説明

カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法並びに処理システム

【課題】工程及び薬剤の数が少なく、カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末から、カルシウム成分及び鉛成分を、鉛成分の高い回収率を常に確保しつつ、分別して回収しうる処理方法を提供する。
【解決手段】(A)カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、pHが6.0以下でありかつ硫酸カルシウムを含むスラリーを得る工程と、(B)工程(A)で得たスラリーに硫化剤を加えて、硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得る工程と、(C)工程(B)で得たスラリーのpHを測定し、pHが6.0を超えている場合は、スラリーに硫酸を加えて、再度、pHを6.0以下に調整する工程と、(D)工程(C)で得たスラリーに捕収剤を加えて、鉛硫化物を疎水化させる工程と、(E)工程(D)で得たスラリーを浮遊選鉱処理して、鉛硫化物を含む浮鉱と、硫酸カルシウムを含む沈鉱を得る工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルンの排ガスの一部を抽気する塩素バイパス技術で得られる微粉末等のカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法に関し、より詳しくは、カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末に含まれているカルシウム成分及び鉛成分を分別して回収するための処理方法並びに処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
家庭ごみ、焼却灰等の廃棄物を原料の一部として用いるセメントキルンにおいては、塩素の含有率が高い排ガスが発生する。この排ガスは、塩素バイパス技術によって処理される。塩素バイパス技術とは、セメントキルンの排ガスの一部を抽気した後、この抽気した高温の排ガス中の粗粉(塩素含有量が少ない固体分)をサイクロンで捕集し、セメント原料としてセメントキルンに戻す一方、サイクロンを通過した排ガスを冷却して生じる微粉末(塩素含有量が多い固体分)を、バグフィルター等の集塵機で捕集して、塩素成分を除去する技術をいう。捕集した微粉末は、カルシウム成分、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等を含む。なお、この微粉末は、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等を除去すれば、カルシウム成分を主成分とするセメント原料として、セメントキルンに戻すことができる。
【0003】
一方、塩素成分、カルシウム成分、及び鉛成分等の重金属成分を含むダストに対して、浮遊選鉱を行い、カルシウム成分と、鉛成分等の重金属成分とを分別して回収する技術が知られている。
例えば、廃棄物を焼却した際に発生する飛灰を処理する方法であって、炭酸ガスを吹送しながら水を用いて飛灰を洗浄する洗浄工程と、該洗浄工程で得られた固体残渣に対して、炭酸カルシウム用浮選剤を用いて浮遊選鉱を行い、フロス(浮鉱)として炭酸カルシウムを回収する第1浮遊選鉱工程と、該第1浮遊選鉱工程の沈降残渣(沈鉱)に硫酸を加えるなどして重金属の金属塩を生成し、さらに水を加えて金属塩を溶解すると同時に、溶解した銅イオンを金属銅として析出させ、該金属銅、硫酸鉛等を含む混合物を生成させた後、この混合物を濾過等によって濾滓として回収する浸出工程と、該浸出工程で回収した濾滓に対して、硫化剤等の活性化剤と、捕収剤及び起泡剤とを用いて浮遊選鉱を行い、フロス(浮鉱)として金属銅及び硫酸鉛を回収する第2浮遊選鉱工程とを有する飛灰の処理方法が、提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−323321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の塩素バイパス技術で得られる微粉末は、カルシウム成分、カリウム成分、鉛成分、塩素成分等を含むものである。このうち、カリウム成分、塩素成分等は、水洗処理後の濾液中の成分として回収することができる。
しかし、セメント原料として利用可能なカルシウム成分と、非鉄精錬原料として利用可能な鉛成分を、例えば、上述の文献に記載された技術を用いて分別して回収しようとすると、工程や薬剤の数が多いため、多大の手間を要し、かつ高コストになる。
一方、カルシウム成分及び鉛成分を含む微粉末から、カルシウム成分及び鉛成分を分別して回収するに際し、微粉末の成分組成が処理毎に変動する場合であっても、常に、鉛成分の回収率等を、一定の値以上に高く維持することが望まれている。
そこで、本発明は、工程及び薬剤の数が少なく、しかも簡易な操作によって、カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末から、カルシウム成分及び鉛成分を、鉛成分の高い回収率を常に確保しつつ、分別して回収することができる処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、pHが6.0以下である、硫酸カルシウムを含むスラリーを得た後、このスラリーに硫化剤を加えて、鉛硫化物を生成させ、次いで、このスラリーのpHを測定して、pHが6.0を超えている場合は、このスラリーに硫酸を加えて、再度、pHを6.0以下に調整し、その後、このスラリーに対して、鉛硫化物の疎水化処理、および浮遊選鉱を行えば、微粉末の成分組成の変動にかかわらず、鉛成分について高い回収率が確実に得られるなどの利点を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[2]を提供するものである。
[1] (A)カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、pHが6.0以下であり、かつ、固体分である硫酸カルシウムを含むスラリーを得る硫酸カルシウム生成工程と、
(B)工程(A)で得られた前記スラリーに硫化剤を加えて、固体分である硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得る鉛硫化物生成工程と、
(C)工程(B)で得られた前記スラリーのpHを測定し、pHが6.0を超えている場合は、前記スラリーに硫酸を加えて、再度、pHを6.0以下に調整するpH調整工程と、
(D)工程(C)で得られた前記スラリーに捕収剤を加えて、スラリーに含まれる鉛硫化物を疎水化させる鉛硫化物疎水化工程と、
(E)工程(D)で得られた前記スラリーを浮遊選鉱処理して、鉛硫化物を含む浮鉱と、硫酸カルシウムを含む沈鉱を得る鉛・カルシウム分離工程と、
を含むことを特徴とするカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法。
[2] カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と水との混合物であるスラリーを貯留するための攪拌手段付きの第1の貯留槽と、第1の貯留槽内のスラリーに硫酸を加えるための第1の硫酸供給手段と、第1の貯留槽内のスラリーのpHを測定するための第1のpH測定手段とを備えた硫酸カルシウム生成装置と、
該硫酸カルシウム生成装置で得られた前記スラリーを貯留するための攪拌手段付きの第2の貯留槽と、第2の貯留槽内のスラリーに硫化剤を加えるための硫化剤供給手段とを備えた鉛硫化物生成装置と、
該鉛硫化物生成装置で得られた前記スラリーを貯留するための攪拌手段付きの第3の貯留槽と、第3の貯留槽内のスラリーに硫酸を加えるための第2の硫酸供給手段と、該スラリーのpHを測定するための第2のpH測定手段とを備えたpH再調整装置と、
該pH再調整装置で得られた前記スラリーを貯留するための攪拌手段付きの第4の貯留槽と、第4の貯留槽内のスラリーに捕収剤を加えるための捕収剤供給手段を備えた鉛硫化物疎水化装置(ただし、第4の貯留槽は、前記pH再調整装置の第3の貯留槽と兼用してもよい。)と、
該鉛硫化物疎水化装置で得られた前記スラリーを浮遊選鉱処理するための浮遊選鉱装置と、
を備えたことを特徴とするカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スラリーのpHの測定及び調整を、工程(A)のみならず、工程(C)でも行っているので、処理対象物である微粉末の種類(成分組成)にかかわらず、工程(E)における鉛成分の回収率を確実に一定以上の値にすることができる。
また、本発明によれば、工程及び薬剤の数が少なく、しかも簡易な操作によって、処理対象物である微粉末からカルシウム成分と鉛成分を分別して回収することができる。
このうち、カルシウム成分は、硫酸カルシウムとして回収され、セメント原料等として用いることができる。
鉛成分は、鉛硫化物(例えば、硫化鉛)として回収され、山元還元による非鉄精練原料等として用いることができる。特に、浮遊選鉱で回収される固体分として、硫酸カルシウム、鉛硫化物以外の他の物質(例えば、ケイ素、アルミニウム等の化合物)が高含有率で含まれる場合であっても、当該他の物質が、硫酸カルシウムと共に沈鉱として回収されるため、浮鉱に含まれる鉛硫化物の含有率を高く維持することができ、常に、良質の非鉄精錬原料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、本発明のカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法を説明する。
図1は、本発明のカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法の一例を示すフロー図である。
本発明のカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法は、図1に示すように、(A)カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、pHが6.0以下であり、かつ、固体分である硫酸カルシウムを含むスラリーを得る硫酸カルシウム生成工程と、(B)工程(A)で得られたスラリーに硫化剤を加えて、固体分である硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得る鉛硫化物生成工程と、(C)工程(B)で得られたスラリーのpHを測定し、pHが6.0を超えている場合は、前記スラリーに硫酸を加えて、再度、pHを6.0以下に調整するpH調整工程と、(D)工程(C)で得られた前記スラリーに捕収剤と必要に応じて起泡剤とを加えて、スラリーに含まれる鉛硫化物を疎水化させる鉛硫化物疎水化工程と、(E)工程(D)で得られた前記スラリーを浮遊選鉱処理して、鉛硫化物を含む浮鉱と、硫酸カルシウムを含む沈鉱を得る鉛・カルシウム分離工程を含むものである。
【0009】
[(A)硫酸カルシウム生成工程]
本工程は、カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、pHが6.0以下であり、かつ、固体分である硫酸カルシウムを含むスラリーを得る工程である。
本発明の処理対象となる微粉末としては、例えば、前記の背景技術の欄で説明した、塩素バイパス技術によるセメントキルンの排ガスの処理の過程で捕集される微粉末や、焼却飛灰、溶融飛灰等が挙げられる。
本発明の処理対象となる微粉末中のカルシウム成分の含有率(CaO換算の質量割合)は、特に限定されないが、好ましくは5〜70質量%である。なお、該含有率が5質量%未満では、本発明の処理方法によって得られるカルシウム成分の量が少なくなり、カルシウム成分の再資源化を十分に図ることができない。
本発明の処理対象物である微粉末中の鉛成分の含有率(PbO換算の質量割合)は、特に限定されないが、通常、0.1〜10質量%である。該含有率が0.1質量%未満では、鉛の含有量が少なすぎて、本発明の方法を適用する必要性が小さくなる。
【0010】
本工程の実施形態の一例としては、攪拌手段(例えば、攪拌翼)付きの第1の貯留槽内に、本発明の処理対象となるカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水との混合物であるスラリーを収容した後、pH測定手段(pH計)を用いてpHを測定しながら、攪拌下でスラリーに硫酸を添加して、スラリーのpHを6.0以下に調整する方法が挙げられる。
スラリーのpHは、6.0以下、好ましくは2.0〜5.5、特に好ましくは2.5〜5.0である。該pHが6.0を超えると、硫酸カルシウムの生成が不十分になることがある。該pHが2.0未満では、硫酸の添加量が大きいため、薬剤コストが増大するばかりか、処理対象物である微粉末の種類によっては、工程(E)における鉛成分の回収率が低下するなどの不都合がある。
水1リットル当たりのカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の量は、好ましくは
5〜300g、より好ましくは20〜250g、特に好ましくは50〜200gである。該量が5g未満では、カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の単位質量当たりの水量が大きくなり、処理の効率が低下する。該量が300gを超えると、鉛・カルシウム分離工程(E)における鉛成分とカルシウム成分の分離性能が低下する。
攪拌時間は、好ましくは10〜90分間、より好ましくは15〜60分間である。攪拌時間が10分間未満では、硫酸カルシウムの生成が不十分となることがある。
【0011】
本工程の処理は、バッチ式と連続式のいずれでもよい。
バッチ式の処理の場合、本工程におけるスラリーのpHの測定は、スラリーを収容する貯留槽に硫酸を供給した後、所定の時間を経過し、少なくともスラリーが均一になった時点(例えば、5分経過後)で行えばよい。なお、スラリーのpHは、通常、硫酸を供給した後に所定の値まで低下し、その後、スラリーの攪拌を継続する過程で徐々に増大していくことがわかっている。そのため、本工程の終了時点において、スラリーのpHが6.0を超えることもある。しかし、この場合でも、硫酸を供給した後に、スラリーのpHが一時的に6.0以下に低下したのであれば、本工程の条件を満たすものとする。
連続式の処理の場合、本工程におけるスラリーのpHの測定は、随時、行なうことができる。なお、連続式の処理の場合、前記の攪拌時間は、滞留時間を意味する。
【0012】
[(B)鉛硫化物生成工程]
本工程は、工程(A)で得られたスラリーに硫化剤を加えて、固体分である硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得る工程である。
本工程の実施形態の一例としては、攪拌手段(例えば、攪拌翼)付きの第2の貯留槽内に工程(A)で得られたスラリーを収容し、このスラリーに対して攪拌下で硫化剤を加えて、鉛硫化物を生成させ、硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得る方法が挙げられる。
硫化剤の例としては、水硫化ソーダ(NaSH)、硫化ソーダ(NaS)、硫化水素ガス(HS)等が挙げられる。
硫化剤の添加量は、スラリー化する前の微粉末中の鉛成分の量に応じて定められる。具体的には、S(硫化剤中の硫黄)/Pb(微粉末中の鉛)のモル比が0.8〜3.0の範囲内となる量の硫化剤を添加することが望ましい。但し、硫化剤の添加量は、微粉末に含まれる他の金属成分によってもその最適値が変動するものであり、特に限定されるものではない。仮に、硫化剤の添加量が過剰となり、スラリーのpHが6.0を超えたとしても、工程(C)でpHの再調整を行うことができる。
本工程においては、硫化剤を添加した後に十分に攪拌することが好ましい。攪拌時間は、特に限定されないが、好ましくは5〜30分間である。
本工程の処理は、バッチ式と連続式のいずれでもよい。なお、連続式の処理の場合、前記の攪拌時間は、滞留時間を意味する。
【0013】
[(C)pH調整工程]
本工程は、工程(B)で得られたスラリーのpHを測定し、pHが6.0を超えている場合は、前記スラリーに硫酸を加えて、再度、スラリーのpHを6.0以下に調整する工程である。
本工程の実施形態の一例としては、攪拌手段(例えば、攪拌翼)付きの第3の貯留槽(例えば、工程(D)で用いる第4の貯留槽との兼用の貯留槽としての疎水化反応槽)内に、工程(B)で得られたスラリーを収容し、pH測定手段(pH計)を用いてスラリーのpHを測定し、スラリーのpHが6.0を超える場合は、硫酸を加えて、スラリーのpHを6.0以下に低下させる方法が挙げられる。
本工程において、硫酸を添加した後のpHは、6.0以下、好ましくは2.5〜5.5、より好ましくは3.0〜5.0である。該pHが6.0を超えると、本工程後の時間の経過と共にスラリーのpHが増大する結果として、工程(D)における捕収剤の添加及び攪拌が終了する前に、スラリーのpHが6.5を超えて、鉛成分の回収率が低下することがある。該pHが2.5未満では、工程(D)における捕収剤の添加及び攪拌が終了しても、スラリーのpHが2.5未満に留まって、工程(E)における鉛成分の回収率が低下することがある。すなわち、本工程の後、鉛硫化物疎水化工程(D)を経て、浮選機(浮遊選鉱処理による鉛・カルシウム分離工程(E))へ供給されるまでの間のスラリーのpHは、好ましくは6.0以下、より好ましくは2.5〜5.5、特に好ましくは3.0〜5.0の数値範囲内に保持されることが望ましい。
本工程の処理は、バッチ式と連続式のいずれでもよい。
バッチ式の処理の場合、本工程におけるスラリーのpHの測定は、第3の貯留槽内にスラリーを収容した後、直ちに行なうことができる。その結果、pHの測定値が6.0を超えていれば、スラリーに硫酸を加えて、pHを6.0以下に調整する。pHの測定値が6.0以下であれば、硫酸を加えなくてもよいが、硫酸を加えてpHをより好ましい数値範囲内へと低下させることは差し支えない。
連続式の処理の場合、本工程におけるスラリーのpHの測定は、第3の貯留槽内のスラリーに対して、随時、行えばよい。
なお、バッチ式と連続式のいずれであっても、スラリーのpHの調整は、スラリーの攪拌下で行なうことが望ましい。
【0014】
[(D)鉛硫化物疎水化工程]
本工程は、工程(C)でpHを再調整したスラリーに対して、捕収剤と必要に応じて起泡剤とを加えて、スラリーに含まれる鉛硫化物を疎水化させる工程である。
本発明で用いられる捕収剤は、工程(B)で生成した鉛硫化物の疎水性を高めるためのものである。鉛硫化物は、捕収剤によって疎水性を高められた後、泡の表面に付着して、水中を浮上し、浮鉱となる。
【0015】
本工程は、例えば、攪拌手段(例えば、攪拌翼)付きの第4の貯留槽内にスラリーを貯留して、攪拌下でスラリーに捕収剤を加えることによって行われる。
捕収剤の例としては、ザンセートや、酸性ジチオリン酸エステル類(商品名:エロフロート)や、n−ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩や、オレイン酸ナトリウム等の不飽和脂肪族カルボン酸塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、ザンセート、酸性ジチオリン酸エステル類、オレイン酸ナトリウム等は、本発明において好ましく用いられる。
ここで、ザンセートとは、−OC(=S)−Sの化学構造を有するキサントゲン酸塩をいう。
ザンセートの例としては、R−OC(=S)−S(式中、Rは炭素数1〜20(好ましくは2〜5)のアルキル基、MはNa、K等のアルカリ金属またはNH等を表す。)の一般式で表される化合物が挙げられる。
捕収剤の添加量は、スラリー1リットルに対して、好ましくは10mg以上、より好ましくは30mg以上、特に好ましくは50mg以上である。該量が10mg未満では、鉛硫化物を浮鉱として十分に浮上させることが困難となる。
捕収剤の添加量の上限値は、特に限定されないが、薬剤コストの削減等の観点から、スラリー1リットルに対して、好ましくは1,000mg以下、より好ましくは500mg以下である。
【0016】
起泡剤は、スラリーの起泡が少ない場合に添加される任意成分である。
起泡剤の例としては、メチルイソブチルカルビノール(MIBC;4−メチル−2−ペンタノール)、メチルイソブチルケトン、パイン油、エチレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、クレゾール酸等が挙げられる。起泡剤として、前記の例示物の他に、例えば、炭素数6〜8の鎖状の炭化水素基(アルキル基等)や炭素数10〜15の環状の炭化水素基(芳香族基、シクロアルキル基等)等の疎水性基、及び、水酸基、カルボキシル基等の親水性基を有する化合物も、使用することができる。
起泡剤の添加量は、スラリー1リットルに対して、好ましくは5〜100mgである。
本工程の処理は、バッチ式と連続式のいずれでもよい。
本工程は、工程(C)と同時に行なうことができる。この場合、本工程の第4の貯留槽は、工程(C)の第3の貯留槽と兼用される。
【0017】
[(E)鉛・カルシウム分離工程]
本工程は、工程(D)で得られたスラリーを浮遊選鉱処理して、鉛硫化物を含む浮鉱と、硫酸カルシウムを含む沈鉱を得る工程である。
浮遊選鉱とは、疎水性の表面を有する粒子及び親水性の表面を有する粒子を含む水中に空気を供給して、この空気の泡の表面に、疎水性の表面を有する粒子を付着させ、該粒子が付着している泡を、水中で浮力により浮上させることによって、沈鉱である親水性の表面を有する粒子と、浮鉱である疎水性の表面を有する粒子とに分離するものである。
浮遊選鉱を行う手段としては、ファーレンワルド型浮選機(FW型浮選機)、MS型浮選機、フェジャーグレン型浮選機、アジテヤ型浮選機、ワーマン型浮選機等の浮選機が挙げられる。
浮鉱は、スラリーの液中の上部領域(特に液面付近)に存在する固体分を回収することによって、スラリーの他の成分(液分、沈鉱)から分離することができる。
浮鉱は、鉛(Pb)の分配率(換言すれば、浮鉱中のPbと沈鉱中のPbの合計量中の浮鉱中のPbの質量割合)が大きいので、山元還元による非鉄精錬原料等として用いることができる。
沈鉱は、スラリーの液中の下部領域(特に底面上)に存在する固体分を回収することによって、スラリーの他の成分(液分、浮鉱)から分離することができる。
沈鉱は、浮鉱とは逆に、硫酸カルシウムの分配率が大きく、かつ、鉛硫化物の分配率が小さいので、セメント原料等として用いることができる。沈鉱には、ケイ素、アルミニウム等の化合物が含まれることがある。
【0018】
本発明において、浮鉱における鉛の分配率は、本発明の処理対象物である微粉末の成分組成の変動にかかわらず、高く維持される。つまり、本発明において、微粉末からの鉛成分の回収率は、常に高く維持される。この点を以下に説明する。
本発明者は、工程(C)を含まないこと以外は本発明と同様の方法を適用し、かつ、微粉末中のCaOの含有率が40〜55質量%程度である場合、工程(A)(硫酸カルシウム生成工程)における硫酸の添加によって、pHを4程度に低下させても、その後の時間の経過に伴い、スラリーのpHが徐々に増大し、工程(D)におけるスラリーのpHが7を超えることがあり、この場合、微粉末からの鉛の回収率が小さくなるという知見を得た。なお、工程(A)における硫酸の添加時にスラリーのpHを2未満に低下させれば、工程(D)におけるスラリーのpHが6.0以下になり、微粉末からの鉛の回収率を高めることができる。
一方、本発明者は、工程(C)を含まないこと以外は本発明と同様の方法を適用し、かつ、微粉末中のCaOの含有率が20〜35質量%程度である場合、工程(A)(硫酸カルシウム生成工程)における硫酸の添加によって、pHを4程度に低下させると、工程(A)から工程(D)までのpHの上昇の幅が小さく、工程(D)におけるスラリーのpHが6.0以下になるため、微粉末からの鉛成分の回収率が大きいという知見も得た。なお、工程(A)における硫酸の添加時にスラリーのpHを2未満に低下させると、工程(D)におけるスラリーのpHが2.5未満になり、微粉末からの鉛成分の回収率が低下することがある。
このように、本発明者は、微粉末中のCaOの含有率の大きさによって、工程(A)における好適なpHの数値範囲が異なるという問題を見出し、この問題を解決するためには、工程(C)(pH調整工程)を加えることが効果的であることに想到したものである。
本発明によれば、工程(D)におけるスラリーのpHを確実に6.0以下(好ましくは2.5〜5.5)の数値範囲内に保つことができる。その結果、微粉末中のCaOの含有率の大きさにかかわらず、浮鉱における鉛の分配率を常に、一定の値(例えば、45質量%)以上にすることができる。なお、浮鉱における鉛の分配率が大きいことは、処理対象物である微粉末からの鉛成分の回収率が大きいことを意味する。
【0019】
次に、本発明の微粉末の処理システムの実施の形態について説明する。図2は、本発明の微粉末の処理システムの一例を概念的に示す図である。
微粉末の処理システムは、処理対象物であるカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水を混合するための混合槽1と、混合槽1から供給されたスラリーに硫酸を加えて、硫酸カルシウムを生成するための硫酸カルシウム生成槽(第1の貯留槽)2と、硫酸カルシウム生成槽2に硫酸を添加するための硫酸貯留槽(第1の硫酸供給手段)3と、硫酸カルシウム生成槽2内のスラリーのpHを測定するためのpH計(第1のpH測定手段)4と、硫酸カルシウム生成槽2から供給されたスラリーに硫化剤を加えて、鉛硫化物を生成するための鉛硫化物生成槽(第2の貯留槽)5と、鉛硫化物生成槽5に硫化剤を添加するための硫化剤貯留槽6と、鉛硫化物生成槽5から供給されたスラリーに硫酸を加えて、pHを調整するとともに、捕収剤を加えて、スラリー中の鉛硫化物の疎水性を高めるための疎水化反応槽9(第3の貯留槽と第4の貯留槽を兼用する貯留槽)と、疎水化反応槽9内のスラリーのpHを測定するpH計(第2のpH測定手段)7と、疎水化反応槽9に硫酸を添加するための硫酸貯留槽(第2の硫酸供給手段)8と、疎水化反応槽9に捕収剤を供給するための捕収剤貯留槽10と、疎水化反応槽9から供給されたスラリーに対して浮遊選鉱処理を行うための浮選機12と、疎水化反応槽9から浮選機12に供給される流通路内のスラリーに対して起泡剤を供給するための起泡剤貯留槽11を備えている。本発明の処理システムを構成する各部の間には、スラリーの流通路、または硫酸等の薬剤の供給路が設けられている。
本発明の処理システム中、硫酸カルシウム生成槽2、硫酸貯留槽3、及びpH計4は、硫酸カルシウム生成装置を構成している。鉛硫化物生成槽5、及び硫化剤貯留槽6は、鉛硫化物生成装置を構成している。pH計7、硫酸貯留槽8、及び疎水化反応槽9は、pH再調整装置を構成している。疎水化反応槽9、捕収剤貯留槽10、及び起泡剤貯留槽11は、鉛硫化物疎水化装置を構成している。
本発明の微粉末の処理システムにおいては、図2に示す兼用の貯留槽(疎水化反応槽9)を有するpH再調整装置および鉛硫化物疎水化装置に代えて、独立した2つの貯留槽を有するpH再調整装置および鉛硫化物疎水化装置としてもよい。
【実施例】
【0020】
本発明を実施例及び比較例によって説明する。なお、以下の「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
[カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の用意]
処理対象物であるカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末として、表1に示す5種(A〜E)を用意した。これらの微粉末はいずれも、塩素バイパス技術によるセメントキルンの排ガスの処理の過程で捕集される微粉末である。
【表1】

【0021】
[実施例1]
図2に示す連続処理システムを用いて、以下のように微粉末Aを処理した。
攪拌翼付きの混合槽1内に、水と、水1リットル当たり150gの量の微粉末Aを投入して攪拌し、均一なスラリーを得た。
このスラリーを攪拌翼付きの硫酸カルシウム生成槽2(容量:90リットル)に導いた後、硫酸(濃度:98%)を加えて、スラリーのpHを4.0に調整し、30分間の滞留時間の条件下で攪拌し、硫酸カルシウムを生成させた。
次いで、このスラリーを攪拌翼付きの鉛硫化物生成槽5(容量:45リットル)に導いた後、スラリー1リットル当たり3,000mgの水硫化ソーダ水溶液(濃度:20質量%)を加えて、15分間の滞留時間の条件下に攪拌して、鉛硫化物を生成させた。
次いで、このスラリーを攪拌翼付きの疎水化反応槽9(容量:45リットル)に導いた後、pHを測定した。疎水化反応槽9内のスラリーのpHは4.2であった。このpHの測定値は、本発明で規定する基準値である6.0よりも小さい。そのため、疎水化反応槽9内のスラリーには硫酸を添加しなかった。
また、疎水化反応槽9内のスラリーに対して、鉛硫化物の疎水性を高めるための捕収剤として、スラリー1リットル当たり、480mg(固形分)の量のアミルザンセートの添加量となるように、アミルザンセート水溶液(濃度:0.4質量%)を加えた。
疎水化反応槽9内のスラリーは、15分間の滞留時間の条件下で攪拌した。
次いで、このスラリーを、疎水化反応槽9から流通路を介してFW型浮選機12に導いた後、FW型浮選機12内にて、送気しながらスラリーを浮遊選鉱し、浮鉱及び沈鉱を得た。なお、疎水化反応槽9からFW型浮選機12に導かれるスラリーに対して、流通路の所定の地点で、起泡剤貯留槽11から、起泡剤として、スラリー1リットル当たり、70mgの添加量となるようにメチルイソブチルカルビノール(MIBC)を添加した。
浮遊選鉱で得られた浮鉱について、鉛の分配率を算出した。浮鉱中の鉛の分配率は73質量%であった。
【0022】
[実施例2]
微粉末Aに代えて微粉末Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実験した。
その結果、疎水化反応槽9内のスラリーのpHは、5.0であった。この値は、本発明の基準値である6.0よりも小さい。そのため、工程(C)の硫酸は添加しなかった。
浮鉱における鉛の分配率は、73質量%であった。
【0023】
[実施例3]
微粉末Aに代えて微粉末Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実験した。
その結果、疎水化反応槽9内のスラリーのpHは、4.5であった。この値は、本発明の基準値である6.0よりも小さい。そのため、工程(C)の硫酸は添加しなかった。
浮鉱における鉛の分配率は、64質量%であった。
【0024】
[実施例4]
微粉末Aに代えて微粉末Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実験した。
その結果、疎水化反応槽9内のスラリーのpHは、6.3であった。この値は、本発明の基準値である6.0よりも大きい。そのため、工程(C)の硫酸を添加し、スラリーのpHを3.5に調整した。
浮鉱における鉛の分配率は、59質量%であった。
【0025】
[実施例5]
微粉末Aに代えて微粉末Eを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実験した。
その結果、疎水化反応槽9内のスラリーのpHは、8.2であった。この値は、本発明の基準値である6.0よりも大きい。そのため、工程(C)の硫酸を添加し、スラリーのpHを4.0に調整した。
浮鉱における鉛の分配率は、48質量%であった。
【0026】
[比較例1]
工程(C)の硫酸を添加しないこと以外は、実施例4と同様にして、実験した。
その結果、浮鉱における鉛の分配率は、48質量%であり、実施例4と比べて11質量%小さかった。
[比較例2]
工程(C)の硫酸を添加しないこと以外は、実施例5と同様にして、実験した。
その結果、浮鉱における鉛の分配率は、28質量%であり、実施例5と比べて20質量%小さかった。
実施例1〜5の結果を図3に示す。また、比較例4、5の結果を図4に示す。なお、図4は、図3と対比させるために、実施例1〜3の結果も含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の微粉末の処理方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の微粉末の処理システムの一例を概念的に示す図である。
【図3】微粉末中のCaの含有率と、硫化剤添加後のスラリーのpHとの関係、及び、微粉末中のCaの含有率と、浮鉱中の鉛の分配率との関係を示すグラフ(実施例1〜5)である。
【図4】微粉末中のCaの含有率と、硫化剤添加後のスラリーのpHとの関係、及び、微粉末中のCaの含有率と、浮鉱中の鉛の分配率との関係を示すグラフ(実施例1〜3、比較例1、2)である。
【符号の説明】
【0028】
1 混合槽
2 硫酸カルシウム生成槽(第1の貯留槽)
3 硫酸貯留槽(第1の硫酸供給手段)
4 pH計(第1のpH測定手段)
5 鉛硫化物生成槽(第2の貯留槽)
6 硫化剤貯留槽
7 pH計(第2のpH測定手段)
8 硫酸貯留槽(第2の硫酸供給手段)
9 疎水化反応槽(第3の貯留槽、第4の貯留槽)
10 捕収剤貯留槽
11 起泡剤貯留槽
12 浮選機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と、水と、硫酸を混合して、pHが6.0以下であり、かつ、固体分である硫酸カルシウムを含むスラリーを得る硫酸カルシウム生成工程と、
(B)工程(A)で得られた前記スラリーに硫化剤を加えて、固体分である硫酸カルシウム及び鉛硫化物を含むスラリーを得る鉛硫化物生成工程と、
(C)工程(B)で得られた前記スラリーのpHを測定し、pHが6.0を超えている場合は、前記スラリーに硫酸を加えて、再度、pHを6.0以下に調整するpH調整工程と、
(D)工程(C)で得られた前記スラリーに捕収剤を加えて、スラリーに含まれる鉛硫化物を疎水化させる鉛硫化物疎水化工程と、
(E)工程(D)で得られた前記スラリーを浮遊選鉱処理して、鉛硫化物を含む浮鉱と、硫酸カルシウムを含む沈鉱を得る鉛・カルシウム分離工程と、
を含むことを特徴とするカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理方法。
【請求項2】
カルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末と水との混合物であるスラリーを貯留するための攪拌手段付きの第1の貯留槽と、第1の貯留槽内のスラリーに硫酸を加えるための第1の硫酸供給手段と、第1の貯留槽内のスラリーのpHを測定するための第1のpH測定手段とを備えた硫酸カルシウム生成装置と、
該硫酸カルシウム生成装置で得られた前記スラリーを貯留するための攪拌手段付きの第2の貯留槽と、第2の貯留槽内のスラリーに硫化剤を加えるための硫化剤供給手段とを備えた鉛硫化物生成装置と、
該鉛硫化物生成装置で得られた前記スラリーを貯留するための攪拌手段付きの第3の貯留槽と、第3の貯留槽内のスラリーに硫酸を加えるための第2の硫酸供給手段と、該スラリーのpHを測定するための第2のpH測定手段とを備えたpH再調整装置と、
該pH再調整装置で得られた前記スラリーを貯留するための攪拌手段付きの第4の貯留槽と、第4の貯留槽内のスラリーに捕収剤を加えるための捕収剤供給手段を備えた鉛硫化物疎水化装置(ただし、第4の貯留槽は、前記pH再調整装置の第3の貯留槽と兼用してもよい。)と、
該鉛硫化物疎水化装置で得られた前記スラリーを浮遊選鉱処理するための浮遊選鉱装置と、
を備えたことを特徴とするカルシウム成分及び鉛成分を含有する微粉末の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−93510(P2008−93510A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275029(P2006−275029)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】