説明

カーボンナノチューブの製造方法と精製方法、カーボンナノチューブ、およびカーボンナノチューブ素子

【課題】カーボンナノチューブを損傷することなく、特にカーボンナノチューブの側壁を損傷せずに、カーボンナノチューブを製造・精製できる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)触媒と必要に応じた助触媒の存在下でアーク放電法によりカーボンナノチューブを製造する工程、(b)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と、触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質とを配位結合させて錯体を得る工程、および(c)前記錯体を除去する工程を含むカーボンナノチューブの製造方法、および精製方法に関する。また、前記方法により得られるカーボンナノチューブおよび該カーボンナノチューブを用いる素子にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(CNT)の製造方法、カーボンナノチューブ(CNT)の精製方法、およびこれらの方法により得られるカーボンナノチューブ並びに該カーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ素子に関し、詳しくはアーク放電法によりカーボンナノチューブを製造する方法、カーボンナノチューブを精製する方法、これらの方法により得られるカーボンナノチューブ、および該カーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ素子に関する。慣用の方法と違って、本発明の製造方法または精製方法では、アーク放電法で用いられる触媒と任意の助触媒は配位結合工程により除去される。
【背景技術】
【0002】
一次元カーボンナノ材料として、カーボンナノチューブ(CNT)は優れた電気学、力学、化学特性を有するため、日増しに注目されている。ナノ材料についての研究が深くなるにつれて、カーボンナノチューブは、例えば電界放出電子源、ナノフィールドエフェクトトランジスター、水素貯蔵材料および高強度繊維などの広い範囲で応用されるようになっている。
【0003】
カーボンナノチューブは、チューブ壁を形成する炭素原子の層数によって、単層カーボンナノチューブ(SWNT)と多層カーボンナノチューブ(MWNT)に分けられ、多層カーボンナノチューブは直径の異なる単層カーボンナノチューブからなるものだと理解してもよい。単層カーボンナノチューブと層数の少ない多層カーボンナノチューブは、電気特性、熱特性、機械および化学特性などにおいて優れた性能を持つため、実際の研究と応用において、重要な地位を占める。
【0004】
カーボンナノチューブを製造する慣用の方法としては、アーク放電法、化学蒸着法(CVD)、レーザー蒸発法などが挙げられる。アーク放電法は、高品質のカーボンナノチューブを大規模に製造する今までの最も効果的な方法の一つである。
【0005】
しかし、アーク放電法でカーボンナノチューブを製造するとき、通常黒鉛微粒子や、無定形炭素、およびその他の形のカーボンナノ粒子のような不純物も生成し、また金属触媒の粒子と必要に応じた助触媒も存在する。これらの不純物はカーボンナノチューブと混合しており、カーボンナノチューブについてのさらなる研究と応用に対して極める不便をもたらしている。そこで、純度のより高いカーボンナノチューブを得るために、製造されたカーボンナノチューブ初製品を各物理化学的な方法により精製するのが一般的である。よく使われる化学精製方法として、液相酸化方法と気相酸化方法が挙げられる。例えば、K.Tohji.T.Gotoらにより提案された水熱法(K.Tohji.T.Goto et al.J.Phys.Chem.1996,101,1974)、Z.Shiらに提案された気相酸化法(Z.Shi et al.Solid State Commun.1999,112,35)、E.Mizogutiらに提案された接触酸化法(E.Mizoguti et al.Chem.Phys.Let.2000,321,297)。それに、硝酸還流法についても広範な研究があり、例えば、J.L.Zimmermanらによる研究が挙げられる(J.L.Zimmerman et al.Chem.Mater.2000,12,1361)。また、初期選択の酸化で無定形炭素を除去して、濃硝酸で還流する精製方法によって、反応生成物の中の金属を効果的に除去できることはすでに発見されている(K.Tohji et al.Nature 1996,383,679参照)。
【0006】
これらの精製方法は本分野の既知の方法であり、無定形炭素や金属触媒粒子などの不純物より安定していて、酸化し難いというカーボンナノチューブの特性を利用したので、生成物からこれらの不純物を除去でき、精製できるのである。気相酸化法として、酸化雰囲気によって酸素(あるいは空気)酸化法と二酸化炭素酸化法などが挙げられる。液相酸化法でよく用いられる液相酸化剤として、過マンガン酸カリウム、硝酸溶液、または重クロム酸カリウムなどが挙げられる。このほか、遠心分離方法とマイクロろ過などの物理方法でカーボンナノチューブの分離が行われる。これらの方法を単独で使用してもよいし、その中の一種または多種の組合せを使用してもよい。たとえば、空気酸化法のような気相酸化法で除去しやすい無定形炭素などの不純物をカーボンナノチューブから除去することができ、硝酸酸化法のような液相酸化法で除去し難い金属触媒粒子などの不純物をカーボンナノチューブから除去することができる。また、上述方法と遠心分離との組合により精製後のカーボンナノチューブを得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K.Tohji.T.Goto et al.J.Phys.Chem.1996,101,1974
【非特許文献2】Z.Shi et al.Solid State Commun.1999,112,35
【非特許文献3】E.Mizoguti et al.Chem.Phys.Let.2000,321,297
【非特許文献4】J.L.Zimmerman et al.Chem.Mater.2000,12,1361
【非特許文献5】K.Tohji et al.Nature 1996,383,679
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、今までの主な課題は、カーボンナノチューブを破壊せずに製造されたカーボンナノチューブを如何に精製するか、ということである。従来技術では、液相酸化法が用いられる。例えば、硝酸で還流することで精製する方法は、チューブ壁を破壊することになる。気相酸化法を用いても、酸化温度が高いため(通常470℃)、同じくカーボンナノチューブを破壊することになる。
【0009】
それに、アーク放電法では、例えばY−Ni合金を触媒とする場合、反応が終わると、この触媒は反応生成物の内部または表面に残り、無機酸還流の方法では除去し難い。たとえ長時間の反応により大部分の触媒粒子が除去されたとしても、カーボンナノチューブも破壊されてしまい、カーボンナノチューブの品質が下がり、特に導電性が低下することになる。
【0010】
しかも、強酸還流の精製方法の場合、得られたカーボンナノチューブには、以下の欠陥がある:
A.カーボン骨格には、通常の6員環ではなく、5員または7員環が存在するので、カーボンナノチューブが曲げる;
B.Sp3混成欠陥(R=HとOH);
C.酸化の条件によりカーボン構造が破壊され、欠陥のところにCOOH基が引き入れられる;および
D.カーボンナノチューブの端部が開口し、COOH基が引き入れられてブロキングする。
以上の欠陥は図1に示す。
【0011】
したがって、カーボンナノチューブを破壊せずにカーボンナノチューブを製造・精製する方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の方法により、カーボンナノチューブを損傷することなく、特にカーボンナノチューブの側壁を損傷せずに、カーボンナノチューブを製造・精製できる。
【0013】
本発明の第一発明は、
(a)触媒と必要に応じた助触媒の存在下でアーク放電法によりカーボンナノチューブを製造する工程と、
(b)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と、触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質とを配位結合させて錯体を得る工程と、
(c)前記錯体を除去する工程
を含むカーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の第一発明の一態様は、前記(a)工程において、助触媒を用いる。
【0015】
この場合、前記助触媒がFeSであるのが好ましい。
【0016】
本発明の第一発明の一態様は、前記触媒として、ランタン系金属酸化物、遷移金属、ニッケルと希土類元素との混合物、及び前記触媒の混合物からなる群より選ばれる。
【0017】
この場合、前記触媒は、Y-Ni合金、Fe−Ni合金、Fe-Co合金、Co-Ni合金、Rh-Pt合金、およびCe-Ni合金からなる群より選ばれるのが好ましい。
【0018】
本発明の第一発明の一態様において、前記(b)工程は、
(d)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素をイオンに転換する工程、および
(e)前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質を、前記イオンと配位結合させて、錯体を得る工程、
を含む。
【0019】
この場合、前記工程(d)は、
(f)触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化して触媒及び/又は必要に応じた助触媒の酸化物を得る工程を含むのが好ましい。
さらに、前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質は、アミノポリカルボン酸から選ばれるのがより好ましい。
該態様では、前記アミノポリカルボン酸は、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物(CYDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)からなる群より選ばれるのが好ましい。
【0020】
このとき、前記アミノポリカルボン酸は、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)であるのがより好ましい。
【0021】
さらに、錯体の除去を促進するように、アミノポリカルボン酸により形成される錯体を塩の形に転換するのがより好ましい。
【0022】
本発明の第一発明の一態様では、前記(d)工程はさらに、
(g)前記酸化物と酸とを反応させ、触媒及び/又は必要に応じた助触媒の金属元素イオンを得る工程を含む。
【0023】
第一発明の一態様において、前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質として、テトラヒドロフラン、トリアルキルホスフィン、ε−カプロラクトン、ε−カプロラクタム、ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルフォキシドからなる群より選ばれるのが好ましい。
【0024】
また、第一発明の一態様において、前記錯体として、{M[(NC)2CC(OCH2CH2OH)C(CN)2]2(4,4′-bPy)(H2O)2}、複核[M′{(phen)2}2V4O12]C6H12OキH2Oと[Ni(L)(H2O)32H2O]からなる群より選ばれるのが好ましく、MはNi、Co、Feからなる群より選ばれ、M'はNiとCoからなる群より選ばれ、bPyはビピリジン、phenはフェニル基、Lは(2-メトキシカルボニルメチルイミノ-5−メチル-チアゾール-3-イル-酢酸)を表す。
【0025】
本発明の前記態様の変種として、前記(f)工程は、酸素含有ガスで触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化することを含む。
【0026】
この場合、酸素含有ガスで酸化する時間と温度は、触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化物に転換するには十分であるのが好ましい。前記酸素含有ガスは空気であるのがより好ましい。さらに、前記酸化温度は80〜300℃であるのも、前記酸化時間は1〜20時間であるのもより好ましい。
【0027】
本発明の第一発明の一態様として、本発明の方法はさらに、前記錯体を除去した後遠心分離する工程を含む。
【0028】
このとき、遠心分離の工程を、5000〜30000rpmで1〜20時間行うのが好ましい。
【0029】
本発明の第一発明のあらゆる態様では、カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであるのが好ましい。
【0030】
本発明の第二発明は、
触媒と必要に応じた助触媒の存在下でアーク放電法により製造されたカーボンナノチューブを精製する方法であって、
(I)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と、触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質とを配位結合させて錯体を得る工程と、
(II)前記錯体を除去する工程とを含むカーボンナノチューブを精製する方法を提供する。
【0031】
本発明の第二発明の一態様では、アーク放電法では助触媒が使われている。
【0032】
この場合、前記助触媒はFeSであるのが好ましい。
【0033】
本発明の第二発明の一態様は、触媒として、ランタン系金属酸化物、遷移金属、ニッケルと希土類元素との混合物、及び前記触媒の混合物からなる群より選ばれる。
【0034】
この場合、前記触媒は、Y−Ni合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Co−Ni合金、Rh−Pt合金、およびCe−Ni合金からなる群より選ばれるのが好ましい。
【0035】
本発明の第二発明の一態様では、前記(I)工程は、
(III)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素をイオンに転換する工程、および
(IV)前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質を、前記イオンと配位結合させて、錯体を得る工程を含む。
このとき、前記工程(III)は、
(V)触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化して触媒及び/又は必要に応じた助触媒の酸化物を得る工程を含むのが好ましい。
【0036】
このとき、触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質は、アミノポリカルボン酸から選ばれるのがより好ましい。
【0037】
該態様では、前記アミノポリカルボン酸は、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物(CYDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)からなる群より選ばれるのが好ましい。
【0038】
このとき、前記アミノポリカルボン酸は、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)であるのがより好ましい。
【0039】
さらに、錯体の除去を促進するように、アミノポリカルボン酸により形成される錯体を塩の形に転換するのがより好ましい。
【0040】
本発明の第二発明の一態様では、前記(III)工程はさらに、
(VI)前記酸化物と酸とを反応させ、触媒及び/又は必要に応じた助触媒の金属元素イオンを得る工程を含む。
【0041】
第二発明の一態様では、前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質として、テトラヒドロフラン、トリアルキルホスフィン、ε−カプロラクトン、ε−カプロラクタム、ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルフォキシドからなる群より選ばれるのが好ましい。
【0042】
また、第二発明の一態様において、前記錯体として、{M[(NC)2CC(OCH2CH2OH)C(CN)2]2(4,4′-bPy)(H2O)2}、複核[M′{(phen)2}2V4O12]C6H12OキH2Oと[Ni(L)(H2O)32H2O]からなる群より選ばれるのが好ましく、MはNi、Co、Feからなる群より選ばれ、M'はNiとCoからなる群より選ばれ、bPyはビピリジン、phenはフェニル基、Lは(2-メトキシカルボニルメチルイミノ-5−メチル-チアゾール-3-イル-酢酸)を表す。
【0043】
本発明の前記態様の変形として、前記(f)工程は、酸素含有ガスで触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化することを含む。
【0044】
このとき、酸素含有ガスで酸化する時間と温度は、触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化物に転換するには十分であるのが好ましい。前記酸素含有ガスは空気であるのがより好ましい。さらに、前記酸化温度は80〜300℃であるのも、前記酸化時間は1〜20時間であるのもより好ましい。
【0045】
本発明の第二発明の一態様として、本発明の方法はさらに、前記錯体を除去した後遠心分離する工程を含む。
【0046】
このとき、遠心分離の工程を、5000〜30000rpmで1〜20時間行うのが好ましい。
【0047】
本発明の第二発明のあらゆる態様では、カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであるのが好ましい。
【0048】
本発明の第三発明は、本発明の第一発明と第二発明に記載の方法により製造されるカーボンナノチューブを提供する。従来技術の方法によって得られるカーボンナノチューブと比べ、本発明の方法により得られるカーボンナノチューブのチューブ壁は破壊されていない。
【0049】
本発明の第四発明は、本発明の第三発明のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ素子を提供する。
本発明の各発明において、カーボンナノチューブ(CNT)は単層カーボンナノチューブ(SWNT)であるのが好ましい。
【0050】
以下の詳細な説明により、本発明のその他の目的と発明は明らかになるが、詳細な説明および具体的な実施例は本発明の好ましい実施の形態を示しているものの、本発明の実施態様の例に過ぎず、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明の方法により、カーボンナノチューブを損傷することなく、特にカーボンナノチューブの側壁を損傷せずに、カーボンナノチューブを製造・精製できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】酸還流により得られたカーボンナノチューブを示す模式図である。
【図2】本発明でカーボンナノチューブの製造に用いるアーク炉を示す模式図である。
【図3】CYDTAでカーボンナノチューブを精製することを示す模式図である。
【図4】EDTAとCYDTAで精製したカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す図である。図4は、また市販のP3カーボンナノチューブ(P3、Carbon Solutions. INC.より、純度が85%より高い)のスペクトルをも示している。
【図5】EDTAで精製したカーボンナノチューブのXPSスペクトルを示す図である。
【図6】精製されていないカーボンナノチューブのSEM写真を示す図およびTTHAで精製したカーボンナノチューブのSEM写真を示す図である。
【図7】TTHAで精製したカーボンナノチューブのTEM写真を示す図である。図7では、図7aと図7bはただ増幅率だけが違う。
【図8】TTHAでの精製前後のカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す図である。
【図9】TTHAで精製したカーボンナノチューブと慣用の酸で処理されたカーボンナノチューブのXPSスペクトルを示す図である。
【図10】TTHAで精製したカーボンナノチューブにより製造されるカーボンナノチューブフィルムを示す図である。
【図11】製膜例1で製造されたカーボンナノチューブフィルムと比較例1で製造されたフィルムのシート抵抗を示す図である。
【図12a】本発明に使われる蒸気発生器を示す図である。
【図12b】図12aに示す蒸気発生器のガラスケーシングの構造の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
これからは図面を参考にして本発明の例示的な態様を詳しく説明する。
本発明の第一発明
【0054】
本発明の第一発明は、
(a)触媒と必要に応じた助触媒の存在下でアーク放電法によりカーボンナノチューブを製造する工程と、
(b)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と、触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質とを配位結合させて錯体を得る工程と、
(c)前記錯体を除去する工程
を含むカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0055】
次は各工程について詳しく説明する。
【0056】
(1)アーク放電法
【0057】
アーク放電法は、カーボンナノチューブを製造する最も早い工程の一つである。本発明のカーボンナノチューブを製造する方法としてアーク放電法には特に限りはない。本発明では、通常のアーク放電法を用いることで精製されていないカーボンナノチューブを得ることができる。次はアーク放電法に使われる装置、条件および原料などについて簡単に説明する。
【0058】
図2は本発明の実施の形態でカーボンナノチューブを製造するためのアーク炉100を示す模式図である。該アーク炉は、真空室160、カソード端子110、カソード120、アノード130、アノード端子140、および線状運動装置150からなる。カソード120は通常大きい直径(例えば13mm程度)を有する黒鉛棒であるが、銅制金属電極を使ってもよい。アノード130は直径の小さい(例えば6mm程度)黒鉛棒である。
【0059】
本発明の一態様では、以下のようにアノード130に用いられるアノード黒鉛棒を製造する。アノード黒鉛棒の中心に孔をあける。触媒と必要に応じた助触媒を粉末に砕いてから黒鉛と均一に混合してなるアノード混合物を、アノード黒鉛棒の孔に充填して詰め、アーク放電用アノード130を形成する。また、触媒と必要に応じた助触媒とを黒鉛に混合してアノード混合物を得て、そして該混合物を成形してアノード黒鉛棒を形成することで前記アノード130を形成することができる。
【0060】
アーク放電する前に、真空室160は吸引され、そして、保護用ガスとして、不活性ガス(例えばヘリウムガスあるいはアルゴンガス)、水素、窒素またはこれらのガスの混合物が導入される。電源が通じると、アノード130とカソード120の間に安定したアーク放電を行うように、線状運動装置150でカソード120とアノード130の間の距離を調整する(該距離は通常予め設定した一定値である。例えば、1〜5mm程度)。最初は、カソード120とアノード130は接触してはならないため、初期電流が発生しない。そして、アノード120を移動させ、アークが発生するまでカソード130に近づく。放電中、アノード130とカソード120の間に高速プラズマフローは発生し、カソード120とアノード130の表面は極高い温度(例えばそれぞれ約3000℃以上と5000℃以上)に達し、アノード130が高速にカーボンクラスターとして蒸発されて次第に消費する。カソード120とアノード130との間の高温領域では、アノード130から蒸発されたカーボンクラスターはカーボンナノチューブを形成することができ、しかもこれらのカーボンナノチューブは真空室を充填し、真空室160の壁および/またはカソード120上に沈積する。これらの蒸発されたカーボンクラスターは真空室を満たすことができ、そしてカソード120や、真空室の壁などのところで核発生し成長してカーボンナノチューブを得る。アノードは一般的におよそ十分で消費し、放電反応を完成した後、真空室を冷却する。
【0061】
反応が終わって充分に冷却された後、真空室160の壁上の布状すす生成物(cloth−like soot)、室壁とカソードの間に掛かる網状すす生成物(web−like soot)、カソード端部の沈積物(deposit)、および沈積物のまわりの「襟」状すす生成物(collar−like soot)が、真空室160中に収集される。得られたカーボンナノチューブは通常ファンデルワールス力で結合しており、六方結晶体構造に並んでいる。カーボンナノチューブ特に単層カーボンナノチューブは、例えば、主に布状すす生成物、網状すす生成物、「襟」状すす生成物のような三つのところに現れる。この三つのところの中で、網状すす生成物におけるカーボンナノチューブ、特に単層カーボンナノチューブの純度がもっとも高く、布状すす生成物における純度がもっとも低く、「襟」状すす生成物における純度は両者の間にある。カーボンナノチューブは、無定形炭素と金属触媒粒子などの不純物と共に存在する。これらの不純物は後続の精製工程によって除去されることができる。この点について、後ほど詳しく説明する。
【0062】
本発明のカーボンナノチューブの製造過程では、触媒が必要である。触媒はカーボンナノチューブ、特に単層カーボンナノチューブの生長に重要な役割を果たしている。本発明に用いられる触媒として、ランタン系金属酸化物、遷移金属、ニッケルと希土類元素との混合物、及び前記触媒の混合物からなる群より選ばれることができる。また、触媒として、Y、Ce、Er、Tb、Ho、La、Nd、Gd、Dyまたはこれらの混合物のような希土類元素と、金属ニッケル(Ni)との混合物でもよい。本発明の一態様では、触媒として、Y−Ni合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Co−Ni合金、Rh−Pt合金、およびCe−Ni合金からなる群より選ばれるのが好ましい。
【0063】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法では、助触媒を使用してもよい。一般に、助触媒もカーボンナノチューブ、特に単層カーボンナノチューブの生長に重要な役割を果たしており、特にカーボンナノチューブの純度を高めることおよびカーボンナノチューブの直径分布を制御することには重要な役割を果たしていると思われている。したがって、本発明では、FeSを助触媒として使用するのが好ましい。
【0064】
本発明で助触媒を使用する場合、触媒と助触媒の比例は、カーボンナノチューブの生長、およびカーボンナノチューブの純度と直径分布などの特性に悪いな影響がない限り、任意の比例で触媒と助触媒を使用することができる。
【0065】
通常、触媒と助触媒との重量比は1〜20:1、好ましくは5〜15:1、より好ましくは10:1であるが、具体的な条件によって前記範囲以外の重量比を使ってもよい。
【0066】
本発明のアーク放電法によりカーボンナノチューブを製造する過程において、さらに炭素源が必要である。炭素源として、好ましくは黒鉛である。本発明では、触媒と炭素源との比例は、カーボンナノチューブの生長、およびカーボンナノチューブの純度と直径分布などの特性に悪いな影響がない限り、任意の比例で触媒と炭素源を使用することができる。一態様として、炭素源と触媒とのモル比率は1〜50:1、好ましくは5〜30:1、より好ましくは15:1である。
【0067】
本発明のより好ましい態様として、炭素源は黒鉛で、触媒はY−Ni合金で、助触媒はFeSである。
【0068】
アーク放電法では、不活性ガス(ヘリウムガス、アルゴンガスあるいはこれらの混合ガス)、水素、窒素またはこれらのガスの混合物などの保護用のガスがよく用いられる。アルゴンガスは常用の保護用ガスである。水素を用いるときの気圧はアルゴンガスの気圧より低くてもよい。また、水素がより高い熱伝導率を持つため、炭素とC−H結合を形成できる上、アモルフォアスカーボンなどをエッチングすることができるので、より純粋なカーボンナノチューブが合成できる。保護用ガスの圧力は約6.67〜203kPaであってもよく、好ましくは13.3〜160kPa、より好ましくは66.7〜120kPa、例えば80.0〜93.3kPaである。
【0069】
アノードとカソードの間に放電を発生させるために、電流は通常30A〜200A、好ましくは70〜120A、例えば100Aである。電流が小さすぎると、安定したアークを形成できない。一方、電流が大きすぎると、無定形炭素や黒鉛粒子などの不純物が増え、後続の精製処理が難しくなる。直流電圧は大体20〜40Vであり、例えば30Vである。カーボンナノチューブは、無定形炭素や黒鉛粒子などの不純物のようなその他の副産物と焼結して一体になる可能性があり、後続の分離と精製が難しくなるから、完璧な構造を持つより純粋なカーボンナノチューブを製造するために、よく水冷などの方法で黒鉛カソードの温度を低める。例えば、黒鉛カソードの温度を低めるように、カソード黒鉛棒を水冷の銅基底に固定することができる。また、カソードとして、銅(Cu)などのよりよい熱伝導率を持つ放熱しやすい金属を用いることは、カーボンナノチューブの形成に寄与する。放電中、真空室160内の温度が低すぎて無定形炭素などの不純物が増えることを防ぐために、さらに温度調節装置を利用して真空室160内の温度を制御することができる。
【0070】
また、図2に示すアーク炉100でのアーク放電はカソードとアノードとの相対する端面の間に発生するが、カソードとアノードを同じ側に置いてもよい。この場合、カソードとアノードの間に一定の角度を形成するように置くことにより、カソードとアノードの間の放電は、点と点の間の放電になり、生成物がシート状で真空室160の壁などに付着するので、カーボンナノチューブの生産性を高めることができる。
【0071】
アーク放電反応後、網状すす生成物を収集して次の精製工程を行うのが一般的である。これは、該生成物でのカーボンナノチューブ、特に単層カーボンナノチューブの純度がもっとも高いからである。
【0072】
(2)精製工程−錯体の形成と除去
【0073】
前記のように、カーボンナノチューブ中の不純物を除去するため、特に残余の触媒と必要に応じた助触媒を除去するために、高温酸化または強酸酸化(還流)方法がよく用いられる。しかしながら、これらの方法は、カーボンナノチューブ、特にカーボンナノチューブの側壁を損傷する。
【0074】
従来技術の高温酸化または強酸酸化によるカーボンナノチューブへの破壊を解消するために、本発明の発明者らの研究によって、配位結合の技術に基づき、カーボンナノチューブの品質を破壊せずに、カーボンナノチューブに残る触媒と必要に応じた助触媒を除去できる、ということが発見された。
【0075】
従来技術の精製方法に比べ、配位結合技術に基づく精製工程は温和であり、カーボンナノチューブの側壁を損傷することはない。それゆえ、本発明の方法によって製造されるカーボンナノチューブの品質は、従来技術により得られるカーボンナノチューブより高く、特に導電性では著しく向上している。
【0076】
触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と、錯体を形成し得る物質を、触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素とを配位結合させることで、触媒と必要に応じた助触媒を除去することができる、と本発明の発明者らに発見された。
【0077】
「触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質」との用語は、触媒または助触媒に用いられる金属元素と錯体を形成し得る物質のこと、あるいは触媒と助触媒に用いられる金属元素と錯体を形成し得る物質のことをいう。前述のように、本発明に使用される触媒として、遷移金属またはランタン系金属の酸化物が挙げられる。また、触媒は、Y、Ce、Er、Tb、Ho、La、Nd、Gd、Dyまたはこれらの混合物のような希土類元素と、金属ニッケル(Ni)との混合物であってもよい。従って、得られたカーボンナノチューブから触媒を除去するために、「触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質」として、前記の遷移金属、ランタン系金属、及び希土類金属などと錯体を形成し得る物質を用いるべきである。
【0078】
アーク放電法において、触媒として、Y−Ni合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Co−Ni合金、Rh−Pt合金、またはCe−Ni合金がよく用いられる。したがって、本発明では、Y、Ni、F、Co、Rh、Pt及びCeなどと錯体を形成し得る物質を「触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質」とするのが好ましい。
【0079】
アーク放電法でカーボンナノチューブを製造するとき、助触媒を使う場合、触媒の用量に対して、助触媒の用量を無視してもよい。同様に、生成したカーボンナノチューブに存在する助触媒の量は、触媒の量に対して無視できるほど少ない。そこで、前記物質を選択するとき、触媒に存在する金属元素のみを考えると良い。
【0080】
とはいえ、触媒と助触媒に用いられる金属元素を同時に考えるのがより好ましい。触媒と助触媒に存在するすべての金属元素と錯体を形成し得る物質を選択するのがさらに好ましい。これにより、ただ一つの物質だけで、存在するすべての触媒と助触媒を除去できるからである。
【0081】
ある物質は金属単体(0価金属)と錯体を形成し得るが、アーク放電工程ではよく合金材料が使われるので、該物質と合金材料の元素とが直接に錯体を形成し難くなる。それゆえ、本発明では、触媒及び/または必要に応じた助触媒の中の金属元素をイオンの形に転換して配位結合するのが好ましい。
【0082】
金属元素をイオンの形に転換する方法としては特に限りはなく、多種の方法が採用できる。例えば、強酸酸化法で金属元素を金属イオンに転換することができる。しかしながら、生成するカーボンナノチューブへの損傷を最小限度にするために、まず適切な酸化方法により金属元素を酸化物に転換し、そして適切な酸により金属イオンを得ることが考えられる。このときに使う酸化方法及び酸は慣用の精製方法で使われる条件より温和なため、カーボンナノチューブの品質を著しく低下させることはない。
【0083】
ある態様では、「触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質」として、例えばアミノポリカルボン酸のような酸性物質が使われるので、金属酸化物を金属イオンに転換できるだけではなく、該金属イオンと配位結合して錯体を形成できる。この場合では、その他の酸により金属イオンを得る必要がなくなる。
【0084】
ある態様では、形成された錯体が溶剤(通常は水)に対しての溶解性を増加して錯体の除去を促進するために、形成される錯体をその他の適切な形、例えば、塩の形に転換することができる。こうすると、錯体の溶解性が増強されるほか、ろ過法などの方法で溶解しないカーボンナノチューブをろ過することにより、錯体を除去し、触媒および/または助触媒がなるべく少なく残るようになることができる。前記ろ過法において、あらゆるろ過媒体でも使われる。例えば、ポリテトラフルオルエチレンろ過膜が使われる。
【0085】
例えば、アミノポリカルボン酸を前記物質として使われる場合、形成されるアミノポリカルボン酸錯体を塩の形に転換するのが好ましい。このとき、pHが塩基性になるように、例えばNaOH、KOHなどのような適当なアルカリ溶液を入れて、塩の形に転換することができる。
【0086】
アミノポリカルボン酸を使う場合、アミノポリカルボン酸としては特に限りはない。例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物(CYDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)を使うことができる。
【0087】
アミノポリカルボン酸はYと錯体を形成し得る。このとき、アミノポリカルボン酸として、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物(CYDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)が好ましい。これらの構造は以下に示す:
【0088】
【化1】

【0089】
YとEDTA、CYDTA、DTPAおよびTTHAが形成する錯体の構造は以下に示す:
【化2】

【0090】
【化3】

【0091】
【化4】

【0092】
【化5】

【0093】
また、NiもTTHAと下記のような錯体を形成できる:
【化6】

【0094】
中では、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)がもっとも好ましい。アミノポリカルボン酸を使うとき、TTHAで精製したカーボンナノチューブの純度と透明度がもっとも優れているからである。
【0095】
図3はCYDTAで精製したカーボンナノチューブを示す模式図である。図3から、CYDTAは、カーボンナノチューブ上に存在するYと錯体を形成でき、しかもカーボンナノチューブから分離できることはわかる。
【0096】
なお、Yと錯体を形成し得る物質として、テトラヒドロフラン、トリアルキルホスフィン、ε−カプロラクトン、ε−カプロラクタム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどが挙げられる。しかし、前記物質に限られていない。Yと錯体を形成し得る物質、および形成した錯体について、「Anhydrous scandium, yttrium, lanthanide and actinide halide complexes with neutral oxygen and nitrogen donor ligands」(Shashank Mishra, Coordination Chemistry Review 252(2008) 1996-2025)を参照できる。参考として前記文献をここに引用した。前記文献に列挙された、Yと錯体を形成し得るあらゆる物質で触媒、例えばY-Ni合金の中のY、を除去することができる。
【0097】
Ni、Co、Feと形成した錯体の実例として、{M[(NC)2CC(OCH2CH2OH)C(CN)2]2(4,4′-bPy)(H2O)2}(MはNi、Co、Feからなる群より選ばれる)が挙げられる(Inorganica Chemica Acta, Vol. 361,Issues 14-15,1 October 2008, Pages 3856-3862)。前記文献によって、適切な物質により、複核[M′{ (phen)2}2V4O12]C6H12OキH2O(MはCo、Niからなる群より選ばれる)を得ることができる(Inorganica Chemica Acta, Vol. 361,Issues 12-13,1 September 2008, Pages 3681-3689)。前記文献で列挙された、前記錯体を得るための物質を、本発明でも採用できる。
【0098】
Niと錯体を形成し得る物質を用いることができる。形成される錯体として、[Ni(L)(H2O)32H2O](Lは(2-メトキシカルボニルメチルイミノ-5−メチル-チアゾール-3-イル-酢酸)を表す)、Ni [ P(Ph2)-N(H)-CH2Py]4(ただし、Phはフェニル基、Pyはピリジンを表す)が挙げられる。その他の採用できる物質として、Inorganica Chemica Acta, Vol. 361,Issues 12-13,1 September 2008, Pages 3723-3729と、Journal of Organometallic Chemistry, Vol. 693, Issue 12, 1, June 2008, Pages 2171-2176と、Inorganic ChemistRY Communications, In Press, Corrected Proof、Available on line 17, May 2008に挙げられている物質、および形成された錯体が挙げられる。
【0099】
Feと錯体を形成し得る物質について、Inorganica Chimica Acta, Vol 361, Issues 14-15, 1 October 2008, Pages 3926-3930; Coordination Chemistry Reviews, Vol. 229, Issues 1-2, 9, July 2002, Pages 27-35; Coordination Chemistry Reviews, Vol. 232,Issues 1-2, October 2002, Pages 151-171; および Coordination Chemistry Reviews, Vol. 233-234, 1 November 2002, Pages 273-287に記載の内容を参照することができる。
【0100】
Fe、Co、Niと錯体を形成し得る物質について、Coordination Chemistry Reviews, Vol. 12, Issue 2 April 1974, Pages 151-184; Coordination Chemistry Reviews, Vol. 11, Issue 4, December 1973, Pages 343-402; および Coordination Chemistry Reviews, Vol. 2, Issue 2, September 1967, Pages 173-193に記載の内容を参照することができる。
【0101】
参考にするために以上の文献をここに引用した。
【0102】
触媒および/または助触媒の形態(合金、単体、化合物など)および存在する金属元素の種類によって前記物質の種類を選ぶことができる。
【0103】
また、触媒および/または助触媒の具体的な状況によって配位結合工程をどのように行うかを決める。例えば、具体的な触媒および/または助触媒によって、触媒および/または助触媒をイオンに転換するか否かを決める。酸化方法で転換する場合、さらに、触媒および/または助触媒野中の金属元素を、前記物質以外の酸でイオンに転換する必要があるか否かを確定する必要がある。
【0104】
前記のように、触媒および/または助触媒の中の金属元素をイオンに転換するため、まず適切な酸化方法で金属元素を酸化物に転換することができる。このとき、酸素含有ガス(好ましくは空気)で触媒および/または助触媒を酸化するのが好ましい。酸素含有ガスを使用する酸化条件は慣用の気相酸化精製条件よりかなり温和である。一般に、酸素含有ガスで触媒および/または助触媒を酸化するに必要な時間と温度については具体的な限定はなく、触媒および/または助触媒をその酸化物に転換するに充分な時間と温度であればよい。通常、酸化温度は80〜300℃であってもよく、より好ましくは100〜200℃、もっとも好ましくは150〜200℃である。酸化時間は酸化温度によるものであり、変化できる。一般的に、酸化時間は1〜20時間であってもよく、好ましくは5〜15時間、より好ましくは8〜10時間である。以上から見ると、通常使われる高温酸化方法(一般的に酸化温度は470℃)と比べ、本発明のカーボンナノチューブの製造方法に使われる酸化は低温酸化である。したがって、この低温酸化はカーボンナノチューブを破壊することはない。
【0105】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法はさらに、錯体を除去してから遠心分離する工程を含んでもよい。これにより、カーボンナノチューブに残る無定形炭素を除去し、カーボンナノチューブの純度をさらに高めるようになる。前記遠心分離工程として、任意の遠心分離速度でもよいが、より高い速度の遠心分離が好ましい。例えば、5000〜30000rpmの速度でもよいが、10000〜20000の遠心分離速度が好ましい。遠心分離の時間は遠心分離の速度と関係がある。一般に、1分〜20時間で遠心分離できるが、好ましくは2〜10時間、例えば、3時間で遠心分離する。
【0106】
本発明の方法により得られるカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであるのが好ましい。前記単層カーボンナノチューブは、金属性単層カーボンナノチューブ(M-SWNT)、半導体性単層カーボンナノチューブ(S-SWNT)、およびこれらの組合せからなる群より選ばれる。
【0107】
本発明の第二発明
【0108】
本発明の第二発明は、触媒と必要に応じた助触媒の存在下でアーク放電法により製造されたカーボンナノチューブを精製する方法であって、
(I)触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と、触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質とを配位結合させて錯体を得る工程と、
(II)前記錯体を除去する工程とを含むカーボンナノチューブを精製する方法を提供することを目的とする。
【0109】
本発明の第二発明の精製方法によって、アーク放電法によるカーボンナノチューブを精製し、カーボンナノチューブの純度を高め、その特性を改善することができる。
【0110】
本発明の第二発明に適用できるカーボンナノチューブとしては特に限りはないが、アーク放電法によるカーボンナノチューブであれば良い。
【0111】
当業者に知られるように、アーク放電法でカーボンナノチューブを製造する際、触媒と必要に応じた助触媒を採用することになる。触媒として、一般的には遷移金属、またはランタン系金属酸化物、あるいはこれらの混合物である。また、触媒は、Y、Ce、Er、Tb、Ho、La、Nd、Gd、Dyまたはこれらの混合物のような希土類元素と、金属ニッケル(Ni)との混合物であってもよい。本発明の一態様では、触媒として、Y−Ni合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Co−Ni合金、Rh−Pt合金、またはCe−Ni合金が好ましい。
【0112】
一般に、アーク放電法でFeSのような助触媒が使われる。
【0113】
本発明の第二発明の精製方法により、カーボンナノチューブの品質、特に導電性にはマイナスな影響がなしに、アーク放電法によって得られたカーボンナノチューブに残る触媒および/または助触媒を有効に除去できる。
【0114】
本発明の第二発明の方法では、「触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質」を、触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と配位結合させて錯体を形成し、錯体を除去することでカーボンナノチューブを精製する。
【0115】
第二発明において、得られたカーボンナノチューブから触媒を除去するため、遷移金属、ランタン系金属および希土類金属などと錯体を形成できる物質を「触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質」とするべきである。
【0116】
アーク放電法では、触媒として、Y−Ni合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Co−Ni合金、Rh−Pt合金、またはCe−Ni合金がよく用いられる。したがって、本発明では、Y、Ni、F、Co、Rh、Pt、およびCeなどと錯体を形成しうる物質を「触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質」とするのが好ましい。
【0117】
アーク放電法でカーボンナノチューブを製造するとき、助触媒を使う場合、触媒の用量に対して、助触媒の用量を無視してもよい。同様に、生成したカーボンナノチューブに存在する助触媒の量は、触媒の量に対して無視できるほど少ない。そこで、前記物質を選択するとき、触媒に存在する金属元素のみを考えると良い。
【0118】
とはいえ、触媒と助触媒に用いられる金属元素を同時に考えるのがより好ましい。触媒と助触媒に存在するすべての金属元素と錯体を形成し得る物質を選択するのがさらに好ましい。これにより、ただ一つの物質だけで、存在するすべての触媒と助触媒を除去できるからである。
【0119】
ある物質は金属単体(0価金属)と錯体を形成し得るが、アーク放電工程ではよく合金材料が使われるので、該物質と合金材料の元素とが直接に錯体を形成し難くなる。それゆえ、本発明では、触媒及び/または必要に応じた助触媒の中の金属元素をイオンの形に転換して配位結合するのが好ましい。
【0120】
金属元素をイオンの形に転換する方法としては特に限りはなく、多種の方法が採用できる。例えば、強酸酸化法で金属元素を金属イオンに転換することができる。しかしながら、生成するカーボンナノチューブへの損傷を最小限度にするために、まず適切な酸化方法により金属元素を酸化物に転換し、そして適切な酸により金属イオンを得ることが考えられる。このときに使う酸化方法及び酸は慣用の精製方法で使われる条件より温和なため、カーボンナノチューブの品質を著しく低下させることはない。
【0121】
ある態様では、「触媒と必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質」として、例えばアミノポリカルボン酸のような酸性物質が使われるので、金属酸化物を金属イオンに転換できるだけではなく、該金属イオンと配位結合して錯体を形成できる。この場合では、その他の酸により金属イオンを得る必要がなくなる。
【0122】
ある態様では、形成された錯体が溶剤(通常は水)に対しての溶解性を増加して錯体の除去を促進するために、形成される錯体をその他の適切な形、例えば、塩の形に転換することができる。こうすると、錯体の溶解性が増強されるほか、ろ過法などの方法で溶解しないカーボンナノチューブをろ過することにより、錯体を除去し、触媒および/または助触媒がなるべく少なく残るようになることができる。前記ろ過法において、あらゆる媒質でも使われる。例えば、ポリテトラフルオルエチレンろ過膜が使われる。
【0123】
例えば、アミノポリカルボン酸を前記物質として使われる場合、形成されるアミノポリカルボン酸錯体を塩の形に転換するのが好ましい。このとき、pHが塩基性になるように、例えばNaOH、KOHなどのような適当なアルカリ溶液を入れて、塩の形に転換することができる。
【0124】
アミノポリカルボン酸を使う場合、アミノポリカルボン酸としては特に限りはない。例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物(CYDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)を使うことができる。
【0125】
アミノポリカルボン酸はYと錯体を形成し得る。このとき、アミノポリカルボン酸として、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物(CYDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)が好ましい。これらの構造は以下に示す:
【0126】
【化7】

【0127】
YとEDTA、CYDTA、DTPAおよびTTHAが形成する錯体の構造は以下に示す:
【0128】
【化8】

【0129】
【化9】

【0130】
【化10】

【0131】
【化11】

【0132】
また、NiもTTHAと下記のような錯体を形成できる:
【0133】
【化12】

【0134】
中では、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)がもっとも好ましい。アミノポリカルボン酸を使うとき、TTHAで精製したカーボンナノチューブの純度と透明度がもっとも優れているからである。
【0135】
なお、Yと錯体を形成し得る物質として、テトラヒドロフラン、トリアルキルホスフィン、ε−カプロラクトン、ε−カプロラクタム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどが挙げられる。しかし、前記物質に限られていない。Yと錯体を形成し得る物質、および形成した錯体について、「Anhydrous scandium, yttrium, lanthanide and actinide halide complexes with neutral oxygen and nitrogen donor ligands」(Shashank Mishra, Coordination Chemistry Review 252(2008) 1996-2025)を参照できる。参考として前記文献をここに引用した。前記文献に列挙された、Yと錯体を形成し得るあらゆる物質で触媒、例えばY-Ni合金の中のY、を除去することができる。
【0136】
Ni、Co、Feと形成した錯体の実例として、{M[(NC)2CC(OCH2CH2OH)C(CN)2]2(4,4′-bPy)(H2O)2}(MはNi、Co、Feからなる群より選ばれる)が挙げられる(Inorganica Chemica Acta, Vol. 361,Issues 14-15,1 October 2008, Pages 3856-3862)。前記文献によって、適切な物質により、複核[M′{ (phen)2}2V4O12]C6H12OキH2O(MはCo、Niからなる群より選ばれる)を得ることができる(Inorganica Chemica Acta, Vol. 361,Issues 12-13,1 September 2008, Pages 3681-3689)。前記文献で列挙された、前記錯体を得るための物質を、本発明でも採用できる。
【0137】
Niと錯体を形成し得るあらゆる物質を用いることができる。形成された錯体として、[Ni(L)(H2O)32H2O](Lは(2-メトキシカルボニルメチルイミノ-5−メチル-チアゾール-3-イル-酢酸)を表す)、Ni [ P(Ph2)-N(H)-CH2Py]4(Phはフェニル基、Pyはピリジンを表す)が挙げられる。その他の採用できる物質として、Inorganica Chemica Acta, Vol.361,Issues 12-13,1 September 2008, Pages 3723-3729と、Journal of Organometallic Chemistry, Vol. 693, Issue 12, 1, June 2008, Pages 2171-2176と、Inorganic ChemistRY Communications, In Press, Corrected Proof、Available on line 17, May 2008に挙げられた物質、および形成された錯体が挙げられる。
【0138】
Feと錯体を形成し得る物質について、Inorganica Chimica Acta, Vol 361, Issues 14-15, 1 October 2008, Pages 3926-3930; Coordination Chemistry Reviews, Vol. 229, Issues 1-2, 9, July 2002, Pages 27-35; Coordination Chemistry Reviews, Vol. 232,Issues 1-2, October 2002, Pages 151-171; および Coordination Chemistry Reviews, Vol. 233-234, 1 November 2002, Pages 273-287に記載の内容を参照することができる。
【0139】
Fe、Co、Niと錯体を形成し得る物質について、Coordination Chemistry Reviews, Vol. 12, Issue 2 April 1974, Pages 151-184; Coordination Chemistry Reviews, Vol. 11, Issue 4, December 1973, Pages 343-402; および Coordination Chemistry Reviews, Vol. 2, Issue 2, September 1967, Pages 173-193に記載の内容を参照することができる。
【0140】
参考にするために以上の文献をここに引用した。
【0141】
触媒および/または助触媒の形態(合金、単体、化合物など)および存在する金属元素の種類によって前記物質の種類を選ぶことができる。
【0142】
また、触媒および/または助触媒の具体的な状況によって配位結合工程をどのように行うかを決める。例えば、具体的な触媒および/または助触媒によって、触媒および/または助触媒をイオンに転換するか否かを決める。酸化方法で転換する場合、さらに、触媒および/または助触媒野中の金属元素を、前記物質以外の酸でイオンに転換する必要があるか否かを確定する必要がある。
【0143】
前記のように、触媒および/または助触媒の中の金属元素をイオンに転換するため、まず適切な酸化方法で金属元素を酸化物に転換することができる。このとき、酸素含有のガス(好ましくは空気)で触媒および/または助触媒を酸化するのが好ましい。酸素含有のガスを使用する酸化条件は慣用の気相酸化精製条件よりかなり温和である。一般に、酸素含有のガスで触媒および/または助触媒を酸化するに必要な時間と温度については具体的な限定はなく、触媒および/または助触媒をその酸化物に転換するに充分な時間と温度であればよい。通常、酸化温度は80〜300℃であってもよく、より好ましくは100〜200℃、もっとも好ましくは150〜200℃である。酸化時間は酸化温度によるものであり、変化できる。一般に、酸化時間は1〜20時間であってもよく、好ましくは5〜15時間、より好ましくは8〜10時間である。以上から見ると、通常使われる高温酸化方法と比べ、本発明のカーボンナノチューブの精製方法に使われる酸化は低温酸化である。したがって、この低温酸化はカーボンナノチューブを破壊することはない。
【0144】
本発明のカーボンナノチューブの精製方法はさらに、錯体を除去してから遠心分離する工程を含んでもよい。これにより、カーボンナノチューブに残る無定形炭素を除去し、カーボンナノチューブの純度をさらに高めるようになる。前記遠心分離工程として、任意の遠心分離速度でもよいが、より高い速度の遠心分離が好ましい。例えば、5000〜30000rpmの速度でもよいが、10000〜20000の遠心分離速度が好ましい。遠心分離の時間は遠心分離の速度と密接な関係がある。一般に、1分〜20時間で遠心分離できるが、好ましくは2〜10時間、例えば、3時間、で遠心分離する。
【0145】
本発明の第三発明
【0146】
本発明の第三発明は、本発明の第一発明により製造されたカーボンナノチューブ、および本発明の第二発明により精製されたカーボンナノチューブを提供する。
【0147】
本文に使う術語「カーボンナノチューブ」は、当業者に知られているあらゆるカーボンナノチューブを含む。チューブ壁を形成する炭素原子の層数によって、例えば、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、およびこれらの組合せを含んでもよい。また、その電気特性によって、金属性カーボンナノチューブ、半導体性カーボンナノチューブ、およびこれらの組合せを含んでもよい。でも、本発明のカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであるのが好ましい。該単層カーボンナノチューブは、金属性単層カーボンナノチューブ(M−SWNT)、半導体性単層カーボンナノチューブ(S−SWNT)、およびこれらの組合せを含む。
【0148】
以上詳しく説明したように、本発明のカーボンナノチューブの製造・精製方法は、カーボンナノチューブの側壁を損傷することはなく、カーボンナノチューブの品質、特に導電性には影響がない。この点で、本発明の第一発明と第二発明により得られるカーボンナノチューブは、従来技術により得られるカーボンナノチューブと異なる。
【0149】
図1に示すように、製造と精製条件に制限され、従来技術のカーボンナノチューブのチューブ壁には欠陥がある。これに対して、本発明の第三発明のカーボンナノチューブのほうは、図7に示すように、側壁が滑らかで、破壊されていない。しかも、図8と図9に示すように、本発明の方法により得られるカーボンナノチューブの純度が非常に高く、品質も非常に優れている。
【0150】
本発明の第四発明
【0151】
本発明の第四発明は、本発明の第三発明のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ素子を提供する。
【0152】
該カーボンナノチューブ素子として、例えば、カーボンナノチューブ導電膜、電界放出電子源、トランジスター、リード線(conductive wire)、電極材料(例えば、透明、多孔または気体拡散電極材料)、ナノエレクトロメカニカルシステム(nano−electro−mechanic system)(NEMS)、スピン導電装置(spin conduction device)、ナノ片持ち梁(nano cantilever)、量子計算装置、発光ダイオード、太陽電池、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ、光学フィルター(例えば、高周波または光学フィルター)、薬物伝送システム、熱伝導材料、ナノノズル、エネルギー貯蔵材料(例えば、水素貯蔵材料)、スペースエレベーター(space elevator)、燃料電池、センサー(例えば、気体、ブドウ糖、またはイオンセンサー)、または触媒担体などが挙げられる。しかも、これらの素子に限られていない。
【0153】
次にカーボンナノチューブについて実例を挙げる。しかし、本発明はこれらの実例に限られていない。
【0154】
1.カーボンナノチューブ導電膜
【0155】
カーボンナノチューブは強度と柔軟性とを兼ね備えているため、フレシキブル電子部品に極めて適用できる。特にカーボンナノチューブからなる柔軟性かつ透明の導電膜は注目されている。これは、ある程度では、電発光、光導電体、および光起電力装置に応用できることによるものである。
【0156】
透明で高導電性のインジウムスズ酸化物(ITO)はすでに広範に光電変換用に活用されているとはいえ、ITO自身の脆性により、フィルムの柔軟性は厳しく制限されている。カーボンナノチューブフィルムは、例えば、繰り返して曲げられても破砕することはない、というような特性があるため、ITOの交替に適切である。低シート抵抗を有するカーボンナノチューブフィルムは可視光と赤外領域においても透明である。それに、低コストおよび調整できる電子特性のおかげで、カーボンナノチューブフィルムはさらに優位になっている。
【0157】
本発明のカーボンナノチューブ導電膜は、以下のように製造することができる:
【0158】
超音波浴において、カーボンナノチューブ10mgを、1wt.%のオクチル−フェノール−エトキシレート(TRitoN X−100と称する)の水溶液200mlに20分間分散させる。真空ろ過装置(Millipore)において、混合したセルロースエステル(MCE)薄膜フィルター(Millipore、0.2μm孔)で該分散体をろ過し、薄膜フィルター上にカーボンナノチューブフィルムを形成する。二日間を経て、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris−HCl)バッファー(50mm、PH7.5)で前記カーボンナノチューブフィルムのあらゆるTriton X−100を透析する。次に、純水でTris−HClバッファーを洗い流してから、前記カーボンナノチューブフィルムを石英基板に移す。該試料を90℃で1時間乾燥してから、アセトン蒸気で薄膜フィルターを除去する。最後に、該カーボンナノチューブフィルムを100℃の真空で1時間乾燥する。
【0159】
このようなカーボンナノチューブフィルムの製造方法、特にアセトン蒸気で薄膜フィルターを除去する工程について、2008年2月14日に出願された中国特許出願番号200810005631.7である出願の中の関連記述を参考することができる。ここに参考として該特許出願を引用する。
【0160】
例えば、本発明で図12に示す蒸気発生器が用いられる。図12(A)は本発明で使われる蒸気発生器を示す図であり、(b)は(A)に示す蒸気発生器のガラスケーシングの断面の構造を示す図である。
【0161】
前記蒸気発生器は、
凝縮媒体の入り口がケーシングの下方にあり、出口が上方にある凝縮装置付のガラスケーシングと、
丸底フラスコのような溶剤(例えばアセトン)入れ用容器と、
温度調節できる加熱ジャケットのような溶剤を加熱するための加熱装置と、磁力撹拌器のような任意の撹拌装置と、からなる。前記ケーシングは、ケーシングの内部に取り付けられており、凝縮媒質の入り口と大体同じの高さで、試料を置くための多孔の支持台を含む。前記多孔支持台は例えばガラスで製造される。支持台の孔径としては厳しく要求されていないが、十分な量の蒸気が通過できながら試料を支持できれば良い。支持台の大きさはガラスケーシングの内径によって決まる。
【0162】
2.カーボンナノチューブフィールドエフェクトトランジスター
【0163】
単独本のカーボンナノチューブとカーボンナノチューブ束により、ナノ電子素子の基本素子であるカーボンナノチューブフィールドエフェクトチューブ(カーボンナノチューブFET)を構成することができる。製造された製品のカーボンナノチューブは通常本ごとに単独に存在するのではなく、束(bundle)の形で存在している。つまり、何本乃至何百本のカーボンナノチューブは同じく軸方向と平行している方向に結び付けられており、直径約何ナノメートルから何十ナノメートルのカーボンナノチューブ束を形成している。しかし、該カーボンナノチューブFETをナノ電子素子に活用させるため、まず、カーボンナノチューブのチューブ束を分離して、単独本またはサイズの小さいカーボンナノチューブを得なければならない。
【0164】
カーボンナノチューブのチューブ束では、カーボンナノチューブの直径が均一することができ、しかも、緊密に詰まった形で並んでいるので、チューブ束自身に一定程度の結晶化が出るかもしれない。分離方法として、カーボンナノチューブのチューブ束またはチューブ束の中のカーボンナノチューブを互いに分離する目的を達成するため、通常カーボンナノチューブ粉末を有機溶剤に分散させてから長時間の超音波処理を行う。分離の効果は溶剤の種類と超音波処理の時間などによる。よく使われる有機溶剤として、例えば、エタノール、イソプロパノール、アセトン、四塩化炭素、ジクロルエタン、ジメチルホルムアミド(DMF、dimethyl formamide)などが挙げられる。
【0165】
3.トランジスター−ナノエレクトロダイナトロン
【0166】
ナノエレクトロダイナトロンについては、現在単電子トランジスター(Single Electron Transistor、SET)とカーボンナノチューブダイナトロンとの二種がある。後者はフィールドエフェクトトランジスター(FET)ともいい、ソースとドレインの間のカーボンナノチューブを含み、カーボンナノチューブによる電子(あるいは正孔)輸送はゲート電圧に制御されている。
【0167】
FETを製造する典型的な方法の一つは下記通りである。上述のように、前記カーボンナノチューブの最初の産物は通常互いに絡みついたチューブ束である。これを有機溶剤(例えばエタノール)に充分に超音分散してから、表層がSiO2であるチップに該液体を滴下する。前記チップには、従来的なフォトエッチング、金属蒸発法あるいはスクリーン印刷法により大量の金属電極が製造されている。そして、二つの電極を連接する単独本のカーボンナノチューブまたはチューブ束が存在するかを原子間力顕微鏡(AFM)で確認する。この二つの電極は製造されるFETのソースとドレインとする。二つの電極間の距離は通常に100nmであるが、例えば0.1〜1μmの範囲で変化する。SiO2層の下のもう一つの電極、またはトーピングしたシリコン基底はFETのゲート電極とし、ゲート電圧を印加することでカーボンナノチューブを通過する電流を制御して、製造されたFETは底部ゲートFETである。もちろん、上部ゲートFETも製造できる。まず、基底にカーボンナノチューブまたはチューブ束を製造してソースとドレインを連接し、そして順にゲート絶縁層を沈積し、カーボンナノチューブまたはチューブ束の上方のゲート絶縁層にスクリーン印刷法などにより製造されたゲート電極を通過させる。また、まず単独本のカーボンナノチューブまたはチューブ束を決まった方向に沿って基底にスパッタし、そして電子束により該カーボンナノチューブまたはチューブ束の両端に電極を沈積してもよいが、この工程では、電極間のカーボンナノチューブが断ち切られる可能性がある。
【0168】
室温において輸送結果とゲート電圧との関係(I-V特性)を検定する。該検定では、金属性カーボンナノチューブは、ゲート電圧に弱く影響された線形導電性を表示、あるいは表示しない。これに対して、半導体性カーボンナノチューブは、ゲート電圧に強い依頼を示している。
【0169】
実施例
【0170】
以下の実施例により、本発明についてさらに詳しく説明できる。別の状況が説明される場合を除き、本発明で使用されるあらゆる原料と試薬は、市販のもの、または本分野の慣用の技術により得られるものである。
【0171】
主要な原料は下記通りである:
【0172】
Y-Ni合金触媒(北京有色金属研究院製);
【0173】
黒鉛棒(上海炭素廠製);
【0174】
FeS(北京益利精細化学品有限公司製);
【0175】
NaOHとo-ジクロルベンゼン(o-DCB)(北京化工廠製);
【0176】
EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、CYDTA(トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物)、DTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)、およびTTHA(トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸): Alfa Aesar製;
【0177】
Triton X-100、Acros製;
【0178】
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、Acros製、99%;
【0179】
塩酸、北京化工廠製、HCl含有量36〜38%。
【0180】
特徴表現方法
【0181】
精製されたカーボンナノチューブについて、以下の表現方法で特徴を分析できる:
【0182】
ラマンスペクトル:Renishaw 100 micro-Raman systemが使用される;
【0183】
X線光電子スペクトル:VG ScientificのESCALAb220i-XL Electron Spectrometerが使用され、300W AlKα線が使用される;
【0184】
走査電子顕微鏡:JEOL JSM−6700F;
【0185】
透過型電子顕微鏡:JEOL−2010,200kV;
【0186】
4−プローブLoresta−EP MCP−T360によりカーボンナノチューブフィルムのシート抵抗が測られ、UV−vis−NIR分光光度計(JASCO V−570)によりカーボンナノチューブフィルムの透明性が検定される。
【0187】
ラマンスペクトルはカーボンナノチューブを測定するにはもっとも有力な手段の一つである。試料の秩序度を反映して試料の純度も反映できるし、カーボンナノチューブの直径分布も表現できる。ラマンスペクトルテストを行う場合、カーボンナノチューブの束状集まりによる測定結果への影響を排除するため、ラマン測定に使われる試料について、エタノールで5分間超音波処理してから、得られた懸濁液をスライドガラスに滴下して空気中に乾燥する、というような処理ができる。
【0188】
ラマンスペクトルには、ラジアルブリージングモード(Radial−Breathing Mode,RBM)(約100〜300cm-1)、Dバンド(〜1350cm-1)、およびGバンド(〜1570cm-1)の三つの領域またはピークに注意すべきである(M.S. Dresselhaus,et al.,Raman Spectroscopy of Carbon Nanotubes in 1997 and 2007,J.Phys.Chem.C,111(48),2007,17887−17893)。RBMピークはカーボンナノチューブの特徴散乱モードの一つであり、カーボンナノチューブ特有のものであり、しかもカーボンナノチューブの直径と関係がある。(Araujo,P.T.,et al.,Third and fourth optical transitions in semiconducting carbon nanotubes. Phys.Rev.Lett.,98,2007,067401参照)ωRBM=A/dt+B(式中、A=217.8±0.3 cm-1 nm、B=15.7±0.3 cm-1, ωRBMは単位がcm-1であるRBMピークの波数を表し、dt は単位がnmであるカーボンナノチューブの直径を表す)という関係から、カーボンナノチューブの直径分布が知られる。DバンドとGバンドはそれぞれ無定形炭素と黒鉛化した炭素に対応する。GバンドとDバンドの強度比(G/D)によってカーボンナノチューブの純度が推定できる。G/Dが大きいほど、黒鉛炭素が多いため、不純物あるいは欠陥が少ないから、純度が高い。
【0189】
製造例1
【0190】
図2に示すアーク炉100、長さ100mm、直径6mmの黒鉛棒であるアノード130、直径8mmの黒鉛棒であるカソード120を用いた。アノード黒鉛棒の一端に内径が4mm、深さ80mmである小さな孔をあけた。炭素と触媒とのモル比が15:1、触媒と助触媒の重量比が10:1であるように、高純度黒鉛粉末、金属触媒としてのYNi4.2合金粉末、および助触媒としてのFeS粉末を前記孔に充填して詰めた。カソードを水冷の銅基底に固定した。そして、アーク炉100を3.0Paまで吸引した後、真空弁を閉め、ヘリウムガスを約0.07MPaまで導入した。電源が通じると、電流を約80〜120Aに、電圧を20〜25Vに制御し、両電極間が大体3mmの距離を保つように、カソードを手動に調節して、安定したアーク放電を発生させた。
【0191】
室壁上に付着した布状すす生成物(cloth−like soot)、室壁とカソードの間に掛かる網状すす生成物(web−like soot)、およびカソードの一端に付着した「襟」状すす生成物(collar−like soot)が収集された。これらの中で、網状すす生成物でのカーボンナノチューブの純度がもっとも高く、布状すす生成物での純度がもっとも低く、「襟」状すす生成物での純度は両者の間にある。
【0192】
網状すす生成物を精製されていない試料として、以下の実施例をする。
【0193】
精製例1
【0194】
まず、精製されていない試料10mgを、200℃で20ml/分の空気流速で10時間焼成してから、焼成された試料を脱イオン水に分散させ、超音波で30分処理した。そして、0.5MのEDTA水溶液を調製して、前記カーボンナノチューブの分散液に入れる。混合物を110℃で18時間還流し、1MのNaOH水溶液でpH値を約8に調節した。次に、0.5μmの多孔ポリテトラフルオルエチレンろ過膜で分散液をろ過して、熱水で何回も洗い流した。そして、試料をo-DCBに分散させ、15000rpmで3時間遠心分離した。上澄液を傾流分離し、混合されたセルロースエステル(MCE)薄膜フィルターにより上澄液をろ過して収集した。
【0195】
精製例2
【0196】
0.5MのEDTA水溶液の代わりに、0.5MのCYDTA水溶液を用いて配位結合した以外は、精製例1と同様にして配位結合した。
【0197】
精製例3
【0198】
0.5MのEDTA水溶液の代わりに、0.5MのDTPA水溶液を用いて配位結合した以外は、精製例1と同様にして配位結合した。
【0199】
精製例4
【0200】
0.5MのEDTA水溶液の代わりに、0.5MのTTHA水溶液を用いて配位結合した以外は、精製例1と同様にして配位結合した。
【0201】
まず、それぞれEDTAとCYDTAで精製された試料について比較した。精製されたカーボンナノチューブのラマンスペクトルは図4に示した。図4はまた、市販のP3カーボンナノチューブ(P3、酸還流方法により製造され、Carbon Solutions.INC.から入手、純度が85%を超える)を示している。
【0202】
図4より、カーボンナノチューブの、ラジアルブリージングモード(Radial−Breathing Mode)(RBM)(100〜250cm-1)、Dバンド(1330cm-1)、Gバンド(1520〜1600cm-1)との三つの特徴のスペクトル領域が保持されていることは明らかである。それに、EDTAとCYDTAのG/DはP3のG/Dより大きいことも明らかであり、これは、EDTAとCYDTAで精製されたカーボンナノチューブの純度はP3より高いということを表す。
【0203】
また、CYDTAで精製されたカーボンナノチューブの純度は、EDTAで精製されたカーボンナノチューブの純度より高いこともわかる。これは多分、CYDTAとYとの錯体は、EDTAとYとの錯体よりさらに安定しているからであると考えます。
【0204】
EDTAで精製されたカーボンナノチューブについてXPS分析をし、その結果を図5に示した。
【0205】
図5から、NAの1sピークが存在することは確認できる。これは、精製されたカーボンナノチューブにはEDTAナトリウム塩がまだ残留していることを表す。すなわち、EDTAが完全に除去されていない。
【0206】
図示されていないものの、CYDTAで精製されたもののXPSスペクトルにはNAの1sピークも存在する。
【0207】
これから見ると、CYDTAとEDTAでは触媒不純物は完全に除去されていない。これは、EDTAナトリウム塩とCYDTAナトリウム塩が水に対する溶解性が良くないからであるのかもしれない。
【0208】
TTHAで精製されたカーボンナノチューブについてSEM分析をした結果を図6(図6b)に示した。図6はまた、精製されていないカーボンナノチューブのSEMを示している(図6a)。
【0209】
同様に、TTHAで精製されたカーボンナノチューブについてTEM分析をした結果を図7に示した。図7では、図7aと図7bはただ倍率だけが違う。
【0210】
図6aと図6bを比較すると、TTHAで精製された後、不純物のほとんどが除去され、ただわずかな無定形炭素がカーボンナノチューブに付着していることがわかる。前記残留した不純物について、さらに超音波および超遠心分離技術により除去することができる。
【0211】
図7aと図7bから、得られたカーボンナノチューブの側壁が非常に滑らかであることがわかる。これは、カーボンナノチューブの側壁が精製工程では損傷を受けなかったことを表す。
【0212】
図8は、TTHAで精製前後のカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示している。精製前後の二つの曲線のG/D比例を比較すると、TTHAで精製する場合、純度が顕著に高くなったことが明らかである。また、カーボンナノチューブの品質と純度はいずれも優れていることもわかる。
【0213】
図9は、TTHAで精製されたカーボンナノチューブと慣用の酸処理(P3)によって得られたカーボンナノチューブのXPSスペクトルを示す図である。図9から、TTHAによりYが完全に除去されたに対して、酸還流処理のほうはYが大量に残っていることがわかる。
【0214】
製膜例1
【0215】
本実施例では、TTHAで精製されたカーボンナノチューブを用いてカーボンナノチューブフィルムを製造した。フィルムの製造はろ過法に基づく。前記製造方法は下記通りである。
【0216】
超音波浴において、カーボンナノチューブ10mgを、1wt.%のオクチル−フェノール−エトキシレート(Triton X−100と称する)の水溶液200mlに20分間分散させた。真空ろ過装置(Millipore)において、混合したセルロースエステル(MCE)薄膜フィルター(Millipore、0.2μm孔)で該分散体をろ過し、薄膜フィルター上にカーボンナノチューブフィルムを形成した。二日間を経て、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris−HCl)バッファー(50mm、pH7.5)で前記カーボンナノチューブフィルムのあらゆるTriton X−100を透析した。次に、純水でTris−HClバッファーを洗い流してから、前記カーボンナノチューブフィルムを石英基板に移した。該試料を90℃で1時間乾燥してから、アセトン蒸気で薄膜フィルターを除去した。最後に、該カーボンナノチューブフィルムを100℃の真空で1時間乾燥した。
【0217】
比較例1
【0218】
TTHAで精製されたカーボンナノチューブの代わりに、慣用の硝酸還流により得られたカーボンナノチューブ(P3)用いた以外は、製膜例1と同様にしてカーボンナノチューブフィルムを製造した。
【0219】
図10はTTHAで精製されたカーボンナノチューブにより製造されたカーボンナノチューブフィルムを示している。前記フィルムはICCASと書いてある石英基板上に覆われている。図10から、カーボンナノチューブフィルム(約70ナノメートル)を透して基板上のICCAS文字がはっきり見えることがわかる。これはつまり、前記フィルムの透明性が非常に高いことである。
【0220】
図11では、製膜例1で製造されたカーボンナノチューブフィルムのシート抵抗と比較例1で製造されたカーボンナノチューブフィルムのシート抵抗が比較されている。比較例1で製造されたカーボンナノチューブフィルムより、製膜例1で製造されたカーボンナノチューブフィルムのシート抵抗は顕著に低下していることがわかる。
【0221】
明らかに、カーボンナノチューブのチューブ壁への破壊を避けたため、本発明の方法により製造されるカーボンナノチューブまたは本発明の方法により精製されるカーボンナノチューブは優れた性質を有しているので、光学電子応用に広範に活用できる。
【0222】
本発明の方法における(a)、(b)のような連続した番号は、ただお互いに区別するために使われるものに過ぎず、これらの工程の間にその他の工程があるということを否定しない。例えば、工程(a)と(b)および/または(b)と(c)の間にはその他の工程もある。前記その他の工程は、本発明の効果にマイナスな影響がない限り、乾燥や洗浄などの本分野での通常の工程であってもよい。
【0223】
本発明に使われる「必要に応じた」との表現は、その後にある事または項目(例えば処理の工程)は存在してもよいし、存在しなくてもよい、ということを表す。また、本発明は、該事または項目が存在する、および存在しない、との二つの状況を含む。
【0224】
ここで引用したすべての文献を本発明に取り込む。
【0225】
具体的な実施の形態を参考にして本発明を説明してきたが、その変化が多種あることは明らかである。その変化は本発明の精神と範囲を逸脱していないうえ、当業者にとって明らかであるあらゆる変化も本発明の範囲にある。
【符号の説明】
【0226】
100…アーク炉、110…カソード端子、120…カソード、130…アノード、140…アノード端子、150…線状運動装置、160…真空室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)触媒と必要に応じた助触媒の存在下でアーク放電法によりカーボンナノチューブを製造する工程と、
(b)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と、触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質とを配位結合させて錯体を得る工程と、
(c)前記錯体を除去する工程
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記(a)工程において、助触媒が用いられたことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記助触媒がFeSであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒は、ランタン系金属酸化物、遷移金属、ニッケルと希土類元素との混合物、及びこれらの混合物からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒は、Y−Ni合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Co−Ni合金、Rh−Pt合金、およびCe−Ni合金からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記(b)工程は、
(d)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素をイオンに転換する工程、および
(e)前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質を、前記イオンと配位結合させて、錯体を得る工程、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(d)は、
(f)触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化して触媒及び/又は必要に応じた助触媒の酸化物を得る工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質を用いて、前記酸化物から相応の金属イオンを形成し、且つ前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質を前記金属イオンと配位結合させて錯体を得ることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質は、アミノポリカルボン酸から選ばれることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アミノポリカルボン酸は、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物(CYDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)からなる群より選ばれることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アミノポリカルボン酸は、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記(c)工程は、前記錯体を塩の形に転換して、前記塩の形の錯体を除去することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記(d)工程はさらに、
(g)前記酸化物と酸とを反応させ、触媒及び/又は必要に応じた助触媒の金属元素イオンを得る工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質は、テトラヒドロフラン、トリアルキルホスフィン、ε−カプロラクトン、ε−カプロラクタム、ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルフォキシドからなる群より選ばれることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記錯体は、{M[(NC)2CC(OCH2CH2OH)C(CN)2]2(4,4′-bPy)(H2O)2}、複核[M′{(phen)2}2V4O12]C6H12OキH2Oと[Ni(L)(H2O)32H2O]からなる群より選ばれ、MはNi、Co、Feからなる群より選ばれ、M'はNiとCoからなる群より選ばれ、bPyはビピリジン、phenはフェニル基、Lは(2-メトキシカルボニルメチルイミノ-5−メチル-チアゾール-3-イル-酢酸)を表すことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記(f)工程は、酸素含有ガスで触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化することを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項17】
酸素含有ガスで酸化する時間と温度は、触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化物に転換するには十分であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記酸素含有ガスは空気であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記酸化温度は80〜300℃であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記酸化時間は1〜20時間であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記方法はさらに、前記錯体を除去した後遠心分離する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記遠心分離の工程を、5000〜30000rpmで1〜20時間行うことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
触媒と必要に応じた助触媒の存在下でアーク放電法により製造されたカーボンナノチューブを精製する方法であって、
(I)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と、触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質とを配位結合させて錯体を得る工程と、
(II)前記錯体を除去する工程と
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブの精製方法。
【請求項25】
前記(I)工程は、
(III)触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素をイオンに転換する工程、および
(IV)前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質を、前記イオンと配位結合させて、錯体を得る工程
を含むことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記工程(III)は、
(V)触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化して触媒及び/又は必要に応じた助触媒の酸化物を得る工程を含むことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質を用いて、前記酸化物から相応の金属イオンを形成し、且つ前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質を前記金属イオンと配位結合させて錯体を得ることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質は、アミノポリカルボン酸から選ばれることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記アミノポリカルボン酸は、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、トランス-1,2−ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'−四酢酸水和物(CYDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、およびトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)からなる群より選ばれることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アミノポリカルボン酸は、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記(II)工程は、前記錯体を塩の形に転換して、前記塩の形の錯体を除去することを含むことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項32】
前記(V)工程はさらに、
(VI)前記酸化物と酸とを反応させ、触媒及び/又は必要に応じた助触媒の金属元素イオンを得る工程を含むことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記触媒は、Y−Ni合金、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Co−Ni合金、Rh−Pt合金、およびCe−Ni合金からなる群より選ばれることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項34】
前記触媒及び/又は必要に応じた助触媒に存在する金属元素と錯体を形成し得る物質は、テトラヒドロフラン、トリアルキルホスフィン、ε−カプロラクトン、ε−カプロラクタム、ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルフォキシドからなる群より選ばれることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記錯体は、{M[(NC)2CC(OCH2CH2OH)C(CN)2]2(4,4′-bPy)(H2O)2}、複核[M′{(phen)2}2V4O12]C6H12OキH2Oと[Ni(L)(H2O)32H2O]からなる群より選ばれ、MはNi、Co、Feからなる群より選ばれ、M'はNiとCoからなる群より選ばれ、bPyはビピリジン、phenはフェニル基、Lは(2-メトキシカルボニルメチルイミノ-5−メチル-チアゾール-3-イル-酢酸)を表すことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記(V)工程は、酸素含有ガスで触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化することを含むことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項37】
酸素含有ガスで酸化する時間と温度は、触媒及び/又は必要に応じた助触媒を酸化物に転換するには十分であることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記酸素含有ガスは空気であることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記酸化温度は80〜300℃であることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記酸化時間は1〜20時間であることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記方法はさらに、前記錯体を除去した後遠心分離する工程を含むことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項42】
前記遠心分離の工程を、5000〜30000rpmで1〜20時間行うことを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項24〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
請求項1〜43のいずれか1項に記載の方法により精製されたカーボンナノチューブ。
【請求項45】
請求項44に記載のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ素子。
【請求項46】
前記カーボンナノチューブ素子が、カーボンナノチューブ導電膜、電界放出電子源、トランジスター、リード線、ナノエレクトロメカニカルシステム、スピン導電装置、ナノ片持ち梁、量子計算装置、発光ダイオード、太陽電池、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ、光学フィルター、薬物伝送システム、熱伝導材料、ナノノズル、エネルギー貯蔵システム、スペースエレベーター、燃料電池、センサー、および触媒担体からなる群より選ばれることを特徴とする請求項45に記載のカーボンナノチューブ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【公開番号】特開2010−132543(P2010−132543A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274493(P2009−274493)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】