説明

カルボキシル基含有粒子およびその製造方法

【課題】磁気分離性に優れ、かつ、生体関連物質との結合量が多いカルボキシル基含有粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】水酸基を有する有機ポリマー粒子の該水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成させ、カルボキシル基含有粒子を製造する。2,3−ヒドロキシプロピル基を有する有機ポリマー粒子の該2,3−ヒドロキシプロピル基由来の水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成させ、カルボキシル基含有粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基を利用して、抗体または抗原等のタンパク質をはじめとする生体関連物質と化学結合することができ、かつ、生物由来のタンパク質や核酸等の非特異吸着が少ないカルボキシル基含有粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマー粒子および磁性粒子は、例えば、感染症・癌マーカー・ホルモン等の検査対象物質の検出を行なうため、抗原抗体反応を利用した診断薬の反応固相として用いられている。このような診断薬においては、抗体または抗原等の検査用プローブ(一次プローブ)が粒子上に固定化される。サンプル中の検査対象物質は一次プローブを介して粒子上に捕捉された後、第二の検査プローブと反応する。第二の検査プローブ(二次プローブ)は蛍光物質や酵素で標識されており、蛍光や酵素反応によって検出が行われる。近年、疾病の早期発見等の目的のため、検査の高感度化が求められており、診断薬の感度向上は大きな課題となっている。磁性粒子を用いた診断薬においても、感度向上のため、検出法として酵素発色を用いる方式から、より高い感度が得られる蛍光や化学発光を用いる方式へと切り替わりつつある。
【0003】
これらの検出技術の発展により、理論上は一分子の検査対象物質の存在まで検出できるレベルに達しているといわれているが、実際には十分な感度が得られていない。その原因としては、二次プローブや夾雑物が粒子表面に非特異的に吸着することが挙げられる。例えば、理論上一分子の検査対象物質を検出可能な検査技術であっても、数分子の二次プローブが粒子表面に非特異的に吸着すると、一分子検出は不可能である。このため、検査に使用される物質が粒子表面に非特異的に吸着するのを低減することが強く求められている。
【0004】
従来、このような非特異吸着を低減する方法として、ブロッキングと言われる方法が行われてきた。ブロッキングは、一次プローブを粒子表面に固定化した後に、二次プローブや夾雑物等の吸着の少ないアルブミンやスキムミルク等のブロッキング剤で粒子表面を被覆する方法である。しかし、ブロッキング剤の被覆効果が十分得られない場合があり、また、生体物質であるブロッキング剤の品質安定性が低い場合がある。一方、ブロッキングが十分に行われた場合でも、ブロッキング剤の変質等によってその作用が経時的に変化して非特異吸着が発生する場合があり、十分な非特異吸着の低減効果は得られていなかった。
【0005】
非特異吸着の問題を解決するための方法として、96ウェルプレートに代表される免疫測定用基材の表面に親水性ポリマーを導入する方法が提案されている(特許文献1〜3)。しかし、このような平面を利用した免疫測定用基材では、一次プローブを固定化する面積が限られること、ならびに、一次プローブと検査対象物質との反応は固液反応であるため、抗原抗体反応の効率が悪く、検査時間が長くなること等の欠点があった。
【0006】
さらに、非特異吸着を少なくするための対応策として、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体等からなる有機ポリマー粒子にスペーサを介して生理活性物質を結合したミクロスフィア(特許文献4,5,6)や、粒子表面に親水性のスペーサを導入した有機ポリマー粒子(特許文献7,8)等が提案されている。しかしながら、これらはいずれも、非特異吸着の低減効果が充分ではなく、また、免疫検査用としては感度が不十分であった。
【0007】
本発明者らは、親水性モノマーとして、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン(C2−C4)基含有(メタ)アクリレート、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、ホスホリルコリン類似基含有単量体等を粒子表面に共重合させた、非特異吸着の少ない免疫検査用磁性粒子を提案しているが(特許文献9)、さらなる高感度の発現が望まれる。
【特許文献1】特開平11−174057号公報
【特許文献2】特開2000−304749号公報
【特許文献3】特開2001−272406号公報
【特許文献4】特開平10−195099号公報
【特許文献5】特開2000−300283号公報
【特許文献6】国際公開第04/025297号パンフレット
【特許文献7】特開2004−331953号公報
【特許文献8】国際公開第04/040305号公報パンフレット
【特許文献9】特開2005−69926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、生体関連物質の非特異吸着量が少なく、高感度でかつ低ノイズのカルボキシル基含有粒子を得ることができる、カルボキシル基含有粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ね、水酸基を有する有機ポリマー粒子の該水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成することにより得られたカルボキシル基含有粒子が、タンパク質や核酸等の生体関連物質の非特異吸着が極めて少ないこと、ならびに、生化学・医薬品分野で特出する高感度を発現することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の第1の態様のカルボキシル基含有粒子の製造方法は、
水酸基を有する有機ポリマー粒子の該水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成する工程を含む。
【0011】
本発明の第2の態様のカルボキシル基含有粒子の製造方法は、
2,3−ジヒドロキシプロピル基を有する有機ポリマー粒子の該2,3−ジヒドロキシプロピル基由来の水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成する工程を含む。
【0012】
前記カルボキシル基含有粒子の製造方法において、前記有機ポリマー粒子は磁性体を含有することができる。
【0013】
本発明の第3の態様のカルボキシル基含有粒子は、
核粒子と、この核粒子の表面に設けられた超常磁性微粒子の磁性体層とを含む母粒子と、この母粒子を覆うように設けられた、架橋重合体からなる有機ポリマー層とを含む。
【発明の効果】
【0014】
上記カルボキシル基含有粒子の製造方法によれば、タンパク質や核酸等の生体関連物質の非特異吸着量が少なく、生化学・医薬品分野で特出する高感度を発現し、かつ、生化学検査用として高いS/N比を得ることができる粒子を得ることができる。
【0015】
上記カルボキシル基含有粒子の製造方法によって得られた粒子を、例えば、抗原抗体反応を利用する診断薬に用いた場合、特出する高感度および低ノイズを発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1.カルボキシル基含有粒子およびその製造方法
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子の製造方法は、水酸基を有する有機ポリマー粒子の該水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成する工程を含む。すなわち、前記製造方法によって得られたカルボキシル基含有粒子は、エステル結合を有する官能基を有する。
【0017】
1.1.カルボキシル基含有粒子の製造方法
1.1.1.水酸基を有する有機ポリマー粒子
有機ポリマー粒子が有する水酸基としては、好ましくは、アルコール性水酸基であり、より好ましくは、α,β−ジオールを含む多価アルコールであり、最も好ましくは、2,3−ジヒドロキシプロピル基である。この有機ポリマー粒子においては、少なくとも表面に水酸基を有するのが好ましい。
【0018】
水酸基を有する有機ポリマー粒子としては、例えば、以下(i)〜(iv)が挙げられる。
【0019】
(i)2,3−ジヒドロキシプロピル基を有する有機ポリマー粒子
(i)2,3−ジヒドロキシプロピル基は、1官能基中に2つの水酸基を有する。(i)2,3−ジヒドロキシプロピル基を有する有機ポリマー粒子は、例えば、2,3−ジヒドロキシプロピル基を有するモノマー(A)(以下、単に「モノマー(A)」ともいう。)を単独重合または他のモノマーと共重合して製造してもよいし、あるいは、加水分解により2,3−ジヒドロキシプロピル基を有するモノマー(B)(以下、単に「モノマー(B)」ともいう。)を単独重合または他のモノマーと共重合して有機ポリマーを得、この有機ポリマーを加水分解することにより製造してもよい。あるいは、モノマー(A)およびモノマー(B)の両方を使用して有機ポリマー粒子を製造してもよい。より多くの水酸基を導入できることからより低いノイズを発現でき、かつ、重合安定性に優れる点で、モノマー(B)を使用するのがより好ましい。
【0020】
ここで、2,3−ジヒドロキシプロピル基を有するモノマー(A)としては、例えば、グリセロール(メタ)アクリレート、アリルグリセロールエーテルなどのラジカル重合性モノマーが挙げられる。
【0021】
また、加水分解により2,3−ジヒドロキシプロピル基を生成するモノマー(B)としては、水酸基を公知の保護基で保護した官能基を有するモノマーが挙げられ、例えば、(B−1)2,3−エポキシプロピル基を有するモノマー、(B−2)2,3−ジヒドロキシプロピル基をアセタール化したモノマー、(B−3)2,3−ジヒドロキシプロピル基をシリル化したモノマーなどを挙げることができる。(B−1)2,3−エポキシプロピル基を有するモノマーとしては、具体的には、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等を例示できる。(B−2)2,3−ジヒドロキシプロピル基をアセタール化したモノマーとしては、具体的には、1,3−ジオキソラン−2−オン−4−イルメチル(メタ)アクリレート、1,3−ジオキソラン−2,2−ジメチル−4−イルメチル(メタ)アクリレート等を例示できる。(B−3)2,3−ジヒドロキシプロピル基をシリル化したモノマーとしては、具体的には、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのジ(t−ブチル)シリル化物、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのジ(トリメチルシリル)化物などを挙げることができる。
【0022】
モノマー(B)に含まれる官能基の加水分解の条件は、モノマー(B)の種類によるが、通常、粒子を水に分散した状態で、酸、塩基、またはフッ化物塩を触媒として、加温条件下で数時間〜数十時間攪拌して、前記官能基を加水分解する。モノマー(B)に含まれる官能基の加水分解は、貯蔵安定性などに支障のない限り、必ずしもモノマー(B)中の全ての官能基が加水分解されている必要はない。モノマー(B)に含まれる官能基の加水分解は、通常、モノマー部の重合後に実施するが、重合中にその一部が加水分解されてもよい。
【0023】
モノマー(A)およびモノマー(B)は、架橋性モノマー(C)と共重合することが好ましい。架橋性モノマー(C)(以下、単に「モノマー(C)」ともいう。)は、使用する他のモノマーと共重合可能で、かつ、1分子中に2個以上のラジカル重合性不飽和結合を有するモノマーである。
【0024】
このような架橋性モノマー(C)としては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジオレフィン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレートなどを例示することができる。
【0025】
架橋性のモノマー(C)としては、さらに、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリビニルアルコールのポリ(メタ)アクリルエステルなどの親水性のモノマーを例示することができる。
【0026】
架橋性モノマー(C)の比率は、共重合体100重量%中に好ましくは0〜30重量%であり、さらに好ましくは5〜20重量%である。共重合体中のモノマー(C)の比率が30重量%を超えると、粒子が多孔質化して非特異吸着を増加させることがある。
【0027】
モノマー(A)およびモノマー(B)はさらに、その他のモノマー(D)と共重合してもよい。その他のモノマー(D)としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレートなどの親水性官能基を有する(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドなどの親水性モノマー、および、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレンなどの芳香族ビニル単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボニルアクリレート、イソボニルメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルを例示することができる。その他のモノマー(D)として、本発明の効果の発現を妨げない範囲で、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有するモノマーを使用しても良いが、カルボキシル基を有するモノマーは使用しないことが好ましい。
【0028】
最も好ましいモノマーの組み合わせは、モノマー(B)80〜95部およびモノマー(C)5〜20部である。
【0029】
上記モノマーの重合によって得られる、水酸基を有する有機ポリマー粒子は、例えば、乳化重合、ソープフリー重合、懸濁重合等の定法を用いて製造が可能である。より具体的には、特公昭57−24369号公報記載のシード粒子(母粒子)を用いる二段膨潤重合法、ジャーナル・オブ・ポリマーサイエンス・ポリマーレター・エディション,937頁,第21巻,1963年(J. Polym. Sci., Polymer Letter Ed. 21,937(1963))記載の重合方法、特開昭61−215602号公報、特開昭61−215603号公報、および特開昭61−215604号公報記載の方法によって作製することができる。これらの方法の中では、シード粒子(母粒子)を用いる二段膨潤重合法が、粒径の変動係数を小さくすることができる点で好ましい。シード粒子(母粒子)は、ポリスチレンまたはスチレン系共重合体等を好適に用いることができる。そして、二段膨潤重合法により追加されるポリマー部分は、上述のモノマーの共重合体からなる。これらの重合では、公知の乳化剤、分散剤、開始剤などを用いることができる。
【0030】
以上のように、2,3−ジヒドロキシプロピル基を有する有機ポリマー粒子として、ラジカル重合ポリマー粒子について述べたが、2,3−ジヒドロキシプロピル基を有する縮重合ポリマー粒子として、グリセリンなどで末端封鎖したポリウレタン粒子、ポリアミド粒子、ポリエステル粒子などが例示できる。
【0031】
(ii)上記(i)以外のα,β−ジオールを含む多価アルコールを有する有機ポリマー粒子としては、例えば、糖または還元糖などで末端封鎖したポリウレタン粒子、ポリアミド粒子、ポリエステル粒子など;糖または還元糖などで末端封鎖した縮合ポリマー粒子;キチン、キトサン、澱粉、セルロースなどの結晶性多糖類;架橋デキストリン、架橋シクロデキストリン、架橋プルランなどの天然または合成の多糖類の架橋粒子などが挙げられる。
【0032】
(iii)上記(i)および(ii)以外のアルコール性水酸基を含む有機ポリマー粒子としては、例えば、ヒロドキシエチル(メタ)アクリレート、ヒロドキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒロドキシアルキル基を含むモノマーの(コ)ポリマー粒子;ポリ酢酸ビニル粒子の部分加水分解物;架橋ポリビニルアルコール粒子などが挙げられる。
【0033】
(iv)上記(i)〜(iii)以外の水酸基を有する有機ポリマー粒子としては、例えば、シラノール変性有機ポリマー粒子;シリカ、アルミナ、チタニアなどの金属酸化物と有機ポリマー粒子との複合化ポリマー粒子;ポリシルセスキオキサン粒子などが挙げられる。
【0034】
本発明の一実施形態に係るカルボキシ基含有粒子の製造方法において使用される、水酸基を有する有機ポリマー粒子においては、水酸基は、カルボン酸無水物と反応してエステル結合を生成することができる官能基であると共に、低非特異吸着および高感度を発現する因子である。水酸基の量は、水酸基を有する有機ポリマー粒子の固形分に対して、好ましくは10μmol/g以上であり、さらに好ましくは50μmol/g以上であり、最も好ましくは100μmol/g以上である。水酸基の量が10μmol/g未満では、非特異吸着が増加する場合がある。
【0035】
1.1.2.カルボン酸無水物およびそのエステル結合
本発明の一実施形態に係るカルボキシ基含有粒子の製造方法で使用可能なカルボン酸無水物は、多価カルボン酸無水物であり、その具体例としては、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水シトラコン酸、無水ドデセニルコハク酸、無水トリカルバニル酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ハイミック酸等の脂肪族ジカルボン酸無水物;1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等の脂環族多価カルボン酸二無水物;無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸無水物;エチレングリコールビス無水トリメリテート、グリセリントリス無水トリメリテート等のエステル基含有酸無水物を挙げることができる。このうち、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などの1,2−ジカルボン酸無水物がより好ましい。
【0036】
水酸基を有する有機ポリマー粒子の該水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成する具体的な方法としては、例えば、カルボン酸無水物を溶解させた有機溶剤に、水酸基を有する有機ポリマー粒子の乾燥粉体を分散し、室温〜80℃で1〜24時間攪拌する方法が挙げられる。ここで用いられる有機溶剤としては、限定されないが、例えば、ピリジン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、触媒としては、硫酸、p−トルエンスルホン酸、塩化亜鉛、酢酸ナトリウム、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン、トリエチルアミンを使用してもよい。これらの有機溶剤、触媒のうち、ピリジンが有機溶剤兼触媒として好適である。
【0037】
なお、前記有機ポリマー粒子上の全ての水酸基がカルボン酸無水物と反応してエステル化される必要はなく、水酸基の一部がエステル化されずに水酸基のまま残ることが好ましい。
【0038】
1.2.カルボキシル基含有粒子
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子の数平均粒径(以下、単に「粒径」という。)は、好ましくは0.1〜15μmであり、さら好ましくは0.3〜10μmであり、最も好ましくは1〜10μmである。粒径は、レーザ回折・散乱法により測定することができる。ここで、粒径が0.1μm未満の場合、遠心分離などを用いた分離に長時間を要し、水などの洗浄溶媒と粒子との分離が不十分になるため、目的外の分子(例えば、タンパク質や核酸等の生体関連物質)の除去が不十分になり、充分な精製ができない場合がある。一方、粒径が15μmを超えると、比表面積が小さくなり、生理活性物質の捕捉量が少なくなる結果、感度が低くなる場合がある。
【0039】
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子は、前記製造方法によって得られ、エステル結合を有する官能基を有する。エステル結合を有する官能基は、タンパク質を結合させるための官能基として機能しうる。このエステル結合を有する官能基は、前記製造方法において、水酸基とカルボン酸無水物とを反応させることにより得られる。
【0040】
前記カルボキシル基含有粒子はさらに水酸基を有していてもよい。例えば、有機ポリマー粒子中の2,3−ジヒドロキシプロピル基とカルボン酸無水物とが反応することにより、2,3−ジヒドロキシプロピル基中の2つの水酸基の両方がエステル化されると、ジエステル構造を有するカルボキシル基含有粒子が得られる。
【0041】
また、例えば、2,3−ジヒドロキシプロピル基中の2,3−ジヒドロキシプロピル基とカルボン酸無水物とが反応することにより、2,3−ジヒドロキシプロピル基中の2つの水酸基のいずれか一方がエステル化されると、モノエステル構造を有するカルボキシル基含有粒子が得られる。
【0042】
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子はさらに、カルボキシル基を有することができる。前記カルボキシル基含有粒子において、カルボキシル基は、タンパク質を結合させるための官能基であると共に、粒子の分散性を発現する因子でもある。カルボキシル基の量は、該粒子の固形分に対して、好ましくは2μmol/g以上であり、さらに好ましくは5μmol/g以上であり、最も好ましくは10〜100μmol/gである。カルボキシル基の量が2μmol/g未満では、シグナルが減少する場合がある。
【0043】
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子の水分散液からの乾燥塗膜と水との接触角は好ましくは60°以下であり、さらに好ましくは50°以下であり、最も好ましくは10°〜40°である。水分散液からの乾燥塗膜は、50mgの粒子を含む0.2mlの水分散液を、アプリケーター等を用いてスライドガラス等の平滑な基材に塗布し、湿度40%、気温25℃で24時間乾燥することにより得られる。乾燥塗膜と水との接触角は、約1μLの水滴を乾燥塗膜に滴下し、直ちに水平方向からの画像をカメラでデータとして取り込み、水滴の輪郭を円周の一部と仮定して塗膜の水平線との角度から求めることができる。本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子の水分散液からの乾燥塗膜と水との接触角をこれらの範囲とすることにより、低非特異吸着性と高感度とを両立することができる。
【0044】
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子は、通常、適当な分散媒に分散させて用いられる。使用できる分散媒としては、有機ポリマー粒子を溶解したり、あるいは、有機ポリマー粒子を膨潤させたりしない分散媒が好ましい。好ましい分散媒としては、例えば、水系媒体を用いることができる。ここで、水系媒体とは、水、または水と水に混和する有機溶剤(例えば、アルコール類、アルキレングリコール誘導体等)との混合物をいう。
【0045】
1.3.磁性体を含有するカルボキシル基含有粒子の製造方法
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子は、磁性体を含有していてもよい。以下、磁性体を含有するカルボキシル基含有粒子を、「磁性体含有カルボキシル基含有粒子」ともいう。
【0046】
磁性体含有カルボキシル基含有粒子は、例えば遠心分離器等を用いずに、磁石を用いて分離することができるため、被検体からの粒子の分離工程を簡素化または自動化することができる点で有用である。
【0047】
磁性体含有カルボキシル基含有粒子は、例えば、(I)有機ポリマー等の非磁性体の連続相中に磁性体微粒子が分散している粒子、(II)磁性体微粒子の2次凝集体をコアとし、有機ポリマー等の非磁性体をシェルとする粒子、(III)有機ポリマー等の非磁性体からなる核粒子と、該核粒子の表面に設けられた磁性体微粒子の2次凝集体層(磁性体層)とを有する母粒子をコアとし、該母粒子の最外層の有機ポリマー層をシェルとする粒子等が挙げられる。これらの中では、(III)前記磁性体微粒子の2次凝集体層を含む母粒子をコアとし、有機ポリマー層をシェルとする粒子が好ましい。なお、上記(I)〜(III)の構造を有する磁性体含有カルボキシル基含有粒子中の有機ポリマーは、コア・シェル型粒子のコア部分を除いて、粒子の最表面に水酸基を有することが必要である。
【0048】
最も好ましい磁性体含有カルボキシル基含有粒子は、核粒子と、この核粒子の表面に設けられた超常磁性微粒子の磁性体層とを含む母粒子と、この母粒子を覆うように設けられた、架橋重合体からなる有機ポリマー層とを含む。すなわち、この磁性体含有カルボキシル基含有粒子では、前記母粒子をコアとし、架橋重合体をシェルとする。ここで、好適な架橋重合体は、より具体的には、モノマー(B)40〜95重量部、架橋性モノマー(C)5〜30重量部、およびその他のモノマー(D)0〜55重量部からなるモノマー部を重合して共重合体を得、この共重合体を加水分解して得ることができる。
【0049】
上記(III)の構造の粒子の製造において、核粒子の表面に超常磁性微粒子の磁性体層が形成された母粒子の製造方法としては、例えば、非磁性の有機ポリマー粒子と超常磁性微粒子とをドライブレンドして、物理的に強い力を外部から加えることにより双方の粒子を複合化させる方法により作製することができる。物理的に強い力を負荷する方法としては、例えば、乳鉢、自動乳鉢、ボールミル、ブレード加圧式粉体圧縮法、メカノフュージョン法のようなメカノケミカル効果を利用するもの、あるいはジェットミル、ハイブリダイザー等の高速気流中衝撃法を利用するものが挙げられる。効率よくかつ強固に複合化を実施するには、物理的吸着力が強いことが望ましい。その方法としては、攪拌翼付き容器中で攪拌翼の周速度が好ましくは15m/秒以上、より好ましくは30m/秒以上、さらに好ましくは40〜150m/秒で実施することが挙げられる。撹拌翼の周速度が15m/秒より低いと、非磁性の有機ポリマー粒子の表面に超常磁性微粒子を吸着させるのに十分なエネルギーを得ることができないことがある。なお、撹拌翼の周速度の上限については、特に制限はないが、使用する装置、エネルギー効率等の点から自ずと決定される。本発明で使用する超常磁性微粒子は、例えば、粒子径5〜20nm程度のフェライトおよび/またはマグネタイトの微粒子が好適に使用できる。
【0050】
ポリマー部(シェル)は、モノマー(B)40〜95重量部、架橋性モノマー(C)5〜30重量部、およびその他のモノマー(D)0〜55重量部からなるモノマー部を重合して共重合体を得、この共重合体を加水分解して形成することができる。各モノマー成分については上述の通りである。より具体的な重合方法については、特開2004−205481号公報等に開示されている通りである。また、重合後の加水分解処理の条件も上述の通りである。
【0051】
なお、母粒子上の超常磁性微粒子の溶解を防止するため、核粒子の表面に超常磁性微粒子の磁性体層が形成された母粒子を、架橋性モノマー(C)0〜30重量部およびその他のモノマー(D)70〜100重量部からなる別のモノマー部を重合してコーティング層を形成した後、このコーティング層を含む母粒子をコアとして、モノマー(B)40〜95重量部、架橋性モノマー(C)5〜30重量部、およびその他のモノマー(D)0〜55重量部からなるモノマー部を共重合することにより、ポリマー部(シェル)を形成する粒子を得、この粒子を加水分解することにより、磁性体含有カルボキシル基含有粒子を形成してもよい。このような超常磁性微粒子がコーティング層によってコーティングされた磁性体含有カルボキシル基含有粒子の場合、上述の加水分解処理において強酸性〜強塩基性の広い加水分解条件を選択することができる。
【0052】
加水分解後の低非特異吸着性粒子および磁性体含有カルボキシル基含有粒子の分散液は、遠心分離法、磁気分離法等により水洗を繰り返して、残余の加水分解触媒を除いておくことが好ましい。
【0053】
2.用途
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子は、例えば、生化学分野、塗料、紙、電子写真、化粧品、医薬品、農薬、食品、触媒など広い分野で利用できる。
【0054】
より具体的には、本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子は、診断薬用担体、細菌分離用担体、細胞分離用担体、核酸分離精製用担体、タンパク質分離精製用担体、固定化酵素用担体、ドラッグデリバリー等の用途に有用であり、中でも、生化学分野での化合物担体用粒子および診断薬用の化学結合担体用粒子等のアフィニティー担体として利用でき、特に、抗原または抗体等のタンパク質を結合させた免疫検査用のプローブ結合粒子(タンパク質結合用粒子)として、特出する高感度および低ノイズを発現することができる。
【0055】
このプローブ結合粒子において、検査対象となる物質は、免疫検査用試薬および被検査試料に含まれる生体関連物質、化学物質、ならびに生物である。本発明において、「生体関連物質」とは、生体に関わるすべての物質をいう。生体関連物質としては、例えば、生体に含まれる物質、生体に含まれる物質から誘導された物質、生体内で利用可能な物質が挙げられる。
【0056】
検査対象となる生体関連物質は特に限定されないが、例えば、タンパク質(例えば、酵素、抗体、アプタマー、受容体等)、ペプチド(例えばグルタチオン等)、核酸(例えば、DNAやRNA等)、糖質、脂質、およびその他の細胞または物質(例えば、血小板、赤血球、白血球等の各種血球細胞を含む各種血液由来物質、ホルモン(例えば、黄体形成ホルモン、甲状腺刺激ホルモン等)、ウイルス・細菌・真菌・原虫・寄生虫などの構成要素であるタンパク質や核酸が挙げられる。タンパク質としては、より具体的には、生体由来のタンパク質、前立腺特異マーカー、膀胱ガンマーカー等のガンのマーカーとなるタンパク質が挙げられる。
【0057】
検査対象となる化学物質は特に限定されないが、例えば、ダイオキシン類等の環境汚染物質、医薬品(例えば、抗生物質、抗がん剤、抗てんかん剤等)があげられる。
【0058】
検査対象となる生物は特に限定されないが、例えば、各種ガン細胞、各種浮遊細胞、ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、HIVウイルス、風疹ウイルス、インフルエンザウイルス等)、細菌(例えば、淋菌、MRSA、大腸菌等)、真菌(例えば、カンジダ、白癬菌、クリプトコックス、アルペルギルス等)、原虫・寄生虫(例えば、トキソプラズマ、マラリア等)等が挙げられる。
【0059】
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子によれば、カルボキシル基が粒子の表面に導入されているため、実際に使用するにあたり、水溶性カルボジイミドなどの公知の活性化剤によりカルボキシル部位を活性化し、タンパク質と粒子とを混合することで、タンパク質を粒子の表面に化学的に結合させることができる。
【0060】
タンパク質を粒子の表面に結合させた後、過剰のタンパク質を洗浄し、必要に応じて未反応の活性化カルボキシル部位を不活化する。また、タンパク質を粒子の表面に吸着させた後、通常行われるブロッキングの操作をしてもよく、上述の不活化工程において、アルブミン等のブロッキング剤を併用してもかまわない。以降は、粒子を用いた通常の分析工程に移行すればよい。
【0061】
本発明の一実施形態に係るタンパク質結合用カルボキシル基含有粒子に担持することができるタンパク質は、抗原または抗体が好ましい。この場合、抗原または抗体としては、被検体中に一般に含まれている成分に反応するものであれば特に制限されないが、例えば、アンチプラスミン検査用抗アンチプラスミン抗体、Dダイマー検査用抗Dダイマー抗体、FDP検査用抗FDP抗体、tPA検査用抗tPA抗体、TAT検査用抗トロンビン=アンチトロンビン複合体抗体、FPA検査用抗FPA抗体等の凝固線溶関連検査用抗原または抗体;BFP検査用抗BFP抗体、CEA検査用抗CEA抗体、AFP検査用抗AFP抗体、フェリチン検査用抗フェリチン抗体、CA19−9検査用抗CA19−9抗体等の腫瘍関連検査用抗原または抗体;アポリポタンパク質検査用抗アポリポタンパク質抗体、β2−ミクロブロブリン検査用抗β2−ミクロブロブリン抗体、α1−ミクログロブリン検査用抗α1―ミクログロブリン抗体、免疫グロブリン検査用抗免疫グロブリン抗体、CRP検査用抗CRP抗体等の血清蛋白関連検査用抗原または抗体;HCG検査用抗HCG抗体等の内分泌機能検査用抗原または抗体;HBs抗原検査用抗HBs抗体、HBs抗体検査用HBs抗原、HCV抗体検査用HCV抗原、HIV−1抗体用HIV−1抗原、HIV−2抗体検査用HIV−2抗原、HTLV−1検査用HTLV−1抗原、マイコプラズマ症検査用マイコプラズマ抗原、トキソプラズマ検査用トキソプラズマ抗原、ASO検査用ストレプトリジンO抗原等の感染症関連検査用抗原または抗体;抗DNA抗体検査用DNA抗原、RF検査用熱変成ヒトIgG等自己免疫関連検査用抗原または抗体;ジゴキシン検査用抗ジゴキシン抗体、リドカイン検査用抗リドカイン抗体等の薬物分析用抗原または抗体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。抗体としては、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のどちらを用いてもかまわない。
【0062】
本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子は、粒子を用いたバイオチップ、例えば、特開2005−148048号公報で開示されたバイオチップなどにも好適に使用することができる。
【0063】
なお、本発明の一実施形態に係るカルボキシル基含有粒子の用途は生化学用担体用途に限定されるわけではなく、例えば、上述した各分野で使用可能である。
【0064】
3.実施例
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。なお、本実施例において、「%」および「部」は重量基準である。
【0065】
3.1.評価方法
3.1.1.CLEIA(化学発光酵素免疫測定)によるシグナルの測定
抗AFP(αフェトプロテイン)抗体を感作させた、後述する各実施例・比較例で得られた粒子の分散液10μl(粒子50μg相当)をテストチューブに取り、ウシ胎児血清(FCS)で100ng/mLに希釈したAFP抗原(日本バイオテスト社製)の標準検体50μlと混合し、37℃で10分間反応した。磁気分離して粒子を分離し上清を除いた後、2次抗体としてアルカリフォスファターゼ(以下、「ALP」という。)で標識した抗AFP抗体(富士レビオ株式会社製、ルミパルスAFP−Nに付属の試薬を使用)40μlを添加し、37℃で10分間反応させた。次いで、遠心して粒子を分離し上清を除いた後、PBSで3回遠心洗浄を繰り返して得られた粒子を50μlの0.01%Tween20に分散させ、新しいチューブに移し替えた。ALPの基質液(ルミパルス基質液:富士レビオ株式会社製)100μlを加え、37℃で10分間反応させた後、化学発光量を測定した。化学発光の測定には、ベルトールジャパン株式会社製の化学発光測定装置(商品名:Lumat LB9507)を用いた。
【0066】
3.1.2.ノイズの測定
上記3.1.1.CLEIA(化学発光酵素免疫測定)によるシグナルの測定で、標準検体と混合しなかったこと以外は同様にして、ノイズとしての化学発光量を測定した。
【0067】
3.1.3.粒径
レーザ回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製)SALD−200Vにより、粒子の数平均粒径およびその変動係数を測定した。
【0068】
3.2.合成例1
75%ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド溶液(日本油脂製「パーロイル355−75(S)」2質量部を1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液20質量部に混合し、超音波分散機にて微細乳化した。これを粒径0.77μmのポリスチレン粒子13質量部および水41質量部の入ったリアクターに入れ、25℃で12時間攪拌した。別の容器にて、スチレン96質量部およびジビニルベンゼン4質量部を0.1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液400質量部で乳化させた液を前記リアクターに入れ、40℃で2時間攪拌した後、75℃に昇温して8時間重合した。室温まで冷却した後、遠心分離により粒子のみ取り出したものをさらに水洗し、乾燥および粉砕してコア粒子を得た。コア粒子の数平均粒径は1.5μmであった。
【0069】
次に、油性磁性流体(商品名:「EXPシリーズ」,(株)フェローテック製)にアセトンを加えて粒子を析出沈殿させた後、これを乾燥することにより、疎水化処理された表面を有するフェライト系の磁性体微粒子(平均一次粒子径:0.01μm)を得た。
【0070】
次いで、上記コア粒子15gおよび上記磁性体微粒子15gをミキサーでよく混合し、この混合物をハイブリダイゼーションシステムNHS−0型(奈良機械製作所(株)製)を使用して、羽根(撹拌翼)の周速度100m/秒(16200rpm)で5分間処理し、平均数粒子径が2.0μmの磁性体微粒子からなる磁性体層を表面に有する母粒子を得た。
【0071】
次に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.25重量%およびノニオン性乳化剤(商品名:「エマルゲン150」,花王(株)製)0.25重量%を含む水溶液(以下、「分散剤水溶液」という)375gを1Lセパラブルフラスコに投入し、次いで、前記磁性体層を有する母粒子15gを投入し、ホモジナイザーで分散した後、60℃に加熱した。分散剤水溶液150gに、メチルメタクリレート27g、トリメチロールプロパントリメタクリレート(以下、「TMP」という。)3g、およびジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日本油脂社製;パーロイル355)0.6gを入れて分散させたプレエマルジョンを、60℃にコントロールした前記1Lセパラブルフラスコに1時間30分かけて滴下した。滴下終了後、60℃に保持し1時間攪拌した後、分散剤水溶液75gに、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」という。)13.5g、TMP1.5g、およびジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(日本油脂社製;パーロイル355)0.3gを入れて分散させたプレエマルジョンを、60℃にコントロールした上記1Lセパラブルフラスコに1時間30分かけて滴下した。その後75℃に昇温した後さらに2時間重合を続けて、反応を完了させた。続けて、この1Lセパラブルフラスコに1mol/L 硫酸60mlを入れ、60℃で6時間撹拌した。次いで、磁気を用いて前記セパラブルフラスコ中の粒子を分離した後、蒸留水を用いて繰り返し洗浄した。以上により、2,3−ジヒドロキシプロピル基を有する磁性粒子を得た(以下、「A−1粒子」とする。)。
【0072】
次に、A−1粒子を真空乾燥して得られた乾燥粒子1.0gを10mlのピリジンで洗浄してから5mlのピリジンに分散させた後、25mlのピリジンに3gの無水コハク酸を溶解した溶液を加え、60℃で2時間撹拌した。反応後、磁気を用いて粒子を分離し、アセトンで3回、続いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液で3回、さらに蒸留水で4回洗浄して、カルボキシル基含有粒子(以下、「B−1粒子」とする。)を得た。このカルボキシル基含有粒子(B−1粒子)の平均数粒子径は2.9μmであった。
【0073】
3.3.合成例2
合成例1において、GMAの代わりに2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用い、かつ、1Lセパラブルフラスコに1mol/L 硫酸60mlを入れて60℃で6時間撹拌する工程を省略した以外は同様の手順にて、カルボキシル基含有粒子(以下、「B−2粒子」とする。)を得た。この磁性粒子(B−2粒子)の平均数粒子径は2.8μmであった。
【0074】
3.4.比較合成例1
合成例1で、GMA13.5gおよびTMP1.5gの代わりにシクロヘキシルメタクリレート13.5gおよびメタクリル酸1.5gを用い、かつ、1Lセパラブルフラスコに1mol/L 硫酸60mlを入れて60℃で6時間撹拌する工程を省略した以外は同様の手順にて、前記A−1粒子に相当する粒子(B−3粒子)を得た。この磁性粒子(B−3粒子)の平均数粒子径は2.9μmであった。
【0075】
3.5.実施例1、2
固形分濃度1%のB−1粒子の水分散体1mLに1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(同仁化学社製)5mgを溶解させた0.1mM HCl溶液0.1mLを添加し、室温で2時間回転攪拌し、さらに、抗AFP抗体100μgを溶解させた0.1mM HCl溶液0.1mLを添加し、室温で8時間回転攪拌し、次いで、磁気分離処理した粒子に0.1%牛血清アルブミンを含むリン酸塩緩衝液(PBS,0.1%BSA/PBS,pH=7.2)を添加して磁気分離処理する操作を3回繰り返すことにより、未反応の抗AFP抗体を除去し、抗AFP抗体を結合させたプローブ結合粒子を得た。このプローブ結合粒子のシグナルは157705、ノイズは71であった。
【0076】
B−2粒子についても、同様に測定を行なった結果、シグナルは114432、ノイズは74であった。
【0077】
3.6.比較例1
B−3粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の範囲外のプローブ結合粒子を得た。このプローブ結合粒子のシグナルは36059、ノイズは306であった。
【0078】
以上の結果より、合成例1,2で得られたカルボキシル基含有粒子は、水酸基を有する有機ポリマー粒子の該水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成する工程を経て製造されたため、比較合成例1において前記工程を経ないで製造された粒子と比較して、高感度でかつノイズが低いことが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有する有機ポリマー粒子の該水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成する工程を含む、カルボキシル基含有粒子の製造方法。
【請求項2】
2,3−ジヒドロキシプロピル基を有する有機ポリマー粒子の該2,3−ジヒドロキシプロピル基由来の水酸基とカルボン酸無水物とを反応させてエステル結合を生成する工程を含む、カルボキシル基含有粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記有機ポリマー粒子が磁性体を含有する、カルボキシル基含有粒子の製造方法。
【請求項4】
核粒子と、この核粒子の表面に設けられた超常磁性微粒子の磁性体層とを含む母粒子と、この母粒子を覆うように設けられた、架橋重合体からなる有機ポリマー層とを含む、カルボキシル基含有粒子。

【公開番号】特開2007−262113(P2007−262113A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85040(P2006−85040)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】