カーボンナノチューブ含有薄膜
SWNTやMWNTが相互に分離された状態で存在し、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現しうる状態で存在する薄膜およびこのものを用いた発光材料、更にはMWNTが均質に分散された状態で存在し安価・安全で環境負荷の少ない分散液を提供する。カーボンナノチューブを含有する薄膜であって、該薄膜形成材料がゼラチン又はセルロース誘導体である単層又は多層カーボンナノチューブ含有薄膜およびこの単層カーボンナノチューブを用いた発光材料。多層カーボンナノチューブを含有する分散液であって、該分散剤がセルロース誘導体である多層カーボンナノチューブ含有分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層カーボンナノチューブ(以下単にSWNTとも言う)や多層カーボンナノチューブ(以下単にMWNTとも言う)などのカーボンナノチューブが、相互に分離された状態でマトリックス高分子中に分散された構造を有するカーボンナノチューブ含有薄膜及びこのものを用いた発光材料・偏光材料、更にはMWNTが均質かつ安定に分散された多層カーボンナノチューブ分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、様々な新機能を発揮しうる新素材として大きな注目を集め世界中で活発な研究開発が行われている。今後、産業上の様々な用途に有効に使用するためには、SWNTを均質な薄膜に成形することが必須の課題である。また、SWNTの光・電子機能を活用する場合に、チューブを一本ずつに分離することが重要であることを示す研究結果が最近報告された(非特許文献1)。
【0003】
すなわち、チューブが束になっていると、チューブ間相互作用によって電子物性が大きく変化し、SWNTが本来有している性質・機能を十分に発揮することができない。一方、界面活性剤を用いてチューブを一本ずつに分離すると、SWNT本来の特性が観測されるようになる。すなわち、SWNT/界面活性剤分散水溶液においては、束になったチューブの場合に比べて光吸収スペクトルのピークが著しく鋭くなると同時に、バンド間光学遷移による発光が観測されるようになる。吸収ピークが鋭くなるのは、チューブ間相互作用による電子状態の広がりが無くなったためであり、発光が観測されるのは、チューブ間相互作用による熱的な励起失活が無くなったためである。
【0004】
このように、今後、SWNTの産業技術への利用を促進するためには、一本ずつに分離されたチューブ(以下、分離SWNTと称する)を均質な薄膜に成形する技術を開発することが極めて重要となっている。
従来、このような分離SWNT含有薄膜としては、界面活性剤によって分散したSWNTをポリビニルピロリドン・ポリビニルアルコールと複合化した薄膜が報告されている(非特許文献2)。
【0005】
しかし、この方法では、薄膜形成過程においてチューブの凝集が起こり、得られるSWNTは直径30nm程度の束となってしまう(分離SWNT自体の直径は1nm程度)。また、吸収スペクトルのピークもブロードであり、発光が観測されるかどうかに関しては記述がなく、また、その光学顕微鏡写真は、この薄膜がかなり不均質なものであることを示している。すなわち、このような薄膜では、SWNTが本来有している光・電子特性・機能を十分に生かすことができないことは明らかである。
【0006】
また、SWNTの物性・機能は著しく大きな異方性を有することから、産業目的に利用する場合には、チューブを一定方向に配向させることが重要である。しかるに、これまで、分離SWNTを一定方向に配向させたという報告例はなく、分離SWNTを配向する技術の開発はその重要性にもかかわらずほとんど進展していない。
【0007】
分離SWNTを均質な薄膜状に成形し、好ましくは、薄膜中のチューブを一定方向に配向する技術が開発されれば、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、非線形光学機能、各種センサー等、SWNTの持つ多様な光・電子機能を、有効に発揮させ得る成形物を提供することが可能となり、その産業的利用価値は極めて大きいが、未だこのような要請に応える薄膜が開発されていないのが現状である。
【0008】
一方、MWNTは、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料等として期待が持たれ様々な研究開発が行われているが、これらの産業用途に好ましく用いられるためには、MWNTが均質に分散された状態で長期間安定に保存できるような分散液の状態で提供されることが必要である。この場合、MWNTの分散を促進させるための分散剤としては、分散安定性に優れ、安価、安全で、かつ環境負荷の少ないものを用いることが望ましいが、そのような観点からの研究開発はほとんど行われていないのが現状である。
【0009】
なお、セルロース誘導体の一種であるカルボキシメチルセルロースを分散剤として用いることによって、SWNTが分散・精製できることが文献(非特許文献3)に記されているが、SWNTが相互に分離された状態で均質に分散した薄膜が形成できることや、それらの光吸収・発光特性については全く記述されていない。また、MWNTに関しては、セルロース誘導体を分散剤、もしくは分散媒体として用いた例は報告されていない。
【0010】
【非特許文献1】Science, 297, 593-596 (2002)
【非特許文献2】Nano Letters 3, 1285-1288 (2003)
【非特許文献3】Jpn. J. Appl. Phys. Part1, 43(6A), 3636-3639 (2004))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、カーボンナノチューブ殊に単層カーボンナノチューブが相互に分離された状態で存在し、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更に、目的に応じて、SWNTの濃度を広い範囲で調節できるような単層カーボンナノチューブ含有薄膜およびこれを用いた発光材料および偏光材料を提供することを目的とする。更には、分散安定性に優れ、かつ安価・安全で環境負荷の少ない多層カーボンナノチューブ分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この出願によれば、以下の発明が提供される。
(1)カーボンナノチューブを含有する薄膜であって、該薄膜形成材料がゼラチンまたはセルロース誘導体であることを特徴とするカーボンナノチューブ含有薄膜。
(2)複数のカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散していることを特徴とする上記(1)に記載のカーボンナノチューブ含有薄膜。
(3)カーボンナノチューブが単層又は多層カーボンナノチューブであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のカーボンナノチューブ含有薄膜。
(4)カーボンナノチューブが一方向に配向していることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載の単層カーボンナノチューブ含有薄膜。
(5)上記(1)〜(4)いずれかに記載のカーボンナノチューブ含有薄膜からなる発光材料。
(6)上記(1)〜(4)何れかに記載の単層カーボンナノチューブ含有薄膜からなる偏光材料。
(7)多層カーボンナノチューブを含有する分散液であって、該分散剤がセルロース誘導体であることを特徴とする多層カーボンナノチューブ含有分散液。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る、薄膜形成材料としてゼラチンを用いたカーボンナノチューブ薄膜は、単層カーボンナノチューブが相互に分離された状態で存在し、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更には単層カーボンナノチューブが一方向に簡便に配向するといった特性を有する。したがって、SWNTの持つ光・電子機能を生かして、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、偏光機能、非線形光学機能、各種センサー機能等を有する製品用材料、特に発光材料および偏光材料として有利に用いることができる。
また、本発明に係る、薄膜形成材料としてセルロース誘導体を用いたカーボンナノチューブ薄膜は、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更に分散濃度を広い範囲で調節することが可能なことから、SWNTの持つ光・電子機能を生かして、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、非線形光学機能、各種センサー機能等を有する製品用材料、特に発光材料として有利に用いることができる。
また、本発明の多層カーボンナノチューブ分散液(MWNT分散液ともいう)は、セルロース誘導体を分散剤として用いることにより、分散安定性に優れ、かつ安価・安全で環境負荷の少ないものであり、MWNT含有薄膜の作製に好ましく使用することができるものである。また、該分散液から作製したMWNT薄膜は、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料等の目的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1で得たSWNT含有薄膜とその原料であるSWNT分散液の光吸収スペクトル。
【図2】図2は、実施例1で得たSWNT含有薄膜とその原料であるSWNT分散液の発光スペクトル(励起波長;662nm)。
【図3】図3は、実施例1で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率2倍)の偏光吸収スペクトル。
【図4】図4は、実施例2で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率3倍)の偏光吸収スペクトル。
【図5】図5は、実施例2で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率3倍)の偏光顕微鏡写真。
【図6】図6は、実施例2で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率3倍)の偏光発光スペクトル。
【図7】図7は、実施例3で得たSWNT含有薄膜の吸収スペクトル。
【図8】図8は、実施例3で得たSWNT含有薄膜の発光スペクトル(励起波長;662nm)。
【図9】図9は、実施例4で得たSWNT含有薄膜(a)とその原料であるSWNT分散液(10倍希釈)(b)の光吸収スペクトルを示す。
【図10】図10は、実施例4で得たSWNT含有薄膜(a)とその原料であるSWNT分散液(20倍希釈)(b)の発光スペクトルを示す(励起波長;662nm)。
【図11】図11は、実施例5で得たSWNT含有薄膜の光吸収スペクトル。
【図12】図12は、実施例5で得たSWNT含有薄膜の発光スペクトル(励起波長;662nm)。
【図13】図13は、実施例6で得たSWNT含有薄膜の光吸収スペクトル
【図14】図14は、実施例6で得たSWNT含有薄膜の発光スペクトル(励起波長;662nm)。
【図15】図15は、実施例7で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率2倍)の偏光吸収スペクトル。
【図16】図16は、実施例8で得たMWNT分散液(10倍希釈)の光吸収スペクトル。
【図17】図17は、実施例8で得たMWNT分散液(10倍希釈)の波長1000nmにおける吸光度の経時変化。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いるカーボンナノチューブ(SWNTやMWNT)は、特に制約されず、従来公知のものを用いることができる。SWNTやMWNTの直径や長さに特に制約はないが、前者では直径0.4〜3.0nm、長さ0.1〜1μm程度のもの、後者では直径10〜50nm、長さ0.1〜10μm程度のものを用いることが好ましい。
【0016】
本発明では、薄膜形成材料として、ゼラチン又はセルロース誘導体を用いる。
本発明で用いるゼラチンは、特に制約されず、従来公知のものを用いることができ、数平均分子量が数万〜数10万のものを用いることが好ましい。
また、本発明で用いるセルロース誘導体とは、セルロースエーテルやセルロースエステルなどのセルロースから誘導される従来公知の化合物を意味する。本発明で好ましく使用されるセルロース誘導体は、重合度が100〜1000程度のものである。また、セルロース誘導体の中でもセルロースエーテルが望ましく、具体的にはセルロースの水酸基の一部または全部がエーテル化されたもの、たとえばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、アミノエチルセルロース、オキシエチルセルロース、ヒドロキメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリメチルセルロースなどが好ましく使用される。
【0017】
本発明のSWNT含有薄膜およびMWNT薄膜は、ゼラチン薄膜又はセルロース誘導体薄膜中に、複数のSWNTあるいはMWNTが凝集することなく相互に分離した状態で分散させた構造を有する。また、本発明でいう、MWNT分散液とは、MWNTがセルロース誘導体を分散剤として水中に安定に分散した状態にあるものを指す。
【0018】
これらのSWNT含有薄膜もしくはMWNT薄膜において、その厚さは0.1〜100μm、好ましくは1.0〜10μmである。また、そのSWNT(もしくはMWNT)の分散濃度(割合)は、0.1〜10重量%である。
【0019】
本発明のSWNT含有薄膜を好ましく製造する方法について説明する。まず、ゼラチンを用いた方法について記す。
【0020】
本発明のSWNT含有ゼラチン薄膜を好ましく製造するには、先ず、SWNTが均一分散した水性分散液を作る。分散液を作る際には、界面活性剤を用いてもよいし、用いなくともよい。前者の場合は、水中に界面活性剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム等)を溶解させ、この溶液に対してSWNTを添加し分散させることによって得ることができる。この場合、界面活性剤の濃度は0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%であり、SWNTの濃度は、界面活性剤溶液100重量部当たり、0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部である。なお、この場合、SWNTの分散には、超音波処理等の分散促進手段を併用することができる。
【0021】
このようにして得た分散液は、好ましくは、遠心分離して、微細SWNTを含む上澄液を回収し、この上澄液をSWNT分散液として用いるのがよい。この場合の遠心分離において、その加速度は5千〜40万G、好ましくは1万〜30万Gである。
【0022】
次に、前記SWNT分散液、好ましくはその遠心分離上澄液とゼラチン水溶液を混合する。
このゼラチン水溶液において、ゼラチンの濃度は2〜20重量%、好ましくは4〜15重量%である。この混合液において、ゼラチンの濃度は、1〜10重量%、好ましくは2〜10重量%の範囲に調整するのがよい。
【0023】
なお、上記分散液を作る際に界面活性剤を用いない場合は、水中にSWNTとゼラチンを直接添加し、分散させることによって、SWNTが均質分散した水性分散液を作ることが出来る。この場合、SWNTの濃度は0.01〜1重量%、好ましくは0.03〜0.1重量%であり、ゼラチンの濃度は1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%である。この場合にも、SWNTの分散には、超音波処理等の分散促進手段を併用することができる。
このようにして得た分散液は、好ましくは、遠心分離して、微細SWNTを含む上澄液を回収し、この上澄液をSWNT分散液として用いるのがよい。この場合の遠心分離において、その加速度は5千〜40万G、好ましくは1万〜30万Gである。
【0024】
以上のようにして作製したSWNT・界面活性剤・ゼラチン混合液、もしくは、SWNT・ゼラチン混合液を、基板上にキャスト製膜することにより本発明のSWNT含有薄膜が得られる。
【0025】
得られたSWNT薄膜は、ゼラチンの迅速なゲル化作用により、液中に相互に分離した状態で分散したSWNT(分離SWNT)を、その分散状態で含有するものである。すなわち、膜中に分散したSWNTは、凝集を生じることなく、相互に分離した状態で存在する。
更に、この薄膜を一方向に延伸することにより、SWNTが高度に配向したSWNT含有薄膜を得ることができる。この場合の延伸倍率は、1.5〜10倍である。
【0026】
つぎに、薄膜形成材料としてセルロース誘導体を用いた方法について記す。
水中にSWNTとセルロース誘導体などのポリマーを直接添加し、分散させることによって、SWNTが均質分散した水性分散液を作ることが出来る。この場合、SWNTの濃度は0.005〜1重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%であり、ポリマーの濃度は0.05〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。この場合、SWNTの分散には、超音波処理等の分散促進手段を併用することができる。
このようにして得た分散液は、好ましくは、遠心分離して、微細SWNTを含む上澄液を回収し、この上澄液をSWNT分散液として用いるのがよい。この場合の遠心分離において、その加速度は5千〜40万G、好ましくは1万〜30万Gである。
【0027】
以上のようにして作製したSWNT・ポリマー混合液を、基板上にキャスト製膜することにより本発明のSWNT含有セルロース誘導体薄膜が得られる。
【0028】
得られたSWNT薄膜は、セルロース誘導体の優れた分散作用によって、SWNTを、液中で相互に分離した状態を保持したまま含有するものである。すなわち、膜中に分散したSWNTは、凝集を生じることなく、相互に分離した状態で存在する。得られた薄膜の光吸収スペクトルを測定することにより、薄膜中におけるSWNTの分散濃度は、0.1〜3重量%と見積もられた。
【0029】
また、MWNT分散液およびMWNT含有薄膜も、SWNTの場合とほぼ同様の方法によって作製することができるが、その分散液を調製する場合において、必ずしも遠心分離を行う必要はない。該分散液は長期間保存しても安定に分散状態を保つことができ、またセルロース誘導体が安価・安全で、かつ環境負荷が少ないことにより、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料等を作製する目的に好ましく使用することができる。
【0030】
本発明に係る、薄膜形成材料としてゼラチンを用いたカーボンナノチューブ薄膜は、単層カーボンナノチューブが相互に分離された状態で存在し、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更には単層カーボンナノチューブが一方向に簡便に配向するといった特性を有する。したがって、SWNTの持つ光・電子機能を生かして、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、偏光機能、非線形光学機能、各種センサー機能等を有する製品用材料、特に発光材料および偏光材料として有利に用いることができる。
また、本発明に係る、薄膜形成材料としてセルロース誘導体を用いたカーボンナノチューブ薄膜は、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更に分散濃度を広い範囲で調節することが可能なことから、SWNTの持つ光・電子機能を生かして、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、非線形光学機能、各種センサー機能等を有する製品用材料、特に発光材料として有利に用いることができる。
また、本発明の多層カーボンナノチューブ分散液(MWNT分散液ともいう)は、セルロース誘導体を分散剤として用いることにより、分散安定性に優れ、かつ安価・安全で環境負荷の少ないものであり、MWNT含有薄膜の作製に好ましく使用することができるものである。また、該分散液から作製したMWNT薄膜は、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料等の目的に使用することができる。
【実施例】
【0031】
次に本発明を実施例によりさらに詳述する。
【0032】
実施例1
水30mlに界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、SDS)250mgを溶解し、次にSWNTを5mg添加した。このものに超音波処理を行い、生成した分散液を、200,000Gの加速度で7時間遠心分離し、その上澄み液を採取した。吸収スペクトルや発光スペクトルを測定し、文献(Science, 297, 593-596 (2002))のデータを参照することにより、この上澄み液の中に分離SWNTが含まれていることを確認した。
上記によって調製した分離SWNT分散液と市販ゼラチンの水溶液(10重量%)とを1:1の重量比で、加熱しながら混合した。この混合水溶液をガラス基板上にキャストし、室温に放置して冷却した。この冷却過程において、SWNT分散液を含有した状態のままゼラチンがゲル化した。引き続き放置することにより、ゲル中の水分が蒸発し乾燥薄膜を形成した。分離SWNTの均質な薄膜を形成するためには、分離SWNTが水溶液中で均質に分散した状態を、ゲル化によって固定化することが重要なポイントである。これによって、乾燥過程で起こる、チューブの凝集や膜の不均質化を防止することが出来る。
【0033】
次に、該薄膜を基板から剥離して自立膜を得た。この自立膜をエタノール:水混合液(3:2)に1時間浸漬して膨潤させた。膨潤した膜を延伸機に固定して、1軸方向に延伸を行った。延伸比率は約2倍であった。
【0034】
得られた薄膜は、その光学顕微鏡写真から、光学的に極めて均質なものであることが確認された。
図1にこのキャスト製膜の光吸収スペクトル及びその製膜原料であるSWNT分散液の光吸収スペクトルを示す。
この図1からわかるように、若干のピークシフトやブロードニングがある以外はほぼ同様のスペクトルとなっており、薄膜化した後もチューブの分離状態が良好に保たれていることが分かる。更に、この薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図2に示すような発光が観測された。この薄膜からの発光スペクトルは、水分散液からのものに比べて若干のピークシフトやピークのブロードニングがあるものの、分離SWNTの特徴である発光機能を十分に維持している。このことからも、薄膜中でチューブの分散状態が良好に保たれていることが証明される。
図3に本発明のSWNT含有薄膜の偏光吸収スペクトルを示す。図3から、本発明のSWNT含有薄膜の光吸収強度は、偏光方向が延伸方向に平行(//)な場合が、垂直(⊥)な場合に比べて、約1.9倍大きくなっており、ナノチューブが延伸方向に高度に配向していることが証明される。
【0035】
比較例1
実施例1と同じようにして作製したSWNT/SDS分散液に、ポリビニルピロリドン(PVP)を添加して、ガラス基板上にキャスト製膜した。このものは、実施例1とは全く異なり、凹凸の多い極めて不均質な膜となった。それは、溶液が乾燥する過程においてゲル化が起こらず溶液状態のままであるため、初期の均質な分散状態が固定化されず、水分の蒸発に伴って、基板材と溶質との表面張力による相互作用等が原因で、基板上の溶液部分が不均質に収縮するためと考えられる。
この不均質な薄膜に、662nmのレーザー光を照射したところ発光が観測されたが、その強度は、ゼラチン薄膜と比べてはるかに微弱なものであり、また、発光スペクトルは、ゼラチン分散膜と比較してブロードで形がかなり変形したものとなった。これは、薄膜中でチューブ同志が凝集したために励起状態の失活が著しくなったこと、及び、凝集のためにSWNTの電子状態が大幅に変化したことに起因している。このような薄膜では、SWNTの機能を十分に生かすことは困難であり、産業上有用なものとは成り得ない。
【0036】
比較例2
実施例1と同じようにして作製したSWNT/SDS分散液に、ポリビニルアルコール(PVA)を添加して、ガラス基板上にキャスト製膜した。このものは、実施例1とは全く異なり、水分の蒸発と共に、溶液の形状が円形に収縮し、中心部が盛り上がった不均質な固形物となった。それは、溶液が乾燥する過程においてゲル化が起こらず溶液状態のままであるため、水分の蒸発に伴って、基板材と溶質との表面張力による相互作用等が原因で、基板上の溶液部分が不均質に収縮するためと考えられる。
この不均質な固形物に662nmのレーザー光を照射したところ発光が観測された。この場合には、その発光強度はゼラチン分散膜と同等であるが、試料厚がゼラチン分散膜より大幅に大きいことを考慮すると、発光効率が大幅に減少していることが明らかである。これは、チューブの凝集によって励起状態の失活が著しくなったためである。発光スペクトルは、比較例1と同様にかなり変形したものとなった。これは、チューブ同志が凝集したために、電子状態が大幅に変化したことに起因する。このような固形物では、SWNTの機能を十分に生かすことは困難であり、産業上有用なものとは成り得ない。
【0037】
実施例2
実施例1と同様の方法で作製し、更に同様の方法で膨潤させた自立膜を、延伸機に固定して、延伸比率約3倍に延伸した。得られた薄膜は、光学顕微鏡写真から、光学的に極めて均質なものであることが確認された。
図4は、このSWNT含有薄膜の偏光吸収スペクトルである。図3と比較すると、延伸倍率が2倍から3倍に増加したことによって、二色比が約1.9から約3へと増大していること、すなわち、薄膜中でのSWNTの配向度が向上していることが分かる。更に、図5に、このSWNT含有薄膜の偏光顕微鏡写真を示す。クロスニコルで観察した場合、延伸方向と偏光子軸の成す角度が0°、90°では、光の透過度はほぼ0であるが、10°、80°でわずかに透過するようになり、45°で最大の透過度を示す。これらは、延伸方向とそれに垂直な方向で屈折率が大きく異なることによるものであり、SWNTが延伸方向に強く配向していることを示している。図6は、このSWNT含有薄膜の偏光発光スペクトルである。励起光として662nmの偏光していない光を用いているが、発光は強く偏光しており、延伸方向に平行な偏光成分が垂直成分に比べて約6倍程度強くなっている。このことも、SWNTが延伸方向に強く配向していることの証拠となる。また、本結果は、該SWNT含有薄膜が、偏光発光材料として利用できることを示している。
【0038】
実施例3
界面活性剤を含まない2.5%ゼラチン水溶液20mlに10mgのSWNTを添加した溶液を超音波分散処理し、生成した分散液を15,000Gの加速度で5時間遠心分離し、その上澄み液を採取した。吸収スペクトルや発光スペクトルを測定し、文献(Science, 297, 593-596
(2002))のデータを参照することにより、この上澄み液の中に分離SWNTが含まれていることを確認した。
上記のSWNTゼラチン混合溶液を加熱してガラス基板上にキャストし、室温に放置して冷却した。この冷却過程において、SWNT分散液を含有した状態のままゼラチンがゲル化した。引き続き放置することにより、ゲル中の水分が蒸発し乾燥薄膜を形成した。分離SWNTの均質な薄膜を形成するためには、分離SWNTが水溶液中で均質に分散した状態を、ゲル化によって固定化することが重要なポイントである。これによって、乾燥過程で起こる、チューブの凝集や膜の不均質化を防止することが出来る。
得られた薄膜は、その光学顕微鏡写真から、光学的に極めて均質なものであることが確認された。
図7にこのキャスト膜の光吸収スペクトルを示す。
この図7から分かるように、若干のピークシフトやブロードニングがある以外は、図1のSWNT分散液と同様のスペクトルとなっており、薄膜化した後もチューブの分離状態が良好に保たれていることが分かる。更に、この薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図8に示すような発光が観測された。この薄膜からの発光スペクトルは、図2のSWNT分散液からのものに比べて若干のピークシフトやピークのブロードニングがあるものの、分離SWNTの特徴である発光機能を十分に維持している。このことからも、薄膜中でチューブの分散状態が良好に保たれていることが証明される。
【0039】
実施例4
水20mlにカルボキシメチルセルロース100mg(約0.5重量%)を溶解し、次いでSWNTを6mg添加した。このものに超音波処理を行い、生成した分散液を、15万G〜20万Gの加速度で5時間遠心分離し、その上澄み液を採取した。吸収スペクトルや発光スペクトルを測定し、文献(Science, 297, 593-596 (2002))のデータを参照することにより、この上澄み液の中に分離SWNTが含まれていることを確認した。
この分散水溶液200μlをガラス基板(サイズ:13×38×1mm)上にキャストし、室温に放置して乾燥させることによりSWNT薄膜を得た。得られた薄膜は、その光学顕微鏡写真から、光学的に極めて均質なものであることが確認された。
図9aにこのキャスト薄膜の光吸収スペクトル、図9bにその製膜原料であるSWNT分散液の光吸収スペクトルを示す。なお、本分散液はSWNTの分散濃度が極めて高く、そのままでは光吸収スペクトル測定が困難であるため、10倍に希釈して、適切な光学濃度に調整した上で測定に供している(光路長1cmのセルを使用)。
この図9aと図9bを比較してわかるように、若干のブロードニングがある以外はほぼ同様のスペクトルとなっており、薄膜化した後もチューブの分離状態が良好に保たれていることが分かる。更に、この薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図10aに示すような発光が観測された。この薄膜からの発光スペクトルは、水分散液(図10b、20倍希釈)からのものに比べて若干のピークシフトやピークのブロードニングがあるものの、分離SWNTの特徴である発光機能を十分に維持している。このことからも、薄膜中でチューブの分散状態が良好に保たれていることが証明される。
【0040】
実施例5
水20mlに、別のセルロース誘導体であるヒドロキシエチルセルロース1000mg(約5重量%)を溶解し、次いでSWNTを6mg添加した。それ以降は、実施例4と同じ方法によって、SWNT分散液を作製し、更に、実施例4と同じ方法によって、キャスト膜を作製した。
図11に、このキャスト膜の光吸収スペクトルを示す。この場合も、カルボキシメチルセルロースを用いた場合と同様なスペクトルが得られており、膜中でSWNTが良好に分散していることが分かる。また、吸収強度も、実施例4と同等の値が得られており、ヒドロキシエチルセルロースもまた、SWNT含有薄膜の作製に有効に使用できることが示された。更に、この分散薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図12に示すような発光が観測された。薄膜からの発光スペクトル及び強度は、実施例4(図10)と同等の結果となっており、このことからも、ヒドロキシエチルセルロース薄膜中において、SWNTが良好に分散していることが証明される。
【0041】
実施例6
水20mlに、更に別のセルロース誘導体であるヒドロキシプロピルセルロース1000mg(約5重量%)を溶解し、次いでSWNTを6mg添加した。それ以降は、実施例4と同じ方法によって、SWNT分散液を作製し、更に、実施例4と同じ方法によって、キャスト膜を作製した。
図13に、このキャスト膜の光吸収スペクトルを示す。実施例4〜5と比較すると、吸収強度は、弱くなっているものの、吸収スペクトルの形状は、実施例4〜5とほぼ同等なものとなっており、ヒドロキシプロピルセルロースもまた、SWNT含有薄膜の作製に有効に使用できることが示された。更に、この分散薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図14に示すような発光が観測された。この薄膜からの発光スペクトルは、実施例4(図12)と同等の結果となっており、このことからも、ヒドロキシプロピルセルロース薄膜中において、SWNTが良好に分散していることが証明される。
【0042】
実施例7
実施例5と同じ方法で作製したSWNT分散液に少量のグリセリンを添加した上で、実施例5と同じ方法によってキャスト膜を作製した。次に、該薄膜を基板から剥離して自立膜を得た。この自立膜を延伸機に固定して100℃程度に加熱しながら1軸方向に延伸を行った。延伸比率は約2倍であった。
図15に本延伸薄膜の偏光吸収スペクトルを示す。図15から明らかなように、本延伸薄膜の光吸収強度は、偏光方向が延伸方向に平行(//)な場合が、垂直(⊥)な場合に比べて、2.3倍大きくなっており、ナノチューブが延伸方向に配向していることが証明される。
【0043】
実施例8
水20mlにカルボキシメチルセルロース200mg(約1重量%)を溶解し、次いでMWNTを6mg添加した。このものに超音波処理を行い、生成した分散液を1日程度静置した後、その上澄み液を採取した。図16は、このMWNT分散液の吸収スペクトルであるが、SWNTとは異なり特徴的な吸収ピークは観測されない。なお、本分散液はMWNTの分散濃度が極めて高く、そのままでは光吸収スペクトル測定が困難であるため、10倍に希釈して、適切な光学濃度に調整した上で測定に供している(光路長1cmのセルを使用)。図17に、この分散液の波長1000nmにおける吸光度の経時変化を示すが、作製から28日を経過しても、その吸光度に大きな変化が見られず、該分散液においてはMWNTが極めて安定に分散されていることが分かる。
【0044】
実施例9
実施例8で作製したMWNT分散液をガラス基板(サイズ:13×38×1mm)上にキャストし、室温に放置して乾燥させることによりMWNT分散薄膜を得た。得られた薄膜は、その光学顕微鏡写真から、光学的に均質なものであることが確認された。このMWNT分散膜の電気抵抗を評価したところ、シート抵抗として160kΩ/□という値が得られ、高分子薄膜中においてMWNTが導電性フィラーとして機能し得ることが示された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層カーボンナノチューブ(以下単にSWNTとも言う)や多層カーボンナノチューブ(以下単にMWNTとも言う)などのカーボンナノチューブが、相互に分離された状態でマトリックス高分子中に分散された構造を有するカーボンナノチューブ含有薄膜及びこのものを用いた発光材料・偏光材料、更にはMWNTが均質かつ安定に分散された多層カーボンナノチューブ分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、様々な新機能を発揮しうる新素材として大きな注目を集め世界中で活発な研究開発が行われている。今後、産業上の様々な用途に有効に使用するためには、SWNTを均質な薄膜に成形することが必須の課題である。また、SWNTの光・電子機能を活用する場合に、チューブを一本ずつに分離することが重要であることを示す研究結果が最近報告された(非特許文献1)。
【0003】
すなわち、チューブが束になっていると、チューブ間相互作用によって電子物性が大きく変化し、SWNTが本来有している性質・機能を十分に発揮することができない。一方、界面活性剤を用いてチューブを一本ずつに分離すると、SWNT本来の特性が観測されるようになる。すなわち、SWNT/界面活性剤分散水溶液においては、束になったチューブの場合に比べて光吸収スペクトルのピークが著しく鋭くなると同時に、バンド間光学遷移による発光が観測されるようになる。吸収ピークが鋭くなるのは、チューブ間相互作用による電子状態の広がりが無くなったためであり、発光が観測されるのは、チューブ間相互作用による熱的な励起失活が無くなったためである。
【0004】
このように、今後、SWNTの産業技術への利用を促進するためには、一本ずつに分離されたチューブ(以下、分離SWNTと称する)を均質な薄膜に成形する技術を開発することが極めて重要となっている。
従来、このような分離SWNT含有薄膜としては、界面活性剤によって分散したSWNTをポリビニルピロリドン・ポリビニルアルコールと複合化した薄膜が報告されている(非特許文献2)。
【0005】
しかし、この方法では、薄膜形成過程においてチューブの凝集が起こり、得られるSWNTは直径30nm程度の束となってしまう(分離SWNT自体の直径は1nm程度)。また、吸収スペクトルのピークもブロードであり、発光が観測されるかどうかに関しては記述がなく、また、その光学顕微鏡写真は、この薄膜がかなり不均質なものであることを示している。すなわち、このような薄膜では、SWNTが本来有している光・電子特性・機能を十分に生かすことができないことは明らかである。
【0006】
また、SWNTの物性・機能は著しく大きな異方性を有することから、産業目的に利用する場合には、チューブを一定方向に配向させることが重要である。しかるに、これまで、分離SWNTを一定方向に配向させたという報告例はなく、分離SWNTを配向する技術の開発はその重要性にもかかわらずほとんど進展していない。
【0007】
分離SWNTを均質な薄膜状に成形し、好ましくは、薄膜中のチューブを一定方向に配向する技術が開発されれば、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、非線形光学機能、各種センサー等、SWNTの持つ多様な光・電子機能を、有効に発揮させ得る成形物を提供することが可能となり、その産業的利用価値は極めて大きいが、未だこのような要請に応える薄膜が開発されていないのが現状である。
【0008】
一方、MWNTは、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料等として期待が持たれ様々な研究開発が行われているが、これらの産業用途に好ましく用いられるためには、MWNTが均質に分散された状態で長期間安定に保存できるような分散液の状態で提供されることが必要である。この場合、MWNTの分散を促進させるための分散剤としては、分散安定性に優れ、安価、安全で、かつ環境負荷の少ないものを用いることが望ましいが、そのような観点からの研究開発はほとんど行われていないのが現状である。
【0009】
なお、セルロース誘導体の一種であるカルボキシメチルセルロースを分散剤として用いることによって、SWNTが分散・精製できることが文献(非特許文献3)に記されているが、SWNTが相互に分離された状態で均質に分散した薄膜が形成できることや、それらの光吸収・発光特性については全く記述されていない。また、MWNTに関しては、セルロース誘導体を分散剤、もしくは分散媒体として用いた例は報告されていない。
【0010】
【非特許文献1】Science, 297, 593-596 (2002)
【非特許文献2】Nano Letters 3, 1285-1288 (2003)
【非特許文献3】Jpn. J. Appl. Phys. Part1, 43(6A), 3636-3639 (2004))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、カーボンナノチューブ殊に単層カーボンナノチューブが相互に分離された状態で存在し、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更に、目的に応じて、SWNTの濃度を広い範囲で調節できるような単層カーボンナノチューブ含有薄膜およびこれを用いた発光材料および偏光材料を提供することを目的とする。更には、分散安定性に優れ、かつ安価・安全で環境負荷の少ない多層カーボンナノチューブ分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この出願によれば、以下の発明が提供される。
(1)カーボンナノチューブを含有する薄膜であって、該薄膜形成材料がゼラチンまたはセルロース誘導体であることを特徴とするカーボンナノチューブ含有薄膜。
(2)複数のカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散していることを特徴とする上記(1)に記載のカーボンナノチューブ含有薄膜。
(3)カーボンナノチューブが単層又は多層カーボンナノチューブであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のカーボンナノチューブ含有薄膜。
(4)カーボンナノチューブが一方向に配向していることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載の単層カーボンナノチューブ含有薄膜。
(5)上記(1)〜(4)いずれかに記載のカーボンナノチューブ含有薄膜からなる発光材料。
(6)上記(1)〜(4)何れかに記載の単層カーボンナノチューブ含有薄膜からなる偏光材料。
(7)多層カーボンナノチューブを含有する分散液であって、該分散剤がセルロース誘導体であることを特徴とする多層カーボンナノチューブ含有分散液。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る、薄膜形成材料としてゼラチンを用いたカーボンナノチューブ薄膜は、単層カーボンナノチューブが相互に分離された状態で存在し、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更には単層カーボンナノチューブが一方向に簡便に配向するといった特性を有する。したがって、SWNTの持つ光・電子機能を生かして、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、偏光機能、非線形光学機能、各種センサー機能等を有する製品用材料、特に発光材料および偏光材料として有利に用いることができる。
また、本発明に係る、薄膜形成材料としてセルロース誘導体を用いたカーボンナノチューブ薄膜は、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更に分散濃度を広い範囲で調節することが可能なことから、SWNTの持つ光・電子機能を生かして、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、非線形光学機能、各種センサー機能等を有する製品用材料、特に発光材料として有利に用いることができる。
また、本発明の多層カーボンナノチューブ分散液(MWNT分散液ともいう)は、セルロース誘導体を分散剤として用いることにより、分散安定性に優れ、かつ安価・安全で環境負荷の少ないものであり、MWNT含有薄膜の作製に好ましく使用することができるものである。また、該分散液から作製したMWNT薄膜は、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料等の目的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1で得たSWNT含有薄膜とその原料であるSWNT分散液の光吸収スペクトル。
【図2】図2は、実施例1で得たSWNT含有薄膜とその原料であるSWNT分散液の発光スペクトル(励起波長;662nm)。
【図3】図3は、実施例1で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率2倍)の偏光吸収スペクトル。
【図4】図4は、実施例2で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率3倍)の偏光吸収スペクトル。
【図5】図5は、実施例2で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率3倍)の偏光顕微鏡写真。
【図6】図6は、実施例2で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率3倍)の偏光発光スペクトル。
【図7】図7は、実施例3で得たSWNT含有薄膜の吸収スペクトル。
【図8】図8は、実施例3で得たSWNT含有薄膜の発光スペクトル(励起波長;662nm)。
【図9】図9は、実施例4で得たSWNT含有薄膜(a)とその原料であるSWNT分散液(10倍希釈)(b)の光吸収スペクトルを示す。
【図10】図10は、実施例4で得たSWNT含有薄膜(a)とその原料であるSWNT分散液(20倍希釈)(b)の発光スペクトルを示す(励起波長;662nm)。
【図11】図11は、実施例5で得たSWNT含有薄膜の光吸収スペクトル。
【図12】図12は、実施例5で得たSWNT含有薄膜の発光スペクトル(励起波長;662nm)。
【図13】図13は、実施例6で得たSWNT含有薄膜の光吸収スペクトル
【図14】図14は、実施例6で得たSWNT含有薄膜の発光スペクトル(励起波長;662nm)。
【図15】図15は、実施例7で得たSWNT含有薄膜(延伸倍率2倍)の偏光吸収スペクトル。
【図16】図16は、実施例8で得たMWNT分散液(10倍希釈)の光吸収スペクトル。
【図17】図17は、実施例8で得たMWNT分散液(10倍希釈)の波長1000nmにおける吸光度の経時変化。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いるカーボンナノチューブ(SWNTやMWNT)は、特に制約されず、従来公知のものを用いることができる。SWNTやMWNTの直径や長さに特に制約はないが、前者では直径0.4〜3.0nm、長さ0.1〜1μm程度のもの、後者では直径10〜50nm、長さ0.1〜10μm程度のものを用いることが好ましい。
【0016】
本発明では、薄膜形成材料として、ゼラチン又はセルロース誘導体を用いる。
本発明で用いるゼラチンは、特に制約されず、従来公知のものを用いることができ、数平均分子量が数万〜数10万のものを用いることが好ましい。
また、本発明で用いるセルロース誘導体とは、セルロースエーテルやセルロースエステルなどのセルロースから誘導される従来公知の化合物を意味する。本発明で好ましく使用されるセルロース誘導体は、重合度が100〜1000程度のものである。また、セルロース誘導体の中でもセルロースエーテルが望ましく、具体的にはセルロースの水酸基の一部または全部がエーテル化されたもの、たとえばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、アミノエチルセルロース、オキシエチルセルロース、ヒドロキメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリメチルセルロースなどが好ましく使用される。
【0017】
本発明のSWNT含有薄膜およびMWNT薄膜は、ゼラチン薄膜又はセルロース誘導体薄膜中に、複数のSWNTあるいはMWNTが凝集することなく相互に分離した状態で分散させた構造を有する。また、本発明でいう、MWNT分散液とは、MWNTがセルロース誘導体を分散剤として水中に安定に分散した状態にあるものを指す。
【0018】
これらのSWNT含有薄膜もしくはMWNT薄膜において、その厚さは0.1〜100μm、好ましくは1.0〜10μmである。また、そのSWNT(もしくはMWNT)の分散濃度(割合)は、0.1〜10重量%である。
【0019】
本発明のSWNT含有薄膜を好ましく製造する方法について説明する。まず、ゼラチンを用いた方法について記す。
【0020】
本発明のSWNT含有ゼラチン薄膜を好ましく製造するには、先ず、SWNTが均一分散した水性分散液を作る。分散液を作る際には、界面活性剤を用いてもよいし、用いなくともよい。前者の場合は、水中に界面活性剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム等)を溶解させ、この溶液に対してSWNTを添加し分散させることによって得ることができる。この場合、界面活性剤の濃度は0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%であり、SWNTの濃度は、界面活性剤溶液100重量部当たり、0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部である。なお、この場合、SWNTの分散には、超音波処理等の分散促進手段を併用することができる。
【0021】
このようにして得た分散液は、好ましくは、遠心分離して、微細SWNTを含む上澄液を回収し、この上澄液をSWNT分散液として用いるのがよい。この場合の遠心分離において、その加速度は5千〜40万G、好ましくは1万〜30万Gである。
【0022】
次に、前記SWNT分散液、好ましくはその遠心分離上澄液とゼラチン水溶液を混合する。
このゼラチン水溶液において、ゼラチンの濃度は2〜20重量%、好ましくは4〜15重量%である。この混合液において、ゼラチンの濃度は、1〜10重量%、好ましくは2〜10重量%の範囲に調整するのがよい。
【0023】
なお、上記分散液を作る際に界面活性剤を用いない場合は、水中にSWNTとゼラチンを直接添加し、分散させることによって、SWNTが均質分散した水性分散液を作ることが出来る。この場合、SWNTの濃度は0.01〜1重量%、好ましくは0.03〜0.1重量%であり、ゼラチンの濃度は1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%である。この場合にも、SWNTの分散には、超音波処理等の分散促進手段を併用することができる。
このようにして得た分散液は、好ましくは、遠心分離して、微細SWNTを含む上澄液を回収し、この上澄液をSWNT分散液として用いるのがよい。この場合の遠心分離において、その加速度は5千〜40万G、好ましくは1万〜30万Gである。
【0024】
以上のようにして作製したSWNT・界面活性剤・ゼラチン混合液、もしくは、SWNT・ゼラチン混合液を、基板上にキャスト製膜することにより本発明のSWNT含有薄膜が得られる。
【0025】
得られたSWNT薄膜は、ゼラチンの迅速なゲル化作用により、液中に相互に分離した状態で分散したSWNT(分離SWNT)を、その分散状態で含有するものである。すなわち、膜中に分散したSWNTは、凝集を生じることなく、相互に分離した状態で存在する。
更に、この薄膜を一方向に延伸することにより、SWNTが高度に配向したSWNT含有薄膜を得ることができる。この場合の延伸倍率は、1.5〜10倍である。
【0026】
つぎに、薄膜形成材料としてセルロース誘導体を用いた方法について記す。
水中にSWNTとセルロース誘導体などのポリマーを直接添加し、分散させることによって、SWNTが均質分散した水性分散液を作ることが出来る。この場合、SWNTの濃度は0.005〜1重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%であり、ポリマーの濃度は0.05〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。この場合、SWNTの分散には、超音波処理等の分散促進手段を併用することができる。
このようにして得た分散液は、好ましくは、遠心分離して、微細SWNTを含む上澄液を回収し、この上澄液をSWNT分散液として用いるのがよい。この場合の遠心分離において、その加速度は5千〜40万G、好ましくは1万〜30万Gである。
【0027】
以上のようにして作製したSWNT・ポリマー混合液を、基板上にキャスト製膜することにより本発明のSWNT含有セルロース誘導体薄膜が得られる。
【0028】
得られたSWNT薄膜は、セルロース誘導体の優れた分散作用によって、SWNTを、液中で相互に分離した状態を保持したまま含有するものである。すなわち、膜中に分散したSWNTは、凝集を生じることなく、相互に分離した状態で存在する。得られた薄膜の光吸収スペクトルを測定することにより、薄膜中におけるSWNTの分散濃度は、0.1〜3重量%と見積もられた。
【0029】
また、MWNT分散液およびMWNT含有薄膜も、SWNTの場合とほぼ同様の方法によって作製することができるが、その分散液を調製する場合において、必ずしも遠心分離を行う必要はない。該分散液は長期間保存しても安定に分散状態を保つことができ、またセルロース誘導体が安価・安全で、かつ環境負荷が少ないことにより、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料等を作製する目的に好ましく使用することができる。
【0030】
本発明に係る、薄膜形成材料としてゼラチンを用いたカーボンナノチューブ薄膜は、単層カーボンナノチューブが相互に分離された状態で存在し、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更には単層カーボンナノチューブが一方向に簡便に配向するといった特性を有する。したがって、SWNTの持つ光・電子機能を生かして、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、偏光機能、非線形光学機能、各種センサー機能等を有する製品用材料、特に発光材料および偏光材料として有利に用いることができる。
また、本発明に係る、薄膜形成材料としてセルロース誘導体を用いたカーボンナノチューブ薄膜は、分離SWNTが本来有している光・電子特性・機能が十分に発現し、更に分散濃度を広い範囲で調節することが可能なことから、SWNTの持つ光・電子機能を生かして、直流・交流電気伝導、光伝導、光起電力、発光機能、電界発光機能、非線形光学機能、各種センサー機能等を有する製品用材料、特に発光材料として有利に用いることができる。
また、本発明の多層カーボンナノチューブ分散液(MWNT分散液ともいう)は、セルロース誘導体を分散剤として用いることにより、分散安定性に優れ、かつ安価・安全で環境負荷の少ないものであり、MWNT含有薄膜の作製に好ましく使用することができるものである。また、該分散液から作製したMWNT薄膜は、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料等の目的に使用することができる。
【実施例】
【0031】
次に本発明を実施例によりさらに詳述する。
【0032】
実施例1
水30mlに界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、SDS)250mgを溶解し、次にSWNTを5mg添加した。このものに超音波処理を行い、生成した分散液を、200,000Gの加速度で7時間遠心分離し、その上澄み液を採取した。吸収スペクトルや発光スペクトルを測定し、文献(Science, 297, 593-596 (2002))のデータを参照することにより、この上澄み液の中に分離SWNTが含まれていることを確認した。
上記によって調製した分離SWNT分散液と市販ゼラチンの水溶液(10重量%)とを1:1の重量比で、加熱しながら混合した。この混合水溶液をガラス基板上にキャストし、室温に放置して冷却した。この冷却過程において、SWNT分散液を含有した状態のままゼラチンがゲル化した。引き続き放置することにより、ゲル中の水分が蒸発し乾燥薄膜を形成した。分離SWNTの均質な薄膜を形成するためには、分離SWNTが水溶液中で均質に分散した状態を、ゲル化によって固定化することが重要なポイントである。これによって、乾燥過程で起こる、チューブの凝集や膜の不均質化を防止することが出来る。
【0033】
次に、該薄膜を基板から剥離して自立膜を得た。この自立膜をエタノール:水混合液(3:2)に1時間浸漬して膨潤させた。膨潤した膜を延伸機に固定して、1軸方向に延伸を行った。延伸比率は約2倍であった。
【0034】
得られた薄膜は、その光学顕微鏡写真から、光学的に極めて均質なものであることが確認された。
図1にこのキャスト製膜の光吸収スペクトル及びその製膜原料であるSWNT分散液の光吸収スペクトルを示す。
この図1からわかるように、若干のピークシフトやブロードニングがある以外はほぼ同様のスペクトルとなっており、薄膜化した後もチューブの分離状態が良好に保たれていることが分かる。更に、この薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図2に示すような発光が観測された。この薄膜からの発光スペクトルは、水分散液からのものに比べて若干のピークシフトやピークのブロードニングがあるものの、分離SWNTの特徴である発光機能を十分に維持している。このことからも、薄膜中でチューブの分散状態が良好に保たれていることが証明される。
図3に本発明のSWNT含有薄膜の偏光吸収スペクトルを示す。図3から、本発明のSWNT含有薄膜の光吸収強度は、偏光方向が延伸方向に平行(//)な場合が、垂直(⊥)な場合に比べて、約1.9倍大きくなっており、ナノチューブが延伸方向に高度に配向していることが証明される。
【0035】
比較例1
実施例1と同じようにして作製したSWNT/SDS分散液に、ポリビニルピロリドン(PVP)を添加して、ガラス基板上にキャスト製膜した。このものは、実施例1とは全く異なり、凹凸の多い極めて不均質な膜となった。それは、溶液が乾燥する過程においてゲル化が起こらず溶液状態のままであるため、初期の均質な分散状態が固定化されず、水分の蒸発に伴って、基板材と溶質との表面張力による相互作用等が原因で、基板上の溶液部分が不均質に収縮するためと考えられる。
この不均質な薄膜に、662nmのレーザー光を照射したところ発光が観測されたが、その強度は、ゼラチン薄膜と比べてはるかに微弱なものであり、また、発光スペクトルは、ゼラチン分散膜と比較してブロードで形がかなり変形したものとなった。これは、薄膜中でチューブ同志が凝集したために励起状態の失活が著しくなったこと、及び、凝集のためにSWNTの電子状態が大幅に変化したことに起因している。このような薄膜では、SWNTの機能を十分に生かすことは困難であり、産業上有用なものとは成り得ない。
【0036】
比較例2
実施例1と同じようにして作製したSWNT/SDS分散液に、ポリビニルアルコール(PVA)を添加して、ガラス基板上にキャスト製膜した。このものは、実施例1とは全く異なり、水分の蒸発と共に、溶液の形状が円形に収縮し、中心部が盛り上がった不均質な固形物となった。それは、溶液が乾燥する過程においてゲル化が起こらず溶液状態のままであるため、水分の蒸発に伴って、基板材と溶質との表面張力による相互作用等が原因で、基板上の溶液部分が不均質に収縮するためと考えられる。
この不均質な固形物に662nmのレーザー光を照射したところ発光が観測された。この場合には、その発光強度はゼラチン分散膜と同等であるが、試料厚がゼラチン分散膜より大幅に大きいことを考慮すると、発光効率が大幅に減少していることが明らかである。これは、チューブの凝集によって励起状態の失活が著しくなったためである。発光スペクトルは、比較例1と同様にかなり変形したものとなった。これは、チューブ同志が凝集したために、電子状態が大幅に変化したことに起因する。このような固形物では、SWNTの機能を十分に生かすことは困難であり、産業上有用なものとは成り得ない。
【0037】
実施例2
実施例1と同様の方法で作製し、更に同様の方法で膨潤させた自立膜を、延伸機に固定して、延伸比率約3倍に延伸した。得られた薄膜は、光学顕微鏡写真から、光学的に極めて均質なものであることが確認された。
図4は、このSWNT含有薄膜の偏光吸収スペクトルである。図3と比較すると、延伸倍率が2倍から3倍に増加したことによって、二色比が約1.9から約3へと増大していること、すなわち、薄膜中でのSWNTの配向度が向上していることが分かる。更に、図5に、このSWNT含有薄膜の偏光顕微鏡写真を示す。クロスニコルで観察した場合、延伸方向と偏光子軸の成す角度が0°、90°では、光の透過度はほぼ0であるが、10°、80°でわずかに透過するようになり、45°で最大の透過度を示す。これらは、延伸方向とそれに垂直な方向で屈折率が大きく異なることによるものであり、SWNTが延伸方向に強く配向していることを示している。図6は、このSWNT含有薄膜の偏光発光スペクトルである。励起光として662nmの偏光していない光を用いているが、発光は強く偏光しており、延伸方向に平行な偏光成分が垂直成分に比べて約6倍程度強くなっている。このことも、SWNTが延伸方向に強く配向していることの証拠となる。また、本結果は、該SWNT含有薄膜が、偏光発光材料として利用できることを示している。
【0038】
実施例3
界面活性剤を含まない2.5%ゼラチン水溶液20mlに10mgのSWNTを添加した溶液を超音波分散処理し、生成した分散液を15,000Gの加速度で5時間遠心分離し、その上澄み液を採取した。吸収スペクトルや発光スペクトルを測定し、文献(Science, 297, 593-596
(2002))のデータを参照することにより、この上澄み液の中に分離SWNTが含まれていることを確認した。
上記のSWNTゼラチン混合溶液を加熱してガラス基板上にキャストし、室温に放置して冷却した。この冷却過程において、SWNT分散液を含有した状態のままゼラチンがゲル化した。引き続き放置することにより、ゲル中の水分が蒸発し乾燥薄膜を形成した。分離SWNTの均質な薄膜を形成するためには、分離SWNTが水溶液中で均質に分散した状態を、ゲル化によって固定化することが重要なポイントである。これによって、乾燥過程で起こる、チューブの凝集や膜の不均質化を防止することが出来る。
得られた薄膜は、その光学顕微鏡写真から、光学的に極めて均質なものであることが確認された。
図7にこのキャスト膜の光吸収スペクトルを示す。
この図7から分かるように、若干のピークシフトやブロードニングがある以外は、図1のSWNT分散液と同様のスペクトルとなっており、薄膜化した後もチューブの分離状態が良好に保たれていることが分かる。更に、この薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図8に示すような発光が観測された。この薄膜からの発光スペクトルは、図2のSWNT分散液からのものに比べて若干のピークシフトやピークのブロードニングがあるものの、分離SWNTの特徴である発光機能を十分に維持している。このことからも、薄膜中でチューブの分散状態が良好に保たれていることが証明される。
【0039】
実施例4
水20mlにカルボキシメチルセルロース100mg(約0.5重量%)を溶解し、次いでSWNTを6mg添加した。このものに超音波処理を行い、生成した分散液を、15万G〜20万Gの加速度で5時間遠心分離し、その上澄み液を採取した。吸収スペクトルや発光スペクトルを測定し、文献(Science, 297, 593-596 (2002))のデータを参照することにより、この上澄み液の中に分離SWNTが含まれていることを確認した。
この分散水溶液200μlをガラス基板(サイズ:13×38×1mm)上にキャストし、室温に放置して乾燥させることによりSWNT薄膜を得た。得られた薄膜は、その光学顕微鏡写真から、光学的に極めて均質なものであることが確認された。
図9aにこのキャスト薄膜の光吸収スペクトル、図9bにその製膜原料であるSWNT分散液の光吸収スペクトルを示す。なお、本分散液はSWNTの分散濃度が極めて高く、そのままでは光吸収スペクトル測定が困難であるため、10倍に希釈して、適切な光学濃度に調整した上で測定に供している(光路長1cmのセルを使用)。
この図9aと図9bを比較してわかるように、若干のブロードニングがある以外はほぼ同様のスペクトルとなっており、薄膜化した後もチューブの分離状態が良好に保たれていることが分かる。更に、この薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図10aに示すような発光が観測された。この薄膜からの発光スペクトルは、水分散液(図10b、20倍希釈)からのものに比べて若干のピークシフトやピークのブロードニングがあるものの、分離SWNTの特徴である発光機能を十分に維持している。このことからも、薄膜中でチューブの分散状態が良好に保たれていることが証明される。
【0040】
実施例5
水20mlに、別のセルロース誘導体であるヒドロキシエチルセルロース1000mg(約5重量%)を溶解し、次いでSWNTを6mg添加した。それ以降は、実施例4と同じ方法によって、SWNT分散液を作製し、更に、実施例4と同じ方法によって、キャスト膜を作製した。
図11に、このキャスト膜の光吸収スペクトルを示す。この場合も、カルボキシメチルセルロースを用いた場合と同様なスペクトルが得られており、膜中でSWNTが良好に分散していることが分かる。また、吸収強度も、実施例4と同等の値が得られており、ヒドロキシエチルセルロースもまた、SWNT含有薄膜の作製に有効に使用できることが示された。更に、この分散薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図12に示すような発光が観測された。薄膜からの発光スペクトル及び強度は、実施例4(図10)と同等の結果となっており、このことからも、ヒドロキシエチルセルロース薄膜中において、SWNTが良好に分散していることが証明される。
【0041】
実施例6
水20mlに、更に別のセルロース誘導体であるヒドロキシプロピルセルロース1000mg(約5重量%)を溶解し、次いでSWNTを6mg添加した。それ以降は、実施例4と同じ方法によって、SWNT分散液を作製し、更に、実施例4と同じ方法によって、キャスト膜を作製した。
図13に、このキャスト膜の光吸収スペクトルを示す。実施例4〜5と比較すると、吸収強度は、弱くなっているものの、吸収スペクトルの形状は、実施例4〜5とほぼ同等なものとなっており、ヒドロキシプロピルセルロースもまた、SWNT含有薄膜の作製に有効に使用できることが示された。更に、この分散薄膜に662nmのレーザー光を照射したところ、図14に示すような発光が観測された。この薄膜からの発光スペクトルは、実施例4(図12)と同等の結果となっており、このことからも、ヒドロキシプロピルセルロース薄膜中において、SWNTが良好に分散していることが証明される。
【0042】
実施例7
実施例5と同じ方法で作製したSWNT分散液に少量のグリセリンを添加した上で、実施例5と同じ方法によってキャスト膜を作製した。次に、該薄膜を基板から剥離して自立膜を得た。この自立膜を延伸機に固定して100℃程度に加熱しながら1軸方向に延伸を行った。延伸比率は約2倍であった。
図15に本延伸薄膜の偏光吸収スペクトルを示す。図15から明らかなように、本延伸薄膜の光吸収強度は、偏光方向が延伸方向に平行(//)な場合が、垂直(⊥)な場合に比べて、2.3倍大きくなっており、ナノチューブが延伸方向に配向していることが証明される。
【0043】
実施例8
水20mlにカルボキシメチルセルロース200mg(約1重量%)を溶解し、次いでMWNTを6mg添加した。このものに超音波処理を行い、生成した分散液を1日程度静置した後、その上澄み液を採取した。図16は、このMWNT分散液の吸収スペクトルであるが、SWNTとは異なり特徴的な吸収ピークは観測されない。なお、本分散液はMWNTの分散濃度が極めて高く、そのままでは光吸収スペクトル測定が困難であるため、10倍に希釈して、適切な光学濃度に調整した上で測定に供している(光路長1cmのセルを使用)。図17に、この分散液の波長1000nmにおける吸光度の経時変化を示すが、作製から28日を経過しても、その吸光度に大きな変化が見られず、該分散液においてはMWNTが極めて安定に分散されていることが分かる。
【0044】
実施例9
実施例8で作製したMWNT分散液をガラス基板(サイズ:13×38×1mm)上にキャストし、室温に放置して乾燥させることによりMWNT分散薄膜を得た。得られた薄膜は、その光学顕微鏡写真から、光学的に均質なものであることが確認された。このMWNT分散膜の電気抵抗を評価したところ、シート抵抗として160kΩ/□という値が得られ、高分子薄膜中においてMWNTが導電性フィラーとして機能し得ることが示された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを含有する薄膜であって、該薄膜形成材料がゼラチンまたはセルロース誘導体であることを特徴とするカーボンナノチューブ含有薄膜。
【請求項2】
複数のカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散していることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ含有薄膜。
【請求項3】
カーボンナノチューブが単層又は多層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ含有薄膜。
【請求項4】
カーボンナノチューブが一方向に配向していることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の単層カーボンナノチューブ含有薄膜。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のカーボンナノチューブ含有薄膜からなる発光材料。
【請求項6】
請求項1〜4何れかに記載の単層カーボンナノチューブ含有薄膜からなる偏光材料。
【請求項7】
多層カーボンナノチューブを含有する分散液であって、該分散剤がセルロース誘導体であることを特徴とする多層カーボンナノチューブ含有分散液。
【請求項1】
カーボンナノチューブを含有する薄膜であって、該薄膜形成材料がゼラチンまたはセルロース誘導体であることを特徴とするカーボンナノチューブ含有薄膜。
【請求項2】
複数のカーボンナノチューブが相互に分離した状態で分散していることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ含有薄膜。
【請求項3】
カーボンナノチューブが単層又は多層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ含有薄膜。
【請求項4】
カーボンナノチューブが一方向に配向していることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の単層カーボンナノチューブ含有薄膜。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のカーボンナノチューブ含有薄膜からなる発光材料。
【請求項6】
請求項1〜4何れかに記載の単層カーボンナノチューブ含有薄膜からなる偏光材料。
【請求項7】
多層カーボンナノチューブを含有する分散液であって、該分散剤がセルロース誘導体であることを特徴とする多層カーボンナノチューブ含有分散液。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【国際公開番号】WO2005/082775
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510516(P2006−510516)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003367
【国際出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2005/003367
【国際出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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