説明

カンチレバー型センサ

【解決課題】 計測対象物に関する物理量を簡易に計測することができるようにする。
【解決手段】 カンチレバー型センサは、台座12に連続するように形成されたカンチレバー10を備え、カンチレバー10の台座12との境界部分を含む所定領域には、歪み抵抗素子16が埋め込まれ、抵抗値の変化からカンチレバー10の振動状態を検出する。歪み抵抗素子16の電極には、歪み抵抗素子16の抵抗値の変化を検出するための検出回路18が接続されており、歪み抵抗素子16の抵抗変化を電圧変化として検出し、検出した信号をパーソナルコンピュータ26へ出力する。また、パーソナルコンピュータ26は加振回路20に接続されており、インパルス加振制御信号を加振回路20へ出力し、加振回路20からアクチュエータ14へ発振信号を出力し、アクチュエータ14によってカンチレバー12をインパルス加振させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応及び蛋白質等を高感度で測定することができるカンチレバー型センサに係り、特に、片持ち張り(カンチレバー)を用いて液体中に溶解している物質や大気中に浮遊している物質を高感度で測定することができるカンチレバー型センサに関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力電子顕微鏡で用いられているカンチレバーは、共振点を持ち、外部から受ける力により共振点がシフトすることを利用して微小な力であるpN(ピコニュートン)単位の力を計測できるセンサとして利用されている。
【0003】
カンチレバーをバイオセンサとして利用した論文としては、ラング等が発表したセンサ(非特許文献1)が知られている。
【0004】
このセンサは、光てこを利用して小さなカンチレバーの共振周波数の変化を検出し、物理量、化学量、温度、または応力等を検出するセンサである。このセンサには、レンズを利用して半導体レーザから照射されたレーザ光をカンチレバーの背面に集光し、カンチレバーで反射されたレーザ光をホトダイオード等で構成された位置検出器に入射させる光学系が必要になる。従って、このバイオセンサでは、空気中で光学系の光軸調整を行なった後空気中と屈折率が異なる液中等に浸漬して使用する場合等には、光路長が変化することから再度光軸調整をする必要があり、簡易に使用することができない。
【0005】
また、自己検出型カンチレバーを利用したセンサが提案されており、このセンサでは、常に共振させてその周波数を検出し、共振周波数に基づいて、カンチレバーに付着した物質の重量変化を計測している。
【非特許文献1】”人工ノーズ”(アナリティカ ケミカ アクタ Analytica Chamica Acta 第393巻(1999年)59頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の自己検出型カンチレバーを利用したセンサでは、計測対象物の粘性の変化などが一定であるとしてカンチレバーに付着した物質の重量変化のみを計測しており、液中などの場合には、計測対象物の粘性の変化などによって共振周波数が変化するため、共振周波数を検出するのみでは、正確な重量変化や他の要素の変化を計測することができない、という問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、計測対象物に関する物理量を簡易に計測することができるカンチレバー型センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明に係るカンチレバー型センサは、カンチレバーと、前記カンチレバーを振動させるアクチュエータと、前記カンチレバーの振動状態を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、前記アクチュエータを制御して、前記カンチレバーをパルス加振させる制御手段と、前記センサで検出されたパルス応答の変化に基づいて、計測対象物に関する物理量を計測する計測手段とを含んで構成されている。
【0009】
本発明に係るカンチレバー型センサによれば、制御手段によって、アクチュエータを制御してカンチレバーをパルス加振させ、計測手段によって、センサで検出されたパルス応答の変化に基づいて、計測対象物に関する物理量を計測する。
【0010】
従って、カンチレバーをパルス加振させて、カンチレバーに設けられたセンサによってパルス応答の変化を検出することにより、計測対象物に関する物理量を簡易に計測することができる。
【0011】
また、本発明にかかる制御手段は、カンチレバーをインパルス加振させることができる。さらに、制御手段は、カンチレバーを複数回インパルス加振させ、計測手段は、センサで検出された各インパルス応答の変化に基づいて、計測対象物に関する物理量を計測するようにすることができる。これにより、カンチレバーを複数回インパルス加振させて、カンチレバーに設けられたセンサによって各インパルス応答の変化を検出することにより、計測対象物に関する物理量を簡易に計測することができる。
【0012】
また、本発明に係るセンサで検出されるパルス応答は、パルス応答における振動の周波数、パルス加振してからパルス応答によってカンチレバーが振動するまでの遅延時間、パルス応答における振動の最大振幅、パルス応答における振動振幅の変化あるいは減衰係数、及びパルス応答における総伝達エネルギーの少なくとも一つとすることができる。
【0013】
また、カンチレバーを計測対象物を含む液中に浸漬したり、計測対象物を含む大気中に配置したりすることができる。
【0014】
また、本発明に係るカンチレバーを、1層以上の薄膜で被覆することができる。1層以上の薄膜を被覆することにより、液中等でカンチレバー型センサを使用する場合の電流のリークを防止することができる。
【0015】
本発明に係るアクチュエータを、圧電素子、静電容量素子、または電磁誘導素子で構成することができる。
【0016】
また、本発明に係るカンチレバーに設けられたセンサを、カンチレバーの振動に応じて抵抗が変化する歪み抵抗素子、カンチレバーの振動に応じて静電容量が変換する静電容量素子、カンチレバーの振動に応じて電圧を発生する圧電素子、又はカンチレバーの振動に応じて電圧を発生する電磁誘導素子を含んで構成したものとすることができる。これにより、カンチレバー型センサを使用する際に再度調整する必要がなく、簡便に使用することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明のカンチレバー型センサによれば、カンチレバーをパルス加振させて、カンチレバーに設けられたセンサによってパルス応答の変化を検出することにより、計測対象物に関する物理量を簡易に計測することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバー型センサは、台座12に連続するように形成された薄板状のカンチレバー10を備えている。カンチレバー10の形状は、基端部を2つに分割しかつ先端部を連結してV字型に形成した形状でもよく、1枚の三角形状や細長状に形成してもよい。
【0019】
台座12には、台座12を加振することによりカンチレバー10を振動させる圧電素子で構成されたアクチュエータ14が取り付けられている。アクチュエータ14は、台座12に接着又は機械的に接合させて台座12と一体化するように取り付けられている。また、アクチュエータ14を取り付ける位置は、カンチレバー10をカンチレバー10の厚み方向に振動させることができる位置であればよく、図示したように台座12のカンチレバーが形成されていない側、又はカンチレバーが形成されている側に取り付けられる。
【0020】
また、カンチレバー10の台座12との境界部分を含む所定領域には、自己検知型のセンサである歪み抵抗素子16が埋め込まれている。アクチュエータ14によりカンチレバー10を厚み方向に振動させることにより、カンチレバー10の台座12との境界部分に引張り及び圧縮応力が生じ、歪み抵抗素子16の抵抗値が変化するため、この抵抗値の変化からカンチレバー10の振動状態を検出することができる。
【0021】
カンチレバー10は、シリコン等の半導体基板を台座12に相当する部分を残存させて薄板状にエッチングすることにより、台座12と一体的に形成することができる。また、歪み抵抗素子16は、カンチレバー10の台座12との境界部分に半導体技術で一対の電極が形成されており、ボロン等の不純物原子を電極間にイオン打ち込みすることにより歪み抵抗が形成されて作成されている。歪み抵抗の抵抗値は、2kΩ以下が望ましい。なお、カンチレバー10と台座12とは、シリコン基板で形成することが好ましいが、イオン打ち込みすることなく、電極を形成して歪み抵抗素子16を貼着するようにしてもよい。
【0022】
歪み抵抗素子16の電極には、歪み抵抗素子16の抵抗値の変化を検出するための検出回路18が接続されている。検出回路18は、歪み抵抗素子16の電極が接続されたホイーストンブリッジを構成するブリッジ回路、及びブリッジ回路に電圧を印加する電源とを備えており、歪み抵抗素子16の抵抗変化を電圧変化として検出し、検出した信号を出力する。また、この検出回路18は、データ処理及び表示を行うパーソナルコンピュータ26が接続されている。
【0023】
パーソナルコンピュータ26は、一般的なパーソナルコンピュータの構成であり、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、ディスプレイ等を備えており、検出回路18から入力されたデータをハードディスクに保存したり、保存したデータに基づいて所定のデータ処理を行う。また、パーソナルコンピュータ26は後述する加振回路20に接続されており、加振回路20が発振信号を出力するように制御する。
【0024】
加振回路20は、アクチュエータ14に接続されており、アクチュエータ14へ発振信号を出力することにより、アクチュエータ14を振動させる。
【0025】
次に、本実施の形態の計測対象物に関する物理量を計測するための原理について説明する。カンチレバー10をインパルス加振して、図2に示すような入力波形がカンチレバー10に与えられると、インパルス応答における振動により出力波形が得られる。この出力波形では、インパルス加振してからカンチレバー10がインパルス応答による振動を開始するまでに遅延時間が発生している。また、インパルス応答における最初の振動が最大振幅となり、時間が経つにつれて、徐々に振幅が小さくなっていき、この振幅が小さくなっていく様子は減衰係数で表すことができる。この振動は所定の周波数を有し、また、インパルス応答における振動により、アクチュエータ14からの総伝達エネルギーが求められ、総伝達エネルギーからエネルギー散逸が求められる。
【0026】
また、測定対象物が物理的又は化学的に変化すると、インパルス応答における振動による出力波形において、上記の遅延時間、最大振幅、減衰係数、周波数、及び総伝達エネルギーの少なくとも一つが変化する。この測定対象物の物理的又は化学的な変化が、時間と共に進行している場合に、任意の時間間隔(図3では、t1〜t9のタイミング)でカンチレバー10をインパルス加振すると、図3に示すように、減衰係数や周波数、最大振幅が変化していく。例えば、t3〜t5の間に、計測対象物に変化があったことが分かる。
【0027】
計測対象物の物理量としては、例えば、測定対象物の粘性、カンチレバー10に付着した物質の重量、カンチレバー10とカンチレバー10に付着した物質とを一つのカンチレバーとして見たときのばね定数を挙げることができる。減衰係数の変化から測定対象物の粘性の変化を計測でき、最大振幅の変化から測定対象物の粘性の変化を計測でき、また、最大振幅の変化から上述したばね定数の変化を計測することができる。また、周波数の変化より、カンチレバー10に付着した物質の重量の変化や測定対象物の粘性の変化、上述したばね定数の変化を計測することができる。そして、これらの物理量の変化を積算すると、計測対象物に関する物理量を計測することができる。
【0028】
なお、本実施の形態では、カンチレバー10への付着物の分子数等が多くなり、付着物の重量が大きくなると周波数が徐々に小さくなる。また、粘性が大きくなると、減衰係数が大きくなると共に、最大振幅は小さくなる。
【0029】
以下、本実施の形態のカンチレバー型センサを用いた計測方法について説明する。パーソナルコンピュータ26では、図4に示す計測処理ルーチンを実行し、ステップ100において、計測回数を示す値nを初期値の1に設定し、ステップ102で、アクチュエータ14をインパルス加振させるためのインパルス加振制御信号を加振回路20へ出力し、加振回路20からインパルス加振させるための加振信号をアクチュエータ14に入力させる。これによって、台座12がインパルス加振され、カンチレバー10がカンチレバー10の厚み方向にインパルス加振される。容器24中の反応溶液にカンチレバー10を浸漬すると、時間の経過に応じて、カンチレバー10に反応溶液が付着すると共に反応溶液の粘性の影響によってカンチレバー10のインパルス応答が変化する。このときのカンチレバー10と台座12との動きが一体ではないので、歪み抵抗素子16に引張り及び圧縮応力が発生し、歪み抵抗素子16の抵抗が変化するため歪み抵抗素子16に一定電圧を印加していると電流がカンチレバー10の振動に応じて変化する。この電流変化を検出回路18のブリッジ回路で電圧変化として検出することにより、インパルス応答におけるカンチレバー10の振動の変化を検出することができる。
【0030】
そして、ステップ104において、検出回路18で検出された電圧変化を示す信号を一定期間取り込み、ステップ106で、検出回路18から取り込んだ信号をデジタルデータに変換し、ステップ108において、変換されたデジタルデータをハードディスクに保存する。
【0031】
そして、ステップ110で、計測処理で計測する回数を示す数値Nよりnが小さいか否かを判定し、Nよりnの方が小さい場合には、ステップ112において、nの値をインクリメントし、ステップ114において、ステップ102でインパルス加振制御信号を出力してから所定時間経過したか否かを判定し、所定時間経過した場合には、ステップ114からステップ102へ戻る。
【0032】
上記のステップ102からステップ108までの処理をN回繰り返すと、ステップ110の判定が否定され、計測処理ルーチンを終了する。
【0033】
また、ステップ102からステップ108の間に、ハードディスクに保存したデジタルデータに基づいて、図2に示すような波形を生成して保存し、波形をディスプレイに表示する。また、保存した波形から、遅延時間、最大振幅、周波数、減衰係数、及び伝達エネルギーの少なくとも一つを算出し、算出された値をハードディスクに保存する。そして、保存された遅延時間、最大振幅、周波数、減衰係数、及び伝達エネルギーの少なくとも一つの値に基づいて、この値の時間変化を検出し、値の時間変化より、計測対象物に関する物理量の変化を計測する。また、計測された物理量の変化を所定時間にわたって積算することにより、計測対象物に関する物理量を算出する。なお、遅延時間、最大振幅、周波数、減衰係数、及び伝達エネルギーのうちの2以上の値を組み合わせて、計測対象物に関する物理量の変化を計測してもよい。
【0034】
このように計測された計測対象物に関する物理量の変化や算出された物理量をディスプレイに表示する。なお、パーソナルコンピュータ26は、ノイズ除去や反応速度等を処理、演算するようにしてもよい。
【0035】
本実施の形態のカンチレバー型センサを抗原抗体反応の検出に利用するには、最初に抗体をカンチレバー10の表面に付着してカンチレバー10を反応溶液に浸漬し、その後抗原を持つ測定試料を反応容器24の反応溶液中に投入する。あるいは、カンチレバー10を溶液中に浸漬し、安定した状態で抗体を投入し、反応が安定した後、さらに抗原を投入する。これにより、アレルギー等の要因を持つ体質か否かが明らかになる。また、抗体、抗原を投入する順序を変更すると、人間の体内にアレルギー物質が生成されているのが分かる。
【0036】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバー型センサによれば、カンチレバーを複数回インパルス加振させて、カンチレバーに設けられた歪み抵抗素子によって各インパルス応答における遅延時間、最大振幅、周波数、減衰係数、及び伝達エネルギーの少なくとも一つを検出し、遅延時間、最大振幅、周波数、減衰係数、及び伝達エネルギーの少なくとも一つの変化を検出することにより、計測対象物に関する物理量を簡易に計測することができる。
【0037】
また、センサとして歪み抵抗素子をカンチレバーに埋め込むことより、光てこ方式を使用しないため、溶液中などでカンチレバー型センサを使用する際に再度光軸調整する必要がなく、簡便に使用することができる。
【0038】
また、検出回路で検出された電圧変化を示す信号をデジタルデータに変換し、このデジタルデータに基づいて計測対象物に関する物理量を計測することにより、検出できる電圧変化の周波数領域に制限がなく、また、電圧変化が大きくても高精度に電圧変化を検出できるため、高精度かつ広範囲に計測対象物に関する物理量を計測することができる。
【0039】
本実施の形態では、アクチュエータ14を圧電素子で構成した例について説明したが、本実施の形態においては図5に示すように圧電素子の電極部分の各々に絶縁皮膜28を被覆し、電気的に絶縁するようにしてもよい。この場合においても、上記と同様に、アクチュエータ14の一方の絶縁皮膜を台座12に接着または機械的に接合させてアクチュエータ14を台座12とを一体化させる。アクチュエータ14の電極が絶縁皮膜28により被覆されているため、このカンチレバー10を反応溶液に浸漬すると、リーク電流が少なくなり正確に計測することができる。
【0040】
また、上記では、カンチレバーを溶液中に浸漬した場合を例に説明したが、計測対象物が浮遊している大気中にカンチレバーを配置するようにしてもよい。
【0041】
また、図6に示すように、カンチレバー10及び台座12を絶縁皮膜28で被覆するようにしてもよい。この場合には、アクチュエータ14は図5に示したように絶縁皮膜により被覆してもよいし、被覆しないようにしてもよい。これにより、カンチレバー10を反応溶液中に浸漬したときに、カンチレバー10の表面にリーク電流が流れるのを防止し、検出回路18によって正確に電流を計測することができる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、インパルス応答の振動状態の変化を検出するセンサとして第1の実施の形態の歪み抵抗素子に代えて、カンチレバーの振動に応じて静電容量が変化する静電容量素子を使用するものである。本実施の形態では、図7に示すように、カンチレバー10と対向して平行になるように対向電極30が台座12に固定され、対向電極30によりカンチレバー10との間に静電容量素子が構成されている。そして、カンチレバー10及び対向電極30は、上記と同様に静電容量素子と共にホイーストンブリッジを構成するブリッジ回路を備えた検出回路18に接続されている。これにより、カンチレバーが振動すると静電容量素子の静電容量が周期的に変化するため、検出回路のブリッジ回路によってカンチレバーの振動を検出し、振動信号を出力することができる。
【0043】
本実施の形態によれば、検出回路から出力される振動信号からインパルス応答の変化を検出し、このインパルス応答の変化から上記と同様に計測対象物に関する物理量の時間変化等を検出することができる。
【0044】
次に、図8を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第2の実施の形態の対向電極をアクチュエータとして使用するようにしたものである。カンチレバーの振動を検出するセンサとしては、第1の実施の形態と同様の歪み抵抗素子が用いられている。
【0045】
歪み抵抗素子16は、第1の実施の形態と同様に、検出回路18のブリッジ回路に接続されている。また、カンチレバー10の基端側は接地され、静電容量素子を構成する対向電極30は、加振回路20に接続されている。
【0046】
本実施の形態によれば、パーソナルコンピュータ26から加振制御信号が加振回路20に入力され、対向電極30に加振信号が入力されるので、パーソナルコンピュータ26によってカンチレバー10がインパルス加振するように制御される。また、歪み抵抗素子16の電圧変化を検出回路18のブリッジ回路で検出し、検出した信号がパーソナルコンピュータ26に入力され、パーソナルコンピュータ26においてインパルス応答の変化から上記と同様に測定対象物に関する物理量の時間変化等が検出される。
【0047】
次に、図9を参照して本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第3の実施の形態の静電アクチュエータに代えて、電磁誘導型アクチュエータを用いたものである。本実施の形態では、カンチレバー10と対向して略並行になるように電磁誘導コイル32が台座12に固定され、カンチレバー10の表面側には磁性材で構成された磁性薄膜34がコーティングされている。カンチレバーの振動を検出するセンサとしては、第1の実施の形態と同様の歪み抵抗素子が用いられている。
【0048】
本実施の形態によれば、パーソナルコンピュータ26から加振制御信号が加振回路20に入力され、電磁誘導コイル32に加振信号が入力されるので、カンチレバー10がインパルス加振される。また、上記と同様に歪み抵抗素子16からの信号を検出回路18のブリッジ回路で検出し、検出回路18のブリッジ回路で検出された信号は、パーソナルコンピュータ26に入力され、パーソナルコンピュータ26においてインパルス応答の変化から測定対象物に関する物理量の時間変化等が検出される。図9では片面だけにコーティングしたが、両面にコーティングしてもよく、図9と反対の面にコーティングしてもよい。
【0049】
図10は、本発明の第5の実施の形態を示すものであるり、図6に示したカンチレバーの絶縁皮膜に、検出対象の物質を付着させるために、特別な化学反応基を付着させるための金等で構成された薄膜36を被覆したものである。薄膜の種類は、付着させる物質に応じて適宜選択される。これにより、チオール基等を介在して人為的に選択された蛋白質、DNA、抗体、または抗原等の計測対象物に関する物理量の時間変化等を検出することができる。
【0050】
なお、上記の実施の形態では、自己検知素子として、歪み抵抗素子または静電容量素子を用いた例について説明したが、圧電素子、電磁誘導素子、または温度検知素子等を用いるようにしてもよい。また、アクチュエータとしても圧電素子、静電駆動の静電容量素子に代えて、温度駆動のアクチュエータ、または光駆動のアクチュエータ等を用いるようにしてもよい。さらに、カンチレバーを絶縁皮膜で被覆した例について説明したが、自然酸化膜で覆うようにしてもよい。
【0051】
また、上記では、1つのカンチレバーを用いる例について説明したが、台座に複数のカンチレバーを設けて、各カンチレバーにおいて測定対象物に関する物理量を計測するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバー型センサの構成を示す概略図である。
【図2】インパルス加振による入力波形とインパルス応答における振動による出力波形とを示すイメージ図である。
【図3】任意の時間間隔でインパルス加振した場合のインパルス応答の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るパーソナルコンピュータの計測処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るアクチュエータの他の構成例を示す概略図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバーの他の構成例を示す概略図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るカンチレバー型センサの構成を示す概略図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係るカンチレバー型センサの構成を示す概略図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係るカンチレバー型センサの構成を示す概略図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態に係るカンチレバー型センサの構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
10 カンチレバー
12 台座
14 アクチュエータ
16 抵抗素子
18 検出回路
20 加振回路
26 パーソナルコンピュータ
28 絶縁皮膜
30 対向電極
32 電磁誘導コイル
34 磁性薄膜
36 薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバーと、
前記カンチレバーを振動させるアクチュエータと、
前記カンチレバーの振動状態を検出するように前記カンチレバーに設けられたセンサと、
前記アクチュエータを制御して、前記カンチレバーをパルス加振させる制御手段と、
前記センサで検出されたパルス応答の変化に基づいて、計測対象物に関する物理量を計測する計測手段と、
を含むカンチレバー型センサ。
【請求項2】
前記制御手段は、前記カンチレバーをインパルス加振させる請求項1に記載のカンチレバー型センサ。
【請求項3】
前記制御手段は、前記カンチレバーを複数回インパルス加振させ、
前記計測手段は、前記センサで検出された各インパルス応答の変化に基づいて、計測対象物に関する物理量を計測する請求項1又は請求項2に記載のカンチレバー型センサ。
【請求項4】
前記センサで検出されるパルス応答は、前記パルス応答における振動の周波数、パルス加振してから前記パルス応答によって前記カンチレバーが振動するまでの遅延時間、前記パルス応答における振動の最大振幅、前記パルス応答における振動振幅の変化あるいは減衰係数、及び前記パルス応答における総伝達エネルギーの少なくとも一つである請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のカンチレバー型センサ。
【請求項5】
前記カンチレバーを前記計測対象物を含む液中に浸漬するか、又は前記計測対象物を含む大気中に配置した請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のカンチレバー型センサ。
【請求項6】
前記カンチレバーを、1層以上の薄膜で被覆した請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のカンチレバー型センサ。
【請求項7】
前記アクチュエータを、圧電素子、静電容量素子、または電磁誘導素子で構成した請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のカンチレバー型センサ。
【請求項8】
前記カンチレバーに設けられたセンサを、前記カンチレバーの振動に応じて抵抗が変化する歪み抵抗素子、前記カンチレバーの振動に応じて静電容量が変換する静電容量素子、前記カンチレバーの振動に応じて電圧を発生する圧電素子、又は前記カンチレバーの振動に応じて電圧を発生する電磁誘導素子を含んで構成した請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のカンチレバー型センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−284391(P2006−284391A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105324(P2005−105324)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000151520)株式会社東京測器研究所 (29)
【Fターム(参考)】