説明

カーボネート類の連続調製

エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートとFからフルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルメチルカーボネートおよび二フッ素化ジメチルカーボネートを製造するための方法において、フッ素化プロセスが連続的に行なわれる方法が記述されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
参照により本明細書にその全内容が援用されている2009年9月28日出願の欧州特許出願EP09171489.9の利益を主張する本発明は、いくつかのフルオロ置換有機カーボネート類の連続調製に関する。
【背景技術】
【0002】
モノフルオロエチレンカーボネートおよびフルオロメチルメチルカーボネートならびにジフルオロエチレンカーボネートおよび二フッ素化ジメチルカーボネートは、リチウムイオン電池用の溶媒または溶媒添加剤として特に適している。
【0003】
モノフルオロエチレンカーボネートは、1,3−ジオキソラン−2−オン(エチレンカーボネート;「EC」)とフッ素元素との反応によって、それぞれの未置換エチレンカーボネートから調製することのできるものである。これについては例えば、(特許文献1)に記載されており、ここで反応は、ECの融解液または無水フッ化物中でのその溶液を用いて行なわれている。場合により、ペルフルオロヘキサンが存在し得る。この場合、(出発材料である)1,3−ジオキソラン−2−オンの懸濁液が形成される。(特許文献2)によると、エチレンカーボネートがF1EC中に溶解され、その後希釈フッ素と接触させられる。(特許文献3)によると、反応はラシッヒリングを伴う反応器内で行なわれ、希釈フッ素ガスの適切な気泡サイズを提供する。技術的現状によると、フッ素化反応および生成物の単離はバッチプロセスにおいて行なわれた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開2000−309583号公報
特許文献2:米国特許出願公開US2006−0036102
特許文献3:米国特許第7,268,238号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主題は、優れた収率と選択性を有し技術的に実現可能な形でフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネートおよび二フッ素化ジメチルカーボネートからなる群から選択されたフルオロ置換有機カーボネートを調製するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エチレンカーボネートと希釈Fと反応させてフルオロエチレンカーボネートまたはジフルオロエチレンカーボネートを生成することおよびジメチルカーボネートと希釈Fを反応させてフルオロメチルメチルカーボネートまたは二フッ素化ジメチルカーボネートを生成することによって、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルメチルカーボネートおよび二フッ素化ジメチルカーボネートからなる群から選択された有機カーボネートを製造するための液相方法において、連続的に実施される方法を提供している。本発明の方法において、希釈フッ素は気体形態で、液体カーボネート中に分散させられる。したがって本発明の方法は、2相プロセスである。この方法の安全性を改善させるために、そして純粋フッ素を適用した場合には高過ぎる反応熱が大量に生成されるため、フッ素は希釈形態で導入される。
【0007】
「連続的に」という用語は、希釈フッ素の連続導入およびエチレンカーボネートまたはジメチルカーボネートの連続導入を意味するものとして理解される。例えば多孔板を介して互いに連結された複数の区画(カスケードとみなされる)を含む単一の反応器が利用される場合には、便宜上、希釈フッ素ガスが反応器の下部区画内に導入され、上部区画でカーボネートが導入される。別個の反応器のカスケードが利用される場合、希釈フッ素および液体カーボネートは通常連続的に各反応器内に導入される。反応は単一の反応器内で行なうことができる。
【0008】
反応区画を1つ有する単一の反応器を使用することができるが、連続したフッ素化ステップのため選択性は低い。重畳配置した2つ以上の区画を有する単一の反応器内で反応を行なうことも可能であり、これらの区画は例えば多孔板によって分離されており、これらの多孔板は反応混合物の物質移動は削減させるが区画内のフッ素ガスの通過は可能にする。好ましい実施形態において、反応は2つ以上の反応器のカスケード内で行なわれる。反応器の数が多くなると、得られる選択性および転換は改善されるが、コストは高くなる。2〜5つの反応器を含む反応器カスケードがきわめて適切である。2、3および4つの反応器を伴うカスケードが好適であり、2つまたは3つの反応器を伴うカスケードが最も好適である。カスケードの任意の反応器内に、フッ素ガス(または、好ましくはフッ素ガスと窒素または他の不活性ガスとの混合物)が導入される。所望される場合、反応器は単一の反応器内で別個の区画の形に、例えば2、3、4または5個の仕切り板を伴うかまたは同じ効果を有する手段を伴う1つの反応器の形に組立てられる。
【0009】
フッ素元素は、希釈形態で適用される。好ましい希釈剤は不活性ガス、特に窒素、希ガスまたはその混合物からなる群から選択された不活性ガスである。フッ素元素および窒素の混合物が好適である。フッ素の濃度は0体積%超である。それは、好ましくは5体積%以上である。より好ましくは12体積%以上である。フッ素濃度は好ましくは25体積%以下である。好ましくは、18体積%以下である。好ましくは、フッ素は12〜18体積%の範囲内で気体混合物中に含まれる。異なる反応器内に異なる濃度のフッ素または異なる不活性ガスとの異なる気体混合物あるいは希釈および未希釈フッ素ガスを導入することが可能であるが、実践的な理由から、全ての反応器について特定の一気体または気体混合物のみを適用することが好ましい。
【0010】
以下において、「フッ素」という用語は、不活性ガスによって、特に窒素によって希釈されたフッ素を意味するものと理解される。
【0011】
液体中に細かく分散した気泡としてフッ素を導入することが好ましい。フッ素を細かく分散した形で導入する場合、広い接触表面積が提供される。気体の良好な分散は、フッ素およびHFに対する耐性を有する材料で作られたフリットにそれを通すことで達成可能である。ステンレス鋼、フッ素およびHFに対する耐性を有する合金、例えばモネル、インコネルまたはハステロイまたは過フッ素化ポリマー材料例えばポリテトラフルオロエチレンで作られたフリットが好ましい。気泡は、反応器内の反応混合物の充分な混合を生成する。所望される場合、反応を連続撹拌式反応器(「CSTR」)内で行なうことができる。
【0012】
フッ素化反応は大量の熱を発生させることから、反応を効率的に行なうには反応混合物を冷却することが必須である。
【0013】
反応混合物の冷却は、当該技術分野において公知の方法で行なわれる。例えば、1つまたは複数の反応器は冷却ジャケットまたは内部熱交換器を有していてもよい。ただし冷却効率は非常に悪い。反応混合物の冷却のための外部冷却器の使用が好ましい。好ましくは、反応混合物の一部分は反応器から連続的に回収され、外部冷却器内を通って流れてから、反応器に戻る。冷却目的で反応混合物の一部分を連続的に循環させることで反応混合物の混合が改善される。
【0014】
反応混合物は、反応生成物であるフッ化水素を含む。一般に、HFの含有量は、反応混合物の約1〜約10重量%の範囲内にある。HFの濃度は、反応混合物の温度、圧力、F/N混合物中の窒素の量、(または他の不活性ガスの含有量)、気体/液体物質移動条件、そして特に、反応器に供給されたFとカーボネートのモル比と関係がある出発カーボネートの転換によって左右される。
【0015】
一実施形態によると、反応は、一フッ素化生成物を生成するため、すなわちエチレンカーボネートからモノフルオロエチレンカーボネートをまたはジメチルカーボネートからフルオロメチルメチルカーボネートを生成するために行なわれる。この実施形態が好適である。別の実施形態によると、反応は、二フッ素化化合物を生成するため、すなわちフッ化エチレンから4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、シスおよびトランス−4,5−ジフルオロ−13,ジオキソラン−2−オンを、またはジメチルカーボネートからジフルオロメチルメチルカーボネートおよびビス−ジフルオロメチルカーボネートを生成するために行なわれる。この実施形態ではエチレンカーボネートの代りにモノフルオロエチレンカーボネートまたはエチレンカーボネートとモノフルオロエチレンカーボネートとの混合物を出発材料として利用することができる。同様にして、ジメチルカーボネートの代りに、フルオロメチルメチルカーボネートまたはジメチルカーボネートとフルオロメチルメチルカーボネートとの混合物を出発材料として利用して二フッ素化ジメチルカーボネートを生成することができる。「二フッ素化ジメチルカーボネート」という用語は、本発明の方法においては同時に生成するフルオロメチルメチルカーボネートおよびビス−フルオロメチルカーボネートを表わす。
【0016】
ここで本発明について、好ましい実施形態、すなわちモノフルオロエチレンカーボネートとフルオロメチルメチルカーボネートの調製を考慮して、詳細に説明する。
【0017】
反応は、出発材料の融点より高い温度で行なわれてもよい。ジメチルカーボネートは約2〜4℃で溶融し、エチレンカーボネートは約34〜37℃で溶融する。所望される場合、反応生成物であるHFおよびフッ素に対し不活性である溶媒を用いることで、融点を低下させることができる。例えば、HFを溶媒として使用できると考えられる。ペルフルオロカーボン類、例えばペルフルオロヘキサンまたはペルフルオロシクロヘキサンを使用することもできる。好ましい実施形態において、フルオロエチレンカーボネートが、エチレンカーボネート用の溶媒として、特に好ましくは開始段階において利用される。好ましい実施形態において、エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネート出発材料が、反応中にニートで導入される。「ニートで」とは、カーボネート反応物が未希釈であり、不活性溶媒を含まないことを意味している。好ましい実施形態において、反応全体を通して不活性溶媒は利用されない。この実施形態において、出発材料は不活性溶媒との混合物の形で導入されず、不活性溶媒が別個に添加されることはなく、反応混合物も、開始段階においてさえ不活性溶媒を含んでいない。「不活性」という用語は、生成物のフッ素化および単離の反応条件下でフッ素またはHFと実質的に反応しない化合物を表わす。フルオロエチレンカーボネートおよびフルオロメチルカーボネートは不活性とみなされない。「実質的に」という用語は好ましくは、反応を1時間行なう間に、1重量%以下の不活性溶媒しかFまたはHFと反応しないことを意味している。連続フッ素化反応中は、つねに一定レベルのフルオロエチレンカーボネートが反応混合物中に存在することから、反応混合物にフルオロエチレンカーボネートを添加することが有利であるのは反応開始段階の最初においてだけであると思われる。フッ素化反応中は、反応器内にフルオロエチレンカーボネートを導入しないことが好ましい。ジメチルカーボネートの融点は、いかなる溶媒も必要とされないほど充分に低いものであるが、所望される場合には、溶媒として過フッ素化溶媒またはフルオロメチルメチルカーボネートを使用できると考えられる。
【0018】
好ましくは、フルオロエチレンカーボネートの製造のための第1の実施形態によると、反応温度は40℃以上である。一般に、反応温度は100℃以下である。ただしこのような高温では、反応器から出る気体流の中にフッ素化反応生成物が含まれているかもしれず、収率を低下させないためにはそれを回収しなければならない。好ましくは、反応温度は80℃以下、より好ましくは70℃以下、そして最も好ましくは60℃以下である。
【0019】
この実施形態によると、好ましい範囲は40〜70℃、特に40〜60℃である。
【0020】
フルオロエチレンカーボネートの製造のための第2の実施形態によると、反応温度は好ましくは50℃以下、そしてより好ましくは30℃以下である。反応温度は好ましくは2℃以上、より好ましくは10℃以上、そして最も好ましくは20℃以上である。この実施形態において、好ましい範囲は2℃〜50℃、より好ましくは10℃〜50℃、そして特に20〜30℃である。
【0021】
反応速度は通常、温度が高くなれば速くなるが、選択性は異なる形で影響を受け得る。したがって第2の変形形態による場合よりも高い温度で行なわれてもよい第1の変形形態による反応は、より速い反応速度で進行するものの、選択性は低下することが予想される。一般に、選択性が比較的高いこと、この利点が反応速度に優先することから、第2の変形形態にしたがって反応を行なうことが好ましい。
【0022】
上述の通り、ジメチルカーボネートのフッ素化の反応温度は有利にはより低いものであり得る。好ましくは、それは、2℃より高く、50℃以下である。より好ましくは、フルオロメチルメチルカーボネートの製造のためには、この反応温度は2℃超で40℃未満である。
【0023】
ジメチルカーボネートのフッ素化の場合、フルオロメチルメチルカーボネートが比較的低い沸点を有し反応混合物を気相状態で残す可能性があることから、より低い温度レベルで反応を行なうことが有利であり得る。
【0024】
フッ素化反応は液相で行なわれる(当然、Fは気体として導入される)という点を指摘しておくべきであろう。溶媒が利用されない場合、反応の開始時の温度は、反応器内に液体カーボネート出発材料が確実に存在するように高温範囲内にあってもよい。反応が進行している場合、フルオロ置換カーボネートが溶媒として機能し、反応温度を低下させることができる。
【0025】
化学反応においては多くの場合、出発材料の100%の転換が目標とされるものの、カーボネート出発材料に関係する本発明の枠内ではこのことはあてはまらない。安全性の理由から、反応中にフッ素を完全に消費することがきわめて好ましい。
【0026】
連続するフッ素化ステップのため、高い転換がより低い選択性の原因となる。カーボネート転換すなわち利用されるカスケードの全反応器内のカーボネートの合計転換が10〜70mol%の範囲内であることが好ましい。エチレンカーボネートまたはジメチルカーボネートの転換が17mol%以上であることがさらに好ましい。エチレンカーボネートまたはジメチルカーボネートの転換が20mol%以上であることが特に好ましい。転換は、10mol%未満であってもよいと考えられるが、その場合には、多くの出発材料を再循環させなくてはならないことから、この方法の効率は低くなる。
【0027】
選択性を理由として、エチレンカーボネートまたはジメチルカーボネートの全体的転換が65mol%以下であることが好ましい。エチレンカーボネートまたはジメチルカーボネートの転換が60mol%以下であることがさらに好ましい。転換は、70%超でさえあり得るが、その場合、過剰フッ素化生成物が過度に形成され、収率は著しく低減する。カーボネート出発材料のきわめて好ましい転換範囲は、25から55mol%である。フルオロメチルメチルカーボネートの製造に関しては、40mol%以下の全体的転換が好ましい。
【0028】
したがって、気体混合物中のFとエチレンカーボネートまたはジメチルカーボネートのモル比は、反応中にフッ素元素を完全に消費すべきであることを考慮に入れて、所望の転換に適応される。
【0029】
好ましい実施形態において、反応は、場合によりフルオロエチレンカーボネート中に溶解させたエチレンカーボネート出発材料からなるかまたは場合によりフルオロメチルメチルカーボネート中に溶解させたジメチルカーボネート出発材料からなる液体媒質を用いて開始される。反応が進行している時、反応媒質は本質的に、未反応の出発材料、一フッ素化生成物、場合により二フッ素化、三フッ素化および/または四フッ素化生成物、HF、未反応Fおよび不活性ガス、好ましくは窒素からなる。反応が進行している場合、反応混合物内に存在する出発材料および一フッ素化生成物の濃度が一定の濃度範囲内に保たれるような形で反応を行なうことが好ましい。このことはすなわち、これらの化合物の濃度が反応中適度に恒常に保たれることを意味する。好ましくは、開始段階が終結された時点で、反応は、反応混合物が出発エチレンカーボネートと一フッ素化エチレンカーボネートまたはジメチルカーボネートとフルオロメチルメチルカーボネートのそれぞれを定常濃度で含むような形で行なわれる。これは、反応混合物中に恒常なモル比で恒常量の出発材料と恒常量のフッ素を供給することによって容易に達成可能である。反応器内に供給されるカーボネートの量またはフッ素の量、あるいは反応器から回収される反応混合物の量を調整することによって、濃度を微調整することができる。「定常濃度」とは、一時間範囲内の出発材料と反応生成物の濃度が、その時間範囲内の平均濃度の±10%の範囲内にとどまっていることを意味する。好ましくは、時間範囲は30分以上、より好ましくは1時間以上、特に好ましくは2時間以上である。所望される場合、定常濃度を自動的に保持することができる。
【0030】
当然のことながら利点は、反応の制御がはるかに容易であり、それが円滑かつ安全に行なわれ、収率がより高いものであるということにある。
【0031】
反応中の圧力は、一般に少なくとも、カーボネート出発材料が本質的に液相にとどまる程度の高さである。周囲圧力近くでこの方法を実施することが好ましい。好ましくは、圧力は大気圧以上、より好ましくは1.2bar(絶対)以上である。好ましくは、圧力は10bar(絶対)以下である。より好ましくは、圧力は5バール(絶対)以下である。最も好ましくは、圧力は、周囲圧力に相当する。1.2bar(絶対)〜5bar(絶対)の範囲が好ましい。圧力を選択する場合、反応混合物中のフッ素の分圧が適正値を超えてはならないという点に留意しなければならない。こうして、フッ素および希釈剤を含む気体混合物中のフッ素含有量が上方範囲内にある場合、圧力は下方範囲内になければならない。一方、フッ素/希釈剤気体混合物中のフッ素含有量が下方範囲内にある場合、圧力は上方範囲内にあってもよい。当然のことながら、反応混合物の有効な冷却によって、フッ素の分圧をさらに高くすることができる。
【0032】
参照により本明細書に援用されているいずれかの特許、特許出願および公報の開示が万一、表現を不明確にするほどに本出願の記述と矛盾する場合には、本記述が優先するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の方法を実施できる2−反応器カスケードを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明について、ここで、それぞれ2つおよび3つの反応器を伴うカスケードを提供する好ましい実施形態を考慮して説明する。
【0035】
カスケードは、液体反応混合物3および4をそれぞれに含む2つの反応器1および2を含む。エチレンカーボネートがライン5を介して反応器1内に導入される。フッ素/窒素混合物がライン6を介して反応器1内に導入される。気体混合物は、フリット7を用いて非常に小さい気泡へと分散させられる。主としてフッ素/窒素混合物由来の窒素(および/または利用される場合には、別の不活性ガス)とHFである気体生成物はライン8を介して反応器1から出る。気体を処理して、気体流により同伴された他のフッ素化化合物をHFと共に除去することができる。例えば、水または酸性または塩基性水溶液、例えばナトリウム苛性アルカリ溶液などとの接触により、HFを洗浄機またはスクラバー内で除去することができる。同様に、ウォータースクラバーを適用し次に塩基性または酸性溶液を用いる洗浄機を利用することも可能である。液体反応混合物は連続的に反応器1からライン9を通って回収され、反応器2内に導入され、ここでそれは、ライン10および分散用フリット11を介して導入されたフッ素ガス(またはフッ素ガスと不活性ガス、特にNを含む混合物)と再度接触させられる。気体生成物(主として窒素またはその他の不活性ガスおよびHF)はライン13を介して反応器2から出る。反応混合物はライン12を介して反応器2から連続的に回収される。
【0036】
冷却ユニット14および15は、冷媒、例えば水を用いて作動させられる。反応混合物は冷却ユニット14および15を通って循環させられ、その中で冷却される。
【0037】
ライン12を介して反応器2から回収された反応生成物は次にさらに処理されて、所望の反応生成物を単離する。
【0038】
単離は、任意の所望の方法で行なうことができる。所望される場合、高温のまたは加熱した反応混合物の中に高温不活性ガス特に窒素を通すことによって未公開の国際特許出願PCT/EP2009/053561に記載されている粗製反応混合物からのストリッピングによりHFを除去することができ、その後の蒸留において純粋生成物を得ることが可能である。
【0039】
一般的には、単離または精製ステップ中に回収される出発材料または出発材料とフッ素化生成物の混合物は、反応に再循環される。これは、コストを削減し、生態学的に有利である。
【0040】
フルオロエチレンカーボネートは、最も好ましい反応生成物である。それは、エチレンカーボネートとフッ素の反応によって生成され、好ましくは上述の通り窒素で希釈される。
【0041】
好ましい実施形態においては、反応プロセスならびにフルオロ置換反応生成物の単離の両方が連続的に行なわれる。
【0042】
連続プロセスの利点は、各バッチの最初と最後に反応器を停止させる必要がないため、反応器の「ダウン」タイムを削減できるという点にある。このプロセスはプログラミングが容易である。
【0043】
以下の実施例は、本発明を非限定的に詳細に記述している。
【実施例】
【0044】
実施例1:2−反応器カスケードにおけるフルオロエチレンカーボネートの調製
装置は、1つのカスケード内に2つの反応器1および2を含む図1に示された反応器に対応する(参照番号は、図1中のものに対応している)。反応を開始させる前に、混合物が約10重量%のフルオロエチレンカーボネートを含むような結果となるように、エチレンカーボネートとフルオロエチレンカーボネートを反応器1および2に充填する。当然のことながら、所望される場合、それぞれの混合物を反応器内に充填することができる。フルオロエチレンカーボネートの初期添加は、フッ素化反応を開始させる時のエチレンカーボネートの融点を低下させるのに役立つ。その後ライン5を介して反応器1に液体エチレンカーボネートを連続的に供給する。約15体積%のFを含み、100体積%に至る残りの部分がNである気体混合物を、ライン6とステンレス鋼フリット3を通して第1の反応器1の底部に連続的に導入する。非常に小さい気泡が形成されて、気体と液体の間に高い接触表面積をもたらす。冷却水を用いて作動させられる冷却器14を通って反応混合物3の一部分を循環させることによって、反応器1内の温度を約50℃に保つ。反応器1内の圧力は、反応器2内の圧力と全く同じように、周囲圧力(1bar(絶対)よりもわずかに高い)に対応している。主としてHFおよびNである気体成分を、ライン8を通して液体反応混合物の上の気体空間から回収する。ウォータースクラバー内に気体を通過させてHFを吸収する。ウォータースクラバーを通過する窒素を、大気へ放出する。
【0045】
液体反応混合物を連続的に反応器1からライン9を通って回収し、反応器2内に導入する。約15体積%のFを含み、100体積%に至る残りの部分がNである気体混合物を、反応器1と同じ要領で反応器2内に連続的に導入する。第2の反応器の温度を約50℃に保つ。別個のライン13を通して反応器2の気体空間から気体成分を回収し、これを反応器1から回収した気体のように処理する。反応器2の底部からライン12を通って連続的に回収した反応混合物を最初に処理して、内部に含まれているHFの大部分を除去する。これは、ストリッピングカラム内で、加熱した反応混合物中に高温Nを吹き込むことによって行なうことができる。その後、ストリッピングした混合物を蒸留して、純粋フルオロエチレンカーボネートを単離する。
【0046】
実施例1は、フッ素と窒素の気体混合物の使用について記述しているが、これをフッ素と1つまたは複数の任意の他の不活性ガスの気体混合物を用いて行なうことができる。
【0047】
実施例2:3−反応器カスケード内のフルオロエチレンカーボネートの製造
実施例1を反復したが、今回は3つの連続する反応器を伴う反応器カスケードを使用する。(他のものと同様、冷却器内でループ状に反応混合物の一部分を循環させることによって冷却されている)第3の反応器内に、第2の反応器からの反応混合物を導入し、同様に気体ラインおよびフリットを介して約15体積%のFを含むF/N気体混合物を第3の反応器の反応混合物にも導入する。第3の反応器の底部から連続的に回収された反応混合物を、実施例1で記述した通りに処理して、純粋フルオロエチレンカーボネートを単離する。
【0048】
エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびより高次のフッ素化生成物のそれぞれの濃度を計算するために、以下のことを仮定する:
反応温度:50℃
2−反応器カスケードの各反応器内の滞留時間:2
3−反応器カスケードの各反応器内の滞留時間:1.3
第1の反応器内に導入されたエチレンカーボネート中のフルオロエチレンカーボネートの濃度:0%
第1の反応器内に導入されたエチレンカーボネート中のエチレンカーボネートの濃度:100%
略語:
EC:エチレンカーボネート
FlEC:フルオロエチレンカーボネート
Trans:トランス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート
Cis:シス−4,5−ジフルオロエチレンカーボネート
44:4,4−ジフルオロエチレンカーボネート
Sum:生成されたジフルオロエチレンカーボネート類の総量
百分率はGC−%で示されている。
【0049】
転換は、反応生成物の合計を100として計算されている。表1中に、包括的転換が記されている。
【0050】
計算の結果を表1にまとめる。
【0051】
【表1】

【0052】
計算は、2−反応器カスケード内での連続プロセスにおいて、フルオロエチレンカーボネートを満足のいく形で生産することができるということを実証している。3−反応器カスケードはさらに一層選択的である。2−反応器カスケードと3−反応器カスケードの選択性の差異がECの転換度と共に増大する、すなわち既定の転換が高くなればなるほど3−反応器カスケード(または、さらにそれより多い反応器を伴うカスケード)を使用する利点も高くなるという点を指摘しておかなくてはならない。
【0053】
実施例3:フルオロメチルメチルカーボネートの製造
実施例1および2で記述したものと類似の形でジメチルカーボネートおよびフッ素/不活性ガス混合物からフルオロメチルメチルカーボネートを製造することができる。ジメチルカーボネートの低い融点(2〜4℃)を考慮すると、溶媒は必要でない。反応温度を実施例1の場合よりも2の場合よりも低く保って、フルオロメチルメチルカーボネートの蒸発を防ぐ。こうして反応混合物の温度は約5℃に保たれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発化合物としてのエチレンカーボネートと希釈Fとを反応させてフルオロエチレンカーボネートまたはジフルオロエチレンカーボネートを生成すること、および出発化合物としてのジメチルカーボネートと希釈Fを反応させてフルオロメチルメチルカーボネートまたは二フッ素化ジメチルカーボネートを生成することによって、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルメチルカーボネートおよび二フッ素化ジメチルカーボネートからなる群から選択された有機カーボネートを製造するための液相方法において、連続的に実施される方法。
【請求項2】
がNとの混合物の形で適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機カーボネートが反応器内にニートで導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
が0体積%超、25体積%までの量で気体混合物中に含まれている、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
出発化合物としてのエチレンカーボネートを希釈Fと反応させてフルオロエチレンカーボネートを生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
出発化合物としてのジメチルカーボネートを希釈Fと反応させてフルオロメチルメチルカーボネートを生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有機カーボネートの転換が10〜70%である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応が40〜70℃の温度で行なわれる、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記反応が10〜50℃の温度で行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記反応が周囲圧力または周囲圧力以上で10バール(絶対)以下の圧力で行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記反応混合物の一部分が、反応熱を除去するために冷却器内を通って循環させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
2反応器カスケード、3反応器カスケード、4反応器カスケードまたは5反応器カスケード内で行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
2、3、4または5枚の仕切り板を伴う単一の反応器内で行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
液体反応混合物が前記反応器から回収され、その中に含まれていた前記HFが、加熱したNを用いたストリッピングによって実質的に除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記フルオロエチレンカーボネート、前記ジフルオロエチレンカーボネート、前記フルオロメチルメチルカーボネートまたは二フッ素化ジメチルカーボネートの単離が連続蒸留によって行なわれる、請求項1または14に記載の方法。
【請求項16】
前記液相が不活性溶媒を含んでいない、請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2013−505918(P2013−505918A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530283(P2012−530283)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064218
【国際公開番号】WO2011/036281
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(592165314)ゾルファイ フルーオル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Fluor GmbH
【住所又は居所原語表記】Hans−Boeckler−Allee 20,D−30173 Hannover,Germany
【Fターム(参考)】