説明

カーボンナノチューブ膜の製造方法

【課題】簡便な方法で導電性を向上させることの出来るカーボンナノチューブ膜の製造方法を提供することを課題とする。本発明は更に、導電性の向上したカーボンナノチューブ膜の製造方法を提供することによって透明導電性の向上したカーボンナノチューブ膜の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】以下の(1)〜(3)の工程を含むカーボンナノチューブ膜の製造方法。
(1)アニオン性分散剤を含有するカーボンナノチューブ分散液を調製する工程。
(2)上記(1)の工程で調製されたカーボンナノチューブ分散液に酸を添加する工程。
(3)上記(2)の工程で酸を添加したカーボンナノチューブ分散液を用いてカーボンナノチューブ膜を製造する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ膜の製造に関する。
さらに詳しくは、導電性に優れたカーボンナノチューブ膜の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ膜の製造方法は、カーボンナノチューブ自立膜を作製する方法、カーボンナノチューブ樹脂組成物をスライスする方法、カーボンナノチューブと高分子や樹脂との混合物をフィルム状に成形する方法、カーボンナノチューブ分散液を基盤などに塗布する方法などが開発されている。これらの方法によって、カーボンナノチューブ膜を利用した導電性フィルム、透明導電性フィルム等が製造されてきたが、単に導電性や透明性を持つだけのフィルムでは不十分であり、近年では非常に高い導電性や透明性を有する膜が求められる様になった。特許文献1には、カーボンナノチューブ自立膜を作製する方法が記載されているが、このものは、膜の上下方向にカーボンナノチューブの配向が揃っていることを特徴とするカーボンナノチューブ膜であるため、膜厚を薄くするのが困難であり、高い透過率を必要とする用途に適用するのは困難であるという問題がある。樹脂や高分子とカーボンナノチューブの混合物からなるフィルムの場合、樹脂や高分子が絶縁性であるため、カーボンナノチューブとの混合物としてフィルムに用いるとカーボンナノチューブの導電特性を十分に引き出すことができない。導電性を向上させるために導電性樹脂を用いたフィルムも開発されているが(特許文献2)、導電性樹脂しか使えないためフィルムの用途が制限されてしまう問題があり、より高い導電性やより高い光透過率を求められる用途に応用するのが困難である。また、カーボンナノチューブ分散液を基盤などに塗布して乾燥する方法でも、分散液中に存在する分散剤がカーボンナノチューブ膜の導電性を損なう問題があり、導電性高分子を分散剤として用いたカーボンナノチューブ分散液(特許文献3)も開発されているが、導電性高分子は合成が煩雑なものや、高価なものが多く、用いるカーボンナノチューブの種類によっては十分な分散性を得られるとは限らないため、導電性の高いカーボンナノチューブ膜を製造する方法としては問題点が残されている。その他、カーボンナノチューブ膜の導電性や光透過率を向上させる工夫として、カーボンナノチューブ合成時に生じる不純物を取り除く工夫や合成時点で非常にグラファイト化度の高いカーボンナノチューブを合成してカーボンナノチューブ自体の導電性が良いものを製造する工夫、金属性カーボンナノチューブを選別する方法などが考案されているが、いずれの方法も技術が高度になり、実用化という視点で見たときの工程の困難さ、効率の点で産業化への敷居が高くなりつつある。
【特許文献1】特開2007−182342号公報
【特許文献2】特開2004−195678号公報
【特許文献3】特開2005−241600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、簡便な方法で導電性を向上させることの出来るカーボンナノチューブ膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、アニオン性分散剤を用いたカーボンナノチューブ分散液を調製した後、酸を加え、その後カーボンナノチューブ膜とすると、酸を加えずに製造したカーボンナノチューブ膜とくらべて導電性が向上することを見出した。また、導電性の向上に伴って、透明導電性も向上することを見出した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(3)の工程を含むカーボンナノチューブ膜の製造方法である。
(1)アニオン性分散剤を含有するカーボンナノチューブ分散液を調製する工程。
(2)上記(1)の工程で調製されたカーボンナノチューブ分散液に酸を添加する工程。
(3)上記(2)の工程で酸を添加したカーボンナノチューブ分散液を用いてカーボンナノチューブ膜を製造する工程。
【発明の効果】
【0005】
本発明によって導電性の向上したカーボンナノチューブ膜を得ることができる。また、導電性の向上に伴い、透明導電性の向上したカーボンナノチューブ膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明における(1)の工程でのアニオン性分散剤を含有するカーボンナノチューブ分散液を調製する方法は、既存の方法でも、新規な方法であっても、カーボンナノチューブが分散媒中に均一に分散する方法であればどの様な方法でも構わない。分散方法としては、ボールミル、ビーズミル等によって機械的にカーボンナノチューブを粉砕しながら分散する方法、超音波分散によってカーボンナノチューブをほぐしながら分散する方法がある。カーボンナノチューブ、分散剤および分散媒の混合する順序についても、カーボンナノチューブが分散媒中に均一に分散する方法であればどの様な順序でも構わない。簡便性の点で分散剤、分散媒およびカーボンナノチューブの混合物を超音波分散によって分散させる方法が好ましい。
【0007】
また、カーボンナノチューブは乾燥した状態でも予め別の溶剤や分散媒と混合された状態のカーボンナノチューブを分散媒と混合して分散させてもよい。
【0008】
分散剤の種類にかかわらず、一般に、カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブに巻き付いている、または張り付いている分散剤の分散媒に対する親和性によってカーボンナノチューブを巻き込む形で分散媒に分散している。特にアニオン性の分散剤を用いたカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブに巻き付いている、または張り付いている分散剤のイオン反発によって凝集が防がれる効果もある。アニオン性の分散剤は極性の高い分散媒と親和性がよいため、極性の高い分散媒を用いるのが安定で分散性の良い分散液が得られる点で好ましく、極性の高い分散媒としては、イオン性液体、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、低級カルボン酸(酢酸等)、窒素含有極性化合物類(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、ケトン類(アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)、水などが挙げられ、これら分散媒は混合物として用いてもかまわない。好ましくは水と他の極性溶媒の混合物が用いられ、例えばアルコールと水の混合物、ケトンと水の混合物、アミド化合物と水の混合物が用いられる。水の割合は分散剤中のアニオン性官能基が多いほど水の割合も多くするのが分散剤の分散媒への溶解性向上の点で好ましく、水溶性の分散剤の場合は水を分散媒として用いるのが最も好ましい。
【0009】
上記液におけるカーボンナノチューブと分散媒の配合割合は、以下のとおりである。
【0010】
すなわち、カーボンナノチューブを含有する液は、液中、カーボンナノチューブを0.01重量%以上含有していることが好ましく、0.1重量%以上含有していることがより好ましい。上限としては、通常20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下の濃度で含有していることである。
【0011】
通常、アニオン性分散剤を用いたカーボンナノチューブ分散液の場合、分散液を塩基性に調整してアニオン性官能基の解離度を大きくし、それによってイオン反発を増大させてカーボンナノチューブの凝集を防ぐ。または塩基性の溶媒を用いることによってアニオン性官能基の解離度を大きくし、それによってイオン反発を増大させて分散液を安定化させるのが一般的である。
【0012】
しかしながら本発明では、上記アニオン性分散剤を含有するカーボンナノチューブ分散液を調製した後に酸を添加することによって、酸性側に分散液を調整することが重要である。それによって透明導電性が向上する。塩基性にすると透明導電性は低下する。その理由は、以下のように考える。アニオン性官能基がスルホン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、カルボン酸等の有機酸官能基である場合、酸の添加によって分散液のpHが低下すると、有機酸のアニオン部分とプロトンの解離度が低下するので分散剤同士のイオン反発が低下する。pHを下げるほど、解離度は低下して分散剤同士のイオン反発は小さくなるので、この状態で分散媒を除去したときのカーボンナノチューブ同士の距離も酸無添加の場合よりも近い状態で固形物となる。アニオン性官能基がスルホン酸塩、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、カルボン酸塩等の有機酸塩からなる官能基であった場合、酸の添加によって有機酸塩の一部が塩から、pHの低下によって解離度が小さくなった状態の有機酸官能基に戻る。その結果、分散剤のアニオン性官能基は、酸添加前の塩の状態である場合よりも解離度が低下した状態であるため、分散剤同士のイオン反発が酸添加前よりも減少し、分散剤が巻き付いている、または張り付いているカーボンナノチューブ同士の距離は酸を添加する前よりも小さくなる。したがって、酸を添加したカーボンなチューブ分散液をフィルム等に塗布し、この状態で分散媒を乾燥などで除去すると、カーボンナノチューブ同士の距離が近い状態でカーボンナノチューブ膜を製造することが可能となる。カーボンナノチューブ同士の距離が小さくなることによって接点抵抗が小さくなるためカーボンナノチューブ膜としての導電性は、酸を添加しない場合よりも良くなる。導電性の向上によって膜に使用するカーボンナノチューブの量を低減できるため、結果として導電性だけでなく、透明性に優れたカーボンナノチューブ膜の製造も可能となる。
【0013】
本発明においてカーボンナノチューブ分散液を調製後に酸を添加するのが好ましい理由は、酸添加前に分散液を調製した方が、カーボンナノチューブのバンドルをより細かくほぐすことができるため、カーボンナノチューブ膜を製造した際に透明導電性に優れた膜を製造しやすいためである。酸の添加量はカーボンナノチューブが完全に凝集してしまわない程度に添加するのが好ましく、酸を添加した分散液を基材に塗布後、乾燥することによって、乾燥過程で塗膜中の酸の濃度が上昇するため、膜の状態を保ったまま効率よくカーボンナノチューブを凝集させることが可能となる。
【0014】
例えば非イオン性の分散剤を用いる場合、アニオンのイオン反発による分散剤の安定化効果がないため、アニオン性の分散剤を用いた場合と比べてカーボンナノチューブが安定に高分散した分散液が得難いうえ、酸添加による上記の様な現象を引き起こす官能基が無いため、本発明の効果が得られない。
【0015】
アニオン性の分散剤としては、強酸、中酸、弱酸、強酸の塩、中酸の塩、弱酸の塩から撰ばれた少なくとも一種類の基を有する有機物が挙げられ、これらの基を有し、カーボンナノチューブが分散するものであればモノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれを用いても構わなく、界面活性剤のような化合物でも構わない。塩としては、アンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることができる。
非ポリマー分散剤としては界面活性剤などがあげられ、両イオン性界面活性剤もアニオン性官能基を有しているため本発明の効果を得ることが可能である。したがって、用いることができる界面活性剤としては両イオン性界面活性剤や陰イオン性界面活性剤などが挙げられ、両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤などである。また、コール酸、コール酸塩、オレイン酸、オレイン酸塩のような有機酸、有機酸塩も使用可能である。
【0016】
ポリマー、オリゴマーとしては、アニオン性官能基を有してカーボンナノチューブが分散するものであれば特に制限はなく、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩等の水溶性ポリマーの様にアニオン性官能基を繰り返し構成単位とした骨格を有する物が好ましく、カーボンナノチューブが分散するのであれば、アニオン性官能基を有さないポリマーやオリゴマーを購入または合成後に、アニオン性官能基で化学修飾したものを用いることも可能であり、エステル官能基、アミド官能基のように加水分解してアニオン性官能基に変換できる基を有するものも、加水分解後に使用することができる。より具体的にはポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどをアニオン性官能基で修飾したものも好適に使用することができ、またポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーをアニオン性官能基で修飾したものも使用できる。また、アニオン性官能基を有する糖類であるアルギン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等はそのまま好適に使用でき、デンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、シクロデキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アラビアガム、カラギーナン、カードラン、キチン、キトサン、ゼラチン、セルロースが化学修飾によってアニオン性官能基で修飾されたものも好適に用いることができる。より具体的には、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(Na−CMC)などである。また、DNA、ポリヌクレオチド等も好適に使用でき、タンパク質、ポリペプチド、ポリヌクレオシド等を化学修飾によってアニオン性官能基で修飾したものも好適に用いることができる。また、エステル基を有するポリマー、オリゴマーはエステル部分を加水分解してアニオン性官能基に変換して使用することも可能である。
【0017】
上記のなかでもアニオン性分散剤としてはポリスチレンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩およびコール酸塩が特に好ましく用いられる。
【0018】
これら分散剤は1種以上で用いることができる。
上記ポリマーのオリゴマー、モノマー及びそれらの誘導体もアニオン性官能基を有してカーボンナノチューブ分散能があれば本発明の分散剤として使用することが可能であるが、分子量は100以上が好ましい。分子量が大きいほどカーボンナノチューブと相互作用しやすく分散性が向上する。例えば、ポリマーの場合であれば、ポリマー鎖が長くなるとポリマーがカーボンナノチューブにからみつき非常に安定に分散することができる。しかし、分子量が大きすぎると逆に分散性が低下するので好ましくは1000万以下である。
【0019】
かかる分散剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることも可能である。
【0020】
分散剤としては、強酸や中酸または強酸の塩や中酸の塩よりなる基を有する有機物を用いるのがより好ましく、さらに好ましくは強酸または強酸の塩よりなる基を有する有機物を用いるのが好ましい。その理由は、強酸や強酸の塩はイオン部分の解離度が大きく、pHを低下させたときの導電性への影響が大きく、弱酸や弱酸の塩は解離度が小さいため、pHを低下させたときの影響も小さいからである。したがって、強酸または強酸の塩よりなる基を有する分散剤が最も本発明の効果が大きい。
【0021】
強酸の基としてはスルホン酸、強酸の塩からなる基としてはスルホン酸塩が挙げられ、中酸の基としてはホスホン酸やホスフィン酸が挙げられ、中酸の塩からなる基としてはホスホン酸塩、ホスフィン酸塩が挙げられ、弱酸の基としてはカルボン酸が挙げられ、弱酸の塩からなる基としてはカルボン酸塩が挙げられる。
【0022】
酸官能基の違いによる効果の差は上記の通りであり、カーボンナノチューブ膜を製造した際の導電性や透明性は本発明の効果によって向上することが可能であるが、カーボンナノチューブ膜の導電性と透明性は製造過程で用いる分散剤の種類、分散媒の種類の影響も受ける。より高い導電性やより高い透明性が必要な場合には、分散剤自体の体積や抵抗、カーボンナノチューブと分散剤の親和性、分散剤と分散媒の親和性についても考慮すると良い。
【0023】
一般に、分散剤自体の抵抗が非常に大きい場合、分散剤は少ない方がカーボンナノチューブ膜の導電性は良いものが得られるが、少なすぎると分散性が悪くなり導電性が低下する傾向がある。分散剤自体の抵抗が大きい場合、分散剤の体積(単分子の場合には分子量、オリゴマーやポリマーの場合には、繰り返し単位やモノマーの分子量)が大きいほど、カーボンナノチューブ膜中のカーボンナノチューブ同士の接触を阻害し易くなるため、カーボンナノチューブ膜の導電性が低下する傾向があり、分散剤の体積が小さい場合でも、分散剤自体の抵抗が非常に大きい場合には、分散液調製時に多量に使用すると、分散剤が導電性を阻害するため、カーボンナノチューブ膜の導電性はその他の分散剤に比べて低下する傾向がある。
【0024】
また、分散剤とカーボンナノチューブの親和性が高いと分散液を調製する際の分散剤の量は低減できる傾向があり、分散剤と分散媒の親和性が高いほど分散液を調製する際の分散剤の量は低減できる傾向にある。カーボンナノチューブと分散媒の両方に対する親和性の兼ね合いで分散剤使用量を調整するのが良い。
【0025】
分散剤自体に導電性がある場合には、導電性の程度によって、上記カーボンナノチューブ膜の導電性低下の程度は変わってくる。導電性が非常に高い分散剤を使用した場合、多量に分散剤を使用しても導電性は非常に高いカーボンナノチューブ膜が製造できる場合もある。導電性の程度によって分散剤使用量を調整すると良い。
【0026】
透明導電性の高いカーボンナノチューブ膜を得られるという点で、前記分散剤のなかでも、分散剤自体の抵抗は大きいが分散性にすぐれたものの中では、ポリスチレンスルホン酸塩類、カルボキシメチルセルロース塩類、コール酸塩類などが好ましい具体例としてあげられ、なかでも水分散液を調製する場合には、水およびカーボンナノチューブとの親和性の兼ね合いからカルボキシメチルセルロース塩類が好ましく、カルボキシメチルセルロース塩類の中でもカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いるのが好適である。分散剤自体に導電性があるものとしてはポリアニリンスルホン酸塩類を用いることが可能であり、中でもポリアニリンスルホン酸ナトリウム塩を用いるのが好適である。
【0027】
カーボンナノチューブ分散液中の分散剤含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、0.01〜50重量%、より好ましくは、0.1〜30重量%である。上記分散剤の少なくとも1種とカーボンナノチューブの混合比は(添加剤/カーボンナノチューブ)としては、特に限定はないが、重量比で好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.3〜10である。導電性がさほど必要で無い用途では、カーボンナノチューブ濃度を薄めても構わないし、最初から薄い状態で作成しても良い。
【0028】
また、分散剤中のアニオン性官能基の割合が多いほど、酸の添加による影響を多く受けるため本発明の効果を得やすい。
【0029】
前記本発明の(1)の工程では、分散液を調製するが、分散液は、例えばカーボンナノチューブ、分散剤、分散媒の混合物を超音波ホモジナイザー処理することにより調製することができる。
【0030】
本発明においては、上記アニオン性分散剤を含有するカーボンナノチューブ分散液を調製した後に酸を添加する。
【0031】
酸の添加量については、少なくともカーボンナノチューブ分散液のpHが酸添加前よりも低下する様に酸を添加するのが好ましく、0.1以上低下する程度に加えるのが本発明の効果を得る点で好ましく、0.5以上低下する様に添加するのがより好ましく、1.0以上低下するように加えるのがより好適である。また、カーボンナノチューブ分散液のpHは0.10〜6.99の範囲になるように酸を添加するのが好ましく、より好ましくはpHが1.0〜6.5、さらに好ましくは1.5〜5.5であるのが好適である。
【0032】
分散剤が強酸性溶液中で沈殿または析出してしまう場合は、予め、酸添加前のカーボンナノチューブ分散液からカーボンナノチューブのみを抜き出した時の組成と同じ溶液を準備し、その溶液に酸を添加していき分散剤が沈殿または析出するpHを調べておいて、カーボンナノチューブ分散液のpHが、前記分散剤が沈殿または析出するpH以下にならないよう且つ7未満になるように酸を添加するのが好ましい。より好ましくは、前記分散剤が沈殿または析出するpH+0.5からpH6.9の範囲になるように酸を添加するのが好適である。
【0033】
また、酸の添加によって分散剤のアニオン性官能基の部分が非イオン性となった状態でも分散剤と分散媒の親和性が高い場合は酸を過剰に加えてもカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブが凝集して沈殿してしまわない場合もあるため、その場合にはカーボンナノチューブが凝集して沈殿してしまわない範囲であれば過剰に酸を加えても構わない。
【0034】
酸を添加する際の添加方法については、カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブが凝集して沈殿してしまわない方法であれば特に制限はない。酸を直接添加しても構わないが、好ましくはカーボンナノチューブ分散液と混ざり合う溶剤に溶かして添加するのが好ましく、より好ましくはカーボンナノチューブ分散液と同じ組成の分散媒に溶解させて添加するのが好ましい。その理由は、酸を直接添加すると、酸添加部分が一時的に高濃度の酸溶液となり、分散媒と親和性の低い分散剤を用いている場合はカーボンナノチューブが部分的に凝集してしまう場合があるため、酸を溶液として添加する方が好ましい。カーボンナノチューブ分散液の分散媒と異なる組成の溶液を添加した場合も、カーボンナノチューブおよび分散剤の溶媒への親和性が異なり、酸溶液添加部分でカーボンナノチューブの凝集がおこる場合があるため、カーボンナノチューブ分散液と同じ組成の分散媒に酸を溶解させて添加するのが好ましい。
【0035】
また、酸を添加する際は、均一な分散液にするためにカーボンナノチューブ分散液を攪拌しながら添加することが好ましい。攪拌方法はカーボンナノチューブ分散液が均一に攪拌されるならば特に制限はなく、棒で攪拌しても、振とうによって攪拌しても、攪拌子で攪拌しても、スクリューで攪拌しても構わない。
【0036】
酸を溶液にして添加する際の酸溶液の濃度については、カーボンナノチューブ分散液のpHを低下させることが出来て、添加時にカーボンナノチューブが凝集して沈殿してしまわない範囲であれば特に制限はないが、好ましくはpHが0.01〜6.99程度となるような濃度で酸を添加するのがよく、より好ましくはpHが0.1〜6.50程度であり、さらに好ましくは、pHが0.30〜6.00である。酸濃度の下限については特に制限はないが、添加する酸溶液の量が実用的な範囲内で収まる程度に濃度を低下させることが好ましい。濃度の下限に制限が無い理由は、酸の濃度が低い場合でも、カーボンナノチューブ膜製造の際、分散液乾燥時に酸が濃縮されていくからである。酸の濃縮によって分散剤のアニオン性官能基のイオン性が低下しやすくなるため、添加する酸の濃度が低いことによる本発明の効果への影響は小さい。
【0037】
カーボンナノチューブ分散液に添加する酸の種類はカーボンナノチューブ分散液のpHを低下させることが出来れば特に制限は無いが、アニオン性分散剤のアニオン性官能基が酸塩である場合には、酸塩の部分をプロトン酸にした場合の酸性度と同等か酸性度がより強い酸(pKaが同じか、より小さい酸)を用いると、添加する酸の量を低減出来るため好ましい。アニオン性官能基がスルホン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、カルボン酸等の酸である場合、添加する酸は分散剤のアニオン性官能基より酸性度が同等かより強い酸(pKaが同じか、より小さい酸)を用いるのが好ましい。また、アニオン性官能基またはアニオン性官能基が酸塩である場合はプロトン酸とした場合のpKaと添加する酸のpKaの差は大きい方が添加する酸の量を低減出来るため好ましい。酸としては有機酸、無機酸が挙げられるが、導電性を阻害しにくいという点で、分子量の小さい有機酸を用いるか、無機酸を用いるのが好ましい。また、これらの添加する酸は、酸同士が反応してしまわず、カーボンナノチューブ分散液のpHを下げることが出来るなら、混合して用いても構わない。
【0038】
アニオン性分散剤のアニオン性官能基がカルボン酸またはカルボン酸塩である場合には、添加する酸は特に制限はないが、有機カルボン酸と同等か、より酸性度の強い酸を用いるのが好ましく、有機カルボン酸と同等か、より強い酸としては、有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機ホスフィン酸、有機スルホン酸、無機酸が挙げられ、無機酸としては、塩酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、臭素酸、フッ素酸などが挙げられる。
【0039】
アニオン性分散剤のアニオン性官能基がホスホン酸またはホスフィン酸またはホスホン酸塩またはホスフィン酸塩である場合には、有機ホスホン酸または有機ホスフィン酸と同等か、より酸性度の強い酸を用いるのが好ましく、有機ホスホン酸または有機ホスフィン酸と同等か、より強い酸としては、有機ホスホン酸、有機ホスフィン酸、有機スルホン酸、塩酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、臭素酸、フッ素酸などが挙げられる。
【0040】
アニオン性分散剤のアニオン性官能基がスルホン酸またはスルホン酸塩である場合には、有機スルホン酸と同等か、より酸性度の強い酸を用いるのが好ましく、有機スルホン酸と同等か、より強い酸としては、有機スルホン酸、塩酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、臭素酸、フッ素酸などが挙げられる。
【0041】
本発明では
(1)アニオン性分散剤を含有するカーボンナノチューブ分散液を調製する工程。
(2)上記(1)の工程で調製されたカーボンナノチューブ分散液に酸を添加する工程。
(3)上記(2)の工程で酸を添加したカーボンナノチューブ分散液を用いてカーボンナノチューブ膜を製造する工程。
の(1)から(3)の順序が保持されていれば、(1)から(3)の工程途中または前後に、ろ過、分級、再分散等の、他の操作が加わってもかまわないし、前述した本発明の効果を阻害しないものであれば他の化合物を(1)から(3)の工程途中または前後に添加する操作が加わってもかまわない。
【0042】
カーボンナノチューブ分散液には予め緩衝剤を加えておくことが好ましい。なぜなら、緩衝剤が分散液中に存在することによって、酸を添加した際の急激なpH変化を緩和できるので、部分的なカーボンナノチューブの凝集が起こりにくくなるからである。また、カーボンナノチューブは製造方法、精製方法またはそれらの条件が異なってくると、表面官能基の割合やカーボンナノチューブの純度が異なってくるため、最も好ましいカーボンナノチューブ分散濃度、分散剤濃度、酸の添加量については、どの様なカーボンナノチューブを用いるかによって若干の差異が生じる。理由は明確になっていないが、緩衝剤を加えておくことによって、最も好ましい範囲に幅ができ、カーボンナノチューブ分散液を調製するのが容易になる。更に、緩衝剤は部分的なpHの変化を防ぐため、カーボンナノチューブ分散液を安定化する効果もある。
【0043】
一般に緩衝剤とはpHの変化を防ぐ添加剤のことを示すが、より具体的には、炭酸や有機カルボン酸の塩、リン酸や亜リン酸や次亜リン酸の塩、有機ホスフィン酸の塩、有機ホスホン酸の塩、アンモニウム塩、一級アミン基を有する化合物と酸の塩、二級アミン基を有する化合物と酸の塩、三級アミン基を有する化合物と酸の塩などが用いられる。入手、取り扱いの容易さからアンモニウム塩やリン酸塩を用いるのが好ましい。
【0044】
緩衝剤の添加量については、過剰に入れすぎるとカーボンナノチューブが凝集してしまう場合があり、少なすぎると効果が得られないため、好ましくはカーボンナノチューブ分散液中での濃度が30mmol/mL〜1.0×10−3mmol/mLになるように用いるのが好ましく、より好ましくは10.0mmol/mL〜3.0×10−3mmol/mL、さらに好ましくは1.0mmol/mL〜5.0×10−3mmol/mL、最も好ましくは5.0×10−1mmol/mL〜1.0×10−2mmol/mLである。
【0045】
添加方法については、例えばカーボンナノチューブと分散剤と緩衝剤を同時に分散媒に混ぜた後分散を開始しても構わないし、カーボンナノチューブ分散液を調製後、酸を添加する前の段階で添加しても構わない。添加する際は直接緩衝剤を添加しても構わないし、溶液に薄めて添加しても構わない。予めカーボンナノチューブ分散液に塩基を加えておいて、その分散液に酸を添加することによって分散液中で発生させても構わない。また、予めカーボンナノチューブ分散液に酸を加えておいて、その分散液に塩基を添加することによって分散液中で発生させても構わない。目的や設備に応じて適選すると良い。
【0046】
緩衝剤の効果としては前記幾つかの効果があるため、カーボンナノチューブ分散液を調製する際のどの段階で添加しても緩衝剤の効果を少なくとも一部は得ることが出来るが、より多くの効果を得るために、分散液調製の初期の時点で添加または分散液中に発生させておくのが好ましい。
【0047】
本発明におけるカーボンナノチューブ膜を製造する方法は、本発明中の酸を添加したカーボンナノチューブ分散液を使用してカーボンナノチューブの膜を製造する限りにおいて特に制限はなく、好ましい態様としては、基材にカーボンナノチューブ分散液を塗布後、乾燥させるのが好ましい。塗布する方法は吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、ロールコーティングなどが利用できるし、刷毛で塗ってもよい。また、分散液を基材に垂らした後乾燥前にブレード等で分散液を均一に引き延ばしてから乾燥させても良い。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、カーボンナノチューブが均質に3次元編目構造を形成するように塗布し易い点でロールコーティングを行うのが好ましい。
【0048】
カーボンナノチューブ膜の導電性だけでなく、透明性も必要な場合には、カーボンナノチューブ分散液が基材上に均一に塗れる方法を選択するのが好ましく、透過率を向上させるには基材上に塗液が薄くなるように塗布するか、カーボンナノチューブ分散液の濃度を低くすれば良い。基材上の塗液の塗膜が薄いほど透過率は向上し、塗液の濃度が薄いほど透過率は向上する。より高い導電性と高い透過率が必要な場合はカーボンナノチューブ膜製造用のカーボンナノチューブ組成物として、カーンナノチューブ純度が高い組成物を用いるのが好ましい。カーボンナノチューブ純度が高い組成物とは、カーボンナノチューブ以外の物が出来るだけ少ない組成物という意味である。カーボンナノチューブ以外の物が多いと、本発明におけるカーボンナノチューブ同士の距離が小さくなることによる導電性の向上が、カーボンナノチューブ以外の物によって阻害されたり、透過率が低下したりする場合がある。よって、カーボンナノチューブ膜製造用のカーボンナノチューブ組成物の純度は高いほど好ましい。また、カーボンナノチューブ組成物中のカーボンンアノチューブはグラファイト化度が高い(欠陥が少ない)ほど、カーボンナノチューブ膜を製造した際の導電性が良い膜を製造出来る。
【0049】
カーボンナノチューブ純度やグラファイト化度の高さは、例えばラマン分光分析法により評価が可能である。ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は種々あるが、例えば633nm光を利用すると、ラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm-1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いカーボンナノチューブほど、グラファイト化度が高く、高純度である。
【0050】
G/D比によらず本発明の効果は得られるが、G/D比が高いほど優れた導電性や透明導電性のカーボンナノチューブ膜を得られるという点で、633nm光によるG/D比は5以上であることが好ましく、10以上であるのがより好ましく、20以上であることがさらに好ましく、最も好ましくは30以上のカーボンナノチューブ組成物を用いるのが好適である。上限は特にないが、通常200以下である。またカーボンナノチューブのような固体のラマン分光分析はサンプリングによって値がばらつくことがある。そこで少なくとも3カ所以上、別の場所をラマン分光分析し、その相加平均をとるものとする。
【0051】
また、カーボンナノチューブは表面や末端が官能基で修飾されていてもよく、例えば酸やアルカリによってカルボキシル基、水酸基、アミノ基で官能基化されているものを用いてもよい。また、カーボンナノチューブの長さは特に限定はないが、短すぎると効率的に導電性パスを形成できず、長すぎると分散性が低下するので0.1〜100μmである。
【0052】
このようにしてカーボンナノチューブの分散液を塗布した導電性フィルムは、液を基材に塗布した後、風乾、加熱、減圧などの方法により不要な分散媒を除去することができる。それによりカーボンナノチューブは、3次元編目構造を形成し基材に固定化される。分散剤の量が多い場合には、その後、適当な溶媒を用いて洗浄することによって導電性フィルムの導電性が向上する。分散剤を除去するための溶媒としては分散剤を溶解するものであって、基材が変質してしまわないものであれば特に制限はない。
【0053】
また、カーボンナノチューブ膜がフィルムなどの透明基板に付いたカーボンナノチューブ膜付き透明導電フィルムが必要な場合には、カーボンナノチューブ膜を製造する際に透明性を有するフィルム上(例えばPETフィルム)にカーボンナノチューブを製造することによって、透明導電性を有するフィルムを製造することが可能である。また、透明性が必要な場合には、基材上にカーボンナノチューブ分散液を均一に塗布できる方法を選択するのが好ましい。
【0054】
上記のように液を塗布してカーボンナノチューブを含む導電性フィルムを形成後、このフィルムを有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料でオーバーコーティングすることも好ましい。
【0055】
カーボンナノチューブ膜付きフィルムの透明導電性は、カーボンナノチューブ膜付きフィルムの光透過率と導電性を測定することによって測定することが可能であり、
カーボンナノチューブ膜付きフィルムの光透過率は基材も含めて測定する。上記のカーボンナノチューブ膜付きフィルムの光透過率が70%以上であるとは、この時の光透過率が70%以上である。さらにカーボンナノチューブ膜付きフィルムの「表面抵抗値1×10Ω/□未満」とは、このときのフィルムの表面抵抗値が1×10Ω/□未満である。フィルムの導電性はフィルムの表面抵抗値を測定して評価する。表面抵抗値はJISK7149準拠の4端子4探針法を用い、例えばロレスタEP MCP-T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定することが可能である。高抵抗測定の際は、ハイレスターUP MCP-HT450((株)ダイアインスツルメンツ社製、10V、10秒)を用いて測定することが可能である。また、本発明において光透過率は、透明導電フィルムを分光光度計(日立製作所 U−2100)に装填し、波長550nmでの光透過率を測定して測定する事が可能である。
【0056】
本発明の基材となるフィルムは特に限定されない。透明性が必要な時には、透明フィルム、例えばPETフィルムを用いる。
【0057】
本発明の導電性フィルムは、基材と接着させたまま使用することも出来るし、基材から剥離させ自立フィルムとして用いることも出来る。自立フィルムを作製するには、カーボンナノチューブ膜付きフィルム上にさらに有機ポリマー系バインダーを塗布した後、基材を剥離すればよい。また、作製時の基材を熱分解により消失あるいは溶融させ、別の基材に導電性フィルムを転写して用いることもできる。その際は、作製時の基材の熱分解温度<転写基材の熱分解温度であることが好ましい。
【0058】
本発明のカーボンナノチューブ膜の厚さは、中程度の厚さから非常に薄い厚さまで種々の範囲をとることができる。例えば本発明のカーボンナノチューブ膜は約0.5nm〜約1000μmの間の厚さをとりうる。好ましい実用形態ではカーボンナノチューブ膜の厚さは約0.005μm〜約1000μmとなりうる。別の好ましい実用形態ではカーボンナノチューブ膜の厚さは約0.05μm〜約500μmである。別の好ましい実用形態ではカーボンナノチューブ膜の厚さは約1.0μm〜約200μmである。さらに別の好ましい実用形態ではカーボンナノチューブ膜の厚さは約1.0μm〜約50μmである。厚さが薄いほど透過率は高くなり、厚さが厚いほど導電性は良くなる。
【0059】
かくして、本発明のカーボンナノチューブ膜を利用すれば、光透過率が70%以上、表面抵抗値が1×10Ω/□未満の透明導電フィルムも製造可能であり、好ましい態様においては、上記カーボンナノチューブ膜付きフィルムの透過率で85〜88%、表面抵抗で1×10以上1×10Ω/□未満も達成可能である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
【0061】
<参考例>
[触媒調製例]
クエン酸アンモニウム鉄(緑色)(和光純薬工業社製)2.459gをメタノール(関東化学社製)500mLに溶解した。この溶液に、軽質マグネシア(岩谷社製、かさ密度は0.125g/mLであった)を100g加え、室温で60分間攪拌し、40℃から60℃で攪拌しながら減圧乾燥してメタノールを除去し、軽質マグネシア粉末に金属塩が担持された触媒を得た。
【0062】
[カーボンナノチューブ組成物製造例]
図1に示した流動床縦型反応装置でカーボンナノチューブを合成した。図1は前記流動床縦型反応装置の概略図である。
【0063】
反応器100は内径32mm、長さは1200mmの円筒形石英管である。中央部に石英焼結板101を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガス供給ライン104、上部には廃ガスライン105および、触媒投入ライン103を具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器106を具備する。加熱器106には装置内の流動状態が確認できるよう点検口107が設けられている。
【0064】
触媒12gを取り、密閉型触媒供給器102から触媒投入ライン103を通して、石英焼結板101上に触媒調製例で示した触媒108をセットした。次いで、原料ガス供給ライン104からアルゴンガスを1000mL/分で供給開始した。反応器内をアルゴンガス雰囲気下とした後、温度を850℃に加熱した(昇温時間30分)。
【0065】
850℃に到達した後、温度を保持し、原料ガス供給ライン104のアルゴン流量を2000mL/分に上げ、石英焼結板上の固体触媒の流動化を開始させた。加熱炉点検口107から流動化を確認した後、さらにメタンを95mL/分(メタン濃度4.5vol%で反応器に供給開始した。該混合ガスを90分供給した後、アルゴンガスのみの流通に切り替え、合成を終了させた。
【0066】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ組成物を取り出した。
【0067】
この触媒付きカーボンナノチューブ組成物の示差熱分析による燃焼ピーク温度は456℃であった。
【0068】
[導電性の評価]
カーボンナノチューブ膜の導電性は、カーボンナノチューブの重量パーセント濃度が0.09wt%のカーボンナノチューブ分散液を調製し、PETフィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46)、光透過率91%、15cm×10cm)上にバーコーター(No.3〜10)を用いて塗布し、表面抵抗値をロレスタEP MCP-T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)、ハイレスターUP MCP-HT450((株)ダイアインスツルメンツ社製、10V、10秒)を用いて測定した。
【0069】
[光透過率の評価]
カーボンナノチューブの光透過率はU-2001型ダブルビーム分光光度計(株式会社 日立製作所製)で550nm光を用いて測定した。
【0070】
[pH測定]
メトラートレド株式会社製Electrodeを用いて測定した。
【0071】
<実施例1>
カーボンナノチューブ組成物製造例で示した触媒付きカーボンナノチューブ組成物23.4gを磁性皿(150φ)に取り、予め446℃まで加熱しておいたマッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)にて大気下、446℃で2時間加熱した後、マッフル炉から取り出した。次に、触媒を除去するため、カーボンナノチューブ組成物を6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。これを濾過し、数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥することでマグネシアおよび金属が除去されたカーボンナノチューブ組成物を57.1mg得ることができ、上記操作を繰り返すことによりマグネシアおよび金属が除去されたカーボンナノチューブ組成物を500mg用意した。
【0072】
一方、マッフル炉で消失した炭素量を調べるため、マッフル炉で加熱していない触媒付きのカーボンナノチューブ組成物5.2gを6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。これを濾過し、数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥してカーボンナノチューブ組成物が107.2mg得られた。
【0073】
これを基に換算すると、マッフル炉中での炭素の消失量は88%であった。また、この様にして得られたカーボンナノチューブ組成物を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブはきれいなグラファイト層で構成されており、層数が2層のカーボンナノチューブが観測された。また観察されたカーボンナノチューブ総本数(100本)のうち88本を2層カーボンナノチューブが占めていた。また、この時のカーボンナノチューブ組成物の波長633nmによるラマン分光分析の結果、G/D比は75であった。
【0074】
次に、マッフル炉で加熱後、触媒を取り除いた2層カーボンナノチューブ組成物80mgを濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)27mLに添加し、130℃のオイルバスで5時間攪拌しながら加熱した。加熱攪拌終了後、カーボンナノチューブを含む硝酸溶液をろ過し、蒸留水で水洗後、水を含んだウエット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。このとき水を含んだウエット状態のカーボンナノチューブ組成物全体の重量は1266.4mgで、一部377.1mgを取り出し120℃で1晩乾燥させたところ、乾燥状態のカーボンナノチューブ17.0mg(波長633nmによるラマン分光分析の結果、G/D比は40であった)が得られた。したがって硝酸処理後の水を含んだウエット状態のカーボンナノチューブ組成物全体のカーボンナノチューブ濃度は4.5wt%で、硝酸処理の収率は71%であった。
【0075】
こうして得られたウェト状態のカーボンナノチューブ組成物333.3mg(カーボンナノチューブ15.0mg分)、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩水溶液(アルドリッチ製、30wt%、重量平均分子量20万、GPCで測定、ポリスチレン換算)50mgをとり、蒸留水9.631mLを加えて、超音波ホモジナイザー出力20W、20分間氷冷下で分散処理しカーボンナノチューブ集合体分散液を調製した。調製した液には凝集体は目視では確認できず、カーボンナノチューブ組成物はよく分散していた。得られた分散液を高速遠心分離機を使用して10000Gで15分遠心し、分散液を得、その上清9mLを得た。このときの残存液1mLを孔径1μmのフィルターを用いてろ過、洗浄して得られたろ過物を120℃にて乾燥機で乾燥した。重量を測ったところ、2.0mgであった。よって13.0mg(87%)のカーボンナノチューブ組成物が上清9mL中に分散していることがわかった。その上清濃度は1.44mg/mLであった。この時点での分散液のpHは3.6であった。次に、得られた分散液を攪拌子で攪拌しながら、30%硝酸水溶液を添加してpHを2.3に調整した。
【0076】
pHを2.3にしたカーボンナノチューブ分散液1mLに蒸留水を添加してカーボンナノチューブの濃度を0.09wt%とし、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー U46)、光透過率90.6%、15cm×10cm)上にバーコーター(No.3、4、5、8、10)を用いて塗布して風乾した後、蒸留水にてリンスし、120℃乾燥機内で2分間乾燥させカーボンナノチューブ組成物を固定化した。得られた塗布フィルムの表面抵抗値と光透過率は図2に示すとおりとなった。
【0077】
<実施例2>
実施例1において超音波ホモジナイザーでの分散の直前に、緩衝剤として硝酸アンモニウムを15.0mg加えた以外は実施例1と同様に操作した。フィルムに分散液を塗布する際のバーコーターは、No.3、No.5、No.8を使用した。結果を図3に示す。
【0078】
<比較例1>
カーボンナノチューブ分散液に酸を加えずにNo.3、No.4、No.5、No.8のバーコーターを用いてフィルムに塗布した以外は実施例1と同様に操作し、表面抵抗値と光透過率を測定した。結果は図2に実施例1とともに示す。これによると、酸を添加しているカーボンナノチューブ膜よりも透明導電性が劣ることが分かる。
【0079】
<比較例2>
酸を添加しなかったこと以外は実施例2と同様に操作を行い、No.3、No.4、No.8のバーコーターを用いて分散液を塗布して表面抵抗値と光透過率を測定した。結果は図3に実施例2とともに示す。
【0080】
<比較例3>
硝酸をカーボンナノチューブ分散液の調製前に添加したこと以外は、実施例1と同様に操作し、No.5、No.8、No.10のバーコーターを用いてフィルムにカーボンナノチューブ分散液を塗布して表面抵抗値と光透過率を測定した。結果を図2に実施例1と比較例2とともに示す。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1はカーボンナノチューブ組成物製造例1で使用した流動床縦型反応装置の概略図である。
【図2】図2は実施例1と比較例1および比較例3で製造したカーボンナノチューブ膜付きフィルムの表面抵抗値と光透過率を示した図である。縦軸が表面抵抗値、横軸が透過率となっている。図中のNo.はカーボンナノチューブ膜製造時に使用したバーコーターのナンバーである。
【図3】図3は実施例2と比較例2で製造したカーボンナノチューブ膜付きフィルムの表面抵抗値と光透過率を示した図である。縦軸が表面抵抗値、横軸が透過率となっている。図中のNo.はカーボンナノチューブ膜製造時に使用したバーコーターのナンバーである。
【符号の説明】
【0082】
100 反応器
101 石英焼結板
102 密閉型触媒供給機
103 触媒投入ライン
104 原料ガス供給ライン
105 廃ガスライン
106 加熱器
107 点検口
108 触媒
200 反応器
201 不織布
204 原料ガス供給ライン
205 廃ガスライン
206 加熱器
207 点検口
208 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(3)の工程を含むカーボンナノチューブ膜の製造方法。
(1)アニオン性分散剤を含有するカーボンナノチューブ分散液を調製する工程。
(2)上記(1)の工程で調製されたカーボンナノチューブ分散液に酸を添加する工程。
(3)上記(2)の工程で酸を添加したカーボンナノチューブ分散液を用いてカーボンナノチューブ膜を製造する工程。
【請求項2】
アニオン性分散剤がカルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩から撰ばれた少なくとも一種類の基を有する有機物であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項3】
カーボンナノチューブ薄膜が導電性フィルム用であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法によって得られるカーボンナノチューブ膜付きフィルムの光透過率が70%以上、表面抵抗値1×10Ω/□未満となることを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブ分散液に緩衝剤が添加されていることを特徴とする請求項1から請求項4いずれかに記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項6】
アニオン性分散剤がポリスチレンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース塩およびコール酸塩から選択された1種以上であることを特徴とする請求項1から請求項5いずれかに記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−242144(P2009−242144A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88857(P2008−88857)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】