カーボンナノチューブのカイラリティ制御
【課題】半導体性又は金属性のSWNTの一方のみ、すなわちカイラリティの制御されたSWNTの選択的な製造法を提供する。
【解決手段】片浦プロットから求められた所定の直径の単層カーボンナノチューブの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長の自由電子レーザーを照射しながら、アルコール化学気相成長法によって単層カーボンナノチューブを生成、成長させることを特徴とするカイラリティの制御された単層カーボンナノチューブの製造法。
【解決手段】片浦プロットから求められた所定の直径の単層カーボンナノチューブの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長の自由電子レーザーを照射しながら、アルコール化学気相成長法によって単層カーボンナノチューブを生成、成長させることを特徴とするカイラリティの制御された単層カーボンナノチューブの製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カイラリティが制御された半導体性又は金属性の単層カーボンナノチューブの選択的な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを筒状に巻いた構造を有する、直径約1〜数nm、長さ1μm以上の物質であり、高い機械的強度と柔軟性、化学的安定性を有するため多くの技術分野での応用が期待されている。特に単層カーボンナノチューブ(以下「SWNT」ということがある)は、巻き方、すなわちカイラリティの相違(カイラル指数の相違)により半導体性にも金属性にもなることから、電気電子素子などへの応用が期待されている。
【0003】
当該SWNTのカイラリティ制御手段については、カイラリティが制御されていない混合型のSWNTを製造後、分離する技術がいくつか報告されている(特許文献1〜3)。しかし、この方法では、分離性が十分でないため高純度にカイラリティが制御されたSWNTが得られないとともに、必要な所望のカイラリティを有さないSWNTが残存する。
【0004】
そこで、最近、比較的特性のそろったSWNTを製造しようとする試みがなされている。例えば、触媒担持体の孔を利用してカイラリティ分布を狭める方法(非特許文献1)が検討されているが、SWNTの直径を単一にすることは難しく、ましてやカイラリティ特性を均一にすることには至っていない。また、強い電界印加のものとでは、金属SWNTの大きな分極率を反映して、選択的な成長を促進することの可能性は論じられている(非特許文献2)。しかし、この方法では、本質的に分極率の小さな半導体SWNTに対しては適用できず、ましてやカイラリティの制御は考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−506643号公報
【特許文献2】特開2008−55375号公報
【特許文献3】特開2009−13054号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】丸山茂夫、表面科学,25(2004)318
【非特許文献2】E.Joselevick and C.M.Lieber,NANO LETTERS,2(2002)1137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、半導体性又は金属性のSWNTの一方のみ、すなわちカイラリティの制御されたSWNTの選択的な製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、アルコール化学気相成長法に着目して検討したところ、この方法によれば均一な直径を有するSWNTが得られることが判明した。しかし、この方法で得られる直径が均一のSWNTはカイラリティが制御されず、得られたSWNTは一定のカイラル指数を有さない。そこで、本発明者は、さらに検討し、アルコール化学気相成長法において自由電子レーザーを照射すれば一定のカイラル指数を示すSWNTが選択的に生成、成長することを見出した。そして、SWNTのカイラリティの制御に関し、さらに検討を進めたところ、照射する自由電子レーザーの波長を片浦プロットから求められた所定の直径のSWNTの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長に調整すれば、一定のカイラル指数を有し、カイラリティが正確に制御されたSWNTのみが選択的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、片浦プロットから求められた所定の直径の単層カーボンナノチューブの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長の自由電子レーザーを照射しながら、アルコール化学気相成長法によって単層カーボンナノチューブを生成、成長させることを特徴とするカイラリティの制御された単層カーボンナノチューブの製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、カイラリティの制御されたSWNT、すなわち半導体SWNT又は金属SWNTの一方のみを選択的、かつ高純度で得ることができる。例えば半導体SWNTが選択的に大量生産可能になれば、SWNTの電気電子素子への応用が飛躍的に進行すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】片浦プロットを示す図である。図中白いプロットは半導体SWNT、黒いプロットは金属SWNTである。
【図2】ACCVD装置の概略図である。
【図3】参考例1のACCVD反応条件を示す図である。
【図4】参考例1で得られたSWNTのラマンスペクトルを示す。
【図5】参考例1で得られたSWNTのラマンスペクトルを示す。
【図6】参考例1で得られたSWNTのSEM像を示す。
【図7】実施例1のACCVD反応条件を示す図である。
【図8】実施例1で得られたSWNTのラマンスペクトル(532nm励起)を示す。
【図9】実施例1で得られたSWNTのラマンスペクトル(785nm励起)を示す。
【図10】実施例1で得られたSWNTのラマンスペクトル(照射波長)を示す。
【図11】実施例2で得られたSWNTのラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のカイラリティの制御されたSWNTの製造法は、特定の波長の自由電子レーザーを照射しながら、アルコール化学気相成長法によってSWNTを生成、成長させることを特徴とする。ここで、自由電子レーザー(FEL)は、自由電子のビームと電磁場との共鳴的な相互作用によってコヒーレント光を発生させる方式のレーザーである。自由電子レーザー(FEL)の特徴は、電気的な操作によって波長を自由に変えることができ(0.8〜5μmの可変波長)、数面フェムト秒のミクロパルスなので熱による破壊がなく、エネルギー損失が少なく効率的である。自由電子レーザー(FEL)照射施設で内外に開放している施設は、国内でも3カ所、国外でも約10施設存在する。
【0013】
本発明におけるFELの波長は、片浦プロットから求められる所定の直径のSWNTの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長である。片浦プロットは、カーボンナノチューブにおける光学応答遷移エネルギーと直径との関係を示したプロットであり、H.kataura et al.Synthetic Metals,103,2555(1999)に記載されたプロットであり(図1)、物理学、化学分野における用語として広く知られている。片浦プロットから、所定の直径、例えば1.1nmの直径の半導体SWNT(図1中、白いプロット)遷移エネルギーは、約0.9eV、1.5eVであるから、光吸収波長は約1400nm、800nmである(図1参照)。従って、直径1.1nmの半導体SWNTを製造しようとした場合、照射するFELの波長は約1400nm又は800nmとなる。なお、この波長は正確に1400nm又は800nmである必要はないので、±100nm、好ましくは±50nmの幅があってもよい。
また、直径1.1nmの金属SWNT(図1中、黒プロット)の遷移エネルギーは、約2.2±0.1eV、0.56±0.3eVであるから、光吸収波長は約560±30nmである。従って、直径1.1nmの金属SWNTを製造しようとした場合に照射するFELの波長は約560±30nmである。
【0014】
このように、照射するFELの波長は、SWNTにおける光学応答遷移エネルギーと直径との関係を示した片浦プロットから、目的とするSWNTの直径に従って定めることができる。なお、目的とするSWNTの直径は、アルコール化学気相成長法の反応条件によって決まるので、FEL照射をしないでアルコール化学気相成長法によりカイラリティの制御されていないSWNTを製造し、その直径を測定しておけばよい。
【0015】
FELの照射は、アルコール化学気相成長反応の間行うのが好ましい。波長以外の照射条件は特に制限されないが、エネルギー強度は0.4±0.2mJ/パルス、レーザー照射直径は5mm、2Hzで行うのが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記特定の波長のFELを照射する以外は、通常のアルコール化学気相成長法に従ってSWNTの生成、成長を行えばよい。アルコール化学気相成長法(ACCVD)は、アルコールを炭素源とした化学的気相蒸着法(chemical vapor deposition)であり、洗浄した基板上に金属触媒膜を形成し、この基板上にアルコールを供給して、減圧下500〜1000℃に加熱することによりアルコールをSWNTに変換させる。より具体的には、洗浄した基板上に金属触媒膜を形成し、次いで500〜1000℃に加熱し、減圧下水素ガスを供給して還元し、次にアルコールを供給してアルコールをSWNTに変換させればよい。本発明においては、この反応中前記特定波長のFELを照射する。
【0017】
基板としては、石英ガラス、耐熱ガラス等のガラス板、シリカ、アルミナ板等が用いられるが、石英ガラスが特に好ましい。
【0018】
ACCVDに用いられる金属触媒としては、主にFe、Co、Niなどが挙げられ、特にCoが好ましい。また、助触媒も使用することができ、助触媒としては、Cr、Mo、W又はその酸化物が挙げられる。
【0019】
基板の洗浄は、アセトン、エタノール等で行い、その後300〜600℃で3〜10分間熱処理するのが好ましい。
【0020】
基板上への金属触媒の成膜は、基板を金属触媒含有液に浸漬する、いわゆるディップコート法によればよい。例えば、5〜20分基板を金属触媒含有溶液に浸漬し、次いでゆっくりと引き上げればよい。
より具体的には、金属触媒及び必要に応じて助触媒をアルコール、水等の溶媒に加えて、金属触媒含有液を製造する。このとき、金属触媒濃度(助触媒含む)は0.01〜0.5質量%とするのが好ましい。また、金属触媒含有液は、超音波処理を1〜2時間行い、均一に分散させるのが好ましい。
次いで、基板を金属触媒含有液に浸漬し、数分後に基板を引き上げる。このとき基板の引き上げ速度は、100〜800μm/s、さらに300〜800μm/s、特に400〜700μm/sが好ましい。
【0021】
次に、金属触媒を保持した基板をACCVD装置内に設置し、FEL照射下にACCVDを行う。図2にACCVD装置の一例を示す。R.P.は真空ポンプを示し、FELはFEL照射を示す。Arはアルゴンガス、H2は水素ガス、C2H5OHはエタノールを示す。
【0022】
金属触媒を保持した基板をACCVD装置内に設置した後、反応部に不活性ガス(例えばアルゴンガス)及び水素ガスを供給し、かつ減圧とし、500〜1000℃に加熱する。このとき、圧力は1〜10kPaとし、アルゴンガスは100〜300cc/min、水素ガスは10〜50cc/minで供給するのが好ましい。500〜1000℃までの昇温時間は5〜15分程度が好ましい。
【0023】
次いで圧力を約1000Paとし、500〜1000℃でアルゴンガス及び水素ガスを供給して還元反応を行う。このとき、アルゴンガスは100〜300cc/min、水素ガスは10〜50cc/min供給し、15〜60分還元条件とするのが好ましい。
【0024】
次に、アルゴンガス及び水素ガスの供給をやめ、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを供給し、700〜1000Pa下で500〜1000℃でカーボンナノチューブ生成、成長反応を行う。アルコールの供給は5000cc/min以上行い、20〜40分行うのが好ましい。反応終了後は、徐々に圧力をもどし、温度を下げればよい。
【0025】
目的とするSWNTが生成しているか否かは、走査型電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡及びラマンスペクトルを測定し、形状とカイラル指数を確認すればよい。直径1.1nmの半導体SWNTが得られた場合、カイラル指数は(14,0),(10,6),(9,7)か(11,4)である。また、直径1.1nmの金属SWNTが得られた場合カイラル指数は(12,3)か(8,8)である。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0027】
参考例1
(1)石英基板をアセトンで3分、さらにアセトンで3分、エタノールで3分超音波洗浄し、次いで500℃で5分間加熱処理した。
(2)酢酸コバルト(Co(CH3COO)2・4H2O)84.5mg及び酢酸モリブデン(Mo(CH3COO)2)44.5mgをエタノール20gに溶解し(濃度0.1質量%)、この溶液を超音波洗浄で2時間行った。
(3)得られた触媒含有液に石英基板を浸漬し、10分後に600μm/sの速度でゆっくり引き上げた。
【0028】
(4)触媒を保持した基板を図2のACCVD装置の反応部に設置し、図3の条件(FEL照射はしていない)で、減圧昇温、水素ガス供給(還元)、エタノール供給(CNT成長)を行い、SWNTを成長させた。
(5)得られたSWNTのラマンスペクトルを図4及び図5に、SEM像を図6にそれぞれ示す。SWNTの直径は低波数側のラマンスペクトルのピーク値であるRBMを式(1)に代入して求めることができる。
248cm-1/RBM ・・・・(1)
図4〜図6から、低波数側のラマンスペクトルのピーク値は225cm-1であり、式(1)から直径1.1nmのSWNTが得られたことがわかる。ただし、この反応で得られたSWNTは、カイラリティの制御は全くされていない。
【0029】
実施例1
(1)参考例1の結果から、参考例1のACCVD条件では直径1.1nmのカイラリティ制御されていないSWNTが得られることが判明した。そこで、図1の片浦プロットから、直径1.1nmのカイラリティの制御された半導体SWNTの製造をするためのFEL照射波長を考察した。図1の片浦プロットより直径1.1nmの半導体SWNTの遷移エネルギーは、約0.9eV、1.5eVである。従って光吸収波長は約1350nm、800nmである。そこで、1300〜1450nmと800nmのFEL照射してACCVD法を行うこととした。
【0030】
(2)触媒保持基板を反応部に設置した後、上記の波長のFELを照射しながら、図7の条件(FEL照射以外は図3と同じ)で、SWNT生成、成長反応を行った。
【0031】
(3)得られたSWNTのラマンスペクトルを図8、図9及び図10に示す。図8は励起波長532nmのラマンスペクトルである。図9は励起波長785nmのラマンスペクトルである。図10は、FEL照射波長とラマンスペクトルとの関係を示す。
その結果、1300nm、1400nm及び1450nmのFEL照射で直径1.1nmの半導体SWNTが選択的に得られたことが判明した。
この結果は、図1の片浦プロットの結果とよく一致した。
【0032】
実施例2
FEL照射波長を800nmとする以外は、実施例1と同様にしてSWNTを製造した。得られたSWNTのラマンスペクトルを図11に示す。図11から、800nmのFEL照射により直径1.1nmの半導体SWNTが選択的に得られることが判明した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カイラリティが制御された半導体性又は金属性の単層カーボンナノチューブの選択的な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを筒状に巻いた構造を有する、直径約1〜数nm、長さ1μm以上の物質であり、高い機械的強度と柔軟性、化学的安定性を有するため多くの技術分野での応用が期待されている。特に単層カーボンナノチューブ(以下「SWNT」ということがある)は、巻き方、すなわちカイラリティの相違(カイラル指数の相違)により半導体性にも金属性にもなることから、電気電子素子などへの応用が期待されている。
【0003】
当該SWNTのカイラリティ制御手段については、カイラリティが制御されていない混合型のSWNTを製造後、分離する技術がいくつか報告されている(特許文献1〜3)。しかし、この方法では、分離性が十分でないため高純度にカイラリティが制御されたSWNTが得られないとともに、必要な所望のカイラリティを有さないSWNTが残存する。
【0004】
そこで、最近、比較的特性のそろったSWNTを製造しようとする試みがなされている。例えば、触媒担持体の孔を利用してカイラリティ分布を狭める方法(非特許文献1)が検討されているが、SWNTの直径を単一にすることは難しく、ましてやカイラリティ特性を均一にすることには至っていない。また、強い電界印加のものとでは、金属SWNTの大きな分極率を反映して、選択的な成長を促進することの可能性は論じられている(非特許文献2)。しかし、この方法では、本質的に分極率の小さな半導体SWNTに対しては適用できず、ましてやカイラリティの制御は考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−506643号公報
【特許文献2】特開2008−55375号公報
【特許文献3】特開2009−13054号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】丸山茂夫、表面科学,25(2004)318
【非特許文献2】E.Joselevick and C.M.Lieber,NANO LETTERS,2(2002)1137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、半導体性又は金属性のSWNTの一方のみ、すなわちカイラリティの制御されたSWNTの選択的な製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、アルコール化学気相成長法に着目して検討したところ、この方法によれば均一な直径を有するSWNTが得られることが判明した。しかし、この方法で得られる直径が均一のSWNTはカイラリティが制御されず、得られたSWNTは一定のカイラル指数を有さない。そこで、本発明者は、さらに検討し、アルコール化学気相成長法において自由電子レーザーを照射すれば一定のカイラル指数を示すSWNTが選択的に生成、成長することを見出した。そして、SWNTのカイラリティの制御に関し、さらに検討を進めたところ、照射する自由電子レーザーの波長を片浦プロットから求められた所定の直径のSWNTの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長に調整すれば、一定のカイラル指数を有し、カイラリティが正確に制御されたSWNTのみが選択的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、片浦プロットから求められた所定の直径の単層カーボンナノチューブの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長の自由電子レーザーを照射しながら、アルコール化学気相成長法によって単層カーボンナノチューブを生成、成長させることを特徴とするカイラリティの制御された単層カーボンナノチューブの製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、カイラリティの制御されたSWNT、すなわち半導体SWNT又は金属SWNTの一方のみを選択的、かつ高純度で得ることができる。例えば半導体SWNTが選択的に大量生産可能になれば、SWNTの電気電子素子への応用が飛躍的に進行すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】片浦プロットを示す図である。図中白いプロットは半導体SWNT、黒いプロットは金属SWNTである。
【図2】ACCVD装置の概略図である。
【図3】参考例1のACCVD反応条件を示す図である。
【図4】参考例1で得られたSWNTのラマンスペクトルを示す。
【図5】参考例1で得られたSWNTのラマンスペクトルを示す。
【図6】参考例1で得られたSWNTのSEM像を示す。
【図7】実施例1のACCVD反応条件を示す図である。
【図8】実施例1で得られたSWNTのラマンスペクトル(532nm励起)を示す。
【図9】実施例1で得られたSWNTのラマンスペクトル(785nm励起)を示す。
【図10】実施例1で得られたSWNTのラマンスペクトル(照射波長)を示す。
【図11】実施例2で得られたSWNTのラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のカイラリティの制御されたSWNTの製造法は、特定の波長の自由電子レーザーを照射しながら、アルコール化学気相成長法によってSWNTを生成、成長させることを特徴とする。ここで、自由電子レーザー(FEL)は、自由電子のビームと電磁場との共鳴的な相互作用によってコヒーレント光を発生させる方式のレーザーである。自由電子レーザー(FEL)の特徴は、電気的な操作によって波長を自由に変えることができ(0.8〜5μmの可変波長)、数面フェムト秒のミクロパルスなので熱による破壊がなく、エネルギー損失が少なく効率的である。自由電子レーザー(FEL)照射施設で内外に開放している施設は、国内でも3カ所、国外でも約10施設存在する。
【0013】
本発明におけるFELの波長は、片浦プロットから求められる所定の直径のSWNTの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長である。片浦プロットは、カーボンナノチューブにおける光学応答遷移エネルギーと直径との関係を示したプロットであり、H.kataura et al.Synthetic Metals,103,2555(1999)に記載されたプロットであり(図1)、物理学、化学分野における用語として広く知られている。片浦プロットから、所定の直径、例えば1.1nmの直径の半導体SWNT(図1中、白いプロット)遷移エネルギーは、約0.9eV、1.5eVであるから、光吸収波長は約1400nm、800nmである(図1参照)。従って、直径1.1nmの半導体SWNTを製造しようとした場合、照射するFELの波長は約1400nm又は800nmとなる。なお、この波長は正確に1400nm又は800nmである必要はないので、±100nm、好ましくは±50nmの幅があってもよい。
また、直径1.1nmの金属SWNT(図1中、黒プロット)の遷移エネルギーは、約2.2±0.1eV、0.56±0.3eVであるから、光吸収波長は約560±30nmである。従って、直径1.1nmの金属SWNTを製造しようとした場合に照射するFELの波長は約560±30nmである。
【0014】
このように、照射するFELの波長は、SWNTにおける光学応答遷移エネルギーと直径との関係を示した片浦プロットから、目的とするSWNTの直径に従って定めることができる。なお、目的とするSWNTの直径は、アルコール化学気相成長法の反応条件によって決まるので、FEL照射をしないでアルコール化学気相成長法によりカイラリティの制御されていないSWNTを製造し、その直径を測定しておけばよい。
【0015】
FELの照射は、アルコール化学気相成長反応の間行うのが好ましい。波長以外の照射条件は特に制限されないが、エネルギー強度は0.4±0.2mJ/パルス、レーザー照射直径は5mm、2Hzで行うのが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記特定の波長のFELを照射する以外は、通常のアルコール化学気相成長法に従ってSWNTの生成、成長を行えばよい。アルコール化学気相成長法(ACCVD)は、アルコールを炭素源とした化学的気相蒸着法(chemical vapor deposition)であり、洗浄した基板上に金属触媒膜を形成し、この基板上にアルコールを供給して、減圧下500〜1000℃に加熱することによりアルコールをSWNTに変換させる。より具体的には、洗浄した基板上に金属触媒膜を形成し、次いで500〜1000℃に加熱し、減圧下水素ガスを供給して還元し、次にアルコールを供給してアルコールをSWNTに変換させればよい。本発明においては、この反応中前記特定波長のFELを照射する。
【0017】
基板としては、石英ガラス、耐熱ガラス等のガラス板、シリカ、アルミナ板等が用いられるが、石英ガラスが特に好ましい。
【0018】
ACCVDに用いられる金属触媒としては、主にFe、Co、Niなどが挙げられ、特にCoが好ましい。また、助触媒も使用することができ、助触媒としては、Cr、Mo、W又はその酸化物が挙げられる。
【0019】
基板の洗浄は、アセトン、エタノール等で行い、その後300〜600℃で3〜10分間熱処理するのが好ましい。
【0020】
基板上への金属触媒の成膜は、基板を金属触媒含有液に浸漬する、いわゆるディップコート法によればよい。例えば、5〜20分基板を金属触媒含有溶液に浸漬し、次いでゆっくりと引き上げればよい。
より具体的には、金属触媒及び必要に応じて助触媒をアルコール、水等の溶媒に加えて、金属触媒含有液を製造する。このとき、金属触媒濃度(助触媒含む)は0.01〜0.5質量%とするのが好ましい。また、金属触媒含有液は、超音波処理を1〜2時間行い、均一に分散させるのが好ましい。
次いで、基板を金属触媒含有液に浸漬し、数分後に基板を引き上げる。このとき基板の引き上げ速度は、100〜800μm/s、さらに300〜800μm/s、特に400〜700μm/sが好ましい。
【0021】
次に、金属触媒を保持した基板をACCVD装置内に設置し、FEL照射下にACCVDを行う。図2にACCVD装置の一例を示す。R.P.は真空ポンプを示し、FELはFEL照射を示す。Arはアルゴンガス、H2は水素ガス、C2H5OHはエタノールを示す。
【0022】
金属触媒を保持した基板をACCVD装置内に設置した後、反応部に不活性ガス(例えばアルゴンガス)及び水素ガスを供給し、かつ減圧とし、500〜1000℃に加熱する。このとき、圧力は1〜10kPaとし、アルゴンガスは100〜300cc/min、水素ガスは10〜50cc/minで供給するのが好ましい。500〜1000℃までの昇温時間は5〜15分程度が好ましい。
【0023】
次いで圧力を約1000Paとし、500〜1000℃でアルゴンガス及び水素ガスを供給して還元反応を行う。このとき、アルゴンガスは100〜300cc/min、水素ガスは10〜50cc/min供給し、15〜60分還元条件とするのが好ましい。
【0024】
次に、アルゴンガス及び水素ガスの供給をやめ、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを供給し、700〜1000Pa下で500〜1000℃でカーボンナノチューブ生成、成長反応を行う。アルコールの供給は5000cc/min以上行い、20〜40分行うのが好ましい。反応終了後は、徐々に圧力をもどし、温度を下げればよい。
【0025】
目的とするSWNTが生成しているか否かは、走査型電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡及びラマンスペクトルを測定し、形状とカイラル指数を確認すればよい。直径1.1nmの半導体SWNTが得られた場合、カイラル指数は(14,0),(10,6),(9,7)か(11,4)である。また、直径1.1nmの金属SWNTが得られた場合カイラル指数は(12,3)か(8,8)である。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0027】
参考例1
(1)石英基板をアセトンで3分、さらにアセトンで3分、エタノールで3分超音波洗浄し、次いで500℃で5分間加熱処理した。
(2)酢酸コバルト(Co(CH3COO)2・4H2O)84.5mg及び酢酸モリブデン(Mo(CH3COO)2)44.5mgをエタノール20gに溶解し(濃度0.1質量%)、この溶液を超音波洗浄で2時間行った。
(3)得られた触媒含有液に石英基板を浸漬し、10分後に600μm/sの速度でゆっくり引き上げた。
【0028】
(4)触媒を保持した基板を図2のACCVD装置の反応部に設置し、図3の条件(FEL照射はしていない)で、減圧昇温、水素ガス供給(還元)、エタノール供給(CNT成長)を行い、SWNTを成長させた。
(5)得られたSWNTのラマンスペクトルを図4及び図5に、SEM像を図6にそれぞれ示す。SWNTの直径は低波数側のラマンスペクトルのピーク値であるRBMを式(1)に代入して求めることができる。
248cm-1/RBM ・・・・(1)
図4〜図6から、低波数側のラマンスペクトルのピーク値は225cm-1であり、式(1)から直径1.1nmのSWNTが得られたことがわかる。ただし、この反応で得られたSWNTは、カイラリティの制御は全くされていない。
【0029】
実施例1
(1)参考例1の結果から、参考例1のACCVD条件では直径1.1nmのカイラリティ制御されていないSWNTが得られることが判明した。そこで、図1の片浦プロットから、直径1.1nmのカイラリティの制御された半導体SWNTの製造をするためのFEL照射波長を考察した。図1の片浦プロットより直径1.1nmの半導体SWNTの遷移エネルギーは、約0.9eV、1.5eVである。従って光吸収波長は約1350nm、800nmである。そこで、1300〜1450nmと800nmのFEL照射してACCVD法を行うこととした。
【0030】
(2)触媒保持基板を反応部に設置した後、上記の波長のFELを照射しながら、図7の条件(FEL照射以外は図3と同じ)で、SWNT生成、成長反応を行った。
【0031】
(3)得られたSWNTのラマンスペクトルを図8、図9及び図10に示す。図8は励起波長532nmのラマンスペクトルである。図9は励起波長785nmのラマンスペクトルである。図10は、FEL照射波長とラマンスペクトルとの関係を示す。
その結果、1300nm、1400nm及び1450nmのFEL照射で直径1.1nmの半導体SWNTが選択的に得られたことが判明した。
この結果は、図1の片浦プロットの結果とよく一致した。
【0032】
実施例2
FEL照射波長を800nmとする以外は、実施例1と同様にしてSWNTを製造した。得られたSWNTのラマンスペクトルを図11に示す。図11から、800nmのFEL照射により直径1.1nmの半導体SWNTが選択的に得られることが判明した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
片浦プロットから求められた所定の直径の単層カーボンナノチューブの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長の自由電子レーザーを照射しながら、アルコール化学気相成長法によって単層カーボンナノチューブを生成、成長させることを特徴とするカイラリティの制御された単層カーボンナノチューブの製造法。
【請求項2】
半導体単層カーボンナノチューブ又は金属単層カーボンナノチューブを選択的に生成、成長させるものである請求項1記載の製造法。
【請求項3】
単層カーボンナノチューブの所定の直径が、0.8〜1.6nmから選択されるものである請求項1又は2記載の製造法。
【請求項1】
片浦プロットから求められた所定の直径の単層カーボンナノチューブの遷移エネルギーに対応する光吸収波長又はその近似の波長の自由電子レーザーを照射しながら、アルコール化学気相成長法によって単層カーボンナノチューブを生成、成長させることを特徴とするカイラリティの制御された単層カーボンナノチューブの製造法。
【請求項2】
半導体単層カーボンナノチューブ又は金属単層カーボンナノチューブを選択的に生成、成長させるものである請求項1記載の製造法。
【請求項3】
単層カーボンナノチューブの所定の直径が、0.8〜1.6nmから選択されるものである請求項1又は2記載の製造法。
【図3】
【図9】
【図11】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図9】
【図11】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【公開番号】特開2010−275168(P2010−275168A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131857(P2009−131857)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2009年(平成21年)春季第56回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」において文書をもって発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2009年(平成21年)春季第56回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」において文書をもって発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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