説明

カーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法

【課題】良好な品質を有するカーボンナノチューブ組成物を収率よく得ることが可能な触媒体を、簡便な工程、設備で製造するための製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
触媒体製造工程として、触媒金属と金属マグネシウムを原料として製造された水酸化マグネシウムを含むスラリー液を加熱する工程を含み、スラリー液から固形物を回収した後に、酸素存在下で加熱して水酸化マグネシウムを酸化マグネシウムとすることを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法。および上記方法で製造された触媒体を500〜1200℃の温度下で炭化水素ガスと接触させることによってカーボンナノチューブ組成物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒化学気相成長法(CCVD法)によるカーボンナノチューブの合成法では、担体上に触媒金属を担持させた触媒体を用いる。触媒体の形状は粉末状、ゲル状、板状と様々である。用いる触媒量に対して得られるカーボンナノチューブの収量の点では、比表面積の大きい粉末状、エアロゾル状の担体を用いるのが良く、取り扱い易さの点では板状、粉末状の担体を用いることが好まれる。収量、扱い易さの両方のバランスを考えた場合、粉末状の担体使用が好まれる。また、担体の材質は有機物も無機物も使われているが、扱い易さと汎用性の点から無機物が用いられることが多く、無機物担体としては、酸化物、水酸化物、その他金属塩等の様々な組成のものが用いられている。
【0003】
合成後の担体の除去し易さの点から、酸処理をするだけで容易に取り除ける粉末状のマグネシウム塩や酸化マグネシウムを用いることが多く、例えば特許文献1〜3などが知られている。しかし、酸化マグネシウムやマグネシウム塩と触媒金属を単純に混ぜて乾燥するだけの触媒体を用いても、品質の良いカーボンナノチューブを収率良く得ることは難しい。酸化マグネシウムを用いた例としては、特許文献1〜3などが挙げられるが、単に特許文献1に記載の方法を用いたのみでは、純度の高いカーボンナノチューブ組成物が得られなかった。また、特許文献2に示される方法では、カーボンナノチューブ合成用触媒の他に炭素源を分解しやすくする触媒を別に造っておく必要があり、工程が多くなる。酸化マグネシウムの前駆体を加熱して酸化マグネシウムにする方法(特許文献3)では、触媒体製造時に水溶液を650℃で急熱する、触媒体の表面積を大きくするためにクエン酸等の発泡剤を加えて燃焼させるなどの工夫をする必要があった。また、ここで得られる触媒体は空気中の水や二酸化炭素と非常に反応しやすい、嵩密度が非常に小さいため飛散しやすい等の取り扱いに問題があった。また、単にマグネシウム塩と触媒金属塩を混合して加熱するだけの触媒では、上記のような工夫をしなければ、純度の高いカーボンナノチューブを得るのは困難であった。
【0004】
これらの問題を解決する方法としては、さらに特許文献4〜5等が挙げられる。特許文献4では、酸化マグネシウムと触媒金属を水中で加熱し、水を減圧除去した後に得られる固形物を850℃〜950℃で加熱して得た触媒体により、純度の高いカーボンナノチューブ組成物を得られることが開示されている。しかしながら、水を減圧除去する工程が必要であるため、操作が煩雑で設備も大掛かりになる問題があった。特許文献5では、スラリーから固形物を回収する工程は濾過法でよいという利点があるが、水中での触媒原料を加熱する工程を加圧下で行う必要があるため、高圧装置の導入が不可欠となり設備にかかるコストが大きくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−182548号公報
【特許文献2】特開2006−335604号公報
【特許文献3】特開2006−261131号公報
【特許文献4】特開2009−078235号公報
【特許文献5】国際公開第2010/101205号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、良好な品質を有するカーボンナノチューブ組成物を収率よく製造することができる触媒体を、より簡便な工程、かつ簡便な設備で製造するための製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、触媒体製造工程として、触媒金属と、金属マグネシウムを原料として製造された水酸化マグネシウムを含むスラリー液を加熱する工程を含み、スラリー液から固形物を回収した後に、酸素存在下で加熱して水酸化マグネシウムを酸化マグネシウムとすることを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、良好な品質を有するカーボンナノチューブ組成物を収率よく、安価な設備でより簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は合成例で使用した縦型反応装置の概略図である。
【図2】図2は実施例1で製造したカーボンナノチューブ組成物のラマン分光分析チャートである。
【図3】図3は実施例1で製造したカーボンナノチューブ組成物の走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、カーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法を提供するものであり、ここで、触媒体とは触媒金属が酸化マグネシウム担体上に担持された総体物または触媒金属と酸化マグネシウムの混合物のことである。また、他の成分が配合された組成物、あるいは他の成分と複合した複合体中に含まれる場合でも触媒金属が酸化マグネシウム担体上に担持または混合されていれば、触媒体と解釈する。
【0011】
本発明における、触媒金属として、元素周期表に定められた1族〜16族より選ばれる典型金属元素、遷移金属元素を少なくとも1種類以上含む金属元素を挙げることができる。中でも、触媒金属としては、Co、Fe、Niが好ましい。より好ましくはFeを用いるのが好適である。ここで金属とは、0価の状態とは限らない。反応中では0価の金属状態になっていると推定はできるが、反応中の状態を調べる手段がないので、広く金属を含む化合物または金属種という意味で解釈してよい。また、2種以上の金属を組み合わせて触媒金属とする場合は、カーボンナノチューブの析出に効果の大きい鉄を主触媒とするのが好ましい。
【0012】
上記触媒金属と上記酸化マグネシウム担体の前駆体である水酸化マグネシウムを混合する際の触媒金属の形態は、金属塩の形態でも金属微粒子でも良く、特に限定されないが、簡便性の点から金属塩を用いるのが好ましく、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、クエン酸アンモニウム塩などの有機酸塩、例えばエチレンジアミン4酢酸錯体やアセチルアセトナート錯体のような有機錯塩、金属のハロゲン化物などが用いられる。
【0013】
水酸化マグネシウムには金属マグネシウム、もしくは海水を原料として製造されたものが手に入るが、本発明においては金属マグネシウムを原料として製造されたものを用いる。その理由については明らかになってはいないが、海水を原料として製造された水酸化マグネシウムと比較して高純度の水酸化マグネシウムが得られることが要因として挙げられる。高純度の水酸化マグネシウムを用いることで、触媒金属が不純物に阻害されずに水酸化マグネシウム上に十分に吸着できるため、濾過により水を除去した後でも触媒金属が水酸化マグネシウム上に保持されるためであると推定される。
【0014】
触媒金属と水酸化マグネシウムを混合する方法、順序に制限は無いが、触媒金属と水酸化マグネシウムが均一に分散される様に混合するのが好適である。好ましくは水酸化マグネシウムを含む水等の液体を攪拌しながら触媒金属を加える、または触媒金属を含む水等の液体を攪拌しながら水酸化マグネシウムを加えてスラリー液とするのが好適である。より好適には水酸化マグネシウムを含む水等の液体に触媒金属を含む水等の液体を加える、または触媒金属を含む水に水酸化マグネシウムを含む水等の液体を加えるのが好ましい。また、水等の液体にはカーボンナノチューブ生成に活性を示さない金属の金属塩や、300℃以上の温度に晒したときに分解する有機物が混入していても構わない。
【0015】
得られたスラリー液は、加熱に供されるが、加熱の方法としては、加熱還流することが好ましい。加熱還流する操作は、使用する水等の液体の体積が、使用する水酸化マグネシウムの0.7倍以上であることが好ましく、より好ましくは同体積以上であることが好適であり、使用する水酸化マグネシウムの体積に対して1.5倍以上の水等の液体を使用するのがより好適である。使用する水等の液体の体積の上限については特に制限はないが、除去しやすさの点から、水酸化マグネシウムの体積に対して5倍以下程度の水等の液体を使うのが好ましい。より好ましくは水酸化マグネシウムの体積に対して3倍以下程度の水等の液体を使うのが好ましい。
【0016】
加熱還流の温度は90℃〜140℃が好ましく、105℃〜125℃がより好ましい。加熱還流は常圧で行うことが好ましいが、0.8kgf/cm〜15kgf/cmの範囲で行うことができる。
【0017】
水酸化マグネシウムと触媒金属を混合する量については、水酸化マグネシウムの総重量に対して、触媒金属の金属部分の重量が、好ましくは0.1重量%〜10.0重量%、より好ましくは0.2重量%〜3.5重量%であることが、直径の制御されたカーボンナノチューブを選択的に得られることから好ましい。金属部分の重量が多すぎると、直径分布の広いカーボンナノチューブとなり、重量が少ないと収量が少なくなる。
【0018】
触媒金属と水酸化マグネシウムを含む水の加熱は、常圧下で加熱還流するのが好適である。加熱方法はオイルバス等で触媒金属と水酸化マグネシウムを含むスラリー液の入った容器を温めてもよく、火炎で暖めても、電熱器で暖めてもかまわない。好ましくは溶液全体が暖められる方法が好適である。
【0019】
加熱中の触媒金属と水酸化マグネシウムを含む水等の液体(スラリー液)は攪拌しても、しなくてもどちらでもよいが、好ましくは触媒金属と水酸化マグネシウムを含む水等の液体(スラリー液)の温度が均一になるように攪拌するのが好適である。
【0020】
触媒金属と水酸化マグネシウムを含むスラリー液を加熱する時間については30分〜10時間程度が好ましく、より好ましくは4〜8時間程度、最も好ましくは6時間±30分が好適である。
【0021】
また、加熱中水は蒸発させても構わないが、少なくとも、加熱還流の開始から30分は加えた水酸化マグネシウムに対して水が0.7倍以上であることが好ましく、より好ましくは同体積以上であることが好適である。
【0022】
水中で加熱するのが良い理由については、全て明らかとはなっていないが、例えば以下のように考えられる。触媒金属として微粒子を用いる場合、触媒金属の表面は水酸化され、水酸化マグネシウム担体表面の水酸基との相互作用によって化学的に吸着し、水酸化マグネシウム担体表面に分散した状態となる。特に金属マグネシウムを原料として製造された水酸化マグネシウムは、海水など他の原料から製造された水酸化マグネシウムと比較して不純物の含有率がきわめて小さいため、含まれる不純物によって、触媒金属と水酸化マグネシウムの吸着が阻害されることが少なく、触媒金属は水酸化マグネシウム担体表面に効率良く分散した状態となる。触媒金属として微粒子でなく金属塩を用いた場合でも、水中で加熱することによって金属塩が分解され触媒金属の微粒子となり、同様の効果が得られると推定される。
【0023】
加熱終了後、残存しているスラリー液から固形物を回収する操作については、単純な脱水操作でよく、例えば減圧濾過による脱水や、遠心濾過による脱水でよい。この理由は、水酸化マグネシウム担体上に触媒金属が効率良く分散、吸着しているため、濾過法により固形物を回収しても触媒金属が水酸化マグネシウム担体上に保持されるためであると推定される。脱水後に得られる含水ケークの含水率には制限はないが、得られた含水ケークを乾燥した後に得られる固形物の解砕のし易さを考慮すれば、含水率が60%〜80%が好ましく、65%〜75%がより好ましい。乾燥方法については100℃〜130℃の温度で行う限り制限は無いが、6時間以上乾燥することが好ましく、120℃で12時間以上乾燥することがより好ましい。
【0024】
乾燥後得られた固形物の形状は、カーボンナノチューブの製造に適した触媒体の形状であれば制限はなく、粉末状、またはそれを分級した分級粉末でもよく、成形して粒状、顆粒状、またはペレット状にしてもよい。触媒体の粒径は0.2mm〜2mmの範囲であることが好ましく、0.2mm〜1mmであることがより好ましい。例えば、縦型反応容器を用いて、本件の触媒体からカーボンナノチューブを製造する際に、触媒体の粒径が0.2mm未満では、縦型反応器中で触媒体が大きく舞い上がり触媒体が反応器の均熱帯を外れることがあり、高品質なカーボンナノチューブを得ることが困難になる。また触媒体の粒径が2mmより大きいと縦型反応器中で触媒体の流動性が低下し、原料である炭素含有化合物のショートパスの問題が生じる。よって粒径の大きさは0.2mm〜2mmの範囲が好ましい。造粒後、所望の目開きの篩いを用い、ふるい分けして所望の粒径の触媒体とすることができる。成形する際には適宜水を加えてもよいが、成形後に乾燥することが好ましい。乾燥方法については100℃〜130℃の温度で行う限り制限は無いが、6時間以上乾燥することが好ましく、120℃で12時間以上乾燥することがより好ましい。
【0025】
水の除去後に得られた固体を酸素存在下で加熱する温度については、300〜1200℃で加熱するのが好ましく、より好ましくは550〜1100℃で加熱するのが好適であり、600〜900℃で加熱するのが好適である。
【0026】
水の除去後に得られた固体を加熱する時間については、30分〜5時間程度加熱することが好ましく、より好ましくは1〜4時間程度が好適であり、2.0〜3.5時間程度加熱するのがより好適である。
【0027】
加熱は、酸素存在下で行うが、通常は酸素と他の1種類以上の気体を混合した雰囲気下で行われる。また、混合する気体は使用する酸化物担体および触媒金属と反応しない気体であることが好ましい。前記反応しない気体としては不活性ガスを用いるのが好ましい。不活性ガスとしてはヘリウム、アルゴン、ネオン、窒素等が挙げられる。酸素濃度は1〜24vol%であるのが好ましく、最も好ましくは空気雰囲気下で加熱するのが好適である。
【0028】
また、加熱温度と時間は、加熱温度が高いほど短く、加熱温度が低いほど長く調整するのがより好ましい。
【0029】
酸素存在下で加熱する理由については以下のように考えている。酸素存在下では触媒金属が酸化物に変化する。酸化した触媒金属は、水酸化マグネシウムから変化した酸化マグネシウム担体と部分的に固溶体を形成し、固溶体の形成によって触媒金属は固定されて凝集しなくなる。その結果、触媒金属の粒径は小さいまま担体上に分散した状態になると考えられる。カーボンナノチューブ組成物を収率よく得るには、触媒金属の粒径が大きくなりすぎないことが肝要であり、触媒金属の粒径が大きくなりすぎるとその触媒金属からはカーボンナノチューブが生成しない。
【0030】
本発明では、触媒金属と、金属マグネシウムを原料として製造された水酸化マグネシウムを水中で加熱して触媒金属表面を水酸化し、触媒金属と水酸化マグネシウムを化学吸着させること、酸素存在下での加熱によって触媒金属と水酸化マグネシウムを酸化物にすること、及び酸素存在下での加熱で触媒金属と酸化マグネシウムの固溶化によって触媒金属の固定化をおこなうこと、の一連の操作が触媒金属の凝集を防ぐと考えられる。その結果、触媒金属が酸化マグネシウム担体上に分散担持されている状態となり、収率良くカーボンナノチューブ組成物を得られる触媒体を得ると推定している。
【0031】
本発明によって得られた触媒体は炭素含有化合物を接触させることによってカーボンナノチューブを製造することができる。その接触の温度は、500〜1200℃、好ましくは600〜1000℃である。通常、温度が低いと収率良くカーボンナノチューブを得ることが困難になり、温度が高いと使用する反応器の材質に制約が生じる。
【0032】
炭素含有化合物としては、気体、液体、固体いずれでも良いが、500〜1200℃の高温条件下でガス状となるものであることが、収率良くカーボンナノチューブを得られることから好ましい。炭素含有化合物の種類としては、炭素原子を含有していれば特に限定はないが、通常は一酸化炭素や炭化水素化合物であり、脂肪族であっても芳香族であってもよく、炭素-炭素結合も飽和結合であっても不飽和結合を含んでいても良い。これらは、単独で使用しても、混合して使用しても構わない。
【0033】
芳香族の炭化水素では、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン又はこれらの混合物などを使用することができる。また、非芳香族の炭化水素では、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレンもしくはアセチレン、又はこれらの混合物等を使用することができる。炭化水素では、酸素を含むもの、例えばメタノール若しくはエタノール、プロパノール、ブタノールのなどのアルコール類、アセトンのなどのケトン類、及びホルムアルデヒドもしくはアセトアルデヒドのなどのアルデヒド類、トリオキサン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類又はこれらの混合物であってもよい。中でも、得られるカーボンナノチューブの質の点で、メタン、エタン、アセチレンを用いるのが好ましく、より好ましくはメタンを用いるのが好適である。
【0034】
炭素含有化合物は、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム等の不活性ガスとの混合物として用いても、単独で用いても構わないが、触媒体に炭素ガスが供給される反応場は、不活性ガス、または真空雰囲気下(減圧下)であることが、収率良くカーボンナノチューブが得られることから好ましい。
【0035】
触媒体と炭素含有化合物の接触のさせ方は特に限定されない。例えば、触媒体を加熱炉内に保持し、炭素含有化合物を加熱炉内に供給して加熱炉内で接触させる方法や、触媒体を加熱炉で流動させ、炭素含有化合物を加熱炉内に供給して加熱炉内で接触させる方法などがある。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
【0037】
実施例中、カーボンナノチューブの合成と各種物性評価は以下の方法で行った。
【0038】
<参考例>
[合成例]
図1に示した縦型反応装置でカーボンナノチューブを合成した。図1は縦型反応装置の概略図である。
【0039】
反応器200は内径64mm、長さは120mmの円筒形石英管である。中央部に石英突起が4つついており、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガス供給ライン204、上部には廃ガスライン205を具備する。触媒の投入が出来るように石英管の上部は開閉が出来るようになっている。石英管下部は触媒を取り出せるように開閉が出来るようになっている。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器206を具備する。
【0040】
加熱器206には装置内の触媒の状態が確認できるよう点検口207が設けられている。
【0041】
厚さ5mm、直径64mmの不織布(図1中下側の不織布201)を石英管中央部に付いている突起に引っ掛かるように突起の上部に取り付け、触媒208を1200mg取り、石英管上部より投入した後、上部より、厚さ5mm、直径64mmの不織布201(図1中上側の不織布201)を先に取り付けた不織布(図1中下側の不織布201)から上方1cmの位置に取り付けた。次いで、原料ガス供給ライン204からアルゴンガスを1000mL/分で供給開始した。反応器内をアルゴン雰囲気下とした後、温度を870℃に加熱した(昇温時間30分)。
【0042】
870℃に到達した後、温度を保持し、原料ガス供給ライン204のアルゴン流量を225mL/分にし、さらにメタンを11mL/分で反応器に供給開始した。該混合ガスを60分供給した後、アルゴンガスのみの流通に切り替え、合成を終了させた。
【0043】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ組成物を取り出した。
【0044】
[熱分析による収率評価]
約10mgの試料を示差熱分析装置(島津製作所製 TGA-60)に設置し、空気中、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温した。そのときの重量変化率を測定し、収率とした。
【0045】
[ラマン分光分析によるカーボンナノチューブの性状評価]
共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製 INF-300)に粉末試料を設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。
【0046】
<実施例1>
金属マグネシウムを原料として製造された水酸化マグネシウム(岩谷化学工業株式会社製、MH−30)430.3gをイオン交換水1700.0gに攪拌しながら加え、5L丸底フラスコに移した。つぎに、前記の液の入った丸底フラスコに、クエン酸アンモニウム鉄(和光純薬工業社製)7.31g(水酸化マグネシウムの総重量に対する鉄部分の重量0.259重量%)をイオン交換水291.0gに溶解した溶液を加えた。この丸底フラスコをマントルヒーターに入れ、室温(20℃)で1時間攪拌した。その後、加熱を開始し、110℃、常圧(1kgf/cm)で加熱還流を6時間行った後、反応液を室温まで放冷した。この反応液を減圧濾過して得られたケーク状の物質を乾燥機(120℃)で1晩(16時間)乾燥させ、428.6gの固体を得た。得られた固体全量を乳鉢で解砕して粉末状にし、イオン交換水を246gを加えて粘土状になるまで練り、孔の空いた板(孔径0.8mm)を通して顆粒状にし、乾燥機(120℃)で1晩(16時間)乾燥させた。得られた乾燥物について20メッシュ(目開き0.84mmに相当)、および32メッシュ(目開き0.50mmに相当)のふるいを通して中間層の顆粒を得た。得られた顆粒を空気雰囲気下、電気炉で加熱(加熱時間;600℃、3時間)して水酸化マグネシウムを酸化して酸化マグネシウムとし、触媒体とした。得られた触媒体を用いて、合成例に示した通りに原料ガスと60分接触させることによってカーボンナノチューブ組成物を合成した。
【0047】
こうして得られた触媒付きの約10mgのカーボンナノチューブ組成物を熱分析による収率評価に示した方法で収率を評価したところ、収率は6.4%であった。
【0048】
また、上記で得られたカーボンナノチューブ組成物のラマン分光分析を、532nmのレーザー波長を用いて3回測定し、それぞれのGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)を平均すると20.3であった。このときのラマン分光分析チャートの一つを例として図2に示す。
【0049】
また、上記で得られたカーボンナノチューブ組成物について、走査型電子顕微鏡(SEM)により表面観察を行った。このときのSEM像を図3に示す。
【0050】
<比較例1>
海水を原料として製造された水酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製、#200)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で操作を行ったが、カーボンナノチューブは全く析出せず、投入した触媒はそのまま回収された。
【0051】
<比較例2>
海水を原料として製造された水酸化マグネシウム(日本海水加工株式会社製、水酸化マグネシウム 微分)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で操作を行ったが、カーボンナノチューブは全く析出せず、投入した触媒はそのまま回収された。
【符号の説明】
【0052】
200 反応器
201 不織布
204 原料ガス供給ライン
205 廃ガスライン
206 加熱器
207 点検口
208 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒体製造工程として、触媒金属と、金属マグネシウムを原料として製造された水酸化マグネシウムを含むスラリー液を加熱する工程を含み、スラリー液から固形物を回収した後に、酸素存在下で加熱して水酸化マグネシウムを酸化マグネシウムとすることを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法。
【請求項2】
前記触媒金属が鉄であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法。
【請求項3】
前記触媒金属と水酸化マグネシウムを含むスラリー液を加熱する工程が、常圧下での加熱還流である請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法。
【請求項4】
前記触媒金属と水酸化マグネシウムを含むスラリー液を加熱する時間が30分〜10時間であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法。
【請求項5】
前記水を除去した後の酸素存在下での加熱温度が、300℃〜1200℃であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法。
【請求項6】
前記水を除去した後の酸素存在下での加熱時間が30分〜5時間であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法。
【請求項7】
前記スラリー液から固形物を回収する操作が、濾過によりなされる請求項1〜6いずれかに記載のカーボンナノチューブ合成用触媒体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の方法で製造された触媒体を500〜1200℃の温度下で炭化水素ガスと接触させることによってカーボンナノチューブ組成物を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−71239(P2012−71239A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217005(P2010−217005)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】