説明

カルボニル化生成物の回収方法

【課題】遊離のまたは化合したイリジウムのカルボニル化触媒を含む液体カルボニル化反応組成物からカルボニル化生成物を、上記触媒の安定性および溶解性の低下を少なくして回収する方法を得る。
【解決手段】一酸化炭素を、カルボニル化反応し得る反応体および/またはそのエステル誘導体と、イリジウムカルボニル化触媒、ヒドロカルビルハライドカルボニル化促進剤、水およびカルボニル化反応生成物からなる液体反応組成物中で反応する方法において、液体反応組成物は、約2〜8重量%の濃度を有する水と、1〜20重量%の範囲の濃度を有するヒドロカルビルハライドカルボニル化促進剤と、1.0〜60重量%の範囲の濃度を有するカルボニル化反応し得る反応体のエステル誘導体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体カルボニル化反応組成物からカルボニル化生成物を回収する方法、特に遊離または化合したイリジウムのカルボニル化触媒を含む液体カルボニル化反応組成物からカルボニル化生成物を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
英国特許第1,234,641号明細書(特許文献1)にはアルコール、ハロゲン化物エステル、エーテルまたはフェノールをイリジウム、白金、パラジウム、オスミウムおよびルテニウム並びにこれらの金属の化合物から選ばれた貴金属触媒およびハロゲンもしくはハロゲン化合物である促進剤の存在下でカルボニル化することにより有機酸またはエステルを製造する方法が開示されている。英国特許第1,234,641号明細書(特許文献1)の図1に例示されている液相の例では、反応器からの流出液は圧力を低下し、次いで蒸留塔またはフラッシュ塔30に導入され、ここで主として酢酸メチル、沃化メチルおよび未反応メタノールからなる低沸点化合物が酢酸および触媒系のような他の揮発性のおとる成分から分離される。低沸点成分は反応器に再循環させる。酢酸および他の比較的高い沸点を有する化合物は塔30から除去されフラッシュ塔40に入る。この塔で水を含有する場合のある酢酸が主として触媒からなる他の高沸点成分から分離される。酢酸が回収され、更に精製され水が除去される。高沸点成分は反応器に再循環される。酢酸より沸点が高い成分、例えば高沸点溶媒が存在しない場合には、次いで若干の酢酸が再循環されて反応器に触媒を戻すことができる。
【0003】
同様の反応体系が、アルコールおよびそのエステル、エーテルおよびハロゲン化物誘導体をイリジウム/ハロゲン触媒系の存在下でカルボニル化することによってカルボン酸およびエステルを製造する方法に関する米国特許第3,772,380号明細書(特許文献2)に記載されている。
【0004】
英国特許第1,355,146号明細書(特許文献3)によると、カルボニル化生成物を液体反応混合物から分離するため蒸留を含む従来の処理計画は、英国特許第1,234,461号明細書(特許文献4)に記載されている触媒系の如きロジウムおよびイリジウムカルボニル化触媒系に対し、これらが蒸留塔再沸器の高温表面と接触するようになると分解し、不活性になる傾向があるので、触媒の不活性化および沈殿の問題を与える。英国特許第1,355,146号明細書(特許文献3)で提案された一つの解決法は極めて大きい蒸留塔再沸器を用いることである。英国特許第1,355,146号明細書(特許文献3)で提案されている他の解決法は、液体反応混合物の少なくとも一部分を反応領域の圧力よりも実質的に低い圧力に維持した分離領域に通し、このようにして熱を加えることなくカルボニル化生成物の少なくとも一部分を蒸発させることである。好ましい方法ではカルボニル化生成物の少なくとも一部分を蒸発させた後、分離領域に残留する液体を反応領域に再循環する。記載された例だけがロジウム触媒の使用に関するものであり、イリジウムカルボニル化触媒を使用する場合、未蒸発液体部分の中にどのような成分が存在するか詳細が記載されていない。
【0005】
【特許文献1】英国特許第1,234,641号明細書
【特許文献2】米国特許第3,772,380号明細書
【特許文献3】英国特許第1,355,146号明細書
【特許文献4】英国特許第1,234,461号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明により解決すべき技術的問題は、遊離のまたは化合したイリジウムのカルボニル化触媒を含む液体カルボニル化反応組成物からカルボニル化生成物を回収し、しかも触媒がその安定性および溶解性を失う傾向の低減した方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明においては、カルボニル化反応し得る反応体のインジウム触媒カルボニル化反応のカルボニル化生成物および遊離のまたは化合したイリジウムのカルボニル化反応触媒を含む液体反応組成物からカルボニル化生成物を回収するに当り、液体カルボニル化反応組成物を熱を加えるかまたは加えることなしに蒸発させてカルボニル化生成物を含む蒸気部分とイリジウムカルボニル化触媒を含む液体部分を生成し、液体部分と蒸気部分を分離し、液体部分に少なくとも0.5重量%の水の濃度を維持することを特徴とするカルボニル化生成物の回収方法を提供する。
【0008】
本発明は、回収方法中イリジウム触媒を安定化するため水を使用することにより上記の存在する技術的問題を解決する。
【0009】
本発明の方法においては、蒸発は熱を加えるかまたは加えることないフラッシュ蒸発として行うことができる。断熱フラッシュにおいて、高温度の組成物の圧力は熱を加えることなく減ぜられる。恒温フラッシュにおいて、高温度の組成物の圧力は低下させられ組成物の温度は熱を加えることにより維持される。これらの型のフラッシュ蒸発のいずれかを用いるか、両者を組合せて用いることができ、例えば若干の熱だけを加え圧力を減ずるかまたは圧力を変化させることなく熱を加えることができる。
【0010】
従って、例えば、断熱フラッシュを用いる一例においては、例えばカルボニル化反応に必要とされるような高い温度および圧力の液体カルボニル化反応組成物をカルボニル化反応組成物の高い圧力よりも実質的に低い圧力にあるフラッシュ領域に導入する。これにより液体カルボニル化反応組成物の少なくとも一部分を蒸発させ蒸気部分と液体部分を生成し、これらをフラッシュ領域から別個に除去することができる。適当な断熱フラッシュは、例えば約100〜250℃の温度と約10〜100バールゲージの圧力を有する液体カルボニル化反応組成物を約80〜200℃の温度および約0〜20バールゲージの圧力に維持したフラッシュ領域に導入することにより行うことができる。
【0011】
また、蒸発は熱を液体カルボニル化反応組成物に加えて組成物の少なくとも一部分を蒸発させ蒸気部分と液体部分を生成することにより行うことができる。これは組成物の温度を熱を加えることにより維持する恒温フラッシュでよい。適当な恒温フラッシュ蒸発は、80〜200℃の温度および0〜20バールゲージの圧力で行うことができる。
【0012】
蒸発は熱を液体カルボニル化反応組成物に供給して圧力を低下させるかまたは低下させずにその一部分を蒸発させる短時間滞留蒸発器中で行うことができる。蒸発は、また分留領域で行うこともできる。この例では、液体カルボニル化反応組成物を蒸留領域に導入し、イリジウムカルボニル化触媒を含む液体部分を蒸留領域の底部から除去する。カルボニル化生成物を蒸留領域を上方に通し、蒸留領域の底部の上の任意の点で液体または蒸気として除去することができる。
【0013】
本発明の方法においては、一つより多くの蒸発段階を各段階において液体部分に存在する水の濃度がイリジウムカルボニル化触媒の安定性および溶解性を維持するのに十分である場合には、使用することができる。このようにして、2つ以上のフラッシュ蒸発を熱を加えるかまたは熱を加えることなくそれぞれ独立に順次用いることができる。あるいはまた、一つ以上のフラッシュ蒸発を分離領域の前で行うことができる。
【0014】
蒸発を行うのに熱を加える場合には適当な熱源は水蒸気加熱である。
【0015】
蒸発領域または蒸留領域における液体部分の滞留時間は比較的短いのが好ましく、例えば液体部分の滞留時間は1〜60分であるのが好ましい。
【0016】
蒸発にどのような設計の装置を用いる場合でも、イリジウムカルボニル化触媒を含む液体部分の水の濃度は少なくとも0.5重量%、好ましくは約0.5〜50重量%、更に好ましくは1〜10重量%である。水は液体カルボニル化反応組成物における一成分として蒸発のため導入するかまたは別個に蒸発のため導入してもよく、或いは液体カルボニル化反応組成物における一成分として蒸発のため導入し、さらに別個に蒸発のため導入してもよい。
【0017】
遊離のまたは化合したイリジウムのカルボニル化触媒の液体部分における濃度は0.01重量%から液体部分における触媒の溶解度の限界までの範囲のイリジウムが適当であり、0.05〜2.0重量%が好ましい。
【0018】
液体部分はまたハロゲン化物カルボニル化促進剤、例えばハロゲン化アルキル、好ましくは沃化物促進剤、最も好ましくは沃化メチルを含むのが好ましい。ハロゲン化物促進剤は0.01〜20重量%の濃度で存在するのが適当である。
【0019】
また、液体部分はカルボニル化し得る反応体のエステル誘導体、例えば酢酸メチルを含むのが好ましい。エステル誘導体は1〜50重量%の濃度で存在するのが適当である。
【0020】
これらの成分の液体部分における好ましい濃度および最も好ましい濃度を次の表1に個々に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
本発明の方法においては、カルボニル化し得る反応体の任意適当な液相、イリジウム触媒カルボニル化法の液体カルボニル化反応組成物を使用
することができる。
【0023】
従って、適当なカルボニル化法は、アルコール、エステル、ヒドロカルビルハライドおよび/またはヒドロカルビルエーテル反応体を液相、イリジウム触媒カルボニル化して対応するカルボン酸および/またはカルボン酸エステルを生成することからなる。係る方法では一酸化炭素をカルボニル化し得る反応体および/またはそのエステル誘導体、イリジウムカルボニル化触媒、ハロゲン化物カルボニル化促進剤および好ましくは有限濃度の水を含む液体カルボニル化反応組成物と接触させる。
【0024】
カルボニル化反応体の適当なアルコールは、1〜20個の炭素原子および少なくとも1個の水酸基を有する任意のアルコールである。アルコールは1〜8個の炭素原子を有する一官能価脂肪族アルコールが好ましい。アルコールはメタノール、エタノールおよび/またはプロパノールが最も好ましい。1種以上のアルコールの混合物を用いることができる。アルコールのカルボニル化生成物はアルコールより1個多い炭素原子を有するカルボン酸および/またはそのアルコール反応体とのエステルである。特に好ましい反応体はメタノールであり、そのカルボン酸生成物は酢酸および/または酢酸メチルである。
【0025】
カルボニル化し得る反応体の適当なエステルは、アルコールとカルボン酸の任意のエステルである。エステル反応体は、カルボン酸と1〜20個の炭素原子を有するアルコールのエステルが好ましい。エステル反応体はカルボン酸と1〜8個の炭素原子を有する一官能価脂肪族アルコールのエステルが更に好ましい。エステル反応体はカルボン酸とメタノール、エタノールもしくはプロパノールのエステルが最も好ましい。エステル反応体はアルコールとカルボン酸生成物のエステルが好ましい。エステル反応体は20までの炭素原子を有するのが好ましい。エステル反応体の混合物を用いることができる。エステル反応体のカルボン酸カルボニル化生成物はエステル反応体のアルコール成分より1個炭素原子の多いカルボン酸である。特に好ましいエステル反応体は酢酸メチルであり、そのカルボン酸カルボニル化生成物は酢酸である。
【0026】
適当なハロゲン化物のカルボニル化し得る反応体は20個までの炭素原子を有する任意のヒドロカルビルハライドである。ハロゲン化物反応体は沃化物または臭化物が好ましい。ヒドロカルビルハライド反応体のハロゲン化物成分はハロゲン化物カルボニル化促進剤のハロゲン化物と同じハロゲン化物であるのが更に好ましい。ヒドロカルビルハライドはヒドロカルビルヨーディドが最も好ましく、沃化メチル、沃化エチルまたは沃化プロピルが最も好ましい。ヒドロカルビルハライド反応体の混合物を使用することができる。ヒドロカルビルハライド反応体のカルボン酸生成物はヒドロカルビルハライド反応体より炭素原子が1個多いカルボン酸である。ヒドロカルビルハライドのエステルカルボニル化生成物はヒドロカルビルハライドとヒドロカルビルハライドより炭素原子が1個多いカルボン酸のエステルである。
【0027】
カルボニル化し得る反応体の適当なエーテルは20個までの炭素原子を有する任意のヒドロカルビルエーテルである。エーテル反応体はジアルキルエーテルが好ましく、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルまたはジプロピルエーテルが最も好ましい。エーテルの混合物を用いることができる。エーテル反応体のカルボニル化生成物は、エーテルのそれぞれのヒドロカルビニル基より炭素原子が1個多いカルボン酸および/またはそれらのエステル誘導体である。特に好ましいエーテルカルボニル化反応体は、ジメチルエーテルであり、そのカルボン酸生成物は酢酸である。
【0028】
カルボニル化し得る反応体のアルコール、エステル、ハロゲン化物およびエーテルの混合物をカルボニル化法に用いることができる。1種より多くのアルコール、エステル、ハロゲン化物および/またはエーテルを用いることができる。特に好ましいカルボニル化し得る反応体はメタノールおよび/または酢酸であり、そのカルボン酸カルボニル化生成物は酢酸である。
【0029】
液体カルボニル化反応組成物中のイリジウムカルボニル化触媒は液体反応組成物に可溶性である任意のイリジウム含有化合物とすることができる。触媒はカルボニル化反応のため液体カルボニル化反応組成物に、液体反応組成物に溶解するかまたは可溶性形態に転換し得る任意適当な形態で添加することができる。使用することができる適当なイリジウム含有化合物を例示するとIrCl、IrI、IrBr、Ir(CO)、Ir(CO)Cl、Ir(CO)Br、IrCl・4HO、IrBr・4HO、Ir(CO)、イリジウム金属、酢酸イリジウム、Ir、IrO、Ir(acac)(CO)およびIr(acac)が含まれる。液体カルボニル化反応組成物中のイリジウム触媒濃度は、50〜10000ppm(重量)の範囲のイリジウムが好ましく、100〜6000ppm(重量)の範囲のイリジウムが更に好ましい。
【0030】
適当なカルボニル化反応用のハロゲン化物カルボニル化促進剤は沃化物または臭化物化合物でよく、沃化物が好ましい。ハロゲン化物促進剤はカルボニル化可能な反応体のハロゲン化物誘導体、すなわちヒドロカルビルハライドが好ましい。ハロゲン化物カルボニル化促進剤は沃化メチルが最も好ましい。液体カルボニル化反応組成物中のハロゲン化物カルボニル化促進剤の濃度は1〜20重量%の範囲が好ましく、1〜10重量%の範囲が最も好ましい。
【0031】
適当なカルボニル化反応に供給する一酸化炭素は、ほぼ純粋であるかまたは二酸化炭素、メタン、窒素、貴ガス、水およびC〜Cのパラフィン系炭化水素のような不活性不純物を含んでもよい。水素を適当なカルボニル化反応器に存在させることができる。水素はその場で発生させるかまたは一酸化炭素と一緒におよび/または別個にカルボニル化反応器に供給することができる。適当なカルボニル化反応器における一酸化炭素の分圧は適当に1〜70バールゲージの範囲とすることができる。
【0032】
適当なカルボニル化反応の圧力は10〜100バールゲージの範囲が適する。適当なカルボニル化反応の温度は100〜250℃の範囲が適する。
【0033】
液体カルボニル化反応組成物は、またカルボニル化可能な反応体のエステル誘導体を好ましくは0.1〜75重量%の範囲、更に好ましくは1.0〜60重量%の範囲で含有するのがよい。
【0034】
液体カルボニル化反応組成物は水を含有してもよい。水はカルボニル化反応においてその場で、例えばアルコール反応体とカルボン酸生成物の間のエステル化反応により形成され得る。水は他の液体反応体、例えば酢酸メチルのようなエステルと一緒にまたは別々にカルボニル化反応器に導入することができる。水は反応器から取出した反応組成物から分離し、制御した分量で再循環してカルボニル化反応組成物中の所要濃度を維持することができる。液体カルボニル化反応組成物中の水の濃度は少なくとも0.1重量%であるのがよい。代表的には、液体反応組成物の他の成分によるが、液体カルボニル化反応組成物中の水の濃度は少なくとも0.1重量%で30重量%まで、好ましくは15重量%までとするのがよいが、水の濃度は約2〜8重量%であるのが最も好ましい。
【0035】
液体カルボニル化反応組成物中のカルボニル化生成物より一層揮発性である成分は、カルボニル化生成物を残留するカルボニル化反応組成物から回収する前に予備回収段階で、カルボニル化反応組成物から回収することができる。これらの一層揮発性である成分は、例えばカルボニル化可能な反応体および/またはそのエステル誘導体およびカルボニル化ハロゲン促進剤である。これらの揮発性成分はカルボニル化反応に再循環することができる。適当な予備回収工程には熱を加えるかまたは加えないフラッシュ蒸発が含まれる。
【0036】
特に、カルボン酸を製造するための、アルコール、エステル、ヒドロカルビルハライドおよび/またはヒドロカルビルエーテル反応体の液相、イリジウム触媒カルボニル化において適当な反応速度を達成するのに液相反応組成物に必要とされる反応体のエステル誘導体の濃度は比較的に高いことを見出だした。このエステル誘導体は、カルボニル化生成物を回収する前に、予備蒸発で液体カルボニル化反応組成物から回収することができる。
【0037】
従って、本発明の一例においては、アルコール、エステル、ヒドロカルビルハライドおよび/またはヒドロカルビルエーテル、カルボニル化可能な反応体のカルボン酸カルボニル化生成物をカルボン酸カルボニル化生成物、遊離のまたは化合したイリジウムのカルボニル化触媒およびエステル誘導体のカルボニル化可能な反応体を含む液体カルボニル化反応組成物から回収する方法を提供するもので、この方法は(a)液体カルボニル化反応組成物を第1蒸発領域で熱を加えるかまたは加えることなく蒸発させて液体カルボニル化反応組成物中のエステル誘導体の少なくとも一部分を含む第1蒸気部分と液体カルボニル化反応組成物中のエステル誘導体の残部、カルボン酸生成物の少なくとも一部分およびイリジウムカルボニル化反応触媒を含む第1液体部分を生成し、第1液体部分中に少なくとも0.5重量%の水濃度を維持し、(b)第1液体部分を第2蒸発領域に通し、ここで第1液体部分を熱を加えるかまたは加えることなく蒸発させてカルボン酸カルボニル化生成物を含む第2蒸気部分とイリジウムカルボニル化触媒を含む第2液体部分を生成し、第2液体部分において少なくとも0.5重量%の水濃度を維持することを特徴とする。
【0038】
この例において、第1蒸気部分と第2液体部分はカルボニル化反応に再循環することができる。カルボン酸カルボニル化生成物を含む第2蒸気部分は更に一つ以上の分留領域における分留のような従来の手段によって精製してカルボン酸カルボニル化生成物を他の成分から回収し、他の成分はカルボニル化反応に再循環することができる。従って、例えば第2蒸気部分を蒸留領域に導入し分留処理し、この領域でハロゲン化物またはハロゲン化物化合物カルボニル化促進剤、カルボニル化可能な反応体のエステル誘導体を含み、更に随意に水を含む上部プロセス流を蒸留領域から除去し、カルボニル化反応に再循環することができ、カルボン酸カルボニル化生成物と更に随意に水を含む底部プロセス流を蒸留領域の底部から蒸気または液体として除去し、更に所要に応じて従来の精製処理をして、例えば水および沃化物および酸化性不純物のような微量の不純物を、例えば銀を負荷したイオン交換樹脂に通すことにより除去することができる。
【0039】
本発明のこの例においては、第1蒸発は断熱フラッシュ蒸発が好ましく、第2蒸発は分留領域で行うかまたは好ましくは熱を加えて部分蒸発器で行う。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、アルコール、エステル、ヒドロカルビルハライドおよび/またはヒドロカルビルエーテル、カルボニル化可能な反応体のカルボン酸カルボニル化生成物をカルボン酸カルボニル化生成物、遊離のまたは化合したイリジウムのカルボニル化触媒およびエステル誘導体のカルボニル化可能な反応体を含む液体カルボニル化反応組成物から回収する方法を提供することができ、この方法は(a)液体カルボニル化反応組成物を第1蒸発領域で熱を加えるかまたは加えることなく蒸発させて液体カルボニル化反応組成物中のエステル誘導体の少なくとも一部分を含む第1蒸気部分と液体カルボニル化反応組成物中のエステル誘導体の残部、カルボン酸生成物の少なくとも一部分およびイリジウムカルボニル化反応触媒を含む第1液体部分を生成し、第1液体部分中に少なくとも0.5重量%の水濃度を維持し、(b)第1液体部分を第2蒸発領域に通し、ここで第1液体部分を熱を加えるかまたは加えることなく蒸発させてカルボン酸カルボニル化生成物を含む第2蒸気部分とイリジウムカルボニル化触媒を含む第2液体部分を生成し、第2液体部分において少なくとも0.5重量%の水濃度を維持することができる。
【0041】
また、第1蒸気部分と第2液体部分はカルボニル化反応に再循環することができる。カルボン酸カルボニル化生成物を含む第2蒸気部分は更に一つ以上の分留領域における分留のような従来の手段によって精製してカルボン酸カルボニル化生成物を他の成分から回収し、他の成分はカルボニル化反応に再循環することができる。従って、例えば第2蒸気部分を蒸留領域に導入し分留処理し、この領域でハロゲン化物またはハロゲン化物化合物カルボニル化促進剤、カルボニル化可能な反応体のエステル誘導体を含み、更に随意に水を含む上部プロセス流を蒸留領域から除去し、カルボニル化反応に再循環することができ、カルボン酸カルボニル化生成物と更に随意に水を含む底部プロセス流を蒸留領域の底部から蒸気または液体として除去し、更に所要に応じて従来の精製処理をして、例えば水および沃化物および酸化性不純物のような微量の不純物を、例えば銀を負荷したイオン交換樹脂に通すことにより除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明を図1〜3を参照して例により説明する。図1は、本発明の方法の単一フラッシュ分離工程を組み入れた工程系統図を示す。図2および図3は、それぞれ2つの分離工程を使用した本発明の方法の工程系統図を示す。
【0043】
図1〜3に示す方法は、メタノールのカルボニル化により酢酸を製造するのに用いることができる。
【0044】
図1〜3において、カルボニル化反応器(1)に一酸化炭素供給原料(2)とメタノール供給原料(3)を供給する。カルボニル化反応器は、使用中酢酸カルボニル化生成物、イリジウムカルボニル化触媒、メタノールカルボニル化反応体の酢酸メチル誘導体、沃化メチルカルボニル化促進剤および少なくとも0.1重量%の有限濃度の水を含む。この反応器は、使用中10〜100バールゲージの圧力および100〜250℃の温度に維持する。使用中、液体カルボニル化反応組成物を反応器(1)から取り出し反応器の圧力より低い圧力(例えば0〜20バールゲージ)で操作するフラッシュ領域(4)に通す。この領域は断熱フラッシュ領域であるのが好ましい。
【0045】
図1に示す方法においては、酢酸メチル、沃化メチル、酢酸および水を含む蒸気部分をフラッシュ領域(4)から分離領域(15)に通す。この領域は一つのブロックとして図示するが1工程または1工程より多くの分離工程、例えば分留領域よりなるものでよい。この分離領域(15)において、酢酸生成物を、沃化メチル、酢酸メチルおよび水と分離し、これ等を別個にまたは一緒に一つまたは二つ以上のプロセス流としてカルボニル化反応器(1)に戻す。分離領域から管(16)に沿って取出した酢酸生成物を従来法により更に精製することができる。図1に示す方法においては酢酸、少なくとも0.5重量%の水および不揮発性イリジウムカルボニル化触媒をフラッシュ領域(4)から管(17)に沿って反応器(1)に再循環する。
【0046】
図2および図3に示す例においては、フラッシュ領域(4)を予備分離領域として操作して若干の酢酸メチルおよび沃化メチルを、除去した液体カルボニル化反応組成物から分離する。従って、図2および図3に示すフラッシュ領域(4)におけるカルボニル化反応組成物からの多量の酢酸メチルおよび沃化メチルを含む第1蒸気部分をフラッシュ領域(4)から管(5)に沿って反応器に再循環する。酢酸メチルおよび沃化メチルの残部、イリジウムカルボニル化触媒および少なくとも0.5重量%の水を含む第1液体部分をフラッシュ領域(4)から管(6)に沿って導く。
【0047】
図2に示す例では、第1液体部分をストリッパー蒸留領域(7)に通す。蒸留領域(7)の頂部から酢酸メチルおよび沃化メチルを含むプロセス流を管(8)に沿って取り出し、カルボニル化反応器に直接再循環するかまたは間接的に戻す。粗製酢酸カルボニル化生成物を蒸留領域(7)から蒸気または液体として蒸留領域の底部より上の位置で取り出し管(10)に沿って蒸留領域すなわち乾燥塔(11)に通す。この蒸留領域(11)で、水を上部生成物として除去し、管(12)に沿って反応器に再循環し、酢酸生成物を底部生成物として取り出す。イリジウムカルボニル化触媒および少なくとも0.5重量%の水を蒸留領域(7)の底部から取り出し管(9)に沿って反応器に再循環する。
【0048】
図3に示す例においては、第1液体部分を部分蒸発器(20)に通し、ここで第1液体部分の一部を、熱を加えることにより蒸発させて第2の蒸気部分と液体部分を形成する。イリジウムカルボニル化触媒および少なくとも0.5重量%の水を含む第2液体部分を管(21)に沿って反応器に再循環する。酢酸メチル、沃化メチル、水および酢酸を含む第2蒸気部分を管(22)に沿って蒸留領域(23)に通す。沃化メチルおよび酢酸メチルを蒸留領域(23)から上部生成物として取り出し管(24)に沿って再循環する。蒸留領域(23)からの酢酸および水を含む底部生成物を管(25)に沿って取り出し蒸留領域すなわち乾燥塔(26)に通しここから酢酸を底部生成物として回収し水を上部生成物として取り出し管(27)に沿って反応器に再循環する。図2および図3に示す例においては、回収した酢酸を従来法により精製して(図示せず)、例えば沃化物および酸化性不純物を除去する。
【0049】
本発明を更に次の実施例により説明する。イリジウムカルボニル化触媒の原料溶液を、下記成分をDispersimax(商標名)撹拌器を取付けた100mlのHastelloyB2(商標名)のバッチオートクレーブに供給することにより調整した:
IrCl・4HO 1.5g
沃化メチル 2.5g
水 0.75g
酢酸 50gにするに必要な残部
【0050】
オートクレーブを一酸化炭素を用いて45バールゲージまで加圧し、次いでかきまぜながら2時間195℃に加熱した。室温まで冷却し圧力を下げ、原料溶液を高周波誘導結合プラズマ分光分析(ICP)によりイリジウム分(代表的には約7500ppm)を分析した。高圧赤外分析により、同様に調製した溶液を分析した結果、溶液は[Ir(CO)を含んでいることを示した。この原料カルボニル化触媒溶液を次に示す実験において用いた。
【0051】
触媒安定性試験1
第1の安定性試験において、前述のようにして調製した約9300ppmのイリジウム(8.57g)、沃化メチル(0.01g)、酢酸メチル(0.73g)および水(0.61g)を含むカルボニル化触媒原料溶液をフィッシャー−ポーター管に供給し、一酸化炭素でパージし、封止し、次いでかきまぜながら自発圧力下で15分間100℃に加熱した。これは本発明の方法における2工程蒸発の第2工程においてカルボニル化組成物からカルボニル化生成物の回収中目的が達せられることが期待される条件をまねたものである。加熱期間の終りにフィッシャー−ポーター管の内容物を冷却しICPによりイリジウム分の分析をした。フィッシャー−ポーター管を次いで再び組み立て100℃に2時間維持した同じ溶液を用いて試験を続け然る後分析を繰返した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
触媒安定性試験2
第2の安定性試験において、前述のようにして調製した、約9300ppmのイリジウム(8.51g)、沃化メチル(0.02g)、酢酸メチル(0.84g)および水(0.48g)を含むカルボニル化触媒原料溶液をフィッシャー−ポーター管に供給し、一酸化炭素でパージし、次いで一酸化炭素で1バールゲージに加圧し然る後かきまぜながら130℃に15分間加熱した。フィッシャー−ポーター管内の圧力は管が所定の温度に加熱された状態で約2.4バールゲージであった。これは本発明の方法における2工程蒸発の第2工程においてカルボニル化組成物からカルボニル化生成物の回収中目的が達せられることが期待される条件をまねたものである。加熱期間の終りにフィッシャー−ポーター管の内容物を冷却しICPによりイリジウム分を分析した。次いでフィッシャー−ポーター管を再び組み立て130℃で2時間維持した同じ溶液を用いて試験を続け然る後分析を繰返した。結果を表3に示す。
【0054】
触媒安定性試験3
イリジウム触媒原料溶液が約17000ppmのイリジウムを含有し、前述のようにして調製した原料溶液から減圧下で約50%の酢酸を除去することにより製造した、新しい供給材料の試薬を用いて試験2の操作を繰返した。結果を表3に表す。
【0055】
【表3】

【0056】
試験1〜3の結果は、イリジウム触媒が少なくとも0.5%の水の存在下で安定であることを示す。
【0057】
触媒安定性試験4
フィッシャー−ポーター管に沃化メチルを添加しなかったことを除いて、試験2の操作を繰返した。結果を表4に示す。
【0058】
触媒安定性試験5
フィッシャー−ポーター管に酢酸メチルを添加しなかったことを除いて試験2の操作を繰返した。結果を表4に示す。
【0059】
比較例A
次に示す最初の供給原料を使用して試験2の操作を繰返した:
触媒原料溶液 9.094g
酢酸メチル 0.873g
沃化メチル 0.024g
供給した混合物の水分をカールフィッシャー法により測定した結果、僅かに0.33重量%であった。表5に示す120分後のイリジウム濃度の分析は、水分が0.5重量%未満の場合、イリジウム触媒は溶液中に残らないことを示す。
【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】単一フラッシュ分離工程を組み入れた本発明の方法の工程系統図である。
【図2】2つの分離工程を使用する本発明の方法の工程系統図である。
【図3】2つの分離工程を使用する本発明の他の例の方法の工程系統図である。
【符号の説明】
【0063】
1 カルボニル化反応器
2 一酸化炭素供給原料
3 メタノール供給原料
4 フラッシュ領域(またはフラッシュタンク)
5 管
6 管
7 ストリッパー蒸留領域
8 管
9 管
10 管
11 蒸留領域
12 管
15 分離領域
16 管
17 管
20 部分蒸発器
21 管
22 管
23 蒸留領域
24 管
25 管
26 蒸留領域
27 管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素を、カルボニル化反応し得る反応体および/またはそのエステル誘導体と、イリジウムカルボニル化触媒、ヒドロカルビルハライドカルボニル化促進剤、水およびカルボニル化反応生成物からなる液体反応組成物中で反応する方法において、液体反応組成物は、約2〜8重量%の濃度を有する水と、1〜20重量%の範囲の濃度を有するヒドロカルビルハライドカルボニル化促進剤と、1.0〜60重量%の範囲の濃度を有するカルボニル化反応し得る反応体のエステル誘導体を含有することを特徴とする反応方法。
【請求項2】
液体反応組成物中のヒドロカルビルハライド促進剤の濃度が1〜10重量%の範囲であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
カルボン酸および/またはカルボン酸エステルが生成されることを特徴とする請求項またはに記載の方法。
【請求項4】
カルボニル化反応し得る反応体がアルコール、エステル、ヒドロカルビルハライドおよび/またはヒドロカルビルエーテルであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
ここで一酸化炭素はアルコールと反応し、アルコールの炭素原子nが1〜20個の範囲であり、n+1の炭素原子を有するカルボン酸および/または上記アルコールと上記カルボン酸のエステルを生成することを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
上記カルボニル化反応し得る反応体がメタノールであり、上記ヒドロカルビルハライド促進剤が沃化メチルであり、上記カルボニル化反応し得る反応体のエステル誘導体が酢酸メチルであり、上記方法が酢酸を生成することを特徴とする請求項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−73846(P2009−73846A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274991(P2008−274991)
【出願日】平成20年10月25日(2008.10.25)
【分割の表示】特願平6−56993の分割
【原出願日】平成6年3月28日(1994.3.28)
【出願人】(591001798)ビーピー ケミカルズ リミテッド  (66)
【氏名又は名称原語表記】BP CHEMICALS LIMITED
【Fターム(参考)】