説明

カルボン酸系重合体の製造方法

【課題】純度が高く、しかも、分子量及びその分布が、洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等に好適な重合体を安定に且つ生産性よく製造する。
【解決手段】カルボン酸系重合体の製造方法は、反応槽11と、外部循環ライン12と、モノマー供給手段19と、重合開始剤供給手段14,15と、を備えた反応装置10を用い、反応槽11内の反応液を外部循環ライン12に循環させながら、反応液に対して、モノマー供給手段19からモノマーを連続供給すると共に、重合開始剤供給手段14,15からレドックス開始剤を連続供給することにより、モノマーをレドックス重合させて半回分操作によりカルボン酸系重合体を製造する。反応液を、モノマー供給時間中に外部循環ライン12に17回以上循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸系重合体の半回分操作での製造方法に関する。更に詳しくは、洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等として好適に使用しうるカルボン酸系重合体の半回分操作での製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜硫酸水素塩と酸素のレドックス開始剤存在下で重合を行うカルボン酸系重合体の製造法としては、攪拌槽型反応器で滴下方式により重合反応を行う方法(例えば、特許文献1参照)及び反応管内に薄膜流を形成させて重合反応を行う方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
上記以外の重合法として、スタティック・ミキサーでモノマー及びレドックス開始剤の連続混合を行った後、適当な重合器に供給するという方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0004】
また、連続的にアクリル酸塩系重合体を製造する方法として、静止型混合器を備えたループ型反応器を用いて製造する方法(例えば、特許文献4参照)、流通式混合器を備えた第1重合工程と第2重合反応工程により製造する方法(例えば、特許文献5参照)、及び静止型混合器とリサイクルタンクを備えたループ型反応器により製造する方法(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【特許文献1】特公昭60−24806号公報
【特許文献2】特公平02−24283号公報
【特許文献3】特公昭60−8001号公報
【特許文献4】特開昭60−28409号公報
【特許文献5】特許第3730615号公報
【特許文献6】特開2001−98001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、スケールを増大させる場合に、気泡径の制御が難しくなるので、固形分濃度を下げる必要があり、また、低分子量の重合体を得る場合に、開始剤を増量する必要がある。したがって、その方法には、生産性が低下したり、不純物の生成割合が増大するという欠点がある。
【0006】
特許文献2に記載された方法では、反応管内に薄膜流を形成するために膨大な量のガスが必要となるという欠点がある。
【0007】
特許文献3に記載された方法では、レドックス開始剤が混合器に導入される段階で液状である必要があり、開始反応速度が大きく、閉塞の防止のため混合器の仕様及び開始剤の供給方法に制約があるという欠点がある。
【0008】
特許文献4に記載された方法では、生産性が低く、また気液系を取り扱う場合には、ガスの分離機構が不十分なため、循環ができなくなるという欠点がある。
【0009】
特許文献5に記載された方法では、生産性は高いが製造設備の建設費が高く、また設備のメンテナンスに時間と費用がかかるという欠点がある。
【0010】
特許文献6に記載された方法では、亜硫酸水素塩及び酸素をレドックス開始剤として用いた場合、これらの開始剤及びモノマーをループ内に直接供給され、水溶性粘性の高い重合体が循環している状態で開始反応を行うこととなる。その結果、開始剤効率の高い重合反応を行うことができず、不純物の量が増大する。そこで、開始剤効率を高めるために水溶性重合体の粘度を下げるべく開始剤を増量し、分子量を下げた場合には、やはり開始剤由来の不純物の量が増大し、また水溶性重合体の濃度を下げた場合には、生産性が低下するという欠点がある。
【0011】
本発明は、亜硫酸水素塩と酸素をレドックス開始剤としたカルボン酸系重合体の半回分操作での製造方法において、純度が高く、しかも、分子量及びその分布が、洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等に好適なカルボン酸系重合体を安定に且つ生産性よく製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、反応槽と、該反応槽に両端が接続された外部循環ラインと、α−不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含むモノマーを供給するモノマー供給手段と、レドックス開始剤を供給する重合開始剤供給手段と、を備えた反応装置を用い、上記反応槽内の反応液を上記外部循環ラインに循環させながら、該反応液に対して、上記モノマー供給手段からモノマーを連続供給すると共に、上記重合開始剤供給手段からレドックス開始剤を連続供給することにより、モノマーをレドックス重合させて半回分操作によりカルボン酸系重合体を製造する方法であって、
上記反応液を、モノマー供給時間中に上記外部循環ラインに17回以上循環させるものである。
【0013】
また、本発明は、反応液を貯めるための反応槽と、
上記反応槽に両端が接続された外部循環ラインと、
上記外部循環ラインに介設され上記反応槽内の反応液を該外部循環ラインに循環させるための送液手段と、
反応液に対してα−不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含むモノマーを供給するためのモノマー供給手段と、
反応液に対してレドックス開始剤を供給するための重合開始剤供給手段と、
を備え、モノマーをレドックス重合させて半回分操作によりカルボン酸系重合体を製造するように構成された反応装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、純度が高く、しかも、分子量及びその分布が、洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等に好適なカルボン酸系重合体を安定に且つ生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(反応装置)
図1は本実施形態に係る反応装置10を示す。なお、本実施形態は、亜硫酸水素塩と酸素を含むガスとからなるレドックス開始剤を用いる場合を例示するが、特にこれに限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係る反応装置10は、攪拌機能及び温調機能を有する容量が例えば10〜30000Lの反応槽11を備え、この反応槽11に反応液が貯められる。
【0018】
反応槽11には、一端が槽下部に及び他端が槽上部にそれぞれ接続された外部循環ライン12が設けられている。外部循環ライン12は、例えば、流路長が1〜50m、流路径が20〜500mmである。
【0019】
外部循環ライン12には循環ポンプ13(送液手段)が介設され、この循環ポンプ13が反応槽11内の反応液を槽下部から槽上部に向かって外部循環ライン12を送液することにより外部循環ライン12に循環させる。
【0020】
外部循環ライン12には、循環ポンプ13の下流側に、亜硫酸水素塩供給源から延びた亜硫酸水素塩供給管14及び酸素含有ガス供給源(例えば、コンプレッサーやブロアー設備等)から延びた酸素含有ガス供給管15がそれぞれ接続されている。この亜硫酸水素塩供給管14が反応液に対して亜硫酸水素塩を溶解した水溶液(以下、「亜硫酸水素塩水溶液」という。)を供給すると共に酸素含有ガス供給管15が反応液に対して酸素を含有するガス(以下、「酸素含有ガス」という。)を供給することにより、反応液に対して亜硫酸水素塩と酸素とからなるレドックス開始剤を供給する。従って、これらの亜硫酸水素塩供給管14及び酸素含有ガス供給管15が重合開始剤供給手段を構成する。なお、亜硫酸水素塩供給管14及び酸素含有ガス供給管15がそれぞれ外部循環ライン12に接続された構成ではなく、亜硫酸水素塩供給管14と酸素含有ガス供給管15とが接続され、それらの合流管が外部循環ライン12に接続された構成であってもよい。
【0021】
外部循環ライン12には、亜硫酸水素塩供給管14及び酸素含有ガス供給管15の接続部が上流側に配置されるように流通式混合器16が介設されている。この流通式混合器16が外部循環ライン12を流通する反応液と酸素含有ガスとの気液混合を行う。このように流通式混合器16の上流側に酸素含有ガス供給管15の接続部が配置されていることにより、気液の分散性を高めると共に循環する反応液への酸素の溶解性を高めることができる。
【0022】
流通式混合器16としては、例えば、スタティック・ミキサー、オリフィスミキサー等の静止型混合器;エジェクター等の噴流ノズル;ラインミキサー等の管路攪拌機等が挙げられる。これらの中では、少ないガス量においても高い混合性能を発揮させることができる観点及び設備の耐久性、メンテナンス等の観点から、静止型混合器が好ましい。静止型混合器としては例えば「分散君」(株式会社フジキン社製)を好ましく用いることができる。
【0023】
外部循環ライン12には、流通式混合器16の下流側の部分に、熱交換器17が設けられている。この熱交換器17が外部循環ライン12における流通式混合器16よりも下流側の部分を流通する気液混合流体の温調を行う。
【0024】
外部循環ライン12には、流通式混合器16の下流側に、コントロールバルブ18が設けられている。このコントロールバルブ18が外部循環ライン12における流通式混合器16よりも下流側の部分を流通する気液混合流体の流量を調節することにより、気液混合流体にかける循環ライン戻り部圧力を設定する。
【0025】
反応槽11には、その槽上部に、モノマー供給源から延びたモノマー供給管19が接続されている。このモノマー供給管19が反応槽11内の反応液に対してモノマーを供給する。従って、このモノマー供給管19がモノマー供給手段を構成する。なお、モノマー供給管19が反応槽11に接続された構成ではなく、外部循環ライン12に接続された構成であってもよい。
【0026】
また、反応槽11や外部循環ライン12には、モノマーを中和するための中和剤供給ラインを設置してもよい。
【0027】
(重合体の製造方法)
本実施形態に係るカルボン酸系重合体(以下、「重合体」という。)の製造方法は、上記反応装置10を用い、反応槽11内の反応液を外部循環ライン12に循環させながら、反応液に対して、モノマー供給管19からモノマーを連続供給すると共に、亜硫酸水素塩供給管14及び酸素含有ガス供給管15から亜硫酸水素塩と酸素とからなるレドックス開始剤を連続供給することにより、モノマーをレドックス重合させて半回分操作により重合体を製造するものである。そして、反応液を、モノマー供給時間中に外部循環ライン12に17回以上循環させる。
【0028】
このようにすることにより、純度が高く、しかも、分子量及びその分布が、洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等に好適な重合体を安定に且つ生産性よく製造することができる。
【0029】
<モノマー>
α−不飽和カルボン酸又はその塩は、反応原料のモノマーとして用いられる。α−不飽和カルボン酸又はその塩の中では、アクリル酸又はその塩を必須成分とするモノマーは、単独重合又は共重合に適しているので好ましい。アクリル酸は、無水アクリル酸又はアクリル酸60質量%以上を含有するアクリル酸水溶液として用いることができる。このアクリル酸水溶液は、一部ないし全部を中和したアクリル酸アルカリ金属塩の水溶液、例えば、アクリル酸ナトリウム水溶液、アクリル酸カリウム水溶液等であってもよい。
【0030】
モノマーには、α−不飽和カルボン酸又はその塩と共重合可能な親水性モノマー、例えば、マレイン酸、アクリルアミド、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が含有されていてもよい。モノマーにおける親水性モノマーの含有量は、重合反応速度を高めるとともに、分子量の制御を容易にする観点から、0〜30モル%が好ましい。
【0031】
モノマーを水溶液として供給する場合、モノマー水溶液の温度は、水溶液として取り扱う観点から5℃以上、また反応開始前のモノマーの重合を抑制する観点から30℃以下が好ましい。これらの観点から、モノマー水溶液の温度は、5〜30℃が好ましい。なお、マレイン酸を共重合させる場合、マレイン酸塩を水溶液として用いるときには、そのマレイン酸塩水溶液の温度は、50〜90℃が好ましい。
【0032】
<レドックス開始剤>
レドックス開始剤としては、亜硫酸水素塩と酸素とからなるものが好適に用いられる。
【0033】
亜硫酸水素塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素マグネシウム等が挙げられる。これらの中では、還元作用の強い亜硫酸水素ナトリウムが好ましい。
【0034】
亜硫酸水素塩は反応液に対して亜硫酸水素塩水溶液として供給するが、その濃度は、生産性の観点から、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
【0035】
亜硫酸水素塩の供給量は、使用用途に適した分子量の制御を容易にするとともに、亜硫酸水素塩と、α−不飽和カルボン酸又はその塩との付加反応物質(以下、「付加物」という。)の生成を抑制する観点から、モノマー1モルに対して0.008〜0.1 モルであることが好ましい。
【0036】
また、酸素は反応液に対して酸素含有ガスとして供給するが、一般的に空気が用いられ、純酸素や純酸素を不活性ガスで希釈したガスであってもよい。酸素含有ガスにおける酸素濃度は、亜硫酸水素塩との反応性の観点から、好ましくは10容量%以上、より好ましくは20容量%以上である。反応を安定化させる観点から、酸素含有ガスを定圧かつ定容量で供給することが好ましい。
【0037】
流通式混合器16に導入される気液混合流体における単位時間当たりの反応液流量に対する酸素含有ガス流量の比(酸素含有ガスの標準状態(273K、101.3kPa)の体積を反応液の体積で除した値。以下、「液ガス比」という。)は、反応液に対する酸素含有ガスの溶解度を高め、開始剤効率の高い重合反応を行う観点から、0.1以上、より好ましくは0.5以上であり、混合部における圧力損失を低減させるとともに酸素含有ガスを供給するコンプレッサー等の酸素含有ガス供給源の負荷を低減する観点から、好ましくは50以下、より好ましくは20以下である。これらの観点から、液ガス比は、好ましくは0.1〜50 、より好ましくは0.5〜20 である。
【0038】
<モノマー供給時間>
モノマー供給時間は、反応による発熱制御の観点から、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。また生産性の観点から、50時間以下が好ましく、30時間以下がより好ましい。
【0039】
<熟成時間>
熟成時間には特に制限はなく、反応液の残存モノマーが所定の値以下になるように設定すればよい。例えば1〜10時間である。
【0040】
<外部循環ラインでの反応液循環回数>
外部循環ライン12での反応液循環回数とは、モノマー供給時間中に反応液が外部循環ライン12に循環した回数をいう。具体的には下記により求めることができる。
【0041】
単位時間あたりの循環する反応液流量をQ[L/h]、反応液の全液量(原料供給により経時的に増加するのでモノマー供給時間中の平均値)をV[L]とすると、単位時間あたりの平均循環回数N[回/h]は、
N[回/h]=Q[L/h]/V[L]
となる。
【0042】
また、このNにモノマー供給時間T[h]をかけるとモノマー供給時間中の平均循環回数[回]が求まる。すなわち、
モノマー供給時間中の平均循環回数[回]=N[回/h]×T[h]
である。
【0043】
モノマー供給時間中の平均循環回数は、モノマーとレドックス開始剤との接触を良くする観点から、17回以上が好ましく、18回以上がより好ましい。また循環ポンプ13の負荷を低減する観点から、100回以下が好ましく、80回以下がより好ましい。
【0044】
<反応温度>
反応温度は、重合体の分子鎖の分岐や色相劣化を抑制するとともに、付加物の生成を抑制する観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下であり、得られる反応生成物は重合体水溶液として取扱う観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上である。これらの観点から、反応温度は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜60℃である。
【0045】
<循環ライン戻り部圧力>
重合反応において外部循環ライン12に反応液を循環する際は、循環する反応液への酸素含有ガス中の酸素の溶解性を高める観点から、循環ライン戻り部圧力(ゲージ圧力)を0.05MPa以上に加圧することが好ましく、0.1MPa以上に加圧することがより好ましい。また循環ポンプ13の負荷を低減する観点から、循環ライン戻り部圧力を1MPa以下とすることが好ましく、0.5MPa以下とすることがより好ましい。なお、この循環ライン戻り部圧力の圧力設定はコントロールバルブ18の調節により行うことができる。
【0046】
<原料供給方法>
モノマー及び/又はレドックス開始剤の反応原料は、反応液へ一定の供給速度で供給してもよく、また、半回分式重合では反応後期に反応液が増粘してガス中の酸素の反応液への溶解速度が低下し、反応液中のモノマー濃度が増加する場合があるため、途中で供給速度を変更してもよい。反応原料の供給速度を途中で変更する場合は、反応初期から段階的に供給速度を低下する方法が好ましい。
【0047】
<重合体>
品質を向上させる観点から、重合反応工程での重合率が98%以上となるまで反応を継続することが好ましく、重合率をより一層高める観点から、未反応モノマーの低減を行う熟成操作を行うことがより好ましい。
【0048】
なお、重合体中の未反応モノマーの含有量は、品質及び収率を高める観点から、重合体固形分に対して、好ましくは1.5 質量%以下、より好ましくは1.0 質量%以下である。
【0049】
付加物の含有量は、品質及び収率を高める観点から、重合体固形分に対して、好ましくは4.0質量%以下である。
【0050】
重合体の重量平均分子量(Mw)は、分散性及び吸着性を高める観点から、通常、1000〜100000であることが好ましく、重合体を洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等に用いる場合には、その重量平均分子量(Mw)は2000〜30000 であることが好ましい。また、分子量分布の指標となる重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn、以下、「分散指数」という。)は、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。
【実施例】
【0051】
実施例及び比較例で得られた重合体に関する物性は以下の方法で測定した。
【0052】
(1)未反応モノマー量及び付加物量の測定と重合率の算出
未反応モノマー量及び付加物量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)による測定を行うとともに、既知濃度の未反応モノマー量及び付加物量の検量線により、それぞれ重合体水溶液中の濃度を算出した。
【0053】
また、重合率は、反応前後における未反応モノマー量及び付加物に転化したモノマー量から下式に基づいて算出した。
【0054】
【数1】

【0055】
なお、標準となる付加物(3-スルホプロピオン酸二ナトリウム) に関しては、Schenck, R.T.E. and Danishefski, I., J. Org. Chem., 16, 1683 (1951)と同様にして合成し、前記HPLCにより未反応モノマー量を、またH−NMR(プロトン核磁気共鳴法)により重合体の量を測定し、標準となる付加物の純度を求めた。
【0056】
以下にHPLCの測定条件を示す。
・カラム:東ソー(株)製、商品名:TSK-GEL ODS-80TS
・移動相:0.02mol/Lリン二水素カリウムにリン酸を加えてpHを2.5に調整した水溶液
・検出器:紫外線検出器(波長:210nm)
・カラム温度:30℃
・流速:1.0mL/min
・試料:固形分0.8gを含む重合体水溶液にイオン交換水を添加し、総液量が200mLとなるように調製し、この調製液から10μLを分取してカラムに注入する。
【0057】
(2)分子量の測定と分散指数の算出
分子量はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定を行い、換算標準物質により重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めた。また、分散指数は重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)から下式に基づいて算出した。
【0058】
【数2】

【0059】
以下に、GPCの測定条件を示す。
・カラム:東ソー(株)製、商品名:TSK-GEL guard PWXL
東ソー(株)製、商品名:TSK-GEL G4000 PWXL
東ソー(株)製、商品名:TSK-GEL G2500 PWXL
・移動相:0.1mol/Lリン二水素カリウム及び0.1mol/Lリン酸二水素ナトリウムの水溶液/アセトニトリル=90/10(体積比)
・検出器:示差屈折率検出器
・カラム温度:40℃
・流速:1.0mL/min
・換算標準物質:ポリアクリル酸〔アメリカン・スタンダード・コーポレーション(AMERICAN STANDARD CORP)社製〕
・試料:固形分0.8gを含む重合体水溶液にイオン交換水を添加し、総液量が200mLとなるように調製し、この調製液から10μLを分取してカラムに注入する。
【0060】
<実施例1>
外部循環ラインの付帯した300LのSUS304製の反応槽を備えた図1と同様の構成の反応装置を用いた。外部循環ラインには液の流れ方向に順に、循環ポンプ、静止型混合器(株式会社フジキン社製、商品名:分散君15D型、流路孔の縮流部流路内径3mm、2ユニット)及び熱交換器を付帯した。また反応槽には傾斜パドル撹拌翼が付帯していた。
【0061】
反応槽にイオン交換水106kgを初期仕込みした。反応槽の傾斜パドル撹拌翼の撹拌回転数を135rpmに、また循環する反応液流量Qを400L/hとし、槽内の液温を35℃に調整した。
【0062】
反応槽に濃度98質量%のアクリル酸を6.0kg/hで、また濃度48質量%の苛性ソーダを6.6kg/hでそれぞれ一定速度で供給した。同時に外部循環ラインに35質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を1.45kg/hで、また酸素含有ガスとして空気を2,200N-L/hでそれぞれ一定速度で供給し、モノマー供給時間Tを14hとして重合反応を行った。液ガス比は5.5であった。循環ライン戻り部圧力による気液混合流体への加圧は行わなかった。この間、槽内の液温は35℃に制御した。
【0063】
続いて同じ35℃の温度で2hの熟成反応を行ない重合反応を終了した。反応液の全液量V(モノマー供給時間中の平均値)は167Lであったことから、平均循環回数Nは2.4回/hであり、従って、モノマー供給時間における反応液の平均循環回数は34回であった。
【0064】
重合物を分析した結果、表1に示すように、重合体中の残存モノマーは1,435mg/kg、重合体中の付加物は36,075mg/kg、重合率は99.5%、重合体の重量平均分子量(Mw)は13,300、及び重合体の分散指数(Mw/Mn)は3.7であった。
【0065】
<実施例2>
実施例1と同一の反応装置を用い、反応槽にイオン交換水109kgを初期仕込みした。反応槽の傾斜パドル撹拌翼の撹拌回転数を135rpmに、また循環する反応液流量Qを400L/hとし、槽内の液温を35℃に調整した。
【0066】
反応槽に濃度98質量%のアクリル酸を6.1kg/hで、また濃度48質量%の苛性ソーダを6.7kg/hでそれぞれ一定速度で供給した。同時に外部循環ラインに35質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を1.24kg/hで、また酸素含有ガスとして空気を800N-L/hでそれぞれ一定速度で供給し、モノマー供給時間Tを14hとして重合反応を行った。液ガス比は2.0であった。循環ライン戻り部圧力による気液混合流体への加圧は行わなかった。この間、槽内の液温は35℃に制御した。
【0067】
続いて同じ35℃の温度で2hの熟成反応を行ない重合反応を終了した。反応液の全液量V(モノマー供給時間中の平均値)は168Lであったことから、平均循環回数Nは2.4回/hであり、従って、モノマー供給時間における反応液の平均循環回数は34回であった。
【0068】
重合物を分析した結果、表1に示すように、重合体中の残存モノマーは1,386mg/kg、重合体中の付加物は24,475mg/kg、重合率は99.5%、重合体の重量平均分子量(Mw)は12,890、及び重合体の分散指数(Mw/Mn)は3.7であった。
【0069】
<実施例3>
実施例1と同一の反応装置を用い、反応槽にイオン交換水106kgを初期仕込みした。反応槽の傾斜パドル撹拌翼の撹拌回転数を135rpmに、また循環する反応液流量Qを400L/hとし、槽内の液温を35℃に調整した。
【0070】
反応槽に濃度98質量%のアクリル酸を6.0kg/hで、また濃度48質量%の苛性ソーダを6.6kg/hでそれぞれ一定速度で供給した。同時に外部循環ラインに35質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を1.45kg/hで、また酸素含有ガスとして空気を800N-L/hでそれぞれ一定速度で供給し、モノマー供給時間Tを14hとして重合反応を行った。液ガス比は2.0であった。流量調整により循環ライン戻り部圧力0.2MPa(ゲージ圧)の気液混合流体への加圧を行った。この間、槽内の液温は35℃に制御した。
【0071】
続いて同じ35℃の温度で2hの熟成反応を行ない重合反応を終了した。反応液の全液量(モノマー供給時間中の平均値)Vは167Lであったことから、平均循環回数Nは2.4回/hであり、従って、モノマー供給時間における反応液の平均循環回数は34回であった。
【0072】
重合物を分析した結果、表1に示すように、重合体中の残存モノマーは962mg/kg、重合体中の付加物は30,427mg/kg、重合率は99.6%、重合体の重量平均分子量(Mw)は10,710、及び重合体の分散指数(Mw/Mn)は3.4であった。
【0073】
<実施例4>
実施例1と同一の反応装置を用い、反応槽にイオン交換水97kgを初期仕込みした。反応槽の傾斜パドル撹拌翼の撹拌回転数を135rpmに、また循環する反応液流量Qを400L/hとし、槽内の液温を35℃に調整した。
【0074】
反応槽に濃度98質量%のアクリル酸を11.9kg/hで、また濃度48質量%の苛性ソーダを13.1kg/hでそれぞれ供給を開始した。同時に外部循環ラインに35質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を2.89kg/hで、また酸素含有ガスとして空気を2200N-L/hでそれぞれ供給を開始した。1.4h後に、表2に示す条件に原料の供給速度を減量し、以後表2に示すように段階的に原料の供給速度を減量し、モノマー供給時間Tを8hとした重合反応を行った。モノマー供給時間T平均の液ガス比は5.5であった。循環ライン戻り部圧力による気液混合流体への加圧は行わなかった。この間、槽内の液温は35℃に制御した。
【0075】
続いて同じ35℃の温度で4hの熟成反応を行ない重合反応を終了した。反応液の全液量V(モノマー供給時間中の平均値)は159Lであったことから、平均循環回数Nは2.5回/hであり、従って、モノマー供給時間における反応液の平均循環回数は20回であった。
【0076】
重合物を分析した結果、表1に示すように、重合体中の残存モノマーは985mg/kg、重合体中の付加物は38,008mg/kg、重合率は99.6%、重合体の重量平均分子量(Mw)は14,323、及び重合体の分散指数(Mw/Mn)は3.9であった。
【0077】
<比較例1>
実施例1と同一の反応装置を用い、反応槽にイオン交換水55kgを初期仕込みした。反応槽の傾斜パドル撹拌翼の撹拌回転数を135rpmに、また循環する反応液流量Qを550L/hとし、槽内の液温を35℃に調整した。
【0078】
反応槽に濃度98質量%のアクリル酸を18.5kg/hで、また濃度48質量%の苛性ソーダを20.3kg/hでそれぞれ一定速度で供給した。同時に外部循環ラインに35質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を4.49kg/hで、また酸素含有ガスとして空気を1200N-L/hでそれぞれ一定速度で供給し、モノマー供給時間Tを3hとして重合反応を行った。液ガス比は2.2であった。循環ライン戻り部圧力による気液混合流体への加圧は行わなかった。この間、槽内の液温は35℃に制御した。
【0079】
続いて同じ35℃の温度で0.5hの熟成反応を行ない重合反応を終了した。反応液の全液量V(モノマー供給時間中の平均値)は105Lであったことから、平均循環回数Nは5.2回/hであり、従って、モノマー供給時間における反応液の平均循環回数は16回であった。
【0080】
重合物を分析した結果、表1に示すように、重合体中の残存モノマーは7,980mg/kg、重合体中の付加物は43,828mg/kg、重合率は97.3%、重合体の重量平均分子量(Mw)は41,190、及び重合体の分散指数(Mw/Mn)は9.7であった。
【0081】
<比較例2>
実施例1と同一の反応装置を用い、反応槽にイオン交換水88kgを初期仕込みした。反応槽の傾斜パドル撹拌翼の撹拌回転数を135rpmに、また循環する反応液流量Qを250L/hとし、槽内の液温を35℃に調整した。
【0082】
反応槽に濃度98質量%のアクリル酸を8.9kg/hで、また濃度48質量%の苛性ソーダを9.8kg/hでそれぞれ一定速度で供給した。同時に外部循環ラインに35質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を2.15kg/hで、また酸素含有ガスとして空気を1320N-L/hでそれぞれ一定速度で供給し、モノマー供給時間Tを9hとして重合反応を行った。液ガス比は5.3であった。循環ライン戻り部圧力による気液混合流体への加圧は行わなかった。この間、槽内の液温は35℃に制御した。
【0083】
続いて同じ35℃の温度で1hの熟成反応を行ない重合反応を終了した。反応液の全液量V(モノマー供給時間中の平均値)は164Lであったことから、平均循環回数Nは1.5回/hであり、従って、モノマー供給時間における反応液の平均循環回数は14回であった。
【0084】
重合物を分析した結果、表1に示すように、重合体中の残存モノマーは2,913mg/kg、重合体中の付加物は41,675mg/kg、重合率は99.0%、重合体の重量平均分子量(Mw)は40,650、及び重合体の分散指数(Mw/Mn)は6.8であった。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、洗剤用ビルダー、分散剤、スケール防止剤等として好適に使用しうる重合体の半回分操作での製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施形態に係る反応装置を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
10 反応装置
11 反応槽
12 外部循環ライン
13 循環ポンプ
14 亜硫酸水素塩供給管
15 酸素含有ガス供給管
16 流通式混合器
17 熱交換器
18 コントロールバルブ
19 モノマー供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽と、該反応槽に両端が接続された外部循環ラインと、α−不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含むモノマーを供給するモノマー供給手段と、レドックス開始剤を供給する重合開始剤供給手段と、を備えた反応装置を用い、上記反応槽内の反応液を上記外部循環ラインに循環させながら、該反応液に対して、上記モノマー供給手段からモノマーを連続供給すると共に、上記重合開始剤供給手段からレドックス開始剤を連続供給することにより、モノマーをレドックス重合させて半回分操作によりカルボン酸系重合体を製造する方法であって、
上記反応液を、モノマー供給時間中に上記外部循環ラインに17回以上循環させるカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項2】
レドックス開始剤が亜硫酸水素塩と酸素とからなる請求項1に記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項3】
上記外部循環ラインには流通式混合器が介設されている請求項1又は2に記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項4】
上記重合開始剤供給手段は、各々、上記外部循環ラインにおける上記流通式混合器よりも上流側の部分に接続された、反応液に対して亜硫酸水素塩水溶液を供給する亜硫酸水素塩供給管及び反応液に対して酸素を含有するガスを供給する酸素含有ガス供給管で構成されている請求項3に記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項5】
上記流通式混合器に導入される気液混合流体における単位時間当たりの反応液流量に対する酸素含有ガス流量の比である液ガス比を0.1〜50とする請求項4に記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項6】
上記外部循環ラインにおける上記流通式混合器よりも下流側の部分を流通する反応液をゲージ圧力で0.05MPa以上に加圧する請求項3乃至5のいずれかに記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項7】
モノマー供給時間を0.5〜50時間とする請求項1乃至6のいずれかに記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項8】
上記モノマー供給手段から反応液に対するモノマー供給速度及び/又は上記重合開始剤供給手段から反応液へのレドックス開始剤供給速度を途中で変更する請求項1乃至7のいずれかに記載されたカルボン酸系重合体の製造方法。
【請求項9】
反応液を貯めるための反応槽と、
上記反応槽に両端が接続された外部循環ラインと、
上記外部循環ラインに介設され上記反応槽内の反応液を該外部循環ラインに循環させるための送液手段と、
反応液に対してα−不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含むモノマーを供給するためのモノマー供給手段と、
反応液に対してレドックス開始剤を供給するための重合開始剤供給手段と、
を備え、モノマーをレドックス重合させて半回分操作によりカルボン酸系重合体を製造するように構成された反応装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−150327(P2010−150327A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327832(P2008−327832)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】