説明

カルボニル化合物の製造方法

【課題】アルコールを酸化することにより、高効率でカルボニル化合物を得ることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明のカルボニル化合物の製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物及び酸化剤の存在下、アルコールを酸化することを特徴とする。
【化1】


(式中、上記Rは水素原子又はアルコキシ基である。また、上記Rは電子供与性基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル化合物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、アルコールの酸化によるカルボニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールの酸化によるカルボニル化合物の合成は、有機合成における重要な反応の1つであり、実験室のみならず産業レベルでも用いられている。アルコールの酸化方法としては、例えば、重金属酸化剤(過マンガン酸カリウム、重クロム酸及びその塩、並びに三酸化クロム等)を用いた酸化法、DMSO酸化法(Swern酸化等)、及び遷移金属触媒を用いた酸化法(TRAP酸化等)が知られている。
【0003】
2−ヨードキシ安息香酸(IBX)は、1893年に初めて合成された物質である。IBXは当初、Dess−Martin剤の合成中間体として利用されていた。その後、IBXは、その前駆体である2−ヨード安息香酸から、酸化剤である2KHSO・KHSO・KSO(商品名「Oxone」)によって、安全に且つ効率よく合成できるようになった。
【0004】
従来より、IBXを用いた様々な酸化反応が報告されている。例えば、非特許文献1には、IBXを酸化剤として用いたDMSO溶媒でのアルコールの酸化反応が記載されている。非特許文献2には、in situで酸化剤として「Oxone」(登録商標)を用いて2−ヨード安息香酸からIBXを調製し、該IBXを触媒量用いるアルコールの酸化反応が記載されている。非特許文献3には、酢酸エチル−水混合溶媒で相関移動触媒的にIBXをin situで調製し、該IBXをアルコールに対して10mol%用いるアルコールの酸化反応が記載されている。
【0005】
芳香環が化学修飾されたIBXの酸化反応における影響について、いくつか報告がされている。例えば、非特許文献4には、水溶性のIBXを合成し、それをアルコールの酸化剤に用いた実験例が記載されている。また、非特許文献5には、ヨウ素のo−位の置換基がアルコールの酸化を加速化するという計算化学例が記載されている。
【0006】
【非特許文献1】Tetrahedron Lett.,(1994), 35, 8019
【非特許文献2】Org. Lett.,(2005), 7, 2993
【非特許文献3】Synthesis, (2006), 257
【非特許文献4】Tetrahedron Lett.,(2002), 43, 569
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.(2005), 127, 14146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アルコールを酸化することにより、高効率でカルボニル化合物を得ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカルボニル化合物の製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物及び酸化剤の存在下、アルコールを酸化することを特徴とする。
【化1】

(式中、上記Rは水素原子又はアルコキシ基である。また、上記Rは電子供与性基である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルコールを酸化することにより、高効率でカルボニル化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)一般式(1)で表される化合物
上記一般式(1)中、上記Rは水素原子又はアルコキシ基である。上記Rがアルコキシ基の場合、該アルコキシ基の種類及び構造には特に限定はない。上記アルコキシ基は、例えば、炭素数1〜20、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜3のアルコキシ基とすることができる。上記アルコキシ基として具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、及びi−プロポキシ基が挙げられる。
【0011】
上記Rは電子供与性基である。該電子供与性基の種類及び構造には特に限定はない。該電子供与性基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、及びフェノキシ基が挙げられる。上記電子供与性基として好ましくは、アルキル基及びアルコキシ基である。上記アルキル基及びアルコキシ基の炭素数には特に限定はない。上記アルキル基及び上記アルコキシ基の炭素数は、通常1〜20、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜3である。
【0012】
上記アルキル基及びアルコキシ基の構造には特に限定はない。上記アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基及びアルコキシ基は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基等)でもよい。上記アルキル基及びアルコキシ基の構造として好ましくは直鎖状である。また、上記アルキル基及びアルコキシ基は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。更に、上記アルキル基及びアルコキシ基は、炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。例えば、上記アルキル基及びアルコキシ基は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。また、上記アルキル基及びアルコキシ基は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子及び窒素原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0013】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びi−プロピル基が挙げられる。上記アルコキシ基として具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、及びi−プロポキシ基が挙げられる。尚、上記R及びRがアルコキシ基の場合、両者は同じアルコキシ基でもよく、異なるアルコキシ基でもよい。
【0014】
上記一般式(1)において、カルボキシル基のo−位及びヨウ素原子のo−位は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。好ましくは、上記一般式(1)において、カルボキシル基のo−位及びヨウ素原子のo−位は無置換である。
【0015】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、以下の一般式(1a)及び(1b)で表される化合物が挙げられる。下記一般式(1a)及び(1b)中、R1’及びR2’は炭素数1〜20、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3のアルキル基である。該アルキル基として好ましくはメチル基、エチル基、及びn−プロピル基である。尚、上記一般式(1b)中、上記R1’及びR2’は同じ基でもよく、異なる基でもよい。
【0016】
【化2】

【0017】
(2)酸化剤
上記酸化剤は、上記一般式(1)で表される化合物を酸化し、IBX誘導体とすることができる限り特に限定はない。上記酸化剤としては、有機酸化剤でもよく、無機酸化剤でもよい。上記酸化剤として具体的には、例えば、ペルオキソ一硫酸カリウム等のペルオキソ一硫酸塩が挙げられる。上記ペルオキソ一硫酸カリウムとしては、例えば、2KHSO・KHSO・KSOを使用することができる。上記ペルオキソ一硫酸カリウムとしては、例えば、「Oxone」(登録商標)が挙げられる。
【0018】
(3)アルコールの酸化
本発明の製造方法において、基質であるアルコールの種類及び構造には特に限定はない。上記アルコールとしては、一価アルコールでもよく、二価、三価又は四価以上の多価アルコールでもよい。また、上記アルコールは、第一級アルコール及び第二級アルコールのいずれでもよい。上記アルコールとして好ましくは、第二級アルコールである。
【0019】
上記アルコールをR−OHで表した場合、該Rの種類及び構造には特に限定はない。上記Rとしては、例えば、アルキル基、アルケニルアルキル基、アルキニルアルキル基、及びアリールアルキル基が挙げられる。
【0020】
上記アルキル基、アルケニルアルキル基、アルキニルアルキル基、及びアリールアルキル基の炭素数には特に限定はない。上記アルキル基、アルケニルアルキル基、及びアルキニルアルキル基(以下、「アルキル基等」と総称する)の炭素数は、通常1〜30、好ましくは2〜20、更に好ましくは2〜15である。上記アルキル基等が環状構造の場合、その炭素数は、通常3〜20、好ましくは3〜16、更に好ましくは3〜12である。また、上記アリールアルキル基の炭素数は、通常7〜20、好ましくは7〜15である。
【0021】
上記アルキル基等の構造に特に限定はない。上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基等)でもよい。また、上記アルキル基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。更に、上記アルキル基等は、炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。例えば、上記アルキル基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。また、上記アルキル基等は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子及び窒素原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0022】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、及び2−エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニルアルキル基としては、例えば、アリル基及びイソプロペニル基が挙げられる。
【0023】
上記アリールアルキル基の構造に特に限定はない。上記アリールアルキル基は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アリールアルキル基に含まれる芳香環は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。この置換基の位置は、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記置換基として具体的には、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等)、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、及びアルコキシ基の1種又は2種以上が挙げられる。これらの置換基が芳香環に位置する場合、該置換基の位置は、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。
【0024】
上記アリールアルキル基として具体的には、例えば、ベンジル基、メトキシベンジル基(o−、m−、及びp−)、エトキシベンジル基(o−、m−、及びp−)、並びにフェネチル基が挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法において、上記一般式(1)で表される化合物及び上記酸化剤の量については特に限定はない。上記一般式(1)で表される化合物の量は、基質であるアルコールに対して0.5〜15mol%、好ましくは0.8〜10mol%、更に好ましくは1〜8mol%、より好ましくは1〜5mol%である。また、上記酸化剤の量は、基質であるアルコールに対して0.5〜3倍モル量、好ましくは0.8〜2倍モル量である。
【0026】
本発明の製造方法において、溶媒の種類には特に限定はない。該溶媒としては極性有機溶媒を用いてもよく、非極性有機溶媒を用いてもよい。また、上記溶媒は1種の溶媒でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。混合溶媒としては、例えば、有機溶媒−水の二層溶媒(例えば、極性有機溶媒−水の二層溶媒及び非極性有機溶媒−水の二層溶媒)が挙げられる。上記極性有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル等のカルボン酸エステル、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル、アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル溶媒、並びにニトロメタン等のニトロアルカンが挙げられる。また、上記非極性溶媒は、脂肪族有機溶媒でもよく、芳香族有機溶媒でもよい。該脂肪族有機溶媒としては、例えば、アルカン及びシクロアルカン(例えば、炭素数4以上、好ましくは5以上)が挙げられる。上記脂肪族有機溶媒として具体的には、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、及びヘプタンが挙げられる。更に、上記芳香族有機溶媒としては、例えば、ベンゼン及びトルエンが挙げられる。
【0027】
上記反応溶媒として好ましくは、ハロゲン化アルキル及びハロゲン化アルキル含有混合溶媒(ハロゲン化アルキル−水の二層溶媒等)並びにニトロアルカン及びニトロアルカン含有混合溶媒(ニトロアルカン−水の二層溶媒等)である。これらの溶媒を用いると、副反応が抑えられ、カルボニル化合物の収率が向上するので好ましい。また、上記反応溶媒としてニトロアルカンがより好ましい。上記反応溶媒としてニトロアルカンを用いると、ニトロアルカン−水の二層溶媒と比べて、副反応を更に抑制し、カルボニル化合物の収率が向上するので好ましい。尚、上記反応溶媒として、ニトロアルカン又はニトロアルカン含有混合溶媒を用いると、上記一般式(1)で表される化合物の代わりに2−ヨード安息香酸を用いても、カルボニル化合物の収率が向上するので好ましい。即ち、本願明細書は、2−ヨード安息香酸又はIBX及び酸化剤の存在下、溶媒としてニトロアルカン又はニトロアルカン含有混合溶媒を用いてアルコールを酸化することにより、カルボニル化合物を製造する方法も開示する。該方法については、本願明細書に記載した説明が妥当する。
【0028】
上記反応溶媒が有機溶媒−水の二層溶媒の場合、該有機溶媒と該水の割合には特に限定はない。該有機溶媒と該水との比(体積基準)は通常(1〜5):1、好ましくは(1〜4):1である。
【0029】
本発明の製造方法では、基質である上記アルコール、上記一般式(1)で表される化合物、及び上記酸化剤以外の他の物質を添加してもよい。該他の物質としては、例えば、n−BuNSO等の相間移動触媒が挙げられる。
【0030】
上記アルコールの酸化の反応条件には特に限定はない。上記反応の温度は通常20〜100℃、好ましくは30〜100℃、更に好ましくは40〜90℃とすることができる。また、上記反応の時間は1〜24時間、好ましくは1〜12時間とすることができる。
【0031】
本発明の製造方法において、アルコールの酸化は以下の機構で進行すると考えられる(該機構は何ら本発明を限定する記載ではない。)。下記の機構では、上記一般式(1)で表される化合物は、上記アルコールの酸化反応の触媒前駆体であり、「oxone」(登録商標)等の酸化剤により、IBX誘導体となる。そして、IBX誘導体は、アルコールの酸化反応の触媒として機能する。即ち、本発明の製造方法において、上記一般式(1)で表される化合物は、上記アルコールの酸化反応の触媒前駆体として使用することができる。また、本発明の製造方法は、上記一般式(1)で表される化合物が上記酸化剤で酸化されることにより、IBX誘導体を生成し、該IBX誘導体を上記アルコールの酸化反応の触媒とする製造方法とすることができる。
【0032】
従来の重金属酸化剤は有害性の観点から問題が指摘されており、また、遷移金属触媒は高価であるという問題がある。一方、本発明の製造方法において、上記一般式(1)で表される化合物は、重金属酸化剤と比べて有害性は低く、遷移金属触媒と比べて安価である。よって、上記一般式(1)で表される化合物を触媒前駆体として使用することにより、重金属酸化剤及び遷移金属触媒を用いる従来の方法が有する問題点を解消することができる。また、上記一般式(1)で表される化合物を触媒前駆体として使用する場合、多量に用いる必要がない。よって、本発明の製造方法を容易に行うことができる。その結果、第1級アルコールからはアルデヒド化合物が得られる。また、第2級アルコールからはケトン化合物が得られる。得られたカルボニル化合物は単離してもよく、中間体として引き続き反応を行ってもよい。
【0033】
【化3】

【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限られない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0035】
(1)各種置換2−ヨード安息香酸を用いたアルコールの酸化(I)
反応容器内に、基質である5−ノナノール(721mg、5.0mmol)をアセトニトリル−水混合溶媒(アセトニトリル:水=2:1)に溶解させた。次いで、2−ヨード−5−メチル安息香酸(13.2mg、0.05mmol)と、酸化剤である商品名「Oxone」(2.46g、4.0mmol)とを室温で加えた。その後、70℃で反応させた。反応終了後、0℃まで冷却し、10分程度放置して固体をろ過して除いた。ろ液に水(15ml)を加え、ジエチルエーテル(15ml)で3回抽出を行った。その後、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮して溶媒を除いて、5−ノナノンを得た。
【0036】
2−ヨード−5−メチル安息香酸に代えて、下記の化合物を用い、上記と同様の方法により、アルコールの酸化を行った。反応時間と5−ノナノンの収率とをプロットしたグラフを以下に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1より、一般式(1)で表される化合物である2−ヨード−5−メチル安息香酸(A)及び2−ヨード−4,5−ジメトキシ安息香酸(B)が、2−ヨード安息香酸(C)よりもカルボニル化合物の収率が高く、触媒活性が高いことが分かる。特に、2−ヨード−4,5−ジメトキシ安息香酸(B)は反応の初速度が速く、2−ヨード−5−メチル安息香酸(A)はカルボニル化合物の収率が高く、触媒活性に優れていることが分かる。尚、上記のように、非特許文献5において、ヨウ素のo−位の置換基がアルコールの酸化を加速するということが提唱されていた。しかし、表1より、ヨウ素のo−位にメチル基を有する2−ヨード−3−メチル安息香酸(F)は、最も触媒活性が低かった。
【0039】
(2)各種置換2−ヨード安息香酸を用いたアルコールの酸化(II)
基質のアルコールとして、(−)−ボルネオールを使用した。触媒前駆体として2−ヨード安息香酸、2−ヨード−5−メチル安息香酸、及び2−ヨード−4,5−ジメトキシ安息香酸を用いて、上記と同様の方法により、アルコールの酸化を行った。反応時間とカルボニル化合物の収率とをプロットしたグラフを以下に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2より、2−ヨード−4,5−ジメトキシ安息香酸(B)は、2−ヨード安息香酸(C)よりもカルボニル化合物の収率が高く、触媒活性が高いことが分かる。また、2−ヨード−5−メチル安息香酸(A)は、2−ヨード安息香酸(C)よりもカルボニル化合物の収率がやや高く、触媒活性が2−ヨード安息香酸よりもやや高いことが分かる。
【0042】
(3)各種溶媒を用いたアルコールの酸化
基質のアルコールとして、(−)−メントールを使用した。溶媒として以下に記載の溶媒を用い、触媒前駆体として2−ヨード安息香酸を用い、上記と同様の方法により、アルコールの酸化反応を行った。その結果を以下に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3より、ニトロメタン、1,2−ジクロロエタン、及びEtCNを溶媒として用いた場合に収率が高かった。特にニトロメタンの場合に収率が高かった。上記非特許文献3には、酢酸エチル−水二層混合溶媒で相関移動触媒を用いて、IBXを触媒としてメントールの酸化を行い、収率が82%であったことが記載されている。しかし、表3より、酢酸エチル−水二層混合溶媒では収率が45%と低かった。これは、溶媒である酢酸エチルが加水分解し、発生するエタノールが基質と競争することで収率が低下したと考えられる。また、ニトロメタンを溶媒として用いた場合、相関移動触媒を用いなくても酸化反応が効率的に進行することが分かる。更に、ニトロメタンを溶媒として用いた場合、水を除いた方が副反応も抑えられ、酸化反応は高効率的に進行することが分かる。
【0045】
(4)各種置換2−ヨード安息香酸を用いたアルコールの酸化(III)
溶媒としてニトロメタンを用いた。基質のアルコールとして以下のアルコールを用い、触媒前駆体として2−ヨード安息香酸(C)及び2−ヨード−5−メチル安息香酸(A)を用い、上記と同様の方法により、アルコールの酸化反応を行った。その結果を以下に示す。以下の結果より、触媒前駆体として2−ヨード安息香酸(C)を用いた場合よりも、2−ヨードー5−メチル安息香酸(A)を用いた場合の方が、高い触媒活性を示していることが分かる。
【0046】
【表4】

【0047】
(5)各種アルコールを用いたアルコールの酸化
基質として、以下に記載のアルコールを用いた。触媒前駆体として2−ヨード−5−メチル安息香酸を1〜5mol%用いて、上記と同様の方法により、アルコールの酸化反応を行った。その結果を以下に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
触媒前駆体として2−ヨード−5−メチル安息香酸を用いることにより、いずれのアルコールでも、高収率でカルボニル化合物が得られた。「oxone」自体にも酸化力があるため、第2級アルコール、特にシクロアルカノールを基質として用いた場合、ケトン化合物から更に酸化されて、エステル化合物が生成し、ケトン化合物の収率が低下する可能性も考えられた。しかし、本実施例では、第2級アルコールを基質として用いて、高い収率でケトン化合物を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物及び酸化剤の存在下、アルコールを酸化することを特徴とするカルボニル化合物の製造方法。
【化1】

(式中、上記Rは水素原子又はアルコキシ基である。また、上記Rは電子供与性基である。)
【請求項2】
上記電子供与性基が、アルキル基又はアルコキシ基である請求項1記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項3】
上記アルキル基及び上記アルコキシ基の炭素数は1〜20である請求項1又は2記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項4】
上記一般式(1)で表される化合物の添加量は、上記アルコールに対して1〜15mol%である請求項1乃至3のいずれかに記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項5】
上記酸化剤が、ペルオキソ一硫酸塩である請求項1乃至4のいずれかに記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項6】
上記酸化剤が、「oxone」(登録商標)である請求項1乃至4のいずれかに記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項7】
反応溶媒が、ニトロアルカン又はニトロアルカン含有混合溶媒である請求項1乃至6のいずれかに記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項8】
上記一般式(1)で表される化合物は、上記アルコールの酸化反応の触媒前駆体である請求項1乃至7のいずれかに記載のカルボニル化合物の製造方法。
【請求項9】
上記一般式(1)で表される化合物が上記酸化剤で酸化されることにより、2−ヨードキシ安息香酸誘導体が生成し、該2−ヨードキシ安息香酸誘導体を上記アルコールの酸化反応の触媒とする請求項1乃至8のいずれかに記載のカルボニル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−247872(P2008−247872A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94377(P2007−94377)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 電気通信回線を通じて発表 掲載年月日:平成19年2月20日 掲載アドレス:http://www.chemistry.or.jp/nenkai/index.html http://www.chemistry.or.jp/nenkai/87haru/nenkai−87−prog.html#C7 http://www.chemistry.or.jp/nenkai/87haru/nenkai−87−prog.pdf 刊行物に発表 発行者名:社団法人日本化学会 刊行物名:「化学と工業」 2007年3月号 第60巻第3号 発行年月日:平成19年3月1日 刊行物に発表 発行者名:社団法人日本化学会 刊行物名:日本化学会第87春季年会(2007) 講演予稿集II 発行年月日:平成19年3月12日 電気通信回線を通じて発表 掲載年月日:平成19年3月12日 掲載アドレス:http://www.csj.jp/nenkai/index.html#6 https://www1.csj.jp/nenkai/87haru/prep87_block_pdf/87haru_08A.pdf
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】