説明

カーボンナノチューブインク組成物及びカーボンナノチューブ膜の製造方法

【課題】カーボンナノチューブを容易に分散し、分散したカーボンナノチューブの保存安定性に優れ、更に、印刷装置に対する適合性(印刷装置に対する濡れ性、印刷装置内での充填性、印刷装置からの一定の吐出量での噴霧性)に優れるカーボンナノチューブインク組成物を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブと、溶媒と、グリコールエーテル類とを具備する。グリコールエーテル類と溶剤とがカーボンナノチューブを容易に分散し、分散したカーボンナノチューブを安定に保存する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブの分散液に関し、特にカーボンナノチューブインク組成物及びカーボンナノチューブ膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを円筒状に丸めた構造を有しており、一般的には、ストロー状もしくは麦わら状の構造を有している。カーボンナノチューブは、単一のチューブからなるシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)と、直径の異なる2本のチューブが積層したダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)と、直径の異なる多数のチューブが積層したマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)とに分類され、それぞれの構造において特徴を活かした応用研究が進められている。例えば、SWCNTは、グラフェンシートの巻き方により半導体特性を有する構造が存在し、高い移動度が期待されることから、薄膜トランジスタ(TFT)への応用が期待され活発に研究が進められている。非特許文献1から非特許文献4には、カーボンナノチューブを用いたTFTが、シリコン同等もしくはシリコン以上の性能を有することが開示されている。また、DWCNT及びMWCNTは、高い電気伝導性を示すため、電極材料、配線材料、帯電防止膜及び透明電極への応用が期待され研究が進められている。
【0003】
カーボンナノチューブをチャネルの半導体材料として用いるTFTは、カーボンナノチューブを1本もしくは数本、あるいは多数本用いて製造される。カーボンナノチューブを少数本用いるTFTは、一般的にカーボンナノチューブの長さが1μm程度もしくはそれ以下のものが多いため、微細加工が必要となる。つまり、ソース電極−ドレイン電極間いわゆるチャネル長は、サブミクロンスケールで製造されなくてはならない。これに対して、カーボンナノチューブを多数本用いるTFTは、カーボンナノチューブのネットワークをチャネルとして利用するためチャネル長を大きくすることが可能となり、簡便に製造することが出来る。非特許文献5には、多数本のカーボンナノチューブを用いてTFTを製造する技術が開示されている。
【0004】
カーボンナノチューブを多数本用いて薄膜を形成するには、カーボンナノチューブの溶液や分散液を用いる方法が挙げられる。カーボンナノチューブの薄膜を溶液、分散液から形成する方法は、非特許文献6から非特許文献9に開示されている。
【0005】
半導体層の材料としてカーボンナノチューブを使用する場合、カーボンナノチューブの薄膜を溶液、分散液を用いた方法で形成すると、半導体層の形成に必要な加熱温度を抑えることができる。従って、素子・デバイス、製品の基板、ガラスなどの硬い材料は勿論、樹脂やプラスチックなどの熱可塑性を有する材料にも半導体層を形成できるようになる。即ち、素子・デバイス及び製品全体にフレキシブル性を持たせることも可能になる。更に、カーボンナノチューブの薄膜を溶液、分散液から形成する方法は、塗装(印刷)プロセスを採用するため、素子・デバイス及び製品の低コスト化を実現できる可能性を有している。
【0006】
特許文献1には、機械的強度が強く、基板との密着性が高く、表面及び基板との間で導電性を持つ、カーボンナノチューブパターンを容易に形成する方法が開示されている。この形成方法は、カーボンナノチューブの分散液を用いて基板表面に所望のパターンを印刷し、分散媒を蒸発させてパターン層を形成する工程と、パターン層を基板表面に固定する工程とを含むことを特徴とする。このような形成方法は、カーボンナノチューブが密に積層された網目構造を固定できるため、電気的に良好なカーボンナノチューブパターンが形成できるというものである。更に、形成されたカーボンナノチューブパターンは、機械的強度を持ち、基板と密着性が高く、パターン表面及び基板との間で導電性を持つというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−69848号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sander J.Tansら、NATURE 、1998年5月7日、第393号、p.49−52
【非特許文献2】R.Martelら、APPLIED PHYSICS LETTERS、1998年10月26日、第73巻、第17号、p.2447−2449
【非特許文献3】S.J.Windら、APPLIED PHYSICS LETTERS、2002年5月20日、第80巻、第20号、p.3817−3819
【非特許文献4】Kai Xiaoら、APPLIED PHYSICS LETTERS、2003年7月7日、第83巻、第1号、p.150−152
【非特許文献5】S.Kumarら、APPLIED PHYSICS LETTERS、2006年、第89巻、p.143501(1)−143501(3)
【非特許文献6】Neerja Saranら、JOURNAL OF AMERICAN CHEMICAL SOCIETY、2004年、第126巻、p.4462−4463
【非特許文献7】Zhuangchun Wuら、SCIENCE、2004年8月27日、第305号、p.1273−1276
【非特許文献8】Mei Zhangら、SCIENCE、2005年8月19日、第309号、p.1215−1219
【非特許文献9】Yangxin Zhouら、APPLIED PHYSICS LETTERS、2006年、第88巻、p.123109(1)−123109(3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カーボンナノチューブを有機溶媒又は水に分散させたカーボンナノチューブインク組成物は、カーボンナノチューブ膜を形成するために有効である。しかし、カーボンナノチューブインク組成物の製造は、カーボンナノチューブを分散することの難しさ、及び分散したカーボンナノチューブを安定に保存させることの難しさから非常に困難である。これまで、カーボンナノチューブインク組成物を製造するために、イオン性の界面活性剤や、特殊な構造を有する化合物等が分散剤として用いられてきた。これらの分散剤は、カーボンナノチューブインク組成物の保存安定性に一定の効果はある。しかし、このようなカーボンナノチューブインク組成物では、インクジェットプリンタやディスペンサーなどの印刷装置に対する濡れ性が悪く、印刷によってカーボンナノチューブ膜を形成することは難しい。特に、インクジェットプリンタでは、ヘッド内での濡れ性の悪さにより、一定の吐出量で噴霧させることが困難である。
【0010】
本発明の目的は、カーボンナノチューブを容易に分散し、分散したカーボンナノチューブの保存安定性に優れ、更に、印刷装置に対する適合性(印刷装置に対する濡れ性、印刷装置内での充填性、印刷装置からの一定の吐出量での噴霧性)に優れるカーボンナノチューブインク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、カーボンナノチューブと、溶媒と、グリコールエーテル類とを具備する。このようなカーボンナノチューブインク組成物は、グリコールエーテル類と溶剤とがカーボンナノチューブを容易に分散し、分散したカーボンナノチューブを安定に保存することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、カーボンナノチューブを容易に分散でき、分散したカーボンナノチューブを安定に保存することができる。更に、本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、印刷装置に対する濡れ性に優れるため、印刷装置に充填しやすく、特に、インクジェットプリンタから一定の吐出量で噴霧させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例1のカーボンナノチューブインク組成物1をコニカミノルタ製のインクジェットプリンタのヘッド100に充填し、充填状態及び噴霧状態を観察した写真である。
【図2】図2は、比較用に製造したカーボンナノチューブインク組成物21をインクジェットプリンタのヘッド100に充填し、図1と同様に充填状態及び噴霧状態を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態によるカーボンナノチューブインク組成物及びカーボンナノチューブ膜の製造方法を説明する。
【0015】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、カーボンナノチューブと、溶媒と、グリコールエーテル類とを具備する。
【0016】
カーボンナノチューブは、SWCNT、DWCNT、MWCNTの何れでもよく、形状に限定されない。カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ膜を半導体材料として機能させる場合にはSWCNTを用い、導電性材料として機能させる場合にはSWCNT、DWCNT、及びMWCNTを用いることが好ましい。また、カーボンナノチューブの製造方法は、CVD法やレーザーアブレーション法など種々存在するが、どの製造方法で製造したカーボンナノチューブでも使用できる。
【0017】
溶媒は、水又は有機溶剤である。有機溶剤としては、デカン、ウンデカンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチル、プロピオン酸メチルなどのカルボン酸アルキルエステル類、ジクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミドなどが好ましいものとして挙げられる。これらは、1種類又は2種以上で用いることができる。
【0018】
グリコールエーテル類は、水酸基を2つ有するグリコールと、アルコールとを縮合反応させて得られる化合物である。グリコールエーテル類は、グリコール主鎖のアルキレン構造と末端アルコールのアルキル構造とを含み、それらが親カーボンナノチューブ特性を付与する。一方、分子内のエーテル結合は新溶媒性を付与する。末端に水酸基を有する場合は、双極子モーメントが大きいため、親溶媒性として特に親水性を付与する。つまり、グリコールエーテル類は、分子内に親カーボンナノチューブ部位と親溶媒部位とを含み、カーボンナノチューブを容易に分散し、分散されたカーボンナノチューブを溶媒中に安定に保存することが出来る。また、グリコールエーテル類は濡れ剤としての効果を有しており、インクジェットプリンタやディスペンサーなどの印刷装置に対するカーボンナノチューブインク組成物のなじみ(濡れ性)を向上させることができる。本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、特にインクジェットプリンタに対して有効であり、インクジェットプリンタのヘッド内へ充填しやすく、ヘッドから一定の吐出量で噴霧させることが出来る。
【0019】
グリコールエーテル類の詳細を説明する。グリコールエーテル類のグリコール主鎖は、エチレングリコール又はプロピレングリコールを用いた重合度1〜3のモノグリコールエーテル、又はジグリコールエーテル、又はトリグリコールエーテルであることが好ましい。詳細には、モノエチレングリコールエーテル化合物、ジエチレングリコールエーテル化合物、トリエチレングリコールエーテル化合物、モノプロピレングリコールエーテル化合物、ジプロピレングリコールエーテル化合物、及びトリプロピレングリコールエーテル化合物である。尚、これらは1種類又は2種以上で用いることができる。グリコールエーテル類のグリコール主鎖がこれらの場合、カーボンナノチューブの容易な分散性と、分散されたカーボンナノチューブの良好な保存安定性と、印刷装置に対する良好な適合性とをカーボンナノチューブインク組成物へ付与することが出来る。
【0020】
また、グリコールエーテル類の末端アルキル基は、炭素数が1から4までのアルキル基が好ましい。即ち、アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基が好ましい。末端アルキル基の数は1つでも2つでも良く、即ちモノエーテル化合物とジエーテル化合物とのどちらでも良い。モノエーテル化合物は、末端に水酸基が残存しているため水溶媒に有効である。一方、ジエーテル化合物は有機溶媒に有効である。詳細には、グリコールエーテルモノメチルエーテル化合物、グリコールエーテルジメチルエーテル化合物、グリコールエーテルモノエチルエーテル化合物、グリコールエーテルジエチルエーテル化合物、グリコールエーテルモノプロピルエーテル化合物、グリコールエーテルジプロピルエーテル化合物、グリコールエーテルモノイソプロピルエーテル化合物、グリコールエーテルジイソプロピルエーテル化合物、グリコールエーテルモノブチルエーテル化合物、グリコールエーテルジブチルエーテル化合物、グリコールエーテルモノイソブチルエーテル化合物、及びグリコールエーテルジイソブチルエーテル化合物である。尚、これらは1種類又は2種以上で用いることができる。
【0021】
グリコール主鎖のアルキレン基が長くなること、又はグリコールの重合度が増加すること、又は末端アルキル基の分子量が大きくなることによって、グリコールエーテル類の分子量が大きくなると、カーボンナノチューブの分散性は維持できるが、印刷装置への濡れ性は低下してしまう。従って、分子量が大きいこれらのグリコールエーテル類は、印刷装置に対する適合性が得られない。
【0022】
グリコールエーテル類の製造方法は、一般的に知られた化学反応を応用できる。グリコールエーテル類は、水酸基を2つ有するグリコール又は市販されているグリコールオリゴマー等と、メタノール、エタノールのような一級アルコールとを混合し、酸触媒による縮合反応により生成される。この場合、グリコールエーテル類は、反応時間及び温度の制御により、グリコールの両水酸基を反応させた生成物(グリコールエーテルジアルキルエーテル)と、片方の水酸基のみを反応させた生成物(グリコールエーテルモノアルキルエーテル)とのうちの一方が選択的に生成される。そして、生成されたグリコールエーテル類は、一般に良く知られている蒸留(分留)の操作で単離・精製される。
【0023】
本発明のカーボンナノチューブインク組成物における各成分の含有量を説明する。カーボンナノチューブは、本発明のカーボンナノチューブインク組成物が印刷可能な性状を有する範囲で含有される。カーボンナノチューブインク組成物が、インクジェットプリンタで使用される場合は、質量パーセント濃度で1%程度までが好ましい。尚、カーボンナノチューブの含有量が質量パーセント濃度で10%を超えると、カーボンナノチューブインク組成物そのものが粘ちょう性を増し、ペースト状になる。
【0024】
グリコールエーテル類は、本発明のカーボンナノチューブインク組成物が印刷可能な性状を有する範囲で含有される。好ましくは、グリコールエーテル類の含有量は、重量比でカーボンナノチューブ量の50%からカーボンナノチューブの10倍程度である。カーボンナノチューブに対する比率が著しく小さいと、カーボンナノチューブの分散性、分散されたカーボンナノチューブの保存安定性及びカーボンナノチューブインク組成物の印刷装置に対する適合性が低下する。例えば、グリコールエーテル類の含有量が重量比でカーボンナノチューブの1%以下になると、カーボンナノチューブインク組成物は、カーボンナノチューブの分散性及び保存安定性が低下して、カーボンナノチューブの析出及び沈殿現象が起こる。
【0025】
また、本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、前述したグリコールエーテル類の他に、炭素数が10以上のアルキル基を置換基として含む、ポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物を更に具備することができる。尚、ポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物は、末端アルキル基の数は1つでも2つでもよい。炭素数が10以上のアルキル基を含むポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物は、カーボンナノチューブインク組成物のカーボンナノチューブの質量パーセント濃度が高い場合において、分散性と分散後の安定性とを補うことができる。つまり、このポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物を含むカーボンナノチューブインク組成物は、高濃度のカーボンナノチューブを容易に分散させ、溶媒中に安定化することができる。具体的には、炭素数が10以上のアルキル基を有するポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物を含むカーボンナノチューブインク組成物は、カーボンナノチューブの質量パーセント濃度が10%まで安定に分散させることが出来る。炭素数が10以上のアルキル基としては、飽和アルキル基と不飽和アルキル基とのどちらでもよく、更に、直鎖アルキル基と分岐アルキル基とのどちらでも高い分散性及び分散後の安定性を得ることができる。炭素数が18〜20の直鎖飽和アルキル基は、特に高い分散安定性を有するため好ましい。
【0026】
炭素数が10以上のアルキル基を含むポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物は、カーボンナノチューブを容易に分散し、分散されたカーボンナノチューブを溶媒中に安定に保存できる含有量で添加される。好ましくは、ポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物の含有量は、重量比でカーボンナノチューブの量と同量である。ポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物とカーボンナノチューブとの量が同量の場合、カーボンナノチューブインク組成物は、カーボンナノチューブの高い分散性及び保存安定性を有することができる。
【0027】
カーボンナノチューブと溶媒とグリコールエーテル類とを含有することを特徴とする本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、溶媒とグリコールエーテル類とに基づいて、カーボンナノチューブを容易に分散し、分散させたカーボンナノチューブを溶媒中で安定に保存することができる。更に、本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、グリコールエーテル類が印刷装置に対する濡れ性を改質しており、印刷装置に対するなじみが向上している。従って、本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、印刷装置に対する適合性(印刷装置に対する濡れ性、印刷装置内での充填性、印刷装置からの一定の吐出量の噴霧性)に優れている。印刷装置がインクジェットプリンタの場合、濡れ性が悪いとインクジェットプリンタのヘッド内部への充填性が悪くなり、一定の吐出量を安定して噴霧できない問題が発生してしまう。しかし、本発明のカーボンナノチューブインク組成物は、ヘッド内部への充填が容易であり、一定の吐出量で安定した噴霧を行えるため、特にインクジェットプリンタへの適合性に優れている。
【0028】
次に、本発明のカーボンナノチューブインク組成物を用いたカーボンナノチューブ膜の製造方法を説明する。
【0029】
カーボンナノチューブインク組成物は、インクジェットプリンタのヘッドへ充填される。カーボンナノチューブインク組成物は、インクジェットプリンタのヘッドから噴霧されて、基板上に塗布される。尚、基板には、カーボンナノチューブ膜が有する半導体性又は導体性に応じて、任意に絶縁体や導体が選択される。
【0030】
基板上に塗布されたカーボンナノチューブインク組成物は、溶媒が揮発しカーボンナノチューブ膜となる。基板上に塗布されたカーボンナノチューブインク組成物は、液滴が小さいため加熱などによる強制乾燥をしなくてもよい。但し、乾燥する場合は、溶媒の沸点付近の温度で加熱乾燥させる方法が例示される。尚、グリコールエーテル類は、乾燥により揮発させてもよいし、カーボンナノチューブ膜に残留してもよい。
【0031】
このような工程によって製造されたカーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブがSWCNTの場合、ポリシリコンなどの半導体膜の代替として用いることが出来る。また、カーボンナノチューブがSWCNT、DWCNT及びMWCNTの場合は、金属などの導電性膜の代替として用いることができる。つまり、これらのカーボンナノチューブ膜を使用して、半導体膜及び導電性膜を有する装置を製造することができる。例えば、TFTの場合、カーボンナノチューブ(SWCNT)膜は、絶縁体及び絶縁体の上に形成された2つの金属端子の間に形成されることで、チャネルとして機能する。また、TFTにおいて、カーボンナノチューブ(SWCNT、DWNCT、MWCNT)膜は、絶縁体の上に形成されて金属端子の代替として機能する。
【0032】
尚、カーボンナノチューブインク組成物を用いたカーボンナノチューブ膜の製造方法は、インクジェットプリンタを用いた例を説明したが、インクジェットプリンタに限定するものではない。カーボンナノチューブインク組成物をディスペンサーなど他の印刷装置に充填し、カーボンナノチューブ膜を製造することも可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例をもとに本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
【0034】
(実施例1)
カーボンナノチューブインク組成物1は、以下の手順で製造される。ガラス製の容器にHipco法で作成したSWCNTを10mg秤量し、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを100mg加えた。ついで、ガラス容器に水を10g添加し、超音波装置を用いて、1時間超音波処理を行った。超音波処理直後のカーボンナノチューブインク組成物1は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。また、このカーボンナノチューブインク組成物1を10日後と30日後とに観察すると、処理直後と同様に、残留物及び沈殿物は見られなかった。
【0035】
図1は、実施例1のカーボンナノチューブインク組成物1をコニカミノルタ製のインクジェットプリンタのヘッド100に充填し、充填状態及び噴霧状態を観察した写真である。図1を参照すると、ヘッド100と、4つの液滴1a、液滴1b、液滴1c及び液滴1dが示されている。ヘッド100は、カーボンナノチューブインク組成物1が内部に充填され、図示していないインクジェットプリンタの部位に基づいて、カーボンナノチューブインク組成物1を細かい液滴状の粒子として吐出す噴霧を行う。ヘッド100は、先端部110に吐出部110a、吐出部110b、吐出部110c、吐出部110dとを含む。吐出部110aは液滴1aを出し、吐出部110bは液滴1bを出す。同様に、吐出部110cは液滴1cを出し、吐出部110dは液滴1dを出す。尚、図1の写真では、各吐出部の孔は映っていないため、先端部110における場所を矢印で示している。液滴1aと、液滴1bと、液滴1cと、液滴1dとは、細かい粒子となって噴霧されたカーボンナノチューブインク組成物1である。図1に示した、液滴1a、液滴1b、液滴1c及び液滴1bは、各吐出部から吐出されて下へ落ちている状態である。
【0036】
4つの液滴1a、液滴1b、液滴1c及び液滴1dは、先端部110からほぼ同一の距離にある。このように、本発明のカーボンナノチューブインク組成物1は、インクジェットプリンタのヘッド100へ充填された場合、一定の吐出量で安定した噴霧状態が得られた。
【0037】
実施例1の比較として、グリコールエーテル類を用いずに、カーボンナノチューブインク組成物21を製造した場合を説明する。カーボンナノチューブインク組成物21は、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを用いない以外は実施例1と全く同様に製造された。製造されたカーボンナノチューブインク組成物21は、超音波処理直後ある程度は分散しており、残留物は若干である。しかし、カーボンナノチューブインク21を10日後に観察したところ、全てのカーボンナノチューブが沈殿していた。
【0038】
図2は、比較用に製造したカーボンナノチューブインク組成物21をインクジェットプリンタのヘッド100に充填し、図1と同様に充填状態及び噴霧状態を観察した写真である。図2を参照すると、ヘッド100と、液滴21a、液滴21c及び液滴21dが示されている。ヘッド100は、実施例1と同様に、カーボンナノチューブインク組成物21が内部に充填され、カーボンナノチューブインク組成物21を細かい液滴状の粒子として吐出す噴霧を行う。吐出部110aは液滴21aを出し、吐出部110bは液滴21bを出す。同様に、吐出部110cは液敵21cを出し、吐出部110dは液滴21dを出す。液滴21aと、液滴21bと、液滴21cと、液滴21dとは、細かい粒子となって噴霧されたカーボンナノチューブインク組成物21である。図2に示した、液滴21a、液滴21c及び液滴21dは、各吐出部から吐出されて下へ落ちている状態である。
【0039】
吐出部110aは、液滴21aを2つ出している。吐出部110bは、液滴21bを出していない。吐出部110cは、液滴21cを5つ出している。吐出部110dは、液滴21dを1つ出している。このように、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを含まないカーボンナノチューブインク組成物21は、インクジェットプリンタのヘッド110に充填され噴霧された場合、吐出量にムラができ、安定した噴霧状態が得られない。
【0040】
(実施例2〜10)
カーボンナノチューブと、溶媒と、グリコールエーテル類との各組成において、実施の形態に示した物質を使用し、実施例1と同様の製造方法に基づいて製造したカーボンナノチューブインク組成物2〜10について説明する。
【0041】
表1は、カーボンナノチューブインク組成物と、インクジェットプリンタのヘッド100からの噴霧状態と、カーボンナノチューブの分散性、分散されたカーボンナノチューブの保存安定性の評価結果を示した表である。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示したカーボンナノチューブインク組成物2〜10は、実施例1と同様の製造方法で製造した。表中の(A)は、カーボンナノチューブを表し、(B)はグリコールエーテル類を表し、(C)は溶媒を表す。尚、表中のB−1〜B−7化合物は以下の通りである。
B−1:トリエチレングリコールモノエチルエーテル
B−2:トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル
B−3:ジエチレングリコールジエチルエーテル
B−4:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
B−5:ジエチレングリコールジブチルエーテル
B−6:ジプロピレングリコールジイソプロピルエーテル
B−7:プロピレングリコールジブチルエーテル
【0044】
表1に示したカーボンナノチューブインク組成物22〜25は、グリコールエーテル類(B)を用いずに製造したものである。カーボンナノチューブインク組成物22〜25は、表1に示すカーボンナノチューブ(A)及び溶媒(C)を使用した以外は、実施例1の比較であるカーボンナノチューブインク組成物21と同様に製造した。
【0045】
インクジェットプリンタのヘッド100からの噴霧状態の評価結果について説明する。インクジェットプリンタのヘッド100からの噴霧状態において、評価結果欄の◎は安定した噴霧状態であることを示す。△は、吐出はするが安定した噴霧状態ではないことを示す。×は全く吐出できないことを示す。表1を参照すると、本発明のカーボンナノチューブインク組成物2〜10は、何れも安定した噴霧状態が得られた。一方、グリコールエーテル類(B)を含まないカーボンナノチューブ組成物22〜25は、何れも安定した噴霧状態が得られなかった。
【0046】
カーボンナノチューブ(A)の分散性と、分散されたカーボンナノチューブ(A)の保存安定性について説明する。製造直後は超音波処理直後を表し、10日後は超音波処理直後から10日経過後を表し、30日後は超音波処理直後から30日経過後を表す。分散状態の評価欄の◎は残留物及び沈殿物がないことを示す。△は残留物及び沈殿物があることを示す。×は全てのカーボンナノチューブ(A)が沈殿したことを示す。本発明のカーボンナノチューブインク組成物2〜10は、カーボンナノチューブ(A)の分散性及び分散されたカーボンナノチューブ(A)の保存安定性において優れた結果が得られた。
【0047】
(実施例11)
カーボンナノチューブと、溶媒と、グリコールエーテル類との組成に、更に、炭素数が10以上のアルキル基を置換基として有するポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物を加える、カーボンナノチューブインク組成物11を説明する。
【0048】
カーボンナノチューブインク組成物11は、以下の手順で製造される。まず、ガラス製の容器にHipco法で作成したSWCNTを100mg秤量し、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを1g加えた。さらに、末端にC1837O(ラウリルアルコキシ基)を導入したポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物(分子量1000)を1g加えた。ついで、ガラス容器に水を10g添加し、超音波装置を用いて1時間超音波処理を行い、カーボンナノチューブインク組成物11を得た。超音波処理直後のカーボンナノチューブインク組成物11は均一な黒色形態を示し、残留物、沈殿物は見られなかった。また、このカーボンナノチューブインク組成物11を、10日後及び30日後に観察したところ、製造直後と同様に、残留物、沈殿物は見られなかった。
【0049】
カーボンナノチューブインク組成物11をコニカミノルタ製のインクジェットプリンタのヘッド100に充填し、インクの充填状態及び噴霧状態を観察すると、図1と同様に一定の吐出量で安定した噴霧状態が得られた。
【0050】
比較例として、グリコールエーテル類のジエチレングリコールモノブチルエーテルを用いない以外は実施例11と全く同様の操作を行い、カーボンナノチューブインク組成物26を製造した。カーボンナノチューブインク組成物26を実施例11と同様にインクの充填状態、噴霧状態を観察したところ、ヘッド100から吐出し難く、安定した液滴を形成させることは出来なかった。
【0051】
また、カーボンナノチューブインク組成物26の分散性を観察したところ、超音波処理直後はきれいに分散していたが、10日後、30日後は一部沈殿が生じ、安定した分散性を得ることはできなかった。
【0052】
以上、本発明の優位性をその好適な実施例に基づいて説明したが、本発明に係るカーボンナノチューブインク組成物は、実施例のみに限定されるものではなく、実施例の構成から種々の修正及び変更を施したカーボンナノチューブインク組成物も、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1a 液滴
1b 液滴
1c 液滴
1d 液滴
21a 液滴
21c 液滴
21d 液滴
100 ヘッド
110 先端部
110a 吐出部
110b 吐出部
110c 吐出部
110d 吐出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、
グリコールエーテル類と、
溶媒と、
を具備する
カーボンナノチューブインク組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノチューブインク組成物であって、
前記グリコールエーテル類は、
モノエチレングリコールエーテル化合物、ジエチレングリコールエーテル化合物、トリエチレングリコールエーテル化合物、モノプロピレングリコールエーテル化合物、ジプロピレングリコールエーテル化合物、及びトリプロピレングリコールエーテル化合物からなる群から選択される
カーボンナノチューブインク組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブインク組成物であって、
前記グリコールエーテル類は、
グリコールエーテルモノメチルエーテル化合物、グリコールエーテルジメチルエーテル化合物、グリコールエーテルモノエチルエーテル化合物、グリコールエーテルジエチルエーテル化合物、グリコールエーテルモノプロピルエーテル化合物、グリコールエーテルジプロピルエーテル化合物、グリコールエーテルモノイソプロピルエーテル化合物、グリコールエーテルジイソプロピルエーテル化合物、グリコールエーテルモノブチルエーテル化合物、グリコールエーテルジブチルエーテル化合物、グリコールエーテルモノイソブチルエーテル化合物、及びグリコールエーテルジイソブチルエーテル化合物からなる群から選択される
カーボンナノチューブインク組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物であって、
前記溶媒は、水である
カーボンナノチューブインク組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物であって、
前記溶媒は、有機溶媒である
カーボンナノチューブインク組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物であって、
炭素数が10以上のアルキル基を置換基として含むポリエチレングリコールアルキルエーテル化合物
を更に具備する
カーボンナノチューブインク組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のカーボンナノチューブインク組成物をインクジェットプリンタに充填するステップと、
前記インクジェットプリンタから噴霧して、前記カーボンナノチューブインク組成物を基板に塗布するステップと、
を具備する
カーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法であって、
前記基板に塗布された前記カーボンナノチューブインク組成物を、前記溶媒の沸点の温度で加熱乾燥するステップ
を更に具備する
カーボンナノチューブ膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−180263(P2010−180263A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22260(P2009−22260)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】