カーボンナノチューブの製造方法
【課題】廃タイヤを、高付加価値ナノ炭素材料を選択的且つ安価に供給する実用化技術を提供する。廃タイヤの有効資源化は、C4およびC5の原油成分から複雑な処理プロセスを経て初めて合成される合成ゴム成分(ブタジエン、イソプレン等)を用いるカーボンナノチューブなどの合成よりも簡便で、工学的、社会的、経済的に合理的な廃タイヤの有効利用に資する技術を提供する。
【解決手段】廃タイヤを分解炉中で加熱分離して1次油を採取し、この1次油をさらに加熱処理して、廃タイヤの主成分であるA〜C重油成分及び固形物、硫黄からなる不純物を分離除去したカーボンナノチューブの合成原料となる残油成分である2次油を抽出し、当該残油成分である2次油をキャリヤーガスと共に、CVD装置に配置した基板上に導入して、当該基板上にカーボンナノチューブを加熱合成することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【解決手段】廃タイヤを分解炉中で加熱分離して1次油を採取し、この1次油をさらに加熱処理して、廃タイヤの主成分であるA〜C重油成分及び固形物、硫黄からなる不純物を分離除去したカーボンナノチューブの合成原料となる残油成分である2次油を抽出し、当該残油成分である2次油をキャリヤーガスと共に、CVD装置に配置した基板上に導入して、当該基板上にカーボンナノチューブを加熱合成することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、廃タイヤからカーボンナノチューブ(CNT)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃タイヤ(約1億本/年、100万t/年)に関する再利用技術は、マテリアルリサイクル及びサーマルリサイクルに関するものがほとんどである。
一部、廃タイヤからの乾留油回収の技術又は廃タイヤからカーボンブラックを回収する提案がある(特許文献1及び特許文献2参照)が、これは単なる燃料としての利用又は高温で熱分解してカーボンブラック(粉)の製造を目的としているにすぎない。
【0003】
一方、カーボンナノチューブの作成法についても様々な炭素源を用いて多数研究されている(例えば、特許文献3及び特許文献4)が、廃タイヤからのCNTやCNFへの選択的転換・製造は全く見当たらない。
一方、原油由来の成分や重質油等をナノ炭素合成の原料とするには、取り扱う留分を処理し目的成分を抽出・化学的処理をするという複雑なプロセスの必要性だけでなく、原油採掘からの様々なエネルギーまでを考慮に入れる必要が有り、全く合理性がないと言える。
【0004】
廃タイヤは、単なる燃料あるいは低次元ゴム原料としてのリサイクル物および社会問題提供物としてしか認識されておらず、そのような利用法にしか活用されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平8−27394号公報
【特許文献2】特開平9−104830号公報
【特許文献3】特開平7−61803号公報
【特許文献4】特開2007−22896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、様々な社会問題や環境問題を引き起こしている廃タイヤを、原油由来の単なる炭素源の代替物ではなく、有効資源としてそのまま活用する方法であり、高付加価値ナノ炭素材料を選択的且つ安価に供給する実用化技術を提供する。廃タイヤの有効資源化は、C4およびC5の原油成分から複雑な処理プロセスを経て初めて合成される合成ゴム成分(ブタジエン、イソプレン等)を用いるカーボンナノチューブなどの合成よりも、はるかに簡便で、工学的、社会的、経済的に合理的な技術であり、廃タイヤの有効利用に資する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を達成するため、次の方法を提供するものである。
1)廃タイヤを分解炉中で加熱分離(乾留)して1次油を採取し、この1次油をさらに加熱処理して、廃タイヤの主成分であるA〜C重油成分及び固形物を分離除去したカーボンナノチューブの合成原料となる残油成分である2次油を抽出し、当該残油成分である2次油をキャリヤーガスと共に、CVD装置に配置した基板上に導入して、当該基板上にカーボンナノチューブを加熱合成することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法
2)前記1次油の加熱分離処理を50〜230°Cで行うことを特徴とする上記1)記載のカーボンナノチューブの製造方法
3)前記A〜C重油成分及び固形物を除去した2次油をさらに遠心分離処理を行い、カーボンナノチューブの合成原料とすることを特徴とする上記1)又は2)記載のカーボンナノチューブの製造方法
4)A〜C重油及び固形物を除去した2次油からなる油成分に水分を飽和させ、カーボンナノチューブの合成原料することを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法、を提供する。
本発明は、産業廃棄物である廃タイヤを有効利用するために、特に廃タイヤを中心に説明しているが、タイヤ成分を持つものは(新タイヤ又は未使用のタイヤ、天然ゴム又は合成ゴムを使用したタイヤ)を全て利用できることは言うまでもない。すなわち本願発明は、これらのタイヤ成分を持つものを全て含むものであることは理解されるべきことである。
上記の場合、適宜ガスクロマトグラフィー又は液クロマトグラフィーを実施して、留分の分析結果を把握しながら、合成原料を調整することが望ましい。
【0007】
また、本発明は、
5)設置型電気炉内を窒素ガス雰囲気とし700〜1200°Cに加熱し、基板上にカーボンナノチューブを合成析出させることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法
6)基板として、鉄基合金基板、石英にコバルト及び鉄を被覆した基板、石英にチタンを基板又はカーボン基板を使用し、前記石英にチタンを被覆した基板及びカーボン基板には、触媒としてコバルト又は鉄の薄膜を形成した基板を使用することを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法、を提供する。
【0008】
また、本発明は、
7)上記合成原料油となる2次油を加熱して、エアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入する際に、キャリヤーガスとして、窒素(N2)ガス、窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス、アンモニア(NH3)ガス及びこれらの混合ガス(N2+H2+NH3)を使用することを特徴とする上記1)〜6)のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法
8)上記キャリヤーガスの流速を300〜700ml/minとして、エアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入することを特徴とする上記7)記載のカーボンナノチューブの製造方法、を提供するものである。
【0009】
なお、上記基板材料としては、石英だけでなく、アルミナ等のセラミック板、カーボンペーパー、カーボン布などを利用することもできる。これらは、安価に入手でき、量産化が可能となるため、工業的、経済的に有利な材料となる。また、基板上へ鉄、コバルト、チタン等を被覆する場合には、通常スパッタリング(DCスパッタリング、高周波スパッタリング)を使用するが、他の被覆方法(めっき法、蒸着等)を使用できることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、本発明によるCNTの安価な供給は、これを利用できる環境・新エネルギー、工業複合材料、電子電気応用等の様々な分野の発展に多大の影響を与える。廃タイヤ→高度機能ナノ炭素材料と有用廃炭粉→植林保水、環境浄化・保全→樹木生長→CO2の吸収という完全資源循環型社会の構築を可能にし、環境問題解決に大きな役割を果たす。さらに、上述の廃タイヤ資源利用サイクルは、CO2に排出権獲得による経済的戦略技術にも成り得る要素を多大に含むものでもあり、本発明の社会的、工学的意義は極めて大きい。
社会環境問題を引き起こし、適正な処理が強く望まれている廃タイヤの高付加価値なCNTなどのナノ炭素材料への転換を選択的かつ安価にできる。これは、新素材であるCNT普及の支障となっている製造コストを大幅に低減するため、新エネルギー材料(燃料電池、電気化学デバイス)、環境浄化・保全材料、自動車や航空機産業への軽量素材等、電子複合材料、電磁波遮蔽反射材料、医療材料等への活用はもちろんのこと、CO2排出権に対する戦略的発明技術としての活用も可能にするという大きな効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、廃タイヤから高度機能ナノ材料に一つであるカーボンナノチューブ(CNT)を選択的に合成する技術を提供するものである。このとき、廃タイヤから乾留により油(以下、「1次油」と呼ぶ)を抽出する工程を経るが、単にこの1次油を本発明の方法に適用しても、カーボンナノチューブを合成することはできない。できたとしても、カーボン膜程度である。以下に、本発明の製造方法を具体的に説明するが、この理由は自ずと理解できる。
【0012】
本発明は、1次油をさらに処理して、1次油から低沸点成分を含む石油原料として、より価値の高い成分を除いた油(以下、「2次油」)であり、これを使用して高度機能ナノ材料であるカーボンナノチューブ(CNT)の合成に成功したことに大きな特徴を有する。
すなわち、廃タイヤの乾留による抽出油(1次油)から、利用価値の高い重油成分を採取してしまった残渣油から高度機能ナノ材料であるカーボンナノチューブを合成できることを意味する。
この残渣油は、スラッジを含むものであるが、これまで処分に困っていた残りかす(残渣)であり、このスラッジを含む残渣油を、高付加価値材料に転換したこと自体、画期的発明と言えるものである。
【0013】
以下に、本発明を具体的に説明する。図1に、本発明の代表的な工程の模式図を示す。本発明においては、まず廃タイヤから油を採取する工程(StageI)が必要である。図1に示すタイヤ分解炉(乾留炉)では、油を酸化させずに採取するために不活性雰囲気下で減圧にすることが望ましい。しかし、常圧でも、処理することは可能である。
分解炉中の温度は350°C以上、700°C以下とするのが望ましい。約100°C以上、300°C以下では、水滴又は黄色いエアロゾルがでるだけである。分解炉中の温度を350°C以上とすることにより分離油が採取(抽出)できる(1次油)。しかし、この分解炉の温度は、処理量によっても替えることがあるので、上記の温度範囲は、望ましい温度範囲であり、これ以外の温度もあり得ることは理解されるべきことである。
【0014】
このようにして採取した分離油(1次油)を、さらに加熱分離処理して2次油を作製する(図1に示すStageII参照)。この加熱分離処理は50〜230°Cで行うのが望ましい。この工程では、廃タイヤの主成分であるA〜C重油及び固形物を除去する。この段階までに、カーボンナノチューブの形成に支障となる硫黄等の不純物を除去するのが望ましい。
下記に示す実施例では、150°Cで分離抽出したものが、後述するように最も良好なカーボンナノチューブを得ることができたが、これも処理量によって、替え得るものであり、上記範囲外の温度もあり得る。上記温度条件は、好ましい条件を示すものである。
A〜C重油は、本来廃タイヤからの抽出における上質な(産業上使用可能な)成分である。しかし、本願発明においては、このような上質成分は不要であり、この上質な成分から本願発明のカーボンナノチューブを製造することはできない。本願発明においては、一般にスラッジを含む残渣油(残油成分である2次油)である。これが、本願発明の大きな特徴であり、従来このようなスラッジを含む残渣油の利用技術は存在しない。
【0015】
固形物(不純物を含む)及び極端に粘性の高い物質(重い物質)を分離するために、遠心分離処理を行うのが望ましい。本実施例においては、毎分16000回転(23000g、10分×6回)遠心分離処理を実施した。
この遠心分離処理では、加熱分離処理の際でも残存していた油中の軽い成分(低沸点成分)が同時に除去される。この遠心分離処理は必要に応じて使用するものであり、必須要件ではない。すなわち、2次油の抽出の段階で、十分な分離が行われていれば、この処理は不要である。
【0016】
次に、このようにしてA〜C重油、固形物、硫黄等の不純物を除去し、抽出した油成分に水分を飽和させる。油成分に超純水を添加する(通常の純水でも良いが、不純物の混入を避けるため、超純水を使用することが望ましい)。この工程は、本実施例における重要な工程の一つである。
この工程で、油成分に水分を十分に飽和させるために、密閉容器中で超音波をかける。水分が多すぎた場合には、軽く遠心分離を行い、過剰な水分を除去することができる。この遠心分離処理は、付加的なものであるが、油成分に水分を十分に飽和させるためには、有効である。水分の飽和が達成される状況を見て、この遠心分離処理を任意に調整できることは言うまでもない。
【0017】
上記調整油(2次油)を、図1に示す熱分解CVD(化学気相成長法)装置である水平設置型電気炉内に配置した基板上に、カーボンナノチューブを合成析出させる。熱分解CVD装置の内部を窒素ガス雰囲気とし、700〜1200°Cに上昇させる。一般に合成温度を高くすることにより、カーボンナノチューブの性状を向上させることができる。
カーボンナノチューブ合成温度に到達する前に、水素ガスを混合(50cc/min)させて、合成前に基板表面を還元することが望ましい。
基板として、鉄合金基板(特にステンレス基板)、石英にコバルト又は鉄をマグネトロンスパッタリングして被覆した基板、石英にチタンをスパッタリングにより被覆した基板、カーボン基板を使用することが望ましい。
上記基板材料としては、石英だけでなく、アルミナ等のセラミック板、カーボンペーパー、カーボン布などを利用することもできる。なお、石英にチタンを被覆した基板及びカーボン基板、セラミック基板には、原則として触媒としてコバルト又は鉄の薄膜を、スパッタリングにより形成する。
【0018】
上記調整油(合成原料油)を加熱してエアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入するキャリヤーガスとして、窒素(N2)ガス、窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス、アンモニア(NH3)ガス及びこれらの混合ガス(N2+H2+NH3)を使用した。いずれの場合も有効であった。特に、アニモニアガスを使用した場合には、カーボンナノチューブが真直ぐに成長する傾向があり、性状の良好なカーボンナノチューブが得られる。
【0019】
この場合、アニモニアガスを使用することは、カーボンナノチューブの化学修飾(側壁に官能基をつけて分散性を良くする)のためではない。カーボンナノチューブの化学修飾のために、アニモニアガスを使用する処理法が報告されている例があるが、本発明においては、カーボンナノチューブの合成過程において、カーボンナノチューブの成長、配向性、性状の向上を図ることを第一義とするものである。すなわち、カーボンナノチューブが合成析出されなければ、意味がないものである。付加的にカーボンナノチューブに化学修飾が行われてもそれ自体は、本願発明と矛盾しないので、それを否定するものではない。
なお、後述するように、キャリヤーガスの種類によって、カーボンナノチューブの合成に影響を受けるので、下記の説明するキャリヤーガスの流速、基板温度、処理量によって適宜調節することが必要である。
【0020】
キャリヤーガスの流速は、300〜700ml/minを用いる。カーボンナノチューブの合成には、当然キャリヤーガスの流速に影響を受けるものであるが、上記の流速で実施した場合は、いずれも良好なカーボンナノチューブが合成される。下記実施例では、キャリヤーガスの流速が400ml/min未満では不揃いのカーボンナノチューブとなった。
しかし、キャリヤーガスの流速の調整は、CVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板種類と加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記のキャリヤーガスの流速は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
上記の調整油(2次油)を適量採取し、これを100〜300°Cに温度制御したインジェクター内注入する。そして、インジェクター加熱部が所定温度に達した後、これをキャリヤーガスと共に、CVD炉へ導入して、カーボンナノチューブを合成成長させる。反応時間は、処理量に応じて調整する。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例及び比較例を説明する。なお、実施例はあくまで、発明の理解を容易にするためであり、この実施例の条件に制限されない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、他の態様、他の実施条件は、本願発明に全て含まれるものである。
【0022】
図1に、本実施例の代表的な工程の模式図を示すが、本実施例においては、この図1に基づいて説明する。まず廃タイヤから油を採取する工程(StageI)がある。図1に示すタイヤ分解炉は、油を酸化させずに採取するために不活性雰囲気下で減圧にした。分解炉中の温度は350°C以上、700°C以下とした。約100°C以上、300°C以下では、水滴又は黄色いエアロゾルがでるだけである。しかし、本実施例において分解炉中の温度を350°C以上とすることにより、分離油が「1次油」として採取(抽出)できた。
【0023】
(実施例1と比較例1)
このようにして採取した分離油(1次油)を、さらに加熱分離処理して2次油を作製した(StageII)。本実施例では、実施例1−1:100°C、実施例1−2:150°C、実施例1−3:200°Cで実施した。この工程で、A〜C重油、固形物、硫黄が除去される。
さらに、この2次油を遠心分離機にかけ、固形物(不純物を含む)及び極端に粘性の高い物質(重い物質)を分離した。この遠心分離処理は、毎分16000回転(23000g、10分×6回)で行った。
この遠心分離処理操作により、遠沈管上部の留分を採取し、カーボンナノチューブ用合成油とした。
【0024】
このようにして、A〜C重油、固形物、その他の不純物を除去し、抽出した油成分に、超純水を添加した。この工程で、油成分に水分を十分に飽和させるために、密閉容器中で超音波を1時間かけた。また、この際に温度上昇を避けるために、10分×6回実施した。
油成分(2次油)のpHが、好適なカーボンナノチューブの作成条件の一つになっていると考えられるが、油成分に水分を飽和させることも重要な意味を持つと考えられる。それは油成分(2次油)のpH調整の役割をしていること、さらに水分の油成分へ懸濁にも、水分のpHが関係していると考えられるからである。油成分(2次油)への水分の添加により、基板への分散性が向上し、整列した好適なカーボンナノチューブの作成を可能とする。
このようにして水分を飽和させた2次油を用い、キャリヤーガスとして窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス+アンモニア(NH3)ガス(N2:H2:NH3=500:100:50cc/min)を用い、1000°Cに上昇させたCVD装置内でステンレス基板上に、カーボンナノチューブを合成析出させた。キャリヤーガスの流速は650ml/minとした。
【0025】
熱分解CVD(化学気相成長法)は、図1に示すような平設置型電気炉内に配置した基板上に、カーボンナノチューブを合成析出させて行った。
カーボンナノチューブ合成温度到達30分前から水素ガスを混合(50cc/min)し、合成前に基板表面を還元した。インジェクター部の加熱温度は200°Cであった。
上記2次油の中でも、実施例1−2:150°Cで分離抽出したものが、最も良好なカーボンナノチューブを得ることができた。この結果を、図2(SEM画像)に示す。図2(a)は2次油を用いて作成したカーボンナノチューブの高倍率のSEM画像、(b)は同低倍率のSEM画像を示す。
この図から、長さが10〜30μm長程度の多数のカーボンナノチューブを観察することができる。また、カーボンナノチューブの直径は100nm程度であり、また形状ストリートで揃っており、良好なカーボンナノチューブが得られたことを確認できた。
【0026】
上記実施例1−2:の条件で、ステンレス基板上にカーボンナノチューブを形成したラマンスペクトルを図3に示す。この図から明らかなように、多層カーボンナノチューブでは出現しないラジアルブリージングモードがスペクトルに出現しており、単層のカーボンナノチューブが存在していることが分る。しかし、その強度は弱く、存在量が少ないと言える。
一方、波数1600及び2700の領域にGバンド及びG´バンドが出現しており、結晶性炭素構造(SP2)をもつカーボンナノチューブであることが明瞭である。波数1370領域にDバンドが出現しており、欠陥構造も存在していることも分る。しかし、この欠陥構造があっても、カーボンナノチューブの存在は明らかであり、カーボンナノチューブの利用が可能であることは明らかと言える。
【0027】
比較例1として、加熱分離処理を行わなかった例を、図4に示す。他の条件は、上記と同様である。
図4(a)は、1次油で作成したものであるが、カーボンナノ粒子が観察された。図4(b)は、1次油を用いキャリヤーガス流量を350ml/minで作成したものであるが、カーボン膜が形成されているのが観察された。図4(c)は、1次油の50〜100°Cで抽出した油分を用い、触媒なしのアルミナ基板上に形成したものであるが、カーボンナノ粒子であった。
この結果、図4に示すように、基板上に形成されたものは全てカーボン膜又はカーボンブラックであり、合成条件を変えても、カーボンナノチューブの作製はできなかった。
また、100°Cで2次油を作製した場合を、図5(SEM画像)に示す。この図5に示すように、カーボンナノチューブ以外に、カーボンナノファイバー(CNF)や不必要なカーボン膜も形成されていた。しかし、不必要なカーボン膜は、合成条件、例えば合成温度、キャリヤーガスの種類、流速を調整することにより、調節可能である。
200°Cで2次油を作製した場合を、図6(SEM画像)に示す。この図6に示すように、カーボンナノチューブが綿のように生長した。この結果は、150°Cで分離抽出させた図2よりも劣るが、この合成条件は、例えば合成温度、キャリヤーガスの種類、流速を調整することにより、同様に調節できる。
以上から、調節可能な効果的な条件は、1次油の加熱分離処理を50〜230°Cで行うことであることが分った。
【0028】
A〜C重油は、廃タイヤからの抽出における上質な成分である。しかし、本願発明においては、このような上質成分は不要であり、この上質な成分から本願発明のカーボンナノチューブを製造することはできなかった。
本願発明においては使用できる油成分は、一般に重油成分が除かれた残渣油である。上記の通り、この加熱分離処理は50〜230°Cで行うのが望ましいことが分った。
しかし、加熱分離処理の条件の選択は、その後の処理条件、すなわちCVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板の加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記の合成温度の選択は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
【0029】
(実施例2と比較例2)
次に、合成温度を替えた場合について説明する。他の条件は、2次油の中でも、最も良好なカーボンナノチューブを得ることができた150°Cで分離抽出したもの(実施例1−2の条件)を採用した。この合成温度は、2次油の処理量、基板の種類、キャリヤーガスの種類と流速によっても変化するが、好ましい、およその反応温度を知ることができる。
【0030】
本実施例2では、2次油の調整油3mlを100〜300°Cに温度制御したインジェクター内注入した。このインジェクター加熱部が200°Cに達した時、これをキャリヤーガスと共に、CVD炉へ一気に導入した。反応時間は、30〜60分である。合成反応の温度条件をそれぞれ、比較例2−1:700°C、比較例2−2:800°C(以上は比較例)、実施例2−1:900°C、実施例2−2:1000°C、実施例2−3:1100°Cとした。
【0031】
この結果、比較例2−1である700°C、比較例2−2である800°Cでは、カーボンナノチューブの合成を確認できなかった。しかし、実施例2−1:900°C、実施例2−2:1000°C、実施例2−3:1100°Cでは、いずれも多層のカーボンナノチューブが確認できた。
実施例2−1:900°Cの多層のカーボンナノチューブを図7(SEM画像)に示す。また、実施例2−2:1000°Cの多層のカーボンナノチューブを図8(SEM画像)に示す。さらに1100°Cの多層のカーボンナノチューブについては、図に示さないが、図8と同様な構造であった。
以上から、900°Cよりも、1000°C、1100°Cにおいて、多層カーボンナノチューブの存在が明瞭に確認できた。
【0032】
これによれば、合成温度が高いほどカーボンナノチューブの性状を良好にすることができると言える。なお、この1000°Cの条件は、図3のラマンスペクトルで調べたものと同一条件である。
しかし、合成温度の選択は、CVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板の加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記の合成温度の選択は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
【0033】
(実施例3比較例3)
次に、基板材料を変更した場合のカーボンナノチューブの性状を調べた。基板として、実施例3−1:ステンレス(SUS316)基板、実施例3−2:石英にコバルトマグネトロンスパッタリングして被覆した基板、実施例3−3:石英に鉄をマグネトロンスパッタリングして被覆した基板、実施例3−4:カーボンペーパーに触媒としてコバルトを被覆した基板、実施例3−5:石英にチタンをスパッタリングにより被覆し、さらにこれに触媒として、同様にコバルトを被覆した基板、を使用した。また、比較例3としてアルミナ基板を使用した。
なお、この実施例では、カーボンナノチューブ合成反応炉の温度を900°Cとし、2次油のインジェクター加熱部が200°Cに達した時に、これをキャリヤーガスと共に、CVD炉へ導入した。他の条件は実施例1−2と同様である。
【0034】
実施例3−1のステンレス(SUS316)基板を用いた場合を、図9に示す。図9に示すように、ステンレス基板を用いた場合は、綿状にカーボンナノチューブが成長しているのが分る。合成条件が実施例1と異なるので、実施例1と比較してカーボンナノチューブの性状が若干劣るが、カーボンナノチューブの成長が確認できる。この場合、コバルト触媒等の触媒層の作成が不要であるという大きな特徴を有しており、生産性に大きな効果がある。
【0035】
実施例3−2:石英にコバルトマグネトロンスパッタリングして被覆した基板、実施例3−3:石英に鉄をマグネトロンスパッタリングして被覆した基板を用いた場合を、図10及び図11に示す。
この場合も、綿状にカーボンナノチューブが成長しているのが分る。合成条件が実施例1と異なるので、実施例1と比較してカーボンナノチューブの性状が若干劣るが、カーボンナノチューブの成長が確認できる。
以上から、カーボンナノチューブの成長は、SUS>石英(Co触媒)>石英(鉄触媒)の順に良好であることが分る。
【0036】
次に、実施例3−4:カーボンペーパーに触媒としてコバルトを被覆した基板を使用した場合を図12に示す。この場合も、綿状にカーボンナノチューブが成長しているのが分る。合成条件が実施例1と異なるので、実施例1と比較してカーボンナノチューブの性状が若干劣るが、カーボンナノチューブの成長が確認できる。
実施例3−5:石英にチタンをスパッタリングにより被覆し、さらにこれに触媒として、同様にコバルトを被覆した基板の結果については図に示さないが、前記実施例3−4と同様な結果となった。
【0037】
さらに、比較例3としてアルミナ基板を使用した場合について調べた結果、目視観察によればカーボン膜だけで、カーボンナノチューブの存在は確認できなかった。以上に示すように、基板の選択によりカーボンナノチューブ合成成長が異なることに留意する必要があることが確認できた。
しかし、基板の選択は、CVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板の加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記のキャリヤーガスの流速は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
【0038】
(実施例4)
次に、上記調整油を加熱してエアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入するキャリヤーガスを替えた場合について、調査した。下記実施例はキャリヤーガスの種類を示す。他の条件は、実施例1−2と同様である。
実施例4−1:窒素(N2)ガス(ガス流量700ml/min)、実施例4−2:窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス(0.07<PH2<0.29、トータルガス流量700ml/min)、実施例4−3:窒素(N2)ガス+水素(H2)+ガスアンモニア(NH3)ガス(0.07<PNH3<0.154、0.07<PH2<0.154、0.615<PN2<0.846、トータルガス流量650ml/min)を使用した。
【0039】
いずれの場合もカーボンナノチューブが形成され有効であったしかし、実施例4−1には図示しないが、カーボンナノチューブと炭素膜及び球状カーボンと混在していた。実施例4−2については、綿状のカーボンナノチューブが形成された。この結果を、図13(SEM画像)に示す。
さらに、実施例4−3については、カーボンナノチューブが明瞭になり、配向性が向上し、さらに単層も可能であった。
この結果を、図14(SEM画像)に示す。図14は、窒素(N2)ガス+水素(H2)+ガスアンモニア(NH3)ガスを用いてカーボンナノチューブを形成した典型的なSEM画像であり、図14(a)は倍率1kであり、図14(b)は15kの場合である。図14(b)は、カーボンナノチューブのForest(森林)の断面を示すが、配向性が向上していることが分かる。
【0040】
(実施例5)
次に、キャリヤーガスの流速を替えた場合のカーボンナノチューブの合成への影響を調べた。キャリヤーガスの流速は300〜700ml/minを用いた。他の条件は実施例1−2と同一とした。
カーボンナノチューブの合成には、当然キャリヤーガスの流速に影響を受けるものであるが、上記の流速で実施した場合は、いずれも良好なカーボンナノチューブが合成された。本実施例では、キャリヤーガスの流速が400ml/min未満では不揃いのカーボンナノチューブとなった。
【0041】
実施例5−1は、キャリヤーガスの流速を650ml/minとしてカーボンナノチューブが合成した場合の結果を、図15に示す。このように性状の良好なカーボンナノチューブが合成された。一方、実施例5−2は、キャリヤーガスの流速を400ml/minとしてカーボンナノチューブが合成した場合の結果を、図16に示す。このようにやや綿状のカーボンナノチューブが合成された。
このように、キャリヤーガスの流速の調整は重要であることが分った。
しかし、キャリヤーガスの流速の調整は、CVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板種類と加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記のキャリヤーガスの流速は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、廃タイヤ→高度機能ナノ炭素材料と有用廃炭粉→植林保水、環境浄化・保全→樹木生長→CO2に吸収という完全資源循環型社会の構築を可能にし、環境問題解決に大きな役割を果たす。さらに、上述の廃タイヤ資源利用サイクルは、CO2に排出権獲得による経済的戦略技術にも成り得る。本発明は、新素材であるCNT普及の支障となっている製造コストを大幅に低減することができるので、新エネルギー材料(燃料電池、電気化学デバイス)、環境浄化・保全材料、自動車や航空機産業への軽量素材等、電子複合材料、電磁波遮蔽反射材料、医療材料等への活用はもちろんのこと、CO2排出権に対する戦略的発明技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の代表的な工程の模式図である。
【図2】実施例1−2において合成された代表的なカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図3】ステンレス基板上にカーボンナノチューブを形成したラマンスペクトルを示す図である。
【図4】加熱分離処理を行わなかった比較例1の合成結果のEM画像を示す図である。
【図5】実施例1−1において合成された代表的なカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図6】実施例1−3において合成された代表的なカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図7】実施例2−1の900°Cで実施した多層カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図8】実施例2−2の1000°Cで実施した多層カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図9】実施例3−1のステンレス(SUS316)基板を用いた場合のカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図10】実施例3−2の、石英にコバルトマグネトロンスパッタリングして被覆した基板を用いた場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図11】実施例3−3の、石英に鉄をマグネトロンスパッタリングして被覆した基板を用いた場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図12】実施例3−4の、カーボンペーパーに触媒としてコバルトを被覆した基板を使用した場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図13】実施例4−2の、綿状のカーボンナノチューブのSEM画像示す図である。
【図14】実施例4−3の、配向性が向上したカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図15】実施例5−1の、キャリヤーガスの流速を650ml/minとしてカーボンナノチューブを合成した場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図16】実施例5−2の、キャリヤーガスの流速を400ml/minとしてカーボンナノチューブを合成した場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【技術分野】
【0001】
この発明は、廃タイヤからカーボンナノチューブ(CNT)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃タイヤ(約1億本/年、100万t/年)に関する再利用技術は、マテリアルリサイクル及びサーマルリサイクルに関するものがほとんどである。
一部、廃タイヤからの乾留油回収の技術又は廃タイヤからカーボンブラックを回収する提案がある(特許文献1及び特許文献2参照)が、これは単なる燃料としての利用又は高温で熱分解してカーボンブラック(粉)の製造を目的としているにすぎない。
【0003】
一方、カーボンナノチューブの作成法についても様々な炭素源を用いて多数研究されている(例えば、特許文献3及び特許文献4)が、廃タイヤからのCNTやCNFへの選択的転換・製造は全く見当たらない。
一方、原油由来の成分や重質油等をナノ炭素合成の原料とするには、取り扱う留分を処理し目的成分を抽出・化学的処理をするという複雑なプロセスの必要性だけでなく、原油採掘からの様々なエネルギーまでを考慮に入れる必要が有り、全く合理性がないと言える。
【0004】
廃タイヤは、単なる燃料あるいは低次元ゴム原料としてのリサイクル物および社会問題提供物としてしか認識されておらず、そのような利用法にしか活用されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平8−27394号公報
【特許文献2】特開平9−104830号公報
【特許文献3】特開平7−61803号公報
【特許文献4】特開2007−22896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、様々な社会問題や環境問題を引き起こしている廃タイヤを、原油由来の単なる炭素源の代替物ではなく、有効資源としてそのまま活用する方法であり、高付加価値ナノ炭素材料を選択的且つ安価に供給する実用化技術を提供する。廃タイヤの有効資源化は、C4およびC5の原油成分から複雑な処理プロセスを経て初めて合成される合成ゴム成分(ブタジエン、イソプレン等)を用いるカーボンナノチューブなどの合成よりも、はるかに簡便で、工学的、社会的、経済的に合理的な技術であり、廃タイヤの有効利用に資する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を達成するため、次の方法を提供するものである。
1)廃タイヤを分解炉中で加熱分離(乾留)して1次油を採取し、この1次油をさらに加熱処理して、廃タイヤの主成分であるA〜C重油成分及び固形物を分離除去したカーボンナノチューブの合成原料となる残油成分である2次油を抽出し、当該残油成分である2次油をキャリヤーガスと共に、CVD装置に配置した基板上に導入して、当該基板上にカーボンナノチューブを加熱合成することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法
2)前記1次油の加熱分離処理を50〜230°Cで行うことを特徴とする上記1)記載のカーボンナノチューブの製造方法
3)前記A〜C重油成分及び固形物を除去した2次油をさらに遠心分離処理を行い、カーボンナノチューブの合成原料とすることを特徴とする上記1)又は2)記載のカーボンナノチューブの製造方法
4)A〜C重油及び固形物を除去した2次油からなる油成分に水分を飽和させ、カーボンナノチューブの合成原料することを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法、を提供する。
本発明は、産業廃棄物である廃タイヤを有効利用するために、特に廃タイヤを中心に説明しているが、タイヤ成分を持つものは(新タイヤ又は未使用のタイヤ、天然ゴム又は合成ゴムを使用したタイヤ)を全て利用できることは言うまでもない。すなわち本願発明は、これらのタイヤ成分を持つものを全て含むものであることは理解されるべきことである。
上記の場合、適宜ガスクロマトグラフィー又は液クロマトグラフィーを実施して、留分の分析結果を把握しながら、合成原料を調整することが望ましい。
【0007】
また、本発明は、
5)設置型電気炉内を窒素ガス雰囲気とし700〜1200°Cに加熱し、基板上にカーボンナノチューブを合成析出させることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法
6)基板として、鉄基合金基板、石英にコバルト及び鉄を被覆した基板、石英にチタンを基板又はカーボン基板を使用し、前記石英にチタンを被覆した基板及びカーボン基板には、触媒としてコバルト又は鉄の薄膜を形成した基板を使用することを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法、を提供する。
【0008】
また、本発明は、
7)上記合成原料油となる2次油を加熱して、エアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入する際に、キャリヤーガスとして、窒素(N2)ガス、窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス、アンモニア(NH3)ガス及びこれらの混合ガス(N2+H2+NH3)を使用することを特徴とする上記1)〜6)のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法
8)上記キャリヤーガスの流速を300〜700ml/minとして、エアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入することを特徴とする上記7)記載のカーボンナノチューブの製造方法、を提供するものである。
【0009】
なお、上記基板材料としては、石英だけでなく、アルミナ等のセラミック板、カーボンペーパー、カーボン布などを利用することもできる。これらは、安価に入手でき、量産化が可能となるため、工業的、経済的に有利な材料となる。また、基板上へ鉄、コバルト、チタン等を被覆する場合には、通常スパッタリング(DCスパッタリング、高周波スパッタリング)を使用するが、他の被覆方法(めっき法、蒸着等)を使用できることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、本発明によるCNTの安価な供給は、これを利用できる環境・新エネルギー、工業複合材料、電子電気応用等の様々な分野の発展に多大の影響を与える。廃タイヤ→高度機能ナノ炭素材料と有用廃炭粉→植林保水、環境浄化・保全→樹木生長→CO2の吸収という完全資源循環型社会の構築を可能にし、環境問題解決に大きな役割を果たす。さらに、上述の廃タイヤ資源利用サイクルは、CO2に排出権獲得による経済的戦略技術にも成り得る要素を多大に含むものでもあり、本発明の社会的、工学的意義は極めて大きい。
社会環境問題を引き起こし、適正な処理が強く望まれている廃タイヤの高付加価値なCNTなどのナノ炭素材料への転換を選択的かつ安価にできる。これは、新素材であるCNT普及の支障となっている製造コストを大幅に低減するため、新エネルギー材料(燃料電池、電気化学デバイス)、環境浄化・保全材料、自動車や航空機産業への軽量素材等、電子複合材料、電磁波遮蔽反射材料、医療材料等への活用はもちろんのこと、CO2排出権に対する戦略的発明技術としての活用も可能にするという大きな効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、廃タイヤから高度機能ナノ材料に一つであるカーボンナノチューブ(CNT)を選択的に合成する技術を提供するものである。このとき、廃タイヤから乾留により油(以下、「1次油」と呼ぶ)を抽出する工程を経るが、単にこの1次油を本発明の方法に適用しても、カーボンナノチューブを合成することはできない。できたとしても、カーボン膜程度である。以下に、本発明の製造方法を具体的に説明するが、この理由は自ずと理解できる。
【0012】
本発明は、1次油をさらに処理して、1次油から低沸点成分を含む石油原料として、より価値の高い成分を除いた油(以下、「2次油」)であり、これを使用して高度機能ナノ材料であるカーボンナノチューブ(CNT)の合成に成功したことに大きな特徴を有する。
すなわち、廃タイヤの乾留による抽出油(1次油)から、利用価値の高い重油成分を採取してしまった残渣油から高度機能ナノ材料であるカーボンナノチューブを合成できることを意味する。
この残渣油は、スラッジを含むものであるが、これまで処分に困っていた残りかす(残渣)であり、このスラッジを含む残渣油を、高付加価値材料に転換したこと自体、画期的発明と言えるものである。
【0013】
以下に、本発明を具体的に説明する。図1に、本発明の代表的な工程の模式図を示す。本発明においては、まず廃タイヤから油を採取する工程(StageI)が必要である。図1に示すタイヤ分解炉(乾留炉)では、油を酸化させずに採取するために不活性雰囲気下で減圧にすることが望ましい。しかし、常圧でも、処理することは可能である。
分解炉中の温度は350°C以上、700°C以下とするのが望ましい。約100°C以上、300°C以下では、水滴又は黄色いエアロゾルがでるだけである。分解炉中の温度を350°C以上とすることにより分離油が採取(抽出)できる(1次油)。しかし、この分解炉の温度は、処理量によっても替えることがあるので、上記の温度範囲は、望ましい温度範囲であり、これ以外の温度もあり得ることは理解されるべきことである。
【0014】
このようにして採取した分離油(1次油)を、さらに加熱分離処理して2次油を作製する(図1に示すStageII参照)。この加熱分離処理は50〜230°Cで行うのが望ましい。この工程では、廃タイヤの主成分であるA〜C重油及び固形物を除去する。この段階までに、カーボンナノチューブの形成に支障となる硫黄等の不純物を除去するのが望ましい。
下記に示す実施例では、150°Cで分離抽出したものが、後述するように最も良好なカーボンナノチューブを得ることができたが、これも処理量によって、替え得るものであり、上記範囲外の温度もあり得る。上記温度条件は、好ましい条件を示すものである。
A〜C重油は、本来廃タイヤからの抽出における上質な(産業上使用可能な)成分である。しかし、本願発明においては、このような上質成分は不要であり、この上質な成分から本願発明のカーボンナノチューブを製造することはできない。本願発明においては、一般にスラッジを含む残渣油(残油成分である2次油)である。これが、本願発明の大きな特徴であり、従来このようなスラッジを含む残渣油の利用技術は存在しない。
【0015】
固形物(不純物を含む)及び極端に粘性の高い物質(重い物質)を分離するために、遠心分離処理を行うのが望ましい。本実施例においては、毎分16000回転(23000g、10分×6回)遠心分離処理を実施した。
この遠心分離処理では、加熱分離処理の際でも残存していた油中の軽い成分(低沸点成分)が同時に除去される。この遠心分離処理は必要に応じて使用するものであり、必須要件ではない。すなわち、2次油の抽出の段階で、十分な分離が行われていれば、この処理は不要である。
【0016】
次に、このようにしてA〜C重油、固形物、硫黄等の不純物を除去し、抽出した油成分に水分を飽和させる。油成分に超純水を添加する(通常の純水でも良いが、不純物の混入を避けるため、超純水を使用することが望ましい)。この工程は、本実施例における重要な工程の一つである。
この工程で、油成分に水分を十分に飽和させるために、密閉容器中で超音波をかける。水分が多すぎた場合には、軽く遠心分離を行い、過剰な水分を除去することができる。この遠心分離処理は、付加的なものであるが、油成分に水分を十分に飽和させるためには、有効である。水分の飽和が達成される状況を見て、この遠心分離処理を任意に調整できることは言うまでもない。
【0017】
上記調整油(2次油)を、図1に示す熱分解CVD(化学気相成長法)装置である水平設置型電気炉内に配置した基板上に、カーボンナノチューブを合成析出させる。熱分解CVD装置の内部を窒素ガス雰囲気とし、700〜1200°Cに上昇させる。一般に合成温度を高くすることにより、カーボンナノチューブの性状を向上させることができる。
カーボンナノチューブ合成温度に到達する前に、水素ガスを混合(50cc/min)させて、合成前に基板表面を還元することが望ましい。
基板として、鉄合金基板(特にステンレス基板)、石英にコバルト又は鉄をマグネトロンスパッタリングして被覆した基板、石英にチタンをスパッタリングにより被覆した基板、カーボン基板を使用することが望ましい。
上記基板材料としては、石英だけでなく、アルミナ等のセラミック板、カーボンペーパー、カーボン布などを利用することもできる。なお、石英にチタンを被覆した基板及びカーボン基板、セラミック基板には、原則として触媒としてコバルト又は鉄の薄膜を、スパッタリングにより形成する。
【0018】
上記調整油(合成原料油)を加熱してエアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入するキャリヤーガスとして、窒素(N2)ガス、窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス、アンモニア(NH3)ガス及びこれらの混合ガス(N2+H2+NH3)を使用した。いずれの場合も有効であった。特に、アニモニアガスを使用した場合には、カーボンナノチューブが真直ぐに成長する傾向があり、性状の良好なカーボンナノチューブが得られる。
【0019】
この場合、アニモニアガスを使用することは、カーボンナノチューブの化学修飾(側壁に官能基をつけて分散性を良くする)のためではない。カーボンナノチューブの化学修飾のために、アニモニアガスを使用する処理法が報告されている例があるが、本発明においては、カーボンナノチューブの合成過程において、カーボンナノチューブの成長、配向性、性状の向上を図ることを第一義とするものである。すなわち、カーボンナノチューブが合成析出されなければ、意味がないものである。付加的にカーボンナノチューブに化学修飾が行われてもそれ自体は、本願発明と矛盾しないので、それを否定するものではない。
なお、後述するように、キャリヤーガスの種類によって、カーボンナノチューブの合成に影響を受けるので、下記の説明するキャリヤーガスの流速、基板温度、処理量によって適宜調節することが必要である。
【0020】
キャリヤーガスの流速は、300〜700ml/minを用いる。カーボンナノチューブの合成には、当然キャリヤーガスの流速に影響を受けるものであるが、上記の流速で実施した場合は、いずれも良好なカーボンナノチューブが合成される。下記実施例では、キャリヤーガスの流速が400ml/min未満では不揃いのカーボンナノチューブとなった。
しかし、キャリヤーガスの流速の調整は、CVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板種類と加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記のキャリヤーガスの流速は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
上記の調整油(2次油)を適量採取し、これを100〜300°Cに温度制御したインジェクター内注入する。そして、インジェクター加熱部が所定温度に達した後、これをキャリヤーガスと共に、CVD炉へ導入して、カーボンナノチューブを合成成長させる。反応時間は、処理量に応じて調整する。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例及び比較例を説明する。なお、実施例はあくまで、発明の理解を容易にするためであり、この実施例の条件に制限されない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、他の態様、他の実施条件は、本願発明に全て含まれるものである。
【0022】
図1に、本実施例の代表的な工程の模式図を示すが、本実施例においては、この図1に基づいて説明する。まず廃タイヤから油を採取する工程(StageI)がある。図1に示すタイヤ分解炉は、油を酸化させずに採取するために不活性雰囲気下で減圧にした。分解炉中の温度は350°C以上、700°C以下とした。約100°C以上、300°C以下では、水滴又は黄色いエアロゾルがでるだけである。しかし、本実施例において分解炉中の温度を350°C以上とすることにより、分離油が「1次油」として採取(抽出)できた。
【0023】
(実施例1と比較例1)
このようにして採取した分離油(1次油)を、さらに加熱分離処理して2次油を作製した(StageII)。本実施例では、実施例1−1:100°C、実施例1−2:150°C、実施例1−3:200°Cで実施した。この工程で、A〜C重油、固形物、硫黄が除去される。
さらに、この2次油を遠心分離機にかけ、固形物(不純物を含む)及び極端に粘性の高い物質(重い物質)を分離した。この遠心分離処理は、毎分16000回転(23000g、10分×6回)で行った。
この遠心分離処理操作により、遠沈管上部の留分を採取し、カーボンナノチューブ用合成油とした。
【0024】
このようにして、A〜C重油、固形物、その他の不純物を除去し、抽出した油成分に、超純水を添加した。この工程で、油成分に水分を十分に飽和させるために、密閉容器中で超音波を1時間かけた。また、この際に温度上昇を避けるために、10分×6回実施した。
油成分(2次油)のpHが、好適なカーボンナノチューブの作成条件の一つになっていると考えられるが、油成分に水分を飽和させることも重要な意味を持つと考えられる。それは油成分(2次油)のpH調整の役割をしていること、さらに水分の油成分へ懸濁にも、水分のpHが関係していると考えられるからである。油成分(2次油)への水分の添加により、基板への分散性が向上し、整列した好適なカーボンナノチューブの作成を可能とする。
このようにして水分を飽和させた2次油を用い、キャリヤーガスとして窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス+アンモニア(NH3)ガス(N2:H2:NH3=500:100:50cc/min)を用い、1000°Cに上昇させたCVD装置内でステンレス基板上に、カーボンナノチューブを合成析出させた。キャリヤーガスの流速は650ml/minとした。
【0025】
熱分解CVD(化学気相成長法)は、図1に示すような平設置型電気炉内に配置した基板上に、カーボンナノチューブを合成析出させて行った。
カーボンナノチューブ合成温度到達30分前から水素ガスを混合(50cc/min)し、合成前に基板表面を還元した。インジェクター部の加熱温度は200°Cであった。
上記2次油の中でも、実施例1−2:150°Cで分離抽出したものが、最も良好なカーボンナノチューブを得ることができた。この結果を、図2(SEM画像)に示す。図2(a)は2次油を用いて作成したカーボンナノチューブの高倍率のSEM画像、(b)は同低倍率のSEM画像を示す。
この図から、長さが10〜30μm長程度の多数のカーボンナノチューブを観察することができる。また、カーボンナノチューブの直径は100nm程度であり、また形状ストリートで揃っており、良好なカーボンナノチューブが得られたことを確認できた。
【0026】
上記実施例1−2:の条件で、ステンレス基板上にカーボンナノチューブを形成したラマンスペクトルを図3に示す。この図から明らかなように、多層カーボンナノチューブでは出現しないラジアルブリージングモードがスペクトルに出現しており、単層のカーボンナノチューブが存在していることが分る。しかし、その強度は弱く、存在量が少ないと言える。
一方、波数1600及び2700の領域にGバンド及びG´バンドが出現しており、結晶性炭素構造(SP2)をもつカーボンナノチューブであることが明瞭である。波数1370領域にDバンドが出現しており、欠陥構造も存在していることも分る。しかし、この欠陥構造があっても、カーボンナノチューブの存在は明らかであり、カーボンナノチューブの利用が可能であることは明らかと言える。
【0027】
比較例1として、加熱分離処理を行わなかった例を、図4に示す。他の条件は、上記と同様である。
図4(a)は、1次油で作成したものであるが、カーボンナノ粒子が観察された。図4(b)は、1次油を用いキャリヤーガス流量を350ml/minで作成したものであるが、カーボン膜が形成されているのが観察された。図4(c)は、1次油の50〜100°Cで抽出した油分を用い、触媒なしのアルミナ基板上に形成したものであるが、カーボンナノ粒子であった。
この結果、図4に示すように、基板上に形成されたものは全てカーボン膜又はカーボンブラックであり、合成条件を変えても、カーボンナノチューブの作製はできなかった。
また、100°Cで2次油を作製した場合を、図5(SEM画像)に示す。この図5に示すように、カーボンナノチューブ以外に、カーボンナノファイバー(CNF)や不必要なカーボン膜も形成されていた。しかし、不必要なカーボン膜は、合成条件、例えば合成温度、キャリヤーガスの種類、流速を調整することにより、調節可能である。
200°Cで2次油を作製した場合を、図6(SEM画像)に示す。この図6に示すように、カーボンナノチューブが綿のように生長した。この結果は、150°Cで分離抽出させた図2よりも劣るが、この合成条件は、例えば合成温度、キャリヤーガスの種類、流速を調整することにより、同様に調節できる。
以上から、調節可能な効果的な条件は、1次油の加熱分離処理を50〜230°Cで行うことであることが分った。
【0028】
A〜C重油は、廃タイヤからの抽出における上質な成分である。しかし、本願発明においては、このような上質成分は不要であり、この上質な成分から本願発明のカーボンナノチューブを製造することはできなかった。
本願発明においては使用できる油成分は、一般に重油成分が除かれた残渣油である。上記の通り、この加熱分離処理は50〜230°Cで行うのが望ましいことが分った。
しかし、加熱分離処理の条件の選択は、その後の処理条件、すなわちCVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板の加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記の合成温度の選択は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
【0029】
(実施例2と比較例2)
次に、合成温度を替えた場合について説明する。他の条件は、2次油の中でも、最も良好なカーボンナノチューブを得ることができた150°Cで分離抽出したもの(実施例1−2の条件)を採用した。この合成温度は、2次油の処理量、基板の種類、キャリヤーガスの種類と流速によっても変化するが、好ましい、およその反応温度を知ることができる。
【0030】
本実施例2では、2次油の調整油3mlを100〜300°Cに温度制御したインジェクター内注入した。このインジェクター加熱部が200°Cに達した時、これをキャリヤーガスと共に、CVD炉へ一気に導入した。反応時間は、30〜60分である。合成反応の温度条件をそれぞれ、比較例2−1:700°C、比較例2−2:800°C(以上は比較例)、実施例2−1:900°C、実施例2−2:1000°C、実施例2−3:1100°Cとした。
【0031】
この結果、比較例2−1である700°C、比較例2−2である800°Cでは、カーボンナノチューブの合成を確認できなかった。しかし、実施例2−1:900°C、実施例2−2:1000°C、実施例2−3:1100°Cでは、いずれも多層のカーボンナノチューブが確認できた。
実施例2−1:900°Cの多層のカーボンナノチューブを図7(SEM画像)に示す。また、実施例2−2:1000°Cの多層のカーボンナノチューブを図8(SEM画像)に示す。さらに1100°Cの多層のカーボンナノチューブについては、図に示さないが、図8と同様な構造であった。
以上から、900°Cよりも、1000°C、1100°Cにおいて、多層カーボンナノチューブの存在が明瞭に確認できた。
【0032】
これによれば、合成温度が高いほどカーボンナノチューブの性状を良好にすることができると言える。なお、この1000°Cの条件は、図3のラマンスペクトルで調べたものと同一条件である。
しかし、合成温度の選択は、CVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板の加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記の合成温度の選択は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
【0033】
(実施例3比較例3)
次に、基板材料を変更した場合のカーボンナノチューブの性状を調べた。基板として、実施例3−1:ステンレス(SUS316)基板、実施例3−2:石英にコバルトマグネトロンスパッタリングして被覆した基板、実施例3−3:石英に鉄をマグネトロンスパッタリングして被覆した基板、実施例3−4:カーボンペーパーに触媒としてコバルトを被覆した基板、実施例3−5:石英にチタンをスパッタリングにより被覆し、さらにこれに触媒として、同様にコバルトを被覆した基板、を使用した。また、比較例3としてアルミナ基板を使用した。
なお、この実施例では、カーボンナノチューブ合成反応炉の温度を900°Cとし、2次油のインジェクター加熱部が200°Cに達した時に、これをキャリヤーガスと共に、CVD炉へ導入した。他の条件は実施例1−2と同様である。
【0034】
実施例3−1のステンレス(SUS316)基板を用いた場合を、図9に示す。図9に示すように、ステンレス基板を用いた場合は、綿状にカーボンナノチューブが成長しているのが分る。合成条件が実施例1と異なるので、実施例1と比較してカーボンナノチューブの性状が若干劣るが、カーボンナノチューブの成長が確認できる。この場合、コバルト触媒等の触媒層の作成が不要であるという大きな特徴を有しており、生産性に大きな効果がある。
【0035】
実施例3−2:石英にコバルトマグネトロンスパッタリングして被覆した基板、実施例3−3:石英に鉄をマグネトロンスパッタリングして被覆した基板を用いた場合を、図10及び図11に示す。
この場合も、綿状にカーボンナノチューブが成長しているのが分る。合成条件が実施例1と異なるので、実施例1と比較してカーボンナノチューブの性状が若干劣るが、カーボンナノチューブの成長が確認できる。
以上から、カーボンナノチューブの成長は、SUS>石英(Co触媒)>石英(鉄触媒)の順に良好であることが分る。
【0036】
次に、実施例3−4:カーボンペーパーに触媒としてコバルトを被覆した基板を使用した場合を図12に示す。この場合も、綿状にカーボンナノチューブが成長しているのが分る。合成条件が実施例1と異なるので、実施例1と比較してカーボンナノチューブの性状が若干劣るが、カーボンナノチューブの成長が確認できる。
実施例3−5:石英にチタンをスパッタリングにより被覆し、さらにこれに触媒として、同様にコバルトを被覆した基板の結果については図に示さないが、前記実施例3−4と同様な結果となった。
【0037】
さらに、比較例3としてアルミナ基板を使用した場合について調べた結果、目視観察によればカーボン膜だけで、カーボンナノチューブの存在は確認できなかった。以上に示すように、基板の選択によりカーボンナノチューブ合成成長が異なることに留意する必要があることが確認できた。
しかし、基板の選択は、CVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板の加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記のキャリヤーガスの流速は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
【0038】
(実施例4)
次に、上記調整油を加熱してエアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入するキャリヤーガスを替えた場合について、調査した。下記実施例はキャリヤーガスの種類を示す。他の条件は、実施例1−2と同様である。
実施例4−1:窒素(N2)ガス(ガス流量700ml/min)、実施例4−2:窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス(0.07<PH2<0.29、トータルガス流量700ml/min)、実施例4−3:窒素(N2)ガス+水素(H2)+ガスアンモニア(NH3)ガス(0.07<PNH3<0.154、0.07<PH2<0.154、0.615<PN2<0.846、トータルガス流量650ml/min)を使用した。
【0039】
いずれの場合もカーボンナノチューブが形成され有効であったしかし、実施例4−1には図示しないが、カーボンナノチューブと炭素膜及び球状カーボンと混在していた。実施例4−2については、綿状のカーボンナノチューブが形成された。この結果を、図13(SEM画像)に示す。
さらに、実施例4−3については、カーボンナノチューブが明瞭になり、配向性が向上し、さらに単層も可能であった。
この結果を、図14(SEM画像)に示す。図14は、窒素(N2)ガス+水素(H2)+ガスアンモニア(NH3)ガスを用いてカーボンナノチューブを形成した典型的なSEM画像であり、図14(a)は倍率1kであり、図14(b)は15kの場合である。図14(b)は、カーボンナノチューブのForest(森林)の断面を示すが、配向性が向上していることが分かる。
【0040】
(実施例5)
次に、キャリヤーガスの流速を替えた場合のカーボンナノチューブの合成への影響を調べた。キャリヤーガスの流速は300〜700ml/minを用いた。他の条件は実施例1−2と同一とした。
カーボンナノチューブの合成には、当然キャリヤーガスの流速に影響を受けるものであるが、上記の流速で実施した場合は、いずれも良好なカーボンナノチューブが合成された。本実施例では、キャリヤーガスの流速が400ml/min未満では不揃いのカーボンナノチューブとなった。
【0041】
実施例5−1は、キャリヤーガスの流速を650ml/minとしてカーボンナノチューブが合成した場合の結果を、図15に示す。このように性状の良好なカーボンナノチューブが合成された。一方、実施例5−2は、キャリヤーガスの流速を400ml/minとしてカーボンナノチューブが合成した場合の結果を、図16に示す。このようにやや綿状のカーボンナノチューブが合成された。
このように、キャリヤーガスの流速の調整は重要であることが分った。
しかし、キャリヤーガスの流速の調整は、CVD装置の容量、加熱条件、原料の処理量、キャリヤーガスの種類、基板種類と加熱温度等により影響を受けるものであるから、上記のキャリヤーガスの流速は目安となるものであり、条件によって変更できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、廃タイヤ→高度機能ナノ炭素材料と有用廃炭粉→植林保水、環境浄化・保全→樹木生長→CO2に吸収という完全資源循環型社会の構築を可能にし、環境問題解決に大きな役割を果たす。さらに、上述の廃タイヤ資源利用サイクルは、CO2に排出権獲得による経済的戦略技術にも成り得る。本発明は、新素材であるCNT普及の支障となっている製造コストを大幅に低減することができるので、新エネルギー材料(燃料電池、電気化学デバイス)、環境浄化・保全材料、自動車や航空機産業への軽量素材等、電子複合材料、電磁波遮蔽反射材料、医療材料等への活用はもちろんのこと、CO2排出権に対する戦略的発明技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の代表的な工程の模式図である。
【図2】実施例1−2において合成された代表的なカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図3】ステンレス基板上にカーボンナノチューブを形成したラマンスペクトルを示す図である。
【図4】加熱分離処理を行わなかった比較例1の合成結果のEM画像を示す図である。
【図5】実施例1−1において合成された代表的なカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図6】実施例1−3において合成された代表的なカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図7】実施例2−1の900°Cで実施した多層カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図8】実施例2−2の1000°Cで実施した多層カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図9】実施例3−1のステンレス(SUS316)基板を用いた場合のカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図10】実施例3−2の、石英にコバルトマグネトロンスパッタリングして被覆した基板を用いた場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図11】実施例3−3の、石英に鉄をマグネトロンスパッタリングして被覆した基板を用いた場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図12】実施例3−4の、カーボンペーパーに触媒としてコバルトを被覆した基板を使用した場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図13】実施例4−2の、綿状のカーボンナノチューブのSEM画像示す図である。
【図14】実施例4−3の、配向性が向上したカーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図15】実施例5−1の、キャリヤーガスの流速を650ml/minとしてカーボンナノチューブを合成した場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【図16】実施例5−2の、キャリヤーガスの流速を400ml/minとしてカーボンナノチューブを合成した場合の、カーボンナノチューブのSEM画像を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃タイヤを分解炉中で加熱分離して1次油を採取し、この1次油をさらに加熱処理して、廃タイヤの主成分であるA〜C重油成分及び固形物を分離除去したカーボンナノチューブの合成原料となる残油成分である2次油を抽出し、当該残油成分である2次油をキャリヤーガスと共に、CVD装置に配置した基板上に導入して、当該基板上にカーボンナノチューブを加熱合成することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記採取した1次油の加熱分離処理を50〜230°Cで行うことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記A〜C重油成分及び固形物を除去した2次油をさらに遠心分離処理を行い、カーボンナノチューブの合成原料とすることを特徴とする請求項1又は2記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
A〜C重油及び固形物を除去した2次油からなる油成分に水分を飽和させ、カーボンナノチューブの合成原料することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
設置型電気炉内を窒素ガス雰囲気とし700〜1200°Cに加熱し、基板上にカーボンナノチューブを合成析出させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
基板として、鉄基合金基板、石英にコバルト及び鉄を被覆した基板、石英にチタンを基板又はカーボン基板を使用し、前記石英にチタンを被覆した基板及びカーボン基板には、触媒としてコバルト又は鉄の薄膜を形成した基板を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
上記合成原料油となる2次油を加熱して、エアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入する際に、キャリヤーガスとして、窒素(N2)ガス、窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス、アンモニア(NH3)ガス及びこれらの混合ガス(N2+H2+NH3)を使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
上記キャリヤーガスの流速を300〜700ml/minとして、エアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入することを特徴とする請求項7記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項1】
廃タイヤを分解炉中で加熱分離して1次油を採取し、この1次油をさらに加熱処理して、廃タイヤの主成分であるA〜C重油成分及び固形物を分離除去したカーボンナノチューブの合成原料となる残油成分である2次油を抽出し、当該残油成分である2次油をキャリヤーガスと共に、CVD装置に配置した基板上に導入して、当該基板上にカーボンナノチューブを加熱合成することを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記採取した1次油の加熱分離処理を50〜230°Cで行うことを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記A〜C重油成分及び固形物を除去した2次油をさらに遠心分離処理を行い、カーボンナノチューブの合成原料とすることを特徴とする請求項1又は2記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
A〜C重油及び固形物を除去した2次油からなる油成分に水分を飽和させ、カーボンナノチューブの合成原料することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
設置型電気炉内を窒素ガス雰囲気とし700〜1200°Cに加熱し、基板上にカーボンナノチューブを合成析出させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
基板として、鉄基合金基板、石英にコバルト及び鉄を被覆した基板、石英にチタンを基板又はカーボン基板を使用し、前記石英にチタンを被覆した基板及びカーボン基板には、触媒としてコバルト又は鉄の薄膜を形成した基板を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
上記合成原料油となる2次油を加熱して、エアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入する際に、キャリヤーガスとして、窒素(N2)ガス、窒素(N2)ガス+水素(H2)ガス、アンモニア(NH3)ガス及びこれらの混合ガス(N2+H2+NH3)を使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
上記キャリヤーガスの流速を300〜700ml/minとして、エアロゾル化した反応ガスをCVD装置へ導入することを特徴とする請求項7記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−184871(P2009−184871A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26124(P2008−26124)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【出願人】(507223122)株式会社E・C・O (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【出願人】(507223122)株式会社E・C・O (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]