説明

カーボンナノコイル製造用触媒

【課題】良質のカーボンナノコイルを高い収率で製造することが可能なカーボンナノコイル製造用触媒を得る。
【解決手段】セラミックス微粒子1の表面に、酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と、酸化スズとの混合物からなる被膜2を形成する。被膜2の厚みを300nm以上とし、被膜2における鉄とスズの元素比を1:1〜6:1の範囲内とすることを特徴とする。被膜2の厚みは1000nm以上がより好ましく、鉄とスズの元素比は3:1が最も好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒化学気相成長法によりカーボンナノコイルを製造する際に使用する触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダーのコイル径を有するカーボン繊維、通称カーボンナノコイル(CNC)は、高い電磁波吸収性を備えるなどの優れた特性を有することから、今後多くの用途に使用される可能性が高い新材料として注目されている。その製造方法としては、触媒化学気相成長法、すなわち、加熱した触媒の表面でアセチレン等の炭化水素ガスを熱分解する方法がよく知られている。この触媒化学気相成長法による場合、生成するカーボンナノコイルの良否は、使用する触媒に大きく左右される。
【0003】
この触媒に関し、例えば特許文献1には、部分酸化処理されたニッケルなどの金属粒子を多孔質セラミックスに分散担持させてなるカーボンナノコイル製造用触媒が開示されている。特許文献2には、インジウム酸化物、スズ酸化物および鉄酸化物の混合物からなる薄膜をガラス基板上に形成し、該薄膜を加熱することにより微粒子化したカーボンナノコイル製造用触媒が開示されている。特許文献3には、粒径50〜1000nmの酸化スズ粒子の周囲に、粒径8〜15nmの遷移金属酸化物粒子を30〜300nmの厚みに付着してなるカーボンナノコイル製造用触媒が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−105827号公報
【特許文献2】特開2004−261630号公報
【特許文献3】特開2007−252982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の触媒では、多孔質セラミックスの寸法にバラツキがあるため、金属粒子の担持量が不均一になり、カーボンナノコイルの収量が不安定になる。金属粒子の部分酸化処理など触媒の製造プロセスが複雑になる不利もある。特許文献2の触媒は、金属酸化物微粒子をガラス基板上に設けるため、微粒子毎の反応面積が小さく、カーボンナノコイルの大量生産には不向きである。特許文献3の触媒は、金属酸化物微粒子を酸化スズ粒子上に設けるため、特許文献2が抱える問題は解決されているが、触媒粒子が極めて微細なために、得られるカーボン繊維が細くなって、コイル径が小さくなり過ぎるという新たな問題を抱えている。すなわち、良質とされるコイル径100nm以上のカーボンナノコイルの収率が低く、未だ工業的に使用されるには至っていない。
【0006】
本発明は、上記のような従来の触媒が抱える問題を解決するためになされたものであり、良質のカーボンナノコイルを高い収率で製造することが可能なカーボンナノコイル製造用触媒を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るカーボンナノコイル製造用触媒は、セラミックス微粒子の表面に、酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と、酸化スズとの混合物からなる被膜が形成されており、被膜の厚みが300nm以上であり、被膜における鉄とスズの元素比が1:1〜6:1の範囲内にあることを特徴とする。被膜は、メカノケミカル法などの機械加工法により形成することができる。被膜の厚みは1000nm以上がより好ましく、鉄とスズの元素比は3:1が最も好ましい。
なお、本願明細書および特許請求の範囲において、記号“〜”を用いて範囲を示した場合、その範囲には上限値および下限値が含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と酸化スズとの混合物からなる被膜の厚みを300nm以上としたので、コイル径が100nm以上の良質のカーボンナノコイルを高い収率で得ることができる。この収率は、被膜の厚みを1000nm以上とすることで更に向上する。被膜の厚みが300nmより小さい場合は、得られるカーボン繊維が平均的に細く、またコイル径が小さくなり、上記良質のカーボンナノコイルの収率が大きく低下する。
【0009】
被膜を構成する混合物における鉄とスズの元素比は、1:1〜6:1の範囲内にあることが好ましく、3:1が最も好ましい。鉄を6:1より多くすると、得られるカーボン繊維が平均的に細く、またコイル径が小さくなるので好ましくない。逆に、スズを1:1より多くすると、得られるカーボン繊維が平均的に太く、またコイル径が大きくなって、コイル径がマイクロオーダーに達するものが多く生成するようになる。更に、巻回しない針状のカーボン繊維が多く生成するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(実施形態)
本実施形態に係るカーボンナノコイル製造用触媒は、図1に示すように、球形のセラミックス微粒子1と、該微粒子1の表面に形成した被膜2で構成される。この触媒を加熱したうえで、アセチレンなどの炭化水素ガスを接触させることにより、被膜2の表面上でカーボンナノコイルが成長する。
【0011】
セラミックス微粒子1には、その化学的性質として、被膜2の形成時に該被膜2の構成物質と反応しないこと、および、カーボンナノコイルの製造時に炭化水素ガスと反応しないことが要求される。その具体例としては、酸化アルミニウム微粒子や酸化ジルコニウム微粒子などを挙げることができる。かかる微粒子1は、粒径を30〜100μmとすることが好ましい。これが30μmより小さいと、生成したカーボンナノコイルを触媒から分離する際の取り扱いが困難になる。100μmより大きいと、比表面積が小さくなって、触媒の単位量あたりのカーボンナノコイルの生成量が低下し、更に、後述する被膜2の形成時に破砕し易くなる。微粒子1を球形としたのは、厚みが均一な被膜2を得るためである。
【0012】
セラミックス微粒子1の表面には、メカノケミカル法などの機械加工法により上記被膜2を形成する。メカノケミカル法により被膜2を形成すると、セラミックス微粒子1に対して被膜2を強く密着させることができる。この被膜2は、厚みを300nm以上とすることで、良質とされるコイル径100nm以上のカーボンナノコイルを高い収率で得ることができる。この収率は、被膜の厚みを1000nm以上とすることで更に向上する。但し、被膜2の厚みがあまりに大きいと、被膜2が脱落するリスクが高くなり、更に、触媒の原材料コストの観点で好ましくないことから、3000nm以下とするのがよい。
【0013】
被膜2は、酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と酸化スズとの混合物からなる。図1の拡大図は、被膜2の断面を模式的に示したものであり、符号3が酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄の微粒子、符号4が酸化スズの微粒子である。鉄とスズそれぞれの働きはまだ明確ではないが、鉄とスズの元素比を1:1〜6:1の範囲内とすれば、コイル径100nm以上の良質のカーボンナノコイルを高い収率で得ることができる。この元素比は3:1が最も好ましい。なお、メカノケミカル処理前の酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と酸化スズの粒径は、いずれも200nm以下とするのがよい。これが200nmより大きいと、コイル状に巻回しない針状などのカーボン繊維が多く生成するためである。
【0014】
図2は、本実施形態に係る触媒を使用してカーボンナノコイルを製造するための化学気相成長装置10の一例を示している。符号11は管状の反応容器であり、一端にバルブ12が、他端に排気ポンプ13がそれぞれ設けられている。反応容器11の内部には、触媒が載置される試料台14の支持部と、該試料台14を加熱するヒータ15とが設けられている。なお、ヒータ15は反応容器11の外側に取り付けてあってもよい。
【0015】
上記の化学気相成長装置10の使用方法を説明すると、まず、表面に触媒を散布した試料台14を反応容器11内にセットしてから、排気ポンプ13を用いて反応容器11内を真空状態にする。次に、バルブ12を開いて反応容器11内にヘリウムを充満させてから、ヒータ15に通電して反応容器11内を加熱する。反応容器11内が予め設定してある反応温度に達すると、バルブ12を開いて、炭化水素ガスとヘリウムの混合ガスを反応容器11内に流す。これにより、炭化水素ガスが試料台14上の触媒に接触して、該触媒の表面にカーボンナノコイルが生成する。
【0016】
カーボンナノコイルの原料となる炭化水素ガスとしては、アセチレンやエチレンなどを用いることができる。混合ガスの流量は、反応容器11の大きさや触媒の量により適宜調整する。炭化水素ガスの流入後、反応容器11内における炭化水素ガスの濃度は3〜4%とする。反応温度は炭化水素ガスの種類などにより決まるが、概ね600〜800℃である。温度が600℃より低いと、カーボンナノコイルの成長速度が遅くなるか、あるいは成長しない。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0018】
(実施例1)
〈触媒の製造〉
触媒の原材料として、粒径60±10μmの酸化アルミニウム(Al23 )400g、粒径100nmの酸化鉄(Fe23 )9.3g、および粒径50nmの酸化スズ(SnO2 )7.0gを使用した。この原材料における鉄とスズの元素比は5:2であった。これらの原材料を、ホソカワミクロン(株)製メカノケミカル処理装置(機械名称:ノビルタ NOB−130)を用い、回転数1720rpm、ギャップ1.5mmの条件で10分間処理して、酸化アルミニウムの表面に酸化鉄と酸化スズの混合物の被膜が形成されたカーボンナノコイル製造用触媒を得た。かかる被膜の厚みは約1000nm、被膜における鉄とスズの元素比は3:1であった。なお、被膜の厚みは、FIB(収束イオンビーム加工装置)を用いて被膜をエッチングし、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて測定した。
【0019】
〈カーボンナノコイルの製造〉
上記のように製造した触媒の粉末2.0gを用いて、図2に示した化学気相成長装置でカーボンナノコイルを製造した。この装置の使用方法は先に説明したとおりである。炭化水素ガスにはアセチレンを用い、反応温度は700℃に設定した。アセチレンとヘリウムの混合ガスは、流量80sccmで15分間流した。混合ガスにおけるアセチレンとヘリウムの濃度比は96.5:3.5であった。
【0020】
(実施例2)
酸化鉄に代えて粒径50nmのオキシ水酸化鉄(FeOOH)10.3gを使用した以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は5:2であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約1000nm、被膜における鉄とスズの元素比は3:1であった。
【0021】
(実施例3)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ5.6g、14gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は3:4であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約1000nm、被膜における鉄とスズの元素比は1:1であった。
【0022】
(実施例4)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ10.9g、4.1gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は5:1であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約1000nm、被膜における鉄とスズの元素比は6:1であった。
【0023】
(実施例5)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ3.1g、2.3gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は5:2であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約300nm、被膜における鉄とスズの元素比は3:1であった。
【0024】
(実施例6)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ1.68g、4.2gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は3:4であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは300nm、被膜における鉄とスズの元素比は1:1であった。
【0025】
(実施例7)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ3.27g、1.23gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は5:1であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約300nm、被膜における鉄とスズの元素比は6:1であった。
【0026】
(実施例8)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ27.8g、21.1gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は5:2であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約3000nm、被膜における鉄とスズの元素比は3:1であった。
【0027】
(比較例1)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ11.2g、3.0gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は7:1であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約1000nm、被膜における鉄とスズの元素比は8:1であった。
【0028】
(比較例2)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ4.3g、16.4gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は1:2であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約1000nm、被膜における鉄とスズの元素比は1:2であった。
【0029】
(比較例3)
酸化鉄と酸化スズの使用量をそれぞれ1.9g、1.4gとした以外は、実施例1と同様にして触媒およびカーボンナノコイルを製造した。触媒の原材料における鉄とスズの元素比は5:2であった。また、得られた触媒の被膜の厚みは約200nm、被膜における鉄とスズの元素比は3:1であった。
【0030】
(評価)
以下では、上記各実施例および各比較例に係る触媒を評価した結果について説明する。具体的には、カーボンナノコイルが生成した触媒の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、1視野内で視認できる「コイル径100nm以上1000nm未満」「コイル径100nm未満」「針状」の各種カーボン繊維の数量を計測し、その数量に基づき触媒の良否を評価した。その結果を次の表1に示す。評価の欄の◎、○、△は、この順に評価が高いことを意味している。また、実施例1および比較例1に係る走査型電子顕微鏡写真を図3および図4に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すように、被膜の厚みが1000nm以上、且つ被膜における鉄とスズの元素比が3:1である実施例1、2および8において、良質とされるコイル径100nm以上のカーボンナノコイルを最も多く得ることができた。実施例1に係る触媒が優れていることは、図3の写真からも確認することができる。実施例1と実施例2を比較すれば、酸化鉄とオキシ水酸化鉄のどちらを使用してもほぼ同等の効果が得られることが分かり、実施例1と実施例8を比較すれば、被膜を1000nmより厚くしても触媒としての機能はあまり向上しないことが分かる。
【0033】
実施例1に比べてスズの量が多い実施例3では、コイル径100nm以上のカーボンナノコイルの収量が減少し、コイル状に巻回しない針状のカーボン繊維も少しではあるが確認された。なお、更にスズの量が多い比較例2では、上記収量が更に減少し、また、針状のカーボン繊維が多く生成しており、好ましいものではなかった。
【0034】
実施例1に比べて鉄の量が多い実施例4では、コイル径100nm以上のカーボンナノコイルの収量が減少するとともに、これよりも有用性に劣るコイル径100nm未満のカーボンナノコイルが少しではあるが確認された。なお、更に鉄の量が多い比較例1では、生成されたカーボンナノコイルの殆どでコイル径が100nm未満となっており、好ましいものではなかった(図4参照)。
【0035】
被膜の厚みを300nmとした実施例5〜7は、同1000nmの実施例1、3、4と比べて、コイル径100nm以上のカーボンナノコイルの収量が減少するとともに、コイル径100nm未満のカーボンナノコイルの収量が増加した。なお、被膜の厚みが200nmと更に小さい比較例3では、生成されたカーボンナノコイルの殆どでコイル径が100nm未満となっており、好ましいものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る触媒を模式的に示す図である。
【図2】化学気相成長装置の全体構成図である。
【図3】実施例1に係る触媒のカーボンナノコイル生成後の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1に係る触媒のカーボンナノコイル生成後の走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0037】
1 セラミックス微粒子
2 被膜
3 酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄の微粒子
4 酸化スズの微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス微粒子の表面に、酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と、酸化スズとの混合物からなる被膜が形成されており、
前記被膜の厚みが300nm以上であり、
前記被膜における鉄とスズの元素比が1:1〜6:1の範囲内にあることを特徴とするカーボンナノコイル製造用触媒。
【請求項2】
前記被膜の厚みが1000nm以上である請求項1記載のカーボンナノコイル製造用触媒。
【請求項3】
前記被膜における鉄とスズの元素比が3:1である請求項1または2記載のカーボンナノコイル製造用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−240874(P2009−240874A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88692(P2008−88692)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(508051942)株式会社ホーピット (2)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】