説明

カーペット用洗浄剤組成物およびそれを用いたカーペットの維持管理方法

【課題】 煩雑なプレコンディショニング作業や電気ポシッシャーによる洗浄作業、およびエクストラクションマシンによる洗浄、すすぎ作業等を行わなくても、汚れを取り除くことができる簡便なカーペット用洗浄剤組成物およびそれを用いたカーペットの維持管理方法の提供。
【解決手段】 (A)平均分子量(Mw)が2,000〜30,000でガラス転移点(Tg)が50〜150℃であるアルカリ可溶性樹脂0.1〜20質量%、(B)コロイダルシリカを固形分として0.01〜10質量%、(C)界面活性剤0.1〜10質量%、および(D)水を含有し、JIS Z−8802:1984「pH測定方法」におけるpHが6〜9であることを特徴とするカーペット用洗浄剤組成物。また、これを用いたカーペットの維持管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に建物内部の床に施工されるカーペットに用いることにより、汚れの除去効果を有し、液状、あるいは粘着状でベタつきがある洗剤分(界面活性剤の残留分)がカーペットに残留することによる汚染(再汚染)を防ぎ、清浄なカーペットの状態を維持できるカーペット用洗浄剤組成物、およびカーペットの維持管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーペットは、その外観や歩行感、保温性、および安全性等において他の床材より優れており、従来より、ホテルやオフィスビル、百貨店、会館、空港、その他、娯楽施設等の建物内部の有用な床材として多用されてきた。また近年、小売店舗やスーパーマーケット、およびショッピングモール等が大型化される中、上記のカーペットの特性が見直され、特に、タイル状のカーペットが広範囲に施工されつつある。上記のような、カーペット施工現場での維持、管理は、ほとんどがその場でカーペットを洗浄する洗浄方法であり、カーペット洗剤とカーペット洗浄機器類、ツールなどを組合わせて、カーペットの材質や汚染状況、および施工現場の歩行量による汚染の傾向等を把握し、より適切な洗浄方法で維持・管理してきた。
【0003】
上記のようなカーペット施工現場での日常清掃は、真空掃除機を用いたチリ、ホコリ、および土砂汚れの除去と、シミとり剤によるシミ抜き作業が主な業務である。 さらには、定期洗浄作業として以下のようなカーペット洗浄を実施している。
その洗浄方法は、主に以下の(1)〜(4)のとおりである。
【0004】
(1)シャンプー式洗浄方法:この方法は、プレコンディショニング作業としてまずカーペット用洗剤の希釈液を70〜90g/mの割合で被洗浄面にスプレーしてからしばらく放置した後、カーペットシャンプーと呼ばれる洗浄剤を200〜300g/mの割合で、フロアポリッシャー洗浄機から被洗浄面に噴出し、同洗浄機に装着したナイロンブラシでよく泡立たせながら洗浄する。その後、エクストラクションマシンというカーペット専用のすすぎ機で、すすぎ水を噴きつけ、同時に洗浄汚水を回収しながら、被洗浄面をすすぐ方法である。
【0005】
この洗浄方法は、カーペットが最も汚染した場合に用いられる。長所としては、洗浄力が優れていることがあげられる。しかし、短所としてカーペットを濡らして行うため、通常、6時間以上の乾燥時間を要し、その間歩行はできない。特にウールカーペットにおいては、裏地が麻で構成されており、カーペットを過剰に濡らしてしまうとそれが原因でカーペットが縮んでしまったり、麻の成分のリグニンという褐色の色素が、乾燥後、カーペットの表面に浮き上がってシミを形成するような不具合も起こり得る。
【0006】
なお、上記洗浄方式に用いられるシャンプー用洗浄剤は、起泡性に優れた陰イオン界面活性剤と、泡安定性に優れた脂肪酸アルカノールアミドやアミンオキサイド等の泡安定剤、さらには洗浄、すすぎ後、少しでもカーペットに残留する界面活性剤の残留分のベタつきによるカーペットの再汚染を防ぐために、アクリル樹脂系のアルカリ塩を配合する洗浄剤も多くみられる。
【0007】
(2)ヤーンパッド(ボンネットバフィング)式洗浄方法:この洗浄方法は、最初に長い繊維の毛足で円形状に構成されたパッド(「ヤーンパッド」という)に用いられるパッド用洗浄剤の希釈液を70〜90g/mの割合でカーペットにプレコンディショニング作業をした後、さらに同洗剤をヤーンパッドに充分に噴きつけ、該パッドを充分湿らせた後、ポリッシャーに装着、回転させて洗浄し、カーペットの汚れをヤーンパッドに吸着させ、そのままカーペットを乾燥して仕上げる方法である。
【0008】
この洗浄方法の長所としては、上述のシャンプー式洗浄方法に比べて、洗浄剤の使用量が少なく、乾燥時間は1〜2時間と短く、カーペットの縮みやシミの発生もなく、より簡便に作業ができる。短所としては、汚れがひどい場合ヤーンパッドへの移行が完全とはいえず、ヤーンパッドに吸着しきれなかった汚れや洗浄剤成分がカーペットに残留して、洗浄後の歩行による再汚染を引き起こすことがある。
上記洗浄方式に用いられるヤーンパッド用洗浄剤は、界面活性剤と再汚染を防ぐために、アクリル樹脂系のアルカリ塩を配合するものが多くみられる。
【0009】
(3)エクストラクション式洗浄方法:この洗浄方法は、まずカーペット用洗剤の希釈液を70〜90g/mの割合でカーペットにプレコンディショニング作業をした後、エクストラクションマシンで洗剤液を300〜500g/mの割合でカーペットに噴きつけながら、ブラッシング洗浄を行うと同時に洗浄汚水を回収し被洗浄面をすすぐ方法である。
【0010】
この洗浄方法の長所は、洗浄力がヤーンパッド式洗浄方法より優れており、洗浄汚水の回収率が高い点があげられる。短所としてはカーペットを濡らして行うため、通常6時間以上の乾燥時間を必要とし、特にウールカーペットを洗浄した際の、変色や縮みの危険性が挙げられる。
なお、上記洗浄方式に用いられるエクストラクション用洗浄剤には、作業時の泡立ちを抑え、所望の洗浄汚水の回収率を得るために、低泡性の非イオン系界面活性剤や消泡剤を配合したものが広く用いられている。またアクリル樹脂系のアルカリ塩を配合するものもある。
【0011】
(4)パウダー式洗浄方法:この洗浄方法は、オガクズ等の微粒子状の繊維チップやウレタン等の合成樹脂チップ、およびボウ硝等の無機系パウダー等に、洗剤分(約40質量%/オガクズチップの場合)を含有させたパウダー洗浄剤(オガクズチップの場合)をカーペットに120〜150g/mの割合で散布して、専用のブラシ付き洗浄機で洗浄し、カーペットの汚れをパウダーに吸着させた後、真空掃除機で回収する洗浄方法である。
【0012】
この洗浄方法の長所は、カーペットがあまり濡れることがないため、洗浄中でも歩行ができ、また洗浄後のカーペットの乾燥が最も早く、かつカーペットを傷めにくい洗浄方式である。短所はひどい汚れに対する洗浄力に乏しく、また、真空掃除機では完全に回収できなかった微粉末がカーペット繊維に残留、堆積してカーペットの美観を損ねたり、残留したパウダーによる粉塵の発生原因になる場合がある。
上記洗浄方式に用いられるパウダー用洗浄剤の洗浄成分としては、微量の界面活性剤や溶剤、弱アルカリ成分、および水などがあげられる。
【0013】
このように、従来から用いられてきたカーペットの洗浄方法(1)〜(4)には、それぞれ一長一短がある。
なかでも(1)シャンプー式洗浄方法及び(3)エクストラクション式洗浄方法においては、特に、洗浄後のカーペットの乾燥時間が長いことや、洗浄剤成分の残留による再汚染の問題があげられる。さらに、ポリッシャーやエクストラクション等の洗浄機を適切に稼動するための作業技術も要求される一方、作業内容が煩雑でかつ重労働な作業であるために、作業者にとってはカーペットを清浄に管理、保守する上で、大きな課題であり、現在、なおこのような状況を打破、解決するようなカーペット洗浄剤や簡便な洗浄方法を得るには至っていない。
【0014】
また、現状のカーペット洗浄剤としては、洗浄剤成分の残留による再汚染を防止する目的で、アクリル系重合体やスチレンアクリル共重合体などのポリマー類を加え、界面活性剤の残留分を乾燥した固形化状態にすることにより、ベタつきを抑え汚染防止することを目的とした特許出願が下記のように開示されている。
【0015】
特公昭57−29519号公報にはアニオン性または非イオン性洗浄剤からなる少なくとも一種の洗浄剤と、(1)スチレン、(2)エチレン性不飽和モノカルボン酸および(3)任意的に粘度調整単量体の共重合体との水性溶液からなる織物処理用組成物をラグまたはカーペットに適用し、刷毛、スポンジまたは同様なもので表面に加工し、処理した織物を次いで乾燥させ、乾燥により実質上連続フィルムをそれぞれの繊維の周りに形成させた織物処理用組成物が開示されている。(特許文献1を参照。)
【0016】
また特表平10−501845号公報には、エチレングリコールn−ヘキシルエーテル約0.5〜約6.0重量%、乾燥すると撥水および撥油性表面を形成する水溶性または水混和性フッ素化炭化水素約0.05〜約2.0重量%、非イオン界面活性剤及びその混和物からなる群から選ばれる界面活性剤約0.25〜約5.0重量%、そして酸価約10〜約450をもつオレフィン/アクリル重合体約0.5〜約7.0重量%からなる水性絨毯洗浄および回復組成物が開示されている。(特許文献2を参照。)
【0017】
さらに特表2003−525950号公報には、(a)メタクリル酸ポリマー成分と、(b)金属イオン封鎖剤と、(c)陰イオン界面活性剤とを含む組成物を基材に対して用いて基材を熱水で抽出し、基材を乾燥させるクリーニングおよび再適用システムが開示されている。(特許文献3を参照。)
【0018】
また特表2003−523479号公報には、約50wt%〜約98wt%の水、約0.05wt%〜約2wt%の少なくとも1種の溶媒、及び0〜約1wt%の少なくとも1種の界面活性剤、及び緩衝のための少なくとも1種のアルカリ化合物を含有するカーペット清浄化組成物で、溶液が乾燥したときカーペット上に粘着性の残留物を残さない新しいポリマー乳化剤を含有するカーペット汚れ除去組成物が開示されている。(特許文献4を参照。)
【0019】
さらにまた、特表平10−509191号公報には、キレート化剤を汚れ懸濁ポリカルボキシレートまたはポリアミンポリマーと組み合わせて含む組成物をカーペットに適用し、前記カーペットを摩擦しおよび/またはブラッシングし、前記組成物を乾燥させた後、前記カーペットから除去するカーペットのクリーニング方法が開示されている。(特許文献5を参照。)
【0020】
さらには、同様の再汚染防止の目的で、コロイダルシリカや微粉末状のフュームドシリカを用い、残留洗剤のベタつきを抑え汚染防止することを目的とした特許出願としては、 特開昭46−2934号公報にA.水溶性有機界面活性剤、B.高級脂肪性脂肪アルコール及び、C.水性媒質中の微細に分割された水不溶性珪酸質物質から成る絨毯及びその類似物を洗う為の洗浄用組成物で、C.の水不溶性珪酸質物質がコロイド状シリカである洗浄用組成物及び方法が開示されている。(特許文献6を参照。)
【0021】
また、特開昭61−162600号公報には界面活性剤とコロイダルシリカ及び(または)シリカ粉末とを混合してなる織物用洗浄剤組成物が開示されており(特許文献7を参照。)、特開2002−285194号公報にはケイ酸塩含有の新水性ミクロ分散性粒子を含有し、前記粒子がコロイド状のシリカゲル、コロイド状のシリカゾル、ヘクトライト、サポナイトまたはこれらの混合物であるケイ酸塩含有洗剤および洗浄剤が開示されている。(特許文献8を参照。)
【特許文献1】特公昭57−29519号公報
【特許文献2】特表平10−501845号公報
【特許文献3】特表2003−525950号公報
【特許文献4】特表2003−523479号公報
【特許文献5】特表平10−509191号公報
【特許文献6】特開昭46−2934号公報
【特許文献7】特開昭61−162600号公報
【特許文献8】特開2002−285194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、これらの特許文献にみられる技術において、例えばアクリル系重合体やスチレンアクリル共重合体などのポリマー類を主体とした組成物では、ポリマーによる皮膜化によって界面活性剤の残留分のベタつきは抑えられて、再汚染防止を抑制できる。一方ポリマーだけでは、皮膜化が過剰となるため、その結果、カーペット繊維に残留していた界面活性剤が皮膜状に固着してしまい、汚れを抱き込んだまま堆積し、真空掃除機では除去しにくくなる。
そして、ポリマーによる皮膜化が弱過ぎると、界面活性剤のベタ付きを抑えきれずに、その後の歩行によるカーペットの再汚染の原因になることがある。
【0023】
また、コロイダルシリカや微粉末状のシリカを主成分とした組成物では、界面活性剤によるベタつきは抑えられるが、シリカだけでは汚れを抱き込んで、皮膜状に乾燥固化することができないために所望の洗浄効果が得られない。
さらに単にアクリル系重合体やスチレンアクリル共重合体などのポリマー類とコロイダルシリカや微粉末状のシリカを組み合わせただけの組成物では貯蔵安定性に乏しい。
【0024】
本発明のカーペット用洗浄剤組成物(以下、本洗浄剤組成物という)は、このような事情に鑑みなされたもので、汚染したカーペットに噴霧し、皮膜状に乾燥固化させた後、ブラシ付きの真空掃除機を用いて、カーペットの汚れを内包し皮膜状に乾燥固化した本洗浄剤組成物(以下、乾燥皮膜という)を、粉砕し、吸引除去する。このため煩雑なプレコンディショニング作業や電気ポシッシャーによる洗浄作業、およびエクストラクションマシンによる洗浄、すすぎ作業等を行わなくても、汚れを取り除くことができる簡便なカーペット用洗浄剤組成物およびそれを用いたカーペットの維持管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の目的を達成するため、本発明は(A)平均分子量(Mw)が2,000〜30,000でガラス転移点(Tg)が50〜150℃であるアルカリ可溶性樹脂0.1〜20質量%、(B)コロイダルシリカを固形分として0.01〜10質量%、(C)界面活性剤0.1〜10質量%、および(D)水を含有し、JIS Z−8802:1984「pH測定方法」におけるpHが6〜9であるカーペット用洗浄剤組成物を第1の要旨とする。
【0026】
また、本発明は表面張力が30dyn/cm以下であるカーペット用洗浄剤組成物を第2の要旨とする。
【0027】
本発明のカーペット用洗浄剤組成物の原液または水で希釈した希釈洗浄液をカーペット表面に噴霧する行程と、カーペット用ブラシを用いてブラッシングし、カーペットの汚れを該原液または希釈洗浄液に内包させる行程と、該原液または希釈洗浄液の乾燥後に、カーペットの毛足の表面で汚れを内包して乾燥固化した組成物をブラシ付きの真空掃除機を用いて吸引除去する行程を含む維持管理方法であることを第3の要旨とする。
【0028】
ブラシを有するカーペット洗浄機により、本発明のカーペット用洗浄剤組成物の原液または水で希釈した希釈洗浄液をカーペット表面に噴霧しながら、ブラッシングしカーペットの汚れを該原液または希釈洗浄液に内包させる行程と、カーペット表面における該原液または希釈洗浄液の乾燥後に、カーペットの毛足の表面で汚れを内包して乾燥固化した組成物をブラシを有するカーペット洗浄機によって吸引除去する行程を含むカーペットの維持管理方法であることを第4の要旨とする。
【0029】
そして、本発明のカーペット用洗浄剤組成物の原液または水で希釈した希釈洗浄液をカーペット表面に噴霧し、ポリッシャーに装着されたマイクロファイバーパッドにより、カーペットの汚れを該原液または希釈洗浄液に内包させる行程と、カーペット表面における該原液または希釈洗浄液の乾燥後に、カーペットの毛足の表面で汚れを内包して乾燥固化した組成物をブラッシング機構を兼ね備えた真空掃除機によって吸引除去する工程を含むカーペットの維持管理方法であることを第5の要旨とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、カーペット繊維に付着、および堆積する汚れに噴霧し、ブラシ付き掃除機で吸引、除去するだけで、煩雑で労力の掛かるエクストラクションマシンによるすすぎ工程を行わなくても優れた洗浄効果と再汚染防止効果を有するとともに、優れた貯蔵安定性や抑泡性等を有する。
【0031】
また、この組成物を用いたカーペットの維持管理方法においては、洗浄剤の噴霧量がおおよそ20〜60g/mと従来と比較して少ない量であるので、通常の雰囲気下であれば20〜30分程度の乾燥時間でカーペットは乾燥し、掃除機を掛けることができるとともに歩行が可能となる。また、作業時間、作業効率が大幅に向上し、作業員の労力や作業コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
上記の目的を達成するため、鋭意検討した結果、本洗浄剤組成物を見出した。すなわち、本発明のカーペット用洗浄剤組成物は、(A)平均分子量(Mw)が2,000〜30,000でガラス転移点(Tg)が50〜150℃であるアルカリ可溶性樹脂0.1〜20質量%、(B)コロイダルシリカを固形分として0.01〜10質量%、(C)界面活性剤0.1〜10質量%、および(D)水を必須成分として含有し、JIS Z−8802:1984「pH測定方法」におけるpHが6〜9であることを特徴とする。
【0033】
洗浄の原理としては、まずカーペット用洗浄剤組成物は、界面活性剤の作用によって、該組成物がカーペット繊維に付着している汚れに湿潤、浸透する。汚れに浸透した組成物が汚れとともに乾燥することで、汚れを包含して乾燥した皮膜を形成する。このとき、平均分子量2,000〜30,000(Mw)のアルカリ可溶性樹脂は皮膜化(乾燥皮膜の形成)を促進する作用を示し、コロイダルシリカは、本洗浄剤組成物が界面活性剤を含有することによる乾燥皮膜のベタつきを抑える。
【0034】
本発明は、上記のアルカリ可溶性樹脂とコロイダルシリカ、および界面活性剤を最適な比率で含有することにより、上記の効果を得るに至った。
【0035】
アクリルモノマーやスチレンモノマーを界面活性剤で乳化重合し、分子量が数十万(Mw)以上であるポリマーエマルジョンの場合は、ポリマー粒子としてそのまま乾燥するために、汚れを包含することができず洗浄力を発揮できないうえ、ポリマー粒子を掃除機で充分に回収できなかった場合には、その残渣分の影響で、カーペットが白っぽく見えてしまい、カーペットの美観を損なうものとなる。
【0036】
本発明に用いられる上記(A)成分のアルカリ可溶性樹脂としては、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体,スチレン−メタクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−メタクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体、アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ジイソブチレン−無水マレイン酸共重合体、ロジン変性マレイン酸、シェラック等があげられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
そして、上記アルカリ可溶性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が50〜150℃、平均分子量(Mw)が2,000〜30,000でなければならない。特に、他成分との組み合わせの容易性や産業上の入手のし易さの点から、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体,スチレン−メタクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−メタクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体を用いることが好適である。
【0038】
なお、上記アルカリ可溶性樹脂のガラス転移温度(Tg)が、50℃未満である場合には、柔らかすぎてカーペットに固着してしまうとともに乾燥被膜の崩壊性に乏しいものとなる。一方、150℃を超えると、アルカリ可溶性樹脂の重合が困難なものとなる。そしてまた、平均分子量(Mw)が、30,000を超えると、アルカリ可溶性に劣り、また粘度が著しく高くなったり、ゲル状になったりして好ましくない。
このため、ガラス転移温度(Tg)および平均分子量(Mw)は、上記の範囲に設定することが必要である。
【0039】
そして、上記(A)成分のアルカリ可溶性樹脂は、本発明のカーペット用洗浄剤組成物中に0.1〜20質量%の範囲で配合される。すなわち、0.1%未満の配合量では、組成物の皮膜化には至らず所望の効果が発揮できない上、界面活性剤のベタつきは抑えられない。
【0040】
一方、上記(A)成分のアルカリ可溶性樹脂は20質量%を超えて配合すると皮膜強度が大き過ぎてカーペット繊維に皮膜が固着してしまい掃除機で回収できなくなってしまう。さらにはコロイダルシリカの安定性を損ねてシリカ(二酸化ケイ素)の分離、沈降の原因となる。そのため上記(A)成分のアルカリ可溶性樹脂は、上記範囲の中でも特に0.2〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.3〜5質量%である。
【0041】
上記アルカリ可溶性樹脂の製造方法については、特に制限はないが、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法を採用することが好ましい。
【0042】
乳化重合法によりアルカリ可溶性樹脂を製造するには、以下に述べるような乳化剤、重合開始剤等を使用して行われる。
【0043】
上記乳化剤としては、ジアルキルコハク酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホ琥珀酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物等のアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン界面活性剤、スチレンスルホン酸ナトリウム、アルキルアリルスルホン酸ナトリウム、アルキルアリルスルホ琥珀酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルグリセリンエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェノールアルキルグリセリンエーテルサルフェート等の反応性乳化剤、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、水溶性アクリル酸エステル共重合体、水溶性メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体およびそれらの塩、ポリアクリルアミド共重合体、ポリメタクリルアミド共重合体等の高分子界面活性剤等が使用でき、これらは単独でまたは2種以上併用して使用することができる。
【0044】
上記乳化剤の望ましい使用量は、通常単量体100質量部当たり0.05〜5質量部である。乳化剤の使用量が0.05質量部未満では乳化性に乏しく、一方5質量部を超えると耐水性に劣ることがある。
【0045】
また、上記重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルヒドロキシペルオキシド等の過酸化物などが使用できる。これらは亜硫酸水素ナトリウム、ピロ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート等の還元剤を併用したレドックス系として使用してもよい。
【0046】
より具体的には、例えば、水性媒体中に上記単量体、乳化剤、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤、キレート化剤、pH調整剤等を添加し、温度30〜100℃で1〜30時間程度重合反応を行うこと等によりアルカリ可溶性樹脂を得ることができる。
また、本発明においては、アルカリ可溶性樹脂およびポリマーエマルジョンは同様のモノマーを原料として合成されたものであるが、平均分子量が2,000〜30,000のものを「アルカリ可溶性樹脂」と定義し、平均分子量30,000を超えるものを「ポリマーエマルジョン」と定義している。なお、上記アルカリ可溶性樹脂の外観は、アルカリで中和した後の溶液において透明であり、また、ポリマーエマルジョンの外観は、重合後、アルカリ中和した後の溶液において半透明〜乳白色である。
【0047】
本発明に用いられる上記(B)成分のコロイダルシリカとしては、3〜500ナノメーター(nm)の微粒子状のシリカ(二酸化ケイ素)を水中に分散したものが好適に用いられる。コロイダルシリカは固形分として、本発明のカーペット用洗浄剤組成物中に0.01〜10質量%の範囲で配合される。すなわち、0.01質量%未満の配合量では、平均分子量2,000〜30,000(Mw)のアルカリ可溶性樹脂の皮膜を脆くすることができず、皮膜がカーペット繊維に固着してしまう原因となる。なかでも好ましい配合量は、皮膜を脆くする効果の維持と、組成物中でのコロイダルシリカの安定性の維持という点から、上記範囲の中でも0.02〜5質量%であり、より好ましくは0.03〜2.5質量%である。
【0048】
本発明に用いられる上記(C)成分の界面活性剤は、洗浄力を付与するために必須の成分で、少なくとも次に挙げるうちの1種類以上のものを配合することができる。(C)成分の界面活性剤としては次のものが考えられる。非イオン界面活性剤では、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ポリグリセリンエステル、脂肪酸ショ糖エステル、脂肪酸アルカノールアミド等があげられる。両性界面活性剤では、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルアミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、アルキルジアミノエチルグリシン、ジアルキルジアミノエチルグリシン、アルキルアミンオキサイド、アルキルエーテルアミンオキサイド、アミドアミンオキサイド等があげられる。
【0049】
また陰イオン界面活性剤では、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼン硫酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、メタキシレンスルホン酸塩、パラキシレンスルホン酸塩、クメンスルフォン酸塩、ドデシルジフェニルオキサイドジスルホン酸塩等があげられる。これらの陰イオン界面活性剤の対イオンは、ナトリウム、マグネシウム、アンモニウム、エタノールアミン等である。
本発明においては、これらの界面活性剤のうち、非イオン界面活性剤や両性界面活性剤は、一般的にカーペットに散布して放置しても、乾燥した状態にはならず高粘性な液状でベタつきがあるため、カーペットに残留した際、再汚染の原因になりやすいので、極力少なくする必要がある。
【0050】
その点、陰イオン界面活性剤は、カーペットに散布した際のベタつきが非イオン界面活性剤や両性界面活性剤より少ないので好ましい。特に、エチレンオキサイドが付加されていないラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸マグネシウム、ドデシルジフェニルオキサイドジスルホン酸ナトリウム、クメンスルホン酸ナトリウムなどは、カーペットに散布した際に、固形物および半固形物の乾燥状態になりベタつきが少なく本発明の界面活性剤としてより好ましい。
なお陽イオン界面活性剤は、本発明のカーペット用洗浄剤組成物の平均分子量(Mw)が2,000〜30,000でガラス転移点(Tg)が50〜150℃であるアルカリ可溶性樹脂と錯体を形成して分離しやすいため配合できない。
【0051】
さらに、本発明のカーペット用洗浄剤組成物は、カーペットに噴霧された後、ブラシ付の真空掃除機で吸引されるので、洗剤は短時間のうちにカーペット汚れに均一に浸透しなければ、洗浄ムラの発生の原因になる。
【0052】
そこで、カーペットへの濡れ性(レベリング性)および浸透性を補足して、より効率的な噴霧が可能になるよう、少なくとも一種類以上のフッ素系界面活性剤を含有することが好ましく、該組成物の表面張力を30dyn/cm以下に設定することが効果的である。
【0053】
具体的なフッ素系界面活性剤としては、電解フッ素化法から合成されるパーフルオロスルホン酸系(PFOS系)活性剤、テロメリゼーション法から合成されるパーフルオロカルボン酸系(PFOA系)活性剤、およびオリゴメリゼーション法から合成されるフッ化エチレンの多量体活性剤などがあげられる。
【0054】
この(C)成分の界面活性剤の配合量は、本発明のカーペット用洗浄剤組成物全体に対して0.1〜10質量%の範囲で配合される。
すなわち、0.1質量%未満の配合量では、洗浄力や被洗浄面へのレベリング性に乏しく、また10質量%を超えて配合しても洗浄力等の向上は飽和状態になり、かつアルカリ可溶性樹脂とコロイダルシリカの機能をもってしても、ベタつきは抑えられなくなる。さらには、洗浄作業性を損ねる余分な泡立ちの原因にもなる。適切な配合量は、洗浄力とカーペットへの濡れ性(レベリング性)および浸透性およびベタつきと、過剰な泡立ちの防止という点から上記範囲の中でも0.2〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.3〜2.5質量%である。
【0055】
また本発明は、(D)水を配合することができる。この(D)成分の水としては、純水、イオン交換水、軟水、蒸留水、水道水等があげられる。これらは、各々単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、上記「水」は、本発明のカーペット用洗浄剤組成物を構成する各成分に由来する結晶水や水溶液の形で含まれる水と、外から加えられる水との総和であり本組成物全体が100%となるようバランスとして配合される。
【0056】
本発明のカーペット用洗浄剤組成物は、pHに着目し、組成物の安定性を維持することや、作業上および環境への安全性や被洗浄物の素材に悪影響を及ぼさないことなどを考慮して以下の物質をpH調整剤として適量添加し、pHが6〜9、好ましくは7〜8とすることで貯蔵安定性が向上することを見いだした。pH調整に用いられるアルカリ性を呈する物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン、アンモニア等が用いられる。
【0057】
よって、本組成物のpH(JIS Z−8802:1984「pH測定方法」による)は、25℃で、6〜9に設定されていることを特徴とする。
【0058】
さらに本組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、任意に香料、染料、増粘剤、殺菌剤、防腐剤等を配合することができる。
なお、本発明のカーペット用洗浄剤組成物は、カーペット表面の汚れの度合いに応じて、原液ないしは、水またはぬるま湯で10〜20倍に希釈して使用することができる。また、水で希釈した希釈洗浄液は20〜60g/m、好ましくは20〜40g/mの割合でカーペットに噴霧される。
【0059】
これらの必須成分、および任意成分を用いて得られる本発明のカーペット用洗浄剤組成物は、被洗浄物の素材を傷めることなく、カーペット繊維に付着、および堆積する汚れに噴霧し、ブラッシング等を行い、カーペットの汚れを洗浄液に内包させ、さらにカーペット洗浄面を乾燥させた後、皮膜化し汚れを内包した該組成物をブラシ付きの真空掃除機等で吸引、除去するだけで洗浄作業が行えるため、従来より簡便に汚れを取り除くことができ、洗浄後のカーペットを清浄に仕上げることができる。
【0060】
また、本発明のカーペット用洗浄剤組成物を用いてカーペット表面を洗浄する方法としては、原則として上記のように、組成物をカーペット表面に噴霧し、ブラッシングを行い、カーペット洗浄面を乾燥させた後、皮膜化し汚れを内包した該組成物をブラシ付き真空掃除機で吸引、除去する作業工程があげられるが、その方法としては、例えば、
(1)広大な作業面積を洗浄するような際には、洗浄液の噴霧機構とブラッシング機構を兼ね備えた、作業効率に優れた大型の自走式カーペット洗浄機を用い、噴霧とブラッシングして、カーペットの汚れを洗浄液に内包させる工程を自動的に行い、カーペットを乾燥させた後、ブラッシング機構を兼ね備えた大型の自走式掃除機等を用いて吸引除去する工程を含む洗浄方法、
(2)中区画のカーペットを洗浄する場合には、洗浄液を電動噴霧器等で噴霧し、ポリッシャーに装着されたマイクロファイバーパッドにより、カーペットの汚れを洗浄液に内包させる工程を行い、カーペットを乾燥させた後、ブラッシング機構を兼ね備えた真空掃除機を用いて吸引除去する工程を含む洗浄方法、
(3)小区画のカーペットを洗浄する場合には、洗浄液を電動噴霧器等で噴霧して、柄つきブラシで、ブラッシングして、カーペットの汚れを洗浄液に内包させる工程を行い、カーペットを乾燥させた後、ブラッシング機構を兼ね備えた真空掃除機を用いて吸引除去する工程を含む洗浄方法、
等があげられる。
なお、上記洗浄液は、本発明のカーペット用洗浄剤組成物の原液または水等によって10〜20倍に希釈された希釈洗浄液が用いられる。また、上記方法(2)において、洗浄液を電動噴霧器等で噴霧し、ポリッシャーに装着されたマイクロファイバーパッドにより、カーペットの汚れを洗浄液に内包させる工程が、洗剤タンクを備えたポリッシャーを用いて、洗浄液を噴霧しながらブラッシングして、カーペットの汚れを洗浄液に内包させるものであってもよい。さらにまた、上記方法(2)または(3)における、ブラッシング機構を兼ね備えた真空掃除機を用いて吸引除去する工程が、柄つきブラシを用いてブラッシングしてから、通常の真空掃除機を用いて吸引除去するものであってもよい。
【0061】
これらの維持管理方法において、本発明のカーペット用洗浄剤組成物の原液または希釈洗浄液は、通常、噴霧量として20〜60g/mの割合で用いられるが、特に、大型の自走式カーペット洗浄機を用いた場合にあっては、噴霧量がおよそ20〜40g/mと少ない割合で用いることができ、通常の雰囲気下であれば20〜30分程度の乾燥時間でカーペットは乾燥し、掃除機を掛けることができるので、限られた維持管理時間において作業効率が大幅に向上し、作業員にとっても簡便な維持管理法なために作業労力が低減できる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明のカーペット用洗浄剤組成物について、実施例と比較例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
〔実施例1〜12、比較例1〜14〕
後記の表1〜表5に示す組成のカーペット用洗浄剤組成物(以下、単に「供試洗浄剤組成物」という)を調製し、貯蔵安定性、再汚染防止性、乾燥皮膜の崩壊性、表面張力、洗浄性1、抑泡性および洗浄性2の7項目について評価した。その結果を後記の表1〜表5に併せて示す。なお、表中の組成は、水酸化ナトリウム水溶液を用いてアクリル系樹脂を中和、溶解するとともに組成物全体のpH調整機能を果たし、pH値を6〜9に設定している。
なお、成分(A)〜(D)の総和は、全体で100質量%となっている。
各項目の試験方法は、以下に示すとおりである。
【0064】
(1)貯蔵安定性
〔試験方法〕
供試洗浄剤組成物200mLを250mLの透明ポリエチレン瓶に入れ、恒温槽(小林理化器械工業社製、形式:KAX−734)により50℃の雰囲気下、冷凍冷蔵庫(ホシザキ社製、形式:HRF−90P)により5℃の雰囲気下のそれぞれ1ケ月間保管した後、その外観を目視により観察し、下記の判定基準で貯蔵安定性を評価した。
〔判定基準〕
◎:1ケ月後、分離や沈殿、白濁等の外観変化は一切みられない。
○:2週間後、分離や沈殿、白濁等の外観変化がわずかにみられた。
△:1週間後、分離や沈殿、白濁等の外観変化がわずかにみられた。
×:1日以内に、分離や沈殿、白濁等の外観変化がみられた。
【0065】
(2)再汚染防止性
〔試験方法〕
供試洗浄剤組成物を固形分として0.2〜0.3g/cmになるように、直径60mmのステンレス製の皿に入れ、そのまま10日間以上、室温下に放置した。放置後、皿に残った洗浄剤組成物の乾燥皮膜の状態を目視により観察して、下記の判定基準で再汚染防止性を評価した。
〔判定基準〕
◎:室温下に10日間以上放置しても湿気等の影響は受けず、乾燥皮膜はドライ状態 でベタ付きは一切みられなかった。
○:室温下に10日間以上放置したら、湿気等の影響を少し受けて、乾燥皮膜は僅か にベタついていた。
△:室温下に10日間以上放置したら、湿気等の影響を受けて、乾燥皮膜はかなりベ タついていた。
×:洗浄剤組成物の揮発成分が蒸散した時点(放置2〜3日後)で、すでに乾燥皮膜 は液状でベタついていた。
洗浄剤組成物の乾燥皮膜がベタつくと、洗浄後の歩行によりカーペットが再汚染されると判断できる。
【0066】
(3)洗浄剤組成物の乾燥皮膜の崩壊性
〔試験方法〕
上記(2)の再汚染防止性試験で得られた洗浄剤組成物の乾燥皮膜の表面を、プッシュプルゲージ(CPU GAUGE9200 Series、AIKOH ENGINEERING社製)の測定部の先端で斜めに押し付けて、皮膜が崩壊するまでに要した荷重(kg)を測定し、下記の判定基準で皮膜の崩壊性を評価した。なお、比較例品13はポリマーエマルジョンを含有する例であるが、皮膜を形成せず粉化するために本試験に供することができなかった。
〔判定基準〕
◎:崩壊に至る荷重は、1kg未満であった。
○:崩壊に至る荷重は、1kg以上2kg未満であった。
△:崩壊に至る荷重は、2kg以上4kg未満であった。
×:崩壊に至る荷重は、4kg以上を要した。または、皮膜状にならず液状でベタつ いて測定不能であった。
崩壊に至る荷重が少ない皮膜程、ブラシ付き掃除機によるブラッシング力により、容易に粉状に崩壊し、掃除機による回収性は良好と判断できる。
【0067】
(4)表面張力
〔試験方法〕
供試洗浄剤組成物の表面張力を、組成物の液温を25℃に調整し、表面張力計(Automatic Tensiometer RTM−101 RIGOSHA &Co.Ltd製)で測定し、下記の判定基準で洗浄力を評価した。
〔判定基準〕
○:表面張力の測定値は、30dyn/cm以下であった。
×:表面張力の測定値は、30dyn/cmより上であった。
30dyn/cm以下であれば、カーペットへの濡れ性(レベリング性)および浸透性が確保でき、より効率的な噴霧が可能と判断できる。
【0068】
(5)洗浄性1
〔試験方法〕
ナイロン製タイルカーペット(グランドアートGA100 GA125,寸法:50×50cm、色調:淡色グレー、東リ社製)に下記の成分からなる人工汚垢を散布(散布量:100〜120g/mの割合)して、エチケットブラシで軽く均一にこすりつけ、室温下に24時間放置した。放置後、試験タイル片を試験片と同サイズのタイルカーペット施工した床面に貼り付けた。
その後、供試洗浄剤組成物が充填された容器を、自走式の洗浄剤噴霧機構とブラッシング機構を有するカーペット洗浄機(シャリオスターリニュー、米国ウィンザー社製)の洗浄剤供給部に装着して、下記の洗浄条件で洗浄剤組成物をカーペットに噴霧しブラッシング洗浄した後、室温下に30分放置乾燥してから、さらに自走式のブラシ機構を有するカーペット掃除機(シャリオスターバキューム、米国ウィンザー社製)により、下記の除塵条件でブラッシング掃除機掛けをした。
〔人工汚垢の組成〕
JIS L 1023の8.1に規定された人工汚垢:
ピートモス20g、ポルトランドセメント8.50g、はくとう土8.50g、カーボンブラック0.05g、フェライト用酸化鉄(III)0.07g、ヌジョール4.38g
〔自走式カーペット洗浄機の洗浄条件〕
洗浄走行速度:2.5〜5.6km/hr、洗剤散布量:約30g/mの割合、ブラシ回転数:800rpm(ツインローターブラシ式)ブラシモーター:560W×2、清掃幅:61cm
〔自走式カーペット掃除機の除塵条件〕
洗浄走行速度:2.5〜5.6km/hr、ブラシ回転数:1,725rpm、ブラシモーター:560W、吸引モーター:560W

洗浄性1は、上記の試験方法により、目視で下記の判定基準で評価した。
〔判定基準〕
◎:試験タイル片の人工汚垢は、洗浄剤組成物を用いた上記の試験方法を、3回以内 繰り返すことにより除去できた。
○:試験タイル片の人工汚垢は、洗浄剤組成物を用いた上記の試験方法を、4〜6回 繰り返すことにより除去できた。
△:試験タイル片の人工汚垢は、洗浄剤組成物を用いた上記の試験方法を、7〜9回 繰り返すことにより除去できた。
×:試験タイル片の人工汚垢は、洗浄剤組成物を用いた上記の試験方法を、10回以 上繰り返しても除去できなかった。
【0069】
(6)抑泡性
〔試験方法〕
上記(5)洗浄性1:供試組成物を用いた洗浄性試験の自走式カーペット洗浄機によるブラッシング洗浄において、泡立ちの状態を目視で観察し、下記の判定基準により抑泡性を評価した。
〔判定基準〕
◎:泡立ちは全く見られず、ブラッシング洗浄に支障をきたすようなことはなかった 。
○:僅かな泡立ちがみられたが、ブラッシング洗浄に支障をきたすようなことはなか った。
△:かなり泡立ち、ブラッシング洗浄に支障をきたした。
×:著しい発泡現象が認められ、ブラッシング洗浄ができなかった。
【0070】
(7)洗浄性2
〔試験方法〕
ナイロン製タイルカーペット(グランドアートGAGA125、寸法:縦50cm×横50cm、色調:淡色グレー、東リ社製)に下記の成分からなる人工汚垢を100〜120g/mの割合で散布し、エチケットブラシで軽く均一にこすりつけ、室温下にて24時間放置した。放置後、4枚の試験タイル片(1平方メートル分)を試験タイル片と同面積のタイルカーペット施工フロアに貼り付けた。
その後、供試洗浄剤組成物の原液、または水で希釈した洗浄剤希釈液を電池式噴霧器(GT−5、5Lサイズ、工進社製)に充填し、上記試験タイル片の表面に約50g/mの割合の噴霧量にて均一に噴霧する。同様に、マイクロファイバーパッド(パッドの直径15インチ、38cm、クリンテック小泉社製)の表面にも、該噴霧器で約50g/mの割合の噴霧量にて均一に噴霧する。
つぎに、パッド台を装備する電気ポリッシャー(型式:CMP140E、アマノ武蔵電機社製)に、上記を噴霧を施したマイクロファイバーパッドを装着し、下記の洗浄条件で均一に3往復のポリシャー洗浄した後、室温下にて30分間放置乾燥させてから、さらにブラシ付きの真空掃除機(製品名:ジェイセンサー12、米国ウィンザー社製)により、下記の除塵条件でブラッシング掃除機掛けをした。
なお、供試洗浄剤組成物の原液または水で希釈された希釈洗浄液において、実施例1〜4および比較例1は原液で、また、実施例5、実施例6、実施例10〜12、比較例2、比較例3および比較例7〜12は10倍希釈洗浄液で、そして、実施例7〜9、比較例4〜6、比較例13および比較例14は20倍希釈洗浄液として洗浄性試験2に供した。
〔人工汚垢の組成〕
人工汚垢の組成は、JIS L−1023の8.1に規定された人工汚垢:
ピートモス20g、ポルトランドセメント8.50g、はくとう土8.50g、カーボンブラック0.05g、フェライト用酸化鉄(III)0.07g、ヌジョール4.38g
〔ポリシャー洗浄条件〕
14インチポリッシャー、15インチパッド適用型、本体重量42kg、回転数160rpm(50ヘルツ)、消費電力1300W
〔ブラシ付きの真空掃除機の除塵条件〕
ブラシ回転数:2700rpm、バキュームモーター:850W、清掃幅:31cm

洗浄性2は、上記の試験方法により、目視で下記の判定基準で評価した。
〔判定基準〕
◎:試験タイル片の人工汚垢はきれいに除去されており、洗浄ムラもなく、きれいに仕上がった。
○:試験タイル片の人工汚垢は、幾分か残留し、僅かな洗浄ムラが認められた。
△:試験タイル片の人工汚垢は、かなり残留し、洗浄ムラが目立った。
×:試験タイル片の人工汚垢は、全く除去できなかった。
【0071】
なお、以下の表1〜表5に示した成分の詳細は以下のとおりであり、表中の数値は、有り姿で示したものである。
〔A成分〕
・アルカリ可溶性樹脂1:
(ガラス転移点50℃、分子量8,100、酸価53)
商品名:ジョンクリル611、ジョンソンポリマー社製
・アルカリ可溶性樹脂2:
(ガラス転移点73℃、分子量12,500、酸価213)
商品名:ジョンクリル67、ジョンソンポリマー社製
・アルカリ可溶性樹脂3:
(ガラス転移点102℃、分子量16,500、酸価240)
商品名:ジョンクリル690、ジョンソンポリマー社製
・アルカリ可溶性樹脂4:
(ガラス転移点128℃、分子量17,250、酸価214)
商品名:HDP−671、ジョンソンポリマー社製
・アルカリ可溶性樹脂5:(比較例)
(ガラス転移点19℃、分子量60,000、酸価65)
商品名:PDX−6102B 水溶液品、不揮発分24.5%ジョンソンポリマー社製
【0072】
〔B成分〕
・コロイダルシリカ1:
(粒子径4〜6ナノメーター)
商品名:スノーテックスXS、不揮発分:20%、日産化学工業社製)
・コロイダルシリカ2:
(粒子径10〜20ナノメーター)
商品名:スノーテックスC、不揮発分:20%、日産化学工業社製)
・コロイダルシリカ3:
(粒子径70〜100ナノメーター)
商品名:スノーテックスZL、不揮発分:40%、日産化学工業社製)
・コロイダルシリカ4:
(粒子径450ナノメーター)
商品名:スノーテックスMP−4540M、不揮発分:40%、日産化学工業社製)
【0073】
〔C成分〕
・界面活性剤1:
(ドデシルジフェニルオキサイドジスルホン酸ナトリウム)
商品名:ダウファックス2A−1、有効濃度:46%、ダウケミカル社製
・界面活性剤2:
(炭素数C12のラウリル硫酸ナトリウム)
商品名:テイカライトN2030、有効濃度:30%、テイカ社製)
・界面活性剤3:
(クメンスルホン酸ナトリウム)
商品名:テイカトックスN5040、有効濃度:40%、テイカ社製)
・界面活性剤4:
(炭素数C12のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル)
商品名:LB−83、有効濃度:99%以上、アデカ社製
・界面活性剤5:
(2−ペルフルオロアルキルエタノールとリン酸反応性物とアンモニウムの混合物、その他成分で構成されるフッ素系界面活性剤)
商品名:ゾニールFSJ、有効濃度:40%、デュポン社製
・界面活性剤6:
(4−ペルフルオロノネニルオキシベンゼンスルフォン酸ナトリウムのフッ素系界面活性 剤)
商品名:フタージエント100、有効濃度:100%、ネオス社製
【0074】
〔比較例〕
アクリル系樹脂系ポリマーエマルジョン
・ポリマーエマルジョン:
(ガラス転移点96℃、分子量200,000以上)
商品名:ジョンクリル7610、不揮発分:52%、ジョンソンポリマー社製)
【0075】
〔任意成分〕
・水溶性溶剤(上記の界面活性剤6の水溶化剤):
(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)
商品名:ブチセノール20、協和発酵工業社製
・アルカリ可溶性アクリル系樹脂の中和剤、pH調整剤
(水酸化ナトリウム)
商品名:苛性ソーダ劇物食添、有効濃度:25%、東亞合成社製
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
実施例品1〜12から、貯蔵安定性、再汚染防止性、乾燥皮膜の崩壊性、表面張力、洗浄性1、抑泡性および洗浄性2のいずれの試験項目においても良好な結果であることがわかる。
つまり、本発明のカーペット用洗浄剤組成物およびカーペットの維持管理方法は、平均分子量(Mw)が2,000〜30,000でガラス転移点(Tg)が50〜150℃であるアルカリ可溶性樹脂0.1〜20質量%(A成分)、コロイダルシリカを固形分として0.01〜10質量%(B成分)、界面活性剤0.1〜10質量%(C成分)、および水(D成分)を組み合わせ、JIS Z−8802:1984「pH測定方法」におけるpHを6〜9に調製することにより、被洗浄面に対して良好な再汚染防止性や洗浄効果等を発揮することがわかる。なお、実施例品のpHを6未満あるいは9を超えるように調整した場合には、洗浄剤組成物が分離するものが多くみられ、貯蔵安定性が乏しいものとなることが確認された。
【0082】
また、上述の実施例(7)洗浄性2の比較例として、マイクロファイバーパッドに換えてヤーンパッド(パッドの直径38cm、東和産業社製)を用い、当該試験方法およびその判定基準にて評価したところ、試験タイル片の人工汚垢は、かなり残留し、洗浄ムラが目立ったものとなり、所望の洗浄性2が得られないことがわかった。
一方マイクロファイバーパッドでは、該繊維がカーペット表面の汚れを捕集するとともに、本発明のカーペット用洗浄剤組成物の原液または水で希釈した希釈洗浄液が、該パッドがカーペット表面に均質に接しながらカーペットの毛足全体になじむことによって、汚れをカーペット用洗浄剤組成物の原液または希釈洗浄液に内包させる為に、所望の洗浄性が得られるものと考えられる。
【0083】
以上のことから、本発明のカーペット用洗浄剤組成物およびカーペットの維持管理方法によって、従来のような煩雑で労力のかかるエクストラクションマシンによるすすぎ等を行う必要がなく、簡易的でかつ確実にカーペットに付着する汚れを除去できる新たなカーペット洗浄方法として好適に用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均分子量(Mw)が2,000〜30,000でガラス転移点(Tg)が50〜150℃であるアルカリ可溶性樹脂0.1〜20質量%、(B)コロイダルシリカを固形分として0.01〜10質量%、(C)界面活性剤0.1〜10質量%、および(D)水を含有し、JIS Z−8802:1984「pH測定方法」におけるpHが6〜9であることを特徴とするカーペット用洗浄剤組成物。
【請求項2】
表面張力が30dyn/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載のカーペット用洗浄剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカーペット用洗浄剤組成物の原液または水で希釈した希釈洗浄液をカーペット表面に噴霧する行程と、カーペット用ブラシを用いてブラッシングし、カーペットの汚れを該原液または希釈洗浄液に内包させる行程と、該原液または希釈洗浄液の乾燥後に、カーペットの毛足の表面で汚れを内包して乾燥固化した組成物をブラシ付きの真空掃除機を用いて吸引除去する行程を含むことを特徴とするカーペットの維持管理方法。
【請求項4】
ブラシを有するカーペット洗浄機により、請求項1又は2に記載のカーペット用洗浄剤組成物の原液または水で希釈した希釈洗浄液をカーペット表面に噴霧しながら、ブラッシングし、カーペットの汚れを該原液または希釈洗浄液に内包させる行程と、カーペット表面における該原液または希釈洗浄液の乾燥後に、カーペットの毛足の表面で汚れを内包して乾燥固化した組成物をブラシを有するカーペット掃除機によって吸引除去する行程を含むことを特徴とするカーペットの維持管理方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のカーペット用洗浄剤組成物の原液または水で希釈した希釈洗浄液をカーペット表面に噴霧し、ポリッシャーに装着されたマイクロファイバーパッドにより、カーペットの汚れを捕集しながら、カーペットの汚れを該原液または希釈洗浄液に内包させる行程と、カーペット表面における該原液または希釈洗浄液の乾燥後に、カーペットの毛足の表面で汚れを内包して乾燥固化した組成物をブラッシング機構を兼ね備えた真空掃除機によって吸引除去する工程を含むことを特徴とするカーペットの維持管理方法。




【公開番号】特開2008−101033(P2008−101033A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279461(P2006−279461)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(598028648)ジョンソンディバーシー株式会社 (30)
【Fターム(参考)】