することも可能となる。
【0009】
しかしながら、現在のところ、しらす等の小魚に対して、高い吸収率でカルシウムを含有させる方法はなく、カルシウムを高い吸収率で吸収させて、カルシウムを強化したしらす等の小魚を加工する方法が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は、上述のような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、短時間で、かつ高い吸収率でカルシウムを吸収させる、カルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した問題に対して鋭意検討を重ねた結果、所定の減圧度で減圧処理を施し、その後常圧に戻す処理を行うことによって、カルシウム強化剤を含有した調整液を高い吸収率で小魚に吸収させることができ、かつ短時間の処理で、カルシウムを強化した小魚加工食品を製造することができるという知見に基づくものである。
【0012】
すなわち、本発明に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法は、所定量のカルシウム強化剤を80℃以上に加熱した水に溶解し、カルシウム含有調整液を生成する調整液生成工程と、加工する小魚と、調整液生成工程にて生成したカルシウム含有調整液とを、ニーダー内に投入し、ニーダーの内部を加熱して小魚を所定温度にする加熱工程と、ニーダーの内部を所定の減圧度で減圧する減圧工程と、減圧工程にて減圧されたニーダーの内部を常圧に戻す大気解放工程とを有する。
【0013】
減圧工程では、常圧より400〜700mmHgの減圧度で減圧することが好ましく、加熱工程では、小魚の温度が55〜75℃となるようにニーダーの内部を加熱することが好ましい。
【0014】
また、ニーダー内に投入したカルシウム含有調整液がなくなるまで、減圧工程と大気解放工程とを繰り返す。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法によれば、加工する小魚とカルシウム含有調整液とをニーダー内に投入し、ニーダーの内部を所定の減圧度で減圧するようにしているので、短時間で、かつ高い吸収率でカルシウムを吸収させた、カルシウム強化小魚を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。この実施の形態では、具体的に、本発明を小魚であるしらすに適用したものであり、しらすに所望とする含有量となるように高い吸収率でカルシウムを吸収させるものである。
【0018】
本実施の形態に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法は、所定量のカルシウム強化剤を80℃以上に加熱した水に溶解し、カルシウム含有調整液を生成する調整液生成工程と、加工するしらすと調整液生成工程にて生成したカルシウム含有調整液とをニーダー内に投入し、ニーダーの内部を加熱してしらすを所定温度にする加熱工程と、ニーダーの内部を所定の減圧度で減圧する減圧工程と、減圧工程にて減圧されたニーダーの内部を常圧に戻す大気解放工程とを有することを特徴としている。
【0019】
ここで、しらすとは、いわし類の稚魚や幼魚で、例えば体長12〜35mm程度であり、栄養成分としては、水分を約65〜75%含み、100gあたり約200〜300mg程度のカルシウムを含む。なお、ちりめんは、しらすに比してその水分量が少ないものであり、本実施の形態では、ちりめんもしらすに含まれるものとする。
【0020】
本実施の形態に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法は、図1の工程図に示されるように、まずステップ(ST)1として、所定量のカルシウム強化剤と任意に選択した調味料、香辛料、機能性添加剤等の添加剤とからなる調整液を生成する(調整液生成工程(ST1))。
【0021】
この調整液生成工程において添加されるカルシウム強化剤としては、カルシウム、カルシウムイオン、カルシウム塩の何れであってもよく、特に制限されるものではない。具体的に、有機酸塩あるいは無機酸塩の何れでもよく、例えば乳酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム等が挙げられる。特に、水に対する溶解度が比較的高く製造時の取り扱いが容易で、また吸収率も比較的に高いという点において、乳酸カルシウムを用いることが好ましい。これらのカルシウム強化剤は、1種単独又は2種以上を併用して用いることができる。
【0022】
カルシウム強化剤の添加量としては、しらす内のカルシウム含有量が目的とする量となるように、適宜調整することが可能である。例えば、乳酸カルシウムをカルシウム強化剤として用いる場合、しらすの本来のカルシウム含有量の2倍程度の含有量となるようにカルシウムを強化させるために、乳酸カルシウムの添加量を5〜6g程度とすることが好ましい。
【0023】
このように、カルシウム強化剤の添加量は、目的とするカルシウム含有量となるように適宜調整することが可能となるが、例えば乳酸カルシウムをカルシウム強化剤として用いた場合においては、その添加量を10g以下とすることが好ましい。乳酸カルシウムの添加量を10g以下とすることにより、しらすの表面にカルシウムを析出させることなく、またカルシウム強化剤による苦味・甘みの発生や食感の悪化等、しらす本来の風味や食感を損なわせることなく、カルシウムを強化したしらすを加工製造することができる。
【0024】
また、この調整液生成工程においては、必要に応じて、調味料、香辛料、機能性添加剤等の添加剤を添加して製造することができる。具体的に、例えば調味料としては、しょう油、砂糖、ソルビトール、オリゴ糖、みりん、酒類、食塩、化学調味料、各種エキス等を挙げることができる。また、香辛料としては各種の香辛料を用いることができ、機能性添加剤としてはDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、ビタミン類(ビタミンD等)等を挙げることができる。
【0025】
調味料、香辛料、機能性添加剤等の添加剤の添加量としては、特に制限されるものではなく、しらす食品の使用用途に応じて適宜調整することができる。
【0026】
調整液生成工程においては、上述したカルシウム強化剤と調味料、香辛料、機能性添加剤等の添加剤とを、熱湯若しくは80℃以上のお湯に混入し、適当に攪拌して溶解させ、カルシウム強化しらすを加工するための調整液を生成する。
【0027】
なお、本実施の形態にカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法においては、この調整液生成工程において、上述したカルシウム強化剤とともに、乳化剤を添加するようにしてもよい。このように乳化剤を含有させることにより、しらすの加工製造効率を向上させることができるとともに、食感を向上させることもできる。
【0028】
乳化剤としては、例えば、通常食品に使用できる精製された乳化剤が好適に用いられる。具体的には、例えばグリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライド等)、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の乳化剤、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種単独又は2種以上を併用して用いることができる。
【0029】
乳化剤を添加させる場合、その乳化剤の添加量としては、2〜5g(しらす100gあたり)程度とすることが好ましい。乳化剤の添加量が2gより少ない場合には、加工製造効率の向上や食感の向上等の効果を十分に発揮させることができなくなり、一方で5gより多い場合には、苦味等が発生し、しらすの風味が悪くなるため好ましくない。
【0030】
次に、図1に示されるように、調整液生成工程(ST1)にてカルシウム強化剤を含有した調整液を生成すると、ステップ2として、加工するしらすと調整液生成工程にて生成したカルシウム含有調整液とをニーダー内に投入し、ニーダーの内部を所定温度に加熱する(加熱処理工程(ST2))。
【0031】
加熱工程においては、しらすをニーダー内に投入するとともに、調整液生成工程にて生成した、カルシウム強化剤を含有した調整液をニーダー内に投入し、しらすを調整液に浸漬混和して、例えば真空ニーダーの蒸気バルブを開けることによってニーダーの内部を加熱する。なお、しらすをニーダー内に投入する際には、調整液がしらすに均等に吸収されるように、ニーダー内においてしらすを平滑となるように静置して調整液に浸漬させることが好ましい。
【0032】
この加熱工程においては、しらすの温度を約55〜75℃となるように、ニーダー内部を加熱することが好ましい。しらすの温度が55℃未満の場合には、製造開始後約30分経過しても水分の調整ができず、製造時間が長くなるとともに品質等が悪くなり、実用上問題が生じてしまう。一方で、しらすの温度が75℃より高くなるようにニーダーを加熱した場合には、過剰な加熱となって魚体がピンク色等に変色してしまい、見た目が悪くなり商品価値が低下し、また過剰加熱の場合にも水分調整が困難となる。
【0033】
したがって、この加熱工程においては、しらすの温度を約55〜75℃となるように加熱するとともに、例えばニーダー内に投入した調味液から湯気が立ち上る状態となったら蒸気バルブを閉じて、過剰な加熱を避けるようにすることが好ましい。
【0034】
次に、図1に示されるように、加熱工程(ST2)にてしらすの温度を約55〜75℃となるようにニーダーを加熱した後、ステップ3として、ニーダーの内部を所定の減圧度で減圧する(減圧工程(ST3))。
【0035】
この減圧工程においては、常圧より400〜700mmHgの減圧度で減圧することが好ましい。減圧度を400mmHg未満とした場合には、上述した好適なしらす温度範囲における55℃において、この減圧処理と後述する大気解放工程とを繰り返しても、しらすの水分量を適切な範囲とすることができず品質の劣化を生じさせるとともに、製造時間も長くなり製造効率が悪くなる。一方で、減圧度を700mmHgより大きくした場合には、真空圧力を安定的に維持させることが困難となり、しらすにカルシウム強化剤を含有した調整液を安定的に吸収させることができなくなる。
【0036】
なお、この減圧工程における減圧方法としては、一般的な減圧方法であれば特に限定されず、真空ポンプや真空乾燥機等を用いて所定の減圧度で減圧する。このため、本実施の形態において使用するニーダーは、例えば真空ポンプ等が付設されている真空ニーダー等であることが好ましい。
【0037】
このようにして、所定の減圧度でニーダー内部を減圧させると、その減圧状態において約1〜5分間維持させ、ニーダー内を十分に脱気してカルシウム強化剤を含有した調整液が多量にしらすに吸収される状態とする。
【0038】
本実施の形態に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法においては、このようにニーダー内において、所定の温度に加熱したしらすに対して減圧処理を施すことによって、減圧処理後、後述する大気圧開放工程において、脱気されていたニーダー内のしらすが常圧に戻る際に大気とともに乳酸カルシウムを溶解させた調味液を高い吸収率で吸引することとなる。これにより、しらすに対して高い吸収率で、かつ短時間でカルシウムを含有させることができる。
【0039】
次に、図1に示されるように、減圧工程(ST3)にてニーダー内を所定の減圧度で減圧して数分維持させた後、ステップ4に進み、減圧されたニーダーの内部を常圧(大気圧)に戻す(大気解放工程(ST4))。
【0040】
具体的には、例えば減圧手段としての真空ポンプを止め、真空ニーダーの開放バルブを開放状態とすることによって、減圧されたニーダー内部を常圧に戻す。なお、その際、開放バルブを全開にすると、ニーダー内のしらすが飛散する虞があるため、例えば600mmHgの減圧度で減圧させた場合には、バルブの約1/3程度を開放させた状態で約2分程度の時間をかけて徐々に常圧に戻すようにするとよい。
【0041】
そして、図1に示されるように、大気解放工程(ST4)によって減圧されたニーダー内部を常圧に戻した後、ステップ5として、しらすとともにニーダー内に投入した調整液がなくなっているか否かを確認する(ST5)。
【0042】
このステップ5において、ニーダー内に投入された、カルシウム強化剤を含有した調整液がなくなっていることが確認された場合には、ステップ6に進む。一方で、ステップ5において、カルシウム強化剤を含有した調整液がなくなっていなかった場合には、ステップ3の減圧工程に戻り、改めてニーダー内を所定の減圧度で減圧させ、その後に減圧されたニーダー内部を常圧に戻す大気解放工程を行う。このように、しらすに吸収させる調整液が殆んどなくなった状態となるまで、上述した減圧工程と大気解放工程とを繰り返し行い、所望とする量のカルシウムをしらすに吸収させる。
【0043】
本実施の形態に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法においては、上述のようにして所定の減圧度で減圧させた後に常圧に戻し、カルシウム強化剤を含有した調整液がしらすに吸収させるまで、減圧工程と大気解放工程とを繰り返し行うようにしている。このように、減圧処理後、脱気されていたニーダー内部を常圧に戻すことによって、大気とともに乳酸カルシウムを溶解させた調味液が高い吸収率でしらすに吸引されるようになり、さらにこの減圧工程と大気解放工程とを繰り返すことで、所望とするカルシウム含有量となるように、確実にしらすにカルシウムを吸収させることができ、短時間の処理で多くの量のカルシウムを含有させることができる。
【0044】
ステップ6においては、調整液に含有されていたカルシウムを含有させ、カルシウムの強化したしらすを、所定の品温、例えば15℃以下となるまで冷却する。冷却方法としては、特に制限されないが、例えば真空冷却機等に投入するなどして冷却する。その後、殺菌処理を行ったポリ袋等に加工したしらすを移し、直ちに包装作業を行う。
【0045】
以上のように、本実施の形態に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法は、所定量のカルシウム強化剤を80℃以上に加熱した熱湯に攪拌して溶解し、カルシウム含有調整液を生成する調整液生成工程と、加工するしらす等の小魚と調整液生成工程にて生成したカルシウム含有調整液とをニーダー内に投入し、ニーダーの内部を加熱してしらす等の小魚を所定温度にする加熱工程と、ニーダーの内部を所定の減圧度で減圧する減圧工程と、減圧工程にて減圧されたニーダーの内部を常圧に戻す大気解放工程とを有する。
【0046】
また、ニーダー内に投入したカルシウム含有調整液がなくなるまで、減圧工程と大気解放工程とを繰り返す。
【0047】
このような本実施の形態に係るカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法によれば、ニーダー内を減圧させるようにしているため、効率的かつ確実にカルシウム強化剤由来のカルシウムをしらす等の小魚に含有させることができ、短時間の処理で、かつ高い吸収率で所望とするカルシウム量の、カルシウム強化小魚を加工製造することができる。
【0048】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0049】
例えば、上述した本実施の形態における各工程では、添加したカルシウム強化剤や調味料等の種類に応じて、適宜加熱や攪拌等を行ってもよいことはいうまでもない。また、原料となるしらすは、例示した大きさのものに限られるものではなく、また冷凍保存したしらすを原料とすることに限られるものではなく、加熱等処理した後に冷凍保存されたしらすを原料とする場合も当然本発明に含まれる。さらに、本実施の形態においては、加熱工程のよってしらすを所定の温度となるまで加熱させた後に、ニーダー内を減圧する減圧工程を行う処理工程について説明したが、加熱工程と減圧工程とを並行して行うようにしてもよい。
【0050】
またさらに、本実施の形態においては、しらすを原料として用いた例を説明したが、本製造方法の対象となるのはしらすに限られるものではなく、その他の小魚にも好適に適用することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0052】
本実施例では、原料として、カルシウム(Ca)含有量が244mg/100gであるしらす200g(以下、「原料しらす」という。)を用い、以下のサンプル1〜10に示す処理条件でカルシウムをしらすに吸収させた。処理後のしらすに含まれるカルシウム量は、ICP質量分析法により測定した。なお、当該分析測定は、埼玉県産業技術総合センター北部研究所に委託して行った。
【0053】
(サンプル1)
サンプル1として、ボイルされて冷凍状態に保存された原料しらすを解凍庫(庫内温度+3℃以下)にて12時間以上かけて解凍した。一方、しらすに添加する乳酸カルシウム(Ca含有量13.4% ピューラック・ジャパン株式会社製)5g、調整糖(MS-17 上野製薬株式会社製)及び調味ベース(ジェイティフーズ株式会社製)をそれぞれ所定量計量し、80℃以上の熱湯に入れて攪拌し溶解させ、調味液を調整した。
【0054】
解凍させたしらすを真空ニーダー(HKV-6S 株式会社サムソン製)に投入し、なるべく平滑になるように食品工業用のヘラ等を用いて広げ、乳酸カルシウムを含有する調整した調味液をニーダー内に投入し、しらすに均等に含有されるようにした。
【0055】
次に、真空ニーダーの蒸気バルブを開き、しらすの温度が約65℃となるまでニーダーの内部を加熱した。なお、ニーダー内の調味液から湯気が立ち上る状態となったときに蒸気バルブを閉じて必要以上の加熱を行わないようにした。しらすの温度が約65℃となり、蒸気バルブを閉じた後、ニーダー内を真空ポンプにより減圧度700mmHgで減圧させた。
【0056】
ニーダー内を減圧させて約1分間放置した後、真空ポンプを止め、バルブを開放状態として常圧(大気圧)に戻した。なお、ニーダー内のしらすが飛散することを防止するため、常圧に戻す際、約2分程度の時間をかけて徐々に開放状態とした。ニーダー内のしらすの状態及びカルシウムを含有した調味液を確認し、調味液がなくなるまで減圧工程と常圧への大気圧開放工程とそれぞれ2回繰り返した。
【0057】
そして、調味液がなくなると、しらすをニーダーより取り出し、アルコール等で殺菌処理したざるに移し、真空冷却機(SVC-100RS 株式会社サムソン製)にセットしてしらすの温度が15℃以下になるまで冷却させた。
【0058】
(サンプル2)
サンプル2として、サンプル1と同様にしてニーダー内のしらす温度が約65℃となったことを確認した後、真空ポンプにより減圧処理をしないで常圧のままで、しらすに乳酸カルシウムを含有した調味液を吸収させた以外は、サンプル1と同様の処理を行った。
【0059】
(サンプル3)
サンプル3として、乳酸カルシウムの添加量を6gとしたこと以外は、サンプル1と同様にして処理を行った。
【0060】
(サンプル4)
サンプル4として、乳酸カルシウムの添加量を8gとしたこと以外は、サンプル1と同様にして処理を行った。
【0061】
(サンプル5)
サンプル5として、乳酸カルシウムの添加量を10gとしたこと以外は、サンプル1と同様にして処理を行った。
【0062】
(サンプル6)
サンプル6として、乳酸カルシウムの添加量を12gとしたこと以外は、サンプル1と同様にして処理を行った。
【0063】
(サンプル7)
サンプル7として、しらすの温度が55℃となるようにニーダー内部を加熱するとともに、減圧度600mmHgで減圧したこと以外は、サンプル1と同様にして処理を行った。
【0064】
(サンプル8)
サンプル8として、しらすの温度が45℃となるようにニーダー内部を加熱するとともに、減圧度600mmHgで減圧したこと以外は、サンプル1と同様にして処理を行った。
【0065】
(サンプル9)
サンプル9として、しらすの温度が55℃となるようにニーダー内部を加熱するとともに、減圧度400mmHgで減圧したこと以外は、サンプル1と同様にして処理を行った。
【0066】
(サンプル10)
サンプル10として、しらすの温度が55℃となるようにニーダー内部を加熱するとともに、減圧度200mmHgで減圧したこと以外は、サンプル1と同様にして処理を行った。
【0067】
表1に、上述した各サンプルの処理条件と、その各サンプルにおいて処理したしらす100gあたりにおけるCa含有量(mg/100g)、Ca増加量(mg/100g)、Ca吸収量(%)、並びに製造時間(しらす200gあたり)、しらすの水分量(%)、味の官能検査の測定結果、魚体の変色有無をそれぞれ示す。
【0068】
なお、表1に示されるCa吸収率の算出は、乳酸カルシウム中のCa含有率(13.4%)に基づいて、カルシウム添加量の理論値からしらすにおけるCa増加量を算出して算出した。すなわち、具体的に以下のようにして算出した。
【0069】
【数1】

【0070】
また、表1に示した味の官能検査においては、3人の検査員により検査し、結果の欄における『○』は乳酸カルシウムの添加に起因する苦みや甘み等の発生による味や風味の変化を感じることはなく良好であったことを示し、『×』はしらすの味や風味に変化を感じ不良であったことを示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示されるように、サンプル1では、しらす100gあたりのCa増加量が433mgとなり、64.6%もの高い吸収率でカルシウム(Ca)を吸収させることができたとともに、しらす200gあたり16分という短時間でCaを吸収させることができた。また、製造したしらすの水分量は61%であり、魚体に変色等も生じさせることなく、良好なしらすを製造することができた。
【0073】
これに対し、減圧処理を行わなかったサンプル2では、しらす100gあたりCa量が256mg増加したものの、その吸収率としては38.2%であった。また、しらす200gあたり28分もの製造時間を要し、サンプル1に比して2倍もの時間を要した。
【0074】
このことから、所定の減圧度で減圧処理を行うことによって、高い吸収率でCaを吸収させることができるとともに、かつ短時間で、適切な水分量を有したカルシウム強化しらすを加工製造できることが判った。
【0075】
次に、カルシウム強化剤である乳酸カルシウムの添加に起因するしらすの味の変化を検討したサンプル3〜6において、カルシウム強化剤としての乳酸カルシウムの量を6gとしたサンプル3では、53.2%という高い吸収率でCaを吸収させることができ、その製造時間も12分という短時間であった。また、製造されたしらすに苦味等の味の変化を生じさせることもなかった。また同様に、乳酸カルシウム量を8gとしたサンプル4、乳酸カルシウム量を10gとしたサンプル5においても、それぞれ58.5%、57.2%という高い吸収率でCaを吸収させることができ、その製造時間もそれぞれ14分及び13分という短時間であった。また、製造されたそれぞれのしらすに苦味等の変化を生じさせることもなく、良好なしらすを加工製造することができた。
【0076】
一方で、乳酸カルシウム量を12gとしたサンプル6では、55.7%もの高い吸収率で、かつ13分という短時間でCaを吸収させることができたものの、しらすの味の官能検査の結果では、全体的に味が濃く、甘みと苦味を生じた。
【0077】
これらの結果から、乳酸カルシウム等のカルシウム強化剤の量を変化させ、そのカルシウム強化剤を減圧処理を行うことによってしらすに吸収させることで、高い吸収率で、所望とする量のCaを含有するしらす加工食品を製造することができると結論付けられ、一方で乳酸カルシウムを用いた場合には、しらすの味や風味の変化の点において、10g以下とすることが好ましいことが判った。
【0078】
次に、しらすの温度を変化させたサンプル7及び8において、しらすの温度が55℃となるようにニーダー内部を加熱し、減圧度600mmHgで減圧処理したサンプル7では、しらす100gあたり318mgものCaが増加し、その吸収率として47.5%もの高い吸収率でCaを吸収させることができた。また、しらす200gあたりの製造時間も、17分という短時間で処理することができた。
【0079】
一方で、しらすの温度が45℃となるようにニーダー内部を加熱したサンプル8では、サンプル7と同様に、減圧度を600mmHgとして減圧処理を行ったものの、しらすの水分調整ができず、適した水分量を有したしらすを加工製造することができなかった。
【0080】
また、減圧処理における減圧度を変化させたサンプル7、9、10において、上述したように、しらすの温度を55℃となるようにニーダーを加熱し、減圧度600mmHgで減圧処理したサンプル7においては、47.5%の高い吸収率かつ短時間でカルシウム強化しらすを加工製造することができた。また、サンプル7と同様に、しらすの温度を55℃となるようにし、減圧度を400mmHgとして減圧処理を行ったサンプル9では、サンプル7に比して多少の時間を要したものの、18分という減圧処理をしなかったサンプル2と比べて10分程度短い時間で、51.2%もの高いCa吸収率でCaを吸収させることができた。
【0081】
一方で、サンプル7及び9と同様に、しらすの温度を55℃となるようにしたが、減圧度を200mmHgとして減圧処理したサンプル10では、しらす温度55℃では水分の調整ができず、適した水分量を有するしらすを製造することができなかった。
【0082】
以上の実施例の結果に示されるように、所定の減圧度で減圧処理を施すことによって、約15分程度の短時間で、かつ45%以上もの高い吸収率で、本来の含有量よりも2倍以上多いカルシウム含有量のしらすを加工製造することができることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量のカルシウム強化剤を80℃以上に加熱した水に溶解し、カルシウム含有調整液を生成する調整液生成工程と、
加工する小魚と、上記調整液生成工程にて生成したカルシウム含有調整液とを、ニーダー内に投入し、該ニーダーの内部を加熱して該小魚を所定温度にする加熱工程と、
上記ニーダーの内部を所定の減圧度で減圧する減圧工程と、
上記減圧工程にて減圧されたニーダーの内部を常圧に戻す大気解放工程と
を有するカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。
【請求項2】
上記減圧工程では、常圧より400〜700mmHgの減圧度で減圧する請求項1記載のカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。
【請求項3】
上記加熱工程では、上記小魚の温度が55〜75℃となるように加熱する請求項1又は2記載のカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。
【請求項4】
上記ニーダー内に投入した上記カルシウム含有調整液がなくなるまで、上記減圧工程と上記大気解放工程とを繰り返す請求項1乃至3の何れか1項記載のカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。
【請求項5】
上記小魚は、しらすである請求項1乃至4の何れか1項記載のカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。
【請求項6】
上記調整液生成工程では、さらに乳化剤を添加する請求項1乃至5の何れか1項記載のカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。
【請求項7】
上記カルシウム強化剤は、乳酸カルシウム、塩化カルシウム及びグルコン酸カルシウムから選択される少なくとも1種である請求項1乃至6の何れか1項記載のカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。
【請求項8】
上記カルシウム強化剤は、乳酸カルシウムである請求項7記載のカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。
【請求項9】
上記調整液生成工程における上記乳酸カルシウムの添加量は、10g以下である請求項8記載のカルシウムを添加した小魚加工食品の製造方法。

【図1】
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