説明

カーボンナノ構造物の製造装置および製造方法

【課題】浸炭による強度および寿命の低下を防ぐことができるとともに、カーボンナノ構造物の製造に適した流動状態を確保することが可能なカーボンナノ構造物の製造装置および製造方法を実現する。
【解決手段】反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造するカーボンナノ構造物の製造装置であって、前記反応管は金属からなり、かつ内表面に金属の酸化物層を備えているカーボンナノ構造物の製造装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ構造物の製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ、カーボンナノコイルなどのカーボンナノ構造物を製造する方法として、反応管に炭素源となる原料ガスを導入し、原料ガスを熱分解して触媒と接触させ目的物質を成長させる化学的気相成長法(CVD法、Chemical Vapor Deposition)が知られている。CVD法において、原料ガスと触媒とを効率よく接触させる方法として、加熱された反応管内で触媒担持粒子を気流で流動させながら、原料ガスと接触させてCVDを行う流動層法が提案されている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0003】
流動層法CVDを用いるカーボンナノ構造物の製造方法では、従来より反応管として金属製または石英製の反応管が用いられている。
【0004】
しかしながら、金属製の反応管を用いる場合、反応管の内表面である金属表面に金属と原料ガスとの反応による生成物が付着して金属の腐食が起こる浸炭現象により、反応管の強度および寿命が低化するという問題がある。
【0005】
さらに、反応管または反応管の接続部に用いられる金属として、銅や銀を用いる場合には、原料ガスのアセチリドと反応して、爆発の危険性を有する金属アセチリドが生成するという問題もある。
【0006】
これに対して、石英製の反応管では、浸炭現象による腐食の問題がない。しかし、石英製の反応管は、強度や加工性に劣ることから大型化が困難であるため、カーボンナノ構造物の量産に適さないという問題がある。また、反応管として石英管を用いる場合には、熱膨張に対する強度の観点から、供給された原料ガス及び/又はキャリアガスを分散して触媒担持粒子を流動させるために設けられる分散板にも通常同じ石英製のものが用いられる。しかし、石英製の分散板では、加工性に劣るため、カーボンナノ構造物の製造に適した流動状態を確保するように加工することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−93494号公報(2008年4月24日公開)
【特許文献2】特開2007−284317号公報(2007年11月1日公開)
【特許文献3】特開2006−143515号公報(2006年6月8日公開)
【特許文献4】特開2003−286015号公報(2003年10月7日公開)
【特許文献5】特表2006−511437号公報(2006年4月6日公開)
【特許文献6】特表2004−526660号公報(2004年9月2日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来から用いられている金属製または石英製の反応管は、いずれも流動層法CVDを用いるカーボンナノ構造物の反応管としては十分ではない。浸炭現象による強度および寿命の低下がないとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がなく、且つ、加工性に優れた反応管の実現が望まれる。
【0009】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、浸炭による強度および寿命の低下がないとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がなく、且つ、加工性に優れたカーボンナノ構造物の製造装置および製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明のさらなる目的は、加工性に優れた反応管を用いることにより、カーボンナノ構造物の製造に適した流動状態を確保することが可能なカーボンナノ構造物の製造装置および製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置は、前記課題を解決するために、反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造するカーボンナノ構造物の製造装置であって、前記反応管は金属からなり、かつ内表面に金属の酸化物層を備えていることを特徴としている。
【0012】
前記の構成によれば、浸炭による反応管の強度および寿命の低下を防ぐことができるとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がないカーボンナノ構造物の製造装置を提供することができる。
【0013】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置では、前記金属は、Ni、Cr、Fe、MnおよびMoから選択される少なくとも1種類の金属を含むことが好ましい。
【0014】
これらの金属は強度において他の金属と比較してより優れており、さらに大型化に適している。
【0015】
また、本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置では、前記酸化物層の層厚は、5nm以上であることが好ましい。
【0016】
前記構成により、浸炭による反応管の強度および寿命の低下がさらに抑えられるとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がより少ないカーボンナノ構造物の製造装置を提供することができる。
【0017】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置では、前記反応管は鉛直方向に延びる縦型の反応管であって、当該反応管は分散板を備え、当該分散板は、前記触媒担持粒子を載置可能になっているとともに、当該分散板の下方から供給された原料ガス及び/又はキャリアガスを、上方に噴出させて前記触媒担持粒子を流動させるための部材であることが好ましい。
【0018】
前記構成により、カーボンナノ構造物の製造に適した流動状態を確保することが可能となる。
【0019】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置では、前記分散板には、下方から供給される原料ガス及び/又はキャリアガスを通して上方に噴出させる複数の貫通孔にノズルが設けられており、前記分散板の中心軸を中心とする円の法線に対する、前記ノズルの中心軸の角度が、10〜50°であることことが好ましい。
【0020】
前記構成により、ガスの旋回流が作り出されるため、原料ガスと触媒担持粒子とをより好適に流動させやすくなるとともに、流動が安定するというさらなる効果を奏する。
【0021】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法は、前記課題を解決するために、前記カーボンナノ構造物の製造装置を用いて、反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造することを特徴としている。
【0022】
前記の構成によれば、浸炭による反応管の強度および寿命の低下を防ぐことができるとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がないカーボンナノ構造物の製造方法を提供することができる。
【0023】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法では、空塔速度が流動化開始速度の9〜14倍となるように、反応管に原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することが好ましい。
【0024】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法では、前記反応管が鉛直方向に延びる縦型の反応管であって、当該反応管は分散板を備え、当該分散板は、前記触媒担持粒子を載置可能になっているとともに、当該分散板の下方から供給された原料ガス及び/又はキャリアガスを、上方に噴出させて前記触媒担持粒子を流動させるための部材である、カーボンナノ構造物の製造装置を用い、終末沈降速度が、空塔速度の5〜25倍となるように、反応管に原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することが好ましい。
【0025】
前記構成により、カーボンナノ構造物の製造により適した流動状態を確保することが可能となる。
【0026】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法では、前記カーボンナノ構造物は、カーボンナノコイルであることが好ましい。
【0027】
カーボンナノコイルは一般的なカーボンナノチューブ(数百ミクロン長さ程度)等と比較して成長に要する時間が長い。それゆえ、成長時間の調整がし易く、原料ガスとの接触効率が高い上記製造方法はカーボンナノコイルの製造に特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置は、以上のように、反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造するカーボンナノ構造物の製造装置であって、前記反応管は金属からなり、かつ内表面に金属の酸化物層を備えている構成を備えているので、浸炭による反応管の強度および寿命の低下を防ぐことができるとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がないカーボンナノ構造物の製造装置を提供することができるという効果を奏する。
【0029】
また、本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法は、以上のように、前記カーボンナノ構造物の製造装置を用いて、反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造する構成を備えているので、浸炭による反応管の強度および寿命の低下を防ぐことができるとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がないカーボンナノ構造物の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置に設置される分散板の一実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置に設置される分散板の一実施形態を示す平面図である。
【図4】本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置に設置される分散板の一実施形態を示す断面図である。
【図5】実施例及び比較例において評価される金属サンプルの断面SEM像であり、図5(a)は酸化処理を行わないでCVDを実施した後の金属サンプル表面の浸炭状況を示す断面SEM像であり、図5(b)は酸化処理を行いCVDを実施した後の金属サンプル表面の浸炭状況を示す断面SEM像である。
【図6】実施例において評価される金属サンプルの酸化処理後の断面方向のGDSスペクトルを示す図である。
【図7】空塔速度/流動化開始速度に対してカーボンナノコイル成長量をプロットしたグラフである。
【図8】原料ガス及び/又はキャリアガスを供給する流速と、分散板の上方と下方の差圧との関係を示すグラフである。
【図9】分散板の上方と下方との差圧の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意検討を行ったところ、カーボンナノ構造物の製造装置の反応管として、金属からなり、かつ内表面に金属の酸化物層を備えている反応管を用いたところ、浸炭による反応管の強度および寿命の低下を防ぐことができるとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がないカーボンナノ構造物の製造装置を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0032】
以下、本発明について図1〜図9に基づいて、(I)カーボンナノ構造物の製造装置、(II)カーボンナノ構造物の製造方法の順に説明する。ここで、本発明において、「カーボンナノ構造物」とは炭素原子から構成されるナノサイズの物質をいい、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブにビーズが形成されたビーズ付カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブが多数林立したカーボンナノブラシ、カーボンナノチューブが捩れを有したカーボンナノツイスト、コイル状のカーボンナノコイル等を含む趣旨である。
【0033】
なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0034】
(I)カーボンナノ構造物の製造装置
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置は、反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造するカーボンナノ構造物の製造装置であって、前記反応管は金属からなり、かつ内表面に金属の酸化物層を備えているものである。
【0035】
なお、本発明において、触媒担持粒子とは、流動させることが可能な粒子状基材に、カーボンナノ構造物を成長させるための触媒が担持されている粒子をいう。
【0036】
金属からなる反応管は、カーボンナノ構造物の量産に適するという利点がある。例えば、石英管は強度に難があるために反応管の大型化が難しく、それゆえ、投入可能な触媒担持粒子の量が限定され非効率的である。すなわち、石英管では、触媒担持粒子の量を増やすためには、反応管の強度を保つために、炉壁をより分厚くし、かつ、分散板の設置状態、分散板構造も工夫する必要がある。これに対して、金属からなる反応管は強度に優れるため大型化が可能である。
【0037】
また、金属からなる反応管は、反応管内部に例えば分散板設置等の加工を行う場合に加工性に優れるため好ましい。また、同じ材質の分散板を用いることにより、熱膨張時に分散板または反応管が破損することを防ぐことができることから、加工性の高い金属製の分散板を好適に用いることができる。これにより、カーボンナノ構造物の製造に適した流動状態を確保できるように分散板を加工することができる。
【0038】
また、内表面に酸化物層が形成されていることにより、金属への浸炭を防ぐことができる。なお、本技術分野において、浸炭とは、金属からなる反応管の内表面の金属表面に、金属と原料ガスとの反応による生成物が付着して金属の腐食が起こることをいう。浸炭により反応管の強度および寿命が低化するという問題が起こる。金属への浸炭の有無は、例えば断面SEM像により確認することができる。
【0039】
反応管に用いられる金属は、特に限定されるものではなくどのような金属であってもよいが、例えば、Ni、Cr、Fe、MnおよびMoから選択される少なくとも1種類の金属を含むことがより好ましい。したがって、前記金属は、例えば、前記金属の単体、前記金属を2種類以上含む合金等でありうる。
【0040】
また、前記反応管は、上述した金属材料の1種類のみからなるものであってもよいが、接続部等において部分的に他の金属を用いた、2種類以上の金属材料からなるものであってもよい。
【0041】
前記合金としては、例えば、Fe−Cr系、Fe−Cr−Ni系、Cr−Ni系、インコネル系、ハステロイ系等のステンレス鋼等を好適に用いることができる。より具体的な一例として、例えば、SUS316、SUS310S、SUS304等のステンレス鋼を用いることができる。これらの合金は強度において他の金属と比較してより優れており、さらに大型化に適している。
【0042】
また、従来カーボンナノ構造物の製造装置の反応管または接続部に取り付けるガスケットには通常銅や銀が用いられており、原料ガスとしてアセチレンを用いる場合はアセチリドによる爆発の危険性があった。本発明では、内表面に金属の酸化物層を備えている銅または銀を用いることによりかかる危険性を低下させることはできるが、ステンレス鋼を用いればかかる危険性自体がないためより好ましい。
【0043】
前記酸化物層は、前記金属の酸化物を含む層であれば特に限定されるものではないが、例えば、前記金属の表面を酸化処理することによって当該表面に酸化物層を形成させることができる。すなわち、金属からなりかつ内表面に金属の酸化物層を備えている反応管には、金属からなり内表面を酸化処理した反応管が含まれる。ここで、金属の表面を酸化処理する方法は特に限定されるものではないが、例えば、酸素の存在下で金属製の反応管を加熱処理する方法を挙げることができる。かかる場合の酸素濃度は特に限定されるものではないが、例えば、空気中、酸素濃度が20体積%程度(空気など)の酸素雰囲気下等で反応管を加熱処理すればよい。なお、CVD法によりカーボンナノ構造物を製造するとき、反応管は通常700℃以上に加熱されるが、通常酸素除去後に高温に加熱されるため、通常のCVDでは酸化膜は形成されにくい。
【0044】
また、加熱処理の温度も、金属の表面が酸化される温度であれば特に限定されるものではないが、例えば、700℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましく、850℃以上であることがさらに好ましい。これにより、金属への浸炭を防ぐためにより十分な厚さの酸化物層が形成されるため好ましい。また、加熱処理の温度の上限は特に限定されるものではないが、例えば、1100℃未満であることがより好ましく、1000℃未満であることがより好ましい。1100℃未満であれば、金属の構造の再構成による結晶の粗大化が起こらないため、表面の凹凸が大きくなりすぎないとともに、強度が低下しないため好ましい。表面の凹凸が大きくなると、反応管の管壁での触媒担持粒子の流動のスムーズ性が損なわれ、反応管の内表面への触媒担持粒子の固着が起こる場合があるため好ましくない。また、加熱処理の温度が1100℃未満であれば、金属の表面だけではなく、金属内部においても結晶の粗大化が起こらないため好ましい。金属内部において結晶の粗大化、即ち、粒塊の成長が起こると、そのような状態で歪みを受けた場合、クラックが発生し安くなり、反応炉としての強度に問題が生じるため好ましくない。
【0045】
前記酸化物層の層厚は、金属への浸炭を防ぐことができる層厚であればよく、5nm以上であればよい。前記酸化物層の層厚が5nm以上であることにより、金属への浸炭を防ぐことができる。また、前記酸化物層の層厚の上限は、反応管の強度が損なわれない範囲であれば特に限定されるものではないが、反応管の厚みの50%程度である。前記酸化物層の層厚は5nm以上であれば浸炭を防ぐ効果が得られるが、浸炭を防ぐ効果の観点から、0.1μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、1μm以上であることが特に好ましい。また、前記酸化物層の層厚の上限は特に限定されるものではないが、例えば1000μm以下であり、より好ましくは500μmであり、さらに好ましくは100μmである。なお、本発明において、酸化物層の層厚とは、断面EDX(エネルギー分散特性X線、Energy Dispersive X-ray spectrometer))像により、表面からバルク金属材料が認められるまでの厚さを測定することにより得られる値をいう。
【0046】
なお、反応管の厚みは、反応管の大きさによって適宜選択すればよいが、通常1mm〜50mm程度である。
【0047】
前記酸化物層は、前記金属の表面を酸化処理することによって当該表面に形成されるものに限定されるものはなく、前記金属の酸化物を、金属の表面に製膜することによって形成されたものであってもよい。かかる金属の酸化物としては、例えば、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化マンガンまたはこれらの組み合わせを挙げることができる。前記酸化物の膜は、金属の表面に例えば、スパッタ、蒸着、メッキ等により製膜することができる。
【0048】
次に、本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置の一実施形態について説明する。図1は、本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【0049】
本実施形態に係るカーボンナノ構造物の製造装置100は、反応管1を加熱し、原料ガス及び/又はキャリアガスの気流によって触媒担持粒子を流動させながら、原料ガスと触媒担持粒子とを前記反応管1内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造する装置である。より具体的には、前記反応管1は鉛直方向に延びる縦型の反応管であって、当該反応管1は分散板2を備え、当該分散板2は、前記触媒担持粒子を載置可能になっているとともに、当該分散板の下方から供給された原料ガス及び/又はキャリアガスを、上方に噴出させて前記触媒担持粒子を流動させるための部材である。すなわち、カーボンナノ構造物の製造装置100は、鉛直方向に延びる縦型の反応管1と、当該反応管1に、反応管1の内部の空間を上下方向に二分するように設置されている分散板2とを備えている。そして、分散板2の上に前記触媒担持粒子を載置して、下方から原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することによって前記触媒担持粒子を流動させながら、前記触媒担持粒子と前記原料ガスとを接触させて、触媒担持粒子上にカーボンナノ構造物を成長させるようになっている。分散板2の上方に位置し、触媒担持粒子が流動して原料ガスと接触してカーボンナノ構造物が生成する領域が反応領域6となる。
【0050】
反応管1の形状は縦型の円筒形であればよいが、図1に示すように、反応管1の反応領域6より上部に、内径が大きくなっているフリーボード部を備えていることがより好ましい。フリーボード部では内径が大きいことにより、原料ガス及び/又はキャリアガスの流速が遅くなる。これにより、反応管1の内容物が外部へ抜け出てしまうことを防ぐことができるだけでなく、フリーボード部で反応管1の内容物をトラップすることができる。さらにフリーボード部より流速に対応したサイズ、重さの内容物を取り出すことが可能になる。それゆえ、かかる構成は連続運転を行うために非常に好適である。
【0051】
分散板2、ガス供給管3及び排出管4の材質は特に限定されるものではないが、好ましくは金属からなる。そして、反応管1は、上端部及び下端部において、それぞれ、好ましくは金属からなるフランジ5に密閉して取り付けられている。分散板2、ガス供給管3、排出管4、フランジ5に用いられる金属としては、それぞれ独立して、反応管に用いることができる金属として例示した金属を用いることができる。
【0052】
炭素源となる原料ガスは、ガス供給管3から反応管1に導入され、分散板2に複数設けられた貫通孔を通って反応領域6に供給され、触媒担持粒子と接触した後は排出管4から、反応炉の外に排出される。反応領域6には、触媒担持粒子を流動させるために、通常原料ガスとともにキャリアガスが供給される。原料ガスとキャリアガスとは、反応管1に供給されるときに、すでに混合されて、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスとして供給されてもよいし、混合されずにそれぞれ単独で供給されてもよい。また、原料ガスとキャリアガスとは、反応領域6に供給されるときにも、すでに混合されて、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスとして供給されてもよいし、混合されずにそれぞれ単独で供給されてもよい。
【0053】
炭素源となる原料ガス及び/又はキャリアガスは、ガス供給管3から反応管1に導入され、分散板2に複数設けられた貫通孔を通って反応領域6に供給(噴出)される。なお、ここで分散板に設けられた貫通孔は、当該貫通孔を通って原料ガス及び/又はキャリアガスが噴出されるようになっていれば貫通孔の孔径、貫通孔の軸方向の断面形状、貫通孔の軸に垂直な方向の断面形状、貫通孔の数、貫通孔の配置等は特に限定されるものではなく、触媒担持粒子の良好な流動状態が得られるように適宜選択すればよい。
【0054】
導入された原料ガス及び/又はキャリアガスは、分散板2を通る前に、図示しない加熱装置によって予備加熱されてもよい。なお、本明細書において、「原料ガス及び/又はキャリアガス」という場合、原料ガスとキャリアガスとが混合されたものである場合は、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを意味する。
【0055】
分散板2は、その上面に触媒担持粒子が載置可能となっており、ガス供給管3から反応管1に導入された原料ガス及び/又はキャリアガスを、貫通孔を通じて反応領域6に噴出させ、分散板2の上に載置された触媒担持粒子と接触させるとともに触媒担持粒子を流動させることができる。なお、カーボンナノ構造物の製造装置100には、反応領域6を加熱するための、図示しない加熱装置が備えられており、当該領域がカーボンナノ構造物の成長温度に加熱されるようになっている。
【0056】
分散板2の形状は特に限定されるものではないが、円盤状、ガス供給管3側に向けて中央部分を張り出すようにしたすり鉢状、ガス供給管3側に向けて中央部分を張り出すようにしたお椀型等の形状が好適である。
【0057】
また、本実施形態において、分散板2の材質は金属であることが好ましいが、原料ガスや触媒と反応しない材質であれば、石英、セラミックス等を用いてもよい。しかし、加工性が高い点、加熱時の膨張による破損が起こりにくい点で分散板2の材質は金属であることが特に好ましい。
【0058】
分散板2の反応管1への固定方法も特に限定されるものではなく、例えば、溶接によって固定する方法、ネジ等により固定する方法等を好適に用いることができる。
【0059】
次に、本発明に係るカーボンナノ構造物の製造装置に用いられる分散板2の一実施形態について説明する。図2は分散板2の一実施形態を示す断面図である。分散板2は、ガス供給管側に向けて中央部分を張り出すようにしたすり鉢状の形状を有し、その側面に分散板2の底面に平行な貫通孔7が複数形成されている。なお、分散板2は、その底面が、反応管の中心軸と略垂直となるように設置され、反応管の中心軸と、分散板の中心軸とが略一致するようになっている。貫通孔7が分散板2の底面に平行に形成されていることにより、載置した触媒担持粒子がそのまま落下しないようにすることができるとともに、それぞれの貫通孔から出るガスを旋回させることができる。
【0060】
図2では、貫通孔7は、すり鉢状の形状の側面において、底面から異なる複数種類の高さに、それぞれ複数形成されているが、貫通孔7の位置や数はこれに限定されるものではなく、触媒担持粒子の粒子径、触媒を担持する粒子状基材の材質、投入するガスの種類、触媒やガスが変化することによるカーボンナノ構造物の成長状態等に応じて、所望の流動状態が得られるように適宜選択すればよい。
【0061】
また、図3に一例を示すように、本実施形態にかかる貫通孔7にはノズル8が設けられていてもよい。なお、図3は分散板2の一例を反応管1の上方から見た図である。図3では、ノズル8は、分散板2の中心軸を中心とする円の法線に対して、ノズルの中心軸の角度が30°となるように設けられている。なお、ノズルが円の法線を含む面に対して角度を有するように設けられている場合は、ノズルの中心軸を当該面に投影して、法線との角度を決定する。
【0062】
これにより原料ガス及び/又はキャリアガスの旋回流が作り出されるため、原料ガスと触媒担持粒子とをより好適に流動させやすくなるとともに、流動が安定するというさらなる効果を奏する。なお、前記分散板の中心軸を中心とする円の法線に対する、ノズル8の中心軸の角度は、これに限定されるものではなく、10〜50°である分散板を好適に用いることができる。また、旋回流は、ノズルを設けない構成においても、貫通孔を、分散板2の中心軸を中心とする円の法線に対して、貫通孔の中心軸の角度が10〜50°となるように形成することによっても作り出すことができる。
【0063】
また、分散板2としては図2に示すようなすり鉢状の分散板2を好適に用いることができるが、図4に示すようなガス供給管3側に向けて中央部分を張り出すようにしたお椀型の分散板、ガス供給管3側に向けて中央部分を張り出すようにした多段テーパ形状の分散板等も好適に用いることができる。かかる分散板を用いることにより、同じ反応管断面であっても、円盤状の分散板と比較してより大きい面積が確保できるため、貫通孔又はノズルの数を増やすことができる。
【0064】
前記加熱装置は、反応管1の外周部または内部に、例えば、反応管1の長手方向に沿って設置される。前記加熱装置は、少なくとも反応領域6の温度が、カーボンナノ構造物の生成温度、好ましくは550℃以上1000℃以下となるように配置されていればよい。これにより、反応領域6に導入された原料ガス及び/又はキャリアガスと触媒担持粒子とを、加熱することができるとともに、原料ガスと触媒担持粒子とを反応させる間、反応領域6を加熱することができる。
【0065】
さらに、前記加熱装置は、原料ガス及び/又はキャリアガスを予備加熱できるように、ガス供給管3と、分散板2との間の領域の外周部または内部にも設置されていることがより好ましい。原料ガス及び/又はキャリアガスを予備加熱する温度としては、前記領域が500℃以上となるように加熱されていることが好ましい。
【0066】
流動層法では、分散板の上に載置した触媒担持粒子を流動させるので、分散板の貫通孔から反応領域6に噴出した原料ガス及び/又はキャリアガスは、加熱された触媒担持粒子の熱によって効率的にガス温度を上昇させることができる。そのため、特に原料ガス及び/又はキャリアガスの予備加熱をしなくともカーボンナノ構造物を成長させることはできると考えられるが、予備加熱を行うことでより効率的にカーボンナノ構造物を成長させることができる。
【0067】
前記加熱装置としては従来公知の加熱装置を用いればよく、例えば、電気炉、赤外線炉、IH加熱器、マントルヒーター、ベルトヒーター、リボンヒーターなどを用いることができる。
【0068】
なお、本実施形態では、反応管1は、上端部及び下端部において、好ましくは、それぞれフランジ5に密閉して取り付けられている構成を例示しているが、反応管1は、かかる構成に限定されるものではない。
【0069】
また、本実施形態は、反応管が鉛直方向に延びる縦型のカーボンナノ構造物の製造装置であるが、本発明のカーボンナノ構造物の製造装置は、必ずしも縦型である必要はなく、反応管が水平方向に延びる横型のカーボンナノ構造物の製造装置であってもよい。
【0070】
(II)カーボンナノ構造物の製造方法
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法は、前記カーボンナノ構造物の製造装置を用いて、反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造する方法である。
【0071】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法について、例えば、前記カーボンナノ構造物製造装置100を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0072】
本発明にかかるカーボンナノ構造物の製造方法では、炭素源となる原料ガス及び/又はキャリアガスが、ガス供給管3から反応管1に導入され、分散板2に複数設けられた貫通孔7を通って反応領域6に供給(噴出)される。ガス供給管3から反応管1に導入された原料ガス及び/又はキャリアガスは、ガス供給管3と分散板2との間の領域で予備加熱されることが好ましい。
【0073】
前記原料ガスはカーボンナノ構造物を成長させる炭素源ガスであれば特に限定されるものではなく、炭化水素のみならず、窒素含有有機ガス、硫黄含有有機ガスおよびリン含有有機ガス等の有機ガスが広く利用される。中でも、原料ガスとしては、余分な物質を生成しない意味で炭化水素が好適である。
【0074】
前記炭化水素としては、メタン、エタン、エチレン、ブタジエン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、スチレン、ナフタリン、フェナントレン、シクロプロパン、シクロヘキサン等の炭化水素を用いることができる。前記炭化水素は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。前記炭化水素は、アセチレン、エチレン、メタン、エタン、ベンゼン等であることがより好ましい。
【0075】
また、前記キャリアガスとしても、通常キャリアガスとして用いられるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、He、Ne、Ar、N、H等を好適に用いることができる。キャリアガスは前記原料ガスを搬送することができるとともに、流動層を形成するためのガスであり、原料ガスが反応により消費されるのに対して、キャリアガスは全く無反応で消耗しないガスが使用される。
【0076】
供給される原料ガスとキャリアガスとの全体積に対する、原料ガスの割合は、12体積%〜48体積%であることが好ましく、12体積%〜30体積%であることがより好ましい。原料ガスの割合が、原料ガスとキャリアガスとの全体積に対して、48体積%より大きい場合、カーボンナノコイルの成長を阻害し成長速度が低下する傾向がある。また、原料ガスの濃度が、混合ガスに対して、30体積%以下であることにより、カーボンナノコイルの効率的な成長を維持することができるためより好ましい。
【0077】
そして、分散板2の上に前記触媒担持粒子を載置して、分散板2の下方から原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することによって前記触媒担持粒子を流動させながら、前記触媒担持粒子と前記原料ガスとを接触させて、触媒担持粒子上にカーボンナノ構造物を成長させる。
【0078】
ここで、分散板2の上に触媒担持粒子を供給する方法は特に限定されるものではないが、例えば、反応管1に設けられた触媒導入管から導入する方法を好適に用いることができる。
【0079】
本発明で触媒担持粒子とは、流動させることが可能な粒子状基材に、カーボンナノ構造物を成長させるための触媒が担持されている粒子をいう。なお、本発明では、触媒担持粒子を用いることが好ましいが、触媒粒子そのものを用いることを排除するものではない。触媒量と投入原料ガス量、合成されるナノカーボン材料量のバランスの点から、触媒担持粒子をより好適に用いることができる。
【0080】
前記触媒は、カーボンナノ構造物を成長させるための触媒であれば特に限定されるものではないが、例えば、Fe系触媒、Ni系触媒、Co系触媒、これらの合金;またはこれらの触媒とMo、Al、アルミナ等とを併用する多元触媒系;Fe−Sn系触媒、Fe−Sn−In系触媒等を用いることができる。
【0081】
用いられる触媒の種類によって、得られるカーボンナノ構造物におけるカーボンナノチューブ、カーボンナノコイル等の種類、比率および量は異なる。カーボンナノコイルを製造する場合には、Fe−Sn系触媒、すなわち、FeとSnとを含む2成分系触媒、または、Fe−Sn−In系触媒、すなわち、FeとSnとInとを含む3成分系触媒を好適に用いることができる。また、カーボンナノチューブを製造する場合には、Fe、Ni、Co等を好適に用いることができる。前記触媒は、前記金属元素を含んでいるものであればよいが、前記金属元素は種々の金属化合物として含まれうる。
【0082】
また、触媒を担持させるための前記粒子状基材としては、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、石英、ガラス、シリコンウェーハ、サファイア、ジルコニア、酸化マンガン、耐熱樹脂等からなる基材を好適に用いることができる。
【0083】
なお、前記粒子状基材に触媒を担持させる方法は特に限定されるものではなく、どのような方法であってもよい。また、触媒を担持させるための前記粒子状基材に担持させる触媒の量も特に限定されるものではなく、触媒や目的とするカーボンナノ構造物に応じて適宜選択すればよい。例えば、カーボンナノコイルを製造する場合には、担持された触媒の量は、粒子状基材の重量と担持された触媒の重量との合計重量(即ち、触媒担持粒子の重量)に対して、0.5重量%以上2重量%以下であることがより好ましく、1.2重量%以上2重量%以下であることがさらに好ましい。上記範囲で触媒を担持させることにより、カーボンナノコイルの成長速度が速くなるため好ましい。
【0084】
また、前記粒子状基材及び触媒担持粒子の形状は、流動させることが可能な粒子状の形状であれば特に限定されるものではなく、例えば、球状、略球状、棒状、立方体状、繊維状等である。中でも、安定な流動状態を作るという観点から、前記粒子状基材及び触媒担持粒子の形状は、球状であることがより好ましい。
【0085】
また、前記触媒担持粒子の平均粒子径も、良好な流動状態を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、1μm以上10mm以下であることが好ましく、10μm以上1mm以下であることがより好ましい。前記触媒担持粒子の平均粒子径が上記範囲内であれば、良好な流動状態を得るために与えるガス流量が成長に最適な範囲にあるため好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 HORIBA社製 LA-920にて測定を行い、粒子径の分布スペクトルから平均粒子径を求めることにより決定される。
【0086】
本発明に係るカーボンナノ構造物の製造方法においては、空塔速度、すなわち、単位時間当たりに流れるガス体積を反応管の断面積で割った値が、流動化開始速度の9〜14倍となるように、反応管に原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することが好ましい。なおここで、単位時間当たりに流れるガス体積を反応管の断面積で割った値とは、言い換えれば、原料ガス及び/又はキャリアガスの流量(m/s)を反応管の断面積(m)で割った値をいう。本実施形態においては、空塔速度は、ガス供給管から反応管に供給される原料ガス及び/又はキャリアガスの流量を反応管1の断面積で割った値である。
【0087】
空塔速度が流動化開始速度の9倍以上14倍以下となるように、CVDを行うことによって安定した流動を得ることができる。加えて、カーボンナノコイルの合成においては、効率よくカーボンナノコイルを製造するための最適条件を得ることが可能となる。
【0088】
なお、ここで、流動化開始速度とは、触媒担持粒子を反応管内に投入(堆積)、より具体的には分散板2の上に触媒担持粒子を載置(堆積)し、ガス供給管から反応管に、原料ガス及び/又はキャリアガスを供給する流速(m/s)を0から少しずつ上昇させたときに、気泡が形成される流速(m/s)をいう。なおここで、流速(m/s)とは、流量(m/s)を反応管の断面積(m)で割った値をいう。また、上記「気泡が形成される」とは、分散板2の孔から反応領域6内に入った原料ガス及び/又はキャリアガスのガス噴流が、触媒担持粒子によって分断されたときに、原料ガス及び/又はキャリアガスが気泡を形成しながら上昇することを指す。
【0089】
具体的には、流動化開始速度は、マスフローコントローラを用いて制御された流量の原料ガス及び/又はキャリアガスを反応管1に供給し、流量を少しずつ上昇させ、反応領域6内に入ったガス及び/又はキャリアガスのガス噴流が、堆積された触媒担持粒子の中に気泡を形成しながら上昇することが目視により確認されたときの、反応管1に供給された原料ガス及び/又はキャリアガスの流量から決定すればよい。
【0090】
或いは、流動化開始速度は、分散板の上方と下方の差圧の変化を測定することによっても決定することができる。図8は、原料ガス及び/又はキャリアガスを供給する流速と分散板の上方と下方の差圧との関係を示すグラフである。なお、図8中、縦軸は分散板の上方と下方の差圧(図中、「Differential pressure」と表示、単位:kPa)を、横軸は原料ガス及び/又はキャリアガスを供給する流速(図中、「Flow velocity」と表示、単位:cm/s)を示す。図8に示すように、原料ガス及び/又はキャリアガスを供給する流速を0から少しずつ上昇させたときに、(a)で示される流速までは気泡は形成されず、差圧は直線的に上昇する。そして、(a)の直後で気泡が形成されて差圧が低下し、(b)で示される流速からは差圧の流速による変化は小さくなっている。かかる場合には(b)で示される流速が流動化開始速度である。このように、原料ガス及び/又はキャリアガスを供給する流速と差圧との関係を示すグラフから流動化開始速度を決定してもよい。
【0091】
なお、図9は、分散板の上方と下方の差圧の時間変化を示すグラフである。図9中、縦軸は分散板の上方と下方との差圧(図中、「Differential pressure」と表示、単位:kPa)を、横軸は時間(図中、「Time」と表示、単位:s)を示す。図9中、(a)は、図8の(a)で示される流速における差圧の時間変化を、(b)は図8の(b)で示される流速における差圧の時間変化を示す。図9に示されるように、(a)で示される流速では、差圧は一定であり流動が開始していないことが判る。また、(b)で示される流速では、差圧が変動し、流動が開始していることが判る。
【0092】
そして、上述した方法により決定した流動化開始速度の9〜14倍の空塔速度となるように、マスフローコントローラを用いて、反応管に原料ガス及び/又はキャリアガスを供給すればよい。なお、流動化開始速度は、分散板の構成、反応炉の直径、触媒担持粒子の量、基材の材質、基材の大きさ、混合触媒の量等に依存して変化する量であり、上述した方法により決定した流動化開始速度は、決定した時の条件における固有の流動化開始速度である。したがって、流動化開始速度は、全く同じ条件でCVD反応を行う以外は、反応を行う度に設定することが好ましい。
【0093】
また、流動化開始速度は、分散板の構成、反応炉の直径、触媒担持粒子の量、基材の材質、基材の大きさ、混合触媒の量等に依存して変化するので、これらを適宜変化させることによって、流動化開始速度を調整することができ、最適な流動状態を確保することができる。
【0094】
したがって、分散板の構成、すなわち、貫通孔の孔径、貫通孔の軸方向の断面形状、貫通孔の軸に垂直な方向の断面形状、貫通孔の数、貫通孔の配置等を自在に変更することができれば、最適な流動状態を確保するために非常に有効である。それゆえ、分散板として加工性及び強度に優れた金属材料を用いることにより、流動化開始速度に対する空塔速度の大きさを好適に制御することが可能となり、安定した流動だけでなくカーボンナノコイル合成のための最適条件を得ることができる。
【0095】
また、分散板の上に前記触媒担持粒子を載置して、下方から原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することによって前記触媒担持粒子を流動させながら、前記触媒担持粒子と前記原料ガスとを接触させて、カーボンナノ構造物を成長させるとき、終末沈降速度が空塔速度の5倍〜25倍となる範囲で、反応管に原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することが好ましい。前記構成により、カーボンナノ構造物の製造により適した流動状態を確保することが可能となるため好ましい。
【0096】
なお、ここで、終末沈降速度とは、流体中において、反応領域内に存在する触媒担持粒子の中を、一つの触媒担持粒子が一定速度で等速運動するときの速度をいい、下記式(1)により求められる値をいう。
【0097】
=g・Dp・(ρ−ρ)/18μ ・・・ (1)
なお、式(1)において各記号は以下の量を示す;v:終末沈降速度、ρ:触媒担持粒子の密度、ρ:ガス密度、Dp:触媒担持粒子の平均粒子径、g:重力加速度、μ:ガス粘度。
【実施例】
【0098】
本発明について、実施例、比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0099】
なお、実施例および比較例におけるカーボンナノコイル成長量の測定は以下の方法により、行った。
【0100】
<カーボンナノコイル成長量>
得られたカーボンナノ構造物が成長している触媒担持粒子を、イソプロピルアルコール、アセトン、エタノール、ヘキサン等の中に投入し、超音波を照射することにより、カーボンナノコイルを触媒担持粒子から剥離した。剥離したカーボンナノコイルを乾燥し重量を測定した。
【0101】
〔実施例1:金属サンプル表面の酸化処理〕
SUS310Sサンプルの表面の酸化処理は、空気中にてサンプルを900℃で8時間加熱することによって行った。
【0102】
図6に、酸化処理後のSUS310Sサンプルの断面方向のGDS(Glow Discharge Spectroscopy)スペクトルを示す。図6において、縦軸は強度(図中「intensity」と表示、単位:a.u.)を、横軸は酸化処理を行った表面からの深さ(図中「Depth」と表示、単位:μm)を示す。図6から、SUS310Sの表面には酸化物層が形成されていることが判る。
【0103】
また、断面EDX像により、表面からバルク金属材料が認められるまでの厚さを測定した結果、3μm程度であった。
【0104】
次に、酸化処理の温度を変化させて、同様の実験を行ったところ、700℃から酸化物層が形成されることが判った。また、酸化処理の温度が1100℃を超えると、酸化物層は形成されるが、構造の再構成による結晶の粗大化が起こり、表面の凹凸が大きくなった。
【0105】
〔実施例2:CVD後の金属サンプルの浸炭状況の評価〕
本実施例では、表面に酸化物層が形成された金属サンプルのCVD後の浸炭状況を評価するために、表面に酸化物層が形成された金属サンプルをカーボンナノ構造物を製造するための反応管内に設置し、反応管を加熱して、原料ガス及びキャリアガスを供給しCVDを実施した。CVDを実施した後の金属サンプルの浸炭状況を評価した。
【0106】
具体的には、反応管として、水平方向に設置した横型の石英管を用い、反応管内に設置された基板に担持された触媒を、反応管に導入された原料ガスと接触させてCVDを実施した。反応管の加熱は、反応管の外周部に設置された電気炉により、行った。
【0107】
まず、Heを流通させて反応管内の酸素を除去した後、Heを流通させた状態で、700℃まで昇温した後、700℃で保持した。
【0108】
その後、700℃に加熱装置を加熱保持した状態で、キャリアガスHe580sccmに、原料ガスCを26sccm混合させた混合ガスを、ガス導入口より流通させてCVDを実施し、触媒上にカーボンナノコイルを成長させた。
【0109】
図5(b)に、CVDを実施した後の金属サンプルの浸炭状況を、酸化処理を行わないでCVDを実施した後の金属サンプルの浸炭状況(図5(a))とともに示す。図5(a)では浸炭層がバルク金属深くまで認められるのに対し、酸化処理を行って表面に酸化物層が形成されている場合は、浸炭層は認められない。なお、図5(b)中、黒く表示されている部分が酸化物層である。なお、図中、矢印は、金属サンプルの最表面を表す。
【0110】
〔比較例1〕
前記SUS310Sサンプルとして、金属表面を酸化処理していないSUS310Sサンプルを用いた以外は、実施例2と同様にしてCVDを実施した。図5(a)に、酸化処理を行わないでCVDを実施した後の金属サンプル表面の浸炭状況を示す。
【0111】
〔実施例3:カーボンナノコイルの製造〕
<触媒担持粒子の調製>
硝酸鉄、塩化インジウム及び塩化スズを、Fe(NO)・9HO:InCl:SnCl・5HO=3:1:0.4のモル比でエタノールに溶解して、0.3mol/Lの濃度に調製し、カーボンナノコイル用触媒溶液を得た。
【0112】
100gのアルミナ粒子(平均粒子径:約70μm)に、得られたカーボンナノコイル用触媒溶液20gを混合した。その後、カーボンナノコイル用触媒が付着したアルミナ粒子を空気中にて800℃で3時間焼成して触媒担持粒子を得た。担持された触媒の重量の、触媒担持粒子の重量に対する割合は0.7重量%であった。また、触媒担持粒子の平均径は68.9μm、密度は3.97g/cmであった。
【0113】
<カーボンナノ構造物の製造装置>
カーボンナノ構造物の製造装置としては、図1に示す装置を用いた。反応管としては、内径53mm、長さ970mmの、SUS310S製の反応管であって、内表面を酸化処理した反応管を用いた。なお、反応管の内表面の酸化処理は、反応管を空気中で、900℃にて8時間加熱処理することにより、行った。
【0114】
反応管の長手方向中央部には、図2に示すSUS310S製の分散板(貫通孔の孔径:2mm、貫通孔の数:9)が備えられ、各貫通孔にはノズルが設けられていた。前記分散板の中心軸を中心とする円の法線に対する、前記ノズルの中心軸の角度は、30°であった。
【0115】
また、反応管の外周部を、分散板を中央にしてヒータ長40cmの電気炉((株)アサヒ理化製造所製、セラミック電気管状炉ARF3-500-60KC)で覆った。
【0116】
<カーボンナノコイルの製造>
下方から原料ガスを供給しながら得られた触媒担持粒子を分散板2の上に載置して、下方から原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することによって前記触媒担持粒子を流動させながら、前記触媒担持粒子と前記原料ガスとを接触させて、触媒担持粒子上にカーボンナノコイルを成長させた。
【0117】
分散板の上に、前記触媒担持粒子80gを載置し、流速5.7cm/sで20分間、アルゴンガスを流通させ、分散板上の触媒担持粒子を流動させて反応管内の酸素を除去した。
【0118】
酸素除去終了後、流速はそのままで、反応領域を700℃まで昇温した。その後、アセチレン濃度が12%となるように、アセチレンとキャリアガスであるアルゴンガスとを混合した混合ガスを、前記ガス供給管より45分間流通させてCVDを実施し、触媒担持粒子上にカーボンナノコイルを成長させた。
【0119】
このとき、空塔速度/流動化開始速度(U/Umf)を変化させて、カーボンナノコイルを成長させ、得られるカーボンナノコイル成長量に対する(U/Umf)の影響を調べた。
【0120】
空塔速度は、ガス供給管から反応管に供給される原料ガスとキャリアガスとの混合ガスの流量を、反応管の断面積(m)で割ることにより算出した。また、流動化開始速度は、触媒担持粒子を分散板の上に載置(堆積)し、マスフローコントローラを用いて制御された流量の原料ガス及び/又はキャリアガスを反応管に供給し、流量を少しずつ上昇させ、反応領域内に入ったガス及び/又はキャリアガスのガス噴流が、堆積された触媒担持粒子の中に気泡を形成しながら上昇することが目視により確認されたときの、反応管に供給された原料ガス及び/又はキャリアガスの流量から決定した。
【0121】
図7に、空塔速度/流動化開始速度に対してカーボンナノコイル成長量をプロットしたグラフを示す。図7中、縦軸はカーボンナノコイル成長量(図中、「CNC」と表示、単位:g)、横軸は空塔速度/流動化開始速度(図中、「U/Umf」と表示)を示す。また、図7中、黒四角は内径53mmの反応管を用いて行った結果を、黒丸は内径27mmの反応管を用いて行った結果を示す。
【0122】
図7に示されるように、空塔速度/流動化開始速度が9以上14以下にときにカーボンナノコイル成長量が大きく、カーボンナノコイルの成長効率が高いことが判った。
【0123】
また、空塔速度が、5.7cm/sのとき、カーボンナノコイルの成長効率が高いことが判った。このとき、終末沈降速度は、空塔速度の7倍であった。なお、ここで、終末沈降速度vは、ρ:触媒粒子の密度として3.97g/cm、ρ:ガス密度として1.784kg・m−3、Dp:触媒粒子の平均粒子径として68.9μm、μ:ガス粘度として2.2×10−5Pa・sを用いて算出し、39.9(cm/s)であった。
【0124】
〔実施例4:カーボンナノコイルの製造〕
内径27mmの反応管を用いて行った点以外は実施例3と同様にしてカーボンナノコイルを製造した。このとき、空塔速度/流動化開始速度を変化させて、得られるカーボンナノコイル成長量に対する影響を調べた。
【0125】
図7に、空塔速度/流動化開始速度に対してカーボンナノコイル成長量をプロットしたグラフを示す。
【0126】
図7に示されるように、空塔速度/流動化開始速度が9以上14以下にときにカーボンナノコイル成長量が大きく、カーボンナノコイルの成長効率が高いことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明にかかるカーボンナノ構造物の製造装置及び製造方法を用いれば、浸炭による反応管の強度および寿命の低下を防ぐことができるとともに、金属アセチリドによる爆発の危険性がなく、且つ、加工性に優れたカーボンナノ構造物の製造装置を提供することができるという効果を奏する。また、金属製の反応管及び分散板を用いて、カーボンナノ構造物の製造に適した流動状態を確保することが可能となり、高い成長効率を達成することが可能となる。
【0128】
それゆえ、本発明は、カーボンナノ構造物の製造工業において利用可能であるのみならず、さらにはこれを組み込んだ各種製品を製造する電子機器製造工業等においても利用可能であり、しかも非常に有用であると考えられる。
【符号の説明】
【0129】
1 反応管
2 分散板
3 ガス供給管
4 排出管
5 フランジ
6 反応領域
7 貫通孔
8 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造するカーボンナノ構造物の製造装置であって、
前記反応管は金属からなり、かつ内表面に金属の酸化物層を備えていることを特徴とするカーボンナノ構造物の製造装置。
【請求項2】
前記金属は、Ni、Cr、Fe、MnおよびMoから選択される少なくとも1種類の金属を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノ構造物の製造装置。
【請求項3】
前記酸化物層の層厚は、5nm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノ構造物の製造装置。
【請求項4】
前記反応管は鉛直方向に延びる縦型の反応管であって、当該反応管は分散板を備え、
当該分散板は、前記触媒担持粒子を載置可能になっているとともに、当該分散板の下方から供給された原料ガス及び/又はキャリアガスを、上方に噴出させて前記触媒担持粒子を流動させるための部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造物の製造装置。
【請求項5】
前記分散板には、下方から供給される原料ガス及び/又はキャリアガスを通して上方に噴出させる複数の貫通孔にノズルが設けられており、前記分散板の中心軸を中心とする円の法線に対する、前記ノズルの中心軸の角度が、10〜50°であることを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノ構造物の製造装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のカーボンナノ構造物の製造装置を用いて、反応管を加熱し、原料ガスと触媒担持粒子とを流動させながら前記反応管内で反応させることによってカーボンナノ構造物を製造することを特徴とするカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項7】
空塔速度が流動化開始速度の9〜14倍となるように、反応管に原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項8】
前記反応管は鉛直方向に延びる縦型の反応管であって、当該反応管は分散板を備え、
当該分散板は、前記触媒担持粒子を載置可能になっているとともに、当該分散板の下方から供給された原料ガス及び/又はキャリアガスを、上方に噴出させて前記触媒担持粒子を流動させるための部材である、カーボンナノ構造物の製造装置を用い、
終末沈降速度が、空塔速度の5〜25倍となるように、反応管に原料ガス及び/又はキャリアガスを供給することを特徴とする請求項7に記載のカーボンナノ構造物の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノ構造物は、カーボンナノコイルであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−213516(P2011−213516A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81891(P2010−81891)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】